説明

検出素子、その製造方法、および標的検出装置

【課題】タンパク質等の各種標的を高感度に検出可能な検出素子、その製造方法およびこの検出素子を用いた標的検出装置を提供する。
【解決手段】標的検出装置10は、検出素子20、励起光源11、光検出部12、データ処理部13、電源16等から構成され、検出素子20は、基板21と、基板21に貼合されたカバー22と、カバー22の基板21側の面に形成され、試料溶液29が流通される流路22aと、基板21の表面に、流路22aに露出するAu電極25およびPt電極26等により構成される。Au電極25の表面には標的を捕捉する標的検出体30が結合されている。Au電極25はチオール基を含む分子を有する材料からなる電極接着層24を介して基板21に固着されている。さらに、基板21とカバー22とはシラノール基およびアミノ基を含む分子を有する材料からなる基板接着層23を介して貼合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等の各種標的を高感度に検出可能な検出素子、その製造方法およびこの検出素子を用いた標的検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトゲノム解析研究の急速な進展によって得られる塩基配列、遺伝子発現情報、およびたんぱく質などに関するゲノム情報を利用して、効率的に医薬品の開発を行う、いわゆるゲノム創薬が進められている。ゲノム創薬ではゲノム情報をもとに、病気に関係する遺伝子を探し出し、その解析から発病のメカニズムを解明すると共に、治療に最も有効なたんぱく質等の標的分子を決定する。そのうえで、この標的分子に対して薬効のある医薬品候補化合物の設計、合成等を行う。このようなプロセスにおいて、タンパク質等の標的分子を容易に検出可能な装置の重要性が高まっている。
【0003】
一方、Au薄膜は、可視光領域においてエバネッセント光を発光させられること、およびその表面に種々の分子が自発的に高密度・高配向な分子膜が形成される自己組織化が生じ、いわゆる自己組織化単分子膜(Self−Assembled Monolayers:SAMs)が形成されることによって、タンパク質検出センサの機能を構築できる素材として注目を集めている(例えば特許文献1参照。)。Au薄膜は、ガラス基板表面に形成され、Au薄膜の表面には、ポリヌクレオチドの分子鎖に標的分子を捕捉する抗体等が結合した検出ユニットが自己組織的に結合されている。タンパク質検出センサは、検出ユニットが結合したAu薄膜を、標的分子を含む試料溶液に浸漬し、検出ユニットからの発光等により光学的あるいは電気化学的に標的分子の分子量分布や密度を検出可能である。
【特許文献1】特開2003−202337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タンパク質検出の効率化を図るためにはタンパク質検出センサの高感度化が望まれる。すなわち、少ない量の試料溶液で目的の標的分子を検出することが望まれる。そのため、微小な空間に高密度にAu薄膜および検出ユニットを配置することが必要となる。Au薄膜はガラス基板との接着性が弱いため、接着層としてCr膜やTi膜が用いられている。しかし、ガラス基板により微小な空間を形成するためには、ガラス基板同士の貼合が必要となり、そのため、加熱温度が1000℃以上の熱融着が用いられている。かかる高温に曝露すると、Cr膜やTi膜はAu薄膜中に拡散しAu膜の電気伝導度が低下し、さらには、検出ユニットのSAMsが安定して形成できないという問題を生じる。また、Cr膜やTi膜等の接着膜を用いずに、安定したSAMsの形成に必要なガラス基板表面の強酸、例えば、いわゆるピラニア溶液(硫酸:過酸化水素水=3:1)や、60%硝酸による前処理を用いた場合はAu薄膜を形成後、超音波洗浄を用いるとガラス基板からAu薄膜が剥離し易く、信頼性に劣るという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、タンパク質等の各種標的を高感度に検出可能な検出素子、その製造方法およびこの検出素子を用いた標的検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、第1の基板と、前記第1の基板に第1の接着層を介して貼合された第2の基板と、前記第1の基板および第2の基板のいずれか一方の、互いに貼合された面に形成された流路と、前記流路内に設けられた第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極に結合され、流路を流通する試料溶液中の標的を捕捉可能な標的検出体と、を備え、前記第1の接着層はシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む材料からなり、前記第1の電極は、第1の基板の表面に第2の接着層を介して固着され、該第2の接着層がシラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料からなる検出素子が提供される。
【0007】
本発明によれば、第1の基板と第2の基板とが貼合された構造を有し、その構造中に流路が形成されている。さらに流路内に標的を捕捉する標的検出体が結合したAu電極が設けられている。流路内にAu電極を高密度に配置できるので、検出素子は標的を高感度に検出可能である。また、検出素子は極めて小型化できる。
【0008】
本発明の他の観点によれば、工程基板上に第1の電極を選択的に形成する工程と、前記第1の電極の表面にシラノール基およびチオール基を有する分子を含む接着層を形成する工程と、前記第1の電極を接着層を介して第1の基板を接合する工程と、前記第1の電極から工程基板を除去する工程と、前記第1の基板の第1の電極側の表面にシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む他の接着層を形成する工程と、前記第1の基板と、流路が形成された第2の基板とを他の接着層を介して貼合する工程と、前記流路内に第2の電極を形成する工程と、前記第1の電極に標的を捕捉可能な標的検出体を結合させる工程と、を含む検出素子の製造方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、第1の基板と第2の基板とをシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む他の接着層により貼合しているので、従来よりも低温で貼合でき、既に形成されているAu電極に悪影響を与えることがない。
【0010】
本発明のその他の観点によれば、請求項1または2記載の検出素子と、前記第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記検出素子の第1の電極に向けて光を照射する光照射手段と、前記光照射手段から照射された光を受けて前記標的検出体が発光する光を検出する光検出手段と、を備える標的検出装置が提供される。
【0011】
本発明によれば、標的の検出感度が高感度な標的検出装置が実現できる。また、標的検出装置は小型化および集積化が可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タンパク質等の各種標的を高感度に検出可能な検出素子、その製造方法およびこの検出素子を用いた標的検出装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面を参照しつつ実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る検出装置の概略構成図、図2は、検出装置を構成する本発明の実施の形態に係る検出素子の分解斜視図である。
【0015】
図1および図2を参照するに、標的検出装置10は、検出素子20、励起光源11、光検出部12、データ処理部13、電源16等から構成される。
【0016】
検出素子20は、基板21と、基板21に貼合されたカバー22と、カバー22の基板21側の面に形成され、試料溶液29が流通される流路22aと、基板21の表面に形成され、流路22aに露出するAu電極25およびPt電極26と、Au電極25およびPt電極26のそれぞれと配線パターン27a,27bにより接続されたパッド電極28a,28b等から構成される。さらに、Au電極25には標的を捕捉する標的検出体30が結合されている。Au電極25は電極接着層24を介して基板21に固着されている。さらに、基板21とカバー22とは基板接着層23を介して貼合されている。また、流路に露出するように参照電極38が設けられ、参照電極38は電圧計39を介してAu電極25に電気的に接続される。なお、電圧計39により測定された電圧と予め設定された電圧との電圧差に基づいて電圧計39から電源16に電圧差を低減あるいは零にするためのフィードバックをかけてもよい。
【0017】
基板21は、例えば、ガラス基板(例えば強化ガラス基板や結晶化ガラス基板)、石英ガラス基板、シリコン基板等を用いることができる。励起光をカバー22を介してAu電極25に照射する場合は、基板21は不透明あるいは半透明基板でもよい。また、後述する基板接着層23の材料としてシランカップリング剤を用いる場合は、強固に貼合可能な点でガラス基板、および石英ガラスを用いることが好ましい。
【0018】
カバー22は、励起光を透過する透明基板からなり、ガラス基板(例えば強化ガラス基板や結晶化ガラス基板)、石英ガラス基板等を用いることができる。
【0019】
また、カバー22には、基板21側の表面に溝部が形成されている。溝部は、カバー22と基板21とが貼合されることで流路22aが形成される。図1では溝部の断面形状を矩形で示しているが、特に限定されない。また、カバー22の表面には溝部に連通する試料溶液供給口22bおよび試料溶液排出口22cが形成されている。試料溶液29は、ポンプ等により試料溶液供給口22bから供給され、流路22aを通過して標的検出体30、Au電極25、およびPt電極26に接触し、試料溶液排出口22cから排出される。
【0020】
基板21とカバー22との間に基板接着層23が設けられている。基板接着層23には、アミノ基およびシラノール基を有する分子が含まれる材料を用いることが好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。これにより、基板21とカバー22とを強固に接着し、後ほど説明するように、接着の際に、従来よりも極めて低い加熱温度で接着可能になる。
【0021】
図3は、基板接着層の一例を示す説明図である。図3を参照するに、基板接着層23はシラノール基が基板21に結合し、アミノ基がカバー22に強固に結合し、基板21とカバー22とを強固に接着する。基板接着層23に好適なシランカップリング剤としては、例えば、下記の一般式を有する材料が挙げられる。
【0022】
NH2(CH2)x[(CH2)l(CHR)m(CH2)n]y(CH2)zSiOH … (1)
但し、上記(1)式中のx,y,l,m,nはそれぞれ0〜18の整数、zは1〜18の整数である。RはHまたはフェニル基である。例えばmが0で、xおよびyが1以上の場合、上記(1)式で表される分子は、直鎖状のアルキル基が一方向延びた構造を有する。この場合、分子同士が束状となり易くなるのでシラノール基およびアミノ基がそれぞれ局在する。そのため、シラノール基が基板21に強固に結合する。一方、アミノ基は、その分極δとカバー22の表面のOH基の分極δとの静電気力により強固に結合する。
【0023】
また、例えばmが1で、Rがフェニル基の場合は、各々の分子のフェニル基が他の分子のフェニル基と疎水相互作用や分子間力の引力を互いに及ぼし合って分子同士が束状となり易くなり、上記と同様の効果が得られる。
【0024】
標的検出体30は、相互作用部31と、発光部32と、結合部33とを有してなり、さらに必要に応じて適宜選択したその他の部(不図示)を有してなる。
【0025】
相互作用部31は、Au電極25と電気的な相互作用が可能な領域を含み、かつ一端がAu電極25と結合可能な領域を含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。相互作用部31の具体的な例としては、電気的な相互作用が可能な点で、イオン性ポリマーが挙げられる。イオン性ポリマーは、正に帯電したイオンポリマー(正イオンポリマー)および負に帯電したイオンポリマー(負イオンポリマー)から選択されるのが好ましい。正イオンポリマーとしては、例えば、ペプチド核酸(PNA)、グアニジンDNA、ポリアミン等が挙げられ、負イオンポリマーとしては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリリン酸等が挙げられる。これらの負イオンポリマーは、負電荷が分子中に一定間隔で存在する点でAu電極25との電気的な相互作用を制御し易い点で好ましい。ポリヌクレオチドでは、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)を適宜選択可能である。なお、図1および後ほど説明する図5および図6においては、2本鎖のDNAを一例として示しており、相互作用部31は負に帯電している。なお、ポリヌクレオチドを作成する方法としては特に制限はなく、公知の方法(例えば、DNA自動合成機を用いる方法)から適宜選択すればよい。
【0026】
相互作用部31は、その一端にAu電極25と結合する部位を有する。この部位として例えばチオール基(−S−)が好適に挙げられる。チオール基はAu電極25(あるいはAu電極25の代替としてのAl電極や、TiO2電極、Ag電極)に強固に結合する。このため、Au電極25に交番するパルス電圧を印加した場合に標的検出体30がAu電極25と吸着・反発を繰り返したときでも結合が切れ難い点で好ましい。また、チオール基に限定されず、他の基を適宜選択してもよい。
【0027】
発光部32は、相互作用部31の所定の位置、例えば一端に結合してなる。発光部32は、励起光が照射されている場合で、相互作用部31がAu電極25と相互作用を及ぼし合っていないときは発光し、相互作用部31がAu電極25と相互作用を及ぼし合っているときは発光が弱まるか発光しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択可能である。このような発光部32としては、蛍光色素、金属等が挙げられる。ここでは一例として、発光部32が蛍光色素のシアニン系のCy3(商標)として説明する。
【0028】
蛍光色素は、Au電極25と近接して相互作用している間は吸収可能な波長の光が照射されても発光が弱まるか発光しない。また、蛍光色素は、Au電極25と離隔されて相互作用しなくなったときには励起光により発光可能である。
【0029】
結合部33は、標的を捕捉可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。捕捉の態様としては特に制限はなく、吸着、化学結合等が挙げられる。結合部33としては、例えば、標的に対する抗体、抗原、酵素、補酵素等が挙げられる。また、標的としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。標的としては、例えば、タンパク質、リポ蛋白、糖蛋白、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、薬物等の有機分子が挙げられる。
【0030】
なお、上記標的を含む試料溶液29としては、例えば、細菌、ウイルス等の病原体、生体から分離された細胞液や、リンパ液、血液等が挙げられ、直接、又は必要に応じて濃縮した後細胞破壊処理を予め施したものを使用することができる。
【0031】
Au電極25は、基板21上に電極接着層24を介して形成されてなり、例えば厚さが100nmである。Au電極25はその表面が流路22aに露出している。Au電極25は、例えば厚さ100nmであり、上述した標的検出体30を結合させてなると共に、標的検出体30に電界を印加する一方の電極としての機能を有する。Au電極25は、その代わりに導電性材料を用いることができ、例えば、Al電極や、TiO2電極、Ag電極を用いてもよい。
【0032】
電極接着層24は、基板21の表面とAu電極25とを固着している。電極接着層24としては、シラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料を用いることが好ましい。電極接着層24のシラノール基が基板21に結合し、チオール基にAuが強固に結合する。電極接着層24として、例えば、チオール基を有するシランカップリング剤を用いることができる。
【0033】
図4は、電極接着層の一例を示す説明図である。図4を参照するに、基板21が特にガラス基板や石英基板の場合に、電極接着層24は、シラノール基が基板21に極めて強固に結合するので、基板21とAu電極25とが強固に固着される。ここで、シラノール基とチオール基とは直鎖によって接続されているが、これに限定されない。例えば、電極接着層24に好適なシランカップリング剤としては、下記の一般式を有する材料が挙げられる。
【0034】
HS(CH2)x[(CH2)l(CHR)m(CH2)n]y(CH2)zSiOH … (2)
但し、上記(2)式中のx,y,l,m,nはそれぞれ0〜18の整数、zは1〜18の整数である。RはHまたはフェニル基である。例えばmが0で、xおよびyが1以上の場合、上記(2)式で表される分子は、直鎖状のアルキル基が一方向延びた構造を有する。この場合、分子同士が束状となり易くなるのでシラノール基およびチオール基がそれぞれ局在する。そのため、シラノール基が基板21に強固に結合する。一方、チオール基がAu電極25に強固に結合する。
【0035】
また、例えばmが1で、Rがフェニル基の場合は、各々の分子のフェニル基が他の分子のフェニル基と疎水相互作用や分子間力の引力を互いに及ぼし合って分子同士が束状となり易くなり、上記と同様の効果が得られる。
【0036】
図1および図2に戻り、Au電極25は配線パターン27aを介して電極パッド28aに引き出されるが、配線パターン27aおよびパッド電極28aもAuにより形成してもよい。
【0037】
Pt電極26は、基板21上に直接形成されており、例えば厚さが80nmである。Pt電極26はその表面が流路22aに露出し、Au電極25から所定の距離を離隔して形成される。Pt電極26は対向電極として、標的検出体30に電界を印加する一方の電極としての機能を有する。また、Pt電極26は基板21との接着性が良好であるので電極接着層24を形成する必要はない。
【0038】
参照電極38は、Au電極25へ印加される電圧を電圧計39により測定する際の、基準電位となる。参照電極38として、例えば、Ag/AgCl/3M KClや飽和カルメロ電極が挙げられる。
【0039】
励起光源11は、Au電極25に向けて光を照射できる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。励起光源11は、例えば可視光を発光する光源が好ましく、例えばキセノンランプ、レーザ等を用いることができる。さらに、各々のAu電極25に選択的に励起光を照射するための光学系、例えば光ファイバ等を用いてもよい。励起光源11から出射された光は,透明材料からなるカバー22を透過し、Au電極25および標的検出体30に照射される。
【0040】
光検出部12は、励起光源11から照射された光を受けた標的検出体30が発光する光を検出することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。光検出部12は例えば受光センサ、CCDカメラ、フォトマル、フォトダイオード(例えばアバランシェ・フォトダイオード(APD))を用いることができる。
【0041】
データ処理部13は,光検出部12からの光強度変化のデータおよび印加電圧の時間変化に基づいて、結合部33に捕捉された標的の重量等を解析し、その結果を入出力部14のモニタやプリンタに出力し、あるいは記憶装置15に記録する。
【0042】
電源16は、例えばパルス電源が用いられる。電源16は、図2に示すパッド電極28a,28bおよび配線パターンを介してAu電極25とPt電極26との間に正負の電圧が交番するパルス電圧を印加して、標的検出体30に電界を印加する。
【0043】
次に、標的検出装置10の動作を説明する。
【0044】
図5は標的を検出する説明図であり、(A)はPt電極26に対してAu電極25に負電圧を印加した場合、および(B)は正電圧を印加した場合である。また、図6は、印加電圧と蛍光強度との関係図であり、図6(A)の縦軸は、図5(A)および(B)に示す電圧計により測定した印加電圧を示す。印加電圧は参照電極38に対するAu電極25の電圧を示している。印加電圧は、参照電極の平衡電極電位VEだけずれて示されているが、実質的には正負のそれぞれに対して同等の電圧が印加されている。また、図6(B)の縦軸は蛍光強度を示す。
【0045】
図5および図6を図1と共に参照するに、励起光をAu電極25に照射しながら、図6(A)に示すパルス電圧をPt電極26とAu電極25との間に印加する。図5(A)に示すように、Au電極25に負電圧が印加されている場合は、相互作用部31は負に帯電しているためAu電極25から離れるように略直立する。このときは、発光部32はAu電極25から離隔されているので、励起光のエネルギーにより発光する。
【0046】
次いで、図5(B)に示すように、Au電極25に正電圧が印加されている場合は、相互作用部31は負に帯電しているためAu電極25に近接する。このときは、発光部32 はAu電極25に近接しているので、発光が弱まりあるいは発光しなくなる。
【0047】
これらのように、パルス電圧を交番して印加することで、光検出部12には図6(B)に示す蛍光強度の変化が得られる。蛍光強度は、最も強い蛍光強度I1(図5(A)の状態における蛍光強度)から減少して最も弱い蛍光強度I2(図5(B)の状態における蛍光強度)に変化する。このときの蛍光強度の変化は、捕捉された標的の分子量に依存する。すなわち、標的の分子量が大きいほど変化の速度が遅くなる。この蛍光強度の変化をデータ処理部13により解析し、捕捉された標的の分子量や捕捉された数等の解析結果が得られる。以上のようにして、標的検出装置10は試料溶液29中の標的を検出して分析が可能となる。
【0048】
本実施の形態に係る検出素子20は、基板21およびカバー22が貼合された構造を有し、その構造中に微細な流路22a(例えば幅および高さが100μm)が形成されている。さらに流路22a内に標的を捕捉する標的検出体30が結合したAu電極25(例えば一辺が50μm)が設けられている。流路22aにAu電極25を高密度に配置できるので、検出素子20は標的を高感度に検出可能である。また、検出素子20は極めて小型化可能である。
【0049】
また、Au電極25は電極接着層24により基板21に強固に接着されているので、Au電極25の基板21からの剥離が生じ難い。したがって、検出素子20は信頼性および耐久性に優れる。そのため、検出素子20を繰り返し使用可能となるため、コストが低減される。
【0050】
なお、上記の説明では、Au電極25を基板21表面に形成し、流路22aとなる溝部をカバー22に形成したが、基板21表面に流路22aとなる溝部を形成し、溝部の底にAu電極25を形成してもよい。
【0051】
また、本実施の形態に係る標的検出装置10は標的の検出感度が高感度な装置が実現できる。また、標的検出装置10の小型化が可能である。
【0052】
次に、実施の形態に係る検出素子の製造方法を図7および図8を参照しつつ説明する。 図7および図8は検出素子の製造工程図である。なお、説明の便宜のため、図8(A)〜(C)は、図7(A)〜(D)に対して上下を入れ換えて示している。
【0053】
図7(A)の工程では、工程基板41上に、スピンコート法、スプレー法、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により犠牲膜42を形成する。犠牲膜42は、Au電極25とエッチング選択性を有する材料でかつ互いに固溶しない材料であれば特に制限はないが例えばメチルシロキサン膜や酸化シリコン膜を用いることができる。絶縁膜の膜厚は次の工程で形成するAu電極25と同等かそれよりも薄く設定する。
【0054】
図7(A)の工程ではさらに、犠牲膜42上にレジスト膜43を形成する。次いでレジスト膜43をフォトリソグラフィ法によりパターニングして、Au電極25を形成する位置に開口部を形成する。なお、図2に示したAu電極25と接続される配線パターンおよびパッド電極を形成する開口部も形成する。配線パターンおよびパッド電極は次の工程においてAu電極25と同様に形成されるので、特に断らない限りAu電極25は配線パターンおよびパッド電極を含むとする。さらに、開口部が形成されたレジスト膜43をマスクとして犠牲膜42をエッチングし、開口部を形成する。このエッチングは、犠牲膜42をエッチング可能な方法であれば特に制限はなく、例えばウエットエッチング法を用いる。
【0055】
次いで、図7(B)の工程では、図7(A)に示す構造体の表面に真空蒸着法、スパッタ法等により例えば厚さ100nmのAu膜を形成する。さらに、レジスト膜43上に形成された余分なAu膜をレジスト膜43とともにリフトオフする。このようにして、犠牲膜42に選択的に形成されたAu電極25が形成される。
【0056】
次いで、図7(C)の工程では、犠牲膜42およびAu電極25の表面に電極接着層24を形成する。具体的には、犠牲膜42およびAu電極25の表面にシラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料、例えば、チオール基を有するシランカップリング剤を有機溶媒に希釈しスピンコート法、スプレー法等により塗布する。さらに乾燥させて有機溶媒を除去する。
【0057】
図7(C)の工程ではさらに、基板21を工程基板41と位置合わせを行う。さらに、基板を電極接着層24を介して工程基板41に押圧して、基板21と工程基板41とを接合する。この際、加熱は必要ない。電極接着層24のシラノール基と基板21とが強く結合する。なお、基板21の表面にPt電極26、およびPt電極26に接続される配線パターンおよび電極パッド(図2示す。)を前もって形成しておいてもよい。Pt電極26は基板21、特にガラス基板との接着性が良好であるため、例えばスパッタ法によって形成できる。
【0058】
次いで、図7(D)の工程では、ウエットエッチングにより犠牲膜42を溶解し、Au電極25、電極接着層24、および基板21の構造体から工程基板41を剥離させる。ウエットエッチング液は、例えば犠牲膜42がメチルシロキサン膜や酸化シリコンの場合、フッ酸を用いることができる。
【0059】
次いで、図8(A)の工程では、図7(D)の構造体の電極接着層24のうち、Au電極25を接着している部分以外をアッシングにより除去する。
【0060】
図8(A)の工程ではさらに、基板21の表面に基板接着層23を形成する。具体的には、基板21の表面に、シラノール基およびアミノ基を有する分子を含む材料、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を有機溶媒に希釈しスピンコート法、スプレー法等により塗布する。さらに乾燥させて有機溶媒を除去する。
【0061】
次いで、図8(B)の工程では、カバー22を図8(A)の構造体に対して位置決めを行う。カバー22には図2に示す流路となる溝部22a、試料溶液供給口22bおよび試料溶液排出口22cを予め形成しておく。カバー22の位置決め後、カバー22を基板21に貼合する。この貼合は、基板接着層23を介してカバー22を基板21に押圧すると共に150℃〜450℃(好ましくは150℃〜250℃)の範囲の温度に設定して加熱する。これにより、基板21とカバー22とが基板接着層23を介して強固に接着される。基板接着層23はアミノ基がカバー22の表面のOH基と脱水反応を起こして、例えばカバー22がガラス基板の場合はガラス基板のシリコン原子と結合する。これにより流路22a内にAu電極25およびPt電極26が配置されると共に流路22aが形成される。
【0062】
次いで、図8(C)の工程では、流路22a内に緩衝液(例えば、Tris−HCl(pH7.5))を流し、さらに、予め合成した標的検出体30を緩衝液に混合して流路22aに注入し、180分程度静置する。これにより、標的検出体30のチオール基がAu電極25の表面に強固に結合する。さらに、緩衝液を流路22aに注入して、流路22a内の余分な標的検出体30を除去する。以上により、検出素子が形成される。
【0063】
この製造方法では、基板21とカバー22とを基板接着層23により貼合しているので、既に形成されているAu電極25に悪影響を与えることがない。特に、基板接着層23にアミノ基を有するシランカップリング剤を用いることで、従来よりも低い温度範囲(150℃〜450℃)で基板21とカバー22との貼合が可能となり、Au電極25への熱による悪影響、例えば、Au電極25の表面に標的検出体30が結合し難くなったり、結合が不安定になる等して標的検出体30の集合体の形成が困難になるという障害を回避できる。
【0064】
なお、Pt電極26およびその配線パターンおよびパッド電極を図8(A)の工程の電極接着層24を除去した後に真空蒸着法、スパッタ法、CVD法により基板21表面に形成してもよい。この場合、例えば、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングしたレジスト膜や、金属マスクを用いて選択的に形成する。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0066】
なお、以上の説明に関してさらに以下の付記を開示する。
(付記1) 第1の基板と、
前記第1の基板に第1の接着層を介して貼合された第2の基板と、
前記第1の基板および第2の基板のいずれか一方の、互いに貼合された面に形成された流路と、
前記流路内に設けられた第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極に結合され、流路を流通する試料溶液中の標的を捕捉可能な標的検出体と、を備え、
前記第1の接着層はシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む材料からなり、
前記第1の電極は、第1の基板の表面に第2の接着層を介して固着され、該第2の接着層がシラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料からなる検出素子。
(付記2) 前記第1の接着層は末端基としてシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む材料からなることを特徴とする付記1記載の検出素子。
(付記3) 前記第1の接着層は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする付記1記載の検出素子。
【0067】
NH2(CH2)x[(CH2)l(CHR)m(CH2)n]y(CH2)zSiOH … (1)
(但し、x,y,l,m,nはそれぞれ0〜18の整数、zは1〜18の整数である。RはHまたはフェニル基である。)。
(付記4)前記第2の接着層は末端基としてシラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料からなる特徴とする付記1記載の検出素子。
(付記5) 前記第2の接着層は、下記一般式(2)で示されることを特徴とする付記1記載の検出素子。
【0068】
HS(CH2)x[(CH2)l(CHR)m(CH2)n]y(CH2)zSiOH … (2)
(但し、x,y,l,m,nはそれぞれ0〜18の整数、zは1〜18の整数である。RはHまたはフェニル基である。)。
(付記6) 前記第1の基板および第2の基板のうち、いずれか一方が透明基板材料からなることを特徴とする付記1記載の検出素子。
(付記7) 前記第2の基板は透明基板材料からなり、前記流路が第2の基板に形成された溝部と第1の基板の表面に画成されてなり、
前記第2の電極は第1に基板の表面に第1の電極から離隔して形成されてなることを特徴とする付記1記載の検出素子。
(付記8) 前記標的検出体は、第1の電極と相互作用可能な相互作用部と、該相互作用部が第1の電極と相互作用していない場合に光の照射を受けると発光可能な発光部と、標的を捕捉可能な検出部からなることを特徴とする付記1記載の検出素子。
(付記9) 前記相互作用部がイオン性ポリマーであることを特徴とする付記8記載の検出素子。
(付記10) 前記発光部が蛍光色素であることを特徴とする付記8記載の検出素子。
(付記11) 工程基板上に第1の電極を選択的に形成する工程と、
前記第1の電極の表面にシラノール基およびチオール基を有する分子を含む接着層を形成する工程と、
前記第1の電極を接着層を介して第1の基板を接合する工程と、
前記第1の電極から工程基板を除去する工程と、
前記第1の基板の第1の電極側の表面にシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む他の接着層を形成する工程と、
前記第1の基板と、流路が形成された第2の基板とを他の接着層を介して貼合する工程と、
前記流路内に第2の電極を形成する工程と、
前記第1の電極に標的を捕捉可能な標的検出体を結合させる工程と、を含む検出素子の製造方法。
(付記12) 前記接着層を形成する工程は、チオール基を含むシランカップリング剤を第1の電極の表面に塗布することを特徴する付記11記載の検出素子の製造方法。
(付記13) 前記他の接着層を形成する工程は、アミノ基を含むシランカップリング剤を第1の基板の第1の電極側の表面に塗布することを特徴する付記11記載の検出素子の製造方法。
(付記14) 前記1の基板と第2の基板との貼合工程は、150℃〜450℃の範囲に設定して貼合することを特徴とする付記11記載の検出素子の製造方法。
(付記15) 前記工程基板上に第1の電極を選択的に形成する工程は、
前記工程基板に犠牲膜を形成する処理と、
前記犠牲膜の表面に選択的に開口部を形成する処理と、
前記開口部に第1の電極材料を充填する処理と、を含み、
前記接着層を形成する工程は、前記犠牲膜および第1の電極材料の表面を覆うように形成することを特徴とする付記11記載の検出素子の製造方法。
(付記16) 付記1記載の検出素子と、
前記第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記検出素子の第1の電極に向けて光を照射する光照射手段と、
前記光照射手段から照射された光を受けて前記標的検出体が発光する光を検出する光検出手段と、を備える標的検出装置。
【0069】
(付記17) 前記第2の基板は透明基板材料からなり、
前記光照射手段あるいは光検出手段は、第2の基板を介して光を照射あるいは検出することを特徴とする付記16記載の標的検出装置。
【0070】
(付記18) 前記第2の電極は第1の基板の表面に、第1の電極から離隔して形成されてなることを特徴とする付記17記載の標的検出装置。
【0071】
(付記19) 第1の基板と、
前記第1の基板に第1の接着層を介して貼合された第2の基板と、
前記第1の基板および第2の基板のいずれか一方の、互いに貼合された面に形成され流路と、
前記流路内に設けられ、標的を捕捉可能な標的検出体が結合可能な第1の電極と第2の電極と、を備え、
前記第1の接着層はシラノール基およびアミノ基を含む分子を有する材料からなり、
前記第1の電極は、前記第1の基板の表面に第2の接着層を介して固着され、該第2の接着層がシラノール基およびチオール基を含む分子を有する材料からなる構造体。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る検出装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る検出素子の分解斜視図である。
【図3】基板接着層の一例を示す説明図である。
【図4】電極接着層の一例を示す説明図である。
【図5】(A)および(B)は標的を検出する説明図である。
【図6】印加電圧と蛍光強度との関係図である。
【図7】(A)〜(D)は検出素子の製造工程図(その1)である。
【図8】(A)〜(C)は検出素子の製造工程図(その2)である。
【符号の説明】
【0073】
10 標的検出装置
11 励起光源
12 光検出部
13 データ処理部
14 入出力部
15 記憶装置
16 電源
20 検出素子
21 基板
22 カバー
22a 流路(溝部)
22b 試料溶液供給口
22c 試料溶液排出口
23 基板接着層
24 電極接着層
25 Au電極
26 Pt電極
27a,27b 配線パターン
28a,28b パッド電極
29 試料溶液
30 標的検出体
31 相互作用部
32 発光部
33 結合部
36 標的
41 工程基板
42 犠牲膜
43 レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板に第1の接着層を介して貼合された第2の基板と、
前記第1の基板および第2の基板のいずれか一方の、互いに貼合された面に形成された流路と、
前記流路内に設けられた第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極に結合され、流路を流通する試料溶液中の標的を捕捉可能な標的検出体と、を備え、
前記第1の接着層はシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む材料からなり、
前記第1の電極は、第1の基板の表面に第2の接着層を介して固着され、該第2の接着層がシラノール基およびチオール基を有する分子を含む材料からなる検出素子。
【請求項2】
前記第2の基板は透明基板材料からなり、前記流路が第2の基板に形成された溝部と第1の基板の表面に画成されてなり、
前記第2の電極は第1に基板の表面に第1の電極から離隔して形成されてなることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の検出素子。
【請求項3】
工程基板上に第1の電極を選択的に形成する工程と、
前記第1の電極の表面にシラノール基およびチオール基を有する分子を含む接着層を形成する工程と、
前記第1の電極を接着層を介して第1の基板を接合する工程と、
前記第1の電極から工程基板を除去する工程と、
前記第1の基板の第1の電極側の表面にシラノール基およびアミノ基を有する分子を含む他の接着層を形成する工程と、
前記第1の基板と、流路が形成された第2の基板とを他の接着層を介して貼合する工程と、
前記流路内に第2の電極を形成する工程と、
前記第1の電極に標的を捕捉可能な標的検出体を結合させる工程と、を含む検出素子の製造方法。
【請求項4】
前記工程基板上に第1の電極を選択的に形成する工程は、
前記工程基板に犠牲膜を形成する処理と、
前記犠牲膜の表面に選択的に開口部を形成する処理と、
前記開口部に第1の電極材料を充填する処理と、を含み、
前記接着層を形成する工程は、前記犠牲膜および第1の電極材料の表面を覆うように形成することを特徴とする請求項3記載の検出素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の検出素子と、
前記第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記検出素子の第1の電極に向けて光を照射する光照射手段と、
前記光照射手段から照射された光を受けて前記標的検出体が発光する光を検出する光検出手段と、を備える標的検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−315955(P2007−315955A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146808(P2006−146808)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】