説明

検出方法および検出システム

【課題】被検出物質を極めて高感度に検出可能な検出方法および検出システムを得る。
【解決手段】センサ14部上に、液体試料中の被検出物質Aの量に応じた量の標識結合物質BFを結合させ、センサ部14への励起光の照射により該センサ部14の表面に生じるエバネッセント場、または光電場増強場において標識Fから生じる光に基づく信号を検出して、被検出物質Aの量を検出する検出方法において、標識結合物質BFを固定層に結合させた後、センサ部14上の流体を、標識結合物質BFと固定層との結合が外れず、かつセンサ部14上に該流体が静的に存在する場合と比較して、信号の信号量が大きく検出される一定の流速で移動させつつ、信号を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検出物質を検出する検出方法、および検出システムに関するものでああり、特に、エバネッセント場あるいは光電場増強場を用いた光信号検出により被検出物質を検出する検出方法、および検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検出物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち被検出物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
バイオ測定においては、例えば、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上に被検出物質と特異的に結合する1次抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより、1次抗体に被検出物質を特異的に結合させ、次いで、被検出物質と特異的に結合する、蛍光標識が付与された2次抗体を添加し、被検出物質と結合させることにより、1次抗体―被検出物質―2次抗体の、所謂サンドイッチを形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出するサンドイッチ法や、被検出物質と競合して1次抗体と特異的に結合する、蛍光標識された競合2次抗体を被検出物質と競合的に1次抗体と結合させ、1次抗体と結合した競合2次抗体からの蛍光を検出する競合法などのアッセイがなされる。
【0004】
この際、基板上に固定された1次抗体と被検出物質を介して結合した2次抗体、あるいは直接結合した競合2次抗体のみからの蛍光を検出するために、エバネッセント光により蛍光を励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、基板表面で全反射する励起光を基板裏面から入射し、基板表面に染み出すエバネッセント波により蛍光を励起してその蛍光を検出するものである。
【0005】
また、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献1、非特許文献1などに提案されている。表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、基板上に金属層を設け、基板と金属層との界面に対して基板裏面から、全反射角以上の角度で励起光を入射し、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/Nを向上させるものである。
【0006】
同様に、エバネッセント蛍光法において、センサ部の電場を増強する効果を有するものとして、導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、基板上に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、基板裏面から全反射角以上の角度で励起光を入射し、この励起光の照射により光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0007】
また、特許文献2および非特許文献3には、表面プラズモンによる増強された電場において励起された蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起して生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)をプリズム側から取り出す方法が提案されている。
【0008】
このように、バイオ測定等においては、被測定物質を検出するための方法として、励起光の照射により、プラズモン共鳴や光導波モードを生じさせ、これらによって増強された電場で蛍光標識を励起させ、その蛍光を直接、あるいは間接的に検出する種々の方法が提案されている。
【0009】
上記したエバネッセント蛍光法で生じるエバネッセント場および増強される電場は、電場発生面からの距離に対して急激に減衰することが知られている。図12は、表面プラズモンによる電場増強効果の増強場発生面(金属面)からの離間距離依存性を示すグラフであり、プリズム(ポリメタクリル酸メチル樹脂;PMMA)上に50nm厚の金膜を設けたセンサ上に溶媒(水)が存在する系とし、励起光(レーザ波長656nm)を、励起入射角72.5°の条件でプリズムと金膜の界面に対して入射させる場合についてのシミュレーション結果である。このグラフから確認されるように、電場のエネルギー増強度は100nm程度の離間で半減する。従って、蛍光標識はできるだけ増強場発生面に近接していることが好ましい。
【0010】
一方、バイオ測定においては、より短時間での測定を可能とすることが望まれており、センサ部上における反応を効率よく生じさせ、測定時間の短縮を図る方法が種々提案されている。例えば、特許文献3には、DNAチップにおける複数の反応工程において、流体と機能性基体を接触させるそれぞれの工程で、それぞれに適した流動速度で流体を流動させる方法が提案されている。また、特許文献4には、マイクロ流路内で流体を超高速する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【特許文献3】国際公開番号WO2004/104584号
【特許文献4】特開2007−101221号公報
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、エバネッセント蛍光法やエバネッセント光の光電場をプラズモン共鳴や光導波モードにより増強してセンサ部近傍からの光信号を検出する場合、エバネッセント波の光電場および表面プラズモン共鳴や光導波モードによる電場増強の効果は、金属層や光導波層表面から離れるに従って急激に減衰する。そのため、表面から標識までの距離が僅かに長くなるだけで、信号量が大きく減少してしまうため、標識をなるべくセンサ部表面に近づけた状態で信号検出を行う必要がある。
【0012】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、標識をセンサ部表面に近づけた状態で信号検出を行うことができる検出方法および検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の検出方法は、液体試料が流下されるマイクロ流路を有する流路部材の該流路内に、励起光の照射により光を生じる標識が付与された標識結合物質と結合する固定層を備えたセンサ部が設けられてなる流路型センサチップを用意し、
前記流路内に液体試料を流下させることにより、被検出物質の量に応じた量の前記標識結合物質を前記固定層に結合させ、
前記センサ部への励起光の照射により該センサ部の表面に生じるエバネッセント場、または光電場増強場において前記標識から生じる光に基づく信号を検出して、前記被検出物質の量を検出する検出方法において、
前記標識結合物質を前記固定層に結合させた後、
前記センサ部上の流体を、前記標識結合物質と前記固定層との結合が外れず、かつ前記センサ部上に該流体が静的に存在する場合と比較して、前記信号の信号量が大きく検出される一定の流速で移動させつつ、前記信号を検出することを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明は、センサ部上の流体を一定の流速で移動させ、センサ部上に層流を生じさせた状態で信号を検出することを特徴とする。
【0015】
なお、ここで「標識結合物質」は被検出物質の量に応じた量だけセンサ部上に結合する、標識が付与された結合物質であり、例えば、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と特異的に結合する結合物質と標識とから構成され、競合法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と競合する結合物質と標識とから構成される。
【0016】
標識は、励起光に対し光応答性を有するものであればよく、励起光の照射により蛍光を生じる蛍光色素分子、蛍光微粒子、量子ドット(半導体微粒子)のみならず、励起光の照射により散乱光を生じる金属微粒子などであってもよい。
【0017】
「被検出物質の量を検出する」とは被検出物質の存在の有無を含み、定量的な量のみならず、定性的な量を含むものとする。
【0018】
また、「光電場増強場」とは、増強された光電場を意味し、光電場を増強させる方法は、プラズモン共鳴によるものであってもよいし、光導波モードの励起によるものであってもよい。
【0019】
また、「前記標識から生じる光に基づく信号を検出」とは、標識から生じる光を直接検出するものであってもよいし、間接的に検出するものであってもよい。
【0020】
前記標識結合物質を前記固定層に結合させた後、前記センサ部上の流体の流速を徐々に上げながら、前記信号を検出することにより、該流速に対する前記信号量の変化率を取得し、該信号量の変化率に基づいて、前記一定の流速を定めることが望ましい。
【0021】
ここで、前記信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となった所定の流速を前記一定の流速と定めることが好ましく、前記信号量の変化率が、0となったときの流速を前記一定の流速と定めることがより好ましい。
【0022】
また、予め取得された、前記標識結合物質と前記固定層との組合せに適する流速を、前記一定の流速と定めるようにしてもよい。
【0023】
本発明の検出システムは、液体試料が流下されるマイクロ流路を有する流路部材の該流路内に、励起光の照射により光を生じる標識が付与された標識結合物質と結合する固定層を備えたセンサ部が設けられてなる流路型センサチップと、
前記センサ部上における流体の流速を制御するポンプと、
前記センサ部に励起光を照射する励起光照射光学系および該センサ部からの光に基づく信号を検出する光検出器を備えた光信号検出装置と、
前記ポンプおよび前記光信号検出装置に接続された信号処理制御部であって、前記センサ部上の流体の、前記標識結合物質と前記固定層との結合が外れず、かつ前記センサ部上において該流体が静的に存在する場合と比較して、前記信号の信号量が大きく検出される一定の流速を定める流速決定手段と、前記センサ部上の流体を該一定の流速で移動させつつ、前記信号を検出するように前記ポンプおよび光信号検出装置を制御する制御手段とを含む信号処理制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0024】
前記制御手段が、前記センサ部上の流体の流速を徐々に上げながら、前記信号を検出することにより、該流速に対する前記信号量の変化率を取得するように、前記ポンプおよび前記光信号検出装置を制御するものであり、前記流速決定手段が、該信号量の変化率に基づいて、前記一定の流速を定めるものであることが望ましい。
【0025】
このとき、前記流速決定手段は、前記信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となった所定の流速を前記一定の流速と定めるものであることが好ましく、前記信号量の変化率が、0となったときの流速を前記一定の流速と定めるものであることがより好ましい。
【0026】
また、前記流速決定手段は、予め取得され、所定の記憶手段に記憶された、前記標識結合物質と前記固定層との組合せに適する流速を、前記一定の流速と定めるものであってもよい。
このとき、標識結合物質と固定層との複数の組合せについて、組合せ毎に適する流速との対応関係を示すテーブルを備え、検出に用いられる前記組合せに応じて、該テーブルに基づいて前記一定の流速を定めてもよい。
【0027】
前記所定の記憶手段は、前記信号処理制御部内に備えられていてもよいし、信号処理制御部外に備えられていてもよい。例えば、前記所定の記憶手段が、前記センサチップの、前記信号の検出に支障のない箇所に設けられたチップ情報部であれば、該チップ情報部から前記適する流速を読み取る情報読取手段を備えればよい。
【0028】
前記センサチップは、前記流路の前記センサ部の上流側に設けられた、該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の前記センサ部の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気口とを備えてなり、前記ポンプが、前記注入口または空気口を利用して、前記センサ部上の流体に流速を与えるものであることが望ましい。
【0029】
前記流路型センサチップに設けられる前記固定層が、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなる層であり、前記蛍光標識結合物質が、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質を含み、前記被検出物質を介して前記第1の結合物質と結合するものであれば、サンドイッチ法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0030】
また、前記固定層が、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなる層であり、前記蛍光標識結合物質は、前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質を含み、前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と結合するものであれば、競合法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0031】
さらに、前記流路内の前記センサ部の流路壁面に金属層が設けられ、該金属層上に前記固定層が設けられていることが好ましい。また、金属層上に光導波層を備え、さらに該光導波層上に前記固定層が設けられていてもよい。なお、前記金属層の材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とすることが望ましい。なおここで、「主成分」は、含量90質量%以上の成分と定義する。また、前記光導波層の材料としては、SiO 、TiO、HfOなどの無機酸化膜、ポリスチレン、PMMAなどの有機ポリマー等が挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の検出方法および検出システムによれば、センサ部上に標識結合物質を結合させた後、センサ部上に流体を一定の流速で移動させることにより、マイクロ流路内に層流が生じ、この層流により、標識結合物質が流れ方向に傾けられるため、センサ部表面により近づけることができる。センサ部表面に標識結合物質を近づけた状態で、標識から生じる光に基づく信号を検出するので、センサ部表面のエバネッセント場または光電場増強場の強い領域を効率よく利用することができるため、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において説明の便宜上、各部の寸法は実際のものとは異ならせている。
【0034】
<第1の実施形態の検出システム>
図1は本発明の第1の実施形態の検出システム1の概略構成を模式的に示す全体図であり、図2A〜図2Cは、それぞれセンサチップ形状を模式的に示す斜視図、側面図および平面図である。
【0035】
本検出システム1は、流路型センサチップ10と、流路型センサチップ10の流路内における流体の流速を制御するポンプ20と、光信号検出装置30と、ポンプ20および光信号検出装置30に接続され、これらを制御する信号処理制御部40とを備えている。本実施形態では、さらに、流路内における流体の流速を測定するための流速測定器25を備えており、また、液体試料や緩衝液を流路内に注入するための分注装置(図1においては分注ノズル28部分のみ図示)を備えている。
【0036】
流路型センサチップ10は、液体試料が流下されるマイクロ流路11を有する流路部材12の該流路11内に、励起光の照射により光を生じる標識Fが付与された標識結合物質Bと結合する固定層13を備えたセンサ部14が設けられてなるものである。
【0037】
流路型センサチップ10の形状は、図2A〜図2Cに示すように、マイクロ流路11を有する流路部材12と、液だめ16a、16bと該液だめの底部に設けられた開口15a、15bとを備えた上板部材17とが、超音波溶接により接続されて構成されている。流路部材12および流路部材17は、ポリスチレン等の透明な誘電体材料からなり、射出成型によりそれぞれ成型することができる。流路サイズは、一例として、流路の幅が2mm、流路の深さが100μm程度である。流路型センサチップ10には、少なくともセンサ部14の上流側および下流側にそれぞれ1つずつ開口(空気口)が流路内の流体の流速を調整するために必要である。本実施形態においては、上流側の開口15aは液体試料を注入する注入口として用いられ、下流側の開口15bにはポンプが接続される。
【0038】
また、本実施形態においては、図1に示すようにセンサチップ10のセンサ部14の最も流路壁面側には金属膜18が設けられており、金属膜18上に自己組織化膜19が設けられ、さらにその自己組織化膜19上に固定層13が設けられている。固定層13は、具体的には、被検出物質(例えば抗原)Aと特異的に結合する第1の結合物質(例えば、1次抗体)Bからなる。なお、本実施形態において、センサ表面とは金属膜表面をいうものとする。金属膜18は、所定領域に開口を有するマスクを流路底面に形成し、既知の蒸着法で成膜形成することができる。金属膜18の厚みは、金属膜18の材料と、励起光の波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることが望ましい。例えば、励起光として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0039】
標識Fは、蛍光分子fと該蛍光分子fを内包する光透過材料16とからなる蛍光物質である。図1の一部に拡大して示すように、複数の蛍光色素分子fが内包されていれば蛍光量を増加させることができるため、より好ましい。なお、蛍光色素分子fが光透過材料16により内包されて金属層と所定以上の距離を保つことができるように構成されていれば、蛍光色素分子fが金属層12に近接した場合に生じる金属消光を防止することができる。材料16としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子fを内包でき、かつ、該蛍光色素分子fからの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。
【0040】
蛍光色素分子が金属層に接近しすぎた場合に生じる消光は、金属へのエネルギー移動に伴うものであり、このエネルギー移動の程度は、金属が半無限の厚さを持つ平面なら距離の3乗に反比例して、金属が無限に薄い平板なら距離の4乗に反比例して、また、金属が微粒子なら距離の6乗に反比例して小さくなる。従って、金属層18と蛍光色素分子fとの間の距離は少なくとも数nm以上、より好ましくは10nm以上確保しておくことが望ましい。
【0041】
蛍光物質Fは、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、ポリスチレン粒子(Estapor社、φ500nm、10%solid、カルボキシル基、製品番号K1―050)を調液して0.1%solid in phosphate(ポリスチレン溶液:pH7.0)を作製する。
次に、蛍光色素(MolecularProbes社、BODIPY―FL―SE、製品番号D2184)0.3mgの酢酸エチル溶液(1mL)を作製する。
上記ポリスチレン溶液と蛍光色素溶液を混合し、エバポレートしながら含浸を行った後、遠心分離(15000rpm、4℃、20分を2回)を行い、上清を除去する。以上の工程により、ポリスチレンにより蛍光色素を内包してなる蛍光物質Fを得ることができる。このような手順で、ポリスチレン粒子に蛍光色素を含浸させて作製された蛍光物質Fの粒径はポリスチレン粒子の粒径と同一(上記例ではφ500nm)となる。
【0042】
本実施形態においては、標識として、蛍光分子fと該蛍光分子fを内包する光透過材料16とからなる蛍光物質を例に挙げているが、本発明において、標識は蛍光物質に限るものではなく、量子ドット、金属微粒子など、励起光の照射により何らかの光(蛍光、散乱光など)を生じる光応答性を有するものであればよい。
【0043】
標識結合物質Bは、被検出物質Aと特異的に結合する第2の結合物質Bであって、標識Fが付与されてなるものである。なお、本実施形態では、サンドイッチアッセイを行う場合を例にあげているが、標識結合物質は、標識が付与された結合物質であり、被検出物質Aを介して、もしくは直接固定層13と結合する結合物質であればよく、競合アッセイを行う場合には、結合物質として、被検出物質Aと競合して固定層13と直接結合する第3の結合物質とすればよい。被検出物質Aが抗原である場合、第1の結合物質Bとして所謂1次抗体を用い、標識結合物質として所謂標識2次抗体を用いればよい。
【0044】
光信号検出装置30は、センサ部14に励起光Loを照射する励起光照射光学系31と、センサ部14からの光に基づく信号を検出する光検出器34とを備えている。本実施形態においては、励起光照射光学系31によって、流路型センサチップ10に対し、金属膜18と流路内壁面との界面に全反射角以上の所定角度で励起光Loを入射させることにより、金属膜表面に表面プラズモンを生じさせ、金属膜表面に染み出したエバネッセント場の光電場を増強させ、この増強された光電場において、蛍光物質から生じる蛍光を流路上方から光検出器で検出するよう構成されている。励起光照射光学系31は、励起光Loを出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源32と、センサチップのセンサ部下方に配置されたプリズム33とを備えている。プリズム33は、流路内壁面と金属膜18との界面で励起光Loが全反射するように励起光Loを導光するものである。なお、プリズム33と流路部材12とは、屈折率マッチングオイルを介して接触されている。光源32は、プリズム33の一面からセンサチップ10の流路ない壁面で励起光Loが全反射角以上で、かつ金属膜で表面プラズモン共鳴する特定の角度で入射するように配置されている。さらに、光源32とプリズム33との間に必要に応じて導光部材を配置してもよい。また、プリズム22と誘電体プレート11とが一体的に形成されていてもよい。なお、励起光Loは、表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射させる。
【0045】
なお、本実施形態においては、励起光Loとして、界面に所定の角度θで入射する平行光を入射するものとしたが、励起光としては、角度θを中心に角度幅Δθを持つファンビーム(集束光)を用いてもよい。ファンビームを用いれば、界面に対して角度θ―Δθ/2〜θ+Δθ/2の範囲の入射角度で入射することになり、金属膜上への試料供給の前後において、金属膜上の媒質の屈折率が変化し、そのために表面プラズモンが生じる共鳴角が変化する場合にも入射角度の調整をすることなく、共鳴角の変化に対応することができる。なお、ファンビームは入射角度による強度変化が少ないフラットな分布を持つものであることがより好ましい。
【0046】
光検出器34としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。なお、光検出器34の受光面の前方には、適宜、波長選択フィルタを備え、所望の光信号(ここでは、蛍光信号)のみを検出できるようにすることが望ましい。
【0047】
信号処理制御部40は、センサ部14上の流体の、標識結合物質Bと固定層13との結合が外れず、かつセンサ部14上において該流体が静的に存在する場合と比較して、信号の信号量が大きく検出される一定の流速を定める流速決定手段42と、センサ部14上の流体を該一定の流速で移動させつつ、信号を検出するようにポンプ20および光信号検出装置30を制御する制御手段44とを含む。具体的にはパーソナルコンピュータなどで構成することができる。なお、光検出器30からの信号はアンプ35により増幅されて信号処理制御部40に入力される。
【0048】
本実施形態においては、信号処理制御部40は、センサ部14上における信号計測に適する流速を決定するために、制御部44により、センサ部14上の流体の流速を徐々に上げながら、信号を検出することにより、該流速に対する前記信号量の変化率を取得するように、ポンプ20および光信号検出装置30を制御し、流速決定手段42により、該信号量の変化率に基づいて、一定の流速を定める。流速決定手段42は、信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となった所定の流速を一定の流速と定めるよう構成されていてもよいし、信号量の変化率が、0となったときの流速を一定の流速と定めるよう構成されていてもよい。
【0049】
流速測定器25は、流路11内の流体の流速を測定するものであり、信号処理制御部40に接続され、モニタしている流速を制御部40に出力する。マイクロ流路内の流速は吸引ポンプの出力(吸引力)から得ることもできるため、流速測定器は必ずしも必要ではないが、より厳密な測定を行うために設置されていることが望ましい。具体的には、レーザ流速計や超音波流速計など既知の測定器を用いることができる。
【0050】
<第1の実施形態の検出方法>
上記検出システム1を用いた本発明の第1の実施形態の検出方法は、上述の流路型センサチップ10を用い、流路11内に液体試料Sを流下させることにより、被検出物質Aの量に応じた量の標識結合物質を固定層に結合させた後、センサ部14への励起光の照射により該センサ部の表面に生じる光電場増強場において標識から生じる光に基づく信号を検出して、被検出物質の量を検出する際に、標識結合物質と固定層との結合が外れず、かつセンサ部上に該流体が静的に存在する場合と比較して、信号の信号量が大きく検出される一定の流速で移動させつつ、信号を検出することを特徴とする。本実施形態においては、信号検出に適する流速を一定の流速として定めた上で、信号検出を行うものである。
【0051】
図1および図2に示した流路型センサチップや、さらに本発明の検出方法および検出システムの流路型センサチップとして利用可能な、電気泳動、化学反応、細胞培養および分離検出などのラボプロセスが集積化されたラボ-オン-ア-チップ(Lab-0n-a-chip:Laboratory on a Chip)やマイクロ-タス(μ-TAS:Micro-Total Analysis Systems)などに設けられるマイクロスケールの流路における流体の流れは生体由来の分析物(血液、尿など)を扱う場合、レイノルズ数(Re)がRe<200と低いため、乱流は生じず層流が支配的となる。
【0052】
層流とは、図3に示すように、マイクロ流路内の流線が壁面に対して平行で、流路中央部で最も流速が早く、流路壁面近傍では摩擦力により流速が小さい流れのことである。層流は流路内で図3に示すような速度分布を持つために、標識物質はずり応力Tを受けて、傾くことになる。その結果、標識物質とセンサ表面間の距離が短くなり、信号が増大する。ずり応力Tは、センサ表面法線方向をz方向、流路内流れ方向の流速をv(z)、粘性係数μとすると、
T=μ・dv(z)/dz
と表される。一般的に流路壁面近傍では壁面からの距離に対して流速が大きく変化するので、上式から大きなずり応力が発生することがわかる。
【0053】
図4は、流体が静的なとき(v=0)と、一定の流速で移動しているとき(v=v)の標識結合物質の状態を模式的に示したものである。ここでは、センサ表面に厚み3nm以下の自己組織化膜を設け、その上に固定層として被検出物質Aと特異的に結合する第1の抗体(長さ10〜50nm)B1が設けられているものとしている。標識結合物質Bは、被検出物質Aと特異的に結合する第2の抗体Bと標識物質Fとを含むものであり、標識物質Fは、蛍光分子fが該蛍光分子fからの蛍光を透過する材料により内包されてなる蛍光物質からなるものとしている。
【0054】
流体が静的なとき、すなわち静止流体内では、標識結合物質は固定層と結合した状態で流体中に浮かんだ状態となっており、標識結合物質とセンサ部表面との距離は標識結合物質や、固定層のサイズによるが、図4に示すような、2つの抗体によって被検出物質である抗原を挟むサンドイッチを形成する場合、30〜100nm程度である。一方、流体が一定の流速で移動しているとき、すなわち層流内では、標識結合物質が固定層と結合した状態でずり応力を受けて傾くことにより、標識物質と固定層との距離を15nm程度まで近づけることができる。なお、ここで、センサ表面から標識物質までの距離は、センサ表面から標識物質表面までの最短距離としている。
【0055】
図5は、標識物質として図4で示すような蛍光物質を用いたときの、該蛍光物質とセンサ表面との距離と蛍光信号量比の関係を示した図である。なお、図5は、多層膜近似シミュレーションによって得られた計算値であり、プリズム(ポリメタクリル酸メチル樹脂;PMMA)上に50nm厚の金膜を設けたセンサ上に溶媒(水)が存在する系とし、直径310nmの球状の蛍光物質を標識として用い、励起光(レーザ波長656nm)を、励起入射角72.5°の条件でプリズムと金膜の界面に対して入射させる場合についてのシミュレーション結果である。ここで、蛍光物質がセンサ表面に接した距離ゼロの時の蛍光信号量を1としている。
【0056】
既述の通り、静止流体ではサンドイッチ形成後の蛍光ビーズはセンサ表面から概ね30nm以上離れているため、図5から蛍光信号量比は、0.75以下であり、蛍光ビーズとセンサ表面からの距離を15nmまで近づけると、蛍光信号量比を0.85程度まで向上させることができることが分かる。
【0057】
このように、センサ部上に層流を生じさせることにより、固定層と結合している標識物質にずり応力を与え、センサ部表面に近づけることができる。これにより、S/Nよく安定した信号を検出することが可能となる。
【0058】
なお、上記シミュレーションは、上述の通り、蛍光物質を用いて行ったが、標識として、蛍光分子、量子ドット、金属微粒子などを用いた場合であっても、同様に層流によりずり応力を受け、標識は、静止流体内と比較して層流内においてセンサ表面に近づけられる効果が得られる。
【0059】
図6は、サンドイッチ形成後に、センサ部上の流速を徐々に増加させた場合の流速と蛍光量の関係を示した模式図である。
【0060】
静止流体内において、標識(蛍光物質)が最もセンサ表面から離れているとすると、図6に示すように、流速増加に伴って蛍光物質にはずり応力が働き、蛍光物質とセンサ表面間の距離が短くなるために蛍光量が増大する。さらに、流速を増加させていくと、ずり応力も増大していくので蛍光量はさらに増大する。しかし、流速が大きくなりすぎると、サンドイッチ複合体の特異結合部分にかかるずり応力により、特異結合がはずれて蛍光物質が固定表面から剥離するという現象が現れる。このとき、蛍光量は大きく減衰する。実際には、蛍光物質の剥離が起こらず、かつ、なるべく大きな蛍光量(信号量)を得ることができる流速とすべきである。適する流速の決定方法については後記する。
【0061】
本実施形態の検出方法における手順を説明する。ここでは、一例として、尿、血液などの生体試料Sに含まれる被検出物質として抗原Aを検出する場合について説明する。
【0062】
本実施形態において、センサチップ10として、流路11のセンサチップ14上流側の一部に、抗原Aと特異的に結合する第2の結合物質である2次抗体Bと蛍光標識Fとからなる蛍光標識結合物質(標識2次抗体)Bが予め吸着固定されているものを用いる。
【0063】
1)まず、マイクロ流路の注入口15aから分注装置28により生体試料Sを注入し、空気口15bに接続された吸引ポンプ20の吸引操作により生体試料Sをマイクロ流路11内に導入する。
【0064】
2)流路11に導入された試料は流路に吸着固定されている標識2次抗体Bと混ぜ合わされ、抗原Aが標識2次抗体Bの2次抗体Bと結合し、さらに2次抗体B2と結合した抗原Aが、センサ部14上に固定されている固定層13である1次抗体Bと結合し、抗原Aが1次抗体Bと2次抗体B(標識2次抗体B)で挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0065】
3)光信号測定に適する流速を決定する。信号処理制御部40が、制御部44によりポンプ20を制御して流速を変化させつつ光検出器34から光信号を取得し、流速測定器25からの流速値および光検出器34からの光信号量とから光信号量の変化率を求め、流速決定手段42において光信号量の変化率がほぼゼロになった流速vを光信号検出時の流速と定め、制御部44によりポンプを制御して流速を固定する。
【0066】
詳細には次の手順となる。
3a)流速変化による光信号量の変動のモニタリングを開始する。具体的には、励起光を照射し、センサ表面上に光電場増強場を発生させ、標識物質からの光信号量Iを光検出器で検出を開始すると共に、ポンプ操作により流路内の流体の流速vを徐々に大きくしていく。すなわち、センサ部上の流体の流速を徐々に上げながら、光信号を検出することにより、該流速に対する信号量の変化率を取得する。なお、この際、流速測定器で正確な流速を検出する。ここで、流路11内の流体は上記結合反応後に残存する試料であってもよいし、必要に応じて分注装置28により流路11内に注入された緩衝液であってもよい。
3b)図6に示すように、光信号量Iは流速の増加に伴い増加し、一旦飽和した後、信号量Iが減少するので、光信号量の変化率(dI/dv)が低下していき、ほぼゼロとなったときの流速において、最大の信号量Iが検出できる。従って、光信号量の変化率がほぼゼロになった流速vでポンプ操作を中止し、該流速vを被検体検出のための光信号検出時の流速と定める。
【0067】
4)ポンプ20の吸引操作により流路内の流体の流速vを一定の流速vに維持固定した状態で、センサ部からの光信号量を光検出器で検出取得する。
【0068】
なお、最終的な光信号取得のタイミングは、光信号量の変化率がほぼゼロになったときが最も好ましいが、本発明は、これに限定されるものではなく、標識結合物質と固定層との結合が外れず、かつセンサ部上に該流体が静的に存在する場合と比較して、信号の信号量が大きく検出される一定の流速下であればよい。例えば、信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分になったとき(dI/dv=1/2×dI(0)/dv(0))と定めてもよいし、信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となり、0となるまでの所定の流速を一定の流速と定めてもよい。
【0069】
このように、センサ部上の流体を一定の流速で移動させることにより、蛍光物質をセンサ部に近づけた状態で蛍光を検出することにより、光増強電場を有効に利用してS/Nよい信号を得ることができ、検査の信頼性を向上させることができる。
【0070】
<第2の実施形態の検出システム>
第2の実施形態である検出システムおよび検出方法について図7を参照して説明する。図7は第2の実施形態の検出システム2の概略構成を模式的に示す全体図である。なお、以下においては、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、詳細な説明を省略する。また図7のセンサチップにおいては液だめ部は省略してある。
【0071】
図7に示す検出システムは、信号処理制御部50の構成が第1の実施形態のシステムと異なる。具体的には、本実施形態の信号処理制御部50は、流速決定手段52内の記憶手段が、予め取得された、標識結合物質と固定層との複数の組合せについて、該組合せ毎に適する一定の流速との対応関係を示すテーブルTを備え、検出に用いられる組合せに応じて、該テーブルTに基づいて一定の流速を定めるものである点で第1の実施形態のシステムと異なる。
【0072】
<第2の実施形態の検出方法>
本実施形態の検出方法は、信号検出を行うに適する一定の流速を定める方法が第1の実施形態の検出方法と異なる。
【0073】
上述の通り、センサ部上の固定層13に標識結合物質Bを結合させた状態で流速を大きくしていくと、層流によるずり応力が固定層と結合物質との結合力を上回ることにより、結合物質の剥離が開始する。この剥離は固定層(第1の結合物質)と標識結合物質との種類(具体的には、抗原・抗体の種類)によって決まる特異結合の強さに依存しているので、検査対象となる固定層と標識結合物質の組合せ(抗原・抗体の組合せ)に適する流速を予め実験的に求めておき、チップ情報など何らかの形態で保存(記憶)しておく。そして、実際の検査時には、その組合せに適した流速下で光信号を検出する。
【0074】
サンドイッチアッセイの場合、標識結合物質(第2の結合物質)は、被検出物質(抗原)を介して固定層(第1の結合物質)に結合されており、第1の結合物質―抗原―第2の結合物質の組合せ毎に適する流速を求めておく。競合法の場合、標識結合物質(第3の結合物質)が固定層(第1の結合物質)に直接結合していることから、第1の結合物質―第3の結合物質および第1の結合物質−抗原の組合せ毎に適する流速を求めておく。
【0075】
実験的に流速を求める方法は、上述の第1の実施形態の手順3)と同様に、流速を増加させつつ蛍光信号量を測定し、信号量の変化率を測定して、該変化率の変化をモニタリングして求める方法が好ましい。変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下(dI/dv=1/2×dI(0)/dv(0))から0となるまでの所定の流速を、適切な流速とし、この流速を固定層と結合物質との組合せと対応付けて保存しておく。
【0076】
本実施形態の検出システム2においては、流速決定手段52内の記憶手段に固定層と結合物質との複数の組合せと各組合せに適切な流速とが対応付けられたテーブルTを備えておき、実際の測定対象に応じてテーブルTを参照して適宜適切な流速が決定されるよう構成されている。
【0077】
以下、本実施形態の検出方法における手順を説明する。試料Sをマイクロ流路11内に注入し、センサ部上に第1の結合物質(1次抗体)−抗原−第2の結合物質(2次抗体)のサンドイッチを形成させる手順は第1の実施形態の1)−2)と同様に行う。
【0078】
3’)光信号測定に適する流速を決定する。信号処理制御部40の流速決定手段42が、標識結合物質と固定層との複数の組合せについて、該組合せ毎に適する一定の流速との対応関係を示すテーブルTから、検出に用いられている組合せに応じて、一定の流速を定める。
【0079】
4’)ポンプ20の吸引操作により流路内の流体の流速vを一定の流速に維持固定した状態で、センサ部からの光信号量を光検出器で検出取得する。
【0080】
本実施形態の場合も第1の実施形態の場合と同様に、センサ部上の流体を一定の流速で移動させることにより、蛍光物質をセンサ部に引き寄せた状態で蛍光を検出することにより、光増強電場を有効に利用してS/Nよい信号を得ることができ、検査の信頼性を向上させることができる。
【0081】
上記においては、流速決定手段52に固定層と結合物質の組合せと、該組合せに適する流速が対応付けられたテーブルを備える実施形態について説明したが、固定層と結合物質の組合せと該組合せに適する流速は他の形態の記憶手段に記憶されていてもよい。たとえば、図7に示すように、流路型センサチップ10’の上面の、信号測定に影響を生じない箇所に該チップ10’に予め固定層と、該固定層と結合し得る結合物質との組合せに適する流速を記憶したチップ情報部60を備え、また、検査システムに該情報部60から適する流速を読み取る情報読取手段を備えるものとし、該チップ10’を用いた測定時に、該チップ情報部60から適する流速を読み取って、流速決定手段により該適する流速を、一定の流速と定めるようにしてもよい。
【0082】
チップ情報部60にはバーコード61などで情報を記録してもよいし、ICチップを備えてもよい。情報読取手段としては、チップ情報部60における情報の記録形態に応じ、バーコードリーダあるいはIC読取装置などを備えればよい。
【0083】
上記各実施形態において、流路型センサチップ10は、基本的にセンサ部の上流側および下流側にそれぞれ少なくとも1つずつの空気口15a、15bを備えていることにより、流路内の流体の流速を調整が可能となっている。上記実施形態においては、空気口15bに吸引ポンプ20を接続して吸引操作により流体を移動させる構成について説明したが、注入口に押し出しポンプを接続して押し出し操作により流体を移動させるよう構成することもできる。
【0084】
流路型センサチップ10の設計変更例について説明する。図9および図10は、設計変更例のセンサチップ10A、10Bの平面図である。
【0085】
図9に示すセンサチップ10Aは、流路の注入口15aとセンサ部14との間に空気口51を備えたものである。該空気口71に押し出しポンプを接続し、押し出し操作により流体を下流側へ移動させることができる。
【0086】
図10に示すセンサチップ10Bは、流路の注入口15aとセンサ部14との間で流路が分岐して枝路72を備え、該枝路72の末端に空気口73を備えたものである。空気孔73に押し出しポンプを接続し、押し出し操作により流体を下流側へ移動させることができる。センサチップ10Bのような枝路を備えた流路では、ポンプにより押し出し操作により注入口15a側に流体が移動するのを防ぐため、液だめに十分な緩衝液を溜めておく、あるいは注入口15aに栓をする、あるいは、分岐点より上流側に逆流防止の弁を流路内に配置しておく必要がある。
【0087】
なお、センサチップとしては、流路に4つ以上の空気口を備えたものを用いてもよい。また、2つ以上の空気口にそれぞれポンプを備えるようにしてもよい。なお、ポンプは、圧力をかけて流れを引き起きこす圧力ポンプに限定されず、微細流路で用いられる一般的な送液制御可能なものであればよく、例えば、電気浸透流ポンプなどであってもよい。
【0088】
上記各実施形態においては、標識として蛍光物質を用い、光信号の検出として、表面プラズモンによりセンサ部表面に光電場増強場を生じさせ、該光電場増強場において蛍光物質が励起されることによって生じる光を検出するものについて説明したが、光電場を増強させる方法は、表面プラズモン共鳴によるもののみならず、局在プラズモン共鳴によるものであってもよいし、光導波モードの励起によるものであってもよい。また、蛍光標識から生じる蛍光を直接検出してもよいし、間接的に検出してもよい。また、標識として蛍光物質のみならず、蛍光色素分子あるいは量子ドットを用い、これらからの蛍光を直接または間接的に検出するものとしてもよい。さらに、標識として、金属微粒子を用いる場合には、金属微粒子による励起光の散乱光を検出すればよい。また、光電場増強場を生じさせた場合のみならず、増強場を用いないエバネッセント蛍光法による蛍光信号検出の際にも、エバネッセント場がセンサ表面から離れるにつれ急激に減衰する現象は同様であり、標識をセンサ表面に引き寄せた状態で信号検出を行うことにより、やはり信号量の増加の効果を得ることができ、S/Nを向上させることができる。
【0089】
局在プラズモン共鳴による光電場増強場を生じさせるためには、センサ部に金属膜に代えて、励起光の照射を受けて、所謂局在プラズモンを生じる、表面に励起光Loの波長よりも小さい凹凸構造を有する金属微細構造体、あるいは、励起光の波長よりも小さいサイズの複数の金属ナノロッドを備えていてもよい。このような局在プラズモンを生じさせる場合には、励起光照射光学系は、透過光あるいは落射光として励起光Loを照射するよう構成とすることができる。励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属微細構造体としては、その他、特開2006−322067号公報、特開2006-250924号公報などに記載の金属体を陽極酸化して得られる微細構造体を利用した種々の形態の金属微細構造体を用いることができる。
【0090】
光導波モードによる光電場増強場を生じさせるためには、センサ部の金属層上に光導波層を備え、該光導波層の上に自己組織化膜および固定層を設けた構成とすればよい。
【0091】
標識からの光信号を間接的に検出する装置および方法について図11を参照して説明する。図11は第3の実施形態の検出システム3のセンサチップ10(図11において液だめ部は省略。)および光信号検出装置30’を示す要部構成図である。本実施形態の検出システム3の光信号検出装置30’は、第1の実施形態の検出システム1における光信号検出装置30と、光検出器34の配置が異なり、表面プラズモン共鳴により光電場増強場Dを生じさせ、増強された電場において励起された蛍光が金属膜18に新たに表面プラズモンを誘起することにより、流路下方に放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出するように構成されている。
【0092】
放射光を検出する光信号検出装置30’による放射光検出の原理について説明する。
センサ部14に、励起光照射光学系31により励起光Loを照射する。このとき、励起光照射光学系31により励起光Loが流路内壁面と金属膜18との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射させる。これにより、金属膜18上の試料S中にエバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波によって金属膜12中に表面プラズモンが励起される。励起光の入射により金属層上に生じている光電場(エバネッセント波に起因する電場)が、この表面プラズモンにより増強され、金属層上に光電場増強領域Dが形成される。光電場増強領域の金属膜表面には、蛍光物質Fが引き寄せられており、蛍光物質Fが励起されて(実質的にはその蛍光物質中の蛍光色素分子fが励起されて)蛍光が発生する。このとき、表面プラズモンによる光電場増強の効果により蛍光は増強されたものとなる。金属膜18上で生じたこの蛍光が、金属膜18に表面プラズモンを新たに誘起し、この表面プラズモンによりセンサチップ10の金属膜形成面と反対側から特定の角度で放射光Lpが射出される。光検出器34によって、この放射光Lpを検出することにより、標識結合物質と結合した被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0093】
放射光Lpは蛍光が金属膜の特定の波数の表面プラズモンと結合する際に生じるものであり、蛍光の波長に応じてその結合する波数は定まり、その波数に応じて放射光の出射角度が定まる。通常励起光Loの波長と蛍光の波長とは異なることから、蛍光により励起される表面プラズモンは、励起光Loにより生じた表面プラズモンとは異なる波数のものとなり、励起光Loの入射角度とは異なる角度で放射光Lpは放射される。
【0094】
このように、標識からの蛍光を間接的に検出する場合であっても、光電場増強場を利用していることから、センサ部表面に標識をより近づけることにより信号のS/Nを向上させることができるため、層流を利用して標識をセンサ部表面に近づける本発明の検査方法およびシステムが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1実施形態による検出システムを示す概略構成図
【図2A】本発明の検出システムに用いられる流路型センサチップを示す斜視図
【図2B】本発明の検出システムに用いられる流路型センサチップを示す側断面図
【図2C】本発明の検出システムに用いられる流路型センサチップを示す平面図
【図3】流路内の速度分布(層流)を示す図
【図4】静止流体内および層流内における固定層と標識結合物質の結合状態を示す模式図
【図5】金属膜と蛍光物質間の距離と蛍光信号量比との関係を示す図
【図6】流速と蛍光量の関係を示す図
【図7】センサチップの他の例を示す平面図
【図8】本発明の第2実施形態による検出システムを示す概略構成図
【図9】センサチップの設計変更例を示す平面図
【図10】センサチップの設計変更例を示す平面図
【図11】本発明の第3実施形態による検出システムの一部を示す概略図
【図12】入射光に対する電場エネルギー像強度の金属膜からの距離依存性を示す図
【符号の説明】
【0096】
1、2、3 検出システム
10、10’、10A、10B 流路型センサチップ
12 流路部材
13 固定層(第1の結合物質)
14 センサ部
19 金属膜
20 ポンプ
25 流速測定器
30 光信号検出装置
31 励起光照射光学系
32 光源
33 プリズム
34 光検出器
35 アンプ
A 抗原(被検出物質)
1次抗体(第1の結合物質)
2次抗体(第2の結合物質)
標識2次抗体(蛍光標識結合物質)
F 蛍光物質
f 蛍光色素分子
Lo 励起光
Lf 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が流下されるマイクロ流路を有する流路部材の該流路内に、励起光の照射により光を生じる標識が付与された標識結合物質と結合する固定層を備えたセンサ部が設けられてなる流路型センサチップを用意し、
前記流路内に液体試料を流下させることにより、被検出物質の量に応じた量の前記標識結合物質を前記固定層に結合させ、
前記センサ部への励起光の照射により該センサ部の表面に生じるエバネッセント場、または光電場増強場において前記標識から生じる光に基づく信号を検出して、前記被検出物質の量を検出する検出方法において、
前記標識結合物質を前記固定層に結合させた後、
前記センサ部上の流体を、前記標識結合物質と前記固定層との結合が外れず、かつ前記センサ部上に該流体が静的に存在する場合と比較して、前記信号の信号量が大きく検出される一定の流速で移動させつつ、前記信号を検出することを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記標識結合物質を前記固定層に結合させた後、
前記センサ部上の流体の流速を徐々に上げながら、前記信号を検出することにより、該流速に対する前記信号量の変化率を取得し、
該信号量の変化率に基づいて、前記一定の流速を定めることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となった所定の流速を前記一定の流速と定めることを特徴とする請求項2記載の検出方法。
【請求項4】
前記信号量の変化率が、0となったときの流速を前記一定の流速と定めることを特徴とする請求項2記載の検出方法。
【請求項5】
予め取得された、前記標識結合物質と前記固定層との組合せに適する流速を、前記一定の流速と定めることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項6】
液体試料が流下されるマイクロ流路を有する流路部材の該流路内に、励起光の照射により光を生じる標識が付与された標識結合物質と結合する固定層を備えたセンサ部が設けられてなる流路型センサチップと、
前記センサ部上における流体の流速を制御するポンプと、
前記センサ部に励起光を照射する励起光照射光学系および該センサ部からの光に基づく信号を検出する光検出器を備えた光信号検出装置と、
前記ポンプおよび前記光信号検出装置に接続された信号処理制御部であって、前記センサ部上の流体の、前記標識結合物質と前記固定層との結合が外れず、かつ前記センサ部上において該流体が静的に存在する場合と比較して、前記信号の信号量が大きく検出される一定の流速を定める流速決定手段と、前記センサ部上の流体を該一定の流速で移動させつつ、前記信号を検出するように前記ポンプおよび前記光信号検出装置を制御する制御手段とを含む信号処理制御部とを備えていることを特徴とする検出システム。
【請求項7】
前記制御手段が、前記センサ部上の流体の流速を徐々に上げながら、前記信号を検出することにより、該流速に対する前記信号量の変化率を取得するように、前記ポンプおよび前記光信号検出装置を制御するものであり、
前記流速決定手段が、該信号量の変化率に基づいて、前記一定の流速を定めるものであることを特徴とする請求項6記載の検出システム。
【請求項8】
前記流速決定手段が、前記信号量の変化率が、該変化率の測定開始時の値の半分以下となった所定の流速を前記一定の流速と定めるものであることを特徴とする請求項7記載の検出システム。
【請求項9】
前記流速決定手段が、前記信号量の変化率が、0となったときの流速を前記一定の流速と定めるものであることを特徴とする請求項7記載の検出システム。
【請求項10】
前記流速決定手段が、予め取得され、所定の記憶手段に記憶された、前記標識結合物質と前記固定層との組合せに適する流速を、前記一定の流速と定めるものであることを特徴とする請求項6記載の検出システム。
【請求項11】
前記所定の記憶手段が、前記信号処理制御部内に備えられていることを特徴とする請求項10記載の検出システム。
【請求項12】
前記記憶手段が、前記センサチップの、前記信号の検出に支障のない箇所に設けられた、チップ情報部であり、
該チップ情報部から前記適する流速を読み取る情報読取手段を備えていることを特徴とする請求項10記載の検出システム。
【請求項13】
前記センサチップが、前記流路の前記センサ部の上流側に設けられた、該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の前記センサ部の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気口とを備えてなり、
前記ポンプが、前記注入口または空気口を利用して、前記センサ部上の流体に流速を与えるものであることを特徴とする請求項6から12いずれか1項記載の検出システム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−43890(P2010−43890A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206818(P2008−206818)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】