説明

植物に植物病原菌及び害虫に対する多重抵抗性を誘導するタンパク質

本発明の目的は、MF3と命名したタンパク質又はその機能性誘導体に関するものである。これらは新規構造をもち、ウイルス、微生物、害虫に対する多重抵抗性を植物に付与できる。また本発明は、MF3タンパク質をコードするDNA又はそのDNAの一部、又は同義語を含むすべてのDNAに関するものである。更に本発明は、MF3発現微生物からのMF3の単離精製法及びMF3を坦体のありなしに関わらず植物保護剤として用いることを含む。更には、本発明は、該タンパク質を発現する植物体の製法を含むものである。また、本発明の目的には、該タンパク質又はこれを含むもの全てを植物にウイルス、微生物、害虫に抵抗性を多重示す植物保護剤、生物農薬として利用することが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、農業及び園芸に関するものであり、より具体的にはウイルス、細菌、真菌類、及びその他の病害生物から植物を保護することに関するものである。特に、本発明は、植物病原菌及び病害性動物に対する全般的な抵抗性を付与する細菌タンパク質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
病害性微生物や害虫は、世界的な作物生産に甚大な経済的損失を起こしている原因の一つである。これらに対する現在の対策はかなり手遅れになっている。原理的には植物病害に抵抗性の新しい品種を育種するのがよいのであるが、現実にはそれぞれの新品種は病原菌が徐々に抵抗性をますことによってその優位性を失っている。合成化学薬剤は生態系に大きなリスクを惹起することもある。極く最近のことであるが、自然界にも有効な合成薬剤の類縁物質が存在することがわかり、これらが導入されてきた。しかし、そのような天然化合物は高価であり、特殊な散布機器が必要であり、また労働集約型である。
【0003】
過去20年ほどの間にある種の異種遺伝子を導入する遺伝子改変植物技術による新しい手法が開発され、ウイルスに対する抵抗性を付与された。このような植物は、通常ある種のウイルス遺伝子(例えばコートタンパク質遺伝子)の発現に関するものである。このような手法では、残念ながら、獲得された抵抗性は、ある特定のウイルスに対してのみ有効となる1種の「ワクチン」である。例えば、ジャガイモのYウイルス(PVY)抵抗性は、22%ほどの核酸塩基レベルでの相違のあるウイルス株には有効性がなかった。従ってこのような抵抗性は、気象条件やその他の要因によって異なる種類の病原生物が優勢になるため、その実用性は限られたものとなる。農業生産者は、高価な投資をした物質はその年のみならず数年にわたって有効であることを期待するものである。しかしながら、全般的に有効な解決策がないために、これまで述べたような限られた抵抗性をもったものが広範な作物種において様々のウイルスに対して作製されているのが現状である。また今日は、遺伝子改変植物に関する一般大衆の意見や恐れの存在が大きくなっているところであり、遺伝改変植物による有益性はこれらの大衆の心配を凌駕する必要がある。
【0004】
生物個体全域にわたる抵抗性(systemic acquired resistance=SAR)は、Chester(1933)によって初めて報告された。SARは、植物に共通の防御機構で、植物が個体全体に生産する様々の防御物質(リグニン、ファイトアレキシン、PRタンパク質など)が病原体の広がりを阻止するものである(Sticher et al. 1997, Ann. Rev. Phytopathol. 35, 235-270)。SARは、病原微生物の感染後数時間以内に誘導され、その抵抗性は数週間継続される。SARは、サルチル酸依存性抵抗反応であるが、サルチル酸がSARに果たす役割については未だよく分かっていない(Ryal et al. 1996, Plant Cell 8, pp.1809-1819)。病原体の拡散は、SARの確立によってごく少数の細胞に閉じ込めることができる。その結果、病原体は感染植物に傷害を与えることはできない。
【0005】
様々の病虫害に抵抗性をもち、且つ生態学的に安全な新しい植物品種を短期間で開発することは非常に必要なことではあるが、それに沿うようなうまい方法はない。
(参考文献)
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【非特許文献18】The shorter Bergey`s manual of determinative bacteriology // The Williams and Wilkins Company, Baltimore. Ed. by Holt. 1980. P.495.
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ある種の細菌に存在するタンパク質(以下、MF3と呼ぶ)がウイルス、細菌、真菌類、害虫(例えばコロラドジャガイモ害虫、線虫)などに対して個体全体にわたる抵抗性を誘導するという驚くべき発見に基づいて、植物抵抗性を増大するための全く新しい概念を提供する。MF3の広域防御能は、このタンパク質が上記の全スペクトルの病害虫に抵抗性を付与できるとの各種実験成績によって証明されている。植物中に見出されるタンパク質の効果は、SARに似ているが、それらの関係は全くないといえる。
【0007】
我々はまた、MF3とは全く分子構造の異なるもう一種のタンパク質を既に発見している。この従来のタンパク質はBacillus thuringiensisの1株から得られたタンパク質である(MF2、Djavakhia V., et al. US 6,528, 480)。MF2を発現する遺伝子改変タバコは、ウイルスや真菌類(タバコモザイクウイルスやAlternaria longipes)に対してより強い抵抗性を示した。ところが我々は、本発明において、これまでのものとは全く異なる、活性の高い、しかもより広く効果を示す微生物タンパク質を発見した。従って本発明は、既存の発明を遥かに凌駕するもので、本発明にある新規物質は、植物に多重の抵抗性を誘導することができ、中でも植物にひどい害を及ぼす病害生物(微生物、害虫、線虫)に効果がある。また、MF3は、様々の遺伝子改変植物において生産効率を低下することのない抵抗性誘導剤として使用できることを示した。
【0008】
感染病害虫に対する基本的な防御活性の基本的概念は自己と非自己の峻別の機構によっている。植物における認知に基づく耐病性についてはよく研究されており、しかも特定の抵抗性遺伝子の存在によるものが最も成功を収めている。これはある特定の病原体に対する特定の品種の抵抗性を付与する。数種のこれらの抵抗性遺伝子が特定の病原株の因子に対応した化学受容体に関係していることが示されている。更に、ある特定グループ又はクラスの全体に対して感受性を示す、より広域で、基本的な監視機構を持っていることも知られている。これらは防御機構を動かし始める信号伝達系の活性化を行うエリシターが関与することが知られている。
【0009】
本発明はタンパク質性のエリシターに関するものである。先行技術において病害虫に抵抗性を誘導するタンパク質の例は知られていた。しかしながら、これらのタンパク質は感染した植物組織から単離されたもので、しかもある特定の宿主と病害虫との間でのみ活性を示すもので、本発明とは明らかに異なるものである。その上、これまでのタンパク質とその抵抗性誘導機構と異なり、我々が見出したMF3と命名した細菌タンパク質分子は既知の特定の酵素活性を持っていて、これまでに知られているいかなる植物病原過程にも関わりのないものである。このタンパク質溶液で植物組織を処理すると耐性機構の活性化が誘導される。
【0010】
MF3の顕著な利用方法は、MF3を弱く発現する遺伝子改変植物を構築することにある。しかしながら最も分かりやすい利用方法は、MF3を大量に生産して植物細胞に適切な処方で導入することである。
【0011】
遺伝子改変植物を作製する技術は教科書にも見られるようによく知られており、約30年以上も前に最初の遺伝子改変植物が作られている。遺伝子改変技術の進歩は、植物の生物としての基本的な性質やその発育機構の知見を蓄積する上で役立ってきた。最初の商業的遺伝子改変植物の利用も始まっている。
【0012】
遺伝子改変で最も期待されるものの一つは病害虫抵抗性である。現在直接的な手立てのない植物のウイルス感染症に対して重要な、ウイルス抵抗性植物の作製がなされている。ウイルス遺伝子を発現させた遺伝子改変植物はそのウイルスに対して一般的に対抗性を現すことが、遺伝子改変植物実験によって示されている(Baulcombe, 1994)。それらの例の各々において、これらの植物の実用性は、抵抗性が限定的であることによって懸念されている。本発明は、様々の抵抗性を植物に付与できる因子の遺伝子の利用によってこの問題を克服することができる。
【0013】
植物にウイルス及び真菌類に対する抵抗性を誘導するBacillus thuringiensis由来のタンパク質MF2を我々は先に単離した(Djavakhia V. , et al. US patent 6,528, 480)。本発明では、Bacillus thuringiensis だけがそのようなタンパク質を生産するのではないことを見出した。非常に多数の土壌細菌を新規な方法で探索することで、細菌Pseudomonas fluorescence株から新規の誘導剤MF3を得ることができた。驚くべきことに、このタンパク質は極めて低濃度でウイルスから細菌及び真菌類の感染に対する一般的な抵抗性を種々の植物に誘導することが明らかになった。その後、MF3は、線虫や害虫にも、葉面のクチクル質を通した植物へのMF3の直接導入によって、及び遺伝子改変植物における内在的なMF3の生成によって、抵抗性の誘導を示すことが明らかとなった。MF2とMF3にはアミノ酸配列に明らかな相同性は認められない。唯一共通性があるのは、ともに熱安定であるということのみである。分子量も異なっており、MF2は7239ダルトン、MF3は、17600ダルトンである。MF3は新規なタンパク配列をもっているが、その配列は、Pseudomonas aeruginosa の酵素peptidyl-prolyl cis-trans isomerase SlyDに最も近似している。
【0014】
peptidyl-prolyl cis-trans isomerase は、動物におけるタンパク質のリン酸化に重要な役割を果たしている(Zavyalov, V. et al. APMIS Vol. 103, pp. 401-415)。これは、植物と動物における抵抗性に関する機構の共通の分子リンクの存在を示唆している。従ってMF3は、植物全体の抵抗性機構の解明の鍵となると同時に生物界全体のそれらに関する一般的な分子ツールになると期待できる。即ち、MF3は、種々の病虫害耐性機構の解明に役立つといえる。
【0015】
MF3の製造は、MF3の適切な処方を散布したり、MF3又はその活性ペプチドを用いて、場合によっては熱処理細胞培養との組み合わせなどで、成長点培養によって無菌的な植物を得るための技術において、行うことができる。この生態学的に純粋で非植物毒性の物質の使用は、各種の作物の無菌クローンを得るのにも有効なものである。MF3の構造研究からウイルスや真菌類に抵抗性をもつ遺伝子改変植物を作るための遺伝子構築物を合成することも可能である。
【0016】
MF3発現を行える遺伝子改変植物の造成は各種の明白な有利な点がある。ある特定のウイルスゲノムのある部分を持った植物はその特定なウイルスに抵抗性を持つことになることが知られている。本発明にかかわる微生物には、いかなる明白な構造的な関係もない。MF3は、タバコモザイクウイルス(TMV)、ジャガイモウイルスX(PVX)、ジャガイモウイルスY(PVY)などに非特異的に抵抗性を誘導することが示された。更には、MF3で処理したジャガイモはPhytophthora infestansによるジャガイモ胴枯れ病に対する抵抗性を誘導した。また、ジャガイモ塊茎をMF3で処理することによってErwinia carotovoraによる軟腐病に対する抵抗性も誘導した。更にMF3は、Pyricularia oryzae によるイネのいもち病に対する抵抗性も誘導した。更に、小麦のFusarium culmorum とSeptoria に対する抵抗性も誘導した。具体例によって示すとおり、線虫や害虫に対する抵抗性も誘導した。このような抵抗性は、害虫の様々の発生過程、即ち卵、幼虫、成虫のいずれにも有効であると考えられる。このような害虫はその様々の発生段階において植物の様々の部位(根、植物細胞など)を攻撃する。同様に、具体例によって示すとおり、広い範囲の種々の植物がin vitro又はin vivoでのMF3による植物細胞や植物細胞間スペースへの導入によって抵抗性を形成することが証明されている。また、植物組織にはMF3の特異的受容体が存在しうる。それゆえに本発明は、植物をその寄生病害生物や植物病から広く守ることを提供するものである。
【0017】
MF3タンパク質をコードするDNA配列は、細菌から高等真核生物(植物を含む)の任意の生物用の適切なクローニング及び/又は発現ベクターに載せることで、一般的に行われている組換え手法(例えばJ. Sambrook, E. F. Fritsch and T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)によってクローニングできる。我々はそのような手法でMF3遺伝子をクローニングし、その遺伝子配列を決定した。またMF3タンパクのアミノ酸配列も決定した。このような結果に基づいてMF3を高発現する大腸菌を造成した。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、好ましくはこのタンパク質を発現する組換え微生物から、ウイルス、真菌類、細菌、一般微生物、線虫、害虫に抵抗性をもつタンパク質を単離精製する方法にある。そのような方法は、
(a)生産細菌の培養、及び次に適切な緩衝液で高温下での抽出(温度感受性の大部分の物質を抽出液から除くためには好ましくは沸騰水浴を用いる)、
(b)タンパク質画分から低分子量の有機物質を除くために適切なタンパク沈殿剤で低温下で粗MF3ポリペプチドを沈殿させる、
(c) アニオン交換カラムクロマトグラフィで再溶解した沈殿物を分画し、抗微生物活性、抗線虫活性及び/又は抗害虫活性画分を集める、
(d) 抗細菌活性、抗真菌類活性、抗ウイルス活性、抗線虫及び/又は抗害虫活性を有するタンパク質画分をPAGE電気泳動でさらに分ける、
(e) ゲルから溶出されたタンパク質を回収する、
工程を含む。
【0019】
上記の抗菌性タンパク質の精製方法は推奨できるものではあるが、更に改良を加えることも可能である。重要なる部分は60〜110℃での熱処理である。また各画分の生物活性を測定することも重要なことである。抗菌性タンパク質を適用するには好ましい精製法で述べた精製タンパク質が必須であるとは限らない。加熱工程において、Pseudomonas fluorescenceのような細菌細胞を、EDTA、PMSF(フェニルメチルスルホニルフッ素)、ME(ベーターメルカプトエタノール)、トリトンX100(ポリオキシエチレンエーテル)を含む燐酸緩衝液(pH7.4)で抽出することが望ましい。タンパク質の沈殿には氷冷したクロロホルム及び/又はプロパノール及び/又は硫安溶液で2〜6℃で行うことが望ましい。
【0020】
更に本発明の目的は、MF3を様々の微生物に対する保護剤として用いることにある。MF3を含む製剤は、安定剤、キャリアー、及び/又はアジュバントなどを含む処方用の物質を含むほうが実際的である。MF3は、比較的安定なタンパク質であるので、前記の添加剤は、主に、MF3又はその活性断片が植物細胞に入りやすくすることや植物細胞のMF3受容体に到達するのを助けるためのものである。各種植物に対する様々の製剤処方はN. M. Golishin, 1982によって既に公表されている。
【0021】
本発明では、MF3が植物保護剤としてタバコモザイクウイルス(TMV)、ジャガイモウイルスX(PVX)及びジャガイモウイルスY(PVY)に対して効果のあることを示した。我々はまた、ジャガイモのPhytophthoraとErwiniaに対する保護作用、稲のいもち病に対する保護作用、小麦のFusarium culmorum、Septoria nodorum及びphylum Nematodaに対する保護作用を明らかにした。以下の実験において、全ロシア微生物保存機関にあるPseudomonas fluorescence strain 197を用いた。この細菌は、モスクワ近郊Odintsovo地域の小麦の毛根から分離されたものである。
【0022】
MF3はある細菌から由来したものであるが、関連するタンパク質は他の生物からも得られるもので、これらもまた本発明に含まれるものである。MF3のアミノ酸配列は、既知の酵素に似ているが、この酵素活性は必ずしもMF3の活性の発現に必須のものではない。むしろMF3を特定のタンパク分解酵素で処理したり、沸騰水で処理してもその活性があるところから、MF3に存在する他の生物的特徴が植物保護作用の本体であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、以下の実施例で更に詳しく説明されるが、これらは本発明の範囲を規制するものではない。
【0024】
実施例1: Pseudomonas fluorescence strain 197の培養及び形態的特徴
この単離菌株を、合成培地(KingのB培地)(20g/l ペプトン、2.5g/l KHPO、6g/1 MgSOと20g/l ショ糖を含有)で培養する。18時間28℃で寒天培地で培養すると、直径が1.5〜2mmのスムーズな周縁をもち半透明な表面を持つコロニーを形成する。18時間28℃で液体培地で振とうして培養すると、細菌数は1010cells/mlとなる。細菌は緑黄色の透明で拡散する蛍光色素を生産する。細菌はグラム染色陰性、鞭毛をもつ運動性の短かん菌である。菌株197の生育最適温度は28℃、最低温度は4℃、最高温度は43℃である。最適pHはおよそ7.0である。また窒素固定能はなく、C−1化合物を炭素源として利用できない。炭素源としては、ショ糖、ブドウ糖、グリセリン及び/又は複数の炭素を持つ他の化合物である。化学有機栄養性、好気性、オキシダーゼ及びカタラーゼ陽性である。好気性の代謝があり発酵性ではない。これらの形態、生理、生化学的解析結果から、この株は、Pseudomonas fluorescenceに属するものと結論できる(Cion, 1948; The shorter Bergey’s manual of determinative bacteriology, 1980)。
【0025】
最適条件で培養した後で、菌体を室温で遠心機(Sorvall- RC28S centrifuge, rotor GS-3)で6,000g、15分遠心分離して集め、蒸留水で2回洗浄した。遠心で得たものを1mM EDTAを含む50mMの燐酸カリウム緩衝液、pH7.0に再懸濁して最終濃度を4〜5×1010 cells/mlとした。懸濁液を沸騰水中で15分加熱してから6,000g、15分遠心して、菌体及びその破砕残渣を除いた。上清を1量(w/v)の冷クロロホルム、2量(w/v)の冷プロパノールの順で処理した。沈殿物を6,000g、15分の遠心で除去した。上清を冷プロパノールと混合して、プロパノールの最終濃度が5倍量となるようにした。沈殿物を1,000g、20分の遠心処理で得、0.1M NaCl、0.1mM EDTAと1%Triton X-100を含む0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.0)に溶解した。これを2分間沸騰水浴中で処理し、冷却後Sephadex G-50カラム(あらかじめ同じ緩衝液で平衡化したもの)に通し、同じ緩衝液で溶出した。活性のある画分を集め、濃縮してから5倍量の冷エタノールで沈殿させた。次いで、垂直型アクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)でLaemmli(1970)の方法に準じて精製した。ただし、分離ゲル及び緩衝液はSDSの代わりにTriton-X100を含んでいた。0.1% Triton-X100を含む20%ポリアクリルアミドを用いた。活性バンドは、電気泳動を再開して溶出させた。タンパク質のバンドはCoomassie Brilliant Blue R-250による染色で可視化した。タンパク質の量はウシの血清アルブミンを標準に用いてBradford(1976)の方法でもとめた。
【0026】
以下の例示はあくまでも本発明の概念を示すものである。ここではP. fluorescence strain 197から得た煮沸抽出物を用いた。同様にして遺伝子改変細菌(E. coli)から得たものも使える。
【0027】
実施例2: タバコモザイクウイルス(TMV)に対するMF3の保護作用
全ての微生物、線虫、植物の株及び品種は、植物病研究所(the Research Institute of Phytopathology, Golitsino, Moscow region, Russia)から得たものである。
【0028】
タバコ(Nicotiana tabacum var. Virginia及びNicotiana glutinosa)を、土壌をいれたポットで6葉期まで人工気象器(相対湿度60%、明暗それぞれ12時間)の中で成長させた(約3週間)。タバコの葉を、カーボランダム(炭化珪素)を用いて絵筆で接種した。P. fluorescenceの抽出物の混合物(50μl)をこの3週令のタバコの葉の半分に擦りつけた。残りの半分を対照として、同量の緩衝液だけで処理した。2日後に、同じ葉にタバコモザイクウイルスの懸濁液(0.3μg/ml、10mM K-phosphate buffer、pH7.0、0.3ml/半葉)を擦りつけた。3日後にそれぞれの葉に出た感染斑を計数した。病状の進展は対照区と感染区の斑の比から求めた。結果は表にまとめた。P. fluorescenceの抽出物はTMV感染からタバコを防御した。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例3: タバコにおける個体全体にわたるMF3の抗タバコモザイクウイルス(TMV)作用
タバコ(Nicotiana tabacum var. Virginia及びNicotiana glutinosa)を、土壌をいれたポットで6葉期まで人工気象器(相対湿度60%、明暗それぞれ12時間)の中で成長させた(約3週間)。タバコの下部2葉にカーボランダム(炭化珪素)と50μlのMF3の混合物を絵筆で擦りつけた。2日後に同じ葉及びその上部にある葉にタバコモザイクウイルス懸濁液を接種した。対照として、緩衝液だけで葉を処理した。結果は表2にまとめた。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例4: イネにおけるPyricularia oryzaに対するMF3の活性
天然界から分離したPyricularia oryzae Cav. H−5−3を用いて試験を行った。このカビは、28℃最少寒天培地(カゼイン分解物(Sigma)3mg/mlを含む)で培養した。10日後胞子(分生胞子)を集め、4℃の蒸留水で洗浄した。菌糸はMiracloth(Calgiochem-Boehringer Corp)と2層のステンレスネット(孔サイズ 50μm)でろ過して除去した。胞子懸濁液は7,000g、15分2回の遠心法で洗浄し、蒸留水に再懸濁した。胞子の数は顕微鏡下で血球計で測定した。
【0033】
上記のいもち菌に感受性の稲(Oryza sativa L. of cv. Sha-tiao-tsao)を用いて、検定した。稲は、4葉期(約13〜15日)まで土壌を入れたポットで相対湿度95%、温度30℃と23℃、明暗12時間で栽培した。光源(20klux)は、水をフイルターとして10kWのキセノンランプ(DKsT-10000)を用いた。
【0034】
稲に胞子懸濁液(100,000胞子/ml)をポット当り5ml噴霧した。処理した稲は、高湿度の人工気象器で23℃で18〜24時間暗くして栽培した後、明るくして10日間病状の発現を観察した。胞子懸濁液の生存度は、胞子液を15時間23℃で暗くしてマイクロタイタープレート中で培養して発芽数を検討した。MF3を緩衝に溶解したものを胞子の接種物に加えた。対照としては、等量の緩衝液を用いた。
【0035】
使用したMF3の濃度範囲では水中でのP. oryzae spores の発芽を阻止するものはなかった。しかしながら、接種物に添加したMF3溶液はいもち病を極めてよく防いだ。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例5: 小麦におけるSeptoria nodorumに対するMF3の活性
天然界から分離した Septoria nodorumを用いた。小麦(Mironovskaya 808)は2葉期(13〜15日)まで土壌を入れたポットで人工気象器で栽培した。
【0038】
切り取った小麦の葉をペトリ皿(2% アガー、40mg/l ベンズイミダゾール含有)に載せた。それぞれの葉の上側に、5μlのMF3(濃度1.25mg/mlと2.5mg/ml)を、そして下側には5μlの緩衝液を対照として浸した。2日後、全ての水分を殺菌した布で葉の表面から取り除き、5μlの胞子懸濁液(10ml)を滴下した。ペトリ皿を暗所で1日培養し、その後10kWキセノンランプ(DKsT-10000)、8〜10klux、20〜22℃、16時間明所で培養した。病兆を7日後に観察した。
【0039】
【表4】

【0040】
表4に示すように、MF3は、小麦のSeptoria nodorumによる病気を極めて効率よく阻止した。
【0041】
実施例6: 細菌の小麦種子への感染とFusarium culmorum(W. G. Sm)Sacc.の防止及び小麦の増殖促進
病原接種物は、ポテト−デキストロース寒天培地で10日培養した
F. culmorumの2つの株から得た。胞子懸濁液中の胞子濃度は約2×10per mlであった。試験に供した小麦は、Mironovskaya 808であった。小麦種子をPseudomonas fluorescence strain(st.197)の懸濁液又は、生成した細胞抽出物で処理することで、小麦の根ぐされを起こすF. culmorumから防御できることが実験室内で証明された。
【0042】
つまり、細菌を、1lの蒸留水当たり2g カゼイン加水分解物、10g ショ糖、3g イーストエキストラクト、2.5g NaNO、0.5g MgSO・7HO、1g KHPO、20g アガーからなる培地で培養した。細菌は、6日間培養し、10〜10/mlとなったものを供した。
【0043】
冬小麦種子を96%エタノール中で1分間表面殺菌し、蒸留水に浸漬し、ペトリ皿に入れ、湿度を保ちながら24時間、23〜24℃で培養した。発芽した種子をペトリ皿(30seeds per a dish)に移し、F. culmorumの分生子及び/又はstrain197細胞の懸濁液で湿らせた。懸濁液の総量は10ml/dish(5ml F. culmorum胞子懸濁液と5ml st.197の懸濁液の混合物(混合接種物)、又は5mlずつのいずれかの懸濁液と5mlの蒸留水(個別接種物))であった。24時間後に、種子を、2枚の乾燥した発芽用紙(16×85及び6×85cm、30seeds on a pair of pieces)に挟み込み、これを無菌状態にしたポリエチレン片(6×90cm)でカバーして巻いた。3つのロール(巻いたもの)/レプリカを各実験に用いた。これらは、それぞれ別々の容器に入れ、よく湿らせ、暗所、22〜23℃で6日培養した。次いで実験台に載せて19〜20℃で12時間の明暗の繰り返しで、6日培養した。これらのロールには、紙が乾いてきたら必要な水分を与えた。この後、発芽した種子数、芽の長さ、根の長さ(最長)、乾燥重量を測定した。
【0044】
【表5】

【0045】
表5によるとstrain197は、有意に病兆の進展を阻害した。芽の長さは22〜23%増加しており、最長の根の長さも18〜21%長く、また芽の乾燥重量は22〜23%、根の乾燥重量は19〜26%、それぞれ混合接種群がF. culmorum.の単独接種群よりも高かった。混合接種群の細菌の濃度は10〜10cells/mlで、処理間では有意差がなかった。
【0046】
細菌を、液体培地(蒸留水1リットルあたり 20g ペプトン、2.5g KHPO、6g MgSO×7HO、20g ショ糖)で培養し、2日目に用いた。菌濃度は約1010/mlであった。
【0047】
MF3を次の方法で作製した。先ず細菌細胞を水で2回洗い、10mM燐酸緩衝液中(pH7.5)に当初の10倍以上の濃度に懸濁した。懸濁液を30分沸騰水浴中で加熱した。細胞破片は遠心で除き、上清を実験に用いた。この際、抽出液を15倍に希釈して用いた。
【0048】
無殺菌の小麦種子を浅い入れ物(90seeds/vessel)に入れ、5mlのPseudomonas fluorescenceの懸濁液、抽出液又は蒸留水に浸し、20℃、5時間培養した。その後、5mlのF. culmorum(2×10 spores/ml)懸濁液又は殺菌蒸留水を添加した。24時間培養後、2枚の乾燥した発芽用紙(16×85及び6×85cm、30seeds on a pair of pieces)に種子を挟み込み、これを無菌状態にしたポリエチレン片(6×90cm)でカバーして巻いた。3つのロール(巻いたもの)/レプリカを各実験に用いた。これらを、先に記載した実験と同じ条件で培養した。
【0049】
発芽した種子数、芽の長さ、最長の根の長さ、乾燥重量を測定した (表6)。
【0050】
【表6】

【0051】
芽の長さは、17.3〜18.6%、最大根長は、6.6〜17.4%、芽の乾燥重量は、23.1〜23.6%、根の乾燥重量は、12.3〜24.3%、F. culmorumの単独接種に対して混合接種で高かった。芽の長さ、芽の重量も、細胞懸濁液処理したものがそれぞれ14.7% 及び22.0%、対照よりも高かった。
【0052】
実施例7: MF3 のジャガイモ胴枯れ病に対する効果
天然界から分離したPhytophtora infestansとジャガイモ品種"Lorch"を実験に用いた。str. 197菌調整物処理によるPh. infestans感染への影響をみるために、ジャガイモの塊茎を細菌の懸濁液(10cells/ml)で湿らせた。7〜10日後にこれらの塊茎を温室に植えた。ジャガイモの葉を切り取り、Ph. infestansの病原株を接種し、この菌の浸透度、感染域の拡大、胞子形成率、塊茎への定着率などを測定した。無処理の塊茎からの葉を、対照として用いた。
【0053】
浸透度は、切り取ったジャガイモの葉の下部にPh. Infestans胞子懸濁液(10spores/ml)を散布接種し、高湿度で2〜3日、18〜20℃で培養して測定した。次いで、葉面の感染斑/cm2を測定した。代表的な実験の結果を表7にまとめた。
【0054】
【表7】

【0055】
切り取った葉の下部に1滴のPh. infestans胞子懸濁液 (約10spores/ml)を接種した。感染斑の拡大は接種後4又は5日目の感染斑の直径から求めた。結果を表8に示した。
【0056】
【表8】

【0057】
胞子形成率は、1個の感染斑の胞子数から決めた。実施例7にあるように、胞子懸濁液を1滴葉面に落として接種した。5日後に葉面のいくつかの感染斑から胞子を洗い落とし、感染斑当りの胞子数を計測した。結果は、表9にまとめてある。
【0058】
【表9】

【0059】
MF3でジャガイモを処理することでPh. infestans の塊茎への定着率の影響を見た。ジャガイモ塊茎を細菌の懸濁液(10cells/ml)で処理し、7〜10日後に 0.5×0.5×5cmの切片を塊茎から切り出した。この内の一つにPh. infestans 胞子を接種した。接種塊茎を高湿度下で18〜20℃で培養した。各塊茎片の病原菌が定着した部分の長さを8〜9日後に測定した。結果は、表10にまとめてある。
【0060】
【表10】

【0061】
MF3で処理したときの病気の進展を次のように測定した。ジャガイモの塊茎を先ず細菌懸濁液(10cells/ml)で湿らせた。7〜10日後に塊茎を2.8×9mのプロットに通常通り植えた。これらのプロットは大きなジャガイモ畑の中に用意した。実験プロット間の距離は1m以上であった。自然界でのバックグラウンド感染が当然存在していた。MF3で処理した実験プロットからの塊茎では、Ph. infestanceによる被害は15%、これに対して対照域の塊茎では27%だった。
【0062】
他の実験において、2.8×7.0mのプロットに無処理のジャガイモを植えて、細菌懸濁液(10cells/ml)を400 l/hectare、適当な間隔で4回散布した。この実験でも病害感受性ジャガイモ品種"Lorch"を用いた。栄養増殖期に10日ごとに病害の発症を検討した。栄養増殖期の終了後、それぞれのプロットを約10〜15m2の5〜6部に分けた。そのそれぞれの部について塊茎の被害を調査した。対照区は、細菌処理をしていなかった。その結果、strain197で処理したプロットの塊茎については、Ph. infestanceの被害は11%、一方対照プロットの塊茎は、27%であった。
【0063】
実施例8: コロラドハムシ幼虫による被害へのMF3の効果
コロラドハムシの幼虫は卵から孵化させ、水中でガラスの上に置いたジャガイモの葉の上で生かしておいた。コロラドハムシは、ARRIPでジャガイモとともに採集したものである。実験には、畑から取ってきた40〜50日目の葉(cv. Sante)を用いた。
【0064】
この実験には、第2ステージの幼虫を用いた。ジャガイモの葉を切断(16mm)して、MF3液又は水(対照)に浸した。切断葉を乾燥してからペトリ皿の湿らせた紙に移し、3匹の幼虫をその上に置いた。24時間後に切断葉を乾燥し、幼虫が摂食した面積を計測した。それぞれの実験は3回繰り返した(表11)。
【0065】
【表11】

【0066】
この実験には第4ステージの幼虫を用いたので、葉面積を大きくし(直径36mm)、そしてそれぞれの区に幼虫は1匹とした。結果を表12に示す。
【0067】
【表12】

【0068】
実施例9: 遺伝子組換えジャガイモのErwinia carotovoraに対する抵抗性
E. carotovoraが植物組織を破壊する能力は、そのペクチン分解活性によっている。しかしながら、このことが自然界で病原性の本体であることは証明されていない。偽陽性結果は、接種した組織に自然に存在する内在性あるいは共在性の微生物によるものである。そこで家庭用の漂白剤(5.25% sodium hypochlorite)に10分間浸漬して表面の殺菌と自然乾燥を行い、更にこの操作の繰り返しと、アルコールで殺菌してから、植物組織を適切な大きさに切断した。これを、ペトリ皿上に殺菌したろ紙に置き、さらに0.1〜1mlの24時間培養した細菌懸濁液(ca. 10CFU/ml)を接種した。これらを20〜27℃、48時間培養して、接種した部位の組織が柔らかくなるか破壊されているかを薬匙や針で調べてみた。
【0069】
【表13】

【0070】
表13は組換え体ジャガイモ株(N53、N56及びN71)が明らかにErwinia carotovoraに対して抵抗性を示していることを示す。
【0071】
実施例10: 遺伝子組換えジャガイモのPhytophthora infestansによるジャガイモ胴枯れ病に対する抵抗性
モスクワ近郊のPh. infestansを接種したMF3を発現している遺伝子改変ジャガイモ植物体からの葉を用いて、同時に、同じ病原体を接種したこれらの非組換え体を用いて、実験室レベルの比較実験を行った。様々の品種から10枚の葉を取ってzoospore懸濁液(120倍の倍率で1視野に5〜6 zoospores)を散布した。接種後、葉を12時間18℃で高湿度で培養した。3日後、壊死した組織の数(per cm2)を計測した。葉に8μlのzoospore 懸濁液(1〜2滴 per leaf)を接種した。Zoosporeの濃度は、実施例1と同じであった。接種した葉は、暗くして18時間高湿度下で培養した。その後、余分の懸濁液をろ紙で除き、高湿度下でさらに20℃で培養した。5〜6日後、壊死領域(mm2)を測定するとともに胞子形成能(4−スコアで表記)を測定した。
【0072】
用いたモデルは、栄養期の病害の進展のダイナミクスについての目安を提供し、収穫期の損失を算出する。(式1)
【0073】
【数1】

【0074】
W - 収穫損失(%)
S - 感染の増加率を示す曲線の下に得られる面積 (AUDPC);
q - ジャガイモ胴枯れ病に罹病していないジャガイモの開花から栄養期の期間の延長(日)
平均qの値はジャガイモ品種の熟期と栽培条件によって定められる。様々の熟期の平均qは、早生、中生では46日、中早生では52日、中晩生は84日、そして晩成は97日である。計算は、コンピューターソフトウエア又はノモグラム(図1)で、ジャガイモの早生、中生、晩生について行える。
【0075】
図1のノモグラムには次のような計数が含まれている。:
A - 感染域係数 (壊死の数×その大きさ), in fraction of the standard;
I - 培養時間, in fraction of the standard;
S - 胞子形成能力, in fraction of the standard;
P - 未熟葉がジャガイモ胴枯れ病で失う収穫減少量 (%).
P値は、3部に分かれて表される。即ち、Lは晩生、Mは中生、Eは早生を表す。
【0076】
次の係数を、ジャガイモ胴枯れ病耐性度を各品種について推定するために用いることができる。:
【0077】
【表14】

【0078】
モスクワ地域で通常分離できる天然のPh. infestans株とMF3を発現できる遺伝子改変ジャガイモとを用い、この際に非遺伝子改変ジャガイモNevskyを対照として用いた。表14と15に、実験室内での検討の結果を示した。表16は、野外試験の結果である。
【0079】
【表15】

【0080】
【表16】

【0081】
【表17】

【0082】
実施例11: 遺伝子改変ジャガイモの線虫シストGlobodera rostochiensis Ro1-typeに対する抵抗性(ポット試験)
Globodera rostochiensis Ro1-typeのシストは、全ロシアジャガイモ研究所Korenevo, Moscow regionの農業試験場の土壌から取得した。mf3遺伝子をもった遺伝子改変ジャガイモを用いた。
【0083】
Globodera rostochiensis (5,000 eggs/100ml soil)のシストを300mlプラスチックポットの土壌に移植するのに用いた。同時に、遺伝子改変ジャガイモ塊茎1個を各ポットに植えた。2.5〜3月後にそれぞれのポットのシストを測定した(表17)。
【0084】
【表18】

【0085】
遺伝子改変ジャガイモ品種N53から得られたシストの数は、非遺伝子改変株(対照)よりも明らかに少ない。
【0086】
実施例12: 遺伝子改変ジャガイモの線虫シストGlobodera rostochiensis Ro1-typeに対する抵抗性(野外試験)
Globodera rostochiensis Ro1-typeのシストは、全ロシアジャガイモ研究所Korenevo, Moscow regionの農業試験場の土壌から取得した。mf3遺伝子をもった遺伝子改変ジャガイモを用いた。遺伝子改変ジャガイモ品種を全ロシアジャガイモ研究所Korenevo, Moscow regionの農業試験場に植えた(4816幼虫Globodera rostochiensis Ro1-type/100ml of soil)。植物の収穫は2002年8月12日に行い、それぞれの個体の根にあるシストの数を計測した(P=0.90)。
【0087】
【表19】

【0088】
mf3遺伝子をもつ遺伝子改変ジャガイモ品種を実験農場で育てたもののシスト数は、非遺伝子組換えの対照よりも少なかった。特に、N71は明確に少なかった。この品種から集めたシストの数は、対照よりも27%少なかった。
【0089】
実施例13: mf3で形質転換したタバコのジャガイモウイルスX(PVX)に対する抵抗性試験
PVXに完全に感染させた個体を葉の抽出物の供給源とした。抽出物は、−70℃で保存した。3週令のタバコ(遺伝子改変と非遺伝子改変)4個体をそれぞれの品種について用意した。上部から数えて3番葉、4番葉にPVXを接種した。
【0090】
接種後1、2、3週後に、PVXを全ての処理した葉について通常のELISA法(PVX ELISAキット、全ロシアジャガイモ研究所Korenevo, Moscow region)で試験した。0.1%の葉の抽出液の吸光度をメーカーが記載している標準方法で測定した。これらの結果は表19にまとめてある。これらの結果は、遺伝子改変株がPVXに対して高い抵抗性を示すことを表す(殆ど90%)。
【0091】
【表20A】

【0092】
【表20B】

【0093】
実施例14:mf3遺伝子を含む遺伝子改変タバコのタバコモザイクウイルス(TMV)に対する抵抗性
試験方法及び材料は、実施例13と同じであった。試験結果は、表20にまとめてある。これらの結果は、遺伝子改変タバコ177、152、171が2週目で、391、286、409、279が3週目で、強い抵抗性を示したことを表す。
【0094】
【表21】

【0095】
実施例15: mf3遺伝子で形質転換したタバコのジャガイモウイルスY(PVY)に対する試験
試験手法及び材料は実施例12と同じであった。試験結果は、表21に示してある。これらの結果は、遺伝子改変植物27系統中21種(78%)がPVYに高い抵抗性を示したことを表す。
【0096】
【表22A】

【0097】
【表22B】

【0098】
実施例16: mf3遺伝子を含む遺伝子改変ジャガイモのジャガイモウイルスX(PVX)に対する自然感染条件下での抵抗性試験
【0099】
【表23】

【0100】
実施例17: 遺伝子改変品種におけるmf3遺伝子の発現レベル
MF3に対するモノクローナルマウス抗体をマイクロタイタープレートの表面に4℃で一夜かけて吸着させた。次いで、洗浄緩衝液(PBS緩衝液、0.05% Tween(登録商標) 20)で3回洗浄した。100μlのPBSで希釈した植物抽出液(1:100と1:10、w/v)をマイクロタイタープレートのウエルに入れ、37℃、1時間保持した。その後、PBS緩衝液で3回洗浄した。次いで、100μlのhorse-radish peroxidase(HRP)に結合したMF3のモノクローナルマウス抗体(5μg ml-1)をウエルに加え、37℃、1時間保持した。その後、プレートをPBS緩衝液で3回洗浄後、基質(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン、TMB、Sigma)を添加した。反応を、20分後に2M HClを加えて止めた。吸光度をメーカー(Sigma Chem. Co, USA)の指示書に従って測定した。
【0101】
【表24】

【0102】
【表25】

【0103】
実施例18: タバコの葉を用いたタバコモザイクウイルス(TMV)に対するエンドペプチダーゼ処理したMF3の保護作用
MF3のエリシター活性を表すアミノ酸配列を特定するために、ペプチダーゼによる分解を行った。エンドプロテイナーゼ Arg−C(sequencing grade、Clostridium histolyticum由来、Roche Molecular Biochemicals)の0.5μg/assayを使って最終量50μlの0.1M Tris−HCl、pH7.6;10mM CaCl(Christophe Breton et al, 2001)で24時間、37℃で処理した。Arg−C エンドプロテイナーゼによる部分分解は、もとのMF3と同様の活性を示す断片を示した。
【0104】
MF3を、数個の結晶CNBrを含む100μlの70%(v/v)蟻酸でCNBr分解した。上記混合物を暗所で24時間室温でアルゴン気流中に保持し、500μlの水を加えて反応を止めた。サンプルの容量を減圧下で少なくし、蟻酸は水で置換することで除いた(Christophe Breton et al, 2001)。CNBrによる化学分解断片もMF3と同様の活性を示した。
【0105】
エンドプロテイナーゼ Lys−C(sequencing grade、Lysobacter enzymogenes由来、Roche Molecular Biochemicals)の0.2μg/assayを最終量50μl中で用いた。分解は、25mM Tris−HCl、pH8.5;1mM EDTA;0.1% SDS中で16〜24時間、37℃で行った後、Laemmli緩衝液(Christophe Breton et al, 2001)を加えて反応を止めた。トリプシンによる分解では、MF3の抗ウイルス活性は消失した。18.4トリプシン分解は、0.5M 尿素、50mM Tris−HCl、1mM CaCl(pH7.6)中で37℃、1時間行ない、TCAを最終濃度10%になるように加えて反応を止めた(Promega manualに従った)。トリプシンによる分解ではMF3の抗ウイルス活性は消失した。MF3をトリプシンとLys−Cで処理すると抗ウイルス活性が消失したが、エンドプロテイナーゼ Arg−C、CNBr及びエンドプロテイナーゼでの処理ではMF3の部分活性が残っていた。少なくとも2個のアミノ酸配列(1〜80の領域と105〜149領域)が新規な病原菌関連構造(PAMP=pathogen-associated molecular pattern)と考えられ、これが植物内での防御機構の引き金になっていると考えられる。様々の供給源からの相同タンパクの配列情報 (45存在する)によると、29〜85領域と105〜149領域は、切れ目なく保存されていると考えられる。また、抗ウイルス活性には、約30アミノ酸で十分のように思われる。この配列は、前記の領域に含まれている。従って、保存領域は、29〜85及び105〜149と結論できる。
【0106】
29 − GA PLVYLQGAGN IIPGLEKALE GKAVGDDLEV AVEPEDAYGE YAAELVSTLS RSMFE - 85、
105 − MQIVTI ADLDGDDVTV DGNHPLAGQR LNFKVKIVDI RDASQEEIA - 149。
【0107】
実施例19: mf3遺伝子のクローニングと配列決定
N−末端アミノ酸配列から、同義語を含むオリゴヌクレオチドを合成した。MF3発現細胞から高分子の染色体DNAを単離して、6個の制限酵素(BamHI、EcoRI、PstI、HindIII、SalI、SphI)を単独で或いは組み合わせて分解した。制限酵素で分解したDNA断片をアガロースゲル電気泳動で分子量に応じた分離を行い、続いてHybondN膜にブロッティングした。[γ−32P]ATPとT4−ポリヌクレオチドキナーゼで標識した合成オリゴヌクレオチドをプローブに用いてサザーンハイブリダイゼーションを行った。制限分解物当りただ1個の陽性のバンドがX線フィルム上に現れた。陽性になった断片の分子量を使って抗ウイルスタンパク質に相当する染色体遺伝子の制限酵素地図を作製した。
【0108】
染色体DNAのSalI分解物を0.7%低温溶解アガロースで電気泳動後、約3.3kbpのDNA断片をゲルから単離した。これをさらにHindIIIとBamHIで分解して、1.0%低ゲル化アガロースゲルで電気泳動後、約0.7kbpのDNA断片を単離した。この断片をHindIII及びBamHIで分解したベクターpUC18に連結した。コンペテント大腸菌(E. coli strain XL1-blue)をこの連結物で形質転換してLB平板培地(アンピシリン 70mg/lを含む)で培養した。出てきた大腸菌コロニーをHybondN-膜に写し、放射性オリゴヌクレオチドをプローブとしてコロニーハイブリダイゼーションを実施した。約70%のコロニーが陽性となった。
【0109】
陽性になったコロニーからプラスミドDNAを単離して、挿入された断片の配列を決定した。抗ウイルスタンパク質のN−末端をコードするDNAは、BamHI部位の近くにあることが判った。ATGで始まり、TGAで終わる486bpの読枠が見つかった。DNAコーディング領域解析によると、抗ウイルスタンパク質は161アミノ酸残基からなることが判っている。これまで述べたクローニング方法は、基本的に教科書(J. Sambrook, E. F. Fritsch and T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press)(1989)に記載のものである。
【0110】
実施例20:大腸菌でのmf3遺伝子の発現
MF3の末端を変更するために、鋳型としてプラスミドDNA B/H4を、及び次のプライマー(Nde-mf3 5’-GGAATTCCATATGCTGATCGCCGCC-3’、Hind-mf3 5’-CCCAAGCTTAGTGGTGATGGCCACC-3’)を用いた。できあがった断片をNdeI及びHindIIIで分解し、gene 10の代わりにプラスミドpGEMEX1にクローニングした。反応液(50μl)は、約10ng テンプレートDNA、1μMの各プライマー、0.2mM dNTP混合物、1× Vent buffer(20mM Tris−HCl、pH8.8、10mM KCl、2mM MgSO、10mM (NHSO、0.1% Triton X-100)及び1U Vent DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)で構成されていた。温度調節サイクルプログラムは、5分間の96℃での変性、次いで30サイクルの増幅、変性96℃、1分、アニーリング45℃、1分、そして伸長反応を74℃、1分;最後の伸長反応は、74℃、10分であった。PCR反応サンプル(50μl)をサンプル緩衝液と混合後、1μg/ml エチジウムブロミドを含む1%アガロースゲルで100V、1時間、Tris−ボレート EDTAを緩衝液として泳動した。PCR産物は、1%アガロースゲルからPrep-A-Gene DNA Purification Kit (Bio-Rad Laboratories) で溶出し、50μlの1×TE中に回収した。純化したPCR産物をNdeIとHindIIIで分解し、1%アガロースゲルで大きさによる分画を行った。約500bpのDNA断片をPrep-A-Gene DNA Purification Kit(Bio-Rad Laboratories)で溶出し、50μlの1×TE中に回収した。
【0111】
アンピシリン耐性遺伝子をもつpGEMEX1のNdeI/AatII断片、ファージT7のターミネター遺伝子gene 10をもつpGEMEX1のAatII/HindIII断片、及びmf3の改変PCR産物を、三重ライゲーションで結合して一つのプラスミドpMFを創った。ここでは改変されたmf3遺伝子は、ファージT7のgene 10プロモーター及びターミネーターの制御の下に作動する。連結混合物(5μl)でコンペテント大腸菌(E. coli)strain XL1-blue(Stratagene)を形質転換した。アンピシリン(100mg/ml)の存在下でLB寒天培地で生育できる形質転換株を探索し、プラスミドDNAの制限酵素分析で目的のコード断片が正しく挿入されているものを選別した。プラスミドの一つを、T7とSp6プライマーを使って両方のDNA鎖を色素プライマー法で自動DNAシーケンサー(BioRad)でメーカーの作業マニュアルに従って配列決定し、後で用いた。
【0112】
MF3タンパク質を製造するために、pMFのプラスミドDNAで大腸菌(E. coli)strains BL21(DE3)を形質転換した。この株はT7RNAポリメラーゼを合成でき、その発現レベルはIPTGで制御できる。
【0113】
実施例21: MF3タンパク質の精製
100mg/mlのアンピシリンを含む100mlのTB(terrific broth)を1Lのエーレンマイヤーフラスコに入れて、約100コロニーのpMF3/BL21(DE3)を植え込み、37℃、振とう培養器“Certomat H”(“B.Braun Melsungen”, Germany)で260rpmの回転速度で培養した。吸光度A550nmが2〜2.5になった時、IPTGを終濃度が0.05mMになるように添加し、培養を同じ条件でさらに一夜続けた。翌日、4,000g、30minの遠心分離で細胞を得た。
【0114】
沈殿物を50mlの緩衝液(50mM Tris-HCl、pH 8.0、0.15M NaCl、2mM EDTA、2μg/ml リゾチーム)に再懸濁し、30分氷の上に放置した。清澄な溶解液をNi2+でチャージし、緩衝液A(50mM Tris−HCl pH7.5、0.25M NaCl)で平衡化したキレートセファロースFF(Pharmacia, Sweden)を充填したカラム(25×50mm)に載せた。吸着材を50mM Tris−HCl、pH7.5、1M NaClで洗浄した。結合したタンパク質は、緩衝液A(50mM Tris−HCl、pH7.5、0.25M NaCl)と緩衝液B(50mM Tris−HCl、pH7.5、0.25M NaCl、0.25M イミダゾール)で作製した漸増する直線的濃度勾配で溶出した。流速は毎分3ml、溶出液は300mlであった。MF3は緩衝液Bがおよそ35%のあたりで溶出された。
【0115】
集めた画分中のMF3の有無は、SDS−PAGEで解析した。MF3を含む画分を集め、20mM Tris−HCl、pH8.0を使って透析した。タンパク質溶液をMono Q HR10/10カラム(Pharmacia, Sweden)に供した。タンパク質は、緩衝液A(50mM Tris−HCl、pH8.0)とB(50mM Tris−HCl、pH8.0、1M NaCl)との食塩の漸増する直線的濃度勾配溶液で溶出した。流速は1ml/分で、濃度勾配液量は60mlとした。MF3は、緩衝液Bが約40%のところで溶出された。溶出されたタンパク質に、25%飽和硫安を加えた。溶液を4,000g、30分で遠心処理し、上清を、50mM NaHPOで平衡化したPhenyl Sepharose HiLoad 16/10カラム(Pharmacia, Sweden)に載せた。タンパク質の溶出は、硫安の高濃度から低濃度への直線的濃度勾配、即ち0.5M〜0.2Mまで30分、0.2M〜0Mまで60分で行った。濃度勾配の液量は200ml、流速は毎分2mlで行った。緩衝液Aは、50mM NaHPO、pH6.5、1.7M(NHSO、緩衝液BはMilliQ水であった。MF3は、約95%が緩衝液Bのところで溶出された。集めた画分中のMF3の確認は、SDS−PAGEで行なった。MF3を含む画分を集め、50mM 硫酸アンモニウムに対して透析した後、凍結乾燥した。
【0116】
MF3タンパク質を1mlの50mM Tris−HCl、pH8.0に溶解し、予め50mM 硫酸アンモニウム、pH8.0で平衡化した10×800mmのSephadex-G50カラムに載せた。MF3を含む画分を集め、凍結乾燥した。MF3の収量は、1Lの培養液から約200mgであった。
【0117】
TB培地は、12g バクトトリプトン、24g イーストエキストラクト、4ml グリセロールを900mlの水に溶かし、高圧滅菌して作製した。60℃に冷やしてから100mlの、0.17M KHPO、0.72M KHPO無菌溶液を加えた。
【0118】
実施例22: 遺伝子改変植物を得るための遺伝子構築
Agrobacteriumが媒介する形質転換による植物細胞へのT-DNA移送原理を用いて、遺伝子改変植物を得た。植物と微生物の両方で働くバイナリーベクターp13Kを、pBin19(Bevan, M. 1984)から次の方法で作製した。pGL22/MF3から得たEcoRI断片をpBin19のEcoRI部位にクローニングした。pGL22/MF3はカリフラワーモザイクウイルスの35Sトランスクリプトのプロモーターとターミネーターを持っており、その間に改変したMF3が、BamHI部位を使ってHPT遺伝子(Pietrzak et al., 1986)の代わりに導入されていた。MF3配列の改変は、以下に示すプライマーを使ってB/H4プラスミドDNAにPCR反応を行うことで実施した。
【0119】
5’-GGCCACCATGCTGATCGCCGCCAATAAGG
5’-√GGTCAGTGGTGATGGCCACCTTCG
プラスミドp13KをE. coliからAgrobacterium tumefaciens LBA4404に三種同時接合法で移した(Van Haute E. et. al, 1983)。
【0120】
実施例23: Agrobacteriumによるジャガイモの形質転換
ジャガイモ(Solanum tuberosum cv. Nevskiy and cv. Lugovskoy)は、ウイルスフリーのin vitro幼苗としてロシア科学アカデミーのバイオエンジニアアリングセンターから得た。植物は、無菌的に3×11.5cmのガラスの培養器に一節に切り分けたものを増殖させた。培地は、標準的な増殖培地(PM)で、Murashige and Skoog’s (1962)の基本組成(MS)に、20g/l ショ糖、0.4mg/l チアミン、100mg/l ミオイノシトール、1.7g/l phytagel(Sigma, St Louis, Mo. USA)、pH5.7を補填したものであった。植物体の継代は節の切片を毎月新しい培地に植え替えて行なった。再生や形質転換には長さ5mmの茎(葉のない)を用いた。これらの芽を生育器の中でGrow-Lux(登録商標)と120μE蛍光ランプの50:50の混合人工光のもとで16/8時間の明/暗サイクルで19℃で育てた。
【0121】
葉は、なるべく茎に近いところから切り落とし、茎は20を束ねて5mmに切断した。これらを25mlペトリ皿に入れ、植物ホルモン無しのMS液体培地で2日培養した。切り出した植物体に接種するには、前培養培地を吸引して除き、希釈したAgrobacterium溶液を茎の切片に注ぎ込み、かき混ぜずに15分放置した。次いで、Agrobacterium溶液を吸引して除き、茎の切片は、スパチュラを用いて共培養培地に拡げた。共培養培地当たり約100個の茎切片を植えた。典型的な例ではこの形質転換系によって100個あたり40個の遺伝子改変体を得た。体細胞分裂による変異を最小にするため、100%の遺伝子改変が起こる前にその反応を止めた。従って実際の改変収率は100個あたり10個程度に止めた。共培養は19℃で明期16時間で2日行った。
【0122】
接種には、pBin13K(pBin19の誘導体)を含む非病原性のA. tumefaciens strain LBA4404を用いた。このプラスミドは、nptII遺伝子をノパリン合成酵素のプロモーターとターミネーターに融合し、さらにmf3遺伝子をCaMV 35S RNAのプロモーターとノパリン合成酵素のターミネーターに融合したものである。細菌は最少A培地(含カナマイシン 50mg/l)で200rpmで振とうしながら28℃で一夜培養した。ジャガイモ植物組織に接種するときには、一夜培養した培養液をMSO培地で10倍希釈した。
【0123】
切り出した茎は、再生培地(RM)を入れたペトリ皿に移した。RMには、MS塩類に、3%(w/v)ショ糖及び2.0mg/l グリシン、0.1mg/l チアミン−HCL、5.0mg/l ニコチン酸、0.5mg/l ピリドキシン−HCL、0.05mg/l D−ビオチン、0.5mg/l 蟻酸、100mg/l ミオイノシトール、0.3mg/l GA3、5mg/l ZR及び0.1mg/l IAAが含まれており、これで暗所で3日間培養した。形質転換体の選別には、RMに100〜150mg/l カナマイシン及び500mg/l カルベニシリン(carbenicillin)を加えたものを用いた。ペトリ皿を積み重ねてプラスチックスの袋に入れ、上部を閉じるが、袋には数個の通気のための穴を開け、16時間の明条件、19℃で培養した。対照も同様に処理したがAgrobacterium感染は行わなかった。切り出した切片は2週毎に抗生物質を含む新しいRMに植え替えた。4週後にカルスの端の部分から芽が出始めた。大きくて正常に見える芽をカルスから切り取った。カルスから直接でてきたもののみを切り取った。切片の末端1個あたり1つのみをとり、その切片は捨てた。
【0124】
50mlの抗生物質を含むPM培地を入れたペトリ皿1個に5個の芽を、切り口を培地に差し込んで植え込んだ。2週間後に、正常で、生育もよく、根が出ている芽を、PM培地の新しいペトリ皿に1個ずつ移植した。2回目の2週間の期間後に根がないものは捨てた。
【0125】
一節に切り分けたジャガイモをPM培地を入れた25×150mmの培養管に1つずつ入れて19℃で16時間の明期で維持した。In vitroで生育した植物個体は3〜4週のスケジュールで植継ぎした。温室に入れる植物体(最後の植継)は7〜10日生育した。
【0126】
実施例24: タバコの円形葉片のA. tumefaciensによる形質転換
タバコ(Nicotiana tabacum cv. Samsun NN)を一節に切り分けて0.8Lガラスフラスコ中でA1培地上で無菌的に増殖した。無菌的な芽の培養は、植物体の茎頂端分裂組織又は副蕾をもった茎を節に切り分けたものをA1培地に植えて作製した。このようにして作製したものは10〜14日で根を出した。茎頂端分裂組織又は副蕾をもった茎からは新芽が出て、これらは植物個体に成長した。
【0127】
無菌の芽は、24℃、16時間明期、8時間暗期のサイクルで中程度の光の下で培養した。In vitroで生育させた小植物は、3〜4週のスケジュールで植継いだ。葉は、基部で切断してから湿らせたWhatmanろ紙を入れたペトリ皿に入れた。葉の中軸を取り除き、直径約0.5cmの円形に殺菌したパンチャーで切り出した。約40〜50個の円形の葉を裏返しにして10mlの感染用培地A2を入れたペトリ皿に入れた。2.5mlのpBin13Kを含むAgrobacterium AGL0培養液を、それぞれのペトリ皿に加えた(pBin13KはpBin19の誘導体である)。このプラスミドはnptII遺伝子をノパリン合成酵素のプロモーターとターミネーターの間に融合し、さらにmf3遺伝子をCaMV 35S RNAのプロモーターとノパリン合成酵素のターミネーターの間に融合したものである。細菌は最少A培地(含カナマイシン50mg/l)で200rpmで振とうしながら濁度が約0.6(600nm)になるまで28℃で培養した。15〜20分後、切り出した葉を殺菌したWhatmanろ紙に置いて水分を除き、ペトリ皿に入れた感染培地A2(洗浄した寒天8g/l)に背軸面が接するように置き、弱い光の下で人工気象器で培養した。3日後、円形の葉を、500mg/l カルベニシリンを含む感染培地A2でペトリ皿内で洗浄し、その後殺菌したWhatmanろ紙で水分を除き、100mg/l カナマイシンと500mg/l カルベニシリンを含むカルス形成誘導培地A3を含むペトリ皿に移した。これらの葉を24℃で16時間明期8時間暗期のサイクルで弱い光の下で培養し、毎週新しいA3培地に植え替えた。3〜4週後、できたカルスをこれらの葉から取り除き、100mg/l カナマイシンを含む培地A4に移した。2〜3週後、カルスから芽を切り取り、100mg/l カナマイシンを含む根形成培地A5に移した。根のついた芽は、無菌的培養芽として培地A1又は温室の土壌に移した。
【0128】
我々と同じ技術を持っているものにとってはここに詳しく述べた方法をもとにして本発明の原理から外れることなく様々の変更をすることは可能である。従って本発明の要件は、以下に述べる特許請求の範囲で決まるものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】ジャガイモ胴枯れ病による未熟葉の枯死に起因するジャガイモ収量の低下の決定のためのノモグラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQIDNO:1に示すアミノ酸の配列をもつ生物活性ポリペプチドMF3、又はMF3の活性断片又はMF3の機能性のあるあらゆる誘導体であって、植物に微生物病及び/又は植物病害虫に対する抵抗性を与えることができる前記ポリペプチド活性断片又は機能性のある誘導体。
【請求項2】
SEQID:2に示す単離されたDNA配列又はその断片であって、請求の範囲第1項記載の機能性のあるMF3又はその活性断片をコードし、このDNA断片は同義配列コドンを含んでいてもよい、DNA配列。
【請求項3】
生物活性ポリペプチドMF3、又はMF3の活性断片又はMF3の機能性のある誘導体を、物理的に、又はキャリア分子を用いて導入することにより、微生物及び/又は植物病害虫に対する植物の抵抗性を獲得する方法。
【請求項4】
キャリアがキトサンである、請求の範囲第3項記載の方法。
【請求項5】
請求の範囲第2項記載のDNAを含むベクター。
【請求項6】
請求の範囲第5項記載のベクターを含む遺伝子改変植物体又は植物細胞培養の製造方法であって、植物細胞はそのDNAによってコードされるポリペプチドを発現する、方法。
【請求項7】
請求の範囲第5項記載のベクターで安定に形質転換又は形質導入された宿主細胞。
【請求項8】
請求の範囲第1項記載の単離された物質を含む植物保護剤組成物。
【請求項9】
請求の範囲第1項記載のMF3の活性断片であって、そのアミノ酸配列がSEQID:3又はSEQID:4からなる断片。
【請求項10】
請求の範囲第1項のポリペプチドを、当該ポリペプチドを発現している細菌から単離精製する方法であって、次の工程を含む方法:
a) 生産微生物株を培養し、これらの細胞を、緩衝液を用いて高温下で抽出する;
b) 沈殿剤を用いて低温下で粗MF3ポリペプチドを沈殿させる;
c) 再溶解した沈殿物をアニオン交換クロマトグラフィで分画し、抗微生物活性又は抗害虫活性を有する画分を集める;
d) 抗微生物活性、抗線虫活性又は抗害虫活性を有するポリペプチドのポリアクリアミドゲル電気泳動(PAGE)を行なう;
e) 工程d)のゲルから溶出されたタンパク質を回収する。

【図1】
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【公表番号】特表2007−533303(P2007−533303A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544475(P2006−544475)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/FI2004/000766
【国際公開番号】WO2005/061533
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506208469)
【出願人】(506208632)
【出願人】(506208562)
【出願人】(506208621)
【出願人】(506208447)
【出願人】(506208517)
【出願人】(506208506)
【出願人】(506208425)
【出願人】(506208643)
【出願人】(506208481)
【出願人】(505171573)
【Fターム(参考)】