説明

植物抽出物の製造法

【課題】 ビール醸造の際に副産物として得られるホップ苞などから、高純度の水溶性ポリフェノールを短時間で効率よく製造する技術を開発すること。
【解決手段】 植物抽出物をベントナイトなどの粘土鉱物で処理し、二価陽イオンを除去することを特徴とする精製植物抽出物の製造法並びに精製植物抽出物を、カラムに通液してポリフェノール類を吸着させ、次いで溶媒を通液して水溶性ポリフェノールを溶出させることを特徴とするポリフェノール製造法と、ホップ苞抽出液にベントナイトを添加して酸性条件下で静置する工程、固−液分離を行い上清を得る工程、該上清をカラム精製し、得られたポリフェノール画分上清を冷却して静置して非水溶性成分を析出させ、固−液分離を行う工程を含むことを特徴とする水溶性ホップ苞ポリフェノールの製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物の製造法に関し、詳しくは食品または食品成分用途として安全なベントナイトなどを用いることによる植物抽出物からの二価陽イオン除去方法、および植物抽出物の飲料・酒類用途のための水溶化方法、特にホップ苞ポリフェノールの二価陽イオンの除去を伴う製造法に関する。さらに詳しくは、ポリフェノールの精製工程を改良して、水溶性ホップ苞ポリフェノールを短時間で効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップは、アサ科の多年生植物であり、その毬花(未受精の雌花が成熟したもの)に存在するルプリン部分(毬花の内苞の根元に形成される黄色の顆粒)は、ホップの苦味、芳香の本体であり、ビール醸造において酵母、麦芽と並んで重要なビール原料である。ホップ苞は、ホップ毬花よりルプリン部分を除いたものであり、ビール醸造の際に必要な成分ではなく、廃棄される場合もある。
このように、ビール醸造の際に副産物として得られるホップ苞は、これまで土壌改良用の肥料や、家畜の飼料などとして用いられる他に、有効な利用法がなく、付加価値の高い利用法の開発が求められている。
【0003】
なお、ホップ苞に内在するポリフェノール類については、既に抗酸化作用、発泡麦芽飲料に対する泡安定化作用、抗う蝕作用、消臭作用、癌細胞転移抑制作用、トポイソメラーゼ阻害作用などの有用な機能を有していることが知られている。
そのため、ホップ苞の有効利用法として、ポリフェノール類を抽出する方法が注目されている。しかし、ホップ苞にはワックス、繊維分などの夾雑物が多量に含まれており、ホップ苞からのポリフェノール類の抽出、精製の工程を複雑化させる要因となっている。
【0004】
また、植物からポリフェノール類を抽出する方法として、熱水抽出法、超臨界抽出法、アルコール抽出法等が挙げられる。しかし、抽出法により異なるが、植物由来及び有機栽培等で使用できるボルドー液の二価陽イオンがポリフェノール類と共に抽出され、植物抽出物中に存在することがある。
二価陽イオンは、食品衛生法上問題にはならないが、例えばホップ苞やブドウ果皮よりポリフェノール画分を精製後、特に粉末化後では二価陽イオンは数百ppmも存在することがある。キレート樹脂により二価陽イオンの除去は可能であるが、同時に目的のポリフェノール成分も大幅に減少するため、安定して効率の良い、二価陽イオンの除去方法の開発が望まれていた。
また、これまでの製造法によるホップ苞ポリフェノール画分では、酒類や飲料へ添加あるいは配合する際、不溶性物質の発生や濁り等が生じるという品質面の低下が懸念されており、水溶性ポリフェノール画分の製造法の開発が望まれていた。
【0005】
ホップ苞ポリフェノールの製造法が提案されている(特許文献1参照)が、この製造法における問題点として、以下のことが挙げられる。
(1)ホップ苞抽出液の珪藻土濾過工程で、濾液の濁度が十分に低下しないため、合成吸着剤によるカラム精製工程で目詰まりが発生し、ポリフェノールが損失していた。
(2)合成吸着剤によるカラム精製工程で得られる固形分中、水溶性ポリフェノール純度が約50%と低いため、後の澱下げ工程に長時間を要する。
(3)酒類や飲料へ添加あるいは配合する際、不溶性物質の発生や濁り等が生じていた。
(4)二価陽イオンが精製後も粉末あたり数百ppm存在していた。
【0006】
【特許文献1】WO 2004/052898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、かかる問題点を解消して精製植物抽出物の製造法、特に高純度の水溶性ホップ苞ポリフェノールを短時間で効率よく製造する方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ホップ苞ポリフェノールの製造方法において、これまでの珪藻土濾過工程の前にホップ苞抽出液を酸性条件下においてベントナイト等の粘土鉱物で処理することにより、二価陽イオンの除去と清澄化を効率よく実施することができ、前記特許文献1に記載の方法における精製工程に要する時間が大幅に短縮され、さらに、二価陽イオンが顕著に除去されるだけでなく、非水溶性成分も除去され、結果として水溶性ポリフェノールの精製が効率良く達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る本発明は、植物抽出物を粘土鉱物で処理し、二価陽イオンを除去することを特徴とする精製植物抽出物の製造法である。
【0010】
また、請求項2に係る本発明は、粘土鉱物がベントナイトである請求項1記載の製造法である。
【0011】
また、請求項3に係る本発明は、請求項1の精製植物抽出物を、カラムに通液してポリフェノール類を吸着させ、次いで溶媒を通液して水溶性ポリフェノールを溶出させることを特徴とするポリフェノール製造法である。
【0012】
請求項4に係る本発明は、植物がホップである請求項1〜3のいずれかに記載の製造法である。
【0013】
請求項5に係る本発明は、ホップ苞抽出液にベントナイトを添加して酸性条件下で静置する工程、固−液分離を行い上清を得る工程、該上清をカラム精製し、得られたポリフェノール画分上清を冷却して静置して非水溶性成分を析出させ、固−液分離を行う工程を含むことを特徴とする水溶性ホップ苞ポリフェノールの製造法である。
【0014】
請求項6に係る本発明は、ホップ苞抽出液にベントナイトを添加して酸性条件下で静置する工程を、pH2.0〜4.0の酸性領域で行う請求項5に記載のホップ苞ポリフェノールの製造法である。
【0015】
請求項7に係る本発明は、ポリフェノール画分上清の冷却温度が0〜10℃、静置時間が6時間以上900時間以内である請求項5または6に記載のポリフェノール製造法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
(1)ポリフェノールを含有する植物抽出物、例えばホップ苞抽出液を粘土鉱物で処理することにより、二価陽イオンの除去が効率的に行われる。二価陽イオンは、酒類や清涼飲料中に高濃度に存在すると、混濁、変色および酸化等が起こることが知られている。例えば、葡萄酒においては、葡萄酒中に10ppm以上の鉄イオンが存在すると、低酸度と低温によって鉄混濁が発生することが知られている。
また、銅混濁は葡萄酒においては、少なくとも0.6ppm以上存在すると発生する。したがって、植物抽出物の二価陽イオンを除去することは、該抽出物を酒類や清涼飲料に使用する際に、混濁防止等の効果が期待される。
(2)さらに、粘土鉱物による処理により、ホップ苞抽出液の清澄化が行われ、後続の合成吸着剤によるカラム精製工程において目詰まりが生起しない。
(3)合成吸着剤によるカラム精製工程で得られる水溶性ポリフェノールの純度が約90%に向上し、後の澱下げ工程における所要時間が大幅に短縮される。
(4)水溶性ホップ苞ポリフェノールの回収率が従来法に比べて約18%向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明における原料である植物としては、ポリフェノールを含有するものであればよく、特に飲食品等の製造において副産物として得られものが好適である。例えば果汁などの製造に用いられる林檎や葡萄の抽出物、ビール醸造において副生するホップの苞などがある。
ここで、ホップ苞とは、ホップ毬花よりルプリン部分を取り除いて得られるものであり、一般に、ホップ毬花を粉砕後、ふるい分けなどによってルプリン部分を除くことによって得られる。
ホップ苞は、ルプリン部分を除いた後、そのままの状態で原料として用いることもできるし、ペレット状に加工形成したものを用いてもよい。その他、ホップ毬花そのものやホップ毬花の超臨界抽出残渣などのように、ホップ苞を含むものであれば、特に問題なく本発明に用いることができる。
【0019】
次に、粘土鉱物は、含水ケイ酸塩を主体とする天然の微細粒子からなり、加水により可塑性を示す土状の物質をいい、例えばカオリン鉱物、パイロフィライト、タルク、セリサイト、モンモリロナイト、クロライト、スメクタイト、ベントナイト、酸性白土、活性白土などを挙げることができる。粘土鉱物の特徴は層状構造をとっていることであり、個々の結晶は板状もしくはフレーク状の形態をとるのが普通で、層状構造内に種々のイオンを取り込む能力を持っている。これらの中でも、ベントナイトは吸着能力に優れているばかりでなく、食品添加物として用いられており、特に好ましい。ベントナイトは、粘土鉱物のモンモリロナイトを主成分として含んでおり、水中で膨潤する性質や陽イオン交換能を有している。
本発明で用いるベントナイトは、天然ベントナイトから夾雑成分を取り除いた精製物が好ましく、フレーク状、粉末状などに加工したものであってもよい。
【0020】
以下に、本発明の植物抽出物からポリフェノールを製造する方法の例示として、ホップ苞ポリフェノールの製造法について説明する。なお、粘土鉱物の代表例としてベントナイトを用いた。図1は、本発明のプロセスフローの概要を示したものである。
まず、原料のホップ苞を抽出溶媒の含水アルコール、好ましくは50容量%以下のアルコール水溶液で抽出することにより、ポリフェノール類を含む抽出液を得る。アルコールとしては、エタノールが好ましい。原料に対する抽出溶媒の割合は、1:10〜20(重量比)程度であればよい。また、抽出は30〜60℃で攪拌下、60〜180分間行えばよい。
【0021】
抽出操作の終了後、ろ過によってポリフェノール類を含む抽出液を得るが、その際必要に応じて圧搾処理を行って抽出液の回収率を高めたり、分取したホップ苞に加水して再度圧搾して抽出液を回収してもよい。
このようにして得られたポリフェノール類を含む抽出液は、残存アルコール濃度が2容量%以下になるように、好ましくは固形分含量がBRIX(可溶性固形分含量:水溶液中に含まれる糖類を初めとして、塩類、蛋白質、酸類など水に溶ける物質すべてが屈折率に影響するが、測定した屈折率がショ糖含量にのみ依存するとして換算し得られる値)で50〜75%に濃縮する。濃縮方法としては、加熱濃縮、減圧濃縮などの通常用いられる方法を採用すればよいが、減圧濃縮が好ましい。また濃縮後、冷蔵もしくは冷凍で保存できる。
【0022】
次に、上記濃縮抽出液を、所望により希釈する。希釈率は、上記濃縮抽出液の固形分含量がBRIXで50〜75%である場合、粘性及び比重を下げるために水で3〜5倍に希釈した後、該抽出液のpHを食品加工用の酸を用いてpH2.0〜4.5の酸性領域、好適にはpH3.0〜3.5程度に調整する。この場合、pH調整にクエン酸などの有機酸を用いることが好ましい。
次いで、該抽出液にベントナイトを添加した後、12〜24時間、好ましくは15〜20時間程静置する。なお、ベントナイトは、あらかじめ60℃以上、好ましくは80〜90℃の温水と混合して膨潤させ、5〜15%水溶液、好ましくは10%水溶液としておき、これを前記抽出液量に対するベントナイト量として2000ppm、好ましくは1500〜2000ppmの割合で添加する。
この操作により、抽出液中に含まれる二価陽イオンはベントナイトにより吸着、除去され(固形分含量BRIX12当たり20ppmから)5ppm以下、通常は0.5〜1.0ppmに低下する。
さらに、ベントナイトにより生じた沈殿物を、遠心分離(通常は5,000〜10,000Gで5〜10分間)、ろ過(例えば珪藻土ろ過)、その他の固−液分離により、抽出液の清澄化が行われる。
また、必要であれば、上記抽出液を10℃以下の低温で数日〜1ヶ月間保存して十分に沈殿を生じさせた後に、当該沈殿物を除去することにより清澄化することもできる。
【0023】
次いで、上記清澄化工程を経たポリフェノール類を含む抽出液を、合成吸着剤を充填したカラムに通液させることにより、合成吸着剤にポリフェノール類を吸着させる。このとき、抽出液は、15〜30℃の室温程度まで冷却したものを通液させることが望ましい。合成吸着剤としては、親水性ビニルポリマー、ヒドロキシプロピル化デキストラン、スチレン−ジビニルベンゼン重合体などを挙げることができ、スチレン−ジビニルベンゼン重合体が好ましい。通液時間は、空間速度SV値が0.5〜10の間となるように設定するのが好ましく、特に好ましくはSV=1である。なお、ここで言うSV値は、以下の式により定義される。
【0024】
(数1)
SV値 =(通液量(L))/{(樹脂量(L))x(通液時間(h))}
【0025】
次に、溶媒をカラムに通液してポリフェノール類を吸着させた合成吸着剤を洗浄する。溶媒としては、例えば水またはエタノール水溶液が用いられ、エタノール水溶液としては10容量%以下のエタノール水溶液が好ましい。特に、純水を用いるのが好ましい。この工程により、夾雑成分を除去し、ポリフェノール類の精製度を向上させることができる。このとき、樹脂量の1〜5倍の溶媒をカラムに通液し、洗浄することが好ましい。
【0026】
さらに、洗浄した合成吸着樹脂に対して、含水有機溶媒、例えば含水アルコール、含水アセトン、含水アセトニトリルなどを通液することにより、ポリフェノール類を溶出させる。このとき、溶媒としては、20容量%以上65%未満のエタノール水溶液、特に30〜60%エタノール水溶液が好ましい。また、吸着樹脂量の1〜6倍の溶媒を通液させるのが好ましい。
得られるポリフェノールを含むアルコール水溶液は、減圧濃縮機により含有アルコールを除去し、結果として固形分含量3.5〜5.0%まで濃縮する。
【0027】
上記により得られた溶出液を減圧濃縮または加熱濃縮した後、必要があればpHを3.0以下に調整する。このとき、pH調整剤としては、食品用として通常用いられているもの、例えばクエン酸などの有機酸を使用すればよい。
【0028】
得られた濃縮液を静置することにより澱下げを行う。すなわち、夾雑物を沈殿させる。しかる後、ろ過などの固−液分離を行う。ここで、澱下げ工程は、温度0〜10℃、好ましくは0〜4℃で、8〜24時間、好ましくは8〜12時間行う。
【0029】
次いで、ろ過済み濃縮液について、必要に応じて凍結乾燥(フリーズドライ)や噴霧乾燥(スプレードライ)などの通常の方法により溶媒を除去し、ホップ苞ポリフェノールを粉末として得ることができる。
このようにして得られたホップ苞ポリフェノールは、苦味あるいは渋味を呈した僅かなホップ香を有する、淡褐色〜褐色の粉末である。
なお、上記の方法で得られるポリフェノール類の収率は、ホップ苞あたり2.0〜2.1%である。この収率は、従来法と比べると、約18%向上している。
【0030】
上記のようにして得られたホップ苞ポリフェノールなどの本発明に係るポリフェノールは、前記した様々な機能を有しており、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品などに配合し、利用することができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
原料のホップ苞800gを50容量%のアルコール水溶液で抽出して得たポリフェノール類を含む抽出液400gを40℃に加温した純水に溶解し、1200mlまでメスアップ(希釈率3倍v/w)した。次いで、これを250mlメスシリンダーに200mlずつ分注し、5検体を準備した。
一方、80℃に加温した純水100mlにベントナイト5gを添加し、12時間以上撹拌して膨張させ、ベントナイト5%懸濁液を調製した。この懸濁液を、表1に示した通りに上記各検体に添加した後、すべて等量になるように純水を用いて調整した。
一晩静置させた後、遠心分離を行って上清を採取した。この上清について濁度を10mm長セルを用いて分光光度計にて650nmにおける吸光度を測定して求め、pH値をpHメーターで測定した。さらに、上清を0.45μmメンブレンフィルターでろ過したのち、銅(Cu)とナトリウム(Na)の濃度および見掛けポリフェノール濃度を測定した。なお、Cu濃度とNa濃度は、原子吸光法により測定し、見掛けポリフェノール濃度はUV280nm法により測定した。ここで、UV280nm法について以下に説明する。
【0033】
ポリフェノール類は、各成分毎に特有の紫外部吸収スペクトルを有することが知られている。林檎や葡萄、ホップ苞に含まれる主なポリフェノール類は、catechin、proanthocyanidin等があり、これらは280nmに吸収極大を持つ。したがって、280nmにおける吸光度を測定することによりポリフェノール濃度を測定することができる。但し、ポリフェノール類の単位重量あたりの280nmにおける吸光係数が蛋白質、核酸、香気成分等、紫外部吸収のある成分に比べ、非常に大きいので、これらポリフェノール以外の物質の280nmにおける吸光度は大きく関与しないが、その影響は完全に排除していないため、見掛けポリフェノール濃度と定義している。測定結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果より、ベントナイトで処理した抽出液の濁度は、その濃度依存的に低下する傾向にあることがわかった。しかし、澱の沈降速度が遅いことから、ポリフェノール類を含む抽出液の希釈倍率やpH条件について検討を加える必要があると思われる。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様にして、原料のホップ苞800gを50容量%のアルコール水溶液で抽出して得たポリフェノール類を含む抽出液400gを40℃に加温した純水に溶解し、1200mlまでメスアップ(希釈率3倍v/w)した。次いで、これを250mlメスシリンダーに200mlずつ分注し、5検体を準備した。
一方、80℃に加温した純水100mlにベントナイト5gを添加し、12時間以上撹拌して膨張させ、ベントナイト5%懸濁液を調製した。この懸濁液を、表2に示した通りに上記各検体に添加した後、すべて等量になるように純水を用いて調整した。次いで、各検体に無水クエン酸を添加して、表2に示したpH値に調整した。
一晩静置させた後、遠心分離を行って上清を採取した。この上清について、実施例1と同様の方法で処理したのち、濁度、pH値、Cu濃度、Na濃度、見掛けポリフェノール濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
この例では、試験区におけるベントナイト処理時のpH値が対照区と比較して低くなるにつれ、見掛けポリフェノール濃度に変化はないが、Cu濃度が減少した。
【0039】
(実施例3)
原料のホップ苞4kgを50容量%のアルコール水溶液で抽出して得たポリフェノール類を含む抽出液2kgを40℃に加温した純水に溶解し、7.2Lまでメスアップ(希釈率3.6倍v/w)した。次いで、これを2Lメスシリンダーに1.8Lずつ分注し、4検体を準備した。尚、検体のpH調整には、クエン酸(無水)を使用した。
一方、80℃に加温した純水500mlにベントナイト25gを添加し、12時間以上撹拌して膨張させ、ベントナイト5%懸濁液を調製した。この懸濁液を、表3に示した通りに上記各検体に添加した後、すべて等量(2000ml)になるように純水を用いて調整した。
一晩静置させた後、遠心分離を行って上清を採取した。この上清について濁度を10mm長セルを用いて分光光度計にて650nmにおける吸光度を測定して求め、pH値をpHメーターで測定した。さらに、上清を実施例1と同様にしてろ過したのち、銅(Cu)とナトリウム(Na)の濃度および見掛けポリフェノール濃度を実施例1と同じ方法で測定した。測定結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3から明らかなように、10倍にスケールアップした場合も、二価陽イオン除去能および濁度低下について再現性が確認された。また、ベントナイト濃度についても、2000〜5000ppmの範囲では二価陽イオン除去率および濁度低下に大きな差はないが、ベントナイトの添加量が増えると、ナトリウム濃度が高くなるので、ベントナイト濃度は2000ppm程度が妥当である。さらに、二価陽イオン除去率は処理液のpHによる影響が大きいことがわかった。
したがって、ベントナイトの添加量を2000ppm程度、処理液のpHを3.0程度に設定するのが適当である。
【0042】
(実施例4)
原料のホップ苞800gを50容量%のアルコール水溶液で抽出して得たポリフェノール類を含む抽出液400gを40℃に加温した純水に溶解し、1440mlまでメスアップ(希釈率3.6倍v/w)した。次いで、これを1000mlメスシリンダーに720mlずつ分注し、2検体を準備した。実施例3と同様に抽出液にベントナイト添加量2000ppmを加え、クエン酸によるpH調整(3.0)を行い、純水にて希釈倍率を4倍となるよう調整した。これを一晩静置させた後、遠心分離を行って上清を採取し、抽出液重量に対し純水にて希釈倍率を6倍となるよう調整した。この上清を実施例1と同様にろ過して検液1とした。
一方、対照としてポリフェノール類を含む抽出液を、ベントナイト処理せずに純水にて希釈倍率を6倍としたものを検液2とした。
次に、各検液1200mlを空間速度=1(3.3ml/min)にてカラム(充填剤:三菱化学社製SP850、196ml)に通液し、次いで純水を通液し、カラム下部Brix.0.2で終了した。次に、50%エタノール(液温は室温)600mlを空間速度=1(3.3ml/min)にてカラムに通液した。エタノールの通液開始後から、最終液量850mlまで回収した(純水押し分を含む)。得られた試料(カラム負荷検液、液量1200ml)について、実施例1と同様の方法でCu濃度とNa濃度を測定し、結果を表4に示した。また、カラム溶出液(液量 850ml)中のCu濃度とNa濃度を測定し、Cu除去率とNa除去率及びポリフェノール濃度を求め、その結果を表5に示した。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
表から明らかなように、本発明によれば、二価陽イオンは60〜85%除去される。なお、カラム精製によって除去される理由については、二価陽イオンは樹脂に吸着されないことが原因であると推測される。また、pH調整し酸性領域でベントナイト処理したポリフェノール含有抽出液をカラムに通液し、次いで純水の通液を行うことにより、原料に由来する銅は1/10以下まで除去可能であると考えられる。
【0046】
(実施例5)
カラム溶出液を脱アルコール、濃縮しポリフェノール画分濃縮液を得た。これを乾燥させ、ホップ苞ポリフェノールの粉末(1)(非水溶性成分除去前のもの)を得た。次に、クエン酸で濃縮液をpH3.2に調整し、3日間0℃で冷却保存を行い、沈殿を析出させた。これをろ過後、乾燥させ、水溶性ホップ苞ポリフェノールの粉末(2)(非水溶性成分除去後のもの)を得た。これら粉末(1)、(2)の100ppm水溶液を作成し、分析を行った結果を表6に示す。表中のポリフェノール係数は、ゲル浸透高速液体クロマトグラフィー(GPC-HPLC)で得られる分子量パターンより、ピーク面積として測定した。また、プロアントシアニジン係数は、Porter法により測定した。Porter法とは、ニ量体以上のカテキンオリゴマー(縮合型タンニンまたはプロアントシアニジン)を酸性条件下で加熱すると、カテキン-カテキンの間の結合が切断されるとともに、アントシアニジン(赤色色素)が生成する現象を利用し、再現性良く試料中の総プロアントシアニジン量を比色定量する方法である。また、タンパク質はケルダール法により全窒素を測定し、係数6.15を乗じてタンパク質含量を求めた。
【0047】
【表6】

【0048】
表6から、非水溶性成分除去工程により、粉末化されたホップ苞ポリフェノール画分中のポリフェノールおよびプロアントシアニジン含量の向上、タンパク質含量の減少により、ポリフェノール純度の向上が示された。これは、精製ポリフェノール画分に残留していた不溶性タンパク質などの非水溶性成分が、析出・沈殿化して除去されたことによるものと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、ポリフェノール含有植物の抽出物、例えばビール醸造の際に副産物として得られるホップ苞などから、高純度の水溶性ポリフェノールを短時間で効率よく製造する方法が提供される。
しかも、本発明によりホップ苞抽出液をベントナイトで処理することにより、不純物の二価陽イオンなどの除去を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のプロセスフローの概要を示したものである。前半の清澄化工程までには、二価陽イオン除去工程、植物抽出物清澄化工程を含み、後半の工程には、ポリフェノール水溶化工程を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物抽出物を粘土鉱物で処理し、二価陽イオンを除去することを特徴とする精製植物抽出物の製造法。
【請求項2】
粘土鉱物がベントナイトである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
請求項1の精製植物抽出物を、カラムに通液してポリフェノール類を吸着させ、次いで溶媒を通液して水溶性ポリフェノールを溶出させることを特徴とするポリフェノール製造法。
【請求項4】
植物がホップである請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
ホップ苞抽出液にベントナイトを添加して酸性条件下で静置する工程、固−液分離を行い上清を得る工程、該上清をカラム精製し、得られたポリフェノール画分上清を冷却して静置して非水溶性成分を析出させ、固−液分離を行う工程を含むことを特徴とする水溶性ホップ苞ポリフェノールの製造法。
【請求項6】
ホップ苞抽出液にベントナイトを添加して酸性条件下で静置する工程を、pH2.0〜4.0の酸性領域で行う請求項5に記載のホップ苞ポリフェノールの製造法。
【請求項7】
ポリフェノール画分上清の冷却温度が0〜10℃、静置時間が6時間以上900時間以内である請求項5または6に記載のポリフェノール製造法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−290756(P2006−290756A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110500(P2005−110500)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000110918)ニッカウヰスキー株式会社 (21)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】