説明

植物の二次細胞壁形成を促進する方法

【課題】植物において二次細胞壁の厚さを増大するための方法を提供する。
【解決手段】管状要素分化(TED)関連タンパク質またはそのC末端断片を用いて植物の二次細胞壁の厚さを増大させるための方法であって、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含むトランスジェニック(Tg)植物を作出し、該DNAを該植物内で発現させることを含む方法、ならびに、Tg植物およびその後代、細胞、組織または種子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の木繊維二次細胞壁形成を促進する機能を有するタンパク質、それをコードするDNA、ならびに、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は、長い間、樹幹、根、葉、枝等の木質バイオマスを、製紙、建築、飼料、燃料等の多岐にわたる産業分野で利用してきた。木質バイオマスを利用した産業は、将来的にも、持続的利用可能な資源を活用できるとして地球環境問題改善の観点から再認識されており、現行の化石資源に替わるカーボンソースの利用による循環型産業として期待されている。そこで、木質バイオマスの持続的かつ安定的確保達成のため、ユーカリ属、アカシア属等の早生樹を中心とした植林産業が世界的に進められている。
【0003】
木質バイオマスは、植物茎の二次木部に存在する導管細胞と木繊維細胞で構成されている。これらの細胞は、共に細胞内にセルロース、ヘミセルロース、リグニンで構成される二次細胞壁を形成することが特徴的である。木質バイオマスとして産業分野で利用されているのは、主に二次木部の大部分を占めている木繊維細胞の方である(非特許文献1)。この木繊維細胞の二次細胞壁の量(肥厚の度合い)は、バイオマス量や木繊維の物理的性質に影響を及ぼすため、大変重要である。
【0004】
近年、木質バイオマスを用いたバイオエネルギー生産やバイオファイナリーが盛んになってきていることは周知のとおりである。二次細胞壁が厚くなりバイオマス量が増加することは、これらの生産性向上やコスト低減の面で大変有意義である。また、従来の製紙原材料として見た場合も、二次細胞壁が厚くルンケル比(二次細胞壁とルーメンの比率)が大きい木繊維が求められる嵩高紙等において、生産性向上やコスト低減の面で大変有意義である。
【0005】
将来の植林事業の進展にあわせ、主要な木質バイオマスである木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進することで、そのバイオマス量(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)を改変することで、さらにルンケル比率等の木繊維形態を改変することで将来のエネルギー利用や工業原料としての用途拡張も見込まれる。従って、地球規模での木質バイオマスのより効果的かつ効率的生産を実現するためにも、木繊維細胞の二次細胞壁形成促進方法の開発は非常に重要である。
【0006】
現在までに、いくつかの二次細胞壁形成促進方法が公知となっている(特許文献1〜5、非特許文献2〜5)。しかしながら、多くが木繊維以外の植物細胞の二次細胞壁形成促進であり、促進される細胞や二次細胞壁の量が非常に少ないため、実用上は利用できない。また、木繊維細胞の二次細胞壁形成促進の公知技術にも存在するが、矮化するなどの悪影響が現れるため、実用上利用できない。このように、現在公知となっている技術では、木繊維細胞の二次細胞壁形成促進は困難である。
【0007】
ところで、本発明者らは、導管細胞形成時に特異的に発現が誘導される遺伝子を多数見出している(非特許文献6)。本発明者らが見出した遺伝子群の中には、機能未知の遺伝子が多数含まれており、導管形成に何らかの役割を担っていると考えられる。導管細胞と木繊維細胞は、共に内部に二次細胞壁を形成する面では大変似ており、また起源も同じ仮導管と言われている。従って、これらの遺伝子機能を解析することで、導管細胞だけでなく木繊維細胞の二次細胞壁形成も制御できる可能性が考えられる。しかしながら、そのような技術や知見はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4068152号公報
【特許文献2】特表第2003-509009号公報
【特許文献3】特開第2006-246852号公報
【特許文献4】特表第2006-526990号公報
【特許文献5】特開第2008-178422号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Evert, RF. Esau’s Plant Anatomy, Meristems, Cells, and Tissues of the Plant Body: their Structure, Function, and Development. 3rd edn. New Jersey: John Wiley & Sons, Inc.
【非特許文献2】Kuboら, 2005 Genes & Dev. 19:1855-1860
【非特許文献3】Goicoecheaら, 2005 The Plant Journal 43:553-567
【非特許文献4】Mitsudaら, 2005 The Plant Cell 17:2993-3006
【非特許文献5】Zhongら、2006 The Plant Cell 18:3158-3170
【非特許文献6】Demura, T.とFukuda, H. 2007 Trends in Plant Sci. 12:64-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、機能未知遺伝子であるTED6およびTED7の利用方法、ならびに、二次細胞壁形成が促進された植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、植物の管状要素分化(TED)関連タンパク質であるTED6またはTED7が、植物の二次細胞壁のセルロース合成と二次細胞壁のパターン形成に関与するであろうと予測してきたが、このようなタンパク質は単独ではそのような機能をもたないことが判明したため、さらに鋭意研究を重ねた結果、以下のような特徴を有する発明を完成させた。
【0012】
したがって、本発明は、要約すると以下のような特徴を包含する。
本発明は、第1の態様において、TED関連タンパク質またはそのC末端断片を用いて植物の二次細胞壁の厚さを増大させるための方法であって、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含むトランスジェニック植物を作出し、該DNAを該植物内で発現させることを含む方法を提供する。
【0013】
その実施形態において、上記TED6またはTED7のC末端断片は、TED6またはTED7の成熟アミノ酸配列のうちN末端から膜貫通ドメインまでの配列を含まないアミノ酸配列、あるいはそのアミノ酸配列においてN末端側および/またはC末端側に1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換または付加を含むアミノ酸配列、からなる。
ここで、「数個」とは、10以下の整数、すなわち2〜10の整数を指す。
【0014】
本発明はまた、第2の態様において、上記のTED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含む、かつ、野生型植物と比べて二次細胞壁の厚さが増大していることを特徴とするトランスジェニック植物またはその後代を提供する。
【0015】
本発明はさらに、第3の態様において、上記のトランスジェニック植物またはその後代由来の細胞または組織を提供する。
本発明はさらに、第4の態様において、上記のトランスジェニック植物またはその後代の種子を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法は、植物の木繊維細胞で二次細胞壁形成を促進し二次細胞壁の厚さを増大させることを可能にする。二次細胞壁の肥厚化は、バイオマス量の増加に導くことができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この図は、ヒャクニチソウ(innia legans)細胞の二次細胞壁形成に及ぼすZe TED6、Ze TED7、およびそれのC末端断片の過剰発現の効果を示す。縦軸は、視覚化可能な二次細胞壁を有する細胞の割合(%)を示す。図1Aは、ZeTED6の全長およびC末端断片(配列番号1の27Leu〜95Ala)の過剰発現を示し、図1Bは、Ze TED7−1の全長およびC末端断片(配列番号2の209Trp〜300Gly)の過剰発現を示し、ならびに、図1Cは、Ze TED6とZe TED7の過剰共発現を示す。また、図中、GUS(β−グルクロニダーゼ)は、Ze TED6、Ze TED7またはそれらのC末端断片の代わりにGUSが過剰発現された植物コントロールを示す。
【図2】この図は、ヒャクニチソウのTED6およびTED7(すなわち、Ze TED6、Ze TED7)のアミノ酸配列、ならびに、シロイヌナズナ、ポプラおよびイネの同族体のアミノ酸配列のアラインメント(図2A)、neighbor−joining法によるMEGA4(Molecular Evolutionary Genetics Analysis software version 4.0;Tamura, K.ら(2007) Mol. Biol. Envol. 24:1596−1599)を利用した保存領域の比較を示す樹形図(図2B)、ならびに、図2Bの作成に使用した、それらアミノ酸配列の比較的保存されたC末端領域(図2C)を示す。図2Aで、太字が膜貫通ドメインを示し、下線が、実施例で使用されたZ1943およびZ16653クローンのアミノ酸配列を表す。Os08g0108300は、C末端ドメインの2つの反復を含んでおり(図2A)、図2BではOs08g0108300のC末端ドメインの保存された2つの反復領域を分割して示した。
【図3】この図は、シロイヌナズナ(rabidopsis haliana)の根でのAt TED6およびAt TED7遺伝子に及ぼす一過性のRNAi解析の結果を示す。図3Aは、一過性に誘導されたRNAi条件下でAt TED6およびAt TED7遺伝子の発現を示す。At TED6、At TED7およびそれら両方に対応する逆反復配列が、グルココルチコイド仲介誘導系の制御下でトランスジェニックシロイヌナズナ植物で一過性に発現された。総RNAは、10μMデキサメタゾン補充増殖培地上で5時間インキュベートされた1週令のシロイヌナズナ幼植物から抽出された。すべてのRT−PCRサンプルを、PCRサイクルがAt TED6で25サイクル、At TED7とユビキチンで30サイクルであること以外同一条件下で調製した。図3B〜3Eは、At TED6およびAt TED7遺伝子のRNAi系統の表現型を示す。3週令のトランスジェニックシロイヌナズナ植物を、10μMデキサメタゾン補充増殖培地上で5日間インキュベートして、グルココルチコイド仲介誘導系で逆反復配列を発現した。誘導の間に、より遅く発生した根の導管形成に対するRNAiの影響を調べた。図3B中のバーは、50μmを表す。図3Bは、野生型Col−0である。図3Cは、At TED7 RNAi系統であり、階紋状後生木部導管が直線状に伸びた状態を示す。図3Dは、At TED6−TED7キメラRNAi系統であり、直線状に伸びた後生木部導管での欠落を示す。図3Eは、YFP RNAi系統であり、大きく窪んだ後生木部導管要素を示す。ここで、YFPは、黄色蛍光タンパク質を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(TED6およびTED7タンパク質をコードするDNA)
TED6およびTED7はいずれも、植物における導管などの管状要素の分化に関連したI型膜タンパク質である。これらのタンパク質は、植物細胞中で同時に過剰発現されるとき、導管細胞や木繊維細胞の二次細胞壁形成の促進に導く。
【0019】
TED6およびTED7は、多くの植物種で、N末端側からプロリン(Pro)に富むドメイン、単一の膜貫通(TM)ドメイン、およびC末端ドメインからなる特徴的な構造を有する。プロリンに富むドメインは、細胞外ドメインであり、一方、C末端ドメインは細胞質ドメインである。一般に、植物の細胞外タンパク質のうち、プロリンに富む配列は、ヒドロキシプロリンに富む糖タンパク質(HRGP)の特徴であることが周知されており、特にTED7はHRGPであろうと推定されるが、特にZe TED7にはHRGPファミリーに典型的に認められる反復配列が存在していない。
【0020】
図2に、例えば、ヒャクニチソウ、シロイヌナズナ、ポプラおよびイネからなる植物のTED6およびTED7のアミノ酸配列のアラインメント(図2A)と、それらアミノ酸配列の比較的保存されたC末端領域のアミノ酸配列(図2C)を示す。異種の植物間では、これらTEDタンパク質の配列同一性は高くないが、上記のような特徴的なドメイン構造を有するという点で、上記例示のタンパク質は管状要素分化関連タンパク質ファミリーに属することが理解される。
【0021】
これらの植物由来のTED6およびTED7のアミノ酸配列は、以下の配列番号で後述の配列表に記載されている。
ヒャクニチソウのTED6、TED7−1およびTED7−2:配列番号1(AB377514)、配列番号2(AB377515)、および配列番号3(AB377516)
シロイヌナズナのTED6およびTED7:配列番号4(Atlg43790)および配列番号5(At5g48920)
ポプラのTED6およびTED7:配列番号6(eugene3.00020671)および配列番号7(eugene3.00070382)、配列番号8(fgenesh1_pg.C_LG_V000008)(ここで、配列番号7と8の配列は、TED7に属する。)
イネのTED:配列番号9(Os08g0108300)((注)配列番号10(Os08g0108300_1st:TERKAEVHNL SGHVHVHKAT ESGPSGAKAT VLSIDEDLKF QEVAG)、配列番号11(Os08g0108300_2nd:AENKAELINV TEHIHVDEKI VSGPQGQKIE ILSEDEDIRF EEEGR)(ここで、配列番号10と11の配列は配列番号9の配列の重複ドメインを分割した部分配列である。))
【0022】
また、これらのアミノ酸配列のうち膜貫通領域およびC末端ドメイン(図2A)、ならびに比較的保存されたC末端領域(図2C)の各アミノ酸配列のアミノ酸残基位置は、配列番号1〜11のアミノ酸配列と図2に記載の配列とから決定することができる。
【0023】
本発明で使用可能なTED6、TED7およびそれらのC末端断片は、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片またはTED7のC末端断片の形態として、導管細胞や木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進する能力を喪失させない限り、野生型のアミノ酸配列に変異が導入されていてもよい。このような変異型TED6およびTED7は、野生型のアミノ酸配列と70%以上または80%以上、好ましくは90%以上または95%以上、さらに好ましくは98%以上または99%以上の同一性を有している。アミノ酸の変異は、例えば、1もしくは複数(好ましくは、数個)のアミノ酸の欠失、置換または付加である。このうち、置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。保存的アミノ酸置換とは、例えば構造的、電気的、極性もしくは疎水性などの性質が類似したアミノ酸間の置換を意味する。このような性質は、例えばアミノ酸側鎖の類似性で分類することも可能である。塩基性側鎖を有するアミノ酸は、リシン、アルギニン、ヒスチジンからなり、酸性側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸からなり、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸は、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインなどを含み、疎水性側鎖を有するアミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンなどを含み、分岐側鎖を有するアミノ酸はトレオニン、バリン、イソロイシンからなり、ならびに、芳香族側鎖を有するアミノ酸は、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジンからなる。
【0024】
また、上記のTED6、TED7およびそれらのC末端断片をコードするDNAも、変異を含むことができる。そのような変異には、例えば遺伝暗号の縮重に基づく変異(すなわち、サイレント変異)、スプライス変異、多型による変異などが含まれる。あるいは、ストリンジェント条件下で野生型DNAとハイブリダイゼーション可能な塩基配列からなる変異体も、上記変異型DNAに含まれる。ただし、これらのDNAによってコードされる変異型タンパク質は、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片またはTED7のC末端断片の形態として、導管細胞や木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進する能力を有しているべきである。そのような能力は、野生型と同等またはそれ以上であってもよいし、あるいは、野生型より劣っていてもよい。変異型TED6およびTED7をコードするDNAは、野生型の成熟塩基配列と70%以上または80%以上、好ましくは90%以上または95%以上、さらに好ましくは98%以上または99%以上の同一性を有している。
【0025】
ここで、ストリンジェント条件とは、例えば、約42〜55℃、2〜6×SSCでのハイブリダイゼーションののち、50〜65℃、0.1〜1×SSC、0.1〜0.2%SDSでの1回もしくは複数回の洗浄からなる条件を含むが、このような条件は、鋳型核酸のGC含量、イオン強度、温度などによって変化するため、上記の特定の条件に制限されないものとする。ここで、1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸Na、pH7.0からなる。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度、pHでの特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃低くなるように設定される。ここで、Tmは、鋳型配列に相補的なプローブの50%が、平衡状態で鋳型配列にハイブリダイズする温度をいう。
【0026】
人為的に変異を導入する手法として、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCRを利用する変異導入法などが好ましく使用できる(Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, 1994, John Wiley & Sonsなど)。
【0027】
本明細書中で使用する「同一性」は、例えば2つのアミノ酸配列又は塩基配列を、ギャップを導入するか又はギャップを導入しないで整列させたとき、アミノ酸又は塩基の総数に対する同一アミノ酸又は塩基の数の割合(%)を意味する。
【0028】
また、ホモログ配列の検索或いは相同性検索は、BLAST(BLASTN, BLASTP, BLASTXなど)、FASTAなどの公知のアルゴリズムを利用することによって実施できる。
【0029】
上で例示した以外の植物の他のTED6およびTED7タンパク質のアミノ酸配列、ならびにそのようなタンパク質をコードするDNAの塩基配列は、植物ゲノムを公開する、例えば、NCBI(米国)、EBI(欧州)、KAOS(かずさDNA研究所)、IRGSP(国際イネゲノム塩基配列解析プロジェクト)、GrainGenes(米国)、PGDIC(米国)、ForestGEN(森林総合研究所)などのwebサイトにアクセスすることによって入手することができる。
【0030】
本発明では、特に、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせが、導管細胞や木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進するうえで重要な機能を果たしている。
【0031】
ここで、「TED6とTED7の組み合わせ」は、植物または植物細胞内で、TED6およびTED7をコードするDNAが実質的に同時に発現し、これらのタンパク質に翻訳されることによって実現可能である。この場合、これらDNAの発現は、該2つのDNAが別々のベクターに発現可能に組み込まれていてもよいし、あるいは該2つのDNAが同一のベクターに互いに発現可能にタンデムに組み込まれていてもよい。
【0032】
また、「TED6のC末端断片」または「TED7のC末端断片」における「C末端断片」は、TED6またはTED7タンパク質の細胞質側のC末端ドメイン(すなわち、成熟アミノ酸配列のうちN末端から膜貫通ドメインまでの配列を含まないアミノ酸配列を有するドメイン)からなっていてもよいし、あるいは、該C末端ドメインのアミノ酸配列においてN末端側および/またはC末端側に1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換または付加を含むアミノ酸配列を有していてもよい。後者の場合には、例えば、C末端断片のN末端側に、C末端ドメインと隣接する膜貫通領域の1〜3個程度のアミノ酸残基が付加されていてもよいし、また、例えば、C末端ドメインのアミノ酸配列からC末端側配列の一部(例えば10個以下のアミノ酸残基)が欠失されていてもよい。通常、本発明における上記C末端断片は、図2Cに示されるような、植物間で比較的保存されたアミノ酸配列を含んでいること、および導管細胞や木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進する能力を有していること、が望ましい。このようなC末端断片をコードするDNAは、TED6またはTED7タンパク質をコードするDNAを鋳型にし、C末端ドメイン(場合により、膜貫通領域のC末端側1〜3アミノ酸残基を含んでもよい)をコードする塩基配列のうち増幅しようとする配列に基づいて作製された5’プライマーおよび3’プラーマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって得ることができる。その後、作製されたDNAは、適するベクターに組み込まれる。
【0033】
PCR法および条件については、PCRバッファー中、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼ)、センスプライマー、アンチセンスプラーマーおよびdNTPs(N=A,T,G,C)、ならびに鋳型DNA、の存在下、変性(例えば94℃20秒〜5分)、アニーリング(例えば55℃30秒〜1分)および伸長(例えば72℃30秒〜10分)を1サイクルとして約20〜約40サイクルを含む増殖サイクルからなる通常の手法が使用される。具体的な手法は、例えばAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, 1994, John Wiley & Sonsなどに記載されている。増幅産物は、アガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動によって単離精製することができる。
【0034】
ちなみに、後述の実施例で使用したヒャクニチソウのTED6およびTED7−1のC末端断片のアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1の27Leuから95Alaまでの配列、配列番号2の209Trpから300Glyまでの配列である。
【0035】
さらに、「TED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせ」は、「TED6とTED7の組み合わせ」の場合と同様に、植物または植物細胞内で、TED6タンパク質のC末端断片をコードするDNAおよびTED7タンパク質のC末端断片をコードするDNAが実質的に同時に発現し、これらのタンパク質に翻訳されることによって実現可能である。この場合、これらDNAの発現は、該2つのDNAが別々のベクターに発現可能に組み込まれていてもよいし、あるいは該2つのDNAが同一のベクターに互いに発現可能にタンデムに組み込まれていてもよい。
【0036】
上記DNAおよびそれを含むベクターは、例えば遺伝子組換え技術によって製造することができる。遺伝子組換え技術は、例えばSambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, 1994, John Wiley & Sonsなどに記載される手法を利用することができる。
【0037】
簡単に説明すると、例えば、植物組織由来のcDNAライブラリーから、公知の配列を基にして作製したプライマーを使用するPCRによってTED6またはTED7をコードするDNAを増幅することができる。該DNAを、例えばアガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製したのち、適当な発現ベクターに発現可能な状態で挿入する。
【0038】
ベクターの例は、バイナリーベクターまたはその他のベクターである。バイナリーベクターは、アグロバクテリウムT−DNAのライトボーダー(RB)とレフトボーダー(LB)の2つの約25bpボーダー配列を含み、両ボーダー配列の間に、外来DNAが挿入される。バイナリーベクターは、例えばpBI系(例えば、pBI101, pBI101.2, pBI101.3, pBI121, pBI221 (以上Clontech社))、pGA482、pGAH、pBIGなどである。その他のベクターには、例えば中間系プラスミドpLGV23Neo、pNCAT、pMON200など、またはGATEWAYカセットを含むpH35GS(Kuboら, 2005, Genes & Dev. 19: 1855-1860)などが含まれる。外来DNAの5’末端には、プロモーターが連結される。プロモーターの例は、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、トウモロコシユビキチンプロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子プロモーター、イネアクチンプロモーターなどである。また、外来DNAの3’末端にはターミネーター(例えばノパリン合成酵素遺伝子ターミネーターなど)が挿入される。ベクターにはさらに、形質転換細胞を選抜するために必要な選択マーカーが挿入される。選択マーカーの例は、薬剤耐性遺伝子であるカナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp)、ビアラホス耐性遺伝子(bar)などである。
【0039】
(トランスジェニック植物の作出)
上記のようにして構築したベクターを植物に導入する形質転換法としては、アグロバクテリウムを用いた方法を例示することができるが、それ以外にも、遺伝子銃、エレクトロポレーション、ウイルスベクター、フローラルディップ法、リーフディスク法などによっても、導入することができる。植物の形質転換技術や組織培養技術に関しては、例えば島本功、岡田清孝監修、植物細胞工学シリーズ15、モデル植物の実験プロトコール、遺伝学的手法からゲノム解析まで、秀潤社(2001年)に記載されている。
【0040】
バイナリーベクター−アグロバクテリウム系を利用する方法では、植物細胞、カルスまたは植物組織片を準備し、これにアグロバクテリウムを感染させて、本発明のタンパク質をコードするDNAを植物細胞内に導入する。形質転換においては、培地にフェノール化合物(アセトシリンゴン)を添加してもよく、特に単子葉植物においては、該細胞は効率よく形質転換されうる。また、アグロバクテリウムとしては、Agrobacterium tumefaciens菌株(C58, LBA4404, EHA101, EHA105, C58C1RifRなど)が使用されうる。
【0041】
形質転換用培地は、固体培地であり、例えばMS培地、B5培地、DKN培地、Linsmaier & Skoog培地などの植物培養用培地を基本培地として、これに1〜5%のマルトース、蔗糖、グルコース、ソルビトールなどの糖類、及び0.2〜1%の寒天、アガロース、ゲルライト、ゲランガムなどの多糖類固化剤を添加することができる。培地には、カザミノ酸、アブシジン酸、カイネチン、2,4−D、インドール酢酸、インドール酪酸などのオーキシン類やサイトカイニン類、カナマイシン、ハイグロマイシン、カルベニシリンなどの抗生物質、アセトシリンゴンなどを添加することができる。培地の好適pHは、5〜6、例えばpH5.5〜5.8である。また、形質転換後に、例えば転写活性化を誘導する物質、例えば、グルココルチコイド、デキサメタゾン、エストロゲン、それらの誘導体などのステロイドホルモンを培地に添加することもできる。
【0042】
具体的には、アグロバクテリウムの菌液を暗所、約25℃、約4日間での培養により調製し、この菌液に植物カルス又は組織(例えば葉片、根、茎片、成長点など)を数分間浸漬し、水分を除いたのち、固体培地に置床して共存培養する。カルスは、植物細胞塊であり、植物組織片又は完熟種子などからカルス誘導培地を用いて誘導することができる。形質転換されたカルス又は組織片を選択マーカーに基づいて選択し、その後、カルスについては、再分化培地にて幼植物体に再分化させることができる。一方、植物片については、植物片からカルスを誘導して幼植物体に再分化させるか、或いは植物片からプロトプラストを調製し、カルス培養を経て幼植物体に再分化させることができる。このようにして得られた幼植物体を発根後に土壌に移し植物体に再生する。
【0043】
また、フローラルディップ法を使用する場合には、例えばCloughとBent(Plant J.16, 735−743(1998))らによって記載されるように、例えばアグロバクテリウムの菌液を暗所、約25℃、約4日間での培養により調製し、この菌液に未熟な花芽が発達するまで生育させた形質転換対象の植物宿主の花芽を10秒間浸漬し、覆いをして一晩湿度を保つ;翌日覆いを取り、植物をそのまま生育させて種子を収穫する;形質転換された個体は、適切な選択マーカー例えば抗生物質を加えた固体培地上に収穫した種子を播種することで選択することができる;このようにして選択した個体を土壌に移し生育させることにより、トランスジェニック植物の次世代の種子を得ることができる。
トランスジェニック植物を野生型と交配させることによって、トランスジェニック植物と同様の新規形質をもつ後代を作出することができる。
【0044】
上記の方法で作出されたトランスジェニック植物またはその後代は、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含み、かつ、野生型植物と比べて二次細胞壁の厚さが増大していることを特徴とする。
したがって、本発明はさらに、そのようなトランスジェニック植物またはその後代だけでなく、それらの細胞または組織あるいは種子をも提供する。
【0045】
本発明の対象植物は、双子葉植物、単子葉植物、裸子植物、樹木などの植物を非限定的に含む。特に有用性の高い植物には、バイオマス資源として重要な木本植物および草本植物、例えばユーカリ、ポプラ、サトウキビ、イネ、ムギ類などが含まれる。
【0046】
(TED6およびTED7の二次細胞壁形成促進機能)
TED6およびTED7がいずれも導管の二次細胞壁の合成に関与するであろうということが、シロイヌナズナを用いた研究の過程で本発明者によって推定された(T. Demura, “Regulatory Mechanisms Underlying Xylogenesis in Arabidopsis, as a Model for Wood Formation”, Abstracts in FUNCFIBER 2008 International Symposium on the Biology and Biotechnology of Wood, page 12 (2008))。しかしながら、実際、TED6またはTED7単独では、二次細胞壁の形成を促進する機能を有していないことが判明した。
【0047】
今回はじめて本発明者らによって、RNA干渉法(RNAi)を利用して、本発明に示されるように、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質が、導管細胞及び木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進する機能をもつことが見出された。本発明に関わるこれらのタンパク質およびそれらのC末端断片ならびにそれらの例示は、上で記載したとおりである。
【0048】
TED6およびTED7タンパク質は、細胞内局在の解析の結果、主に植物細胞の形質膜に存在し、細胞壁にも幾分か存在していることがわかった。このうち、TED7は、TED6と比べて細胞壁により多く保持されやすく、これはおそらくTED7のプロリンに富むN末端ドメインの相互作用によるものであろうと考えられる。構造的に、TED7に比べて、TED6は、プロリンに富むN末端ドメインが非常に短いために、TED6は細胞壁に保持されにくいと推定されるが、TED6については、シロイヌナズナでの実験の結果、TED6はセルロース合成酵素CesAのIRX3サブユニットに結合することが判明し、これは、TED6と二次細胞壁−CesA複合体とが相互作用していることを示す証拠である。
【0049】
(実施例)
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されないものとする。
【実施例1】
【0050】
ヒャクニチソウ属(Zinnia)植物の管状要素におけるZe TED6およびZe TED7遺伝子の機能解析
Ze TED6およびZe TED7タンパク質のバイオインフォマチクス分析(SOSUI、TMHMMおよびSignalPを含む)により、それらのタンパク質はともに「I型膜タンパク質」(細胞外または内腔のN末端と細胞質C末端を有する1回膜貫通タンパク質)であることが予測された。上記タンパク質はいずれも、一般的な1回膜貫通ドメイン様疎水性領域(それぞれZe TED6およびZe TED7タンパク質の95アミノ酸のうち23アミノ酸および300アミノ酸のうちの23アミノ酸を表す)を含み、それらのC末端は細胞質側であると予測された。しかしながら、これらタンパク質の潜在的な活性に関しては、これまでProDom、PROSITEまたはPfamによって機能的ドメインがまったく予測されていなかった。Proに富む領域のみが、Ze TED7タンパク質のN末端領域で同定されていた。植物の細胞外タンパク質のなかで、Proに富む配列は、ヒドロキシプロリンに富む糖タンパク質(HRGP)であることはよく知られている。Ze TED7はHRGPであろうけれども、それはHRGPファミリーで一般に認められる何らの反復モチーフを有していない。
【0051】
CaMV 35Sプロモーター駆動の、C末端にYFP(黄色蛍光タンパク質)を融合したタンパク質をコードするプラスミドを、エレクトロポレーションによってヒャクニチソウの葉肉に導入することによって、Ze TED6およびZe TED7の細胞内局在を実験的に調べた(Endoら(2008) Plant J. 53:864−875)。各融合タンパク質の蛍光シグナルは、細胞の末梢領域でのみ検出されたが、このことは、形質膜および/または細胞壁での局在を示している。原形質分離している細胞により、それらが主に形質膜に局在し、細胞壁にもある程度局在していることが明示された。Ze TED7−YFP融合タンパク質の方が、Ze TED6−YFP融合タンパク質と比べて、より多く細胞壁に保持されていた。このことは、Ze TED7タンパク質のProに富むN末端ドメインと細胞壁との可能な相互作用によって説明することができる。
【0052】
全長のZe TED6またはZe TED7タンパク質の過剰発現がTE SCW(二次細胞壁(secodary cell wall))形成に及ぼす作用を、dsRNA仲介RNAi法によって、視覚化可能なTE SCWを示す細胞数に対して調べた。さらに、これらのタンパク質のC末端ドメインについても同様に調べ、SCW形成における上記細胞質ドメインの機能を評価した。その結果、全長タンパク質ではなくC末端ドメインのみを用いて、僅かではあるが有意な増加(過剰発現するGUSコントロールの数%増加)を見出した。したがって、SCW形成に対するこの正の効果を観察するために、低密度細胞培養(0.5×10細胞mL−1)を使用した。このような培養は、通常、コントロールにおける低率のSCW形成(30%未満)を示す。これによって、C末端ドメインを用いてSCW形成の割合が統計的に有意に増加することが確認された(図1Aおよび1B)。同様に、Ze TED6および Ze TED7両方の全長タンパク質の同時過剰発現により、SCW形成割合が増加した(図1C)が、このことは、TEのSCW形成中でのZe TED6およびZe TED7タンパク質の機能的相互作用を示している。
【実施例2】
【0053】
アブラナ科植物(Arabidopsis)でのAt TED6およびAt TED7の機能解析
ArabidopsisにおけるZe TED6およびZe TED7遺伝子のホモログがそれぞれ、At1g43790 (At TED6)およびAt5g48920 (At TED7)であることを見出した。At TED6およびAt TED7のプロモーター活性を、At TED6およびAt TED7の1kb−および0.5kb−上流配列を用いて調べた。これらの上流配列には、GUSレポーター遺伝子を連結した。幼植物でのレポータートランスジーン発現は、両遺伝子内の分化する導管要素に制限されたが、このことによりさらに、Ze TED6およびZe TED7との機能的相同性が確認された。At TED6およびAt TED7のコード配列のN末端にそれぞれ、YFPレポーター遺伝子を連結し、それら自身のプロモーターの制御下で発現した。At TED6シグナルおよびTED7−YFPシグナルは、原生木部と後生木部の分化する導管要素中の発生するSCWの下側でのみ特異的に観察された。幾つかの場合、これらのシグナルの不統一な局在が、後生木部の導管要素で認められたが、その生物学的意義については依然として不明である。
【0054】
At TED6およびAt TED7の機能を調べるために、CaMV 35Sプロモーターを連結したAt TED6およびAt TED7の全長、C末端または逆反復(RNAi)を有するトランスジェニックArabidopsisを作製したが、At TED7の逆反復をもつものを除いて劇的な形態学的な変化は観察されなかった。
【0055】
トランスジェニック植物は、発芽培地で増殖できなかったが、カルス誘導培養上で生き続けた。このことは、At TED7遺伝子の機能の構成的喪失の結果、RNAi分析において幼植物の致死が生じることを示している。
【0056】
At TED6およびAt TED7の機能喪失をさらに調べるために、挿入変異体に関するSALK T−DNAデータベース(http://signal.salk.edu/cgi−bin/tdnaexpress)を検索した。At TED6についていかなる系統の入手もできなかったが、At TED7について、T−DNA/トランスポゾン挿入系統(SALK_084115、SALK_089549およびSM_2_30444)を入手することができた。しかしながら、At TED7のコード領域には挿入はなかったがAt TED7の5’または3’フランキング領域に挿入が認められた。このことから、挿入がAt TED7のノックアウト変異体でないことが示された。
【0057】
At TED7の構成的RNAiの代わりに、デキサメタゾン(DEX)誘導プロモーター(AoyamaとChua (1997)Plant J. 11:605−612)を使用した。誘導性プロモーターと連結した、At TED6、At TED7、At TED6とAt TED7のキメラ、ならびにYFP(コントロール)、の各逆反復配列を、Arabidopsis植物に導入した。形質転換体の選択を、非誘導条件下で、誘導性RNAi構築物を保有する十分に成長した植物を選択することによって行った。At TED7 RNAiおよびAt TED6-TED7キメラRNAiの両方の形質転換体を少数得ることができたが、これはおそらく、幼植物の致死性を生じさせるAt TED7逆反復の残存「漏出」発現によるためであると考えられる。誘導性RNAiの効率を、10μMデキサメタゾンに5時間晒したあとに選択された幼若植物系統において、標的転写体の各々についてRT−PCRで調べた(図3A)。誘導性RNAiを、10μMデキサメタゾン補充増殖培地上で植物を5日間インキュベートすることによって3週令のArabidopsis植物に対して行った(図3B〜3E)。予期しないことであったが、DEX誘導性RNAi自身が、SCW上に異常に大きな壁孔をもつ根の後生木部導管の形成、および場合により根の原生木部導管形成の阻害、を含む固有の作用を有することが判明した(図3E)。しかしながら、その固有の作用の他に、根の導管要素のSCW形成の明らかな欠陥が、At TED7およびAt TED6-TED7キメラの誘導性RNAi系統で起こった(図3Bおよび3C)。これらの両方の系統では、一般的でない階紋状SCWを持つ異常な導管要素(図3C)が、通常、網状化または壁孔化したSCWを示す後生木部導管の代わりに形成された(図3B)。さらに、At TED6-TED7キメラRNAi系統は、後生木部の不連続なまたは欠落した導管を示した(図3D)。At TED6-TED7キメラRNAi系統の根に対し実施した透過型電子顕微鏡により、YFP RNAiコントロールに反して、薄く不完全なSCW(これは階紋状SCWを表すと推定される。)をもつ導管が、後生木部の位置に存在した。これらの結果は、導管要素のSCW形成におけるAt TED6およびAt TED7の関与を強く示している。
【実施例3】
【0058】
(dsRNAおよびプラスミドDNA)
Zinnia ESTクローン(Demuraら2002, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99:15794−15799)をPCRに掛けて、両末端にT7およびSP6プロモーターを含む断片を作製した。PCR産物を精製し、Endoら(Plant J. 53:864−875, 2008)によって記載されるように、dsRNAのin vitro合成のための鋳型として直接使用した。Ze TED6およびZe TED7遺伝子の完全長cDNA(それぞれ、Z1943、Z16653クローン)を、 SMART RACE cDNA amplification kit (Clontech, http://www.clontech.com/)を用いて得た。そのコード配列をpH35GY (Kuboら2005, Genes Dev. 19:1855−1860)およびpY35GS(Endoら 2008, Plant J. 53:864−875)に挿入し、それぞれ、タンパク質の局在とZinnia細胞内での過剰発現を調べた。pY35GSにGUSを挿入することによって構築されたpY35GUSを、コントロールとして使用した。Ze TED6(配列番号1)の27Leuから95Alaまでをコードする配列およびZe TED7(配列番号2)の209Trpから300Glyまでをコードする配列を、pY35GSに挿入した。At TED6およびAt TED7遺伝子の開始コドンの5’上流(それぞれ、1kbおよび0.5kb)を、プロモーター領域として使用した。断片を、pBGGUS (Kuboら,2005(上記))に挿入し、Arabidopsis植物でのそれらのプロモーター活性を調べた。 プロモーター領域およびORFを含むゲノム断片を、pHGY(これは、そのCaMV 35Sプロモーター配列を欠失することによってpH35GYから誘導された。)に挿入した。FAD2 (At3g12120)遺伝子の第1イントロンを、完全長At TED6 ORF、At TED7 ORF、およびAt TED6-TED7キメラ配列の逆反復配列のリンカーとして使用した。At TED7 ORFをAt TED6 ORFのPshAI部位に挿入することによって、キメラを構築した。逆反復をpH35GS (Kuboら, 2005(上記))および/またはpTA7002(AoyamaとChua 1997 Plant J. 11:605−612)の中に入れて、構成的で一過性のRNAi系統をそれぞれ作製するためのベクターとした。VND7 cDNA (Yamaguchiら2008, Plant J. 55:652−664)をpER8 (Zuoら2000, Plant J. 24:265−273)に挿入して異所性TE誘導性系統を作製するためのベクターとした。
【0059】
(RT−PCR)
RNAを、Endoら(2008(上記))によって記載されたように、2つの独立の系統から調製し、cDNA合成のために使用した。PCRは、At TED6およびAt TED7の5’−および3’−UTR にそれぞれ位置するプライマーを用いて実施された。使用したプライマーは、At TED6について、5’−AGA GCC TCA CAC ATC AAA CAC AAG−3’(配列番号12)および5’−GGT AAC ATT ATG AAT GAA GAA AGC TC−3’(配列番号13); At TED7について、5’−AAC CAT TTA AGT ACA TAC ATA CTC CC−3’(配列番号14)および5’−ATG ATT GTT TAC ATT TTG AGC CTT TTG−3’(配列番号15);アクチン2 (At3g18780)について、5’−CCG TTT TGA ATC TTC CTC AAT C−3’(配列番号16)および5’−ATA CCG GTA CCA TTG TCA CAC A−3’(配列番号17);ならびに、ユビキチン(At5g57860)について、5’−TCC AAT GTG ATC CAA CAG AGA C−3’(配列番号18)および5’−TTC AAA GTC AAA GCC ACA ACT G−3’(配列番号19)である。
【0060】
さらにまた、Ze TED7−1およびZe TED7−2のPCR増幅用プライマーはともに下記のものが使用された。
5’−TTC CCT CAT TTT CCA CCG CCA TC−3’(配列番号20)、および5’−TGT TGT GGA ATG GTT GCT TGG AGA−3’(配列番号21)
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、植物において導管細胞および木繊維細胞の二次細胞壁形成を促進し、したがって二次細胞壁の厚さを増大するため、バイオマス資源である木本植物や草本植物のセルロース含量を増大させることを可能にするため、産業上有用性が高い。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号12〜21:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状要素分化(TED)関連タンパク質またはそのC末端断片を用いて植物の二次細胞壁の厚さを増大させるための方法であって、TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含むトランスジェニック植物を作出し、該DNAを該植物内で発現させることを含む、前記方法。
【請求項2】
前記TED6またはTED7のC末端断片が、TED6またはTED7の成熟アミノ酸配列のうちN末端から膜貫通ドメインまでの配列を含まないアミノ酸配列、あるいはそのアミノ酸配列においてN末端側および/またはC末端側に1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換または付加を含むアミノ酸配列、からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TED6とTED7の組み合わせ、TED6のC末端断片、TED7のC末端断片、およびTED6のC末端断片とTED7のC末端断片の組み合わせからなる群から選択されるタンパク質をコードするDNAを発現可能に含む、かつ、野生型植物と比べて二次細胞壁の厚さが増大していることを特徴とするトランスジェニック植物またはその後代。
【請求項4】
請求項3記載のトランスジェニック植物またはその後代由来の細胞または組織。
【請求項5】
請求項3記載のトランスジェニック植物またはその後代由来の種子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−233536(P2010−233536A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86922(P2009−86922)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】