説明

植物生長調節物質及びその製造法

【課題】 人体や植物に対して安全であり、食用の植物由来で、製造方法の簡易な植物生長調節剤を提供する。
【解決手段】 ネギの葉や茎に水を添加して磨砕し、搾汁溶液をエタノールなどの低級アルコールやアセトンなどの親水性有機溶媒を添加し、沈殿を生じさせる。この沈殿物が植物の生長に効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物生長促進剤及びこれを利用した植物生長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の生産性向上は、人類にとって非常に重要である。生産性向上のため、品種改良、収穫までの期間の短縮、品質向上、病害虫や気候への抵抗や耐性、雑草の駆除、人的労力の削減、機械化など古来から様々取り組まれてきた。このうち、収穫までの期間の短縮や収量の増大を目的としたものに、植物の生長促進剤の利用がある。従来、生長促進剤として植物ホルモンが有名であり、代表的なものとしてジベレリンが知られている。しかし、一部の植物ホルモンは人体に対して、毒性や催奇性を示すものがあり、また、土壌中で分解されにくいので、残留性の問題を抱えていた。植物ホルモン以外にもフィチン酸、コリン、ブラシノイド等が知られている。しかし、これらの物質は高価であり、安価なものが望まれていた。植物ホルモンは植物の中に極微量しか含まれておらず、植物ホルモンを大量に植物から得ようとすることは不可能である。また、化学合成によってこれらの化合物を製造することは合成工程が複雑であり、収率も悪く、コストもかかっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように安価でかつ、人体に対して安全で、土壌への残留性が問題にならない植物生長促進剤の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記の課題を解決する方法を見出し、本発明を完成した。
【0005】
ネギに水を加えて破砕し、搾る。ろ過や遠心などで不溶物を除去した搾汁液を得る。この搾汁液にエタノールなどの親水性有機溶媒を加え、撹拌し、生じた有機溶媒水溶液不溶物を集め、完成である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は通常食されているネギの成分を用いることから、人体に対して安全であり、土壌などの残留性も問題にならない。また、製造工程も短いので、低コストである。かつ化学合成する必要がないので、環境に優しい製法である。本発明で製造される物質は植物の生育を促進し、作物の品質向上や生育期間の短縮などによる生産性の向上が得られる。
【0007】
また、本発明によれば、ネギの廃棄されている部分も利用でき、資源の有効活用の面からも非常に有用である。
【課題を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてその好ましい様態をあげ、より具体的に述べる。
【0009】
材料となるネギ(学名:Allium fistulosum L.)は、ユリ科植物であり、ネブカネギ、シモニタネギ、ヤグラネギ、ワケギ、葉ネギなど通常食用されているものが用いられる。
【0010】
本発明において、ネギは通常、水洗し、水切りを行う。その後、貯蔵が短期間であるなら、冷蔵保存を、長期間であるなら冷凍保存する。または、凍結乾燥処理を行い保存してもよいし、品質が劣化しない程度に乾燥処理し保存してもよい。
【0011】
ネギを適宜切断し、ネギの重量の3〜10倍量の水と一緒にジューサーやブレンダーなどの破砕機に加え、金属刃などの高速回転などを利用した機械的剪断力によりネギを破砕する。ネギは葉の部分や茎の部分どちらでもよい。また、両者の混合でもよい。この際、予めネギは細断したほうが破砕効率がよい。大きな葉の繊維が目で確認されなければ、破砕終了である。この破砕物を搾汁やろ過や遠心、またはこれらの組み合わせなどにより、不溶物を除去し、溶液を得る。これらの残渣や不溶物を回収し、再び水を加え、破砕処理し、同様にろ過などにより溶液分を集め、最初の溶液と一緒にしてもよい。破砕終了後、冷凍、解凍処理した後、ろ過処理など行って、不溶分を除去する処理を行ってもよい。
【0012】
次に、この溶液にエタノールなどの親水性有機溶媒を添加する。エタノールは、その終濃度が80%(V/V)やそれ以上になるようにエタノールを添加する。添加するエタノールの濃度には99.5%(V/V)、95%(V/V)などの種類が市販されているが、濃度は問わない。また、エタノールの替わりにプロパノールやイソプロパノールなどの低級アルコールやアセトンなどの親水性有機溶媒を添加してもよい。その際の有機溶媒の最終濃度は使用する溶媒によって異なるが、おおよそ40〜90%の間である。また、これらの有機溶媒を添加する前に、予めエバポレーターや加熱減圧操作などにより濃縮し、溶液量を減じてもよい。これらの有機溶媒添加後、十分に混合する。ここで沈殿が生じるので、遠心やろ過などにより溶液から回収する。この回収沈殿物を乾燥し、完成である。植物生長調節剤として利用するときは、水に溶解して利用するので、この得られた物質を水に溶解し、不溶部分を除去したりして水溶性成分のみを精製してもよい。エタノールなどの有機溶媒を添加するときに、80%(V/V)以下の濃度である、例えば70%(V/V)や60%(V/V)、50%(V/V)やそれ以下になるようにエタノールなどを添加し、沈殿物を生じさせ、この沈殿物を除去した溶液に、終濃度が80%(V/V)濃度になるようにエタノールなどを添加し、再び沈殿物を生じさせ、この沈殿物を回収、乾燥してもよい。
【0013】
本発明で製造された植物生長調節物質の利用は、適用する植物を限定するものでなく、その適用濃度は、0.05%以上が好ましい。また、植物への付与方法としては、種子の浸漬溶液への添加、水耕栽培、無菌培養や組織培養の際の培地への添加、茎や根や葉面などへの散布、土壌注入、土壌への散布などがあり、通常の肥料や土壌改良材や堆肥等などと混合もしくは併用することができ、使用方法を限定するものでない。また、水和剤、粉剤に製剤したものを種子などに粉衣処理する方法や肥料もなどに製剤処理する方法も用いられるものである。
【0014】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0015】
市販のネブカネギを購入後、水洗し、水切りした。緑色の葉の部分を茎から切り離し、葉の部分を100g得、はさみで1〜2cmに切断した。これを市販のミキサー(MX25050;ブラウンジレットジャパンインコーポレイテッド社製)に入れ、水400mlを加え、90秒間金属刃を高速回転し、破砕した。次に、日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを5枚重ねし、破砕液をガーゼにて少量ずつ濾しながら、手で搾った。搾った溶液をプラスチックの容器に移し、−40℃の冷凍庫に一晩放置し、冷凍した。次に容器を37℃の恒温槽に移し、解凍する。ときどき、容器を軽く振盪した。解凍後、ブフナーロートにろ紙を敷き、ろ紙の上に日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを3枚重ねして置き、溶液をろ過した。このろ液をロータリーエバポレーターで、液量が100mlになるまで、減圧濃縮した。この溶液に試薬用特級エタノール(99.5%V/V)を400ml添加(エタノールの終濃度は80%V/V)し、撹拌した。これを遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、生じた沈殿を回収した。上清を廃棄し、沈殿物を一晩風乾し、水を20ml加え、沈殿物を溶解し、この水溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、上清を凍結乾燥し、当発明の植物生長調節物質を得た。凍結乾燥で得られた量は100mgであった。
【0016】
直径5.5cmの蓋付きガラス製シャーレにろ紙を敷き、レタス種子(品種名みずさわ;日東農産種苗社製)を20粒播種した。対照区は水5ml添加し、試験区は、上記凍結乾燥物を5mg(0.1%)、0.5mg(0.01%)をそれぞれ5mlの水に溶解した溶液を添加した。培養器で20℃、暗所で発芽、生育した。
【0017】
6日後、レタスの茎長を測定した。対照区は平均21.9mm、標準偏差3.11mmであった。試験区0.1%植物生長調節物質水溶液では、平均35.7mm、標準偏差8.00mmであった。試験区0.01%植物生長調節物質水溶液では、平均25.3mm、標準偏差6.36mmであった。本発明の植物生長調節物質は0.1%の濃度で有意に生長を促進した。
【実施例2】
【0018】
市販のネブカネギを購入後、水洗し、水切りした。葉を茎から切り離し、茎のみを100g得、はさみで1〜2cmに切断した。市販のミキサー(MX25050;ブラウンジレットジャパンインコーポレイテッド社製)に入れ、水400mlを加え、90秒間金属刃を高速回転し、破砕した。次に、日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを5枚重ねし、破砕液をガーゼにて少量ずつ濾しながら、手で搾った。搾った溶液をブフナーロートにろ紙を敷いて、ろ過した。このろ液をロータリーエバポレーターで液量が100mlになるまで、減圧濃縮した。この溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、生じた沈殿を廃棄し、上清を回収した。この上清を再び100mlにメスアップし、試薬用特級エタノール(99.5容量%)を400ml添加(エタノールの終濃度は80%V/V)し、撹拌した。これを遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、生じた沈殿を回収した。上清を廃棄し、沈殿物を一晩風乾し、水を20ml加え、沈殿物を溶解し、この水溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、上清を凍結乾燥し、当発明の植物生長調節物質を得た。凍結乾燥で得られた量は150mgであった。
【0019】
5cmの蓋付きガラス製シャーレにろ紙を敷き、レタス種子(品種名みずさわ;日東農産種苗社製)を20粒播種した。対照区は水5ml添加し、試験区は、上記凍結乾燥物を5mg(0.1%)、0.5mg(0.01%)をそれぞれ5mlの水に溶解した溶液を添加した。培養器で20℃、暗所で発芽、生育した。
【0020】
6日後、レタスの茎長を測定した。対照区は平均21.9mm、標準偏差3.11mmであった。試験区0.1%植物生長調節物質水溶液では、平均31.2mm、標準偏差7.58mmであった。試験区0.01%水溶液植物生長調節物質水溶液では、平均24.9mm、標準偏差4.83mmであった。本発明の植物生長調節物質は0.1%の濃度で有意に生長を促進した。
【実施例3】
【0021】
市販のネブカネギを購入後、水洗し、水切りした。緑色の葉の部分を茎から切り離し、茎の部分を100g得、はさみで1〜2cmに切断した。これを市販のミキサー(MX25050;ブラウンジレットジャパンインコーポレイテッド社製)に入れ、水400mlを加え、90秒間金属刃を高速回転し、破砕した。次に、日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを5枚重ねし、破砕液をガーゼにて少量ずつ濾しながら、手で搾った。搾った溶液をブフナーロートにろ紙を敷いて、ろ過した。このろ液をロータリーエバポレーターで、液量が100mlになるまで、減圧濃縮した。この溶液に試薬用特級エタノール(99.5容量%)を150ml添加(エタノールの終濃度は60%V/V)し、撹拌した。これを遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、沈殿と上清に分離した。この60%エタノールで生じた沈殿物は、一晩風乾し、水を20ml加え、沈殿物を溶解し、この水溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、上清を凍結乾燥したところ、得られた量は60mgであった。上清の60%エタノールの溶液は、エタノールの終濃度が80%(V/V)になるように試薬用特級エタノール(99.5%V/V)を添加し、撹拌した。これを遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、生じた沈殿を回収した。上清を廃棄し、沈殿物を一晩風乾し、水を20ml加え、沈殿物を溶解し、この水溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、上清を凍結乾燥し、当発明の植物生長調節物質を得た。凍結乾燥で得られた量は60mgであった。
【0022】
直径5.5cmの蓋付きガラス製シャーレにろ紙を敷き、レタス種子(品種名みずさわ;日東農産種苗社製)を20粒播種した。対照区は水5ml添加し、試験区は60%エタノール沈殿凍結乾燥物を2.5mg(0.05%)と80%エタノール沈殿凍結乾燥物(植物生長調節物質)を2.5mg(0、05%)をそれぞれ5mlの水に溶解した溶液を添加した。培養器で20℃、暗所で発芽、生育した。
【0023】
6日後、レタスの茎長を測定した。対照区は平均19.6mm、標準偏差4.10mmであった。試験区60%エタノール沈殿凍結乾燥物0.05%水溶液では、平均25.8mm、標準偏差4.62mmであった。試験区80%エタノール沈殿凍結乾燥物(植物生長調節物質)0.05%水溶液では、平均36.6mm、標準偏差7.38mmであった。本発明の植物生長調節物質は0.05%の濃度で有意に生長を促進した。
【実施例4】
【0024】
市販のネブカネギを購入後、水洗し、水切りした。緑色の葉の部分を茎から切り離し、葉の部分を100g得、はさみで1〜2cmに切断した。これを市販のミキサー(MX25050;ブラウンジレットジャパンインコーポレイテッド社製)に入れ、水400mlを加え、90秒間金属刃を高速回転し、破砕した。次に、日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを5枚重ねし、破砕液をガーゼにて少量ずつ濾しながら、手で搾った。搾った溶液をプラスチックの容器に移し、−40℃の冷凍庫に一晩放置し、冷凍した。次に容器を37℃の恒温槽に移し、解凍した。ときどき、容器を軽く振盪した。解凍後、ブフナーロートにろ紙を敷き、ろ紙の上に日本薬局方のガーゼ30cm×30cmを3枚重ねしたのを置き、溶液をろ過した。このろ液をロータリーエバポレーターで、液量が100mlになるまで、減圧濃縮した。この溶液に試薬用特級アセトン(99.5%V/V)を400ml添加(アセトンの終濃度は80%V/V)し、撹拌した。これを遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、生じた沈殿を回収した。上清を廃棄し、沈殿物を一晩風乾し、水を20ml加え、沈殿物を溶解し、この水溶液を遠心分離機で3,200回転で10分間遠心し、上清を凍結乾燥し、当発明の植物生長調節物質を得た。凍結乾燥で得られた量は230mgであった。
【0025】
5cmの蓋付きガラス製シャーレにろ紙を敷き、レタス種子(品種名みずさわ;日東農産種苗社製)を20粒播種した。対照区は水5ml添加し、試験区は、上記凍結乾燥物を5mg(0.1%)を5mlの水に溶解した溶液を添加した。培養器で20℃、暗所で発芽、生育した。
【0026】
6日後、レタスの茎長を測定した。対照区は平均24.8mm、標準偏差3.66mmであった。試験区0.1%植物生長調節物質水溶液では、平均39.2mm、標準偏差10.4mmであった。本発明の植物生長調節物質は0.1%の濃度で有意に生長を促進した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギの葉や茎に水を添加して磨砕し、搾汁した溶液を低級アルコールやアセトンなどの親水性有機溶媒を添加することにより沈殿する物質を有効成分とする植物生長調節剤。
【請求項2】
請求項1記載の植物生長調節剤を植物に処理することにより、生育を促進させる方法。
【請求項3】
請求項1の植物生長剤を含むことを特徴とする農業資材。

【公開番号】特開2007−238589(P2007−238589A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100109(P2006−100109)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(505374118)株式会社エコー (4)
【出願人】(591005453)青森県 (52)
【Fターム(参考)】