説明

核酸増幅装置及び核酸増幅方法

耐熱性のない核酸合成酵素を利用してもPCRを効率よく行うことができ、核酸合成酵素の再利用やスケールアップ等が可能で、増幅した核酸の分離・精製も容易な核酸増幅装置及び核酸増幅方法を提供する。 核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解し一本鎖状に変性する領域と、該二重鎖が融解した核酸が二重鎖を再形成する再生領域とを有する流路に、少なくともテンプレートとなる核酸と、プライマーとなる核酸と、リン酸化合物及び金属イオンを含む反応液を流し、前記変性領域で前記テンプレートとなる核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解し一本鎖状に変性させた後、前記再生領域で該二重鎖を融解したテンプレートとなる核酸と前記プライマーとなる核酸との間に二重鎖を形成させると共に前記再生領域内に固定された核酸合成酵素によって核酸合成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR法を利用した核酸増幅装置及び核酸増幅方法に関し、更に詳しくは、内部に少なくとも一の流路を有し、該流路に少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液を導入し、該流路内に固定された核酸合成酵素により核酸の増幅を行う核酸増幅装置及び核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微量のテンプレートDNAの効率的な複製・増幅には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法が広く用いられている。PCR法は、テンプレートとなる2本鎖DNAを熱変性して1本鎖DNAにする工程、得られた1本鎖テンプレートDNAに各々相補的なプライマーをアニーリングする工程、耐熱性を有するDNAポリメラーゼを作用させて、プライマーから相補鎖合成を行うことにより2本鎖DNAを合成する工程を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返すことによって目的のDNAを増幅する方法である。
【0003】
上記各工程は、反応液の温度及び反応時間を管理することにより行われており、通常、テンプレートとなる2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性は約94℃、1本鎖DNAへのプライマーのアニーリングは約55℃、DNAポリメラーゼによる相補鎖の合成は約72℃で行われる。
【0004】
従来、PCR法を自動的に行う装置として、テンプレートDNA、プライマー、dNTP、DNAポリメラーゼ等を含む反応液をエッペンドルフ型チューブに入れ、このチューブをアルミ製のブロックに設けられたウェルに挿入して該アルミブロックの温度をヒーターと冷却器を用いて変化させることにより反応を行う装置が知られている。
【0005】
しかしながら、上記PCR法は熱サイクルを高い精度の温度コントロール下で行う必要があり、上記のようなバッチ式での反応ではスケールの増大とともに反応系の熱揺らぎが著しくなるためスケールアップに限界があった。
【0006】
そのため、熱サイクルの温度コントロールを高い精度で行い、かつスケールアップも可能なPCR法として、下記特許文献1及び下記非特許文献1には、フロー式PCR法が開示されている。このフロー式PCR法は、加熱部と冷却部を設けた流路に、DNAポリメラーゼ、鋳型DNA、プライマーDNA、dNTP等を含む反応液を送液することによって熱サイクルを行い、PCRを行う方法である。
【0007】
また、下記特許文献2には、核酸配列を増幅するための方法であって、(a)鋳型となる核酸を該核酸の塩基配列に実質的に相補的な少なくとも1種類のプライマーとDNAポリメラーゼにより処理して該鋳型に相補的なプライマー伸長鎖を合成する工程;ここで該プライマーはデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含有するキメラオリゴヌクレオチドプライマーであって、該リボヌクレオチドは、エンドヌクレアーゼによる切断のために該プライマーの3’末端又は3’末端側に配置され;(b)(a)工程で得られる二本鎖核酸のプライマー伸長鎖のリボヌクレオチド含有部位をエンドヌクレアーゼで切断する工程;および(c)(b)工程で得られるプライマー伸長鎖が切断された二本鎖核酸のプライマー部分の3’末端より、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼによって鋳型に相補的な核酸配列を伸長して鎖置換を行う工程;を包含することを特徴とする核酸配列の増幅方法が開示されている。この方法(ICAN法)によれば、熱サイクルを行わずにDNAを増幅することができるので、耐熱性のない酵素を用いることができ、また、熱揺らぎによる反応スケールの制限もない。
【特許文献1】特開平6−30776号公報
【特許文献2】特開2003−70490号公報
【非特許文献1】「Science」(1998年)280号5366巻、1046−1048頁(Kopp MU、Mello AJ、Manz A.著)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記バッチ式のPCR法、上記特許文献1や上記非特許文献1に記載されたPCR法は、2本鎖テンプレートDNAを1本鎖DNAに変性させる際に加熱する必要があるため、耐熱性を有する特殊なDNAポリメラーゼを用いる必要があり、普遍的に存在する耐熱性のないDNAポリメラーゼが使用できないという欠点があった。
【0009】
また、上記特許文献2に開示された方法では、プライマーにRNAとDNAのキメラプライマーを用いたり、DNAの二重鎖をほどきながらDNAを合成するexo−Bca DNA polymeraseやキメラプライマーから新たに伸長されたDNAとキメラプライマーRNAとの接点を切断するRNase H等の特殊な酵素を必要とするため、コストが高くなってしまうという欠点があった。
【0010】
更に、上記従来の方法では、反応生成物中にDNAポリメラーゼ等の核酸合成酵素が混在するため、増幅したDNAの精製に手間がかかるだけでなく、高価な核酸合成酵素の再利用がほとんど不可能であった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、耐熱性を有する核酸合成酵素だけでなく耐熱性のない核酸合成酵素を利用しても連続的にPCRを効率よく行うことができ、核酸合成酵素の再利用、連続的利用が可能であり、更に増幅した核酸の分離・精製が容易で、スケールアップも可能な核酸増幅装置及び核酸増幅方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の核酸増幅装置は、内部に少なくとも一の流路を有し、該流路に少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液を流し、該流路内で核酸を増幅する核酸増幅装置であって、
前記流路が、前記テンプレートとなる核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解する変性反応を行う変性領域と、該二重鎖が融解したテンプレートとなる核酸と前記プライマーとなる核酸とが二重鎖を形成する再生領域とを有すると共に、前記再生領域には核酸合成酵素が固定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の核酸増幅装置によれば、上記変性領域と上記再生領域とを有する少なくとも一の流路内に、少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液を導入し核酸合成反応を行う際、上記再生領域に固定された上記核酸合成酵素が、テンプレートとなる核酸を融解し一本鎖状に変性させる際の加熱等の影響を受けることがないので、核酸合成酵素の失活が抑制され、耐熱性のない核酸合成酵素を利用しても連続的にPCRを行うことができる。また、上記核酸合成酵素が固定されているので、増幅した核酸の分離・精製が容易にできると共に上記核酸合成酵素の再利用、連続的利用が可能となり、反応のスケールアップも容易である。なお、本発明において、核酸と言う場合には、天然型及び非天然型の双方の核酸を含む意味である。
【0014】
本発明の核酸増幅装置においては、上記変性領域を加熱し、且つ、上記再生領域を上記変性領域の温度より低温に保持できる温度制御手段を備えていることが好ましい。この態様によれば、分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を有するテンプレートとなる核酸を熱によって融解して一本鎖状に変性する工程、前記変性領域の温度より低温の環境下、得られた該二重鎖が融解したテンプレートとなる核酸と各々相補的なプライマーとの間で二重鎖形成を行う工程、前記変性領域の温度より低温の環境下、核酸合成酵素を作用させてプライマーから相補鎖合成を行う工程からなる一連のPCRサイクルを連続して効率よく行うことができる。
【0015】
また、前記核酸合成酵素はビーズに固定され、該ビーズが少なくとも前記再生領域に充填されていることが好ましい。この態様によれば、固定された核酸合成酵素と反応液とを効率よく接触させることができるので反応効率を高めることができる。
【0016】
あるいは、上記核酸合成酵素は、少なくとも前記再生領域の内壁面に固定されたものであってもよい。この態様によれば、核酸合成酵素が固定化した流路を簡単に形成することができる。即ち、このような流路を形成する場合、まず、流路の全面に核酸合成酵素を固定化させて全流路を形成してもよく、この態様により、たとえ変性領域の酵素が失活しても、再生領域の酵素は活性状態が保持されるので、所望の流路を容易に形成することができる。
【0017】
更にまた、上記流路内に、上記変性領域と上記再生領域が交互に設けられていることが好ましい。この態様によれば、PCRサイクルを複数回行うことができるので、目的の核酸を効率よく増幅することができる。
【0018】
本発明の核酸増幅装置においては、上記核酸合成酵素として、温度30〜40℃に至適温度を有するものを用いることができる。この態様によれば、核酸合成酵素の使用選択範囲が広がり、従来のPCRで使用できなかった比較的安価な酵素を選択できる。また、他の一般的な核酸合成酵素以外の酵素の併用も可能にする。従って、従来PCR時に併用が困難だった酵素、例えば、合成された核酸のミスマッチを修正する酵素等を併用することにより、従来のPCRに比べて増幅の信頼性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の核酸増幅装置においては、上記流路が、循環流路を有すると共に該循環流路が上記再生領域及び上記変性領域を有してなる構造であってもよい。
【0020】
ここで、循環流路とは、反応液を循環させ、該循環流路内の変性領域と再生領域を交互に通過させるための流路のことをいい、上記流路が所定の場所で分岐し該分岐した流路がお互いに再び連結されて環状構造を有する流路や、上記流路の全体が一つまたは複数の環状構造を有する流路であって、該環状構造の流路によって流れの一部もしくは全てが環状構造を通って循環する流路のことである。
【0021】
この態様によれば、テンプレートとなる核酸、プライマーとなる核酸、リン酸化合物等を所定領域で循環させながら変性領域、再生領域に繰り返し送液させることができるので、テンプレートの枯渇を防ぎ、反応液を積極的に再利用することができるので、ランニングコストを低減することができる。
【0022】
更に、本発明の核酸増幅装置は、反応液の流れの方向を制御する送液装置を有し、該送液装置が反応液の流れの方向を周期的に反転させるように制御されたものであることが好ましい。この形態によれば、限られた容積内での送液が可能な種々の送液装置を使用することができ、送液装置の簡略化を容易にすることができ、装置の小型化に好適に対応できる。
【0023】
また、本発明の核酸増幅方法は、少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液中のテンプレートとなる核酸を増幅させるための方法であって、(a)所定の領域で、前記テンプレートとなる核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解する変性工程と、(b)工程(a)で得られる該二重鎖が融解したテンプレートとなる核酸と前記プライマーとなる核酸との間に工程(a)とは別の領域で二重鎖を形成させる再生工程と、(c)工程(b)がなされる領域を含む領域に固定され活性状態に保持された核酸合成酵素と、工程(b)中及び/又は直後に反応液とを接触させる工程とを包含することを特徴とする。
【0024】
本発明の核酸増幅方法によれば、上記変性工程と上記再生工程とをそれぞれ異なる領域で行うことが可能であり、上記再生工程がなされる領域を含む領域に固定された核酸合成酵素が、テンプレートとなる核酸を変性させる際の加熱等の影響を受けることがないので、核酸合成酵素の失活が抑制され、耐熱性のない核酸合成酵素を利用しても連続的にPCRを行うことができる。また、上記核酸合成酵素が固定されているので、増幅した核酸の分離・精製が容易にできると共に上記核酸合成酵素の再利用、連続的利用が可能となり、反応のスケールアップも容易になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解し一本鎖状に変性する領域と、該二重鎖が融解した核酸が二重鎖を再形成する再生領域とを有する流路に、少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液を導入し核酸合成反応を行う際、上記再生領域に固定された核酸合成酵素が、テンプレートとなる核酸を変性させる際の加熱等の影響を受けることがないので、核酸合成酵素の失活が抑制され、耐熱性のない核酸合成酵素を利用しても連続的にPCRを行うことができる。また、上記核酸合成酵素が固定されているので、増幅した核酸の分離・精製が容易にできると共に上記核酸合成酵素の再利用、連続的利用が可能となり、反応のスケールアップも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の核酸増幅装置の一実施形態を示す図である。
【図2】上記核酸増幅装置の流路の一部の模式図である。
【図3】本発明の核酸増幅装置の別の実施形態を示す図である。
【図4】上記核酸増幅装置の循環流路の模式図である。
【図5】上記変性領域及び再生領域を形成するための変性用温度制御手段及び再生用温度制御手段の説明図である。
【図6】本発明の核酸増幅装置の更に別の実施形態を示す図である。
【図7】同核酸増幅装置におけるキャピラリー内に固定化された核酸合成酵素を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例で用いた核酸増幅装置の流路1ユニット分を示す模式図である。
【図9】同核酸増幅装置によって核酸を増幅し、アガロースゲル電気泳動により検出した結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0027】
1、1a〜1g 基板
2 流路
2a 注入孔
2b 取り出し孔
2c 分岐流路
3 ビーズ充填部
3a 拡径部
4 ビーズ
5 核酸合成酵素
6 固定化核酸合成酵素
10、20、50 核酸増幅装置
11〜13、13a 外部送液装置
14 第1反応液槽
15 第2反応液槽
16 反応液槽
31、32 恒温槽
33、52 温度制御装置
34、39 変性用温度制御手段
35、40 再生用温度制御手段
36、37 攪拌機
38 仕切り板
51 キャピラリー
A 変性用温度領域
B 再生用温度領域
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
まず、本発明の核酸増幅方法について説明する。
本発明の核酸増幅方法は、少なくとも一の流路内に、少なくともテンプレートとなる核酸(以下、単にテンプレートという)と、プライマーとなる核酸(以下、単にプライマーという)と、リン酸化合物及び金属イオンを含む反応液を導入することにより、前記流路内で前記テンプレートの変性、変性させた前記テンプレートと前記プライマーとのアニーリング、核酸合成酵素による核酸の合成を行うものであり、前記流路には、二重鎖を形成した前記テンプレートとなる核酸の変性反応を行う変性領域と、一本鎖状にした前記テンプレートとなる核酸と前記プライマーとのアニーリング反応を行うと共に核酸合成酵素によって核酸合成反応を行う再生領域が設けられており、前記再生領域の流路の少なくとも一部には核酸合成酵素が固定されている。なお、テンプレートの変性とは、二重鎖を形成した核酸を融解させて、一本鎖状にすることを意味する。
上記変性領域は、テンプレートの変性に必要な環境に設定され、例えば、1)核酸の融解温度以上に設定する、2)塩基性・酸性に設定する、3)陽イオンを含まない、4)水素結合阻害剤(例えば尿素やグアニジウム塩等)を混入する、等の環境に設定される。
【0029】
本発明では、核酸の変性と再生を繰り返して行うため、上記条件のうち、繰り返し設定が可能な、核酸の融解温度以上に設定する(手段としては加熱が効果的)、あるいは塩基性・酸性に設定することが好ましく、核酸の融解温度以上に設定することが最も効率的であるため特に好ましい。例えば、テンプレートの変性を核酸の融解温度以上に加熱して行う場合は、テンプレートの長さや配列によって異なるため一概には言えないが、例えば、数百merのテンプレートの場合90〜99℃、好ましくは92〜97℃となるように加熱すればよい。
【0030】
なお、核酸合成酵素に耐塩基性を付与することは困難であるため、従来のPCR法では、テンプレートの変性条件として塩基性環境が用いられることはなかったが、本発明では、核酸合成酵素が固定された領域を中性環境に設定することができ、このように中性環境にすれば変性領域を塩基性環境に設定してテンプレートの変性を行うことも可能である。
【0031】
一方、上記再生領域は、核酸再生に必要な環境に設定され、例えば、1)核酸の融解温度以下に設定する(手段としては非加熱又は冷却)、2)弱酸性〜弱塩基性に設定する(pH7±3程度)、3)適当な陽イオンを含む、4)水素結合阻害剤(例えば尿素やグアニジウム塩等)を含まない、等の条件をすべて満たす環境に設定される。例えば、核酸再生を行う際の温度条件は、テンプレートとプライマーとの融解温度によって異なるため一概には言えないが、例えば、15〜30merのプライマーを用いた場合、30〜70℃であり、本発明においては30〜40℃が特に好ましい。なお、核酸再生とは、お互いに相補的な一本鎖の核酸同士が二重鎖を形成することであり、PCRを行う環境下における核酸再生とは実質的にテンプレートとプライマーとのアニーリングを意味する。
【0032】
本発明においては、上記流路に導入された反応液が上記変性領域に移動することで、該反応液が上記変性領域に設定された環境下にさらされ、また、上記再生領域に移動することで、該反応液が上記再生領域に設定された環境下にさらされる。
【0033】
また、本発明においては、上記変性領域は、流路内を移動する反応液を上記の核酸の融解温度以上に加熱できるように、該流路の外部に変性用温度制御手段を設けることによって形成することが好ましく、上記再生領域は、流路内を移動する反応液を上記の核酸の融解温度以下に調節できるように、該流路の外部に再生用温度制御手段を設けることによって形成することが好ましい。
【0034】
本発明の方法で使用される核酸合成酵素は、核酸増幅に使用できる酵素であって、一般に入手可能な酵素であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、DNAポリメラーゼ、リガーゼ、逆転写酵素、RNAポリメラーゼ等が例示できる。また、これらの核酸合成酵素を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
なお、本発明においては、従来のPCR法やリガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction:LCR)法で使用されている耐熱性を有する核酸合成酵素を用いることもできる。核酸合成酵素が上記再生領域の流路内に固定されており、テンプレートを変性させる際に行われる加熱等にさらされないので、耐熱性のない核酸合成酵素を用いることができる。
【0036】
本発明において、核酸合成酵素として、温度30〜40℃に至適温度を有するものを好適に用いることができるので、従来のPCRで使用できなかった比較的安価な酵素を選択できる。また、他の一般的な核酸合成酵素以外の酵素の併用も可能にする。従って、従来PCR時に併用が困難だった酵素、例えば、合成された核酸のミスマッチを修正する酵素等を併用することにより、従来のPCRに比べて増幅の信頼性を向上させることができる。
【0037】
本発明においては、反応効率の高い酵素や入手しやすい酵素が好ましく用いられ、具体的には、複製の信頼性の高い大腸菌由来のDNAポリメラーゼIが好ましく用いられる。また、若干複製の信頼性が低くなるがDNAポリメラーゼIのエキソヌクレアーゼ活性部位を除いたクレノーフラグメント等を用いることもできる。
【0038】
上記核酸合成酵素は、例えば、ビーズ表面に固定化して上記再生領域の流路の少なくとも一部に充填してもよく、流路の内壁面に直接固定化してもよい。
【0039】
ここで、ビーズに固定された核酸合成酵素を使用する場合は、固定された核酸合成酵素と反応液とを効率よく接触させることができるので反応効率を高めることができる。
【0040】
また、核酸合成酵素が少なくとも前記再生領域の内壁面に固定されたものである場合には、本発明の装置の構成を簡単に形成することができる。即ち、このような流路を形成する場合、まず、流路の全面に核酸合成酵素を固定化させて全流路を形成することができ、この態様により、たとえ変性領域の酵素が失活しても、再生領域の酵素は活性状態が保持されるので、所望の流路を容易に形成することができる。
【0041】
核酸合成酵素を固定化するビーズの材質は特に限定されないが、金属微粒子、ガラス粒子、樹脂製粒子等が好ましく例示でき、特にラテックスビーズやキトサンビーズのように生体分子との相性が良く、酵素の固定化が容易なビーズが好ましく用いられる。上記ビーズの大きさは、上記流路内に充填可能な大きさであればよく、適宜設定できるが、通常、直径0.4〜100μm、好ましくは直径1〜50μmである。
【0042】
また、上記流路は、熱伝導性が比較的高く、PCRに必要な温度範囲において安定で、電解質溶液や有機溶媒に浸食されにくく、核酸やタンパク質を吸着しにくい材質で形成されていることが好ましい。耐熱性や耐食性を有する材質としては、ガラス、石英、シリコンの他、各種プラスチックが例示できるが、さらにそれらの表面(反応液と接触する内壁面)を、ポリエチレン、ポリプロピレン等の一般的に核酸やタンパク質を吸着しにくいと言われる材質で被覆したり、ポリエチレングリコール(PEG)等の親水性の官能基を多く含む分子を共有結合等で導入し、核酸やタンパク質の吸着を抑制することが好ましい。
【0043】
上記ビーズ表面、あるいは流路の内壁面に核酸合成酵素を固定化する方法としては、担持法や包含法、共有結合法、架橋法、静電吸着法等の公知の方法を採用することができるが、酵素反応を繰り返し行うためには共有結合法や架橋法が特に好ましい。例えば、共有結合法は、特開平3−164177号公報等に記載された方法にしたがって行うことができ、ビーズ表面や流路の内壁面に比較的反応性の高い官能基(例えば、クロロカルボニル基(カルボン酸塩化物)、カルボキシル基、アミノ基、チオール基(スルファニル基)、エポキシ基等)を導入し、該官能基と核酸合成酵素の表面にあるカルボニル基やアミノ基、チオール基(スルファニル基)と反応させることにより固定化することができる。
本発明で使用される反応液には、少なくともテンプレートと、プライマーと、リン酸化合物及び金属イオンが含まれる。
【0044】
上記テンプレートは、増幅の目的となる核酸であり、常法によって調製された天然型あるいは非天然型の核酸を用いることができる。反応液中における上記テンプレートの濃度は、通常、0.01〜100pMが好ましく、0.1〜10pMがより好ましい。
上記プライマーは、上記テンプレートの少なくとも一部の塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸であり、一般的なPCR法やLCR法において使用できるものであればよいが、目的とする核酸を効率よく増幅できるように設計されることが好ましく、通常、15〜30merのものが好ましく用いられる。例えば、プライマーとなる核酸は、核酸自動合成機を用いることにより容易に作製することができる。反応液中における上記プライマーの濃度は、通常、0.01〜1μMが好ましく、0.1〜0.2μMがより好ましい。
【0045】
また、上記プライマーには、後の検出や分離のために化学的に修飾・改変された非天然型核酸も含まれる。上記非天然型核酸は、特に限定されないが、ビオチンやFITCで標識されたオリゴ核酸、ホスホチオエート結合を有するオリゴ核酸やPNA(ペプチド核酸)と天然型核酸とを含有するキメラ核酸等が好ましく例示できる。
【0046】
上記リン酸化合物は、核酸を増幅する際の基質となる成分であり、例えば、核酸合成酵素としてDNAポリメラーゼや逆転写酵素を使用する場合には、dNTP、すなわちdATP、dCTP、dGTP及びdTTPを任意の割合で含む混合物、好ましくは4種類のデオキシヌクレオチド3リン酸の等量混合物が用いられる。一方、リガーゼを使用する場合は、NTPを使用することが好ましく、特にATPやGTPが好ましく例示できる。反応液中における上記リン酸化合物の濃度は、適宜設定することができるが、通常、0.01〜1mMが好ましく、0.1〜0.5mMがより好ましい。
【0047】
上記金属イオンとしては、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、マグネシウムイオン(Mg2+)等が例示できる。このような金属イオンを含むことにより、二重鎖核酸の安定化、酵素活性化、合成された核酸の忠実性向上等の効果を得ることができる。反応液中における上記金属イオンの濃度は、通常、カリウムイオンやナトリウムイオンは10〜200mMが好ましく、50〜100mMがより好ましい。また、マグネシウムイオンは1〜5mMが好ましく、1.5〜2.5mMがより好ましい。
【0048】
本発明の方法においては、流路内でテンプレートの変性、変性させたテンプレートとプライマーとのアニーリング、及び核酸合成を効率よく行うことができるように、上記反応液の送液速度や流路の長さ等の条件を適宜調整することが好ましい。これらの条件は、テンプレートの長さや合成する核酸の長さ、用いる核酸合成酵素の反応速度等によって影響を受けるため一概には言えないが、通常、上記反応液が、上記変性領域を1回通過する際の時間は1〜60秒、好ましくは5〜30秒であり、上記再生領域を1回通過する際の時間は5〜300秒、好ましくは10〜120秒である。
【0049】
以下、本発明の核酸増幅方法に用いられる核酸増幅装置を図面に基づいて説明するが、基本的に同一の部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
図1には、本発明の核酸増幅装置の一実施形態が示されている。核酸増幅装置10は、変性用温度領域Aと再生用温度領域Bを有する基板1に、前記変性用温度領域Aと前記再生用温度領域Bを交互に蛇行して、前記変性用温度領域Aと前記再生用温度領域Bをそれぞれ複数回通過するように所定の内径を有する流路2が形成されており、これによって該流路2を、上記テンプレートとなる核酸を変性させて一本鎖にする変性反応を行う変性領域と、該一本鎖にした核酸と上記プライマーとなる核酸とがアニーリングされ更に核酸合成反応を行う再生領域とを有する流路とすることができる。上記流路の再生領域の一部には、表面に核酸合成酵素が固定化されたビーズが充填されているビーズ充填部3が複数個所設けられている。また、上記流路2の両端には、該流路内に反応液を注入するための注入孔2aと、核酸の増幅反応が終了した反応液を取り出すための取り出し孔2bが設けられている。
【0050】
また、図2には、上記核酸増幅装置の流路の一部を拡大した模式図が示されており、上記ビーズ充填部3には、核酸合成酵素5がビーズ4の表面に固定化された固定化核酸合成酵素6が充填され、流路を移動してきた反応液と固定化核酸合成酵素6に固定された核酸合成酵素5が接触できるようになっている。なお、固定化核酸合成酵素6を流路内に充填する場合、該固定化核酸合成酵素6が漏れないようにビーズ充填部3の入口および出口に適当なふるいサイズを有するフィルターを設置することが好ましい。フィルターの材質としては、特に限定されないが、核酸の吸着が起こりにくいものが好ましく、セルロースなどが好ましく例示できる。
【0051】
この核酸増幅装置10を使用する場合は、ポンプ等の外部送液装置(図示せず)により、少なくともテンプレートと、プライマーと、リン酸化合物及び金属イオンを含む反応液を図中矢印の方向に送液する。これにより、上記流路2の変性領域で前記テンプレートが熱変性により一本鎖にされた後、上記流路の再生領域で前記一本鎖のテンプレートと、該テンプレートに相補的なプライマーとのアニーリング反応が行われ、更に上記ビーズ充填部3で固定化核酸合成酵素6により前記一本鎖のテンプレートの相補鎖の合成が行われ、上記流路の変性領域と再生領域をそれぞれ1回通過する毎に1サイクルのPCRが行われる。
【0052】
本発明において、上記流路2は、上記基板の変性用温度領域と再生用温度領域をそれぞれ1回以上通過するように形成されていればよいが、核酸増幅を効率よく行うためには、20〜40回通過するように形成されていることが好ましい。
また、上記流路2の大きさは、径を小さくして比表面積を大きくすることにより熱伝導を行いやすくして熱揺らぎが生じないようにすることが好ましい(Science(1998年)280号5366巻、1046−1048頁(Kopp MU、Mello AJ、Manz A.著)参照)。本発明において最適な流路の幅は20〜200μm、好ましくは50〜100μmであり、深さは20〜200μm、好ましくは40〜100μmである。また、固定化核酸合成酵素6を充填する部分の流路の幅は20〜3000μm、好ましくは50〜1000μmであり、深さは20〜1000μm、好ましくは40〜500μmである。
【0053】
上記流路2は、熱伝導性が比較的高く、PCRに必要な温度範囲において安定で、電解質溶液や有機溶媒に浸食されにくく、核酸やタンパク質を吸着しにくい材質で形成されていることが好ましい。例えば、耐熱性や耐食性を有する材質としては、ガラス、石英、シリコンの他、各種プラスチックが例示できるが、さらにそれらの表面(反応液と接触する面)を、ポリエチレン、ポリプロピレン等の一般的に核酸やタンパク質を吸着しにくいと言われる材質で被覆したり、ポリエチレングリコール(PEG)等の親水性の官能基を多く含む分子を共有結合等で導入し、核酸やタンパク質の吸着を抑制することが好ましい。
上記流路を有する基板は、例えば、以下のようにして形成することができる。すなわち、上記の材質からなる1枚の基板上に、上記所定の幅と深さを有する溝を切削加工等により形成し、前記溝に蓋をするように、もう1枚の基板やフィルムを貼り付ける方法を好適に採用し得る。
【0054】
図3には、本発明の核酸増幅装置の別の実施形態が示されている。この核酸増幅装置20は、図1に示した基板1aに対して他の基板1b、1c,1d,1e、1f、1gが、枝分かれ状に複数接続されたものである。なお、これら基板の接続形態は、図3に示す形態に限定されるものではなく、核酸増幅を効率よく行うことができるように様々な形態で接続することができる。
核酸増幅装置20は、少なくとも上記テンプレートを含む第1反応液と、少なくとも上記プライマーと、リン酸化合物及び金属イオンを含む第2反応液からなる反応液を用い、ポンプ等の外部送液装置11より、まず、基板1aに前記第1反応液と前記第2反応液がそれぞれ第1反応液槽14と第2反応液槽15から供給されるようになっており、基板1b、1c,1d,1e、1f、1gには、前記基板1aを通過した反応液が外部送液装置12によりそのままテンプレートとして供給されると共に、前記基板1aでの反応で消費されたプライマーやリン酸化合物等の反応基質を補充するために、前記第2反応液が第2反応液槽15から供給されるようになっている。
【0055】
そして、上記基板1b、1c,1d,1e、1fを通過した反応液は、そのまま回収して核酸の精製を行ってもよく、必要に応じて更に複数の基板へ接続して核酸増幅を行ってもよい。
なお、本実施形態においては、上記基板1aを通過した反応液の一部、及び上記基板1gを通過した反応液を、上記第1反応液として再利用するための流路7、8とポンプ13が設けられている。このような再送流路を設けることにより、テンプレートの枯渇を防ぐことができ、連続した核酸増幅を安定して行うことができると共にランニングコストの低減を図ることができる。
【0056】
なお、このように枝分かれ状に基板を接続した場合は、各段の少なくとも一つの基板、例えば、枝分かれする直前の基板(基板1a)や、基板を通過した反応液を第1反応液として再利用する経路を有する基板(基板1g)には、複製の信頼性の高い核酸合成酵素が固定されていることが好ましい。これにより、テンプレートの増幅を正確に行うことができるので、PCRを繰り返し行っても正確にテンプレートを増幅することができる。
【0057】
図4(a)及び(b)には、本発明の核酸増幅装置において、反応液を循環させ、循環流路内の変性領域と再生領域を交互に通過させるための循環流路の構造が示されている。
図4(a)に示す循環流路では、流路2の所定の場所で分岐した分岐流路2cによって循環流路が形成されており、分岐流路2cへの送液は反応液の流れの方向を制御する外部送液装置13aによって制御できるようになっている。流路の分岐部で分岐流路2cに進入した反応液は変性用温度領域Aで循環流路内の変性領域を通過し、流路の合流部から再生用温度領域Bにもどり、一度通過した循環流路内の再生領域をもう一度通過できるようになっている。
【0058】
また、上記循環流路は、図4(b)に示すように、流路2を環状に形成して分岐流路を有さない構造とすることもできる。ここで、反応液の供給、取出し部となる反応液槽16が、環状の流路2の途中に配置されており、前記反応液槽16から導入される反応液は外部送液装置13aによって図中矢印の方向に流路2内を循環する。
【0059】
反応液が上記循環流路を循環し、上記循環流路内の変性領域と再生領域を交互に繰り返し通過することで核酸増幅反応が進行し、その結果得られる増幅産物は、図4(a)では、流路の出口から、図4(b)では、前記反応液槽16から採取することができる。
本発明の核酸増幅装置において、上記基板の変性用温度領域及び再生用温度領域は、例えば、図5(a)に示すように、変性用温度制御手段34を有する恒温槽31と再生用温度制御手段35を有する恒温槽32とが仕切り板38で仕切られた構造を有する温度制御装置33内に基板1を設置することにより形成することができる。なお、上記各恒温槽には、恒温槽内の媒体を撹拌し、温度を均一に保つために撹拌機36及び37がそれぞれ設置されている。
【0060】
また、図5(b)に示すように、複数の基板1を積層し、各基板の間あるいは数枚毎の基板間に、変性用温度制御手段39と再生用温度制御手段40とを配置して、上記基板の変性用温度領域及び再生用温度領域を形成してもよい。
【0061】
なお、上記変性用温度制御手段及び上記再生用温度制御手段は、任意の温度制御装置により温度を一定に保つことができればよく、具体的には熱電素子、恒温装置、電熱線、ランプヒーター等が好ましく例示できる。また、上記変性用温度制御手段及び上記再生用温度制御手段は、基板に接触しないように配置してもよい。
図6には、本発明の核酸増幅装置の更に別の実施形態が示されている。この核酸増幅装置50は、流路として2本のキャピラリー51が用いられており、キャピラリー51は、変性用温度領域Aと再生用温度領域Bとを有する温度制御装置52内に、前記変性用温度領域と再生用温度領域を交互に通過するように、螺旋状に巻かれて設置されている。
上記キャピラリー51の内壁面には、図7に示すように核酸合成酵素5が直接固定化されている。
【0062】
上記キャピラリーの材質は特に制限されないが、熱伝導性が比較的高く、PCRに必要な温度範囲において安定で、電解質溶液や有機溶媒に浸食されにくく、核酸やタンパク質を吸着しにくい材質で形成されていることが好ましく、例えば、ガラス、プラスチック等が例示できるが、さらにそれらの表面(反応液と接触する面)を、ポリエチレン、ポリプロピレン等の一般的に核酸やタンパク質を吸着しにくいと言われる材質で被覆したり、ポリエチレングリコール(PEG)等の親水性の官能基を多く含む分子を共有結合等で導入し、核酸やタンパク質の吸着を抑制することが好ましい。
また、半透性で高分子を通過させず低分子のみを透過するような性質を有する素材からなるキャピラリーを用いることもでき、その場合は、該キャピラリーを設置する恒温槽の媒体として、低分子量の基質(例えばdNTPやNTP等)を含む溶液を用いることによって、キャピラリー内に常に反応基質を供給することも可能となる。半透性のキャピラリーとしては、三菱レーヨンや東レ等から発売されている中空糸が好ましく例示できる。
本発明において、上記キャピラリーのサイズは、外径が100〜1000μm、好ましくは200〜500μmであり、内径が20〜600μm、好ましくは50〜150μmである。
【0063】
上記キャピラリーの内壁面への核酸合成酵素の固定化は、上述した核酸合成酵素を固定化する方法と同様の方法で行うことができ、キャピラリーの全内壁面に核酸合成酵素を固定すればよい。キャピラリーの全内壁面に核酸合成酵素を固定化した場合、変性領域に固定化された核酸合成酵素は通常加熱等により失活し、核酸合成反応に影響を与えることはないので、再生領域に固定化された核酸合成酵素が活性を有していればよく、実用上の問題はない。
このキャピラリー構造によれば、ビーズを装填したり、特定の場所にだけ核酸合成酵素を固定化したりする手間を省くことができ、製造も容易になる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
〈実施例1〉
(核酸増幅装置の作製)
上記図1や図2で説明されるように、一の流路内に、変性領域と再生領域が交互に複数設けられている構造体を得るために、基板の一の領域を変性用温度領域とし、又、別の一の領域を再生用温度領域とし、表面に一の流路が蛇行して形成され、それらの領域を交互に通過するように配された流路基板を、以下のようにして成形した。
【0065】
すなわち、ポリエチレンを射出成型することで厚さ1mmの薄板状の基板(縦35mm×横70mm)を作製し、表1に示す幅と深さを有し、長さ方向に途切れのない溝を、切削加工によって基板表面に成形し流路基板とした。その際、隣り合う一の変性領域と一の再生領域が占める流路部分を1ユニット分とした。
【0066】
【表1】

流路1ユニット分の溝の模式図を図8に示す。ここで、基板の変性用温度領域Aで変性領域となる溝の流路に沿った長さは12mmであり、基板の再生用温度領域Bで再生領域となる溝の流路に沿った長さは50mmである。また、固定化核酸合成酵素を充填する流路の拡径部3aの溝の幅は1000μmであり、それ以外の部分の溝の幅は200μmである。上記ポリエチレン基板上に切削加工によって成形した長さ方向に途切れのない溝は、上記流路1ユニット分の溝が40ユニット分直列して構成されるように成形されている。
【0067】
一方、上記基板の流路の拡径部3aに充填する固定化核酸合成酵素を以下のようにして調整した。
【0068】
すなわち、平均粒径100μmのキトサンビーズ担体(商品名「キトパールBCW−3001」;富士紡績株式会社製)1g(湿重量)を5mlのPBS緩衝液(137mM NaCl、8.1mM Na2HPO4、2.68mM KCL、1.47mM KH2PO4、pH7.2)中、4℃で8時間平衡化した。PBS緩衝液をろ過により取り除き、2mlの2.5%グルタルアルデヒド水溶液を加え、4℃で2時間活性化した。その後、2.5%グルタルアルデヒド水溶液をろ過後、ビーズを5mlのPBS緩衝液で3回洗浄した。次に、PBS緩衝液をろ過後、ビーズに酵素溶液として0.1μg/μlDNAポリメラーゼ・クレノーフラグメント(タカラバイオ株式会社製)/PBS緩衝液を1ml加え、4℃で2時間反応させ固定化した。酵素溶液をろ過し、5mlのPBS緩衝液で3回洗浄した後、PBS緩衝液で50%スラリー状に調整した。
【0069】
このように調製した固定化核酸合成酵素を、流路1ユニット分当り2.5μlで上記流路基板のビーズ充填部分にマイクロピペットによって滴下し充填した。この場合、ビーズ充填部分の容積のうち固定化核酸合成酵素がそのおよそ半分を占めるものと考えられた。
上記流路基板の溝を形成する表面の対向側の表面には、温度制御手段としてペルチェ素子を配した。すなわち、基板の一定面積を94℃の変性用温度領域とするために必要なペルチェ素子を、また、基板の一定面積を37℃の再生用温度領域とするために必要なペルチェ素子を、それぞれ流路基板表面上に設置した。
上記流路基板の溝に蓋をして流路とするために、もう1枚のポリエチレン基板を重ねてクリップで挟み、核酸増幅反応用基板とした。
【0070】
更に、送液装置である高速液体クロマトグラフィー用ポンプからの送液チューブを、上記核酸増幅反応用基板の流路入り口部分に接着したコネクタに接合し、上記核酸増幅装置とした。
〈実施例2〉
(核酸増幅反応)
実施例1で作製した核酸増幅装置を用いてPCR反応を行った。その際、以下の内容物を含有する水溶液をその反応液とした。
【0071】
反応液:
鋳型二本鎖DNA(73塩基対) 10pM
forwardプライマーDNA(18塩基) 1μM
reverseプライマーDNA(18塩基) 1μM
dATP、dGTP、dCTP、dTTP 各5μM
MgSO4 10mM
ジチオスレイトール 0.1mM
Tris−HCl(pH7.2 at 25℃) 50mM
DNA配列:
鋳型二本鎖DNAのプラス鎖:配列番号1
鋳型二本鎖DNAのマイナス鎖:配列番号2
forwardプライマーDNA:配列番号3
reverseプライマーDNA:配列番号4
また上記反応液のうち鋳型二本鎖DNA(73塩基対)を含まない溶液を対照として用いた。
【0072】
反応液あるいは対照溶液は予め94℃で2分間変性させた後、37℃まで冷却し、送液装置で上記実施例1の核酸増幅装置の流路内に送液速度1μl/minで送液した。ここで、上記実施例1の核酸増幅装置の流路基板上に配された流路の1ユニット分の流路内容積のうち、再生領域と変性領域が占める部分の比は、再生領域中の一部を固定化核酸合成酵素が占めていることを勘案すれば、およそ7:1である。よって、40ユニット分の流路を通過した反応液あるいは対照溶液は、変性反応94℃、30秒、アニーリング/伸長反応37℃、3分30秒とするPCRサイクルを40回繰り返したことに相当すると考えられる。
40ユニット分の流路を通過した反応液あるいは対照溶液の一部を、核酸増幅装置の流路内に導入する前の反応液及び核酸分子量マーカーとともに、3%アガロースゲル(TAE緩衝液:40mMTris、19mM酢酸、1mMEDTA)中に電気泳動し、得られたゲルを染色0.5μg/mlエチジウムブロマイド水溶液で染色した。図9にUV(302nm)照射時の写真像を示す。図中、1は核酸増幅装置の流路内に導入する前の反応液を電気泳動したレーン、2は40ユニット分の流路を通過した反応液を電気泳動したレーン、3は核酸分子量マーカー(50bpラダー)を電気泳動したレーン、4は40ユニット分の流路を通過した対照溶液を電気泳動したレーンである。
【0073】
図9から分かるように、核酸増幅装置の流路内に導入する前の反応液に含有する鋳型二本鎖DNA(73塩基対)は微量であり検出されなかった(レーン1)。また、40ユニット分の流路を通過した対照溶液からもDNAは検出されなかった(レーン4)。一方、40ユニット分の流路を通過した反応液からは、核酸分子量マーカーに移動度(レーン3)を指標にして70〜75塩基長付近の位置にDNAが検出され、反応液中の鋳型二本鎖DNA(73塩基対)が増幅されたことが確認された(レーン2)。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号1:PCR反応の鋳型となる73塩基長の鋳型二本鎖DNAのプラス鎖。
配列番号2:PCR反応の鋳型となる73塩基長の鋳型二本鎖DNAのマイナス鎖。
配列番号3:鋳型DNAを増幅するためのPCR用forwardプライマーDNA。
配列番号4:鋳型DNAを増幅するためのPCR用reverseプライマーDNA。
【産業上の利用可能性】
【0075】
テンプレート核酸等の効率的な複製・増幅に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に少なくとも一の流路を有し、該流路に少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液を流し、該流路内で核酸を増幅する核酸増幅装置であって、
前記流路が、前記テンプレートとなる核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解する変性反応を行う変性領域と、該二重鎖が融解したテンプレートとなる核酸と前記プライマーとなる核酸とが二重鎖を形成する再生領域とを有すると共に、前記再生領域には核酸合成酵素が固定されていることを特徴とする核酸増幅装置。
【請求項2】
前記変性領域を加熱し、且つ、前記再生領域を前記変性領域の温度より低温に保持できる温度制御手段を備えた請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項3】
前記核酸合成酵素がビーズに固定され、該ビーズが少なくとも前記再生領域に充填されている請求項1又は2記載の核酸増幅装置。
【請求項4】
前記核酸合成酵素が、少なくとも前記再生領域の内壁面に固定されたものである請求項1又は2記載の核酸増幅装置。
【請求項5】
前記流路内に、前記変性領域と前記再生領域が交互に設けられている請求項1〜4のいずれか一つに記載の核酸増幅装置。
【請求項6】
前記核酸合成酵素が、温度30〜40℃に至適温度を有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の核酸増幅装置。
【請求項7】
前記流路が循環流路を有すると共に該循環流路が前記再生領域及び前記変性領域を有する請求項1〜6のいずれか一つに記載の核酸増幅装置。
【請求項8】
更に、反応液の流れの方向を制御する送液装置を有し、該送液装置が反応液の流れの方向を周期的に反転させるように制御されたものである請求項1〜7のいずれか一つに記載の核酸増幅装置。
【請求項9】
少なくともテンプレートとなる核酸とプライマーとなる核酸とリン酸化合物及び金属イオンとを含む反応液中のテンプレートとなる核酸を増幅させるための方法であって、(a)所定の領域で、前記テンプレートとなる核酸の分子内及び/又は分子間で形成された二重鎖を融解する変性工程と、(b)工程(a)で得られる該二重鎖が融解したテンプレートとなる核酸と前記プライマーとなる核酸との間に工程(a)とは別の領域で二重鎖を形成させる再生工程と、(c)工程(b)がなされる領域を含む領域に固定され活性状態に保持された核酸合成酵素と、工程(b)中及び/又は直後に反応液とを接触させる工程とを包含することを特徴とする核酸増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【国際公開番号】WO2005/005594
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511563(P2005−511563)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009942
【国際出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】