説明

椅子の肘掛け装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、座る人の体形や作業内容に合わせて、座体に対する肘当ての左右方向の位置を調節しうるようにした、椅子の肘掛け装置に関する。
【0002】
【従来の技術】座る人の体形による腕の位置の違いや、パソコンのキーボードやマウスを操作する場合の腕の支え位置の調節のために、肘当ての左右方向の位置を調節しうる椅子は、例えば実公平4−751号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述の考案は、座体の左右両側に立設した肘掛け支柱の頂部に、前後方向に延びる肘当て支持部を形成し、この肘当て支持部に、肘当てを左右方向に移動可能に支持したものであるが、肘当て支持部が肘当ての下面に露出しているために見栄えが悪く、また、左右方向への移動のために肘当ての下面に形成された前後の溝内に、椅子の使用者が指を入れた状態で、肘当てを左右方向に移動させると、溝の左右端部と肘当て支持部の側面とで指が挟まれるという問題があった。
【0004】本発明は、このような問題点を解決するため、椅子の使用者が変わったり、作業内容が変わった場合の肘当ての左右方向の位置調整が行える椅子の肘掛け装置において、肘当て支持部を肘当てで覆うことにより、見栄えをよくするとともに、肘当ての左右方向への移動時に、椅子の使用者が、肘当ての裏面側で指が挟まれることがなくすることを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1) 座体の左右両側に立設した肘掛け支柱の頂部に、前後方向に延びる肘当て支持部を形成し、この肘当て支持部に支持される肘当てを、下面に、肘当て支持部の幅より広い幅の嵌合溝を有するものとし、前記肘当て支持部の下方から、肘当て支持部材を前記肘当てに取り付けて、前記肘当てを、前記肘掛け支柱と離脱不能に、かつ前記肘当て支持部に対して左右方向に移動可能とし、さらに、前記肘当て支持部に対する前記肘当ての左右方向への移動を、左右移動の限界を設定して規制する規制手段を設け、この規制手段により規制される肘当ての左右移動の限界を、前記肘当ての嵌合溝の左右側面と、これら両側面と対向する前記肘当て支持部の左右側面との間に、所要の隙間が形成されるように設定する。
【0006】(2) 上記(1)項において、規制手段を、肘当て支持部の上面の前部及び後部から上方に突出する係止軸と、肘当ての下面の嵌合溝の前部及び後部に形成され、前記係止軸が移動可能に嵌合する溝部とにより形成する。
【0007】(3) 上記(2)項において、肘当ての下面の係合溝に嵌合させる幅広の当て板の前端及び後端に切り欠き部を形成し、この切り欠き部を、規制手段の溝部とする。
【0008】(4) 上記(3)項において、当て板の前後部に、複数の係合凹部を形成し、この当て板と肘当て支持部との間に、前後部において前記係合凹部に係合できる突起をひとつずつ備える板ばねを配設する。
【0009】(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、肘当て支持部材を、肘当て支持部の前端及び後端に形成した肩部を下方から抱え、かつ肘当ての下面の係合溝の前部及び後部に、前記肘当て支持部を左右移動可能に取り付ける取付部材とする。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は、本発明を実施した椅子(A)の側面図であり、両側部の肘掛け(1)は、肘掛け支柱(2)により肘当て(3)を支持してなるものである。肘掛け支柱(2)は、下部支柱(2a)と、これに伸縮可能に嵌合した上部支柱(2b)とからなり、操作レバー(7)を押して上部支柱(2b)を上下させることにより、肘当て(3)の高さ調節ができるようになっている。
【0011】図2及び図3に示すように、上部支柱(2b)の頂部には、前後方向に延びる肘当て支持部(4)が形成されており、その上面には、前後方向に延びる浅い凹溝(4a)が形成されている。
【0012】凹溝(4a)には、上下方向に弾性変形可能な板ばね(5)が収容されている。この板ばね(5)の前後部(5a)(5b)は、中央部(5c)に対して浮上し、かつ各前後部(5a)(5b)の上面に、それぞれひとつの係止部すなわち突起(6)が形成されている。低い中央部(5c)は、凹溝(4a)の底に当接している。
【0013】肘当て(3)の下面には、肘当て支持部(4)が嵌合しうる前後方向の長さを有し、かつ肘当て支持部(4)の幅よりもかなり広い幅を有する上向きの嵌合溝(3a)が形成されている。
【0014】嵌合溝(3a)の前後端は、2段に形成され、その下段には、やや幅の広い金属製の当て板(8)が嵌合されている。この当て板(8)の前後部における前述の板ばね(5)の前後部の突起(6)と対応する位置には、それぞれ、複数個(図示では3個)の係合凹部(8a)が、左右方向に間隔を隔てて形成されている。
【0015】当て板(8)の前端及び後端には、それぞれ、切り欠き部(9)(10)が形成されいる。切り欠き部(9)(10)の前後方向の深さは、前述の突起(6)の手前まで程度とし、左右方向の幅は、切り欠き部(9)(10)に嵌まる後述する係止軸(11)(12)に関連して述べるように設定される。
【0016】図2に示すように、上部支柱(2b)の頂部の肘当て支持部(4)の頂面には、その前後部に係止軸(11)(12)が上方に向けて植設されている。これらの係止軸(11)(12)は、図3に係止軸(11)について示すように、上部支柱(2b)を構成する左右の半部の中央に配設され、これら半部を横方向から止め着けるボルト(13)の一部分が係合するようにすることにより、上部支柱(2b)に固定されている。
【0017】係止軸(11)(12)は、上述の当て板(8)の切り欠き部(9)(10)にそれぞれ嵌まる長さを有するもので、図3に示すように、これが、切り欠き部の左右端部に当接する位置に持ち来たらされた時、肘当て支持部(4)の左右方向側面と肘当て(3)の下部の左右方向の内側面(3b)との間に、所定の隙間、すなわち指を挟まない程度の隙間(d)が残る。換言すれば、当て板(8)の前後端の切り欠き部(9)(10)の左右方向の幅は、この隙間(d)が残るような幅に設定されている。
【0018】肘当て支持部(4)の前後端部に形成された肩部(14)(15)には、その下方から肘当て支持部材すなわち取付部材(16)(17)がボルト(18)により肘当て(3)に取り付けられ、これにより、板ばね(5)を弾性付勢させた状態で、かつ板ばね(5)の突起(6)を当て板(8)の凹溝(8a)に係合脱離可能な状態で、肘当て(3)を上部支柱(2b)に取り付けている。従って、肘当て(3)は、その前後部における移動距離を異ならせて横移動させることができる。
【0019】
【発明の効果】本発明によれば、肘当て支持部が肘当てにより覆われているので、見栄えがよい。また、このように覆われていても、肘当ての左右横移動に際して、肘当ての下部内側面と肘掛け支柱の上部支柱側面との間に所要の隙間が残るように移動限界が設定されるので、椅子の使用者が肘当ての裏面側で指を挟まれることのない、安全性の高い椅子の肘掛け装置を提供することができる。
【0020】請求項2記載の発明のように、規制手段を、肘当て支持部の上面の前部及び後部から上方に突出する係止軸と、肘当ての下面の嵌合溝の前部及び後部に形成され前記係止軸が移動可能に嵌合する溝部とにより形成すると、肘当て支持部に対する肘当ての左右移動の限界での規制を、簡単な構造により確実に行うことができる。
【0021】請求項3記載の発明のように、肘当ての下面の係合溝に嵌合させる幅広の当て板の前端及び後端に切り欠き部を形成し、この切り欠き部を規制手段の溝部とすると、肘当て横移動機構の一部分である当て板を利用して、規制手段を形成させることができる。
【0022】請求項4記載の発明のように、当て板の前後部に複数の係合凹部を形成し、この当て板と肘当て支持部との間に、前後部において、前記係合凹部に係合できる突起をひとつずつ備えた板ばねを配設すると、肘当ての横移動機構を簡単な構成で実現することができる。
【0023】請求項5記載の発明のように、肘当て支持部材を、肘当て支持部の前端及び後端に形成した肩部を下方から抱え、肘当ての下面の係合溝の前部及び後部に、前記肘当て支持部を左右移動可能に取り付ける取付部材とすると、肘当てを肘掛け支柱と離脱不能に、かつ左右方向に移動可能に取り付けることを、簡単な構造で確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の肘掛け装置を備える椅子の側面図である。
【図2】本発明の肘掛け装置の一実施例を、肘当ての一部を切り欠いて示す分解斜視図である。
【図3】本発明の肘掛け装置を組み立てた状態で示す、図2のIII−III線に沿う断面図である。
【符号の説明】
(A)椅子
(d)隙間
(1)肘掛け
(2)肘掛け支柱
(2a)下部支柱
(2b)上部支柱
(3)肘当て
(3a)嵌合溝
(3b)内側面
(4)肘当て支持部
(5)板ばね
(5a)前部
(5b)後部
(5c)中央部
(6)突起
(7)操作レバー
(8)金属製の当て板
(8a)係合凹部
(9)(10)切り欠き部(規制手段)
(11)(12)係止軸(規制手段)
(13)ボルト
(14)(15)肩部
(16)(17)取付部材(肘当て支持部材)
(18)ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 座体の左右両側に立設した肘掛け支柱の頂部に、前後方向に延びる肘当て支持部を形成し、この肘当て支持部に支持される肘当てを、下面に、肘当て支持部の幅より広い幅の嵌合溝を有するものとし、前記肘当て支持部の下方から、肘当て支持部材を前記肘当てに取り付けて、前記肘当てを、前記肘掛け支柱と離脱不能に、かつ前記肘当て支持部に対して左右方向に移動可能とし、さらに、前記肘当て支持部に対する前記肘当ての左右方向への移動を、左右移動の限界を設定して規制する規制手段を設け、この規制手段により規制される肘当ての左右移動の限界を、前記肘当ての嵌合溝の左右側面と、これら両側面と対向する前記肘当て支持部の左右側面との間に、所要の隙間が形成されるように設定したことを特徴とする椅子の肘掛け装置。
【請求項2】 規制手段を、肘当て支持部の上面の前部及び後部から上方に突出する係止軸と、肘当ての下面の嵌合溝の前部及び後部に形成され、前記係止軸が移動可能に嵌合する溝部とにより形成したことを特徴とする請求項1記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項3】 肘当ての下面の係合溝に嵌合させる幅広の当て板の前端及び後端に切り欠き部を形成し、この切り欠き部を、規制手段の溝部としたことを特徴とする請求項2記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項4】 当て板の前後部に、複数の係合凹部を形成し、この当て板と肘当て支持部との間に、前後部において前記係合凹部に係合できる突起をひとつずつ備える板ばねを配設したことを特徴とする請求項3記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項5】 肘当て支持部材を、肘当て支持部の前端及び後端に形成した肩部を下方から抱え、かつ肘当ての下面の係合溝の前部及び後部に、前記肘当て支持部を左右移動可能に取り付ける取付部材としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の椅子の肘掛け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2973097号
【登録日】平成11年(1999)9月3日
【発行日】平成11年(1999)11月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−277631
【出願日】平成8年(1996)10月21日
【公開番号】特開平10−117882
【公開日】平成10年(1998)5月12日
【審査請求日】平成11年(1999)6月11日
【早期審査対象出願】早期審査対象出願
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【参考文献】
【文献】実開 平3−79748(JP,U)
【文献】実開 昭61−207254(JP,U)