説明

植物成長調整資材およびそれを用いた植物成長調整方法

【課題】人体および環境への影響が少ない植物成長調整資材およびそれを用いた植物成長調整方法の提供。
【解決手段】ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を主たる構成成分とする植物成長調整資材は、その植物成長調整効果が非常に高く、人および環境への影響が少ない植物の成長を調整するための資材として極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長調整資材およびそれを用いた植物成長調整方法に関する。更に詳細には、ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を主たる構成成分とする植物成長調整資材、および該植物成長調整資材を植物が成育する土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育する水中に浸漬することにより、植物の成長を調整する植物成長調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、林業、緑化、空き地、宅地および庭園において雑草の発芽や繁茂を抑制する場合、除草剤および人力による排除が行われている。近年、除草剤の残留問題を解決するため、天然素材による雑草発芽抑制技術の開発が行われており、ヒノキの樹皮や枝葉を利用した雑草発芽抑制技術についても、特許文献1、特許文献2、非特許文献1および非特許文献2によりその効果が報告されている。特許文献3には、コウヤマ、ナギ、スギ、ヒノキなどの植物の葉または抽出物を植物に対する生理活性抑制剤として用いることも報告されている。また、特許文献4には、マツの松かさの抽出物を植物に対する成長阻害物質として用いることが報告されている。特許文献5には、マツ科植物の木質部またはその細片から低級アルコールまたは含水低級アルコールで抽出される抽出物を植物成長促進剤に用いることも報告されている。
【0003】
現在、雑草抑制用として使用されている除草剤の大部分は化学製品であるため、生態系および人体への影響が問題となっており、その使用低減が望まれている。また、工場および住宅予定地(空き地)や法面では雑草管理に多大な費用と労力が必要となり、その改善方法の開発が望まれている。また、木材を伐採、搬出した後に残る枝葉及び球果は林地に放置されており、有効な利用方法はバイオマス燃料としての利用が考えられている程度である。しかしながら、ヒノキ等の枝葉及び球果には抗菌性や耐虫性といった有用な天然物質が多く含まれており、その有効利用が望まれている。これまでに、それらの有用成分を工業的に抽出し、添加物として利用する試みがなされてきたが、抽出という煩雑な行程を経るため製品の高価格化を招き、普及の妨げとなってきた。枝葉及び球果と同様に廃棄物として扱われてきた樹皮については様々な研究・開発がなされ、堆肥や雑草・病害虫抑制資材あるいは人工培土として使用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に記載されているように、ヒノキの樹皮を雑草抑制資材として用いた場合、敷設厚さを 5cm 以上取らないと雑草抑制効果が認められず、資材本来の抑制効果なのか、単なる光の遮断による抑制効果なのかが明確ではなく、従ってヒノキ樹皮を含む資材を用いた場合、雑草抑制効果は低いと言える。また、非特許文献1において、ヒノキ枝葉の雑草抑制効果が報告されているが、葉の粉砕材に効果があるという記載に止まっており、具体的な加工方法や使用方法は言及されておらず、更には葉だけでは効果が無かったことが記載されている。
非特許文献2において、ヒノキ葉からメタノールにより抽出された物質に植物の発芽抑制効果があることが記載されており、メタノール抽出物質であったことから難水溶性物質が主成分であるという推測がなされているが、メタノール抽出物質の中にも水溶性物質が含まれている可能性があることから、発芽抑制効果の主物質を同定するには至っていない。特許文献3の植物に対する生理活性抑制剤もその抑制活性が十分に満足がいくものとはいえない。特許文献4の農園芸用組成物は松かさによる植物成長阻害効果が記載されているが、十分な成長阻害効果は認められず、また、特許文献5では、マツ科植物の球果の抽出物については、何ら報告されていない。
【特許文献1】特開2001−31969号公報
【特許文献2】特開平5−15253号公報
【特許文献3】特開平5−213711号公報
【特許文献4】特開2000−226305号公報
【特許文献5】特開平11−279017号公報
【非特許文献1】埼玉県林業試験場業務成果報告 No.41 及び No.42
【非特許文献2】ランドスケープ研究 62 (5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、生態系に優しい天然材料であり、且つ未利用材である球果を有効利用した植物成長調整資材であって、その成長調整効果が強力な新たな資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
種子を採取した後、林地に放置されているヒノキ球果の周りには雑草の繁茂が少ないことから、ヒノキ球果に何らかのアレロパシー物質が存在するのではないかと考察し、本発明者は上記した課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、ヒノキ科の球果から実用化に期待のできる植物成長調整物質存在することを見出した。また、マツの球果からも植物成長促進物質の存在を見出した。このような知見に基づいて本発明は完成された。
即ち、本発明は、ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を、主たる構成成分とする植物成長調整資材に関する。
ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末の粒径は8mm以下であるのが好ましい。
植物成長調整物質は、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を水により抽出して得られる抽出液から調製される水溶性の植物成長調整物質であるのが好ましい。
植物成長調整物質は、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を低級アルコールもしくは含水低級アルコールによって抽出し、得られる抽出液を濃縮後に水を加えて水溶液とし、この水溶液を中性の範囲に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から調製される植物成長調整物質、あるいは、該水溶液を酸性の範囲に調整した後に、または該有機溶媒で抽出後の水層を更に酸性に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から調製される脂溶性の植物成長調整物質であるのが好ましい。ここで、低級アルコールもしくは含水低級アルコールは、70%以上のメタノール、エタノールまたはブタノールが好ましい。有機溶媒は、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、ヘキサンまたはアセトンが好ましい。
植物成長調整資材の構成成分は、ヒノキ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科の球果から抽出される植物成長調整物質であって、植物成長抑制作用を有するものが好ましい。このような構成成分は、特にマメ科、キク科、アブラナ科、シソ科、ヒユ科、ゴマノハグサ科、ツリフネソウ科またはイネ科の植物の成長抑制作用を有するものである。
あるいは、構成成分は、マツ科の球果乾燥粉末あるいはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質であって、植物成長促進作用を有するものが好ましい。このような構成成分は、特にキク科またはマメ科の植物の成長促進作用を有するものである。
【0007】
更に本発明は、上記の植物成長調整資材を、植物が成育している土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育している水中に浸漬することにより、植物の成長を調整する、植物成長調整方法に関する。
植物成長調整資材は、土壌に混合するのが好ましい。
植物成長調整資材の構成成分が、ヒノキ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科の球果から抽出される植物成長調整物質であって、植物成長抑制作用を有するものである植物成長調整資材は、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを抑制し、および/または植物の根端褐変率を上昇させる。構成成分が、マツ科の球果乾燥粉末あるいはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質であって、植物成長促進作用を有するものである植物成長調整資材は、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを促進し、および/または植物の根端褐変率を抑制する。
マツ科の球果乾燥粉末を、土壌表面に散布する場合には400g/m以上となる量で、土壌に混合する場合には乾燥土に対して15g/L以上となる量で施用するのが好ましい。
マツ科の球果から抽出される植物成長調整物質が400〜850ppmになるように調整された植物成長調整資材を使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒノキ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科の球果から抽出される植物成長調整物質は、その植物成長調整効果、特に植物成長抑制効果が非常に高い。マツ科の球果の乾燥粉末あるいはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質は、特に植物成長促進効果が高い。本発明の資材を用いることにより、これまで用いられてきた除草剤の使用量の低減化が図れ、人体および環境への影響が少ない植物の成長を調整するための資材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の植物成長調整資材の主たる構成成分は、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される水溶性または脂溶性の植物成長調整物質である。ここでヒノキ科に属するものとしては、例えば、ヒノキ属、クロベ属、アスナロ属、ビャクシン属、コノテガシワ属などが挙げられる。更にヒノキ属に属するものとしては、ヒノキ、サワラ、チャボヒバ、クジャクヒバ、ローソンヒノキ、アラスカヒノキ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、ヒヨクヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ムヒロなどが、クロベ属に属するものとしては、ニオイヒバ、クロベ(ネズコ)、アメリカネズコなどが、アスナロ属に属するものとしては、ヒバ(アスナロ)などが、ビャクシン属に属するものとしては、ハイネズ、イブキ、ハイビャクシャン、ミヤマビャクシャン、カイヅカイブキ、タマイブキ、ネズ、オオシマハイネズ、ミヤマネズなどが、コノテガシワ属に属するものとしては、コノテガシワ、シシンデンなどが挙げられる。本発明では、ヒノキ属及びクロベ属が好ましく、特にヒノキ属のヒノキ及びサワラ、クロベ属のニオイヒバが好ましい。また、マツ科に属するものとしては、日本アカマツ、チョウセンゴヨウ、リュウキュウアカマツ、ゴヨウマツ、ハイマツ、クロマツ、ヨーロッパアカマツ、ダイオウショウ、テーダマツ、フランスカイガンショウ、リキダマツ、ラジアーターパインが挙げられる。
【0010】
ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を得るための材料としては、ヒノキ科またはマツ科の成木から採取した球果が用いられる。材料として用いる球果は、採取直後の球果でも、あるいは長期間、例えば数十年間保存していたものでよいが、裁断または粉砕したものについては、直ちに使用することが好ましい。
乾燥粉末は、球果を例えば自然乾燥させた後に、粉砕機、製粉機または食繊機を用いて摩砕して粉末状に加工することにより得られる。乾燥粉末の粒径は、通常8mm以下であり、好ましくは1mm以下、更に好ましくは500μm以下、特に好ましくは125μm以下であり、粒径が細かい程効果は大きい。
植物成長調整物質を得るための材料としては、ヒノキ科またはマツ科の球果粉末が好ましく、球果粉末を得るには、採取した球果を粉砕機、製粉機または食繊機を用いて摩砕することにより得ることができる。また、ヒノキ科またはマツ科の球果粉末は、乾燥粉末が好ましい。
【0011】
本発明の植物成長調整資材の主たる構成成分である、ヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質は、ヒノキ科またはマツ科の球果、好ましくは球果乾燥粉末から水または有機溶媒により抽出することができる。具体的には、例えば、ヒノキ科またはマツ科の球果を常温乾燥した後で粉末とし、この球果乾燥粉末を、蒸留水に加え、2時間ほど回旋して水抽出液とし、水溶性物質を得ることができる。
【0012】
あるいは、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を低級アルコールもしくは含水低級アルコールによって抽出し、得られる抽出液を濃縮後に水を加えて水溶液とし、この水溶液を中性の範囲に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から調製される植物成長調整物質、あるいは、該水溶液を酸性の範囲に調整した後に、または該有機溶媒で抽出後の水層を更に酸性に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から、脂溶性の植物成長調整物質を調製することができる。ここで用いる低級アルコールもしくは含水低級アルコールとしては、70%以上のメタノール、エタノール、ブタノールなどが好ましいものとして挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、ヘキサン、アセトンなどが好ましいものとして挙げられる。これらの低級アルコールもしくは含水低級アルコールおよび有機溶媒を用いて、脂溶性の植物成長調整物質を調製するには、以下のような具体的な方法が挙げられる。
【0013】
ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を、70%以上のメタノール、エタノールあるいはブタノールに加えて、超音波処理などによりよく攪拌した後に、濾過して低級アルコール抽出液を得る。次いで、この低級アルコール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水を加えて水溶液とする。この水溶液を中性の範囲に、具体的には、pH6から8の範囲、好ましくはpH7に調整した後に、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、ヘキサン、アセトン、好ましくは、酢酸エチル、ブタノールで抽出した画分に植物成長調整物質である脂溶性物質を得ることができる。あるいは、上記低級アルコール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水を加えて得られる水溶液、または上記の中性の範囲に調整した後に有機溶媒で抽出した後の水層を、塩酸などにより酸性、好ましくは、pH2から4の範囲に調整し、次いで、上記と同様の有機溶媒で抽出した画分に植物成長調整物質である脂溶性物質を得ることがもできる。これらの画分を濾過し濾液を濃縮し、得られる濃縮物をそのまま植物成長調整資材として用いてもよく、また使用対象、使用方法などに応じて適当な他の材料などと一緒にして用いてもよい。
【0014】
ヒノキ科の球果乾燥粉末、あるいは上記した方法により、ヒノキ科の球果から得られる植物成長調整物質は、特に植物成長抑制作用を有し、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを抑制し、および/または植物の根端褐変率を上昇させる。マツ科の球果乾燥粉末、あるいはマツ科の球果から得られる植物調整物質は、特に植物成長促進作用を有し、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを促進し、および/または植物の根端褐変率を抑制する。
【0015】
上記した、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を主たる構成成分とする植物成長調整資材は、植物が成育する土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育する水中に浸漬することにより、植物の成長を調整することができる。ここで構成成分であるヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質に、他の同様の作用を有する資材あるいは物質を混合してもよく、これらの資材あるいは物質と一緒に用いることもできる。また、植物成長調整物質を、他の固形剤、例えば、酢酸ビニルなどと一緒にして用いることもできる。本発明の植物成長調整物質に、これらの固化剤を添加することにより得られる植物成長調整資材は、風雨による当該資材からの植物成長調整物質の流亡を抑制することができるため、特に法面等の傾斜地で植物成長調整資材として好適に使用することができる。また、ベントナイト、クレー、タルク、バーミキュライトなどと組み合わせることによって資材からの成分を保持させ、成長調整成分を効果的に効かせることも可能である。
【0016】
ヒノキ科の球果乾燥粉末を、土壌表面に散布する場合には、該粉末が200g/m以上、好ましくは400g/m以上となる量を散布するのが好ましく、その上限は、散布量をそれ以上多くしてもその効果が大きくならない量であり、それは当業者によって容易に決定できるものである。また、土壌に混合する場合は、該粉末の濃度が、乾燥土に対して15g/L以上、好ましくは30g/L以上、特に好ましくは60g/L以上となる量を混合するのが好ましく、その上限は、散布量をそれ以上多くしてもその効果が大きくならない量であり、それは当業者によって容易に決定できるものである。このような量で施用することにより、特に、植物の成長を有効に抑制することができる。ヒノキ科の球果から得られる植物成長調整物質を、土壌表面に散布する場合には、該植物成長調整物質が200g/m以上、特に400g/m以上となる量を散布するのが好ましく、また、土壌に混合する場合は、該植物成長調整物質の濃度が、乾燥土に対して0.01g/L以上、特に0.2g/L以上となる量を混合するのが好ましい。それらの上限は、散布量をそれ以上多くしてもその効果が大きくならない量であり、それは当業者によって容易に決定できるものである。このような量で施用することにより、特に、植物の成長を有効に抑制することができる。
マツ科の球果乾燥粉末を、土壌表面に散布する場合には、該粉末が200g/m以上、好ましくは400g/m以上となる量であり、その上限は、散布量をそれ以上多くしてもその効果が大きくならない量であり、それは当業者によって容易に決定できるものである。また、土壌に混合する場合は、該粉末の濃度が、乾燥土に対して15g/Lから200g/の範囲、好ましくは80g/Lから170g/Lの範囲となる量を混合する。このような量で施用することにより、特に、植物の成長を有効に促進することができる。
マツ科の球果から得られる植物成長調整物質を土壌表面に散布する場合は、該植物成長調整物質が400〜850ppmになるように、好ましくは700〜800ppmになるように調整した植物成長調整資材を、使用することが好ましく、このような量に調整された植物成長調整資材を施用することにより、特に、植物の成長を有効に促進することができる。
【0017】
本発明の植物成長調整資材を水に浸漬して用いる場合には、例えば、当該資材を適当な固形剤とともに小穴の開いた袋状容器に入れた後、水の中に浸漬することにより、水田や池等の水中植物の成長を抑制することができる。水に浸漬して用いる場合の当該資材の量は、当該資材に用いる構成成分の種類、対象とする水田や池などの面積等に応じて適当に決定することができる。
【0018】
本発明の植物成長調整資材は、いずれの植物にも適用可能であるが、特に、ヒノキ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科の球果から得られる植物成長調整物質は、ヒユ科植物の成長抑制に適している。また、キク科、アブラナ科、シソ科、ゴマノハグサ科、ツリフネソウ科、マメ科などの広葉雑草及びイネ科などの成長抑制にも適用可能である。マツ科の球果乾燥粉末あるいはマツ科の球果から得られる植物成長調整物質は、特に、キク科、マメ科の植物の成長促進に適している。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
I.植物成長調整物質の水抽出
愛媛県新居浜市の山林に人工造林したヒノキ球果を採集し、また、茨城県つくば市内のマツ球果を採集し、材料として用いた。採取したヒノキ球果およびマツ球果を、自然乾燥させた後、ミルを用いて粉末状に加工した。この粉末 10g を 100ml の蒸留水に加え 160rpm で 2 時間ほど回旋して抽出し、上清をろ過した。抽出ろ液を発芽において電気伝導度による阻害のないように1mS/cm以下に調整し水抽出液とする。
【0020】
II.発芽試験
水抽出液を 6 穴シャーレに入れた 2.5cm 角に切った綿に 1.5ml 添加した。各供試植物の種 9 粒を播種し、イチゴパックで蓋をして 25℃暗黒下で培養した。168 時間後、発芽率、幼根長、胚軸長、根端褐変率を測定した。その結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果から明らかなように、ヒノキ球果水抽出物はレタス幼根とクローバーの胚軸長を伸長抑制する効果を持つ。マツ球果の水抽出物はクローバーにおいて幼根長を伸長させる効果を持つ。
【0023】
III.ヒノキ球果水抽出液による殺草スペクトル
上記検定方法と同様の方法により、各種の植物に対するヒノキ球果の植物成長に対する抑制効果を調べた。検定期間は各植物の平均発芽日数とした。結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【実施例2】
【0025】
I.植物成長調整物質の溶媒抽出
愛媛県新居浜市の山林に人工造林したヒノキの球果を採集し、材料として用いた。採取したヒノキ球果を、自然乾燥させた後、ミルを用いて粉末状に加工した。この粉末 10g を 80% メタノール 500ml 中で攪拌し、更に超音波処理を施した。処理後、吸引ろ過を行い、メタノール抽出液を得た。得られたメタノール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水溶液とした。この水溶液を中性、好ましくはpH7に調整した後、n−ヘキサン、酢酸エチル、n−ブタノールで逐次抽出し、中・塩基性のヘキサン画分、酢酸エチル画分、ブタノール画分を得た。次いで残りの水層を酸性、好ましくはpH2に調整した後、上記と同様に、n−ヘキサン、酢酸エチル、n−ブタノールの順で抽出していき、酸性のヘキサン画分、酢酸エチル画分、ブタノール画分を得た。これら6画分を乾固した後、それぞれの重量を測定した。重量測定後、各画分を 100% メタノールに溶解し、発芽試験に用いた。
各画分の収量を表3に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
II.発芽試験
(1)5画分の発芽試験
各抽出物をアッセイに使用したい濃度になるように、メタノールにより濃度を調整し、6 穴シャーレに入れた 2.5cm 角に切った綿に 1.5ml添加する。シャーレの蓋をして、デシケーターにいれ3時間減圧乾固した。メタノールがとんだら 2mlの蒸留水を添加し、白クローバーの種 9 粒を播種し、イチゴパックで蓋をして 25℃暗黒下で培養した。168時間後、発芽率、幼根長、胚軸長、根端褐変率を測定した。
その結果を表4に示した。
【0028】
【表4】

【0029】
表4の結果から明らかなように、中・塩基性区の酢酸エチル画分に発芽抑制効果と成長抑制効果が、酸性区の酢酸エチル画分は発芽抑制効果と胚軸長および幼根長の伸長を顕著に抑制した。ブタノール画分は中性、塩基性及び酸性区ともに高い根端褐変率を示し、幼根長の伸長を阻害した。
【実施例3】
【0030】
I.植物成長調整資材の発芽試験方法
ヒノキ資材またはマツ資材の施用量の違いにおける発芽率の違いを調査した。実験には育苗用セルトレイ(5×5×5)を用いた。培土は試験区ごと 75ml にした。検定する検定種子の播種状況は、自然界における雑草種子の存在状況を考え、5 つの条件を設定した。
資材を散布する場合では、(1)散布したヒノキ資材の上から種子が飛んでくる場合、(2)表面に落ちている種子の上からヒノキ資材を散布する場合、(3)土中に埋没種子(土中1cm下)があり表面にヒノキ資材を散布する場合の3条件を設定した。資材を土と混合する場合では、(4)資材混合の土の上に種子が乗っている場合、(5)種子が資材混合土中に耕起によって混ぜ込まれる場合(土中1cm下)の2条件を設定した。コントロール区には、(6)種子が表面に落ちている場合の区と、(7)種子が土中に埋没している場合の2条件を設定した。
散布法は適当な割合で資材を実験区に散布し、混和法では土 1L あたり適当量の資材を混合したものを各セルに 75ml つめた。白クローバーの種を 9 粒あるいは 16 粒/cellずつ播種し、毎日各セル毎に最大容水量 36mlの水道水をあたえ、生育させた。3 週間後に発芽率と本葉発生率を測定し、その後抜き取り、胚軸長、根長を測定する。
【0031】
II.施用量の違いによる発芽試験
ヒノキ資材の施用量における発芽率を調査した。ヒノキ資材として、粒径が 125μm 以下が 7 重量%、125μm から 500μm が 63重量%、500μm から 8μm が 30 重量%で構成されるヒノキ球果乾燥粉末を用いた。この粉末は、粉砕機(東京アトマイザー製造株式会社製のアトマイザーTAP−5Wを用いて製造した。実験の条件は上記の方法で行った。検定植物には白クローバーを用いた。この試験には散布法では(1)、混和法では(5)の条件を用いた。資材施用量については、散布法は 0.16,0.32,0.64,1.28,1.6g/cell(m2あたり 100, 200, 400, 800, 1000g)の割合で資材を実験区に散布し、混和法では土1Lあたりそれぞれ資材を 3.75,7.5,15,30,60g混合したものを用いた。
得られた結果を表5および表6に示した。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
表5および表6の結果から分かるように、供試植物として用いた白クローバーの場合、散布の場合 400g/m2 まではヒノキ資材の施用量が増えるにつれ発芽率は低くなるが、それ以上量を播いても効果の上昇は起こらない。このことから散布量と成長量の間に相関関係はないと考えられる。つまりヒノキ資材の散布により、表面が乾燥することによっての発芽抑制効果と考えられる。一方で混和の場合は資材量が増えれば増えるほど、発芽率が低くなり、成長量も減少している。特にその傾向は根長において顕著である。これにおいては資材を混ぜ込んだことによる乾燥だけではなく、ヒノキ球果に存在するアレロパシー様物質の影響が考えられる。また、データは未記載であるが、発芽率が悪くとも、発芽がおこったものにおいては本葉発生が一様にそろったころから、成長ステージの上では問題なかった。しかし、資材量が増えれば増えるほど植物の矮性化が起こる。
【0035】
III.ヒノキ球果とマツ球果の比較試験
ヒノキ球果資材とマツ球果資材における発芽率の違いを調査した。ヒノキ球果資材として、粒径が 125μm 以下が 7 重量%、125μm から 500μm が 63重量%、500μm から8μm が 30 重量%で構成されるヒノキ球果乾燥粉末を用いた。この粉末は、粉砕機(東京アトマイザー製造株式会社製のアトマイザーTAP−5Wを用いて製造した。マツ球果資材として、同様の粉砕機を用いて製造される、粒径が 125μm 以下が 7 重量%、125 μm から 500μm が 63 重量%、500μm から 8μm が 30 重量%で構成されるマツ球果乾燥粉末を用いた。実験には育苗用セルトレイ(5×5×5)を用いた。培土は試験区ごと75mlにした。検定植物にはレタスと白クローバーを用いた。播種状況は、上記5つの条件でおこなった。資材施用量については、上記の結果から散布法は0.64 g/cell(m2あたり400g)の割合で資材を実験区に散布し、混和法では土1Lあたりそれぞれ資材を15g/L混合したものを用いた。3週間後に発芽率と本葉発生率を測定し、その後抜き取り、胚軸長、根長を測定した。
得られた結果を表7に示した。
【0036】
【表7】


【0037】
【表8】

【0038】
表7および表8の結果から分かるように、レタスではヒノキ球果は全体的にレタスの生長を抑制している。特に(4)と(5)での抑制が高い。白クローバーではヒノキ球果は(1)と(5)の処理区において発芽抑制、成長調整が起こる。マツの球果においては(4)において根長の成長促進が見られる。
【0039】
IV.粉砕粒径の違いによる発芽抑制効果の試験
ヒノキ球果の粉砕粒径における発芽率の違いを調査した。実験には育苗用セルトレイ(5×5×5)を用いた。培土は試験区ごと 75ml にした。検定植物には白クローバーを用いた。検定する検定種子の播種状況は、上記5つの条件でおこなった。資材施用量については、散布法は 0.64 g/cell(m2あたり400g)の割合で資材を実験区に散布し、混和法では土 1L あたりそれぞれ資材を 15g/L 混合したものを用いた。散布資材はヒノキ球果の微粉砕(粒径 500μm 以下)、3mm(粒径 500μm から 3mm)、8mm(粒径 3mm から 8mm)の三段階の粒径を使用した。
散布法は適当な割合で資材を実験区に散布し、混和法では土 1L あたり適当量の資材を混合したものを各セルに 75ml つめた。白クローバーの種を 16 粒/cell ずつ播種し、毎日各セル毎に最大容水量 36mlの水道水をあたえ、生育させ 3 週間後に発芽率を測定した。
得られた結果を表9に示した。
【0040】
【表9】

【0041】
表9の結果から分かるように、(1)から(3)までの区では粒径による違いはあまりないが、(4)と(5)の区については粒径が細かくなるほど発芽抑制効果が高いことが解る。このことから粉砕粒径を変えることによって乾燥状況やアレロパシー様物質の溶出速度が変化するということがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、未利用材であったヒノキ科およびマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を植物成長調整資材として有効利用することができる。また、本発明資材の植物成長調整効果は非常に高い。更には、本発明を用いることにより、これまで用いられてきた除草剤の使用量の低減化が図れ、人体および環境への影響が少ない雑草の成長を抑制するための資材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末あるいはヒノキ科またはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質を、主たる構成成分とする植物成長調整資材。
【請求項2】
ヒノキ科またはマツ科の球果の乾燥粉末の粒径が8mm以下である請求項1の植物成長調整資材。
【請求項3】
植物成長調整物質が、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を水により抽出して得られる抽出液から調製される水溶性の植物成長調整物質である、請求項1の植物成長調整資材。
【請求項4】
植物成長調整物質が、ヒノキ科またはマツ科の球果乾燥粉末を低級アルコールもしくは含水低級アルコールによって抽出し、得られる抽出液を濃縮後に水を加えて水溶液とし、この水溶液を中性の範囲に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から調製される植物成長調整物質、あるいは、該水溶液を酸性の範囲に調整した後に、または該有機溶媒で抽出後の水層を更に酸性に調整した後に、有機溶媒で抽出して得られる抽出液から調製される脂溶性の植物成長調整物質である、請求項1の植物成長調整資材。
【請求項5】
構成成分が、ヒノキ科の球果乾燥粉末あるいはヒノキ科の球果から抽出される植物成長調整物質であり、植物成長抑制作用を有するものである、請求項1から4のいずれかの植物成長調整資材。
【請求項6】
構成成分が、マツ科の球果乾燥粉末あるいはマツ科の球果から抽出される植物成長調整物質であり、植物成長促進作用を有するものである、請求項1から4のいずれかの植物成長調整資材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの植物成長調整資材を、植物が成育している土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育している水中に浸漬することにより、植物の成長を調整する、植物成長調整方法。
【請求項8】
植物成長調整資材を、土壌に混合する、請求項9の植物成長調整方法。
【請求項9】
請求項5の植物成長調整資材を用いて、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを抑制し、および/または植物の根端褐変率を上昇させる、請求項7または8の植物成長調整方法。
【請求項10】
請求項6の植物成長調整資材を用いて、植物の胚軸長、幼根長、発芽率および本葉発生率の少なくともいずれか一つを促進し、および/または植物の根端褐変率を抑制する、請求項7または8の植物成長調整方法。


【公開番号】特開2006−89400(P2006−89400A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275202(P2004−275202)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】