説明

椅子

【課題】自然な状態の重心動揺を可能にすると共に、椅子に腰かけた状態でどのような方向に重心移動を伴う動作があった場合にも、重心移動に合わせて任意方向に座面が揺動でき、体への負担を軽減することができる椅子を提供する。
【解決手段】座面を構成する座部70を、椅子の枠体に吊部材60によって吊り下げる。吊部材60は座部70の上方両側に位置する枠体の部分40の一か所に連結され、座部は前後左右を含む任意の方向に揺動可能に支持される。また座部の両側には、座部の揺動を許容するための空間が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等の事務用椅子として好適な椅子に係り、特に椅子の座面が、椅子本体に対し自由に動き、長時間の使用において快適性が高く且つ疲れにくい椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス等で椅子に腰かけた作業を長時間続ける際の、腰や背中にかかる負担を軽減するために、背もたれ部を本体に対し弾発的に固定したものや、座面を前後に移動させる機能を持たせたオフィス用椅子が広く用いられている。
例えば、特許文献1には、座部を脚部に対し分離可能にして、座部の前方の一定周期で昇降させることによって座部の傾斜角度を変化させるようにした傾動椅子が提案されている。また特許文献2には、背もたれ部と座とを一体的に連結し、背もたれの後傾動に連動して座が前進動し、ロッキング状態となる椅子が提案されている。さらに特許文献3には、座面を左右の肘掛に吊り具で吊るし、揺動可能にした椅子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−38283号公報
【特許文献2】特開2006−239078号公報
【特許文献3】特開2006−341042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人は一見静止しているような状態でも、常に重心を動かしてバランスを保っている。このような静的重心コントロール即ち重心動揺(静的重心動揺)は、人が快適な姿勢を保つために不可欠である。一方、人が何らかの動作をしたときにも、それに対し重心をコントロールすることで姿勢を保つようにバランスを取っている。これは通常、動的重心動揺と呼ばれる。
【0005】
しかし、人が椅子に腰かけた状態では、臀部が座面に固定されているため、静的重心動揺の状態を保ちにくい。また椅子に腰かけた状態で何か動作をする場合に、例えば、机上の比較的離れた位置にある電話に手を伸ばしたときや脇机との間で書類を移動させようとしたとき等、自然な形でバランスを取ることが難しく、背中や腰に過度の負担がかかるという課題がある。
【0006】
上述した従来の技術のうち、特許文献1に記載された技術は、常に重心が腰の直下にあることで生じる腰の負担を軽減することができるものの、外部から強制的に加えられる重心移動であるため、自然な状態の重心動揺に比べ快適性に劣り、人によっては集中した作業の妨げとなる。また動的な重心移動により生じる体の負担を解決することはできない。特許文献2に記載された技術では、前後の移動に対しては重心バランスを保ちやすいものの、左右に動きの成分がある重心移動に対しては上記課題を解決することはできない。
【0007】
特許文献3に記載された技術は、座面を吊るした状態になっているため、ある程度自然な重心動揺を実現することができ、且つ、動作に伴う体の移動に対しても重心バランスを保ちやすい設計となっている。しかし、この技術でも、前後の体の移動については考慮されているが、左右成分のある体の移動に対しては、対応できない。
【0008】
なおレジャーやアウトドアで使用する吊椅子として、籠状或いはハンモック状の吊椅子をスタンドに吊るした椅子が知られているが(例えば、特許文献4)、このようなレジャー用の椅子は、吊椅子の揺動範囲が広く、また吊椅子を吊るための大きなスタンドを必要とし、オフィス用の椅子としては全く適していない。
【特許文献4】特開2006−341042号公報
【0009】
本発明は、自然な状態の重心動揺を可能にすると共に、椅子に腰かけた状態でどのような方向に重心を変化させるような体の動きがあった場合にも、動きに合わせて任意方向に座面が揺動でき、体への負担を軽減することができる椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の椅子は、枠体と、座部と、前記座部を前記枠体に対し揺動自在に固定するための吊部材とを備えた椅子であって、前記枠体は、前記座部の両側に位置する一対の側部枠体と、前記座部の後方に位置する後部枠体とを備え、前記座部は、前記一対の側部枠体の各一か所で、前記吊部材に連結され、前記座部の左右方向に、座部の左右方向の揺動を許容する空間を有することを特徴とする。
【0011】
なお本明細書において、椅子に人が腰かけた状態における人の左右方向を椅子の左右方向、人の前後方向を椅子の前後方向と定義する。また椅子が置かれる床面と垂直な方向を上下方向とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の椅子は、座面が枠体に固定されず、前後及び左右を含む任意の方向に揺動可能であり、椅子に腰かけた人の動きに合わせて座面が揺動する。その際、重心の移動が少ないので、重心バランスを保つための筋肉の緊張や骨格への負担を軽減することができる。また人が静的な状態で無意識に行っている重心動揺(静的重心動揺)を、椅子に腰かけた状態でも実現でき、荷重が臀部の一か所に集中することがなく静的重心動揺によって分散されるので、長時間腰かけた状態でも快適な状態を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一実施形態の椅子の全体斜視図
【図2】第一実施形態の椅子を正面側から見た斜視図
【図3】(a)〜(c)は、吊部材の実施例を示す図。
【図4】(a)〜(e)は、座部の動きを説明する図。
【図5】(a)〜(c)は、座部の左右方向の動きを説明する図。
【図6】第一実施形態の椅子のロック機構を示す図。
【図7】第二実施形態の椅子の全体斜視図
【図8】第二実施形態の椅子の正面図
【図9】(a)、(b)は、第二実施形態の側面板の変更例を示す図。
【図10】第三実施形態の椅子の全体斜視図
【図11】第三実施形態の椅子の正面図
【図12】第四実施形態の椅子の全体斜視図
【図13】第四実施形態の椅子の正面図
【図14】第四実施形態の椅子の側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の椅子の各実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
<第一実施形態>
本実施形態の椅子の全体斜視図を図1に、正面側から見た図を図2に示す。
この椅子10は、主な要素として、脚部20と、脚部20に対し上下方向に移動可能に支持された基部30と、基部30の両側に固定された肘掛部40と、肘掛部40の後方に設けられた背もたれ部50と、肘掛部40に連結された吊部材60によって肘掛部40に対し揺動自在に支持された座部70とを備えている。脚部20、基部30、肘掛部40及び背もたれ部50により、この椅子の枠体が構成されている。
【0016】
脚部20は、一般にオフィス用椅子に用いられる脚部と同様の構成とすることができ、図示する実施形態では、鉛直方向に立脚する支持柱21と、支持柱21の下端に固定され、略水平方向に等角度で広がる複数の、図では5本の、脚部材22とからなる。支持柱21の上端には、基部30との間に、公知の昇降機構23が設けられており、基部30及び基部30に固定された肘掛部40の床面からの高さを調整することができるようになっている。また脚部材22の先端にはキャスター24が固定され、椅子の円滑な水平移動を可能にしている。さらに図視していないが、キャスター24には、その回転を抑制するストッパーが設けられており、ストッパーで椅子本体を床面に固定することができる。これにより椅子本来の性能が発揮される。
【0017】
基部30は、水平な板状の部材からなり、通常のオフィス用椅子において座面が設けられる部分であるが、本実施形態では、基部30は、肘掛部40を支持する枠体として機能している。
【0018】
肘掛部40は、やや変形した長方形のリング状の部材であり、上下二つの辺(長方形の一辺に相当する部分であるが、ここでは単に辺という)のうち、一方の辺41が基部30に固定され、他方の辺43が肘掛けとして機能する。肘掛けとなる辺43は、機能に応じた素材で構成することができ、上面は肘掛けに必要な面積が確保されている。リング状の部材の下側の辺41と上側の辺43との距離は、通常の椅子の座面と肘掛との間隔より広く、これら辺41、43との間に、後述する座部70の左右方向の揺動を許容する空間が形成されている。また下側の辺41(座部70に近い側)の長さは、座部70の奥行きより若干大きく形成されており、これにより、座部70が斜め方向に揺動した場合にも、肘掛部40とぶつからないように構成されている。肘掛けとなる上側の辺43の長さは、基部30に固定される辺41の長さより短くてもよい。このような構造とすることにより、椅子全体の大きさを通常のオフィス椅子と同様にコンパクトにして、肘掛部40が邪魔にならずに机(図示せず)との距離を適切に保つことができ、且つ座部70の自由な揺動を確保することができる。
【0019】
背もたれ部50は、上述した一対の肘掛部40の後方に取り付けられる。背もたれ部50は、肘掛部40に対し動かないように固定してもよいし、図示しないスプリング等の弾発的な連結部を介して固定してもよい。図示する実施形態では、背もたれ部50を肘掛部40に固定された固定部51と、肘掛部40に対し弾発的に固定された可動部52とで構成している。固定部51は、肘掛部40を連結することによって枠体全体としての強度を補強する。また可動部52には、好ましくは、クッション性のある材料が用いられ、人の荷重を吸収する役目を持つ。固定部51と基部30との間には、所定の間隔が設けられ、座部70の動きが背もたれ部50によって妨げられないようになっている。
【0020】
座部70は、人が腰かける座面を構成する部材であり、座面として必要な幅と奥行きを有し、好適には、座面になる部分にはクッション性のある材料が用いられる。座部70は、吊部材60によって肘掛部(辺43)40に吊るされ、基部30からは浮いた状態であり、肘掛部40と吊部材60との連結点を支点として、任意の方向に、揺動することができる。吊部材60としては、紐状、棒状、チェーン状など種々の形態のものを使用することができ、座部70の任意方向の揺動を許容するために、少なくとも肘掛部40に連結される側の一端が一点で肘掛部40に連結されることが好ましい。
【0021】
吊部材60による支持構造は、吊部材の具体的な構造や材料に応じて種々の構造を採用することができる。図3に、吊部材60のいくつかの実施例を示す。図3中、(a)は吊部材60が一本の棒状の部材からなる場合を示し、図1及び図2に示す椅子では、この構造の吊部材を採用している。(b)は一本の部材が長手方向の途中で分岐し、2本に分かれた形状(逆Y字形状)を有する場合、(c)は棒状の部材と半円形の板状部材を接合したものを示している。
【0022】
吊部材60と肘掛部40及び座部70との連結手段は、連結箇所を中心とする吊部材60の各方向への回動を可能にする方法であれば、公知の種々の手段を採用することができる。図3に示すように、吊部材60として剛性のある材料を用いている場合には、一例として、その一端をボール状にして、肘掛部40とボールジョイントで連結することができる。また座部70に連結される部分は、リング状で貫通孔を形成し、座部70側に取り付けられた取付具を貫通孔に通して連結することができる。肘掛部40の連結部と座部70の連結部の構造は異なっていてもよいし、両者を同じ構造にしてもよい。このような連結により、座部70は、肘掛部40に対し、前後方向及び左右方向のいずれにも、自由に揺動することが可能となる。また吊部材60の一端61が肘掛部40の一か所に固定されていることから、前後方向の揺動において、座面は平行移動するのではなく、一か所(一点)を中心とする円弧状の移動となる。
【0023】
図4に、本実施例における座部70の動きの様子を示す。図4(a)及び(b)は座部70が前後に揺動する状態、(c)は左右に揺動する状態、(d)及び(e)は斜めに揺動する状態である。前後方向の揺動では、座面は、上述したように、両肘掛部40の吊部材連結箇所P1を中心とする円弧状を、ブランコと同様に揺動する。従って、例えば椅子に腰かけている人が、前方に手を伸ばす等の動作によって上半身が前方に移動すると、座面は後方に移動する。椅子に腰かけた人の重心の位置(高さ)は、座面より高く、肘掛部の吊部材連結点の位置(高さ)近傍にあるので、座面が円弧状に移動したとき重心位置はほぼ変わらず、バランスを取るための無理な姿勢やそれによる体への負担を軽減することができる。
【0024】
左右方向についても同様であるが、左右方向の揺動については、座面の動きは平行移動または平行移動に近い動きであり、また、両肘掛部40の間隔(より厳密には、図5に示すように、吊部材連結箇所P1、P1間の間隔であるが、以下、省略して両肘掛部40の間隔L1という)と、座部70の左右方向の幅(より厳密には、両側の吊部材連結箇所P2、P2間の間隔であるが、以下、省略して、座部70の幅L2という)との関係によって、若干、揺動の仕方が異なる。例えば、図5(a)に示すように、両肘掛部40の間隔L1と座部70の幅L2とが等しいときには、座面71は左右方向に平行を保って揺動するが、図5(b)に示すようにL1>L2のとき、及び図5(c)に示すようにL1<L2のときは、座面は傾きを持ち、L1>L2のときには揺れる側に座面が下がり、L1<L2のときは揺れる側に座面が上がる。この傾きによって人が受ける感覚は人によって異なるので、一概に優劣を決めることはできないが、重心位置の安定性という観点からは、図5(c)の場合が、体位の変化に対し最も重心変動が少なく、人は安定した感覚を持つので好ましい。一方、図5(b)の場合は、傾きが人の動作に伴う重心移動を助ける方向に働くので、椅子に腰かけた状態で上半身の動作を頻繁に伴うような作業を行う場合には好適である。
【0025】
以上、図1及び図2を参照して、本発明の第一実施形態の椅子を説明したが、本実施形態は、図1及び図2に示すものに限定されず、各要素や連結構造について種々の変更が可能である。
【0026】
例えば、図1及び図2では、吊部材60が1本の棒状部材からなる場合を示したが、図3(b)に示したように、一端側が2本或いはそれ以上の本数に分かれた棒状の部材を用いる場合を用いてもよいし、図3(c)に示すように、板状にして、板の下端の数か所をリング状部材を介して座部70に連結するようにしてもよい。なお、座部70側の連結箇所の数或いは複数ある場合には連結されている範囲によって、座部70の姿勢の安定性は異なる。例えば、一か所で連結した場合には、重心の小さな前後方向の移動によって座部70が大きく傾斜し、姿勢が不安定になるが、二か所以上で連結した場合には、その両端の連結位置の範囲内での重心の移動では、座部70が傾くことはなく、その両端の連結位置の距離が大きいほど、姿勢が安定する。従って、使用する人の感覚やデザインに応じて、適宜、吊部材60を選択すればよい。なお、図1及び図2に示す実施形態では、座部70の下方に基部30があるので、吊部材の上下一か所で連結していても、重心移動による座部70の大きな傾斜は防止される。
【0027】
図3では、吊部材60として剛性のある構造を示したが、吊部材は、人の重量を支えることが可能な強度を持つ材料であれば、ロープやチェーン等の可撓性のある材料から構成することも可能である。このような材料を用いた場合には、肘掛部40及び座部70への連結は、吊部材自体に形の自由度があるので、単に、連結部分にあけた穴にロープを通し、結び目を作って固定する、座部を構成する2枚の板材でロープを上下から挟みこんで座部に固定するなど、連結構造についても種々の構造を採用することができる。またロープ等の長さを変えることにより、肘掛部40と座部70との距離を容易に調整することができる。
【0028】
また座部70の揺動をロックする機構を設けてもよい。ロック機構としては、例えば、図6に示すように、基部30の両横にロック部材75を蝶番76で連結するとともに、ロック部材75が係合する係合穴77を座部70に設けることができる。座部70を固定するときには、ロック部材75を蝶番76の周りに回転させて、その自由端側を係合穴77に嵌めこむ。またロック部材75を蝶番76の周りに回転させることによりロック状態を解除することができる。このようなロック機構を設けることにより、座面を本体に対し固定することができ、着座の際の安定性を高めることができる。ロック機構としては、図示するものに限らず、座部70を枠体に対し固定する固定手段であればよく、吊部材60の肘掛部40に対する自由回転をロックする手段なども採用することができる。
【0029】
本実施形態によれば、座部を肘掛部に対し左右各一か所で支持する構造とし、且つ座部の水平方向の周囲に、座部が略平行移動できる空間を設けたことにより、座部は他の構造体及び床面に対し、任意の方向に揺動可能な状態即ち浮いた状態になっているので、重心を常に僅かに移動させて静的状態をバランスさせるという人の生理にかなった静的重心動揺を実現することができるとともに、椅子に座った状態で、体を前方に乗り出したり、体をひねったりすることによって、重心位置が座部(中心)の直上から大きくずれた場合にも、そのずれの方向と逆方向に座部が揺動することによって重心を常に一定の範囲(静的動揺の範囲)内に保つことができる。従って、このような動作を行うことによる体への負担を軽減し、長時間、快適な状態で作業を続けることができる。
【0030】
また本実施形態によれば、肘掛部の下辺を座部よりも下方に位置させるとともに、その長さを座部の奥行き方向よりも長くすることにより、従来のオフィス用椅子と同様のコンパンクトな形状を保ちながら、座部の左右方向及び斜め方向の揺動を可能とすることができる。
【0031】
<第二実施形態>
本実施形態の椅子の全体斜視図を図7に、正面図を図8に示す。本実施形態の椅子は、板材で組み立てられた椅子であり、一対の側面板81と、これら側面板81を連結する3つの横板82、83及び84と、両側面板81の間に、吊部材60によって吊られた座部(座板)70とから構成されている。
【0032】
側面板81は略台形の形状を有し、椅子の脚部と側部とを兼ねる枠体である。両側面板81を連結する横板82〜84は、左右方向の幅が、順に大きく、これにより、側面板81は面方向が平行ではなく、下部に向かって広がる形状を有している。これによって、側面板81の上方位置で座板70を吊り下げたときに、座板70と側面板81との間に空間が生まれ、座板70の左右方向の揺動が可能となる。
【0033】
最上部に設けられる横板82は、板面方向がほぼ垂直方向となるように側面板81に固定されており、背もたれ部として機能する。側面板81に対する横板82の固定を軸を中心に回転可能な固定方法とすることにより、背もたれ部の角度の調節が可能となる。或いは、回転自在に固定した場合には、人がもたれた時の角度に合わせて回転させることができる。座板70の下方に設けられる2つの横板のうち、一方(横板83)は、板面が略水平に固定されており、構造の補強とともに、足置きを兼ねることができる。横板82と84との間は、座板70が前後に揺動するときの空間となっている。
【0034】
吊部材60及びその連結構造は、第一実施形態と同様のものを使用することができるが、図示する実施形態では、ロープが用いられている。一方、座板70の両側には、それぞれ二か所に穴が形成されており、一本のロープの両端部を別々に異なる穴の下から上に通し、穴の上の部分でまとめて一本にして側面板81に固定した構造にしている。固定はビス止めでもよいし、側面板81に固定したフックにロープの端部をリング状にして引掛けるようにしてもよい。図では、各側面板81について、それぞれ、1つの吊部材連結点(穴)を形成した場合を示しているが、異なる位置(例えば高さ)に2以上の穴を形成し、揺動の中心点である吊部材連結点の位置を調節可能にすることも可能である。
【0035】
本実施形態の椅子においても、第一実施形態と同様に、座板70は、枠体である側面板81や横板82〜83に対し、任意の方向に揺動することができ、同様の効果を得ることができる。また本実施形態の椅子は、主要な構造が板材のみから構成されており部品点数も少ないので、ユーザーが組み立てる組み立て式の椅子としても利用することができる。さらに本実施形態の椅子は、側面板81で座部を吊り下げるようにしているので、側面板81の高さの範囲で吊り下げる位置を調節することができ、使用者に合わせた位置で座面を揺動させることができる。
【0036】
本実施形態についても、図示するものに限定されず、個々の要素について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。例えば、側面板81として、平坦な板材を用いた場合を示したが、図9(a)に示すように、座板70の左右方向の揺動を許容するための大きな開口部を設けたものを用いたり、図9(b)に示すように、下方に行くに従って両側面板81間の間隔が広がるような曲面或いは段差部を持つ板材を用いたりすることも可能である。さらに座板70の揺動を妨げない範囲で、側面板81に肘掛部を設けることも可能である。
また座部70の横幅や側面板81間の間隔を調整することによって、吊部材の両上端の間隔(図5のL1)と、両下端の間隔(図5のL2)の関係を、デザインや使用者の好みに合わせて、図5の(a)〜(c)に示すように、適宜変更してもよい。
さらに第一実施形態と同様に、座部70を側面板81に固定し、座部70の揺動をロックする機構を設けることも可能であり、これにより着座の際の安定性を高めることができる。
【0037】
<第三実施形態>
本実施形態の椅子の全体斜視図を図10に、正面図を図11に示す。本実施形態の椅子は、脚部及び背もたれ部が一体に形成された枠体80と、枠体80に対し上下方向の位置を調整可能に固定された肘掛部40と、肘掛部40に、吊部材60によって吊られた座部70とから構成されている。
【0038】
枠体80は、バルク状の部材で、その底面が床に当接し、底面で全体を支える構造になっている。底面に対しほぼ垂直な部分が背もたれ部80aを構成し、背もたれ部81の下方の両端から前方に延びる部分がそれぞれ脚部80bを構成している。背もたれ部80aの上方、座部70に腰かけた人の肩から首に相当する範囲にクッション性のある背もたれ部材80cが固定されている。背もたれ部80aの両側面には、肘掛部40を上下方向に移動可能に支持する機構が形成されている。このような機構としては、例えば、肘掛部40側に設けたピンがスライド可能に係合する上下方向に長い溝(穴)であって、上下方向の複数の位置にピンが係合して固定される凹部を設けたものや、ピニオンとラックの組み合わせなど公知の機構を採用することができる。
【0039】
肘掛部40は、アーム状の部材からなり、上述のように、背もたれ部80aに対する位置を調整可能に支持されている。肘掛部40の長手方向の中央よりやや前方には吊部材60を連結するための機構が設けられている。連結機構としては、第一実施形態または第二実施形態と同様の機構を採用することができるが、図示する実施例では、ボールジョイント(図示せず)が用いられている。即ち、吊部材60の端部はボール状に形成され、肘掛部40の下面の内部にはボール軸受が形成されている。これによって、吊部材60は任意の方向に揺動することができる。
【0040】
座部70は、その側面を左右2つの吊部材60の下端部に連結されており、その状態で座部70の後方端部と枠体80の背もたれ部80aとの間には座部70の後方への揺動を許容する隙間が形成されている。これによって枠体80からは浮いた状態に保たれ、前後、左右、斜めいずれの方向にも揺動することができる。
従って、本実施形態においても、第一及び第二の実施形態と同様に、椅子に腰かけた状態で種々の動作を行った場合にも、重心移動が少なく、重心バランスを保つための筋肉の緊張を軽減し、快適な状態を持続させることができる。
【0041】
なお本実施形態の椅子についても、吊部材60の材料や、吊部材60と枠体80及び座部70との連結構造は、図示する実施例に限定されることなく、種々の変更が可能である。また枠体80の形状についても、座部70の揺動を妨げない形状であれば、デザインや材料を考慮した種々の変更が可能である。さらに座部70の揺動をロックする機構を設けることも可能である。
【0042】
<第四実施形態>
本実施形態の椅子の全体斜視図を図12に、正面図及び側面図を、それぞれ、図13及び図14に示す。本実施形態の椅子は、肘掛部と脚部とを兼ねた一対の枠体90と、これら一対の枠体90を連結する後部板91と、一対の枠体90の間に、吊部材60によって吊られた座部70とから構成されている。
【0043】
枠体90は、金属製のパイプなどからなるリング状の部材で、人が座部70に腰かけたときに、人の肘を載せることができる高さを有し、床に接する部分には棒状の部材92が固定されている。なお図では示していないが、枠体90の肘を載せる部分すなわち肘掛部となる上面には、肘を載せやすい形状の肘当てなどを取り付けてもよい。
【0044】
後部板91は、リング状の枠体90と同じ半径の円筒をその軸に沿って切断した部分円筒のような形状を有し、両側の枠体90を連結している。なお後部板91を1枚の板で構成するのではなく、複数の細い板やパイプやそれらの組み合わせで構成することも可能である。また、後部板91は、それ自体が背もたれ部として機能することも可能であるが、図示する実施形態では、別の背もたれ部95を、後部板91に対し着脱自在に固定している。図14に示す例では、背もたれ部95は、後部板91に固定するための差し込み部96を有し、後部板91の背面に固定されたポケット97にこの差し込み部を差し込むことにより、後部板91に対し着脱自在に固定することができるようになっている。背もたれ部95は差し込み部96の上端に軸支されており、差し込み部96に対する角度を自由に変えることができるように構成されている。これにより、人が背もたれ部にもたれた時に、人の姿勢に応じた角度で人の背中に当接することができる。
【0045】
リング状の枠体90の内周面の最上部には、リング状の吊部材取付具63が固定されており、座部70は、この取付具63に吊部材60によって取り付けられる。図示する例では、吊部材60は、図3(b)に示すような形状を有し、逆Y字状の部材の一端61が取付具63に連結され、2本に分かれた他端が座部70に連結されている。
【0046】
本実施形態においても、第一及び第二の実施形態と同様の効果が得られ、さらに、本実施形態では、主な構造体である枠体が、リング状の部材で構成されているので、軽量で解放感がある。
本実施形態においても、枠体90や後部板91の形状は、座部70の揺動を妨げない範囲でデザイン性や構造の強化などを考慮して、自由に変更することができる。また座部70の揺動をロックする機構を設けることも可能である。
【0047】
以上、本発明の椅子の各実施形態を説明したが、これら実施形態に限定されることなく、材料、サイズ、接合部の構造、デザインなどを変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の椅子は、特にオフィス内で使用する事務用椅子として好適であるが、本発明の椅子は、食堂や図書館などの椅子としても使用できる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・椅子、20・・・脚部、30・・・基部、40・・・肘掛部、50・・・背もたれ部、60・・・吊部材、70・・・座部、80、90・・・枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、座部と、前記座部を前記枠体に対し揺動自在に固定するための吊部材とを備えた椅子であって、
前記枠体は、前記座部の両側に位置する一対の側部枠体と、前記座部の後方に位置する後部枠体とを備え、
前記座部は、前記一対の側部枠体の各一か所で、前記吊部材に連結され、前記座部の左右方向に、座部の左右方向の揺動を許容する空間を有することを特徴とする椅子。
【請求項2】
請求項1に記載の椅子であって、
前記側部枠体は、リング状の部材であって、前記座部の揺動を許容する空間は前記リング状部材で囲まれる空間であることを特徴とする椅子。
【請求項3】
請求項1に記載の椅子であって、
前記側部枠体は、板状の部材であって、前記座部の側面との間に、前記座部の揺動を許容する空間を有することを特徴とする椅子。
【請求項4】
請求項1に記載の椅子であって、
前記側部枠体は、前記後部枠体の両側に固定されたアーム状部材であることを特徴とする椅子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の椅子であって、
各側部枠体の、前記吊部材が連結される連結点間の間隔と、前記座部の両側の、前記吊部材が連結される連結点間の間隔とが、異なることを特徴とする椅子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の椅子であって、
さらに、前記側部枠体における前記吊部材の連結点と、前記座部における連結点との距離を調節する機構を備えたことを特徴とする椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−223284(P2012−223284A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92169(P2011−92169)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(511097441)
【Fターム(参考)】