説明

植物の加工方法

【課題】 植物の劣化を防止し植物の保存性にきわめて優れた植物の加工方法を提供する。
【解決手段】 植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材の膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させて、ガラス化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、花や草木等の植物を保存するための方法としては、ドライフラワーや押し花等が知られている。ドライフラワーや押し花は、生の植物を乾燥させて保存性を高める手法である。しかしながら、乾燥した植物であっても、再び吸湿して劣化することがあり、注意して保存する必要があった。
【0003】
そこで、より保存性に優れた植物の保存方法として、植物にコーティングを施す方法が提案された(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−247402号公報
【0005】
特許文献1に開示されたコーティング方法は、自然界で採集した昆虫、草木、落ち葉等の色艶を失わせないようにするため、発泡スチロール樹脂を溶剤に溶解させ、上記の昆虫、草木、落ち葉等に刷毛で塗布するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物をコーティングする場合、合成樹脂等の石油化学系有機材料を主成分とする液状のコーティング材を植物の表面に塗布していた。この場合、植物の表面のうちコーティング材により被覆されない部分があると、そこから吸湿してしまう等の不具合が生じるので、できるだけ表面全体にくまなくコーティング材を付着させることが好ましい。
ところが、植物の表面に有機材料のコーティング材を塗布しても、コーティング層が少なからず通気性、水分透過性および/または吸湿性を有しているため、植物は、時の経過につれてコーティング層を通して湿気、酸素の影響を受ける。また、コーティング材としての有機材料自体も、湿気、熱、紫外線等の外因によって変質する場合がある。このため、植物が劣化したり植物本来の美観が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、植物の劣化を防止し植物の保存性にきわめて優れた植物の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明の植物の加工方法は、植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材の膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させて、ガラス化させることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の植物の加工方法において、前記植物を気密ケース内に支持し、前記コーティング材を前記気密ケース内で加熱することにより前記植物の表面に付着させてコーティング材の膜を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明の植物の加工方法は、植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材を噴霧または塗布して膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させてガラス化させることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明の長期保存性に優れた植物は、植物の表面を、有機金属化合物を加水分解、脱水縮合させて無機ガラス化したガラスの膜で被覆したことを特徴とする。
【0012】
本発明の植物の加工方法において、コーティング材に含まれる加水分解可能な有機金属化合物をガラス化させる原理は、特許第2538527号「金属酸化物ガラスの膜および球体微粒子の製造方法」において、200℃以下のいわゆる常温領域において単一系または多成分系金属酸化物ガラスの膜を形成させる技術として開示されている。この技術によって得られるガラスの膜は、耐熱性、耐高湿性等に優れ、かつ物理化学的に安定な透明均質な無孔化材料である。本発明者は、この技術をベースに植物の表面のコーティング技術に応用することで、本発明を完成した。
【0013】
本発明の方法については後で詳しく説明するが、一例により端的に述べると、例えばSiのアルコキシドと、反応触媒とを含んだ液状のコーティング材を植物の表面に塗布等により膜を形成する。次いで、この膜を空気中で、室温、あるいは60℃以下の温度で乾燥させる。この乾燥過程において空気中の水が膜中に取り込まれる。前記膜は非常に薄いため、反応触媒と空気中から取り込まれた水の存在下で、Siのアルコキシドが加水分解、脱水縮合され、コーティング材の膜がSiO2 ガラス化される。
【0014】
本発明の方法に用いるコーティング材の組成、反応条件およびガラス膜化の原理は、以下に引用するように特許第2538527号に開示されたものと基本的に同様である。ただし、後述するように対象物である植物の劣化を招かない(あるいは、劣化を著しく促進することのない)よう、60℃以下の温度でガラス化されるようにすることが好ましい。
【0015】
本発明において、コーティング材の原料として用いられる有機金属化合物は、加水分解が可能なものであればよく特に限定されない。好ましい有機金属化合物は金属アルコキシドであり、MR2m(OR1n-m なる一般式で表される。式中Mは酸化数nの金属、R1
およびR2 はアルキル基、mは0〜(n−1)の整数を表す。R1およびR2 は同一でもよく、異なる基でもよい。なかでも好ましいのは、R1およびR2が炭素原子4個以下のアルキル基、即ちメチル基CH3(以下、Meで表す)、エチル基C25(以下、Etで表す)、プロピル基C37(以下、Prで表す)、イソピロピル基i−C37(以下、i−Prで表す)、ブチル基C49(以下、Buで表す)イソブチル基i−C49(以下、i−Buで表す)等の低級アルキル基が好適に用いられる。金属アルコキシドとしては、例えば、リチウムエトキシドLiOEt、ニオブエトキシドNb(OEt)5、マグネシウムイソプロポキシドMg(OPr−i)2、アルミニウムイソプロポキシドAl(OPr−i)3、亜鉛プロポキシドZn(OPr)2、テトラエトキシシランSi(OEt)4、チタンイソプロポキシドTi(OPr−i)4、バリウムエトキシドBa(OEt)2、バリウムイソプロポキシドBa(OPr−i)2、トリエトキシボランB(OEt)3、ジルコニウムプロポキシドZn(OPr)4、ランタンプロポキシドLa(OPr)3、イットリウムプロポキシドY(OPr)3、鉛イソプロポキシドPb(OPr−i)2等が挙げられる。これらの金属アルコキシドは何れも市販品があり、容易に入手することができる。金属アルコキシドはまた、部分的に加水分解して得られる低縮合物も市販されており、これを原料として使用することも可能である。
【0016】
上記の加水分解が可能な有機金属化合物は、コーティング材の主成分として植物の表面に適用するため、および後述する加水分解、脱水縮合反応の制御を容易にするために、溶媒で希釈して用いることが望ましい。希釈用溶媒は、上記の有機金属化合物を溶解することができ、かつ水と均一に混合することができるものであればよい。一般的には脂肪族の低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物等が好適に用いられる。また、ブタノール+セロソルブ+ブチルセロソルブ、あるいはキシロール+セロソルブアセテート+メチルイソブチルケトン+シクロヘキサン等の混合溶媒を使用することもできる。低級アルコール類のなかでも、メタノール、エタノールより炭素数の多いプロパノール、イソプロパノール、ブタノールおよびイソブタノールは、生成する金属酸化物ガラスの膜の成長が安定であるため特に好ましい。
【0017】
本発明の方法において、所定の反応触媒と水の存在下で、加水分解可能な有機金属化合物を加水分解、脱水縮合させて、ガラス化する。すなわち、空気中の水と上記有機溶媒からなる媒液中において、所定の触媒、例えば、ホウ素イオンの存在下にハロゲンイオンを触媒として用い、前記有機金属化合物を加水分解、脱水縮合する。ホウ素イオンB3+を与える化合物としては、トリアルコキシボランB(OR)3が用いられる。なかでもトリエトキシボランB(OEt)3は好適である。また、ハロゲンイオンはF- およびCl- もしくはこれらの混合物が用いられる。用いる化合物としては、上記媒液中でF-イオンおよびCl-イオンを生ずるものであればよく、例えばF-イオン源にはフッ化水素アンモニウムNH4F・HF、フッ化ナトリウムNaF等、Cl-イオン源は塩化アンモニウムNH4Cl等が好適である。
【0018】
コーティング材のpHは、金属酸化物ガラスの膜を形成するために、例えば塩酸等の酸を用いてpHを4.5〜5の範囲に調整する。
【0019】
常温領域において金属酸化物ガラスを生成する場合のホウ素イオンB3+とハロゲンイオンX- の触媒作用は、必ずしも明らかにされていないが、特許第2538527号によれば、例えば有機金属化合物として金属アルコキシド、溶媒としてアルコールを用いた場合、次のように推定されるとしている。
3++4X- → BX4- (1)
M(OR)n +BX4-+n/2H2 O → MX-n+1+nROH+B3+ (2)
MX-n+1+nH2 O → M(OH)n +(n+1)X- (3)
M(OH)n → 金属酸化物ガラス+H2 O (4)
【0020】
即ち、特許第2538527号によれば、(1)式に示すように、B3+とX- とから生成するBX4-錯イオンが、(2)式のようにM(OR)nのMときわめて容易に交換してMX-n+1錯イオンとなり、(3)式、(4)式に示す加水分解、脱水縮合の反応が促進される結果、常温領域において金属酸化物ガラスが得られるものと考えられている。
【0021】
コーティング材の膜は、室温で乾燥させるか、あるいは加熱・乾燥させる場合には好ましくは60℃以下の温度で加熱・乾燥させて、ガラス化させる。植物の劣化を招かない(あるいは、劣化を著しく促進することのない)ようにするためである。乾燥は無孔化膜の形成のために重要である。
【0022】
また、本発明においては、このガラス化にあたり、植物の表面に形成したコーティング材の膜が、周囲(例えば室内であれば室内空気中)の水を取り込む(吸湿する)ことができるようにすることが必要である。植物の表面に施されたコーティング材の膜がガラス化する際の加水分解反応に水が不可欠だからである。
【0023】
本発明の方法に好適なコーティング材には市販品があり、例えば、株式会社日興が製造販売する常温ガラスコーティング材「HEATLESS GLASS GS-600シリーズ」(株式会社日興の商品名)および「HEATLESS GLASS GO-100SX」(株式会社日興の商品名)、常温ホーローコーティング材「テリオスコート NP-360シリーズ」(株式会社日興の商品名)が現に入手可能である。これらのコーティング材は室温で液体であり、かつ植物への付着性も良く、基材表面上にコーティング材が塗布等により適用されたとき、加熱を要せずに室温での乾燥過程において空気中の水の存在下で加水分解、脱水縮合が起こり、基材表面上にきわめて薄いガラスの膜を形成する。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒と、有機溶媒とを含むコーティング材の膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させて、ガラス化させる。このようにして植物の表面に形成されるガラスの膜は、本質的に金属酸化物ガラス成分以外の成分を含まない無機材料のみで構成されているため、ガラスの持つ特性、すなわち、長期耐候性、耐水性、耐汚染性、不燃性等の特性を、そのまま植物の表面に付与することができる。本発明によりコーティングを施された植物は、ガラス化された膜によって湿気、酸素等が長期間にわたり完全に遮断されるため、これらの外因による花の劣化(花の変色や褪色等)が防止され、保存性を著しく高めることができる。
【0025】
また、60℃以下の温度でコーティング材の膜がガラス化されるため、加工工程において基材となる植物が熱で劣化するのを防止することができる。
【0026】
さらに、本発明によってドライフラワーにコーティングを施した場合、形成されるガラスの膜が10乃至25μm程度ときわめて薄いため、膜厚が通常50μm以上となる樹脂コーティングの場合と比べて、花の風合いや自然の外観、形状が損なわれにくい。特にドライフラワーの場合、乾燥により花の体積が収縮し、花弁も薄くなるので、厚いコーティングでは、コーティングによる厚みの増加が目立つ傾向にあるが、そのような問題も生じない。また、本発明によれば適度の硬度を持つ薄いガラスの膜によって花が機械的に保護されるので、ドライフラワーの場合に起こりがちな破損(割れ等)が生じにくくなる。
【0027】
また、膜が無機質のガラスで構成されているため、加工後の花材に直接手を触れても、また誤って飲み込んだりしても、健康上何ら問題は無く、安全である。
【0028】
請求項2記載の発明によれば、気密ケース内でコーティング材を気化させて植物に付着させるので、コーティング材が植物の細かい隙間の奥等の隅々まで十分に到達し、付着する。これにより、植物全体をほぼ完全に被覆するようなガラスの膜を施すことができるので、植物の保存性を著しく高める効果がある上、植物の破損を防止する効果が得られる。例えば、花において花弁と花托の境目等を完全にコーティングすると、ガラス化したコーティング材が結着剤としての機能を果たし、花弁の脱落や割れ等の破損を防止することができる。
【0029】
請求項3記載の発明によれば、植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材を噴霧または塗布して膜を形成するので、簡易な方法でガラスの膜のコーティングを施すことができる。
【0030】
請求項4記載の発明によれば、植物の表面を、有機金属化合物を加水分解、脱水縮合させて無機ガラス化したガラスの膜で被覆したことにより、物理化学的に安定したガラスの膜によって植物が保護され、湿気、酸素等の外因によって影響を受けない、長期保存性に優れた植物が提供される。
【0031】
本発明は、花材、すなわちドライフラワー、プリザーブドフラワー、押し花等の加工された花、もしくは生花を対象植物とすると特に有効である。例えば、基材である生花をエチルアルコール等の低級アルコールに浸漬することで生花の組織水をアルコールで置換させ、その後に自然乾燥させたプリザーブドフラワーは、比較的長期の保存が可能とされている花材の一つである。しかしながら、プリザーブドフラワー中のアルコール分が揮発する一方、空気中の湿気が吸収されることにより、時の経過とともに徐々に劣化してゆく。本発明により花材の表面を物理化学的に安定したガラスの膜によって被覆すると、花材と外気との間の物質の交換がガラスの膜によって遮断され、花材に残留されるべきアルコール等の有効成分の揮発や、花材の長期保存上好ましくない湿気、酸素等の吸収を、長期間にわたり完全に防止する効果が得られる。従って、プリザーブドフラワー等の加工された花の長期保存性を著しく高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ここで、被加工対象とした植物は、花材、すなわちドライフラワー、プリザーブドフラワー、押し花等の加工された花、もしくは生花である。なお、花材に代えて、葉や茎等の植物の一部を用いることも勿論可能であり、ここではあくまで一例として、花材を用いる場合について説明する。
【0033】
本発明の方法に用いるコーティング材は、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含むコーティング材であって、前記有機金属化合物が、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させてガラス化するものである。既に述べたとおり、このような特徴を満たすコーティング材として、例えば、市販の常温ガラスコーティング材「HEATLESS GLASS GS-600シリーズ」(株式会社日興の商品名)および「HEATLESS GLASS GO-100SX」(株式会社日興の商品名)、常温ホーローコーティング材「テリオスコート NP-360シリーズ」(株式会社日興の商品名)のうちのいずれかを好適に用いることができる。これらのコーティング材は花材への付着性が良いため、特に適するものである。
【0034】
カタログにより公表されている常温ガラスコーティング材「HEATLESS GLASS GS-600シリーズ」(株式会社日興の商品名)の特性を、図1に示す。このコーティング材は常温で液体であり、その外観は淡黄色液体、粘度は40cpである。なお、希釈される場合、希釈剤としてイソプロピルアルコールが用いられる。
図1により、このコーティング材を用いて得られるガラスの膜の厚さは10ないし13μmであり、きわめて薄い膜であることがわかる。
同じくカタログにより公表されている常温ガラスコーティング材「HEATLESS GLASS GS-600-1」および「HEATLESS GLASS GO-100SX」(いずれも株式会社日興の商品名)の主な効果試験結果を図2に、同コーティング材の膜硬化時間を図3に示す。図2により、これらのコーティング材がきわめて優れた耐水性、耐湿性、および耐候性を有することがわかる。さらに、図3により、指触乾燥(指で触れて跡が残らない程度に乾燥した状態)は2〜3時間、速乾性の場合15〜20分であり、一般塗料の場合と比較しても何ら遜色ないかそれよりも早期に乾燥・硬化することがわかる。
【0035】
また、カタログにより公表されている常温ホーローコーティング材「テリオスコート NP-360シリーズ」(株式会社日興の商品名)の主な効果試験結果を、図4に示す。図4により、形成されるガラスの膜は耐水性、耐湿性、耐候性にきわめて優れていることがわかる。また、同コーティング材の硬化時間は、「テリオスコート NP-360」(株式会社日興の商品名)においては、常温硬化、JIS K 5400 下地鋼板20℃の条件で、指触乾燥に1時間、硬化乾燥(硬度H)に24時間、完全硬化(硬度4H)に1週間、一方、速乾タイプの「テリオスコート NP-360QD」(株式会社日興の商品名)においては、同一条件で、指触乾燥に20分、硬化乾燥(硬度3H)に24時間、完全硬化(硬度8H)に1週間である。なお、「テリオスコート NP-360・W」(株式会社日興の商品名)は木部用コーティング材であり、可とう性に富み、基材の収縮にも追随できる。
【0036】
花材の表面に上記のコーティング材の膜を形成する場合、液状のコーティング材を直接塗布する方法、イソプロピルアルコール(プロパノールの異性体の1種)等の低級アルコールを加えて希釈した液状のコーティング材を噴霧する方法、液状のコーティング材を加熱、気化させて付着させる方法、もしくは液状のコーティング材に浸す方法のいずれかにより行うことができるが、その他の方法で形成してもよい。これらの場合において、花材の表面に着色したガラスの膜を形成することを目的として、公知の着色剤を添加した液状のコーティング材を用いてもよい。
【0037】
液状のコーティング材の気化による場合、後述する加工装置を使って、コーティング材を加熱、気化させることができるが、ここでの加熱温度は花材表面において60℃以下に抑えることにより、加工される花材がコーティング材の熱により劣化(変色・褪色等)するのを防止(あるいは、劣化を著しく促進することのないように)することが好ましい。
【0038】
図5は、液状のコーティング材を加熱、気化される方法により本発明の加工方法を実施するのに適した加工装置の構成を示す断面図である。
図5に示すように、加工装置100は、略箱形のケース111の内部に、加熱部130が設置される。加熱部130にはコーティング材槽150が載せられ、コーティング材槽150にはコーティング材2が投入される。
【0039】
ケース111の図中左側には支持棚120が配設される。支持棚120は、ほぼ鉛直に延びる2枚の側板122と、これら2枚の側板122に跨るように配設される複数(図1の例では5枚)の棚板121とから構成される棚である。なお、棚板121および側板122は、後述する気化したコーティング材2の流通を妨げないように、例えば網で構成すると好ましい。支持棚120の棚板121には、複数の花材3が並べて載せられる。なお、ケース111において加熱部130および支持棚120を設置する場所について特に制限は無い。
【0040】
ケース111は、配管(図示せず)を通じて真空引装置(図示せず)と接続されており、気密状態で真空引き可能に構成されている。花材3の周囲を断熱状態として、花材3が高温にさらされるのを防ぐためである。
【0041】
図5に示すように構成される加工装置100を用いた加工方法について説明する。
まず、ケース111に設置された支持棚120において、所望の数の花材3を棚板121に載せる。このときの花材3の向きは任意であるが、花弁が開放している側を上または下に向けると良い。
続いて、コーティング材槽150にコーティング材2を入れて加熱部130に載せ、ケースを密閉して真空引きする。次いで加熱部130により、コーティング材槽150の加熱を開始する。
【0042】
加熱部130により加熱されたコーティング材槽150内においては、加熱によりコーティング材2が気化、蒸発してケース111内を流動し、気化したコーティング材2がケース111内に充満する。気化したコーティング材2は、花材3の表面に触れることによって液化し、花材3の表面全体がコーティング材2によってコーティングされる。加熱部130による加熱を所定の時間継続して行うことにより、花材3の表面がコーティング材2の膜によって均一に覆われる。
【0043】
次いで、ケース111の気密状態を解き、花材3をケース111から取り出して空気中に放置するか、あるいは支持棚120の棚板121に置いたままケース111内に空気を導入して空気にさらすことにより、室温乾燥する。この乾燥過程において、花材3の表面に形成されたコーティング材の膜は、空気中の水の存在下で、加水分解、脱水縮合されてガラス化される。
【0044】
コーティング材2を気化させて花材3の表面に付着させると、例えば花材3をコーティング材に浸してコーティングを施す場合に比べきわめて少ない量のコーティング材で足りるため、コーティング材の消費に無駄がない。また、気化により付着させれば、気化したコーティング材2が花材3の細かい隙間の奥まで十分に到達する。これにより、植物全体をほぼ完全に被覆するようなガラスの膜を施すことができるので、花材3の保存性を著しく高める効果があるうえ、花材3の破損を防止する効果が得られる。例えば、花において花弁と花托の境目等を完全にコーティングすると、ガラスの膜が結着剤としての機能を果たし、花弁の脱落や割れ等の破損を防止することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態においては、加熱部130による加熱の程度、ケース111内に気化したコーティング材2の温度は、適宜変更可能である。一般に、ドライフラワー、プリザーブドフラワー、押し花等の加工された植物および生の植物(生花等)は、約60℃を超える温度において劣化が顕著になる。従って、気化したコーティング材2の温度が高温であると、花材3の表面に付着したときに熱の影響によって劣化するおそれがあるので、そうした問題が生じない程度に加熱部130の加熱が制御されるべきである。
【実施例】
【0046】
花材にドライフラワーを用い、コーティング材として速乾タイプのコーティング材「テリオスコート NP-360QD」(株式会社日興の商品名)を用いた。
ドライフラワーの表面に、刷毛によりほぼ均一にコーティング材を塗布し、室温(24℃)の室内で自然乾燥させた。コーティング材は約15分で指触乾燥し、約24時間で硬化乾燥した。花材表面に形成されたガラスは無色透明でその膜厚は約10μmであった。
【0047】
このようにして加工された花材は、コーティングによって光沢を帯びるが、花材自体に変色や褪色等の劣化はまったく見られなかった。また、加工した花材を、湿度60%〜70%の室内に放置したとき、1ヶ月以上劣化が見られなかった。ドライフラワーや生花が数日乃至数週間で著しく劣化するのに比べ、きわめて高い保存性を有することが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の方法に好適なコーティング材の主な特性を示す図表である。
【図2】上記コーティング材の主な効果試験結果を示す図表である。
【図3】上記コーティング材の膜硬化時間を示す図表である。
【図4】本発明の方法に好適な他のコーティング材の主な効果試験結果を示す図表である。
【図5】加工装置の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
100 加工装置
111 ケース
120 支持棚
121 棚板
122 側板
130 加熱部
150 コーティング材槽
2 コーティング材
3 花材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材の膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒及び水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させて、ガラス化させることを特徴とする植物の加工方法。
【請求項2】
前記植物を気密ケース内に支持し、前記コーティング材を前記気密ケース内で加熱することにより前記植物の表面に付着させてコーティング材の膜を形成することを特徴とする請求項1記載の植物の加工方法。
【請求項3】
植物の表面に、加水分解可能な有機金属化合物と、反応触媒とを含む液状のコーティング材を噴霧または塗布して膜を形成し、前記有機金属化合物を、前記反応触媒および水の存在下でかつ60℃以下の温度で、加水分解、脱水縮合させてガラス化させることを特徴とする植物の加工方法。
【請求項4】
植物の表面を、有機金属化合物を加水分解、脱水縮合させて無機ガラス化したガラスの膜で被覆したことを特徴とする長期保存性に優れた植物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−206453(P2006−206453A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17013(P2005−17013)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(502037258)株式会社コロネット (6)
【Fターム(参考)】