説明

植物栽培装置

【課題】植物栽培装置において、供給する養液や水の使用量を低減する。
【解決手段】栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックスと、前記栽培ボックスの中空内に前記栽培植物の養液を平均粒子径が30μm以下の微細な霧として供給して充満させる霧発生手段と、前記栽培ボックス内の湿度を近飽和状態に保持するように前記霧発生手段からの霧供給量を制御する供給調整手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培装置に関し、特に、植物工場で好適に用いられるものであり、植物栽培に最適の生育条件と経済条件を付与し、砂漠や水の少ない乾燥地域での植物栽培にも好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
植物栽培装置は従来より多数提案されており、そのうちで、特開2008−104377号公報等で提案されている霧栽培方法は、栽培植物に養液を含む霧を噴霧している。この種の霧栽培方法は、養液の吸収率を高め、育生を速めることができると共に、自動化、省力化ができる等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−104377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の霧栽培では、加湿器を用いて養液を含む霧を発生させている。この加湿器から発生する微細な霧の量が余りにも少量であるため、趣味の園芸の域にとどまり、実営業には不適である。
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、栽培植物にとって適切な養液を常時供給できるようにして、植物栽培装置を用いた営農を可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、
栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックスと、
前記栽培ボックスの中空内に、前記栽培植物の養液を平均粒子径が30μm以下の微細な霧として供給して充満させる霧発生手段と、
前記栽培ボックス内の湿度を近飽和状態に保持できるように前記霧発生手段からの霧供給量を制御する供給調整手段と、
を備えていることを特徴とする植物栽培装置を提供している。
【0007】
本発明は主として営農用を対象としているため、栽培ボックスは例えば長さ6m、巾1m、高さ0.4mの大型栽培ボックスとしている。この大型の栽培ボックスの中空内に平均粒子径が30μm以下の微細な霧を充満させて近飽和状態とし、かつ、該近飽和状態を保持できるようにしている。
【0008】
前記のように、栽培ボックスに供給して充填する養液は平均粒子径が30μm以下、好ましくは10μm以下の超微細な霧としている。該霧の平均粒子径はレーザ法で測定している。このように微細な霧としているのは、大型の栽培ボックス内を養液の霧で近飽和状態とするには、かなりの量を噴霧する必要があり、噴霧量が少ない場合には近飽和空間にできる栽培ボックスの大きさが制限される。それは粒子径の大きな霧粒は容易に落下し、また、粒子同士の付着凝塊作用もあって粒子径が肥大化して落下が促進され、霧粒の空中浮遊が困難となる。したがって、粒子径が小さければ小さい程、近飽和空間にできる栽培ボックスを大きくでき、より経済的な営農が可能となる。
【0009】
前記微細な霧を栽培ボックス内に供給して、該栽培ボックスの中空に充満させる霧発生手段として、養液を噴射するノズル、養液を遠心分離で微細化する遠心分離式噴霧機、養液をろ布を通して微細噴霧する濾布式噴霧機等があげられ、平均粒子径が30μm以下の霧として噴霧できる手段であれば適宜に採用できる。
【0010】
前記霧発生手段は栽培ボックス内に設置した養液噴霧用のノズルからなり、
前記供給調整手段は前記ノズルの噴霧開始と噴霧停止を自動または手動で切り替える手段からなり、
前記近飽和状態は前記栽培ボックス内に設置した湿度センサの検出湿度が90%以上100%未満の範囲内で設定する閾値を指標として規定し、前記閾値未満で噴霧を行い、閾値以上で噴霧を停止する設定としていることが好ましい。
【0011】
前記のように、霧発生手段として、栽培ボックス内に養液噴霧用のノズルを用いると、設備的に簡単かつ安価に設置でき、しかも制御が簡単に行えるため最適である。
かつ、前記ノズルは養液と空気を混合噴霧する二流体ノズルとし、噴霧の平均粒子径は10μm以下としていることが好ましい。
【0012】
近飽和状態とは湿度90%以上の飽和に近い湿度を指すが、本発明では、湿度90%以上100%未満の範囲内で設定した閾値を近飽和状態に達したか否かの具体的な指標として設定し、該閾値未満であると噴霧を行い、閾値に達すると噴霧を停止している。
【0013】
前記のように、供給調整手段は前記ノズルの噴霧開始と噴霧停止を自動または手動で切り替える手段とからなるが、湿度の閾値に応じて自動で噴霧開始と停止を行う自動制御装置を設けることが好ましい。該自動制御装置は栽培ボックス内の湿度センサからの検出値を無線または有線で連続受信し又は一定時間間隔で受信し、予め設定している閾値に達すると噴霧を自動停止、閾値未満になると噴霧を自動開始するものとしている。
【0014】
また、前記栽培植物の成長に応じた養液供給量の増量は前記閾値を基準とした噴霧のオン・オフで自動制御される一方、成長時に養液供給量を減量すべき栽培植物に対しては成長時に設定閾値を引き下げることが好ましい。
即ち、栽培植物は成長に応じて養液吸収量が増加するため、閾値を下回る時間間隔が短くなり、ノズルの噴霧時間が伸びることで養液供給量が自動的に増量されることになる。 一方、植物の成長過程に応じて給肥量(養液供給量)を減量すると糖度が高まって好ましい場合もあり、その場合は設定閾値を引き下げて給肥量が減量するように調整している。
【0015】
前記栽培ボックスは直方体で、その長手方向の一端側の内面に前記ノズルを設置して他端側に向けて噴射させ、該噴射により根部に揺動を与え、かつ、前記一端側から他端側にかけて上向きに傾斜させた傾斜板をボックスの内面と隙間をあけて配置し、前記ノズルから噴霧が傾斜板の上面に沿って他端へと流通した後に他端で下向きに向きをかえて傾斜板の下面に沿って循環させる構成とすることが好ましい。
【0016】
さらに、前記栽培ボックスの底部に滞留した養液の残留を養液槽に回収し、新しい養液と混合して再噴霧養液としていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の植物栽培装置では、栽培植物の根部を垂れ下げる栽培ボックスの中空部内に、平均粒子径が30μm以下、好ましくは10μm以下の霧を供給して充満しているため、大型の栽培ボックス内を近飽和状態に常時保持することができる。よって、密植や連作が可能なため、栽培植物を大量かつ迅速に生育でき、営農用の栽培装置として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態の植物栽培装置の栽培ボックスを示す断面図、(B)は(A)のB−B線の拡大断面図である。
【図2】栽培ボックスと制御装置とを示す斜視図である。
【図3】栽培ボックスと制御装置との関係を示す説明図である。
【図4】前記栽培ボックス内に設置するノズルの正面図である。
【図5】他のノズルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の植物栽培装置の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に第1実施形態を示す。
植物栽培装置は図1(A)(B)に示すように、上面開口の直方体状の栽培ボックス1を備えている。各栽培ボックス1の大きさは多数の栽培植物Pを長さLおよび幅Wに一定間隔をあけて栽培できる大きさとしている。本実施形態の栽培ボックス1は大型とし、長さLが6m、幅Wが1m、高さHが0.4mである。
【0020】
複数の栽培ボックス1は図2に示すように、搭載用フレーム10に上下複数段に搭載して1つのユニットUとし、植物工場内に複数ユニットを設置している。該栽培装置の栽培ボックス1内に設置したノズル5を供給調整手段となる制御装置で自動制御している。なお、栽培ボックス1は植物工場の建屋内に設置する以外にビニールハウス等の温室内に設置してもよい。さらに、家庭で庭やベランダに設置してもよい。
【0021】
栽培ボックス1の上面開口1hを蓋材2で閉鎖し、栽培ボックス1の内部に略密閉された中空部3を形成している。蓋材2は発泡スチロールからなる基板20と、該基板20の上面に固着する遮熱板21からなる。該中空部3内に蓋材2でフロート支持された栽培植物Pの根部Prを垂れ下げている。蓋材2に長さ方向Lと幅方向Wに間隔をあけて、複数個の植付穴22を設けている。
【0022】
前記栽培ボックス1の中空部3を囲む図1中で左側壁1bの内面の幅方向Wの略中央位置に、1本のノズル5を霧発生手段として取り付けている。該ノズル5は図4に示す二流体ノズルとし、肥料を水により所要倍率で希釈した養液を空気と混合して平均粒径10μm以下のドライフォグとして噴霧している。
【0023】
前記ノズル5は図4に示す二流体ノズルからなり、圧力空気供給管7bとサクションチューブからなる養液供給管7aを接続している。圧力空気供給管7bから導入する圧力空気により養液供給管7aから養液を吸引し、ノズル本体5aの内部で混合し、ノズル本体5aの先端に設けた噴口5bから噴射している。該噴口5bと対向位置の外部に噴口からの噴霧が衝突して超音波振動を発生させる外部衝突部材5cを有する構成としている。該二流体ノズル5を用いると、超音波振動で粒子を更に微細化できる。
【0024】
栽培ボックス1の左側壁1bに取り付ける前記ノズル5から対向する右側壁1cに向けてドライフォグを噴霧し、これにより栽培ボックス1の左右両側壁1bと1cとの間に配列した栽培植物Pの根部Prにドライフォグを直接に吹き付け、根部Prを揺らせると共に養液の液滴を根部Prに接触させて養液を吸収させている。
【0025】
また、栽培ボックス1の中空部3内の下部に、図1に示すように、ノズル5の設置側の側壁1b側から側壁1c側に向けて上向きに傾斜する傾斜板8を配置している。ノズル5は傾斜板8より上方位置に配置している。傾斜板8の長さは栽培ボックス1の長さLより若干短くし、傾斜板8の長さ方向の両端と栽培ボックス1の側壁1b、1cの内面との間にそれぞれ循環流発生用の隙間9A、9Bを設けている。これにより、ノズル5から噴射するドライフォグの霧Mが傾斜板8の上面に沿って流れた後に循環流発生用の隙間9Aを通って傾斜板8の下面側へと流れ、循環流発生用の隙間9Bから傾斜板8の上面側へと流れ、傾斜板8を挟んで循環できるようにしている。
【0026】
ノズル5の噴霧開始および噴霧停止は、図3に示すように、栽培ボックス1の外部に配置した制御装置で行っている。
制御装置は制御ボックス80を備え、栽培ボックス1の内部に設置した湿度センサ30からの測定値を無線(有線でもよい)により前記制御ボックス80に連続的、または一定時間間隔で送信している。
【0027】
制御ボックス80に、コンプレッサー42にエアータンク46を介在させて接続した配管45を通し、前記圧力空気供給管7bと接続している。制御ボックス80内の配管45に電磁開閉弁43を介設し、開弁時に圧力空気供給管7bを通してノズル5に圧力空気を供給している。
また、制御ボックス80に、液肥タンク47にポンプ48を介在させて接続した配管49を貫通させ、該配管49を供給液タンク50の内に配置したフロート弁51と接続している。供給液タンク50内のフロート弁51は供給液タンク50内に貯溜する養液に浮上させ、設定量以下となるとポンプ48を駆動して配管49から養液を供給液タンク50に供給するようにしている。
【0028】
さらに、栽培ボックス1に設けた排液口54から栽培ボックス1内で結露した養液を排出し、該排出した養液を供給液タンク50で受け止めて回収している。該供給液タンク50に前記養液供給管7aとなるサクションチューブを垂下し、その下端にストレーナ52を取り付け、ノズル5内を流れる圧力空気で養液をストレーナ52を通して吸い上げている。
【0029】
制御ボックス80内に搭載したコンピュータ81は湿度センサ30から入力される湿度と予め設定されている湿度の閾値とを比較判定し、栽培ボックス1内の湿度が90%以上100%未満の範囲で設定した閾値未満であるとノズル5からの噴霧を開始し、閾値に達するとノズル5からの噴霧を停止する制御を行っている。即ち、コンピュータ81から前記圧力空気の配管45に設けた電磁開閉弁43に開閉信号を出力して開閉動作している。本実施形態では閾値を湿度97%に設定している。
【0030】
前記植物栽培装置では、栽培ボックス1の上面開口1hを蓋材2で閉鎖して、中空部3を略密閉し、該中空部3内に上方に配置する蓋材2から長さ方向Lおよび幅方向Wに一定間隔をあけて栽培植物Pの根部Prが垂れ下がった状態となる。
中空部3内の湿度が閾値(97%)未満であるとノズル5から養液を含む霧Mを噴霧し、中空部3内を湿度97%以上となるように霧Mを充満させる。ノズル5から噴射する霧Mの噴射圧およびファン11から供給する風の風速で霧Mを中空部3内で傾斜板8の上面側を、ノズル5の設置側の側壁1bから対向する側壁1c側へと流れ、ついで、ファン11で吸引して、傾斜板8の下面側で側壁1c側から側壁1b側へと流している。このように、中空部3内で霧Mを滞留させずに循環流れとして、栽培植物Pの根部Prを揺らせながら霧Mを接触させて、養液を根部Prに吸収させている。
【0031】
特に、ノズル5から噴霧の平均粒子径を30μm以下(本実施形態では10μm以下のドライフォグ)としているため、水滴として凝集して落下するのを防止でき、大型の栽培ボックス1内を湿度97%の近飽和状態に保持することができる。このように微細化した養液の霧とすることで、栽培植物が養液を吸着しやすくし、同時に空中の酸素、窒素の触取も容易に行えるようにしている。かつ、近飽和状態を維持することで、栽培植物が常時養液を吸着することで、栽培植物の成長を促進させて経済的な営農を可能にしている。 かつ、中空部内に養液を含む霧を充満させることで、養液を無駄なく植物に吸収させることができるため、密植栽培や連作を忌避する植物の栽培も可能にすると共に、肥料および水の供給量を低減でき、コストの低減を図ることができる。かつ、養液や水の貯留設備、配管設備を簡素化でき、設備コストも低減できる。
【0032】
栽培ボックス内に設置するノズルとして、図5に示す二流体ノズルを用いてもよい。該図5に示す二流体ノズル5は、本出願人が特開2008−306585号公報で提供している平均粒子径が10μm以下のドライフォグ発生用の2流体ノズルである。
【0033】
栽培ボックス1内に設置するノズル5として、図4、5に示すドライフォグを発生させる2流体ノズルを用いることが好ましいが、例えば本出願人の先願である特開2008−104929号公報に開示した1流体ノズルを用いてもよい。該1流体ノズルでは、肥料を所要倍率で希釈した液肥からなる液体のみを噴霧し、10μm以上30μm以下のセミドライフォグを発生させている。ノズルからの噴霧をセミドライフォグとしても、栽培ボックスの中空部の空中に浮遊させることができるため、第1実施形態と同様の作用効果を有する。
【0034】
本発明は前記実施形態に限定されず、ノズルからの噴霧開始および噴霧停止は、作業者が定期的に湿度センサを見て手動でノズルを開閉操作してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 栽培ボックス
2 蓋材
5 ノズル
8 傾斜板
22 植付穴
30 湿度センサ
80 制御ボックス
P 栽培植物
Pr 根部
M 養液を含む霧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックスと、
前記栽培ボックスの中空内に、前記栽培植物の養液を平均粒子径が30μm以下の微細な霧として供給して充満させる霧発生手段と、
前記栽培ボックス内の湿度を近飽和状態に保持するように前記霧発生手段からの霧供給量を制御する供給調整手段を備えていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記霧発生手段は栽培ボックス内に設置した養液噴霧用のノズルからなり、
前記供給調整手段は前記ノズルの噴霧開始と噴霧停止を自動または手動で切り替える手段からなり、
前記近飽和状態は前記栽培ボックス内に設置した湿度センサの検出湿度が90%以上100%未満の範囲内で設定する閾値を指標として規定し、前記閾値未満で噴霧を行い、閾値以上で噴霧を停止する設定としている請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記栽培植物の成長に応じた養液供給量の増量は前記閾値を基準とした噴霧のオン・オフで自動制御される一方、成長時に養液供給量を減量すべき栽培植物に対しては成長時に設定閾値を引き下げる構成としている請求項2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記ノズルは養液と空気とを混合噴霧する二流体ノズルとし、噴霧の平均粒子径は10μm以下としている請求項2または請求項3に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記栽培ボックスは直方体状とし、長手方向の一端側の内面に前記ノズルを設置して他端側に向けて噴射させ、該噴射により栽培植物の根部に揺動を与え、かつ、前記一端側から他端側にかけて上向きに傾斜させた傾斜板をボックスの内面と隙間をあけて配置し、前記ノズルから噴霧が傾斜板の上面に沿って他端へと流通した後に他端で下向きに向きをかえて前記傾斜板の下面に沿って循環させる構成としている請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−196164(P2012−196164A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61655(P2011−61655)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(390002118)株式会社いけうち (26)
【Fターム(参考)】