説明

植物生長促進剤

【課題】安全性が高く、優れた植物生長促進作用を有する天然素材の提供。
【解決手段】バチルス属微生物又は乳酸菌を、シュードモナス属に属する植物生長促進活性を有する微生物と混合培養することを特徴とする、植物生長促進活性を有するバチルス属微生物又は乳酸菌の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物生長促進剤に関し、特に野菜、穀物類等広範囲の植物の生長を促進し、収量向上、開花促進等の効果を有する植物生長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生長を促進させ、必要な野菜、穀物等の収量を向上させることは、食料増産の点から、光合成を向上させることにより地球温暖化の原因となるCO2を減少させる点からも極めて重要であり、従来多くの手段が開発されてきた。このうち、植物ホルモンは植物の器官の一部に作用するものがほとんどであり、植物全体に作用し収量を増大させるものではなかった。また、遺伝子操作による植物の生長促進も研究されているが、その安全性については確立されていない。
【0003】
かかる観点から、自然界に存在する物質等の中から植物生長促進作用を有するものを見出すのが望ましく、本発明者は、シュードモナス マルギナリスに属する微生物が優れた植物生長促進作用を有することを見出し、特許出願した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−191421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしシュードモナス属に属する微生物は植物の病原となることもあることから、より安全性の高い植物生長促進剤が望まれていた。
従って、本発明は、安全性が高く、かつ優れた植物生長促進作用を有する天然物由来の植物生長促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、より安全性の高い優れた植物生長促進剤を開発すべく種々検討してきたところ、全く意外にもシュードモナス属に属する植物生長促進活性を有する微生物と、安全性が高いことは知られているが植物生長促進活性のないバチルス属微生物及び乳酸菌を混合培養したところ、バチルス属微生物や乳酸菌に植物生長促進活性という形質が導入されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、バチルス属微生物又は乳酸菌を、シュードモナス属に属する植物生長促進活性を有する微生物と混合培養することを特徴とする。植物生長促進活性を有するバチルス属微生物又は乳酸菌の製造法を提供するものである。
また、本発明は、上記の方法により得られたバチルス属微生物又は乳酸菌を含有する植物生長促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食用に用いられていて安全性が高く、優れた植物生長促進活性を有するバチルス属微生物又は乳酸菌が容易に得られる。また、本発明の植物生長促進剤を用いれば、植物全体の生長が促進され、野菜、穀物等の収量増大を図ることができる。また、安全性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、植物生長促進活性を有するシュードモナス属に属する微生物が有する植物生長促進活性を、混合培養することによりバチルス属微生物又は乳酸菌に導入させるものである。原料として用いる微生物は、シュードモナス属に属し、植物生長促進活性を有する微生物である。かかる微生物としては、シュードモナス マルギナリス(Pseudomonas marginalis)、シュードモナス ローデシア(Pseudomonas rhodesiae)等に属する微生物が挙げられる。より具体的には、シュードモナス エスピーM−1(FERM P−16437)(特開2000−191421号記載)、シュードモナス ローデシアM−1(FERM P−21443)等が挙げられる。
【0009】
ここで、シュードモナス ローデシアM−1は、本発明者が土壌から分離した菌株であり、シュードモナス マルギナリス同様に植物生長促進活性を有することを確認している。
【0010】
一方、混合培養に供されるバチルス属に属する微生物としては、バチルス ズブチリス(Bacillus subtillis)が好ましく、特に納豆菌(バチルス ズブチリスvar. natto)が好ましい。また、乳酸菌としては、ラクトバチルス属に属する菌が好ましい。さらには、ラクトバチルス デルブリッキィ、ラクトバチルス ヘルベチカス、ラクトバチルス アシドフィルス、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス ブレビス、ラクトバチルス ブルガリカス、ラクトバチルス ブフネリ、ラクトバチルス プランタラム、ラクトバチルス ガッセリ、ラクトバチルス プレビス、ラクトコッカス ラクチス、ラクトコッカス クレモリス、ストレプトコッカス サーモフィルス、ビフィドバクテリウム属等が特に好ましい。
【0011】
これらの微生物を混合培養するには、両者の微生物が生育できる条件で行えばよい。例えば、両者が生育できる培地、土壌等で、10〜30℃で、5〜10日間程度混合して培養すればよい。より具体的には、MRS培地、TSA培地、TSB寒天培地等の培地中で好気的条件下に、10〜30℃で3〜7日間程度、特に30℃で3日間混合培養すればよい。シュードモナス属と、バチルス属微生物又は乳酸菌との混合比は、等量混合がよい。
【0012】
混合培養後に、バチルス属又は乳酸菌を培地から分離すれば、植物生長促進活性を有するバチルス属微生物又は乳酸菌が得られる。得られる菌は、植物生長促進活性を有している以外は、16SrRNAはまったく同じ塩基配列であり、親株と同様の性質を保持していることから、安全性が高く、かつ植物生長促進活性剤として有用である。培地からの菌の分離は、バチルス属微生物又は乳酸菌の特性に基づいて行えばよい。
【0013】
かくして植物生長促進活性を付与されたバチルス属微生物の例としては、バチルス ズブチリスM−1(FERM AP−21441)、ラクトバチルス ブレビスM−1(FERM AP−21442)が挙げられる。
【0014】
得られた本発明バチルス属微生物又は乳酸菌は、通常の栄養培地で増殖させることができるが、例えば通常の有機物や塩類を含む栄養培地で前培養後、さらに例えば糖蜜のような栄養分を用いて100倍に稀釈した水溶液を培地として本培養すれば、106〜107/mL程度の菌体数を得ることができるので、この培養液を滅菌して植物生長促進剤として用いることができる。
【0015】
本発明のバチルス属微生物又は乳酸菌の培養は、上記と同様に有機物や簡単な液体肥料を培地として行えばよい。
【0016】
本発明で用いるバチルス属微生物又は乳酸菌は上記の方法で得られた培養物をそのまま用いてもよい。
【0017】
本発明の植物生長促進剤は、バチルス属微生物又は乳酸菌のみでも十分効果を奏するものであるが、微生物資材なので肥料は通常通り用いる。農薬を用いてもさしつかえない。
【0018】
本発明の植物生長促進剤の剤型としては、液剤の他、粉末、粒剤等が挙げられ、これらは常法に従って製造することができる。
【0019】
本発明植物生長促進剤を植物に適用するには、次の方法が例示される。
(a)土壌に灌注する方法
104〜108/mLの菌体数の液を60℃、24時間滅菌して用いる。灌注の時期は、植物によって適宜決定すればよいが、本葉が2〜5cm位の長さになる時期(播種後12〜16日)が好ましい。例えば、葉菜類等においては、成育を通しほぼ20℃±5℃の場所で、15cmのポットに土量700〜800gとし、1ポットに500〜1000倍液を50mL注入すればよい。
(b)葉面散布法
(a)の液を用いて本葉2〜3cmの長さになる時期(播種後7〜10日)に1回、50〜1000倍液を50mL位散布する。
【0020】
作物により異なるが、上記(a)、(b)いずれの方法でも、1回の処理でよい。生育促進効果は、10〜14日後位から著しく改善され、特に中後期の生育が著しい。そして処理後20〜30日後には、本発明品を用いない対照と比べて1.5〜2.5倍の増収となる。
【0021】
一般的にそれぞれの作物の生育適温での処理濃度は、500〜1000倍であり、生育適温外の高温では濃度を低くし(1000〜1500倍)、低温では少し高濃度(300〜500倍)が好ましい。
【0022】
本発明の植物生長促進剤の適用対象となる植物としては、例えば小松菜、ホウレンソウ、大型山東菜、野沢菜、広島菜、ハクサイ、ダイコン、キャベツ、カブ、カボチャ、ピーマン、トマト等の野菜類;イネ、大麦、小麦、ヒエ、トウモロコシ、アワ等の穀物類;コスモス、トレニア、キク、ガーベラ、パンジー、ラン、シャクヤク、チューリップ等の花卉類;アズキ、インゲン、大豆、落花生、ソラマメ、エンドウ等の豆類;コウライシバ、ベントグラス、ノシバ等の芝類;ネギ類;アルファルファ、クローバー、レンゲ等の牧草類等が挙げられる。
【0023】
これらのうち、花卉類に対しては、開花促進効果をも得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0025】
参考例1
土壌からシュードモナス ローデシアM−1(FERM P−21443)を得た。得られた菌株は、小松菜、ホウレンソウ等の植物生長を促進する作用を有していた。
【0026】
実施例1
市販納豆及び市販ヨーグルトを、それぞれTSA培地及びMRS培地で、28℃、3日間培養し、納豆菌(Bucillus subtillis)と乳酸菌(Lactobacillus brevis)をそれぞれ得た。この乳酸菌をTSB培地で25℃、5日間培養し、シュードモナス ローデシアM−1(FERM AP−21443)と混合培養した。
【0027】
また、納豆菌は25℃、2日間培養した。これと、シュードモナス ローデシアM−1をTSB培地で20℃、3日間培養したものとを等量混合した液を、TSB寒天培地に塗抹し30℃、5日間培養した。
【0028】
乳酸菌、納豆菌共にそれぞれ分離後さらに再分離を行った。納豆菌はTSA培地に、乳酸菌はMRS培地にそれぞれ塗抹培養し、形成されたコロニーについて形態及びグラム染色を行いそれぞれ試料分離菌と同一であることを確認した。確認菌をさらに16SrRNA塩基配列について同定を行った。その結果により両菌の塩基配列(16SrRNA)は納豆菌及び乳酸菌の塩基配列と一致した。
【0029】
実施例2
この混合培養後分離した乳酸菌及び納豆菌をそれぞれの培地に入れ、培養後滅菌したものをもとにして次の生育実験を行った。
A.土壌
A−1.鉢による実験
市販培養土又は、黒土、赤玉土(小粒)を等量混合させたものを(IB48号又は普通化成肥料土壌700gに1g入れる。)を使用した。それぞれの土壌を5号鉢に入れる。
B.供試作物
小松菜、ホウレンソウ、大根(ショウゴイン)。
C.播種
それぞれの鉢に小松菜及びホウレンソウの種子を各15粒ずつ播種し生育状態で本葉が2〜3cm位になったとき、同じ位の生育のもののみ3個体残し、それを処理に供する。
【0030】
D.処理
原液(培養液)を500〜1000倍に薄め灌注又は葉面散布にて50mLずつ散布する。散布した日より起算して夏場(20〜30℃)は20日後、冬場(20〜15℃)は30日後に根を含めた全重量を測定し、対照と対比した。ここで対照としては、混合培養していない納豆菌又は乳酸菌を用いた。
【0031】
その結果、混合培養して分離した納豆菌及び乳酸菌は、小松菜及びホウレンソウの全重量をそれぞれ約2.0倍及び1.5倍に増加させ、優れた植物生長促進活性を有することが判明した。
【0032】
そこで、混合培養して分離した納豆菌をバチルス ズブチリスM−1株(FERM P−21441)と命名した。一方、混合培養して分離した乳酸菌をラクトバチルス ブレビスM−1(FERM P−21442)と命名した。
【0033】
実施例3(畑地での実験)
(1)小松菜、ダイコン(時無)(ほぼ15〜30℃)。
よく耕作された畑に1m2につき、苦土石灰100g、完熟堆肥2kg、配合肥料80gを入れ平均に耕す。4穴の黒マルチを用い各穴に6粒の種子をまき、鉢と同じように本葉が2〜3cm位で生育同一のものを2ヶ体とり処理する。混合培養して得た分離株の500倍液を50mL灌注した。トンネルをしてべたかけ栽培用不織布をかける。
【0034】
(2)サラダ菜ホウレンソウ
1m2苦土石灰150g、完熟堆肥2kgにつき、有機配合肥料120gを均等に入れマルチ農法により不織布をかける。1穴に6ヶ播種し、60穴とした。育成後2ヶ体生長の揃った物を選び、本葉が3〜4cm位になったとき、混合培養して得た分離株の500倍液を50mL灌注した。
【0035】
(3)25日後の生育の比較を行った。その結果、混合培養して得られた納豆菌及び乳酸菌ともに、小松菜に対しては1.95倍、ダイコンに対しては2.5倍、ホウレンソウに対しては1.65倍の植物生長促進活性を示した。
【0036】
実施例4
次に、実施例1で用いた納豆菌及び乳酸菌だけでなく、他の納豆菌及び乳酸菌に対しても、植物生長促進活性を有するシュードモナス属微生物の形質が導入されるか否かについての検討を行った。用いた菌は、次のとおりである。これらはいずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手した菌株である。
a.Bucillus subtillis NBRC13719株
b.Bucillus subtillis NBRC13169株(納豆)
c.Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NBRC3202株
d.Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus NBRC13953株(地中海ヨーグルト)
【0037】
(方法)
a.Bucillus subtillis NBRC13719株とシュードモナス ローデシア
b.Bucillus subtillis NBRC13169株(納豆)とシュードモナス ローデシア
c.Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NBRC3202株とシュードモナス ローデシア
d.Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus NBRC13953株(地中海ヨーグルト)とシュードモナス ローデシア
上記4組の検体をTSB培地でそれぞれ30℃、7日間培養した。
培養後の培養液から次のようにして再分離を行った。
a.TSA培地を用いてコロニー分離によりNBRC13719株を単離。
b.TSA培地を用いてコロニー分離によりNBRC13169株(納豆)を分離。
c.MRS寒天培地を用いてコロニー分離によりNBRC3202株を単離。
d.MRS寒天培地を用いてコロニー分離によりNBRC13953株(地中海ヨーグルト)を単離。
単離された検体はTSB培地を用いて30℃、72時間それぞれ培養し滅菌検液とした。
【0038】
次に、実施例3と同様にして、サラダホウレンソウに対する生長促進活性を検討した。
【0039】
培養土を15cmポリビニール鉢に700g入れ、さらに粒状苦土石灰20g加える。15粒同一大きさの種子を植えた。生育するにつれ同一大きさの苗を残し、10日後同一大きさの苗(本葉2〜3cm位のもの)を3つ残した。このようなポリ鉢を各々10ヶ、合計40ヶ作る。各混合培養分離株の培養液を500倍に薄めて灌注した。30日後の生育重量(地上部のみ)測定した。
【0040】
その結果、混合培養前の納豆菌を対照として、NBRC13719株の混合培養分離株で1.6倍、NBRC13169株の混合培養分離株で2.0倍、NBRC3202株の混合培養分離株で1.4倍、NBRC13953株の混合培養分離株で1.6倍の生長促進活性が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属微生物又は乳酸菌を、シュードモナス属に属する植物生長促進活性を有する微生物と混合培養することを特徴とする、植物生長促進活性を有するバチルス属微生物又は乳酸菌の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により得られるバチルス属微生物又は乳酸菌を含有する植物生長促進剤。

【公開番号】特開2009−249301(P2009−249301A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96026(P2008−96026)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【特許番号】特許第4295806号(P4295806)
【特許公報発行日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(595150250)
【Fターム(参考)】