説明

核酸複合体徐放担体

【課題】安全性が高く、標的組織・細胞での効果発現の高い核酸複合体徐放担体を提供し、さらに患部での核酸複合体の効果の発現を長期間持続させることができる徐放型核酸複合体移送担体の提供。
【解決手段】
自己組織化ペプチドを含む核酸複合体の移送担体であって、自己組織化ペプチドが親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合し、アミノ酸残基8〜200を有する両親媒性のペプチドであり、生理的pHおよび/または一価のイオンの存在下、水溶液中でβシート構造を示す核酸複合体の移送担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化ペプチドを含む核酸複合体の移送担体及び、核酸複合体を自己組織化ペプチド担体に担持させた徐放型の核酸医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸複合体を標的細胞または組織に運搬するための手段として、従来より、多種多様な移送担体が開発されている。現在の技術では、核酸複合体を核酸医薬として用いる際の移送担体は、核酸複合体の患部での発現効率が低く、その毒性も指摘されている。これらの問題点を解決すべく新規の移送担体も開発されているが、導入された核酸複合体の生体内での効果の持続時間が短いことが知られている。
【0003】
生体親和性材料を用いて遺伝子を徐放させる担体は、既に開発されているが(特許文献1)、主に用いられる材料はコラーゲンやゼラチンなど動物由来の材料であり、感染症などの問題が指摘されている。
【特許文献1】特開平9−71542
【0004】
プラスミドDNA複合体をはじめとする核酸医薬における臨床応用を考慮すると、核酸医薬品の患部への移送担体は、限りなく毒性が低く、また同時に標的組織・細胞での発現効率が高く、さらに患部での効果の発現を持続する徐放型核酸導入製剤の開発が待たれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、安全性が高く、標的組織・細胞での効果発現の高い核酸複合体徐放担体を提供し、さらに、患部での核酸複合体の効果の発現を長期間持続させることができる徐放型核酸複合体移送担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、自己組織化ペプチドが、核酸複合体の移送担体として有用で、さらに、移送した核酸複合体の生体内での滞留性を向上させるために有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
従って、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]自己組織化ペプチドを含む核酸複合体の移送担体。
[2]自己組織化ペプチドが、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合し、アミノ酸残基8〜200を有する両親媒性のペプチドであり、一価のイオンの存在下、水溶液中で安定なβシート構造を示す[1]に記載する核酸複合体の移送担体。
[3]核酸複合体の移送担体が、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニンの繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドであって、好ましくは、アミノ酸残基を16有する自己組織化ペプチドである。
[4]上記[1]−[3]のいずれか1に記載の核酸複合体の移送担体及び核酸複合体を含む、局所投与又は腹腔内、胸腔内投与用医薬品。
[5]上記[1]−[3]のいずれか1に記載する核酸複合体の移送担体で、徐放型の核酸医薬品。
[6]上記[4]に記載する医薬品で、注射可能な徐放型の核酸医薬品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の核酸複合体徐放担体は、安全性が高く、核酸医薬品の標的組織・細胞での効果発現が高く、さらに、患部での核酸複合体の滞留性を向上し、効果の発現を長期間持続させる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書において、「核酸複合体」とは、「核酸、オリゴ核酸、又はその誘導体」と「カチオン性ポリマー又はカチオン性脂質若しくはそれを含む集合体」とを含む複合体であり、さらに、「アニオン性ポリマーなどを含む集合体」などをも含む複合体である。
【0010】
本発明の核酸複合体移送担体は、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に会合し、アミノ酸残基8〜200を有する両親媒性のペプチドであり、一価のイオンの存在下、水溶液中で安定なβシート構造を示す自己組織化ペプチドを主要成分とする。
【0011】
本発明において用いられる自己組織化ペプチドは、例えば、以下の4つの一般式で表すことができる。
((XY)−(ZY) (I)
((YX)−(YZ) (II)
((ZY)−(XY) (III)
((YZ)−(YX) (IV)
(式(I)〜(IV))中、Xは酸性アミノ酸、Yは疎水性アミノ酸、Zは塩基性アミノ酸を表し、1、mおよびnは共に整数(n×(1+m)<200)である。)
また、そのN末端はアセチル化されていてもよく、C末端はアミド化されていてもよい。
【0012】
ここで、親水性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸から選択される酸性アミノ酸およびアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチンから選択される塩基性アミノ酸を使用することができる。疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニンまたはグリシンを使用することができる。
【0013】
これらの自己組織化ペプチドの中でも、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニン(RADA)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドを好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac−(RADA)−NH(p=2〜50)で表される。
【0014】
本発明における自己組織化ペプチドの好ましい具体例としては、(Ac−(RADA)4−NH)配列を有するペプチドRAD16−Iが挙げられ、PuraMatrix(登録商標)としてその水溶液が市販されている。
【0015】
PuraMatrix(登録商標)はアミノ酸16残基(Ac−(RADA)−CONH)で長さが約5nmのオリゴペプチドであって、その溶液はpH5.0以下であると液状を示すが、pH5.0以上に変化させることでペプチドの自己組織化が生じ、直径10nmほどのナノファイバーを形成し、結果としてペプチド溶液はゲル化する。
【0016】
自己組織化ペプチドの製造法は、固相合成法によって合成される。当該ペプチドは人工合成可能であるため、生体由来物質を含まず、感染リスクの心配がない。
【0017】
本発明において、核酸複合体徐放担体とは、核酸、オリゴ核酸、又はその誘導体を含む核酸複合体を生体の意図する組織への移送、細胞内への導入の際に用い、その効果発現を高めることができ、なおかつ核酸複合体の徐放効果を示す組成物をいう。
【実施例1】
【0018】
マウス局所投与モデルにおけるプラスミドDNA複合体徐放効果の検討
皮下に腫瘍細胞を移植した担癌マウスの腫瘍局所内に、自己組織化ペプチドと混和したルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドDNA複合体を直接注射し、遺伝子導入効果をルシフェラーゼ発光量を測定して解析したところ、自己組織化ペプチド/プラスミドDNA複合体混合液において、プラスミドDNA複合体の遺伝子発現が持続することを確認した。
【0019】
<材料>
・PuraMatrix(登録商標)
配列:Ac−(RADA)−NH、CPC社製
・PuraMatrix(登録商標)濃度
10mg/mL(1%)
・ルシフェラーゼDNAプラスミド(市販)
・プラスミドDNA複合体(特許文献2請求項1を混合比1:12:12で調製した)
・細胞溶解液(0.1% Triton X−100;2mM EDTA;0.1M Tris HClの混合液)
・腫瘍細胞
B16細胞
【0020】
<方法>
・腫瘍モデルマウスの作成
B16細胞をイーグル最小必須培地(EMEM)(invitrogen)+10%ウシ血清(FBS)(Gibco)+ペニシリン・ストレプトマイシン(PS)(Gibco)にて37℃、5%CO下で培養した。B16細胞をトリプシン処理で回収し、MEM培地に懸濁、5週齢の雄ddYマウスの下腹部皮下に8×10細胞/200μlを注射針にて移植し、腫瘍マウスを作成した。
・投与溶液の調製
凍結乾燥された(特許文献2に記載された方法)プラスミド複合体を特許文献2の実施例1に記載された方法によって調製した。試験群では、前述のとおり調製したプラスミドDNA複合体溶液をシリンジで吸い上げた後、同じシリンジに同体積のPuraMatrix(登録商標)を吸い上げ、2層の投与液を準備した。対照群ではプラスミドDNA複合体溶液をシリンジで吸い上げた後、同じシリンジに同体積のPBSを吸い上げ、投与液を準備した。
・投与
試験群には、調製したPuraMatrix(登録商標)を含む溶液を腫瘍部位あたり、総量200μl投与した。一方、コントロール群は調製したPuraMatrix(登録商標)を含まない溶液を総量200μl投与した。
・ルシフェラーゼ遺伝子発現量の測定
投与から2日後、4日後と7日後に、それぞれ腫瘍部位を全摘出し、細胞溶解液を加えて、ホモジナイザー(アズワン株式会社)で均質化した後、ルミノメーター(Lumat LB 9507;ベルトールドジャパン株式会社)でルシフェラーゼ発光量を測定した。測定値は、腫瘍1g当たりの発光量に換算して評価した。
【0021】
<結果>
結果を図1に示した。コントロール群では投与の2日後に最も高い発現が見られ、投与の4日後と7日後には、発現がほぼ消失しているが、試験群では投与の2日後の発光量が、4日後および7日後も持続して計測された。このことから、プラスミドDNA複合体を自己組織化ペプチドに内包することで、遺伝子発現が長期間持続すると考えられた。
【特許文献2】特願2006−138201
【実施例2】
【0022】
マウス腹腔投与モデルにおけるプラスミドDNA複合体徐放効果の検討
腹腔内に腫瘍細胞を移植したマウスの腹腔内に、自己組織化ペプチドと混和したルシフェラーゼ遺伝子を発現するプラスミドDNA複合体を腹腔内注射し、腫瘍部位における遺伝子発現効率をルシフェラーゼ発光量を測定して解析したところ、自己組織化ペプチド/プラスミドDNA複合体混合液において、プラスミドDNA複合体の遺伝子発現が持続することを確認した。
【0023】
<材料>
・PuraMatrix(登録商標)
配列:Ac−(RADA)−NH、CPC社製
・PuraMatrix(登録商標)濃度
10mg/mL(1%)
・ルシフェラーゼDNAプラスミド(市販)
・プラスミドDNA複合体(特許文献2請求項1を混合比1:12:12で調製した)
・細胞溶解液(0.1% Triton X−100;2mM EDTA; 0.1M Tris HClの混合液)
・腫瘍細胞
B16細胞
【0024】
<方法>
・腫瘍モデルマウスの作成
B16細胞をイーグル最小必須培地(EMEM)(Invitrogen)+10%ウシ血清(FBS)(Gibco)+ペニシリン・ストレプトマイシン(PS)(Gibco)にて37℃、5%CO下で培養した。B16細胞をトリプシン処理で回収し、MEM培地に懸濁、5週齢の雄ddYマウスの腹腔内に4×10細胞/1mlを注射針にて投与し、腫瘍マウスを作成した。
・投与溶液の調製
凍結乾燥された(特許文献2に記載された方法)プラスミド複合体を特許文献2の実施例1に記載された方法によって調製した。試験群では、前述のとおり調製したプラスミドDNA複合体溶液をシリンジで吸い上げた後、同じシリンジに同体積のPuraMatrix(登録商標)を吸い上げ、2層の投与液を準備した。対照群ではプラスミドDNA複合体溶液をシリンジで吸い上げた後、同じシリンジに同体積のPBSを吸い上げ、投与液を準備した。
・投与
試験群には、調製したPuraMatrix(登録商標)を含む溶液をマウス下腹部から腹腔内に総量1mL投与した。一方、コントロール群は調製したPuraMatrix(登録商標)を含まない溶液を総量1mL投与した。
・ルシフェラーゼ遺伝子発現量の測定
投与から2日後、4日後と7日後に、それぞれ目視できる腹腔内の腫瘍組織を採取し、細胞溶解液を加えてホモジナイザー(アズワン株式会社)で均質化した後、ルミノメーター(Lumat LB 9507;ベルトールドジャパン株式会社)でルシフェラーゼ発光量を測定した。測定値は、腫瘍1g当たりの発光量に換算して評価した。
【0025】
<結果>
結果を図2に示した。コントロール群では、投与2日後にやや発現がみられたが、投与の4日後と7日後ではほとんど発現がみられなかった。試験群では投与2日後の発現量に比べて投与4日後の発現が増加し、投与7日後まで高い発現が持続していた。このことから、プラスミドDNA複合体をPuraMatrix(登録商標)に内包することで、腫瘍細胞へのプラスミドDNAの遺伝子発現が長期間持続し、効果が増大すると考えられた。
【0026】
<総合考察>
実施例1と2の結果を併せ、自己組織化ペプチドが、局所投与及び腹腔内投与の両方で、内包したプラスミドDNA複合体の生体内での滞留性を高め、高い治癒効果を得るのに有用であると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】 自己組織化ペプチド(PuraMatrix(登録商標))によるプラスミドDNA複合体の局所投与における遺伝子発現の持続性の確認である。「プラスミドDNA複合体+PBS」は、コントロール群、「プラスミドDNA複合体+PM」は、PuraMatrix(登録商標)にプラスミドDNA複合体を混和した試験群を意味する。
【図2】 自己組織化ペプチド(PuraMatrix(登録商標))によるプラスミドDNA複合体の腹腔内投与における遺伝子発現の持続性の確認である。「プラスミドDNA複合体+PBS」は、コントロール群、「プラスミドDNA複合体+PM」は、PuraMatrix(登録商標)にプラスミドDNA複合体を混和した試験群を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸の複合体または、オリゴ核酸またはその誘導体の複合体(以降、これらをすべて含めて核酸複合体と言及する)の自己組織化ペプチドを含む移送担体。
【請求項2】
自己組織化ペプチドが、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合し、アミノ酸残基8〜200を有する両親媒性のペプチドであり、一価のイオンの存在下、水溶液中で安定なβシート構造を示す自己組織化ペプチドである請求項1記載の核酸複合体の移送担体。
【請求項3】
前記ペプチドが、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニンの繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドである請求項1記載の核酸複合体の移送担体。
【請求項4】
請求項1の核酸複合体の移送担体を含むことで、核酸複合体の標的組織・細胞での効果発現が高い、局所投与および腹腔内、胸腔内投与可能な医薬品。
【請求項5】
請求項2の核酸複合体の移送担体を含むことで、核酸複合体の標的組織・細胞での効果発現が高く、局所投与および腹腔内、胸腔内投与可能な医薬品。
【請求項6】
請求項3の核酸複合体の移送担体を含むことで、核酸複合体の標的組織・細胞での効果発現が高い、局所投与および腹腔内、胸腔内投与可能な医薬品。
【請求項7】
請求項1の核酸複合体の移送担体で、核酸複合体の標的組織・細胞での滞留性を向上し、患部での効果の発現を持続することのできる徐放型核酸医薬品。
【請求項8】
請求項2の核酸複合体の移送担体で、核酸複合体の標的組織・細胞での滞留性を向上し、患部での効果の発現を持続することのできる徐放型核酸医薬品。
【請求項9】
請求項3の核酸複合体の移送担体で、核酸複合体の標的組織・細胞での滞留性を向上し、患部での効果の発現を持続することのできる徐放型核酸医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12041(P2011−12041A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172533(P2009−172533)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(505043041)株式会社スリー・ディー・マトリックス (4)
【Fターム(参考)】