説明

核酸等温増幅方法

【課題】逆転写反応と増幅反応とを一連の手順で行う等温増幅方法において、逆転写反応を効率良く進行させることが可能な方法の提供。
【解決手段】目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応を行なう手順(1)と、反応溶液に光を照射して、オリゴヌクレオチドプライマーの配列中のヌクレオチドに結合された光分解性保護基を解離させる手順(2)と、鋳型DNA鎖の増幅反応を行なう手順(3)と、を含む核酸等温増幅方法。この核酸等温増幅方法では、光分解性保護基が結合されたヌクレオチドを配列中に含むオリゴヌクレオチドプライマーは、手順(1)では光分解性保護基によって相補鎖への結合を阻害され、手順(2)において光分解性保護基が解離された後に、手順(3)で相補鎖に結合するように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸等温増幅方法に関する。より詳しくは、目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応と、鋳型DNA鎖の増幅反応と、を一連の手順によって行う核酸等温増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、核酸増幅方法として、PCR(Polymerase Chain Reaction)法が用いられてきている。PCR法は、(1)熱変性、(2)アニーリング、(3)伸長反応の3つの温度ステップからなる温度サイクルを繰り返すことによって、鋳型DNA鎖の増幅を行うものである。
【0003】
ステップ(1)の熱変性は、鋳型DNA鎖を二本鎖から一本鎖に解離させるためのステップである。熱変性時の反応温度は、通常94℃前後とされる。ステップ(2)のアニーリングは、一本鎖に解離した鋳型DNA鎖にオリゴヌクレオチドプライマーを結合(アニール)させるためのステップである。アニーリング時の反応温度は、通常50〜60℃程度とされる。ステップ(3)の伸長反応は、オリゴヌクレオチドプライマーが結合した部分を起点として、DNAポリメラーゼによって一本鎖部分と相補的なDNAを合成するステップである。伸長反応時の反応温度は、通常72℃前後とされる。
【0004】
また、遺伝子の発現量解析やcDNAのクローニングのため、上記のPCR法の前段反応として、mRNAをcDNAに逆転写する反応を加えたRT−PCR(Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction)法が用いられてきている。RT−PCR法においては、前段の逆転写反応と後段の増幅反応とを一連の手順で行う1ステップRT−PCR法が普及している。
【0005】
1ステップRT−PCR法では、まず逆転写反応において、発現解析やクローニングの対象とするRNA鎖(mRNA)から相補的なDNA鎖(cDNA)を合成する。この反応は、RNA鎖と逆転写酵素、逆転写用のオリゴヌクレオチドプライマーを含む反応溶液を通常42℃前後に保持することによって行われる。続いて、増幅反応では、合成されたDNA鎖を鋳型として上述したPCR反応が行なわれる。増幅反応用のプライマーには、一般に、RNA鎖(あるいは鋳型DNA鎖)の塩基配列のうち、逆転写用のオリゴヌクレオチドプライマーの結合部位とは異なる部位に結合するものが用いられる。
【0006】
近年、核酸増幅方法として、温度サイクルの繰り返しを要せず、より簡便な等温増幅と呼ばれる方法が用いられるようになっている。例えば、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法では、オリゴヌクレオチドプライマー、鎖置換型DNA合成酵素、核酸モノマー等の試薬と鋳型核酸鎖を混合し、一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進行する。
【0007】
本発明に関連して、非特許文献1には、光分解性保護基を結合したチミンを塩基配列中に含むオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR反応を制御する方法が記載されている。この方法では、光分解性保護基として、紫外線照射によって解離する6−ニトロピペロニルオキシメチル基(6-nitropiperonyloxymethyl: NPOM)が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"Light-triggered polymerase chain reaction" Chem. Commun., 2008, 462-464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
等温増幅方法においても、逆転写反応と増幅反応とを一連の手順で行う1ステップRT−LAMP法などが普及している。しかし、LAMP法では、PCR法と異なり、後段の増幅反応が一定温度で進行する。そのため、1ステップRT−LAMP法では、逆転写酵素による逆転写反応と同時に鎖置換型DNA合成酵素による増幅反応が進行してしまい、逆転写反応の効率が低下してしまうことが知られている。逆転写反応の効率が低下すると、増幅反応において鋳型となる核酸鎖量が減少するため、遺伝子発現量の解析精度の低下やクローニング効率の低下の要因となる。
【0010】
そこで、本発明は、逆転写反応と増幅反応とを一連の手順で行う等温増幅方法において、逆転写反応を効率良く進行させることが可能な方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題解決のため、本発明は、目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応を行なう手順(1)と、反応溶液に光を照射して、オリゴヌクレオチドプライマーの配列中のヌクレオチドに結合された光分解性保護基を解離させる手順(2)と、鋳型DNA鎖の増幅反応を行なう手順(3)と、を含む核酸等温増幅方法を提供する。
この核酸等温増幅方法では、光分解性保護基が結合されたヌクレオチドを配列中に含むオリゴヌクレオチドプライマーは、手順(1)では光分解性保護基によって相補鎖への結合を阻害され、手順(2)において光分解性保護基が解離された後に、手順(3)で相補鎖に結合するように制御される。
この核酸等温増幅方法において、前記光分解性保護基は、ヌクレオチドの塩基部分に結合されることが好ましく、例えば6−ニトロピペロニルオキシメチル基が用いられる。
また、前記増幅反応は、LAMP法とできる。この場合、光分解性保護基が結合されたヌクレオチドは、前記鋳型DNA鎖から前記目的RNA鎖を剥がしながら相補DNA鎖を合成する鎖置換反応に関与するオリゴヌクレオチドプライマーの配列中に含まれていることが好適となる。
【0012】
本発明において、「核酸等温増幅反応」には、温度サイクルを伴わない各種核酸増幅反応が含まれる。等温増幅反応としては、例えば、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法やSMAP(SMartAmplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(登録商標)、TRC(transcription-reverse transcription concerted)法、SDA(strand displacement amplification)法、TMA(transcription-mediated amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法等が挙げられ、核酸の増幅を目的とする等温反応が広く包含されるものとする。また、これらの核酸増幅反応には、リアルタイム(RT)−LAMP法などの核酸鎖の増幅とともに増幅された核酸鎖の定量を伴う反応も含まれ得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、逆転写反応と増幅反応とを一連の手順で行う等温増幅方法において、逆転写反応を効率良く進行させることが可能な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】目的RNA鎖とオリゴヌクレオチドプライマーの配列を説明する図である。
【図2】ヌクレオチドに結合された6−ニトロピペロニルオキシメチル基(NPOM)の光分解反応を説明する図である。
【図3】逆転写反応におけるDNA合成反応を説明する図である。
【図4】増幅反応の初期段階におけるDNA合成反応を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序により行う。

1.第一実施形態に係る核酸等温増幅方法
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの設計
(2)逆転写反応手順
(3)光分解性保護基の分解手順
(4)増幅反応手順
2.変形例に係る核酸等温増幅方法

【0016】
1.第一実施形態に係る核酸等温増幅方法
本発明に係る核酸等温増幅方法は、目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応を行なう手順(1)と、反応溶液に光を照射して、オリゴヌクレオチドプライマーの配列中のヌクレオチドに結合された光分解性保護基を解離させる手順(2)と、鋳型DNA鎖の増幅反応を行なう手順(3)と、を含む。以下、手順(3)の増幅反応としてLAMP法を採用したRT−LAMP法を例として、図1〜4を参照しながら本発明に係る核酸等温増幅方法の手順を具体的に説明する。
【0017】
(1)オリゴヌクレオチドプライマーの設計
図1は、目的RNA鎖(mRNA)とオリゴヌクレオチドプライマー(以下、単に「プライマー」とも称する)の配列を模式的に示す図である。RT−LAMP法では、目的RNA鎖の配列から6つの領域を選択し、4種類のオリゴヌクレオチドプライマーを設計する。
【0018】
各領域を、目的RNA鎖の5´末端から順に、F3,F2,F1とB1c,B2c,B3cとする。目的RNA鎖に相補的な塩基配列を有する鋳型DNA鎖(cDNA)には、これらの6つの領域に対してそれぞれ相補的な塩基配列を有するF3c,F2c,F1cとB1,B2,B3が存在する。
【0019】
プライマーBIPは、領域B1c及び領域B2と同じ塩基配列を含むように設計される。また、プライマーB3は、領域B3と同じ塩基配列を含む。さらに、プライマーFIPは、領域F1c及び領域F2と同じ塩基配列を含む。プライマーF3は、領域F3と同じ塩基配列を含むように設計される。
【0020】
各プライマーの鎖長は、逆転写反応及び増幅反応の反応温度に応じて、融解温度(Tm)が適当な値となるように設定される。プライマーの融解温度は、逆転写反応及び増幅反応の反応温度条件下において、各プライマーが目的RNAあるいは鋳型DNAに結合し得るような値とされる。プライマーの鎖長は、通常、20mer程度とされる。
【0021】
このうち、プライマーB3及びプライマーF3の配列中には、光分解性保護基である6−ニトロピペロニルオキシメチル基(6-nitropiperonyloxymethyl: NPOM)が結合されたヌクレオチドが含まれる。図中、プライマーB3(Caged)及びプライマーF3(Caged)として示す。
【0022】
図2に、ヌクレオチドに結合されたNPOMの光分解反応を示す。NPOMは、プライマーの配列中のヌクレオチドの塩基(ここでは、チミン(T))部分に結合されている。ヌクレオチドの塩基は、相補的な塩基(ここでは、アデニン(A))との間での水素結合を形成するが、NPOMが結合したヌクレオチドの塩基では、この水素結合形成に寄与する水素原子がNPOMによって置換されているため、水素結合を形成できない。このため、配列中にNPOMが結合されたヌクレオチドを含むプライマーでは、相補鎖に対する結合能が低下し、融解温度が低下する。
【0023】
塩基に結合されたNPOMは、紫外線照射により分解され解離する。NPOMが解離すると、NPOMが結合されていた塩基は、相補的な塩基との間で水素結合を形成できるようになる。このため、配列中のヌクレオチドからNPOMが解離したプライマーでは、相補鎖に対する結合能が回復し、融解温度が上昇する。
【0024】
プライマーの配列中に含まれるNPOM結合ヌクレオチドの数は、NPOMの解離前後でプライマーの融解温度が十分な変化を示すことにより、以下に説明する反応制御が可能である限りにおいて特に限定されない。NPOM結合ヌクレオチドの数は、プライマーの鎖長に応じて適当数とされ得る。平均的な鎖長(20mer程度)の場合、NPOM結合ヌクレオチドは、1つあるいは2つとされ、3つ以上であれば十分である。
【0025】
(2)逆転写反応手順
図3に、逆転写反応におけるDNA合成反応を模式的に示す。
【0026】
まず逆転写反応では、目的RNA鎖と反応溶液とを混合し反応温度に保持して、目的RNA鎖から鋳型DNA鎖を合成する。反応溶液には、鎖置換型DNA合成酵素(例えば、Bst酵素)、逆転写酵素(例えば、AMV酵素)、プライマー、核酸モノマー(dNTP)、緩衝液(バッファー)溶質などが含まれる。
【0027】
逆転写反応では、目的RNA鎖の領域B2cにプライマーBIPが結合(アニール)し、逆転写酵素によって目的RNA鎖に相補的な鋳型DNA鎖が合成される(図中矢印参照)。なお、図に示す目的RNA鎖をセンス鎖としたときにアンチセンス鎖となるRNA鎖が存在する場合には、アンチセンスRNA鎖の領域F2cに結合したプライマーFIPを起点として同様の逆転写反応が進行する。
【0028】
逆転写反応は、所定の反応温度(例えば、40〜65℃)で行なわれる。反応温度は、逆転写酵素が活性を示す温度範囲内において任意の温度が選択できる。
【0029】
プライマーB3(Caged)及びプライマーF3(Caged)は、配列中に含まれるNPOM結合ヌクレオチドのために融解温度が低くなっている。そのため、プライマーB3及びプライマーF3は、逆転写反応の反応温度あるいは次に説明する増幅反応の反応温度において、そのままでは目的RNA鎖に結合できないようにされている。
【0030】
従って、逆転写反応手順では、目的RNA鎖にプライマーBIP及びプライマーFIPのみが結合できることとなり、これらのプライマーを起点とした目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応が効率的に進行する。
【0031】
(3)光分解性保護基の分解手順
逆転写反応手順の完了後、反応溶液に紫外線を照射して、プライマーB3及びプライマーF3の配列中のヌクレオチドに結合されたNPOMを分解し、解離させる。
【0032】
NPOMが解離すると、プライマーB3及びプライマーF3は、融解温度が上昇する。そのため、プライマーB3及びプライマーF3は、次に説明する増幅反応の反応温度において目的RNA鎖に結合できるようになる。
【0033】
(4)増幅反応手順
図4に、増幅反応の初期段階におけるDNA合成反応を模式的に示す。
【0034】
増幅反応では、まず、プライマーBIPの外側に、NPOMが解離したプライマーB3(図中、プライマーB3(Uncaged)として示す)が結合し、逆転写反応においてプライマーBIPを起点として伸長合成された鋳型DNA鎖を目的RNA鎖から剥がしながら新たなcDNAが合成される(図4(A)中矢印参照)。
【0035】
アンチセンス鎖のRNA鎖が存在する場合には、プライマーFIPの外側に、NPOMが解離したプライマーF3が結合し、同様の鎖置換反応が進行する。以下では、簡単のため、センス鎖の反応についてのみ説明する。
【0036】
次に、目的RNA鎖から剥がされた、プライマーBIPを起点として伸長合成された鋳型DNA鎖の領域F2cにプライマーFIPが結合する。プライマーFIPが結合すると、プライマーFIPを起点として、鎖置換型DNA合成酵素によって鋳型DNA鎖に相補的なDNA鎖が合成される(図4(B)中矢印参照)。
【0037】
続いて、プライマーFIPの外側にプライマーF3が結合し、鎖置換型DNA合成酵素によってプライマーFIPを起点として伸長合成された、鋳型DNA鎖に相補的なDNA鎖を剥がしながら新たなDNA鎖が合成される(不図示)。そして、剥がされた、鋳型DNA鎖に相補的なDNA鎖を増幅サイクルの起点構造として、通常のLAMP法と同様の反応によって鋳型DNA鎖の増幅反応が行なわれる。
【0038】
増幅反応は、所定の反応温度(例えば、40〜65℃)で行なわれる。反応温度は、鎖置換型DNA合成酵素が活性を示す温度範囲内において任意の温度が選択できる。
【0039】
本発明に係る核酸等温増幅方法では、プライマーB3(及びプライマーF3)の配列中のヌクレオチドにNPOMを結合することによって、逆転写反応手順においてプライマーB3(Caged)が目的RNA鎖に結合しないように制御できる(図3参照)。また、光分解性保護基の分解手順において、プライマーB3の配列中のヌクレオチドに結合したNPOMを解離させることで、増幅反応手順においてのみプライマーB3(Uncaged)が目的RNA鎖に結合するように制御できる(図4(A)参照)。
【0040】
逆転写反応手順においてプライマーB3が目的RNA鎖に結合すると、プライマーBIPを起点として伸長されている鋳型DNA鎖が、プライマーBIPの外側に結合したプライマーB3を起点として伸長合成されてくるcDNAによって剥がされてしまう。また、目的RNA鎖に非特異的に吸着したプライマーB3によって、プライマーBIPを起点とした鋳型DNA鎖の合成が阻害されるおそれもある。これらはいずれも逆転写反応の反応効率を低下させる要因となる。
【0041】
本発明に係る核酸等温増幅方法では、NPOMの結合・解離を制御することで、増幅反応においてのみプライマーB3が目的RNA鎖に結合するようにできる。従って、上記のような逆転写反応手順においてプライマーB3が目的RNA鎖に結合することに起因して生じる逆転写反応効率の低下を防止することが可能である。
【0042】
2.変形例に係る核酸等温増幅方法
第一の実施形態に係る核酸等温増幅方法では、プライマーB3(及びプライマーF3)の配列中にのみ、NPOMが結合されたヌクレオチドが含まれる場合を例に説明した。NPOMが結合されたヌクレオチドは、プライマーBIP(及びプライマーFIP)にも含まれていてよいが、プライマーB3に含まれるNPOM結合ヌクレオチドの数は、プライマーBIPに含まれるNPOM結合ヌクレオチドの数よりも多くされる必要がある。すなわち、プライマーB3は、プライマーBIPよりも多くのNPOM結合ヌクレオチドを含むことにより、プライマーBIPよりも融解温度が低くされる必要がある。この場合、逆転写反応手順の反応温度をプライマーB3の融解温度よりも高くすることで、プライマーB3が目的RNA鎖に結合しないように制御できる。また、増幅反応手順の反応温度をNPOMが解離したプライマーB3の融解温度よりも低くすることで、光分解性保護基の分解手順後の増幅手順においては、プライマーB3が目的RNA鎖に結合するように制御できる。
【0043】
また、第一の実施形態に係る核酸等温増幅方法では、光分解性保護基としてNPOMを用いる場合を例に説明した。光分解性保護基は、プライマーの配列中のヌクレオチドの塩基部分に結合され、該塩基と相補的な塩基との間の水素結合形成を阻害し得るものであり、光の照射によって分解されて該阻害を解除可能なものであれば特に限定されないものとする。また、光分解性保護基が結合される塩基はチミン(T)に限定されず、使用する保護基に応じてアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)であってもよい。
【0044】
さらに、光分解性保護基に替えて、光に応答して立体構造(シス‐トランス)が変換する光応答性物質を用いることもできる。光応答性物質としては、例えば、核酸の二本鎖形成の光制御への利用が報告されているアゾベンゼンを採用できる("Photoregulation of DNA triplex formation by azobenzene." J Am Chem Soc. 2002, Vol.124, No.9, p.1877-83参照)。アゾベンゼンをヌクレオチドの塩基部分あるいはヌクレオチドの鎖状構造部分(五炭糖とエステル結合)に結合し、その立体構造を光照射によって変換することで、塩基対間の水素結合を可逆的に不安定化あるいは安定化することができる。従って、アゾベンゼンを結合したプライマーでは、立体構造の変換前後でプライマーの融解温度を変化させることができ、光分解性保護基を結合したプライマーと同様の反応制御が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る核酸等温増幅方法によれば、逆転写反応を効率良く進行させることにより、遺伝子の発現量解析やクローニングにおいて高い精度や効率を実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的RNA鎖の鋳型DNA鎖への逆転写反応を行なう手順と、
反応溶液に光を照射して、オリゴヌクレオチドプライマーの配列中のヌクレオチドに結合された光分解性保護基を解離させる手順と、
鋳型DNA鎖の増幅反応を行なう手順と、を含む核酸等温増幅方法。
【請求項2】
光分解性保護基は、前記ヌクレオチドの塩基部分に結合されている請求項1記載の核酸等温増幅方法。
【請求項3】
前記光分解性保護基として、6−ニトロピペロニルオキシメチル基を用いる請求項2記載の核酸等温増幅方法。
【請求項4】
前記増幅反応がLAMP法である請求項3記載の核酸等温増幅方法。
【請求項5】
前記光分解性保護基が結合されたヌクレオチドは、前記目的RNA鎖から前記鋳型DNA鎖を剥がしながら相補DNA鎖を合成する鎖置換反応に関与するオリゴヌクレオチドプライマーの配列中に含まれている請求項4記載の核酸等温増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−50393(P2012−50393A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196609(P2010−196609)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】