植物保水用担体
【課題】ポリアクリル酸塩系ハイドロゲルと同程度の保水性を有し、しかも発根阻害ないしは根の伸長阻害を実質的に生じない植物保水用担体を得る。
【解決手段】カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上である植物保水用担体を植物保水用担体。該保水用担体を用いた場合、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥ることがなく、植物に対して充分な水分を供給することが可能となる。
【解決手段】カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上である植物保水用担体を植物保水用担体。該保水用担体を用いた場合、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥ることがなく、植物に対して充分な水分を供給することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の育成に際して該植物体を支持ないし担持するとともに、該植物体への水の供給源としての機能をも発揮することが可能な植物保水用担体に関し、より具体的には、流体播種、圃場栽培、露地栽培、緑化工などに保水用担体として使用した際に、植物生長を阻害することなく植物に水を供給することが可能な植物保水用担体に関する。
【0002】
本発明の植物保水用担体は、植物体の育成に際して、他の植物体支持用担体(例えば、土壌)と組み合わせて、該「他の植物体支持用担体」の保水性を向上させる(すなわち、保水剤として用いる)ことも可能である。
【背景技術】
【0003】
紙おむつ、生理用品などに大量に使用されてきたポリカルボン酸系高吸水性樹脂、特にポリアクリル酸系重合体がその低価格性および優れた保水性のために農業の分野でも使用されるようになってきた。
【0004】
例えば、該ポリアクリル酸系重合体のハイドロゲルは、その保水性を利用して流体播種用の担体として、あるいは緑化工、節水栽培、砂地栽培の保水用担体として利用されている。
【0005】
しかしながら、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルの場合には、適量を越えると植物の生長に悪影響、特に著しい発根および根の伸長阻害が生じることが明らかになってきた(川島和夫ら、高吸水性高分子物質の作物の初期生長へ及ぼす影響、砂丘研究、31(1)、1−8、1984;非特許文献1)。
【0006】
特に、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルを組織培養用担体、流体播種用担体、緑化工用に使用する場合には植物の幼苗、種子などが高濃度のポリアクリル酸系ハイドロゲルと直接、接触するために著しい発根および根の伸長阻害が生じ使用が大幅に限定されている。また、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルを圃場あるいは露地用の保水用担体として使用した場合でも、保水用担体効果を高めるために根の近辺の濃度を増大すると根の伸長が阻害されることが明らかになっている。
【0007】
上記したポリアクリル酸樹脂からなるハイドロゲルが、植物の生長を著しく阻害した例としては、架橋したポリアクリル酸ナトリウムに蒸留水を吸収させてハイドロゲルを作成し、該ハイドロゲルとキュウリ、インゲンマメの種子を各時間(3、6、9、12、24、48時間)接触させた後、それぞれの種子の発芽および発根状態を観察した実験が報告されている(川島和夫ら、高吸水性高分子物質の作物の初期生長へ及ぼす影響、砂丘研究、31(1)、1−8、1984;非特許文献1)。
【0008】
このような実験の結果、キュウリの種子の場合は、前記ハイドロゲルと36〜48時間接触させると根の伸長が著しく抑制され、インゲンマメの場合も、全く同様に根の伸長阻害が認められたことが報告されている。更には、根のα−ナフチルアミン酸化能も、前記ハイドロゲルと5時間以上、接触させると顕著に低下したとされている。このような植物の生長阻害および機能障害は、この報告においては、該ハイドロゲル中の水分を植物が有効に使用出来ないことによるものであると推定されている。
【0009】
また、ポリアクリル酸ナトリウム架橋物に水を吸収させることによって作成したハイドロゲル上にイネの種子を播種し、発根過程を観察したところ著しい発根障害が認められたことも報告されている(杉村順夫ら、緑化工用資材としての高吸水性ポリマーの利用、緑化工技術、9(2)、11−15、1983)。しかしながら、該ハイドロゲルを水道水で透析処理すると発根障害は認められなかったが、このように蒸留水で透析した場合においても、根の生長回復は認められなかったとされている。これは、この報告においては、水道水のような弱電解質溶液で該ハイドロゲルを水洗または透析処理すると、ハイドロゲルへの水吸引力が弱められ、ゲルから根毛への水の移動が容易になり発根障害が解決すると推定されている。
【0010】
更には、架橋ポリアクリル酸ナトリウムハイドロゲルを混合した土壌中でのダイズの根の伸長程度が、ポリビニルアルコール系ハイドロゲルと比較して顕著に阻害された例も報告されている(中西友子、バイオサイエンスとインダストリー、52(8)、623−624、1994)。これは、該文献においては、ポリアクリル酸ナトリウムハイドロゲル中の水は植物に利用されにくいことによるものと推定されている。
【0011】
上述したように、従来においては、架橋ポリアクリル酸のアルカリ金属塩からなるハイドロゲルの植物の生長が阻害されるのは、該ハイドロゲル中の水が植物に有効利用されないためと考えられてきた。
【0012】
【非特許文献1】砂丘研究、31(1)、1−8(1984)
【非特許文献2】緑化工技術、9(2)、11−15(1983)
【非特許文献3】バイオサイエンスとインダストリー、52(8)、623−624、1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記した従来のハイドロゲル保水用担体の問題点を解消した植物保水用担体を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルと同程度の保水性を有し、しかも発根阻害ないしは根の伸長阻害を実質的に生じない植物保水用担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意研究の結果、該ハイドロゲルの根の伸長の阻害が、単に該ハイドロゲル中の水の有効利用性のみに基づくとするには、該ハイドロゲルの影響が過大であることに着目するに至った。
【0016】
本発明は上記知見に基づき更に研究を進めた結果、ハイドロゲル中のカルシウム・イオン吸着能が、該ハイドロゲルに接触する植物体の発根阻害ないしは根の伸長阻害に重大な影響を与えることを見出した。
【0017】
本発明の植物保水用担体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とするものである。ここに、「保水用担体」とは、特に断らない限り「乾燥状態」のものをいう。もちろん、実際の市場等での流通時には、該担体の一部または全部が、その内部に水を保持してなる「ハイドロゲル」
【0018】
状態であってもよい(以下の記載においても、同様とする)。
本発明者は上記の知見に基づき更に研究を進めた結果、上記した「カルシウムイオン吸収量」は、ハイドロゲル形成性高分子の高分子鎖に結合されたカルボキシル基の含有量に大きく影響される場合があることを見出した。
【0019】
本発明の植物保水用担体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明者の実験によれば、上記「ハイドロゲル形成性高分子」が、更にカルボキシル基のカルシウム塩を含有することが、好ましい一態様であることが見出されている。
【0021】
本発明者らは、後述するような実験結果に基づき、従来の「架橋ポリアクリル酸のアルカリ金属塩」からなるハイドロゲルが、カルシウムイオンを中心とした重金属イオンを選択的に吸着するという事実を見出した。換言すれば、本発明者の実験によれば、従来の架橋ポリアクリル酸ハイドロゲルが、農業用用水(井戸水、水道水、河川水、湖水など)中の主としてカルシウムイオンを吸着し、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥るか、あるいは植物体内の主としてカルシウムイオンを該ハイドロゲルが根から直接吸収してしまう結果、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥るものと推定される。
【0022】
植物によるカルシウムイオンの吸収は物理化学的に行われ、外液の濃度が低い場合は吸収されないばかりか、しばしば植物体内より体外に溶出してしまう。このようにして生ずるカルシウムイオン欠乏症では、細胞膜の構造が破壊され、細胞分裂をはじめとして多くの膜構造依存性の重要な機能が停止または遅滞し、外観的には根の伸長が顕著に阻害されるとされている(このようなカルシウムイオン欠乏症の詳細については、例えば、熊沢喜久雄編、植物栄養学大要、p118、(株)養賢堂、1974、を参照することができる)。
【0023】
本発明者らが、後述する「実施例」の表1中に記載したように、種々のカルシウムイオン吸収能を有するハイドロゲルを作製し、種子の発根テストを行ったところ、カルシウムイオン吸収量が保水用担体の乾燥重量1gあたり50mg以上になると、根および茎の著しい生長阻害が認められた。従って、本発明者の知見によれば、従来の架橋ポリアクリル酸の金属塩からなるハイドロゲルの顕著な生長阻害は、ハイドロゲル中の水の性質によるものではなく、該ハイドロゲルが植物体からカルシウムイオンを吸収した結果、植物体にカルシウムイオン欠乏症を引き起していたためと推定される。
【0024】
本発明は、例えば、以下の態様を含む。
【0025】
[1] カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする植物保水用担体。
【0026】
[2] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolの高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0027】
[3] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、該高分子の1000倍量の蒸留水で抽出した液中に残存する全有機物が、化学的酸素要求量(COD)の値として15ppm以下の高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0028】
[4] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、該高分子の乾燥重量1g中に残存する揮発性カルボン酸およびその塩の合計量0.5mmol以下の高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0029】
[5] 高分子鎖に結合されたカルボキシル基を乾燥重量1gあたり3mmol以上有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする[1]記載の植物保水用担体。
【0030】
[6] 前記ハイドロゲル形成性高分子がポリアクリル酸系重合体である[5]記載の植物保水用担体。
【0031】
[7] 更にカルボキシル基のカルシウム塩を含む、[5]または[6]記載の植物保水用担体。
【0032】
[8] 前記ハイドロゲル形成性高分子の表面近傍の架橋率が、その内部の架橋率より高い[1]記載の植物保水用担体。
【0033】
[9] 弱酸性のハイドロゲル形成性高分子からなることを特徴とする植物保水用担体。
【0034】
[10] カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上である[9]記載の植物保水用担体。
【0035】
[11] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、0℃以上70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子である[1]または[9]記載の植物保水用担体。
【0036】
[12] 上記保水用担体と、多孔質素材を少なくとも含むことを特徴とする植物保水用担体。
【0037】
[13] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体に、栄養素または/および植物生長調節物質が保持されている植物育成用担体。
【0038】
[14] 内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、[1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用容器。
【0039】
[15] 前記植物保水用担体が、容器の内部に固定して保持されてなる[14]記載の植物体育成用容器。
【0040】
[16] シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、[1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用シート。
【0041】
[17] 前記基材の植物保水用担体が配置された面と反対側の面上に、粘着剤ないし接着剤の層が配置されてなる[16]記載の植物体育成用シート。
【0042】
[18] 1つ以上のセルを形成可能なパーティション形状を有する[16]記載の植物体育成用シート。
【0043】
[19] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13]に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を培養することを特徴とする植物培養方法。
【0044】
[20] 前記植物体の培養中に、前記支持体のpF値を徐々に上昇させることにより該植物体の順化を促進しつつ、該植物体を培養することを特徴とする[19]記載の植物培養方法。
【0045】
[21] [1]、9、11または12のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13]に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【0046】
[22] 前記栽培を、下部が閉鎖された容器内で行う[21]記載の植物体栽培方法。
【0047】
[23] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体と、幼植物とを液体中に分散させつつ、該幼植物の液体培養を行うことを特徴とする幼植物の液体培養方法。
【0048】
[24] [2]記載の植物保水用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を育成させ、カルシウムイオンを前記ハイドロゲル状態の支持体に添加し、該支持体を収縮させて植物体から分離することを特徴とする植物体育成方法。
【0049】
[25] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13に]記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により支持させた植物体を、緑化すべき表面に付着させることを特徴とする緑化工方法。
【0050】
[26] 前記緑化すべき表面が、砂漠の表面、法面、または壁面のいずれかである[25]記載の緑化工方法。
【発明の効果】
【0051】
上述したように、本発明によれば、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体が提供される。
【0052】
更に、本発明によれば、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体が提供される。
【0053】
本発明の植物保水用担体を用いた場合には、該保水用担体のカルシウムイオン吸収量が少ないため、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥ることがなく、またその吸水倍率も充分大きいため、植物に対して充分な水分を供給することができる。
【0054】
更に、本発明によれば、内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とする植物体育成用容器が提供される。
【0055】
更に、本発明によれば、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とする植物体育成用シートが提供される。
【0056】
本発明の植物体育成用容器ないしシートを用いた場合には、該容器ないしシートの植物体側に配置されてなる架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子の特性(水分あるいは栄養素の貯蔵能力、ないしその温度依存性)に基づき、植物体育成用容器の体積を著しく小さくすることができ、根の発生効率の向上、育成面積の縮少、育成用容器の材料量の低減、運搬コストの低減が可能となる。更には、水管理等の省力化による大幅なコスト低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準とする。
【0058】
(保水用担体)
本発明の保水用担体は、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含む。本発明において、上記した「カルシウムイオン吸収量」および「イオン交換水中での吸水倍率」は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0059】
(カルシウムイオン吸収量の測定)
1gの乾燥保水用担体を、カルシウムイオン濃度200mg/L(リットル)
の塩化カルシウム水溶液1Lに添加し、時々攪拌しながら室温(25℃)で2日間(48時間)恒温槽中で放置して、上記の保水用担体を膨潤させつつカルシウムイオンを吸収させる。膨潤した保水用担体を分離し、残存する上清(上記塩化カルシウム水溶液の過剰分)中のカルシウムイオン濃度を原子吸光分析により定量する(Amg/L)。このようにして測定したカルシウムイオン濃度の定量値(A)に基づき、保水用担体1gあたりのカルシウムイオン吸収量は、次式により求められる。保水用担体と上清の分離に際し、未架橋の水溶性高分子が上清中に溶解している可能性があるため、必要に応じて、分画分子量1,000〜3,000程度の限外濾過膜を用いた限外濾過による分離を行うことが好ましい。
【0060】
保水用担体1gあたりのカルシウムイオン吸収量(mg/g)=200−A
【0061】
上記方法により測定された「カルシウムイオン吸収量」が保水用担体の乾燥重量1gあたり50mg以上では、後述する実施例に示すように、該保水用担体に接触する植物体に「カルシウムイオン欠乏症」が生じ易くなる。この「カルシウムイオン吸収量」は、45mg以下、更には40mg以下であることが好ましい。
【0062】
(イオン交換水中の吸水倍率の測定)
乾燥保水用担体の一定量(W1g)を秤取り、過剰量(例えば、前記保水用担体の予想吸水量の1.5倍以上の重量)のイオン交換水(電気伝導度5μS/cm以下)に浸漬し、室温(25℃)で2日間(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体を膨潤させる。余剰の水を濾過により除去した後、吸水膨潤した保水用担体の重量(W2g)を測定し、次式により吸水倍率を求める。
【0063】
吸水倍率=(W2−W1)/W1 上記した方法により測定された「吸水倍率」が100倍未満では、保水用担体の一定量を用いた場合に、植物に充分な水分を供給することが困難となる。この「吸水倍率」は、140倍以上、更には160倍以上であることが好ましい。
【0064】
農業用用水のように比較的塩濃度が低い場合には、ハイドロゲルの吸水倍率を最も有効に向上させる手段としては、ゲル中に解離性のイオン基を導入して、分子鎖を広げると同時に、内部浸透圧を高めることが挙げられる。
【0065】
(ハイドロゲル形成性高分子)
本発明の保水用担体を構成する「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を有し、該構造に基づき(その内部に)水を保持することにより、ハイドロゲルを形成可能な性質を有する高分子をいう。また、「ハイドロゲル」とは、高分子からなる架橋ないし網目構造と、該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水とを少なくとも含むゲルをいう。
【0066】
架橋ないし網目構造中に保持された「分散液体」は、水を主要成分として含む液体である限り、特に制限されない。より具体的には例えば、分散液体は、水自体であってもよく、また、水溶液、および/又は含水液体(例えば、水と一価ないし多価アルコール等の混合液体)のいずれであってもよい。
【0067】
本発明において、上記ハイドロゲル形成性高分子としては、水溶性または親水性高分子化合物を架橋して得られたものを用いることが好ましい。このような架橋された高分子は、水溶液中で吸水し、膨潤はするが溶解しないという性質を有している。上記した水溶性または親水性の高分子化合物の種類、および/又は架橋密度(ないし架橋率)を変化させることによって、吸水率を変化させることが可能である。
【0068】
上記親水性高分子化合物の水溶液が70℃以下の曇点を有する場合、0℃以上70℃以下の温度領域で吸水倍率が温度上昇と共に低下し、且つ該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するするハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0069】
(水溶性または親水性高分子化合物)
本発明において保水用担体を構成するハイドロゲルを与えるべき水溶性または親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリ−N−n−プロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、ポリN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩などがあげられる。
【0070】
(架橋)
上記したような高分子化合物に架橋構造を付与ないし導入する方法としては、該高分子化合物を与えるべき単量体を重合する際に架橋構造を導入する方法と、該単量体の重合終了後に架橋構造を導入する方法とが挙げられるが、本発明においては、これらのいずれの方法も使用可能である。
【0071】
前者の(単量体重合時の架橋導入)方法は、通常、二官能性単量体(あるいは3以上の官能基を有する単量体)を共重合することにより実施可能である。例えば、N,N´−メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチルジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の二官能性単量体が好適に使用できる。
【0072】
後者の(単量体重合終了後の架橋導入)方法は、通常、光、電子線、γ線照射等により分子間に架橋を形成することにより実施可能である。
【0073】
また、このような後者の方法は、例えば、高分子化合物中の官能基(例えばアミノ基)と結合しうる官能基(例えば、イソシアネート基)を分子内に複数個有する多官能性分子を架橋剤として用いて、該高分子化合物を架橋させることによっても実施可能である。
【0074】
本発明におけるハイドロゲル形成性高分子の吸水率は、上記の架橋構造、特に架橋密度に依存し、一般に架橋密度が低い程、吸水率が大きくなる傾向がある。
【0075】
このような「架橋密度」は前者の方法においては、例えば、二官能性単量体の共重合比を変えることで、後者の方法においては、例えば、光、電子線、γ線等の照射量を変えることで、任意に所望の程度に制御することが可能である。
【0076】
本発明においては、架橋密度は、全単量体に対する分岐点のモル比で、約0.02mol%〜約10mol%、更には約0.05mol〜約4mol%の範囲にあることが好ましい。前者の(重合時の架橋導入)方法により架橋構造を導入する場合、二官能性単量体の全単量体(該二官能性単量体自体をも含む)に対する共重合重量比は、約0.03wt.%〜約3wt.%(更には約0.05wt.%〜約1.5wt.%)の範囲であることが好ましい。
【0077】
本発明において架橋密度が約10mol%を越える場合には、本発明のハイドロゲル形成性高分子の吸水倍率が小さくなるために、本発明のハイドロゲル形成性高分子の保水用担体としての効果が小さくなる。一方、架橋密度が約0.02mol%未満の場合には、該ハイドロゲル形成性高分子の機械的強度が弱くなり、取扱いが困難になる。
【0078】
上述したような架橋密度(全単量体に対する分岐点のモル比)は、例えば、13C−NMR(核磁気共鳴吸収)測定、IR(赤外吸収スペクトル)測定、または元素分析によって定量することが可能である。
【0079】
更に、本発明の保水用担体を構成するハイドロゲル形成性高分子において、表面近傍の架橋密度をその内部の架橋密度よりも高くする(いわゆる「表面架橋」を導入する)ことによって、該ハイドロゲル形成性高分子における高い吸水倍率と高い機械的強度とのより良好なバランスを得ることもできる。このような態様においては、表面近傍の比較的架橋密度が高い部分が、主に、高い機械的強度(および担体粒子相互間の非粘着性の向上)に寄与し、他方、内部の比較的架橋密度が低い部分が、主に、高い吸水倍率に寄与することができる。これにより、吸水倍率を実質的に低下させることなく、良好な機械的強度および粒子相互間の良好な非粘着性を実現することが容易となる。
【0080】
上記した態様における表面近傍の最も高い架橋密度Dsと、粒子内部の最も低い架槁密度Diとの比(Ds/Di)は、吸水倍率と機械的強度とのバランスの点からは、2〜5程度、更には5〜10程度(特に10〜100程度)であることが好ましい。
【0081】
上記の表面近傍の架橋密度と粒子内部の架橋密度の測定は、例えばX線電子分光法ESCA(XPS)、電子プローブ微量分析法EPMA、減衰全反射法ATR、二次イオン質量分析法SIMS(飛行時間型SIMS(TOF−SIMS)等)、等の局所分析法によって架橋剤の存在比を表面近傍と粒子内部それぞれについて求めることによって行うことができる。
【0082】
本発明の植物保水用担体において、該担体を構成するハイドロゲル形成性高分子が高い機械的強度を有する場合、個々の担体粒子間に適当な空隙を保持することが容易となり、該空隙の存在によって植物の根への酸素供給性を更に向上させることが可能となる。
【0083】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子表面架橋を導入する方法は特に制限されず、例えば、従来公知の種々の方法(ないしは該方法の2以上の組み合わせ)が利用可能である。
【0084】
特に、本発明のハイドロゲル形成性高分子が、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2個以上有する架橋剤を用いて、該高分子の微粒子の表面近傍を架槁する方法が好適に用いられる。そのような架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどに代表されるエポキシ化合物(特開昭57-44627号)、グリセリンなどに代表される多価アルコール(特開昭58-180223号)、多価アミン化合物、多価アジリジン化合物もしくは多価イソシアネート化合物(特開昭59-189103号)、アミノ基を有する多価エポキシ化合物(特開昭63-195205号)、エピハロヒドリンとアンモニア、エチレンジアミンなどの低分子1級アミンとの反応物(特開平2-248404号)、多価アジチジニウム塩基化合物(特開平6-287220号)などが挙げられる。
【0085】
上記架橋剤の分子量が小さい場合には該架橋剤がハイドロゲル形成性高分子の内部に浸透し易く、表面近傍のみの架橋に止まらずに架橋が内部まで達する傾向が強くなる場合がある。このような観点からは、上記架橋剤の分子量は重量平均分子量で1,000以上であることが好ましく、10,000〜100,000であることが更に好ましい。
【0086】
ハイドロゲル形成性高分子の表面を上記架橋剤で架橋する手法としては、水を含有したアルコール類、ケトン類、エーテル類等の多量の低沸点有機溶媒中に、表面架橋すべきハイドロゲル形成性高分子を分散させ、上記の架橋剤を加えて架橋する方法(特開昭57−44627号);含水率を10〜40wt%に調節したハイドロゲル形成性高分子の含水物に架橋剤を添加して架橋する方法(特開昭59-62665号);無機質粉末の存在下に、架橋剤および水をハイドロゲル形成性高分子に吸収させ、次いで撹拌下に加熱して、架橋反応と水の除去とを同時に行う方法(特開昭60-163956号);ハイドロゲル形成性高分子1重量部に対し、水1.5〜5.0重量部および不活性な無機質粉末の存在下、沸点100℃以上の多量の親水性不活性溶剤中に分散させて架橋する方法(特開昭60-147475号);ハイドロゲル形成性高分子を1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、有機酸の1価塩およびラクタム類のいずれかを含有する水溶液および架橋剤で処理し、且つ反応させる方法(特開平7-33818号)などを用いることができる。
【0087】
(高分子中の有機物残存量)
本発明の保水用担体により育成すべき植物体への悪影響(例えば、生長の抑制、根端壊死、葉枯れ等)を抑制する点からは、上記した「ハイドロゲル形成性高分子」中に残存する有機物は、可能な限り少量であることが好ましい。より具体的には、本発明に用いるハイドロゲル形成性高分子から溶出しうる全有機物(還元性物質)は、該高分子の1000倍量の蒸留水で抽出した液中に残存する全有機物が化学的酸素要求量(COD)の値として15ppm以下、更には10ppm以下(特に5ppm以下)であることが好ましい。この「COD」は、例えば下記の「過マンガン酸カリウム法」により、好適に測定可能である。
【0088】
(高分子中の遊離カルボン酸(塩)残存量)
また、本発明に用いるハイドロゲル形成性高分子乾燥重量1g中に残存する酢酸(ないし酢酸塩)に代表される遊離の(揮発性の)カルボン酸(塩)の量は、0.5mmol以下、更には0.3mmol以下(特に0.1mmol以下)であることが好ましい。この「カルボン酸」は、例えば、下記の「水蒸気蒸留法」により、好適に測定可能である。
【0089】
(過マンガン酸カリウム法)
1gの乾燥保水用担体を、1000gの蒸留水に浸漬し、室温(25℃)で2日間攪拌しながら(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体中に残存する有機物(還元性物質)を抽出する。上清100mlを採取して9N硫酸5ml、N/80過マンガン酸カリウム溶液20mlを加えて5分間煮沸、N/80シュウ酸溶液20mlを加えてシュウ酸の過剰をN/80過マンガン酸カリウム溶液で滴定(Bml)する。化学的酸素要求量(COD)は次式で算出する。
COD(ppm)=B(水蒸気蒸留法)
【0090】
1gの乾燥保水用担体を、1000gの蒸留水に浸漬し、室温(25℃)で2日間攪拌しながら(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体中に残存する遊離のカルボン酸(塩)を抽出する。上清100mlを採取して85%リン酸10mlを加えて水蒸気蒸留を行い、留出液をフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液で滴定(Cml)する。1gの乾燥保水用担体中に残存する遊離(揮発性)のカルボン酸(塩)はC/10(mmol)として求められる。
【0091】
(カルボキシル基を有する高分子)
植物体の保水に好適なカルシウムイオン吸収量を有し、しかも好適な「イオン交換水中での吸水倍率」を有するハイドロゲル形成性高分子の好適な一態様として、例えば、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、該高分子鎖が架橋されたハイドロゲル形成性高分子であって、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を挙げることができる。この「カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量」は、0.5〜2.0mmol(特に、1.0〜1.5mmol)であることが好ましい。このような「カルボキシル基を有する高分子」も、上記したような残存「有機物量」および/又は「カルボン酸量」を有することが好ましい。上記「カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量」は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0092】
(カルボキシル基塩の含有量の測定方法)
0.2gの乾燥保水用担体を、白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、1N塩酸5mlで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光分析により陽イオン濃度(DmM)を求める。乾燥保水用担体1g中のカルボキシル基塩の含有量はD/4(mmol)として算出される。
【0093】
「ポリアクリル酸のアルカリ金属塩の架橋物」からなる従来のハイドロゲルは、非イオン性の親水性高分子架橋物からなるハイドロゲルと比較して著しく高い吸水倍率を有し、この高吸水倍率がゆえに従来、農業分野で保水用担体として使用されてきた。しかしながら本発明の実験によれば、従来より農業用用途として開発されてきたポリアクリル酸のアルカリ金属塩の架橋物からなるハイドロゲルにおいては、解離性のイオン基の導入量が非常に高く(例えば、アクリル酸のアルカリ金属塩の導入量が乾燥樹脂1gあたり約6mmol以上)、上記したように植物の生長に必須であるカルシウムイオンなどの重金属イオンを吸着してしまい、植物生長を著しく阻害する傾向があった。
【0094】
これに対して、本発明者の実験によれば、解離性のイオン基(例えばカルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩)を乾燥保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmol導入した場合には、植物に対してカルシウムイオン欠乏症を生じさせることなく植物を育成させるに充分な保水効果(イオン交換水中での吸水倍率が100倍以上)を示すことが見出された。
【0095】
ここで解離性のイオン基としてはアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が望ましく、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩が望ましい。植物の影響を考慮すれば、必須栄養源として植物に吸収されるカリウム塩およびアンモニウム塩が好ましい。カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり、0.3mmol未満では、保水用担体の吸水倍率を100倍以上とすることが困難である。一方、カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が2.5mmolを超えると、カルシウムイオン吸収量が乾燥保水用担体1gあたり50mg以上となり易くなる。
【0096】
(単量体)
上記ハイドロゲル形成性高分子は例えば、カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を有する単量体(I)と、親水性単量体(II)および架橋性単量体(III)の三元共重合によって得ることができる。
【0097】
ここで単量体(I)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を挙げることができる。これらは単量体の塩として重合しても良いし、カルボン酸として重合後に中和により塩としても良い。ただし、その含有量を、保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように設定することが好ましい。
【0098】
親水性単量体(II)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルアセトアミドなどを挙げることができる。ここでカルボン酸を含む単量体を親水性単量体(II)として使用する場合には、ハイドロゲルのpHが低くなる傾向があるので、その場合カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量を1gあたり1.0〜2.5mmolとすることが望ましい。
【0099】
また、このような場合には、カルボン酸を含む単量体の一部をカルシウム塩として共重合させても良い。本発明者の知見によれば、このカルシウム塩型単量体は、保水用担体のカルシウム吸収量を低減させる効果、およびpH低下を回避する効果のみならず、重合を促進する効果が認められた。
【0100】
架橋性単量体(III)としては、N,N′-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N′-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどを例示できる。架橋性単量体(III)の使用量は、(重合濃度にもよるが)全単量体に対して通常0.01〜5mol%の範囲、更には0.1〜1mol%の範囲であることが好ましい。この使用量が0.01mol%未満では、保水用担体の強度が不足する傾向がある。他方、この使用量が5mol%を超えると、保水用担体としての吸水倍率を100倍以上とすることが困難となる。
【0101】
また、上記ハイドロゲル形成性高分子は、酢酸ビニルと無水マレイン酸の共重合物、酢酸ビニルとアクリル酸(塩)の共重合物などのケン化反応によっても得ることができる。得られる高分子化合物はポリビニルアルコール系重合体となるが、重合体に結合したカルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように調製すれば、カルシウムイオン吸収量が保水用担体1gあたり50mg未満、かつイオン交換水中での吸水倍率が100倍以上である本発明の植物保水用担体とすることができる。
【0102】
(カルシウムイオン処理)
上記ハイドロゲル形成性高分子は、市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂を強酸あるいはカルシウムイオンで処理することによっても得ることができる。市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂は一般に高分子鎖に結合したカルボキシル基の半分以上がアルカリ金属塩となっており、その含有量は樹脂1gあたり約6mmol以上である。そのため樹脂1gあたりのカルシウムイオン吸収量は120mg以上となり、植物保水用担体として適していない。
【0103】
本発明において、「ハイドロゲル形成性高分子」が「カルボキシル基のカルシウム塩」を含有する場合、該カルシウム塩の含有量は、「ハイドロゲル形成性高分子」の乾燥重量1gあたり0.1mmol以上(更には1.0〜3.0mmol程度)であることが好ましい。このような「カルボキシル基のカルシウム塩」の含有量は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0104】
(カルボキシル基カルシウム塩の含有量の測定方法)
0.2gの乾燥保水用担体を、白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、1N塩酸5mlで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光分析によりカルシウムイオン濃度(EmM)を求める。乾燥保水用担体1g中のカルボキシル基カルシウム塩の含有量はE/2(mmol)として算出される。
【0105】
このような市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂に塩酸、硝酸、硫酸などの強酸あるいは、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなどのカルシウムイオン水溶液を加えると、該高吸水性樹脂中のカルボキシル基のアルカリ金属塩がカルボン酸あるいはカルボキシル基のカルシウム塩に置換されるので、強酸やカルシウムイオンの添加量を適切に設定すれば、重合体に結合したカルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように調整することができ、カルシウムイオン吸収量が乾燥保水用担体1gあたり50mg未満、かつイオン交換水中での吸水倍率が100倍以上である本発明の植物保水用担体とすることができる。
【0106】
ただし、カルボキシル基をカルボン酸に置換する場合には、ハイドロゲルが酸性となる傾向が強いので、特にこの場合はカルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり1.0〜2.5mmolとなるように調整することが望ましい。
【0107】
(植物保水用担体のpH)
従来より、ハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体は、そのpH(水素イオン濃度)が中性から弱アルカリ性であった。これは、本発明者らの知見によれば、該高分子合成の際の反応条件等に基づくものと推定される。
【0108】
これに対して、本発明者らは、ハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体であっても、植物が好適に生育する環境を与えるためには、該植物保水用担体のpHは、通常、弱酸性が好ましいことを見いだした。
【0109】
一般に、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルの場合、高分子組成中の水素イオン濃度が高い(酸性側に傾く)ほど、該高分子のカルシウム吸収量が少なくなる傾向を有する。したがって、この高分子のカルシウム吸収が植物に悪影響を及ぼしにくくする点からも、本発明の植物保水用担体のpHは、弱酸性の範囲にあることが好ましい。
【0110】
さらに、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルは、通常、バッファー(緩衝)効果をも有するため、このバッファー効果の点からも、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルは、植物の生育に好適なpH維持に有利である。
【0111】
植物保水用担体の好適なpHは、植物の種類によって若干異なる場合もあるが、通常、pH3〜6.5(更にはpH4〜6)程度であることが好ましい。特に、組織培養に用いる培養液はpH5.7〜5.8に調整するのが一般的であるため、ハイドロゲルのpHも5.7〜5.8であることが望ましい。
【0112】
カルシウム吸収量を低減するためには、カルボキシル基中のカルボン酸型の割合を、アルカリ金属ないしアンモニウム塩型に対して高く設定すればよい。しかしながら、この酸型の割合が高すぎると、保水剤のpHが下がりすぎたり、あるいは該保水剤の膨潤率が低下する傾向がある。カルボキシル基中のカルシウム塩の割合を高めたり、あるいは高分子中のカルボキシル基の含有量を低下させる(非イオン性部分を多くする)ことにより、上記のようなpHないし膨潤率低下のデメリットを解消ないし緩和することが可能である。
【0113】
(ハイドロゲル形成性高分子を用いる植物培養方法)
従来より、組織培養用支持体として寒天ゲルが一般的に用いられてきたが、水分過剰で、かつ、空隙が殆ど存在しない状態で根が生育するため、圃場栽培段階で生長する根とは異なる形態の根が伸長し、根の培養容器内順化が不可能であった。さらに、寒天ゲルは蒸発や植物の吸収により水分を一度放出すると殆ど再吸水しないため、容器内で結露した水や離水した水が寒天ゲルに吸収されず、このため根の順化に悪影響を及ぼす場合があった。
【0114】
本発明者の知見によれば、この様な寒天ゲルの問題は、寒天が、そのゲル化後にはそれ以上の吸水をしないこと、一度放出した水を殆ど再吸水しないこと、および保持している水の吸引力が弱いことに起因すると推定される。本発明においては、このようなゲルの保水性は、例えばpF値で表すことが可能となる。
【0115】
ここに、pF値(Potential of Free Energy:水分吸引圧)とは、支持体の保水性を表す値であり、その詳細については、例えば土壌通論(高井康雄、三好洋 共著、朝倉書店、1977年、p88〜89)を参照することが可能となる。
【0116】
本発明において、植物が吸収可能な水は、通常は、毛管連絡切断点(pF約2.8)以下であることが好ましく、更に、圃場栽培で植物が好適に生長するためにはpF2.3以下が好ましい。また、pF1.8以下の水(重力水)は、植物が吸収可能であるものの、下部開放系の容器では容器外に流出する傾向がある。
【0117】
下部が閉鎖系の容器または閉鎖的な容器の場合には、この重力水は容器下部の支持体中に滞留して、根腐れを起こす場合がある。有用植物の一般的な組織培養では、容器を閉鎖系にし、且つ、支持体として寒天ゲルを用いるため、培養期間中のpF値は殆ど0となる。
【0118】
一方、ハイドロゲル形成性高分子は、平衡吸水率に到達していない場合、ゲル粒子の周囲の水分を吸収する傾向がある。本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を培養用支持体として用いた場合には、培養中の容器外への水分蒸発や、植物の生長にともなう水分吸収によってゲル中に含まれる水分が徐々に少なくなる(pF値が上昇する)ため、培養中に自動的に水ストレス順化を行うことが可能となる。また、ハイドロゲル形成性高分子がゲル粒子の形状を有する場合には、上記pF値の上昇により、該ゲル粒子の外側の空隙が拡がるため、植物の生長に伴い酸素の供給量も増加させることが可能となる。
【0119】
更には、本発明においてハイドロゲル形成性高分子を用いた場合、容器内で結露した水や離水した水(これらは、根の順化に悪影響を及ぼす場合が多い)も、該ハイドロゲル形成性高分子が吸収可能である。したがって、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を支持体として用いた場合、培養段階で植物の生長につれて、自動的に根を順化させることが可能となり、圃場栽培段階移行後も植物体を順調に生長させることが可能となる。
【0120】
ハイドロゲル形成性高分子を組織培養用支持体として用いる他の利点は、容器内空間を充分に活用できることである。植物支持体中の物理環境は液相、気相、固相の3相に分けられるが、ハイドロゲル形成性高分子が液相と固相を兼ねるため、単位体積あたりの養水分量を多量に確保できる。
【0121】
ハイドロゲル形成性高分子を組織培養用支持体として用いる他の利点は、培養途中に追肥が好適に行える点にある。この場合には、植物を埋没させることなく、供給した培養液をハイドロゲル形成性高分子に吸収させることができる。
【0122】
(ハイドロゲル形成性高分子を含む支持体中の空隙)
ハイドロゲル形成性高分子の強度が低い場合はゲルが変形し、ゲル粒子間の空隙が少なくなる傾向があるため、該ゲルにパーライトなどの多孔体を混合し空隙を確保してもよい。また、ハイドロゲル形成性高分子の強度を高めてゲル粒子間の空隙を形成させてもよい。ゲル強度を高めるためには架橋密度を高めたり、表面架橋を施すなどの方法が可能である。
【0123】
この場合、混合する多孔体はパーライト、バーク、スポンジ、水苔等の公知のものが特に制限なく使用可能であるが、ハイドロゲル形成性高分子の特徴である制菌性(特願平6−139140号;PCT/JP95/01223を参照)をより効果的に発揮させるためには、腐蝕する可能性のある天然有機物よりもパーライトなどの無機多孔体を用いることが好ましい。
【0124】
(液体培養へのハイドロゲル形成性高分子の利用方法)
ハイドロゲル形成性高分子は液体培養にも好適に使用可能である。従来の液体培養においては、液体培養中の幼植物攪拌時における細胞集塊の壁面への衝突や、細胞集塊同士の衝突、さらに、これらの物理的ダメージで細胞が産生する褐変物質による植物細胞の増殖率低下が問題となっていた。
【0125】
これに対して、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子粒子を液体状態が維持できる範囲内で液体培養系に混合した場合には、ゲル粒子がクッションとなり、褐変物質の産生を抑制したり、増殖率を高めたり、細胞集塊を大きくすることが可能となる。
【0126】
液体に対するハイドロゲルの体積は、0.5〜90%、より好ましくは1〜60%、さらに好ましくは5〜40%である。
【0127】
液体培養には三角フラスコの回転振とう培養やファーメンター培養、大型タンク培養等が挙げられる。
【0128】
(種子の発芽および発芽勢テスト)
保水用担体の植物に及ぼす影響を評価するためには、農業用用水を吸収した保水用担体(ハイドロゲル)を培地として、種子の発芽および発芽勢試験を行うことが好ましい。種子材料としては、例えば、短期的な発芽および発芽勢試験が容易なカイワレ大根の種子(例えば、発売元、タキイ種苗株式会社のもの)を、農業用用水として一般的な地下水組成(表2)の合成水を上記試験に用いることができる。
【0129】
種子の発芽および発芽勢試験は、例えば、以下のようにして行うことができる。
上記した合成水16mLと、各種保水用担体160mg(1重量%)を試験管(直径2.5cm)高さ15cm)に入れ、充分攪拌後25℃で30分間放置し、農業用用水を吸収した保水用担体からなるゲル状培地を調製する。上記カイワレ大根の種子を、各試験管内のゲル状培地表面に5粒ずつ均一に播き、直径6mmの穴に綿を詰めたシリコン栓で蓋をする。このように蓋をした試験管を、培養室(25℃、2000Lux、16時間日長)で4日間培養し、発芽率(発芽した種子数/5(粒)×100(%))を調査する。
【0130】
上記の発芽および発芽勢試験においては、種皮が裂け、双葉が展開した場合を発芽とし、それ以外は非発芽とする。また、地上部の長さは、発芽した個体の基部(根と茎の分岐点)から葉先までの平均茎葉長として測定し、地下部の長さは、発芽した個体の基部から主根の先端までの平均根長として測定し、さらに根の先端等の外観を観察する。
【0131】
(保水用担体の使用方法)
本発明の保水用担体は、単独で使用してもよく、また、必要に応じて「他の植物体育成用担体」とともに用いてもよく、また、「他の植物体育成用担体」の種類、使用割合等は特に制限されない。このような「他の植物体育成用担体」としては、例えば、土壌あるいは礫、砂、軽石、炭化物、ピート、バーミキュライト、バーク、パーライト、ゼオライト、ロックウール、スポンジ、水苔、ヤシガラ、クリプトモス等が、単独で、あるいは必要に応じて2種以上混合して、好適に使用可能である。
【0132】
本発明の保水用担体を用いて植物体を育成する場合は、上記した土壌等からなる「他の植物体育成用担体」に対して、本発明のハイドロゲルないし高分子からなる保水用担体を、混合割合が乾燥時の重量パーセントで0.1〜10wt.%程度(更には0.3〜3wt.%程度)となるように混合することが好ましい。
【0133】
このように本発明の保水用担体と、「他の植物体育成用担体」とを併用する場合、上記のように混合して使用する場合の他、「他の植物体育成用担体」の表面部分および/又は該担体の内部に、本発明の保水用担体からなる層を1層以上配置してもよい。
【0134】
(ハイドロゲル形成性高分子を用いる植物栽培方法)
従来の開放型容器栽培(鉢、セルトレー、プランター等)は灌水前後、水分量や養分濃度が急激に変動するため、水管理は困難であった。灌水直前は、乾燥による土壌内肥料の高濃度からくる根への障害、水分不足による植物のしおれが問題となり、他方、灌水直後は、余分な水分の鉢内への滞留、酸素不足による根腐れが問題となる。特に、灌水直前の肥料濃度の極端な上昇は、これを回避するために肥料の絶対量を低く設定しなければならず、本来の植物の生長が抑制される原因にもなっている。
【0135】
近年急激に需要が増大している野菜などのセル成型苗生産も、上述の問題を抱えている。このようなセル成型苗の場合、個々のセルの容積が比較的小さいため、養分濃度、水分量が急激に変動しやすくセル毎の均一な管理を難しくしている。
【0136】
本発明においては、この様な植物根周辺の物理環境の問題は、前述のpF値(水分吸引圧)で表すことが可能となる。植物が吸収可能な水はpF約2.8以下であるが、植物が好適に生長するためにはpF2.3以下が好ましい。pF1.8以下の水は植物が吸収可能であるものの、重力水であるため根圏外に流出する可能性が高い。逆に、根圏の排水が悪い場合は根周辺に滞留して根腐れを起こす場合がある。
【0137】
本発明者らの知見によれば、従来の方法で培養された植物体は根が順化されておらず、しかも、圃場栽培段階の新しい支持体(バーク等)と根とが充分にフィットしない(接触面積が小さい)ため、植物の初期生長に必要な養水分吸収が充分でなかったものと推定される。本発明者によれば、種子の発芽率低下およびその後の生育阻害も、種子または発芽後の根と支持体との接触面積が少ないことによると推定される。根付きの培養苗を圃場栽培に移行する際、従来使用されている支持体では固かったり、流動しないため根を傷めており、また、従来の支持体では差込移植も不可能であった。
【0138】
これに対して、本発明のハイドロゲル形成性高分子を使用した場合には、単位容積当たりの水分量を多量に確保できるため、容器内の養分濃度変動幅が少なくなり、植物の伸長阻害が飛躍的に減少する。また、本発明のハイドロゲル形成性高分子は余分な水分を完全に吸収するため、根が腐りにくくなり、しかも養水分管理も簡単になる。特に、灌水前後の養分濃度変動幅の減少により、肥料の絶対量を飛躍的に多くすることができるようになり、植物の一層の生育促進が可能となる。したがって、本発明によれば、容器の容積が比較的小さいセル成型苗生産に関してもセル毎の均一な管理が簡単になる。
【0139】
また、植え替え直後の植物体、種子、および発芽後の根も、ハイドロゲル形成性高分子とより容易にフィット(接触面積が増大)でき、植物体の初期生長がスムーズに行われる。さらに、本発明のハイドロゲル形成性高分子からなるハイドロゲルは比較的柔らかく流動性が良好であるため、根を傷めずに移植することが可能となる。この様なハイドロゲルの特性により、差込移植も簡単なものとなる。特にランの一属であるコチョーラン、シンビデューム等は根が太く、根毛が殆どないが、この様な植物種であっても、本発明によれば移植が極めて簡単となる。
【0140】
(支持体の流亡阻止方法)
容器下部が開放型の場合、灌水などによる支持体(ハイドロゲルや該ハイドロゲルを含む植込材料等)の流亡を阻止することが重要となる。これを防止するための対策としてはハイドロゲル形成性高分子の粒子を大きくしたり粘着性を増加させることが効果的である。粘着性を増加させる方法としては、ハイドロゲル形成性高分子の架橋密度を減少させる方法などが利用可能である。
【0141】
(植物の立ち上がり抑制方法)
根が太く丈夫な植物種の場合、根が伸長し容器の底面に到達すると容器上部に持ち上げられてしまう場合(いわゆる「立ち上がり」現象)がある。これを防止するための対策としては、ハイドロゲル形成性高分子の粘着性を増加させることが効果的である。粘着性を増加させる方法としては、架橋密度を減少させる方法などが利用可能である。
【0142】
(植物工場用支持体)
従来より、いわゆる「植物工場」(露地栽培などの自然環境下でない、人工環境下での植物育成系)では、これまでミスト栽培や、腰水灌水栽培などが行われていたが、灌水設備に莫大な投資が必要であった。
【0143】
本発明のハイドロゲル形成性高分子をこのような「植物工場」用の植物支持体、水分供給媒体として用いた場合には、灌水設備が簡単になり、植物生育系の単純化、コスト低減が可能となる。
【0144】
(露地栽培)
従来の露地栽培においても、従来の容器栽培と同様の問題があった。すなわち、露地栽培は、自然条件に左右されるため、降雨前後の養分濃度、水分量、pF値が急激に変動し、植物栽培が困難であった。特に、降水量の少ない地域は、しばしば干ばつなどの被害に遭遇していた。
【0145】
これに対して、本発明のハイドロゲル形成性高分子を露地栽培に用いた場合には、上述したように該ハイドロゲル形成性高分子が、養分濃度、水分量、pF値等の急激な変動のバッファーとして作用するため、植物栽培をよりマイルドな条件下で行うことが可能となる。
【0146】
(緑化工)
砂漠緑化、法面緑化、壁面緑化等に関しては、基礎となる支持体が砂、土壁、コンクリートなどであるため、保持している水分量が非常に少なく、また、水分保持能力が非常に低い。この様な状態から植物生育または種子発芽の初期段階をスムーズに行うには、保水性が非常に高く、また、養分濃度、水分量、pF値等の急激な変動のバッファーとして作用する、本発明のハイドロゲル形成性高分子の使用が非常に効果的である。
【0147】
法面緑化に関しては、斜面へのコンクリート吹き付けと同様の工法で、本発明のハイドロゲル形成性の高分子を用いる緑化種子流体播種が可能である。特に、地表面に岩石などが露出し平面でない山肌や斜面の緑化は、ネット播種等の工法では法面へのネットと種子の接着率が少なくなる傾向があった。本発明のハイドロゲル形成性の高分子を用いる緑化種子流体播種を用いれば、ハイドロゲルに含有された種子を均一に吹き付けられるため、ハイドロゲルおよび該ハイドロゲルに含有された種子と法面の接着率が高まり、種子の発芽率を高め、発芽後の植物の生長を促進する。
【0148】
(空間栽培)
ラン科植物の一属であるバンダ等の着性植物は自然状態では樹などに付着して空間に根を垂らし、霧や雨などの水分を吸収する。この様な植物種を空間で人工的に栽培する場合は、乾燥を防ぐため灌水頻度を多くしなければならない。このような場合、本発明のハイドロゲル形成性高分子で上記着性植物の根周辺を覆いつつ栽培することにより、乾燥を長時間防ぎ、且つ灌水の頻度をも低減することが可能となる。
【0149】
(無重量状態での空間浮遊栽培)
人口増加、食糧難の時代を迎え、宇宙空間での植物栽培が検討されている。宇宙空間は無重量状態であるため、宇宙ステーションなどの無重量空間にハイドロゲル形成性高分子を主体とした植物支持体を浮遊させ植物を植え付けて栽培することにより、立体的な栽培が可能となり、単位体積当たりの植物生産を飛躍的に増大することが可能となる。
【0150】
(植物体の移植方法)
植物を移植する際、根に本発明のハイドロゲル形成性高分子を付着させて移植することにより、初期の乾燥を防止することができ、活着率を増大させたり、初期生長を増大することが可能となる。このような移植方法は、特に、花野菜苗木や木本類苗木、芝の移植、成木の移動などに有効である。
【0151】
(膨潤ハイドロゲル形成性高分子の収縮方法)
水中で膨潤状態(ゲル状態)にあるカルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子は、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより急激に収縮させることができる。このような「ゲル収縮」の使用例ないし応用例を、以下に述べる。
【0152】
(1)組織培養した植物体を圃場栽培に移行する際、糖が雑菌繁殖の原因となるため、カルシウム添加によってゲルを収縮させ、ゲル中の糖をデカンテーション、水洗等により除去する。
【0153】
(2)苗等の植物体を出荷する際、植物周辺の水分が多いと輸送中に根傷みを起こす。また、水分が多いと重くなり輸送コストが高くなる。これらを防止するため、カルシウム添加によってゲルを収縮させゲル中の水分を除去する。
【0154】
(3)植物の植え替えの際、新しい支持体と根への接触面積を増大させるため、カルシウム添加によってゲルを収縮させてから、新しい支持体を根周辺に配置して、植え替えをスムーズに行う。
【0155】
(4)容器内で育成した植物の植え替えの際、カルシウム添加によってゲルを収縮させ体積を減少させると共に、水分をゲル中から放出させることによって、容器中から植物体を取り出し易くする。
【0156】
(藻類等の繁殖の抑制方法)
鉢上部等に繁殖する藻類は植物育成用に供給した養分を吸収するため、このような藻類の繁殖は出来る限り抑制することが望ましい。この場合に使用可能な抑制方法の例を、以下に述べる。
【0157】
(1)植物保水用担体表面を光を遮断するアルミなどのシートで覆う。
(2)植物保水用担体表面に光を遮断する活性炭等をまく。
(3)ハイドロゲル形成性高分子自体を顔料などで黒化させる。
(添加剤)
本発明の植物体栽培用支持体、土壌改質剤、容器ないしシートを構成するハイドロゲル形成性高分子の架橋構造中には、必要に応じて、少なくとも水が保持されてハイドロゲルが形成されているが、該ハイドロゲルないし高分子中には、必要に応じて、他の添加剤を添加してもよい。このような目的でハイドロゲルないし高分子内部に含有させる添加剤としては、通常の露地ないし施設内(温室等)
【0158】
における植物栽培において通常使用可能な公知の添加剤を、特に制限なく使用することが可能である。
【0159】
このような公知の添加剤としては、各種の植物用栄養素、栄養素以外の植物体の栽培に関与する物質(植物生長調節物質、植物形態調節物質(矮化剤等))、あるいは農薬(除草剤、殺虫剤、殺菌剤等)が挙げられる。
【0160】
(栄養素)
必要に応じて本発明のハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させることが可能な栄養素としては、N、P、K、Ca、Mg、S等の多量元素、および/又はFe、Cu、Mn、Zn、Mo、B、Cl、Si等の微量元素が挙げられる。
【0161】
これらの栄養素を該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させる方法としては、例えば尿素、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、リン酸第二水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄等の水溶液を上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子自体を浸漬して膨潤させ、結果として生成したハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子中に、所望の栄養素を吸収させる方法等が挙げられる。
【0162】
(植物生長調節物質等)
上記した栄養素以外の植物体の栽培に関与する物質として、植物生長調節物質、植物形態調節物質等、あるいは農薬(除草剤、殺虫剤、殺菌剤等)をも、必要に応じて上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子中に含有させてもよい。
【0163】
(添加剤の含有方法)
上記した各種の添加剤をハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させる方法としては、該添加剤の水溶液中に該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を浸漬して該水溶液を吸収させて、ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を生成させる方法が挙げられる。また、例えばイナベンフィド、ウニコナゾールのように水への溶解度が著しく低い植物形態調節物質(矮化剤)を用いる場合には、該植物形態調節物質が可溶で且つハイドロゲルないし高分子が膨潤する有機溶媒を用いて、該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に、該植物形態調節物質を実用的な濃度で含有させることも可能である。
【0164】
(半閉鎖生態系植物育成)
自然界では、植物が光合成を行い、動物が植物を食し、動物の排泄物や動植物の死骸を微生物が分解、分解物を植物が栄養源として吸収するという物質循環生態系が機能している。一方、化学肥料や農薬などを大量に使用する作物栽培は生物の物質循環機能を抑制しているため、半閉鎖生態系といえる。近年、無菌培養によるクローン苗生産や植物工場での野菜生産が商業化されてきているが、これは微生物相を遮断しているため、閉鎖生態系といえる。今後、自然環境変動に左右されない、また、大工的に環境制御可能な閉鎖生態系の植物栽培が、更に重要性を増すと考えられる。
【0165】
本発明においては、ハイドロゲル形成性高分子の制菌性(PCT/JP95/01223を参照)を利用することにより、微生物の分解による物質循環を抑制しつつ、栽培する半閉鎖生態系植物生産が可能となる。この方法は病原菌など植物の生育を抑制する菌の繁殖を抑制できるばかりでなく、支持体中の微生物による酸素消費量が少なくなり、植物の根が吸収可能な酸素の絶対量を大量に確保できるメリットがある。また、微生物相を単純化し、植物に有効な微生物(例えばVA菌根菌、vasicular arbuscular mycorrhiza)だけを繁殖させつつ植物育成を行うことも可能である。
【0166】
人口増加、食糧難の時代を迎え、宇宙空間での植物生産は非常に重要となってきているが、宇宙ステーションなどの空間では微生物相を排除または単純化した閉鎖生態系植物生産が主体となる。このような宇宙空間植物栽培においても、本発明のハイドロゲル形成性高分子は植物支持体として好適に使用可能である。
【0167】
(家庭内での植物栽培)
家庭内で植物栽培を行うためには、支持体を含む容器がクリーンな状態を維持できること、および養水分供給が簡単であることが特に重要となる。本発明の容器に付着しているハイドロゲル形成性高分子は制菌性(PCT/JP95/01223)があるため、クリーンな状態を容易に維持できる。また、多量に養水分を保持できるため、灌水頻度を低下させることができ、しかも適正な養分濃度、水分量、pF値等が長時間維持可能となる。この容器に最初から種子などの植物体を配置しておくことも可能である。
【0168】
(植物体の育成用容器・シート)
以下、本発明のハイドロゲル形成性高分子を植物体の育成用容器ないしシートに応用した態様について述べる。このような育成用容器ないしシートは、組織培養や圃場栽培における種子の発芽ないしは発芽後の生長(以下においては、「発芽ないしは発芽後の生長」を包含する意味で用いる。)、および植物体の育成に好適に使用可能である。
【0169】
この態様によれば、植物体(以下においては、「種子」を包含する意味で用いる。)の移植作業を容易に行うことができ、該植物体の発芽ないし生長を促進させることが可能で、しかも厳密な水管理等の必要性を大幅に軽減することが可能となる。
【0170】
このような態様における植物体育成用容器は、内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とするものである。
【0171】
更には、このような態様における植物体育成用シートは、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とするものである。
【0172】
上記した本発明の容器ないしシートにおいては、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」は、0℃以上70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率の変化が温度に対して可逆的である高分子であることが好ましい。
【0173】
更に、本発明においては、上記ハイドロゲル形成性高分子が粉体ないし粒体の形態である場合には、該粉体ないし粒体の乾燥時の大きさは、0.1μm〜5mm程度であることが好ましい。
【0174】
(容器ないしシートの作用)
上述した構成を有する本発明の植物体育成用容器ないしシートを用いた場合には、以下に述べるような本発明の容器ないしシート特有の機能に基づき、従来技術の問題点を解消することができる。
【0175】
すなわち、本発明の植物体育成用の容器の内壁(または、本発明のシートを他の容器の内壁に配置した場合の、該シートの植物体を配置すべき側)には、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子がコーティング等により配置されているために、該容器中に植物体を入れた後に、水または培養液を充填すると、上記ハイドロゲル形成性高分子が吸水して体積が著しく膨張し、該容器の内腔に充満して該植物体の支持体の少なくとも一部となる(すなわち、ハイドロゲル形成性高分子が、植物体を支持する機能を発揮ないしは助長する)。
【0176】
本発明においては、上記したような「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」特有の機能に基づき、植物体の移植時に生じる従来技術の問題点、即ち、予め容器内に固形の植物体支持体担体を充填した後に植物体を移植すると、根が担体内に良好に入らないために作業性が低下し、根自体をも傷めるという問題点;更には、植物体を先に容器中に入れた後、従来の固形の植物体支持体担体を入れると、該植物体の根と該担体の接触面積が少ないために初期生長が劣化するという問題点、等が解消される。
【0177】
加えて、容器の内壁にコーティングされているハイドロゲル形成性高分子として、0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、例えば、該容器中に植物体を入れ、水または培養液を該容器中に注入して該高分子に吸水させることにより膨潤させ、該容器の内腔に充満させて、該ハイドロゲル形成性高分子を植物体の支持体(の少なくとも一部)として用いて育成することが可能となる。植物体の育成後、該支持体の温度を上げることにより、ハイドロゲル形成性高分子は脱膨潤(ないし収縮)して、その体積を著しく減じるため、育成された植物体は容易に該容器から取り外しできる。
【0178】
したがって、本発明によれば、従来技術の問題点、すなわち、繁茂した根が容器壁面を圧迫しているため、容器から取り出すために時間がかかり、また根を傷めるという問題点が解消される。
【0179】
更に、上述した構成を有する本発明の植物体育成用容器ないしシートは、以下に述べるような特有の機能に基づき、従来技術の問題点を解決することができる。
【0180】
本発明の育成用容器の内壁ないしシートには、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子がコーティング等により配置されており、容器の内壁近辺の支持体(土壌等)が上記した理由で水過剰になると該高分子が吸水してハイドロゲル状態となり、他方、容器の内壁近辺の支持体が水不足になると、該ハイドロゲル粒子から水分が支持体中へ移行する機能を有するため、容器の内壁近辺の根圏における水分環境がほぼ一定に維持されることとなり、従来技術の問題点が解消される。
【0181】
特に、上記のハイドロゲル形成性高分子として0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、支持体の温度が低温になると該高分子が該支持体中から水分を吸収し、逆に高温になると該高分子から支持体中に水分が放出される。即ち、容器の壁あるいはシートの近傍の支持体中の水分量は、高温になるに従って増加することとなる。一般に、植物体は低温(約5〜20℃未満の温度)時の水分要求性は少なく、高温(20〜約35℃の温度)になるに従って水分要求性が増加するとされており、低温時の水分過剰の場合は根腐れを、高温時の水分不足は生長不良を誘発するとされている。したがって、上記のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合には、植物体の根圏環境がより好適に維持されて、植物体の生長の一層の促進が可能となる。
【0182】
更に、植物体育成用の容器の内壁(あるいは容器の内壁に設置されるべきシート)に配置されているハイドロゲル形成性高分子は、前述したように、水分および/又は栄養分を該高分子の架槁構造内に貯蔵する機能があるため、従来における育成用容器内の「空間」に果たさせていた貯蔵機能を、上記高分子に極めて効率的に「肩代わり」させることが可能となる。よって、本発明によれば、(育成用容器の水分・栄養分の貯蔵能力を一定とした場合でも)該容器の内容積を著しく減らすことが可能となる。
【0183】
このように本発明によれば、従来において「適切」とされていた容器の体積を著しく小さくすることが可能となり、機械的な接触刺激の機会増大による根の発生力の向上が可能となる。更には、容器の内容積の減少自体に基づく効果として、植物体育成用の面積の低減、育成用容器の材料量の低減、運搬コストの低減等が可能となり、加えて、前述したような水管理等の省力化と併せて、著しいコスト低減が可能となる。
【0184】
更に、家庭用の従来の容器は下部が開放系であり、潅水時等に過剰の水が下部の開放部から排出されるため、「受皿」の同時使用が必須であった。この受皿は煩雑であるのみならず、美観を損ね易いものでもあった。
【0185】
これに対して、本発明の植物体育成用容器においては該容器の壁面に貯水能力が付与されているため、容器下部に開放部を設けることは必須でない。すなわち、該容器下部の開放部は、本発明においては省略可能である。このような下部閉鎖系の容器を用いた場合には、従来の家庭用容器(下部が開放系)の上記した問題点は容易に解消される。
【0186】
上記においては、主に発芽後の植物体の育成について述べたが、本発明の容器ないしシートは、発芽前の種子の発芽ないし発芽後の生長に対しても好適に使用可能である。
【0187】
(ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状)
本発明の容器内に配置されるハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状は特に限定されず、植物体の種類、育成方法等によって適宜、選択することが可能である。該ハイドロゲルないし高分子の形状は、例えば層状、マイクロビーズ状、ファイバー状、フイルム状、不定形等の種々の形状をとることが可能である。
【0188】
本発明におけるハイドロゲルないし高分子の大きさも、植物体の種類、栽培方法等によって適宜、選択することが可能である。該ハイドロゲル形成性高分子の吸水速度を大きくするには、該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の単位体積当たりの表面積を大きくする、即ちハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子1物体(例えば、1粒)当たりの大きさを小さくすることが好ましい。例えば、本発明におけるハイドロゲルないし高分子の大きさは、乾燥時で0.
【0189】
1μm〜1cm程度の範囲であることが好ましく、1μm〜5mm程度(特に10μm〜1mm程度)であることが更に好ましい。
【0190】
本発明において、上記したハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の「乾燥時の大きさ」とは、該ハイドロゲルないし高分子の最大径(最大寸法)の平均値(少なくとも10個以上計測した値の平均値)をいう。より具体的には、本発明においては、例えば上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状に対応して、以下のサイズを「乾燥時の大きさ」として用いることができる。
【0191】
マイクロビーズ状:粒径(平均粒径)
ファイバー状:各繊維状片の長さの平均値 フイルム状、不定形状:各片の最大寸法の平均値 層状:高分子層の厚さ 本発明においては、上記の「最大値の平均値」に代えて、各片の体積の平均値(少なくとも10個以上計測したときの平均値)と等しい体積を有する「球」
【0192】
の直径を、上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の「乾燥時の大きさ」として用いてもよい。
【0193】
(ハイドロゲル/高分子の成形方法)
本発明のハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を成型する方法は、特に制限されず、該ハイドロゲルないし高分子の所望の形状に応じて、通常の高分子化合物の成型法を用いることができる。
【0194】
最も簡便な成形方法としては、水溶性または親水性高分子化合物を与えるべき単量体、前述した多官能性単量体(二官能性単量体等)、及び重合開始剤を水中に溶解し、熱あるいは光によって該単量体等を重合させ、ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を生成させることが可能である。該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を機械的に破砕し、未反応単量体、残存開始剤等を水洗等により除去した後、乾燥することにより、本発明の容器ないしシートを構成するハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0195】
また、水溶性または親水性高分子化合物を与える単量体が液状の場合は、該単量体中に多官能性単量体及び重合開始剤を添加し、熱あるいは光によって該単量体をバルク重合させた後、機械的に破砕し、未反応単量体及び残存多官能性単量体を水で抽出する等の方法により除去し、乾燥することによっても、本発明に用いるハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0196】
一方、マイクロビーズ状のハイドロゲルないし高分子を得る場合には、乳化重合法、懸濁重合法、沈澱重合法等を用いることが可能である。本発明においては、粒径制御の点からは、逆相懸濁重合法が特に、好ましく用いられる。このような逆相懸濁重合法においては、単量体及び生成高分子を溶解しない有機溶媒(例えばヘキサン等の飽和炭化水素)が分散媒として好ましく用いられる。また懸濁助剤として界面活性剤(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤)を、上記した有機溶媒と共に用いてもよい。
【0197】
得られるマイクロビーズの粒径は、添加する界面活性剤の種類・量、あるいは攪拌速度等により制御することが可能である。重合開始剤としては、水溶性開始剤、非水溶性開始剤のいずれも使用可能である。
【0198】
本発明において、ハイドロゲルないし高分子をファイバー状、フイルム状等に成型する場合には、例えば、水溶性高分子化合物の水溶液を、口金等を用いて水と混合しない有機溶媒中に押し出して、該高分子に所望の形状を付与した後、光、電子線、γ線等を照射することにより、高分子に架橋構造を付与する方法を用いればよい。また、例えば上記水溶性高分子化合物を有機溶媒あるいは水に溶解し、ソルベントキャスティング法により成型した後、光、電子線、γ線等を照射し、該高分子に架橋構造を付与してもよい。
【0199】
一般に、高温過湿条件下の作物栽培は、茎部徒長、あるいは分枝・開花不良等の現象を引き起こし、農産物としての価値を低下させる原因となり易い。また、品種特性によってもこのような価値低下の問題が生ずる場合がある。このような場合、茎等の伸長を抑制して分枝や開花を促進する効果を有する矮化剤を、必要に応じて使用することが好ましい。0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、矮化剤をハイドロゲルないし高分子内部に含有させた場合、該ハイドロゲルないし高分子を構成要素として含む本発明の容器ないしシートは、高温時に該容器ないしシートから矮化剤を外部(例えば、土壌中等)に放出し、植物体の茎部伸長を抑制する。一方、矮化剤の要求性が低くなる低温時には、該矮化剤は該ハイドロゲルないし高分子から放出されず、矮化剤の効果の持続性が著しく改善される。
【0200】
一般に、除草剤の必要性も、高温時には低温時と比較して高い。したがって、除草剤を本発明のハイドロゲルないし高分子内部に含有させた場合、上記と同様の貯蔵−放出のメカニズムに基づき、該除草剤の効果、及びその持続性が著しく改善される。
【0201】
(容器/シートの形状および材質)
上述した「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」がその内部に配置されている限り、本発明の植物体育成用容器の形状は特に制限されず、従来から公知の形状、例えば、鉢状、ポット状、プランター状、トレー状等の種々の形状とすることが可能である。
【0202】
本発明の育成用容器の一態様(鉢型)を、図1の模式断面図に示す。図1を参照して、底部1aと側壁部1bとを有する鉢型容器1の内部に、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層2が配置されている。この底部1aまたは側壁部1bには、必要に応じて、1個以上の穴(図示せず)が設けられていてもよいことは、言うまでもない。
【0203】
同様に、上述した「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」がその表面の少なくとも一部の表面上に配置されている限り、本発明の植物体シートの形状は特に制限されず、従来から公知の種々の形状をとることが可能である。
【0204】
本発明の育成用シートの一態様を、図2の模式断面図に示す。図2を参照して、シート基材11aの一方の表面上に、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層2aが配置されている。このシート基材11aの高分子層2a配置面と反対側の面(裏面)には、必要に応じて、粘着剤ないし接着剤の層3(カルボキシメチルセルロース(CMC)等からなる)が設けられていてもよい。更に、図3に示すように、この粘着剤/接着剤の層3上には、必要に応じて、離型性を有するシート4が配置されていてもよい。この図3に示したような態様のシート11を用いた場合には、離型性シート4を剥がしてから該シート11を従来の容器(図示せず)内に配置することにより、該従来の容器の所望の位置にシート11を配置することが容易となる。
【0205】
本発明のシートは、必要に応じて、パーティション(中仕切り)の形状としてもよい。
図4A、4Bの模式斜視図に、パーティション形状とした本発明のシートの態様の例を示す。図4Aは、単一セル型(延長部付き)のパーティション形状の例を示し、図4Bは、4−セル型のパーティション形状の例を示す。これらのパーティションによって形成されるべき「セル」の数は特に制限されないが、栽培面積の有効利用ないし効率の点からは、1〜10000個程度(更には、10〜1000個程度)であることが好ましい。これらのパーティション型の本発明のシート12においては、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層(図示せず)は、該パーティションの植物体を配置すべき側の表面5の少なくとも一部に配置される。
【0206】
図5の模式平面図に示すように、パーティション形状とした本発明のシート12を「他の容器」6(従来の容器でもよい)と組合せて用いた場合、該シート12と「他の容器」6との着脱を利用することにより、植物体の移植時の「取り外し」が極めて容易となる。すなわち、生長させた植物体(図示せず)を容器6ないしシート12から取り外す際に、予め容器6からパーティション12を抜き取ることにより、植物体の「取り外し」が極めて容易となる。上記「他の容器」6は、従来の容器であってもよく、また、必要に応じて、その内部に「ハイドロゲル形成性高分子」の層2が配置された植物体育成用容器(すなわち、本発明の容器)であってもよい。
【0207】
本発明の容器ないしシートの材質も特に制限されず、従来から公知の材質、例えば、セラミックないし陶器(素焼等)、金属、木材、プラスチック、紙、等の種々の材質を適宜使用することが可能である。
【0208】
(高分子の配置の態様)
本発明においては、ハイドロゲル形成性高分子が育成用容器内に配置されている限り、その位置、面積、形状(例えば、連続した層であるか、断続的な層であるか)、配置の手段は特に制限されない。
【0209】
上記高分子の容器内での配置の位置は、例えば、容器の底面1aないし側面1b(図1)のいずれであってもよいが、該高分子の膨潤による植物体の保持を容易とする点からは、該高分子は容器の側面1bに配置されていることが好ましい。
【0210】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子の機能を効率的に発揮させる点からは、容器の内表面の面積(または、シートの一方の表面の面積)をSaとし、ハイドロゲル形成性高分子が配置された面積をSpとした場合、これらの面積の比(Sp/Sa)×100は、約10%以上であることが好ましく、更には約50%以上(特に約70%以上)であることが好ましい。
【0211】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子の層2ないし2aは、連続した層であってもよく、また断続的な層であってもよい。このような断続的な層は、スクリーン印刷等の任意の手段により容易に形成可能である。断続的な層とする場合、その平面形状は図6Aに示すような格子島状、図6Bに示すような斑点状等の任意の形状とすることができる。
【0212】
ハイドロゲル形成性高分子の層2ないし2aを容器ないしシートの基材1上に配置する場合、その配置の態様は特に制限されない。該配置の容易性の点からは、例えば、基材1上に直接に高分子層2を配置する態様(図7A)、基材1上に配置した粘着剤ないし接着剤の層7の上に、高分子層2を配置する態様(図7B)、基材1上に配置した粘着剤ないし接着剤の層7の上に、粒子状、不定型状等の任意の形状とした高分子2を配置する態様(図7C)のいずれも好適に用いられる。上記した図7Aの態様において、高分子層2の基材1に対する接着性を付与ないし増強する点からは、必要に応じて、ハイドロゲル形成性高分子を粘着剤ないし接着剤に混合ないし分散した後に、上記高分子層2としてもよい。この場合、ハイドロゲル形成性高分子の10重量部に対して、粘着剤ないし接着剤を0.01〜10重量部程度(更には0.1〜2重量部程度)用いることが好ましい。
【0213】
上記「粘着剤ないし接着剤」としては、公知の接着剤、粘着剤等を特に制限なく使用することができるが、該物質は、栽培する植物に対して実質的に無毒であるか、あるいは低毒性のものを使用することが好ましい。このような接着剤・粘着剤の具体例として、例えば、ゴムないしラテックス系(天然ゴム系、イソプレンラテックス系等)、アクリル樹脂系(アクリル系、シアノアクリレート系等)
【0214】
、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、タンパク質系(大豆タンパク系、グルテン系等)、デンプン系(デンプン系、デキストリン系)、セルロース系(CMC系、ニトロセルロース系等)の接着剤ないし粘着剤を挙げることができる。
【0215】
上記した容器ないしシートのいずれの態様においても、ハイドロゲル形成性高分子の機能を効率的に発揮させる点からは、容器の内表面の面積(または、シートの一方の表面の面積)をSaとし、配置されたハイドロゲル形成性高分子の重量をMpとした場合、該高分子の塗布量(Mp/Sa)は、0.0001g/cm2(0.1mg/cm2)以上であることが好ましく、更には0.001g/cm2(1mg/cm2)〜0.2g/cm2程度(特に0.002g/cm2(2mg/cm2)〜0.1g/cm2程度)であることが好ましい。
【0216】
(植物体育成用容器ないしシートの製造方法)
ハイドロゲルが基材表面に固定された成型物(容器ないしシート)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、以下の2つの方法のいずれかが好適に使用可能である。
【0217】
第一の方法は、基材となる材料をあらかじめポットや、プランター等の容器ないしシートの形状に成型した後、該成型物の内表面となるべき面に、接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する機能を有する物質を塗布し、このように塗布した物質の上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する方法である。
【0218】
第二の方法は、基材となる材料のシート又はフィルム表面に、接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する機能を有する物質を塗布し、このように塗布した物質の上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定した後、圧空成型法等によりポットや、プランター等の形状に成型する方法である。
【0219】
上記した第一の方法を用いた場合には、射出成型法、圧空成型法、ブロー成型法等に種々の成型方法により、基材となる材料をポットや、プランター等の形状に成型できる。成型物の内表面に、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定するための物質は、一般に市販されている接着剤、粘着剤等を特に制限なく使用することができるが、該物質は、栽培する植物に対して実質的に無毒であるか、あるいは低毒性のものを使用することが好ましい。このような接着剤・粘着剤の具体例として、例えば、ゴム系、ラテックス系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、タンパク質系、デンプン系、セルロース系の接着剤ないし粘着剤を挙げることができる。
【0220】
これら接着剤・粘着剤は、噴霧、キャスト、ディップ法等により、上記成型物の内表面に塗布し、このように塗布した接着剤・粘着剤の上に、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定することができる。また、上記接着剤、粘着剤等に代えて、上記粘着剤等が予め塗布されてなる両面テープを上記成型物の内表面に張り付け、この上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定してもよい。
【0221】
上記第一の方法ては、射出成型法等により基材となる材料をポットや、プランター等の形状に成型した後、熱可塑性エラストマー等にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを分散した材料を二色成型法により該成型物の内面に射出成型することにより、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを基材成型物の内面に固定することもできる。
【0222】
一方、上記第二の方法では、上記接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定できる物質を噴霧、キヤスト法等により基材となる材料のシート又はフィルム表面に塗布し、または、上記両面テープを張り付けて、この上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定した後、圧空成型法等により基材を成型することができる。また、熱可塑性エラストマー等にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを分散した材料を、基材となる材料と同時に多層押し出し法により多層シート又は多層フィルムに成型し、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを基材シート又は基材フィルム上に固定し、この後、圧空成型法等により基材を成型してもよい。
【0223】
(植物体育成用容器ないしシートの使用方法)
本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いて植物体を効果的に移植(植物体の植え込み)するための使用方法としては、例えば、以下のような使用方法が好適に用いられる。
【0224】
(1)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが充分満たす程度の量のハイドロゲル形成性高分子粒子を配置した容器、ないし容器状に成型したシートを用いて、該容器に植物体の少なくとも一部を入れた後、(肥料)溶液等を添加してハイドロゲル形成性高分子粒子を膨潤させ植物体を固定させる方法。
【0225】
(2)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが充分満たす程度の量のハイドロゲル形成性高分子粒子を配置した容器、ないし容器状に成型したシートに溶液等を添加して容器内をハイドロゲルで満たす。次いで、該ゲルに植物体の少なくとも一部を挿入して該植物体を固定させる使用方法。
【0226】
上記した(1)ないし(2)の方法によれば、水分を含み膨潤したハイドロゲル粒子は適度な流動性を有するため、植物体を傷めることなくスムーズに移植作業が可能となる。また、微細な組織(例えば、種子や組織培養で得られる不定胚、ラン科のPLB(Protocorm Like Body:種子発芽時に形成される球形の組織に類似した組織培養で得られる組織体)等)の場合には、ハイドロゲル上に該組織等を単に乗せる方法を用いることも可能である。
【0227】
(3)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが満たさない程度の量のハイドロゲル形成性高分子の粒子を配置した容器ないし容器状に成型したシートを用いて、該容器に植物体の少なくとも一部を植物支持用担体とともに入れた後、溶液等を添加して該ハイドロゲル形成性高分子を膨潤させ植物体を固定させる方法。
【0228】
(4)ハイドロゲル形成性高分子の粒子がコーティングされたシート(本発明のシート)で植物体をくるみ、通常の容器や支持体中に植え込んだ後、溶液等を添加して該ハイドロゲル形成性高分子を膨潤させて植物体を固定させる方法。
【0229】
上記した(1)ないし(4)のいずれの方法を用いた場合にも、植物体を傷めず、速やかに、支持体への植物体の接着ないし固定が容易である。
【0230】
(移植方法)
一方、本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置してなる本発明の容器ないしシートを用いて植物体を効果的に移植(植物体の取り出し)する方法としては、例えば、以下の使用方法が好適に用いられる。
【0231】
(1)大過剰の水を容器ないしシートに供給し、ハイドロゲルの流動性を高めて、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0232】
(2)カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより、膨潤したハイドロゲルを収縮させ、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0233】
(3)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温度に該容器ないしシートを暖め、膨潤していたハイドロゲル粒子中の水分を放出させて該ゲル粒子を収縮させ、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0234】
(4)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温水を該容器ないしシートに供給し、膨潤していたハイドロゲル粒子中の水分を放出させて該ゲル粒子を収縮させ、且つゲル粒子の流動性を高めることにより、植物体を傷めずに取り出す方法。上記した温水の温度は、植物体の種類等によっても若干異なる場合があるが、約45℃以下(更には約40℃以下)であることが好ましい。
【0235】
上記(1)ないし(4)のいずれの方法を用いた場合にも、植物体を傷めず、速やかに、容器から植物体を取り出すことが容易である。
【0236】
(水分等の液状物質の除去方法)
栽培した植物体を移動させる際(例えば出荷など)、栽培容器の重さをできるだけ軽くすることが、作業性の向上、輸送費の軽減等の点から重要となる。また、移動の際には植物体が閉鎖的環境下(例えば、植物体が容器ごとセロファンで包装され段ボールに入れられた状態)に置かれる場合が多い。このような環境下においても湿潤状態になって植物体が傷まないように、栽培容器内の水分を可能となるだけ少なくしておくことが重要となる。
【0237】
本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いれば、該容器ないしシート内の水分ないし肥料溶液等の液体が不必要になった場合には、例えば、以下の方法により該液体を好適に除去可能である。
【0238】
(1)乾燥させることによって、ハイドロゲル粒子の水分を蒸発させて重さを軽くする方法。ただし、この方法は、結果として生ずる「養分の濃縮」が、植物体に実質的に悪影響を及ぼさない範囲で行う必要がある。
【0239】
(2)カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより、膨潤したハイドロゲルを収縮させ、水分ないし肥料溶液等の液体を放出させる方法。
【0240】
(3)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温度に該容器ないしシートを暖めて、膨潤していたハイドロゲル粒子を収縮させ、ハイドロゲル粒子中の水分ないし肥料溶液等の液体を放出させる方法。
【0241】
従来において、出荷前に植物体に供給されていた水は、乾燥耐性を低下させて花持ち等を悪くしたり、果実の糖度を低下させたりする虞があった。このような問題を解決する点からも、上記した(1)ないし(3)の方法(好適には(2)
【0242】
または(3)の方法)により、出荷等の前に予め水分等を除去しておくことは望ましいことである。
【実施例】
【0243】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0244】
実施例1(保水用担体の調製)
アクリル酸10g(140mmol)と、N,N′-メチレンビスアクリルアミド0.05g(0.32mmol)とを蒸留水26mLに溶解した。得られた溶液に、水酸化カルシウム0.52g(7mmol)と、1N−水酸化カリウム水溶液14mL(14mmol)を加え、窒素気流下室温で攪拌しながら過硫酸アンモニウム0.02gおよびアスコルビン酸0.01gを添加した。過硫酸アンモニウムおよびアスコルビン酸の添加から5分後に、急激に反応混合物の温度が上昇するとともにゲル化したが、そのまま窒素気流下で1時間反応させた。
【0245】
得られた生成物に、エチルアルコール200mLを加えてミキサーで粉砕し、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0246】
上記により得られたハイドロゲル形成性高分子(本発明の保水用担体)の一定量(0.2g)を白金るつぼに秤取り、電気炉(700℃)で灰化した後、1N−塩酸5mLで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光スペクトル分析装置(セイコー電子社製、商品名:SAS−760)によりカリウムイオン含有量を求めたところ、1.3mmol/gであった。
【0247】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率は、それぞれ19mg/gおよび377倍であった。
【0248】
実施例2(保水用担体の調製)
市販のポリアクリル酸ナトリウム系高吸水性樹脂(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製)5gをイオン交換水1Lに膨潤させた。このようにして膨潤した高吸水性樹脂に、塩化カルシウム(二水塩)2.9gをイオン交換水500mLに溶解した水溶液を加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間放置することにより、カルボキシル基のナトリウム塩を部分的にカルシウム塩に置換した。
【0249】
膨潤した樹脂上の上清を廃棄し、イオン交換水2Lを加えてゲルを洗浄し、更に、膨潤した樹脂上の上清を廃棄した。このイオン交換水によるゲル洗浄操作を5回繰り返した後、エチルアルコール1Lを加えてゲルを収縮させ、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0250】
上記により得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりナトリウムイオン含有量を求めたところ、2.2mmol/gであった。また、カルシウムイオンの含有量は2.1mmol/gであった。
【0251】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ36mg/gおよび175倍であった。
【0252】
実施例3(保水用担体の調製)
市販のポリアクリル酸ナトリウム系高吸水性樹脂(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製)20gをイオン交換水1Lに膨潤させ、1N−塩酸170mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間、カルボキシル基のナトリウム塩をカルボン酸に置換した。
【0253】
上清を廃棄し、イオン交換水2Lを加えてゲルを洗浄し、更に上清を廃棄した。更に、得られたゲルに1Lのイオン交換水および1N−塩酸20mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間放置した後、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0254】
上記により得られたポリアクリル酸架橋物の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に、電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析を行ったところ、アルカリ金属イオン含有量は0.01mmol/g以下であり、イオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率は14倍であった。
【0255】
上記ポリアクリル酸架橋物2gをイオン交換水500mLに膨潤させ、1N−水酸化カリウム水溶液2.78mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間、カルボン酸の一部をカリウム塩に置換した。上清を廃棄し、ゲルを分離して真空乾燥した。得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、1.3mmol/gであった。
【0256】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ21mg/gおよび171倍であった。
【0257】
実施例4(保水用担体の調製)
実施例3においてカリウム塩置換に用いた1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を5.56mLとした以外は、実施例3と同様にして本発明の保水用担体を得た。
【0258】
得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1と同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、2.5mmol/gであった。
【0259】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ40mg/gおよび185倍であった。
【0260】
実施例5(感温性保水用担体の調製)
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm、(株)興人製)15g、アクリル酸0.47g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(Bis)0.1g、過硫酸アンモニウム0.2g、1N−NaOH6.6ml、およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン0.1mlを蒸留水90mlに溶解し、室温で4時間重合させることにより、架橋構造を有するポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)ハイドロゲルを合成した。該ゲルをミキサーにより機械的に破砕し、蒸留水1リットル中に分散させ、一旦4℃に冷却した後、50℃に加温することにより収縮させ、上清を捨てた。この水洗操作を2回繰り返して、未反応モノマー及び残存開始剤を除去し、真空乾燥(100℃、24時間)によって乾燥して、温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子(本発明の保水用担体)を得た。
【0261】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ9mg/gおよび167倍であった。
上記により得られた保水用担体の19℃及び26℃における市販の粉末園芸用肥料(商品名:ハイポネックス20−20−20、ハイポネックスジャパン(株)製、1g/L)に対する吸水倍率を、前述した方法によってそれぞれ測定したところ、19℃で約72倍であり、26℃で約52倍であった。
【0262】
比較例1(実施例3の比較例)
実施例3において1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を0.35mLとする以外は実施例3と同様にして比較例保水用担体を得た。得られた保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、0.15mmol/gであった。
【0263】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ2mg/gおよび75倍であった。
【0264】
比較例2(実施例3の比較例)
実施例3において1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を8.34mLとした以外は、実施例3と同様にして比較例の保水用担体を得た。得られた保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、3.6mmol/gであった。
【0265】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ55mg/gおよび191倍であった。
【0266】
比較例3(市販樹脂の例)
市販の高吸水性樹脂3種、(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製;商品名:ダイヤウェット、三菱化学(株)製;商品名:スミカゲル、住友化学(株)製)について、カルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率を測定し、実施例1〜5および比較例1、2の結果とあわせて下記の(表1)にまとめた。
【0267】
実施例6(種子の発芽試験)
山梨県塩山市熊野地区の地下水組成に類似した合成水(下記の表2に示す)を作成した。該合成水16mLと、実施例1、2、3、4で作成した本発明の保水用担体各160mg(1重量%)とを試験管(直径2.5cm、高さ15cm)に入れ充分攪拌後25℃で30分間放置し、合成水を吸収した保水用担体からなるゲル状培地を調製した。
【0268】
このようにして得られた各試験管内のゲル状培地表面に、カイワレ大根の種子(タキイ種苗(株))を5粒/試験管ずつ均一に播き、直径6mmの穴に綿が詰めてあるシリコーン栓で蓋をした。
【0269】
上記のように蓋をした試験管を、培養室(25℃、2000Lux、16時間日長)で4日間培養し、発芽率(発芽した種子数/5(粒)x100(%))を調査した。種皮が裂け、双葉が展開した場合を発芽とし、それ以外は非発芽とした。また、地上部の長さ(発芽した個体の基部から葉先までの平均茎長)、地下部の長さ(発芽した個体の基部から主根の先端までの平均根長)を測定し、さらに根の先端等の外観を観察して結果を表3にまとめた。実施例1、2、3、4で作成した本発明の保水用担体では、すべての区で100%発芽し、カイワレ大根の地上部、地下部の生長も非常に良好であった。
【0270】
比較例4(実施例6の比較例)
比較例1、2で作成した2種の保水用担体と、比較例3で用いた市販の高吸水性樹脂3種(アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲル)による発芽試験を実施例6と同様に行った。
【0271】
比較例1の保水用担体を用いた場合では、吸水倍率が不十分なために培地が液状化しており、種子が培地中に埋没してしまい、全く発芽しなかった。比較例2および市販の高吸水性樹脂を用いた場合では、種子は100%発芽したものの、発根後根の先端が褐変枯死し、地上部の生長も完全に抑制された(下記の表3参照)。
【0272】
【表1】
【0273】
【表2】
【0274】
【表3】
実施例7(表面架橋保水用担体)
実施例1と同様にして得られたハイドロゲル形成性高分子(粉末状)100gをミキサーに入れて撹拌しながら、プロピオン酸ナトリウムの15wt%水溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル10wt%を溶解した架橋剤水溶液4gを添加して充分混合した。得られた混合物を150℃で約20分間加熱処理して、表面架橋を施した本発明の植物保水用担体を得た。
【0275】
上記により得られた保水用担体のカリウムイオン含有量を実施例1と同様にして測定したところ、1.2mmol/gであった。
【0276】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率は、それぞれ16mg/gおよび314倍であった。
この保水用担体3gをプラントボックス(柴田ハリオ(株)、ポリカーボネイト製、上部75×75mm、下部65×65mm、高さ100mm)に入れ、ハイポネックス溶液(ハイポネックス7−6−19(ハイポネックスジャパン(株)製)1g/L)150mLを吸収させたところ、速やかに吸水し、膨潤した保水用担体粒子間に適当な空隙を保った状態で全体が固化した。このゲル状培地に蘭(シンビジウム)の苗MFMM(Cym.MELODY FAIR 'Marilyn Monroe')を移植し、60日間温室内で栽培したところ、該蘭の花部、茎部および根部とも良好に生長することが観察された。
【0277】
実施例8(保水用担体のpH測定)
下記(表4)に示す乾燥状態の各種合成高分子1gをイオン交換水100ml中に分散させた。1時間後にpHメーター(横河電気株式会社製、商品名:PH81)でpHを測定した。実施例1〜5の本発明の保水用担体では、植物の生育に好適な弱酸性(pH4.7〜6.0)となっていることが確認された。
【0278】
【表4】
実施例9(保水用担体を用いる培養法)
試験管(直径2.5cm、高さ15cm)中で、実施例3で作成した乾燥保水用担体を400mgに、市販の粉末状園芸用肥料(商品名:ハイポネックス7−6−19、ハイポネックスジャパン(株)製、3.5g/L)を含む培養液(シュークロース20g/L、バナナ100g/Lを含有)を16ml混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、室温にて放置しハイドロゲル培地を作製した。
【0279】
上記培地に、約1.5cmに伸長した蘭の苗たるYT57(Cym.LOVELY ANGEL 'The Two Virgins')を試験管1本当たり2本ずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に50日間培養した。
【0280】
苗毎の最大葉長を計測したところ平均6.7cmだった。根も良く伸長しており、圃場栽培以降も順調に生育し、葉先の枯れも殆どなかった。
【0281】
比較例5(寒天を用いる培養法)
上記実施例9の乾燥保水用担体に代えて、寒天100mgを添加した以外は、上記実施例9と同様にしてYT57を50日間培養した。苗毎の最大葉長を計測したところ実施例とほぼ同じで平均6.7cmだった。外観上根も良く伸長していたが、圃場栽培以降若干葉先の枯れがみられた。この原因は、培養中の苗の水分ストレスに対する順化がうまく行われていないものと推測された。
【0282】
比較例6(市販樹脂を用いる培養法)
上記実施例9の乾燥保水用担体に代えて、アクリホープ400mgを添加した以外は同様にしてYT57を50日間培養したが、地上部地下部共に全く生長していなかった。
【0283】
実施例10(保水用担体を用いる培養法)
プラントボックス(柴田ハリオ(株)、ポリカーボネイト製、上部75x75mm、下部65x65mm、高さ100mm)中で、実施例5で得た乾燥保水用担体1.5gとハイポネックス溶液(ハイポネックス7−6−19、2.0g/L)を105ml混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、別滅菌しておいたパーライト(日本セメント株式会社製、商品名:アサノパーライト3号)80mlを無菌的に混合しハイドロゲル培地を作製した。
【0284】
上記培地に、約4cmに伸長した蘭の苗たるMFMM(MELODY FAIR 'Marilyn Monroe')を16本ずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に50日間培養した。苗は順調に生長し、根の状態も非常に良く、圃場栽培で伸長する根と類似した白い太い根が伸長した。
【0285】
比較例7(寒天を用いる培養法)
上記実施例10で用いた乾燥保水用担体に代えて、支持体として寒天(700mg)ゲル単体を用いた以外は、上記実施例10と同様にしてMFMMを50日間培養した。地上部は順調に生長したが、根は余り伸長しておらず、また細く、圃場栽培で伸長する根とは形態が異なっていた。
【0286】
比較例8(市販樹脂を用いる培養法)
上記実施例10で用いた乾燥保水用担体に代えて、アクリホープ1.5gを添加した以外は同様にしてYT57を50日間培養したが、地上部地下部共に殆ど生長していなかった。
【0287】
実施例11(保水用担体による培養中の順化)
実施例1で作製した乾燥保水用担体20gに、ハイポネックス溶液(Hyponex7−6−19 2g/L、合成水中で溶解)1000、800、600、400、200ccのそれぞれの量を完全に吸収させてゲル化させ、pFメーター(大起理化工業株式会社製、DIK−8340)でpF値を測定したところそれぞれ0、0、1.8、2.1、2.3であった。通常の培養では苗移植直後の培地中の水分が、培養終了段階までに培養中の容器外への蒸発と植物の吸収により40〜80%減少するが、本実施例においてハイドロゲル形成性高分子を用いた場合、培養終了時のpFが1.8〜2.3に変化していることが判明した。
【0288】
すなわち、本発明の保水用担体を用いた植物苗培養では、培養中に植物の根に対して適度の水分ストレスが負荷され、順化が良好に行われるものと推定される。
【0289】
比較例9(寒天培養法における水分ストレス不足)
寒天7gを実施例10で使用したハイポネックス溶液1000ccで加熱・溶解後、常温でゲル化させpF値を測定したところ0であった。その後培養室で乾燥させ、ゲルの重さが809g、609g、409g、209g時点のpF値を測定したところ全て0であった。通常、培養中に培地中の40〜80%の水分が減少するが、寒天ゲル中のpFは殆ど変化していないことが判明した。すなわち、寒天ゲルを用いた植物苗培養では、培養中に植物の根に対して水分ストレスが全く負荷されず、良好な順化が行われないものと推定される。
【0290】
【表5】
【0291】
実施例12(液体培養の例)
三角フラスコ(柴田ハリオ硝子(株)製、容量500ml)に、1/2Murashige & Skoog培地(シュークロース20g/L含有)を200ml入れ、実施例5で作成した乾燥保水用担体を(無添加、0.4g、1.0g)の種々の濃度で添加し混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、室温にて放置し液体培地を作製した。混合後の液体培地とゲルの体積比は0.4g添加区が約9:1で、1.0g添加区が約3:1であった。
【0292】
上記培地に、MFMMのPLB(Protocorm Like Body;ラン特有の組織的な細胞集塊)を2.0gずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に22日間横回転振とう(80回転/1分間、回転半径 27mm)培養し、新鮮重を測定し、また、PLBの状態、培養液への褐変物質溶出状態を観察した。
【0293】
表6に示すように、本発明の保水用担体を液体培養系に添加することにより、PLBの増殖が促進され、褐変物質の溶出も抑制されるという効果が認められた。
【0294】
【表6】
【0295】
実施例13(保水用担体を用いた栽培法)
ハイポネックス粉末(ハイポネックス20−20−20 ハイポネックスジャパン(株)製)100mgを、(表2)記載の合成水115mL中に溶解し、この溶液を各種ハイドロゲル形成性高分子粉末1gに完全に吸収、ゲル化させ、パーライト50ccを添加し均一に混合した。この支持体をセルトレー(東罐興産株式会社製、セル1個の大きさ 2.5cm(縦)x2.5cm(横)x4.5cm(高さ)、セル数 10x20=200穴、下部閉鎖、上部開放)のセル中に充填した。ラン科植物の一属であるコチョーラン(Dtps. Happy Valentine x Show Girl 'Mai')とシンビジュームYT57の幼植物体を1セルに付き1本差込移植した。差込は非常に簡単に行うことができ、しかも根を傷めることなく、支持体とうまくフィットさせることができた。培養室(25℃、3500lux、16時間日長)で45日間栽培し、それぞれの植物体の葉長、根長、新鮮重、根数を測定した。栽培中、2〜3日毎にスポイトでセルの容積一杯になるまでイオン交換水を供給した。
【0296】
この結果、実施例1,2,3のハイドロゲル形成性高分子を用いた場合には、植物体は順調に生育したが、アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲルを用いた場合には、植物体は、いずれも栽培中に根が腐ってしまった。アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲルを用いた場合、植物がカルシウム欠乏状態となったものと推定される。
【0297】
対照区として、ハイドロゲル形成性高分子+パーライトの支持体に代えて、寒天(10g/L)、バーク(発売元:(有)向山蘭園、ニュージーランド産バーク、商品名:MO−2)、水苔を支持体としてそれぞれ用いた以外は上記と同様にして、栽培実験を行った。
【0298】
この結果、寒天は差込移植が簡単だったものの栽培中に根が腐ってしまった。
バークおよび水苔は差込移植が不可能だったので、植物の根周辺に配置してからセル中に移植したが、根を若干傷めてしまった。また、栽培途中で根が腐ってしまった。寒天、バーク、水苔は吸水力が弱く、根の周辺が水で満たされ、根が酸素不足に陥ったためと推定される。
【0299】
上記で得られた結果を、まとめて下記(表7)に示す。
【0300】
【表7】
【0301】
実施例14(感温性保水用担体を用いた栽培法)
ハイポネックス粉末(ハイポネックス20−20−20 ハイポネックスジャパン(株)製)95mgを表2記載の合成水95mL中に溶解し、この溶液を実施例5で作成した保水用担体粉末1gとパーライト100ccを添加し均一に混合した。この支持体を実施例13で使用したセルトレーのセル中に充填した。ラン科植物の一属であるコチョーラン実生(Phal. Musashino 'MH' x Phal. White Moon 'M-23')の幼植物体(新鮮重1.39g)を1セルに1本ずつ差込移植した。差込は非常に簡単に行うことができ、しかも根を傷めることなく支持体とうまくフィットさせることができた。温室内で70日間栽培し、それぞれの植物体の地上部、地下部および全体の新鮮重を測定した。栽培中の灌水は、ほぼ毎日上面自動灌水、または、30分間の腰水灌水により行った。
【0302】
対照区としては、ランの栽培用支持体として一般的に使用されるバーク(MO−2):ピートモス((株)エイレン・ポロ、フィンランド産):パーライト=6:3:1(体積比)を用いた。この支持体は差込移植が不可能だったので、植物の根周辺に配置してからセル中に移植したが、植込時に根を若干傷めてしまった。
【0303】
下記表8に示すように、いずれの灌水方法においても、本発明の保水用担体を支持体とする栽培で従来の支持体を用いる栽培よりも良好な植物体の生育が認められた。
【0304】
【表8】
【0305】
実施例15(保水用担体を用いる栽培法)
実施例1で作製した乾燥高分子粉末1gにハイポネックス溶液(Hyponex20−20−20 1g/L、合成水中で溶解)100mlを完全に吸収させ、pFメーター(大起理化工業株式会社製 DIK−8340)でpF値を測定したところ0であった。直径9cmの黒プラスチックポット(購入先 三枝重雄商店、直径7.5cm)に移し替え全体の重さを測定した。灌水を全く行わずに温室内に放置し、24、48、72時間後の3回、全体の重さとpF値を測定した。
【0306】
各時点の水分量=各時点の重さ−1g(乾燥高分子の重さ)−黒ビニールポットの重さ 溶液の各時点の養分濃度は初発(開始時の値)を1とし、 各時点の養分濃度=初発水分量/各時点の水分量、とした。
【0307】
比較例10(バークを用いる栽培法)
バーク100mlの重さを測定したところ30.93g、含水率は35.7%だった。乾燥前バーク100mlに実施例15で用いたハイポネックス溶液を24時間吸収させ、含水したバークを網ですくい上げ、余分な液を除去した。保水したバークの重さは46.56g、pF値は0であった。黒プラスチックポットに移し替え全体の重さを測定した後、灌水を全く行わずに温室内に放置し、最初の測定から24、48、72時間後の3回、全体の重量とpF値を測定した。水分量、各時点の濃度は実施例15と同様の計算式で求めた。
【0308】
初発水分量=30.93(バーク100ml重量)x0.357(含水率)+46.56(保水バーク重量) -30.93(バーク100ml重量)=26.67 各時点の水分量=初発水分量−(最初の容器全体重量−各時点の重量)
【0309】
溶液の初発濃度は実施例15の初発濃度を1とし、溶液の初発濃度=26.67÷(30.93x0.357+26.67)=0.71、溶液の各時点の養分濃度=初発水分量/各時点の水分量、とした。
【0310】
養分量は実施例15を1とすると、比較例の養分量=26.6x0.71÷100=0.19であった。
【0311】
下記表9に示すように、栽培用支持体として本発明の保水用担体を用いれば、バークを用いる場合に比べ、その含水率が高いので、同じ容積の容器内において養分量を大きくできるとともに、栽培中の養分濃度の変動を小さくすることができる。また、多量の水分を長時間保持できるので、灌水頻度を低減でき、植物が水分ストレスにさらされる危険も回避できる。
【0312】
【表9】
【0313】
上記表9に示すように、以下の結果が得られた。
【0314】
初発保持水分量は実施例に対して比較例は27%であった。
初発保持養分量は実施例に対して比較例は19%であった。
初発に対する72時間経過後の養分濃度は実施例が1.8倍に対して比較例は3.8倍であった。
【0315】
72時間経過後の残存水分量は実施例が56cc、比較例が5ccであった。
72時間経過後のpF値は実施例が0、比較例が2.0であった。
【図面の簡単な説明】
【0316】
【図1】図1は、本発明の植物体育成用容器の一態様を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の植物体育成用シートの一態様を示す模式斜視図である。
【図3】図3は、本発明の植物体育成用シートの他の態様を示す模式斜視図である。
【図4A】図4Aは、本発明の植物体育成用シートの他の態様(パーティション状)を示す模式斜視図である。
【図4B】図4Bは、本発明の植物体育成用シートの他の態様(パーティション状)を示す模式斜視図である。
【図5】図5は、図4Bの態様のパーティション状としたシートと、他の容器とを組合せて用いる場合を示す模式平面図である。
【図6A】図6Aは、ハイドロゲル形成性高分子を、基材上に断続的な層状で配置する場合の態様の例を示す模式平面図である。
【図6B】図6Bは、ハイドロゲル形成性高分子を、基材上に断続的な層状で配置する場合の態様の例を示す模式平面図である。
【図7A】図7Aは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図7B】図7Bは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図7C】図7Cは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図8】図8は、本発明の植物体育成用容器の実際の態様の一例を示す模式断面図である。
【図9】図9は、本発明の植物体育成用シート(パーティション状)の実際の態様の一例を示す模式斜視図である。
【図10】図10は、図9のパーティション状シートの1つのマスを、上方から見た場合の模式平面図である。
【図11】図11は、図8の植物体育成用容器に、支持体および植物体を配置して水分を供給した場合の一態様を示す模式断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の育成に際して該植物体を支持ないし担持するとともに、該植物体への水の供給源としての機能をも発揮することが可能な植物保水用担体に関し、より具体的には、流体播種、圃場栽培、露地栽培、緑化工などに保水用担体として使用した際に、植物生長を阻害することなく植物に水を供給することが可能な植物保水用担体に関する。
【0002】
本発明の植物保水用担体は、植物体の育成に際して、他の植物体支持用担体(例えば、土壌)と組み合わせて、該「他の植物体支持用担体」の保水性を向上させる(すなわち、保水剤として用いる)ことも可能である。
【背景技術】
【0003】
紙おむつ、生理用品などに大量に使用されてきたポリカルボン酸系高吸水性樹脂、特にポリアクリル酸系重合体がその低価格性および優れた保水性のために農業の分野でも使用されるようになってきた。
【0004】
例えば、該ポリアクリル酸系重合体のハイドロゲルは、その保水性を利用して流体播種用の担体として、あるいは緑化工、節水栽培、砂地栽培の保水用担体として利用されている。
【0005】
しかしながら、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルの場合には、適量を越えると植物の生長に悪影響、特に著しい発根および根の伸長阻害が生じることが明らかになってきた(川島和夫ら、高吸水性高分子物質の作物の初期生長へ及ぼす影響、砂丘研究、31(1)、1−8、1984;非特許文献1)。
【0006】
特に、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルを組織培養用担体、流体播種用担体、緑化工用に使用する場合には植物の幼苗、種子などが高濃度のポリアクリル酸系ハイドロゲルと直接、接触するために著しい発根および根の伸長阻害が生じ使用が大幅に限定されている。また、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルを圃場あるいは露地用の保水用担体として使用した場合でも、保水用担体効果を高めるために根の近辺の濃度を増大すると根の伸長が阻害されることが明らかになっている。
【0007】
上記したポリアクリル酸樹脂からなるハイドロゲルが、植物の生長を著しく阻害した例としては、架橋したポリアクリル酸ナトリウムに蒸留水を吸収させてハイドロゲルを作成し、該ハイドロゲルとキュウリ、インゲンマメの種子を各時間(3、6、9、12、24、48時間)接触させた後、それぞれの種子の発芽および発根状態を観察した実験が報告されている(川島和夫ら、高吸水性高分子物質の作物の初期生長へ及ぼす影響、砂丘研究、31(1)、1−8、1984;非特許文献1)。
【0008】
このような実験の結果、キュウリの種子の場合は、前記ハイドロゲルと36〜48時間接触させると根の伸長が著しく抑制され、インゲンマメの場合も、全く同様に根の伸長阻害が認められたことが報告されている。更には、根のα−ナフチルアミン酸化能も、前記ハイドロゲルと5時間以上、接触させると顕著に低下したとされている。このような植物の生長阻害および機能障害は、この報告においては、該ハイドロゲル中の水分を植物が有効に使用出来ないことによるものであると推定されている。
【0009】
また、ポリアクリル酸ナトリウム架橋物に水を吸収させることによって作成したハイドロゲル上にイネの種子を播種し、発根過程を観察したところ著しい発根障害が認められたことも報告されている(杉村順夫ら、緑化工用資材としての高吸水性ポリマーの利用、緑化工技術、9(2)、11−15、1983)。しかしながら、該ハイドロゲルを水道水で透析処理すると発根障害は認められなかったが、このように蒸留水で透析した場合においても、根の生長回復は認められなかったとされている。これは、この報告においては、水道水のような弱電解質溶液で該ハイドロゲルを水洗または透析処理すると、ハイドロゲルへの水吸引力が弱められ、ゲルから根毛への水の移動が容易になり発根障害が解決すると推定されている。
【0010】
更には、架橋ポリアクリル酸ナトリウムハイドロゲルを混合した土壌中でのダイズの根の伸長程度が、ポリビニルアルコール系ハイドロゲルと比較して顕著に阻害された例も報告されている(中西友子、バイオサイエンスとインダストリー、52(8)、623−624、1994)。これは、該文献においては、ポリアクリル酸ナトリウムハイドロゲル中の水は植物に利用されにくいことによるものと推定されている。
【0011】
上述したように、従来においては、架橋ポリアクリル酸のアルカリ金属塩からなるハイドロゲルの植物の生長が阻害されるのは、該ハイドロゲル中の水が植物に有効利用されないためと考えられてきた。
【0012】
【非特許文献1】砂丘研究、31(1)、1−8(1984)
【非特許文献2】緑化工技術、9(2)、11−15(1983)
【非特許文献3】バイオサイエンスとインダストリー、52(8)、623−624、1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記した従来のハイドロゲル保水用担体の問題点を解消した植物保水用担体を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、従来のポリアクリル酸系ハイドロゲルと同程度の保水性を有し、しかも発根阻害ないしは根の伸長阻害を実質的に生じない植物保水用担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意研究の結果、該ハイドロゲルの根の伸長の阻害が、単に該ハイドロゲル中の水の有効利用性のみに基づくとするには、該ハイドロゲルの影響が過大であることに着目するに至った。
【0016】
本発明は上記知見に基づき更に研究を進めた結果、ハイドロゲル中のカルシウム・イオン吸着能が、該ハイドロゲルに接触する植物体の発根阻害ないしは根の伸長阻害に重大な影響を与えることを見出した。
【0017】
本発明の植物保水用担体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とするものである。ここに、「保水用担体」とは、特に断らない限り「乾燥状態」のものをいう。もちろん、実際の市場等での流通時には、該担体の一部または全部が、その内部に水を保持してなる「ハイドロゲル」
【0018】
状態であってもよい(以下の記載においても、同様とする)。
本発明者は上記の知見に基づき更に研究を進めた結果、上記した「カルシウムイオン吸収量」は、ハイドロゲル形成性高分子の高分子鎖に結合されたカルボキシル基の含有量に大きく影響される場合があることを見出した。
【0019】
本発明の植物保水用担体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明者の実験によれば、上記「ハイドロゲル形成性高分子」が、更にカルボキシル基のカルシウム塩を含有することが、好ましい一態様であることが見出されている。
【0021】
本発明者らは、後述するような実験結果に基づき、従来の「架橋ポリアクリル酸のアルカリ金属塩」からなるハイドロゲルが、カルシウムイオンを中心とした重金属イオンを選択的に吸着するという事実を見出した。換言すれば、本発明者の実験によれば、従来の架橋ポリアクリル酸ハイドロゲルが、農業用用水(井戸水、水道水、河川水、湖水など)中の主としてカルシウムイオンを吸着し、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥るか、あるいは植物体内の主としてカルシウムイオンを該ハイドロゲルが根から直接吸収してしまう結果、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥るものと推定される。
【0022】
植物によるカルシウムイオンの吸収は物理化学的に行われ、外液の濃度が低い場合は吸収されないばかりか、しばしば植物体内より体外に溶出してしまう。このようにして生ずるカルシウムイオン欠乏症では、細胞膜の構造が破壊され、細胞分裂をはじめとして多くの膜構造依存性の重要な機能が停止または遅滞し、外観的には根の伸長が顕著に阻害されるとされている(このようなカルシウムイオン欠乏症の詳細については、例えば、熊沢喜久雄編、植物栄養学大要、p118、(株)養賢堂、1974、を参照することができる)。
【0023】
本発明者らが、後述する「実施例」の表1中に記載したように、種々のカルシウムイオン吸収能を有するハイドロゲルを作製し、種子の発根テストを行ったところ、カルシウムイオン吸収量が保水用担体の乾燥重量1gあたり50mg以上になると、根および茎の著しい生長阻害が認められた。従って、本発明者の知見によれば、従来の架橋ポリアクリル酸の金属塩からなるハイドロゲルの顕著な生長阻害は、ハイドロゲル中の水の性質によるものではなく、該ハイドロゲルが植物体からカルシウムイオンを吸収した結果、植物体にカルシウムイオン欠乏症を引き起していたためと推定される。
【0024】
本発明は、例えば、以下の態様を含む。
【0025】
[1] カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする植物保水用担体。
【0026】
[2] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolの高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0027】
[3] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、該高分子の1000倍量の蒸留水で抽出した液中に残存する全有機物が、化学的酸素要求量(COD)の値として15ppm以下の高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0028】
[4] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、該高分子の乾燥重量1g中に残存する揮発性カルボン酸およびその塩の合計量0.5mmol以下の高分子である[1]記載の植物保水用担体。
【0029】
[5] 高分子鎖に結合されたカルボキシル基を乾燥重量1gあたり3mmol以上有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする[1]記載の植物保水用担体。
【0030】
[6] 前記ハイドロゲル形成性高分子がポリアクリル酸系重合体である[5]記載の植物保水用担体。
【0031】
[7] 更にカルボキシル基のカルシウム塩を含む、[5]または[6]記載の植物保水用担体。
【0032】
[8] 前記ハイドロゲル形成性高分子の表面近傍の架橋率が、その内部の架橋率より高い[1]記載の植物保水用担体。
【0033】
[9] 弱酸性のハイドロゲル形成性高分子からなることを特徴とする植物保水用担体。
【0034】
[10] カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上である[9]記載の植物保水用担体。
【0035】
[11] 前記ハイドロゲル形成性高分子が、0℃以上70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子である[1]または[9]記載の植物保水用担体。
【0036】
[12] 上記保水用担体と、多孔質素材を少なくとも含むことを特徴とする植物保水用担体。
【0037】
[13] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体に、栄養素または/および植物生長調節物質が保持されている植物育成用担体。
【0038】
[14] 内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、[1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用容器。
【0039】
[15] 前記植物保水用担体が、容器の内部に固定して保持されてなる[14]記載の植物体育成用容器。
【0040】
[16] シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、[1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用シート。
【0041】
[17] 前記基材の植物保水用担体が配置された面と反対側の面上に、粘着剤ないし接着剤の層が配置されてなる[16]記載の植物体育成用シート。
【0042】
[18] 1つ以上のセルを形成可能なパーティション形状を有する[16]記載の植物体育成用シート。
【0043】
[19] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13]に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を培養することを特徴とする植物培養方法。
【0044】
[20] 前記植物体の培養中に、前記支持体のpF値を徐々に上昇させることにより該植物体の順化を促進しつつ、該植物体を培養することを特徴とする[19]記載の植物培養方法。
【0045】
[21] [1]、9、11または12のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13]に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【0046】
[22] 前記栽培を、下部が閉鎖された容器内で行う[21]記載の植物体栽培方法。
【0047】
[23] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体と、幼植物とを液体中に分散させつつ、該幼植物の液体培養を行うことを特徴とする幼植物の液体培養方法。
【0048】
[24] [2]記載の植物保水用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を育成させ、カルシウムイオンを前記ハイドロゲル状態の支持体に添加し、該支持体を収縮させて植物体から分離することを特徴とする植物体育成方法。
【0049】
[25] [1]、[9]、[11]または[12]のいずれかに記載の植物保水用担体;または[13に]記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により支持させた植物体を、緑化すべき表面に付着させることを特徴とする緑化工方法。
【0050】
[26] 前記緑化すべき表面が、砂漠の表面、法面、または壁面のいずれかである[25]記載の緑化工方法。
【発明の効果】
【0051】
上述したように、本発明によれば、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体が提供される。
【0052】
更に、本発明によれば、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、且つ、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が、乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体が提供される。
【0053】
本発明の植物保水用担体を用いた場合には、該保水用担体のカルシウムイオン吸収量が少ないため、植物がカルシウムイオン欠乏症に陥ることがなく、またその吸水倍率も充分大きいため、植物に対して充分な水分を供給することができる。
【0054】
更に、本発明によれば、内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とする植物体育成用容器が提供される。
【0055】
更に、本発明によれば、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とする植物体育成用シートが提供される。
【0056】
本発明の植物体育成用容器ないしシートを用いた場合には、該容器ないしシートの植物体側に配置されてなる架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子の特性(水分あるいは栄養素の貯蔵能力、ないしその温度依存性)に基づき、植物体育成用容器の体積を著しく小さくすることができ、根の発生効率の向上、育成面積の縮少、育成用容器の材料量の低減、運搬コストの低減が可能となる。更には、水管理等の省力化による大幅なコスト低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準とする。
【0058】
(保水用担体)
本発明の保水用担体は、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含む。本発明において、上記した「カルシウムイオン吸収量」および「イオン交換水中での吸水倍率」は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0059】
(カルシウムイオン吸収量の測定)
1gの乾燥保水用担体を、カルシウムイオン濃度200mg/L(リットル)
の塩化カルシウム水溶液1Lに添加し、時々攪拌しながら室温(25℃)で2日間(48時間)恒温槽中で放置して、上記の保水用担体を膨潤させつつカルシウムイオンを吸収させる。膨潤した保水用担体を分離し、残存する上清(上記塩化カルシウム水溶液の過剰分)中のカルシウムイオン濃度を原子吸光分析により定量する(Amg/L)。このようにして測定したカルシウムイオン濃度の定量値(A)に基づき、保水用担体1gあたりのカルシウムイオン吸収量は、次式により求められる。保水用担体と上清の分離に際し、未架橋の水溶性高分子が上清中に溶解している可能性があるため、必要に応じて、分画分子量1,000〜3,000程度の限外濾過膜を用いた限外濾過による分離を行うことが好ましい。
【0060】
保水用担体1gあたりのカルシウムイオン吸収量(mg/g)=200−A
【0061】
上記方法により測定された「カルシウムイオン吸収量」が保水用担体の乾燥重量1gあたり50mg以上では、後述する実施例に示すように、該保水用担体に接触する植物体に「カルシウムイオン欠乏症」が生じ易くなる。この「カルシウムイオン吸収量」は、45mg以下、更には40mg以下であることが好ましい。
【0062】
(イオン交換水中の吸水倍率の測定)
乾燥保水用担体の一定量(W1g)を秤取り、過剰量(例えば、前記保水用担体の予想吸水量の1.5倍以上の重量)のイオン交換水(電気伝導度5μS/cm以下)に浸漬し、室温(25℃)で2日間(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体を膨潤させる。余剰の水を濾過により除去した後、吸水膨潤した保水用担体の重量(W2g)を測定し、次式により吸水倍率を求める。
【0063】
吸水倍率=(W2−W1)/W1 上記した方法により測定された「吸水倍率」が100倍未満では、保水用担体の一定量を用いた場合に、植物に充分な水分を供給することが困難となる。この「吸水倍率」は、140倍以上、更には160倍以上であることが好ましい。
【0064】
農業用用水のように比較的塩濃度が低い場合には、ハイドロゲルの吸水倍率を最も有効に向上させる手段としては、ゲル中に解離性のイオン基を導入して、分子鎖を広げると同時に、内部浸透圧を高めることが挙げられる。
【0065】
(ハイドロゲル形成性高分子)
本発明の保水用担体を構成する「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を有し、該構造に基づき(その内部に)水を保持することにより、ハイドロゲルを形成可能な性質を有する高分子をいう。また、「ハイドロゲル」とは、高分子からなる架橋ないし網目構造と、該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水とを少なくとも含むゲルをいう。
【0066】
架橋ないし網目構造中に保持された「分散液体」は、水を主要成分として含む液体である限り、特に制限されない。より具体的には例えば、分散液体は、水自体であってもよく、また、水溶液、および/又は含水液体(例えば、水と一価ないし多価アルコール等の混合液体)のいずれであってもよい。
【0067】
本発明において、上記ハイドロゲル形成性高分子としては、水溶性または親水性高分子化合物を架橋して得られたものを用いることが好ましい。このような架橋された高分子は、水溶液中で吸水し、膨潤はするが溶解しないという性質を有している。上記した水溶性または親水性の高分子化合物の種類、および/又は架橋密度(ないし架橋率)を変化させることによって、吸水率を変化させることが可能である。
【0068】
上記親水性高分子化合物の水溶液が70℃以下の曇点を有する場合、0℃以上70℃以下の温度領域で吸水倍率が温度上昇と共に低下し、且つ該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するするハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0069】
(水溶性または親水性高分子化合物)
本発明において保水用担体を構成するハイドロゲルを与えるべき水溶性または親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリ−N−n−プロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、ポリN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩などがあげられる。
【0070】
(架橋)
上記したような高分子化合物に架橋構造を付与ないし導入する方法としては、該高分子化合物を与えるべき単量体を重合する際に架橋構造を導入する方法と、該単量体の重合終了後に架橋構造を導入する方法とが挙げられるが、本発明においては、これらのいずれの方法も使用可能である。
【0071】
前者の(単量体重合時の架橋導入)方法は、通常、二官能性単量体(あるいは3以上の官能基を有する単量体)を共重合することにより実施可能である。例えば、N,N´−メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチルジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の二官能性単量体が好適に使用できる。
【0072】
後者の(単量体重合終了後の架橋導入)方法は、通常、光、電子線、γ線照射等により分子間に架橋を形成することにより実施可能である。
【0073】
また、このような後者の方法は、例えば、高分子化合物中の官能基(例えばアミノ基)と結合しうる官能基(例えば、イソシアネート基)を分子内に複数個有する多官能性分子を架橋剤として用いて、該高分子化合物を架橋させることによっても実施可能である。
【0074】
本発明におけるハイドロゲル形成性高分子の吸水率は、上記の架橋構造、特に架橋密度に依存し、一般に架橋密度が低い程、吸水率が大きくなる傾向がある。
【0075】
このような「架橋密度」は前者の方法においては、例えば、二官能性単量体の共重合比を変えることで、後者の方法においては、例えば、光、電子線、γ線等の照射量を変えることで、任意に所望の程度に制御することが可能である。
【0076】
本発明においては、架橋密度は、全単量体に対する分岐点のモル比で、約0.02mol%〜約10mol%、更には約0.05mol〜約4mol%の範囲にあることが好ましい。前者の(重合時の架橋導入)方法により架橋構造を導入する場合、二官能性単量体の全単量体(該二官能性単量体自体をも含む)に対する共重合重量比は、約0.03wt.%〜約3wt.%(更には約0.05wt.%〜約1.5wt.%)の範囲であることが好ましい。
【0077】
本発明において架橋密度が約10mol%を越える場合には、本発明のハイドロゲル形成性高分子の吸水倍率が小さくなるために、本発明のハイドロゲル形成性高分子の保水用担体としての効果が小さくなる。一方、架橋密度が約0.02mol%未満の場合には、該ハイドロゲル形成性高分子の機械的強度が弱くなり、取扱いが困難になる。
【0078】
上述したような架橋密度(全単量体に対する分岐点のモル比)は、例えば、13C−NMR(核磁気共鳴吸収)測定、IR(赤外吸収スペクトル)測定、または元素分析によって定量することが可能である。
【0079】
更に、本発明の保水用担体を構成するハイドロゲル形成性高分子において、表面近傍の架橋密度をその内部の架橋密度よりも高くする(いわゆる「表面架橋」を導入する)ことによって、該ハイドロゲル形成性高分子における高い吸水倍率と高い機械的強度とのより良好なバランスを得ることもできる。このような態様においては、表面近傍の比較的架橋密度が高い部分が、主に、高い機械的強度(および担体粒子相互間の非粘着性の向上)に寄与し、他方、内部の比較的架橋密度が低い部分が、主に、高い吸水倍率に寄与することができる。これにより、吸水倍率を実質的に低下させることなく、良好な機械的強度および粒子相互間の良好な非粘着性を実現することが容易となる。
【0080】
上記した態様における表面近傍の最も高い架橋密度Dsと、粒子内部の最も低い架槁密度Diとの比(Ds/Di)は、吸水倍率と機械的強度とのバランスの点からは、2〜5程度、更には5〜10程度(特に10〜100程度)であることが好ましい。
【0081】
上記の表面近傍の架橋密度と粒子内部の架橋密度の測定は、例えばX線電子分光法ESCA(XPS)、電子プローブ微量分析法EPMA、減衰全反射法ATR、二次イオン質量分析法SIMS(飛行時間型SIMS(TOF−SIMS)等)、等の局所分析法によって架橋剤の存在比を表面近傍と粒子内部それぞれについて求めることによって行うことができる。
【0082】
本発明の植物保水用担体において、該担体を構成するハイドロゲル形成性高分子が高い機械的強度を有する場合、個々の担体粒子間に適当な空隙を保持することが容易となり、該空隙の存在によって植物の根への酸素供給性を更に向上させることが可能となる。
【0083】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子表面架橋を導入する方法は特に制限されず、例えば、従来公知の種々の方法(ないしは該方法の2以上の組み合わせ)が利用可能である。
【0084】
特に、本発明のハイドロゲル形成性高分子が、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基と反応しうる官能基を少なくとも2個以上有する架橋剤を用いて、該高分子の微粒子の表面近傍を架槁する方法が好適に用いられる。そのような架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどに代表されるエポキシ化合物(特開昭57-44627号)、グリセリンなどに代表される多価アルコール(特開昭58-180223号)、多価アミン化合物、多価アジリジン化合物もしくは多価イソシアネート化合物(特開昭59-189103号)、アミノ基を有する多価エポキシ化合物(特開昭63-195205号)、エピハロヒドリンとアンモニア、エチレンジアミンなどの低分子1級アミンとの反応物(特開平2-248404号)、多価アジチジニウム塩基化合物(特開平6-287220号)などが挙げられる。
【0085】
上記架橋剤の分子量が小さい場合には該架橋剤がハイドロゲル形成性高分子の内部に浸透し易く、表面近傍のみの架橋に止まらずに架橋が内部まで達する傾向が強くなる場合がある。このような観点からは、上記架橋剤の分子量は重量平均分子量で1,000以上であることが好ましく、10,000〜100,000であることが更に好ましい。
【0086】
ハイドロゲル形成性高分子の表面を上記架橋剤で架橋する手法としては、水を含有したアルコール類、ケトン類、エーテル類等の多量の低沸点有機溶媒中に、表面架橋すべきハイドロゲル形成性高分子を分散させ、上記の架橋剤を加えて架橋する方法(特開昭57−44627号);含水率を10〜40wt%に調節したハイドロゲル形成性高分子の含水物に架橋剤を添加して架橋する方法(特開昭59-62665号);無機質粉末の存在下に、架橋剤および水をハイドロゲル形成性高分子に吸収させ、次いで撹拌下に加熱して、架橋反応と水の除去とを同時に行う方法(特開昭60-163956号);ハイドロゲル形成性高分子1重量部に対し、水1.5〜5.0重量部および不活性な無機質粉末の存在下、沸点100℃以上の多量の親水性不活性溶剤中に分散させて架橋する方法(特開昭60-147475号);ハイドロゲル形成性高分子を1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、有機酸の1価塩およびラクタム類のいずれかを含有する水溶液および架橋剤で処理し、且つ反応させる方法(特開平7-33818号)などを用いることができる。
【0087】
(高分子中の有機物残存量)
本発明の保水用担体により育成すべき植物体への悪影響(例えば、生長の抑制、根端壊死、葉枯れ等)を抑制する点からは、上記した「ハイドロゲル形成性高分子」中に残存する有機物は、可能な限り少量であることが好ましい。より具体的には、本発明に用いるハイドロゲル形成性高分子から溶出しうる全有機物(還元性物質)は、該高分子の1000倍量の蒸留水で抽出した液中に残存する全有機物が化学的酸素要求量(COD)の値として15ppm以下、更には10ppm以下(特に5ppm以下)であることが好ましい。この「COD」は、例えば下記の「過マンガン酸カリウム法」により、好適に測定可能である。
【0088】
(高分子中の遊離カルボン酸(塩)残存量)
また、本発明に用いるハイドロゲル形成性高分子乾燥重量1g中に残存する酢酸(ないし酢酸塩)に代表される遊離の(揮発性の)カルボン酸(塩)の量は、0.5mmol以下、更には0.3mmol以下(特に0.1mmol以下)であることが好ましい。この「カルボン酸」は、例えば、下記の「水蒸気蒸留法」により、好適に測定可能である。
【0089】
(過マンガン酸カリウム法)
1gの乾燥保水用担体を、1000gの蒸留水に浸漬し、室温(25℃)で2日間攪拌しながら(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体中に残存する有機物(還元性物質)を抽出する。上清100mlを採取して9N硫酸5ml、N/80過マンガン酸カリウム溶液20mlを加えて5分間煮沸、N/80シュウ酸溶液20mlを加えてシュウ酸の過剰をN/80過マンガン酸カリウム溶液で滴定(Bml)する。化学的酸素要求量(COD)は次式で算出する。
COD(ppm)=B(水蒸気蒸留法)
【0090】
1gの乾燥保水用担体を、1000gの蒸留水に浸漬し、室温(25℃)で2日間攪拌しながら(48時間)恒温槽中に放置して、前記保水用担体中に残存する遊離のカルボン酸(塩)を抽出する。上清100mlを採取して85%リン酸10mlを加えて水蒸気蒸留を行い、留出液をフェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液で滴定(Cml)する。1gの乾燥保水用担体中に残存する遊離(揮発性)のカルボン酸(塩)はC/10(mmol)として求められる。
【0091】
(カルボキシル基を有する高分子)
植物体の保水に好適なカルシウムイオン吸収量を有し、しかも好適な「イオン交換水中での吸水倍率」を有するハイドロゲル形成性高分子の好適な一態様として、例えば、高分子鎖に結合されたカルボキシル基を有し、該高分子鎖が架橋されたハイドロゲル形成性高分子であって、該カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が1gあたり0.3〜2.5mmolであるハイドロゲル形成性高分子を挙げることができる。この「カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量」は、0.5〜2.0mmol(特に、1.0〜1.5mmol)であることが好ましい。このような「カルボキシル基を有する高分子」も、上記したような残存「有機物量」および/又は「カルボン酸量」を有することが好ましい。上記「カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量」は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0092】
(カルボキシル基塩の含有量の測定方法)
0.2gの乾燥保水用担体を、白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、1N塩酸5mlで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光分析により陽イオン濃度(DmM)を求める。乾燥保水用担体1g中のカルボキシル基塩の含有量はD/4(mmol)として算出される。
【0093】
「ポリアクリル酸のアルカリ金属塩の架橋物」からなる従来のハイドロゲルは、非イオン性の親水性高分子架橋物からなるハイドロゲルと比較して著しく高い吸水倍率を有し、この高吸水倍率がゆえに従来、農業分野で保水用担体として使用されてきた。しかしながら本発明の実験によれば、従来より農業用用途として開発されてきたポリアクリル酸のアルカリ金属塩の架橋物からなるハイドロゲルにおいては、解離性のイオン基の導入量が非常に高く(例えば、アクリル酸のアルカリ金属塩の導入量が乾燥樹脂1gあたり約6mmol以上)、上記したように植物の生長に必須であるカルシウムイオンなどの重金属イオンを吸着してしまい、植物生長を著しく阻害する傾向があった。
【0094】
これに対して、本発明者の実験によれば、解離性のイオン基(例えばカルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩)を乾燥保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmol導入した場合には、植物に対してカルシウムイオン欠乏症を生じさせることなく植物を育成させるに充分な保水効果(イオン交換水中での吸水倍率が100倍以上)を示すことが見出された。
【0095】
ここで解離性のイオン基としてはアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が望ましく、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩が望ましい。植物の影響を考慮すれば、必須栄養源として植物に吸収されるカリウム塩およびアンモニウム塩が好ましい。カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり、0.3mmol未満では、保水用担体の吸水倍率を100倍以上とすることが困難である。一方、カルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が2.5mmolを超えると、カルシウムイオン吸収量が乾燥保水用担体1gあたり50mg以上となり易くなる。
【0096】
(単量体)
上記ハイドロゲル形成性高分子は例えば、カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を有する単量体(I)と、親水性単量体(II)および架橋性単量体(III)の三元共重合によって得ることができる。
【0097】
ここで単量体(I)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を挙げることができる。これらは単量体の塩として重合しても良いし、カルボン酸として重合後に中和により塩としても良い。ただし、その含有量を、保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように設定することが好ましい。
【0098】
親水性単量体(II)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルアセトアミドなどを挙げることができる。ここでカルボン酸を含む単量体を親水性単量体(II)として使用する場合には、ハイドロゲルのpHが低くなる傾向があるので、その場合カルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量を1gあたり1.0〜2.5mmolとすることが望ましい。
【0099】
また、このような場合には、カルボン酸を含む単量体の一部をカルシウム塩として共重合させても良い。本発明者の知見によれば、このカルシウム塩型単量体は、保水用担体のカルシウム吸収量を低減させる効果、およびpH低下を回避する効果のみならず、重合を促進する効果が認められた。
【0100】
架橋性単量体(III)としては、N,N′-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N′-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどを例示できる。架橋性単量体(III)の使用量は、(重合濃度にもよるが)全単量体に対して通常0.01〜5mol%の範囲、更には0.1〜1mol%の範囲であることが好ましい。この使用量が0.01mol%未満では、保水用担体の強度が不足する傾向がある。他方、この使用量が5mol%を超えると、保水用担体としての吸水倍率を100倍以上とすることが困難となる。
【0101】
また、上記ハイドロゲル形成性高分子は、酢酸ビニルと無水マレイン酸の共重合物、酢酸ビニルとアクリル酸(塩)の共重合物などのケン化反応によっても得ることができる。得られる高分子化合物はポリビニルアルコール系重合体となるが、重合体に結合したカルボキシル基のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の含有量が乾燥重量1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように調製すれば、カルシウムイオン吸収量が保水用担体1gあたり50mg未満、かつイオン交換水中での吸水倍率が100倍以上である本発明の植物保水用担体とすることができる。
【0102】
(カルシウムイオン処理)
上記ハイドロゲル形成性高分子は、市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂を強酸あるいはカルシウムイオンで処理することによっても得ることができる。市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂は一般に高分子鎖に結合したカルボキシル基の半分以上がアルカリ金属塩となっており、その含有量は樹脂1gあたり約6mmol以上である。そのため樹脂1gあたりのカルシウムイオン吸収量は120mg以上となり、植物保水用担体として適していない。
【0103】
本発明において、「ハイドロゲル形成性高分子」が「カルボキシル基のカルシウム塩」を含有する場合、該カルシウム塩の含有量は、「ハイドロゲル形成性高分子」の乾燥重量1gあたり0.1mmol以上(更には1.0〜3.0mmol程度)であることが好ましい。このような「カルボキシル基のカルシウム塩」の含有量は、例えば、以下の方法により好適に測定可能である。
【0104】
(カルボキシル基カルシウム塩の含有量の測定方法)
0.2gの乾燥保水用担体を、白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、1N塩酸5mlで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光分析によりカルシウムイオン濃度(EmM)を求める。乾燥保水用担体1g中のカルボキシル基カルシウム塩の含有量はE/2(mmol)として算出される。
【0105】
このような市販のポリアクリル酸塩系高吸水性樹脂に塩酸、硝酸、硫酸などの強酸あるいは、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなどのカルシウムイオン水溶液を加えると、該高吸水性樹脂中のカルボキシル基のアルカリ金属塩がカルボン酸あるいはカルボキシル基のカルシウム塩に置換されるので、強酸やカルシウムイオンの添加量を適切に設定すれば、重合体に結合したカルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり0.3〜2.5mmolとなるように調整することができ、カルシウムイオン吸収量が乾燥保水用担体1gあたり50mg未満、かつイオン交換水中での吸水倍率が100倍以上である本発明の植物保水用担体とすることができる。
【0106】
ただし、カルボキシル基をカルボン酸に置換する場合には、ハイドロゲルが酸性となる傾向が強いので、特にこの場合はカルボキシル基のアルカリ金属塩の含有量が乾燥保水用担体1gあたり1.0〜2.5mmolとなるように調整することが望ましい。
【0107】
(植物保水用担体のpH)
従来より、ハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体は、そのpH(水素イオン濃度)が中性から弱アルカリ性であった。これは、本発明者らの知見によれば、該高分子合成の際の反応条件等に基づくものと推定される。
【0108】
これに対して、本発明者らは、ハイドロゲル形成性高分子を含む植物保水用担体であっても、植物が好適に生育する環境を与えるためには、該植物保水用担体のpHは、通常、弱酸性が好ましいことを見いだした。
【0109】
一般に、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルの場合、高分子組成中の水素イオン濃度が高い(酸性側に傾く)ほど、該高分子のカルシウム吸収量が少なくなる傾向を有する。したがって、この高分子のカルシウム吸収が植物に悪影響を及ぼしにくくする点からも、本発明の植物保水用担体のpHは、弱酸性の範囲にあることが好ましい。
【0110】
さらに、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルは、通常、バッファー(緩衝)効果をも有するため、このバッファー効果の点からも、カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲルは、植物の生育に好適なpH維持に有利である。
【0111】
植物保水用担体の好適なpHは、植物の種類によって若干異なる場合もあるが、通常、pH3〜6.5(更にはpH4〜6)程度であることが好ましい。特に、組織培養に用いる培養液はpH5.7〜5.8に調整するのが一般的であるため、ハイドロゲルのpHも5.7〜5.8であることが望ましい。
【0112】
カルシウム吸収量を低減するためには、カルボキシル基中のカルボン酸型の割合を、アルカリ金属ないしアンモニウム塩型に対して高く設定すればよい。しかしながら、この酸型の割合が高すぎると、保水剤のpHが下がりすぎたり、あるいは該保水剤の膨潤率が低下する傾向がある。カルボキシル基中のカルシウム塩の割合を高めたり、あるいは高分子中のカルボキシル基の含有量を低下させる(非イオン性部分を多くする)ことにより、上記のようなpHないし膨潤率低下のデメリットを解消ないし緩和することが可能である。
【0113】
(ハイドロゲル形成性高分子を用いる植物培養方法)
従来より、組織培養用支持体として寒天ゲルが一般的に用いられてきたが、水分過剰で、かつ、空隙が殆ど存在しない状態で根が生育するため、圃場栽培段階で生長する根とは異なる形態の根が伸長し、根の培養容器内順化が不可能であった。さらに、寒天ゲルは蒸発や植物の吸収により水分を一度放出すると殆ど再吸水しないため、容器内で結露した水や離水した水が寒天ゲルに吸収されず、このため根の順化に悪影響を及ぼす場合があった。
【0114】
本発明者の知見によれば、この様な寒天ゲルの問題は、寒天が、そのゲル化後にはそれ以上の吸水をしないこと、一度放出した水を殆ど再吸水しないこと、および保持している水の吸引力が弱いことに起因すると推定される。本発明においては、このようなゲルの保水性は、例えばpF値で表すことが可能となる。
【0115】
ここに、pF値(Potential of Free Energy:水分吸引圧)とは、支持体の保水性を表す値であり、その詳細については、例えば土壌通論(高井康雄、三好洋 共著、朝倉書店、1977年、p88〜89)を参照することが可能となる。
【0116】
本発明において、植物が吸収可能な水は、通常は、毛管連絡切断点(pF約2.8)以下であることが好ましく、更に、圃場栽培で植物が好適に生長するためにはpF2.3以下が好ましい。また、pF1.8以下の水(重力水)は、植物が吸収可能であるものの、下部開放系の容器では容器外に流出する傾向がある。
【0117】
下部が閉鎖系の容器または閉鎖的な容器の場合には、この重力水は容器下部の支持体中に滞留して、根腐れを起こす場合がある。有用植物の一般的な組織培養では、容器を閉鎖系にし、且つ、支持体として寒天ゲルを用いるため、培養期間中のpF値は殆ど0となる。
【0118】
一方、ハイドロゲル形成性高分子は、平衡吸水率に到達していない場合、ゲル粒子の周囲の水分を吸収する傾向がある。本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を培養用支持体として用いた場合には、培養中の容器外への水分蒸発や、植物の生長にともなう水分吸収によってゲル中に含まれる水分が徐々に少なくなる(pF値が上昇する)ため、培養中に自動的に水ストレス順化を行うことが可能となる。また、ハイドロゲル形成性高分子がゲル粒子の形状を有する場合には、上記pF値の上昇により、該ゲル粒子の外側の空隙が拡がるため、植物の生長に伴い酸素の供給量も増加させることが可能となる。
【0119】
更には、本発明においてハイドロゲル形成性高分子を用いた場合、容器内で結露した水や離水した水(これらは、根の順化に悪影響を及ぼす場合が多い)も、該ハイドロゲル形成性高分子が吸収可能である。したがって、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を支持体として用いた場合、培養段階で植物の生長につれて、自動的に根を順化させることが可能となり、圃場栽培段階移行後も植物体を順調に生長させることが可能となる。
【0120】
ハイドロゲル形成性高分子を組織培養用支持体として用いる他の利点は、容器内空間を充分に活用できることである。植物支持体中の物理環境は液相、気相、固相の3相に分けられるが、ハイドロゲル形成性高分子が液相と固相を兼ねるため、単位体積あたりの養水分量を多量に確保できる。
【0121】
ハイドロゲル形成性高分子を組織培養用支持体として用いる他の利点は、培養途中に追肥が好適に行える点にある。この場合には、植物を埋没させることなく、供給した培養液をハイドロゲル形成性高分子に吸収させることができる。
【0122】
(ハイドロゲル形成性高分子を含む支持体中の空隙)
ハイドロゲル形成性高分子の強度が低い場合はゲルが変形し、ゲル粒子間の空隙が少なくなる傾向があるため、該ゲルにパーライトなどの多孔体を混合し空隙を確保してもよい。また、ハイドロゲル形成性高分子の強度を高めてゲル粒子間の空隙を形成させてもよい。ゲル強度を高めるためには架橋密度を高めたり、表面架橋を施すなどの方法が可能である。
【0123】
この場合、混合する多孔体はパーライト、バーク、スポンジ、水苔等の公知のものが特に制限なく使用可能であるが、ハイドロゲル形成性高分子の特徴である制菌性(特願平6−139140号;PCT/JP95/01223を参照)をより効果的に発揮させるためには、腐蝕する可能性のある天然有機物よりもパーライトなどの無機多孔体を用いることが好ましい。
【0124】
(液体培養へのハイドロゲル形成性高分子の利用方法)
ハイドロゲル形成性高分子は液体培養にも好適に使用可能である。従来の液体培養においては、液体培養中の幼植物攪拌時における細胞集塊の壁面への衝突や、細胞集塊同士の衝突、さらに、これらの物理的ダメージで細胞が産生する褐変物質による植物細胞の増殖率低下が問題となっていた。
【0125】
これに対して、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子粒子を液体状態が維持できる範囲内で液体培養系に混合した場合には、ゲル粒子がクッションとなり、褐変物質の産生を抑制したり、増殖率を高めたり、細胞集塊を大きくすることが可能となる。
【0126】
液体に対するハイドロゲルの体積は、0.5〜90%、より好ましくは1〜60%、さらに好ましくは5〜40%である。
【0127】
液体培養には三角フラスコの回転振とう培養やファーメンター培養、大型タンク培養等が挙げられる。
【0128】
(種子の発芽および発芽勢テスト)
保水用担体の植物に及ぼす影響を評価するためには、農業用用水を吸収した保水用担体(ハイドロゲル)を培地として、種子の発芽および発芽勢試験を行うことが好ましい。種子材料としては、例えば、短期的な発芽および発芽勢試験が容易なカイワレ大根の種子(例えば、発売元、タキイ種苗株式会社のもの)を、農業用用水として一般的な地下水組成(表2)の合成水を上記試験に用いることができる。
【0129】
種子の発芽および発芽勢試験は、例えば、以下のようにして行うことができる。
上記した合成水16mLと、各種保水用担体160mg(1重量%)を試験管(直径2.5cm)高さ15cm)に入れ、充分攪拌後25℃で30分間放置し、農業用用水を吸収した保水用担体からなるゲル状培地を調製する。上記カイワレ大根の種子を、各試験管内のゲル状培地表面に5粒ずつ均一に播き、直径6mmの穴に綿を詰めたシリコン栓で蓋をする。このように蓋をした試験管を、培養室(25℃、2000Lux、16時間日長)で4日間培養し、発芽率(発芽した種子数/5(粒)×100(%))を調査する。
【0130】
上記の発芽および発芽勢試験においては、種皮が裂け、双葉が展開した場合を発芽とし、それ以外は非発芽とする。また、地上部の長さは、発芽した個体の基部(根と茎の分岐点)から葉先までの平均茎葉長として測定し、地下部の長さは、発芽した個体の基部から主根の先端までの平均根長として測定し、さらに根の先端等の外観を観察する。
【0131】
(保水用担体の使用方法)
本発明の保水用担体は、単独で使用してもよく、また、必要に応じて「他の植物体育成用担体」とともに用いてもよく、また、「他の植物体育成用担体」の種類、使用割合等は特に制限されない。このような「他の植物体育成用担体」としては、例えば、土壌あるいは礫、砂、軽石、炭化物、ピート、バーミキュライト、バーク、パーライト、ゼオライト、ロックウール、スポンジ、水苔、ヤシガラ、クリプトモス等が、単独で、あるいは必要に応じて2種以上混合して、好適に使用可能である。
【0132】
本発明の保水用担体を用いて植物体を育成する場合は、上記した土壌等からなる「他の植物体育成用担体」に対して、本発明のハイドロゲルないし高分子からなる保水用担体を、混合割合が乾燥時の重量パーセントで0.1〜10wt.%程度(更には0.3〜3wt.%程度)となるように混合することが好ましい。
【0133】
このように本発明の保水用担体と、「他の植物体育成用担体」とを併用する場合、上記のように混合して使用する場合の他、「他の植物体育成用担体」の表面部分および/又は該担体の内部に、本発明の保水用担体からなる層を1層以上配置してもよい。
【0134】
(ハイドロゲル形成性高分子を用いる植物栽培方法)
従来の開放型容器栽培(鉢、セルトレー、プランター等)は灌水前後、水分量や養分濃度が急激に変動するため、水管理は困難であった。灌水直前は、乾燥による土壌内肥料の高濃度からくる根への障害、水分不足による植物のしおれが問題となり、他方、灌水直後は、余分な水分の鉢内への滞留、酸素不足による根腐れが問題となる。特に、灌水直前の肥料濃度の極端な上昇は、これを回避するために肥料の絶対量を低く設定しなければならず、本来の植物の生長が抑制される原因にもなっている。
【0135】
近年急激に需要が増大している野菜などのセル成型苗生産も、上述の問題を抱えている。このようなセル成型苗の場合、個々のセルの容積が比較的小さいため、養分濃度、水分量が急激に変動しやすくセル毎の均一な管理を難しくしている。
【0136】
本発明においては、この様な植物根周辺の物理環境の問題は、前述のpF値(水分吸引圧)で表すことが可能となる。植物が吸収可能な水はpF約2.8以下であるが、植物が好適に生長するためにはpF2.3以下が好ましい。pF1.8以下の水は植物が吸収可能であるものの、重力水であるため根圏外に流出する可能性が高い。逆に、根圏の排水が悪い場合は根周辺に滞留して根腐れを起こす場合がある。
【0137】
本発明者らの知見によれば、従来の方法で培養された植物体は根が順化されておらず、しかも、圃場栽培段階の新しい支持体(バーク等)と根とが充分にフィットしない(接触面積が小さい)ため、植物の初期生長に必要な養水分吸収が充分でなかったものと推定される。本発明者によれば、種子の発芽率低下およびその後の生育阻害も、種子または発芽後の根と支持体との接触面積が少ないことによると推定される。根付きの培養苗を圃場栽培に移行する際、従来使用されている支持体では固かったり、流動しないため根を傷めており、また、従来の支持体では差込移植も不可能であった。
【0138】
これに対して、本発明のハイドロゲル形成性高分子を使用した場合には、単位容積当たりの水分量を多量に確保できるため、容器内の養分濃度変動幅が少なくなり、植物の伸長阻害が飛躍的に減少する。また、本発明のハイドロゲル形成性高分子は余分な水分を完全に吸収するため、根が腐りにくくなり、しかも養水分管理も簡単になる。特に、灌水前後の養分濃度変動幅の減少により、肥料の絶対量を飛躍的に多くすることができるようになり、植物の一層の生育促進が可能となる。したがって、本発明によれば、容器の容積が比較的小さいセル成型苗生産に関してもセル毎の均一な管理が簡単になる。
【0139】
また、植え替え直後の植物体、種子、および発芽後の根も、ハイドロゲル形成性高分子とより容易にフィット(接触面積が増大)でき、植物体の初期生長がスムーズに行われる。さらに、本発明のハイドロゲル形成性高分子からなるハイドロゲルは比較的柔らかく流動性が良好であるため、根を傷めずに移植することが可能となる。この様なハイドロゲルの特性により、差込移植も簡単なものとなる。特にランの一属であるコチョーラン、シンビデューム等は根が太く、根毛が殆どないが、この様な植物種であっても、本発明によれば移植が極めて簡単となる。
【0140】
(支持体の流亡阻止方法)
容器下部が開放型の場合、灌水などによる支持体(ハイドロゲルや該ハイドロゲルを含む植込材料等)の流亡を阻止することが重要となる。これを防止するための対策としてはハイドロゲル形成性高分子の粒子を大きくしたり粘着性を増加させることが効果的である。粘着性を増加させる方法としては、ハイドロゲル形成性高分子の架橋密度を減少させる方法などが利用可能である。
【0141】
(植物の立ち上がり抑制方法)
根が太く丈夫な植物種の場合、根が伸長し容器の底面に到達すると容器上部に持ち上げられてしまう場合(いわゆる「立ち上がり」現象)がある。これを防止するための対策としては、ハイドロゲル形成性高分子の粘着性を増加させることが効果的である。粘着性を増加させる方法としては、架橋密度を減少させる方法などが利用可能である。
【0142】
(植物工場用支持体)
従来より、いわゆる「植物工場」(露地栽培などの自然環境下でない、人工環境下での植物育成系)では、これまでミスト栽培や、腰水灌水栽培などが行われていたが、灌水設備に莫大な投資が必要であった。
【0143】
本発明のハイドロゲル形成性高分子をこのような「植物工場」用の植物支持体、水分供給媒体として用いた場合には、灌水設備が簡単になり、植物生育系の単純化、コスト低減が可能となる。
【0144】
(露地栽培)
従来の露地栽培においても、従来の容器栽培と同様の問題があった。すなわち、露地栽培は、自然条件に左右されるため、降雨前後の養分濃度、水分量、pF値が急激に変動し、植物栽培が困難であった。特に、降水量の少ない地域は、しばしば干ばつなどの被害に遭遇していた。
【0145】
これに対して、本発明のハイドロゲル形成性高分子を露地栽培に用いた場合には、上述したように該ハイドロゲル形成性高分子が、養分濃度、水分量、pF値等の急激な変動のバッファーとして作用するため、植物栽培をよりマイルドな条件下で行うことが可能となる。
【0146】
(緑化工)
砂漠緑化、法面緑化、壁面緑化等に関しては、基礎となる支持体が砂、土壁、コンクリートなどであるため、保持している水分量が非常に少なく、また、水分保持能力が非常に低い。この様な状態から植物生育または種子発芽の初期段階をスムーズに行うには、保水性が非常に高く、また、養分濃度、水分量、pF値等の急激な変動のバッファーとして作用する、本発明のハイドロゲル形成性高分子の使用が非常に効果的である。
【0147】
法面緑化に関しては、斜面へのコンクリート吹き付けと同様の工法で、本発明のハイドロゲル形成性の高分子を用いる緑化種子流体播種が可能である。特に、地表面に岩石などが露出し平面でない山肌や斜面の緑化は、ネット播種等の工法では法面へのネットと種子の接着率が少なくなる傾向があった。本発明のハイドロゲル形成性の高分子を用いる緑化種子流体播種を用いれば、ハイドロゲルに含有された種子を均一に吹き付けられるため、ハイドロゲルおよび該ハイドロゲルに含有された種子と法面の接着率が高まり、種子の発芽率を高め、発芽後の植物の生長を促進する。
【0148】
(空間栽培)
ラン科植物の一属であるバンダ等の着性植物は自然状態では樹などに付着して空間に根を垂らし、霧や雨などの水分を吸収する。この様な植物種を空間で人工的に栽培する場合は、乾燥を防ぐため灌水頻度を多くしなければならない。このような場合、本発明のハイドロゲル形成性高分子で上記着性植物の根周辺を覆いつつ栽培することにより、乾燥を長時間防ぎ、且つ灌水の頻度をも低減することが可能となる。
【0149】
(無重量状態での空間浮遊栽培)
人口増加、食糧難の時代を迎え、宇宙空間での植物栽培が検討されている。宇宙空間は無重量状態であるため、宇宙ステーションなどの無重量空間にハイドロゲル形成性高分子を主体とした植物支持体を浮遊させ植物を植え付けて栽培することにより、立体的な栽培が可能となり、単位体積当たりの植物生産を飛躍的に増大することが可能となる。
【0150】
(植物体の移植方法)
植物を移植する際、根に本発明のハイドロゲル形成性高分子を付着させて移植することにより、初期の乾燥を防止することができ、活着率を増大させたり、初期生長を増大することが可能となる。このような移植方法は、特に、花野菜苗木や木本類苗木、芝の移植、成木の移動などに有効である。
【0151】
(膨潤ハイドロゲル形成性高分子の収縮方法)
水中で膨潤状態(ゲル状態)にあるカルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子は、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより急激に収縮させることができる。このような「ゲル収縮」の使用例ないし応用例を、以下に述べる。
【0152】
(1)組織培養した植物体を圃場栽培に移行する際、糖が雑菌繁殖の原因となるため、カルシウム添加によってゲルを収縮させ、ゲル中の糖をデカンテーション、水洗等により除去する。
【0153】
(2)苗等の植物体を出荷する際、植物周辺の水分が多いと輸送中に根傷みを起こす。また、水分が多いと重くなり輸送コストが高くなる。これらを防止するため、カルシウム添加によってゲルを収縮させゲル中の水分を除去する。
【0154】
(3)植物の植え替えの際、新しい支持体と根への接触面積を増大させるため、カルシウム添加によってゲルを収縮させてから、新しい支持体を根周辺に配置して、植え替えをスムーズに行う。
【0155】
(4)容器内で育成した植物の植え替えの際、カルシウム添加によってゲルを収縮させ体積を減少させると共に、水分をゲル中から放出させることによって、容器中から植物体を取り出し易くする。
【0156】
(藻類等の繁殖の抑制方法)
鉢上部等に繁殖する藻類は植物育成用に供給した養分を吸収するため、このような藻類の繁殖は出来る限り抑制することが望ましい。この場合に使用可能な抑制方法の例を、以下に述べる。
【0157】
(1)植物保水用担体表面を光を遮断するアルミなどのシートで覆う。
(2)植物保水用担体表面に光を遮断する活性炭等をまく。
(3)ハイドロゲル形成性高分子自体を顔料などで黒化させる。
(添加剤)
本発明の植物体栽培用支持体、土壌改質剤、容器ないしシートを構成するハイドロゲル形成性高分子の架橋構造中には、必要に応じて、少なくとも水が保持されてハイドロゲルが形成されているが、該ハイドロゲルないし高分子中には、必要に応じて、他の添加剤を添加してもよい。このような目的でハイドロゲルないし高分子内部に含有させる添加剤としては、通常の露地ないし施設内(温室等)
【0158】
における植物栽培において通常使用可能な公知の添加剤を、特に制限なく使用することが可能である。
【0159】
このような公知の添加剤としては、各種の植物用栄養素、栄養素以外の植物体の栽培に関与する物質(植物生長調節物質、植物形態調節物質(矮化剤等))、あるいは農薬(除草剤、殺虫剤、殺菌剤等)が挙げられる。
【0160】
(栄養素)
必要に応じて本発明のハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させることが可能な栄養素としては、N、P、K、Ca、Mg、S等の多量元素、および/又はFe、Cu、Mn、Zn、Mo、B、Cl、Si等の微量元素が挙げられる。
【0161】
これらの栄養素を該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させる方法としては、例えば尿素、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、リン酸第二水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄等の水溶液を上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子自体を浸漬して膨潤させ、結果として生成したハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子中に、所望の栄養素を吸収させる方法等が挙げられる。
【0162】
(植物生長調節物質等)
上記した栄養素以外の植物体の栽培に関与する物質として、植物生長調節物質、植物形態調節物質等、あるいは農薬(除草剤、殺虫剤、殺菌剤等)をも、必要に応じて上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子中に含有させてもよい。
【0163】
(添加剤の含有方法)
上記した各種の添加剤をハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に含有させる方法としては、該添加剤の水溶液中に該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を浸漬して該水溶液を吸収させて、ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を生成させる方法が挙げられる。また、例えばイナベンフィド、ウニコナゾールのように水への溶解度が著しく低い植物形態調節物質(矮化剤)を用いる場合には、該植物形態調節物質が可溶で且つハイドロゲルないし高分子が膨潤する有機溶媒を用いて、該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子内部に、該植物形態調節物質を実用的な濃度で含有させることも可能である。
【0164】
(半閉鎖生態系植物育成)
自然界では、植物が光合成を行い、動物が植物を食し、動物の排泄物や動植物の死骸を微生物が分解、分解物を植物が栄養源として吸収するという物質循環生態系が機能している。一方、化学肥料や農薬などを大量に使用する作物栽培は生物の物質循環機能を抑制しているため、半閉鎖生態系といえる。近年、無菌培養によるクローン苗生産や植物工場での野菜生産が商業化されてきているが、これは微生物相を遮断しているため、閉鎖生態系といえる。今後、自然環境変動に左右されない、また、大工的に環境制御可能な閉鎖生態系の植物栽培が、更に重要性を増すと考えられる。
【0165】
本発明においては、ハイドロゲル形成性高分子の制菌性(PCT/JP95/01223を参照)を利用することにより、微生物の分解による物質循環を抑制しつつ、栽培する半閉鎖生態系植物生産が可能となる。この方法は病原菌など植物の生育を抑制する菌の繁殖を抑制できるばかりでなく、支持体中の微生物による酸素消費量が少なくなり、植物の根が吸収可能な酸素の絶対量を大量に確保できるメリットがある。また、微生物相を単純化し、植物に有効な微生物(例えばVA菌根菌、vasicular arbuscular mycorrhiza)だけを繁殖させつつ植物育成を行うことも可能である。
【0166】
人口増加、食糧難の時代を迎え、宇宙空間での植物生産は非常に重要となってきているが、宇宙ステーションなどの空間では微生物相を排除または単純化した閉鎖生態系植物生産が主体となる。このような宇宙空間植物栽培においても、本発明のハイドロゲル形成性高分子は植物支持体として好適に使用可能である。
【0167】
(家庭内での植物栽培)
家庭内で植物栽培を行うためには、支持体を含む容器がクリーンな状態を維持できること、および養水分供給が簡単であることが特に重要となる。本発明の容器に付着しているハイドロゲル形成性高分子は制菌性(PCT/JP95/01223)があるため、クリーンな状態を容易に維持できる。また、多量に養水分を保持できるため、灌水頻度を低下させることができ、しかも適正な養分濃度、水分量、pF値等が長時間維持可能となる。この容器に最初から種子などの植物体を配置しておくことも可能である。
【0168】
(植物体の育成用容器・シート)
以下、本発明のハイドロゲル形成性高分子を植物体の育成用容器ないしシートに応用した態様について述べる。このような育成用容器ないしシートは、組織培養や圃場栽培における種子の発芽ないしは発芽後の生長(以下においては、「発芽ないしは発芽後の生長」を包含する意味で用いる。)、および植物体の育成に好適に使用可能である。
【0169】
この態様によれば、植物体(以下においては、「種子」を包含する意味で用いる。)の移植作業を容易に行うことができ、該植物体の発芽ないし生長を促進させることが可能で、しかも厳密な水管理等の必要性を大幅に軽減することが可能となる。
【0170】
このような態様における植物体育成用容器は、内部に植物体の少なくとも一部を収容可能とした容器状の基材と、該容器状基材の内部に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とするものである。
【0171】
更には、このような態様における植物体育成用シートは、シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子とからなることを特徴とするものである。
【0172】
上記した本発明の容器ないしシートにおいては、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」は、0℃以上70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率の変化が温度に対して可逆的である高分子であることが好ましい。
【0173】
更に、本発明においては、上記ハイドロゲル形成性高分子が粉体ないし粒体の形態である場合には、該粉体ないし粒体の乾燥時の大きさは、0.1μm〜5mm程度であることが好ましい。
【0174】
(容器ないしシートの作用)
上述した構成を有する本発明の植物体育成用容器ないしシートを用いた場合には、以下に述べるような本発明の容器ないしシート特有の機能に基づき、従来技術の問題点を解消することができる。
【0175】
すなわち、本発明の植物体育成用の容器の内壁(または、本発明のシートを他の容器の内壁に配置した場合の、該シートの植物体を配置すべき側)には、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子がコーティング等により配置されているために、該容器中に植物体を入れた後に、水または培養液を充填すると、上記ハイドロゲル形成性高分子が吸水して体積が著しく膨張し、該容器の内腔に充満して該植物体の支持体の少なくとも一部となる(すなわち、ハイドロゲル形成性高分子が、植物体を支持する機能を発揮ないしは助長する)。
【0176】
本発明においては、上記したような「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」特有の機能に基づき、植物体の移植時に生じる従来技術の問題点、即ち、予め容器内に固形の植物体支持体担体を充填した後に植物体を移植すると、根が担体内に良好に入らないために作業性が低下し、根自体をも傷めるという問題点;更には、植物体を先に容器中に入れた後、従来の固形の植物体支持体担体を入れると、該植物体の根と該担体の接触面積が少ないために初期生長が劣化するという問題点、等が解消される。
【0177】
加えて、容器の内壁にコーティングされているハイドロゲル形成性高分子として、0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、例えば、該容器中に植物体を入れ、水または培養液を該容器中に注入して該高分子に吸水させることにより膨潤させ、該容器の内腔に充満させて、該ハイドロゲル形成性高分子を植物体の支持体(の少なくとも一部)として用いて育成することが可能となる。植物体の育成後、該支持体の温度を上げることにより、ハイドロゲル形成性高分子は脱膨潤(ないし収縮)して、その体積を著しく減じるため、育成された植物体は容易に該容器から取り外しできる。
【0178】
したがって、本発明によれば、従来技術の問題点、すなわち、繁茂した根が容器壁面を圧迫しているため、容器から取り出すために時間がかかり、また根を傷めるという問題点が解消される。
【0179】
更に、上述した構成を有する本発明の植物体育成用容器ないしシートは、以下に述べるような特有の機能に基づき、従来技術の問題点を解決することができる。
【0180】
本発明の育成用容器の内壁ないしシートには、架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子がコーティング等により配置されており、容器の内壁近辺の支持体(土壌等)が上記した理由で水過剰になると該高分子が吸水してハイドロゲル状態となり、他方、容器の内壁近辺の支持体が水不足になると、該ハイドロゲル粒子から水分が支持体中へ移行する機能を有するため、容器の内壁近辺の根圏における水分環境がほぼ一定に維持されることとなり、従来技術の問題点が解消される。
【0181】
特に、上記のハイドロゲル形成性高分子として0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、支持体の温度が低温になると該高分子が該支持体中から水分を吸収し、逆に高温になると該高分子から支持体中に水分が放出される。即ち、容器の壁あるいはシートの近傍の支持体中の水分量は、高温になるに従って増加することとなる。一般に、植物体は低温(約5〜20℃未満の温度)時の水分要求性は少なく、高温(20〜約35℃の温度)になるに従って水分要求性が増加するとされており、低温時の水分過剰の場合は根腐れを、高温時の水分不足は生長不良を誘発するとされている。したがって、上記のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合には、植物体の根圏環境がより好適に維持されて、植物体の生長の一層の促進が可能となる。
【0182】
更に、植物体育成用の容器の内壁(あるいは容器の内壁に設置されるべきシート)に配置されているハイドロゲル形成性高分子は、前述したように、水分および/又は栄養分を該高分子の架槁構造内に貯蔵する機能があるため、従来における育成用容器内の「空間」に果たさせていた貯蔵機能を、上記高分子に極めて効率的に「肩代わり」させることが可能となる。よって、本発明によれば、(育成用容器の水分・栄養分の貯蔵能力を一定とした場合でも)該容器の内容積を著しく減らすことが可能となる。
【0183】
このように本発明によれば、従来において「適切」とされていた容器の体積を著しく小さくすることが可能となり、機械的な接触刺激の機会増大による根の発生力の向上が可能となる。更には、容器の内容積の減少自体に基づく効果として、植物体育成用の面積の低減、育成用容器の材料量の低減、運搬コストの低減等が可能となり、加えて、前述したような水管理等の省力化と併せて、著しいコスト低減が可能となる。
【0184】
更に、家庭用の従来の容器は下部が開放系であり、潅水時等に過剰の水が下部の開放部から排出されるため、「受皿」の同時使用が必須であった。この受皿は煩雑であるのみならず、美観を損ね易いものでもあった。
【0185】
これに対して、本発明の植物体育成用容器においては該容器の壁面に貯水能力が付与されているため、容器下部に開放部を設けることは必須でない。すなわち、該容器下部の開放部は、本発明においては省略可能である。このような下部閉鎖系の容器を用いた場合には、従来の家庭用容器(下部が開放系)の上記した問題点は容易に解消される。
【0186】
上記においては、主に発芽後の植物体の育成について述べたが、本発明の容器ないしシートは、発芽前の種子の発芽ないし発芽後の生長に対しても好適に使用可能である。
【0187】
(ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状)
本発明の容器内に配置されるハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状は特に限定されず、植物体の種類、育成方法等によって適宜、選択することが可能である。該ハイドロゲルないし高分子の形状は、例えば層状、マイクロビーズ状、ファイバー状、フイルム状、不定形等の種々の形状をとることが可能である。
【0188】
本発明におけるハイドロゲルないし高分子の大きさも、植物体の種類、栽培方法等によって適宜、選択することが可能である。該ハイドロゲル形成性高分子の吸水速度を大きくするには、該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の単位体積当たりの表面積を大きくする、即ちハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子1物体(例えば、1粒)当たりの大きさを小さくすることが好ましい。例えば、本発明におけるハイドロゲルないし高分子の大きさは、乾燥時で0.
【0189】
1μm〜1cm程度の範囲であることが好ましく、1μm〜5mm程度(特に10μm〜1mm程度)であることが更に好ましい。
【0190】
本発明において、上記したハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の「乾燥時の大きさ」とは、該ハイドロゲルないし高分子の最大径(最大寸法)の平均値(少なくとも10個以上計測した値の平均値)をいう。より具体的には、本発明においては、例えば上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の形状に対応して、以下のサイズを「乾燥時の大きさ」として用いることができる。
【0191】
マイクロビーズ状:粒径(平均粒径)
ファイバー状:各繊維状片の長さの平均値 フイルム状、不定形状:各片の最大寸法の平均値 層状:高分子層の厚さ 本発明においては、上記の「最大値の平均値」に代えて、各片の体積の平均値(少なくとも10個以上計測したときの平均値)と等しい体積を有する「球」
【0192】
の直径を、上記ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子の「乾燥時の大きさ」として用いてもよい。
【0193】
(ハイドロゲル/高分子の成形方法)
本発明のハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を成型する方法は、特に制限されず、該ハイドロゲルないし高分子の所望の形状に応じて、通常の高分子化合物の成型法を用いることができる。
【0194】
最も簡便な成形方法としては、水溶性または親水性高分子化合物を与えるべき単量体、前述した多官能性単量体(二官能性単量体等)、及び重合開始剤を水中に溶解し、熱あるいは光によって該単量体等を重合させ、ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を生成させることが可能である。該ハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を機械的に破砕し、未反応単量体、残存開始剤等を水洗等により除去した後、乾燥することにより、本発明の容器ないしシートを構成するハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0195】
また、水溶性または親水性高分子化合物を与える単量体が液状の場合は、該単量体中に多官能性単量体及び重合開始剤を添加し、熱あるいは光によって該単量体をバルク重合させた後、機械的に破砕し、未反応単量体及び残存多官能性単量体を水で抽出する等の方法により除去し、乾燥することによっても、本発明に用いるハイドロゲルないしハイドロゲル形成性高分子を得ることができる。
【0196】
一方、マイクロビーズ状のハイドロゲルないし高分子を得る場合には、乳化重合法、懸濁重合法、沈澱重合法等を用いることが可能である。本発明においては、粒径制御の点からは、逆相懸濁重合法が特に、好ましく用いられる。このような逆相懸濁重合法においては、単量体及び生成高分子を溶解しない有機溶媒(例えばヘキサン等の飽和炭化水素)が分散媒として好ましく用いられる。また懸濁助剤として界面活性剤(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤)を、上記した有機溶媒と共に用いてもよい。
【0197】
得られるマイクロビーズの粒径は、添加する界面活性剤の種類・量、あるいは攪拌速度等により制御することが可能である。重合開始剤としては、水溶性開始剤、非水溶性開始剤のいずれも使用可能である。
【0198】
本発明において、ハイドロゲルないし高分子をファイバー状、フイルム状等に成型する場合には、例えば、水溶性高分子化合物の水溶液を、口金等を用いて水と混合しない有機溶媒中に押し出して、該高分子に所望の形状を付与した後、光、電子線、γ線等を照射することにより、高分子に架橋構造を付与する方法を用いればよい。また、例えば上記水溶性高分子化合物を有機溶媒あるいは水に溶解し、ソルベントキャスティング法により成型した後、光、電子線、γ線等を照射し、該高分子に架橋構造を付与してもよい。
【0199】
一般に、高温過湿条件下の作物栽培は、茎部徒長、あるいは分枝・開花不良等の現象を引き起こし、農産物としての価値を低下させる原因となり易い。また、品種特性によってもこのような価値低下の問題が生ずる場合がある。このような場合、茎等の伸長を抑制して分枝や開花を促進する効果を有する矮化剤を、必要に応じて使用することが好ましい。0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を用いる本発明の態様においては、矮化剤をハイドロゲルないし高分子内部に含有させた場合、該ハイドロゲルないし高分子を構成要素として含む本発明の容器ないしシートは、高温時に該容器ないしシートから矮化剤を外部(例えば、土壌中等)に放出し、植物体の茎部伸長を抑制する。一方、矮化剤の要求性が低くなる低温時には、該矮化剤は該ハイドロゲルないし高分子から放出されず、矮化剤の効果の持続性が著しく改善される。
【0200】
一般に、除草剤の必要性も、高温時には低温時と比較して高い。したがって、除草剤を本発明のハイドロゲルないし高分子内部に含有させた場合、上記と同様の貯蔵−放出のメカニズムに基づき、該除草剤の効果、及びその持続性が著しく改善される。
【0201】
(容器/シートの形状および材質)
上述した「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」がその内部に配置されている限り、本発明の植物体育成用容器の形状は特に制限されず、従来から公知の形状、例えば、鉢状、ポット状、プランター状、トレー状等の種々の形状とすることが可能である。
【0202】
本発明の育成用容器の一態様(鉢型)を、図1の模式断面図に示す。図1を参照して、底部1aと側壁部1bとを有する鉢型容器1の内部に、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層2が配置されている。この底部1aまたは側壁部1bには、必要に応じて、1個以上の穴(図示せず)が設けられていてもよいことは、言うまでもない。
【0203】
同様に、上述した「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」がその表面の少なくとも一部の表面上に配置されている限り、本発明の植物体シートの形状は特に制限されず、従来から公知の種々の形状をとることが可能である。
【0204】
本発明の育成用シートの一態様を、図2の模式断面図に示す。図2を参照して、シート基材11aの一方の表面上に、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層2aが配置されている。このシート基材11aの高分子層2a配置面と反対側の面(裏面)には、必要に応じて、粘着剤ないし接着剤の層3(カルボキシメチルセルロース(CMC)等からなる)が設けられていてもよい。更に、図3に示すように、この粘着剤/接着剤の層3上には、必要に応じて、離型性を有するシート4が配置されていてもよい。この図3に示したような態様のシート11を用いた場合には、離型性シート4を剥がしてから該シート11を従来の容器(図示せず)内に配置することにより、該従来の容器の所望の位置にシート11を配置することが容易となる。
【0205】
本発明のシートは、必要に応じて、パーティション(中仕切り)の形状としてもよい。
図4A、4Bの模式斜視図に、パーティション形状とした本発明のシートの態様の例を示す。図4Aは、単一セル型(延長部付き)のパーティション形状の例を示し、図4Bは、4−セル型のパーティション形状の例を示す。これらのパーティションによって形成されるべき「セル」の数は特に制限されないが、栽培面積の有効利用ないし効率の点からは、1〜10000個程度(更には、10〜1000個程度)であることが好ましい。これらのパーティション型の本発明のシート12においては、「架橋構造を有するハイドロゲル形成性高分子」からなる層(図示せず)は、該パーティションの植物体を配置すべき側の表面5の少なくとも一部に配置される。
【0206】
図5の模式平面図に示すように、パーティション形状とした本発明のシート12を「他の容器」6(従来の容器でもよい)と組合せて用いた場合、該シート12と「他の容器」6との着脱を利用することにより、植物体の移植時の「取り外し」が極めて容易となる。すなわち、生長させた植物体(図示せず)を容器6ないしシート12から取り外す際に、予め容器6からパーティション12を抜き取ることにより、植物体の「取り外し」が極めて容易となる。上記「他の容器」6は、従来の容器であってもよく、また、必要に応じて、その内部に「ハイドロゲル形成性高分子」の層2が配置された植物体育成用容器(すなわち、本発明の容器)であってもよい。
【0207】
本発明の容器ないしシートの材質も特に制限されず、従来から公知の材質、例えば、セラミックないし陶器(素焼等)、金属、木材、プラスチック、紙、等の種々の材質を適宜使用することが可能である。
【0208】
(高分子の配置の態様)
本発明においては、ハイドロゲル形成性高分子が育成用容器内に配置されている限り、その位置、面積、形状(例えば、連続した層であるか、断続的な層であるか)、配置の手段は特に制限されない。
【0209】
上記高分子の容器内での配置の位置は、例えば、容器の底面1aないし側面1b(図1)のいずれであってもよいが、該高分子の膨潤による植物体の保持を容易とする点からは、該高分子は容器の側面1bに配置されていることが好ましい。
【0210】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子の機能を効率的に発揮させる点からは、容器の内表面の面積(または、シートの一方の表面の面積)をSaとし、ハイドロゲル形成性高分子が配置された面積をSpとした場合、これらの面積の比(Sp/Sa)×100は、約10%以上であることが好ましく、更には約50%以上(特に約70%以上)であることが好ましい。
【0211】
本発明において、ハイドロゲル形成性高分子の層2ないし2aは、連続した層であってもよく、また断続的な層であってもよい。このような断続的な層は、スクリーン印刷等の任意の手段により容易に形成可能である。断続的な層とする場合、その平面形状は図6Aに示すような格子島状、図6Bに示すような斑点状等の任意の形状とすることができる。
【0212】
ハイドロゲル形成性高分子の層2ないし2aを容器ないしシートの基材1上に配置する場合、その配置の態様は特に制限されない。該配置の容易性の点からは、例えば、基材1上に直接に高分子層2を配置する態様(図7A)、基材1上に配置した粘着剤ないし接着剤の層7の上に、高分子層2を配置する態様(図7B)、基材1上に配置した粘着剤ないし接着剤の層7の上に、粒子状、不定型状等の任意の形状とした高分子2を配置する態様(図7C)のいずれも好適に用いられる。上記した図7Aの態様において、高分子層2の基材1に対する接着性を付与ないし増強する点からは、必要に応じて、ハイドロゲル形成性高分子を粘着剤ないし接着剤に混合ないし分散した後に、上記高分子層2としてもよい。この場合、ハイドロゲル形成性高分子の10重量部に対して、粘着剤ないし接着剤を0.01〜10重量部程度(更には0.1〜2重量部程度)用いることが好ましい。
【0213】
上記「粘着剤ないし接着剤」としては、公知の接着剤、粘着剤等を特に制限なく使用することができるが、該物質は、栽培する植物に対して実質的に無毒であるか、あるいは低毒性のものを使用することが好ましい。このような接着剤・粘着剤の具体例として、例えば、ゴムないしラテックス系(天然ゴム系、イソプレンラテックス系等)、アクリル樹脂系(アクリル系、シアノアクリレート系等)
【0214】
、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、タンパク質系(大豆タンパク系、グルテン系等)、デンプン系(デンプン系、デキストリン系)、セルロース系(CMC系、ニトロセルロース系等)の接着剤ないし粘着剤を挙げることができる。
【0215】
上記した容器ないしシートのいずれの態様においても、ハイドロゲル形成性高分子の機能を効率的に発揮させる点からは、容器の内表面の面積(または、シートの一方の表面の面積)をSaとし、配置されたハイドロゲル形成性高分子の重量をMpとした場合、該高分子の塗布量(Mp/Sa)は、0.0001g/cm2(0.1mg/cm2)以上であることが好ましく、更には0.001g/cm2(1mg/cm2)〜0.2g/cm2程度(特に0.002g/cm2(2mg/cm2)〜0.1g/cm2程度)であることが好ましい。
【0216】
(植物体育成用容器ないしシートの製造方法)
ハイドロゲルが基材表面に固定された成型物(容器ないしシート)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、以下の2つの方法のいずれかが好適に使用可能である。
【0217】
第一の方法は、基材となる材料をあらかじめポットや、プランター等の容器ないしシートの形状に成型した後、該成型物の内表面となるべき面に、接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する機能を有する物質を塗布し、このように塗布した物質の上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する方法である。
【0218】
第二の方法は、基材となる材料のシート又はフィルム表面に、接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定する機能を有する物質を塗布し、このように塗布した物質の上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定した後、圧空成型法等によりポットや、プランター等の形状に成型する方法である。
【0219】
上記した第一の方法を用いた場合には、射出成型法、圧空成型法、ブロー成型法等に種々の成型方法により、基材となる材料をポットや、プランター等の形状に成型できる。成型物の内表面に、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定するための物質は、一般に市販されている接着剤、粘着剤等を特に制限なく使用することができるが、該物質は、栽培する植物に対して実質的に無毒であるか、あるいは低毒性のものを使用することが好ましい。このような接着剤・粘着剤の具体例として、例えば、ゴム系、ラテックス系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、タンパク質系、デンプン系、セルロース系の接着剤ないし粘着剤を挙げることができる。
【0220】
これら接着剤・粘着剤は、噴霧、キャスト、ディップ法等により、上記成型物の内表面に塗布し、このように塗布した接着剤・粘着剤の上に、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定することができる。また、上記接着剤、粘着剤等に代えて、上記粘着剤等が予め塗布されてなる両面テープを上記成型物の内表面に張り付け、この上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定してもよい。
【0221】
上記第一の方法ては、射出成型法等により基材となる材料をポットや、プランター等の形状に成型した後、熱可塑性エラストマー等にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを分散した材料を二色成型法により該成型物の内面に射出成型することにより、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを基材成型物の内面に固定することもできる。
【0222】
一方、上記第二の方法では、上記接着剤、粘着剤等のハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定できる物質を噴霧、キヤスト法等により基材となる材料のシート又はフィルム表面に塗布し、または、上記両面テープを張り付けて、この上にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを固定した後、圧空成型法等により基材を成型することができる。また、熱可塑性エラストマー等にハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを分散した材料を、基材となる材料と同時に多層押し出し法により多層シート又は多層フィルムに成型し、ハイドロゲル形成性高分子ないしハイドロゲルを基材シート又は基材フィルム上に固定し、この後、圧空成型法等により基材を成型してもよい。
【0223】
(植物体育成用容器ないしシートの使用方法)
本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いて植物体を効果的に移植(植物体の植え込み)するための使用方法としては、例えば、以下のような使用方法が好適に用いられる。
【0224】
(1)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが充分満たす程度の量のハイドロゲル形成性高分子粒子を配置した容器、ないし容器状に成型したシートを用いて、該容器に植物体の少なくとも一部を入れた後、(肥料)溶液等を添加してハイドロゲル形成性高分子粒子を膨潤させ植物体を固定させる方法。
【0225】
(2)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが充分満たす程度の量のハイドロゲル形成性高分子粒子を配置した容器、ないし容器状に成型したシートに溶液等を添加して容器内をハイドロゲルで満たす。次いで、該ゲルに植物体の少なくとも一部を挿入して該植物体を固定させる使用方法。
【0226】
上記した(1)ないし(2)の方法によれば、水分を含み膨潤したハイドロゲル粒子は適度な流動性を有するため、植物体を傷めることなくスムーズに移植作業が可能となる。また、微細な組織(例えば、種子や組織培養で得られる不定胚、ラン科のPLB(Protocorm Like Body:種子発芽時に形成される球形の組織に類似した組織培養で得られる組織体)等)の場合には、ハイドロゲル上に該組織等を単に乗せる方法を用いることも可能である。
【0227】
(3)水分吸収時に容器内をハイドロゲルが満たさない程度の量のハイドロゲル形成性高分子の粒子を配置した容器ないし容器状に成型したシートを用いて、該容器に植物体の少なくとも一部を植物支持用担体とともに入れた後、溶液等を添加して該ハイドロゲル形成性高分子を膨潤させ植物体を固定させる方法。
【0228】
(4)ハイドロゲル形成性高分子の粒子がコーティングされたシート(本発明のシート)で植物体をくるみ、通常の容器や支持体中に植え込んだ後、溶液等を添加して該ハイドロゲル形成性高分子を膨潤させて植物体を固定させる方法。
【0229】
上記した(1)ないし(4)のいずれの方法を用いた場合にも、植物体を傷めず、速やかに、支持体への植物体の接着ないし固定が容易である。
【0230】
(移植方法)
一方、本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置してなる本発明の容器ないしシートを用いて植物体を効果的に移植(植物体の取り出し)する方法としては、例えば、以下の使用方法が好適に用いられる。
【0231】
(1)大過剰の水を容器ないしシートに供給し、ハイドロゲルの流動性を高めて、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0232】
(2)カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより、膨潤したハイドロゲルを収縮させ、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0233】
(3)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温度に該容器ないしシートを暖め、膨潤していたハイドロゲル粒子中の水分を放出させて該ゲル粒子を収縮させ、植物体を傷めずに取り出す方法。
【0234】
(4)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温水を該容器ないしシートに供給し、膨潤していたハイドロゲル粒子中の水分を放出させて該ゲル粒子を収縮させ、且つゲル粒子の流動性を高めることにより、植物体を傷めずに取り出す方法。上記した温水の温度は、植物体の種類等によっても若干異なる場合があるが、約45℃以下(更には約40℃以下)であることが好ましい。
【0235】
上記(1)ないし(4)のいずれの方法を用いた場合にも、植物体を傷めず、速やかに、容器から植物体を取り出すことが容易である。
【0236】
(水分等の液状物質の除去方法)
栽培した植物体を移動させる際(例えば出荷など)、栽培容器の重さをできるだけ軽くすることが、作業性の向上、輸送費の軽減等の点から重要となる。また、移動の際には植物体が閉鎖的環境下(例えば、植物体が容器ごとセロファンで包装され段ボールに入れられた状態)に置かれる場合が多い。このような環境下においても湿潤状態になって植物体が傷まないように、栽培容器内の水分を可能となるだけ少なくしておくことが重要となる。
【0237】
本発明のハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いれば、該容器ないしシート内の水分ないし肥料溶液等の液体が不必要になった場合には、例えば、以下の方法により該液体を好適に除去可能である。
【0238】
(1)乾燥させることによって、ハイドロゲル粒子の水分を蒸発させて重さを軽くする方法。ただし、この方法は、結果として生ずる「養分の濃縮」が、植物体に実質的に悪影響を及ぼさない範囲で行う必要がある。
【0239】
(2)カルボキシル基を有する高分子から成るハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、高濃度のカルシウム溶液またはカルシウム塩粉末を添加することにより、膨潤したハイドロゲルを収縮させ、水分ないし肥料溶液等の液体を放出させる方法。
【0240】
(3)0℃以上、70℃以下の温度領域で温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子を配置した容器ないしシートを用いた場合、植物体に悪影響を及ぼさない程度の温度に該容器ないしシートを暖めて、膨潤していたハイドロゲル粒子を収縮させ、ハイドロゲル粒子中の水分ないし肥料溶液等の液体を放出させる方法。
【0241】
従来において、出荷前に植物体に供給されていた水は、乾燥耐性を低下させて花持ち等を悪くしたり、果実の糖度を低下させたりする虞があった。このような問題を解決する点からも、上記した(1)ないし(3)の方法(好適には(2)
【0242】
または(3)の方法)により、出荷等の前に予め水分等を除去しておくことは望ましいことである。
【実施例】
【0243】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0244】
実施例1(保水用担体の調製)
アクリル酸10g(140mmol)と、N,N′-メチレンビスアクリルアミド0.05g(0.32mmol)とを蒸留水26mLに溶解した。得られた溶液に、水酸化カルシウム0.52g(7mmol)と、1N−水酸化カリウム水溶液14mL(14mmol)を加え、窒素気流下室温で攪拌しながら過硫酸アンモニウム0.02gおよびアスコルビン酸0.01gを添加した。過硫酸アンモニウムおよびアスコルビン酸の添加から5分後に、急激に反応混合物の温度が上昇するとともにゲル化したが、そのまま窒素気流下で1時間反応させた。
【0245】
得られた生成物に、エチルアルコール200mLを加えてミキサーで粉砕し、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0246】
上記により得られたハイドロゲル形成性高分子(本発明の保水用担体)の一定量(0.2g)を白金るつぼに秤取り、電気炉(700℃)で灰化した後、1N−塩酸5mLで溶解、蒸留水を加えて50mlの定容として、原子吸光スペクトル分析装置(セイコー電子社製、商品名:SAS−760)によりカリウムイオン含有量を求めたところ、1.3mmol/gであった。
【0247】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率は、それぞれ19mg/gおよび377倍であった。
【0248】
実施例2(保水用担体の調製)
市販のポリアクリル酸ナトリウム系高吸水性樹脂(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製)5gをイオン交換水1Lに膨潤させた。このようにして膨潤した高吸水性樹脂に、塩化カルシウム(二水塩)2.9gをイオン交換水500mLに溶解した水溶液を加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間放置することにより、カルボキシル基のナトリウム塩を部分的にカルシウム塩に置換した。
【0249】
膨潤した樹脂上の上清を廃棄し、イオン交換水2Lを加えてゲルを洗浄し、更に、膨潤した樹脂上の上清を廃棄した。このイオン交換水によるゲル洗浄操作を5回繰り返した後、エチルアルコール1Lを加えてゲルを収縮させ、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0250】
上記により得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりナトリウムイオン含有量を求めたところ、2.2mmol/gであった。また、カルシウムイオンの含有量は2.1mmol/gであった。
【0251】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ36mg/gおよび175倍であった。
【0252】
実施例3(保水用担体の調製)
市販のポリアクリル酸ナトリウム系高吸水性樹脂(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製)20gをイオン交換水1Lに膨潤させ、1N−塩酸170mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間、カルボキシル基のナトリウム塩をカルボン酸に置換した。
【0253】
上清を廃棄し、イオン交換水2Lを加えてゲルを洗浄し、更に上清を廃棄した。更に、得られたゲルに1Lのイオン交換水および1N−塩酸20mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間放置した後、ゲルを分離して真空乾燥した。
【0254】
上記により得られたポリアクリル酸架橋物の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に、電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析を行ったところ、アルカリ金属イオン含有量は0.01mmol/g以下であり、イオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率は14倍であった。
【0255】
上記ポリアクリル酸架橋物2gをイオン交換水500mLに膨潤させ、1N−水酸化カリウム水溶液2.78mLを加え、室温(25℃)で時々攪拌しながら1時間、カルボン酸の一部をカリウム塩に置換した。上清を廃棄し、ゲルを分離して真空乾燥した。得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、1.3mmol/gであった。
【0256】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ21mg/gおよび171倍であった。
【0257】
実施例4(保水用担体の調製)
実施例3においてカリウム塩置換に用いた1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を5.56mLとした以外は、実施例3と同様にして本発明の保水用担体を得た。
【0258】
得られた本発明の保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1と同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、2.5mmol/gであった。
【0259】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ40mg/gおよび185倍であった。
【0260】
実施例5(感温性保水用担体の調製)
N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm、(株)興人製)15g、アクリル酸0.47g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(Bis)0.1g、過硫酸アンモニウム0.2g、1N−NaOH6.6ml、およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン0.1mlを蒸留水90mlに溶解し、室温で4時間重合させることにより、架橋構造を有するポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)ハイドロゲルを合成した。該ゲルをミキサーにより機械的に破砕し、蒸留水1リットル中に分散させ、一旦4℃に冷却した後、50℃に加温することにより収縮させ、上清を捨てた。この水洗操作を2回繰り返して、未反応モノマー及び残存開始剤を除去し、真空乾燥(100℃、24時間)によって乾燥して、温度上昇と共に吸水倍率が減少し、且つ、該吸水倍率が温度に対して可逆的に変化するハイドロゲル形成性高分子(本発明の保水用担体)を得た。
【0261】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ9mg/gおよび167倍であった。
上記により得られた保水用担体の19℃及び26℃における市販の粉末園芸用肥料(商品名:ハイポネックス20−20−20、ハイポネックスジャパン(株)製、1g/L)に対する吸水倍率を、前述した方法によってそれぞれ測定したところ、19℃で約72倍であり、26℃で約52倍であった。
【0262】
比較例1(実施例3の比較例)
実施例3において1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を0.35mLとする以外は実施例3と同様にして比較例保水用担体を得た。得られた保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、0.15mmol/gであった。
【0263】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ2mg/gおよび75倍であった。
【0264】
比較例2(実施例3の比較例)
実施例3において1N−水酸化カリウム水溶液の添加量を8.34mLとした以外は、実施例3と同様にして比較例の保水用担体を得た。得られた保水用担体の一定量を白金るつぼに秤取り、実施例1におけると同様に電気炉で灰化した後、塩酸で溶解し、定容として原子吸光分析によりカリウムイオン含有量を求めたところ、3.6mmol/gであった。
【0265】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率はそれぞれ55mg/gおよび191倍であった。
【0266】
比較例3(市販樹脂の例)
市販の高吸水性樹脂3種、(商品名:アクリホープ、日本触媒(株)製;商品名:ダイヤウェット、三菱化学(株)製;商品名:スミカゲル、住友化学(株)製)について、カルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.5μS/cm)中での吸水倍率を測定し、実施例1〜5および比較例1、2の結果とあわせて下記の(表1)にまとめた。
【0267】
実施例6(種子の発芽試験)
山梨県塩山市熊野地区の地下水組成に類似した合成水(下記の表2に示す)を作成した。該合成水16mLと、実施例1、2、3、4で作成した本発明の保水用担体各160mg(1重量%)とを試験管(直径2.5cm、高さ15cm)に入れ充分攪拌後25℃で30分間放置し、合成水を吸収した保水用担体からなるゲル状培地を調製した。
【0268】
このようにして得られた各試験管内のゲル状培地表面に、カイワレ大根の種子(タキイ種苗(株))を5粒/試験管ずつ均一に播き、直径6mmの穴に綿が詰めてあるシリコーン栓で蓋をした。
【0269】
上記のように蓋をした試験管を、培養室(25℃、2000Lux、16時間日長)で4日間培養し、発芽率(発芽した種子数/5(粒)x100(%))を調査した。種皮が裂け、双葉が展開した場合を発芽とし、それ以外は非発芽とした。また、地上部の長さ(発芽した個体の基部から葉先までの平均茎長)、地下部の長さ(発芽した個体の基部から主根の先端までの平均根長)を測定し、さらに根の先端等の外観を観察して結果を表3にまとめた。実施例1、2、3、4で作成した本発明の保水用担体では、すべての区で100%発芽し、カイワレ大根の地上部、地下部の生長も非常に良好であった。
【0270】
比較例4(実施例6の比較例)
比較例1、2で作成した2種の保水用担体と、比較例3で用いた市販の高吸水性樹脂3種(アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲル)による発芽試験を実施例6と同様に行った。
【0271】
比較例1の保水用担体を用いた場合では、吸水倍率が不十分なために培地が液状化しており、種子が培地中に埋没してしまい、全く発芽しなかった。比較例2および市販の高吸水性樹脂を用いた場合では、種子は100%発芽したものの、発根後根の先端が褐変枯死し、地上部の生長も完全に抑制された(下記の表3参照)。
【0272】
【表1】
【0273】
【表2】
【0274】
【表3】
実施例7(表面架橋保水用担体)
実施例1と同様にして得られたハイドロゲル形成性高分子(粉末状)100gをミキサーに入れて撹拌しながら、プロピオン酸ナトリウムの15wt%水溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル10wt%を溶解した架橋剤水溶液4gを添加して充分混合した。得られた混合物を150℃で約20分間加熱処理して、表面架橋を施した本発明の植物保水用担体を得た。
【0275】
上記により得られた保水用担体のカリウムイオン含有量を実施例1と同様にして測定したところ、1.2mmol/gであった。
【0276】
この保水用担体のカルシウムイオン吸収量およびイオン交換水(伝導度:2.
5μS/cm)中での吸水倍率は、それぞれ16mg/gおよび314倍であった。
この保水用担体3gをプラントボックス(柴田ハリオ(株)、ポリカーボネイト製、上部75×75mm、下部65×65mm、高さ100mm)に入れ、ハイポネックス溶液(ハイポネックス7−6−19(ハイポネックスジャパン(株)製)1g/L)150mLを吸収させたところ、速やかに吸水し、膨潤した保水用担体粒子間に適当な空隙を保った状態で全体が固化した。このゲル状培地に蘭(シンビジウム)の苗MFMM(Cym.MELODY FAIR 'Marilyn Monroe')を移植し、60日間温室内で栽培したところ、該蘭の花部、茎部および根部とも良好に生長することが観察された。
【0277】
実施例8(保水用担体のpH測定)
下記(表4)に示す乾燥状態の各種合成高分子1gをイオン交換水100ml中に分散させた。1時間後にpHメーター(横河電気株式会社製、商品名:PH81)でpHを測定した。実施例1〜5の本発明の保水用担体では、植物の生育に好適な弱酸性(pH4.7〜6.0)となっていることが確認された。
【0278】
【表4】
実施例9(保水用担体を用いる培養法)
試験管(直径2.5cm、高さ15cm)中で、実施例3で作成した乾燥保水用担体を400mgに、市販の粉末状園芸用肥料(商品名:ハイポネックス7−6−19、ハイポネックスジャパン(株)製、3.5g/L)を含む培養液(シュークロース20g/L、バナナ100g/Lを含有)を16ml混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、室温にて放置しハイドロゲル培地を作製した。
【0279】
上記培地に、約1.5cmに伸長した蘭の苗たるYT57(Cym.LOVELY ANGEL 'The Two Virgins')を試験管1本当たり2本ずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に50日間培養した。
【0280】
苗毎の最大葉長を計測したところ平均6.7cmだった。根も良く伸長しており、圃場栽培以降も順調に生育し、葉先の枯れも殆どなかった。
【0281】
比較例5(寒天を用いる培養法)
上記実施例9の乾燥保水用担体に代えて、寒天100mgを添加した以外は、上記実施例9と同様にしてYT57を50日間培養した。苗毎の最大葉長を計測したところ実施例とほぼ同じで平均6.7cmだった。外観上根も良く伸長していたが、圃場栽培以降若干葉先の枯れがみられた。この原因は、培養中の苗の水分ストレスに対する順化がうまく行われていないものと推測された。
【0282】
比較例6(市販樹脂を用いる培養法)
上記実施例9の乾燥保水用担体に代えて、アクリホープ400mgを添加した以外は同様にしてYT57を50日間培養したが、地上部地下部共に全く生長していなかった。
【0283】
実施例10(保水用担体を用いる培養法)
プラントボックス(柴田ハリオ(株)、ポリカーボネイト製、上部75x75mm、下部65x65mm、高さ100mm)中で、実施例5で得た乾燥保水用担体1.5gとハイポネックス溶液(ハイポネックス7−6−19、2.0g/L)を105ml混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、別滅菌しておいたパーライト(日本セメント株式会社製、商品名:アサノパーライト3号)80mlを無菌的に混合しハイドロゲル培地を作製した。
【0284】
上記培地に、約4cmに伸長した蘭の苗たるMFMM(MELODY FAIR 'Marilyn Monroe')を16本ずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に50日間培養した。苗は順調に生長し、根の状態も非常に良く、圃場栽培で伸長する根と類似した白い太い根が伸長した。
【0285】
比較例7(寒天を用いる培養法)
上記実施例10で用いた乾燥保水用担体に代えて、支持体として寒天(700mg)ゲル単体を用いた以外は、上記実施例10と同様にしてMFMMを50日間培養した。地上部は順調に生長したが、根は余り伸長しておらず、また細く、圃場栽培で伸長する根とは形態が異なっていた。
【0286】
比較例8(市販樹脂を用いる培養法)
上記実施例10で用いた乾燥保水用担体に代えて、アクリホープ1.5gを添加した以外は同様にしてYT57を50日間培養したが、地上部地下部共に殆ど生長していなかった。
【0287】
実施例11(保水用担体による培養中の順化)
実施例1で作製した乾燥保水用担体20gに、ハイポネックス溶液(Hyponex7−6−19 2g/L、合成水中で溶解)1000、800、600、400、200ccのそれぞれの量を完全に吸収させてゲル化させ、pFメーター(大起理化工業株式会社製、DIK−8340)でpF値を測定したところそれぞれ0、0、1.8、2.1、2.3であった。通常の培養では苗移植直後の培地中の水分が、培養終了段階までに培養中の容器外への蒸発と植物の吸収により40〜80%減少するが、本実施例においてハイドロゲル形成性高分子を用いた場合、培養終了時のpFが1.8〜2.3に変化していることが判明した。
【0288】
すなわち、本発明の保水用担体を用いた植物苗培養では、培養中に植物の根に対して適度の水分ストレスが負荷され、順化が良好に行われるものと推定される。
【0289】
比較例9(寒天培養法における水分ストレス不足)
寒天7gを実施例10で使用したハイポネックス溶液1000ccで加熱・溶解後、常温でゲル化させpF値を測定したところ0であった。その後培養室で乾燥させ、ゲルの重さが809g、609g、409g、209g時点のpF値を測定したところ全て0であった。通常、培養中に培地中の40〜80%の水分が減少するが、寒天ゲル中のpFは殆ど変化していないことが判明した。すなわち、寒天ゲルを用いた植物苗培養では、培養中に植物の根に対して水分ストレスが全く負荷されず、良好な順化が行われないものと推定される。
【0290】
【表5】
【0291】
実施例12(液体培養の例)
三角フラスコ(柴田ハリオ硝子(株)製、容量500ml)に、1/2Murashige & Skoog培地(シュークロース20g/L含有)を200ml入れ、実施例5で作成した乾燥保水用担体を(無添加、0.4g、1.0g)の種々の濃度で添加し混合分散させ、オートクレーブ滅菌(121℃、1.2Kg/cm2、20分)した後、室温にて放置し液体培地を作製した。混合後の液体培地とゲルの体積比は0.4g添加区が約9:1で、1.0g添加区が約3:1であった。
【0292】
上記培地に、MFMMのPLB(Protocorm Like Body;ラン特有の組織的な細胞集塊)を2.0gずつ移植し、培養室(25℃、3000Lux、16時間日長)内で無菌的に22日間横回転振とう(80回転/1分間、回転半径 27mm)培養し、新鮮重を測定し、また、PLBの状態、培養液への褐変物質溶出状態を観察した。
【0293】
表6に示すように、本発明の保水用担体を液体培養系に添加することにより、PLBの増殖が促進され、褐変物質の溶出も抑制されるという効果が認められた。
【0294】
【表6】
【0295】
実施例13(保水用担体を用いた栽培法)
ハイポネックス粉末(ハイポネックス20−20−20 ハイポネックスジャパン(株)製)100mgを、(表2)記載の合成水115mL中に溶解し、この溶液を各種ハイドロゲル形成性高分子粉末1gに完全に吸収、ゲル化させ、パーライト50ccを添加し均一に混合した。この支持体をセルトレー(東罐興産株式会社製、セル1個の大きさ 2.5cm(縦)x2.5cm(横)x4.5cm(高さ)、セル数 10x20=200穴、下部閉鎖、上部開放)のセル中に充填した。ラン科植物の一属であるコチョーラン(Dtps. Happy Valentine x Show Girl 'Mai')とシンビジュームYT57の幼植物体を1セルに付き1本差込移植した。差込は非常に簡単に行うことができ、しかも根を傷めることなく、支持体とうまくフィットさせることができた。培養室(25℃、3500lux、16時間日長)で45日間栽培し、それぞれの植物体の葉長、根長、新鮮重、根数を測定した。栽培中、2〜3日毎にスポイトでセルの容積一杯になるまでイオン交換水を供給した。
【0296】
この結果、実施例1,2,3のハイドロゲル形成性高分子を用いた場合には、植物体は順調に生育したが、アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲルを用いた場合には、植物体は、いずれも栽培中に根が腐ってしまった。アクリホープ、ダイヤウェット、スミカゲルを用いた場合、植物がカルシウム欠乏状態となったものと推定される。
【0297】
対照区として、ハイドロゲル形成性高分子+パーライトの支持体に代えて、寒天(10g/L)、バーク(発売元:(有)向山蘭園、ニュージーランド産バーク、商品名:MO−2)、水苔を支持体としてそれぞれ用いた以外は上記と同様にして、栽培実験を行った。
【0298】
この結果、寒天は差込移植が簡単だったものの栽培中に根が腐ってしまった。
バークおよび水苔は差込移植が不可能だったので、植物の根周辺に配置してからセル中に移植したが、根を若干傷めてしまった。また、栽培途中で根が腐ってしまった。寒天、バーク、水苔は吸水力が弱く、根の周辺が水で満たされ、根が酸素不足に陥ったためと推定される。
【0299】
上記で得られた結果を、まとめて下記(表7)に示す。
【0300】
【表7】
【0301】
実施例14(感温性保水用担体を用いた栽培法)
ハイポネックス粉末(ハイポネックス20−20−20 ハイポネックスジャパン(株)製)95mgを表2記載の合成水95mL中に溶解し、この溶液を実施例5で作成した保水用担体粉末1gとパーライト100ccを添加し均一に混合した。この支持体を実施例13で使用したセルトレーのセル中に充填した。ラン科植物の一属であるコチョーラン実生(Phal. Musashino 'MH' x Phal. White Moon 'M-23')の幼植物体(新鮮重1.39g)を1セルに1本ずつ差込移植した。差込は非常に簡単に行うことができ、しかも根を傷めることなく支持体とうまくフィットさせることができた。温室内で70日間栽培し、それぞれの植物体の地上部、地下部および全体の新鮮重を測定した。栽培中の灌水は、ほぼ毎日上面自動灌水、または、30分間の腰水灌水により行った。
【0302】
対照区としては、ランの栽培用支持体として一般的に使用されるバーク(MO−2):ピートモス((株)エイレン・ポロ、フィンランド産):パーライト=6:3:1(体積比)を用いた。この支持体は差込移植が不可能だったので、植物の根周辺に配置してからセル中に移植したが、植込時に根を若干傷めてしまった。
【0303】
下記表8に示すように、いずれの灌水方法においても、本発明の保水用担体を支持体とする栽培で従来の支持体を用いる栽培よりも良好な植物体の生育が認められた。
【0304】
【表8】
【0305】
実施例15(保水用担体を用いる栽培法)
実施例1で作製した乾燥高分子粉末1gにハイポネックス溶液(Hyponex20−20−20 1g/L、合成水中で溶解)100mlを完全に吸収させ、pFメーター(大起理化工業株式会社製 DIK−8340)でpF値を測定したところ0であった。直径9cmの黒プラスチックポット(購入先 三枝重雄商店、直径7.5cm)に移し替え全体の重さを測定した。灌水を全く行わずに温室内に放置し、24、48、72時間後の3回、全体の重さとpF値を測定した。
【0306】
各時点の水分量=各時点の重さ−1g(乾燥高分子の重さ)−黒ビニールポットの重さ 溶液の各時点の養分濃度は初発(開始時の値)を1とし、 各時点の養分濃度=初発水分量/各時点の水分量、とした。
【0307】
比較例10(バークを用いる栽培法)
バーク100mlの重さを測定したところ30.93g、含水率は35.7%だった。乾燥前バーク100mlに実施例15で用いたハイポネックス溶液を24時間吸収させ、含水したバークを網ですくい上げ、余分な液を除去した。保水したバークの重さは46.56g、pF値は0であった。黒プラスチックポットに移し替え全体の重さを測定した後、灌水を全く行わずに温室内に放置し、最初の測定から24、48、72時間後の3回、全体の重量とpF値を測定した。水分量、各時点の濃度は実施例15と同様の計算式で求めた。
【0308】
初発水分量=30.93(バーク100ml重量)x0.357(含水率)+46.56(保水バーク重量) -30.93(バーク100ml重量)=26.67 各時点の水分量=初発水分量−(最初の容器全体重量−各時点の重量)
【0309】
溶液の初発濃度は実施例15の初発濃度を1とし、溶液の初発濃度=26.67÷(30.93x0.357+26.67)=0.71、溶液の各時点の養分濃度=初発水分量/各時点の水分量、とした。
【0310】
養分量は実施例15を1とすると、比較例の養分量=26.6x0.71÷100=0.19であった。
【0311】
下記表9に示すように、栽培用支持体として本発明の保水用担体を用いれば、バークを用いる場合に比べ、その含水率が高いので、同じ容積の容器内において養分量を大きくできるとともに、栽培中の養分濃度の変動を小さくすることができる。また、多量の水分を長時間保持できるので、灌水頻度を低減でき、植物が水分ストレスにさらされる危険も回避できる。
【0312】
【表9】
【0313】
上記表9に示すように、以下の結果が得られた。
【0314】
初発保持水分量は実施例に対して比較例は27%であった。
初発保持養分量は実施例に対して比較例は19%であった。
初発に対する72時間経過後の養分濃度は実施例が1.8倍に対して比較例は3.8倍であった。
【0315】
72時間経過後の残存水分量は実施例が56cc、比較例が5ccであった。
72時間経過後のpF値は実施例が0、比較例が2.0であった。
【図面の簡単な説明】
【0316】
【図1】図1は、本発明の植物体育成用容器の一態様を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の植物体育成用シートの一態様を示す模式斜視図である。
【図3】図3は、本発明の植物体育成用シートの他の態様を示す模式斜視図である。
【図4A】図4Aは、本発明の植物体育成用シートの他の態様(パーティション状)を示す模式斜視図である。
【図4B】図4Bは、本発明の植物体育成用シートの他の態様(パーティション状)を示す模式斜視図である。
【図5】図5は、図4Bの態様のパーティション状としたシートと、他の容器とを組合せて用いる場合を示す模式平面図である。
【図6A】図6Aは、ハイドロゲル形成性高分子を、基材上に断続的な層状で配置する場合の態様の例を示す模式平面図である。
【図6B】図6Bは、ハイドロゲル形成性高分子を、基材上に断続的な層状で配置する場合の態様の例を示す模式平面図である。
【図7A】図7Aは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図7B】図7Bは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図7C】図7Cは、本発明において、ハイドロゲル形成性高分子を容器ないしシートの基材上に配置する態様の例を示す模式断面図である。
【図8】図8は、本発明の植物体育成用容器の実際の態様の一例を示す模式断面図である。
【図9】図9は、本発明の植物体育成用シート(パーティション状)の実際の態様の一例を示す模式斜視図である。
【図10】図10は、図9のパーティション状シートの1つのマスを、上方から見た場合の模式平面図である。
【図11】図11は、図8の植物体育成用容器に、支持体および植物体を配置して水分を供給した場合の一態様を示す模式断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする植物保水用担体。
【請求項2】
弱酸性のハイドロゲル形成性高分子からなることを特徴とする植物保水用担体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保水用担体と、多孔質素材を少なくとも含むことを特徴とする植物保水用担体。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体に、栄養素または/および植物生長調節物質が保持されている植物育成用担体。
【請求項5】
シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用シート。
【請求項6】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を培養することを特徴とする植物培養方法。
【請求項7】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項8】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体と、幼植物とを液体中に分散させつつ、該幼植物の液体培養を行うことを特徴とする幼植物の液体培養方法。
【請求項9】
請求項1記載の植物保水用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を育成させ、カルシウムイオンを前記ハイドロゲル状態の支持体に添加し、該支持体を収縮させて植物体から分離することを特徴とする植物体育成方法。
【請求項10】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により支持させた植物体を、緑化すべき表面に付着させることを特徴とする緑化工方法。
【請求項1】
カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする植物保水用担体。
【請求項2】
弱酸性のハイドロゲル形成性高分子からなることを特徴とする植物保水用担体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保水用担体と、多孔質素材を少なくとも含むことを特徴とする植物保水用担体。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体に、栄養素または/および植物生長調節物質が保持されている植物育成用担体。
【請求項5】
シート状の基材と、該基材の少なくとも一方の表面上に配置された、請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体とからなることを特徴とする植物体育成用シート。
【請求項6】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を培養することを特徴とする植物培養方法。
【請求項7】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項8】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体と、幼植物とを液体中に分散させつつ、該幼植物の液体培養を行うことを特徴とする幼植物の液体培養方法。
【請求項9】
請求項1記載の植物保水用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により植物体を支持しつつ、該植物体を育成させ、カルシウムイオンを前記ハイドロゲル状態の支持体に添加し、該支持体を収縮させて植物体から分離することを特徴とする植物体育成方法。
【請求項10】
請求項1、2または3のいずれかに記載の植物保水用担体;または請求項4に記載の植物育成用担体に、少なくとも水を包含させてハイドロゲル状態としてなる支持体を用い;
該ハイドロゲル状態の支持体により支持させた植物体を、緑化すべき表面に付着させることを特徴とする緑化工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−48751(P2008−48751A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293276(P2007−293276)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【分割の表示】特願平10−507792の分割
【原出願日】平成9年5月16日(1997.5.16)
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【出願人】(395024506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【分割の表示】特願平10−507792の分割
【原出願日】平成9年5月16日(1997.5.16)
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【出願人】(395024506)
【Fターム(参考)】
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