説明

検出方法

【課題】金属微粒子を標識として用いた被検出物質の検出方法において、検出信号のS/Nを向上し、検出限界濃度を向上させる。
【解決手段】誘電体プレート11の表面に、成膜された金属膜12を含むセンサ部14を備えたセンサチップ10を用意し、金属微粒子Mが標識として付与された標識結合物質BMを添加した液体試料Sをセンサ部14に接触させ、センサ部14に励起光を照射して、センサ部14の表面に存在する金属微粒子Mの表面に局在プラズモンを生じさせ、この局在プラズモンとセンサ部14との相互作用に起因して誘電体プレート11の裏面から出射される放射光Lを検出し、放射光Lの検出量に基づいて被検出物質の量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識からの光信号を測定することにより被検出物質の検出を行う検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオセンシング等においては、被検出物質に標識を付与し、該標識からの信号を検出することにより被検出物質の存在の有無および量を定量する方法が広くなされている。標識としては、励起光の照射により蛍光を生じる蛍光物質や、励起光を散乱して散乱光を生じさせる金属微粒子などが知られている。
【0003】
特許文献1には、標識(ラベル)として、光散乱を生じさせる標識を用い、反応表面(センサ部)に特異的に結合したラベルによりエバネッセント光を散乱させ、この散乱光を検出する方法が提案されている。なお、特許文献1においては、光散乱ラベルは、コロイド金属又は非金属を含み、金、セレン及びラテックスを含むと記載されている。
【0004】
それに対し、特許文献2および3には、表面プラズモン共鳴(以下において、「SPR」という。)による増強された電場により、標識を用いることなく被検出物質からの散乱光を増強して検出する方法が記されている。しかしながら、標識、特に金属標識による散乱に較べ被検出物質自身による散乱光は小さいため、SPRによる増強を行ったとしても信号量はあまり高くなく、検出限界の向上に対する効果はあまり大きくはなかった。具体的には、サンドイッチ免疫反応法において、10nM(ナノモーラー)程度が検出限界であり、10nM未満の濃度では検出できなかった。
【0005】
これらの問題を解決するために、特許文献4では標識として金属粒子を用い、金属粒子による、SPRにて増強されたエバネッセント光の散乱光を測定する方法が提案されている。特許文献4には、SPRの電場増強効果と、金属標識による大きな散乱光の相乗効果が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−506190号公報
【特許文献2】特表2001−504582号公報
【特許文献3】特開平10−78390号公報
【特許文献4】特開2008−203187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4のように励起光としてエバネッセント光を用いる系においては、標識が付与されていない表面吸着物質による散乱光もその強い電場のため増強されてしまうという問題がある。特にバイオ測定を行う場合、非特異吸着防止のために表面にブロッキング等の表面処理(例えば、BSA(Bovine serum albumin:ウシ血清アルブミン)などの生体物質を測定前に表面にくまなく吸着させる)、および/または被検出物質を捕捉するために被検出物質である抗原と特異的に結合する1次抗体を表面に高密度で固定して測定を行うことが多く、これらからの散乱光もSPRによって増強されてしまう。
【0008】
標識として蛍光物質を用い、蛍光物質からの蛍光を測定するセンシング方法であれば、蛍光と、散乱光とでは波長が異なるため、散乱光を波長フィルター等により低減して、蛍光のみ、すなわち標識からの信号のみを検出することができるが、特許文献4のように、励起光の散乱光を信号光として用いる系では、励起光と信号光との波長が同一となり、標識されていない物質からの散乱光も増幅されてしまうため、これがノイズとなり、標識からの信号が強くなってもS/Nの向上、および検出限界の改善の効果はあまり得られないという問題点があった。具体的には、1nM程度が検出限界であった。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みて、金属微粒子を標識として用いた、被検出物質の検出方法において、検出信号のS/Nを向上し、検出限界濃度を向上させることができる検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の検出方法は、誘電体プレートの表面に、成膜された金属膜を含むセンサ部を備えたセンサチップを用意し、
金属微粒子が標識として付与された標識結合物質を添加した液体試料を前記センサ部に接触させ、
該センサ部に励起光を照射して、該センサ部の表面に存在する前記金属微粒子の表面に局在プラズモンを生じさせ、
該局在プラズモンと前記センサ部との相互作用に起因して前記誘電体プレートの裏面から出射される放射光を検出し、
該放射光の検出量に基づいて被検出物質の量を求めることを特徴とする。
【0011】
前記センサチップとして、前記金属膜上に光導波層が形成されたセンサ部を備えたものを用いてもよい。
【0012】
前記「該局在プラズモンと前記センサ部との相互作用」とは、局在プラズモンにより、前記センサチップの金属膜表面に表面プラズモンを誘起すること、あるいはセンサチップとして金属膜上に光導波層が形成されたセンサ部を備えたものを用いる場合には、局在プラズモンにより、光導波層の光導波モードを誘起することをいう。
【0013】
すなわち、本発明は、標識として金属微粒子を用い、励起光により該金属微粒子の表面に生じる局在プラズモンにより誘起された表面プラズモンもしくは光導波モードに起因して放射される放射光を検出してセンシングを行うことを特徴とするものである。
【0014】
前記金属微粒子の粒子径は、励起光の照射により表面に局在プラズモンが生じるものであればよい。本明細書において、蛍光物質の粒子は、粒子の最大径をいうものとする。
【0015】
前記金属膜および金属微粒子の材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とすることが望ましい。なおここで、「主成分」は、含量90質量%以上の成分と定義する。
【0016】
また、「被検出物質の量を求める」とは被検出物質の存在の有無を含み、定量的な量のみならず、定性的な量を含むものとする。
【0017】
前記励起光としては、前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの裏面から全反射条件で光を照射することにより該金属膜の表面側に生じるエバネッセント光を用いることが好ましい。一方、センサ部の表面に直接照射する光を励起光としてもよい。
【0018】
また、前記センサチップとして、前記センサ部の最上層に、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されたものを用い、
前記励起光の照射を、前記第1の結合物質に、直接または前記被検出物質を介して、前記被検出物質の量に応じた量の前記標識結合物質を結合させた状態で行うことが望ましい。
【0019】
本発明の検出方法に用いられる本発明の検出用試料セルは、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、
前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための前記流路の下流側に設けられた空気孔と、
前記流路の、前記注入口と前記空気孔との間において、前記流路の壁面の少なくとも一部を構成する誘電体プレートの試料接触面に設けられた金属膜を少なくとも含み、最上層に前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなるセンサ部を備えたセンサチップ領域とを備え、
前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のうちのいずれか一方の結合物質に、金属微粒子からなる標識が付与されてなる標識結合物質が、前記流路内の、前記センサ部より上流側に固定されていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の検出用試料セルには、前記センサ部において、前記金属膜上に光導波層が備えられていてもよい。
【0021】
本発明の検出方法に用いられる検出用キットとしては、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための前記流路の下流側に設けられた空気孔と、前記流路の、前記注入口と前記空気孔との間において、前記流路の内壁面の少なくとも一部を構成する誘電体プレートの試料接触面に設けられた金属膜を少なくとも含み、最上層に被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなるセンサ部を備えたセンサチップ領域とを備えた試料セル、および
前記液体試料の流下と同時もしくは前記液体試料の流下後に、前記流路内に流下される、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のうちのいずれか一方の結合物質に、金属微粒子からなる標識が付与されてなる標識結合物質を含む標識用溶液を備えてなることを特徴とするものが好ましい。
【0022】
前記試料セルは、前記センサ部において、前記金属膜上に光導波層が備えられていてもよい。
【0023】
なお、米国特許出願公開第2005/0053974号明細書、およびThorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130には、エバネッセント波により蛍光色素を励起し、該蛍光色素からの蛍光が、金属膜に新たに表面プラズモンを誘起して生じる放射光(SPCE:Surface Plasmon-Coupled Emission)をプリズム側から取り出す方法が提案されている。しかしながら、これらの文献には、金属微粒子により(詳細には、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンにより)新たに表面プラズモンを誘起することができる点については何ら記載も示唆もなく、本発明は、以下に述べる発明者らの鋭意研究により得られた知見に基づくものである。
【0024】
本発明者らは、同一サイズ(最大径100nm)の蛍光色素含有ビーズ(多数の蛍光色素を内包したポリスチレンビーズ)、ポリスチレンビーズ、金微粒子を、表面に金膜を備えたプリズム上に配置し、プリズムと金膜の界面にプリズム側から全反射条件でレーザ光を照射した場合に、プリズム下方に放射される光を、光検出器で検出する実験を行った。図1A〜1Cは、それぞれ、蛍光色素含有ビーズ、ポリスチレンビーズ、金微粒子について、光検出器で検出された放射光の受光画像を示す写真である。
【0025】
図1Aに示される、蛍光色素からの蛍光により、金属膜の表面に新たな表面プラズモンが誘起され、放射光が生じる現象は、上述の文献に記載の通りである。ポリスチレンビーズの場合には、図1Bに示されるように、励起光の反射光のみが検出され、放射光は検出されなかった。一方、金属微粒子の場合には、図1Cに示されるように、蛍光ビーズの場合と同様の放射光が検出された。すなわち、ポリスチレンビーズ、金属微粒子は共に、エバネッセント場を乱して散乱光を生じうるものであるにも関わらず、ポリスチレンビーズでは放射光が検出されなかったことから、散乱光では金属膜表面に新たな表面プラズモンを誘起することができないことが明らかになった。本発明者らは、この結果から、金属微粒子の表面に生じた局在プラズモンが金属膜中の表面プラズモンと強い相関作用を持つものであり、この局在プラズモンが表面プラズモンを誘起しているとの知見を得た。このように、金属微粒子により(詳細には、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンにより)新たに表面プラズモンを誘起することができる点については、本発明者らが新規に見出したものであり、本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の検出方法は、標識として金属微粒子を用い、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンにより誘起される表面プラズモン、もしくは光導波モードによる放射光を検出することにより被検出物質の量(および有無)を求めるものであり、被検出物質自体、結合物質および/またはブロッキング剤等により生じる散乱光は、表面プラズモン、もしくは光導波モードの励起に寄与しないため、標識である金属微粒子に起因する信号をS/Nよく取得することができ、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することができる。
【0027】
また、標識として用いている金属微粒子は無機物であるため、蛍光色素のような有機物を標識として用いる場合と比較して、褪色、保存性に優れており、実用化および商品化に当たり非常に有利である。
【0028】
本発明の検出用試料セルあるいは検出用キットを用いれば、本発明の検出方法を容易に実施することができ、標識からの信号をS/Nよく取得することができ、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】蛍光色素含有ビーズを用いた場合について、光検出器で検出された放射光の受光画像を示す写真
【図1B】ポリスチレンビーズを用いた場合について、光検出器で検出された放射光の受光画像を示す写真
【図1C】金微微粒子を用いた場合について、光検出器で検出された放射光の受光画像を示す写真
【図2A】本発明の第1実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【図2B】図2Aに示す検出装置の底面図
【図3】本発明の第2実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【図4A】本発明の1実施形態の試料セルを示す平面図
【図4B】図4Aに示す試料セルを示す断面図
【図5】試料セルを用いた場合のアッセイ手順を示す図
【図6A】本発明の1実施形態の蛍光検出用キットの試料セルを示す平面図
【図6B】図6Aに示す試料セルを示す断面図および標識用溶液を示す図
【図7】蛍光検出用キットを用いた場合のアッセイ手順を示す図
【図8】本発明の第4実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【図9】本発明の他の実施形態の試料セルを示す断面図
【図10】本発明の第5実施形態の検出方法を実施するための検出装置を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において説明の便宜上、各部の寸法は実際のものとは異ならせている。
【0031】
「第1実施形態」
本発明の第1の実施形態にかかる検出方法は、被検出物質である抗原が検査対象である生体試料(尿、血液、鼻水など)に含まれているか否か、および/またはその量(濃度)を検出するバイオセンシング方法である。図2Aは、本センシング方法を実施するための表面プラズモン放射光検出装置1の概略構成を示す全体図、図2Bは、装置1の底面図である。
【0032】
図2Aおよび図2Bに示す検出装置1は、誘電体プレート11の表面に成膜された金属膜12を少なくとも含むセンサ部14を備えてなるセンサチップ10のセンサ部14表面に励起光を照射するための励起光照射光学系20と、誘電体プレート11の裏面から放射される光Lを受光する光検出器30とを備えている。
【0033】
センサチップ10の金属膜12上には、固定層13として、被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質B1が固定されている。すなわち、本実施形態においてセンサ部14は金属膜12と第1の結合物質B1からなる固定層13とを含む。なお、本実施形態においては、センサチップ10上に液体試料Sを保持する試料保持部18が備えられ、センサチップ10と試料保持部18により液体試料Sを保持可能な箱状セルが構成されている。
【0034】
励起光照射光学系20は、誘電体プレート11の裏面から、レーザ光L0を誘電体プレート11と金属膜12との界面で全反射する入射角度で、レーザ光L0を入射させることにより、センサ部14表面に励起光としてのエバネッセント光を生じさせるものである。励起光照射光学系20は、レーザ光L0を出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、誘電体プレート11に一面が接触するように配置されたプリズム22とを備えている。プリズム22は、誘電体プレート11と金属膜12との界面でレーザ光L0が全反射するように誘電体プレート11内にレーザ光L0を導光するものである。なお、プリズム22と誘電体プレート11とは、一体的に構成されていてもよいし、屈折率マッチングオイルを介して接触されていてもよい。光源21は、レーザ光L0が、プリズム22を介して、誘電体プレートと金属膜との界面に、全反射角以上で、かつ金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせる特定の角度を含むファンビームとして入射するように配置構成されている。レーザ光L0は、前述の特定の角度で入射する平行光であってもよい。光源21とプリズム22との間に必要に応じて導光部材をさらに配置してもよい。なお、レーザ光L0は、表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射される。
【0035】
光検出器30は、誘電体プレート11のレーザ光L0が入射する面22aおよびレーザ光の反射光L0’が透過する面22bとは異なる面22cから射出される放射光Lを検出するように配置されている(図2B参照)。光検出器30としては、具体的には、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。
【0036】
本実施形態の検出方法によるバイオセンシング方法の手順を説明する。
【0037】
センサ部14に、標識結合物質BMを添加した、検査対象である液体試料Sを接触させる。標識結合物質BMの液体試料Sへの添加のタイミングは特に制限されず、あらかじめ試料Sに標識結合物質BMを添加しておいてもよいし、センサ部14に試料Sを接触させた後に標識結合物質BMを試料Sに添加してもよい。
【0038】
標識結合物質BMとしては、被検出物質Aと特異的に結合する第2の結合物質B2に金属微粒子Mが標識として付与されたものを用いる。ここで、被検出物質Aは、例えば、抗原であり、第1および第2の結合物質は、被検出物質Aに対し、互いに別の部位(エピトープ)に結合する抗体である。なお、本実施形態においては、図2Aに示すように、標識結合物質BMは、金属微粒子Mの表面に第2の結合物質B2が複数修飾されてなる。
【0039】
金属微粒子Mは、少なくとも表面が金属膜で覆われた微粒子であって、光の照射により表面に局在プラズモンを生じる粒径のものであればよい。金属微粒子M(または、その表面の金属膜)の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。金属微粒子Mの形状は特に制限なく、球状およびロッド状等が挙げられる。金属微粒子Mの粒子径は、局在プラズモンを効果的に励起することから、励起光の波長より小さいことが好ましく、10〜200nmが特に好ましい。
【0040】
液体試料S中に被検出物質Aが存在している場合には、被検出物質Aはセンサ部14の第1の結合物質B1および第2の結合物質B2と結合し、所謂サンドイッチ結合体が形成される。すなわち、センサ部14の表面には、被検出物質Aの量に応じた量の標識結合物質BMが結合され、結果として、センサ部14の表面には、被検出物質Aの量に応じた量の金属微粒子Mが存在することとなる。
【0041】
励起光照射光学系20により、レーザ光L0を、誘電体プレート11と金属膜12との界面に全反射条件で入射させる。レーザ光L0が界面で全反射する際、金属膜12表面にはエバネッセント光が滲み出すと共に、表面プラズモンが生じる。エバネッセント光の滲み出し領域Ewは界面からレーザ光L0の波長λ程度である。表面プラズモンによりバネッセント光が増強され、この増強されたエバネッセント光により、センサ部上の金属微粒子Mの表面に局在プラズモンが生じる。すなわち、本実施形態において、局在プラズモンを励起する励起光は、エバネッセント光である。さらに、この局在プラズモンが、センサ部14の金属膜12に表面プラズモンを新たに誘起し、この新たに誘起された表面プラズモンにより、すなわち、局在プラズモンとセンサ部14との相互作用に起因して放射光L(以下、単に放射光Lという。)が生じる。
【0042】
光検出器30により放射光Lを検出する。放射光Lは局在プラズモンが金属膜12の特定の波数の表面プラズモンと結合する際に生じるものであり、放射光の出射角度は、レーザ光L0が表面プラズモン共鳴を生じる特定の角度と同一となる。従って、レーザ光L0が混じらない領域で放射光を受光するため、図1Bに示すように、誘電体プレート11のレーザ光L0が入射する面22aおよび該レーザ光L0の反射光が透過する面22bとは異なる面22cから射出される放射光Lを検出する。
【0043】
放射光Lの検出は、セル内に液体試料および標識結合物質を注入時刻から所定時間経過後に行ってもよいし(エンド法)、セル内への液体試料および標識結合物質の注入時から、連続的または断続的に、複数の異なる時刻に行うようにしてもよい。
【0044】
この放射光Lの検出量および/または検出量の時間変化に基づいて、被検出物質の量を求める。被検出物質の量(濃度)は、予め用意されている、放射光Lの検出量と濃度との検量線、または放射光Lの検出量の時間変化と濃度との関係に基づいて求めることができる。なお、ここでの被検出物質の量を求めることには、被検出物質の存在の有無を求めることも含む。
【0045】
本実施形態の検出方法は、標識として金属微粒子を用い、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンに起因する新たな表面プラズモンによる放射光を検出することにより被検出物質の量を求めるものであり、被検出物質自体、結合物質等により生じる散乱光は、新たな表面プラズモンの共鳴に寄与しないため、標識である金属微粒子に起因する信号をS/Nよく取得することができる。また、無機物である金属微粒子は、蛍光色素のような有機物を標識として用いる場合と比較して、褪色、保存性に優れているため、実用化および商品化に当たり非常に有利である。
【0046】
「第2の実施形態」
第2の実施形態の検出方法およびその検出方法を実施するための表面プラズモン放射光検出装置2を図3から図5を参照して説明する。以下の図面において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0047】
図3に示す検出装置2は、本発明の蛍光検出方法に使用される本発明の一実施形態の試料セル50と、試料セル50の所定領域に励起光を照射する励起光照射光学系20と、放射光Lを検出する光検出器30とを備えている。
【0048】
図4Aは、試料セル50の構成を示す平面図、図4Bは試料セル50の側断面図である。
試料セル50は、基台51と、該基台51上に液体試料Sを保持し、液体試料Sの流路52を形成するスペーサ53と、試料Sを注入する注入口54aおよび排出する排出口となる空気孔54bを備えたガラス板からなる上板54とを備えている。また、流路52下流の空気孔54bに接続する部分には廃液だめ56が形成されている。なお、本実施形態では、スペーサ53により構成された流路を上部に有する基台51は誘電体プレートで構成されており、センサチップ部の誘電体プレートを兼ねている。基台はセンサチップ部となる部分のみ誘電体プレートで構成されたものであってもよい。流路52の高さhは例えば、30μm程度である。
【0049】
試料セル50の基台51上には流路52上流側から、標識結合物質(ここでは、標識2次抗体)BMを物理吸着させてある標識2次抗体吸着エリア57、金属膜58a上に第1の結合物質(ここでは、1次抗体)Bが固定された第1の測定エリア58、金属膜59a上に被検出物質である抗原Aとは結合せず標識2次抗体Bと特異的に結合する1次抗体B0が固定された第2の測定エリア59が順に設けられている。この第1の測定エリア58がセンサ部に相当し、第2の測定エリア59はリファレンス部に相当する。なお、図3中においては、試料が注入されて抗体が標識2次抗体と結合して流れた後の試料セル50を示しているために標識2次抗体吸着エリア57はもはや存在していない。本例では、センサチップ部にセンサ部とリファレンス部の2つの測定エリアを設けた例を挙げているが、センサ部のみであってもよい。
【0050】
互いに異なる1次抗体が設けられている以外は第1の測定エリア58と第2の測定エリア59は同一の構成である。リファレンス部を備えたことにより、流路を流れた標識2次抗体の量、活性など反応に関する変動要因と励起光照射光学系20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因を検出し、較正に利用することができる。なお、第2の測定エリアには1次抗体B0ではなく、既知量の標識物質が予め固定されていてもよい。標識物質は2次抗体により表面修飾された金属微粒子と同種のものであることが好ましいが、異なるものであってもよい。この場合、励起光照射光学系20、金属膜58a、59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因のみを検出し、較正に利用することができる。第2の測定エリア59に1次抗体B0、既知量の標識物質のどちらを固定するかは、較正目的・方法によって適宜定めればよい。
【0051】
試料セル50は、励起光照射光学系20および検出器30に相対的にX方向に移動可能とされており、第1の測定エリア58からの放射光検出の後、第2の測定エリア59を検出領域に移動させて第2の測定エリア59からの放射光検出を行うように構成されている。
【0052】
励起光照射光学系20は、レーザ光L0を出力する半導体レーザ(LD)からなる光源21と、誘電体プレート11に一面が接触するように配置されたプリズム22とに加え、光源21から出射されたレーザ光L0を集光し、プリズム22の一面から入射させるレンズ24およびミラー25からなる導光部材と半導体レーザ光源21を駆動するドライバ28とを備えている。
【0053】
上記構成の表面プラズモン放射光検出装置2を用いた放射光検出方法は第1の実施形態と同様であり、本実施形態においても標識として金属微粒子を用い、該金属微粒子表面に生じる局在プラズモンに起因する新たな表面プラズモンによる放射光を検出するので、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0054】
上記試料セルを用いたセンシング方法において、被検出物質である抗原を含むか否かの検査対象である血液(全血)を試料セル61の注入口から注入し、アッセイを行う手順について図5を参照して説明する。
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)S0を注入する。ここでは、この血液S0に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。
step2:血液S0は毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step3:流路52に染み出した血液S0と標識2次抗体BMとが混ぜ合わされ、抗原Aが2次抗体Bと結合する。
step4-5:血液S0は流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、2次抗体Bと結合した抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合し、第1の測定エリア(センサ部)58上に抗原Aが1次抗体Bと2次抗体Bで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0055】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体と結合するまでのstep1からStep5の後、第1の測定エリア58からの放射光強度を検出する。その後、第2の測定エリア59からの放射光を検出できるように試料セル50をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの放射光強度を検出する。第2の測定エリア59からの信号は標識2次抗体の流下した量、活性などの反応条件を反映した信号であると考えられ、この信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの信号を補正することにより、抗原の有無および/またはその濃度について、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、既述の通り、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定した場合であっても、同様に、第2の測定エリア59からの信号をリファレンスとして第1の測定エリアからの信号を補正することができる。
【0056】
なお、第1の測定エリアおよび第2の測定エリアからの放射光を、それぞれ異なる複数の時刻において検出して、放射光量の時間変化を求めるようにしてもよい。
【0057】
「第3の実施形態」
第3の実施形態の検出方法として、本発明の一実施形態の検出用キットを用いた方法について図6A、図6Bおよび図7を参照して説明する。図6A、6Bおよび7において、上述の試料セルと同一の要素には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0058】
図6Aは検出用キット60の試料セル61の構成を示す平面図、同図Bは試料セルの断面図および標識用溶液入りアンプル62を示す図である。
検出用キット60は、試料セル61と、表面プラズモン放射光検出測定を行うにあたり、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に、試料セル61の流路内に流下される、標識結合物質BMを含む標識用溶液63とを備えている。
【0059】
試料セル61は、試料セル内に標識2次抗体吸着エリア57を備えない点でのみ上述の試料セル50と異なり、その他は試料セル50と略同一の構成である。
【0060】
表面プラズモン放射光検出装置としては図3に示した第2の実施形態のものを同様に用いることができ、本実施形態の検出用キット60を用いれば、第2の実施形態の場合と同様に被検出物質に金属微粒子による標識がなされるため、同様に精度の高い測定を行うことができる。
【0061】
さらに、本実施形態の検出用キット60を用いたセンシング方法において、被検出物質である抗原Aを含むか否かの検査対象である血液(全血)を試料セル61の注入口から注入し、アッセイを行う手順について図7を参照して説明する。
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)S0を注入する。ここでは、この血液S0中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。
step2:血液S0が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血液をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step3:血液S0は流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、血液S0中の抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合する。
step4:標識2次抗体BMを含む標識用溶液63を注入口54aから注入する。
step5:標識2次抗体BMが毛細管現象により流路52に染み出す。
step6:標識2次抗体BMは徐々に下流側に流れ、標識2次抗体BMの2次抗体B2が抗原Aと結合し、第1の測定エリア(センサ部)58上に抗原Aが1次抗体Bと2次抗体Bで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0062】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体および2次抗体と結合するまでのstep1からStep6の後、第1の測定エリア58からの放射光強度を検出する。その後、第2の測定エリア59からの放射光を検出できるように試料セル61をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの信号を検出する。第2の測定エリア59からの信号は標識2次抗体の流下した量、活性などの反応条件を反映した信号であると考えられ、この信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの信号を補正することにより、抗原の有無および/またはその濃度について、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定しておき、第2の測定エリア59からの信号をリファレンスとして第1の測定エリアからの信号を補正してもよい。
【0063】
「第4の実施形態」
第4の実施形態の検出方法およびその検出方法を実施するための検出装置4について図8を参照して説明する。図8に示す第4の実施形態の検出装置4の構成は、第1の実施形態の検出装置1の構成と同じであるが、用いられるセンサチップが異なり、このセンサチップの違いにより、光電場増強および放射光発生のメカニズムが異なる。
【0064】
本実施形態で用いられるセンサチップ10’は金属膜12上に光導波層15を備えている。光導波層15の層厚は、特に制限されることはなく、光導波モードが誘起されるように、レーザ光L0の波長、入射角度および光導波層15の屈折率等を考慮して定めればよい。例えば、レーザ光L0として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、光導波層15として1層のシリコン酸化膜からなるものを用いる場合には、500〜600nm程度が好ましい。なお、光導波層15は、1層以上の誘電体等の光導波材料からなる内部光導波層を含む積層構造であってもよく、この積層構造は、金属層側から順に内部光導波層および内部金属層の交互積層構造であることが好ましい。
【0065】
なお、本実施形態において、励起光照射光学系20の光源21は、レーザ光L0が、プリズム22を介して、誘電体プレートと金属膜との界面に、全反射角以上で、かつ光導波層の光導波モードを励起する特定の角度を含むファンビームとして入射するように配置構成されている。
【0066】
検出装置4を用いた本実施形態の検出方法によるセンシングは、第1の実施形態と同様の手順で行う。センサチップの違いにより、第1の実施形態の場合と異なる、エバネッセント光の増強および放射光発生のメカニズムについて説明する。
【0067】
第1の実施形態と同様に、励起光照射光学系20によりレーザ光L0が、誘電体プレート11と金属膜12との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜12上にエバネッセント光が滲み出すが、本実施形態においては、このエバネッセント光が光導波層15の光導波モードと結合し、光導波モードが励起される。光導波モードによりエバネッセント光が増強され、この増強されたエバネッセント光により、センサ部上の金属微粒子Mの表面に局在プラズモンが生じる。本実施形態においても、局在プラズモンを励起する励起光はエバネッセント光である。さらに、この局在プラズモンが、センサ部の光導波層15に光導波モードを新たに誘起し、この新たに誘起された表面プラズモンにより、放射光Lが生じる。
【0068】
光検出器30により放射光Lを検出する。放射光Lは局在プラズモンが光導波層15の特定の光導波モードと結合する際に生じるものであり、放射光の出射角度は、レーザ光L0が光導波モードを生じる特定の角度と同一となる。従って、レーザ光L0が混じらない領域で放射光を受光するため、図1Bに示すように、誘電体プレート11のレーザ光L0が入射する面22aおよび該レーザ光L0の反射光が透過する面22bとは異なる面22cから射出される放射光Lを検出する。
【0069】
本実施形態の検出方法は、標識として金属微粒子を用い、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンに起因する新たな光導波モードによる放射光を検出することにより被検出物質の量を求めるものであり、被検出物質自体、結合物質等により生じる散乱光は、新たな光導波モードの励起に寄与しないため、標識である金属微粒子に起因する信号をS/Nよく取得することができる。また、無機物である金属微粒子は、蛍光色素のような有機物を標識として用いる場合と比較して、褪色、保存性に優れているため、実用化および商品化に当たり非常に有利である。
【0070】
図9は、第4の実施形態のような、新たな光導波モードの励起に起因する放射光を検出する検出方法において用いられる、試料セル50’を示すものである。試料セル50’は、図4Aおよび図4Bに示す試料セル50とほぼ同様の構成をしており、金属膜58a、59a上にそれぞれ光導波層58b、59bを備えている点でのみ異なる。
【0071】
試料セル50’は、図3に示した検出装置において、新たな光導波モードの励起に起因する放射光を検出して行うセンシング方法に適用することができる。
【0072】
また、さらに、試料セル50’において、標識2次抗体吸着エリア57を備えないものとすれば、図6Bに示す検出用キット60の試料セルとして用いることができ、第3の実施形態で説明したセンシング方法に適用することができる。
【0073】
「第5の実施形態」
第5の実施形態の検出方法およびその検出方法を実施するための検出装置5について図10を参照して説明する。本実施形態の検出方法においては、金属微粒子表面に局在プラズモンを励起する方法が上記各実施形態とは異なる。それに応じて検出装置5においては、励起光照射光学系の配置構成が上記各実施形態のものとは異なる。
【0074】
本検出装置5において、励起光照射光学系20’は、試料セルの上方に配置されており、センサ部14に直接レーザ光L0を励起光として照射するものである。すなわち、本実施形態の検出方法においては、このレーザ光L0が金属微粒子の表面に局在プラズモンを生じさせる励起光として用いられる。
【0075】
検出装置5を用いた本実施形態の検出方法によるセンシングは、第1の実施形態と同様の手順で行う。励起光照射光学系の違いにより、第1の実施形態の場合と異なる点について説明する。
【0076】
誘電体プレート11裏面側、すなわち図10においてプリズム22下方における放射光の検出に際しては、レーザ光L0がセンサ部14に励起光として直接照射される。このとき、このレーザ光L0は金属膜12で反射され、プリズム22の下方にはほとんど透過しない。一方、レーザ光L0の照射を受けて、金属微粒子Mの表面には局在プラズモンが生じる。この局在プラズモンが、金属膜12に表面プラズモンを励起し、該励起された表面プラズモンにより、放射光Lが生じる。センサ部14の表面近傍に存在する金属微粒子Mの表面のみならず、試料セル内で浮遊する金属微粒子Mにレーザ光L0が照射されれば、その表面にも局在プラズモンは生じる。しかしながら、金属微粒子Mが金属膜12表面から大きく離間している場合、金属膜12に表面プラズモンを誘起させることはできず、実質的には、被検出物質Aを介して固定層13に結合している標識結合物質BMの金属微粒子Mのみが表面プラズモンの誘起に寄与するものと考えられる。
【0077】
このようにして、センサ部表面の金属微粒子Mの表面に生じた局在プラズモンにより、金属膜12表面に励起された表面プラズモンに起因する放射光Lを光検出器30により検出する。
【0078】
表面プラズモン共鳴あるいは光導波モードによる増強エバネッセント光を励起光として用いる場合、表面プラズモン共鳴、あるいは光導波モード励起を生じさせるためのレーザ光L0の入射角度調整が不十分であれば、表面プラズモン共鳴、光導波モードの励起に伴う電場増強度のばらつきにより励起光の強度がばらつき、結果として、信号光である放射光Lの強度にばらつきが生じ、定量測定を行う場合のばらつきの要因となるおそれがある。従って、特定の角度で平行光としてレーザ光L0を入射させる場合には、入射角度調整を精度よく行う必要がある。また、表面プラズモン共鳴、あるいは光導波モード励起を生じさせるためのレーザ光L0の入射角度および反射角度と放射光Lの放射角度が重なるため、第1実施形態等において説明した通り、両光を分離するように光学系の配置に工夫が必要となる(図2B参照)。一方、本実施形態のようにレーザ光を直接励起光として用いる場合、レーザ光L0の入射角度調整が不要であり励起光照射光学系を簡単な構成とすることができる。レーザ光L0による直接励起であることから励起光強度のばらつきによる放射光Lの強度ばらつきはほとんど生じない。また、励起光として照射されるレーザ光L0の大部分は金属膜で反射される上、レーザ光L0の入射角度を放射光の放射角度と異なる入射角度に設定しておけば、金属膜を透過するわずかなレーザ光L0についても放射光Lと容易に分離することができるので、検出装置における励起光照射光学系20’と光検出器30との配置構成の自由度が高い。
【0079】
なお、本実施形態においては、センサチップ10として、金属膜12上に固定層13を備えたものを用いたが、第4の実施形態と同様に、金属膜12上に光導波層15を備え、該光導波層15上に固定層13を備えたセンサチップ10’を用い、光導波モードの励起に伴う放射光を検出するよう構成してもよい。
また、検出装置5は、放射光Lを誘電体プレート11裏面側から取り出すためにプリズム22を備える構成であるが、誘電体プレート11から放射光Lを取り出すことができるように構成されていればよく、プリズム22を備えず、誘電体プレート11を導波板として、放射光Lを該プレート11の内部で全反射を繰り返して導波させて、誘電体プレート11の側面から放射光Lを外部に取り出すように構成されていてもよい。
【0080】
上記各実施形態においては、全て非競合法であるサンドイッチ法によるアッセイを用いたセンシング方法を例として説明したが、本発明の検出方法、試料セルおよび測定キットはサンドイッチ法のみならず、競合法によるアッセイを用いたセンシング方法にも適用することができる。競合法によるアッセイの場合には、被検出物質である抗原Aと競合して、第1の結合物質(1次抗体)と結合する第3の結合物質(競合抗原)に、標識として金属微粒子を付与した標識結合物質を用いればよい。
【0081】
また、上記各実施形態においては、金属膜12上に第1の結合物質B1が固定層13として設けられてなるセンサ部を備えたセンサチップを用いるものとしたが、サンドイッチ結合体(あるいは競合結合体)をセンサ部に引き寄せることが可能であれば固定層13とせず、液相中で反応結合させるよう構成することもできる。例えば、第1の結合物質Bに磁性微粒子を付与したものを、標識結合物質BMと共に液体試料中に添加し、第1の結合物質B1、被検出物質A、標識結合物質BMのサンドイッチ結合体を形成させた後、センサチップ下方に磁石を配して、センサ部近傍にサンドイッチ結合体を引き寄せた状態で、励起光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、磁性微粒子としては、局在プラズモンを生じないものを、金属微粒子としては、磁石により引き寄せられないものをそれぞれ用いる必要がある。
【0082】
各実施形態の検出方法は、標識として金属微粒子を用い、金属微粒子表面に生じる局在プラズモンに起因する新たな表面プラズモンまたは光導波モードによる放射光を検出することにより被検出物質の量または被検出物質の存在の有無を求めるものであり、被検出物質自体、結合物質等により生じる散乱光は、新たな表面プラズモンや光導波モードの励起には寄与しないため、標識である金属微粒子に起因する信号をS/Nよく取得することができ、精度よく被検出物質の量を求めることができる。
【0083】
なお、本発明者らの実験によれば、従来技術の項で述べた特許文献4に記載の散乱光を信号光として用いる系と比較して、2桁近いノイズ低減の効果が得られ、検出限界を数十pM程度まで向上させることができた。
【符号の説明】
【0084】
1、2、4、5 放射光検出装置
10、10’ センサチップ
11 誘電体プレート
12 金属膜
13 固定層
14 センサ部
15 光導波層
20 励起光照射光学系
21 光源
22 プリズム
30 光検出器
50、50’61 試料セル
51 誘電体プレート
52 流路
53 スペーサ
54 上板
57 標識2次抗体吸着エリア
58、59 検出エリア
A 抗原(被検出物質)
1次抗体(第1の結合物質)
2次抗体(第2の結合物質)
BM 標識2次抗体(標識結合物質)
0 レーザ光
L 放射光
M 金属微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プレートの表面に、成膜された金属膜を含むセンサ部を備えたセンサチップを用意し、
金属微粒子が標識として付与された標識結合物質を添加した液体試料を前記センサ部に接触させ、
該センサ部に励起光を照射して、該センサ部の表面に存在する前記金属微粒子の表面に局在プラズモンを生じさせ、
該局在プラズモンと前記センサ部との相互作用に起因して前記誘電体プレートの裏面から出射される放射光を検出し、
該放射光の検出量に基づいて被検出物質の量を求めることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記センサチップとして、前記金属膜上に光導波層が形成されたセンサ部を備えたものを用いることを特徴とする請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
前記励起光として、前記誘電体プレートと前記金属膜との界面に、前記誘電体プレートの裏面から全反射条件で光を照射することにより該金属膜の表面側に生じるエバネッセント光を用いることを特徴とする請求項1または2記載の検出方法。
【請求項4】
前記センサチップとして、前記センサ部の最上層に、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されたものを用い、
前記励起光の照射を、前記第1の結合物質に、直接または前記被検出物質を介して、前記被検出物質の量に応じた量の前記標識結合物質を結合させた状態で行うことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の検出方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載の検出方法に用いられる検出用試料セルであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、
前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための前記流路の下流側に設けられた空気孔と、
前記流路の、前記注入口と前記空気孔との間において、前記流路の壁面の少なくとも一部を構成する誘電体プレートの試料接触面に設けられた金属膜を少なくとも含み、最上層に前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなるセンサ部を備えたセンサチップ領域とを備え、
前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のうちのいずれか一方の結合物質に、金属微粒子からなる標識が付与されてなる標識結合物質が、前記流路内の、前記センサ部より上流側に固定されていることを特徴とする検出用試料セル。
【請求項6】
前記センサ部において、前記金属膜上に光導波層が備えられていることを特徴とする請求項5記載の検出用試料セル。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の検出方法に用いられる検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための前記流路の下流側に設けられた空気孔と、前記流路の、前記注入口と前記空気孔との間において、前記流路の内壁面の少なくとも一部を構成する誘電体プレートの試料接触面に設けられた金属膜を少なくとも含み、最上層に被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質が固定されてなるセンサ部を備えたセンサチップ領域とを備えた試料セル、および
前記液体試料の流下と同時もしくは前記液体試料の流下後に、前記流路内に流下される、前記被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質および前記被検出物質と競合して前記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質のうちのいずれか一方の結合物質に、金属微粒子からなる標識が付与されてなる標識結合物質を含む標識用溶液を備えてなることを特徴とする検出用キット。
【請求項8】
前記センサ部において、前記金属膜上に光導波層が備えられていることを特徴とする請求項7記載の検出用キット。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公開番号】特開2010−286331(P2010−286331A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139820(P2009−139820)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】