説明

検出素子

【課題】塩またはイオンの検出を精度よく、かつ長期にわたって安定して行い得る検出素子を提供すること。
【解決手段】検出素子100は、被検体液(被検体)151中の塩またはイオンを検出可能な検出部110を有し、検出部110は、作用電極(基部)121と、作用電極121に一端部が連結する主鎖と、主鎖から分岐し、塩またはイオンを構成するイオンを捕捉可能なイオン捕捉部を含む側鎖とを有する重合物とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目的イオンに対して選択的なイオン交換能を有する機能膜に、試料溶液(被検体)を接触させると、その膜電位は、試料溶液中に存在する目的イオンの活量の対数に対して、広範囲にわたって直線的に変化する。
このような機能膜をイオン感応膜として備えるイオンセンサ(検出素子)が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。このイオンセンサでは、イオン感応膜は、目的イオンを選択的に捕捉可能なイオノフォアを、可塑剤により熱可塑性樹脂中に分散させてなる。
【0003】
しかしながら、かかる構成のイオン感応膜は、その内部(熱可塑性樹脂)に試料溶液が移行して膨潤したり、温度変化等によってイオノフォアがイオン感応膜から溶出したり等する。その結果、イオンセンサの目的イオンに対する応答性が変動する。
また、試料溶液の浸透によりイオン感応膜が部分的に破壊されたり、イオンセンサから剥離したり等する可能性があり、長期間安定して使用することができない。
【0004】
さらに、熱可塑性樹脂に代えて硬化性樹脂を用いると、可塑剤との相溶性が不十分となり、イオン感応膜中のイオノフォアの量が減少する。その結果、イオンセンサの寿命安定性が不十分となるという問題がある。
このように、特許文献1に記載のイオンセンサは、イオン感応膜の構成上、高感度、寿命安定性等において何らかの問題を有する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−131273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、塩またはイオンの検出を精度よく、かつ長期にわたって安定して行い得る検出素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の検出素子は、被検体中の塩またはイオンを検出可能な検出部を有する検出素子であって、
前記検出部は、基部と、該基部上に設けられた反応層とを有し、
前記反応層は、前記基部に一端部が連結する主鎖と、該主鎖から分岐し、前記塩を構成するイオンまたは前記イオンを捕捉可能なイオン捕捉部を含む側鎖とを有する重合物を備えることを特徴とする。
これにより、塩またはイオンの検出を精度よく行うことができる。また、重合物の側鎖に、イオン捕捉部が結合していることにより、イオン捕捉部の反応層からの逸脱を確実に防止することができる。このため、検出素子が経時的に劣化(検出感度の低下)するのを好適に防止することができる。
【0008】
本発明の検出素子では、前記イオン捕捉部は、環状構造を有し、前記イオンの種類および/またはイオン径の違いに基づいて、前記環状構造内に前記イオンを捕捉する機能を有することが好ましい。
イオン捕捉部が環状構造(イオノフォア)を有することにより、各種イオンをより確実に捕捉し、保持することができる。その結果、検出素子による検出感度の向上を図ることができる。
【0009】
本発明の検出素子では、前記環状構造は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
かかる環状構造は、イオン捕捉能が極めて高い構造であることから好ましい。また、環(内側空間)の大きさや、環の柔軟性を調整し易く、かかる環状構造の合成を比較的容易に行うことができるという利点もある。
【0010】
本発明の検出素子では、前記イオン捕捉部は、さらに、前記環状構造内に捕捉された前記イオンに配位する配位構造を有することが好ましい。
これにより、環状構造内に捕捉されたイオンに対して、配位構造が配位することにより、イオンが蓋をされたような状態となり、環状構造内へ捕捉したイオンをより確実に保持することができる。
【0011】
本発明の検出素子では、前記配位構造は、前記環状構造と前記主鎖との間に位置することが好ましい。
これにより、イオンを捕捉した状態の環状構造が主鎖側に、折り畳まれて配位構造に配位する。すなわち、主鎖の近傍に、主鎖に沿ってイオンが捕捉された状態となる。このため、捕捉状態と非捕捉状態とを電気的に検出する場合には、主鎖に沿った電子移動が円滑に行われ、取り出される電流量の増大、すなわち、検出素子の検出感度の増大(向上)を図ることができる。
【0012】
本発明の検出素子では、前記イオン検出部を複数有することが好ましい。
これにより、同時に複数の塩またはイオンを検出することができる。
本発明の検出素子では、前記イオン検出部を複数有し、
複数の前記イオン検出部は、異なる種類の前記環状構造を備えることが好ましい。
これにより、一般的なイオン捕捉部を用いつつも、被検体中の単一の塩またはイオンの量を検出することができる。
【0013】
本発明の検出素子では、当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の電気的な特性の変化に基づいて検出するよう構成されていることが好ましい。
これにより、簡単な構成で塩またはイオンの検出を精度よく行うことができる。
【0014】
本発明の検出素子では、前記重合物は、電子の移動を補助する電子移動補助部を有することが好ましい。
重合物が電子移動補助部を有することにより、重合物の主鎖に沿った電子移動が円滑になされる。その結果、取り出される電流量のさらなる増大を図ること、すなわち、検出素子の検出感度の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の検出素子では、前記重合物は、前記電子移動補助部を前記主鎖から分岐する側鎖に有することが好ましい。
電子移動補助部が、酸素原子や窒素原子を含む側鎖を介して主鎖に連結すると、イオン捕捉部に捕捉されたイオンに配位することができる。これにより、イオン捕捉部にイオンをさらに確実に保持することができるという効果が得られる。
【0016】
本発明の検出素子では、当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の質量変化に基づいて検出するよう構成されていることが好ましい。
これにより、簡単な構成で塩またはイオンの検出を精度よく行うことができる。
【0017】
本発明の検出素子では、当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の屈折率の変化に基づいて検出するよう構成されていることが好ましい。
これにより、簡単な構成で塩またはイオンの検出を精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の検出素子を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の検出素子の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の検出素子を測定装置に装着した状態を示す模式図(斜視図)、図2は、図1に示す検出素子の一部を拡大して示す平面図、図3は、図2に示す検出素子のA−A線断面図、図4は、図3に示すA−A線断面図の部分拡大図である。なお、以下の説明では、図2中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」と言う。また、図3および図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0019】
図1に示す測定装置101は、検出素子100を接続して使用されるものであり、検出素子100で得られた電流値を解析する処理回路200を備えた演算装置210と、検出素子100を装着(接続)するコネクタ131と、処理回路200とコネクタ131とを接続する配線132とを有する。
検出素子100は、図2および図3に示すように、基板120上に、作用電極121、対向電極122および参照電極123を備える検出部110を複数有している。
各電極121、122、123は、それぞれ独立して、配線130、コネクタ131および配線132を介して、処理回路200と電気的に接続されている。また、検出素子100は、コネクタ131に着脱自在に接続可能となっている。
【0020】
基板120は、検出素子100を構成する各部を支持するものである。
基板120の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PES)、ポリイミド(PI)等の各種樹脂材料、石英ガラスのような各種ガラス材料、アルミナ、ジルコニアのような各種セラミックス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、各電極121、122および123の構成材料としては、それぞれ、例えば、金、銀、銅、白金またはこれらを含む合金のような金属材料、ITOのような金属酸化物系材料、グラファイトのような炭素系材料等が挙げられる。
【0021】
図2および図3に示すように、基板120上には、配線130を覆うように絶縁膜160が設けられている。この絶縁膜160には、複数の開口部165が形成されており、各開口部165において、一組の電極121、122および123が露出している。
また、作用電極121上には、後述する反応層(イオン感応層)140が設けられており、各開口部165の内側の部分が、検出部110を構成している。
【0022】
このような検出素子100では、図3に示すように、検出部(試料供給空間)110に、被検体液151を供給すると、反応層140と被検体液151とが接触する。これにより、被検体液151中のターゲット4が反応層140に捕捉される。ターゲット4が反応層140に捕捉(トラップ)されると、反応層140の電気的な特性が変化する。したがって、この電気的特性の変化に基づいて、被検体液151中の、ターゲット4の量を測定することができる。
この反応層140の電気的な特性の変化としては、例えば、作用電極121から取り出すことができる電流量が変化や、反応層140の抵抗値の変化等が挙げられる。
【0023】
ここで、被検体液151は、被検体(試料)が液体である場合には、そのまま、または、必要に応じて容量を調製(例えば希釈)することにより得られる。
液体の被検体としては、例えば、血液、尿、汗、リンパ液、髄液、胆汁、唾液等の体液や、生活排水、工業排水等の排水、プールの水、貯水タンク内の水等の貯留水、または、これらの液体に各種処理を施した処理済み液等が挙げられる。
【0024】
また、細胞、土壌、鉱物のような固体(固形)の被検体を用いる場合には、例えば、これを粉砕し、極性溶媒類に懸濁し、抽出することにより、被検体液151とすることができる。
抽出溶媒としては、水、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロピルアルコール(IPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル(MeCN)、炭酸プロピレン(PC)およびそれらの混合溶液等が挙げられる。
【0025】
本発明の検出素子100は、反応層140がターゲット4として、塩を構成するイオン、またはイオンを捕捉可能となっている。
このようなターゲット(捕捉対象物)4としては、例えば、例えば、Na、Kのようなアルカリ金属、Mg、Caのようなアルカリ土類金属等の金属イオン、または、無機塩および4級アンモニウム塩のような有機塩等を構成する前記金属イオンが挙げられる。
【0026】
さて、本実施形態の反応層140は、重合物3の集合体で構成されている。図4に示すように、各重合物3は、それぞれ、主鎖31と、第1の連結体321を介して主鎖31に連結するイオン捕捉部322と、第2の連結体341を介して主鎖31に連結する電子移動補助部342とを有している。そして、第1の連結体321およびイオン捕捉部322により第1の側鎖323が構成され、第2の連結体341および電子移動補助部342により第2の側鎖343が構成されている。
【0027】
主鎖31は、直鎖状をなし、その一端部において作用電極121に連結している。また、主鎖31は、第1の側鎖323や第2の側鎖343のような側鎖を任意の箇所に導入し得るように、後述するようなリビング重合で合成し得るものであるのが好ましい。
このような主鎖31としては、特に限定されないが、リビング重合による合成し易さを考慮した場合、その主骨格が、炭化水素鎖(特に、飽和炭化水素鎖)で構成されるものが好適に用いられる。
【0028】
イオン捕捉部322は、ターゲット4であるイオン自体、またはターゲット4である塩を構成するイオンを高い選択性で捕捉する機能を有する。
イオン捕捉部322としては、例えば、前記イオンの種類および/またはイオン径の違いに基づいて、内側空間に前記イオンを捕捉する環状構造(イオノフォア)、前記イオンと電気的に結合するSO基、CO基、PO4基、NH基のようなイオン性基等を有するものが挙げられるが、特に、イオノフォアを有するものが好ましい。イオン捕捉部322としてイオノフォアを有するものを用いることにより、各種イオンを、その種類および/またはイオン径の違いに基づいて、より確実に捕捉し、保持することができる。その結果、検出素子100による検出感度の向上を図ることができる。
【0029】
また、このイオノフォア(環状構造)としては、例えば、酸素原子、窒素原子および硫黄原子のうちの少なくとも1種を含むもの(すなわち、メチレン基同士を、酸素原子、窒素原子または硫黄原子で結合したもの)、メチレン基のみで構成されたもの(炭化水素環)等が挙げられるが、特に、メチレン基同士を、酸素原子、窒素原子または硫黄原子(ヘテロ原子)で結合したものが好ましい。このようなイオノフォアは、イオン捕捉能が極めて高い構造であることから好ましい。また、環(内側空間)の大きさや、環の柔軟性を調整し易く、かかるイオノフォアの合成を比較的容易に行うことができるという利点もある。
このようなヘテロ原子を含むイオノフォアとしては、例えば、下記化1で表されるクラウンエーテル系、下記化2で表されるプロピレングリコール系、下記化3で表されるアザクラウン系、下記化4で表されるスルフィド系(チオエーテル系)等のものが挙げられる。
【0030】
【化1】

[(a)および(b)の式中、nは1−4の整数を示す。(c)の式中、それぞれnは0−2、mは0−2の整数を示す。]
【0031】
【化2】

[式中、nは1−3の整数を示す。]
【0032】
【化3】

[各式中、nは1−4の整数を示す。]
【0033】
【化4】

[式中、nは1−4の整数を示す。]
【0034】
ここで、n数が増えれば、環状構造(内側空間のサイズ)が大きくなり、捕捉し得るイオンの径も増大する傾向を示す。また、環状構造内にアリール基や不飽和結合等が含まれると、環状構造の柔軟性が低下する傾向を示す。
具体的には、例えば、nが3の上記化1(a)で表されるイオノフォアは、被検体液151中に含まれる溶媒(以下、「測定溶媒」という。)がMeCNの場合、Liイオン、Naイオンを、測定溶媒がPCの場合、Naイオンを、測定溶媒がMeOHの場合、Naイオン、Kイオンを選択的に捕捉する。また、nが3の上記化1(b)で表されるイオノフォアは、測定溶媒がMeCNの場合、Naイオンを、測定溶媒がPCの場合、Naイオン、Kイオンを、測定溶媒がMeOHの場合、Naイオンを選択的に捕捉する。また、n、mがそれぞれ1の上記化1(c)で表されるイオノフォアは、測定溶媒がMeCNの場合、Kイオンを、測定溶媒がPCの場合、Naイオン、Kイオンを、測定溶媒がMeOHの場合、Kイオン、Rbイオンを、測定溶媒が水の場合は、Kイオンを選択的に捕捉する。
【0035】
イオン捕捉部322は、環状構造(イオノフォア)を有する場合、さらに、環状構造内に捕捉されたイオンに配位する配位構造を有するのが好ましい。環状構造内に捕捉されたイオンに対して、配位構造が配位することにより、イオンが蓋をされたような状態となり、環状構造内へ捕捉したイオンをより確実に保持することができる。
また、環状構造と配位構造とにより、より大きいサイズの空間を確保することができる。このため、環状構造のサイズを大きくすることなく、イオン捕捉部322において、より大きいサイズのイオンが捕捉可能となる。
【0036】
また、配位構造は、イオン捕捉部322の末端(主鎖31と反対側の端部)にあってもよいが、環状構造と主鎖31との間(すなわち、第1の側鎖323の途中)に位置するのが好ましい。これにより、イオンを捕捉した状態の環状構造が主鎖31側に、折り畳まれて配位構造に配位する。すなわち、主鎖31の近傍に、主鎖31に沿ってイオンが捕捉された状態となる。このため、本実施形態では、主鎖31に沿った電子移動が円滑に行われ、作用電極121から取り出される電流量の増大、すなわち、検出素子100の検出感度の増大(向上)を図ることができる。
かかる配位構造を有するイオン捕捉部322の具体例としては、例えば、下記化5、化6等が挙げられる。なお、これは、一例であり、配位構造部分に含まれる酸素原子を、例えば、窒素原子、リン原子等の他の非共有電子対を有する原子に変更してもよい。
【0037】
【化5】

[式中、Xは、独立してO、NまたはSを示し、nは1−4の整数を示し、mは1−6の整数を示す。]
【0038】
【化6】

[式中、Xは、独立してO、NまたはSを示し、nは1−4の整数を示す。]
【0039】
主鎖31に結合するイオン捕捉部322の数は、特に限定されないが、2〜40程度であるのが好ましく、5〜20程度であるのがより好ましい。イオン捕捉部322がかかる個数で主鎖31に結合していると、ターゲット4を十分かつ確実に反応層140に捕捉することができる。
一方、電子移動補助部342は、作用電極121から電流を取り出す際に、反応層140における電子の移動を補助する機能を有する。このため、重合物3が電子移動補助部342を有することにより、反応層140における電子移動が円滑になされる。その結果、作用電極121から取り出される電流量のさらなる増大を図ること、すなわち、検出素子100の検出感度の向上を図ることができる。
この電子移動補助部342としては、例えば、フェロセン、ポルフィリン、フタロシアニン、メチレンブルー等が挙げられる。
【0040】
また、電子移動補助部342と主鎖31とは、直接連結していてもよいが、第2の連結体341を介して連結しているのが好ましい。
この第2の連結体341としては、例えば、−(CHNH−、−(CHO−、−(OC)NH−、−(OC)O−、−(CHO(CHNH−、−(CHO(CHO−等が挙げられる。これらの第2の連結体341は、酸素原子や窒素原子を含むため、前記イオン捕捉部322に捕捉されたイオンに配位することができる。これにより、イオン捕捉部322にイオンをさらに確実に保持させることができる。なお、前記mおよびnは、それぞれ1以上の任意の整数を示す。
【0041】
主鎖31に結合する電子移動補助部342の数は、特に限定されないが、1〜20程度であるのが好ましく、5〜10程度であるのがより好ましい。電子移動補助部342がかかる個数で主鎖31に結合していると、作用電極121から取り出すことができる電流量をより大きくすることができる。
なお、電子移動捕捉部342は、必要に応じて設けるようにすればよく、省略することができる。
【0042】
第1の側鎖323および第2の側鎖343は、主鎖31から分枝し、それぞれ、その端部に、第1の連結体321および第2の連結体341を介して、イオン捕捉部322および電子移動補助部342が連結している。
このような第1の側鎖323および第2の側鎖343において、第1の連結体321および第2の連結体341は、これらを構成する原子のうち、直鎖状に連結する炭素原子の個数、すなわちイオン捕捉部322および電子移動補助部342と主鎖31との間に存在する炭素数が、それぞれ、2〜20程度であるのが好ましく、5〜10程度であるのがより好ましい。これにより、主鎖31とイオン捕捉部322および電子移動補助部342との間の離間距離を、それぞれ、適度に維持した状態で、イオン捕捉部322および電子移動補助部342を主鎖31に連結することができる。
【0043】
このような重合物3の作用電極121に結合している密度は、0.5〜10nm2/個程度であるのが好ましく、1〜5nm2/個であるのがより好ましい。作用電極121に結合する重合物3の個数を前記範囲とすることにより、必要かつ十分なターゲット4を捕捉することができる。
このように作用電極121に結合する重合物3の側鎖に、イオン捕捉部322が結合していると、イオン捕捉部322の反応層140からの逸脱を確実に防止することができる。このため、検出素子100の経時的な劣化(検出感度の低下)を好適に防止することができる。
このような検出素子100では、例えば、図4(a)に示すように、重合物3の周囲に、ターゲット4が存在しない場合には、イオン捕捉部322同士、電子移動補助部342同士またはイオン捕捉部322と電子移動補助部342との相互作用によって、重合物3(主鎖31)が収縮した状態となっている。
【0044】
一方、図4(b)に示すように、ターゲット4が、それぞれ重合物3のイオン捕捉部322に捕捉されると、ターゲット4同士の反発力により、重合物3(主鎖31)が伸張した状態となる。そして、捕捉されたターゲット4の種類や量等、全体としての荷電量の違いにより、作用電極121から異なる電流値が得られる。
なお、本実施形態では、ターゲット4を捕捉した捕捉状態と、捕捉していない非捕捉状態において作用電極121から取り出される電流値の違いを検出するが、捕捉状態および非捕捉状態では、反応層140の質量(重量)、層厚(膜厚)が変化するため、これを検出するようにしてもよい。後者のように構成された検出素子については、後の実施形態(第3および第4実施形態)において説明する。
また、以上のような重合物3の製造方法(合成方法)については、後に詳述する。
【0045】
対向電極122は、作用電極121との間に電圧を印加する電極である。検出部110に被検体液151を供給した状態で、作用電極121と対向電極122との間に、作用電極121側が高電位となるように電圧を印加すると、イオン捕捉部322にターゲット4が捕捉されたか否か、または捕捉されたターゲット4の量に応じて、作用電極121から異なる電流値が検出される。
また、対向電極122の面積は、作用電極121の1.5倍以上であるのが好ましく、10倍以上であるのがより好ましい。これにより、より高い精度で電流値を測定することができる。
【0046】
参照電極123は、対向電極122との間に電圧を印加する電極である。検出部110に被検体液151を供給した状態で、参照電極123と対向電極122との間に電圧を印加する。そして、これらの電極間に流れる電流値と、前述の作用電極121と対向電極122との間に流れる電流値とを比較することにより、イオン捕捉部322が捕捉したターゲット4に基づく電流値の変化を、より高い精度で検出(測定)することができる。
【0047】
参照電極123の構成材料としては、上述した材料の他、例えば、銀−塩化銀、水銀−硫酸水銀等を用いることもできる。
また、前述の作用電極121、対向電極122、参照電極123、および配線130は、導電性材料粉末の集合体で構成されているのが好ましい。これにより、これらの電極および配線を、各種印刷法を用いて容易に形成することができる。その結果、検出素子100の製造工程を大幅に簡素化することができ、検出素子100の低コスト化を図ることができる。
【0048】
絶縁膜160は、前述したように、開口部165を有し、この開口部165内に被検体液151が供給される。
この絶縁膜160の平均厚さは、特に限定されないが、10〜5000nm程度であるのが好ましく、50〜1000nm程度であるのがより好ましい。絶縁膜160の厚さを前記範囲とすることにより、各電極121、122、123同士および配線130同士を、確実に絶縁することができる。
【0049】
次に、図1に示す検出素子100の製造方法(特に、反応層140の形成方法)について説明する。
図5は、図1に示す検出素子の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0050】
<1> まず、基板120を用意し、図5(a)に示すように、この基板120上に、作用電極121、対向電極122、参照電極123および配線130を形成する。
これらの電極および配線は、次のようにして形成することができる。
まず、基板120上に金属膜(金属層)を形成する。
これは、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0051】
次に、この金属膜上に、フォトリソグラフィー法により、電極および配線の形状に対応する形状のレジスト層を形成する。このレジスト層をマスクとして用いて、金属膜の不要部分を除去する。
この金属膜の除去には、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウェットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
その後、レジスト層を除去することにより、目的とする電極および配線が得られる。
なお、これらの電極および配線は、それぞれ、例えば、導電性粒子を含有するコロイド液(分散液)、導電性ポリマーを含有する液体(溶液または分散液)等の液状材料を基板50上に供給して被膜を形成した後、必要に応じて、この被膜に対して後処理(例えば加熱、赤外線の照射、超音波の付与等)を施すことにより形成することもできる。
【0053】
このような液状材料を基板120上に供給する方法としては、例えば、ディッピング法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、特に、インクジェット法(液滴吐出法)を用いるのが好ましい。インクジェット法(液滴吐出法)によれば、目的とする電極および配線を、容易かつ寸法精度よく形成することができる。
【0054】
<2> 次に、図5(b)に示すように、開口部165を有する絶縁膜160を形成する。
この絶縁膜160は、例えば、有機絶縁性材料(例えばフォトポリマー)を用いて、フォトリソグラフィー法により形成することができる。また、有機絶縁性材料を液滴吐出法により、目的とする絶縁膜160のパターンで吐出して形成するようにしてもよい。
なお、絶縁膜160は、無機絶縁性材料を用いて、前記電極および配線と同様にして形成することもできる。
【0055】
<3> 次に、図5(c)に示すように、作用電極121上に反応層140を形成する。ここでは、重合物3として図6に示すものを、リビング重合法を用いて形成(生成)する場合を一例に説明する。
図7〜図9は、それぞれ、反応層(重合物)の形成を説明するための模式図である。なお、以下の説明では、図7〜図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0056】
<3A> まず、後述する触媒により活性化される化学結合と、作用電極121に化学結合する結合性基Xとを有する下記化合物(A)を重合開始剤37として用意する。
【0057】
【化7】

【0058】
ここで、作用電極121がAu、Ag、PtまたはCu等の金属材料、またはこれらを含む合金で構成される場合には、結合性基Xには、例えば、チオール基(SH基)、ジスルフィド基(−SS−基)、モノスルフィド基(−S−基)、カルボキシル基(−COOH基)等が選択される。
一方、作用電極121が酸化物材料で構成される場合、結合性基Xには、例えば、シラノール基を生成する加水分解基であるアルコキシシリル基、ハロゲノシリル基等が選択される。
【0059】
例えば、結合性基XがSH基の場合、このSH基を作用電極121の上面に反応させる。これにより、重合開始剤37が作用電極121上に、金属−チオール結合(−S−)を介して結合(連結)する。
これは、例えば、上記化合物(A)で表される重合開始剤37を含む溶液を、作用電極121の上面に選択的に接触させること等により行うことができる。なお、この溶液を作用電極121の上面に選択的に接触させる方法には、各種液相成膜法が用いられるが、中でも液滴吐出法が好適に用いられる。
このような工程により、図7に示すように、重合開始剤37が、作用電極121の上面に固定化(固相化)される。
【0060】
<3B> 次に、イオン捕捉部322を有する第1のモノマーを用意する。
この第1のモノマーが有する重合基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基のような炭素−炭素2重結合を含むもの、ノルボルニル基、エポキシ基、オキセタニル基等の開環反応を生起するもの等が挙げられるが、比較的重合活性が高く、安価という点等では、(メタ)アクリロイル基を含むモノマーを用いることが好ましい。
この第1のモノマーの具体例としては、例えば、下記化学式(B)で表される化合物等が挙げられる。
【0061】
【化8】

[式中、Trapは、イオン捕捉部322を表す。また、Rは、水素原子またはメチル基を、Rは、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。]
【0062】
これらのうち、例えば、イオン捕捉部322を含む前記化学式(B)で表される化合物は、例えば、以下に示すようにして合成することができる。
まず、ジクロロメタン(DCM)中にイオン捕捉部322(イオノフォア)を溶解した後、NaFe(CO)を添加して混合した後、酸素ガスを供給することにより、イオン捕捉部322の一部に水酸基を導入する。
このとき、イオン捕捉部322に水酸基を導入する際の反応条件としては、反応温度を0℃とし、反応時間を30分間とする。
【0063】
次に、水酸基が導入されたイオン捕捉部322を、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等のエーテル中に溶解する。そして、これにより得られる溶液中に、ピリジン、トリメチルアミンまたはジメチルアミン等の塩基性触媒を添加し、その後、置換または無置換の塩化アクリロイルを添加することにより、イオン捕捉部322の末端に置換または無置換のアクリロイル基を導入する。
以上のようにして、イオン捕捉部322を含む前記化学式(B)で表される化合物(第1のモノマー)が得られる。
【0064】
[3C] 次に、電子移動補助部342を有する第2のモノマーを用意する。
この第2のモノマーが有する重合基としては、前記第1のモノマーと同様の理由から、(メタ)アクリロイル基を含むものが好ましい。
この第3のモノマーの具体例としては、例えば、下記化学式(C)で表される化合物等が挙げられる。
【0065】
【化9】

[式中、Mediは、電子移動補助部342を表す。また、Rは、水素原子またはメチル基を、Rは、メチレン基またはエチレン基をそれぞれ表す。]
【0066】
これらのうち、例えば、電子移動補助部342を含む前記化学式(C)で表される化合物は、Trap(イオン捕捉部322)に代えてMedi(電子移動補助部342)を用意する以外は、イオン捕捉部322を含む前記化学式(B)で表される化合物と同様にして合成することができる。
【0067】
[3D] 次に、作用電極121の上面に固定化された重合開始剤37(前記化学式(A)で表される化合物)を基点として、第1のモノマーおよび第2のモノマーを、交互またはランダムにリビング重合(特に、原子移動ラジカル重合:ATRP)により重合させて重合物3を合成する。
このリビング重合は、触媒を含む溶液を、例えば、開口部165内に供給した後、この溶液に、第1のモノマーおよび第2のモノマーを同時にまたは順次に添加すること等により行うことができる。
【0068】
触媒には、重合体の生長過程において、生長末端を活性化とすることができるものであればよく、例えば、遷移金属のハロゲン化物、水酸化物、酸化物、アルコキシド、シアン化物、シアン酸塩、チオシアン酸塩、アジド化物等が挙げられるが、ビピリジル、ホスフィン、一酸化炭素等の遷移金属の配位子として一般的なものを有する遷移金属錯体でもよい。これらのうち遷移金属のハロゲン化物を主成分とするものが好適である。遷移金属のハロゲン化物を主成分とする触媒は、リビング重合に適したものであることから好ましい。また、比較的安価かつ入手が容易であり、また取り扱いが容易であることからも好ましい。
また、遷移金属としては、例えば、Cu、Fe、Au、Ag、Hg、Pd、Pt、Co、Mn、Ru、Mo、NbおよびZn等が挙げられる。
【0069】
重合物3の合成の反応場として用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールのようなアルコール類、o−ジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。
重合開始剤37および触媒の存在下で、第1のモノマーを作用させることにより、まず重合開始剤37に含まれる結合が触媒により活性化され、第1のモノマーと化合し、重合開始剤37の、触媒により活性化された結合に含まれる原子が第1のモノマー側に移動し、触媒により活性化される結合が生長末端として再生する。
【0070】
例えば、第1のモノマーとして前記化学式(B)で表される化合物を用い、触媒としてCuBrを用いることにより、図8に示すように、重合開始剤37に第1のモノマーが化合するとともに、先端部(上端部)に生長末端が形成される。
また、前記溶液に第2のモノマーを添加すると、前述したのと同様にして、第1のモノマーに第2のモノマーが化合する。
例えば、第2のモノマーとして前記化学式(C)で表される化合物を用いることにより、図9に示すように、第1のモノマーに第2のモノマーが化合するとともに、先端部(上端部)に生長末端が形成される。
【0071】
ここで、リビング重合では、重合物3の生長過程において、生長末端が常に重合活性を有するため、モノマーが消費され、重合反応が停止した後、新たにモノマーを加えると重合反応がさらに進行する。
したがって、反応系に供給するモノマーの量を変化させることによって、重合部3中のイオン捕捉部322と電子移動補助部342との数を精度よく制御することができる。これにより、所望の分子構造を有する重合物3を作用電極121の上面に、簡単な工程で形成することができる。また、得られる重合物3同士の間における特性のバラツキを抑えることができる。
【0072】
前記溶液(反応液)は、重合反応を開始する前に、脱酸素処理を行っておくのが好ましい。脱酸素処理としては、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスによる真空脱気後の置換やパージ処理等が挙げられる。
また、重合反応に際して、上記の溶液の温度を所定の温度(各モノマーおよび触媒が活性化する温度)まで加熱(加温)することにより、各モノマーの重合反応をより迅速かつ確実に行うことができる。
【0073】
この加熱の温度は、イオン捕捉部322および電子移動補助部342の耐熱温度や触媒の種類等によっても若干異なり、特に限定されないが、20〜50℃程度であるのが好ましい。また、加熱の時間(反応時間)は、加熱の温度を前記範囲とする場合、10〜20時間程度であるのが好ましい。
以上の工程により、図1に示す検出素子100が得られる。
【0074】
次に、このような検出素子100の使用方法、すなわち、被検体中のターゲット4の量を検出する方法について説明する。なお、ここでは、ターゲット4がイオンである場合を一例に説明する。
<I> まず、評価に供する被検体液151、すなわち、ターゲット4を含有する被検体液151を調製する。
【0075】
<II> 次に、検出素子100を用意し、各検出部(ウェル)110内に、被検体液151を注入(供給)する。
各検出部110内に被検体液151を供給すると、被検体液151中にターゲット(イオン)4が含まれている場合には、図4(b)に示すように、このターゲット4がイオン捕捉部322に捕捉される。
【0076】
<III> 次に、この状態で、作用電極121から取り出される電流値を検出(測定)する。これにより、被検体液151中(すなわち、被検体中)に、対象とするイオンが存在するか否か、さらには、例えば予め測定された検量線やテーブルに基づいてイオンの量を求めることができる。
また、各イオン捕捉部322は、一般的に、単一のイオンを特異的に捕捉するものは極めて少ない。そこで、一般的なイオン捕捉部322を用いつつも、次のような手法により、被検体液151中の単一のイオンの量を検出することができる。
【0077】
図10は、単一のイオンの量を検出する方法を説明するための図である。なお、図10中の「○」は、イオンが検出されたことを示し、「×」は、イオンが検出されていないことを示す。また、イオン径は、A<B<Cであるものとして説明する。
また、図10に示す例では、右に向かって順に環状構造の内側空間が大きくなり、下に向かって順に環状構造の柔軟性が低下するように、各検出部110a〜110iにおいて、反応層140が備えるイオン捕捉部322(イオノフォア)の種類が異なっている。
【0078】
まず、イオンを含まないサンプルを用いると、図10(a)に示すように、全ての検出部110a〜110iにおいて「×」となる。
また、Aイオン、Bイオン、Cイオンのうちの少なくとも1つを含むサンプルを用いると、図10(b)〜図10(h)に示すように、特定の検出部が「○」となる。
例えば、Aイオンのみ含むサンプルを用いると、検出部110a〜110dおよび110fにおいて「○」となる。
【0079】
実際の被検体液151において、図10(e)のパターンが検出されれば、この被検体液151中には、AイオンおよびBイオンが存在することが判る。そして、Aイオンの量を検出するためには、Aイオンのみを含むサンプルで「○」となっており、Bイオンのみを含むサンプルで「○」となっていない検出部、具体的には、検出部110a、110bおよび110fにおいて検出された電流値に基づいて、Aイオンの量を求めるようにすればよい。一方、Bイオンの量を求める際には、検出部110eおよび110hにおいて検出された電流値に基づいて、Bイオンの量を求めるようにすればよい。
【0080】
<第2実施形態>
次に、検出素子の第2実施形態について説明する。
以下、第2実施形態の検出素子について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図11は、第2実施形態の検出素子が有する検出部を示す縦断面図である。なお、以下では、図11中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0081】
図11に示す検出素子100Aは、半導体基板120Aと、各検出部110Aを分離するトレンチ素子分離構造111Aとを有している。
また、半導体基板120Aの一方の面には、トレンチ素子分離構造111Aの内側に、互いに離間したソース領域131Aおよびドレイン領域132Aとが設けられている。
ソース領域131Aに接触するように、ソース電極141Aが、ドレイン領域132Aに接触するように、ドレイン電極142Aがそれぞれ設けられている。
【0082】
また、ソース領域131Aおよびドレイン領域132Aに接触するように、ゲート絶縁膜133Aが設けられている。
そして、ソース電極141A、ドレイン電極142Aおよびゲート絶縁膜133Aを覆うように、絶縁膜150Aが設けられている。
また、ゲート絶縁膜133Aに対応する開口部165Aを有する絶縁膜160Aが設けられている。
そして、開口部165A内の絶縁膜(基部)150Aの上面には、反応層140Aが設けられている。
【0083】
半導体基板120Aは、例えば、シリコン等のp型半導体材料で構成されている。この場合、ソース領域131Aおよびドレイン領域132Aには、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のn型不純物が注入される。
ソース電極141Aおよびドレイン電極142Aは、それぞれ、例えば、Al、Ni、Cu、Pd、Au、Ptのような金属またはこれらを含む合金等の導電性材料で構成されている。
また、ゲート絶縁膜133Aおよび絶縁膜150Aは、それぞれ、例えば、SiO、Si等の絶縁材料で構成されている。
【0084】
絶縁膜160Aおよび反応層140Aは、それぞれ、前記第1実施形態の絶縁膜160および反応層140と同様の構成とすることができ、前記第1実施形態と同様にして形成することができる。
ここで、絶縁膜150AをSiで構成する場合、その上面には、酸化処理を施すようにする。これにより、絶縁膜150Aの上面をSiOとすることができる。このため、結合性基Xとしてシラノール基が生成する加水分解基等を有する重合開始剤37を用いることにより、絶縁膜150Aの上面に結合した重合物3を形成(合成)することができる。
【0085】
このような検出素子100Aでは、検出部110Aに被検体液151を供給すると、被検体液151中にイオンや塩が存在する場合、これらがイオン捕捉部332に捕捉される。これにより、捕捉されたイオンの種類や量に応じて、ゲート絶縁膜133Aの上面に励起されるキャリア量(濃度)が変化する。その結果、ソース電極141Aとドレイン電極142Aとの間に流れる電流値、すなわち、ドレイン電極142Aから取り出すことができる電流値が変化する。
【0086】
<第3実施形態>
次に、検出素子の第3実施形態について説明する。
以下、第3実施形態の検出素子について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図12は、第3実施形態の検出素子が有する検出部の平面図、図13は、図12中のB−B線断面図である。なお、以下では、図12中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0087】
第3実施形態の検出素子100Bは、非捕捉状態と捕捉状態との違いを、反応層140の電気的な特性の変化に基づいて検出するのに代えて、反応層140Bの質量変化に基づいて検出するよう構成した以外は、前記第1実施形態の検出素子100と同様である。
すなわち、図12および図13に示す検出素子100Bは、各検出部110Bに圧電素子130Bが設けられている。
【0088】
圧電素子130Bは、平板状の圧電体131Bと、その両側の面にそれぞれ設けられた上電極132B、下電極133Bとで構成されている。各電極132B、133Bは、それぞれ独立して、配線142B、配線143Bを介して、処理回路200と電気的に接続されている。
また、基板120Bには、凹部121Bが設けられている。この凹部121Bに下電極133B(および上電極132B)が対応するように、圧電体131Bの縁部が基板120Bに固定(固着)されている。
【0089】
各電極132Bおよび133Bの構成材料としては、それぞれ、前記作用電極121と同様の材料を用いることができる。
圧電体131Bの材料としては、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムおよびホウ酸リチウム等の圧電材料を用いることができる。なお、これらの材料は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、積層体として)用いることができる。
【0090】
また、絶縁膜160Bは、開口部165Bを有し、この開口部165Bから上電極132Bが露出している。
そして、上電極132Bの上面には、反応層140Bが設けられている。
絶縁膜160Bおよび反応層140Bは、それぞれ、前記第1実施形態の絶縁膜160および反応層140と同様の構成とすることができ、前記第1実施形態と同様にして形成することができる。
【0091】
このような検出素子100Bでは、検出部110Bに被検体液151を供給すると、被検体液151中にイオンや塩が存在する場合、これらがイオン捕捉部332に捕捉される。これにより、捕捉されたイオンの種類や量に応じて、反応層140Bの質量に変化が生じ、これに起因して、圧電素子130Bから検出される振動数も変化する。この変化を検出することにより、被検体中のターゲット4の量を検出(測定)することができる。
【0092】
<第4実施形態>
次に、検出素子の第4実施形態について説明する。
以下、第4実施形態の検出素子について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
図14は、第4実施形態の検出素子が有する検出部を示す縦断面図、図15は、図14に示す検出素子が適用される測定装置の構成を示す模式図(斜視図)である。なお、以下では、図14および図15中の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
【0093】
第4実施形態の検出素子100Cは、非捕捉状態と捕捉状態との違いを、反応層140の電気的な特性の変化に基づいて検出するのに代えて、反応層140Cの屈折率の変化に基づいて検出するよう構成した以外は、前記第1実施形態の検出素子100と同様である。
すなわち、図14に示す検出素子100Cは、金属基板120Cと、開口部165Cを有する絶縁膜160Cと、金属基板120Cの絶縁膜160C(開口部165C)から露出する上面に設けられた反応層140Cとを有している。そして、反応層140Cの膜厚(重合物3の長さ)が変化することに起因する反応層140Cの変化に基づいて、被検体(被検体液151)中のターゲット4の量を検出し得るよう構成されている。
金属基板120Cの構成材料としては、前記作用電極121と同様の材料を用いることができる。
【0094】
また、絶縁膜160Cは、開口部165Cを有し、この開口部165Cから反応層140Cが露出している。
絶縁膜160Cおよび反応層140Cは、それぞれ、前記第1実施形態の絶縁膜160および反応層140と同様の構成とすることができ、前記第1実施形態と同様にして形成することができる。
【0095】
このような検出素子100Cの測定に用いる測定装置101Cは、検出素子100Cを載置・固定する載置部102Cと、検出素子100Cの上面に配置されるプリズム(光路変更手段)103Cと、検出素子100Cに光を照射する投光手段(照射手段)104Cと、検出素子100Cからの光を受光する受光手段105Cと、受光手段105Cで得られたデータ(例えば、画像データ)を解析する処理回路200を備えた演算装置210と、処理回路200と受光手段105Cとを接続する配線132とを有する。
【0096】
また、投光手段104Cは、光源1041と、凸曲面同士を対向配置した一対の平凸レンズ1042、1043と、これらのレンズに対して光源1041と反対側に設けられたピンホール板1044と、ピンホール板1044を透過した光を平行光にする平凸レンズ1045と、p偏光光を選択的に透過する偏光フィルタ1046とを有している。
一方、受光手段105Cは、配線132を介して演算装置210に接続されたCCDカメラ1051と、検出素子100Cからの光をCCDカメラ1051に導くための導光手段(レンズ系)1052と、導光手段1052のCCDカメラ1051と反対側に設けられた干渉フィルタ1053とを有している。
【0097】
また、投光手段104Cおよび受光手段105Cは、それぞれ、図15に示すように、検出素子100C(プリズム103C)に対して回動し得るように設けられている。これにより、投光手段104Cからの任意の角度の光を受光手段105Cに受光し得るよう構成されている。
このような検出素子100Cおよび測定装置101Cでは、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)を利用して、被検体液151中のターゲット4の量を検出(測定)することができる。これは、次のような原理に基づくものである。
【0098】
すなわち、投光手段104Cから発せられた光は、プリズム103Cと反応層140Cとの界面でエバネッセント波が生じ、その波数は次式により定義される。
kev=k・n・sinθ
ここで、kは入射光の波数、nはプリズム103Cの屈折率、θは入射角である。
一方、金属基板120Cの表面(反応層140Cとの界面)では、表面プラズモン波が生じ、その波数は次式により定義される。
sp=(c/ω)・√(εn/(ε+n))
ここで、cは光速、ωは角振動数、εは金属基板120Cの誘電率、nは反応層140Cの屈折率である。
【0099】
このエバネッセント波と表面プラズモン波の波数が一致する入射角θのとき、エバネッセント波は、表面プラズモンの励起に使われ、例えば、図16に示すように、反射光として観測される光量が減少する。
SPR現象は、プリズム103Cおよび金属基板120Cに接した反応層140Cの屈折率に依存する。このため、例えば、反応層140Cの膜厚変化に基づく、反応層140Cの屈折率変化を測定することにより、反応層140C(重合物3)に捕捉されたターゲット4の検出(例えば定量)を行うことができる。
また、測定装置101Cを、図15に示すような構成とすることにより、複数の検出部110Cを一括して検出することができる。
【0100】
以上、本発明の検出素子を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。
例えば、本発明の検出素子では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】第1実施形態の検出素子を測定装置に装着した状態を示す模式図(斜視図)である。
【図2】図1に示す検出素子の一部を拡大して示す平面図である。
【図3】図2に示す検出素子のA−A線断面図である。
【図4】図3に示すA−A線断面図の部分拡大図である。
【図5】図1に示す検出素子の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】重合物の一例を示す模式図である。
【図7】反応層(重合物)の形成を説明するための模式図である。
【図8】反応層(重合物)の形成を説明するための模式図である。
【図9】反応層(重合物)の形成を説明するための模式図である。
【図10】単一のイオンの量を検出する方法を説明するための図である。
【図11】第2実施形態の検出素子が有する検出部を示す縦断面図である。
【図12】第3実施形態の検出素子が有する検出部の平面図である。
【図13】図12中のB−B線断面図である。
【図14】第4実施形態の検出素子が有する検出部を示す縦断面図である。
【図15】図14に示す検出素子が適用される測定装置の構成を示す模式図(斜視図)である。
【図16】図15に示す測定装置で観測される光量の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
100……検出素子 110、110a〜110i……検出部 120……基板 121……作用電極 122……対向電極 123……参照電極 140……反応層 151……被検体液 160……絶縁膜 165……開口部 100A……検出素子 110A……検出部 111A……トレンチ素子分離構造 120A……半導体基板 131A……ソース領域 132A……ドレイン領域 133A……ゲート絶縁膜 140A……反応層 141A……ソース電極 142A……ドレイン電極 150A……絶縁膜 160A……絶縁膜 165A……開口部 100B……検出素子 110B……検出部 120B……基板 121B……凹部 130B……圧電素子 131B……圧電体 132B……上電極 133B……下電極 140B……反応層 142B……配線 143B……配線 160B……絶縁膜 165B……開口部 100C……検出素子 110C……検出部 120C……金属基板 140C……反応層 160C……絶縁膜 165C……開口部 101……測定装置 130……配線 131……コネクタ 132……配線 200……処理回路 210……演算装置 101C……測定装置 102C……載置部 103C……プリズム 104C……投光手段 1041……光源 1042……平凸レンズ 1043……平凸レンズ 1044……ピンホール板 1045……平凸レンズ 1046……偏光フィルタ 105C……受光手段 1051……CCDカメラ 1052……導光手段 1053……干渉フィルタ 3……重合物 31……主鎖 321……第1の連結体 322……イオン捕捉部 323……第1の側鎖 343……第2の側鎖 341……第2の連結体 342……電子移動補助部 37……重合開始剤 4……ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体中の塩またはイオンを検出可能な検出部を有する検出素子であって、
前記検出部は、基部と、該基部上に設けられた反応層とを有し、
前記反応層は、前記基部に一端部が連結する主鎖と、該主鎖から分岐し、前記塩を構成するイオンまたは前記イオンを捕捉可能なイオン捕捉部を含む側鎖とを有する重合物を備えることを特徴とする検出素子。
【請求項2】
前記イオン捕捉部は、環状構造を有し、前記イオンの種類および/またはイオン径の違いに基づいて、前記環状構造内に前記イオンを捕捉する機能を有する請求項1に記載の検出素子。
【請求項3】
前記環状構造は、酸素原子、窒素原子および硫黄原子のうちの少なくとも1種を含む請求項2に記載の検出素子。
【請求項4】
前記イオン捕捉部は、さらに、前記環状構造内に捕捉された前記イオンに配位する配位構造を有する請求項2または3に記載の検出素子。
【請求項5】
前記配位構造は、前記環状構造と前記主鎖との間に位置する請求項4に記載の検出素子。
【請求項6】
前記イオン検出部を複数有する請求項1ないし5のいずれかに記載の検出素子。
【請求項7】
前記イオン検出部を複数有し、
複数の前記イオン検出部は、異なる種類の前記環状構造を備える請求項2ないし5のいずれかに記載の検出素子。
【請求項8】
当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の電気的な特性の変化に基づいて検出するよう構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の検出素子。
【請求項9】
前記重合物は、電子の移動を補助する電子移動補助部を有する請求項8に記載の検出素子。
【請求項10】
前記重合物は、前記電子移動補助部を前記主鎖から分岐する側鎖に有する請求項9に記載の検出素子。
【請求項11】
当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の質量変化に基づいて検出するよう構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の検出素子。
【請求項12】
当該イオン検出素子は、前記重合物が前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉していない非捕捉状態と、前記イオンを前記イオン捕捉部に捕捉した捕捉状態との違いを、前記反応層の屈折率の変化に基づいて検出するよう構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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