説明

植物プロモーターおよびその使用

本発明は、植物の修飾および/または植物におけるタンパク質発現のためのツール、方法および組成物に関する。本発明は、特に、毛状突起における特異的な発現を可能にする転写プロモーター、前記プロモーターを含むコンストラクト、および細胞、種または植物を遺伝的に修飾するためのこれらの使用に関する。本発明は、目的のタンパク質または代謝産物を発現するトランスジェニック植物を作製する方法にも関する。本発明は、一般に、腺状突起を有する任意の植物、および産業目的、特に治療用または植物検疫用の任意のタンパク質の発現に適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の修飾および/または植物におけるタンパク質発現のためのツール、方法および組成物に関する。本発明は、特に、毛状突起における特異的な発現を可能にする転写プロモーター、前記プロモーターを含むコンストラクト、および細胞、種または植物を遺伝的に修飾するためのこれらの使用に関する。本発明は、目的のタンパク質または代謝産物を発現するトランスジェニック植物を作製する方法にも関する。本発明は、一般に、腺状突起を有する任意の植物、および産業目的、特に治療用または植物検疫用の任意のタンパク質の発現に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
特定の高等植物(被子植物(Angiosperms))の葉の表面は毛状突起と呼ばれる器官を含み、それはその生体構造に依存して2つの主要なタイプに分けられる。つまり、一方が非分泌性毛状突起でもう一方が分泌性毛状突起である。腺の分泌性毛状突起の主な機能は、葉表面で数種類の主要化合物を含む樹脂およびエッセンシャルオイルを分泌することである。
【0003】
タバコ植物では、腺の分泌性毛状突起は、数個(3〜5)の直線状に配置された細胞からなる足部(foot)と様々な個数(2〜20)の分泌細胞を含む頭部(head)とから構成される。前記細胞は、主にショ糖エステルおよびジテルペンを分泌する。後者は、滲出物の最大60%および成体植物の乾燥重量の10%の割合を占める(非特許文献1)。栽培されたタバコ種(ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum))において、生成されるジテルペンは、ラブダン型とセンブラン型の2つの別々のファミリーに属する。2つのファミリーの相対的生成レベルは品種に依存するが、一般にセンブラン型の生成がラブダン型の生成より4〜10倍高い。ニコチアナ・タバカムの原種と推定されるニコチアナ・シルベストリス(Nicotiana sylvestris)では、ラブダン型は存在せず、センブランファミリー由来の化合物であるセンブラトリエン−ジオール(CBT−ジオール)が、それだけで植物によって生成されるテルペンの60%超の割合を占める。
【0004】
タバコにおいてCBT−ジオールの生合成に至る工程は一部解明されており、2つの異なる部分に分けられる。
−いわゆる「ロメール」経路(非特許文献2)を介したすべてのジテルペンに共通の前駆体であるゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)の生合成が葉緑体において生じる。
−GGPPからCBT−ジオールの生合成。非特許文献3には以下の生合成経路:
GGPP→CBT−オール→CBT−ジオール
が提案されている。
【0005】
第1の環化工程は、テルペンシンターゼとして知られる酵素の大ファミリー由来の酵素によって行われるだろう(非特許文献4)。タバコのジテルペンシンターゼはGGPPを基質として用いてCBT−オールを形成する。CBT−ジオールがCBT−オールから生成される第2の工程は、チトクロムP450ファミリー由来の酵素によって触媒される水酸化である。G.ワーグナー(G.Wagner)教授のグループ(ケンタッキー大学)は、サブトラクティブPCRを利用して、これらの工程それぞれについて2種類のニコチアナ・タバカム候補遺伝子を同定した。
−テルペンシンターゼをコードする配列と高い相同性を示す配列(CYC−2;Genbank No.AF401234.NID:AY495694)
−チトクロムP450−タイプ酵素をコードする配列(CYP71D16、NID:AF166332)(非特許文献5、非特許文献3)
【0006】
ニコチアナ・タバカムにおける同時抑制およびRNA干渉によるこれらの遺伝子の発現の消去に関する研究によると、(i)CYC−2遺伝子発現の低下と相関したCBT−ジオールおよびCBT−オールの低下、ならびに(ii)毛状突起におけるCYC71D16遺伝子発現の低下と相関したCBT−オールの蓄積の増加およびCBT−ジオールの形成の減少が示されている。これらの研究は、(i)CYC−2遺伝子がCBT−オールの合成を担うCBT−オールシクラーゼをコードし、かつ(ii)CYP71D16遺伝子がCBT−オールをCBT−ジオールに変換するCBT−オールヒドロキシラーゼをコードすることを示唆している。さらに、CYC−2 mRNAに酷似する遺伝子のゲノム配列がデータベースに最近登録(CYC−1、NID:AY049090)され、これは数種類の(1種類ではない)CBT−オールシクラーゼ遺伝子の存在を示唆している。
【0007】
植物に特定の特性を付与するための植物におけるタンパク質の発現および/または植物の遺伝子の修飾は、植物検疫および医薬の分野の双方において大いに注目されている。したがって、植物において遺伝子の発現を制御または調節することができるツールの利用可能性は、前記システムの発展および開発における重要な因子である。この点で、組織、特に分泌性毛状突起に特異的なプロモーターまたは他の調節配列の開発には極めて重要な利点があるであろう。
【0008】
これに関連して、G.ワーグナー(G.Wagner)のグループは、CYP71D16遺伝子のATGの上流に位置した1852bpの調節配列がタバコの毛状突起の分泌細胞においてuidAレポーター遺伝子の発現を特異的に指揮することを示した(特許文献1、ワーグナー(Wagner)ら、2003年)。さらに、異なる種から抽出された数種類のプロモーター配列がタバコの毛状突起において異種遺伝子の発現を指揮することが示されている(表1)。
【0009】
前記プロモーターの中で、脂質輸送に関与する綿タンパク質(LTP)をコードするLTP3遺伝子のプロモーターが綿の線維細胞において特異的に発現される。遺伝子の調節配列(1548bp)がタバコにおいて研究された。前記配列は、葉の毛状突起におけるuidA遺伝子の発現を特異的に指揮する。ATGの上流の位置−614〜位置−300に位置する315bpの配列は、プロモーターの特異性の根拠をなすものと考えられる。LTP6遺伝子のプロモーターもまた、綿における毛状突起に特異的発現を可能にするだろう。しかし文献に基づくと、発現は毛状突起の足部の細胞において生じ、分泌細胞においては生じないと思われる。さらに前記プロモーターがタバコに導入される場合、発現は、特に表皮細胞におけるシグナルにもはや特異的ではない(表1参照)。
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0100050A1号明細書
【非特許文献1】ワーグナー(Wagner)ら、2004年
【非特許文献2】ロメール(Rohmer)ら、1996年
【非特許文献3】ワン(Wang)およびワーグナー(Wagner) 2003年
【非特許文献4】ボールマン(Bohlmann)ら、1998年
【非特許文献5】ワン(Wang)ら、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって今日では、植物における遺伝子の発現に適し、かつ特に分泌性毛状突起において高レベルかつ組織特異的な発現を特に可能にするプロモーターまたは発現調節配列に対してかなりの需要がある。
【課題を解決するための方法】
【0012】
本願は、植物の毛状突起の分泌細胞において目的遺伝子の発現を特異的に誘導することを可能にする、植物起源の調節核酸配列の同定および特徴づけについて記載する。前記プロモーターは操作が容易であり、適度な大きさのものであり、調節可能であり、異種遺伝子の発現に適応可能であり、かつ特定の植物組織において発現を特異的にもたらすことが可能である。したがって本願は、植物を修飾するため、および植物組織または植物細胞において目的産物を発現させるために使用され得るプロモーター、発現カセットおよびベクターについて記載する。
【0013】
本発明の第1の目的は、より詳細には、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、少なくとも100個の連続塩基を有するこれらの断片またはこれらの機能的変異体を含むことを特徴とする、腺状突起における機能的転写プロモーター活性を有する核酸に関する。より詳細には、核酸は、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、および少なくとも100個の連続塩基を有するこれらの断片または前記配列の1つと少なくとも80%の同一性を示す配列を含み、かつ腺状突起、特に腺状突起の分泌細胞において特異的である。
【0014】
本発明の別の目的は、配列MSQSISPLMFSHFAKFQSNIWRCNTSQLRVIHSSYASFGGRRKERVRRMNRAMDLSS(配列番号10)またはこの機能断片を含む植物細胞の葉緑体の輸送ペプチド、ならびにかかるペプチドの1つをコードする核酸に関する。
【0015】
本発明は、上で定義されたものなどの核酸に作動可能に結合した目的遺伝子を含む任意の組換え発現カセット;上で定義されたものなどの核酸またはカセットを含む任意の発現ベクター;および上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを含む任意の修飾された細胞にも関する。好ましくは、細胞は、特にナス科(Solanaceae)、キク科(Asteraceae)、アサ科(Cannabaceae)またはシソ科(Lamiaceae)の科由来の植物細胞である。
【0016】
本発明の別の目的は、タンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物に導入する工程を含む、前記植物の毛状突起において前記タンパク質を生成する方法に関する。
【0017】
本発明の別の目的は、タンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物細胞または種に導入する工程、および前記細胞または種から植物を再生する工程を含む、前記植物の毛状突起において前記タンパク質を生成する方法に関する。
【0018】
本発明の別の目的は、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物細胞または種に導入するステップと、前記細胞または種から植物を再生するステップとを含む、前記タンパク質を発現する植物を作製するための方法に関する。有利なことに、前記タンパク質は分泌細胞での活性が滲出物の組成の修飾をもたらす酵素である。
【0019】
別の利点は、植物が腺状突起においてタンパク質を分泌し、該タンパク質が葉の表面で滲出物から回収される点である。
【0020】
本発明の別の目的は、上で定義されたものなどの発現カセットまたはベクターを含む任意の植物または種に関する。
【0021】
本発明は、植物の腺状突起においてタンパク質を特異的に発現するための、上で定義されたものなどの核酸の使用についても指向される。本発明は、上記などの核酸、ベクター、カセットおよび/または細胞を含むキットにも関する。
【0022】
下記に詳細に記載する如く、本発明は、目的の医薬品もしくは植物検疫用製品の生産用、または改良された特性もしくは適合された特性を有する植物の作製用などの種々の用途のため、任意の植物または植物組織、好ましくは腺状突起を含む高等植物における任意の目的遺伝子の発現に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願は、タバコのCBT−オールシンターゼ遺伝子由来の植物の毛状突起に特異的なプロモーターの同定について記載する。テルペンシンターゼ、すなわちCBT−オールシクラーゼ(CYC−2、NID:AF401234)をコードするcDNAの配列から始まり、CYC−2に対して顕著な配列類似性を示す4種類の遺伝子(NsTPS−02a、02b、03、および04の名称)が、ニコチアナ・シルベストリス種のゲノムDNAからPCR法を用いて同定された。
【0024】
発現の分析によると、前記遺伝子(特にNsTPS−02a、02b、および03)がタバコの毛状突起において発現されることが示された。
【0025】
従来知られていなかった、前記4種類の遺伝子それぞれのATGの上流に位置するプロモーター配列が同定され、特徴づけられた。各配列の大きさは約1kbである。配列は配列番号1〜4で提供される。4つの配列のアラインメントによると、それらが93%を超える同一性を共有することが示される(図1、表2)。さらに、前記アラインメントは発現の特異性に関与する可能性が極めて高い同一領域を示す。
【0026】
前記プロモーターを使用した組換え発現カセットの構築物は、意外なことに毛状突起の分泌細胞に限定され、かつ特異的な発現プロファイルを示している。テルペンシンターゼの発現特徴についての先行技術における記録が全く認められない限りにおいて、かかるプロファイルは予測外であった。さらに出願人が得た結果は、ゲノム配列がG.ワーグナー(G.Wagner)によって寄託されているCYC−1遺伝子(NID:AY049090)でさえもニコチアナ・タバカムトリクロムではほとんど発現されないことを示している。
【0027】
したがって本願は、植物または植物組織におけるタンパク質の発現、特に腺状突起の細胞における特異的発現にとって特に有利な新規のプロモーターを提供する。前記プロモーターは、葉によって分泌された滲出物における直接的な組換え産物の生成を可能にし、それにより必要に応じて組換え産物の回収を極めて容易にすることから特に有利である。
【0028】
したがって本発明の特定の目的は、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、少なくとも100個の連続塩基を有するこれらの断片またはこれら(もしくはこれらの相補鎖)の機能的変異体を含むことを特徴とする、腺状突起における機能的転写プロモーター活性を有する任意の核酸に関する。
【0029】
特定の実施形態では、本発明は、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、少なくとも100個の連続塩基を有するこれらの断片または前記配列の1つと少なくとも80%の同一性を示す配列を含み、かつ腺状突起に特異的な転写プロモーター活性を有することを特徴とする、上で定義されたものなどの任意の核酸に関する。
【0030】
本発明の特異的な実施形態では、核酸は、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、好ましくは配列番号2の配列を含む。
【0031】
実施例において説明される如く、TPS−02b遺伝子プロモーター(配列番号2)の1065個の塩基対配列がuidAレポーター遺伝子の上流でクローニングされた(TPS02bプロモーター/uidA遺伝子融合体の配列が配列番号5によって与えられる)。前記コンストラクト(カセット番号1)は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefasciens)のノパリンシンターゼプロモーター(nos)の制御下でカナマイシン耐性遺伝子を含むT−DNAベクター(pBI121)に挿入された。前記T−DNAは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株(フッケマ(Hoekema)ら、1993年)を用いた遺伝子形質転換によってニコチアナ・シルベストリスに導入された。数種類の形質転換体においてUidA遺伝子の発現が検出された。図2における結果は、発現が分泌細胞内に認められたが、毛状突起の基盤を構成する細胞内には認められなかったことを示す。さらに、植物の他の器官のいずれにおいてもuidAの発現は全く検出されなかった。これらのデータは、検討中の配列が高度に特異的な様式で腺状突起の分泌細胞において異種遺伝子の発現を指揮できることを示す。
【0032】
本発明の精神では、「核酸」という用語は、DNAまたはRNAをベースとする任意の分子を意味するように理解されるべきである。これらは、合成または半合成分子であり、場合によって増幅されるか、あるいは化学的に修飾された、または非天然塩基を含有しているベクターにクローン化された組換え型の分子であり得る。典型的には、それらは当業者に周知の組換え方法によって合成された単離DNA分子である。
【0033】
本発明の精神では、「特異的」プロモーターは主に所定の組織または細胞群において活性を示すプロモーターを意味するように理解されるべきである。他の組織または細胞において一般に低いものである残りの発現を完全に除外することはできないことは理解されるべきである。例えば、他の組織または細胞における残りの発現は、腺状突起において観察される発現の30%を超えず、好ましくはそれは20%、10%または5%を超えない。本発明の特定の特徴は、腺状突起の分泌細胞に特異的なプロモーターを構築する能力に基づき、それは植物の葉の分泌物の組成の修飾、特に目的産物のそれらにおける発現を可能にする。
【0034】
本発明による核酸「断片」は、有利には、少なくとも10個、より一般的には少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90もしくは100個の連続塩基を含む断片を示す。核酸「断片」は、典型的には100、200、300、400もしくは500個またはそれより大きい数の連続ヌクレオチド配列を含む断片である。核酸「断片」は、好ましくは少なくとも100、200、300、400もしくは500個の連続ヌクレオチド配列を含む断片である。腺状突起に対して特異性を有するキメラプロモーターを構築するために、核酸「断片」を単独で使用するかまたは他の転写領域と組み合わせてもよい。本発明によるプロモーターは、典型的にはプロモーター活性を示す配列領域である。
【0035】
図1は、本発明によるプロモーターが相互に極めて高い割合で配列同一性を共有することを示す。これに関連して、本発明者らは、前記配列の分析により、毛状突起の分泌細胞における特異的発現に必要な保存モチーフとしてそれらの一部を同定することができた。前記モチーフの除去により、発現の有意な低下または発現の特異性の喪失がもたらされる。数として3つの前記モチーフが以下のコンセンサス配列によって定義される(K、WおよびYの文字は、K=GもしくはT、W=AもしくはT、およびY=CもしくはTとした国際的な命名法に従って核酸塩基を表す)。
−モチーフ1:5’−KKTCGTWGCAWT−3’(配列番号6)
−モチーフ2:5’−AGTAATWTYW−3’(配列番号7)
−モチーフ3:5’−TTGTAGCWAW−3’(配列番号8)
【0036】
好ましい実施形態では、本発明に関連する断片は、配列番号6、7もしくは8からなる群において選択される少なくとも1つの配列を含む。同様に、本発明の特定の目的は、配列番号6、7もしくは8からなる群において選択される配列またはこれらの機能的変異体を含む任意の核酸配列に関する。前記核酸は、典型的には転写プロモーター活性を有する組換え核酸である。特にそれらは、最小のプロモーターに作動可能に結合したキメラプロモーター、すなわち配列番号6、7もしくは8からなる群において選択される配列またはこれらの機能的変異体を含むものでありうる。
【0037】
「機能的変異体」という用語は、本明細書に記載の親配列に関して1つもしくは複数の修飾(すなわち、例えば1個もしくは複数個の塩基の変異、欠失、または付加をいう)を担持し、かつ転写プロモーターまたは発現特異性もしくは輸送のシグナルのいずれかの活性を保持している任意の核酸を示す。例えば機能的変異体は、他の植物種の対応する遺伝子由来のプロモーターに相当しうる。例えば、本明細書における実施例に記載の試験は、栽培されたタバコであるニコチアナ・タバカムの推定上の二倍体の親の一方であるニコチアナ・シルベストリス種由来の配列に関する。ニコチアナ・シルベストリスとニコチアナ・タバカムの配列がニコチアナ・タバカムの対応する遺伝子のプロモーターが本発明に関連する機能的変異体を構成するように、非常にに類似(ニコチアナ・タバカムとニコチアナ・シルベストリスとの間の配列同一性は最大99%)し、従来の方法(ハイブリダイゼーション、増幅など)によって容易に調製され得ることが知られている。他の機能的変異体は、配列が高ストリンジェンシーな条件下で、配列番号1、2、3、4、22の配列のうちの1つまたは少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有する断片とハイブリダイズし、かつ特に腺状突起に特異的な転写プロモーター活性を有する核酸、合成体、組換え体または天然体である。
【0038】
一般的な様式では、機能的変異体が配列番号1、2、3、4もしくは22の配列または少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有するそれらの断片と少なくとも80、85もしくは90%の同一性を示し、さらにより好ましくは95%を超える同一性を示す核酸でり、このことはblastN配列アラインメントソフトウェア(アルチュール(Altschul)ら、1990年)によって得られた。
【0039】
最適なアラインメントがなされている2つの配列の比較により、同一性の割合が判定される。同一性の割合は、同一残基が同じ位置の両配列内で見られる場合の位置の数を位置の総数で除してから100倍したものを求めることによって算出される。2つの配列の最適なアラインメントは、例えば、局所相同性を探索するためのアルゴリズム(スミス(Smith)およびワザーマン(Watherman)、1981年)、またはそれと同様の当業者に既知のシステムを用いて、達成され得る。
【0040】
同定された遺伝子により、植物細胞、特に毛状突起の葉緑体区画に対して異種タンパク質をターゲティングまたは指揮することができる輸送ペプチドの特徴づけも可能になった。例えば、ジテルペンシンターゼが、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)の生合成部位である葉緑体区画におけるそれらの局在化に必要とされるシグナルペプチド配列をそれらのN−末端に有することは既知である(トラップ(Trapp)およびクロトー(Croteau)、2001年)。ChloroPプログラム(エマニュエルソン(Emanuelsson)ら、2000年、ニールセン(Nielsen)ら、1997年)を使用することにより、TPS−02a遺伝子のコーディング配列から51個のアミノ酸(AA)の推定上の輸送ペプチドが同定された。前記輸送ペプチド(および続く6AA)は、uidA遺伝子の上流およびTPS−02bプロモーターの下流にあるカセット番号1に導入された。このようにして、輸送ペプチドとGUSタンパク質との翻訳融合体が生成された。前記コンストラクト(カセット番号2)は、カリフラワーモザイクウイルスプロモーター(CaMV 35S)の制御下でカナマイシン耐性遺伝子を有するT−DNAベクター(pBI121)に挿入された。このT−DNAは、アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株(フッケマ(Hoekema)ら、1993年)を用いた遺伝子形質転換によってニコチアナ・シルベストリスに導入された。
【0041】
カセット番号1に関し、数種類の形質転換体におけるuidA遺伝子の発現が腺状突起の分泌細胞においてのみ検出された。さらに顕微鏡検査により、GUS活性がプラスト内に位置することが示され、それはGUSタンパク質が葉緑体区画に正確にターゲティングされたことを示した。これらのデータは、ニコチアナ・シルベストリス(TPS−02b)のCBT−オールシクラーゼ輸送ペプチドに対応する検討中の配列が異種タンパク質の葉緑体区画への局在化を指揮することを示す。
【0042】
したがって、本発明の別の目的は、MSQSISPLMFSHFAKFQSNIWRCNTSQLRVIHSSYASFGGRRKERVRRMNRAMDLSS(配列番号10)のアミノ酸配列を含む植物細胞の葉緑体の輸送ペプチドまたはこれらの任意の断片または機能的変異体、ならびに「ATGAGTCAATCAATTTCTCCATTAATGTTTTCTCACTTTGCAAAATTTCAGTCGAATATTTGGAGATGCAATACTTCTCAACTCAGAGTTATACACTCATCATATGCCTCTTTTGGAGGGAGAAGAAAAGAGAGAGTAAGAAGAATGAATCGAGCAATGGATCTTTCTTCA」(配列番号9)のヌクレオチド配列を含む植物細胞の葉緑体の輸送ペプチドまたはこれらの任意の断片または機能的変異体をコードする核酸に関する。
【0043】
本発明は、上で定義されたものなどの核酸に作動可能に結合した目的の遺伝子および/またはプロモーターを含むことを特徴とする任意の組換え発現カセットにも関する。
【0044】
発現カセットという用語は、作動可能に結合したコード領域および調節領域を含む核酸コンストラクトを示す。「作動可能に結合した」という表現は、エレメントが、コード配列(目的遺伝子)の発現および/またはコードされるタンパク質のターゲティングが転写プロモーターおよび/または輸送ペプチドの制御下にあるような方法で組み合わされることを示す。典型的には、プロモーター配列は目的遺伝子の上流であって、発現の制御に合った間隔を置いて配置される。同様に輸送ペプチドの配列は、一般に、目的遺伝子の配列の上流であって、かつそれとインフレームで、および任意のプロモーターの下流で融合される。スペーサー配列は、発現および/またはターゲティングを妨げない限りにおいて調節エレメントと遺伝子の間に存在し得る。
【0045】
目的遺伝子は、発現産物(例えばmRNAまたはタンパク質)をコードする領域を含む任意の核酸(例えばDNAまたはRNA)であってもよい。好ましい実施形態では、目的遺伝子は、治療用または植物検疫用のタンパク質、酵素、耐性タンパク質、転写活性化因子またはウイルスゲノムをコードする。
【0046】
本発明の別の目的は、上で定義されたものなどの核酸またはカセットを含む任意の(発現)ベクターに関する。ベクターは、DNAまたはRNA、環状または非環状、1本鎖または2本鎖であってもよい。典型的には、それはプラスミド、ファージ、ウイルス、コスミド、人工染色体などである。有利には、それは植物ベクター、すなわち植物細胞を形質転換可能なものである。植物ベクターの例は文献中に記載されており、その中でも特にアグロバクテリウム・ツメファシエンスのT−DNAプラスミドpBIN19(ベバン(Bevan)、1984年)、pPZP100(ハジュキーヴィッツ(Hajdukiewicz)ら、1994年)、pCAMBIAシリーズ(R.ジェファーソン(R.Jefferson)、CAMBIA、オーストラリア)が挙げられる。本発明のベクターは、さらに複製起点および/または選択遺伝子および/または植物の組換え配列などを含んでもよい。例えば制限酵素、ライゲーション、クローニング、複製などを用いた当業者に周知の従来の分子生物学的方法によってベクターは構築され得る。本発明によるベクターの具体例が実験部分において提供され、それらは特にpLIBRO−01およびpLIBRO−02を含む。
【0047】
本発明の遺伝子コンストラクトを使用して、植物を遺伝的に修飾し、かつ特に、植物全体を含む植物組織においてタンパク質を導入し、発現させることが可能である。
【0048】
当業者に既知の任意の方法により、本発明のコンストラクトの種または植物を含む植物細胞または植物組織への導入を行うことが可能である。植物の遺伝子組換え法は当該技術分野で周知であり、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌の使用、エレクトロポレーション、接合伝達、遺伝子銃法などを含む。
【0049】
共通に用いられる方法は、主に目的コンストラクト(核酸、カセット、ベクターなど)のアグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌への導入とそれに続く前記細菌の選択された植物の葉片との接触を含む、アグロバクテリウム・ツメファシエンス細菌の使用に基づく。発現カセットは、典型的には、ベクターとしてTiプラスミド(またはT−DNA)を使用することによって細菌に導入され、そしてそれは例えば熱ショックによって細菌内に伝達されうる。形質転換細菌と葉片とのインキュベーションにより、Tiプラスミドの葉片細胞のゲノムへの伝達がもたらされる。後者は、必要に応じて、トランスジェニック植物を再生するために、適切な条件下で培養され得る。そしてそれらの細胞は本発明のコンストラクトを含む。アグロバクテリウム・ツメファシエンスの形質転換方法のさらなる詳細または様々な実施について、例えば、ホーシュ(Horsch)ら、1985年またはホーイカース(Hooykaas)およびシルペルールト(Schilperoort)、1992年を参照してもよい。
【0050】
植物形質転換の別の方法は、トランスジェニック植物を再生するために、遺伝子コンストラクトが接触する微粒子(典型的にはマイクロビーズ)を植物細胞に発射し、次いで前記細胞を培養することに基づく。使用される粒子は、典型的には粒子銃によって発射されることが多い金粒子である(特にラッセル(Russell)ら、In Vitro Cell Dev.Biol.、1992年、28P、97−105頁を参照)。
【0051】
マイクロインジェクション法は、植物全体の再生を目的とした、主に遺伝子コンストラクトの植物プロトプラストまたは胚への注入、次いで前記組織の培養に基づく。他の植物遺伝子組換え法は周知であるか、または上記方法を実現する他のプロトコルは先行技術(シーメンス J.(Siemens J.)およびシーダー(Schieder)、1996年)において記載されており、それらを本発明において利用してもよい。
【0052】
再生されると、トランスジェニック植物は、毛状突起における目的産物の発現について試験され得る。産物が分泌されるべきものである場合、葉の滲出物を回収し、前記滲出物における産物の有無を調べることによりこれを行ってもよい。葉やより具体的には毛状突起細胞における目的遺伝子の発現産物の存在を分析すること(例えば特異的なプライマーまたはプローブを用いたmRNAまたはゲノムDNAの分析)によってこれを行ってもよい。必要に応じて、改良されたレベルの発現を示す植物を得るために、例えば、植物が選択され、交配され、処理され得る。
【0053】
これに関連して、本発明の別の目的は、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを含む組換え細胞に関する。例えばそれは、特にナス科、キク科、アサ科またはシソ科由来の植物細胞であってもよい。培養においてタンパク質を生成するか、または(例えば機能ゲノミクスによって)目的の遺伝子もしくはタンパク質の特性を試験するために、細胞をインビトロで培養し、それを使用して組織または植物全体を再生してもよい。
【0054】
本発明の別の目的は、上で定義されたものなどの発現カセットまたはベクターを含む植物または種にも関する。
【0055】
さらに本発明は、タンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物に導入する工程を含む、前記植物、特に植物の腺状突起において前記タンパク質を生成する方法に関する。
【0056】
本発明の別の態様は、タンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物細胞または種に導入する工程と、前記細胞または種から植物を再生する工程とを含む、前記植物、特に植物の腺状突起において前記タンパク質を生成する方法に関する。
【0057】
本発明は、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含む、上で定義されたものなどのカセットまたはベクターを植物細胞または種に導入する工程と、前記細胞または種から植物を再生する工程とを含む、前記タンパク質を発現する植物を作製する任意の方法にも関する。
【0058】
有利なことに、毛状突起において発現された組換えタンパク質は、葉表面の滲出物において分泌される分子の分泌細胞による生成および/または滲出物の組成の修飾をもたらす。
【0059】
有利なことに、植物は腺状突起においてタンパク質を分泌し、タンパク質は葉表面の滲出物において回収される。
【0060】
したがって種々の目的産物を発現するために、本発明を用いることで植物、植物細胞または植物組織を修飾することが可能である。
【0061】
本発明を用いて、具体的には高等植物(特に被子植物)の腺状突起の分泌細胞において特異的に目的産物を発現することが可能である。特に腺状突起を有する科、例えばキク科、ナス科、アサ科およびシソ科由来の任意の植物に本発明を適用することが可能である。本発明は、例えばナス(Solanum)属、トマト(Lycopersicon)属、トウガラシ(Capsicum)属、ペチュニア(Petunia)属、ダチュラ(Datura)属、アトローパ(Atropa)属などのナス科の植物や、例えばニコチアナ・シルベストリスおよびニコチアナ・タバカムといったニコチアナエ(Nicotianae)に特に適する。
【0062】
目的産物は、ペプチド、酵素、抗体などを含む任意の組換えタンパク質であってもよい。特にそれは、例えば医薬用または植物検疫用の産業目的の生物学的活性を有するタンパク質であってもよい。それはさらに、病原体(害虫、真菌、細菌、ウイルスなど)に対する抵抗性、改善された成長、修飾された代謝産物含有量または修飾された合成経路など、特定の特性を植物に付与(特に分泌物(滲出物)の組成の修飾)を意図したタンパク質であってもよい。
【0063】
さらに植物細胞または植物における転写活性化因子の発現を目的として本発明を用いてもよい。この場合、生成される転写活性化因子は、前記活性化因子に応答するプロモーターの制御下に置かれた目的タンパク質の発現の制御を可能にするであろう。2種類のカセット(同一のベクターまたは異なるベクター上に存在する)を使用したかかる二元系により、本発明を活用して得られた特異的発現の増幅が可能になる。かかる例の1つは、毛状突起に特異的なプロモーターの制御下で転写活性化因子(例えばGAL4)をコードする遺伝子を含む第1のカセットと、転写因子(Gal4)によって調節されることで知られるエレメントの制御下で目的タンパク質をコードする遺伝子を含むもう1つのカセットとを含むシステムである。
【0064】
別の増幅システムはウイルスRNAベクターの使用を含む。実際、一部の植物RNAウイルスは、所定の遺伝子の転写物の増幅を可能にするRNA依存性のRNAポリメラーゼをコードする。この実施形態では、目的遺伝子は、ウイルスコートタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの代わりに前記RNAポリメラーゼのプロモーターの下流にクローニングされる。ウイルス自体は特異的プロモーターの制御下に置かれる。したがって、ウイルスの発現は毛状突起の分泌細胞に制限され、それにより前記細胞における遺伝子の発現の選択的増幅が可能になる。
【0065】
本発明の他の態様および利点は、限定目的ではなく説明目的で記載される以下の実施例において明らかになるであろう。
【実施例】
【0066】
1.配列の単離および特徴づけ
Qiagen(登録商標)商用キット(DNeasy Plant Maxi Kit)を用いて、タバコ(ニコチアナ・シルベストリスまたはニコチアナ・タバカム)の葉からゲノムDNAを抽出した。「アダプター−アンカー」PCR法(シーベルト(Siebert)ら、1995年)を使用し、異なるTPS遺伝子(TPS02a、02b、03、および04)のプロモーター領域をクローニングした。簡単にいうと、ゲノムDNAを平滑末端を生じる種々の制限酵素(DraI、SspI、NaeIなど)を用いて別々に消化し、ADPR1 5’−CTAATACGACTCACTATAGGGCTCGAGCGGCCGCCCGGGGAGGT(配列番号14)およびADPR2 5’−ACCTCCCC(配列番号15)のプライマーを含むアダプターにライゲーションした。次いで、アダプター(AP1およびAP2)に相補的なプライマーおよび公表されたCYC−2遺伝子コード配列(Genbank No.AF401234、NID:AY495694)の種々のプライマーを用いて2つのPCR反応を連続的に行うこと(PCR1の後にPCR2)により、TPS−02遺伝子のプロモーター領域を同定した。約1kbのプロモーター配列を同定するために、AP1プライマー(5’−GGATCCTAATACGACTCACTATAGGGC、配列番号16)および外部プライマー2A04(5’−AGAGGCATATGATGAGTGTATAACTC、配列番号17)を用いてPCR1反応を行った。一定分量のPCR1反応物を用いて、AP2プライマー(5’−CTATAGGGCTCGAGCGGC、配列番号18)および内部プライマー2A02(5’−ACCTCCAAATATTCGACTGAAATTT、配列番号19)を用いてPCR2反応を行った。この方法によって得られた断片の大きさは200〜1000bpの範囲であった。最長配列を単離するために、新規に同定した配列において同じプロセスを繰り返した。例えば、TPS−02b遺伝子に対応する1.7kbのプロモーター配列を同定するために、同じゲノム物質に対してかつ同じPCR条件であるが、外部プライマー2G07(5’−GTCATGTGCTTGAAGTTACCATATC、配列番号20)および内部プライマー2G08(5’−GTTACCATATCAATATTATTTACCAT、配列番号21)を用いてPCR1反応を行った。ゲノムDNA 50ngを用いて、次の条件下:94℃で2分を1サイクル、次いで94℃で30秒、68℃で30秒を35サイクル、および72℃で5分を1サイクルにて、反応混合物25μl中で0.25単位のTaqポリメラーゼ(供給元:Eppendorf)を用いた同一の標準的PCR条件下ですべてのPCR増幅を行った。
【0067】
TPS−02bプロモーター(PromTPS02b)をバイナリーベクターにクローン化するために、5’HindIII部位を有するセンスプライマー3A04(配列5'−CTAAGCTTAATTTATTTTTGTAAAACTTC、配列番号11)および5’BamH1部位を有するアンチセンスプライマー3A03(配列5'−ATGGATCCCTCTTTCTCTCGCCAAACGAGT、配列番号12)を用い、ゲノムDNAにおいて別のPCR増幅を行った。輸送ペプチド(promTPS02b−TP)を含むTPS−02bプロモーターをクローニングするために、センスプライマー3A04を5’HindIII部位を含むアンチセンスプライマー4C01(5'−TGGATCCTGAAGAAAGATCCATTGCTCGA、配列番号13)とともに使用した。TPS−02b 1.7kbプロモーター(PromTPS02b 1.7、配列番号22)をクローニングするために、5’SacI部位を有するセンスプライマー4E07(5’TGAGCTCAAAGAGGTGAAACCTAATCTAGTATGCAA3’、配列番号23)をプライマー3A03とともに用いた。反応物25μl中ゲノムDNA 50ngを用いて、次の条件:94℃で2分を1サイクル、94℃で30秒、57℃で30秒、72℃で1分を35サイクルおよび72℃で5分を1サイクルにて、Taqポリメラーゼ(Eppendorf(登録商標))を用いて増幅を行った。Qiaquickカラム(Qiagen)でPCR産物を精製し、pGEM−Tベクター(Promega(登録商標))にクローニングし、プラスミドのpPromTPS02bおよびpPromTPS02b−TPを個々に生成した。クローンを配列決定し、1kbのプロモーター領域の配列を配列番号1〜4として表した。配列のアライメント(図1)によると、93%以上同一性が示された。1.7kbの配列を用いたアライメントでは、90%を超える配列同一性が示された。
【0068】
2.形質転換ベクターおよびカセットの構築
バイナリーベクターpBI121(AF485783)においてuidA遺伝子の上流に位置するCaMV 35SプロモーターをHindIIIおよびBamH1酵素による消化によって取り除き、キアクイックカラム(Qiagen(登録商標))上のアガロースゲル上で精製した。プラスミドのpPromTPS02bおよびpPromTPS02b−TPのHindIIIおよびBamH1消化の後、PromTPS02bおよびPromTPS02b−TPのプロモーター配列をQiaquickカラム(Qiagen(登録商標))上で精製した。プロモーター配列をCaMV 35Sプロモーターとの置換によってpBI121ベクターのHindIIIおよびBamH1部位に挿入し、それにより、uidA遺伝子との転写融合体を創出し、得られたコンストラクトをpLIBRO−18およびpLIBRO−19と命名した。2つのバイナリーベクターpLIBRO−01および02を、エレクトロポレーションによってアグロバクテリウム株LBA4404に導入した。
【0069】
promTPS02b 1.7プロモーターをベクターpCAMBIA1391Z(NID:AF234312)のEcoR1部位にクローニングし、ベクターpLIBRO−32を生成した。
【0070】
3.遺伝子形質転換
リーフディスク法(ホーシュ(Horsch)ら、1985年)による対応するアグロバクテリウムを用いた遺伝子形質転換により、pLIBRO−01、pLIBRO−02およびpLIBRO−32コンストラクトを有するトランスジェニックタバコ株(ニコチアナ・シルベストリス)を得た。100mg/l カナマイシンサルフェートを用いて形質転換体を選択し、250mg/l カルベニシリンを用いてアグロバクテリウムを除去した。
【0071】
4.uidA遺伝子発現の分析
ジェファーソン(Jefferson)ら(1987年)により記載の組織化学的GUSアッセイにより、uidA遺伝子の発現を検出した。低倍率の立体顕微鏡を使用して、染色を視覚化した。
【0072】
5.毛状突起における特異的発現の証明
pLIBRO−01およびpLIBRO−32コンストラクトを有する数種類のトランスジェニックタバコ株(ニコチアナ・シルベストリス)において、uidA遺伝子の発現を測定した。pLIBRO−01コンストラクトについての結果を図2に示す(図上の説明を参照)。
【0073】
データは、発現が分泌細胞では生じるが、毛状突起の根元(base)を形成する細胞では生じなかいことを示す。さらに、植物の他の器官ではuidA遺伝子の発現は全く検出されなかった。これらの結果は、試験配列が腺状突起の分泌細胞において高度に特異的な様式で異種遺伝子の発現を指揮することを示す。同一の結果がpLIBRO−32コンストラクトを用いて得られた(データは示していない)。
【0074】
6.葉緑体ターゲティングの証明
pLIBRO−02コンストラクトを有する数種類のトランスジェニックタバコ株(ニコチアナ・シルベストリス)において、uidA遺伝子を測定した。
【0075】
カセット番号1については、数種類の形質転換体におけるuidA遺伝子の発現を、腺状突起の分泌細胞においてのみ検出した。さらに顕微鏡下では、GUS活性が葉緑体細胞内に局在化されることを見出し、これはGUSタンパク質が葉緑体区画に正確にターゲティングされたことを示す。これらの結果は、本発明の輸送ペプチド配列が異種タンパク質を葉緑体区画にターゲティングすることを示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
参考文献
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シーベルト P.D.(Siebert P.D.)、チェンチック A.(Chenchick A.)、ケロッグ D.E.(Kellogg D.E.)、ルクヤノフ K.A.(Lukyanov K.A.)、ルクヤノフ S.A.(Lukyanov S.A.)(1995年)Nucl.AcidsRes.23:1087−1088頁
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【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のプロモーター配列のアライメント:長さが約1kbの4種類のTPSプロモーターの配列をAlignXアライメントプログラム(VectorNTI Suite、InformaxInc(登録商標))を用いてアライメントした。特異的な毛状突起の活性に必要なモチーフには灰色の陰影を付けてある。
【図2】X−Glucを用いた組織の組織化学染色後の、異なる器官の毛状突起の腺細胞における顕微鏡(AとB)下および低倍率の立体顕微鏡(BとD)下での画像。青色に染色されたuidAレポーター遺伝子の発現を毛状突起の腺細胞のみにおいて検出する。毛状突起の根元の細胞は染色されない。pLIBRO−01コンストラクトを用いて形質転換された2種類のタバコ株において染色を行った。AおよびC:葉の毛状突起、B:茎の毛状突起、D:萼片の毛状突起。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腺状突起における機能的転写プロモーター活性を有する核酸であって、配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列、少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有するこれらの断片または前記配列の1つと少なくとも80%の同一性を示すこれらの機能的変異体を含むことを特徴とする、核酸。
【請求項2】
配列番号1、2、3、4および22からなる群において選択される配列と少なくとも90%の同一性を示す配列または少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有するこれらの断片を含み、かつ腺状突起に特異的な転写プロモーター活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
配列番号6、7および8からなる群において選択される配列を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の核酸。
【請求項4】
配列番号2の配列または少なくとも100個の連続ヌクレオチドを有するこれらの断片を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の核酸。
【請求項5】
MSQSISPLMFSHFAKFQSNIWRCNTSQLRVIHSSYASFGGRRKERVRRMNRAMDLSS(配列番号10)の配列を含む、植物細胞の葉緑体の輸送ペプチドをコードする核酸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸に作動可能に結合した目的遺伝子を含むことを特徴とする組換え発現カセット。
【請求項7】
目的遺伝子が毛状突起によって分泌される滲出物の組成の修飾をもたらす酵素をコードすることを特徴とする請求項6に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記目的遺伝子が治療用または植物検疫用のタンパク質、酵素、耐性タンパク質、転写活性化因子またはウイルスゲノムをコードすることを特徴とする請求項6または7に記載の発現カセット。
【請求項9】
MSQSISPLMFSHFAKFQSNIWRCNTSQLRVIHSSYASFGGRRKERVRRMNRAMDLSS(配列番号10)の配列を含む、植物細胞の葉緑体の輸送ペプチドをコードする核酸をさらに含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸または請求項6〜9のいずれか一項に記載のカセットを含む発現ベクター。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか一項に記載のカセットまたは請求項10に記載のベクターを含む組換え細胞。
【請求項12】
特にナス科、キク科、アサ科またはシソ科由来の植物細胞であることを特徴とする請求項11に記載の細胞。
【請求項13】
植物においてタンパク質を生成する方法であって、前記タンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載のカセットまたは請求項10に記載のベクターを前記植物に導入する工程を含む、方法。
【請求項14】
植物においてタンパク質を生成する方法であって、前記タンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載のカセットまたは請求項10に記載のベクターを植物細胞または種に導入するステップと、前記細胞または種から植物を再生するステップとを含む、方法。
【請求項15】
組換えタンパク質を発現する植物を作製するための方法であって、前記タンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載のカセットまたは請求項10に記載のベクターを前記植物細胞または種に導入する工程と、前記細胞または種から植物を再生する工程とを含む、方法。
【請求項16】
植物が腺状突起においてタンパク質を分泌し、かつタンパク質が葉表面の滲出物から回収されることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
植物がナス科、キク科、アサ科またはシソ科由来の植物である請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の発現カセットまたは請求項10に記載のベクターを含む植物または種。
【請求項19】
植物の腺状突起において特異的にタンパク質を発現するための請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸の使用。
【請求項20】
MSQSISPLMFSHFAKFQSNIWRCNTSQLRVIHSSYASFGGRRKERVRRMNRAMDLSS(配列番号10)の配列を含む植物細胞の葉緑体の輸送ペプチド。

【図2】
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【公表番号】特表2008−515450(P2008−515450A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536219(P2007−536219)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002530
【国際公開番号】WO2006/040479
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(507123774)
【氏名又は名称原語表記】LIBROPHYT
【Fターム(参考)】