説明

植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物

【課題】植物病害抵抗性遺伝子の一つである植物ディフェンシン遺伝子PDF1.2の発現を活性化させ、植物生体にエチレン及びジャスモン酸(ジャスモン酸メチル)を産生させ、有機農法などにも適用できる安全な組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物を提供する。また、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物を提供する。さらに、本発明は、酵母細胞壁分解物を含むPDF1.2遺伝子活性化用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の種子・根・茎・葉面もしくは果実に、溶液状態、もしくは固体状態で葉面散布、土壌散布、土壌潅水、土壌潅注等の方法で、又は水耕栽培等の培養液に添加する方法で投与する植物の植物病害抵抗性遺伝子を誘導する組成物に関し、特に、エチレン系シグナル伝達、ジャスモン酸系シグナル伝達系を活性化させる植物ディフェンシン遺伝子PDF1.2を活性化する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は病原体に対抗する防御システムとして、防御因子生産のタイミングから静的(構成的)抵抗性と動的(誘導)抵抗性が存在する。静的(構成的)抵抗性は病原菌の感染を受ける前から備えている抵抗性で、植物中に含まれるサポニンやカテキンなどである。一方、動的(誘導)抵抗性は病原体の感染により誘導される抵抗性である。この動的(誘導)抵抗性には、活性酸素種の生成、細胞壁における化学的・物理的障壁の形成、防御関連遺伝子の発現、過敏感細胞死、ファイトアレキシンやPRタンパク質の生産などがあげられる。植物には、動的(誘導)手段として動物細胞の免疫系に該当する抵抗性誘導機構を持っており、植物ディフェンシンと呼ばれている。この植物ディフェンシンは植物の防御応答の一つであって、病原体や害虫に対する植物の抵抗性を向上させる機能である。通常、これらの植物ディフェンシンは、植物生体内のエチレンとジャスモン酸によって制御され、このエチレンとジャスモン酸メチルを植物生体内に誘導する遺伝子としてPDF1.2遺伝子が知られている。このPDF1.2遺伝子はサリチル酸非依存性シグナル伝達経路により全身誘導されることが知られており、この遺伝子の発現にはジャスモン酸とエチレンが相乗的に作用することが必要である(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
一方、植物ホルモンであるエチレン及びジャスモン酸が植物生体内に生産されることにより、植物の成長促進、収量増加、果実の早熟化または病害抵抗性の向上、害虫防除作用の向上などの植物生理作用を示すことは一般的に知られている。植物ディフェンシン遺伝子を発現させ、植物生体内にエチレン及びジャスモン酸を産生させる方法として、エチレン、エテホン、アミノシクロプロパンカルボン酸等を植物に施用する方法(特許文献1)や、(E)−2−hexenal、(Z)−3−hexenalなどの短鎖アルデヒド、および/またはallo−ocimeneなどのイソプレノイド、および/またはジヤスモン酸などの植物ホルモンを植物に曝露することにより、植物ディフェンシンを生体内に発現させ、植物体の抗菌性を向上させたり、種々の病害を予防する方法(特許文献2)が知られている。
これまでの酵母細胞壁酵素分解物には植物エリシター活性が存在することは知られていた。エリシター活性とは、植物体内におけるファイトアレキシン等の抗菌性物質の合成を誘発する作用であるが、酵母細胞壁酵素分解物が植物ディフェンシン遺伝子を活性化させることについてはこれまで知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特表2000−515009号公報
【特許文献2】特開2005−41782号公報
【非特許文献1】Mitter N, Kazan K, Way H M, Manners J M, Broekaert W F;Plant Sci ,136(2),169-180 (1998)
【非特許文献2】Penninckx I A M A, Thomma B P H J, Broekaert W F, Buchala A, M′Etraux J-P ;Plant Cell, 10(12), 2103-2113 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物病害抵抗性遺伝子の一つである植物ディフェンシン遺伝子PDF1.2の発現を活性化させ、植物生体にエチレン及びジャスモン酸(ジャスモン酸メチル)を産生させ、有機農法などにも適用できる安全な組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酵母細胞壁を酵素で分解して得られた組成物を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物ディフェンシン遺伝子PDF1.2の発現を活性化させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物を提供する。また、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物を提供する。さらに、本発明は、酵母細胞壁分解物を含むPDF1.2遺伝子活性化用組成物を提供する。
また、本発明は、植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。さらに、本発明は、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。さらにまた、本発明は、PDF1.2遺伝子活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。
また、本発明は、植物病害抵抗性遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。さらに、本発明は、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。さらにまた、本発明は、PDF1.2遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。
なお、本明細書において、「植物」は、植物の語自体から認識され得るもの、例えば穀物、種子、球根、草花、野菜、果実、果樹、香草(ハーブ)、花卉、光合成能を有する単細胞生物、分類学上の植物等を意味するものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物は、酵母細胞壁分解物を含む。植物病害抵抗性遺伝子としては、PDF1.2、Thi2.1、VFP、塩基性キチナーゼ、塩基性PR遺伝子群などが挙げられ、本発明の植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物は、特にPDF1.2の発現を活性化させるのに有用である。
酵母細胞壁分解物は、例えば酵母細胞壁を、グルカナーゼを含む酵素で処理することによって得ることができる。酵母細胞壁として、酵母そのものを用いてもよく、又は自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素等を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物や植物由来の酵素製剤を添加して可溶化する方法)、熱水抽出法(熱水中に一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸あるいはアルカリ分解法(種々の酸あるいはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や、高圧ホモジェナイズ法、グラスビーズ等の固形物と混合して混合・磨砕することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行うことにより破砕する方法)等により得られた細胞壁、あるいは酵母から酵母エキスを抽出した後の残渣を用いてもよい。
本発明で使用する酵母としては、分類学上あるいは工業利用上酵母と称されるものであれば特に制限はなく、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、トルラ酵母、その他アルコール発酵用酵母等が挙げられる。
【0008】
酵母細胞壁を分解する酵素としては、グルカナーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、トランスグルコシダーゼ、デキストラナーゼ、グルコースイソメラーゼ、セルラーゼ、ナリンギナーゼ、ヘスペリジナーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、キチナーゼ、リゾチーム、イヌリナーゼ、キトサナーゼ、α-ガラクトシダーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、酸性フォスファターゼ、ホスホジエステラーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヌクレアーゼなどの工業的に利用できる酵素を用いることができる。例えば、グルカナーゼを含む任意の酵素を用いることができ、市販されているツニカーゼ(大和化成(株)製)、YL-NL及びYL-15(いずれも天野エンザイム(株)製)等を用いることができる。酵母細胞壁を分解する酵素の添加量は、酵母細胞壁乾物重量に対し、一般に0.00001〜10000重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。前記酵素により酵母細胞壁を分解する際の条件は、使用する酵素の種類、酵素の添加量等に応じて、当業者によって適宜決定すればよい。
一方、酵母細胞壁の分解には、酵素分解法以外に、50MPaの高圧ホモジナイザーでの分解や、熱水抽出、酵母細胞壁分解菌(例えばPseudomonas paucimobilis、Arthrobacter luteusなど)を接種し酵母細胞壁分解物を得ることができる。
本発明の組成物を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物ディフェンシン遺伝子を活性化させることができる。
【0009】
本発明の組成物は、単独で用いてもよく、また農薬、肥料、園芸用培養土等と組み合わせて用いてもよい。
また、本発明の組成物の形態は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形態で製品化してもよい。また、散布に関しては、上記製品を直接散布しても、あるいは水等で適当な濃度になるように希釈して散布してもよい。さらに、散布方法も特に限定されず、例えば、植物の種子、葉、茎等に直接散布する方法、培養苗や順化苗の葉茎に直接散布(潅水、潅注)する方法、土壌中に散布する方法等のいずれであってもよい。なお、肥料中に配合する場合、肥料としては、窒素、燐酸、カリウムを含有する化学肥料、油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料等、その種類は限定されない。
【0010】
本発明の組成物には、酵母細胞壁酵素分解物の植物ディフェンシン遺伝子を活性化させる機能を妨げない範囲で、水溶性溶剤、界面活性剤等の成分を配合することができる。
水溶性溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコールや、グリセリンのような3価アルコール等が挙げられる。
【0011】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン界面活性剤等水に溶解するものが使用できる。
非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキル(ポリ)グリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(ポリ)グリコシド等が挙げられる。好ましくは、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤及びエステル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。特に好ましくは、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル等のオキシアルキレン基を含むエステル基含有非イオン界面活性剤や、アルキル(ポリ)グリコシド等の糖骨格を有する窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0012】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系及びリン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。好ましくは、カルボン酸系及びリン酸エステル系界面活性剤である。カルボン酸系界面活性剤としては、例えば炭素数6〜30の脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩等が挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸の縮合物塩、ナフタレンスルホン酸の縮合物塩等が挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩、アルキルポリグリコシド硫酸塩等が挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤として、例えばアルキルリン酸エステル塩、アルキルフェニルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等が挙げられる。前記塩としては、例えば金属塩(Na、K、Ca、Mg、Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。
【0013】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系、アミンオキサイド系が挙げられる。アミノ酸系としては、例えばアシルアミノ酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシロイルメチルアミノプロピオン酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アシルアミドエチルヒドロキシエチルメチルカルボン酸塩等が挙げられる。ベタイン系としては、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルジメチルカルボキシメチルアンモニアベタイン等が挙げられる。イミダゾリン系としては、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルエトキシカルボキシメチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。アミンオキサイド系としては、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルアミンオキサイド等が挙げられる。
上記界面活性剤は、単独で、又は二種以上混合して使用してもよい。
【0014】
本発明の組成物は、更に、ペプチド、多糖類、糖タンパク質及び脂質から選ばれるエリシター活性を有する物質の一種以上を含有するものを添加することもできる。エリシター活性とは、植物体内におけるファイトアレキシン等の抗菌性物質の合成を誘発する作用である。
エリシター活性を有する物質は、植物に固有の物質が種々知られており、対象とする植物に応じて適宜選定すればよいが、グルカンオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、ヘプタ−β−グルコシド、システミン、カゼインタンパクのキモトリプシン分解物などの外因性エリシター、オリゴガラクチュロン酸、ヘキソース、ウロン酸、ペントース、デオキシヘキソースなどの内因性エリシター、その他に、ショ糖エステル、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギーナン、真菌類の菌糸分解物、海藻抽出物などが挙げられ、水溶性で安定供給可能なものが好ましい。
【0015】
本発明の組成物は、更に、植物生長調節剤を添加することもできる。植物生長調節剤としては、オーキシン拮抗剤としては、マレイン酸ヒドラジド剤、ウニコナゾール剤等、オーキシン剤としては、インドール酪酸剤、1-ナフチルアセトアミド剤、4-CPA剤等、サイトカイニン剤としては、ホルクロルフェニュロン剤等、ジベレリン剤としてはジベレリン剤等、その他のわい化剤としては、ダミノジット剤等、蒸散抑制剤としては、パラフィン剤等、その他の植物生長調整剤としては、コリン剤等、生物由来の植物生長調整剤としては、クロレラ抽出物剤等、エチレン剤としては、エテホン剤等が挙げられる。
【0016】
本発明の組成物は、酵母細胞壁酵素分解物を乾物として0.00001〜30重量%、特に0.001〜0.1重量%含有することが好ましい。また、本発明の組成物は、好ましくは酵母細胞壁酵素分解物を乾物として10アール当たり10〜800gで与えられ、より好ましくは10アール当たり50〜250gで与えられる。上記範囲内で与えることで、より有効な植物ディフェンシン遺伝子活性化機能を得ることができる。
【0017】
本発明の組成物においては、酵母細胞壁酵素分解物は単独の有効成分として使用できる。また、既存の植物活性剤に、酵母細胞壁酵素分解物を添加することもできる。用いる植物活性剤は、公知の植物活性剤であればいずれであってもよい。具体的には、エチレン剤、オーキシン剤(インドール酪酸、エチクロゼート剤、クロキシホナック剤、ジクロルプロップ剤、1−ナフチルアセトアミド剤、4−CPA剤など)、オーキシン拮抗剤(マレイン酸ヒドラジド剤など)、サイトカイニン剤(ベンジルアミノプリン剤、ホルクロルフェニュロン剤など)、ジベレリン剤、ジベレリン生合成阻害剤(イナベンフィド剤、ウニコナゾールP剤、クロルメコート剤、パクロブトラゾール剤、フルルプリミドール剤、メピコートクロリド剤、プロヘキサジオンカツシウム塩剤、トリネキサパックエチル剤など)、矮化剤(ダミノジッド剤、イマザピル剤など)、イソプロチオラン剤、オキシン硫酸塩剤、過酸化カルシウム剤、シアナミド剤、塩化カルシウム・硫酸カルシウム剤、コリン剤、デシルアルコール剤、ピペロニルブトキシド剤(ピペルニブトキサイド剤)ペンディメタリン剤、MCPA剤、MCPB剤、NAC剤(カルバリル剤)、キノキサリン系・DEP剤、ピラフルフェンチル剤、プロヒドロジャスモン剤、アブシジン酸剤、クロレラ抽出物、シイタケ菌糸体抽出物などが挙げられる。植物活性剤への酵母細胞壁酵素分解物の添加量は、酵母細胞壁酵素分解物を乾物として0.00001〜30重量%の範囲が好ましく、特に0.001〜0.1重量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0018】
(ビール酵母細胞壁液の調製)
ビール醸造後の酵母(Saccharomyces cerevisiae)を原料とし、酵素分解法(プロテアーゼYL-15(天野エンザイム))により得られた、乾物濃度15重量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え(pH 5.5)、乾物重量に対し0.5%のプロテアーゼYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
【0019】
(パン酵母細胞壁液の調整)
パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を原料とし、酵素分解法(プロテアーゼYL-15(天野エンザイム))により得られた、乾物濃度15重量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物重量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
【0020】
(トルラ酵母細胞壁液の調製)
トルラ酵母(Candida utilis)を原料とし、酵素分解法(プロテアーゼYL-15(天野エンザイム))により得られた乾物濃度15重量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物重量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に酵母細胞壁液1500gを得た。
【0021】
(実施例1:ビール酵母細胞壁による植物ディフェンシン遺伝子の発現)
シロイヌナズナ由来のPDF1.2プロモーターにホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポーター遺伝子をシロイヌナズナに導入した。このシロイヌナズナ種子をカナマイシン選択培地(MS寒天培地にカナマイシン(最終濃度50mg/L)、カルベニシリン(最終濃度250mg/L)を添加)の入った角プレートに播種し、本葉展開までシロイヌナズナを栽培した。
播種から20日後、6穴マルチウェルプレートに1ml/wellずつ減菌水を添加し、1wellに対しシロイヌナズナ1苗(1個体)を移し変えた。その後、500μl/wellずつ1mMルシフェリンを添加し、24時間後に上述の通り調製したビール酵母細胞壁液を凍結乾燥し、粉末化したビール細胞壁粉末を、10%、2.5%、0.625%、0.157%濃度に水で希釈し(表1)、酵母細胞壁液を調製した。この酵母細胞壁液を500μl/wellずつ添加し、12時間後にVIMカメラ(浜松ホトニクス社製)にてルシフェラーゼによる発光量を相対発光度として測定した。
酵母細胞壁液を添加した試験No.2〜No.5においては、水を500μl/well添加した対照区と比較して優位に輝度が高く、ルシフェラーゼによる発光量が増加しており、PDF1.2遺伝子が活性化されていることがわかる。
【0022】
表1 ビール酵母細胞壁液添加試験

【0023】
(実施例2:ビール酵母細胞壁液とパン酵母細胞壁液による植物ディフェンシン遺伝子の発現)
実施例1と同様にシロイヌナズナを20日間生育させ、20日経過したシロイヌナズナにルシフェリンを添加し、上述の通り調製したビール酵母細胞壁液及びパン酵母細胞壁液を500μl/wellずつ添加し、144時間後にVIMカメラ(浜松ホトニクス社製)にてルシフェラーゼによる発光量を相対発光度として測定した(表2)。
酵母細胞壁液を添加した試験No.2〜No.3においては、水を500μl/well添加した対照区(No.1)と比較して優位に輝度が高く、ルシフェラーゼによる発光量が増加しており、PDF1.2遺伝子が活性化されていることがわかる。
【0024】
表2 ビール酵母細胞壁液・パン酵母細胞壁液添加試験

【0025】
(実施例3:トルラ酵母細胞壁液による植物ディフェンシン遺伝子の発現)
実施例1と同様にシロイヌナズナを20日間生育させ、20日経過したシロイヌナズナにルシフェリンを添加し、上述の通り調製したトルラ酵母細胞壁液を500μl/wellずつ添加し、144時間後にVIMカメラ(浜松ホトニクス社製)にてルシフェラーゼによる発光量を相対発光度として測定した(表3)。
酵母細胞壁液を添加した試験No.2においては、水を500μl/well添加した対照区(No.1)と比較して優位に輝度が高く、ルシフェラーゼによる発光量が増加しており、PDF1.2遺伝子が活性化されていることがわかる。


【0026】
表3

【0027】
(実施例4:酵母細胞壁液上清と沈殿による植物ディフェンシン遺伝子の発現)
上述の通り調製したビール酵母細胞壁液を11500G 5分の遠心分離により、上清部と沈殿部に分離した。
実施例1と同様にシロイヌナズナを20日間生育させ、20日経過したシロイヌナズナにルシフェリンを添加し、ビール酵母細胞壁液上清部と沈殿部を500μl/wellずつ添加し、144時間後にVIMカメラ(浜松ホトニクス社製)にてルシフェラーゼによる発光量を相対発光度として測定した(表4)
酵母細胞壁液の沈殿部、上清部を添加した試験No.2〜No.3においては水を500μl/well添加した対照区(No.1)と比較して優位に輝度が高く、ルシフェラーゼによる発光量が増加しており、PDF1.2遺伝子が活性化されていることがわかる。また、酵母細胞壁液沈殿部より上清部の方がより強く植物ディフェンシン遺伝子PDF1.2を活性化していることがわかる。
【0028】
表4

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ビール酵母細胞壁液添加によるルシフェラーゼ発光試験の相対発光度を示す。
【図2】ビール酵母細胞壁液とパン酵母細胞壁液添加によるルシフェラーゼ発光試験の相対発光度を示す。
【図3】トルラ酵母細胞壁液添加によるルシフェラーゼ発光試験の相対発光度を示す。
【図4】ビール酵母細胞壁液 上清部と沈殿部添加によるルシフェラーゼ発光試験の相対発光度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞壁分解物を含む植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物。
【請求項2】
酵母細胞壁分解物を含む、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物。
【請求項3】
酵母細胞壁分解物を含むPDF1.2遺伝子活性化用組成物。
【請求項4】
植物病害抵抗性遺伝子活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項5】
エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項6】
PDF1.2遺伝子活性化用組成物を調製するための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項7】
植物病害抵抗性遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項8】
エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項9】
PDF1.2遺伝子を活性化させるための酵母細胞壁分解物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70292(P2007−70292A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259608(P2005−259608)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】