説明

椅子

【課題】座の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座の安定性がよく、しかも構造が簡単で、体裁のよい椅子を提供する。
【解決手段】脚によって支持された支基5に、座6を左右方向を向く枢軸9をもって枢着し、座6の後部が上下方向に回動可能とした椅子において、座6を上向きに付勢する付勢手段12を、支基5における枢軸9より下方の部分と座6における枢軸9より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方に配設した板ばね状の左右1対の弾性撓曲手段14とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子、特に、不使用状態では、座の後部が持ち上がり、着座者が着座する際には、座が、着座者の臀部に当接して、臀部とともにほぼ水平位置まで回動することにより、着座を誘導し、着座者が立上る際には、座の後部が持ち上がって、起立を補助するようにした椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の椅子としては、座を、椅子の下部構成体に対して、水平、または後下向きに傾斜する使用位置と、後上向きに傾斜する不使用位置との間を回動可能として支持し、前記座の後部に、背凭れを、起立位置と後傾位置とに回動可能として枢着し、前記座を不使用位置に向かって、また前記背凭れを起立位置に向かって付勢する付勢手段を設け、さらに、前記座と背凭れとを、座が不使用位置から使用位置まで回動する間は、前記背凭れをほぼ垂直状態に維持するように連係する連係手段を設けたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、リンク機構と弾性抵抗手段をもって、座と背凭れとを、上記と同様に移動するようにしたものもある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−104562号公報
【特許文献2】特許第4379538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような従来の椅子においては、いずれも、座の後部または中間部を、リンク機構をもって押し上げたり、座の前部の枢軸に、ねじりバネなどの弾性抵抗手段を設けて、座を前傾状態になるように付勢したりしているので、座の後部の左右方向の安定性が悪く、座の後部をバランスよく持ち上げ難いという問題がある。
また、リンク機構が複雑かつ大型化し、体裁が悪いという問題もある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、座の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座の安定性がよく、しかも構造が簡単で、体裁のよい椅子を提供ことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)脚によって支持された支基と、前記支基に、左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が上下方向に回動可能とした座と、前記支基に設けられ、かつ座における前記枢軸より後部を上向きに付勢する付勢手段とを備える椅子において、前記付勢手段を、前記支基における枢軸より下方の部分と、座における枢軸より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段と、この弾性伸縮手段の両側方において、一端が、座の下面に止着され、中間部が弾性撓曲させられ、かつ他端が、前記支基における枢軸より下方の部分に止着された左右1対の弾性撓曲手段とを備えるものとする。
【0008】
このように、座を上向きに付勢する付勢手段を、弾性伸縮手段と、この弾性伸縮手段の両側方に配設された左右1対の弾性撓曲手段とを備えるものとしてあるので、座の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座を安定よく支持することができる。
また、弾性伸縮手段と弾性撓曲手段とを、小型化して、座の下方にコンパクトに配設することができるので、椅子の体裁をよくすることができる。
【0009】
(2)上記(1)項において、弾性伸縮手段の前端部と弾性撓曲手段の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着する。
【0010】
このような構成とすると、構造を簡素化できるだけでなく、支基への弾性伸縮手段と弾性撓曲手段との枢着作業を簡略化することができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)項において、座の後部に、背凭れの下部を左右方向を向く支軸をもって枢着し、前記背凭れを起立位置と後傾位置とに回動可能とし、支基における枢軸より下方の部分と背凭れにおける前記支軸より下方の部分とを、前後方向を向く弾性伸縮可能の押動杆をもって連結し、座の下向き回動時に押動杆が背凭れの下端部を後方に押動することにより、背凭れを起立状態に維持し、また押動杆が弾性収縮することにより、座に対する背凭れの後傾を可能とし、前記押動杆の前端部を、弾性伸縮手段の前端部と弾性撓曲手段の下側の前端部とともに、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着する。
【0012】
このような構成とすると、付勢手段と押動杆との構造をさらに簡素化できるだけでなく、支基への弾性伸縮手段と弾性撓曲手段と押動杆との枢着作業をさらに簡略化することができる。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、弾性伸縮手段をガススプリングとし、弾性撓曲手段を、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられるようにした板ばねとする。
【0014】
このような構成とすると、弾性伸縮手段および弾性撓曲手段の構造を簡素化し、安価に製造することができる。
【0015】
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、弾性撓曲手段における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部の上面を、座の下面に当接し、座の下向き回動時に、弾性撓曲手段の弾性撓曲部が、座の下面に沿って後方に移行するようにする。
【0016】
このような構成とすると、座の下向き回動時に、弾性撓曲手段の弾性撓曲部が、座の下面に沿って後方に移行することにより、同一箇所に応力が集中するのを防止し、耐久性を向上することができるとともに、弾性撓曲手段の反力を増大させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、座の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座の安定性がよく、しかも構造が簡単で、体裁のよい椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の椅子の一実施形態の不使用状態における正面図である。
【図2】同じく、側面図である。
【図3】同じく、使用状態における側面図である。
【図4】同じく、使用状態において、背凭れを後傾させたときの側面図である。
【図5】同じく、不使用状態の椅子における中央部分を、座のクッション材を省略して示す中央縦断側面図である。
【図6】同じく、支基と支基に装着された部材とを、斜め前上方より見た一部分解斜視図である。
【図7】板ばねの平面図である。
【図8】板ばねの側面図である。
【図9】圧縮ばねの平面図である。
【図10】圧縮ばねの側面図である。
【図11】図9におけるXI−XI線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、この椅子は、先端部にキャスタ1を備える放射状をなす5本の脚杆2を有する脚体3を備えている。脚体3の中央には、ガススプリング(図示略)を備える伸縮式の脚柱4が立設され、脚柱4の上端には、前方を向く支基5の後部が固着されている。なお、支基5と脚柱4と脚体3とを一体化して実施してもよい。
【0020】
支基5は、図6に示すように、前方に向かって拡開する平面視三角形の浅い皿状をなすとともに、側面視において前上方に向かって傾斜している。また、図1に示すように、支基5は、前方より見て上向きコ字状をなし、前方に開口しているので、支基5への部材の取付け作業時に、側方や後方だけでなく、前方からも部材や工具等を挿入し易いようになっている。
【0021】
座6は、合成樹脂製の座板7と、その上面に取付けられたクッション材8とからなり、座板7の前端両側部を、支基5の前端両側部に左右方向を向く枢軸9をもってそれぞれ枢着することにより、図2に示すように、後上向きに傾斜する不使用位置と、図3に示すように、水平、または後下向きに傾斜する使用位置とに、枢軸9を中心として回動可能である。この回動範囲は、ほぼ15度程度とするのが好ましい。
【0022】
座6は、後述する付勢手段12により、常時不使用位置に向かって上向きに付勢されている。
図2に示すように、座6が不使用位置にあるとき、着座者が座ろうとする際に最初に当接する初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしてある。
この初期当接部Pは、座6が使用位置にあるときは、着座者が適正な着座姿勢で着座したとき、その臀部である座骨部付近を安定よく支持する安定支持部と一致するように定めておくのが好ましい。
【0023】
この初期当接部Pを、座6が不使用位置にあるとき、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしておくと、着座者が不使用位置にある座6に着座する際に、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接したとき、椅子が後方に移動するという不都合が生じるおそれはない。
また、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接した後、座6は、着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して使用位置まで回動し、着座者の臀部を安定支持点まで誘導して、着座者が迅速に適正な着座姿勢を取ることができるとともに、着座者の荷重が脚柱4よりも後方に加わるので、座6の後部により、着座者の臀部を安定よく支持することができる。
【0024】
不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度は、大とすればするほど、初期当接部Pが前方に移動して、脚柱4に接近するか、もしくはその前方に位置するようになるが、上記のように、初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するように、不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度を制限するのが好ましい。
【0025】
座板7の後部両側には、背凭れ10の下部両側より前方を向く延出部10aの前部が、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにして、左右方向を向く支軸11をもってそれぞれ枢着され、背凭れ10は、図2および図3に示すように、ほぼ上方を向く起立位置と、図4に示すような後傾位置とに、支軸11を中心として回動可能である。なお、この背凭れ10およびその枢着部分の具体的な構造については、本発明と直接関係しないので、その詳細な図示および説明は省略する。
【0026】
支基5には、座6の後部を上向きに付勢する付勢手段12が設けられている。
この付勢手段12は、支基5における枢軸9より下方の部分と座6における枢軸9より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方において、座6の下面に前上端部が固着され、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられ、かつ前下端部が支基5における枢軸9より下方の位置に止着された左右1対の弾性撓曲手段14、14とを備えている。
【0027】
弾性伸縮手段13は、この例では、図2、図5および図6に示すように、前端部が支基5に左右方向の軸15をもって枢着され、かつ後端部が座6の下面における前後方向の中間部に左右方向の軸ピン16をもって枢着された、ロック機能のないガススプリング17としてある。しかし、ロック機能を有するガススプリングや、圧縮コイルばね、またはオイルダンパもしくはエアダンパ等とすることもできる。
ロック機能を有するガススプリングとする場合には、そのロック解除操作手段を、例えば肘掛け(図示略)の一部等に設けるのが好ましい。
【0028】
左右の各弾性撓曲手段14は、この例では、図5〜図8に示すように、座6の下面における両側前部にねじ止め等により止着された前後方向に長い長方形の上部取付部18aと、この上部取付部18aから後方に延出する上片18bと、上片18bの後端から前下方へ向かってほぼ半円弧状に湾曲する弾性撓曲部18cと、弾性撓曲部18cの下端から前方または前下方に延出する下片18dと、下片18dの前端に設けられ、かつ支基5に取付けるための下部取付部18eとを有する合成樹脂製の左右1対の板ばね18、18からなるものとしてある。なお、各板ばね18は、金属製としてもよい。
【0029】
左右の板ばね18、18における両下片18d、18dの左右方向の幅は、前方に向かって漸次小としてある。これは、ガススプリング17や後述する押動杆23との干渉を避けて、座6の下方の狭い空間内に、それらを集約的に収容するためである。
【0030】
また、左右の板ばね18、18は、図6に示すように、その両下片18d、18d同士が、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。さらに、両上片18b、18b同士も、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。そのようにすることによって、座6の後部を安定よく支持することができる。
【0031】
左右の板ばね18、18における下部取付部18e、18eは、上記軸15の両側端部に枢着されている。
【0032】
軸15は、次のようにして、支基5の前部上面に固定されている。すなわち、図5および図6に示すように、支基5における枢軸9より下方の前部の底面に、左右方向を向く凹部5aを設け、この凹部5a内に左右方向に並べて設けた複数の突部19の上面に、上方および左右両方向に開口するU字状の凹溝20をそれぞれ設け、各凹溝20に軸15を嵌合したのち、各突部19の上面に、押え金具21を、ねじ22、22をもって止着することにより、軸15は、回動不能(回動可能としてもよい)として支基5の前端部上面に固定されている。
【0033】
付勢手段12を、弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方に配設した左右1対の弾性撓曲手段14とを備えるものとしてあるので、座6の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座6を安定よく支持することができる。
また、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14とを、小型化して、座6の下方にコンパクトに配設することができるので、椅子の体裁をよくすることができる。
【0034】
上記のように、弾性伸縮手段13をガススプリング17とし、弾性撓曲手段14を板ばね18とすると、弾性伸縮手段13および弾性撓曲手段14の構造は簡素化され、安価に製造することができる。
【0035】
また、弾性伸縮手段13の前端部と弾性撓曲手段14の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるから、構造を簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との枢着作業を簡略化することができる。
【0036】
弾性撓曲手段14である板ばね18における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部18cの上面は、座6の下面に当接しており、座6の下向き回動時に、板ばね18における上部取付部18aと下部取付部18eとの間隔が縮まることにより、下片18dが後上方に押し出され、弾性撓曲部18cが、座6の下面に沿って漸次後方に移行するように、板ばね18は弾性変形する。
このように板ばね18が弾性変形することによって、板ばね18の同一箇所に応力が集中するのを防止し、板ばね18の耐久性を向上することができるとともに、板ばね18の反力を増大させることができる。
結果的に、板ばね18の反力は、座6を下向き回動させればさせるほど大となる。
【0037】
支基5における枢軸9より下方の部分と、背凭れ10における上記支軸11より下方の部分とは、前後方向を向く弾性伸縮可能の押動杆23により連結されている。
座6の不使用位置から使用位置への下向き回動時に、この押動杆23により、背凭れ10の下端部が後方に押動されて、背凭れ10は起立状態に維持され、また押動杆23が弾性収縮することにより、背凭れ10は、この押動杆23の弾性復元力に抗して、図4に示すように、後傾させることができる。
【0038】
図6および図9〜図11に示すように、押動杆23は、前端部が弾性伸縮手段13であるガススプリング17の両側方において、左右方向の軸15により支基5に枢着された硬質かつ非可撓性の左右1対の足片23a、23aと、両足片23a、23aの後端に連設された断面円形の後方を向く左右1対の弾性撓曲部23b、23bと、ガススプリング17の下方において両足片23a、23aの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結片23cと、両弾性撓曲部23b、23bの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結部23dとを有する圧縮ばねにより構成してある。
連結片23cの中央部は、ガススプリング17の下面と干渉しないように、下方に凹ませてある。なお、押動杆23は、例えばポリアミド系の硬質合成樹脂により一体成形するのが好ましい。
【0039】
左右の足片23a、23aの前端部には、軸15に挿通される左右方向の軸孔24が形成されている。
また、後端の左右方向に幅広の連結部23dにも、左右方向を向く軸孔25が設けられ、この軸孔25には、連結部23dを、背凭れ10の下端部前面の左右方向の中央部に前向き突設された左右1対の軸受片26に枢着するための軸ピン27が挿通されている(図5参照)。
【0040】
左右の弾性撓曲部23b、23bは、椅子の左右方向外方に向かって概ね凸円弧状に湾曲され、かつ断面形状はほぼ円形とされている。
押動杆23における左右の弾性撓曲部23b、23bと、それらの各端部同士を連結する連結片23c、および連結部23dとにより、平面視ほぼ円形の閉ループ状に形成されている。
【0041】
押動杆23を、両弾性撓曲部23b、23bが椅子の左右に並ぶように配設して、支基5と背凭れ10に連結することにより、背凭れ10の後傾時において、弾性撓曲部23b、23bは、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲する。なお、左右の弾性撓曲部23b、23bを、上記とは反対に、互いに内向き円弧状に湾曲させて、両弾性撓曲部23bが、椅子の左右方向内方に向かって弾性撓曲するようにすることもある。
【0042】
なお、図10に示すように、左右の弾性撓曲部23b、23bの中間部は、側面視においてわずかに下向き円弧状に湾曲され、両弾性撓曲部23bに前後方向の圧縮荷重が作用した際に、それらの中間部が、両弾性撓曲部23bを含む平面と直交する下方にも弾性変形しうるようにしてある。なお、弾性撓曲部23bを、上記とは反対に、上向き円弧状に湾曲させてもよい。
【0043】
押動杆23として使用した圧縮ばねは、前後の両端間に前後方向の圧縮力が作用した際に、両弾性撓曲部23b、23bは、圧縮方向と直交する方向に弾性撓曲し、2部材(支基5と背凭れ10)の一方が、上記の背凭れ10のように回動しながら相対移動するものであっても、両弾性撓曲部23b、23bは効果的に弾性撓曲して、ばね力を発揮することができ、汎用性の高いものとなる。
【0044】
また、ガススプリング等のシリンダ式の圧縮ばねに比して、構造が簡単であるため、安価で軽量感のある圧縮ばねを提供することができる。
さらに、両弾性撓曲部23b、23bと、それらの端部同士を連結する前後の硬質の連結片23cおよび連結部23dとにより、平面視円形または非円形(互いに内方に弾性撓曲させる場合等)の閉ループ状に形成されているので、弾性撓曲部23bを効果的に弾性撓曲させて、大きなばね力を得ることができ、かつ繰り返し荷重に対しても十分な強度および耐久性を有することができる。しかも、各弾性撓曲部23bをほぼ円形断面としてあるので、どのような方向にも効果的に弾性変形させることができる。
【0045】
両弾性撓曲部23bを、それらを含む平面と直交する方向にも弾性変形しうるようにしてあるので、前後の端部間の相対移動量が大となり、背凭れ10を大きく後傾させることができる。
【0046】
上記のような圧縮ばねを、上記実施形態の椅子において支基5と背凭れ10との間に押動杆23として装着すると、背凭れ10を後傾させた際に、左右の弾性撓曲部23b、23bは、左右方向に弾性撓曲するので、支基5と座6との間に、押動杆23の上下方向の撓み空間を殆ど設ける必要がなく、座6が使用位置にあるときの高さを低く設定することができる。
【0047】
また、押動杆23とした圧縮ばねは、ガススプリングやゴムトーションスプリングのような背凭れ付勢手段に比して、構造が簡単で安価であるので、椅子を軽量化することができるとともに、コスト低減が図れる。
【0048】
さらに、押動杆23は、前部の左右1対の足片23aと、後部の左右方向に幅広の連結部23dとを、それぞれ左右方向の軸15および軸ピン27をもって、支基5と背凭れ10に枢着してあるので、それを安定よく弾性変形させることができる。
【0049】
押動杆23における足片23a、23aの前端部を、弾性伸縮手段13であるガススプリング17の前端部と、弾性撓曲手段14である左右の板ばね18、18の下部取付部18e、18eとともに、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるので、構造をさらに簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14と押動杆23との枢着作業をさらに簡略化することができる。
【0050】
以上のような構成とした椅子は、図2に示す不使用状態では、付勢手段12の付勢力によって、座6の後部が上方に持ち上げられ、座6は後上向き傾斜する不使用位置に位置しており、背凭れ10は、押動杆23の伸長により、ほぼ上方を向く起立位置に保持されている。
【0051】
この状態で、着座者が着座しようとすると、まず着座者の臀部が、上述したように座6の初期当接部Pに当接し、座6は着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して、図3に示す使用位置まで回動させられ、着座者の臀部を安定支持点まで誘導し、着座者は迅速に適正な着座姿勢を取ることができる。
【0052】
図3に示す着座状態から、着座者が背中を背凭れ10に凭せかけて背を後方に倒すと、背凭れ10は、押動杆23を弾性収縮させつつ、支軸11を中心として、図4に示すような後傾位置まで回動させられる。この押動杆23の弾性収縮の初期に、硬質の連結部23dが軸ピン27により前方に押動され、そのときの左右の弾性撓曲部23b、23bにおける連結部23dへの結合部分が若干上下方向に捩れつつ、弾性撓曲部23b、23b全体が、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲するとともに、上下方向にも若干蛇行するように弾性変形する。
【0053】
着座者が背中を前方に戻すと、背凭れ10は、押動杆23の弾性復元力による伸長によって、支軸11を中心として前方に回動させられ、元の起立位置まで戻される。
【0054】
図3に示す着座状態から、着座者が立上がろうとすると、座6は、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との相乗作用により、不使用位置に向かって上向き回動するように付勢され、着座者の起立をアシストすることができる。
【0055】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、幾多の変形した態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 キャスタ
2 脚杆
3 脚体
4 脚柱
5 支基
5a凹部
6 座
7 座板
8 クッション材
9 枢軸
10 背凭れ
10a延出部
11 支軸
12 付勢手段
13 弾性伸縮手段
14 弾性撓曲手段
15 軸
16 軸ピン
17 ガススプリング
18 板ばね
18a上部取付部
18b上片
18c弾性撓曲部
18d下片
18e下部取付部
19 凸部
20 凹溝
21 押え金具
22 ねじ
23 押動杆(圧縮ばね)
23a足片(硬質部)
23b弾性撓曲部
23c連結片(硬質部)
23d連結部(硬質部)
24、25 軸孔
26 軸受片
27 軸ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚によって支持された支基と、
前記支基に、左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が上下方向に回動可能とした座と、
前記支基に設けられ、かつ座における前記枢軸より後部を上向きに付勢する付勢手段
とを備える椅子において、
前記付勢手段を、前記支基における枢軸より下方の部分と、座における枢軸より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段と、この弾性伸縮手段の両側方において、一端が、座の下面に止着され、中間部が弾性撓曲させられ、かつ他端が、前記支基における枢軸より下方の部分に止着された左右1対の弾性撓曲手段とを備えるものとしたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
弾性伸縮手段の前端部と弾性撓曲手段の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着した請求項1記載の椅子。
【請求項3】
座の後部に、背凭れの下部を左右方向を向く支軸をもって枢着し、前記背凭れを起立位置と後傾位置とに回動可能とし、支基における枢軸より下方の部分と背凭れにおける前記支軸より下方の部分とを、前後方向を向く弾性伸縮可能の押動杆をもって連結し、座の下向き回動時に押動杆が背凭れの下端部を後方に押動することにより、背凭れを起立状態に維持し、また押動杆が弾性収縮することにより、座に対する背凭れの後傾を可能とし、前記押動杆の前端部を、弾性伸縮手段の前端部と弾性撓曲手段の下側の前端部とともに、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着した請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
弾性伸縮手段をガススプリングとし、弾性撓曲手段を、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられるようにした板ばねとした請求項1〜3のいずれかに記載の椅子。
【請求項5】
弾性撓曲手段における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部の上面を、座の下面に当接し、座の下向き回動時に、弾性撓曲手段の弾性撓曲部が、座の下面に沿って後方に移行するようにした請求項1〜4のいずれかに記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−255070(P2011−255070A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133747(P2010−133747)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)