説明

植物用抵抗性誘導剤

【課題】新規な化学構造の植物用抵抗性誘導剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする植物用抵抗性誘導剤(式中、Xは下記一般式(1a)又は(1b)で表される基であり;X及びXはカルボニル基又は下記一般式(1c)で表される基であり;Zは水素原子以外の一価の基であり;Rは水素原子又は炭化水素基であり;Rは炭化水素基であり;Yは芳香族基であり;mは0〜4の整数である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の抵抗性を誘導する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、外部の病原菌による攻撃に対して、物理的及び化学的な抵抗性機構を進化の過程で獲得してきた。物理的な抵抗性機構とは、例えば、ワックス層やクチクラ層等の被覆物、あるいは細胞壁であり、病原菌の進入障壁となるものである。一方、化学的な抵抗性機構とは、病原菌の生育を阻害するシステムであり、例えば、植物に先天的に蓄積された抵抗性因子や、誘導的に生合成及び蓄積された抵抗性因子が挙げられる。
【0003】
近年、植物を病害ストレスから守るために、外部から薬剤を投与して、化学的な抵抗性機構を活性化させ、植物の耐性を向上させる試みがなされている。このような薬剤は抵抗性誘導剤と呼ぶことができ、これまでに種々の誘導剤が検討されてきた。例えば、サリチル酸やアセチルサリチル酸でタバコを処理することにより、タバコモザイクウイルス(TMV)に対する抵抗性が誘導されることが明らかにされている(非特許文献1参照)。一方、1974年には、3−アリルオキシ−1,2−ベイゾイソチアゾール−1,1−ジオキシドが、世界で初めて誘導剤として農薬登録された。そして、これまでに報告された誘導剤は、サリチル酸とその誘導体を除けば、いずれも単環状又は二環状の複素環式化合物であり、そのほとんどが複素環骨格中にヘテロ原子として窒素原子及び硫黄原子を含むものである(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R.F.White,Virology,99,410(1979)
【非特許文献2】鳴坂義弘、平塚和之、能年義輝,「プラントアクティベーターによる植物免疫の活性化と化学遺伝学への利用」,化学と生物,Vol.48,No.10,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
病害ストレスに強い植物の育成は、食糧不足、環境破壊、生物多様性の破壊など、今後深刻化が懸念される諸問題の有効な解決策となり得ることから、従来にない新規な抵抗性誘導剤の開発が強く望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規な化学構造の植物用抵抗性誘導剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする植物用抵抗性誘導剤を提供する。
【0007】
【化1】

(式中、Xは下記一般式(1a)又は(1b)で表される基であり;X及びXはそれぞれ独立にカルボニル基又は下記一般式(1c)で表される基であり;Zは水素原子以外の一価の基であり;Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり;mは0〜4の整数であり、mが2〜4である場合、複数のZは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0008】
【化2】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基であり;Yは芳香族基である。)
【0009】
本発明の植物用抵抗性誘導剤においては、前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(1)−1A又は(1)−2Aで表されることが好ましい。
【0010】
【化3】

(式中、R2aは置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基であり;R10は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であり;Gはハロゲン原子であり;nは1〜5の整数であり;nは0〜5の整数であり、nが2〜5である場合、複数のGは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な化学構造の植物用抵抗性誘導剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3、参考例1及び比較例1における発光強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において単位「M」は、「モル/L」を指す。
本発明の植物用抵抗性誘導剤(以下、「誘導剤」と略記する)は、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」と略記する)を有効成分とする。
【0014】
【化4】

(式中、Xは下記一般式(1a)又は(1b)で表される基であり;X及びXはそれぞれ独立にカルボニル基又は下記一般式(1c)で表される基であり;Zは水素原子以外の一価の基であり;Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり;mは0〜4の整数であり、mが2〜4である場合、複数のZは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0015】
【化5】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基であり;Yは芳香族基である。)
【0016】
一般式(1)中、Xは前記一般式(1a)又は(1b)で表される基である。一般式(1a)及び(1b)中の結合先が特定されていない二つの結合が、一般式(1)中のXから伸びている二つの結合に該当する。
一般式(1a)及び(1b)中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である。
の前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでもよい。そして、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。
【0017】
の前記飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。そして、炭素数が1〜30であることが好ましく、1〜15であることがより好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基が例示できる。
環状の前記アルキル基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等が例示できる。
【0018】
の前記不飽和脂肪族炭化水素基は、前記アルキル基における炭素原子間の一つ以上の単結合(C−C)が、二重結合(C=C)及び/又は三重結合(C≡C)に置換された基が例示でき、これら不飽和結合(二重結合、三重結合)の数及び位置は特に限定されない。不飽和結合が一つのものとしては、エテニル基(ビニル基)、2−プロペニル基(アリル基)等のアルケニル基;エチニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基)等のアルキニル基が例示できる。
【0019】
の前記芳香族炭化水素基(アリール基)は、単環状及び多環状のいずれでもよく、炭素数が6〜30であることが好ましく、6〜15であることがより好ましい。なかでも、好ましいものとしては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が例示できる。
における前記炭化水素基は、環状である場合、例えば、環状の脂肪族炭化水素(シクロアルカン、シクロアルケン等)と芳香族炭化水素(アレーン)とが縮環した構造から、一つの水素原子が除かれた一価の基であってもよい。
【0020】
の前記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。ここで「Rが置換基を有する」とは、Rを構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されているか、あるいはRを構成する一つ以上の炭素原子が、炭素原子以外の基で置換されていることを指す。そして、水素原子及び炭素原子が共に置換基で置換されていてもよい。
【0021】
水素原子を置換する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキニル基、水酸基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノ基(−NH)、ニトロ基(−NO)、シアノ基(−CN)、ハロゲン原子が例示できる。
【0022】
水素原子を置換するアルキル基は、前記アルキル基と同様である。
水素原子を置換するアルコキシ基としては、メトキシ基、シクロプロポキシ基等、前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、シクロプロピルカルボニル基等、前記アルキル基がカルボニル基(−C(=O)−)に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、シクロプロポキシカルボニル基等、前記アルキル基がオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、シクロプロピルカルボニルオキシ基等、前記アルキル基がカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)に結合した一価の基が例示できる。
【0023】
水素原子を置換するアルケニル基は、前記アルケニル基と同様である。
水素原子を置換するアルケニルオキシ基としては、エテニルオキシ基、2−プロペニルオキシ基等、前記アルケニル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0024】
水素原子を置換するアリール基は、前記アリール基と同様である。
水素原子を置換するアリールオキシ基としては、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基等、前記アリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルアリール基としては、前記アリール基において、芳香族環を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子が前記アルキル基で置換された一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアリールアルキル基としては、前記アルキル基において、一つの水素原子が前記アリール基で置換された一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアルキルアリールオキシ基としては、前記アリール基から、芳香族環を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子を除いたアリーレン基に、前記アルキル基と酸素原子とが結合した一価の基が例示できる。
水素原子を置換するアリールアルキルオキシ基としては、前記アルキル基から一つの水素原子を除いたアルキレン基に、前記アリール基と酸素原子とが結合した一価の基が例示できる。
【0025】
水素原子を置換するアルキニル基は、前記アルキニル基と同様である。
水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0026】
水素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。そして、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
置換基で置換される水素原子の位置は特に限定されない。
【0027】
炭素原子を置換する置換基としては、カルボニル基(−C(=O)−)、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)、アミド基(−NH−C(=O)−)、ヘテロ原子が例示できる。炭素原子を置換する置換基が非対称構造の場合、その置換部位における向きは特に限定されない。
炭素原子を置換するヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ホウ素原子が例示できる。
【0028】
炭素原子を置換する置換基の数は、置換前の炭素原子数よりも少なければ特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
置換基で置換される炭素原子の位置は特に限定されない。
【0029】
は、これが結合している窒素原子との結合部位として、アルキレン基を有するものが好ましく、該アルキレン基は、炭素数が1〜5であることが好ましい。
好ましいRとしては、下記一般式(1d)で表される基が例示できる。
【0030】
【化6】

(式中、R2aは置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基であり;nは1〜5の整数である。)
【0031】
一般式(1d)中、R2aは、置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基である。一般式(1d)中の結合先が特定されていない一つの結合が、一般式(1a)及び(1b)中のRから伸びている一つの結合に該当する。
2aの前記アリール基は、Rのアリール基と同様であり、炭素数が6〜15であることが好ましく、フェニル基、1−ナフチル基又は2−ナフチル基であることがより好ましい。
2aの前記環状のアルキル基は、Rの環状のアルキル基と同様であり、炭素数が5〜15であることが好ましい。
【0032】
2aの前記アリール基及び環状のアルキル基は、置換基を有していてもよい。ここで「R2aが置換基を有する」とは、R2aを構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されているか、あるいはR2aを構成する一つ以上の炭素原子が、炭素原子以外の基で置換されていることを指す。そして、水素原子及び炭素原子が共に置換基で置換されていてもよい。
【0033】
2aの前記アリール基及び環状のアルキル基が有する置換基は、Rの前記炭化水素基が有する置換基と同様である。
2aの水素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。そして、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
置換基で置換される水素原子の位置は特に限定されない。
2aの炭素原子を置換する置換基の数は、置換前の炭素原子数よりも少なければ特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
置換基で置換される炭素原子の位置は特に限定されない。
【0034】
2aの置換基を有する前記アリール基で好ましいものとしては、芳香族環を構成している炭素原子に結合している一つ以上の水素原子がアルコキシ基で置換されたもの、芳香族環を構成している一つ以上の炭素原子が窒素原子で置換されたもの、がそれぞれ例示できる。
2aの水素原子を置換する前記アルコキシ基は、Rの水素原子を置換する前記アルコキシ基と同様であり、炭素数が1〜5であることが好ましい。さらに、該アルコキシ基が複数である場合、これら複数のアルコキシ基は、互いに結合して、これらが結合しかつ芳香族環を構成している原子と共に環を形成していてもよい。
【0035】
2aの置換基を有する前記環状のアルキル基で好ましいものとしては、環を構成している一つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたものが例示できる。酸素原子による置換数は、1〜3であることが好ましい。
【0036】
(メチレン基の数)は1〜5の整数であり、1〜3であることが好ましい。
【0037】
一般式(1)中、X及びXはそれぞれ独立にカルボニル基(−C(=O)−)又は前記一般式(1c)で表される基である。すなわち、X及びXは互いに同じでもよく、異なっていてもよい。一般式(1c)中の結合先が特定されていない二つの結合が、一般式(1)中のX又はXから伸びている二つの結合に該当する。
一般式(1c)中、Yは芳香族基であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び芳香族複素環式基が例示できる。
【0038】
の前記芳香族炭化水素基(アリール基)は、Rの前記アリール基と同様である。
【0039】
の前記芳香族複素環式基(ヘテロアリール基)としては、芳香族複素環式化合物(ヘテロアレーン)から、芳香族複素環の構成原子に結合している一つの水素原子を除いた一価の基が例示できる。ここで、芳香族複素環中のヘテロ原子は、Rの炭素原子を置換する前記ヘテロ原子と同様である。
前記芳香族複素環式化合物は、単環状及び多環状のいずれでもよく、多環状である場合、例えば、芳香族炭化水素(アレーン)と芳香族複素環式化合物(ヘテロアレーン)とが縮環した構造の化合物であってもよい。
【0040】
前記芳香族複素環式化合物として具体的には、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ホスホール等の単環状五員環化合物;ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等の単環状六員環化合物;ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、ベンゾ(c)チオフェン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、プリン、インダゾール、ベンゾチアゾール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、アクリジン等の多環状化合物が例示できる。
また、前記ヘテロアリール基としては、上記で例示したもの以外に、Rにおける前記アリール基の芳香族環を構成する一つ以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されたものも例示できる。
【0041】
「芳香族炭化水素基及び芳香族複素環式基が置換基を有する」とは、これら基を構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基で置換されていることを指す。水素原子を置換する置換基は、Rの炭化水素基において水素原子が置換される前記置換基と同様であり、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環式基における前記置換基の数及び位置は、特に限定されない。
【0042】
は置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素数6〜15のアリール基であることがより好ましい。
【0043】
一般式(1)中、Zは水素原子以外の一価の基であり、m(ベンゼン環骨格へのZの結合数)は0〜4の整数である。すなわち、化合物(1)中の四環状骨格のうちベンゼン環骨格は、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
前記Zは、Rの水素原子を置換する置換基と同様であり、アルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキニル基、水酸基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノ基(−NH)、ニトロ基(−NO)、シアノ基(−CN)、ハロゲン原子が例示できる。
【0044】
mが2〜4である場合、複数のZは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、Zはすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
mが1〜4である場合、ベンゼン環骨格におけるZの結合位置は特に限定されない。
mは0〜3であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0045】
一般式(1)中、Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
の置換基を有していてもよい炭化水素基は、Rの置換基を有していてもよい炭化水素基と同様である。
は、置換基を有していてもよい炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜15の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であることが特に好ましい。
【0046】
化合物(1)は、下記一般式(1)−1A又は(1)−2Aで表されるもの(以下、それぞれ「化合物(1)−1A」、「化合物(1)−2A」と略記する)が好ましい。
【0047】
【化7】

(式中、R2aは置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基であり;R10は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であり;Gはハロゲン原子であり;nは1〜5の整数であり;nは0〜5の整数であり、nが2〜5である場合、複数のGは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0048】
一般式(1)−1A及び(1)−2A中、R2aは、前記一般式(1d)中のR2aと同様である。
一般式(1)−1A中、Gはハロゲン原子であり、Rの水素原子を置換するハロゲン原子と同様であり、塩素原子であることが好ましい。
一般式(1)−1A及び(1)−2A中、R10は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であり、Rの炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基と同様である。
【0049】
一般式(1)−1A及び(1)−2A中、nは、前記一般式(1d)中のnと同様である。
【0050】
一般式(1)−1A中、n(ベンゼン環骨格へのGの結合数)は、0〜5の整数である。
が2〜5である場合、複数のGは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、Gはすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
が1〜4である場合、ベンゼン環骨格におけるGの結合位置は特に限定されない。
は、0〜3であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0051】
化合物(1)は、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン骨格又は7−アザ−8−オキサビシクロ[2,2,2]オクタン骨格を含む四環状の化合物である。すなわち、骨格の違いに応じて化合物(1)は、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン骨格を有する、下記一般式(1)−1で表される化合物(以下、「化合物(1)−1」と略記する)と、7−アザ−8−オキサビシクロ[2,2,2]オクタン骨格を有する、下記一般式(1)−2で表される化合物(以下、「化合物(1)−2」と略記する)とに大別できる。
【0052】
【化8】

(式中、R、R、X、X、Z及びmは前記と同様である。)
【0053】
従来の誘導剤は、サリチル酸とその誘導体を除けば、いずれも単環状又は二環状の複素環式化合物であり、そのほとんどが複素環骨格中にヘテロ原子として窒素原子及び硫黄原子を含む。
これに対して、化合物(1)は、上記のように四環状の化合物であり、しかも環構造を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、又は窒素原子及び酸素原子を含み、誘導剤として従来とは全く相違する新規の骨格を有する。特に、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン骨格又は7−アザ−8−オキサビシクロ[2,2,2]オクタン骨格と、ベンゼン環骨格とが縮環した三環状骨格を有することが、活性発現に有利な要素となっていることが推測される。
【0054】
化合物(1)は、例えば、以下の方法で製造できる。
化合物(1)のうち、化合物(1)−1は、下記一般式(1)−1−1で表されるイソインドール類(以下、「化合物(1)−1−1」と略記する)と、下記一般式(1)−1−2で表される含窒素不飽和環状化合物(以下、「化合物(1)−1−2」と略記する)とを反応させる工程を有する製造方法により得られる。化合物(1)−1−1と化合物(1)−1−2とは、通常のディールス・アルダー(Diels−Alder)反応と同様の条件で反応させればよい。例えば、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の溶媒中で、好ましくは−10〜10℃で、好ましくは1〜120分間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。「化合物(1)−1−2」の使用量は、「化合物(1)−1−1」1モルに対して1〜5モルであることが好ましい。
【0055】
【化9】

(式中、R、R、X、X、Z及びmは前記と同様である。)
【0056】
化合物(1)−1において、X及びXの少なくとも一方がカルボニル基である場合には、還元反応を行ってカルボニル基(−C(=O)−)を式「−CH(−OH)−」で表される基に変換し、次いで、一般式「Y−C(=O)−OH(式中、Yは前記と同様である。)」で表されるカルボン酸又はそのハライドを反応させて縮合反応を行うか、あるいは前記カルボン酸のエステルを反応させてエステル交換反応を行うことにより、前記カルボニル基を前記一般式(1c)で表される基に変換できる。
【0057】
カルボニル基の還元反応は、公知の方法で行えばよい。例えば、エタノール等のアルコール溶媒中で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)等の還元剤を作用させ、好ましくは10〜40℃で、好ましくは5〜60時間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。還元剤の使用量は、還元するカルボニル基の数に応じて適宜調節すればよいが、一分子中一つのカルボニル基を還元する場合には、「化合物(1)−1」1モルに対して1〜6モルであることが好ましい。
また、還元反応で生じた水酸基を前記一般式(1c)で表される基に変換する反応も、通常の条件で行えばよい。例えば、前記カルボン酸ハライドを使用して縮合反応を行う場合であれば、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の溶媒中で、ピリジン等の弱塩基共存下、好ましくは−10〜40℃で、好ましくは5〜24時間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。前記カルボン酸ハライドの使用量は、変換する水酸基の数に応じて適宜調節すればよいが、一分子中一つの水酸基を前記一般式(1c)で表される基に変換する場合には、前記水酸基を有する化合物1モルに対して1〜4モルであることが好ましい。
及びXが共にカルボニル基である場合には、前記一般式(1c)で表される基に、X及びXのいずれか一方を変換するか、又は両方を変換するかは、例えば、還元剤の使用量、還元反応の温度、還元反応の時間等の還元条件を調節することで、適宜調節できる。
【0058】
一方、化合物(1)のうち、化合物(1)−2は、化合物(1)−1を酸化する工程を有する製造方法により得られる。
化合物(1)−1の酸化反応は、公知の方法で行えばよい。例えば、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の溶媒中で、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)等の過酸化物を酸化剤として使用し、好ましくは−10〜40℃で、好ましくは5〜48時間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。酸化剤の使用量は、その種類にもよるが、「化合物(1)−1」1モルに対して1〜3モルであることが好ましい。
酸化反応によって、7−アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン骨格中の窒素がN−オキシド(N→O)を形成した後、転位反応が生じることで、7−アザ−8−オキサビシクロ[2,2,2]オクタン骨格が形成されると考えられる。
【0059】
【化10】

(式中、R、R、X、X、Z及びmは前記と同様である。)
【0060】
化合物(1)−2において、X及びXの少なくとも一方がカルボニル基である場合には、化合物(1)−1の場合と同様の方法で、前記カルボニル基を前記一般式(1c)で表される基に変換できる。
また、X及びXの少なくとも一方がカルボニル基である化合物(1)−1において、上記方法で前記カルボニル基を前記一般式(1c)で表される基に変換した後、酸化反応を行って7−アザ−8−オキサビシクロ[2,2,2]オクタン骨格を形成しても、同様の化合物(1)−2が得られる。
【0061】
化合物(1)は、その構造によっては上記製造方法において、必要に応じて官能基の保護及び脱保護等のその他の工程を適宜行うことによって、製造してもよい。
化合物(1)の製造時には、各工程の反応終了後、常法により必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は二つ以上組み合わせて一回以上行うことで、精製してもよい。
化合物(1)は、例えば、核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析法(MS)等、公知の手法により、構造を確認できる。
【0062】
本発明の誘導剤は、化合物(1)を有効成分とし、化合物(1)のみからなるものでもよいし、化合物(1)以外に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は、本発明の効果を妨げないものであれば、特に限定されず、好ましいものとしては、後述する溶媒等が例示できる。
【0063】
本発明の誘導剤は、適用対象の植物に接触させることで、抵抗性を誘導できる。
誘導剤を植物に接触させる方法は、公知の誘導剤の場合と同様でよく、例えば、植物が生育している土壌に誘導剤を散布する方法、誘導剤を溶解させた誘導剤溶液を植物に塗布又は噴霧する方法、該誘導剤溶液中で植物を生育させる方法が例示できる。
【0064】
誘導剤を溶解させる溶媒は、誘導剤や植物の種類に応じて適宜選択すればよいが、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類等、親水性溶媒が好ましいものとして例示できる。
【0065】
本発明の誘導剤の使用量は、公知の誘導剤の使用量と同様でよく、誘導剤や植物の種類に応じて適宜調節できる。例えば、土壌に誘導剤を散布する場合には、一回あたりの使用量を1〜1.3kg/10aとし、一回、必要に応じて複数回使用できる。また、前記誘導剤溶液を植物に塗布又は噴霧する場合には、濃度が10〜500μMの誘導剤溶液の一回あたりの使用量を葉一枚あたり1〜1000μLとし、一回、必要に応じて複数回使用できる。前記誘導剤溶液中で植物を生育させる場合には、濃度が1〜50μMの誘導剤溶液を使用できる。
【0066】
誘導剤中の化合物(1)は、一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上の場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調節すればよい。
【実施例】
【0067】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
<化合物(1)−1の製造>
[製造例1]
(化合物(1)−101の製造)
【0069】
【化11】

【0070】
ピペロニルアミン(0.93g、6.2mmol)をアセトニトリル(5ml)に溶解させ、その溶液中に、2−クロロメチルベンズアルデヒド(0.46g、3mmol)をアセトニトリル(10ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、室温で1時間撹拌した。次いで、反応混合物を塩化メチレン(10ml)で希釈した後、水(10ml)で二回、飽和食塩水で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒をエバポレーターで留去し、粗ピペロニルイソインドールを得た。
次いで、N−メチルマレイミド(0.41g、3.6mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させ、その溶液中に、上記で得られた粗ピペロニルイソインドールを塩化メチレン(10ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、0℃で5分間撹拌した。溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル(1/1、体積比))により精製し、化合物(1)−101の白色結晶を得た(収量0.83g、収率77%)。スペクトル解析により、化合物(1)−101はendo体であることを確認した。化合物(1)−101の同定データは以下の通りである。
mp:155-158℃
IR(KBr):3436, 3010, 2821, 2293, 1763, 1436, 1288, 1132, 768, 749cm-1
1H NMR (270MHz, CDCl3):δ 7.35-7.18 (m, 9H), 4.58 (d, J=1.6 Hz, 1H), 4.57 (d, J= 1.6 Hz, 1H), 3.69 (d, J=1.6 Hz, 1H), 3.68 (d, J=1.6 Hz, 1H), 3.38 (s, 2H), 2.26 (s, 3H)
【0071】
[製造例2]
(化合物(1)−102の製造)
【0072】
【化12】

【0073】
上記で得られた化合物(1)−101(1.082g、3.0mmol)をエタノール(20ml)に溶解させ、その溶液中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(0.459g、12mmol)をエタノール(20ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、室温で40時間撹拌した。次いで、希塩酸水溶液(1N)を用いて、反応混合物をpH5〜6に調整し、塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(20ml)及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、化合物(1)−101の一方のカルボニル基が還元された(「−C(=O)−」が「−CH(−OH)−」に変換された)化合物(1)−102−1を粗生成物として得た(収量1.085g、収率98%)。化合物(1)−102−1の同定データは以下の通りである。
mp:156-159℃
IR(KBr):3400-3174, 2901, 1650, 1489, 1252, 1071, 1035, 760 cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.31-7.18 (m, 4H), 6.75 (s, 2H), 6.72 (d, J=7.8 Hz, 1H), 6.59 (d, J=7.8 Hz, 1H), 5.94 (s, 2H), 4.45 (d, J= 5.4 Hz, 1H), 4.35 (d, J= 5.4 Hz, 1H), 4.13 (s, 1H), 3.54 (dd, J=5.1 Hz, 8.9 Hz, 1H), 3.25 (dd, J= 12.7, 16.7 Hz, 1H), 3.00 (dd, J= 5.1, 8.9 Hz, 1H) , 2.15 (s, 3H), 1.26 (s, 1H)
【0074】
次いで、得られた化合物(1)−102−1(0.364g、1mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させた溶液に、ピリジン(0.8ml)を加え、0℃で撹拌した。その溶液に4−クロロベンゾイルクロリド(0.35g、2mmol)を滴下した後、室温まで昇温して、10時間撹拌した。反応終了後、塩化メチレン(15ml)で希釈した後、水(30ml)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=2/3(体積比))により精製し、化合物(1)−102の結晶を得た(0.24g、収率38%)。化合物(1)−102の同定データは以下の通りである。
mp:134-136℃
IR(KBr):2983, 1681, 1592, 1425,1322, 1263, 1091, 927, 852, 761cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.91 (d, J=6.6 Hz, 2H), 7.44 -7.25 (m, 6H), 6.72 (d, J=8.1 Hz, 1H), 6.70 (s, 1H), 6.59 (d, J=8.1 Hz, 1H), 5.94 (s, 2H), 5.41 (s, 1H), 4.55 (d, J=5.4 Hz, 1H), 4.50 (d, J=5.4 Hz, 1H), 3.68 (dd, J=5.1 Hz, 9.0 Hz, 1H), 3.28 (dd, J=12.6 Hz, 39.6 Hz, 2H), 3.17 (dd, J=5.4 Hz, 9.0 Hz, 1H), 2.18 (s, 3H)
【0075】
[製造例3]
(化合物(1)−103の製造)
【0076】
【化13】

【0077】
ベンジルアミン(0.66g、6.2mmol)をアセトニトリル(5ml)に溶解させ、その溶液中に、2−クロロメチルベンズアルデヒド(0.46g、3mmol)をアセトニトリル(10ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、室温で1時間撹拌した。次いで、反応混合物を塩化メチレン(10ml)で希釈した後、水(10ml)で二回、飽和食塩水で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒をエバポレーターで留去し、粗ベンジルイソインドールを得た。
次いで、N−メチルマレイミド(0.41g、3.6mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させ、その溶液中に、上記で得られた粗ベンジルイソインドールを塩化メチレン(10ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、0℃で5分間撹拌した。溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル(1/1、体積比))により精製し、化合物(1)−103の結晶を得た(収量0.85g、収率85%)。スペクトル解析により、化合物(1)−103はendo体であることを確認した。化合物(1)−103の同定データは以下の通りである。
mp:155-158℃
IR(KBr):3436, 3010, 2821, 2293, 1763, 1436, 1288, 1132, 768, 749cm-1
1H NMR (270MHz, CDCl3):δ 7.35-7.18 (m, 9H), 4.58 (d, J=1.6 Hz, 1H), 4.57 (d, J= 1.6 Hz, 1H), 3.69 (d, J=1.6 Hz, 1H), 3.68 (d, J=1.6 Hz, 1H), 3.38 (s, 2H), 2.26 (s, 3H)
【0078】
[製造例4]
(化合物(1)−104の製造)
【0079】
【化14】

【0080】
上記で得られた化合物(1)−103(0.75mmol)をエタノール(12ml)に溶解させ、その溶液中に、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(0.117g、3mmol)をエタノール(12ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、室温で40時間撹拌した。次いで、希塩酸水溶液(1N)を用いて、反応混合物をpH5〜6に調整し、塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(20ml)及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、化合物(1)−103の一方のカルボニル基が還元された(「−C(=O)−」が「−CH(−OH)−」に変換された)化合物(1)−104−1を粗生成物として得た(収率74%)。
【0081】
次いで、得られた化合物(1)−104−1(0.32g、1mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させた溶液に、ピリジン(1.0ml)を加え、0℃で撹拌した。その溶液に4−クロロベンゾイルクロリド(0.35g、2mmol)を滴下した後、室温まで昇温して、10時間撹拌した。反応終了後、塩化メチレン(15ml)で希釈した後、水(30ml)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=2/3(体積比))により精製し、化合物(1)−104の結晶を得た(0.24g、収率53%)。化合物(1)−104の同定データは以下の通りである。
IR(KBr):3416, 2980, 1704, 1593, 1399,1263, 1092, 1014, 852, 761cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.90 (d, J=6.0 Hz, 2H), 7.48 -7.17 (m, 11H), 5.42 (s, 1H), 4.57 (d, J=5.4 Hz, 1H), 4.52 (d, J=5.4 Hz, 1H), 3.68 (dd, J=5.4 Hz, 9.0 Hz, 1H), 3.49 (dd, J=12.6 Hz, 35.7 Hz, 2H), 3.18 (dd, J=5.4 Hz, 9.0 Hz, 1H), 2.19 (s, 3H)
【0082】
[製造例5]
(化合物(1)−105の製造)
【0083】
【化15】

【0084】
フルフリルアミン(3.40g、33.6mmol)をアセトニトリル(30ml)に溶解させ、その溶液中に、2−クロロメチルベンズアルデヒド(2.60g、16.8mmol)をアセトニトリル(30ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、室温で15分間撹拌した。次いで、反応混合物を塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(50ml)で二回、飽和食塩水で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒をエバポレーターで留去し、粗フルフリルイソインドールを得た。
次いで、N−メチルマレイミド(2.00g、18.5mmol)を塩化メチレン(20ml)に溶解させ、その溶液中に、上記で得られた粗フルフリルイソインドールを塩化メチレン(20ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、0℃で15分間撹拌した。溶媒をエバポレーターで留去し、残留物を再結晶により精製し、化合物(1)−105の結晶を得た(収量2.71g、収率52%)。スペクトル解析により、化合物(1)−105はendo体であることを確認した。化合物(1)−105の同定データは以下の通りである。
mp:114-116℃(シクロヘキサン:ジイソプピルエーテル=1:1)
IR(KBr):3440, 3040, 2871, 1762,1693, 1432, 1379, 1292, 1132,842, 753 cm-1
1H NMR (270 MHz, CDCl3):δ7.27-7.25 (m, 4H), 4.78 (d, J=3.0 Hz, 1H), 4.73 (d, J=3.2 Hz, 1H), 4.78-3.71 (m, 5H), 2.329 (d, J=2.4 Hz, 2H), 2.25 (s, 3H), 1.92-1.79 (m, 3H), 1.43-1.39 (m, 1H)
【0085】
<化合物(1)−2の製造>
[製造例6]
(化合物(1)−201の製造)
【0086】
【化16】

【0087】
m−クロロ過安息香酸(mCPBA)(0.13g、0.75mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させ、その溶液中に、上記化合物(1)−103(0.187g、0.59mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、5分間撹拌した。次いで、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.083g、0.75mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、10時間撹拌した。得られた反応混合物を塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(30ml)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=4/1(体積比))により精製し、化合物(1)−201を白色結晶として得た(収量0.174g、収率89%)。化合物(1)−201の同定データは以下の通りである。
mp:148-172℃
IR(KBr):3028, 2977, 2955, 2888, 1697, 1436cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.48-7.23 (m, 9H), 5.39 (d, J= 4.5Hz 1H), 4.53 (d, J= 3.9Hz, 1H), 3.64 (dd, J= 4.5Hz 1H), 3.64 (m, 2 H), 3.14 (d, J= 12.4Hz, 1H), 2.49 (s, 3H)
【0088】
[製造例7]
(化合物(1)−202の製造)
【0089】
【化17】

【0090】
m−クロロ過安息香酸(mCPBA)(0.311g、1.8mmol)を塩化メチレン(15ml)に溶解させ、その溶液中に、上記化合物(1)−101(0.541g、1.5mmol)を塩化メチレン(6ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、5分間撹拌した。次いで、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.202g、1.8mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解させた溶液を室温で滴下し、10時間撹拌した。得られた反応混合物を塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(50ml)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=4/1(体積比))により精製し、化合物(1)−202を白色結晶として得た(収量0.509g、収率90%)。化合物(1)−202の同定データは以下の通りである。
mp.186-194℃
IR:3212, 2930, 2901, 1652, 1501, 1251, 1092, 1040cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.47-7.19 (m, 4H), 6.79-6.61 (m, 3H), 5.96 (s, 2H), 5.35 (d, J= 4.7 Hz 1H), 4.51 (d, J= 3.9Hz 1H), 3.66 (d, J= 3.9Hz, 2H), 3.59 (dd, J= 3.9Hz 2H), 3.48 (d, J= 12.4 Hz 1H), 3.03 (d, J= 12.4Hz, 1H), 2.49 (s, 3H)
【0091】
[製造例8]
(化合物(1)−203の製造)
【0092】
【化18】

【0093】
m−クロロ過安息香酸(mCPBA)(0.219g、1.6mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解させ、その溶液中に、上記化合物(1)−105(0.316g、1.0mmol)を塩化メチレン(9ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、5分間撹拌した。次いで、飽和炭酸ナトリウム水溶液を加え、10時間撹拌し、得られた反応混合物を塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(50ml)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。次いで、溶媒をエバポレーターで留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:酢酸エチル)により精製し、化合物(1)−203を白色結晶として得た(収量0.24g、収率73%)。化合物(1)−203の同定データは以下の通りである。
mp.175-177℃
IR:3456, 2954, , 2880, 1697, 1438, 1291, 1112, 1046cm-1
1H NMR (300MHz, CDCl3):δ 7.38-7.36 (m, 2H), 7.28-7.25 (m, 2H), 5.31 (d, J= 4.7 Hz 1H), 4.74 (d, J= 4.1Hz 1H), 4.02-3.96 (m, 1H), 3.85-3.74 (m, 3H), 3.66 (dd, J= 4.7Hz 1H), 2.50 (s, 3H), 2.34-2.16 (m, 2H), 1.90-1.75 (m, 3H), 1.28-1.25 (m, sH)
【0094】
[実施例1〜3]
上記で得られた化合物(1)−102、化合物(1)−201、化合物(1)−203を用いて、植物の抵抗性を誘導した。
各化合物(1)の抵抗性誘導活性は、下記手順で評価した。すなわち、防御応答関連遺伝子プロモーター(PR−1a)に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(LUC)を連結したレポーター遺伝子(PR−1a−LUC)を構築し、これをシロイヌナズナに導入して形質転換した。次いで、この形質転換シロイヌナズナの種子を96穴マルチウェルプレートに播種し、1mMルシフェリン水溶液中で発芽させた。次いで、上記各化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液をそれぞれ調製し、これら化合物の濃度が30μMの濃度となるように、この溶液を各ウェルに加えて、形質転換シロイヌナズナの芽生えを処理した。
次いで、フォトカウンティング装置(ARGUSシステム、浜松ホトニクス社製)及びソフトウェア(AQUACOSMOS、浜松ホトニクス社製)を使用して、各ウェル内の発光強度を測定し、レポーター遺伝子の発現量を測定することで、化合物(1)−102(実施例1)、化合物(1)−201(実施例2)、化合物(1)−203(実施例3)の抵抗性誘導効果をそれぞれ評価した。
【0095】
[参考例1]
上記各化合物(1)に代えてアシベンゾラールSメチル(S−methyl benzo[1,2,3]thiadiazole−7−carbothioate)を使用し、アシベンゾラールSメチルの濃度が50μMとなるようにアシベンゾラールSメチルのDMSO溶液を加えたこと以外は、実施例1〜3と同様に、アシベンゾラールSメチルの抵抗性誘導活性を評価した。アシベンゾラールSメチルは、誘導剤として公知のものである。
【0096】
[比較例1]
上記各化合物(1)のDMSO溶液に代えてDMSOのみを加えたこと以外は、実施例1〜3と同様に、各ウェル内の発光強度を測定した。
【0097】
実施例1〜3、参考例1及び比較例1における発光強度の測定結果を図1に示す。図1のグラフにおける縦軸は発光強度(フォトン数/分/μm)を示し、横軸は化合物(1)若しくはアシベンゾラールSメチルのDMSO溶液又はDMSOを各ウェルに加えてからの時間(0時間〜10日)を示す。
図1から明らかなように、化合物(1)−102、化合物(1)−201、化合物(1)−203は、いずれも十分な抵抗性誘導活性を有していた。このように、従来の誘導剤とは全く相違する新規の骨格を有する化合物(1)が、抵抗性誘導活性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、植物の育成分野全般で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を有効成分とする植物用抵抗性誘導剤。
【化1】

(式中、Xは下記一般式(1a)又は(1b)で表される基であり;X及びXはそれぞれ独立にカルボニル基又は下記一般式(1c)で表される基であり;Zは水素原子以外の一価の基であり;Rは水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり;mは0〜4の整数であり、mが2〜4である場合、複数のZは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基であり;Yは芳香族基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(1)−1A又は(1)−2Aで表される請求項1に記載の植物用抵抗性誘導剤。
【化3】

(式中、R2aは置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基であり;R10は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であり;Gはハロゲン原子であり;nは1〜5の整数であり;nは0〜5の整数であり、nが2〜5である場合、複数のGは互いに同一でも異なっていてもよい。)

【図1】
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