植栽基盤およびその製造方法
【構成】 植栽基盤10はセメント12内にパルプスラッジ14を混練して形成され、このパルプスラッジ14はセメント12内に連続した空間を形成し、パルプスラッジ14に接するセメント12表面が弱アルカリ性である。
【効果】 パルプスラッジ14は植物の根張空間として利用され、分解されて養分となり、その毛細管現象により水分を吸収し、しかもその微細空間構造により酸素を有するため、パルプスラッジ14は植物の根に栄養分、水分および酸素を供給する。また、弱アルカリ性の環境下により水分を腐敗し植物の生育を阻害する嫌気性微生物の発生を予防し、適切な植物の生育環境を提供する。
【効果】 パルプスラッジ14は植物の根張空間として利用され、分解されて養分となり、その毛細管現象により水分を吸収し、しかもその微細空間構造により酸素を有するため、パルプスラッジ14は植物の根に栄養分、水分および酸素を供給する。また、弱アルカリ性の環境下により水分を腐敗し植物の生育を阻害する嫌気性微生物の発生を予防し、適切な植物の生育環境を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植栽基盤およびその製造方法に関し、特にたとえば、植物の生育に用いられる、植栽基盤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植栽基盤の一例が、特許文献1に開示されている。この特許文献1の緑化基盤用コンクリート多孔体では、コンクリートの表面にポリ(N−ビニルアセトアミド)などの保水性高分子が混合されている。
【特許文献1】特開平9−263462号公報[C04B 38/00、A01G 1/00、A01G 7/00、C04B 16/04]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の保水性高分子は保水性に優れるが、蒸散性に劣る。このため、水分の過剰供給による根腐れや基盤自体の温度上昇に起因する植物の生育不良などをもたらす恐れがある。
【0004】
それゆえに、この発明の主たる目的は、植物を良好に生育することができる、植栽基盤およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、無機系固化材を基材とし、水分を補給して植物を栽培する植栽基盤において、生分解性繊維が混練された無機系固化材に好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すようにしたことを特徴とする、植栽基盤である。
【0006】
請求項1の発明では、生分解性繊維は微細空間構造を有する。かかる生分解性繊維を無機系固化材に混練することにより、植栽基盤内に連続した空間を形成される。植物は、こうして形成された空間に根を張る。
【0007】
また、水分は毛細管現象により生分解性繊維内に吸収される。吸収された水分の一部は植物の根に供給され、吸収された水分の他の一部は植栽基盤内を移動して植栽基盤の表面から蒸散する。植栽基盤の温度上昇は、水分の移動や蒸散によって抑制される。
【0008】
この無機系固化材に施された特定処理により、水分または植物の根を腐敗させる原因となる嫌気性微生物の繁殖が抑制される。好気性微生物の繁殖は嫌気性微生物の繁殖ほど抑制されず、好気性微生物によって生分解性繊維の分解は促進される。植物は、分解された物質を養分として生育する。
【0009】
請求項2の発明は、好気性微生物および嫌気性微生物の各々は細菌を含み、特定処理によって細菌の繁殖を抑制する、請求項1記載の植栽基盤である。
【0010】
請求項2の発明では、微生物は細菌、糸状菌および放線菌を含む。特定処理はこの微生物の中でも細菌に影響を与え、好気性細菌に比べて嫌気性細菌の繁殖をより大きく抑制する。
【0011】
請求項3の発明は、特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を7.5〜8.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤である。
【0012】
請求項3の発明では、補給された水分はpH値が7.5〜8.0の範囲で調整された無機系固化材の表面に接することで弱アルカリ性を示す。嫌気性細菌の繁殖は、かかる弱アルカリ性の水分の存在によって抑制される。
【0013】
請求項4の発明は、特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を8.0〜9.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤である。
【0014】
請求項4の発明では、無機系固化材の表面のpH値を高めて8.0〜9.0にすれば、嫌気性細菌だけでなく、好気性細菌も影響を受けて、細菌全体の繁殖が抑制される。細菌の数が減れば、細菌の餌になる糸状菌の繁殖が促される。これにより、糸状菌と共生する高山植物や海浜植物の育成が可能となる。
【0015】
請求項5の発明は、無機系固化材はポルトランドセメントであり、特定処理は固化したポルトランドセメントの表面のアルカリ性を中和させる処理である、請求項1ないし4のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0016】
請求項5の発明では、ポルトランドセメントは概ね11〜12のpH値を有する。中和処理によって、無機系固化材の表面のpH値は7.5〜9.0の範囲に収まる。なお、ポルトランドセメントは汎用性が高く、製品の低コスト化が図られる。
【0017】
請求項6の発明は、生分解性繊維は少なくとも45%の体積比を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0018】
請求項6の発明では、45%の体積比を有する量の生分解性繊維を無機系固化材に混練することで、植栽基盤は十分な量の水分を保持することができる。
【0019】
請求項7の発明は、生分解性繊維は植物系繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0020】
請求項7の発明では、植物系繊維は、植物の生育に必要な栄養素の多くを含む。かかる繊維は、好気性微生物などにより分解され、植物の生育を促す養分となる。また、植物系繊維の主成分であるセルロースは、水分を非晶領域に収める。つまり、水分は繊維によって形成された空間だけでなく、非晶領域にも収められる。これにより、保水性は向上する。
【0021】
請求項8の発明は、生分解性繊維は鉱物繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0022】
請求項8の発明では、鉱物繊維はカルシウム、鉄、マグネシウムなどミネラルを含む。かかる繊維もまた、好気性微生物によって分解され、あるいは風化し、植物の生育を促す養分となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、無機系固化材に生分解性繊維を混練し、好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すことにより、植物を良好に生育することができる。
【0024】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に示すこの発明の一実施例である植栽基盤10は、無機系固化材12内に生分解性繊維として植物系繊維14を混練して形成される。
【0026】
植物系繊維14は植物やパルプなどから化学的または物理的方法により取り出された繊維である。この植物系繊維14にたとえばパルプスラッジを用いるが、パルプや布、糸などを用いることもできる。無機系固化材はセメント12や石膏などである。セメント12は、たとえばポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントまたはシリカセメントなどアルカリ性のセメントである。
【0027】
植栽基盤10の製造では、ポルトランドセメントペースト12と水分とを、たとえば12対5の割合で混ぜる。そこに所定の割合のパルプスラッジ14を混練し、ブロック状に形成する。それを特定処理し、固化させる。特定処理はたとえば中和処理であり、セメント12が固化した後に行ってもよいし、セメント12が固化する前や固化する前後にわたって行ってもよい。この中和処理により、少なくとも固化したセメント12の表面のpH値を7.5〜8.0の弱アルカリ性に調整して、好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する。すなわち、微生物には主に細菌、糸状菌および放線菌があり、この内の細菌はpH値に影響を受けやすい。また、嫌気性微生物の多くは細菌である。このため、パルプスラッジ14に吸収された水分をpH値が7.5〜8.0のセメント12表面により弱アルカリ性にすれば、嫌気性細菌は弱アルカリ性の水分に影響を受けて、その繁殖は抑えられる。この弱アルカリ性の水分により好気性細菌の繁殖も抑制されると考えられるが、一般に好気性細菌は酸素を使って強力なエネルギを獲得して、嫌気性細菌より強く、弱アルカリ性の水分内でも強力な一部の好気性細菌は生き残るため、好気性細菌は嫌気性細菌に比べて繁殖する。また、好気性微生物である糸状菌および放線菌は水分のpH値にあまり影響を受けないため、これらの繁殖は抑制されない。したがって、糸状菌、放線菌、および生き残った一部の好気性細菌はパルプスラッジ14を有機養分に分解する。死んだ細菌はそれ自体が分解されて窒素などの養分となる。
【0028】
このような植栽基盤10に水分を補給して、植栽基盤10の上から種を撒くと、種はパルプスラッジ14から水分を吸収し、パルプスラッジ14内に根を進入させる。そして、植物の根はセメント12内に連続した空間を形成するパルプスラッジ14を通じて植栽基盤10内に進入する。このとき、パルプスラッジ14は多種類の好気性微生物の植物連鎖によりまず糖類やたんぱく質などに分解され、これを基にさらに空気、水または植物の根からの分泌物などが加えられて、炭酸ガス、アンモニア、硝酸塩、リン酸塩などの無機物に変換される。そして、これらは植物が生育するための養分となって、植物の根に吸収される。
【0029】
また、パルプスラッジ14は多数の細い繊維が絡み合って形成されることにより、繊維の間に多くの微細な空間が形成されている。このため、水分はパルプスラッジ14の繊維間の空間に入りパルプスラッジ14の大きさは変化せず、セメント12は破壊されない。また、繊維間の空間には多くの酸素も存在する。この酸素は植物の根から吸収されて植物の生育に役立つばかりでなく、好気性微生物を活性化し、反対に酸素が存在すると生息が困難な嫌気性微生物の発生を抑制する。このため、繊維間の空間は好気性微生物などの菌類が生育する空間となる。
【0030】
このようにして植物が成長すると、植栽基盤10をそのまま土の中に埋めてもよい。土の中に埋めると、植物は植栽基盤10から土へ根を延ばしてさらに成長し、自然物に由来するパルプスラッジ14は分解されて土に戻る。
【0031】
このように、セメント12内に連続した空間を形成するパルプスラッジ14は植物の根張空間および水分の移動通路として利用される。
【0032】
このパルプスラッジ14は植物に由来するので、植物が生育するための成分を有しており、分解されると植物生育のための養分になる。また、パルプスラッジ14は微細空間構造を有するため、毛細管現象により水分を吸収してその水分を植物の根に供給し、かつ多数の空間に存在する酸素も根に供給する。このため、パルプスラッジ14は植物生育に必要な栄養分、水分および酸素を供給することができる。
【0033】
そして、植物が成長した植栽基盤10を土に埋めれば、植物をさらに成長させることができ、しかも植栽基盤10中の生分解性繊維のパルプスラッジ14は分解されて土に戻るため、環境に負荷を与えない。
【0034】
また、パルプスラッジ14が水分を吸収すると、パルプスラッジ14内の微細空間およびパルプスラッジ14の主成分であるセルロースの非晶領域に収められる。水分がセルロースの非晶領域に収められることにより、パルプスラッジ14の体積が増えるが、体積の増大はパルプスラッジ14内の多数の微細空間で緩和されるため、パルプスラッジ14全体の寸法は大きく変化しない。このため、パルプスラッジ14の吸水分によりセメント12は破壊されず、植栽基盤10の強度は低下しない。
【0035】
この吸収された水分は植栽基盤10表面のパルプスラッジ14から蒸散するため、植栽基盤10の温度上昇が抑えられる。
【0036】
さらに、パルプスラッジ14に接するセメント12の表面をpH値7.5〜8.0にすればパルプスラッジ14内の水分のpH値は高くならない。このため、セメント12のpH値を調整した高価なセメント12を用いたり、pH値調整剤などを用いてセメント12のpH値を調整したりしなくても、アルカリ性のポルトランドセメントを用いて、少なくともセメント12の表面を中和処理するだけで、適当なpH値の水分を得ることができる。したがって、簡単かつ安価に植物生育基盤を製作できる。
【0037】
さらに、弱アルカリ性の水分は嫌気性微生物などの発生を抑え、植物の健全な生育を妨げる水分の腐食を防ぐことができる。
【0038】
セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合に関して植栽基盤10の性質を調べた。この結果、植栽基盤10の吸水分率を図2に、植栽基盤10の内部温度を図3および図4に、植栽基盤10のpF値を図5〜図7に、植栽基盤10の有効水分保持量を図8に示す。
【0039】
図2の植栽基盤10の吸水分率測定に、セメント12に20〜80(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いた。まず、植栽基盤10全体を水分に浸漬させて、それから1分、2分、5分、60分、720分、1440分後に植栽基盤10を取り出してその重量を測定する。そして、そこから植栽基盤10の初期重量を引いて植栽基盤10の吸水分量を求め、さらにその吸水分量を初期重量で割って植栽基盤10の単位体積あたりの吸水分率(g/l)を算出した。
【0040】
この測定結果によれば、セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の吸水分率は大きく、初期の時間に対する吸水分率の傾きが大きい。このため、植栽基盤10のパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の吸水分量および吸水分速度は大きいことがわかる。
【0041】
図3〜図8に示す植栽基盤10の試験では、サンプル(1)としてセメント12に0(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(2)としてセメント12に20(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(3)としてセメント12に50(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(4)としてセメント12に80(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いた。
【0042】
図3の植栽基盤10の温度測定では、測定を始める前に、まず各サンプルを12時間水に浸漬してサンプルのパルプスラッジ14に水分を飽和させた。測定第1日目の午前9時にこれを屋外に並べて放置し、サンプルの内部温度を測定した。この測定結果によれば、サンプル(1)の温度は全サンプルの中で最も高く、サンプル(1)およびサンプル(2)はほぼ一日中気温より高い温度を示した。これに対して、サンプル(3)およびサンプル(4)の温度は気温より低く、ほぼ同程度の温度を示したが、13時ごろからサンプル(3)の温度はサンプル(4)の温度より高くなり始めた。
【0043】
図4の植栽基盤10の温度測定では、図3のサンプルに水分を与えずに引き続き、測定第2日目のサンプルの内部温度を測定した。この測定結果によれば、サンプル(1)、サンプル(2)およびサンプル(3)の温度は気温より高い温度を示し、その中でもサンプル(1)の温度が最も高く、サンプル(3)の温度が最も低かった。サンプル(4)の温度は気温とほぼ同等の温度を示していたが、13時ごろから温度が上昇し始めた。
【0044】
図3および図4によれば、セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の温度は低く、長時間にわたって温度上昇は抑えられた。植栽基盤10の温度が低いのは、パルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10内に保持される水分量が多いため、多くの水分が蒸散して植栽基盤10の温度が低下したからであると思われる。また、植栽基盤10の温度上昇が長時間にわたって抑えられたのは、パルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10内のパルプスラッジ14の連続性が良く、水分は植栽基盤10内から表面へ移動して長時間にわたって蒸散したからであると思われる。
【0045】
次に、サンプル(2)、サンプル(3)およびサンプル(4)の有効水分保持量を図5〜図7より求める。1.8〜3.0のpF値を示す水分量は有効水分保持量と言い、植物の生育に適した水分量である。図5よりサンプル(2)の有効水分保持量aは0.1(g/100cc)つまり1(l/m3)で、図6よりサンプル(3)の有効水分保持量bは10.2(g/100cc)つまり102(l/m3)で、図7よりサンプル(4)の有効水分保持量eは18.1(g/100cc)つまり181(l/m3)である。有効水分保持量に関して、「財団法人 日本造園学会」で提案された「緑化基盤土壌の評価因子とその分級」によれば、有効水分保持量が80〜120(l/m3)の緑化基盤土壌の分級は「良」であり、120(l/m3)以上の緑化基盤土壌の分級は「優」である。サンプル(3)の有効水分保持量は「良」を示し、サンプル(4)は「優」を示すため、サンプル(3)およびサンプル(4)は緑化基盤土壌として適していると評価できる。
【0046】
この「緑化基盤土壌の評価因子とその分級」により「良」となるパルプスラッジ14の配合割合を図8から求める。「良」を示す有効水分保持量:80(l/m3)では、パルプスラッジ14の配合割合は約45(体積%)である。よって、有効水分保持量の点からセメント12に45(体積%)以上のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10は緑化基盤土壌として適していると評価できる。
【0047】
なお、生分解性繊維として植物繊維の代わりにまたは植物繊維と共に鉱物繊維も用いることができる。鉱物繊維は、たとえばロックウール、スラグウール、ガラスウール、セラミックウールなどの人造鉱物繊維やセピオライトなどの天然鉱物繊維がある。このような鉱物繊維は酸化ケイ素などを主成分とし、カルシウム、鉄、マグネシウムなど植物の生育に必要な成分を含む。このため、鉱物繊維は風化したり細菌により分解されたりして、植物の養分となる。
【0048】
また、植栽基盤10にセメント12を使用したが、セメント12に砂や石などを加えたモルタルやコンクリートなどを使用してもよい。モルタルやコンクリートを用いることにより強度を必要とする場所にも植栽基盤10を用いることができる。また、セメント12に炭などを配合してもよい。
【0049】
さらに、パルプスラッジ14およびセメント12は固化するまで簡単に変形するため、図9に示す時計16の枠に用いたり、図10に示すペンたて18の一部に用いたりすることができる。また、ブロックにしたりそのまま吹き付けたりして屋上や壁に敷くと、植栽基盤10としてだけでなく、ヒートアイランド現象の対策としても用いられる。さらに、挿し木の切断面にカルスができにくく、一般的に挿し木が難しいとされている桜も、植栽基盤10の軟らかい間に挿し木をすれば、植栽基盤10の嫌気性微生物抑制作用により切断面は腐食しない。このため、切断面にカルスができなくても桜の挿し木から根を出すことができる。
【0050】
さらに、植栽基盤10のpH値が7.5〜8.0であるのに対して、植栽基盤10のpH値を8.0〜9.0に高めてもよい。このセメント12表面のpH値が高い植栽基盤10は高山植物または海浜植物などの生育に利用される。すなわち、上記の通り、植栽基盤10のpH値を7.5〜8.0にすれば、強力な好気性細菌の一部は生き残ることができるため、好気性細菌に比べて嫌気性細菌の繁殖は抑制された。これに対して、セメント12の表面のpH値を8.0〜9.0に高めれば、嫌気性細菌だけでなく強力な好気性細菌の繁殖も抑制され、細菌全体の繁殖が抑制される。このため、細菌の餌になる糸状菌の繁殖が促され、糸状菌と共生する高山植物や海浜植物の育成が可能となる。
【0051】
このpH値を8.0〜9.0に高め、セメント12に50(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いて、約1ヶ月の温度変化を測定した。この際、一般の素焼きの鉢を基準として用い、植栽基盤10と同じ条件で温度を測定した。この測定では、まず植栽基盤10および素焼きの鉢に水分を十分に与えて、これらを屋外に放置して、1日のこれらの表面の最高温度および最低温度を毎日測定した。この結果、図11によれば、より常に低く、約1ヶ月の植栽基盤10と素焼きの鉢との平均最高温度の差は3.1度であった。また、図12によれば、植栽基盤10の最低温度は素焼きの鉢の最低温度より僅かに低く、約1ヶ月の植栽基盤10と素焼きの鉢との平均最低温度の差は0.19度であった。この平均最高温度の差:3.1度と平均最低温度の差:0.19度とを足して2で割って、一日の植栽基盤10と素焼きの鉢との温度差:1.645度とした。つまり、1日を通して平均1.645度、植栽基盤10の温度は素焼きの鉢の温度より低い。このため、植栽基盤10内の温度は気温より1.645度低いと考えられる。このことに基づいて、植栽基盤10内の暖かさの指数を求めた。
【0052】
暖かさの指数は月の平均気温が基準温度を越える月を植物が生育できる期間と仮定して算出される一種の積算温度であり、植物の分布帯と関係すると考えられている。具体的には、月平均気温が基準温度を越す月の平均気温から基準温度を引いた値を積算して求められる。この場合、基準温度を5度とし、気温に京都府の平成14年12月〜平成15年11月の気温を用いた。この結果、表1より京都府の1年間の暖かさ指数は、京都府の各月の平均気温から基準温度の5度を引いた値を積算して求められ、128である。これに対して、植栽基盤10内の温度は気温より1.645度低いと考えるため、各月の植栽基盤10内の平均温度は京都府の各月の平均気温から1.645度を引いた値である。そして、表2より植栽基盤10の暖かさの指数は、この値から基準温度の5度を引いた値を積算した、112である。したがって、植栽基盤10の暖かさ指数:112は京都府の暖かさ指数:128より16低いため、京都府にいながら16低い暖かさ指数で育つ高山植物をこの植栽基盤10で育てることができる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
また、パルプスラッジ14の配合割合を変えることにより植栽基盤10内の温度を調整することができる。このため、パルプスラッジ14の配合割合および上記の通りセメント12の表面のpH値を調整することにより、多くの種類の植物を植栽基盤10で育てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の一実施例の植栽基盤を示す断面図である。
【図2】植栽基盤のセメントに対するパルプスラッジの配合割合と、植栽基盤の単位体積当たりの吸水分率との関係を示すグラフである。
【図3】測定第1日目の植栽基盤の内部温度の経時変化を示すグラフである。
【図4】測定第2日目の植栽基盤の内部温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】セメントに対して20(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図6】セメントに対して50(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図7】セメントに対して80(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図8】植栽基盤のセメントに対するパルプスラッジの配合割合と、植栽基盤の有効水分保持量との関係を示すグラフである。
【図9】時計の枠に植栽基盤を用いた状態を示す斜視図である。
【図10】ペンたての一部に植栽基盤を用いた状態を示す斜視図である。
【図11】1ヶ月の植栽基盤および素焼きの鉢の最高温度、ならびに最高気温を示すグラフである。
【図12】1ヶ月の植栽基盤および素焼きの鉢の最低温度、ならびに最低気温を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
10…植栽基盤
12…セメント
14…パルプスラッジ
【技術分野】
【0001】
この発明は、植栽基盤およびその製造方法に関し、特にたとえば、植物の生育に用いられる、植栽基盤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植栽基盤の一例が、特許文献1に開示されている。この特許文献1の緑化基盤用コンクリート多孔体では、コンクリートの表面にポリ(N−ビニルアセトアミド)などの保水性高分子が混合されている。
【特許文献1】特開平9−263462号公報[C04B 38/00、A01G 1/00、A01G 7/00、C04B 16/04]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の保水性高分子は保水性に優れるが、蒸散性に劣る。このため、水分の過剰供給による根腐れや基盤自体の温度上昇に起因する植物の生育不良などをもたらす恐れがある。
【0004】
それゆえに、この発明の主たる目的は、植物を良好に生育することができる、植栽基盤およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、無機系固化材を基材とし、水分を補給して植物を栽培する植栽基盤において、生分解性繊維が混練された無機系固化材に好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すようにしたことを特徴とする、植栽基盤である。
【0006】
請求項1の発明では、生分解性繊維は微細空間構造を有する。かかる生分解性繊維を無機系固化材に混練することにより、植栽基盤内に連続した空間を形成される。植物は、こうして形成された空間に根を張る。
【0007】
また、水分は毛細管現象により生分解性繊維内に吸収される。吸収された水分の一部は植物の根に供給され、吸収された水分の他の一部は植栽基盤内を移動して植栽基盤の表面から蒸散する。植栽基盤の温度上昇は、水分の移動や蒸散によって抑制される。
【0008】
この無機系固化材に施された特定処理により、水分または植物の根を腐敗させる原因となる嫌気性微生物の繁殖が抑制される。好気性微生物の繁殖は嫌気性微生物の繁殖ほど抑制されず、好気性微生物によって生分解性繊維の分解は促進される。植物は、分解された物質を養分として生育する。
【0009】
請求項2の発明は、好気性微生物および嫌気性微生物の各々は細菌を含み、特定処理によって細菌の繁殖を抑制する、請求項1記載の植栽基盤である。
【0010】
請求項2の発明では、微生物は細菌、糸状菌および放線菌を含む。特定処理はこの微生物の中でも細菌に影響を与え、好気性細菌に比べて嫌気性細菌の繁殖をより大きく抑制する。
【0011】
請求項3の発明は、特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を7.5〜8.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤である。
【0012】
請求項3の発明では、補給された水分はpH値が7.5〜8.0の範囲で調整された無機系固化材の表面に接することで弱アルカリ性を示す。嫌気性細菌の繁殖は、かかる弱アルカリ性の水分の存在によって抑制される。
【0013】
請求項4の発明は、特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を8.0〜9.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤である。
【0014】
請求項4の発明では、無機系固化材の表面のpH値を高めて8.0〜9.0にすれば、嫌気性細菌だけでなく、好気性細菌も影響を受けて、細菌全体の繁殖が抑制される。細菌の数が減れば、細菌の餌になる糸状菌の繁殖が促される。これにより、糸状菌と共生する高山植物や海浜植物の育成が可能となる。
【0015】
請求項5の発明は、無機系固化材はポルトランドセメントであり、特定処理は固化したポルトランドセメントの表面のアルカリ性を中和させる処理である、請求項1ないし4のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0016】
請求項5の発明では、ポルトランドセメントは概ね11〜12のpH値を有する。中和処理によって、無機系固化材の表面のpH値は7.5〜9.0の範囲に収まる。なお、ポルトランドセメントは汎用性が高く、製品の低コスト化が図られる。
【0017】
請求項6の発明は、生分解性繊維は少なくとも45%の体積比を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0018】
請求項6の発明では、45%の体積比を有する量の生分解性繊維を無機系固化材に混練することで、植栽基盤は十分な量の水分を保持することができる。
【0019】
請求項7の発明は、生分解性繊維は植物系繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0020】
請求項7の発明では、植物系繊維は、植物の生育に必要な栄養素の多くを含む。かかる繊維は、好気性微生物などにより分解され、植物の生育を促す養分となる。また、植物系繊維の主成分であるセルロースは、水分を非晶領域に収める。つまり、水分は繊維によって形成された空間だけでなく、非晶領域にも収められる。これにより、保水性は向上する。
【0021】
請求項8の発明は、生分解性繊維は鉱物繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤である。
【0022】
請求項8の発明では、鉱物繊維はカルシウム、鉄、マグネシウムなどミネラルを含む。かかる繊維もまた、好気性微生物によって分解され、あるいは風化し、植物の生育を促す養分となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、無機系固化材に生分解性繊維を混練し、好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すことにより、植物を良好に生育することができる。
【0024】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に示すこの発明の一実施例である植栽基盤10は、無機系固化材12内に生分解性繊維として植物系繊維14を混練して形成される。
【0026】
植物系繊維14は植物やパルプなどから化学的または物理的方法により取り出された繊維である。この植物系繊維14にたとえばパルプスラッジを用いるが、パルプや布、糸などを用いることもできる。無機系固化材はセメント12や石膏などである。セメント12は、たとえばポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントまたはシリカセメントなどアルカリ性のセメントである。
【0027】
植栽基盤10の製造では、ポルトランドセメントペースト12と水分とを、たとえば12対5の割合で混ぜる。そこに所定の割合のパルプスラッジ14を混練し、ブロック状に形成する。それを特定処理し、固化させる。特定処理はたとえば中和処理であり、セメント12が固化した後に行ってもよいし、セメント12が固化する前や固化する前後にわたって行ってもよい。この中和処理により、少なくとも固化したセメント12の表面のpH値を7.5〜8.0の弱アルカリ性に調整して、好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する。すなわち、微生物には主に細菌、糸状菌および放線菌があり、この内の細菌はpH値に影響を受けやすい。また、嫌気性微生物の多くは細菌である。このため、パルプスラッジ14に吸収された水分をpH値が7.5〜8.0のセメント12表面により弱アルカリ性にすれば、嫌気性細菌は弱アルカリ性の水分に影響を受けて、その繁殖は抑えられる。この弱アルカリ性の水分により好気性細菌の繁殖も抑制されると考えられるが、一般に好気性細菌は酸素を使って強力なエネルギを獲得して、嫌気性細菌より強く、弱アルカリ性の水分内でも強力な一部の好気性細菌は生き残るため、好気性細菌は嫌気性細菌に比べて繁殖する。また、好気性微生物である糸状菌および放線菌は水分のpH値にあまり影響を受けないため、これらの繁殖は抑制されない。したがって、糸状菌、放線菌、および生き残った一部の好気性細菌はパルプスラッジ14を有機養分に分解する。死んだ細菌はそれ自体が分解されて窒素などの養分となる。
【0028】
このような植栽基盤10に水分を補給して、植栽基盤10の上から種を撒くと、種はパルプスラッジ14から水分を吸収し、パルプスラッジ14内に根を進入させる。そして、植物の根はセメント12内に連続した空間を形成するパルプスラッジ14を通じて植栽基盤10内に進入する。このとき、パルプスラッジ14は多種類の好気性微生物の植物連鎖によりまず糖類やたんぱく質などに分解され、これを基にさらに空気、水または植物の根からの分泌物などが加えられて、炭酸ガス、アンモニア、硝酸塩、リン酸塩などの無機物に変換される。そして、これらは植物が生育するための養分となって、植物の根に吸収される。
【0029】
また、パルプスラッジ14は多数の細い繊維が絡み合って形成されることにより、繊維の間に多くの微細な空間が形成されている。このため、水分はパルプスラッジ14の繊維間の空間に入りパルプスラッジ14の大きさは変化せず、セメント12は破壊されない。また、繊維間の空間には多くの酸素も存在する。この酸素は植物の根から吸収されて植物の生育に役立つばかりでなく、好気性微生物を活性化し、反対に酸素が存在すると生息が困難な嫌気性微生物の発生を抑制する。このため、繊維間の空間は好気性微生物などの菌類が生育する空間となる。
【0030】
このようにして植物が成長すると、植栽基盤10をそのまま土の中に埋めてもよい。土の中に埋めると、植物は植栽基盤10から土へ根を延ばしてさらに成長し、自然物に由来するパルプスラッジ14は分解されて土に戻る。
【0031】
このように、セメント12内に連続した空間を形成するパルプスラッジ14は植物の根張空間および水分の移動通路として利用される。
【0032】
このパルプスラッジ14は植物に由来するので、植物が生育するための成分を有しており、分解されると植物生育のための養分になる。また、パルプスラッジ14は微細空間構造を有するため、毛細管現象により水分を吸収してその水分を植物の根に供給し、かつ多数の空間に存在する酸素も根に供給する。このため、パルプスラッジ14は植物生育に必要な栄養分、水分および酸素を供給することができる。
【0033】
そして、植物が成長した植栽基盤10を土に埋めれば、植物をさらに成長させることができ、しかも植栽基盤10中の生分解性繊維のパルプスラッジ14は分解されて土に戻るため、環境に負荷を与えない。
【0034】
また、パルプスラッジ14が水分を吸収すると、パルプスラッジ14内の微細空間およびパルプスラッジ14の主成分であるセルロースの非晶領域に収められる。水分がセルロースの非晶領域に収められることにより、パルプスラッジ14の体積が増えるが、体積の増大はパルプスラッジ14内の多数の微細空間で緩和されるため、パルプスラッジ14全体の寸法は大きく変化しない。このため、パルプスラッジ14の吸水分によりセメント12は破壊されず、植栽基盤10の強度は低下しない。
【0035】
この吸収された水分は植栽基盤10表面のパルプスラッジ14から蒸散するため、植栽基盤10の温度上昇が抑えられる。
【0036】
さらに、パルプスラッジ14に接するセメント12の表面をpH値7.5〜8.0にすればパルプスラッジ14内の水分のpH値は高くならない。このため、セメント12のpH値を調整した高価なセメント12を用いたり、pH値調整剤などを用いてセメント12のpH値を調整したりしなくても、アルカリ性のポルトランドセメントを用いて、少なくともセメント12の表面を中和処理するだけで、適当なpH値の水分を得ることができる。したがって、簡単かつ安価に植物生育基盤を製作できる。
【0037】
さらに、弱アルカリ性の水分は嫌気性微生物などの発生を抑え、植物の健全な生育を妨げる水分の腐食を防ぐことができる。
【0038】
セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合に関して植栽基盤10の性質を調べた。この結果、植栽基盤10の吸水分率を図2に、植栽基盤10の内部温度を図3および図4に、植栽基盤10のpF値を図5〜図7に、植栽基盤10の有効水分保持量を図8に示す。
【0039】
図2の植栽基盤10の吸水分率測定に、セメント12に20〜80(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いた。まず、植栽基盤10全体を水分に浸漬させて、それから1分、2分、5分、60分、720分、1440分後に植栽基盤10を取り出してその重量を測定する。そして、そこから植栽基盤10の初期重量を引いて植栽基盤10の吸水分量を求め、さらにその吸水分量を初期重量で割って植栽基盤10の単位体積あたりの吸水分率(g/l)を算出した。
【0040】
この測定結果によれば、セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の吸水分率は大きく、初期の時間に対する吸水分率の傾きが大きい。このため、植栽基盤10のパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の吸水分量および吸水分速度は大きいことがわかる。
【0041】
図3〜図8に示す植栽基盤10の試験では、サンプル(1)としてセメント12に0(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(2)としてセメント12に20(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(3)としてセメント12に50(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用い、サンプル(4)としてセメント12に80(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いた。
【0042】
図3の植栽基盤10の温度測定では、測定を始める前に、まず各サンプルを12時間水に浸漬してサンプルのパルプスラッジ14に水分を飽和させた。測定第1日目の午前9時にこれを屋外に並べて放置し、サンプルの内部温度を測定した。この測定結果によれば、サンプル(1)の温度は全サンプルの中で最も高く、サンプル(1)およびサンプル(2)はほぼ一日中気温より高い温度を示した。これに対して、サンプル(3)およびサンプル(4)の温度は気温より低く、ほぼ同程度の温度を示したが、13時ごろからサンプル(3)の温度はサンプル(4)の温度より高くなり始めた。
【0043】
図4の植栽基盤10の温度測定では、図3のサンプルに水分を与えずに引き続き、測定第2日目のサンプルの内部温度を測定した。この測定結果によれば、サンプル(1)、サンプル(2)およびサンプル(3)の温度は気温より高い温度を示し、その中でもサンプル(1)の温度が最も高く、サンプル(3)の温度が最も低かった。サンプル(4)の温度は気温とほぼ同等の温度を示していたが、13時ごろから温度が上昇し始めた。
【0044】
図3および図4によれば、セメント12に対するパルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10の温度は低く、長時間にわたって温度上昇は抑えられた。植栽基盤10の温度が低いのは、パルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10内に保持される水分量が多いため、多くの水分が蒸散して植栽基盤10の温度が低下したからであると思われる。また、植栽基盤10の温度上昇が長時間にわたって抑えられたのは、パルプスラッジ14の配合割合が多いほど、植栽基盤10内のパルプスラッジ14の連続性が良く、水分は植栽基盤10内から表面へ移動して長時間にわたって蒸散したからであると思われる。
【0045】
次に、サンプル(2)、サンプル(3)およびサンプル(4)の有効水分保持量を図5〜図7より求める。1.8〜3.0のpF値を示す水分量は有効水分保持量と言い、植物の生育に適した水分量である。図5よりサンプル(2)の有効水分保持量aは0.1(g/100cc)つまり1(l/m3)で、図6よりサンプル(3)の有効水分保持量bは10.2(g/100cc)つまり102(l/m3)で、図7よりサンプル(4)の有効水分保持量eは18.1(g/100cc)つまり181(l/m3)である。有効水分保持量に関して、「財団法人 日本造園学会」で提案された「緑化基盤土壌の評価因子とその分級」によれば、有効水分保持量が80〜120(l/m3)の緑化基盤土壌の分級は「良」であり、120(l/m3)以上の緑化基盤土壌の分級は「優」である。サンプル(3)の有効水分保持量は「良」を示し、サンプル(4)は「優」を示すため、サンプル(3)およびサンプル(4)は緑化基盤土壌として適していると評価できる。
【0046】
この「緑化基盤土壌の評価因子とその分級」により「良」となるパルプスラッジ14の配合割合を図8から求める。「良」を示す有効水分保持量:80(l/m3)では、パルプスラッジ14の配合割合は約45(体積%)である。よって、有効水分保持量の点からセメント12に45(体積%)以上のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10は緑化基盤土壌として適していると評価できる。
【0047】
なお、生分解性繊維として植物繊維の代わりにまたは植物繊維と共に鉱物繊維も用いることができる。鉱物繊維は、たとえばロックウール、スラグウール、ガラスウール、セラミックウールなどの人造鉱物繊維やセピオライトなどの天然鉱物繊維がある。このような鉱物繊維は酸化ケイ素などを主成分とし、カルシウム、鉄、マグネシウムなど植物の生育に必要な成分を含む。このため、鉱物繊維は風化したり細菌により分解されたりして、植物の養分となる。
【0048】
また、植栽基盤10にセメント12を使用したが、セメント12に砂や石などを加えたモルタルやコンクリートなどを使用してもよい。モルタルやコンクリートを用いることにより強度を必要とする場所にも植栽基盤10を用いることができる。また、セメント12に炭などを配合してもよい。
【0049】
さらに、パルプスラッジ14およびセメント12は固化するまで簡単に変形するため、図9に示す時計16の枠に用いたり、図10に示すペンたて18の一部に用いたりすることができる。また、ブロックにしたりそのまま吹き付けたりして屋上や壁に敷くと、植栽基盤10としてだけでなく、ヒートアイランド現象の対策としても用いられる。さらに、挿し木の切断面にカルスができにくく、一般的に挿し木が難しいとされている桜も、植栽基盤10の軟らかい間に挿し木をすれば、植栽基盤10の嫌気性微生物抑制作用により切断面は腐食しない。このため、切断面にカルスができなくても桜の挿し木から根を出すことができる。
【0050】
さらに、植栽基盤10のpH値が7.5〜8.0であるのに対して、植栽基盤10のpH値を8.0〜9.0に高めてもよい。このセメント12表面のpH値が高い植栽基盤10は高山植物または海浜植物などの生育に利用される。すなわち、上記の通り、植栽基盤10のpH値を7.5〜8.0にすれば、強力な好気性細菌の一部は生き残ることができるため、好気性細菌に比べて嫌気性細菌の繁殖は抑制された。これに対して、セメント12の表面のpH値を8.0〜9.0に高めれば、嫌気性細菌だけでなく強力な好気性細菌の繁殖も抑制され、細菌全体の繁殖が抑制される。このため、細菌の餌になる糸状菌の繁殖が促され、糸状菌と共生する高山植物や海浜植物の育成が可能となる。
【0051】
このpH値を8.0〜9.0に高め、セメント12に50(体積%)のパルプスラッジ14を混練した植栽基盤10を用いて、約1ヶ月の温度変化を測定した。この際、一般の素焼きの鉢を基準として用い、植栽基盤10と同じ条件で温度を測定した。この測定では、まず植栽基盤10および素焼きの鉢に水分を十分に与えて、これらを屋外に放置して、1日のこれらの表面の最高温度および最低温度を毎日測定した。この結果、図11によれば、より常に低く、約1ヶ月の植栽基盤10と素焼きの鉢との平均最高温度の差は3.1度であった。また、図12によれば、植栽基盤10の最低温度は素焼きの鉢の最低温度より僅かに低く、約1ヶ月の植栽基盤10と素焼きの鉢との平均最低温度の差は0.19度であった。この平均最高温度の差:3.1度と平均最低温度の差:0.19度とを足して2で割って、一日の植栽基盤10と素焼きの鉢との温度差:1.645度とした。つまり、1日を通して平均1.645度、植栽基盤10の温度は素焼きの鉢の温度より低い。このため、植栽基盤10内の温度は気温より1.645度低いと考えられる。このことに基づいて、植栽基盤10内の暖かさの指数を求めた。
【0052】
暖かさの指数は月の平均気温が基準温度を越える月を植物が生育できる期間と仮定して算出される一種の積算温度であり、植物の分布帯と関係すると考えられている。具体的には、月平均気温が基準温度を越す月の平均気温から基準温度を引いた値を積算して求められる。この場合、基準温度を5度とし、気温に京都府の平成14年12月〜平成15年11月の気温を用いた。この結果、表1より京都府の1年間の暖かさ指数は、京都府の各月の平均気温から基準温度の5度を引いた値を積算して求められ、128である。これに対して、植栽基盤10内の温度は気温より1.645度低いと考えるため、各月の植栽基盤10内の平均温度は京都府の各月の平均気温から1.645度を引いた値である。そして、表2より植栽基盤10の暖かさの指数は、この値から基準温度の5度を引いた値を積算した、112である。したがって、植栽基盤10の暖かさ指数:112は京都府の暖かさ指数:128より16低いため、京都府にいながら16低い暖かさ指数で育つ高山植物をこの植栽基盤10で育てることができる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
また、パルプスラッジ14の配合割合を変えることにより植栽基盤10内の温度を調整することができる。このため、パルプスラッジ14の配合割合および上記の通りセメント12の表面のpH値を調整することにより、多くの種類の植物を植栽基盤10で育てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の一実施例の植栽基盤を示す断面図である。
【図2】植栽基盤のセメントに対するパルプスラッジの配合割合と、植栽基盤の単位体積当たりの吸水分率との関係を示すグラフである。
【図3】測定第1日目の植栽基盤の内部温度の経時変化を示すグラフである。
【図4】測定第2日目の植栽基盤の内部温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】セメントに対して20(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図6】セメントに対して50(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図7】セメントに対して80(体積%)のパルプスラッジを混練した植栽基盤に保有されている水分量と、その植栽基盤のpF値との関係を示すグラフである。
【図8】植栽基盤のセメントに対するパルプスラッジの配合割合と、植栽基盤の有効水分保持量との関係を示すグラフである。
【図9】時計の枠に植栽基盤を用いた状態を示す斜視図である。
【図10】ペンたての一部に植栽基盤を用いた状態を示す斜視図である。
【図11】1ヶ月の植栽基盤および素焼きの鉢の最高温度、ならびに最高気温を示すグラフである。
【図12】1ヶ月の植栽基盤および素焼きの鉢の最低温度、ならびに最低気温を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
10…植栽基盤
12…セメント
14…パルプスラッジ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系固化材を基材とし、水分を補給して植物を栽培する植栽基盤において、
生分解性繊維が混練された無機系固化材に好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すようにしたことを特徴とする、植栽基盤。
【請求項2】
前記好気性微生物および前記嫌気性微生物の各々は細菌を含み、
前記特定処理によって前記細菌の繁殖を抑制する、請求項1記載の植栽基盤。
【請求項3】
前記特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を7.5〜8.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤。
【請求項4】
前記特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を8.0〜9.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤。
【請求項5】
前記無機系固化材はポルトランドセメントであり、
前記特定処理は固化したポルトランドセメントの表面のアルカリ性を中和させる処理である、請求項1ないし4のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項6】
前記生分解性繊維は少なくとも45%の体積比を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項7】
前記生分解性繊維は植物系繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項8】
前記生分解性繊維は鉱物繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項1】
無機系固化材を基材とし、水分を補給して植物を栽培する植栽基盤において、
生分解性繊維が混練された無機系固化材に好気性微生物に比べて嫌気性微生物の繁殖をより大きく抑制する特定処理を施すようにしたことを特徴とする、植栽基盤。
【請求項2】
前記好気性微生物および前記嫌気性微生物の各々は細菌を含み、
前記特定処理によって前記細菌の繁殖を抑制する、請求項1記載の植栽基盤。
【請求項3】
前記特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を7.5〜8.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤。
【請求項4】
前記特定処理は固化した無機系固化材の表面のpH値を8.0〜9.0の範囲に収める処理である、請求項1または2記載の植栽基盤。
【請求項5】
前記無機系固化材はポルトランドセメントであり、
前記特定処理は固化したポルトランドセメントの表面のアルカリ性を中和させる処理である、請求項1ないし4のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項6】
前記生分解性繊維は少なくとも45%の体積比を有する、請求項1ないし5のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項7】
前記生分解性繊維は植物系繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤。
【請求項8】
前記生分解性繊維は鉱物繊維である、請求項1ないし6のいずれかに記載の植栽基盤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−75135(P2006−75135A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265783(P2004−265783)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(505407575)株式会社森生テクノ (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(505407575)株式会社森生テクノ (4)
【Fターム(参考)】
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