説明

植物由来成分を骨格とするポリエステル樹脂及びその製造方法

【課題】分子鎖中に二重結合を有し、豊富に存在するバイオマス資源から製造可能であり、熱安定性が優れたポリエステル樹脂に関する。
【解決手段】下記一般式(1)
【化1】


(上記一般式(1)において、nは2〜10の整数である。)
で表される芳香族ジカルボン酸と、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールとのエステル単位の繰り返しからなり、
p−クロロフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比40:60の混合溶媒を用い、試料濃度0.5g/dLとした溶液の35℃における還元粘度が0.1〜1.2dL/gであり、融点が200℃以上であるポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分子鎖中に二重結合を有し、豊富に存在するバイオマス資源から製造可能であり、熱安定性が優れたポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や資源枯渇の観点から、植物由来の原料から製造可能なプラスチック、いわゆるバイオプラスチックが注目されている。力学特性、耐熱性が優れたバイオプラスチックを得ることが期待できるバイオ由来のモノマー化合物として、バニリン、バニリン酸、ケイ皮酸、クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸、シリンガ酸などが注目されており、バニリン酸、クマル酸などのフェノール酸類については、これらを重合させた芳香族ポリエステルも報告されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2)。
【0003】
非特許文献1に記載されるポリマーは液晶性を示すので高い流動性を示す事が記載されている。融点は220℃〜260℃の範囲であり他のバイオプラスチックと比較して耐熱性が改善されている。しかしながら溶融時に気泡を発生し発泡するといった現象が記述されている。発泡成形体を得るのに有用に働く事があるが、表面が平滑な成形体を必要とされる用途に使用する時には問題となる。またこの現象は不可逆な反応であり再溶融が困難であり資源リサイクル性を考えると問題であった。
また、非特許文献2に記載されるフェルラ酸を骨格とするポリマーは再融解が可能で資源リサイクル性に優れるが、非晶性でTgが110℃と低く用途が限られていた。
【0004】
飽和ポリエステル樹脂は、特に優れた成形加工性や耐熱性、力学特性の要求される分野でその有用性が認められて使用されてきているが、そのほとんどが二重結合を含まない飽和ポリエステルの形で利用されているのが実状である。一方不飽和ポリエステル樹脂は、上述の分野でその二重結合の反応性を利用して改質反応や架橋反応により、複合化や高性能化が計られている。しかしながらそれらの多くは低分子量の樹脂であり、逆に単独での使用では満足した性能の樹脂は得られず、複合化が必須である。ポリエステル分子鎖中に二重結合を導入できれば、架橋反応点や改質反応点として二重結合が活用でき、より高性能な機能性樹脂が提供できると考えられる。
二重結合を有するモノマーとしてp−フェニレンジアクリレートを基本骨格とする分子鎖中に二重結合を有するポリエステル樹脂についてもいくつか報告がある(非特許文献3および非特許文献4)。報告によれば融点の低いポリエステル樹脂しか報告されていない。
【0005】
また、特許文献1には150℃以上の融点を有する不飽和ポリエステル樹脂について報告がある。融点の高い不飽和ポリエステルを製造する手法として、製造の際に沸点180℃以上の溶媒を使用する事が記載されている。しかしながらこのような手法によるとポリエステル化後に、高沸点溶媒を除去しなければならない等、プロセスが大変煩雑で、必ずしも好ましいとは手法とは言えない。かつ不飽和ポリエステル樹脂のDSC測定結果では融点と見られるいくつかのピークが見られるなど均一性にも問題があった。
【0006】
クマル酸、フェルラ酸、カフェ酸などに由来するポリエステル樹脂としては前述した非特許文献1に記載される液晶ポリマーが報告されている。しかしながら、この記載される樹脂は高温域において再溶融する際にガスを発し発泡体となり、その後不溶不融のポリエステルとなる事が記載されている。
以上のように、植物由来の原料から製造でき、不飽和結合を分子鎖中に有し、耐熱性や成型加工性に優れたポリエステルは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−291139号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ネットワークポリマー」, Vol.31, No.5(2010), P.256
【非特許文献2】「工業材料」,Vol.59, No.4(2011), P.74
【非特許文献3】“Liquid Crystals”, 1989, Vol.5, No.5, p.1629-1634
【非特許文献4】J. Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, Vol.23, p.2361-2376 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、分子鎖中に二重結合を有し、豊富に存在するバイオマス資源から製造可能であり、熱安定性が優れた芳香族ポリエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記のような従来の課題を誠意検討した結果、1)バイオマス資源から製造可能な原料を基本骨格として、2)かつ200℃以上でも溶融成形可能であり、3)成形をするに十分な強度を有するのに必要な高分子量を有し、4)一般的な飽和ポリエステルの重合を行うのと同様の方法にて製造することができ、5)繊維やフィルムの用途に好適なポリエステル樹脂を発明するに到った。本発明の構成を以下に示す。
【0011】
1. 下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、nは2〜10の整数である。)
で表される芳香族ジカルボン酸と、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールとのエステル単位の繰り返しからなり、
p−クロロフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比40:60の混合溶媒を用い、試料濃度0.5g/dLとした溶液の35℃における還元粘度が0.1〜1.2dL/gであり、融点が200℃以上であるポリエステル樹脂。
2. グリコールがエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールである上記1項記載のポリエステル樹脂。
3. グリコールがエチレングリコールである上記1項記載のポリエステル樹脂。
4. 上記一般式(1)の芳香族ジカルボン酸のジエステル体と、上記のグリコールとを反応せしめることを特徴とする上記1項記載のポリエステル樹脂の製造方法。
5. エステル交換触媒の存在下に溶融反応させる事を特徴とする上記4項記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、分子鎖中に二重結合を有し、豊富に存在するバイオマス資源から製造可能であり、熱安定性が優れたポリエステル樹脂を提供することができる。本発明のポリエステル樹脂は、分子鎖中に二重結合を有しており、この二重結合を架橋反応点や改質反応点として反応させ、より高性能な機能性樹脂を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】参考例1で得られた、p−クマル酸骨格を有するジカルボン酸のエチルエステルのH−NMRスペクトルである。
【図2】参考例2で得られた、p−クマル酸骨格を有するジカルボン酸のメチルエステルのH−NMRスペクトルである。
【図3】参考例3で得られた、フェルラ酸骨格を有するジカルボン酸のエチルエステルのH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。尚、本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
本発明は、前記一般式(1)で表される芳香族ジカルボン酸と、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールとのエステル単位の繰り返しからなり、p−クロロフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比40:60の混合溶媒を用い、試料濃度0.5g/dLとした溶液の35℃における還元粘度が0.1〜1.2dL/gであり、融点が200℃以上であるポリエステル樹脂とその製造方法についてのものである。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂については、試料をp−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比40/60)の混合液に濃度0.5g/dLにて溶解させた溶液の35℃における還元粘度が0.10〜1.2dL/gであることが肝要であり、好ましくは0.50〜1.0dL/gである。還元粘度が0.10dL/gより低くなると成形品に十分な機械強度を持たせることが困難となる。また、溶液粘度が1.2dL/gよりも高くなると溶融粘度が高く成形が困難となり好ましくない。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂は、その融点が200℃〜300℃であると好ましく、250℃〜300℃であるとより好ましく、270℃〜300℃であると更に好ましい。ポリエステル樹脂の融点が200℃未満であると耐熱性に劣り、300℃を超えると成形時の熱安定性が悪くなる懸念がある。なお、この場合の融点は、示差走査熱量分析(以下、DSCと略することがある)により求めると好ましく、例えば、昇温速度10℃/min、2nd Runとの条件を例示できる。
【0017】
上記の“一般式(1)で表される芳香族ジカルボン酸と、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールとのエステル単位”とは下記一般式(2)に示されるものである。
【0018】
【化2】

(上記一般式(2)において、nは2〜10の整数であり、Rは炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数の残基である。)
【0019】
上記一般式(2)において、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数の残基であるRとしては、エチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、n−ブチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルブチレン基、2−メチルブチレン基、3−メチルブチレン基、4−メチルブチレン基、n−ヘキシレン基、1,1−ジメチルブチレン基、2,2−ジメチルブチレン基、3,3−ジメチルブチレン基、4,4−ジメチルブチレン基、1,2−ジメチルブチレン基、1,3−ジメチルブチレン基、1,4−ジメチルブチレン基、2,3−ジメチルブチレン基、2,4−ジメチルブチレン基、3,4−ジメチルブチレン基、1−エチルブチレン基、2−エチルブチレン基、3−エチルブチレン基、4−エチルブチレン基、1,1−ジエチルエチレン基、2,2−ジエチルエチレン基、n−オクチレン基、2−エチルヘキシレン基、1,1−ジメチルヘキシレン基、1,4−ジメチルヘキシレン基、1,5−ジメチルヘキシレン基、1,1,3,3−テトラメチルブチレン基、n−デシレン基、1−エチルオクチレン基、1−(n−ブチル)ヘキシレン基、1,1−ジメチルオクチレン基、および3,7−ジメチルオクチレン基からなる群より選ばれる1種類以上のアルキレン基を好ましいものとして挙げることができる。
【0020】
前記一般式(1)で表される芳香族ジカルボン酸(以下、該芳香族ジカルボン酸とそのエステル体を含め、ポリエステルモノマーと称することがある)の製造方法としては、特に限定はされないが、例えば以下の方法を使用する事ができる。
・製造方法1: p−ベンズアルデヒドをα,ω−ジハロゲン化アルカンとともにアルカリ性触媒の存在下エーテル化反応させ、アルデヒド基が2つ結合したジアルデヒド化合物を合成する。その後、このジアルデヒド化合物とマロン酸(エステル等の誘導体含む)または酢酸エステルとを縮合反応させる。
・製造方法2: クマル酸またはそのエステル同士をα,ω−ジハロゲン化アルカンとアルカリ性触媒の存在下エーテル化反応させる。
【0021】
上記のマロン酸エステル、酢酸エステル、クマル酸エステルとしては、特に限定はしないが原料の入手の容易さからメチルエステル、エチルエステルが好ましい。
上記のポリエステルモノマーの製造に使用するアルカリ性触媒としては、特に限定はしないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメチラート、カリウムメチラートなどのアルカリ金属アルコラート、金属カリウム、金属ナトリウムなどのアルカリ金属単体、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属有機カルボン酸塩およびこれら二種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアルカリ金属水酸物およびアルカリ金属炭酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0022】
上記のポリエステルモノマーの原料であるα,ω−ジハロゲン化アルカンとしては、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、1,2−ジフロオロエタン、1,3−ジクロロプロパン、1,3―ジブロモプロパン、1,3−ジヨードプロパン、1,3−ジフロオロプロパン、1,4−ジクロロブタン、1,4−ジブロモブタン、1,4−ジヨードブタン、1,4−ジフルオロブタン、1,5-ジクロロペンタン、1,5−ジブロモペンタン、1,5−ジヨードペンタン、1,5−ジフルオロペンタン、1,6−ジクロロへキサン、1,6−ジブロモへキサン、1,6−ジヨードヘキサン、1,6−ジフルオロヘキサン、1,7−ジクロロヘプタン、1,7−ジブロモヘプタン、1,7−ジヨードヘプタン、1,7−ジフルオロヘプタン、1,8−ジクロロオクタン、1,8−ジブロモオクタン、1,8−ジヨードオクタン、1,8−ジフルオロオクタン、1,9−ジクロロノナン、1,9−ジブロモノナン、1,9−ジヨードノナン、1,9−ジフルオロノナン、1,10−ジクロロデカン、1,10−ジブロモデカン、1,10−ジヨードデカン、1,10−ジフルオロデカン等からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。このうち炭素数が偶数である1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、1,2−ジヨードエタン、1,2−ジフロオロエタン、1,4−ジクロロブタン、1,4−ジブロモブタン、1,4−ジヨードブタン、1,4−ジフルオロブタンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、経済的な点から1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。特に好ましくは1,2−ジクロロエタンである。なお、上記のα,ω−ジハロゲン化アルカンの代わりに、対応するα,ω−アルカンジオールのアルキル/アリールスルホン酸エステル、例えば1,2−ジクロロエタンや1,2−ジブロモエタンの代わりにエチレングリコールジトシラートやエチレングリコールジメシラート等も同様に使用することができる。
【0023】
また、上記のエーテル化反応において、該α,ω−ジハロゲン化アルカンの使用割合は前記のクマル酸やその誘導体、またはp−ベンズアルデヒド1モルに対し、0.4〜1.5モルである。理論量は0.5モルであるが副反応によって消費されるので理論量よりも多くしてもよい。
【0024】
上記の各エーテル化反応は溶媒中で行なうのが好ましく、かかる溶媒としては水が特に好ましいが、その他、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、アセトニトリル等のニトリル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が使用できる。
【0025】
上記の各エーテル化反応の温度は、好ましくは50〜250℃、特に好ましくは60〜200℃であり、反応は常圧〜加圧下で実施できる。
上記の各エーテル化反応では、ヨウ素カリウム等の触媒、銅などの安定剤を添加剤として用いてよく、必要により相間移動反応系で行ってもよく、この場合には、水-芳香族炭化水素系、水‐ハロゲン化炭化水素系等を溶媒として用い、クラウンエーテル類、クリプタンド類、4級アンモニウム塩等を相間移動触媒として用いる方法が挙げられる。
【0026】
また本発明のポリエステル樹脂は、原料である4−ヒドロキシベンズアルデヒドやp−クマル酸として植物由来のものを用いることにより、高結晶性、および高耐熱性に加え、高い生物起源物質含有率も兼ね備えたポリエステル樹脂となる。
【0027】
上記の手法によって製造されたポリエステルモノマーは重合触媒の存在下、常圧で加熱してエステル交換反応を行い高重合度化させる。エステル化反応温度としては使用するグリコールの沸点以上で行う事が好ましく、おおよそ190℃〜250℃の範囲である。190℃よりも低いとエステル化反応が十分に進行せず、250℃よりも高いと副反応物であるグリコールが生成し好ましくない。反応は常圧下で行っても良いが、加圧下で反応を行うとよりエステル化反応が進行しやすい。よって高温高圧下でエステル化反応を行う事が好ましい。より詳しくは、反応圧力は絶対圧力で10kPa以上200kPa以下、反応温度は通常150℃以上250℃以下、好ましくは180℃以上230℃以下で、反応時間10分以上10時間以下、好ましくは30分以上7時間以下で行われるこのエステル化反応によってポリエステル前駆体としての反応物が得られる。常圧で反応させる場合には窒素などの原料、反応混合物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。
【0028】
次いでこのポリエステル前駆体を重合触媒の存在下、減圧下で200〜300℃以下の温度で加熱しながら溶融重縮合を行うことで本発明のポリエステル樹脂を得る事ができる。減圧の程度は1Torr(0.13kPa)以下の可能な限りまで減圧するのが好ましい。反応温度は、重合反応を適切に進める為には重合温度は200℃〜300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200℃〜285℃の範囲である。
【0029】
重合触媒としては、周期律表第I族のリチウム、ナトリウム、カリウム等、周期律表同第II族のカルシウム、ストロンチウム、バリウム、モリブデン、ニッケル、銅、銀、水銀、鉛、白金、パラジウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機錯体、及びハロゲン化物等からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物および含窒素有機化合物を使用することが可能だが、チタン、モリブデン、マンガン、コバルト、及びゲルマニウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物が好ましく、特にチタン化合物が好ましい。
【0030】
重合触媒として好ましいチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、乳酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸− 水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナートやその他のチタン錯体化合物などが挙げられ、中でも、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
【0031】
また、本発明のポリエステル樹脂の製造方法において重合触媒として使用できるチタン以外の金属元素の化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物等が挙げられる。
【0032】
更に、上記の金属化合物に加えて、周期律表第I族の金属化合物、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等、周期律表第II族の金属の化合物、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウム等、その他、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛、酸化鉛、メチルメルカプチド鉛、酢酸カドミウムなどを補助的に重合触媒として
使用しても良いが、これらの金属化合物を多量に使うと、結晶性などの物性が著しく劣ったポリエステルしか得られないことがあり好ましくない。
【0033】
また、本発明のポリエステル樹脂の製造方法における重合触媒として使用できる含窒素有機化合物としては、具体的には、例えば、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、2−ジメチルアミノピリジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、ビピリジン、4−ピロリジノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等が挙げられる。
また、上記の金属化合物および含窒素有機化合物から選ばれる2種類以上のものを混合して、本発明のポリエステル樹脂の製造方法における重合触媒として使用することもできる。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において、上記の重合触媒の使用量は、前記一般式(1)のモノマー化合物1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3モル、より好ましくは1×10−8〜5×10−4モルの範囲で選ばれる。また反応は不活性ガス下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0035】
また本発明のポリエステル樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、テレフタル酸やアジピン酸などのポリカルボン酸、および多価アルコール、並びにこれらのエステル化物またはオリゴマーを共重合させたものでも良い。すなわち前記一般式(1)に示す酸成分の他に、他の酸成分を添加する事ができる。他の酸成分は例えば下記一般式(3)または(4)
HOOC−R−COOH (3)
HOOC−R−OH (4)
で表される。
【0036】
としては例えば炭素数2〜10の炭化水素基を挙げる事ができる。この炭化水素基には低級アルキル基、ハロゲン等が核置換されていてもよい。例としてはフェニレン、ナフタレン、ジフェニレンなどが挙げられる。また炭素数6〜12のシクロアルキレン等を挙げる事ができる。Rとしては上記R1と同義な基が挙げられる。
【0037】
他の酸成分は具体的には、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、1,4−フェニレンジオキシジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これら共重合成分は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく使用される。かかる他の酸成分は全酸成分当たり50モル%未満、更には30モル%未満が好ましい。言い換えると、前記一般式(1)の芳香族ジカルボン酸は、全酸成分当たり50モル%以上であると好ましく、70モル%以上であるとより好ましく、80モル%以上であると特に好ましい。なお、本願発明において、複数の酸成分を用いた場合、製造時の各酸成分の仕込み比と、得られるポリエステル樹脂の分子鎖中のそれぞれの酸成分の残基の組成比とは、ほぼ等しい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分の原料として、炭素数が2〜10であり、かつ、主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールが使用される。該グリコールを用いることにより、機械的特性や耐熱性が良好なポリエステル樹脂を得ることができる。本発明のポリエステル樹脂を製造する際、該グリコールは1種類で用いても複数の種類のものを用いても良い。該グリコールとしては、下記一般式(5)
HO−R−OH (5)
(ここで、Rは前記一般式(2)におけるものと同じである。)
で表されるものが好ましく、エチレングリコール、イソプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール等からなる群より選ばれる少なくとも1つがより好ましく、エチレングリコール、テトラメチレングリコールが更に好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。
【0039】
上記グリコールのほか、ジオール成分としては、主鎖の炭素数が奇数である脂肪族基、脂環族基または芳香族基のもの、具体的にはトリメチレン、ペンタメチレン、フェニレン、ナフタレン、ジフェニル、炭素数6〜12のシクロアルキレンのジオール化合物も例示できる。これらのジオール化合物は全ジオール成分当たり50モル%未満、更には30モル%未満、特に20モル%未満である事が好ましい。言い換えると、前記のグリコールは、全ジオール成分当たり50モル%以上であると好ましく、70モル%以上であるとより好ましく、80モル%以上であると特に好ましい。なお、本願発明において、複数のジオール成分を用いた場合、製造時の各ジオール成分の仕込み比と、得られるポリエステル樹脂の分子鎖中の各ジオール残基の組成比とはほぼ等しい。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂を製造する際には、上述のジカルボン酸やグリコールなどの外に、さらに他の共重合成分を、本発明の目的・効果を損なわない範囲で使用することができる。他の共重合成分としては、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸や、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分などが挙げられる。
さらに本発明のポリエステル樹脂にはそのままでも熱的安定性に優れるが安定剤を添加する事でさらに長時間安定性を付与する事ができる。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂に添加される安定剤としては、例えば、ハイドロキノン、パラベンゾキノン、メチルハイドロキノン、トルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、その他カテコール類としてはp−t−ブチルカテコール;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのターシャリブチルカテコール等の多価フェノール系安定剤が挙げられる。その他アントロン、ナフトヒドロキノンスルホン酸などのナフトール類が挙げられる。また高温、減圧下で重合を行うため安定剤としては沸点の高い安定剤が好ましい。好ましい安定剤としてはヒドロキノン類としては2,5−ジーt−ブチルヒドロキノン、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチル)ヒドロキノン、アントロン化合物、ナフトヒドロキノンスルホン酸類が挙げられる。
上記の安定剤は1種または2種以上の混合物で添加される。安定剤の添加量は通常0.001〜2.0重量%、好ましくは0.005〜0.15重量%が用いられる。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂は単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性ポリマー(例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、シリコーン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンなど)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、天然高分子(ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリヒドロキシバリレート/ヘキサノエート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加したものでもよい。
【0043】
本発明のポリエステル樹脂においては、ラジカル硬化剤と必要に応じて硬化促進剤を添加することにより、常温下あるいは加熱下に硬化させることができる。
さらに、本発明のポリエステル樹脂においては主鎖に紫外線吸収能が高いクマル酸骨格を有しているためポリエステル主鎖間を、紫外線照射によって生成するシクロブタン環によって架橋構造作製する事が可能である。
その場合ポリエステル樹脂にキセノンランプ、高圧水銀灯、太陽光線などを数10分〜数10時間照射する事によって架橋体を得る事ができる。必要によっては光ラジカル開始剤を添加し、可視光線、紫外線、電子線を照射することによっても硬化させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。各物性の測定方法について以下に示す。
【0045】
1) ポリエステル樹脂の還元粘度ηsp/C
ポリマー(ポリエステル樹脂)試料0.05gを、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比40:60の混合溶媒10mLに溶解した試料溶液(濃度0.5g/dL)を用いて、濃度35℃にて、ウベローデ粘度計を使用して測定した結果より、下記式にて求めた。
ηsp/C[dL/g]=(t/t−1)/0.5
t:試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
【0046】
2) ポリエステル樹脂のガラス転移温度、結晶化温度、融点
TAInstruments社製DSC (型式DSC2920)により、昇温速度10℃/min、2nd Runにて測定した。
【0047】
3) ポリエステル樹脂の5%質量減少温度
Rigaku社製 TGA (型式 TG 8120 Thermo plus)により測定した。
【0048】
4) ポリエステル樹脂の半結晶化時間
コタキ商亊株式会社製 結晶化速度測定器 (型式 MK−801型)により測定した。
【0049】
5) ポリエステルモノマー化合物の構造解析
日本電子製JNR−EX270核磁気共鳴装置を使用したH−NMR測定により、ポリエステルモノマー化合物の構造解析を行った。
【0050】
[参考例1] ポリエステルモノマー合成(p−クマル酸骨格を有したモノマー)の合成
攪拌機付き三口フラスコに4−ヒドロキシベンズアルデヒド100重量部をアセトニトリル700重量部に溶解した。この溶液に炭酸カリウム164重量部と1,2−ジブロモエタン213重量部加えた。その後リフラックスして約12時間反応させた。反応後に反応物から反応溶媒であるアセトニトリルをエバポレーションによって除去した。残った固体をジクロロエタンに溶解して分液ロートに移して最低3回洗浄し無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥しエバポレーションする事でジアルデヒド体を得た(収率85%)。
さらに、上記操作で得たジアルデヒド体50重量部を乾燥したビーカーに入れ酢酸エチル150重量部を加えて溶解した。別のビーカーにナトリウムエトキシドを28重量部入れ氷浴につける。その後上記の溶解液をビーカーに入れ反応させた。3時間反応後ビーカー内の内容物をメタノールに入れて良く洗浄した。この後イオン交換水に入れて洗浄し真空乾燥する事で白色粉体を得る事ができた。この白色固体をジメチルホルムアミドで再結晶する事で純度の高い粉体を得る事ができた。得られた粉体の融点は142℃(収率は66%)であった。当該粉体のH−NMRスペクトル、および該スペクトルから確認された当該粉体の構造式をFig.1に示す。Fig.1から分かるとおり、当該粉体は、ポリエステルモノマーとして使用可能な、p−クマル酸骨格を有する芳香族ジカルボン酸のエチルエステル(以下、ポリエステルモノマーAと略する。)であった。
【0051】
[参考例2] ポリエステルモノマー(p−クマル酸骨格を有したモノマー)の合成
p−ヒドロキシケイ皮酸(p−クマル酸)100重量部、メタノール200重量部、98%硫酸4重量部を攪拌付き三口フラスコに入れ8時間還流した。反応終了後室温まで低下させた後イオン交換水1000重量部に流し入れる事により白色沈殿物を得た。この沈殿物をイオン交換水にて洗浄し真空乾燥する事によりp−ヒドロキシケイ皮酸メチルを得た。
p−ヒドロキシケイ皮酸メチル30重量部、アセトニトリル118重量部、炭酸カリウム12重量部、ヨウ化カリウム0.3重量部、1,2−ジブロモエタン16重量部を攪拌付き三口フラスコに入れ100℃で8時間還流した。反応終了後室温まで低下させた後イオン交換水1000重量部に流し入れる事により白色沈殿物を得た。この沈殿物をイオン交換水にて洗浄し真空乾燥した後、H−NMR測定を行った。そのH−NMRスペクトル、および該スペクトルから確認されたポリエステルモノマーの構造式をFig。2に示す。Fig.2から分かるとおり、当該粉体は、ポリエステルモノマーとして使用可能な、p−クマル酸骨格を有する芳香族ジカルボン酸のメチルエステル(以下、ポリエステルモノマーBと略する)であった。なお、ポリエステルモノマーBの収率は40%であった。
【0052】
[参考例3] ポリエステルモノマー(フェルラ酸骨格を有したモノマー)の合成
攪拌機付き三口フラスコにバニリン100重量部をアセトニトリル550重量部に溶解した。この溶液に炭酸カリウム131重量部と1,2−ジブロモエタン170重量部を加えた。その後リフラックスして約12時間反応させた。反応後に反応物から反応溶媒であるアセトニトリルをエバポレーションによって除去した。残った固体をジクロロエタンに溶解して分液ロートに移して最低3回洗浄し無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥しエバポレーションする事でジアルデヒド体を得た(収率80%)。
さらに上記操作で得たジアルデヒド体75重量部、マロン酸1−エチル(J.Am.Chem.Soc., p.1286−1287(1944)を参照に合成)100重量部、ピペリジンを4.1重量部、ピリジン187重量部を攪拌付き三口フラスコに入れ温度100℃で12時間反応を行った。反応後室温まで反応温度を下げ、内容物をイオン交換水に入れてよく洗浄し真空乾燥する事で白色粉体を得る事ができた。この白色固体をジメチルホルムアミドで再結晶する事で純度の高い粉体を得る事ができた(収率は60%)であった。当該粉体のH−NMRスペクトル、および該スペクトルから確認された当該粉体の構造式をFig.3に示す。Fig.3から分かるとおり、当該粉体は、ポリエステルモノマーとして使用可能な、フェルラ酸骨格を有する芳香族ジカルボン酸のエチルエステル(以下、ポリエステルモノマーCと略する)であった。
【0053】
[実施例1] ポリエステル樹脂の合成
上記の参考例1で得られたポリエステルモノマーAを20重量部、エチレングリコール7.3重量部を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0083重量部仕込んで窒素雰囲気下常圧で200℃〜230℃に加熱し溶融させ攪拌1〜2時間反応させ生成するエタノールを留去し、ポリエステル前駆体を得た。ほぼ理論量のメタノールが留出したのを確認後、次に270℃まで徐々に温度を上げ、270℃に到達した時点で0.75Torr(0.1kPa)まで徐々に減圧し更にエチレングリコールを留去した。反応時間1時間にて反応せしめた所、還元粘度0.65dL/gのポリエステル樹脂が得られた。このポリエステル樹脂は、その融点が272℃、ガラス転移温度(Tg)が108℃、且つ5%質量減少温度(Td)が369℃と、耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
【0054】
[実施例2] ポリエステル樹脂の合成
上記の参考例1で得られたポリエステルモノマーAを20重量部、テトラメチレングリコール9.5重量部を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0083重量部仕込んで窒素雰囲気下常圧で200℃〜210℃に加熱し溶融させ攪拌1〜2時間反応させ生成するエタノールを留去し、ポリエステル前駆体を得た。ほぼ理論量のメタノールが留出したのを確認後、次に230℃まで徐々に温度を上げ、230℃に到達した時点で0.75Torr(0.1kPa)まで徐々に減圧し更にテトラメチレングリコールを留去した。反応時間1時間にて反応せしめた所、還元粘度0.67dL/gのポリエステル樹脂が得られた。このポリエステル樹脂は、その融点が218℃(ガラス転移温度(Tg)は結晶化が早く観測できなかった)、且つ5%質量減少温度(Td)が368℃と、耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
【0055】
[実施例3] ポリエステル樹脂の合成
上記の参考例1で得られたポリエステルモノマーAを20重量部、ヘキサメチレングリコール11.8重量部を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0083重量部仕込んで窒素雰囲気下常圧で200℃〜210℃に加熱し溶融させ攪拌1〜2時間反応させ生成するエタノールを留去しポリエステル前駆体を得た。ほぼ理論量のメタノールが留出したのを確認後、次に220℃まで徐々に温度を上げ、220℃に到達した時点で0.75Torr(0.1kPa)まで徐々に減圧し更にヘキサメチレングリコールを留去した。反応時間1時間にて反応せしめた所、還元粘度0.71dL/gのポリエステル樹脂が得られた。このポリエステル樹脂は、融点が200℃(ガラス転移温度(Tg)は結晶化が早く観測できなかった)、且つ5%質量減少温度(Td)が383℃と、耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
【0056】
[比較例1]
上記の参考例3で得られたポリエステルモノマーCを20重量部、エチレングリコール6.4重量部を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.007重量部仕込んで窒素雰囲気下常圧で200℃〜210℃に加熱し溶融させ攪拌1〜2時間反応させ生成するエタノールを留去し、ポリエステル前駆体を得た。ほぼ理論量のメタノールが留出したのを確認後、次に220℃まで徐々に温度を上げ、220℃に到達した時点で0.75Torr(0.1kPa)まで徐々に減圧し更にエチレングリコールを留去した。反応時間1時間反応せしめた所、還元粘度0.65のポリエステル樹脂が得られた。このポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が97℃であり、融点は見られず非晶性の樹脂であり、すなわち耐熱性が不足していた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリエステルは熱安定性に優れるため、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、その他エンジニアリングプラスチック成形品等多くの分野に利用可能である。更に、本発明のポリエステル樹脂は、その分子鎖中に架橋反応点や改質反応点として利用できる二重結合を有しているので、より高性能な機能性樹脂を得るための中間体として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、nは2〜10の整数である。)
で表される芳香族ジカルボン酸と、炭素数が2〜10でありかつ主鎖を形成する炭素数が偶数であるグリコールとのエステル単位の繰り返しからなり、
p−クロロフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比40:60の混合溶媒を用い、試料濃度0.5g/dLとした溶液の35℃における還元粘度が0.1〜1.2dL/gであり、融点が200℃以上であるポリエステル樹脂。
【請求項2】
グリコールがエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールである請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
グリコールがエチレングリコールである請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
上記一般式(1)の芳香族ジカルボン酸のジエステル体と、上記のグリコールとを反応せしめることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
エステル交換触媒の存在下に溶融反応させる事を特徴とする請求項4記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−43919(P2013−43919A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181570(P2011−181570)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】