説明

椅子

【課題】本発明は、アームレストを中間位置で保持できる椅子を提供することを課題とする。
【解決手段】枢着部3Aに取り付けられるカバー部材50は、主板部51と該主板部51の両縁から対向状に延設された一対の側板52とを具備している。さらに、該主板部51の内側面51Aから複数の可撓性突起54が差し出されている。そして、アームレスト3が例えば起立位置にあると、該アームレスト3における架設材39は、最上段にある可撓性突起54によって支持され、この位置で確実に保持された状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下回動するアームレストを備えた椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者等の体を洗う際に利用される浴室用シャワー椅子等の椅子は、既に知られている。また、該椅子にあっては、アームレスト(肘掛け)を備え、差し出されたアームレストを上下回動可能(跳ね上げ可能)とした構成も提供されている(特許文献1,2参照)。該椅子は、状況に応じてアームレストを水平位置としたり跳ね上げて起立位置としたりして使用することができる。
また、事故防止の観点から、図8に示すように、該アームレストの枢着部にカバー部材aを取り付け、該枢着部に指が挟まれないようにする構成が知られている。該カバー部材aは、椅子の脚部Aに固定されるものであり、ガイド長孔bを備え、該アームレストの回動に伴って該ガイド長孔b内をアームレストに設けられた架設材cが往復する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開2004−261328号公報
特開2008−154764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来構成は、アームレストを水平位置又は起立位置でしか保持できず、水平位置と起立位置との間の中間位置で保持することができなかった。このため、例えば介助者が高齢者等を浴室内で該椅子に着座させて体を洗うなどの状況においては、作業効率上不便であった。例えば、水平位置にあるアームレストが邪魔であるときに該アームレストを少し上に上げて作業する場面が頻繁にあるが、該アームレストが直ぐに元の位置に下りてきてしまうため、介助者にとっては非常に煩わしい問題であった。従来、この問題に対しては、介助者が片方の手でアームレストを保持しながら窮屈な態勢で作業を行うか、あるいは枢着部の高度かつ面倒なトルク管理を行って対応していた。
また、アームレストを起立位置に仮保持しておく手段としては、図8に示すようにガイド長孔bの孔縁にストッパ部dを突設し、該ストッパ部dにより架設材cの摺動を一時的に阻止する構成が提案されていた。しかし、該ストッパ部dは長年の使用により摩滅してしまうため、次第に前記架設材cがストッパ部dを容易に通過するようになり、アームレストの保持力が低下する問題があった。このようにアームレストの保持力が低下すると、アームレストを跳ね上げて起立位置としたつもりであっても該アームレストが不意に水平位置まで勢いよく倒れてきてしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、所定の回動角度範囲内で上下回動するアームレストを、その中間位置で保持でき、しかもその保持力が低下しない椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、脚部と、該脚部に支持される座部と、該脚部に上下回動可能に枢着されたアームレストと、該アームレストの枢着部を被覆するカバー部材とを具備する椅子であって、前記カバー部材は、主板部と、該主板部の両縁から対向状に延設された一対の側板とを具備し、該一対の側板で前記脚部を挟むようにして該脚部に固定されており、さらに該側板には、ガイド長孔が設けられており、前記アームレストは、所定の回動角度範囲内で回動するものであり、対向した一対の側板を具備し、該側板で前記脚部および前記カバー部材を挟むようにして該脚部に軸支されていると共に、該側板間には、前記カバー部材のガイド長孔に挿通されて該アームレストの上下回動に伴い該ガイド長孔内を摺動する架設材が差し渡されており、さらに、前記カバー部材における主板部の内側面からは、前記架設材を支持する可撓性突起が差し出されており、前記架設材が前記可撓性突起に支持されると該アームレストはその位置で保持状態となり、該保持状態のアームレストが強制回動されると前記架設材が前記可撓性突起を撓ませながら該可撓性突起を乗り越え摺動自在となって、該アームレストの保持状態が解除されることを特徴とする椅子である。
【0007】
上記の可撓性突起は、該架設材を例えば該ガイド長孔内の中間位置で支持することができ、この状態においては前記アームレストが回動角度範囲内における中間位置で保持される。さらに、該可撓性突起は、架設材が乗り越えて通過した後に弾性力によって元の形状に復元するから、従来のストッパ部のように摩滅してストッパとしての機能が失われてしまうことがない。
【0008】
また、前記可撓性突起は、架設材の摺動方向に沿って間隔をおいて複数差し出されており、前記架設材が該可撓性突起に支持される位置が、前記回動角度範囲内で複数設定されている構成としてもよい。
【0009】
かかる構成により、多段階で架設材を支持できることとなり、前記回動角度範囲内において多段階でアームレストを保持状態とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の椅子は、簡易構造でアームレストを例えば中間位置で保持することができる。また、架設材を支持する突起を可撓性としたから、該突起が摩滅してしまうことがなく、アームレストの保持力は低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態のシャワー用折り畳み椅子を示す外観斜視図。
【図2】アームレストの枢着部を示す説明図。
【図3】カバー部材を示す外観斜視図。
【図4】カバー部材の側断面図。
【図5】図4におけるA−A線断面図。
【図6】枢着部を示す部分断面図であり、a)はアームレストが起立位置にあり、b)は中間位置にあり、c)は水平位置にある状態を示している。
【図7】可撓性突起と架設材とを示す説明図。
【図8】従来構成の枢着部を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の椅子を浴室で使用するシャワー用折り畳み椅子に具体化した一実施形態について説明する。
図1に示すように、シャワー用折畳み椅子1にあっては、左右の前脚部4,4の上部に三角ブラケット41,41を介して後脚部5,5の上端が枢着されている。そして、前脚部4,4と後脚部5,5とが開閉することにより該シャワー用折畳み椅子1は折畳み可能とされている。
【0013】
また、該左右の前脚部4,4は、上端において上辺部4Aを介して連続しており、該左右の前脚部4,4と該上辺部4Aとでコの字形を形成している。そして該上辺部4Aの前側に、背もたれ2が取り付けられている。
【0014】
また、該左右の前脚部4,4の中間部と該左右の後脚部5,5の中間部との間には、座部6が配置されており、該座部6が上方へ跳ね上げ可能に該前脚部4及び後脚部5に支持されている。なお、該前脚部4及び該後脚部5は、それぞれ長さ調節可能に構成されている。
【0015】
また、該左右の前脚部4,4の上部には、アームレスト3,3の基端部が枢軸33を介して枢着され、該アームレスト3が枢着部3Aを中心にして上下回動可能とされている。さらに、該枢着部3Aにおける前脚部4には、該枢着部3Aに指が入り込んでしまうことを防止するカバー部材50が取り付けられている(図2参照)。
【0016】
更に詳述すると、図2に示すように、該アームレスト3は、本体31と、該本体31の内側にビス等で取り付けられる内側部材32Aとで構成されている。該本体31は、その上面で使用者の肘を支持するものであり、その基端部に切欠き34と軸孔31Bとが設けられている。一方、該内側部材32Aは、対向状に設けられた左右一対の側板32,32を具備し、該側板32には、軸孔32Bが設けられていると共に、その下縁にストッパとなる段部37が形成されている。さらに、該側板32間には、丸棒状の架設材39が架け渡されている。
【0017】
前記カバー部材50は、合成樹脂材料からなり、図2〜図5に示すように、主板部51と該主板部51の両縁から対向状に延設された一対の側板52とを具備している。また、図3に示すように、各側板52には、円弧状のガイド長孔53と、該ガイド長孔53に連通する直線状の切欠溝57と、該切欠溝57の上下にそれぞれ配された丸孔56とが貫設されている。
【0018】
そして、前記のアームレスト3とカバー部材50は、以下の態様で前脚部4に取り付けられている。
前記カバー部材50が、側板52,52で前脚部4を挟むようにして該前脚部4に配置されると共に、前脚部4に予め設けられた軸孔(図示省略)と該側板52における下側の丸孔56とにストッパーピン58が挿通されて該前脚部4に固定されている。なお、ストッパーピン58は、その両端が該丸孔56から外側方に向けて突出する位置で固定される。また、前記アームレスト3が、側板32,32で該カバー部材50と前脚部4とを挟むようにして該前脚部4に配置され、かつ前記枢軸33(図2中では省略する)が、アームレスト3における軸孔31Bと軸孔32B、前脚部4における軸孔(隠れて見えない)、および、カバー部材50における上側の丸孔56に各々挿通され、該アームレスト3が該前脚部4に対して上下方向に回動自在とされている。ここで、該アームレスト3を前脚部4に軸支する際には、該アームレスト3における架設材39を、前記カバー部材50の切欠溝57を介してガイド長孔53に挿通させ、該アームレスト3の上下回動に伴って該架設材39が該ガイド長孔53内を摺動するようにしている。
【0019】
上記のように、アームレスト3の上下回動に伴い架設材39がガイド長孔53に沿って往復する構成とすると、該アームレスト3はぐらつくことなく円滑に回動する。ここで、アームレスト3が上方又は下方に回動して該架設材39が該ガイド長孔53の一方の孔縁に突き当たると、その位置でアームレスト3の回動が規制される。すなわち、該アームレスト3は、所定の回動角度範囲内で上下回動する。さらに、該アームレスト3を水平状態とした際には、前記の段部37が前記のストッパーピン58に当接することとなり、該アームレスト3が確実に水平位置に保持される。なお、側板32間に架設材39を架設することにより、側板32,32間の長さが変化することが防止されるため、ストッパーピン58と段部37とが確実に当接することとなる。
【0020】
さらに、前記カバー部材50は、図4,5に示すように、主板部51の内側面51Aから複数の可撓性突起54が差し出されている。なお、本実施例では、該可撓性突起54は、図4に示すようにガイド長孔53,53の長手方向に沿って間隔をおいて4つ列設されていると共に、図5に示すように、内側面51Aに左右一対で整列状に配置されている。さらに、該可撓性突起54は、カバー部材50と同じ合成樹脂材料で構成されており、可撓性を有する。またその突起高さは、図4に示すように、その先端がガイド長孔53内を摺動する架設材39に接触可能であって該架設材39を支持できる高さとされている。
【0021】
上述の構成にあって、図6aに示すように、前記アームレスト3がほぼ垂直な起立位置にある場合は、架設材39がガイド長孔53内の上端に位置する。そして、該起立位置にあっては、該架設材39は、図7aに示すように、最上段にある可撓性突起54によって支持されている。したがって、該アームレスト3はこの位置で確実に保持された状態となっており、不意に倒れたりすることがない。次に、該アームレスト3を強制的に下方へ回動させると、これに伴って該架設材39は、図7bに示すように、該可撓性突起54を下向きに撓ませながら該ガイド長孔53内を下向きに摺動開始する。そして、該可撓性突起54を乗り越えて摺動自在となると、該アームレスト3は、前記保持状態が解除されて回動自在となる。図6bに示す状態は、上から3番目の可撓性突起54に架設材39が支持されることにより、アームレスト3が回動角度範囲内において中間位置で保持されている状態である。そして、上述したアームレスト3の回動動作を繰り返すことにより、図6cに示すような水平位置とすることができる。なお、勿論、該アームレスト3は、水平位置などから上方に回動させて、所定位置で保持状態とすることもできる。
【0022】
上記可撓性突起54についてさらに詳述する。
該可撓性突起54は、基端から先端へ向かうに従って薄肉となる形状であり、先端部が架設材39に押圧されて撓む性質を有すると共に、該先端部が架設材39が乗り越えて通過した後に弾性力によって元の形状に復元するから、長年の使用によってもその支持機能が減退することがない。したがって、該椅子1にあっては、アームレスト3の保持力が低下しない。なお、材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS樹脂、硬質ゴム、エラストマー等が適宜選択されうる。また、図4等に示すように、前記可撓性突起54は、架設材39の摺動方向に沿って間隔をおいて複数差し出されているため、アームレスト3を多段階で保持することができる利点がある。ただし、本発明はアームレスト3を多段階で保持できる構成に限定されるものではない。
【0023】
なお、上記実施形態では、本発明の椅子をシャワー用折畳み椅子1に具体化したが、該シャワー用折畳み椅子1に限らず、跳ね上げあるいは跳ね下ろし可能なアームレストを有している椅子であれば、何れの椅子に具体化してもよい。また、カバー部材50と可撓性突起54とを一体成形してもよいし、別々に成形して接着、接合、又は貼着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、高齢者等が使用する折り畳み椅子であって介護の際に利用されるものであるため、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 シャワー用折り畳み椅子
3 アームレスト
3A 枢着部
4 前脚部
5 後脚部
6 座部
32 側板
39 架設材
50 カバー部材
51 主板部
52 側板
53 ガイド長孔
54 可撓性突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚部と、該脚部に支持される座部と、該脚部に上下回動可能に枢着されたアームレストと、該アームレストの枢着部を被覆するカバー部材とを具備する椅子であって、
前記カバー部材は、
主板部と、該主板部の両縁から対向状に延設された一対の側板とを具備し、該一対の側板で前記脚部を挟むようにして該脚部に固定されており、さらに該側板には、ガイド長孔が設けられており、
前記アームレストは、
所定の回動角度範囲内で回動するものであり、
対向した一対の側板を具備し、該側板で前記脚部および前記カバー部材を挟むようにして該脚部に軸支されていると共に、該側板間には、前記カバー部材のガイド長孔に挿通されて該アームレストの上下回動に伴い該ガイド長孔内を摺動する架設材が差し渡されており、
さらに、前記カバー部材における主板部の内側面からは、前記架設材を支持する可撓性突起が差し出されており、
前記架設材が前記可撓性突起に支持されると該アームレストはその位置で保持状態となり、
該保持状態のアームレストが強制回動されると前記架設材が前記可撓性突起を撓ませながら該可撓性突起を乗り越え摺動自在となって、該アームレストの保持状態が解除されることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記可撓性突起は、架設材の摺動方向に沿って間隔をおいて複数差し出されており、前記架設材が該可撓性突起に支持される位置が、前記回動角度範囲内で複数設定されている請求項1記載の椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−172401(P2010−172401A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16288(P2009−16288)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】