説明

植物体の生産方法

【課題】 植物のシュートからの発根を促進して、その発根率を向上させ、それにより、クローン苗の生産性を向上させる。
【解決手段】 植物の枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚又は苗条原基等を、銀イオン及び抗酸化剤を添加した植物組織培養用培地を用いて培養する。銀イオン源としては、例えば、チオ硫酸銀や硝酸銀を、また、抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸や亜硫酸塩を用いることができる。なお、このとき培養は、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを、9:1〜7:3の割合で含む光照射下で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のシュートを発根させて行う植物体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的に適った形質を持つ均質な植物体(苗)を大量に生産するステップは、農業生産、植林、育種、その他の目的で植物体を産業的に利用しようとする場合に、必ず要求される。このとき植物体の大量生産手段として有用なのが、伝統的な挿し木法や、近年のバイオテクノロジーの発達により生まれた組織培養法である。これらの方法によれば、単に、苗の大量生産ができるばかりではなく、同一の遺伝的性質を有する植物体、即ちクローン苗を大量かつ迅速に生産することができる。
【0003】
挿し木法においては、増殖しようとする植物の個体から枝や茎、場合によっては頂芽、腋芽、葉、子葉又は胚軸等を切取って挿し穂とし、これを挿し床や培地に挿し付けて発根させ植物体を生産する。一方、組織培養法において植物を大量増殖しようとする場合には、増殖しようとする植物の個体から適当な組織を切取って培養し、不定芽、不定胚、苗条原基又はこれらの組織から伸長してくる茎葉を採取して発根させる。つまり、いずれの方法を用いてクローン苗を生産するにしても、発根という過程を経ることとなる。
【0004】
従って、植物組織の発根能は、クローン苗の生産性に大きな影響を与える。特に、これらのクローン苗を産業的に利用しようとする場合、発根能が低い植物種では、これは深刻な問題となる。
【0005】
一方、植物組織からの発根を阻害する主たる要因として、植物組織自身が放出するエチレンの関与が考えられている。そこで、エチレンの発生を抑制するため、前記不定芽等の組織を培養するにあたり、培地中に銀イオンを添加することが試みられている(非特許文献1)。しかしながら、この方法では、植物組織の枯死率は、ある程度減少するものの、発根自体は抑制されたり、遅延したりしてしまうため、植物組織からの発根率に対しては、向上効果が小さいか、むしろ阻害的に働くものであった。
【0006】
【非特許文献1】エドウィン F.ジョージ(Edwin F. George)、“組織培養による植物増殖(PLANT PROPAGATION by TISSUE CULTURE)”英国、1993年、p200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の上記問題点に鑑み、植物組織からの発根を促進して、その発根率を向上させること、それにより、クローン苗、特に発根能が低い植物種に属するクローン苗の生産性を向上させ、このようなクローン苗の大量かつ迅速な生産を可能として、その産業的利用に途を開くこと、を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、銀イオン及び抗酸化剤を含有する培地を用いて植物のシュートを培養すると、そのシュートからの発根が促進され、発根率が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、植物のシュートを、銀イオン及び抗酸化剤を添加した培地を用いて培養し、発根させることを特徴とする、植物体の生産方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物のシュートからの発根が促進され、発根率が向上するので、挿し木法や組織培養法によるクローン苗の生産性が向上する。しかも、このような効果は、発根能が低い植物種で特に顕著である。
【0011】
従って、本発明は、発根能が低い植物種であっても、クローン苗を大量かつ迅速に生産することを可能とし、その産業的利用に途を開くものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、どのような植物に対しても適用することができる。しかし、本発明は、草本植物よりも発根能が劣っている木本植物、例えば、ユーカリ、マツ、サクラ、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタ等に適用した場合に、より効果を発揮する。中でも特に、難発根性として知られるユーカリ、マツ、サクラ等に本発明を適用すれば、大きな効果が得られる。
【0013】
本発明においては、これらの植物から得られるシュートを、所定の培地で培養することにより発根させ、植物体を生産する。ここでシュートとは、枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚又は苗条原基等、発根能を有する組織全般を意味している。また、植物体とは、これらの組織が発根して得られるものを言い、苗やこれが生長した個体も含む意味で用いている。なお、不定芽は、多芽体より効率良く取得することができる。多芽体は、本発明を適用して植物体を生産しようとする植物から、頂芽や腋芽等を切取って、これを公知の条件・公知の方法により組織培養して誘導することができ、不定芽は、こうして誘導された多芽体から伸長してくる、個々の茎葉として得ることができる。
【0014】
例えば、前記の木本植物から、多芽体を形成させて本願発明で使用するシュートを取得するには、概ね次のようにして行う。まず、材料とする植物から頂芽、腋芽等の組織を採取し、採取した組織について、有効塩素量0.5〜4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液又は有効塩素量5〜15%の過酸化水素水溶液に10〜20分間浸漬して表面殺菌を行う。次いで、これを滅菌水で洗浄し、固体培地に挿し付けて芽を開じょさせ、伸長してきた茎葉を同じ組成の培地で継代培養することにより、多芽体を形成させる。ユーカリ属やアカシア属の腋芽を用いる場合には、固体培地は、ショ糖1〜5重量%、植物ホルモンとしてベンジルアデニン(以下、BAと略す。)0.02〜1mg/l、ゲランガム0.2〜0.3重量%若しくは寒天0.5〜1重量%を含有するムラシゲスクーグ(以下、MSと略す。)培地又はこのMS培地の硝酸アンモニウム成分と硝酸カリウム成分とを半減させた改変MS培地を用いるのが好ましい。こうして形成された多芽体からは活発に不定芽が分化し、伸長してくる。多芽体自体は、適当に分割して多芽体形成に用いた培地と同一組成の培地で培養することにより維持し、増殖させることができる。
【0015】
上記シュートを培養し、発根させるための培地(以下、単に発根培地とも記載する。)としては、銀イオン及び抗酸化剤を添加した培地を用いる。銀イオンは、チオ硫酸銀(以下、STSと略す。)や硝酸銀等の銀化合物として培地中に添加すればよい。中でもSTSは、これを培地中に添加してシュートを培養すると、健全な根の伸長が促進されるので、本発明で用いる銀イオン源として好ましい。これは、このSTSに由来する銀イオンが、培地中で、チオ硫酸銀イオンの形態を取り、マイナスに帯電しているためと考えられる。発根培地中に添加する銀イオンの濃度は、0.5μM〜10μMが好ましい。特に好ましくは、0.5μM〜2μMである。発根培地中の銀イオン濃度が0.5μM未満の場合は、その効果をほとんど得ることができず、また、10μMを超える場合は、銀イオンの発根抑制作用による影響が大きくなるため、発根が遅延し、更には、根の形態も不良となるからである。
【0016】
一方、抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸や亜硫酸塩等、公知のものを用いることができる。中でもアスコルビン酸は、培地への残留性が低いので、本発明で用いる抗酸化剤として好ましい。発根培地中に添加する抗酸化剤の濃度は、5〜200mg/lが好ましい。特に好ましくは、5〜20mg/lである。発根培地中の抗酸化剤の濃度が5mg/l未満の場合は、その効果をほとんど得ることができず、また、200mg/lを超える場合は、かえって発根が抑制される傾向が観察され、また、シュートの先枯れ等が発生するおそれもあるからである。
【0017】
本発明で用いる発根培地には、通常、上記成分に加え、植物組織培養用培地の成分として公知の成分、即ち、必須成分として無機成分、その他の成分として、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類及び植物ホルモン等を添加する。
【0018】
この場合において、無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素を含む無機塩、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等を使用することができる。これら無機塩は、発根培地中の濃度が、それぞれ約0.1μM〜約100mMとなるよう添加することが好ましい。
【0019】
炭素源としては、ショ糖等の炭水化物とその誘導体、脂肪酸等の有機酸及び/又はエタノール等の1級アルコールなどを使用することができる。これらは、発根培地中に約1〜100g/lとなるよう添加することが好ましい。もっとも、炭酸ガスも炭素源として使用することができる。この場合には、培地中にショ糖等の有機化合物を添加する必要はなく、炭酸ガスを培養環境中に、約300ppm以上、好ましくは1000ppm以上となるように供給するだけでよい。ショ糖等の有機化合物は微生物の炭素源ともなるので、これらを添加した培地を用いる場合には、無菌環境下で培養を行う必要があるが、培地にこれらの有機化合物を添加せず、炭酸ガスを炭素源として使用することで、非無菌環境下での培養が可能となる。
【0020】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1),ピリドキシン(ビタミンB4),ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及び/又はリボフラビン(ビタミンB2)等を使用することができる。これらはそれぞれ、発根培地中に約0.1〜150mg/lとなるよう添加することが好ましい。アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及び/又はリジン等を使用することができ、これらはそれぞれ、発根培地中に約0〜1000mg/lとなるよう添加することが好ましい。
【0021】
また、植物ホルモン類としては、例えば、オーキシン類及び/又はサイトカイニン類を使用することができる。オーキシン類としては、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p―クロロフェノキシ酢酸、2,4―ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)及びこれらの誘導体等が、サイトカイニン類としてはベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン及びこれらの誘導体等が汎用される。これらの植物ホルモン類は、それぞれ、発根培地中に約0.01〜10mg/lとなるよう添加することが好ましい。
【0022】
なお、本発明においては、無機成分、ビタミン類及びアミノ酸類を所定の組成で含有する、植物組織培養用培地として公知の培地に、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、植物ホルモン類を適宜添加等して、上記組成を有する発根培地として用いてもよい。かかる植物組織培養用培地としては、例えば、MS培地、リンスマイヤースクーグ培地、ホワイト培地、ガンボーグのB−5培地、ニッチニッチ培地等を挙げることができる。中でも、MS培地及びガンボーグのB5培−地は、本発明の発根培地として好ましい。
【0023】
上記発根培地は、液体培地のままで使用することも、寒天又はゲランガム等の固化剤で固化させて、固体培地として使用することもできる。液体培地として使用する場合は、発泡フェノール樹脂、ロックウール等からなる多孔性支持体を、この発根培地で湿潤させたものにシュートの基部を挿し付けて培養し、固体培地として使用する場合は、例えば、上記発根培地に0.5〜1重量%の寒天、又は、0.2〜0.3重量%のゲランガムを加えて固化させたものにシュートの基部を挿し付けて培養すればよい。いずれの場合でも、通常は約2〜5週間で、シュートからの発根が観察されるようになる。
【0024】
さらに、上記発根培地を用いたシュートの培養にあたっては、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを9:1〜7:3、好ましくは8:2の割合で含む光の照射下で行うことが好ましい。かかる波長成分を含む光を照射して培養を行うことで、シュートからの発根がより促進されるからである。また、培養温度としては、23〜28℃程度が好ましい。
【0025】
以上のようにして、シュートからの発根苗が得られた後は、ある程度の期間、そのまま培養を続け、根を充実させてから、これを育苗容器又は苗畑等に移植して育成し、植林等の所定の目的に使用可能な苗とすることができる。この間の用土や、苗を育成する際の温度・光強度等の条件は、その植物に適するように適宜設定すればよい。なお、不定芽や苗条原基等、培養組織由来のシュートを発根させた場合には、通常、育苗容器等への移植の前に、順化の過程を経る必要がある。
【0026】
[作用]
前記したように、植物培養用の培地に添加された銀イオンは、エチレンの発生を抑制して培養組織の枯死率を減少させるものの、発根に関しては負の方向に働く要素となるため、その培養組織の発根率に対する向上効果は期待できず、植物の種や系統によっては、むしろ阻害的に働くことすらあった。
【0027】
ところが、本発明者らは、この銀イオンを抗酸化剤と共に培地に添加し、この培地を用いて植物のシュートを培養した場合には、シュートからの発根が著しく促進されて発根率が向上し、通常であれば、培地中に添加された銀イオンの働きにより、発根率の減少が予想される植物種・系統においても、銀イオン添加培地のみならず、銀イオン無添加の培地と比較して、シュートからの発根率が向上することを見出した。
【0028】
培地中に添加された抗酸化剤は、この培地に挿し付けられたシュートの基部に働き、そこにつけられた切り口や傷等の酸化を抑制することで、発根を促進すると考えられるが、それだけでは、銀イオンによる阻害作用を打ち消し、これを凌駕するような上記効果は説明できない。おそらくは、銀イオンによるエチレン発生抑制効果と、抗酸化剤によるシュート基部の酸化抑制効果があいまって、かかる効果を奏しているものと考えられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
[実施例1]
ユーカリプタス・グロブラス(Eucalyptus globulus、以下、単にE.グロブラスと略記する。)系統1より、特開平8−228621に示す方法を用いて誘導した多芽体から、2〜5cm長さに伸長した不定芽を切取り、その基部を、銀イオン源としてSTS(AgS)2μM(銀イオンとしても2μM)、抗酸化剤としてアスコルビン酸20mg/l及び植物ホルモンとしてIBA2mg/lを添加した、4倍希釈MS培地にて湿潤した発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製『オアシス』)に挿し付け、炭酸ガス濃度1000ppm、温度25℃、湿度60%に調節した培養室で、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを8.2:1.8の割合で含む、光合成有効光量子束密度51.3μmol/m/Sの赤色光照射下で培養を行った。なお、このとき培養容器としては、最大寸法が縦11.5cm×横11.5cm×高さ10.0cmの、胴部がやや張出した形状の立方体のものを用いた。この培養容器の頂面には、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製膜(ミリポア社製『ミリシール』)を貼り付けた円形開口部2個(各開口部の直径は1cm)が設けられている。不定芽は、この培養容器1個当たり25本を挿し付けた。
【0031】
結果を図1、図2及び表1に示す。これらの図表より明らかなように、本例においては、培養開始後13日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は60%を示した。一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で0%であった。
【0032】
[比較例1]
培地中にSTS及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0033】
結果を図1及び図2に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後14日目より、不定芽からの発根が観察され始めたが、培養開始後3週間目の時点で、その発根率はわずか16%、一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で64%を示した。
【0034】
[比較例2]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0035】
結果を図1及び図2に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、不定芽からの発根が観察され始めたのが培養開始後15日目であり、培養開始後3週間目の時点での発根率も48%に留まった。一方、枯死率は、実施例1と同様、培養開始から3週間後の時点でも0%であった。
【0036】
[実施例2]
不定芽の培養を、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを2.9:7.1の割合で含む、光合成有効光量子束密度68.9μmol/m/Sの白色光照射下で行った以外は、実施例1と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0037】
培養3週間後の結果を表1に示す。表1より明らかなように、本例においては、培養開始後3週間目の時点で、不定芽の発根率は32%を示した。一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で0%であった。
【0038】
[比較例3]
培地中にSTS及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0039】
培養3週間後の結果を表1に示す。表1より明らかなように、本例においては、培養開始から3週間後の時点で不定芽はすべて枯死し、その枯死率は100%であった。
【0040】
[比較例4]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0041】
培養3週間後の結果を表1に示す。表1より明らかなように、本例においては、培養開始後3週間目の時点での不定芽の発根率は24%に留まった。一方、枯死率は、実施例2と同様、培養開始から3週間後の時点でも0%であった。
【0042】
【表1】

【0043】
[実施例3]
E.グロブラス系統2に由来する不定芽を用い、また、培地中に、銀イオン源として、STSの代わりに硝酸銀(AgNO)5μM(銀イオンとしても5μM)を添加した以外は、実施例1と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0044】
結果を図3及び図4に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は100%を示した。一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で0%であった。
【0045】
[比較例5]
培地中に硝酸銀及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0046】
結果を図3及び図4に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は80%を示したが、このとき、枯死率も12%を示した。
【0047】
[比較例6]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0048】
結果を図3及び図4に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、不定芽からの発根が観察され始めたのが培養開始後15日目であり、培養開始後3週間目の時点での発根率も64%に留まった。これは、比較例5の場合よりも低い発根率である。一方、枯死率は、実施例3と同様、培養開始から3週間後の時点でも0%であった。
【0049】
[実施例4]
E.グロブラス系統3に由来する不定芽を用いた以外は、実施例1と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0050】
結果を図5及び図6に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は60%を示した。一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で12%であった。
【0051】
[比較例7]
培地中にSTS及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例4と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0052】
結果を図5及び図6に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始めたが、培養開始後3週間目の時点で、その発根率はわずか12%、一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で88%を示した。
【0053】
[比較例8]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例4と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0054】
結果を図5及び図6に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察されたが、培養開始後3週間目の時点での発根率は20%に留まり、枯死率も、やはり培養開始から3週間後の時点で48%を示した。
【0055】
[実施例5]
ユーカリプタス・シトリオドーラ(Eucalyptus citriodora、以下、単にE.シトリオドーラと略記する。)に由来する不定芽を用い、また、培地中に、銀イオン源として、STSの代わりに硝酸銀5μM(銀イオンとしても5μM)を添加した以外は、実施例1と同様にして不定芽を培養した。
【0056】
結果を図7及び図8に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は88%を示した。一方、枯死率は、やはり培養開始から3週間後の時点で0%であった。
【0057】
[比較例9]
培地中に硝酸銀及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例5と同様にして、E.シトリオドーラの不定芽を培養した。
【0058】
結果を図7及び図8に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始め、培養開始後3週間目の時点で、その発根率は64%を示したが、このとき、枯死率も12%を示した。
【0059】
[比較例10]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例5と同様にして、E.シトリオドーラの不定芽を培養した。
【0060】
結果を図7及び図8に示す。これらの図より明らかなように、本例においては、培養開始後12日目より、不定芽からの発根が観察され始めたが、培養開始後3週間目の時点での発根率は48%に留まった。これは、比較例9の場合よりも低い発根率である。一方、枯死率は、実施例5と同様、培養開始から3週間後の時点でも0%であった。
【0061】
[実施例6]
バラ科に属するソメイヨシノ、リンゴ、ユスラウメ、及び、ノウゼンカズラ科に属するジャカランタの当年枝を採取し、それぞれ2〜5cm長さに調製した後、その基部を、銀イオン源としてSTS2μM(銀イオンとしても2μM)、抗酸化剤としてアスコルビン酸10mg/l及び植物ホルモンとしてIBA2mg/lを添加した、4倍希釈MS培地にて湿潤した発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製『オアシス』)に挿し付け、炭酸ガス濃度1000ppm、温度25℃、湿度60%に調節した培養室で、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを8.2:1.8の割合で含む、光合成有効光量子束密度51.3μmol/m/Sの赤色光照射下で培養を行った。なお、このとき培養容器としては、実施例1で用いたのと同様のものを用いた。また、不定芽は、この培養容器1個当り25本挿し付けた。
【0062】
培養3週間後の結果を表2に示す。表2より明らかなように、本例においては、培養開始後3週間目の時点で、ソメイヨシノで92%、リンゴで80%、ユスラウメで60%、ジャカランタで76%の発根率を示した。一方、枯死率は、ソメイヨシノで0%、リンゴで4%、ユスラウメで8%、ジャカランタで4%であった。
【0063】
[比較例11]
培地中にSTS及びアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例6と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0064】
培養3週間後の結果を表2に示す。表2より明らかなように、本例においては、培養開始後3週間目の時点で、ソメイヨシノで60%、リンゴで48%、ユスラウメで32%、ジャカランタで52%の発根率を示した。一方、枯死率は、ソメイヨシノで20%、リンゴで16%、ユスラウメで40%、ジャカランタで28%であった。
【0065】
[比較例12]
培地中にアスコルビン酸を添加しなかった以外は、実施例6と同様にして、E.グロブラスの不定芽を培養した。
【0066】
培養3週間後の結果を表2に示す。表2より明らかなように、本例においては、培養開始後3週間目の時点で、ソメイヨシノで80%、リンゴで60%、ユスラウメで52%、ジャカランタで64%の発根率を示した。一方、枯死率は、ソメイヨシノで8%、リンゴで4%、ユスラウメで16%、ジャカランタで4%であった。
【0067】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】E.グロブラス系統1の不定芽について、発根率の経時的変化を示すグラフである。
【図2】E.グロブラス系統1の不定芽について、培養3週間後の発根率を示すグラフである。
【図3】E.グロブラス系統2の不定芽について、発根率の経時的変化を示すグラフである。
【図4】E.グロブラス系統2の不定芽について、培養3週間後の発根率を示すグラフである。
【図5】E.グロブラス系統3の不定芽について、発根率の経時的変化を示すグラフである。
【図6】E.グロブラス系統3の不定芽について、培養3週間後の発根率を示すグラフである。
【図7】E.シトリオドーラの不定芽について、発根率の経時的変化を示すグラフである。
【図8】E.シトリオドーラの不定芽について、培養3週間後の発根率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のシュートを、銀イオン及び抗酸化剤を添加した培地を用いて培養し、発根させることを特徴とする、植物体の生産方法。
【請求項2】
植物のシュートを、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを、9:1〜7:3の割合で含む光照射下で培養し、発根させることを特徴とする、請求項1に記載の植物体の生産方法。
【請求項3】
植物のシュートとして、木本植物のシュートを用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の植物体の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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