説明

椎間板変性症の治療

本出願は、椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、哺乳動物の結合組織細胞を該椎間板欠損部位の中に注入することを含む、方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎間板変性症の予防又は遅延(retardation)に関する。本出願は、椎間板変性症を予防する又は遅延させることによる、変性した椎間板の治療にも関する。本発明は、損傷した椎間板領域の中への導入のための軟骨細胞を使用して椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法にも関する。本発明は、哺乳動物宿主における椎間板の変性の予防又は遅延における使用のために、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする少なくとも1つの遺伝子を少なくとも1つの哺乳動物の結合組織細胞の中に導入する方法にも関する。本発明は、損傷した椎間板領域の中に、軟骨細胞と、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子を含有する結合組織細胞との混合物を使用して椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法にも関する。
【発明の概要】
【0002】
一態様では、本発明は、椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、哺乳動物の結合組織細胞を椎間板欠損部位の中に注入することを含む、方法を対象とする。本プロセスは好ましくは、細胞のための骨格構造又はいかなる支持構造も使用しない。好ましくは軟骨細胞又は線維芽細胞が使用され、被験体は好ましくは人間である。軟骨細胞が使用されている場合、該軟骨細胞は好ましくは、非椎間板軟骨細胞、又は細胞が2歳未満の小児から単離されていることを意味する幼若軟骨細胞である。他の態様では、軟骨細胞は、プライミングした軟骨細胞であり得る。特に、結合組織細胞は、治療しようとする哺乳動物被験体に対して同種であり得る。
【0003】
一態様では、本発明は、損傷した椎間板領域の中への導入のための同種幼若軟骨細胞又は同種非椎間板軟骨細胞を使用して椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法に関する。
【0004】
一態様では、本発明は、損傷した、断裂した、又はヘルニア状態となった椎間板における領域のさらなる変性を予防する又は遅延させるために使用される。
【0005】
別の態様では、本発明は、哺乳動物の椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、a)椎間板再生機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を哺乳動物細胞の中に挿入すること、及びb)哺乳動物の結合組織細胞を椎間板欠損部位の中に移植することを含む、方法を対象とする。本プロセスは好ましくは、細胞のための骨格構造又はいかなる支持構造も使用しない。この方法では、遺伝子は、TGF−βスーパーファミリーに属していてもよく、例えばTGF−β、好ましくはTGF−β1である。結合組織細胞は軟骨細胞又は線維芽細胞であり得る。より好ましくは軟骨細胞が使用され、哺乳動物被験体は好ましくは人間である。結合組織細胞は、哺乳動物被験体に対して同種であり得る。
【0006】
さらに別の態様では、本発明は、哺乳動物の椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、a)椎間板再生機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を第1の哺乳動物の結合組織細胞の中に挿入すること、及びb)a)の哺乳動物の結合組織細胞と未改変の第2の哺乳動物の結合組織細胞との混合物を椎間板欠損部位の中に移植することを含む、方法を対象とする。本プロセスは好ましくは、細胞のための骨格構造又はいかなる支持構造も使用しない。この方法では、遺伝子は、TGF−βスーパーファミリーに属していてもよく、例えばTGF−β、好ましくはTGF−β1である。第1の哺乳動物の結合組織細胞及び第2の哺乳動物の結合組織細胞は、軟骨細胞又は線維芽細胞であり得る。軟骨細胞の場合には、該軟骨細胞は非椎間板軟骨細胞又は幼若軟骨細胞であり得る。特に、第2の哺乳動物の結合組織細胞に関する軟骨細胞は、プライミングした軟骨細胞であり得る。別の態様では、第1の結合組織細胞又は第2の結合組織細胞のいずれか又は両方は、哺乳動物被験体に対して又は相互に対して、同種であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3には穿刺及び処理は見られず、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図1−2】(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。混合細胞での処理は特に、椎間変性抑制効果を有する。
【図2−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3には穿刺及び処理は見られず、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図2−2】(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。混合細胞での処理は特に、椎間変性抑制効果を有する。
【図3−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図3−2】(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。混合細胞での処理は特に、椎間変性抑制効果を有する。
【図4−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図4−2】(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。TGF−β1産生軟骨細胞での処理は特に、椎間変性抑制効果を有する。
【図5−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図5−2】(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。TGF−β1産生軟骨細胞での処理及び混合細胞での処理は特に、椎間変性抑制効果を有する。
【図6−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図6−2】(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。非形質導入軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。
【図7−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。
【図7−2】(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。非形質導入軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。
【図8−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)T12/L1の椎間板を針穿刺により損傷させて注入は行わず、(ii)脊椎位置L1/2は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L2/3の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、T12/L1及びL2/3の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)T12/L1の椎間板を針穿刺により損傷させて注入は行わず、(ii)脊椎位置L1/2は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L2/3の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、T12/L1及びL2/3の椎間板領域を指す。
【図8−2】(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。非形質導入軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。
【図9−1】損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す図である。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L2/3の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L3/4は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L4/5の椎間板を損傷させてプライミングした軟骨細胞を注入した。矢印は、L2/3及びL4/5の椎間板領域を指す。
【図9−2】(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。プライミングした軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で使用する場合、核酸、タンパク質、タンパク質断片又はその誘導体に関する「生物学的に活性な」という用語は、核酸又はアミノ酸配列の、核酸又はタンパク質の野生型形態により誘発される既知の生物学的機能を模倣する能力と定義される。
【0009】
本明細書で使用する場合の「結合組織」という用語は、他の組織又は器官を結合及び支持する任意の組織であり、哺乳動物宿主の靭帯、軟骨、腱、骨及び滑膜を含むがこれらに限定されない。
【0010】
本明細書で使用する場合の「結合組織細胞」又は「結合組織の細胞」という用語は、結合組織において見出される細胞、例えば線維芽細胞、軟骨細胞(cartilage cells)(軟骨細胞(chondrocytes))、及び骨細胞(bone cells)(骨芽細胞/骨細胞(osteocytes))(コラーゲン性細胞外マトリクスを分泌する)、並びに脂肪細胞(fatcells)(脂肪細胞(adipocytes))及び平滑筋細胞を含む。好ましくは、結合組織細胞は、線維芽細胞、軟骨細胞又は骨細胞である。より好ましくは、結合組織細胞は軟骨細胞(chondrocytescells)である。結合組織細胞の混合培養物、及び単一種の細胞により、本発明を実施することができることが理解されよう。作用因子により、例えば化学物質又は放射線により、細胞が対象の遺伝子、好ましくはTGF−β1を安定に発現するように組織細胞を処理することができることも理解される。結合組織細胞は、宿主生物の中に注入した場合、負の免疫応答を引き起こさないことが好ましい。この観点から、細胞媒介遺伝子療法又は体細胞療法のために、自己細胞と同様に同種細胞が使用され得ることが理解される。
【0011】
本明細書で使用する場合の「結合組織細胞株」は、共通の親細胞に由来する複数の結合組織細胞を含む。
【0012】
本明細書で使用する場合の「硝子軟骨」は、関節表面を覆う結合組織を表す。例示目的のためにのみ示すが、硝子軟骨は、関節の軟骨、肋骨の軟骨、及び鼻の軟骨を含むがこれらに限定されない。
【0013】
特に硝子軟骨は、自己再生し、変化に応答し、摩擦の少ない安定な動きをもたらすことが知られている。同じ関節内で又は関節間で見出される硝子軟骨でさえも厚み、細胞密度、マトリクス組成及び機械的特性が異なっているが、同じ全般的な構造及び機能を保持している。硝子軟骨の機能の幾つかは、圧縮に対する驚くべき剛性、弾性、重量負荷を分配する特別な能力、軟骨下骨に対するピーク応力を最小化する能力、及び高い耐久性を含む。
【0014】
肉眼的にも組織学的にも、硝子軟骨は、変形に対する抵抗性を有する、滑らかで堅固な表面のように見える。軟骨の細胞外マトリクスは軟骨細胞を含むが、血管、リンパ管又は神経を欠く。軟骨細胞とマトリクスとの間の相互作用を維持する精巧な高次構造は、代謝活性を低レベルに維持しつつ、硝子軟骨の構造及び機能を維持する役割を果たす。文献(O'Driscoll, J. Bone Joint Surg.,80A: 1795-1812, 1998)では硝子軟骨の構造及び機能が詳細に説明されており、この文献の全体が参照により本明細書に援用される。
【0015】
本明細書で使用する場合の「注入可能(injectable)」組成物は、細胞が接着することができ、2つ以上の層中で細胞が増殖することができる任意の材料又は形状から構成され得る様々な三次元骨格、フレームワーク、メッシュ又はフェルト構造であって、一般的に注入されずに移植される構造を含まない組成物を表す。一実施形態では、本発明の注入方法は、典型的にはシリンジにより実施される。しかしながら、対象の組成物を注入する任意の様式を使用することができる。例えばカテーテル、噴霧器又は温度依存性ポリマーゲルも使用することができる。
【0016】
本明細書で使用する場合の「幼若軟骨細胞(juvenile chondrocyte)」は、2歳未満の人間から取得される軟骨細胞を表す。典型的には軟骨細胞は、好ましくは、身体の末端、例えば指、鼻、耳垂等の硝子軟骨領域から取得される。幼若軟骨細胞は、欠損又は損傷した椎間板の同種治療のためのドナー軟骨細胞として使用することができる。
【0017】
本明細書で使用する場合の「哺乳動物宿主」という用語は、人間を含むがこれに限定されない動物界のメンバーを含む。
【0018】
本明細書で使用する場合の「混合細胞」又は「細胞の混合物」又は「細胞混合物」は、対象の遺伝子で形質移入又は形質導入した第1の細胞集団、及び形質導入していない第2の細胞集団を含む複数の細胞の組合せを表す。
【0019】
本発明の一実施形態では、混合細胞は、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子又はDNAで形質移入又は形質導入した細胞、及びトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入又は形質導入していない細胞を含む複数の結合組織細胞の組合せを表し得る。典型的には、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入又は形質導入していない細胞とTGFスーパーファミリーの遺伝子で形質移入又は形質導入した細胞との比は、約3〜20対1の範囲であり得る。この範囲は、約3〜10対1を含み得る。特にこの範囲は、細胞数単位で約10対1であり得る。しかしながら、これらの細胞の比は、これらの細胞の組合せが欠損した椎間板の変性を緩徐化すること又は遅延させることにより損傷した椎間板を治療するのに効果的である限りは、任意の特定の範囲に必ずしも固定する必要がないことが理解される。
【0020】
本明細書で使用する場合の「非椎間板軟骨細胞(non-disc chondrocyte)」は、椎間板軟骨組織以外の身体の任意の部分から単離される軟骨細胞を表す。本発明の非椎間板軟骨細胞は、欠損又は損傷した椎間板を治療するために、患者への同種移植又は注入のために使用することができる。
【0021】
本明細書で使用する場合の「患者」という用語は、人間を含むがこれに限定されない動物界のメンバーを含む。
【0022】
本明細書で使用する場合の「プライミングした(primed)」細胞という用語は、或る特定の遺伝子を発現するように活性化した又は変化させた細胞を表す。
【0023】
本明細書で使用する場合の椎間板変性症の「緩徐化」又は「予防」は、所定の時間にわたり通常の変性を引き起こす損傷部位で通常見出される体積又は高さのレベルと比較した、長期にわたる(over time)椎間板の体積又は椎間板の高さの保持を表す。これは、所定の時間で通常予想される変性レベルと比較した、例えば約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の体積若しくは高さの増大の百分率を意味し得るか、又はその位置での椎間板の体積若しくは高さの損傷若しくは喪失の減少を意味し得る。
【0024】
本明細書で使用する場合の「トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリー」は、胚発生時に広範な分化プロセスに影響を及ぼす構造的に関連するタンパク質の群を包含する。このファミリーは、正常な雄性発生に必要とされるミュラー管抑制物質(MIS)(Behringer, et al., Nature, 345:167, 1990)、背腹軸形成及び成虫原基の形態発生に必要とされるショウジョウバエ(Drosophila)デカペンタプレジック(DPP)遺伝子産物(Padgett,et al., Nature, 325:81-84, 1987)、卵の植物極に局在するツメガエル(Xenopus)Vg−1遺伝子産物(Weeks,et al., Cell, 51:861-867, 1987)、ツメガエル胚における中胚葉及び前構造の形成を誘発することができる(Thomsen, etal., Cell, 63:485, 1990)アクチビン(Mason, et al., Biochem, Biophys. Res. Commun.,135:957-964, 1986)、新規の軟骨及び骨形成を誘発することができる骨形成タンパク質(BMP、例えばBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6及びBMP−7、オステオゲニン(osteogenin)、OP−1)(Sampath,et al., J. Biol. Chem., 265:13198, 1990)を含む。TGF−β遺伝子産物は、脂肪生成、筋形成、軟骨形成、造血及び上皮細胞分化を含む様々な分化プロセスに影響を及ぼすことができる(総説として、Massague,Cell 49:437, 1987を参照されたい)(その全体が参照により本明細書に援用される)。
【0025】
TGF−βファミリーのタンパク質は最初に大きな前駆体タンパク質として合成され、引き続きC末端からおよそ110〜140アミノ酸の塩基性残基のクラスターでタンパク質切断を受ける。タンパク質のC末端領域は全て構造的に関連しており、種々のファミリーのメンバーをそれらの相同性の程度に基づき相異なるサブグループへと分類することができる。特定のサブグループ内の相同性は70%〜90%のアミノ酸配列同一性の範囲であるが、サブグループ間の相同性は有意に低く、概して20%〜50%の範囲にすぎない。各々の場合に、活性種は、C末端断片のジスルフィド結合した二量体であると考えられる。研究されているファミリーのメンバーのほとんどに関して、ホモ二量体種が生物学的に活性であることが見出されているが、インヒビン(Ung, et al., Nature, 321:779, 1986)及びTGF−β(Cheifetz, et al., Cell, 48:409,1987)等の他のファミリーのメンバーに関しては、ヘテロ二量体も検出されており、これらはそれぞれのホモ二量体とは異なる生物学的特性を有すると考えられる。
【0026】
TGF−β遺伝子のスーパーファミリーのメンバーは、TGF−β3、TGF−β2、TGF−β4(ニワトリ)、TGF−β1、TGF−β5(ツメガエル)、BMP−2、BMP−4、ショウジョウバエDPP、BMP−5、BMP−6、Vgr1、OP−1/BMP−7、ショウジョウバエ60A、GDF−1、ツメガエルVgf、BMP−3、インヒビン−βA、インヒビン−βB、インヒビン−α及びMISを含む。これらの遺伝子は、Massague, Ann. Rev. Biochem. 67:753-791, 1998において論じられており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0027】
好ましくは、TGF−β遺伝子のスーパーファミリーのメンバーは、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6又はBMP−7である。
【0028】
椎間板
椎間板は、脊柱の長さの4分の1を構成する。環椎(C1)、軸椎(C2)及び尾骨の間には椎間板は存在しない。椎間板は血管を有しないため、必要な栄養素を拡散するのには終板に依存している。終板の軟骨層は、所定の位置で椎間板を固定している。
【0029】
椎間板は、椎骨、脳、及び他の構造(すなわち神経)を保護する脊椎の衝撃吸収システムの役割を果たす線維軟骨のクッションである。椎間板は、或る程度の椎骨の動き(伸長及び屈曲)を可能にする。個々の椎間板の動きは非常に限定的であるが、複数の椎間板が力を合わせると、かなりの動きが可能である。
【0030】
椎間板は、線維輪及び髄核から構成されている。線維輪は、ラメラ、すなわち椎骨の終板と連結されたコラーゲン繊維の同心性シートから構成される強力なラジアルタイヤ様構造である。シートは、様々な角度に方向づけられている。線維輪は、髄核を囲い込む。
【0031】
線維輪及び髄核の両方が水、コラーゲン及びプロテオグリカン(PG)から構成されているが、流体(水及びPG)の量は、髄核中で最大である。PG分子は、水を引き付けて保持するため重要である。髄核は、圧縮に抵抗性を有する水和したゲル様物質を含有する。髄核中の水の量は、活動に応じて一日を通して変化する。老化に伴い、髄核は脱水し始め、これによってその衝撃を吸収する能力が制限される。線維輪は老化に伴い弱くなり、断裂し始める。人によってはこれらによる疼痛が生じない場合があるが、人によってはこれらの一方又は両方により慢性的な疼痛が生じる場合がある。
【0032】
脱水した髄核が衝撃を吸収する能力がないことによる疼痛は、軸性疼痛(axial pain)又は椎間腔痛(disc space pain)と呼ばれる。概して、髄核の漸次的脱水を椎間板変性症と称する。損傷又は老化プロセスにより線維輪が断裂すると、髄核は裂け目を通じて突出し始めることがある。これは、椎間板ヘルニアと呼ばれる。各椎間板の背部側近くで、脊椎に沿って、主要な脊髄神経が種々の器官、組織、四肢等へ広がっている。ヘルニア状態の椎間板がこれらの神経を圧迫し(神経が挟まれ)、放散痛、痺れ、刺痛、及び動きの強度及び/又は範囲の減少を引き起こすことは、非常によく知られている。加えて、炎症性タンパク質を含有する内部の髄核ゲルと神経との接触により、顕著な疼痛が引き起こされることもある。神経関連の疼痛は、神経根痛と呼ばれる。
【0033】
ヘルニア状態の椎間板には様々な呼び名があり、これらは異なる医療専門家により異なる内容を意味し得る。椎間板の脱出(slipped disc)、椎間板の破裂(ruptured disc)、又は椎間板の隆起(bulging disc)は全て、同じ医学的状態を表し得る。隣接した椎骨中への椎間板の突出は、シュモール結節として知られている。
【0034】
プライミング細胞療法
本発明は、プライミングした細胞を哺乳動物における椎間板領域に投与することであって、椎間板の変性を予防する又は遅延させることにより損傷した椎間板を治療する、投与することを包含する。プライミングした細胞は典型的には結合組織細胞であり、軟骨細胞又は線維芽細胞を含む。
【0035】
例えば、初代軟骨細胞の集団を約3回又は4回継代すると、その形態は、典型的には線維芽細胞性軟骨細胞(fibroblastic chondrocytes)に変化する。初代軟骨細胞は、継代するにつれて、幾つかの軟骨細胞性特徴を喪失し始め、線維芽細胞性軟骨細胞の特徴を取得し始める。これらの線維芽細胞性軟骨細胞をTGF−βスーパーファミリー由来のタンパク質等のサイトカインと共にインキュベートすなわち「プライミング」すると、細胞は、コラーゲンの産生を含む軟骨細胞としての特徴を再び獲得する。
【0036】
かかるプライミングした細胞は、TGFβ1と共にインキュベートし、その結果コラーゲン産生軟骨細胞に復帰した線維芽細胞性軟骨細胞を含む。椎間板変性症の遅延においてプライミングした細胞を使用することの利点は、コラーゲンの産生及びそれ以外にも軟骨マトリクスの維持のための、椎間板の中への導入に使用可能な軟骨細胞を創出することが容易であることである。
【0037】
細胞は、初代細胞、又は約1回〜20回継代された細胞を含み得るがこれらに限定されない。細胞は、結合組織細胞であり得る。細胞は、形態形成上の変化を受けた細胞であって、プライミングにより元の細胞の特徴への復帰が引き起こされる、細胞を含み得る。細胞は、軟骨細胞、線維芽細胞又は線維芽細胞性軟骨細胞を含み得るがこれらに限定されない。プライミングは、細胞をサイトカインと共に少なくとも40時間、又は1時間〜40時間、2時間〜30時間、3時間〜25時間、4時間〜20時間、5時間〜20時間、6時間〜18時間、7時間〜17時間、8時間〜15時間、若しくは9時間〜14時間の期間インキュベートすること、その後必要に応じてサイトカインを細胞から分離すること、及び軟骨、好ましくは硝子軟骨を再生するためにプライミングした細胞を対象の軟骨欠損部位の中に注入することにより起こすことができる。一態様では、サイトカインは、TGF−βのスーパーファミリーのメンバーであり得る。特に、サイトカインは、TGF−β、特にTGF−β1であり得る。
【0038】
サイトカインは、椎間治療方法に有用であるように軟骨細胞を十分に「プライミングする」量で、プライミングインキュベーションミックス中に存在していてもよい。この態様では、プライミングインキュベーションミックスは、少なくとも約1ng/mlのサイトカインを含有し得る。特に、プライミングインキュベーションミックスは、約1ng/ml〜1000ng/ml、約1ng/ml〜750ng/ml、約1ng/ml〜500ng/ml、約1ng/ml〜400ng/ml、約1ng/ml〜300ng/ml、約1ng/ml〜250ng/ml、約1ng/ml〜200ng/ml、約1ng/ml〜150ng/ml、約1ng/ml〜100ng/ml、約1ng/ml〜75ng/ml、約1ng/ml〜50ng/ml、約10ng/ml〜500ng/ml、約10ng/ml〜400ng/ml、約10ng/ml〜300ng/ml、約10ng/ml〜250ng/ml、約10ng/ml〜200ng/ml、約10ng/ml〜150ng/ml、約10ng/ml〜100ng/ml、約10ng/ml〜75ng/ml、約10ng/ml〜50ng/ml、約15ng/ml〜500ng/ml、約15ng/ml〜400ng/ml、約15ng/ml〜300ng/ml、約15ng/ml〜250ng/ml、約15ng/ml〜200ng/ml、約15ng/ml〜150ng/ml、約15ng/ml〜100ng/ml、約15ng/ml〜75ng/ml、約15ng/ml〜50ng/ml、約20ng/ml〜500ng/ml、約20ng/ml〜400ng/ml、約20ng/ml〜300ng/ml、約20ng/ml〜250ng/ml、約20ng/ml〜200ng/ml、約20ng/ml〜150ng/ml、約20ng/ml〜100ng/ml、約20ng/ml〜75ng/ml、約20ng/ml〜50ng/ml、約25ng/ml〜500ng/ml、約25ng/ml〜400ng/ml、約25ng/ml〜300ng/ml、約25ng/ml〜250ng/ml、約25ng/ml〜200ng/ml、約25ng/ml〜150ng/ml、約25ng/ml〜100ng/ml、約25ng/ml〜75ng/ml、約25ng/ml〜50ng/ml、約30ng/ml〜500ng/ml、約30ng/ml〜400ng/ml、約30ng/ml〜300ng/ml、約30ng/ml〜250ng/ml、約30ng/ml〜200ng/ml、約30ng/ml〜150ng/ml、約30ng/ml〜100ng/ml、約30ng/ml〜75ng/ml、約30ng/ml〜50ng/ml、約35ng/ml〜500ng/ml、約35ng/ml〜400ng/ml、約35ng/ml〜300ng/ml、約35ng/ml〜250ng/ml、約35ng/ml〜200ng/ml、約35ng/ml〜150ng/ml、約35ng/ml〜100ng/ml、約35ng/ml〜75ng/ml、約35ng/ml〜50ng/ml、約40ng/ml〜500ng/ml、約40ng/ml〜400ng/ml、約40ng/ml〜300ng/ml、約40ng/ml〜250ng/ml、約40ng/ml〜200ng/ml、約40ng/ml〜150ng/ml、約40ng/ml〜100ng/ml、約40ng/ml〜75ng/ml、又は約40ng/ml〜50ng/mlを含有し得る。
【0039】
本発明を実施する一方法は、細胞をサイトカインと共に或る特定の長さの時間インキュベートすることであって、プライミングした細胞を創出する、インキュベートすること、必要に応じてサイトカインを細胞から分離すること、及びプライミングした細胞を椎間板又はその近くの対象の部位の中に注入することを含み得る。代替的には、細胞は、対象のサイトカインと共に一定時間インキュベートすることができ、サイトカインとの分離を行わずに組合せを欠損部位に投与することができる。
【0040】
本発明のプライミング細胞療法プロトコルにおいて骨格又はフレームワーク等の物質及び様々な外来性組織を共に移植することができることが考えられ得るが、かかる骨格又は組織が本発明の注入システムに含まれないことも考えられ得ることを理解すべきである。好ましい一実施形態では、本発明の体細胞療法において本発明は、プライミングした結合組織細胞の集団を椎間板腔に注入する単純な方法を対象とする。
【0041】
ヒト患者を治療するための細胞の供給源は、患者自身の結合組織細胞、例えば自己線維芽細胞又は自己軟骨細胞であり得るが、細胞の組織適合性を問わず同種細胞及び異種細胞も使用することができることを、当業者は理解するであろう。代替的には、本発明の一実施形態では、哺乳動物宿主と合致する組織適合性を有する同種細胞を使用することができる。さらに詳細に説明すると、ドナーと患者との組織適合性を決定し、それにより組織適合性を有する細胞を哺乳動物宿主に投与する。また、幼若軟骨細胞は、ドナーと患者との組織適合性を必ずしも決定することなく同種的に(allogeneically)使用することもできる。
【0042】
遺伝子送達
一態様では、本発明は、対象のDNA配列を哺乳動物宿主の結合組織細胞に送達するex vivo及びin vivoでの技法を開示する。ex vivoの技法は、対象の遺伝子産物のin vivoでの発現を達成するための、標的結合組織細胞の培養、対象のDNA配列、DNAベクター又は他の送達媒体のin vitroでの結合組織細胞の中への形質移入、その後の改変した結合組織細胞の哺乳動物宿主の標的領域への移植を伴う。
【0043】
本発明のプロトコルにおいて骨格又はフレームワーク等の物質及び様々な外来性組織を共に移植することができることが考えられ得るが、かかる骨格又は組織が本発明の注入システムに含まれないことが好ましいことを理解すべきである。一実施形態では、本発明は、外来のTGFスーパーファミリーのタンパク質が椎間板腔中で発現される又は活性を有するように、TGFスーパーファミリーのタンパク質、又は培養した、形質移入/形質導入していない、若しくは形質移入/形質導入した結合組織細胞の集団、又はそれらの混合物を椎間板腔に注入する単純な方法を対象とする。
【0044】
ヒト患者を治療するための細胞の供給源の1つは、患者自身の結合組織細胞、例えば自己軟骨細胞であることを、当業者は理解するであろう。別の細胞の供給源は、治療しようとする患者との細胞の組織適合性を問わず、同種細胞を含む。
【0045】
より具体的には、この方法は、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバー、又は生物学的に活性なその誘導体若しくは断片である遺伝子産物を利用することを含む。
【0046】
本発明の別の実施形態では、TGF−βスーパーファミリーのタンパク質及び好適な医薬担体を含有する、治療的有効量での患者への非経口投与のための化合物が提供される。
【0047】
本発明の別の実施形態は、TGF−βスーパーファミリーのタンパク質及び好適な医薬担体を含む、予防的有効量での患者への非経口投与のための化合物を提供する。
【0048】
治療上の用途において、TGF−βタンパク質は、局所投与用に製剤化することができる。技法及び配合物は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton,Pa., latest editionにおいて包括的に見出すことができる。TGFタンパク質である活性成分は、一般的に、投与様式及び投与形態の性質に応じて、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、侵食性(erodable)ポリマー又は滑剤を含み得る添加物の希釈剤等の担体と組み合わされる。典型的な投与形態は、粉末、懸濁液、乳化液及び溶液を含む液体調製物、顆粒並びにカプセルを含む。
【0049】
本発明のTGFタンパク質は、被験体への投与のために医薬品として許容可能な担体と組み合わせることもできる。好適な医薬担体の例は、様々な陽イオン性脂質であり、N−(1−2,3−ジオレイルオキシ)プロピル)−n,n,n−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)及びジオレオイルホスファチジル(dioleoylphophotidyl)エタノールアミン(DOPE)を含むがこれらに限定されない。リポソームも、本発明のTGFタンパク質分子にとって好適な担体である。別の好適な担体は、TGFタンパク質分子を含む持続放出ゲル又は持続放出ポリマーである。
【0050】
TGFβタンパク質は、或る量の生理学的に許容可能な担体又は希釈剤、例えば生理食塩水又は他の好適な液体と混合することができる。TGFタンパク質分子は、TGFタンパク質及びその生物学的活性形態が標的に到達するまで及び/又はTGFタンパク質若しくはその生物学的活性形態の組織障壁を横切る動きを促進するまで、TGFタンパク質及びその生物学的活性形態を分解から保護する、他の担体手段と組み合わせることもできる。
【0051】
本発明のさらなる実施形態は、結合組織細胞を移動させる前に該細胞を保存することを含む。当業者は、結合組織細胞を液体窒素において10%DMSO中で凍結保存することができることを理解するだろう。
【0052】
本出願では、BMP−2並びにTGF−β1、TGF−β2及びTGF−β3を含むがこれらに限定されないトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入又は形質導入した適当な哺乳動物細胞を注入することにより椎間板の変性を再生又は予防する方法が提供される。
【0053】
本出願の別の実施形態では、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入若しくは形質導入していない、又は任意の他の遺伝子で形質移入若しくは形質導入していない適当な哺乳動物細胞を注入することにより椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法が提供される。別の態様では、本発明は、上で説明した方法を使用することによって椎間板の変性を予防する又は遅延させることにより損傷又は変性した椎間板を治療することを対象とする。
【0054】
本出願の別の実施形態では、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入又は形質導入した適当な哺乳動物細胞を注入することにより椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法が提供される。別の態様では、本発明は、上で説明した方法を使用することによって椎間板の変性を予防する又は遅延させることにより損傷又は変性した椎間板を治療することを対象とする。
【0055】
本発明の別の実施形態では、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入又は形質導入した適当な哺乳動物細胞と、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子で形質移入若しくは形質導入していない、又は任意の他の遺伝子で形質移入若しくは形質導入していない適当な哺乳動物細胞との組合せ又は混合物を注入することにより椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法が提供される。別の態様では、本発明は、上で説明した方法を使用することによって椎間板の変性を予防する又は遅延させることにより損傷又は変性した椎間板を治療することを対象とする。
【0056】
本発明の一実施形態では、細胞を、骨格材料、又は任意の他の補助材料、例えば外来性細胞若しくは他の生体適合性担体を含む又は含まない、上で説明した組成物において、該細胞を使用することにより椎間板の変性を予防しようとする又は遅延させようとする領域の中に注入することができることが理解される。すなわち、改変した細胞を単独で、未改変の細胞を単独で、又はその混合物若しくは組合せを、椎間板の変性を予防しようとする又は遅延させようとする領域の中に注入することができる。
【0057】
以下の実施例を、本発明の限定のためではなく例示のために提供する。
【実施例】
【0058】
実施例I − 材料及び方法
プラスミドの構築
TGF−β1コード配列を含有する1.2−kb Bg1 II断片、及び3’末端の増殖ホルモンポリA部位をpMTMLVのBam HI部位中にサブクローニングすることにより、プラスミドpMTMLVβ1を作製した。pMTMLVベクターは、全gag配列及びenv配列並びに一部のΨパッケージ配列を欠失させることにより、レトロウイルスベクターMFGから得た。
【0059】
細胞培養及び形質導入 − レトロウイルスベクターにおいてクローニングしたTGF−β cDNAを個々に軟骨細胞中に形質導入した(hChon−TGF−β1)。この細胞を、濃度10%のウシ胎児血清を有するダルベッコ変法イーグル培地(GIBCO-BRL、Rockville、MD)中で培養した。
【0060】
形質導入した遺伝子配列を有する細胞を選択するために、ネオマイシン(300μg/ml)を培地中に添加した。TGF−β1発現を有する細胞を時々液体窒素中で保存して注入直前に培養した。
【0061】
pMTMLVβ1及びpVSVGプラスミドDNAを、Fugene形質移入方法によりGP2−293細胞中に同時形質移入した。48時間の培養の後、上清を、0.45μmポリスルホンフィルターにより濾過した。濾過した培養上清をその後10%FBSを加えた培地で2倍希釈し、ヒト軟骨細胞を感染させるのに使用した。感染の18時間前に60mm培養皿に播種したヒト軟骨細胞を、ポリブレン(8μg/ml、Sigma、St. Louis、MO)を加えた濾液で感染させた。4時間のインキュベーションの後、培地を新たな培地に交換した。取っておいたウイルス上清で24時間後に感染を繰り返した。形質導入した細胞を、2回目の感染の48時間後から、10%ウシ胎児血清を含有するダルベッコ変法イーグル培地中で培養した。選択したコロニーを24ウェル又は6ウェルプレートに移し、Quantikine ELISAアッセイキット(R&Dsystem、Minneapolis、MN)を使用してTGF−β1産生を測定した。
【0062】
椎間板高さの放射線写真解析
穿刺後様々な週間隔で、ケタミン塩酸塩(25mg/kg)及びRompun(1mg/kg)の投与後に、放射線写真を取得した。各々の動物の放射線写真撮影時に一定レベルの麻酔を維持するのに、また各々の時点で同程度の筋弛緩を得るのに(これらは椎間板高さに影響を及ぼし得る)、細心の注意を払った。したがって、術前の放射線写真を、常にベースライン測定として使用した。脊椎をわずかに屈曲した位置に維持するようにも尽力した。脊椎の軸回転及びビーム広がり由来の誤差を減少させるために、放射線写真撮影は、側臥位にある各々の動物に対して少なくとも2回繰り返し、ビームをウサギ腸骨稜から4cmに集中させた。放射線写真は、画像取込ソフトウェアを使用してデジタル的にスキャンし、デジタル的に保存した。
【0063】
画像解析
デジタル化した放射線写真を使用して、椎体高さ及びIVD高さを含む測定値を、パブリック・ドメイン画像解析を使用して解析した。データをExcelソフトウェアにトランスポートし、IVD高さはLu et al. "Effects of chondroitinase ABC and chymopapain onspinal motion segment biomechanics. An in vivo biomechanical, radiologic, andhistologic canine study", Spine 1997;22:1828-34の方法を使用してDHIとして表現した。平均IVD高さ(DHI)は、IVDの前方部分、中間部分、及び後方部分から取得した測定値を平均し、それを隣接椎体高さの平均値で除算することにより算出した。注入した椎間板のDHIの変化は、%DHIとして表現し、術前のIVD高さの測定値に対して正規化した(%DHI=術後のDHI/術前のDHI×100)。被験体内標準偏差(Sw)は、以下の式を使用して算出した:
√(Σ(X−X/2n)
【0064】
上式中、Xは第1の測定値であり、Xは第2の測定値であり、n=450である。%変動係数(%CV)は、(Sw/全測定値の平均値×100)として算出した。DHI測定の観察者内誤差は極めて小さいと評価された(Sw:0.001800316;%CV:3.13)。観察者間誤差も、小さいと報告された(Sw:0.003227;%CV:9.6)。
【0065】
MRI評価
本研究では全てのウサギに対して、クワドラチャ四肢コイル受信器を有する0.3−T画像化装置(Airis II、4.0A版;Hitachi Medical System America, Inc.)を使用してMRI試験を行った。屠殺後、周辺軟部組織と共に脊柱を単離し、MRI解析に供した。サジタル面のT2強調セクションを以下の設定において取得した:TR(繰り返し時間)が4000ミリ秒でありTE(エコー時間)が120ミリ秒であるファストスピンエコー系列;256(h)×128(v)マトリクス;視野260;励起4。セクション厚みは2mmであり、ギャップは0mmであった。グレード1〜グレード4の信号強度の程度及び領域の変化に基づく修正トンプソン分類(1=正常、2=極めて小さい信号強度の減少、しかし高信号領域は明らかに狭くなっている、3=信号強度の中程度の減少、及び4=信号強度の重度の減少)を使用して、ブラインド状態の観察者が、MRIを評価した。コーヘンのカッパ相関係数により決定した、2つの評価に基づくMRIグレード評価の観察者内及び観察者間の信頼性の相関係数は、優れていた(それぞれK=0.98、0.90)。
【0066】
実施例II − 実験方法及び結果
損傷した椎間板の変性の予防
ニュージーランド白色雄性ウサギを使用した。開腹外科的技法を使用した。各々の動物において、腰椎における3つの椎間レベル:L2−3、L3−4、L4−5を実験的に処理し、又は対照として観察した。観察するウサギごとに、複数の部位/椎間板でバランスよくレベルに処理を割り当てた。被験体内デザイン、術前術後比較、椎間板レベルにわたる変化を対照として使用した。
【0067】
実施例III
非形質導入軟骨細胞を単独で、TGF−β1産生軟骨細胞を単独で使用する、又は混合細胞(ヒト軟骨細胞及びTGF−β1産生軟骨細胞)の注入による、ウサギにおける損傷した椎間板の変性の予防
実施例I〜実施例Vで使用した軟骨細胞の全ては、2歳未満の小児の指の硝子軟骨部分から取得された非椎間板軟骨細胞であり、幼若軟骨細胞である。
【0068】
腰椎の椎間板において針穿刺を行った。この針穿刺の後、TGF−β1産生軟骨細胞、初代非形質導入ヒト軟骨細胞、TGF−β1産生軟骨細胞と初代非形質導入ヒト軟骨細胞との混合物、プライミングした非形質導入ヒト軟骨細胞、又は担体/培地を注入する。複数の対照を使用する。実験条件を以下の表Iに列挙する。
【0069】
(表1)
外科的前処置 注入処理
針穿刺 TGF−β1産生軟骨細胞(〜細胞数5×10
針穿刺 混合:TGF−β1産生軟骨細胞
初代非形質導入ヒト軟骨細胞(比1:約3 5×10
針穿刺 初代非形質導入ヒト軟骨細胞(〜5×10
針穿刺 プライミングした非形質導入ヒト軟骨細胞(〜5×10) 針穿刺 DMEM
針穿刺 針穿刺のみ−注入なし
穿刺なし 非穿刺非処理対照
【0070】
まとめると、ウサギ又はブタの腰椎の椎間板に針穿刺損傷を作成する。この針穿刺の後、ウサギを4週間放置して治癒させる。その後第2の外科処置手順において、TGF−β1産生軟骨細胞及び/又は初代非形質導入ヒト軟骨細胞(〜5×10)を含む実験的処理組成物を注入し、又は対照条件を観察する(表I)。
【0071】
気管内(endotrachial)挿管と例えばケタミン塩酸塩及びRompun(登録商標)の投与による全身麻酔とを行った後、動物を背臥位に置く。乳酸リンゲル液を約(5ml/kg/時間)で使用する。ベタジンスクラブ及びアルコールワイプを交互に(4回以上)用いて通常の無菌操作で、切開領域を剪毛し、前処理し(prepped)、覆う。無刺激性(Bland)眼科用軟膏を眼に付ける。左後腹膜アプローチを使用して、L2−L5由来の椎間板の右前側面を剥き出しにする(ウサギは6〜7の腰椎を有する)。様々な前処置スキームを使用し、処理スキーマを各々の椎間板レベルに適用する。椎間板の「針穿刺」前処置に関しては、18ゲージ針を使用して5mmの深さで椎間板に穿刺を行う(Aokiet al., "Nerve fiber ingrowth into scar tissue formed following nucleuspulposus extrusion in the rabbit anular-puncture disc degeneration model:effects of depth of puncture." Spine. 2006;31(21):E774-80)。穿刺後、表Iに列挙した試験材料を注入する。処理組成物を、各々のウサギのL1−2、L2−3、L3−4、L4−5領域のいずれか1つに適用する。
【0072】
1ヶ月毎に放射線写真を使用して椎間板変化をモニタリングする。動物を、外科処置の2、8及び24週間後に屠殺する。
【0073】
放射線写真/MRI。他の椎間板レベルの椎間板と比較した、ベースライン(術前)の同一の椎間板からの椎間板高さの増大に関する検出可能な放射線写真の変化により、治癒が示される。他の椎間板は、針穿刺のみの処置の前後で比較し、針穿刺を行わない処置の前後で比較し、経時的な通常の変性の指標を得る。
【0074】
レトロ転写PCR。レトロ転写PCRを行い、生存する形質移入した軟骨細胞(chrondrocytes)の相対量をアッセイする。
【0075】
組織学的検査。I型及びII型コラーゲン及び視覚的外観の特徴づけ、並びに新規軟骨細胞の評価を確認するために、組織学的検査も使用する。
【0076】
ウエスタンブロット解析及び/又はELISA。I型及びII型コラーゲン、並びにプロテオグリカン濃度、Smads2/3、Sox−9の定量的表現。また、入手可能な抗体が存在する場合には、ELISAを使用して、TGFβ−1、BMP2、BMP7、GDF5、及び他の関連する増殖因子を評価する。
【0077】
カスパーゼ(Capase)−3の発現を観察することにより、椎間板の他の組織構造におけるアポトーシスを検証する。
【0078】
実施例IV
結果
結果は、本出願の図及び図の説明に示す通りである。単独の非形質導入軟骨細胞、単独の形質導入した軟骨細胞、単独のプライミングした軟骨細胞、又は形質導入した軟骨細胞と非形質導入軟骨細胞との混合物で処理した穿刺した椎間板により、媒体対照と比較して椎間板変性の予防又は遅延における有益な効果が示される。
【0079】
実施例IV−1 − ウサギにおける穿刺した椎間板の、混合細胞(形質導入した軟骨細胞及び非形質導入軟骨細胞)処理
混合細胞での処理は、ウサギに対して試験すると椎間変性抑制効果を有する。図1〜図4における様々な実験で効果が見られる。図1A〜図1Fは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3には穿刺及び処理は見られず、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0080】
図2A〜図2Fは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3には穿刺及び処理は見られず、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0081】
図3A〜図3Dは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0082】
実施例IV−2 − ウサギにおける穿刺した椎間板の、形質導入した軟骨細胞での処理
TGF−β1産生軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。効果は図4A〜図4Dにおいて見られ、これらの図は損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0083】
実施例IV−3 − ウサギにおける穿刺した椎間板の、形質導入した軟骨細胞での処理及び混合細胞での処理
TGF−β1産生軟骨細胞での処理及び混合細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。効果は図5A〜図5Dにおいて見られ、これらの図は損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞と非形質導入ヒト軟骨細胞との比1:3の混合物を注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させてTGF−β1産生軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0084】
実施例IV−4 − ウサギにおける穿刺した椎間板の、非形質導入軟骨細胞での処理
非形質導入軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。効果は、図6〜図8の様々な実験において見られる。図6A〜図6Dは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0085】
図7A〜図7Fは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L1/2の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L2/3は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L3/4の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、L1/2及びL3/4の椎間板領域を指す。(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0086】
図8A〜図8Fは、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置4週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)T12/L1の椎間板を針穿刺により損傷させて注入は行わず、(ii)脊椎位置L1/2は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L2/3の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、T12/L1及びL2/3の椎間板領域を指す。(C)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)T12/L1の椎間板を針穿刺により損傷させて注入は行わず、(ii)脊椎位置L1/2は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L2/3の椎間板を損傷させて非形質導入軟骨細胞を注入した。矢印は、T12/L1及びL2/3の椎間板領域を指す。(D)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(E)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(F)は、上の(C)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0087】
実施例IV−5 − ウサギにおける穿刺した椎間板の、プライミングした非形質導入軟骨細胞での処理
プライミングした軟骨細胞での処理は、椎間変性抑制効果を有する。効果は、図9A〜図9Dにおいて見られ、これらの図は、損傷した椎間板の変性の緩徐化、遅延又は予防を示す。(A)は、外科処置前のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示す。(B)は、外科処置8週間後のウサギの脊椎のMRI放射線写真を示し、ここで(i)L2/3の椎間板を損傷させて細胞培養培地DMEMを注入し、(ii)脊椎位置L3/4は非穿刺及び非処理対照とし、(iii)L4/5の椎間板を損傷させてプライミングした軟骨細胞を注入した。矢印は、L2/3及びL4/5の椎間板領域を指す。(C)は、上の(A)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の形態、椎間板の変性又は再生のレベルを測定するための椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。(D)は、上の(B)で説明したウサギのX線写真を示し、これは椎間板の椎間板高さ指数を取得するために使用される。
【0088】
実施例V
ヒト軟骨細胞の供給源
初代ヒト軟骨細胞は、1歳の女児のヒトドナー由来の多指症の指の外科的切除から取得した軟骨組織から増殖させた。多指組織は、外科処置室で採取した。軟骨細胞の単離のための以下の手順を、バイオセーフティキャビネットで行った。軟骨組織を収容するプラスチックボトルをアルコールでスワイプし、ピペットを使用して無菌PBS(1X)で軟骨組織を洗浄した。7mgのコラゲナーゼ(Gibco BRL)を10mLのDMEM(10%FBSを含有する)に溶解し、0.2μmシリンジフィルター(Corning)により濾過することにより、コラゲナーゼ溶液を調製した。洗浄した軟骨組織を、37℃の振とうインキュベーターにおいてコラゲナーゼ溶液で17時間〜18時間処理した。翌日ボトルをアルコールで消毒した。コラゲナーゼで処理した材料をピペットで何回か出し入れして、組織塊から遊離の細胞を分離した。ピペッティングの後、70μmナイロン製cell strainer(Falcon)により上清を濾過した。一体性を喪失したコラゲナーゼで処理した組織(例えば遊離の細胞)は、フィルターを通過することができた。細胞濾液を50mLチューブ(Falcon)中に回収し、その後1500rpmで5分間遠心分離した。上清の3分の2を廃棄し、10mlの無菌PBS(1×)でペレットを洗浄した。再懸濁した細胞を再び1500rpmで5分間遠心分離し、上清の3分の2の除去後、10mlの無菌PBS(1×)で洗浄した。細胞を再度1500rpmで5分間遠心分離した後、DMEM(10%FBSを含有する)に再懸濁した。再懸濁した細胞を、その後4本のコーティングされていない25cmのフラスコに移し、5%COを用いて37℃で4日間培養した。細胞をその後2本のコーティングされていない185cmのフラスコ中に移した。細胞を2週間培養し、その後回収し、洗浄し、5:4:1の比でDMEM、FBS及びDMSOを有する凍結保存培地中に再懸濁した。細胞を凍結用バイアル中に分取し、4×10細胞/mLの細胞懸濁液1mLを含有するものとした。細胞を、気相液体窒素貯蔵庫中で保持した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、哺乳動物の結合組織細胞を該椎間板欠損部位の中に注入することを含む、方法。
【請求項2】
結合組織細胞が該哺乳動物に対して同種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が軟骨細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
軟骨細胞が非椎間板軟骨細胞又は幼若軟骨細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
軟骨細胞がプライミングした軟骨細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物の椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、
a)椎間板再生機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を哺乳動物細胞の中に挿入すること、及び
b)哺乳動物の結合組織細胞を該椎間板欠損部位の中に移植することを含む、方法。
【請求項8】
前記遺伝子がTGF−βスーパーファミリーに属する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子がTGF−β1をコードする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
結合組織細胞が該哺乳動物に対して同種である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
結合組織細胞が軟骨細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物がヒトである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物の椎間板欠損部位での椎間板の変性を予防する又は遅延させる方法であって、
a)椎間板再生機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を第1の哺乳動物の結合組織細胞の中に挿入すること、及び
b)a)の哺乳動物の結合組織細胞と未改変の第2の哺乳動物の結合組織細胞との混合物を該椎間板欠損部位の中に移植することを含む、方法。
【請求項14】
前記遺伝子がTGF−βスーパーファミリーに属する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の哺乳動物の結合組織細胞及び前記第2の哺乳動物の結合組織細胞が軟骨細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
軟骨細胞が非椎間板軟骨細胞又は幼若軟骨細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第2の哺乳動物の結合組織に関する軟骨細胞がプライミングした軟骨細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
第1の結合組織細胞又は第2の結合組織細胞が該哺乳動物に対して同種である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
患者における変性又は損傷した椎間板を治療する方法であって、それを必要とする被験体に対して請求項1に記載の方法を利用することを含む、方法。
【請求項20】
患者における変性又は損傷した椎間板を治療する方法であって、それを必要とする被験体に対して請求項7に記載の方法を利用することを含む、方法。
【請求項21】
患者における変性又は損傷した椎間板を治療する方法であって、それを必要とする被験体に対して請求項13に記載の方法を利用することを含む、方法。


【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【公表番号】特表2011−515418(P2011−515418A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501019(P2011−501019)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/037987
【国際公開番号】WO2009/117740
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510252324)ティシュージーン,インク. (2)
【Fターム(参考)】