説明

椅子の肘掛け装置

【課題】見た目が良くて肘当てカバーの捲れ防止機能に優れ、しかも肘支持部の強度も高い肘掛け装置を提供する。
【手段】肘当て本体3はアルミダイカスト等の成形品であり、前後に長い肘支持部5を有する。肘支持部5に樹脂製の肘当てカバー4が固定されている。肘支持部5は上面11と内側面9と傾斜した外側面10とを有している一方、肘当てカバー4は上板13と側板14とを有する。肘当てカバー4に下向き突設した位置決めボス体17が肘支持部5の位置決め穴18に嵌まっている。肘当てカバー4の捲れに対して位置決めボス体17が抵抗として作用するため、捲れ防止機能が高い。肘支持部5の露出面と肘当てカバー4との境界がシャープに表れるため、見た目もよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は椅子の肘掛け装置に関するもので、特に、可動式でない固定式の肘掛け装置を好適な対象にしている。なお、本願発明の椅子にはベンチやソファーも含まれる。また、車両のシートも含まれる。
【背景技術】
【0002】
椅子の肘掛け装置の一態様として、肘当て本体に肘当てカバー(肘当てパッド)を取付たものがある。このように肘当て本体と肘当てカバーとを分離しているのは、主として、肘当て本体に強度を保持せしめる一方、肘当てカバーには当たりの柔らかさを保持せしめるためである。すなわち、肘掛け装置としての機能を複数の部材に分担させているのである。肘当てカバーは単なる樹脂製の場合もあるし、外面にエラストマー等のクッション材を設けることもある。クッション材は肘当てカバーに一体成形する場合と、シート状の材料を裁断して使用する場合とがあり、いずれにしても,クロスやレザー等の表皮材で覆われていることが多い。
【0003】
この種の肘掛け装置の従来技術として、特許文献1,2にはいわゆるパイプ椅子に適用した例が開示されている。これら特許文献1,2では、肘当てカバーはその前端部が下向きに曲がっており、肘当て本体に下方から挿通したビスを肘当てカバーにねじ込んでいる。特許文献3,4にも、先端を下向きに曲げた肘当てカバーが開示されており、これら両公報では、肘当てカバーにおける下向きの前部に後ろ向きの位置決め突起を設け、この位置決め突起を肘当て本体に設けた穴に嵌め込むと共に、肘当てカバーの後部をビスで肘当て本体に固定している。
【0004】
また、特許文献5では、肘当て本体は正断面視で平たい形状に近くて外端部に上向きの壁を有する形態(横長L形)になっている一方、肘当てカバーは上板とその内端から下向きに延びる側板部とを有する逆L形になっており、肘当て本体と肘当てカバーとで中空構造体が構成された状態になっている。肘当てカバーを備えていない肘当て本体の断面形状として、特許文献6には逆三角形の形状が開示されており、特許文献7には、内外の側面を凹曲面となした逆凸形が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−74347号のCD−ROM
【特許文献2】特開平11−56524号公報
【特許文献3】実開平7−7550号のCD−ROM
【特許文献4】特開2003−159151号公報
【特許文献5】実開平5−1359号のCD−ROM
【特許文献6】意匠登録第1121813号公報
【特許文献7】意匠登録第1115849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、着座した人が肘掛け装置を掴むことがあり、肘当てカバーの内側部や外側部に指が掛かることにより、肘当てカバーの外側部又は内側部にこれを捲るような外力が作用することがある。例えば特許文献5の場合、肘当てカバーにおける上板の外端面が露出していると共に、肘当てカバーは肘当て本体にしっかりと重なっているとは言い難く安定性が低いため、何等の対策を講じなければ、肘当てカバーの外端部が上向きに捲れやすくなると推測される。
【0007】
この点に対しては、特許文献1,2のように肘当てカバーを正断面コ字形に形成して、肘当てカバーで肘当て本体をすっぽり覆う形態にすることが考えられるが、この構成では肘当て本体が隠れ過ぎるため、例えば肘当て本体の外側面を露出させて肘当てカバーとの境目をシャープに見せたいというデザイン的な要請に応え難いという問題がある。
【0008】
また、肘当てカバーにシート状のクッション材を重ね配置して表皮材で覆う場合、肘当てカバーの外周縁の部分でクッション材が潰されるが、潰れ方にムラが生じて表皮材に凹凸が発生することがあり、このため美観を損なう可能性もあった。
【0009】
さて、例えば特許文献3の肘掛け装置は、肘当てカバーの後端又は前部に位置決め突起を設けているため、肘当てカバーを1本のビスで肘当て本体にしっかり固定できる利点がある。他方、特許文献6のように肘当て本体の前端又は後端が自由端になっているタイプがあり、この場合、肘当てカバーを肘当て本体のうち自由端と反対側の部位で位置決めし、肘当てカバーをその弾性に抗して若干変形させることで肘当てカバーの端部を肘当て本体の自由端にきっちり重ね、その肘当てカバーを肘当て本体の自由端寄りの部位にビス止めすると、1本のビスでの締結でありながら肘当てカバーの安定性を向上できると共に美観もアップできると言える。しかし、肘当てカバーが捲れにくいように頑丈な構造にすると、肘当てカバーの端部を肘当て本体の自由端に重ねにくくなり、このため、肘当てカバーの取付け又は取り外しの作業が面倒になる可能性がある。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は着座した人が肘を載せ得る肘掛け装置に関し、各請求項の構成を含んでいる。このうち請求項1の発明は、前後方向に長い肘支持部を有する肘当て本体と、前記肘当て本体に取付けた樹脂製の肘当てカバーとを有しており、前記肘当て本体の外周のうち座に近い内側面は基本的に略鉛直状態になっていて座と反対側の外側面は下に行くに従って前記内側面に近づくように傾斜又は湾曲している一方、前記肘当てカバーは、前記肘当て本体の上面に重なる上板と前記肘当て本体の内側面に重なる側板とを有していて断面逆L字状になっている。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、前記肘当てカバーにおける上板の下面には下向きに突出した複数の位置決めボス体が前後方向に間隔を空けた状態で突設されている一方、前記肘当て本体の肘支持部には、前記肘当てカバーの位置決めボス体が左右動不能に嵌入する位置決め穴を設けている。請求項3の発明は、請求項1において、前記肘当て本体はアルミ又は軽合金の成形品である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、前記肘当てカバーにおける上板の下面のうち前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側に下向きリブを設けてこれを肘当て本体に当接させるか、又は、前記肘当て本体の上面のうち前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側に上向きリブを設けてこれを肘当てカバーに下方から当接させるか、若しくは、前記肘当てカバーにおける上板の下面と前記肘当て本体の上面とに、前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側において互いに当接するリブを突設している。
【0014】
請求項5の発明は、請求項2〜4のうちの何れかにおいて、前記肘当てカバーにおける上板の前後端部のうち一端部には、側面視鉤状のエンド係合爪が下向きに突設されている一方、前記肘当て本体における肘支持部の一端部には、前記肘当てカバーを重ねてから他端部に向けてずらすことで前記エンド係合爪が引っ掛かり係合する爪受け穴を上向きに開口させている一方、前記肘当てカバーの側板と肘支持部の内側面とに、前記肘当てカバーの側板を上向き動し難くするサイド係合手段が形成されており、前記エンド係合爪を爪受け穴に係合させた状態で肘当てカバーを下向きに押し込むと、前記肘当てカバーの側板と肘支持部の内側面とに設けた係合手段が互いに係合するように設定されており、かつ、前記肘当てカバーのうち前記エンド係合爪と反対側の端部に、前記肘本体に下方から挿通したビスがねじ込まれている。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5において、前記肘当てカバーのうち前記エンド係合爪と反対側の他端は前記肘当て本体の他端にきっちり嵌まっており、前記肘当てカバーのうち他端部でかつ前記ビスを挟んで一端側にずれた部位に、当該肘当てカバーの他端部を上向きに起こすことを容易ならしめる屈曲部が形成されており、前記肘当てカバーを肘当て本体から取り外すにおいては、前記ビスによる締結を解除してから他端部を起こせば肘当てカバーの全体を前記エンド係合爪の方向に容易にスライドさせ得るように設定されていると共に、前記位置決め穴は前記位置決めボスが前後方向にスライドすることを許容するため長穴になっている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では、肘当てカバーは上板と側板とを有していてL形になっており、側板が肘当て本体の内側面に重なっているため、肘当てカバーをその内側から(座の側から)起こそうとする外力に対しては側板が抵抗になって強い強度が発揮されると共に、肘当てカバーにその上板の外縁を上向きに起こすような外力が作用すると、側板が肘当て本体の内側面に押圧されることで(突っ張ることで)肘当てカバーは変形し難くなっており、このため、めくれ防止機能が高い。
【0017】
また、肘当て本体の外側面は傾斜又は湾曲しているため、肘当て本体の正断面形状は直角三角形に近い形状になっており、このため、上からの荷重に対して高い断面係数を有しており、肉厚を過度に厚くしなくても(換言すると、材料をできるだけ節約しつつ)高い強度を確保できる。
【0018】
また、肘当て本体の外側面は露出しているため、人は肘当てカバーとの境界をクリアーに視認できることになり、座の外側から肘掛け装置を見た状態で肘当てカバーは厚ぼったく見えず、このためデザイン的にスッキリとした状態になっている。更に、肘当て本体の外側面は傾斜又は湾曲しているため、人が座の外側から見下ろす状態では肘支持部は細いライン状に見えることになり、このため、肘当て本体の内側面も肘当てカバーで覆って着座した人の手の当たりをソフトにした肘掛け装置でありながら、肘掛け装置の肘支持部は厚ぼったくは見えず、全体としてシャープな外観を呈する。この点も本願発明の利点である。
【0019】
更に、肘当て本体における肘支持部の内側面は肘当てカバーの側板で覆われているため、軽量化等のための凹所を肘支持部の内側面に開口させても、凹所は肘当てカバーの側板で隠れていて人は視認できない。このため、軽量化等のための凹所や穴を、美観を損なわずに形成できる。
【0020】
請求項2の構成を採用すると、肘当てカバーに外側から又は内側から捲り上げようとする外力が作用しても、位置決めボス体と位置決め穴とが嵌まり合っていることで肘当てカバーの上板の変形が阻止されるため、捲れ防止機能がより一層高くなる。
【0021】
肘当て本体の材料は樹脂やスチール製も採用できるが、請求項3のようにアルミ又は軽金属の成形品を使用すると、白や銀色系の金属色によるアクセント効果を発揮させて見栄えを向上させ得る。この場合、肘当て本体をバフ等で鏡面仕上げすると見栄えを一層向上させ得るが、肘当て本体における肘支持部の上板と側板とは肘当てカバーで覆われているため、鏡面仕上げせねばならない面積をできるだけ少なくしてそれだけコストダウンできる利点がある。
【0022】
請求項4の構成を採用すると、肘当てカバーを上向きに捲ろうとするとリブが突っ張ることで捲れが阻止されるため、肘当てカバーを過度に厚くすることなく捲れをより的確に防止できる利点がある。
【0023】
請求項5の構成を採用すると、エンド係合爪が爪受け部に引っ掛かった状態で肘当てカバーの他端は肘支持部の他端面に重なっているため、肘当てカバーは前後動不能にしっかりと保持されてる。また、肘支持部の他端面は露出しないため美観にも優れている。更に、肘当て肘支持部の爪受け穴は上向きに開口しているため、肘当てカバーの一端部は下向きに大きく曲がっている必要はない。このため適用範囲が広くて汎用性に優れている。
【0024】
また、肘当てカバーの側板はサイド係合手段によって上向き動し難い状態に保持されているため、肘当てカバーを内側から起こすような外力に対する強度も格段にアップする。更に、肘当てカバーは、エンド係合爪を肘支持部の爪受け穴に嵌め入れから下向きに押し込んでビス止めするという簡単な作業で肘当て本体に取り付けられる。このため取り付けの作業性がよい。
【0025】
請求項5の場合、肘当てカバーの他端部は弾性に抗しての押し込みで肘支持部の他端面に嵌め込まれるが、肘当てカバーの剛性を高くすると、取り外しに際して係合爪に力が掛かって係合爪が破損する可能性がないとも言えない。この点、請求項6のように構成すると、ビスによる締結を解除してから肘当てカバーの他端部を上向きに起こすことにより、肘当てカバーの全体をその一端部の側にスライドさせて簡単に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)は椅子の右側面図、(B)は左腕用の肘掛け装置を内側上方から見た側面図である。
【図2】(A)は分解斜視図、(B)は肘支持部の前端部の斜視図、(C)は肘当て本体を内側から見た斜視図、(D)は肘当て本体の側面図である。
【図3】肘掛け装置の正断面図で、(A)は肘掛け装置を図2(C)のIIIA-IIIA 視方向から見た断面図(肘当てカバーを手前にずらした状態である)、(B)は肘掛け装置を図2(C)のIIIB-IIIB 視方向から見た断面図、(C)は肘掛け装置を図2(C)のIIIC-IIIC 視方向から見た断面図である。
【図4】縦断側断面図である。
【図5】(A)は肘支持部を下方から見た分離斜視図、(B)はサイド係合爪の箇所の正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の肘掛け装置1は図1(A)に示すようにオフィス用等の回転椅子に適用しており、ベース2に取り付けられている。もとより、肘掛け装置1をどこに取り付けるかの限定はなく、座に取り付けたり、背もたれが取り付く傾動式フレームに取り付けたり、背もたれに取り付けたりすることもできる。ベンチのように支持フレーム材に座や背もたれを固定している椅子の場合は、肘掛け装置は支持フレーム材に取り付けることになろう。
【0028】
肘掛け装置1は、ベース2に固定される肘当て本体3と、肘当て本体3の上面に固定された肘当てカバー4とを有している。肘当て本体3は、前後に長い肘支持部5とその前端(一端)から下向きに延びる支柱6とを有しており、支柱6の下端を座7の下方に延びる内向き部6aと成し、内向き部6aの先端をベース2にビス(ボルト)8で固定している。肘当て本体3はアルミダイカスト品であり、人目に触れる部分はバフ等で鏡面仕上げしている。
【0029】
肘当て本体2における肘支持部5の後端(他端)は自由端になっている。また、図4から明瞭に理解できるように、肘支持部5の上面は側面視で上向き凸状に緩く湾曲しており、更に、肘支持部5は平面視では若干ながら先端に向けて細くなっている。また、図3の各分図に示すように、肘支持部5は、座7の側に向いた内側面9は、穴が空いてはいるものの基本的には鉛直姿勢になっている。他方、肘支持部5の外側面10は、下に行くに従って内側面9に近づくように傾斜している。肘支持部5の上面11は基本的には平坦に近い形態になっている。従って、肘支持部5の正断面形状は直角三角形に近い形状になっている。
【0030】
肘支持部5における外側面10の傾斜の程度は、水平に対して30度より小さい角度になっている。また、内側面9の上下高さ寸法に対する上面11の左右幅寸法の比は概ね2倍前後になっている(肘支持部5は側面視で先細になっているため、内側面9の高さに対する上面11の幅寸法の比率は、支柱6との付け根部位から先端(後端)に向かって徐々に小さくなっている。)。なお、支柱6は肘支持部5を曲げた状態になっているため、支柱6の平断面形状も直角三角形に近い形状になっている。
【0031】
肘当てカバー4はPP等の樹脂より成る成形品であり、肘支持部5の上面11に重なる上板13と、肘支持部5の内側面9に重なる側板14とを有しており、断面逆L形になっている。図4に明示するように、上板13の前端部は肘支持部の前端の曲面に重なるフロント係合部13aになっており、上板13の前端部は肘支持部の前端面(他端面)に重なるリア係合部13bになっている。
【0032】
図2,3に示すように、肘支持部5の上面11のうち前端寄りの若干の範囲を除いた部位には平面視長方形の上向きリブ15が形成されている一方、肘当てカバー4における上板13の下面には、上向きリブ15に上から当接する下向きリブ16が形成されている。肘当てカバー4における上板13の外端縁13cは、肘支持部5の上面11の外端に当接している。
【0033】
つまり、肘当てカバー4における上板13の外端縁13cを下向きにカールさせたこととで、上板13と肘支持部5との間には隙間(空間)が空くが、上下のリブ15,16を設けて互いに当接させることにより、肘当てカバー4を肘支持部5で安定良く支持している。なお、上向きリブ15の厚さを下向きリブ16の厚さより小さい寸法に設定しているが、同じ程度に設定したり逆の関係に設定したりすることも可能である。また、リブ15,16は飛び飛びの状態に形成することも可能である。
【0034】
肘当てカバー4のリブ16は、肘当てカバー4を曲がり変形し難くする補強効果も有する。この補強効果の点については、本実施形態のように平面視四角形のループ状に形成するとより一層好適である。
【0035】
肘当てカバー4における上板13のうち前後中間部を挟んだ前後2カ所の部位に、円筒状の位置決めボス体17を下向き突設している一方、肘支持部5の上面11には、肘当てカバー5の位置決めボス体17が左右ずれ不能に嵌入する位置決め穴18を空けている。位置決め穴18と前後方向に長い長穴になっており、肘当てカバー4を装着した状態では、位置決めボス体17は位置決め穴18の後端部に位置している。位置決めボス体17は、概ね肘当てカバー4を3等分する位置に設けている。
【0036】
肘当てカバー4における上板13のうち前端寄り部位には、下端部に前向き爪19aを有する側面視鉤形のエンド係合爪19が下向きに突設されている。他方、肘当て本体3の肘支持部5には、エンド係合爪19が嵌まり込む爪受け穴20を上向きに開口させており、爪受け穴20に、エンド係合爪19の前向き爪19aが下方から引っ掛かる爪受け部20aを設けている。爪受け穴20は前後に長い長穴になっており、このため、爪受け穴20へのエンド係合爪19の抜き差しの容易性を損なうことなく、前向き爪19aの突出長さを長くして爪受け部20aにしっかりと引掛かけることができる。
【0037】
肘当て本体4をダイカストで製造するに当たっては、椅子に取り付けた姿勢を基準にすると、上下方向に相対動するメイン金型を使用する。しかし、単に上下方向に密着・離反するメイン金型のみでは、爪受け部20aを有する爪受け穴20を加工できない(型抜きをできない。)。そこで、爪受け部20aを形成するため、左右方向に移動するスライド型が使用されており、このスライド型を使用したことにより、肘当て本体4には、爪受け穴20のうち爪受け部20aより下方の部位に連通して内側面9に開口する補助横穴21が形成されている。補助横穴21は軽量化の役割も果たしている。
【0038】
肘当てカバー4における上板13の後端部には、筒状の締結用ボス体22が下向き突設されている一方、肘当て本体3の肘支持部5には、締結用ボス体22が嵌まり込む上フロント凹所23を設けており、上フロント凹所23を設けた部位に上下開口のビス穴24を設け、ビス穴24に挿通したビス25を締結用ボス体22にねじ込んでいる。
【0039】
係合爪19が爪受け部20aに手前から当たった状態で、肘当てカバー4における上板13のフロント係合部13bは弾性に抗しての変形によって肘支持部5の後端にきっちり嵌まっており、この状態でビス25が締結用ボス体22にねじ込まれている。このため、肘当てカバー4は前後動不能に保持されている。上フロント凹所23は締結用ボス体22が嵌まる溝幅で前後に長い長穴になっている。また、上フロント凹所23のうち後半部は後ろに向けて深さが浅くなる傾斜面23aになっている。肘支持部5の前部下面のうちビス穴23の周囲の部位には、ビス25の頭を隠すための下フロント凹所23′を形成している。
【0040】
図2(A)に示すように、肘当てカバー4における上板13の下面のうち、前後位置決めボス体17の間の部位と、手前の位置決めボス体17とエンド係合爪19との間の部位には円筒部26を下向きに突設している。他方、肘支持部5の上面11には、円筒部26に対向した丸穴27を設けている。円筒部26と肘支持部5との間には間隔(隙間)が空いている。
【0041】
図2(A),図4に示すように、肘当てカバー4のうち締結用ボス体22と後ろ側の位置決めボス体17との間の部位には、当該肘当てカバー4の後部を起こすための屈曲部を形成する手段の一例として、上下に開口したスリット28を形成している。正確に述べると、肘当てカバー4はスリット28の左右両側において繋がっており、この繋がった部分が屈曲する。いずれにしても、スリット28の箇所を屈曲部と呼んで差し支えない。
【0042】
図2(A)及び図5(B)に示すように、肘当てカバー4における側板15のうち位置決めボス体17に対応した部位に、肘支持部5に向けて突出したサイド係合爪29を設けている一方、肘支持部5の内側面9には、サイド係合爪29が嵌入する盗み穴(係合穴)30を設けている。サイド係合爪29は、盗み穴30の上端に引っ掛かるようになっている。サイド係合爪29と盗み穴30とは請求項に記載した係合手段を構成している。また、盗み穴30は軽量化・肉厚均等化の機能も果たしている。
【0043】
肘当てカバー4を取り付けた状態でサイド係合爪29のすぐ手前に位置する部位には、サイド係合爪29を手前にスライドさせるとサイド係合爪29を起こし変形させる浅い案内溝34になっており、盗み穴30の内側面のうち案内溝34に繋がる部分は平面視で傾斜面30aになっている。また、案内溝34の上端部は、サイド係合爪29の上向き移動をスムースに行うための傾斜ガイド面34aになっている。
【0044】
肘当てカバー4の上板13と側板14とには外側からクッション材31が重なっており、クッション材31はクロス等の表皮材32覆われている。表皮材23は肘当てカバー4の内面に巻き込まれており、接着によって肘当てカバー4に固定されている。そして、肘当てカバー4における側板14の下端縁に下リブ33を全長にわたって形成し、クッション材31の下端を下リブ33に当てている。このため、表皮材32を張ってもクッション材31の下端部が潰れ変形することはなく、表皮材32は下リブ33によってピンと張られた状態に保持される。
【0045】
例えば図2(C)に示すように、肘支持部5の内側面9のうち、前後サイド係合穴30の間の部位と、前後サイド係合穴30の前後外側の部位には、軽量化や肉厚均等化のための盗み穴34を空けている。盗み穴34や補助横穴21は肘当てカバー4の側板9で覆われているため、美観の問題は生じない。
【0046】
以上の構成において、肘当てカバー4の取り付けは、肘当てカバー4を基準位置よりも手前にずらした状態で係合爪19を爪受け穴20に嵌め入れてから、肘当てカバー4を肘支持部5に重ねた状態で後ろにずらすことで係合爪19を爪受け部20aに係合させ、それから肘当てカバー4を下向きに押し付けると、フロント係合部13bが肘支持部5の後端に重なると共に、サイド係合爪29が盗み穴30に嵌まり込む。その状態で肘当てカバー4は正確に位置決めされているので、ビス25をねじ込んだらよい。これにより、肘当てカバー4は前後方向及び左右方向にずれ不能に固定される。
【0047】
なお、締結用ボス体22に雌ねじを形成しておいてもよいが、コスト面では、ビス25として自己螺進性を有するタッピンねじを使用するのが好ましい。肘当てカバー4を下向きに押し付けることにより、サイド係合爪29はその弾性に抗して変形してからサイド係合溝30に嵌まり込む。
【0048】
取り外しに際しては、ビス25による締結を解除してから、まず、肘当てカバー4の後端部を上向きに起こす。すると、肘当てカバー4の後端部はスリット28の部位を中心にして上向きに屈曲し、このため、肘当てカバー4はその全体を手前側に向けてスライドさせ得る。従って、エンド係合爪19に曲げ力が作用して折損するような問題は生じない。この場合、位置決め穴18及び上フロント凹所23は前後に長い長穴になっているため、位置決め機能を損なうことなく肘当てカバー4の前向きスライドが許容されている。
【0049】
そして、肘当てカバー4を手前にスライドさせると、サイド係合爪29は盗み穴30の傾斜面にガイドされて盗み穴30から抜け出る方向に回動し、次いで、図3(A)に示すように案内溝34に移行し、その状態で肘当てカバー4を上向きに起こすと、サイド係合爪29は案内溝34の上端の傾斜ガイド面34aにガイドされてスムースに抜き外される。従って、本実施形態では、肘当てカバー4は使用状態で捲れない状態に肘当て本体5にしっかりと取り付いたものでありながら、取り外しをスムースに行うことができる。
【0050】
本実施形態では、前後の案内溝34のうち後ろ側の案内溝34は手前側の案内溝34よりも上側まで入り込んでいる。このため、肘当てカバー4を曲げてから起こすにおいて、肘当てカバー4の後部は若干ながら抵抗なく上向き動することになり、このため、肘当てカバー4を、惰性を付けてスムースに起こすことができる。
【0051】
また、図3(A)の矢印Xで示すように肘当てカバー4の外端部に上向きの外力が作用しても、位置決めボス体17が位置決め穴18に嵌まっていることと、側板14が肘支持部5の内側面9に重なっていることとにより、肘当てカバー4の上板13と肘当て本体3の上面11との間に間隔を空けていても、肘当てカバー4の外側縁が捲れ上がることを的確に抑制できる。つまり、上板13の外端縁13cを下向きにカールさせて肘当て本体3の上面11に当てると、上板13の剛性が高くなると共に外端縁13cに指を掛けにくくなって好適であるが、この状態で、位置決めボス体17と側板9とが捲れ上がりに対するこじれとして作用するため、捲れを効果的に防止できるのである。図3(A)に矢印Yで示すように肘当てカバー4に内側から上向きの外力が作用しても、位置決めボス体17の突っ張り作用によって捲れ上がりを防止できる。
【0052】
この場合、実施形態のように肘当てカバー4の下向きリブ16と肘支持部5の上向きリブ15とを当接させると、両リブ15,16が位置決めボス体17の左右両側に位置していることで内外いずれの捲れ作用に対しても高い抵抗(こじれ)が発揮されて好適である。また、実施形態のようにサイド係合爪29とサイド係合穴30とを設けると、内側の捲れもより的確に防止できるため好適である。なお、着座した人は親指を肘当てカバー4に当てることがあるが、肘当てカバー4の側板9にはクッション材31が張られているため、柔らかい当たりになっている。
【0053】
本願発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、他にも様々に具体化できる。例えば弱化手段はスリットには限らず、薄肉化するなどしてもよい。肘支持部は後端が自由端になっていてもよいし、肘当て本体を側面視T形とすることも可能である。肘当てカバーを肘支持部から上向き動不能に保持する係合手段は実施形態のような係合爪と爪受け穴との組み合わせに限らず、他の組み合わせも採用できる。肘当てカバーを左右中間部で上向き動不能に保持する係合手段を前後複数箇所に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願発明の肘掛け装置は現実に製造可能であり、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 肘掛け装置
3 肘当て本体
4 肘当てカバー
5 肘支持部
6 支柱
9 肘支持部の内側面
10 肘支持部の外側面
11 肘支持部の上面
13 肘当てカバーの上板
14 肘当てカバーの側板
15,16 リブ
17 位置決めボス体
18 位置決め穴
19 係合爪
20 爪受け穴
22 締結用ボス体
28 弱化手段の一例としてのスリット
29 サイド係合手段を構成するサイド係合爪
30 サイド係合手段を構成するサイド係合溝
33 下リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座した人が肘を載せ得る肘掛け装置であって、
前後方向に長い肘支持部を有する肘当て本体と、前記肘当て本体に取付けた樹脂製の肘当てカバーとを有しており、前記肘当て本体の外周のうち座に近い内側面は基本的に略鉛直状態になっていて座と反対側の外側面は下に行くに従って前記内側面に近づくように傾斜又は湾曲している一方、前記肘当てカバーは、前記肘当て本体の上面に重なる上板と前記肘当て本体の内側面に重なる側板とを有していて断面逆L字状になっている、
椅子の肘掛け装置。
【請求項2】
前記肘当てカバーにおける上板の下面には下向きに突出した複数の位置決めボス体が前後方向に間隔を空けた状態で突設されている一方、前記肘当て本体の肘支持部には、前記肘当てカバーの位置決めボス体が左右動不能に嵌入する位置決め穴を設けている、
請求項1に記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項3】
前記肘当て本体はアルミ又は軽合金の成形品である、
請求項1に記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項4】
前記肘当てカバーにおける上板の下面のうち前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側に下向きリブを設けてこれを肘当て本体に当接させるか、又は、前記肘当て本体の上面のうち前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側に上向きリブを設けてこれを肘当てカバーに下方から当接させるか、若しくは、前記肘当てカバーにおける上板の下面と前記肘当て本体の上面とに、前記位置決めボス体を挟んだ両側又は片側において互いに当接するリブを突設している、
請求項2又は3に記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項5】
前記肘当てカバーにおける上板の前後端部のうち一端部には、側面視鉤状のエンド係合爪が下向きに突設されている一方、前記肘当て本体における肘支持部の一端部には、前記肘当てカバーを重ねてから他端部に向けてずらすことで前記エンド係合爪が引っ掛かり係合する爪受け穴を上向きに開口させている一方、
前記肘当てカバーの側板と肘支持部の内側面とに、前記肘当てカバーの側板を上向き動し難くするサイド係合手段が形成されており、前記エンド係合爪を爪受け穴に係合させた状態で肘当てカバーを下向きに押し込むと、前記肘当てカバーの側板と肘支持部の内側面とに設けた係合手段が互いに係合するように設定されており、
かつ、前記肘当てカバーのうち前記エンド係合爪と反対側の端部に、前記肘本体に下方から挿通したビスがねじ込まれている、
請求項2〜4のうちの何れかに記載した椅子の肘掛け装置。
【請求項6】
前記肘当てカバーのうち前記エンド係合爪と反対側の他端は前記肘当て本体の他端にきっちり嵌まっており、前記肘当てカバーのうち他端部でかつ前記ビスを挟んで一端側にずれた部位に、当該肘当てカバーの他端部を上向きに起こすことを容易ならしめる屈曲部が形成されており、前記肘当てカバーを肘当て本体から取り外すにおいては、前記ビスによる締結を解除してから他端部を起こせば肘当てカバーの全体を前記エンド係合爪の方向に容易にスライドさせ得るように設定されていると共に、前記位置決め穴は前記位置決めボスが前後方向にスライドすることを許容するため長穴になっている、
請求項5に記載した椅子の肘掛け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−274(P2013−274A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133142(P2011−133142)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)