説明

植生袋及びその製造方法並びに植生マット

【課題】コスト面や生産面での向上を図りつつ、植物繁殖体の極度の偏在を防止することができ、さらには植物繁殖体を自在かつ容易に所望の位置に配置することを可能とする植生袋及びその製造方法並びに植生マットを提供する。
【解決手段】植生対象として含む植物繁殖体2の種類の相違または前記植物繁殖体2の有無により区別される2パターン以上の領域8が袋体1内において該袋体1の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体1内に前記植物繁殖体2及び材料3,4を充填し、所定の領域8に特定種の植物繁殖体2を含ませ、前記所定の領域8に隣接する他の領域8に前記特定種の植物繁殖体2を含ませないようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、法面への樹木等の導入や装飾的な植生等に用いられる植生袋及びその製造方法並びに植生マットに関する。
【背景技術】
【0002】
種子を利用した緑化工として、植生基材吹付工、客土吹付工、種子散布工、植生シート工、植生マット工等がある。斯かる緑化工では、施工地による制約がない場合、トールフェスクやバミューダグラス、ケンタッキーブルーグラス、クリーピングレッドフェスク等の外来牧草、ススキやイタドリ、メドハギ、ヤマハギ等の在来草本の種子を使用する。
【0003】
しかしながら、樹木を主とする緑化を行うにあたってコナラやシラカシ等の大型種子を用いる場合、上記各種の工法では、工法の種類や種子の性状等により程度の差はあるものの、吹き付けた種子がリバウンドしたり、植生シートや植生マットに保持された長袋状の植生袋内で種子が極度に偏在したりするといった問題がつきまとう。
【0004】
本出願人が先に提案した、大型種子・肥料・生育基盤材を充填した小袋を植生マットに保持させる植生マット工(特許文献1参照)は、上記問題の解決の一助ともなる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−81322号公報、図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記小袋は従来の長袋状の植生袋よりも容量が小さいので、所定量の種子や肥料等の配置には長袋状の植生袋より多くの小袋が必要となり、製造コストや生産性の点で不利となる。
【0007】
また、例えば法面にて施工する際に所謂小段効果を確実に得るために、複数の小袋を等高線に沿わせて隙間なく配置しようとすると、手間及びコストの両面で、従来の長袋状の植生袋を設置する場合よりも負担が大となる。尚、ここでいう小段効果とは、周囲からの飛来種子、木の葉や、法面山側からの流亡土砂等が法面に配置された植生袋(小袋)によって堰き止められ堆積することにより、その山側に植生基盤が小段状に形成され、その小段において植物が生長し易くなる効果を指す。
【0008】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、コスト面や生産面での向上を図りつつ、植物繁殖体の極度の偏在を防止することができ、さらには植物繁殖体を自在かつ容易に所望の位置に配置することを可能とする植生袋及びその製造方法並びに植生マットを提供することにある。ここで、植物繁殖体とは、種子の他、球根、根茎、胞子など、植物が発芽するもととなる物体の総称を指す語句である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生袋は、植生対象として含む植物繁殖体の種類の相違または前記植物繁殖体の有無により区別される2パターン以上の領域が袋体内において該袋体の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体内に前記植物繁殖体及び材料を充填し、所定の領域に特定種の植物繁殖体を含ませ、前記所定の領域に隣接する他の領域に前記特定種の植物繁殖体を含ませないようにしてある(請求項1)。
【0010】
前記植生袋において、前記他の領域は、前記植物繁殖体を含まないか、または前記特定種以外の植物繁殖体を含むようにすることができる(請求項2)。
【0011】
上記各植生袋において、前記植物繁殖体を含む領域と、前記植物繁殖体を含まない領域とが交互に並ぶようにしてあってもよい(請求項3)。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生マットは、シート状体と、該シート状体に装着される請求項1〜3の何れか一項に記載の植生袋とを備えた植生マットであって、複数の前記植生袋が略ストライプ状に並ぶ状態となるように前記シート状体に装着されることを特徴としている(請求項4)。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生袋の製造方法は、植生対象として含む植物繁殖体の種類の相違または前記植物繁殖体の有無により区別される2パターン以上の領域が袋体内において該袋体の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体内に前記植物繁殖体及び材料を充填し、所定の領域に特定種の植物繁殖体を含ませ、前記所定の領域に隣接する他の領域に前記特定種の植物繁殖体を含ませないことを特徴としている(請求項5)。
【0014】
前記植生袋の製造方法は、前記他の領域に、前記植物繁殖体を含ませないか、または前記特定種以外の植物繁殖体を含ませるものとすることができる(請求項6)。
【0015】
上記植生袋の製造方法において、前記植物繁殖体を含む領域と、前記植物繁殖体を含まない領域とを交互に並べるようにしてもよい(請求項7)。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜7に係る発明では、コスト面や生産面での向上を図りつつ、植物繁殖体の極度の偏在を防止することができ、さらには植物繁殖体を自在かつ容易に所望の位置に配置することを可能とする植生袋及びその製造方法並びに植生マットが得られる。
【0017】
すなわち、各請求項に係る発明では、比較的容量の大きい長袋状の袋体を用いることにより、比較的容量の小さい小袋を用いる場合よりも必要な数が少なくて済むので、コスト面や生産面での向上を図ることができる。
【0018】
また、各請求項に係る発明では、たとえ長袋状の袋体であっても、その内部に形成される所定の領域に植生対象としての特定の植物繁殖体を含ませ、これに隣接する他の領域に前記特定の植物繁殖体を含ませない、といったことができるのであり、従って、植生対象とする植物繁殖体の極度の偏在を防止してその良好な生育を図ることができる。さらに、2パターン以上の領域が袋体内において該袋体の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体内に植物繁殖体及び材料を充填するので、植物繁殖体を自在かつ容易に所望の位置に配置することが可能となる。
【0019】
その上、各請求項に係る発明の植生袋を等高線に沿うように配置すれば、上述の小段効果が得られる。
【0020】
各請求項に係る発明の植生袋を緑化対象面に設置すると、植生対象とする植物繁殖体を含む領域は植生区を構成し、含まない領域は緩衝区を構成するので、植生対象とする植物繁殖体の過度の密集が防止されるように植生区を構成する領域と緩衝区を構成する領域とを割り振ることにより、植生袋全体にわたって植物の生育を好適に促進することができる。
【0021】
従って、上記植生袋によれば、植物繁殖体の極度の偏在を防止することができる上、緑化工や請求項4の植生マットに上記植生袋を用いれば、生育せず無駄になる植物繁殖体の数も減らすことができるので、植物繁殖体の使用量も抑えられ、このことは製造コストや施工コストの低減にもつながる。そして、上記植生袋は例えば野菜の栽培にも適用可能であり、この場合には、間引きを不要とすることもできる。
【0022】
しかも、上記植生袋は、植物繁殖体の配置を部分的に留めて植物繁殖体が存在しない緩衝区を設けるものであるが、この緩衝区をある程度広げれば、この区域は周辺植物から飛来してくる植物繁殖体を生育させるための範囲ともなり、積極的に周辺植物が導入でき緑化に好適となる。
【0023】
また、請求項1〜3、4〜6に係る発明では、一本の植生袋に、例えば樹木が生育する樹木部と、草本類が生育する草本部とを設けるといったことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)は本発明の第一の実施の形態に係る植生袋の製造方法を概略的に示す説明図、(B)は、本発明の第二の実施の形態に係る植生袋の製造方法を概略的に示す説明図である。
【図2】(A)及び(B)は、第一の実施の形態に係る植生袋の構成を概略的に示す斜視図及び部分切断斜視図、(C)は第二の実施の形態に係る植生袋の構成を概略的に示す部分切断斜視図である。
【図3】前記植生袋を備えた植生マットの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図4】(A)は第二の実施の形態に係る植生袋を備えた植生マットの設置例を概略的に示す説明図、(B)は変形例に係る植生マットの設置例を概略的に示す説明図、(C)は第一の実施の形態に係る植生袋を備えた植生マットの設置例を概略的に示す説明図である。
【図5】(A)は前記植生マットの別の例の構成を概略的に示す斜視図、(B)は(A)に示す植生マットの更なる変形例を概略的に示す斜視図である。
【図6】前記植生袋の他の設置例を概略的に示す説明図である。
【図7】(A)は仕切り部を有する植生袋の構成を概略的に示す斜視図、(B)及び(C)は仕切り部を有する他の植生袋の構成を概略的に示す説明図及び部分切断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
本発明の第一の実施の形態に係る植生袋Aの製造方法は、長袋状の袋体1に、種子(植生対象としての植物繁殖体の一例)2を含む材料3を投入する第一の投入工程と、種子2を含まない材料4を投入する第二の投入工程とを交互に繰り返し(図1(A)参照)、図2(A)及び(B)に示す植生袋Aを製造するためのものである。
【0027】
袋体1は、内容物充填後の径が3〜20cm、長さが50〜200cmの長袋状(本例では長さが径の2.5倍以上の袋状)で、袋内に導入される植生対象としての植物繁殖体の生育を阻害しないために透水性及び通芽性を有するように構成されたもの(不織布、紙、織布など)であって、例えば、完全に分解するものや全体の半分だけ分解するもの、あるいは点状、筋状に一部だけ分解するものとすることができ、このような袋体1の構成素材としては、例えばバクテリアなどの微生物で分解腐食されて経時的に消失する綿、絹、麻などの天然繊維や、再生セルロースからなるビスコースレーヨンなどの再生繊維、さらには、前述したような腐食性繊維の単独、又は、腐食性繊維と合成繊維とからなる混紡繊維を使用することができる。尚、本実施形態では、生分解性プラスチックを使った不織布によって袋体1全体を構成してある。
【0028】
種子2としては、例えば、あかまつ、やしゃぶし、いたちはぎなどの樹木の種子、トールフェスク、バミューダグラス、クリーピングレッドフェスク、レッドトップ、ホワイトクローバなどの牧草種子や花の種子、よもぎ、ススキ、めどはぎなどの野草の種子から、任意に選択されたものである。本実施形態では、種子2として一種の種子のみ用いる。
【0029】
材料3としては、土壌改良材、保水材、肥料(有機堆肥、化学肥料)、植物性繊維、客土などの少なくとも1種を含む植生基材を種子2に配合したものを用いることができる。ここで、土壌改良材の例としては、ピートモス、バーク堆肥、ベントナイトなど、保水材の例としては、パーライト、バーミキュライト、高吸水性ポリマーなどを挙げることができる。
【0030】
材料4としては、例えば、上記植生基材を用いることができる。尚、材料3,4に用いる植生基材は同一物であっても異なる配合がなされたものでもよい。
【0031】
袋体1に対する材料3、4の投入は、例えば図1に示す投入装置を用いて行うことができる。この投入装置は、材料3が投入される第一のホッパー5と、材料4が投入される第二のホッパー6とを備え、ホッパー5,6はともにノズル7に接続されている。そして、材料3を投入する第一の投入工程では、第一のホッパー5からノズル7を経た材料3が袋体1内に所定量投入され、材料4を投入する第二の投入工程では、第二のホッパー6からノズル7を経た材料4が袋体1内に所定量投入される。尚、本実施形態では、第一の投入工程における種子2を含む材料3の投入量よりも、第二の投入工程における材料4の投入量を多くしてあるが、これに限らず、両投入量の多少を逆としても、あるいは同等としてもよいし、さらには、複数の第一、第二の投入工程にわたって投入量が規則的あるいは不規則に異なっていてもよい。
【0032】
ここで、各投入工程では、投入対象(第一の投入工程では種子2を含む材料3、第二の投入工程では材料4)からなる領域(層)8(図2(B)参照)を袋体1内に形成し、上記二種の投入工程を交互に行うことにより、複数の領域8が袋体1の最奥部9側から順次形成されることになる。また、斯かる領域8を順次形成するために、各投入工程では、袋体1を、最奥部9が下に向くように配置するのであり、本実施形態では同時に、入口(投入口)10が上を向くように配置する(図1(A)参照)。
【0033】
本実施の形態では、上述したように、袋体1内に種子2及び種子2以外の材料3,4を充填する工程を複数の投入工程に分けて行い、充填後には、袋体1の余剰部分(種子2、材料3,4が充填されない部分)の折り畳み、縫合、ステイプル打設、結束等の適宜の手段により、袋体1の入口(投入口)10を封じる。
【0034】
ここで、最終的に出来上がった植生袋A(袋体1)の内部充填率が、見かけ容量で袋体1の95%以上(好ましくは97%以上)100%以下となるようにすることが好適である。これは、充填率が低い(95%未満である)と、袋体1の内容物の移動自由度が高まり、各領域8にある種子2や材料3,4が他の領域8に移動するなどして混合されてしまう恐れがあるためである。充填率を高めれば(95%以上とすれば)、袋体1の内容物の移動が抑止され、上記のような混合は防止される。
【0035】
上記のように製造した植生袋Aは、法面等の緑化対象面上に配置されるのであり、例えば、図3に示すように、2枚のシート状体11,12間に植生袋Aを位置ずれしないように挟み込んで植生マットを形成し、これを法面上に固定配置することができる。すなわち、両シート状体11,12は図外のステイプル等の接合部材によって張り合わされるのであり、この接合部材を植生袋Aの周囲に設けることによって植生袋Aの位置ずれを防止することができる。尚、シート状体11,12の種類や素材としては適宜のものを用いればよく、本例では、上側のシート状体11は適宜の目合いを有する椰子繊維製のネット、下側のシート状体12はジュート繊維製のシートである。
【0036】
本実施形態の製造方法により得られる植生袋Aでは、袋体1内に充填された材料3,4が袋体1の最奥部9側から順次形成された複数の領域8を構成し、種子2を含む領域8と、種子2を含まない領域8とが交互に形成された状態となっている。そして、斯かる植生袋Aを緑化対象面に設置すると、種子2を含む領域8は植生区を構成し、種子2を含まない領域8は緩衝区を構成するので、種子2の過度の密集が防止され、植生袋A全体にわたって植物の生育を好適に促進することができる。
【0037】
従って、上記植生袋Aによれば、種子2の極度の偏在を防止することができる上、緑化工に上記植生袋Aを用いれば、生育せず無駄になる種子2の数も減らすことができるので、種子2の使用量も抑えられ、このことは製造コストや施工コストの低減にもつながる。そして、植生袋Aは例えば野菜の栽培にも適用可能であり、この場合には、間引きを不要とすることもできる。
【0038】
また、上記植生袋Aは、種子2の配置を部分的に留めて種子2が存在しない緩衝区を設けるものであるが、この緩衝区をある程度広げれば、この区域は周辺植物から飛来してくる種子を生育させるための範囲ともなり、積極的に周辺植物が導入でき緑化に好適となる。
【0039】
また、上記植生袋Aは、図3に示すように植生マットとして設置可能であり、この設置は従来の植生マット工と同様に行える。そして、この植生マットを法面に設置するときには、植生袋Aを等高線に沿うように配置すれば、上述の小段効果が得られる。
【0040】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0041】
上記実施の形態では、図1(A)に示す投入装置を用いて各投入工程を実施しているが、これに限らず、例えば、各投入工程を手作業で逐一行うようにしてもよい。
【0042】
袋体1の外面に、各投入工程の実施に際して形成しようとする領域8の深さ(あるいは投入対象の投入量)を作業者が知る手がかりとなる目印や、植生袋の設置時あるいは設置後に、植生袋のどの部分に植生対象としての植物繁殖体(種子2)が含まれているのかを植生袋の外側から一目で特定することができるようにするための目印などを設けてあってもよい。
【0043】
上記実施の形態では種子2を用いているが、種子2以外の植物繁殖体を用いることができるのは勿論である。
【0044】
材料3に、緑化対象面周辺の表土(表土シードバンク)を用いることも可能である。すなわち、埋土種子2が含まれている表土を特定の種子2を含む材料3として用いてもよい。このように表土を用いる場合は周辺生態系の復元や導入が期待できる。
【0045】
例えば上下の幅が比較的小さい傾斜地には、図3に示す植生マットを、図4(C)に示すように等高線に沿うように(植生袋Aが等高線と直交する向きとなるように)配置することもできる。
【0046】
植生袋Aの設置方法は種々に変更可能であり、例えば、図5(A)に示すように、シート状体(ネット体)13に設けられた複数のポケット14にそれぞれ植生袋Aを収容して植生マットを形成し、この植生マットを緑化対象面に配置するようにしてもよい。また、図3や図5(A)に示す植生マットは、例えば、薄綿シートや不織布、紙などからなる侵食防止材を保持するように構成されていてもよい。
【0047】
上記実施の形態は、種子2を含む材料3を投入する第一の投入工程と種子2を含まない材料4を投入する第二の投入工程とを交互に実施するものであるが、一つの植生袋の製造に際し、各々の投入工程のパターン(投入対象の内容)、パターン毎の投入工程の数やその順序、各投入工程における投入量などは適宜に変更することができる。すなわち、植生対象として含む植物繁殖体の種類の相違または前記植物繁殖体の有無により区別される2パターン以上の領域8が袋体1内において袋体1の最奥部側から所定の順序で並ぶように袋体1内に前記植物繁殖体及び材料を充填すればよく、これにより、所定の領域8に特定種の植物繁殖体を含ませ、他の所定の領域8に前記特定種の植物繁殖体を含ませない、といったことができるのであり、従って、植物繁殖体を自在かつ容易に所望の位置に配置することが可能となる。そして、所定の領域8に植生対象としての特定種の植物繁殖体を含ませ、前記所定の領域8に隣接する他の領域8に前記特定種の植物繁殖体を含ませないようにすれば、その所定の領域8において特定種の植物繁殖体を確実かつ良好に生育させることが可能となる。また、ここでいう他の領域8には、植生対象とする植物繁殖体を一切含ませないようにしてもよいし、前記特定種以外の植生対象とする植物繁殖体を含ませるようにしてもよい。
【0048】
上記実施の形態には、二つのパターンの投入工程(第一、第二の投入工程)を示しているが、これらに代えて、あるいはこれらに加えて、例えば、二種以上の植生対象とする植物繁殖体を投入する投入工程、投入する植生対象としての植物繁殖体の種類の一部または全部が互いに異なる2パターン以上の投入工程、特定種または不特定の植生対象としての植物繁殖体を含むことが見込まれる材料(施工地周辺で採取した土壌等)を投入する投入工程、植生対象としての植物繁殖体のみを投入する投入工程等、他のパターンの投入工程を設けてもよい。例えば、植生対象としての植物繁殖体を含まない二つの領域8の間に植生対象としての植物繁殖体のみを配置するといったことも可能である。
【0049】
投入する植生対象としての植物繁殖体の種類の一部または全部が互いに異なる2パターン以上の投入工程を有する製造方法により得られる植生袋は、含む植物繁殖体の種類の一部または全部が互いに異なる2パターン以上の領域8を有することになる。その一例を、第二の実施の形態として、図1(B)及び図2(C)を参照しながら説明する。
【0050】
すなわち、図1(B)及び図2(C)に示す植生袋Bの製造方法では、各投入工程で投入された種子(植生対象としての植物繁殖体の一例)2は最大で一種であり、また、種子2を含む領域8を袋体1内に計三つ設けるようにしてあり、これら三つの領域8に含まれる種子2の種類(2a,2b,2c)は相互に異なっている。そのため、この植生袋Bを例えば図3や図5(A)に示す植生マットに仕上げた状態で図4(A)に示すように施工対象面に設置すると、各植生袋Bの三つの植生区15ではそれぞれ互いに異なる種類の種子2が発芽することになる。
【0051】
従って、第二の実施の形態では、一本の植生袋Bに、例えば樹木が生育する樹木部と、草本類が生育する草本部とを設けるといったことも可能となる。
【0052】
尚、互いに種類の異なる植物繁殖体を含む領域8どうしが隣接しないように、それらの間に植物繁殖体を含まない領域8(緩衝区)を設けてあれば、一本の植生袋Bに、例えば樹木部と草本部とを、両者を明確に区分けしつつ設けるといったことも可能となるが、種子2の生育に問題がなければ、上記のような緩衝区を適宜省き、互いに種類の異なる植物繁殖体を含む領域8どうしが隣接するようにしてもよい。
【0053】
また、図3や図5(A)に示す植生マットは、植生袋A、Bと同等の幅を有するシート状体に、複数の植生袋A、Bを略ストライプ状に並ぶ状態となるように(適宜の間隔をあけてシート状体の幅方向と略平行に延在するように)装着したものであり、例えば複数の植生袋Aの間で含む植物繁殖体の種類に違いがあるようにしてもよく、このようにすれば、植生マットの長手方向等に植生区分を設けることも可能である。
【0054】
さらに、図4(B)に示すように、各植生マットにおいて、あるいは並べた複数の植生マットにわたって、植生区15と緩衝区16とによる文字や図柄等が浮かびあがるように構成してもよい(図示例では左右に並ぶ二つの植生マットにわたって数字の「0」と「1」を浮かび上がらせている)。このような構成は、例えば、図5(B)に示すように、複数の植生袋A、Bを連ねて保持する植生マットを用いれば容易に実施可能である。
【0055】
植生袋A、Bはさらに、例えば、図6に示すように、保形性を有し起立可能な筒状部材(例えば、多孔性プラスチック容器)17内に挿入して、起立状態で設置することもできる。図6には、互いに異なる種子2(2a,2b,2c)を含む三つの領域8を有する植生袋Cを用い、これら三つの領域8から互いに異なる植物を生育させた例を示してある。このような変形は、例えば、見栄えが重視される花類の生育等に適している。
【0056】
尚、図6に示すように植物を生育させる場合、筒状部材17には、植物が通ることのできる目合いまたは強度(破れ易さ)を持たせ、袋体1にも、植物が通ることのできる強度(破れ易さ)を持たせておけばよい。また、筒状部材17の全体を網状にするのではなく、例えば、植物の通芽が必要となる箇所のみを網状とするようにしてあってもよい。
【0057】
また、植生袋A、Bは、一本の長袋状の袋体1のみを加工なくそのまま用いるだけで植物繁殖体を袋体1内の任意の場所へ配置することができる、という効果を有するものであるが、袋体1に何らかの加工を施すようにしてもよいのであり、例えば、植生袋A、Bさらには植生袋Cが、任意のあるいは全ての隣り合う二つの領域8の間に仕切り部を有していてもよい。そのような仕切り部を有する植生袋としては、例えば、図7(A)に示すように、袋体1において領域8の境界となる部分18が縫合されたものや、図7(B)及び(C)に示すように、袋体1において領域8の境界となる部分18に板状やシート状の仕切り部材19が配置されたものを挙げることができる。そして、図7(B)及び(C)に示す例において、仕切り部材19に適宜の剛性あるいは保形性を持たせてあれば、この仕切り部材19を備えた植生袋を法面に設置したときに、所謂小段効果がより強力に得られることになる。
【0058】
上記のように植生袋に仕切り部を設ける場合には、隣接する領域8の間で材料3、4や植生対象とする植物繁殖体が移動することを効果的に防止可能となるため、例えば、植物繁殖体を含まない材料4として、植生対象とする植物繁殖体の生育を邪魔しない範囲で、植物繁殖体を含む材料3とは性状の大きく異なる材料(例えば貝殻、蟹殻、果実屑等の農水産廃物、ウッドチップ、製紙スラッジなど)を用いることもできる。逆に、仕切り部を設けない場合は、各領域8を構成する材料の性状を少なくとも近似させておくことが、植生袋の搬送中等における各領域8の材料等の移動(混合)を防止する上で望ましい。
【0059】
上記各変形を、適宜に組み合わせて行ってもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 袋体
2 種子
3 材料
4 材料
8 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生対象として含む植物繁殖体の種類の相違または前記植物繁殖体の有無により区別される2パターン以上の領域が袋体内において該袋体の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体内に前記植物繁殖体及び材料を充填し、所定の領域に特定種の植物繁殖体を含ませ、前記所定の領域に隣接する他の領域に前記特定種の植物繁殖体を含ませないようにしてあることを特徴とする植生袋。
【請求項2】
前記他の領域は、前記植物繁殖体を含まないか、または前記特定種以外の植物繁殖体を含む請求項1に記載の植生袋。
【請求項3】
前記植物繁殖体を含む領域と、前記植物繁殖体を含まない領域とが交互に並ぶようにしてある請求項1に記載の植生袋。
【請求項4】
シート状体と、該シート状体に装着される請求項1〜3の何れか一項に記載の植生袋とを備えた植生マットであって、複数の前記植生袋が略ストライプ状に並ぶ状態となるように前記シート状体に装着されることを特徴とする植生マット。
【請求項5】
植生対象として含む植物繁殖体の種類の相違または前記植物繁殖体の有無により区別される2パターン以上の領域が袋体内において該袋体の最奥部側から所定の順序で並ぶように前記袋体内に前記植物繁殖体及び材料を充填し、所定の領域に特定種の植物繁殖体を含ませ、前記所定の領域に隣接する他の領域に前記特定種の植物繁殖体を含ませないことを特徴とする植生袋の製造方法。
【請求項6】
前記他の領域に、前記植物繁殖体を含ませないか、または前記特定種以外の植物繁殖体を含ませる請求項5に記載の植生袋の製造方法。
【請求項7】
前記植物繁殖体を含む領域と、前記植物繁殖体を含まない領域とを交互に並べる請求項5に記載の植生袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237179(P2012−237179A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108524(P2011−108524)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】