説明

検出装置及び検出方法

【課題】 圃場などの野外現場で誰でも容易・確実に果樹病原体を検出できる検出装置を提供する。
【解決手段】 果樹病原体に対し特異結合性を有する第1、第2の抗体を用意し、試料液体が滴下される滴下部11と、第1の抗体を有色粒子により標識したものを試料液体により湿潤された状態において流動可能に保持する標識区域12と、第2の抗体が固相される検出区域14とを、試料液体の流動方向において上流側から下流側に向けて順次連設し、検出区域とは異なる位置に対照区域を設ける。第1、第2の抗体は、果樹病原体を免疫した動物由来で抗体生産ハイブリドーマ細胞を得て、それを培養・精製して得た抗果樹病原体モノクローナル抗体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹病原体に適用する検出装置及び検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果樹病原体は、菌類、細菌、ウイルスに大別される。これらの果樹病原体が果樹体内あるいはその表面に存在(感染)している(陽性)か否か(陰性)を診断するために、抗原抗体反応を利用する技術がある。
【0003】
より具体的には、例えば、凝集や沈降を利用するもの、抗体にラテックスや酵素を標識するラテックス凝集法、ELISA(酵素抗体)法が知られている。
【0004】
果樹病原体には、樹体内の濃度が低く高感度検出できる方法でなければ、適用がないことが多い。例えば、温州萎縮ウイルス(SDV)に関して、ラテックス凝集法では検出が不可能であり、適用がない。そのため、現実には、ELISA法がデファクトスタンダードの検査法として定着している。
【0005】
しかしながら、ELISA法は、研究室などの施設にマイクロプレートリーダ等の高価で大規模な設備を設けないと事実上実施できない。しかも、検査結果が出るまでの一連のプロセスに、約20時間程度の長時間を要する。これでは、圃場など屋外の現場で生産者自ら短時間で検査結果を得るというようなことは絶望的である。
【0006】
すなわち、圃場などの野外の環境下においても、また誰でも容易にかつ確実に検出できる検出装置の開発が強く求められている。
【非特許文献1】「抗血清による動物ウイルス検定技術研修会テキスト」、社団法人日本植物防疫協会研究所、昭和61年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、イムノクロマトグラフィー法、就中、モノクローナル抗体の調製等に精通しており、この技術を応用することにより、かかる要請に応えようと鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
即ち本発明は、果樹病原体を、圃場などの野外の現場においても、また誰でも容易にかつ確実に検出できる検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る検出装置は、果樹病原体に対して、いずれも特異結合性を有する第1、第2の抗体を用意し、果樹病原体を含むと疑われる試料液体が滴下される滴下部と、第1の抗体を有色粒子により標識したものを試料液体により湿潤された状態において流動可能に保持する標識区域と、第2の抗体が固相される検出区域とを、試料液体の流動方向において上流側から下流側に向けて順次連設し、検出区域とは異なる位置に対照区域を設けてなる。
【0010】
この構成により、動物ではない果樹において、その病原体への感染を圃場など野外の現場で迅速・容易・しかも高感度に検出でき、病気の蔓延を防止することができる。例えば、農家等の生産者自身において、検査を行える。
【0011】
第1、第2の抗体は、いずれも果樹病原体を免疫した動物の器官から取り出した細胞と、この細胞とは異なる細胞とを融合して得た抗体生産ハイブリドーマ細胞を培養・精製して得た抗果樹病原体モノクローナル抗体であることが望ましい。
【0012】
この構成により、後述する実施例により明らかなように、検出感度を、従来のELISA法よりも数倍以上高めることができる。
【0013】
果樹病原体は、例えば、温州萎縮ウイルス(SDV)、あるいは、アグロバクテリウム・ツメファシェンス菌(At菌)である。
【0014】
この構成により、難防除病害とされている果樹病原体に対しても適用でき、病気の蔓延を予防し、果樹収量の向上に資することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イムノクロマトグラフィーの調製においてモノクローナル抗体を適用することにより、試料液体中に含まれる果樹病原体を、迅速、かつ簡便に、しかも高感度に、検出できる。その結果、病気の蔓延を予防し、果樹収量の安定化に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図1(a)は、本発明の一実施の形態における検査装置の平面図、図1(b)は、同側面図である。
【0017】
図1に示すように、本形態の検出装置は、短冊形状の多孔質坦体13(例えば、ニトロセルロース膜からなる。)を主として構成される。試料液体のクロマト的な流動方向に沿って、上流側から順に、滴下部11と標識区域12と検出区域14と対照区域15と吸液部16とが、連設される。
【0018】
多孔質坦体13あるいはその他の要素は、更に、プラスチック等よりなる基体に固定されて強度が付与されていてもよく、また、保護のために表面に透明なテープ等が貼られていてもよい。
【0019】
標識区域12は、保水性担体を含み、保水性担体は、第1の抗体であるモノクローナル抗体(B)を有色粒子により標識したものを液体試料により湿潤された状態において流動可能に保持する。
【0020】
保水性担体としては、例えば、ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレン等からなる不織布、あるいはセルロース、パルプ、ガラス繊維等からなる濾紙を挙げることができる。
【0021】
有色粒子としては、例えば、金、セレンからなる金属コロイド、あるいは、スチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーの単一重合体や共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体等に着色してなるラテックス微粒子を挙げることができる。これらのうち、抗体又は抗原の吸着性が優れ、かつ、生物学的活性を長期間安定に保持できる等の理由から、金コロイド、またはポリスチレン系のラテックス粒子が有色粒子として好適に用いられる。
【0022】
抗体を有色粒子に結合するには、例えば、物理的又は化学的な吸着法等によることができる。
【0023】
標識区域12には、更に、有色粒子に抗体等を固定した第2有色粒子標織物が含浸されていてもよい。このような第2有色粒子標織物は、マーカーとして用いることができる。
【0024】
検出区域14は、果樹病原体と抗原抗体反応を行う、第2の抗体としてのモノクローナル抗体(A)が多孔質坦体13上に固相化されてなる。
【0025】
固相化されたモノクローナル抗体(A)は、検体中の果樹病原体(X)を認識する。果樹病原体(X)が試料液体中に存在すれば、モノクロナール抗体(A)と果樹病原体(X)とモノクローナル抗体(B)と有色粒子とからなる複合体が生成され、モノクローナル抗体(A)が検出区域14に固相されているため、この複合体は、検出区域14に捕捉される。例えば、本形態のように、モノクローナル抗体(A)が検出区域14に線状に固相化されていれば、検出区域14が有色粒子により色づけされ、線状のサインがあらわれることになる。
【0026】
検出区域14は、モノクローナル抗体(A)を分散させた緩衝液を、ニトロセルロース膜に塗布し、乾燥することにより得ることができる。
【0027】
緩衝液としては、得られた検出装置の検出感度の点から、酢酸ナトリウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液等が好ましい。
【0028】
本形態では、対照区域15に、モノクローナル抗体(B)に対する抗体、有色粒子に対して特異的に結合する物質が固相化される。対照区域15の呈色の有無により、イムノクロマトグラフィー試験が正常に行われたかどうかを判定できる。
【0029】
以下に、温州萎縮ウイルス(SDV)およびアグロバクテリウム・ツメファシェンス菌(Agrobacteriumtumefaciens:本明細書において「At菌」という。)の検出について実施例をあげて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
実施例1において取り上げる果樹病原体は、温州萎縮ウイルス(SDV)である。以下、本発明に関し抗SDVモノクローナル抗体による実施例1はもとより、これに対する抗SDVポリクローナル抗体による比較例1〜3と、ELISA法による比較例4とについて説明する。
<実施例1>
実施例1では、抗SDVモノクローナル抗体を使用する。
【0031】
(抗SDVモノクローナル抗体の調製)
抗SDVモノクローナル抗体は、Kohler−Milstein(Nature,256,495−497,1975)の方法に準じて調製した。SDVを免疫したマウスの脾臓から抗体を産生する細胞を取り出し、別に用意したマウスの骨髄腫細胞(ミエローマ)と融合させ、抗SDVモノクローナル抗体4E6産生ハイブリドーマ細胞ならびに抗SDVモノクローナル抗体2G2産生ハイブリドーマ細胞を得た。それぞれのハイブリドーマ細胞を培養し、マウス腹腔内に注射し、腹水を得た。得られた腹水から、硫酸アンモニウム分画し、プロテインGカラム精製により、抗SDVモノクローナル抗体4E6ならびに抗SDVモノクローナル抗体2G2を得た。
【0032】
(標識成分の調製)
金コロイドは、G.Frens(Nature,241,20−22,1973)の方法に従い作製した。金コロイドの10mlに対し、抗SDVモノクローナル抗体4E6を40μg、室温にて混合し、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド(標識成分)を調製した。
【0033】
(標識区域12の調製)
抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイドをOD520=0.833に調製した。調製液をガラス繊維パッドにテスト当たり36μl塗布し、乾燥させ、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド塗布パッド(標識区域12)を調製した。
【0034】
(検出区域14の調製)
抗SDVモノクローナル抗体2G2を、多孔質坦体13であるニトロセルロースメンブレン(ミリポア社:SCHF(商標))の所定位置に、テスト当たり0.48μlでライン状に塗布し検出区域14を形成した。また、検出区域14の下流側に、抗マウス抗体を同様にテスト当たり0.48μlで塗布し、反応確認のための対照区域15を形成した。カゼイン溶液によるブロッキング処理を経て、抗SDVモノクローナル抗体固相化メンブレン(検出区域14の配置された多孔質担体13)を調製した。
【0035】
(検出装置の作製)
滴下部11としての濾紙、抗SDVモノクローナル抗体結合金コロイド塗布パッド、抗SDVモノクローナル抗体固相化メンブレン、吸液部16としての濾紙とを、それぞれの端部が3mmずつ重なるように、粘着剤付の樹脂上に貼付してSDVの検出装置を作製した。
【0036】
(反応性試験)
SDV感染樹および正常樹それぞれの新梢1グラムを10mlの0.1Mクエン酸緩衝液で磨砕し、遠心分離で上清を採取した。SDV感染樹サンプルについては、0.1Mクエン酸緩衝液で希釈系列を調製した。その100μlをSDV滴下部11へ滴下し、15分経過後、金コロイド粒子由来のライン(本例では赤紫色)出現を目視観察した。
<比較例1〜3>
比較例1〜3では、抗SDVポリクローナル抗体を用いる。
【0037】
(抗SDVポリクローナル抗体の調製)
常法により、SDVを家兎に免疫し、抗血清を得た。得られた抗血情から、硫酸アンモニウム分画、プロテインAカラム精製により、抗SDVポリクローナル抗体を得た。
【0038】
(標識成分の調製)
金コロイドは、G.Frens(Nature,241,20−22,1973)法に従い作製した。金コロイドの10mlに対し、抗SDVポリクローナル抗体を40μg、室温にて混合し、抗SDVポリクローナル抗体結合金コロイド(標識成分)を調製した。
【0039】
(標識区域12の調製)
抗SDVポリクローナル抗体結合金コロイドをOD520=0.208(比較例1)、0.416(比較例2)および0.833(比較例3)のもの3種類を調製した。それぞれの調製液をガラス繊維パッドにテスト当たり36μl塗布し、乾燥させ、抗SDVポリクローナル抗体結合金コロイド塗布パッド(標識区域12)を調製した。
【0040】
(検出区域14の調製)
抗SDVポリクローナル抗体をニトロセルロースメンブレン(ミリポア杜:SCHF(商標))にテスト当たり0.48μlでライン状に塗布し検出区域14を形成した。また、抗ウサギ抗体を同様にテスト当たり0.48μlで塗布し、反応確認のための対照区域15を形成した。カゼイン溶液によるブロッキング処理を経て、抗SDVポリクローナル抗体固相化メンブレン(検出区域14の配置された多孔質担体13)を調製した。
【0041】
(検出装置の作製)
滴下部11としての濾紙、抗SDVポリクローナル抗体結合金コロイド塗布バッド、抗SDVポリクローナル抗体固相化メンブレン、吸液部16としての濾紙とを、それぞれの端部が3mmずつ重なるように、粘着剤付の樹脂上に貼付してSDVの検出装置を作製した。
【0042】
(反応性試験)
比較例1にて作製したSDVの検出装置に対して実施例1と同様に反応性試験を行った。
<比較例4>
比較例4は、抗SDVポリクローナル抗体を用いるELISA法に関する。なお、比較例4では、(社)日本植物防疫協会製、SDV検定用試薬を用いた。
【0043】
(抗SDVポリクローナル抗体固相化プレートの調製)
SDV検定用試薬に添付のコーティング液(抗SDVポリクローナル抗体含む)を50mM Carbonate Buffer(pH=9.6)で500倍に希釈した。この溶液を、ELISA用96ウエルプレート(ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製、品番442404)に1ウエルあたり100μlずつ分注した。直ちにプレート上部をシールし、4℃で一晩放置し、抗体をプレートに吸着させた。ウエル中の液を捨て、PBS−Tweenで3回洗浄を行なった。ブロックエース(商標:雪印乳業薬)を1ウエルあたり300μlずつ分注した。直ちにプレート上部をシールし、4℃で一晩放置し、ブロッキング処理を行なった。ウエル中の液を捨て、PBS−Tweenで3回洗浄を行なった。
【0044】
(反応性試験用サンプルの調製)
SDV感染樹および正常樹それぞれの新梢1グラムを10mlの0.05%(v/v)メルカプト酢酸−0.1Mクエン酸緩衝液で磨砕し、遠心分離で上清を採取した。SDV感染樹サンプルについては、0.05%(v/v)メルカプト酢酸−0.1Mクエン酸緩衝液で希釈系列を調製し、反応性試験用サンプルとした。反応性試験用サンプルを1ウエルあたり100μlずつ分注した。
【0045】
(アルカリフォスファターゼ標識抗SDVポリクローナル抗体液の調製)
SDV検定用試薬に添付のコンジュゲート液(アルカリフォスファターゼ標識抗SDVポリクローナル抗体含む)をPBS−Tweenで500倍に希釈した。この溶液を、反応性試験用サンプルの入ったウエルに、1ウエルあたり100μlずつ追加分注した。直ちにプレート上部をシールし、4℃で一晩インキュベートした。ウエル中の液を捨て、PBS−Tweenで3回洗浄を行なった。
【0046】
(呈色反応)
使用直前に酵素基質(パラニトロフェニルリン酸二ナトリウム)を1mg/1mlの割合で調製液(Diethanol amine Substrate Buffer)に溶解した。この調製液を1ウエルあたり100μlずつ分注し、室温で2時開放置し、呈色反応させた。ELISAプレートリーダーで405nmの吸光度を測定し、定性判定を行なった。
【0047】
(結果の検討)
実施例1及び比較例1〜4による結果をまとめると次表のとおりである。
【0048】
【表1】

【0049】
背景技術の項でも述べたが、SDVの診断における既存の検査法として広く使用されるELISA法では、測定に2日要し操作ステップも多い。測定時間の短縮と測定ステップの簡便化の為の解決法としてイムノクロマトグラフィー法を検討した。ELISA法の反応系には抗SDVポリクローナルが使われており、比較例1〜3では、抗SDVポリクロナール抗体をイムノクロマトグラフィーに適用した。
【0050】
抗SDVポリクロナール抗体を反応系に適用する比較例4(ELISA法)では、正常葉サンプルは陰性、SDV感染樹サンプルの×16希釈まで検出可能であった。また、同じ抗SDVポリクロナール抗体をイムノクロマトグラフィーに適用した比較例1(金コロイドOD=0.208)においては、正常葉サンプルは陰性、SDV感染樹サンプルは×4希釈まで検出可能であった。
【0051】
検出感度を上げる一般的な方法として、比較例1よりも金コロイド塗布パッドの金コロイド濃度を上げたもの(金コロイドOD=0.416(比較例2)および0.833(比較例3))を調製したところ、SDV感染樹サンプルの反応性は上昇したものの、正常樹において偽陽性反応を呈した。すなわち、抗SDVポリクローナル抗体によってはSDV感染樹サンプルの×4希釈までの感度までしか得ることができず、既存の検査法のELISA法と比較して同等以上の検出感度を得ることはできなかった。
【0052】
一方、抗SDVモノクローナル抗体をイムノクロマトグラフィーに適用した実施例1においては、正常葉サンプルは陰性、SDV感染樹サンプルの×64希釈まで検出可能であり、抗SDVポリクロナール抗体を利用したイムノクロマトグラフィーおよびELISA法よりも高い検出感度が得られた。
【0053】
表1を参照すれば、本発明は、SDVのような果樹病原体の検出にも有用であり、しかもELISA法に勝るとも劣らない感度の検出結果を、ELISA法よりも遙かに迅速・簡便に得ることができることが理解されよう。
【0054】
より具体的には、実施例1によると、液体試料を滴下部へ滴下するまでの処理をすれば、後は検出区域と対照区域とを検査するだけでよい。即ち、実施例1によると、ELISA法によると必須であった、標識抗体の分注、約16時間程度のインキュベート(4℃)、ウエルの洗浄、室温2時間のインキュベート等が不要であり、迅速に(通常15分程度である。)検出結果を得ることができる。さらに、ELISA法によると、設備が整った施設(例えば、研究所等)へ試料を搬送しないと検査が行えなかったが、実施例1では、例えば、圃場(現場)において直ちに検査を行えため、搬送に要していた時間や検査待ちの時間も節約できる。即ち、現場で即座に感染の有無を検査し、迅速な対応(例えば、感染樹の早期撤去による感染蔓延の防止等)をとりうるので、実用効果大である。実施例1によると、ELISA法によると必須であった、吸光度計、その他の高価で設置場所を要する設備は不要である。しかも、実施例1によれば、ELISA法に勝る感度(5〜10倍程度)の検出結果が得られている。
【実施例2】
【0055】
実施例2において取り上げる果樹病原体は、根頭がんしゅ病の原因となるAt菌である。
【0056】
根頭がんしゅ病は、土中に潜むAt菌が株の傷口から侵入することによって起こり、被害部に大きなこぶをつくるのがその特徴である。根頭がんしゅ病は、ナシ、カキなどの果樹などの花木に古くから発生している。感染すると、根から水や栄養分を十分に吸い上げられなくなり樹勢が著しく衰退する。
<実施例2>
実施例2は、抗At菌モノクローナル抗体を使用する。
【0057】
(抗At菌モノクローナル抗体の調製)
抗At菌モノクローナル抗体は、Kohler−Milstein(Nature,256,495−497,1975)の方法に準じて調製した。At菌を免疫したマウスの脾臓から抗体を産生する細胞を取り出し、別に用意したマウスの骨髄腫細胞(ミエローマ)と融合させ、抗At菌モノクローナル抗体Ag7産生ハイブリドーマ細胞を得た。該ハイブリドーマ細胞を無血清培地中で培養、遠心分離後の上清の硫酸アンモニウム分画により、抗At菌モノクローナル抗体Ag7を得た。
【0058】
(標識成分の調製)
金コロイドは、G.Frens(Nature,241,20−22,1973)の方法に従い作製した。金コロイドの10mlに対し、抗At菌モノクローナル抗体Ag7を40μg、室温にて混合し、抗At菌モノクローナル抗体結合金コロイド(標識成分)を調製した。
【0059】
(標識区域12の調製)
抗At菌モノクローナル抗体結合金コロイドをOD520=0.305に調製した。調製液をガラス繊維パッドにテスト当たり36μl塗布し、乾燥させ、抗At菌モノクローナル抗体結合金コロイド塗布バッド(標識区域12)を調製した。
【0060】
(検出区域14の調製)
抗At菌モノクローナル抗体Ag7をニトロセルロースメンブレン(ミリポア社:SCHF(商標))にテスト当たり0.48μlでライン状に塗布し、検出区域14を形成した。また、抗マウス抗体を同様にテスト当たり0.48μlで塗布し、反応確認のための対照区域15を形成した。カゼイン溶液によるブロッキング処理を経て、抗At菌モノクローナル抗体固相化メンブレン(検出区域14の配置された多孔質担体)を調製した。
【0061】
(検出装置の作製)
滴下部11としての濾紙、抗At菌モノクローナル抗体結合金コロイド塗布パッド、抗At菌モノクローナル抗体固相化メンブレン、吸液部16としての濾紙とを、それぞれの端部が3mmずつ重なるように、粘着剤付の樹脂上に貼付してAt菌の検出装置を作製した。
【0062】
(反応性試験)
At菌を寒天培地上で培養し、生じたコロニーを採取して、菌体数濃度が10^8個/mlとなるように緩衝液中に懸濁させた。菌体懸濁液を超音波破砕処理してAt菌抗原液を得た。At菌非感染プドウ茎部1グラムを10mlの0.1Mクエン酸緩衝液で磨砕後、遠心分離で上清を採取し、磨砕液を得た。At菌抗原液の磨砕液による希釈系列を調製し、検体とした。該検体100μlをAt菌検出装置サンプル液滴下部へ滴下し、15分経過後、イムノクロマト判定窓における金コロイド粒子由来の赤紫色ライン出現を目視観察した。結果を(表2)に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2を参照すれば、本発明は、At菌のような果樹病原体の検出にも有用であることが理解されよう。
【0065】
なお、本発明の検出装置は、SDV、At菌のほか、カンキツモザイクウイルス(CiMV)及びタターリーフウイルス(ASGV)等、各種の果樹病原体への適用があるものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)本発明の一実施の形態における検査装置の平面図 (b)同側面図
【符号の説明】
【0067】
11 滴下部
12 標識区域
13 多孔質坦体
14 検出区域
15 対照区域
16 吸液部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹病原体に対して、いずれも特異結合性を有する第1、第2の抗体を用意し、
前記果樹病原体を含むと疑われる試料液体が滴下される滴下部と、前記第1の抗体を有色粒子により標識したものを前記試料液体により湿潤された状態において流動可能に保持する標識区域と、前記第2の抗体が固相される検出区域とを、前記試料液体の流動方向において上流側から下流側に向けて順次連設し、
前記検出区域とは異なる位置に対照区域を設けてなることを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記第1、第2の抗体は、いずれも前記果樹病原体を免疫した動物の器官から取り出した細胞と、この細胞とは異なる細胞とを融合して得た抗体生産ハイブリドーマ細胞を培養・精製して得た抗果樹病原体モノクローナル抗体である請求項1記載の検出装置。
【請求項3】
前記果樹病原体は、温州萎縮ウイルス(SDV)である請求項1から2記載の検出装置。
【請求項4】
前記果樹病原体は、アグロバクテリウム・ツメファシェンス菌(At菌)である請求項1から2記載の検出装置。
【請求項5】
果樹病原体への感染が疑われる果樹の器官試料を摩砕・溶解して試料液体を調製するステップと、
前記試料液体を請求項1から4のいずれか記載の検出装置の滴下部へ滴下するステップと、
前記検出装置の前記検出区域及び前記対照区域とを検査して陽性/陰性を判定するステップとを含むことを特徴とする検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−86001(P2007−86001A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277879(P2005−277879)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日から3月31日 日本植物病理学会主催の「平成17年度 日本植物病理学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(598034720)株式会社ミズホメディー (17)
【Fターム(参考)】