桂皮酸誘導体の酵素合成法
【課題】桂皮酸誘導体を簡便に安全に収率よく酵素合成する方法を提供する。
【解決手段】桂皮酸類とアルコール類とのエステル交換反応において、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基とアルキル基にエステル交換したものに対して、イオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施す。かかる桂皮酸誘導体の酵素合成法によれば、桂皮酸類のビニルエステルから目的とする桂皮酸誘導体を簡便かつ安全に、また高い収率で得ることができる。一段階の反応で目的生成物が得られ収率がよく、また本発明のエステル交換反応は一相系で行われるため多様な基質と酵素を使用でき、また有機溶媒類を用いないので環境に優しく、溶媒および酵素がリサイクル利用できるといった利点を有する。
【解決手段】桂皮酸類とアルコール類とのエステル交換反応において、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基とアルキル基にエステル交換したものに対して、イオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施す。かかる桂皮酸誘導体の酵素合成法によれば、桂皮酸類のビニルエステルから目的とする桂皮酸誘導体を簡便かつ安全に、また高い収率で得ることができる。一段階の反応で目的生成物が得られ収率がよく、また本発明のエステル交換反応は一相系で行われるため多様な基質と酵素を使用でき、また有機溶媒類を用いないので環境に優しく、溶媒および酵素がリサイクル利用できるといった利点を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な桂皮酸誘導体の酵素合成法に関し、詳しくはイオン液体中でのエステル交換反応により、桂皮酸誘導体の酵素合成を簡便に安全に収率よく行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
桂皮酸誘導体は、天然に広く存在し、例えば、桂皮酸誘導体として最も一般的なものとしてカフェ酸誘導体は、抗酸化剤として有用であるほか、強力なインシュリン分泌誘導能があることから、糖尿病治療薬などの医薬品としても有用な物質である。桂皮酸誘導体を得る方法としては、天然物からの抽出方法および化学的合成方法がある。
天然物からの抽出方法の場合、桂皮酸誘導体の天然物中の存在量が微量であることから工業的な生産は困難である。一方、酵素合成方法としては、縮合反応を用いた桂皮酸誘導体の合成法と、エステル交換反応を用いた桂皮酸誘導体の合成法(例えば、特許文献1を参照)が知られている。
【0003】
以下に酵素合成方法の具体例として、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を合成する場合について説明する。具体例として、縮合反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法の化学反応式を下記化学式1に示す。また、エステル交換反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法の化学反応式を下記化学式2に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
上記化学式1で示される縮合反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法は、カフェ酸に2−フェネチルアルコール(2−PA)を加えて、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造するものである。この方法では、原料となるカフェ酸(桂皮酸類)が入手困難である場合が多く、工業的製造に適しているとはいえない。また、この方法では、生成した水が逆反応を触媒して収率が10%未満と低下するといった問題もある。
【0007】
一方、上記化学式2で示されるエステル交換反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法は、カフェオイルキナ酸(CQA)に2−フェネチルアルコール(2−PA)を加えて、2−カフェ酸フェネチルエステルおよびキナ酸(QA)を製造するものである。こちらのエステル交換反応を用いた方法では、水層と有機溶媒層の二相系を用いるのであるが、酵素反応は界面でしか進行しないため、エステル交換反応速度が遅いものの、収率は約50%と上記縮合反応を用いた場合よりも高いという利点がある。しかし、こちらの方法では、二層の界面でしか反応が進行しないこと、エステル交換反応の溶媒として有機溶媒を使用しており、反応後に有機溶媒の除去が必要となるため、製品の安全性という点ではやはり問題がある。
【0008】
そこで、発明者らは、上記の現状に鑑み、一相系で反応を行い、多様な基質と酵素を使用可能とすべく、下記化学式3,4で示されるように、カフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステルに2−フェネチルアルコール(2−PA)を加え、リパーゼ酵素を触媒として、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造することとした。
【0009】
【化3】
【0010】
【化4】
【0011】
上記化学式3で示されるカフェ酸ビニルエステルに2−フェネチルアルコール(2−PA)を加え、リパーゼ酵素を触媒として、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造する方法では、水の生成が無く、アセトンなどの有機溶媒層の一相系を用いて酵素合成が可能であり、カフェオイルキナ酸エステラーゼ(CQA esterase)や固定化CQA esteraseなど多様な酵素が使用できる。通常、酵素を各種固定化方法により固定化したものを使用することで、反応効率を高めることが可能となるのである。
しかし、上記化学式2で示される二相系を用いた酵素合成では、収率が10%未満(具体的には、カフェオイルキナ酸エステラーゼの場合で収率は0.2%、固定化CQA esteraseの場合でも収率は6%であり、効率的な工業的生産が困難な状況である。
【0012】
上述したように、酵素合成方法の具体例として、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を合成する場合について説明したが、いずれの方法においても、簡便、かつ安全に、高い収率で効率よく桂皮酸誘導体の製造を行えるといったものではない。
また、上述した酵素合成方法の他に、桂皮酸類とアルコール類を酸触媒存在下で反応させる方法(特許文献2)や、桂皮酸類とキナ酸又は糖類のエステルにアルコール水溶液中で酵素によるエステル交換反応を施すことにより桂皮酸エステル類を製造する方法(特許文献3)が知られている。しかし、これらの方法を用いた場合でも、高い収率で効率よく桂皮酸誘導体の製造を行えるものは見当たらない。
【0013】
一方で近年、環境に優しい溶媒としてイオン液体が注目されている。イオンのみから構成されるイオン液体は、一般の液体とは異なる特性を有し、不燃性・不揮発性の液体であり、高い熱安定性を備え、広い温度範囲で液状となるものも多い。このためイオン液体は、溶媒抽出や酵素反応の溶媒として広く研究されてきた。
イオン液体はカチオンとアニオンの組み合わせによって物理化学的特性が決定される。イオン液体の中ではイミダゾリウム塩が陽イオンとして一般的に利用されており、適当なアニオン(Br−,AlCl4−,BF4−,PF6−など)との組み合わせで構成され、組み合わせるアニオンにより性質が大きく変化する。
【0014】
例えば、イミダゾリウム環上の置換基が非対称の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩 [BMIM][PF6]は室温で液体であり、その液体状を示す温度範囲は融点−61℃,沸点300℃以上と極めて広い。また[BMIM][PF6]は、水にもエーテルにも不溶性であるといった溶解特性を有する。
しかしながら、酵素反応には最適温度や至適pHがあり、高濃度の塩の水溶液中ではタンパク質の変性を伴うことが指摘されている。かかる状況下、塩そのものであるイオン液体を酵素合成反応の溶媒として使おうという発想は、一般的には受け入れ難いものである。かかる常識に反して、酵素反応溶液中にイオン液体を添加することで、添加された酵素溶液は、高い安定性,反応性,選択性を有することが知られている(特許文献4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
実施例1は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例1の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mg
および2−フェネチルアルコール(2−PA)251mM・30μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。
【0030】
図1に、実施例1のエステル交換反応による2−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC;High Performance Liquid Chromatography) の結果を示す。HPLCの結果は、72時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図1の結果から、72時間後は基質のカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと生成物の2−CAPEの成分ピークの2つのピークが観察されているが、副産物の生成は確認されず、最終変換率は90%以上であった。
【実施例2】
【0031】
実施例2は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例2の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)44mM・20mgおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)100.3mM・30μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−CI)10mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、320rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析および核磁気共鳴(NMR)分析を行った。
実施例2の化学反応式を下記化学式5に、実施例2の操作フローを図2に示す。
【0032】
【化5】
【0033】
図3に、実施例2のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、0時間後と24時間後と72時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図3のHPLCの結果によれば、反応開始後すぐ(0時間後)ではカフェ酸ビニルエステルの成分ピークのみが現れており、24時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと新規成分のピークの2つのピークが観察され、72時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークが消失し、新規成分のピークのみが観察されている。72時間後の抽出液を精製したものの成分ピークは、図4に示されるNMR分析から3−CAPEと同定した。以上のことから、3−CAPEを酵素合成できたことがわかる。
【0034】
次に、カフェ酸ビニルエステルおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)を、下記化学式6〜化学式9に示される粘度や親水性/疎水性などの特質が異なる4種類のイオン液体を用いて、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した結果を示す。酵素は、固定化リパーゼ酵素(PS−CII)を用いている。また下記表1は、上記4種類のイオン液体の特質をまとめたものである。
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【表1】
【0040】
図5の操作手順フローを参照しながら、カフェ酸ビニルエステルおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)を、上記表1に示される4種類の各イオン液体を用いて、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成する操作手順を説明する。
カフェ酸ビニルエステル48.5mM・10mgおよび3−フェネチルアルコール(3−PA)221mM・30μLを、上記表1に示される4種類の各イオン液体1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−CII)5.8mgと共に60℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、160rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。なお、3−CAPE抽出に必要な回数は、イオン液体の種類によって異なり、結果は下記表2の通りとなった。
【0041】
【表2】
【0042】
図6は、上記表1に示される4種類のイオン液体をそれぞれ用いた場合における、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成量について、経時変化をグラフにしたものである。図6から、3−CAPEは疎水性イオン液体である[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6] を用いた場合が多量に酵素合成されていることが確認できる。
また、反応72時間後の3−CAPEの変換率は、[BMIM][NTf2] が最も高く79%で、次いで、[BMIM][PF6] の76%であった。
【0043】
これらの[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、3−CAPEの抽出の回数も3回と少なく(上記表2参照)、好適な反応溶媒として機能していることがわかる。3回抽出するとほぼ全量回収できるのである。[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、いずれも疎水性イオン液体である。また、他のイオン液体は親水性イオン液体である。
【0044】
従って、疎水性イオン液体がエステル交換反応の変換率が極めて高い好適な反応媒体として用いることができることがわかる。
すなわち、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)および3−フェニルプロパノール(3−PA)を、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、概ね97%以上の高い収率で、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成できるのである。
【実施例3】
【0045】
実施例3は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例3の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)44mM・20mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)326mM・100μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)21mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、180rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析およびNMR分析を行った。
実施例3の化学反応式を下記化学式10に、実施例3の操作フローを図7に示す。
【0046】
【化10】
【0047】
図8に、実施例3のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、0時間後と24時間後と96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図8のHPLCの結果によれば、反応開始後すぐ(0時間後)ではカフェ酸ビニルエステルの成分ピークのみが現れており、24時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと新規成分のピークの2つのピークが観察され、96時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークが消失し、新規成分のピークのみが観察されている。96時間後の抽出液を精製したものの成分ピークは、図9に示されるNMR分析から2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)と同定した。以上のことから、2−Cyclohexyl caffeateを酵素合成できたことがわかる。
【0048】
次に、カフェ酸ビニルエステルおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を、上述の化学式5〜化学式8および下記化学式10に示される粘度や親水性/疎水性などの特質が異なる5種類のイオン液体を用いて、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した結果を示す。酵素は、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)を用いている。また下記表3は、化学式11のイオン液体の特質をまとめたものである。
【0049】
【化11】
【0050】
【表3】
【0051】
図10の操作手順フローを参照しながら、カフェ酸ビニルエステルおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)から、5種類のイオン液体を用いて、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成する操作手順を説明する。
カフェ酸ビニルエステル48.5mM・10mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)358.8mM・50μLを、4種類のイオン液体それぞれ1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)5.8mg(=15000Unit;但し、1Unitは1分間に1μmolの2−Phenethyl
acetateを生成するのに必要な酵素量と定義する。)と共に60℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、1500rpmで攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
【0052】
図11は、4種類のイオン液体をそれぞれ用いた場合における、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成量について、経時変化をグラフにしたものである。図11から、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)は疎水性イオン液体である[BMIN][NTf2] と[BMIM][PF6] を用いた場合が多量に酵素合成されていることが確認できる。
また、反応72時間後の2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の変換率は、最も反応が進んだ[BMIM][NTF2] が70%であった。[BMIM][PF6]は、反応48時間後から急速に反応が進行し、反応72時間後に変換率40%に達した。なお、[TDPS][CI]は、反応がまったく進まなかった。反応が進まなかったのは、粘度が高すぎたことが要因と推定される。
【0053】
これらの[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の抽出の回数も5回と少なく、好適な反応溶媒として機能していることがわかる。5回抽出するとほぼ全量回収できるのである。[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、いずれも疎水性イオン液体である。また、他のイオン液体は親水性イオン液体である。
【0054】
従って、疎水性イオン液体がエステル交換反応の変換率が極めて高い好適な反応媒体として用いることができることがわかる。
すなわち、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)および2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、反応72時間後で70%以上の高い収率で、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成できるのである。
【実施例4】
【0055】
実施例4は、イオン液体中でのエステル交換反応による4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例4の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mgおよびカフェオイルキナ酸(CQA)19.8mM・7mgを基質として、後述する11種類のイオン液体1.0mL中に添加し、5種類の中から選択されたリパーゼ酵素Novozyme435と共に60℃前後でインキュベートし、エステル交換反応を施して4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)の酵素合成を試みた。イオン液体と各酵素とのインキュベートは、2000rpm(小型恒温振とう培養機)で攪拌しながら98時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例4の化学反応式を下記化学式12に示す。
【0056】
【化12】
【0057】
上記化学式11の化学反応を、有機合成を用いて一段階で行うことは非常に困難である。上記化学反応をサツマイモの葉の酵素を使用して行うことは以前から研究されていたが、本実施例4は、この化学反応を微生物由来の酵素合成を用いて一段階で行うというものである。
【0058】
上述した実施例1〜実施例3の場合は、基質であるカフェ酸ビニルエステルとアルコール類は共に有機溶媒に溶けやすいといった性質であった。これに対して、本実施例4においては、基質であるカフェ酸ビニルエステルは有機溶媒に溶けやすいといった性質であるが、他方の基質のカフェオイルキナ酸(CQA)は水に溶けやすいといった性質である。この2つの基質の性質が相反することに起因するのであるが、上記化学反応では、特定のイオン液体および特定の酵素を用いた場合に、一相系で高い反応性を示すことが確認された。
なお、カフェオイルキナ酸(CQA)は、動物実験レベルではあるが、アルツハイマー病の治療や予防に効果があることが知られている。
【0059】
本反応には、Novozyme435が最適酵素であり、高い反応性を示した。
また、本実施例4で用いた11種類のイオン液体について、下記表5にまとめる。ここで、○は目的物であるDCQAのピーク近傍にピークが確認されたもので、△はカフェ酸のピーク近傍にピークが確認されたもので、×はピークの変化が反応前後で見られなかったものである。なお、カフェ酸のピーク近傍にピークが確認されたものは、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)が酵素あるいは化学的にカフェ酸(caffeic acid)に加水分解されたた可能性が高い。
また図12−1〜図12−3は、実験結果から3つのグルーピングを行い、11種類のイオン液体の化学式、性質を整理したものである。
なお、酵素反応に必要な物質は、基質と固定化された酵素、イオン液体だけで、アセトンなどの有機溶媒やポリエチレングリコール(PEG)の添加は行っていない。
【0060】
【表5】
【0061】
上記表5の結果から、基質にカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)とカフェオイルキナ酸(CQA)を、酵素にリパーゼ Novozyme435を用いて、13種類のイオン液体中で酵素合成を行ったところ、4種類のイオン液体反応液から、DCQA類と同じRetention Timeに新規ピークが出現することが確認できた。新規ピークが確認できた4種類のイオン液体は、3種類は疎水性、1種類が親水性イオン液体であった。
また、新規ピークが確認できた4種類のイオン液体は、図12のイオン液体の性質を参照すると、粘度の低いイオン液体が操作性、反応性で優れていたことが確認できる。
【0062】
図13は、上記表5に示した11種類のイオン液体の内、DCQAのピーク近傍にピークが確認されたN-Methyl-N-propylpyrrolidinum bis
(trifluorometansulfonyl) imideの反応液について、経時的(0時間後、48時間後、72時間後)にHPLC分析したものである。新規ピークはDCQA類と同じRetention Timeに出現していることが確認できる。
【0063】
ここで、本実施例4の酵素合成反応の基質として用いたカフェオイルキナ酸(CQA)は、下記化学式13で示されるように、5−CQAを使用している。5−CQAを基質に用いているので、酵素合成されたDCQAは、3,5−DCQA若しくは4,5−DCQAのどちらかである。
【0064】
【化13】
【0065】
図14に示されるように、反応液にコーヒー生豆抽出物から精製した標準3,5−DCQAと標準4,5−DCQAを加えてHPLC分析すると、新規ピークは4,5−DCQAと同じ位置にピークが重なって出現したことから、新規ピークは4,5−DCQAと示唆された。すなわち、新規ピークは、4,5−DCQAと混合するとピーク先端が割れず、ピークの高さが高くなったことから、新規ピークは4,5−DCQAである可能性が高いといえる。
【実施例5】
【0066】
実施例5は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例5の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)48.5mM・20mg
および2−フェネチルアルコール(2−PA)207mM・60μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら168時間実施した。
【実施例6】
【0067】
実施例6は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例6の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・97mgおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)300mM・41μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]960μL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)6.7mgと共に80℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃,200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例6の化学反応式を下記化学式14に、実施例6の操作フローを図15に示す。
【0068】
【化14】
【0069】
図16に、実施例6のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図16のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと3−CAPEのピークの2つのピークが観察されている。なお、3−CAPEの同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の3−CAPEの変換率は97%であった。また、生成量は48.5mMであった。
【実施例7】
【0070】
実施例7は、イオン液体中でのエステル交換反応による4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例7の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・9.7mgおよび4−フェニルプロパノール(4−PA)300mM・46.7μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]953μL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)13.4mgと共に80℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃で200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例7の化学反応式を下記化学式15に、実施例7の操作フローを図17に示す。
【0071】
【化15】
【0072】
図18に、実施例4のエステル交換反応による4−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図18のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと4−CAPEのピークの2つのピークが観察されている。なお、4−CAPEの同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の4−CAPEの変換率は97%であった。また、生成量は48.5mMであった。
【実施例8】
【0073】
実施例8は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例8の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)44mM・20mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)326mM・100μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)21mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、70℃,200rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例8の化学反応式を下記化学式16に、実施例8の操作フローを図19に示す。
【0074】
【化16】
【0075】
図20に、実施例8のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図20のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)のピークの2つのピークが観察されている。なお、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の変換率は98%であった。また、生成量は49mMであった。
【実施例9】
【0076】
実施例9は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例9の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・9.7mgおよび3−シクロヘキサンエタノール(3−Cyclohexaneethanol)400mM・61μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 0.939mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)26.8mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃,200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例9の化学反応式を下記化学式17に、実施例9の操作フローを図21に示す。
【0077】
【化17】
【0078】
図22に、実施例9のエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図22のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)のピークの2つのピークが観察されている。なお、3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の変換率は93.8%であった。また、生成量は46.9mMであった。
【実施例10】
【0079】
実施例10は、イオン液体中でのエステル交換反応によるシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例10の酵素合成は、図23の操作フロー図に示されるように、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mg
およびシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)233.4mM・30μLを、疎水性の4種類のイオン液体1mL中に添加し、4種類の固定化リパーゼ酵素25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施してシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
下記化学式18に、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成反応式を示す。
【0080】
【化18】
【0081】
また、図24に4種類のイオン液体と4種類の酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合におけるシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成量についてのグラフを示す。図24に示されるように、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)は、イオン液体[BMIM][NTf2]を添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−II)でインキュベートしたものが、変換率75%であり、最も効率よく変換されている。
【0082】
なお、反応で得られたものが、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)であることの確認は、HPLC分析および1H−NMR分析で行った。図25に反応液についてのHPLC分析の結果を示す。図25に示すように、反応させた直後(0時間後)は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)とシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)の2つの成分ピークが現れているが、反応後96時間後は、2つの成分以外の新規ピークの存在が確認できる。この新規ピークを1H−NMR分析した結果を図26に示す。図26の分析結果から、新規ピークは、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の成分ピークであることを同定した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、桂皮酸誘導体を簡便かつ安全に高い収率で酵素合成できる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1のエステル交換反応による2−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図2】実施例2の操作フロー図(1)
【図3】実施例2のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図4】3−CAPEと同定したNMR分析の結果を示す図
【図5】実施例2の操作フロー図(2)
【図6】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合における3−CAPEの酵素合成量についてのグラフ図
【図7】実施例3の操作フロー図(1)
【図8】実施例3のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステルの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図9】2−カフェ酸シクロヘキサエステルと同定したNMR分析の結果を示す図
【図10】実施例3の操作フロー図(2)
【図11】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合における2−カフェ酸シクロヘキサエステルの酵素合成量についてのグラフ図
【図12−1】DCQAと同じr.t.にピークが出現したイオン液体(4種類)
【図12−2】CAと同じr.t.にピークが出現したイオン液体(4種類)
【図12−3】新規ピークが出現しなかったイオン液体(3種類)
【図13】N-Methyl-N-propylpyrrolidinum bis(trifluorometansulfonyl) imideの反応液についてのHPLC分析の結果を示す図
【図14】標準3,5−DCQAと標準4,5−DCQAを加えて行ったHPLC分析の結果を示す図
【図15】実施例6の操作フロー図
【図16】実施例6のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図17】実施例7の操作フロー図
【図18】実施例7のエステル交換反応による4−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図19】実施例8の操作フロー図
【図20】実施例8のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図21】実施例9の操作フロー図
【図22】実施例9のエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図23】実施例10の操作フロー図
【図24】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合におけるシンナミルカフェエート(CICA)の酵素合成量についてのグラフ図
【図25】反応液についてのHPLC分析の結果を示す図
【図26】シンナミルカフェエート(CICA)と同定したNMR分析の結果を示す図
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な桂皮酸誘導体の酵素合成法に関し、詳しくはイオン液体中でのエステル交換反応により、桂皮酸誘導体の酵素合成を簡便に安全に収率よく行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
桂皮酸誘導体は、天然に広く存在し、例えば、桂皮酸誘導体として最も一般的なものとしてカフェ酸誘導体は、抗酸化剤として有用であるほか、強力なインシュリン分泌誘導能があることから、糖尿病治療薬などの医薬品としても有用な物質である。桂皮酸誘導体を得る方法としては、天然物からの抽出方法および化学的合成方法がある。
天然物からの抽出方法の場合、桂皮酸誘導体の天然物中の存在量が微量であることから工業的な生産は困難である。一方、酵素合成方法としては、縮合反応を用いた桂皮酸誘導体の合成法と、エステル交換反応を用いた桂皮酸誘導体の合成法(例えば、特許文献1を参照)が知られている。
【0003】
以下に酵素合成方法の具体例として、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を合成する場合について説明する。具体例として、縮合反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法の化学反応式を下記化学式1に示す。また、エステル交換反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法の化学反応式を下記化学式2に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
上記化学式1で示される縮合反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法は、カフェ酸に2−フェネチルアルコール(2−PA)を加えて、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造するものである。この方法では、原料となるカフェ酸(桂皮酸類)が入手困難である場合が多く、工業的製造に適しているとはいえない。また、この方法では、生成した水が逆反応を触媒して収率が10%未満と低下するといった問題もある。
【0007】
一方、上記化学式2で示されるエステル交換反応を用いた2−カフェ酸フェネチルエステルの酵素合成法は、カフェオイルキナ酸(CQA)に2−フェネチルアルコール(2−PA)を加えて、2−カフェ酸フェネチルエステルおよびキナ酸(QA)を製造するものである。こちらのエステル交換反応を用いた方法では、水層と有機溶媒層の二相系を用いるのであるが、酵素反応は界面でしか進行しないため、エステル交換反応速度が遅いものの、収率は約50%と上記縮合反応を用いた場合よりも高いという利点がある。しかし、こちらの方法では、二層の界面でしか反応が進行しないこと、エステル交換反応の溶媒として有機溶媒を使用しており、反応後に有機溶媒の除去が必要となるため、製品の安全性という点ではやはり問題がある。
【0008】
そこで、発明者らは、上記の現状に鑑み、一相系で反応を行い、多様な基質と酵素を使用可能とすべく、下記化学式3,4で示されるように、カフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステルに2−フェネチルアルコール(2−PA)を加え、リパーゼ酵素を触媒として、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造することとした。
【0009】
【化3】
【0010】
【化4】
【0011】
上記化学式3で示されるカフェ酸ビニルエステルに2−フェネチルアルコール(2−PA)を加え、リパーゼ酵素を触媒として、2−カフェ酸フェネチルエステルを製造する方法では、水の生成が無く、アセトンなどの有機溶媒層の一相系を用いて酵素合成が可能であり、カフェオイルキナ酸エステラーゼ(CQA esterase)や固定化CQA esteraseなど多様な酵素が使用できる。通常、酵素を各種固定化方法により固定化したものを使用することで、反応効率を高めることが可能となるのである。
しかし、上記化学式2で示される二相系を用いた酵素合成では、収率が10%未満(具体的には、カフェオイルキナ酸エステラーゼの場合で収率は0.2%、固定化CQA esteraseの場合でも収率は6%であり、効率的な工業的生産が困難な状況である。
【0012】
上述したように、酵素合成方法の具体例として、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を合成する場合について説明したが、いずれの方法においても、簡便、かつ安全に、高い収率で効率よく桂皮酸誘導体の製造を行えるといったものではない。
また、上述した酵素合成方法の他に、桂皮酸類とアルコール類を酸触媒存在下で反応させる方法(特許文献2)や、桂皮酸類とキナ酸又は糖類のエステルにアルコール水溶液中で酵素によるエステル交換反応を施すことにより桂皮酸エステル類を製造する方法(特許文献3)が知られている。しかし、これらの方法を用いた場合でも、高い収率で効率よく桂皮酸誘導体の製造を行えるものは見当たらない。
【0013】
一方で近年、環境に優しい溶媒としてイオン液体が注目されている。イオンのみから構成されるイオン液体は、一般の液体とは異なる特性を有し、不燃性・不揮発性の液体であり、高い熱安定性を備え、広い温度範囲で液状となるものも多い。このためイオン液体は、溶媒抽出や酵素反応の溶媒として広く研究されてきた。
イオン液体はカチオンとアニオンの組み合わせによって物理化学的特性が決定される。イオン液体の中ではイミダゾリウム塩が陽イオンとして一般的に利用されており、適当なアニオン(Br−,AlCl4−,BF4−,PF6−など)との組み合わせで構成され、組み合わせるアニオンにより性質が大きく変化する。
【0014】
例えば、イミダゾリウム環上の置換基が非対称の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩 [BMIM][PF6]は室温で液体であり、その液体状を示す温度範囲は融点−61℃,沸点300℃以上と極めて広い。また[BMIM][PF6]は、水にもエーテルにも不溶性であるといった溶解特性を有する。
しかしながら、酵素反応には最適温度や至適pHがあり、高濃度の塩の水溶液中ではタンパク質の変性を伴うことが指摘されている。かかる状況下、塩そのものであるイオン液体を酵素合成反応の溶媒として使おうという発想は、一般的には受け入れ難いものである。かかる常識に反して、酵素反応溶液中にイオン液体を添加することで、添加された酵素溶液は、高い安定性,反応性,選択性を有することが知られている(特許文献4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
実施例1は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例1の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mg
および2−フェネチルアルコール(2−PA)251mM・30μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。
【0030】
図1に、実施例1のエステル交換反応による2−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC;High Performance Liquid Chromatography) の結果を示す。HPLCの結果は、72時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図1の結果から、72時間後は基質のカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと生成物の2−CAPEの成分ピークの2つのピークが観察されているが、副産物の生成は確認されず、最終変換率は90%以上であった。
【実施例2】
【0031】
実施例2は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例2の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)44mM・20mgおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)100.3mM・30μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−CI)10mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、320rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析および核磁気共鳴(NMR)分析を行った。
実施例2の化学反応式を下記化学式5に、実施例2の操作フローを図2に示す。
【0032】
【化5】
【0033】
図3に、実施例2のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、0時間後と24時間後と72時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図3のHPLCの結果によれば、反応開始後すぐ(0時間後)ではカフェ酸ビニルエステルの成分ピークのみが現れており、24時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと新規成分のピークの2つのピークが観察され、72時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークが消失し、新規成分のピークのみが観察されている。72時間後の抽出液を精製したものの成分ピークは、図4に示されるNMR分析から3−CAPEと同定した。以上のことから、3−CAPEを酵素合成できたことがわかる。
【0034】
次に、カフェ酸ビニルエステルおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)を、下記化学式6〜化学式9に示される粘度や親水性/疎水性などの特質が異なる4種類のイオン液体を用いて、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した結果を示す。酵素は、固定化リパーゼ酵素(PS−CII)を用いている。また下記表1は、上記4種類のイオン液体の特質をまとめたものである。
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【表1】
【0040】
図5の操作手順フローを参照しながら、カフェ酸ビニルエステルおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)を、上記表1に示される4種類の各イオン液体を用いて、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成する操作手順を説明する。
カフェ酸ビニルエステル48.5mM・10mgおよび3−フェネチルアルコール(3−PA)221mM・30μLを、上記表1に示される4種類の各イオン液体1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−CII)5.8mgと共に60℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、160rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。なお、3−CAPE抽出に必要な回数は、イオン液体の種類によって異なり、結果は下記表2の通りとなった。
【0041】
【表2】
【0042】
図6は、上記表1に示される4種類のイオン液体をそれぞれ用いた場合における、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成量について、経時変化をグラフにしたものである。図6から、3−CAPEは疎水性イオン液体である[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6] を用いた場合が多量に酵素合成されていることが確認できる。
また、反応72時間後の3−CAPEの変換率は、[BMIM][NTf2] が最も高く79%で、次いで、[BMIM][PF6] の76%であった。
【0043】
これらの[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、3−CAPEの抽出の回数も3回と少なく(上記表2参照)、好適な反応溶媒として機能していることがわかる。3回抽出するとほぼ全量回収できるのである。[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、いずれも疎水性イオン液体である。また、他のイオン液体は親水性イオン液体である。
【0044】
従って、疎水性イオン液体がエステル交換反応の変換率が極めて高い好適な反応媒体として用いることができることがわかる。
すなわち、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)および3−フェニルプロパノール(3−PA)を、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、概ね97%以上の高い収率で、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成できるのである。
【実施例3】
【0045】
実施例3は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例3の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)44mM・20mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)326mM・100μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)21mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、180rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析およびNMR分析を行った。
実施例3の化学反応式を下記化学式10に、実施例3の操作フローを図7に示す。
【0046】
【化10】
【0047】
図8に、実施例3のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、0時間後と24時間後と96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング100μLの成分を調べたものである。図8のHPLCの結果によれば、反応開始後すぐ(0時間後)ではカフェ酸ビニルエステルの成分ピークのみが現れており、24時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークと新規成分のピークの2つのピークが観察され、96時間後はカフェ酸ビニルエステルの成分ピークが消失し、新規成分のピークのみが観察されている。96時間後の抽出液を精製したものの成分ピークは、図9に示されるNMR分析から2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)と同定した。以上のことから、2−Cyclohexyl caffeateを酵素合成できたことがわかる。
【0048】
次に、カフェ酸ビニルエステルおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を、上述の化学式5〜化学式8および下記化学式10に示される粘度や親水性/疎水性などの特質が異なる5種類のイオン液体を用いて、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した結果を示す。酵素は、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)を用いている。また下記表3は、化学式11のイオン液体の特質をまとめたものである。
【0049】
【化11】
【0050】
【表3】
【0051】
図10の操作手順フローを参照しながら、カフェ酸ビニルエステルおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)から、5種類のイオン液体を用いて、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成する操作手順を説明する。
カフェ酸ビニルエステル48.5mM・10mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)358.8mM・50μLを、4種類のイオン液体それぞれ1mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)5.8mg(=15000Unit;但し、1Unitは1分間に1μmolの2−Phenethyl
acetateを生成するのに必要な酵素量と定義する。)と共に60℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、1500rpmで攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
【0052】
図11は、4種類のイオン液体をそれぞれ用いた場合における、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成量について、経時変化をグラフにしたものである。図11から、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)は疎水性イオン液体である[BMIN][NTf2] と[BMIM][PF6] を用いた場合が多量に酵素合成されていることが確認できる。
また、反応72時間後の2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の変換率は、最も反応が進んだ[BMIM][NTF2] が70%であった。[BMIM][PF6]は、反応48時間後から急速に反応が進行し、反応72時間後に変換率40%に達した。なお、[TDPS][CI]は、反応がまったく進まなかった。反応が進まなかったのは、粘度が高すぎたことが要因と推定される。
【0053】
これらの[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の抽出の回数も5回と少なく、好適な反応溶媒として機能していることがわかる。5回抽出するとほぼ全量回収できるのである。[BMIM][NTf2] と[BMIM][PF6]は、いずれも疎水性イオン液体である。また、他のイオン液体は親水性イオン液体である。
【0054】
従って、疎水性イオン液体がエステル交換反応の変換率が極めて高い好適な反応媒体として用いることができることがわかる。
すなわち、カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)および2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、反応72時間後で70%以上の高い収率で、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成できるのである。
【実施例4】
【0055】
実施例4は、イオン液体中でのエステル交換反応による4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例4の酵素合成は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mgおよびカフェオイルキナ酸(CQA)19.8mM・7mgを基質として、後述する11種類のイオン液体1.0mL中に添加し、5種類の中から選択されたリパーゼ酵素Novozyme435と共に60℃前後でインキュベートし、エステル交換反応を施して4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)の酵素合成を試みた。イオン液体と各酵素とのインキュベートは、2000rpm(小型恒温振とう培養機)で攪拌しながら98時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例4の化学反応式を下記化学式12に示す。
【0056】
【化12】
【0057】
上記化学式11の化学反応を、有機合成を用いて一段階で行うことは非常に困難である。上記化学反応をサツマイモの葉の酵素を使用して行うことは以前から研究されていたが、本実施例4は、この化学反応を微生物由来の酵素合成を用いて一段階で行うというものである。
【0058】
上述した実施例1〜実施例3の場合は、基質であるカフェ酸ビニルエステルとアルコール類は共に有機溶媒に溶けやすいといった性質であった。これに対して、本実施例4においては、基質であるカフェ酸ビニルエステルは有機溶媒に溶けやすいといった性質であるが、他方の基質のカフェオイルキナ酸(CQA)は水に溶けやすいといった性質である。この2つの基質の性質が相反することに起因するのであるが、上記化学反応では、特定のイオン液体および特定の酵素を用いた場合に、一相系で高い反応性を示すことが確認された。
なお、カフェオイルキナ酸(CQA)は、動物実験レベルではあるが、アルツハイマー病の治療や予防に効果があることが知られている。
【0059】
本反応には、Novozyme435が最適酵素であり、高い反応性を示した。
また、本実施例4で用いた11種類のイオン液体について、下記表5にまとめる。ここで、○は目的物であるDCQAのピーク近傍にピークが確認されたもので、△はカフェ酸のピーク近傍にピークが確認されたもので、×はピークの変化が反応前後で見られなかったものである。なお、カフェ酸のピーク近傍にピークが確認されたものは、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)が酵素あるいは化学的にカフェ酸(caffeic acid)に加水分解されたた可能性が高い。
また図12−1〜図12−3は、実験結果から3つのグルーピングを行い、11種類のイオン液体の化学式、性質を整理したものである。
なお、酵素反応に必要な物質は、基質と固定化された酵素、イオン液体だけで、アセトンなどの有機溶媒やポリエチレングリコール(PEG)の添加は行っていない。
【0060】
【表5】
【0061】
上記表5の結果から、基質にカフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)とカフェオイルキナ酸(CQA)を、酵素にリパーゼ Novozyme435を用いて、13種類のイオン液体中で酵素合成を行ったところ、4種類のイオン液体反応液から、DCQA類と同じRetention Timeに新規ピークが出現することが確認できた。新規ピークが確認できた4種類のイオン液体は、3種類は疎水性、1種類が親水性イオン液体であった。
また、新規ピークが確認できた4種類のイオン液体は、図12のイオン液体の性質を参照すると、粘度の低いイオン液体が操作性、反応性で優れていたことが確認できる。
【0062】
図13は、上記表5に示した11種類のイオン液体の内、DCQAのピーク近傍にピークが確認されたN-Methyl-N-propylpyrrolidinum bis
(trifluorometansulfonyl) imideの反応液について、経時的(0時間後、48時間後、72時間後)にHPLC分析したものである。新規ピークはDCQA類と同じRetention Timeに出現していることが確認できる。
【0063】
ここで、本実施例4の酵素合成反応の基質として用いたカフェオイルキナ酸(CQA)は、下記化学式13で示されるように、5−CQAを使用している。5−CQAを基質に用いているので、酵素合成されたDCQAは、3,5−DCQA若しくは4,5−DCQAのどちらかである。
【0064】
【化13】
【0065】
図14に示されるように、反応液にコーヒー生豆抽出物から精製した標準3,5−DCQAと標準4,5−DCQAを加えてHPLC分析すると、新規ピークは4,5−DCQAと同じ位置にピークが重なって出現したことから、新規ピークは4,5−DCQAと示唆された。すなわち、新規ピークは、4,5−DCQAと混合するとピーク先端が割れず、ピークの高さが高くなったことから、新規ピークは4,5−DCQAである可能性が高いといえる。
【実施例5】
【0066】
実施例5は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例5の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)48.5mM・20mg
および2−フェネチルアルコール(2−PA)207mM・60μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら168時間実施した。
【実施例6】
【0067】
実施例6は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例6の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・97mgおよび3−フェニルプロパノール(3−PA)300mM・41μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]960μL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)6.7mgと共に80℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃,200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例6の化学反応式を下記化学式14に、実施例6の操作フローを図15に示す。
【0068】
【化14】
【0069】
図16に、実施例6のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図16のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと3−CAPEのピークの2つのピークが観察されている。なお、3−CAPEの同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の3−CAPEの変換率は97%であった。また、生成量は48.5mMであった。
【実施例7】
【0070】
実施例7は、イオン液体中でのエステル交換反応による4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例7の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・9.7mgおよび4−フェニルプロパノール(4−PA)300mM・46.7μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2]953μL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)13.4mgと共に80℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃で200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例7の化学反応式を下記化学式15に、実施例7の操作フローを図17に示す。
【0071】
【化15】
【0072】
図18に、実施例4のエステル交換反応による4−CAPEの酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図18のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと4−CAPEのピークの2つのピークが観察されている。なお、4−CAPEの同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の4−CAPEの変換率は97%であった。また、生成量は48.5mMであった。
【実施例8】
【0073】
実施例8は、イオン液体中でのエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例8の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)44mM・20mgおよび2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)326mM・100μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 2.2mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)21mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、70℃,200rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例8の化学反応式を下記化学式16に、実施例8の操作フローを図19に示す。
【0074】
【化16】
【0075】
図20に、実施例8のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図20のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)のピークの2つのピークが観察されている。なお、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の変換率は98%であった。また、生成量は49mMであった。
【実施例9】
【0076】
実施例9は、イオン液体中でのエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例9の酵素合成は、カフェ酸メチルエステル(Methyl caffeate)50mM・9.7mgおよび3−シクロヘキサンエタノール(3−Cyclohexaneethanol)400mM・61μLを、疎水性のイオン液体[BMIM][NTf2] 0.939mL中に添加し、固定化リパーゼ酵素(Novozyme435)26.8mgと共に55℃でインキュベートし、エステル交換反応を施して3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、80℃,200rpmで攪拌しながら96時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
実施例9の化学反応式を下記化学式17に、実施例9の操作フローを図21に示す。
【0077】
【化17】
【0078】
図22に、実施例9のエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関する高速液体クロマトグラフィー(HPLC) の結果を示す。HPLCの結果は、96時間後の経時的に採取した反応液のサンプリング15μLの成分を調べたものである。図22のHPLCの結果によれば、96時間後はカフェ酸メチルエステルの成分ピークと3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)のピークの2つのピークが観察されている。なお、3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の同定は実施例2と同様にNMR分析により特定した。反応96時間後の3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の変換率は93.8%であった。また、生成量は46.9mMであった。
【実施例10】
【0079】
実施例10は、イオン液体中でのエステル交換反応によるシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成法について具体的に数値データを示しながら説明する。
実施例10の酵素合成は、図23の操作フロー図に示されるように、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)48.5mM・10mg
およびシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)233.4mM・30μLを、疎水性の4種類のイオン液体1mL中に添加し、4種類の固定化リパーゼ酵素25mgと共に60℃ でインキュベートし、エステル交換反応を施してシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)を酵素合成した。イオン液体と固定化リパーゼ酵素とのインキュベートは、260rpm(magnetic stirrer)で攪拌しながら72時間実施した。この反応液から経時的に採取した反応液のサンプリングをヘキサン600μLと2−プロパノール300μLの混合液で抽出し、HPLC分析を行った。
下記化学式18に、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成反応式を示す。
【0080】
【化18】
【0081】
また、図24に4種類のイオン液体と4種類の酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合におけるシンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の酵素合成量についてのグラフを示す。図24に示されるように、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)は、イオン液体[BMIM][NTf2]を添加し、固定化リパーゼ酵素(PS−II)でインキュベートしたものが、変換率75%であり、最も効率よく変換されている。
【0082】
なお、反応で得られたものが、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)であることの確認は、HPLC分析および1H−NMR分析で行った。図25に反応液についてのHPLC分析の結果を示す。図25に示すように、反応させた直後(0時間後)は、カフェ酸ビニルエステル(Vinyl caffeate)とシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)の2つの成分ピークが現れているが、反応後96時間後は、2つの成分以外の新規ピークの存在が確認できる。この新規ピークを1H−NMR分析した結果を図26に示す。図26の分析結果から、新規ピークは、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)の成分ピークであることを同定した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、桂皮酸誘導体を簡便かつ安全に高い収率で酵素合成できる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1のエステル交換反応による2−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図2】実施例2の操作フロー図(1)
【図3】実施例2のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図4】3−CAPEと同定したNMR分析の結果を示す図
【図5】実施例2の操作フロー図(2)
【図6】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合における3−CAPEの酵素合成量についてのグラフ図
【図7】実施例3の操作フロー図(1)
【図8】実施例3のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステルの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図9】2−カフェ酸シクロヘキサエステルと同定したNMR分析の結果を示す図
【図10】実施例3の操作フロー図(2)
【図11】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合における2−カフェ酸シクロヘキサエステルの酵素合成量についてのグラフ図
【図12−1】DCQAと同じr.t.にピークが出現したイオン液体(4種類)
【図12−2】CAと同じr.t.にピークが出現したイオン液体(4種類)
【図12−3】新規ピークが出現しなかったイオン液体(3種類)
【図13】N-Methyl-N-propylpyrrolidinum bis(trifluorometansulfonyl) imideの反応液についてのHPLC分析の結果を示す図
【図14】標準3,5−DCQAと標準4,5−DCQAを加えて行ったHPLC分析の結果を示す図
【図15】実施例6の操作フロー図
【図16】実施例6のエステル交換反応による3−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図17】実施例7の操作フロー図
【図18】実施例7のエステル交換反応による4−CAPEの酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図19】実施例8の操作フロー図
【図20】実施例8のエステル交換反応による2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図21】実施例9の操作フロー図
【図22】実施例9のエステル交換反応による3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)の酵素合成に関するHPLC分析の結果を示す図
【図23】実施例10の操作フロー図
【図24】4種類のイオン液体と酵素をそれぞれ用いて72h反応させた場合におけるシンナミルカフェエート(CICA)の酵素合成量についてのグラフ図
【図25】反応液についてのHPLC分析の結果を示す図
【図26】シンナミルカフェエート(CICA)と同定したNMR分析の結果を示す図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桂皮酸類とアルコール類とのエステル交換反応において、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基若しくはアルキル基にエステル交換したものを基質としてイオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施すことを特徴とする桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項2】
前記イオン液体は、疎水性のものであることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項3】
前記イオン液体は、粘度が2000cP以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項4】
前記酵素は、リパーゼ類であることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項5】
前記リパーゼ類は、Novozyme435とPS−CIIであることを特徴とする請求項4に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項6】
前記桂皮酸類は、桂皮酸、カフェ酸、ヒドロキシ桂皮酸、フェルラ酸、ヘスペリチン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、およびシナピン酸の群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項7】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、および2−フェネチルアルコール(2−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略90%以上の高い収率で、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項8】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および3−フェネチルアルコール(3−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項9】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および4−フェネチルアルコール(4−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項10】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項11】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および3−シクロヘキサンエタノール(3−Cyclohexaneethanol)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項12】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、およびカフェオイルキナ酸(CQA)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項13】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、およびシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項14】
前記イオン液体は、疎水性のイミダゾリウム系および脂肪族であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項15】
前記イオン液体は、粘度が2000cP以下であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項16】
前記イオン液体におけるアニオンは、[(CF3SO2)2N]−または[CF3SO3]−であることを特徴とする請求項12に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項17】
前記固定化リパーゼは、Novozyme435とPS−CIIであることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項1】
桂皮酸類とアルコール類とのエステル交換反応において、桂皮酸類のカルボキシ基をビニル基若しくはアルキル基にエステル交換したものを基質としてイオン液体中で酵素によるエステル交換反応を施すことを特徴とする桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項2】
前記イオン液体は、疎水性のものであることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項3】
前記イオン液体は、粘度が2000cP以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項4】
前記酵素は、リパーゼ類であることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項5】
前記リパーゼ類は、Novozyme435とPS−CIIであることを特徴とする請求項4に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項6】
前記桂皮酸類は、桂皮酸、カフェ酸、ヒドロキシ桂皮酸、フェルラ酸、ヘスペリチン酸、3,4−ジヒドロキシフェニルプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、およびシナピン酸の群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項7】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、および2−フェネチルアルコール(2−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略90%以上の高い収率で、2−カフェ酸フェネチルエステル(2−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項8】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および3−フェネチルアルコール(3−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、3−カフェ酸フェネチルエステル(3−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項9】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および4−フェネチルアルコール(4−PA)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、4−カフェ酸フェネチルエステル(4−CAPE)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項10】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および2−シクロヘキサンエタノール(2−Cyclohexaneethanol)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、2−カフェ酸シクロヘキサエステル(2−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項11】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはアルキルエステル(アルキル鎖長1〜4)に変換したカフェ酸アルキルエステル、および3−シクロヘキサンエタノール(3−Cyclohexaneethanol)を基質として、疎水性イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、略80%以上の高い収率で、3−カフェ酸シクロヘキサエステル(3−Cyclohexyl caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項12】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、およびカフェオイルキナ酸(CQA)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、4,5−ジカフェオイルキナ酸(DCQA;4,5−Dicaffeoyl Quinic acid)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項13】
カフェ酸のカルボキシ基をビニル基にエステル交換したカフェ酸ビニルエステル若しくはカフェ酸のカルボキシ基をアルキル基(アルキル鎖長1〜4)にエステル交換したカフェ酸アルキルエステル、およびシンナミルアルコール(Cinnamyl alcohol)を基質として、イオン液体中で固定化リパーゼによるエステル交換反応を施すことで、シンナミルカフェエート(CICA:Cinnamyl Caffeate)を酵素合成し得ることを特徴とする請求項1に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項14】
前記イオン液体は、疎水性のイミダゾリウム系および脂肪族であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項15】
前記イオン液体は、粘度が2000cP以下であることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項16】
前記イオン液体におけるアニオンは、[(CF3SO2)2N]−または[CF3SO3]−であることを特徴とする請求項12に記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【請求項17】
前記固定化リパーゼは、Novozyme435とPS−CIIであることを特徴とする請求項7乃至13のいずれかに記載の桂皮酸誘導体の酵素合成法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2009−207492(P2009−207492A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25585(P2009−25585)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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