説明

植物による二酸化窒素代謝の促進方法

【課題】植物の二酸化窒素代謝を促進させる手段を提供すること
【解決手段】S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させる、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法;該促進された二酸化窒素取込み能を有するトランスジェニック植物;S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させる、植物における、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法;植物内におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性を増強させる、植物による二酸化窒素代謝の促進方法;該トランスジェニック植物を用いて、大気環境中におけるNOXを低減させる、環境浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の二酸化窒素代謝を促進させる手段に関する。さらに詳しくは、本発明は、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法;促進された二酸化窒素取込み能を有するトランスジェニック植物;植物における、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法;及び植物による二酸化窒素代謝の促進方法及び環境浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガス等に含まれる一酸化窒素、二酸化窒素等の窒素酸化物(NOX)は、反応性が高く、大気汚染の原因の1つとなっている。
【0003】
現在、自動車等から排出されるNOXの量を減らす種々の試みがなされている。大気環境中におけるNOXの量を除去する試みとしては、例えば、二酸化チタンを光触媒として用いる方法(例えば、特許文献1、2)、密閉型駐車場やトンネル内の換気ガスの浄化のために、炭素質吸着剤充填層に通して加熱し、窒素酸化物還元剤により、窒素酸化物を還元する方法(特許文献3)、窒素酸化物吸収材を用いる方法(特許文献4)。しかしながら、大気環境等におけるNOX量は、近年横ばい傾向にあり、実際には、NOXの除去までは至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開平6−315614号公報
【特許文献2】特開平8−196902号公報
【特許文献3】特開平7−275656号公報
【特許文献4】特開2000−230414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の1つの側面は、植物において、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物を低減させること、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物を減少させる手段を提供すること、収量を増加させること等の少なくとも1つを可能にする、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法を提供することにある。本発明の他の側面は、高い二酸化窒素取込み能を有すること、野生型植物よりも還元態窒素化合物の含有量が高いこと等の少なくとも1つの性質を有する、トランスジェニック植物を提供することにある。本発明の別の側面は、植物において、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物を低減させること等の少なくとも1つを可能にする、植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法を提供することにある。本発明のさらに別の側面は、二酸化窒素取込みを促進させること、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物を減少させること等の少なくとも1つを可能にする、植物による二酸化窒素代謝の促進方法を提供することにある。本発明の別の側面は、大気環境等におけるNOXを低減させること等の少なくとも1つを可能にする、環境浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、
〔1〕 S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法、
〔2〕 S−ニトロソチオール還元酵素活性が、S−ニトロソグルタチオン還元酵素活性である、前記〔1〕記載の作成方法、
〔3〕 該核酸が、下記(A)〜(E):
(A)配列番号:2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列
(C)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下にハイブリダイズしうる核酸であり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである核酸の塩基配列、
(D)配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対し、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 3の条件でBLASTアルゴリズムでアライメントし算出した配列同一性が、85%以上であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、及び
(E)配列番号:1に示される塩基配列と核酸多型により異なり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、
からなる群より選ばれた塩基配列からなる核酸である、前記〔1〕又は〔2〕記載の作製方法、
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の作製方法により作製されたものであり、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸が導入されてなる、促進された二酸化窒素取込み能を有するトランスジェニック植物、
〔5〕 S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、植物における、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法、
〔6〕 (i)S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入すること、及び/又は
(ii)植物体に内在するS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドに対する活性誘導剤を該植物体に供給すること
により、植物内におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性を増強させることを特徴とする、植物による二酸化窒素代謝の促進方法、
〔7〕 前記〔4〕記載のトランスジェニック植物を用いて、大気環境中におけるNOXを低減させることを特徴とする、環境浄化方法、並びに
〔8〕 該トランスジェニック植物が、バラ科植物、フトモモ科植物、ヤナギ科植物、ヤナギ科植物、モクレン科植物、イチジク科植物及びアブラナ科植物からなる群より選ばれた植物に由来するものである、前記〔7〕記載の環境浄化方法、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法によれば、植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物の減少を可能にする手段を提供することができ、収量の増加が可能な植物を供給することができるという優れた効果を奏する。また、本発明のトランスジェニック植物によれば、高い二酸化窒素取込み能を有し、野生型植物よりも還元態窒素化合物の含有量が高いという優れた性質を有し、収量の増加、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物の減少等が可能になるという優れた効果を奏する。本発明の植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法によれば、植物における該窒素化合物を低減させることができ、収量の増加、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物の減少等が可能になるという優れた効果を奏する。本発明の植物による二酸化窒素代謝の促進方法によれば、植物による二酸化窒素取込みを促進させることができ、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物を減少させることができるという優れた効果を奏する。本発明の環境浄化方法によれば、大気環境等におけるNOXを低減させることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、植物、例えば、シロイヌナズナにおいて、NO2曝露によりS−ニトロソ化合物、例えば、S−ニトロソグルタチオンの生成が誘導され、植物体内でS−ニトロソチオール還元酵素、例えば、S−ニトロソグルタチオン還元酵素を過剰発現させた場合、植物体内における前記S−ニトロソ化合物の量が減少し、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の量も減少するとともに、植物による二酸化窒素取込みを増強することができるという本発明者らの知見に基づく。
【0008】
本発明は、1つの側面では、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法に関する。
【0009】
本発明に用いられるS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドは、S−ニトロチオール還元酵素活性を示すものであれば、いわゆる二機能酵素等であってもよい。前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチド」としては、S−ニトロソグルタチオン還元酵素、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。また、前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチド」の供給源となる個体の種類は、特に限定されることがなく、例えば、植物、動物、微生物等が挙げられる。
【0010】
また、前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性」としては、例えば、S−ニトロソグルタチオン還元酵素活性等が挙げられる。
【0011】
前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸」は、植物又は動物由来の核酸である場合、発現効率、遺伝子導入効率等の観点から、好ましくは、cDNAであることが望ましい。また、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドを効率よく発現させ、S−ニトロソチオール還元酵素活性を十分に発揮させる観点から、導入対象となる植物におけるコドン使用頻度に応じ、前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸」におけるコドンを適宜改変してもよい。
【0012】
前記「S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸」としては、より具体的には、(A)配列番号:2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸が挙げられる。
【0013】
なお、本発明においては、コードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものであれば、当該核酸のバリアントであってもよい。
【0014】
前記バリアントの塩基配列としては、例えば、
1つの側面では、
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、
他の側面では、
(C)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下にハイブリダイズしうる核酸であり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである核酸の塩基配列、
別の側面では、
(D)配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対し、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 3の条件でBLASTアルゴリズムでアライメントし算出した配列同一性が、85%以上であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、さらに別の側面では、(E)配列番号:1に示される塩基配列と核酸多型により異なり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列等が挙げられる。
【0015】
前記バリアントは、自然発生のバリアント又は人為的に創出されたバリアントのいずれであってもよい。
【0016】
なお、本明細書において、「少なくとも1個」の文言は、S−ニトロソチオール還元酵素活性の発現が可能な範囲であればよいことを意図するものであり、好ましくは、1個若しくは数個であればよい。
【0017】
また、本明細書において、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、中ストリンジェント、好ましくは、高ストリンジェントな条件をいう。
【0018】
より具体的には、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、前記配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖と、評価対象の核酸とを55℃で一晩保温し、低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、37℃以上、ストリンジェントには、42℃以上、よりストリンジェントには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下での洗浄を行なう条件をいい、特に、バックグラウンドの非特異的なシグナルが実質的に存在しなくなる条件をいう。
【0019】
前記バリアントは、例えば、
1) 慣用の部位特異的変異導入法等により、所望の位置に変異を導入した核酸を作製する工程、
2) 前記1)で得られた核酸を適切なベクターに組込む工程、
3) 適切な宿主(例えば、大腸菌、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等)を、前記2)で得られた発現ベクター(宿主に応じた慣用のベクター)を用いて、形質転換して、形質転換体を得る工程、及び
4) 前記3)で得られた形質転換体について、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示す有無を調べて、活性を示すものを選抜する工程
を行なうことにより得ることができる。
【0020】
S−ニトロソチオール還元酵素活性は、評価対象のポリペプチドについて、NADHと、S−ニトロソチオールとの存在下に反応を行ない、340nmにおける吸光度を測定し、吸光係数:6220M-1cm-1としてNADHの減少を測定することにより評価される。具体的には、例えば、S−ニトロソチオール還元酵素の場合、評価対象のポリペプチドを、反応液〔組成:20mM Tris−HCl、pH8.0、0.2mM NADH、0.5mM EDTA〕に添加して、25℃でインキュベーションし、ついで、得られた混合物に、S−ニトロソグルタチオンを、終濃度400μMとなるように、該混合物に添加することにより反応を開始させ、340nmにおける吸光度を測定し、吸光係数:6220M-1cm-1としてNADHの減少を測定することにより評価されうる。
【0021】
本発明に用いられる植物としては、特に限定されるものではなく、例えば、街路樹として用いられている低木、高木樹、落葉樹、常緑樹、農作物、葉菜類、根菜類、牧草等が挙げられる。具体的には、本発明に用いられる植物としては、特に限定されないが、例えば、バラ科植物、フトモモ科植物、ヤナギ科植物、ヤナギ科植物、モクレン科植物、イチジク科植物、アブラナ科植物等が挙げられる。より具体的には、シャリンバイ、ユーカリプタス、ポプラ、ユリノキ、ゴムノキ、ヤマナラシ、シロイヌナズナ等が挙げられる。本発明の作製方法により得られた植物により、環境浄化を行なう場合、栽培効率、浄化効率等の観点から、好ましくは、街路樹として用いられる植物等が望ましい。
【0022】
S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入するための方法は、用いられる植物に応じて適宜選択されうるが、パーティクルガン等の直接導入法、減圧浸潤法、アグロバクテリウム法等が挙げられる。
【0023】
具体的には、例えば、減圧浸潤法の場合、
− 慣用のベクターに、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を連結して導入用ベクターを作製、
− 得られた導入用ベクターを用いて、アグロバクテリウムを形質転換し、
− 形質転換されたアグロバクテリウムと、逆さに静置された植物とを接触させて、減圧環境下に、該アグロバクテリウムを感染させる
ことにより、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入することができる。
【0024】
植物体に核酸を導入するためのベクターとしては、特に限定されないが、例えば、慣用のpBI系ベクター、pUC系ベクター等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の作製方法には、プロトプラスト又はカルスに、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を、エレクトロポレーション法、パーティクルガンを用いたボンバードメント法、マイクロキャピラリーを用いたマイクロインジェクション法等で導入し、葉、根等に再分化させ、植物体を再生する態様も含まれる。なお、葉への再分化は、例えば、プロトプラストの場合、該プロトプラストを固体栄養培地で培養して、細胞壁を合成させ、ついで、液体培地中で、激しく攪拌させながら、培養し、カルスを得、得られたカルスをオーキシンおよびサイトカイニンの存在下に培養することにより行なわれうる。なお、カルスから葉への再分化は、例えば、低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。リーフディスクから葉の再分化は、例えば、リーフディスクを低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。前記葉への再分化の際に用いられる培地としては、例えば、カルス誘導培地(1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)、シュート誘導培地(0.1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)等が挙げられる。
【0026】
本発明の作製方法により得られたトランスジェニック植物、すなわち、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物による二酸化窒素取込み能は、例えば、
1.植物に適した条件(例えば、アブラナ科植物、特に、シロイヌナズナの場合、22℃、湿度70%、照度70μmol photons m-2-1、連続光、360〜400ppm C02の条件で4時間)下、該植物を、過剰量(例えば、4ppm)の15NO2に曝露し、
2.曝露後の植物について、凍結乾燥し、粉末状にして、試料を得、
3.得られた試料中に含まれる15NO2由来の全窒素量を、元素分析/質量分析により分析することにより、二酸化窒素取込み量を測定し、トランスジェニック植物の二酸化窒素取込み量と対照として野生型植物における二酸化窒素取込み量とを比較することにより評価されうる。ここで、トランスジェニック植物の二酸化窒素取込み量が、対照として野生型植物における二酸化窒素取込み量に比べ、増加していた場合、トランスジェニック植物による二酸化窒素取込み能が、促進されていることの指標となる。
【0027】
本発明の作製方法においては、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を、植物体に導入し、S−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させているため、植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物が低減し、二酸化窒素取込み能が促進された植物体を創出することができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の作製方法によれば、植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物が低減し、二酸化窒素取込み能が促進された植物体を得ることができるため、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物の減少を可能にする手段を提供することができる。さらに、本発明の作製方法によれば、収量の増加が可能な植物を供給することができる。
【0028】
本発明は、他の側面では、作製方法により作製されたものであり、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸が導入されてなる、促進された二酸化窒素取込み能を有するトランスジェニック植物に関する。
【0029】
本発明のトランスジェニック植物は、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸が導入されているため、高い二酸化窒素取込み能を有するという優れた性質を発現する。また、本発明のトランスジェニック植物は、野生型植物よりも還元態窒素化合物の含有量が高いという優れた性質を有する、したがって、本発明のトランスジェニック植物は、高い収量で得られうる。
【0030】
また、本発明は、別の側面では、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、植物におけるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法に関する。
【0031】
なお、本明細書において、「ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物」とは、ケルダール法で検出することができる還元態窒素ではなく、かつ無機窒素でもない窒素化合物を意味する。かかる「ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物」は、植物中の全窒素量から、ケルダール法で検出することができる還元態窒素量と、無機窒素量とを差し引いた量の窒素として検出されうる。
【0032】
植物における全窒素量は、例えば、
1.植物に適した条件(例えば、アブラナ科植物、特に、シロイヌナズナの場合、22℃、湿度70%、照度70μmol photons m-2-1、連続光、360〜400ppm C02の条件で4時間)下、該植物を、過剰量(例えば、4ppm)の15NO2に曝露し、
2.曝露後の植物について、凍結乾燥し、粉末状にして、試料を得、
3.得られた試料中に含まれる15NO2由来の全窒素量を、元素分析/質量分析により分析することにより測定されうる。
【0033】
還元態窒素の量は、上記凍結乾燥し、粉末状にした試料について、ケルダール法〔モリカワ(H.Morikawa)ら、Planta、219:14−22(2004)〕に従い測定されうる。
【0034】
無機窒素の量は、キャピラリー電気泳動により、カワムラ(Y.Kawamura)ら、Plant and Cell Physiology、37:878−880(1996)及びモリカワ(H.Morikawa)ら、Planta、219:14−22(2004)の測定条件で測定されうる。
本明細書において、前記「ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物」は、具体的には、全窒素量、還元態窒素の量及び無機窒素の量を、以下のような手法により測定して検出されるものとして定義されうる。
【0035】
調製した各試料中に含まれる15NO2由来の全窒素量は、元素分析計(FISONS Instrument社製、商品名:Model EA/NA)直結型同位体質量分析計(Finnigan Mat, Delta plus−H)を用いて分析されうる。なお、アセトアニリド(Thermo Finnigan社製)を標準物質として作成した検量線に基づき、植物試料中の窒素含有量を算出する。また、質量分析計から得られたδ29/28から窒素中に含まれる15N原子%を算出し、得られた値と、元素分析計から求めた窒素量とから、15N量を算出する。また、還元態窒素の量(ケルダール窒素量)は、
− 植物試料〔約20〜30mg(0.5〜1mg N相当量)を、薬包紙で包み試料を得、薬包紙のみを対照試料を得、
− 得られた試料を、ケルダール分解管に入れ、ケルダール窒素迅速分解装置(三田村理研工業)にセットし、15mlの36N 濃硫酸(シグマ社製)を該試料に添加し、
− 前記試料に、5mlの過酸化水素 (30−35.5体積%、関東化学社製)を添加し、40℃で1時間インキュベーションし、
− 得られた試料を、よく冷却し、冷却後の試料に、30mlの精製純水を添加し、
− 前記試料を、三角フラスコに入れ、該三角フラスコに20mlの3重量% ホウ酸を入れ、該三角フラスコ中の試料を、ケルダール法窒素/タンパク質自動蒸留装置(なかやま理化製作所製)にセットし、
− 得られた混合物に、約80mlの30重量% NaOHを添加し、蒸留し、ケルダール蒸留液を得(ここで、0.01N 硫酸は、0.02N 容量分析用NaOHを用い、正確な濃度が定量されたものである)、
− ケルダール蒸留液の一部 約25mlを、前記0.01N 硫酸で滴定し、アンモニア量を求める
ことにより測定されうる(ケルダール分解法)。なお、ケルダール蒸留液の残りを用いて、以下のように、さらに15Nの分析を行なう。コンウェイ微量拡散法の容器の中央に50μlの0.5体積% 硫酸を置く。また、外液として、10mlの蒸留液と10mlの5重量% ホウ酸(pH10.0)との混合物を用いる。前記容器を、25℃で24時間以上放置する。前記硫酸を回収し、20〜50μlを液体用錫製コンテナに入れ、EA−MS分析を行ない、15N原子%を算出し、得られた値と前記ケルダール窒素量とから15N由来ケルダール窒素量が求められうる。無機窒素(NO3-/NO2-)の量は、キャピラリー電気泳動により、以下のように測定されうる。植物凍結乾燥試料(約20〜30mg相当量)を、テフロン(登録商標)製乳鉢に移し、該試料の14倍量の0.1重量% SDS溶液を添加し、その後、テフロン(登録商標)製乳棒ですりつぶす。得られた試料に、クロロホルムを添加し、混合する。その後、テフロン(登録商標)乳鉢から植物抽出液を回収する。回収した植物抽出液を、13000×gで10分間、遠心分離して、上清を回収し、さらに、該上清を、13000×gで10分間、遠心分離する。得られた試料について、キャピラリーイオン分析装置(Waters社製)を用い、下記分析条件:
溶媒:0.45M NaCl、0.5mM CIA−PakTM OFM Anion−BT(商品名、Waters社製)、
測定波長:214nm、
分析時間:10分、
キャピラリー:75μm×60cm、
電圧:20kV、
で、植物試料中のNO3-/NO2-量を分析する。なお、1000mg/lのNO3-/NO2-標準液(和光純薬工業株式会社製)の希釈物を標準物質として作成された検量線に基づき、NO3-/NO2-量を算出する。また、前記NO3-/NO2-中の15Nの分析は、
− 1mlの商品名:Dowex 50W H formを充填したカラムに、前記キャピラリー電気泳動で残った試料を負荷し、10mlの精製純水により非カチオン性化合物を溶出し、
− 溶出した試料を、ケルダール分解管に移し、10mlの精製純水で希釈し、
− 得られた試料に、0.8g デバルダ合金と、1mlの10N NaOHとを添加し、24時間以上放置し、以下、前記と同様に、前記NO3-/NO2-中の15Nの分析を行なう。
【0036】
本発明の低減方法によれば、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させているため、植物中に含まれるケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物を低減させることができ、植物における窒素の同化をより促進することができ、窒素又は窒素酸化物の取りこみ自体を、より促進することができるという優れた効果を発揮する。
【0037】
本発明の低減方法における操作は、本発明のトランスジェニック植物の作製方法と同様である。
【0038】
なお、本発明の低減方法においては、用いられるトランスジェニック植物中におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性は、通常の生育条件下における野生型植物中の内在性S−ニトロソチオール還元酵素活性と比べ、過剰に発現していることが好ましい。例えば、用いられるトランスジェニック植物中におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性は通常の生育条件下における野生型植物中の内在性S−ニトロソチオール還元酵素活性と比べ、8倍以上発現していることが望ましい。
【0039】
本発明は、さらに別の側面では、(i)S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入すること、及び/又は
(ii)植物体に内在するS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドに対する活性誘導剤を該植物体に供給すること
により、植物内におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性を増強させることを特徴とする、植物による二酸化窒素代謝の促進方法に関する。
【0040】
前記(i)は、本発明のトランスジェニック植物の作製方法と同様である。
【0041】
前記(ii)において、植物体への活性誘導剤の供給は、例えば、水、肥料等と混合して、供給することにより行なわれうる。
前記活性誘導剤としては、S−ニトロソチオール還元酵素活性の発現を促進するものであれば、特に限定されるものではない。
【0042】
本発明の二酸化窒素代謝の促進方法においては、用いられるトランスジェニック植物中におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性は、通常の生育条件下における野生型植物中の内在性S−ニトロソチオール還元酵素活性と比べ、過剰に発現していることが好ましい。
【0043】
本発明の二酸化窒素代謝の促進方法によれば、S−ニトロソチオール還元酵素活性が発現、好ましくは、過剰発現されているため、植物による二酸化窒素取込みを促進させることができ、大気環境及び/又は土壌環境中における窒素酸化物を減少させることができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の二酸化窒素代謝の促進方法によれば、植物による二酸化窒素代謝が促進されているため、NOX量が多い環境下でも効率よく生育でき、収量を増加させることが可能である。
【0044】
本発明は、別の側面では、本発明のトランスジェニック植物を用いて、大気環境中におけるNOXを低減させることを特徴とする、環境浄化方法に関する。
【0045】
本発明の環境浄化方法によれば、高い二酸化窒素取込み能を有する本発明のトランスジェニック植物が用いられているため、大気環境等におけるNOXを効率よく低減させることができるという優れた効果を発揮する。
【0046】
本発明の環境浄化方法においては、浄化の対象となる環境での生育に適した植物に由来するトランスジェニック植物を用いることにより、より効率のよい環境浄化が期待できる。
【0047】
具体的には、例えば、道路等、市街地等における大気環境の浄化に用いる場合、気候、日照時間等に応じて、植物を選択することができる。
【0048】
本発明の環境浄化方法に用いられるトランスジェニック植物としては、街路樹として用いられている低木、高木樹、落葉樹、常緑樹、農作物、葉菜類、根菜類、牧草等に由来する植物が挙げられ、具体的には、特に限定されないが、例えば、バラ科植物、フトモモ科植物、ヤナギ科植物、ヤナギ科植物、モクレン科植物、イチジク科植物、アブラナ科植物等に由来する植物が挙げられる。より具体的には、シャリンバイ、ユーカリプタス、ポプラ、ユリノキ、ゴムノキ、ヤマナラシ、シロイヌナズナ等に由来する植物が挙げられる。NOXの効率よい低減、生育環境への適応性の観点から、好ましくは、街路樹として用いられる植物に由来するもの等が望ましい。
【0049】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
(1)ベクターの作製
シロイヌナズナ〔Arabidopsis thaliana ecotype C24〕の全RNA溶液(50ng/μl) 10μlを、65℃で10分間処理し、氷上で冷却した。その後、前記全RNA溶液に、GSFDH r1プライマー 2.5μl(5pmol相当量)、5×バッファー(商品名:ReverTra Aceに添付の緩衝液、東洋紡株式会社製) 4μl、dNTPs(各10mM) 2μl、逆転写酵素(商品名:ReverTra Ace、東洋紡株式会社製;10U/μl) 1μlを添加した。得られた混合物を、42℃で60分間反応させ、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子を保持するcDNAを得た。
【0051】
得られたcDNA(1μl)を鋳型として用い、反応溶液〔組成:10×PCRバッファー(タカラバイオ社製、rTaq DNAポリメラーゼに添付の緩衝液) 5μl、dNTP(各2.5 mM) 6.25μl、GS−FDH f1プライマー 2.5μl(5pmol相当量)、GS−FDH r1プライマー 2.5μl(5pmol相当量)、rTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製;5U/μl) 0.5μl、残部水〕 50μl中、PCRにより、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子のDNA断片を増幅した。なお、プライマーとして、フォワードプライマー(GS−FDH f1プライマー):
5'-TTTTCTAGAAATGGCGACTCAAGGTCAGGTTATCAC-3'(配列番号:3)、及び
リバースプライマー(GSFDH r1プライマー):
5'-AAAGAGCTCTCATTTGCTGGTATCGAGGACACAAC-3'(配列番号:4)
を用いた。また、PCRの条件は、94℃で5分のインキュベーション後、変性:94℃で30秒と、アニーリング:58℃で30秒と、伸長:72℃で90秒とを1サイクルとする反応サイクルを35回繰り返し、最後に72℃で10分のインキュベーションを行なう条件である。
【0052】
得られたPCR産物を、商品名:pGEM−T Easy〔プロメガ社製〕に連結した。その後、得られた産物を用いて、大腸菌DH5αを形質転換し、ついで、菌体を40μg/ml アンピシリンを含有したLB寒天培地〔組成:0.01重量% トリプトン(DIFCO社製)、0.005重量% 酵母エキス(DIFCO社製)、0.005重量% NaCl、1.5重量% 寒天(和光純薬工業株式会社製)、pH7.0〕上、37℃で培養することにより、形質転換体を選抜した。得られた各コロニーよりプラスミドを回収し、該プラスミド中に含まれるPCR産物塩基配列を確認し、正しい塩基配列を保持しているものを選別した。
【0053】
得られたプラスミドを、XbaIとSacIとにより切断して、S−ニトロソグルタチオン還元酵素のコード領域を含む断片を得た。また、発現ベクターpIG121−Hm由来のプラスミドであるpCh1COD(広島大学 坂本敦先生より提供)を、XbaIとSacIとにより切断して、CaMV 35SプロモーターとNOSターミネーターとを含有するベクター由来断片を得た。その後、前記S−ニトロソグルタチオン還元酵素のコード領域を含む断片とベクター由来断片とを連結した。
【0054】
得られた産物を用いて、大腸菌DH5αを形質転換し、ついで、菌体を、ハイグロマイシン(15μg/ml)とカナマイシン(50μg/ml)とを含有したLB寒天培地上、37℃で培養することにより、形質転換体を選抜した。得られた各コロニーからプラスミドを回収した。得られたプラスミドを、XbaIとSacIとで処理して、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子の存在を確認した。得られたプラスミドpIG−GSNORを図1に示す。図1中、「GSNOR」は、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子、「P−35S」は、カリフラワーモザイクウイルス35sプロモーター、「T−nos」は、ターミネーター、「nptII」は、カナマイシン耐性遺伝子、「hph」は、ハイグロマイシン耐性遺伝子を示す。
【0055】
(2)アグロバクテリウムの形質転換
アグロバクテリウムC58Cl rifr(pM90)を、リファンピシン(100mg/l)とゲンタマイシン(25mg/l)とを含有したLB寒天培地上で28℃で一晩培養した。その後、得られたアグロバクテリウムを、リファンピシン(100mg/l)とゲンタマイシン(25mg/l)とを含有したLB液体培地〔組成:0.01重量% トリプトン(DIFCO社製)、0.005重量% 酵母エキス(DIFCO社製)、0.005重量% NaCl、pH7.0〕 2ml中、28℃で一晩培養し、さらに、LB液体培地 50ml中、28℃でOD600=0.5〜1.0になるまで振盪培養した。
【0056】
得られた培養物を、3000×g、4℃で5分間遠心分離して、沈殿物を得た。得られた沈殿物を20mM 氷冷CaCl2液 1mlに懸濁し、アグロバクテリウムのコンピテントセル懸濁物を得た。
【0057】
前記(1)で得られたpIG−GSNOR 約1μg相当量と、前記コンピテントセル懸濁物 1mlとを混合し、得られた混合物を液体窒素で凍結した。その後、前記混合物を、37℃の恒温槽で5分間インキュベーションした。前記混合物に、LB液体培地 1mlを添加し、28℃で2〜4時間、穏やかに振盪培養した。その後、培養物を、30秒間遠心して、沈殿物を回収し、得られた沈殿物を、LB液体培地 0.1mlに再懸濁した。
【0058】
得られた菌体を、リファンピシン(100mg/l)とゲンタマイシン(25mg/l)とを含有したLB寒天培地上、28℃で培養して、形質転換体を選抜した。
【0059】
(3)植物体の調製
バーミキュライト:パーライト=1:1の混合土 50gをポットにいれ、さらに、該混合土に、1000倍希釈したハイポネックス〔(株)ハイポネックスジャパン社製〕 50mlを添加した。シロイヌナズナ〔Arabidopsis thaliana ecotype C24の種子を、4℃で一晩吸水させたものを、1ポットあたり5〜6粒ずつ蒔いた。その後、1ポットずつラップで覆い、22℃、光条件:16時間明期、8時間暗期のインキュベーターで維持し、発芽させた。徐々にラップをはずしていき、10日日までに完全にはずした。また、週に2度、1000倍希釈したハイポネックス 50mlを供給した。
【0060】
小さい個体を間引き、1ポットあたり3個体にした。花茎が伸びてきたら、花茎の付け根から数えて1枚目の葉を残し、花茎を切り取り、脇芽を誘導させた。蕾がつき始めた個体を、アグロバクテリウムの感染に用いた。
【0061】
(4)減圧浸潤法によるシロイヌナズナへの感染
リファンピシン (100μg/ml)とゲンタマイシン(25μg/ml)とカナマイシン(50μg/ml)とを含有したLB液体培地 3mlにアグロバクテリウムを播種し、30℃で1〜2日間培養した。得られた培養物を、リファンピシン (100μg/ml)とゲンタマイシン(25μg/ml)とカナマイシン(50μg/ml)とを含有したLB液体培地 250mlに移し、OD600=1.2〜1.6になるまで培養した。得られた培養物を、遠心管〔アシスト社製〕に移し、該遠心管を、4℃、5000rpmで15分の遠心分離に供し、菌体を回収した。
【0062】
得られた菌体を、Infiltration medium[組成:1/2希釈 MS salts〔ムラシゲ(Murashige,T.)ら,Physiol.Plant.,15:473,(1962)〕、pH5.6、和光純薬工業株式会社製、商品名:ムラシゲ・スクーブ培地用混合塩類]、50μg/ml ミオイノシトール、5μg/ml チアミン−HCl、0.5μg/ml ニコチン酸、0.5μg/ml ピリドキシン−HCl、5重量% シュークロース、10ng/ml ベンジルアミノプリン(BAP)、0.00004重量% 商品名:Silwet L−77(日本ユニカー株式会社製)、0.05重量% MES/KOH(pH 5.7)〕に、OD600=0.6となるように懸濁し、得られた懸濁物を500ml容ビーカーに移した。
【0063】
シロイヌナズナのポットを逆さまにして、前記ビーカー中のアグロバクテリウムと接触させ、減圧装置中で、50.6625Paに減圧し、10分間維持して、シロイヌナズナに、アグロバクテリウムを感染させた。なお、減圧装置は、シバタ株式会社製のデシケーターに中村理化工業株式会社製の真空ポンプを連結させたものである。
【0064】
感染させたシロイヌナズナのポットを、商品名:キムタオルを敷いたバット上に横向けに静置させ、ラップで覆い、インキュベーターに移した。その後、ラップをはずしてポットを起こし、22℃、光条件:16時間明期、8時間暗期で生育させた。なお、感染後、1週間は水を供給せず、根が腐らないようにした。その後、1週間に2度、1000倍希釈したハイポネックス 50mlを供給した。
【0065】
(5)形質転換体の選抜
種子を採取し、2週間以上乾燥させた。得られた種子 約500粒ずつを、1.5ml容エッペンドルフチューブ(商品名、グライナー社製)に入れ、該種子を、2.5体積% 次亜塩素酸ナトリウムで滅菌した。
【0066】
クリーンベンチ内で、0.2重量% 滅菌済液状LO3〔タカラバイオ社製〕 1mlとり、試験管に移し、前記種子を滅菌水 1mlと共に該試験管に入れ、よく混合した。
【0067】
ついで、上記種子を、9cmディッシュ中、ハイグロマイシン(15μg/ml)、カナマイシン(50μg/ml)とを含む選抜培地[組成:ビタミン類を含有しないMS基本培地〔ムラシゲ(Murashige,T.)ら,Physiol.Plant.,15:473,(1962)〕、pH5.6、0.6重量% ジェランガム}上に播種した。前記選抜培地の表面が乾燥した後、前記ディッシュを、パラフィルムで覆い、22℃、光条件:16時間明期、8時間暗期で目的の植物体を選抜した。
【0068】
3〜4週間後、上記選抜により、生存していた植物体を、アグリポットに入れたMS培地〔組成:MS基本培地、pH5.6、1重量% シュークロース、0.6重量% ジェランガム〕に移し、生育させた。なお、得られた植物体をT0世代とする。
【0069】
(6)PCRによる形質転換植物の解析
クリーンベンチ内で、前記(5)で得られた植物体のロゼット葉から、3mm×3mm程度の大きさの切片を切り出し、1.5ml容エッペンドルフチューブに入れた。前記切片を、ペッスルでよく破砕した後、得られた試料に、抽出用緩衝液〔組成:200 mM Tris−HCl(pH7.5又はpH8.0)、250mM NaCl、25mM EDTA、0.5重量% ドデシル硫酸ナトリウム〕 400μl添加した。その後、得られた試料を、さらに破砕し、ついで、5秒間攪拌した。その後、得られた試料を、13000rpm(15000×g)で1分間遠心分離し、上清を300μlとり、新しいエッペンドルフチューブに移した。前記上清と等量の2−イソプロパノールを加え、室温で2分間放置した。得られた試料を、13,000(15000×g)で5分間遠心分離し、上清を捨てた。
【0070】
得られたペレットを乾燥させ、100μ1 TE緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.6、1mM EDTA)又は滅菌水に溶解させた。得られたDNA溶液を5〜10倍に希釈し、TaKaRa LATM−Taq(タカラバイオ社製)と反応液(組成:鋳型DNA 1ng相当量、10×緩衝液(タカラバイオ社製、TaKaRa LATM−Taq付属緩衝液) 2μl、10×MgCl2(タカラバイオ社製、TaKaRa LATM−Taq付属溶液) 2μl、dNTP溶液(各2.5mM dNTP) 1.6μl、プライマー(各40pmol相当量) 各1μl、TaKaRa LATM−Taq(5U/μl) 0.2μl、残部水 計20μl)とを用いて、PCRを行なった。前記PCRには、
フォワードプライマーf3:
5'-TTTGAGCTCAATGGCGACTCAAGGTCAGGTTATCAC-3'(配列番号:5)、及び
リバースプライマーr3:
5'-AAATCTAGATCATTTGCTGGTATCGAGGACACAAAC-3'(配列番号:6)
を用いた。また、PCR条件は、94℃1分のインキュベーション後、98℃20秒と66℃3分とを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、72℃10分インキュベーションする条件である。
【0071】
その結果、図2に示されるように、T0植物では、ゲノムDNAに含まれるS−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子に対応する増幅断片(約2.1kb)に加え、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子に対応するcDNAに対応する増幅断片(約1.1kb)が検出されたことから、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子が外的に導入されたT0植物が得られたことが確認された。
【0072】
(7)T0植物におけるS−ニトロソグルタチオン還元酵素活性
前記T0植物の個体(約60〜80mg)あたり、氷冷した抽出用緩衝液〔組成:0.1M Tris−HCl、pH8.0、0.01体積% グリセロール〕 80μlを添加し、ペッスルで破砕した。得られた産物を、14000rpm(15000×g)で10分間遠心分離し、上清を回収し、タンパク質粗抽出液を得た。
【0073】
また、前記T0植物の場合と同様に、対照として、野生型シロイヌナズナについて、タンパク質粗抽出液を得た。
【0074】
得られたタンパク質粗抽出液(20〜30μgタンパク質相当量)を、反応液〔組成:20mM Tris−HCl、pH8.0、0.2mM NADH、0.5mM EDTA〕と混合し、得られた混合物を、25℃でインキュベーションし、S−ニトロソグルタチオンを、終濃度400μMとなるように、該混合物に添加することにより反応を開始した。
【0075】
S−ニトロソグルタチオン還元酵素活性は、340nmにおける吸光度を測定し、吸光係数:6220M-1cm-1としてNADHの減少により算出した。なお、S−ニトロソグルタチオン還元酵素活性は、1分間に1nmolのNADHを減少させる量として定義した。
【0076】
その結果、図3に示されるように、野生型シロイヌナズナに比べ、T0植物においてS−ニトロソグルタチオン還元酵素活性が約800倍増強されたことがわかる。
【0077】
そこで、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子が外的に導入されたT0植物について、順化及び自殖により種子を採取し、前記と同様に植物体の選抜を繰り返し、トランスジェニックシロイヌナズナ(ホモ接合体)を得た。
【実施例2】
【0078】
縦20cm×横25cmのバットに、オートクレーブした混合土(パーライト:バーミキュライト=1:1)を広げ、ついで、該混合土の上に、粉末状のバーミキュライト(オートクレーブしたもの)を重層した。さらに、前記バットに、オートクレーブした精製純水を1バットあたり800ml吸水させた。なお、上記精製純水は、ミリポア社製の純水製造装置で作製したものである。
【0079】
前日から4℃で吸水処理を行った種子を、1.5cm間隔で、1バットあたり180−200粒蒔いた。全体をラップで覆い、22℃、湿度70%、照度70μmol photons m-2-1、連続光の条件で生育させた。発芽後、ラップを3〜5日かけて徐々にはずした。ラップをはずしてからは、4日おきに、1バットあたり、オートクレーブした1/2 MS培地〔ムラシゲ(Murashige,T.)ら,Physiol.Plant.,15:473,(1962)〕 300mlを供給し、6週間目以降、前記1/2 MS培地の代わりに精製純水を供給し、サンプリングの2日前(6週と5日)に、精製純水の供給を止めた。
【0080】
7週間目の植物のシュート部分のみをサンプリングし、精製純水ですすいだ。得られた試料を、凍結乾燥し、粉末状にし、NO2非曝露時の試料を得た。一方、残りの7週間目の植物を、22℃、湿度70%、照度70μmol photons m-2-1、連続光、360〜400ppm C02の条件で4時間、4ppm 15N02に曝露させた。
【0081】
曝露後の植物について、シュート部分を直ちにサンプリングし、精製純水ですすいだ。得られた試料を、凍結乾燥し、粉末状にし、曝露時の試料を得た。
【0082】
秤量した試料を、氷上に置いたテフロン(登録商標)乳鉢に入れ、該テフロン(登録商標)乳鉢に試料1mgあたり、精製純水 60μl添加した。得られた試料を、エッペンドルフチューブに移し、4℃、12000rpm(13000×g)で10分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を精製純水で35倍又は50倍に希釈した。
【0083】
上清希釈物 100μlに対して100μlの精製純水を添加し、ついで、100μM NH4−sulfamate水溶液 100μlを添加し、NO2-をトラップした。得られた混合物を、室温で10分間インキュベーションし、該混合物に、2,3−ジアミノナフタレン(DAN)反応混合液(精製純水に溶解させた11.11 mM HgC12 1体積部、158μM DANの0.62N HCl溶液 4体積部) 100μlを添加した。
【0084】
遮光して、前記混合物を、室温で10分間インキュベーションした。その後、前記混合物に、1N NaOH 60μlを添加し、pH11.5〜12.0に調整した。
【0085】
得られた試料について、励起波長365nm、蛍光波長405nmで蛍光を測定した。なお、標準試料として、0.05〜1μM S−ニトロソグルタチオンについて、検量線を作成した。
【0086】
その結果、図4に示されるように、NO2曝露により、野生型シロイヌナズナにおけるS−ニトロソグルタチオン量が、NO2非曝露の場合の約5倍の量に増加した。したがって、植物において、S−ニトロソチオール(S−ニトロソグルタチオン)の代謝経路が存在することがわかる。野生型シロイヌナズナに比べ、S−ニトロソグルタチオン還元酵素を過剰発現させたトランスジェニックシロイヌナズナにおいては、驚くべくS−ニトロソチオール(S−ニトロソグルタチオン)の量が減少していることがわかる。
【実施例3】
【0087】
植物には、ケルダール法で検出することができる還元態窒素でも無機窒素でもない窒素化合物(以下、UN化合物ともいう)が存在している。そこで、前記実施例1で得られたトランスジェニックシロイヌナズナにおけるS−ニトロソグルタチオン還元酵素の過剰発現によるUN化合物量への影響を調べた。
【0088】
前記実施例2と同様に、野生型シロイヌナズナ及びトランスジェニックシロイヌナズナのそれぞれを、4ppm 15NO2曝露し、試料を調製した。
【0089】
調製した各試料中に含まれる15NO2由来の全窒素量を、元素分析計(FISONS Instrument社製、商品名:Model EA/NA)直結型同位体質量分析計(Finnigan Mat, Delta plus−H)を用いて分析した。なお、アセトアニリド(Thermo Finnigan社製)を標準物質として作成した検量線に基づき、植物試料中の窒素含有量を算出した。また、質量分析計から得られたδ29/28から窒素中に含まれる15N原子%を算出し、得られた値と、元素分析計から求めた窒素量とから、15N量を算出した。
【0090】
また、還元態窒素の量は、ケルダール法(ケルダール分解法)〔モリカワ(H.Morikawa)ら、Planta、219:14−22(2004)〕に従い、以下のように、測定した。植物試料〔約20〜30mg(0.5〜1mg N相当量)を、薬包紙で包んだ。なお、薬包紙のみを対照試料として、以下、同様に行なった。
【0091】
得られた試料を、ケルダール分解管に入れ、ケルダール窒素迅速分解装置(三田村理研工業)にセットし、15mlの36N 濃硫酸(シグマ社製)を該試料に添加した。さらに、前記試料に、5mlの過酸化水素 (30−35.5体積%、関東化学社製)を添加し、40℃で1時間インキュベーションした。その後、得られた試料を、よく冷却し、冷却後の試料に、30mlの精製純水を添加した。
【0092】
三角フラスコに20mlの3重量% ホウ酸を入れ、該三角フラスコ中の試料を、ケルダール法窒素/タンパク質自動蒸留装置(なかやま理化製作所製)にセットした。得られた混合物に、約80mlの30重量% NaOHを添加した。得られた混合物を、蒸留し、ケルダール蒸留液を得た。
【0093】
一方、0.02N 容量分析用NaOH(和光純薬工業株式会社製)を用い、0.01N 硫酸の正確な濃度を求めた。
【0094】
ケルダール蒸留液の一部 約25mlを、前記0.01N 硫酸で滴定し、アンモニア量を求め、ケルダール窒素量を算出した。
【0095】
なお、ケルダール蒸留液の残りは、以下のように、15Nの分析に用いた
【0096】
コンウェイ微量拡散法の容器の中央に50μlの0.5体積% 硫酸を置いた。また、外液として、10mlの蒸留液と10mlの5重量% ホウ酸(pH10.0)との混合物を用いた。前記容器を、25℃で24時間以上放置した。
【0097】
前記硫酸を回収し、20〜50μlを液体用錫製コンテナに入れ、EA−MS分析を行ない、15N原子%を算出し、得られた値と前記ケルダール窒素量とから15N由来ケルダール窒素量を求めた。
【0098】
無機窒素(NO3-/NO2-)の量は、キャピラリー電気泳動により、以下のように測定した。植物凍結乾燥試料(約20〜30mg相当量)を、テフロン(登録商標)製乳鉢に移し、該試料の14倍量の0.1重量% SDS溶液を添加し、その後、テフロン(登録商標)製乳棒ですりつぶした。得られた試料に、クロロホルムを添加し、混合した。その後、テフロン(登録商標)乳鉢から植物抽出液を回収した。回収した植物抽出液を、13000×gで10分間、遠心分離して、上清を回収し、さらに、該上清を、13000×gで10分間、遠心分離した。
【0099】
得られた試料について、キャピラリーイオン分析装置(Waters社製)を用い、下記分析条件:
溶媒:0.45M NaCl、0.5mM CIA−PakTM OFM Anion−BT(商品名、Waters社製)、
測定波長:214nm、
分析時間:10分、
キャピラリー:75μm×60cm、
電圧:20kV、
で、植物試料中のNO3-/NO2-量を分析した。
【0100】
なお、1000mg/lのNO3-/NO2-標準液(和光純薬工業株式会社製)の希釈物を標準物質として作成された検量線に基づき、NO3-/NO2-量を算出した。
【0101】
また、前記NO3-/NO2-中の15Nの分析は、以下のように行なった。1mlの商品名:Dowex 50W H formを充填したカラムに、前記キャピラリー電気泳動で残った試料を負荷し、10mlの精製純水により非カチオン性化合物を溶出した。ついで、溶出した試料を、ケルダール分解管に移し、10mlの精製純水で希釈した。さらに、得られた試料に、0.8g デバルダ合金と、1mlの10N NaOHとを添加し、24時間以上放置し、以下、前記と同様に、前記NO3-/NO2-中の15Nの分析を行なった。
【0102】
UN化合物の量は、全窒素量−(還元態窒素量+無機窒素量)として算出した。結果を表1に示す。なお、表中、データは、平均±SD(n=3)であり、*は、P<0.01である。
【0103】
【表1】

【0104】
その結果、表1に示されるように、野生型シロイヌナズナに比べ、S−ニトロソグルタチオン還元酵素を過剰発現させたトランスジェニックシロイヌナズナにおけるUN化合物量が減少していることがわかる。
【実施例4】
【0105】
40ppbの15NO2に、野生型シロイヌナズナ及び前記実施例1で得られたトランスジェニックシロイヌナズナそれぞれを曝露した。
【0106】
その後、各植物個体に吸収された15NO2の量を、前記実施例3と同様に、定量した。
【0107】
その結果、野生型シロイヌナズナにおいては、67ng/植物個体の15NO2を吸収したのに対し、トランスジェニックシロイヌナズナでは、67ng/植物個体の15NO2を吸収したことがわかった。したがって、S−ニトロソグルタチオン還元酵素を過剰発現させたトランスジェニックシロイヌナズナにより、大気中のNOXを減少させることができる可能性が示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明により、植物中のケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の量を減少させ、還元窒素態化合物を増加させることができ、植物へのNO2の取込み及び同化能を高めることができる。また、本発明により、大気環境、土壌環境等におけるNOXを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、プラスミドpIG−GSNORの概略図を示す。図1中、「GSNOR」は、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子、「P−35S」は、カリフラワーモザイクウイルス35sプロモーター、「T−nos」は、ターミネーター、「nptII」は、カナマイシン耐性遺伝子、「hph」は、ハイグロマイシン耐性遺伝子を示す。
【0110】
【図2】図2は、全DNA中におけるS−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子に対応するDNA断片を検出した結果を示す。図中、H2Oは、陰性対照、WTは、野生型シロイヌナズナ、TR1−3−1、TR3−5−2、TR4−3−2及びTR6−4−2のそれぞれは、トランスジェニックシロイヌナズナを示す。また、Genomicは、ゲノムDNAに含まれるS−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子に対応する増幅断片(約2.1kb)、cDNAは、S−ニトロソグルタチオン還元酵素遺伝子に対応するcDNAに対応する増幅断片(約1.1kb)の位置を示す。
【図3】図3は、野生型シロイヌナズナ(WT)及びトランスジェニックシロイヌナズナ(TR4−3−2)それぞれにおけるS−ニトロソグルタチオン還元酵素活性を調べた結果を示す。
【図4】図4は、野生型シロイヌナズナ(WT)及びトランスジェニックシロイヌナズナ(TR4−3−2)それぞれにおけるS−ニトロソグルタチオンの量を調べた結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0111】
配列番号:3は、フォワードプライマーGS−FDH f1の配列である。
【0112】
配列番号:4は、リバースプライマーGSFDH r1の配列である。
【0113】
配列番号:5は、フォワードプライマーf3の配列である。
【0114】
配列番号:6は、リバースプライマーr3の配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、促進された二酸化窒素取込み能を有する植物の作製方法。
【請求項2】
S−ニトロソチオール還元酵素活性が、S−ニトロソグルタチオン還元酵素活性である、請求項1記載の作成方法。
【請求項3】
該核酸が、下記(A)〜(E):
(A)配列番号:2に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(B)配列番号:2に示されるアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列
(C)配列番号:1に示される塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下にハイブリダイズしうる核酸であり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである核酸の塩基配列、
(D)配列番号:2に示されるアミノ酸配列に対し、Cost to open gap 11、Cost to extend gap 1、expect value 10、wordsize 3の条件でBLASTアルゴリズムでアライメントし算出した配列同一性が、85%以上であるアミノ酸配列をコードし、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、及び
(E)配列番号:1に示される塩基配列と核酸多型により異なり、かつコードされるポリペプチドがS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すものである塩基配列、
からなる群より選ばれた塩基配列からなる核酸である、請求項1又は2記載の作製方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の作製方法により作製されたものであり、S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸が導入されてなる、促進された二酸化窒素取込み能を有するトランスジェニック植物。
【請求項5】
S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入し、該ポリペプチドのS−ニトロソチオール還元酵素活性を発現させることを特徴とする、植物における、ケルダール分解法で回収できない還元態窒素でありかつ非無機窒素である窒素化合物の低減方法。
【請求項6】
(i)S−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドをコードする核酸を植物体に導入すること、及び/又は
(ii)植物体に内在するS−ニトロソチオール還元酵素活性を示すポリペプチドに対する活性誘導剤を該植物体に供給すること
により、植物内におけるS−ニトロソチオール還元酵素活性を増強させることを特徴とする、植物による二酸化窒素代謝の促進方法。
【請求項7】
請求項4記載のトランスジェニック植物を用いて、大気環境中におけるNOXを低減させることを特徴とする、環境浄化方法。
【請求項8】
該トランスジェニック植物が、バラ科植物、フトモモ科植物、ヤナギ科植物、ヤナギ科植物、モクレン科植物、イチジク科植物及びアブラナ科植物からなる群より選ばれた植物に由来するものである、請求項7記載の環境浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−42723(P2006−42723A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231332(P2004−231332)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月16日 広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻主催の「平成15年度 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻修士論文審査会」において文書をもって発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】