説明

検査装置、ならびに、検査方法

【課題】電子機器のイミュニティ検査を効率良く行う検査装置等を提供する。
【解決手段】検査周波数帯における電子機器151のイミュニティ特性を検査する検査装置101において、第1の信号発生器111と第2の信号発生器112とは、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させ、調整部113は、第1の信号発生器111が発生させる信号の周波数と、第2の信号発生器112が発生させる信号の周波数と、の差が、所望の検査周波数帯を走査するように調整し、印加部114は、第1の信号発生器111により発生された信号と、第2の信号発生器112により発生された信号と、を、測定対象の電子機器151に印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のイミュニティ検査を効率良く行うのに好適な検査装置ならびに検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から侵入する電磁波に対して電子機器が誤動作や故障等をせずに耐える性能は、電磁波イミュニティ性能と呼ばれ国際的な規格が定められており、種々のイミュニティ特性を検査する技術が提案されている。たとえば、後に掲げる特許文献1には、角錐ホーンを用いてイミュニティ試験を行う技術が開示されている。
【0003】
ここで、従来のイミュニティ試験は、単一周波数の電磁波が侵入してくることを想定している。これは、通常の電子機器が近接して設置された状況を想定しているからである。
【0004】
【特許文献1】特開2006−343191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、悪意のある第三者が電子機器を誤動作させたり故障させたりすることを意図して行うことを想定して、電磁波イミュニティ性能を検査したい、との要望は大きい。
【0006】
また、イミュニティ性能を検査する際に用いる検査装置は、できるだけ小型にしたい、との要望もある。特に、コンピュータなどのクロック周波数を発生させるために用いられる発振子は、数メガヘルツから数十メガヘルツのものが広く用いられているが、この周波数帯の電磁波を単一周波数で放射するためには、数メートルから数十メートルの大きさのアンテナが必要となってしまうため、小型化が強く望まれている。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するもので、電子機器のイミュニティ検査を効率良く行うのに好適な検査装置ならびに検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の原理にしたがい、以下の発明を開示する。
【0009】
本発明の第1の観点に係る検査装置は、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間の電磁波に対する電子機器のイミュニティ特性を検査し、第1の信号発生器、第2の信号発生器、調整部、印加部を備え、以下のように構成する。
【0010】
ここで、第1の信号発生器は、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させる。
【0011】
一方、第2の信号発生器は、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させる。
【0012】
さらに、調整部は、第1の信号発生器により発生される信号の周波数(以下「第1の発生周波数」という。)と、第2の信号発生器により発生される信号の周波数(以下「第2の発生周波数」という。)と、の、差が、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間を走査するように、第1の発生周波数と、第2の発生周波数と、を、調整する。
【0013】
そして、印加部は、第1の信号発生器により発生された信号と、第2の信号発生器により発生された信号と、を、電子機器に印加する。
【0014】
また、本発明の検査装置において、所定の信号周波数帯は、数百メガヘルツから数ギガヘルツの周波数帯であり、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間は、数メガヘルツから数百メガヘルツまでの周波数帯に含まれるように構成することができる。
【0015】
また、本発明の検査装置において、印加部は、第1の信号発生器により発生された信号と、第2の信号発生器により発生された信号と、を、重畳して、所定の信号周波数帯用の1つのアンテナにより放射することにより、電子機器に印加するように構成することができる。
【0016】
また、本発明の検査装置において、印加部は、第1の信号発生器により発生された信号を電子機器に印加する第1のアンテナと、第2の信号発生器により発生された信号を電子機器に印加する第2のアンテナと、を有するように構成することができる。
【0017】
また、本発明の検査装置において、印加部は、第1の信号発生器により発生された信号と、第2の信号発生器により発生された信号と、を、重畳して、通信用線もしくは電力供給線を介して、電子機器に印加するように構成することができる。
【0018】
本発明のその他の観点に係る検査方法は、第1の信号発生器、第2の信号発生器、調整部、印加部を備える検査装置が、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間の電磁波に対する電子機器のイミュニティ特性を検査し、第1の信号発生工程、第2の信号発生工程、調整工程、印加工程を備え、以下のように構成する。
【0019】
ここで、第1の信号発生工程では、第1の信号発生器が、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生する。
【0020】
一方、第2の信号発生工程では、第2の信号発生器が、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生する。
【0021】
さらに、調整工程では、調整部が、第1の信号発生工程にて発生される信号の周波数(以下「第1の発生周波数」という。)と、第2の信号発生工程にて発生される信号の周波数(以下「第2の発生周波数」という。)と、の、差が、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間を走査するように、第1の発生周波数と、第2の発生周波数と、を、調整する。
【0022】
そして、印加工程では、印加部が、第1の信号発生工程にて発生された信号と、第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、電子機器に印加する。
【0023】
また、本発明の検査方法において、所定の信号周波数帯は、数百メガヘルツから数ギガヘルツの周波数帯であり、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間は、数メガヘルツから数百メガヘルツまでの周波数帯に含まれるように構成することができる。
【0024】
また、本発明の検査方法において、印加工程では、第1の信号発生工程にて発生された信号と、第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、重畳して、所定の信号周波数帯用の1つのアンテナにより放射することにより、電子機器に印加するように構成することができる。
【0025】
また、本発明の検査方法において、印加工程では、第1の信号発生工程にて発生された信号を第1のアンテナにより電子機器に印加し、第2の信号発生工程にて発生された信号を第2のアンテナにより電子機器に印加するように構成することができる。
【0026】
また、本発明の検査方法において、印加工程では、第1の信号発生工程にて発生された信号と、第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、重畳して、通信用線もしくは電力供給線を介して、電子機器に印加するように構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電子機器のイミュニティ検査を効率良く行うのに好適な検査装置ならびに検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を説明する。なお、以下にあげる実施形態は、説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、これらの各要素または全要素を、これと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る検査装置の概要構成を示す模式図である。以下、本図を参照して説明する。
【0030】
検査装置101は、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間の電磁波に対する電子機器151のイミュニティ特性を検査するもので、第1の信号発生器111、第2の信号発生器112、調整部113、印加部114を備える。
【0031】
ここで、第1の信号発生器111と、第2の信号発生器112と、は、いずれも、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させる。
【0032】
ここで、第1の信号発生器111が発生可能な周波数帯がa1〜b1であり、発生している発生周波数をf1とし、第2の信号発生器112が発生可能な周波数帯がa2〜b2であり、発生している発生周波数をf2とする。
【0033】
第1の信号発生器111と、第2の信号発生器112と、に同じ設計構成の信号発生器を利用した場合は、a1 = a2かつb1 = b2となる。また、この場合、同程度のパワーの信号が発生されることになる。
【0034】
これらの信号発生器111、112は、典型的には、数百メガヘルツから数ギガヘルツのオーダーの周波数の信号を発生させる高周波発生器であり、この場合、発生される信号の波長は、数m未満である。
【0035】
上記のように、発生周波数f1と、発生周波数f2と、は、ある程度調整が可能である。すなわち、a1≦f1≦b1かつa2≦f2≦b2である。
【0036】
そして、調整部113は、発生周波数f1と、発生周波数f2と、の、差|f1 - f2|が、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間を走査するように、第1の発生周波数と、第2の発生周波数と、を、調整する。
【0037】
この場合発生周波数f1と、発生周波数f2と、の差|f1 - f2|は、両者の周波数帯に重なりがあれば、
0≦|f1 - f2|≦max(|b1-b2|,|b1-a2|,|a1-b2|,|a1-a2|)
の範囲をとることができる。
【0038】
両者の周波数帯に重なりがなければ、
min(|b1-b2|,|b1-a2|,|a1-b2|,|a1-a2|)≦|f1 - f2|≦max(|b1-b2|,|b1-a2|,|a1-b2|,|a1-a2|)
の範囲をとることができる。
【0039】
発明者の研究によれば、このように、異なる周波数f1,f2の高周波信号を電子機器151に注入すると、差の周波数|f1 - f2|に相当するストレスを与えることができることが判明している。
【0040】
この現象は、電磁波を被爆させることによって電子機器151の内部に侵入した高周波信号が、内部に存在する非線型回路素子(たとえば、トランジスタ、ダイオード、バリスタ、避雷素子などの半導体素子が典型的である。)に影響を与えることで発生する相互変調積に起因するものである。
【0041】
たとえば、f1 = 1000MHz,f2 = 1030MHzのように、ギガヘルツ・オーダーの周波数の信号を発生させると、その差|f1 - f2| = 30MHzの信号が、相互変調積として電子機器151の内部で発生する。
【0042】
一般には、相互変調積の周波数は、n,mを正整数として、n f1±m f2のように表現できるが、本発明では、そのうち、パワーの大きい周波数|f1 - f2|を利用するのである。
【0043】
さらに、印加部114は、第1の信号発生器111により発生された信号と、第2の信号発生器112により発生された信号と、を、測定対象の電子機器151に印加する。具体的には、上記のような信号を印加した上で、電子機器151に故障や誤動作が生じるか否かをチェックする。
【0044】
ここで、30MHzの周波数に対する波長は10メートル程度であり、半波長アンテナを使用して電子機器151を検査しようとしても、その大きさから困難なことが多いが、1GHzの周波数に対する波長は30センチメートル程度であり、半波長アンテナは、かなり小型化が可能である。発生周波数f1,f2をより高い周波数帯とすれば、アンテナの小型化をさらに図ることができ、検査装置101も小さくすることができる。
【0045】
したがって、上記のような相互変調積を用いることで、発生周波数f1,f2の信号よりも低い周波数帯のイミュニティ性能の検査が容易となるのである。たとえば、コンピュータのイミュニティ性能を検査する場合、高速な動作クロックのコンピュータであっても、そのクロックを最初に発生させる水晶発振子の周波数は、数MHz〜数十MHz程度であり、これを逓倍、分周して、所望の動作クロックを得ている。したがって、イミュニティ性能の検査の上では、水晶発振子が誤動作したり故障したりするか否か、が重要な鍵となる。この場合は、数MHz〜数十MHzの範囲を検査周波数帯とする。
【0046】
ここで、調整部113は、発生周波数f1と発生周波数f2のいずれか一方もしくは双方を調整して、|f1 - f2|が、この検査周波数帯を走査するようにする。
【0047】
たとえば、第1の信号発生器111と第2の信号発生器112とで同じ機器構成を採用する場合には、第1の信号発生器111の発生周波数はa1で固定とし、第2の信号発生器112の発生周波数はa1からb1まで、(もしくは、a1に1MHzを加算した値から、a1に数十MHzを加算した値まで。)一定の速度で次第に大きくなるように調整すれば、検査周波数帯をスキャンすることが可能である。
【0048】
印加部114が発生周波数f1の信号と、発生周波数f2の信号と、を電子機器151に印加する手法としては、図2に示すように、それぞれ独立したアンテナ201、202を用意するのが最も容易である。アンテナ201、202としては、半波長アンテナ、八木アンテナ、ホーンアンテナ等、各種のものを採用することができる。
【0049】
このほか、図3に示すように、印加部114に信号重畳回路301を設けて、発生周波数f1の信号と、発生周波数f2の信号と、を重畳した上で、1つのアンテナ311により、電磁波を放射する手法もある。
【0050】
さらに、図4に示すように、印加部114に信号重畳回路401を設けて、発生周波数f1の信号と、発生周波数f2の信号と、を重畳した上で、同軸ケーブルなどの電線411により出力し、これを、電子機器151の通信ポートや電力供給線に接続したり、電子回路の基板に直接接続する等、有線接続の手法を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、電子機器のイミュニティ検査を効率良く行うのに好適な検査装置ならびに検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態に係る検査装置の概要構成を示す説明図である。
【図2】印加部の具体的な構成の一例を示す説明図である。
【図3】印加部の具体的な構成の一例を示す説明図である。
【図4】印加部の具体的な構成の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
101 検査装置
111 第1の信号発生器
112 第2の信号発生器
113 調整部
114 印加部
151 電子機器
201 アンテナ
202 アンテナ
301 信号重畳回路
311 アンテナ
401 信号重畳回路
411 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間の電磁波に対する電子機器のイミュニティ特性を検査する検査装置であって、
所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させる第1の信号発生器、
前記所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生させる第2の信号発生器、
前記第1の信号発生器により発生される信号の周波数(以下「第1の発生周波数」という。)と、前記第2の信号発生器により発生される信号の周波数(以下「第2の発生周波数」という。)と、の、差が、前記第1の検査周波数から前記第2の検査周波数までの間を走査するように、前記第1の発生周波数と、前記第2の発生周波数と、を、調整する調整部、
前記第1の信号発生器により発生された信号と、前記第2の信号発生器により発生された信号と、を、前記電子機器に印加する印加部
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置であって、
前記所定の信号周波数帯は、数百メガヘルツから数ギガヘルツの周波数帯であり、
前記第1の検査周波数から前記第2の検査周波数までの間は、数メガヘルツから数百メガヘルツまでの周波数帯に含まれる
ことを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検査装置であって、
前記印加部は、前記第1の信号発生器により発生された信号と、前記第2の信号発生器により発生された信号と、を、重畳して、前記所定の信号周波数帯用の1つのアンテナにより放射することにより、前記電子機器に印加する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項2に記載の検査装置であって、
前記印加部は、前記第1の信号発生器により発生された信号を前記電子機器に印加する第1のアンテナと、前記第2の信号発生器により発生された信号を前記電子機器に印加する第2のアンテナと、
を有することを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項2に記載の検査装置であって、
前記印加部は、前記第1の信号発生器により発生された信号と、前記第2の信号発生器により発生された信号と、を、重畳して、通信用線もしくは電力供給線を介して、前記電子機器に印加する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項6】
第1の信号発生器、第2の信号発生器、調整部、印加部を備える検査装置が、第1の検査周波数から第2の検査周波数までの間の電磁波に対する電子機器のイミュニティ特性を検査する検査方法であって、
前記第1の信号発生器が、所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生する第1の信号発生工程、
前記第2の信号発生器が、前記所定の信号周波数帯に含まれる周波数の信号を発生する第2の信号発生工程、
前記調整部が、前記第1の信号発生工程にて発生される信号の周波数(以下「第1の発生周波数」という。)と、前記第2の信号発生工程にて発生される信号の周波数(以下「第2の発生周波数」という。)と、の、差が、前記第1の検査周波数から前記第2の検査周波数までの間を走査するように、前記第1の発生周波数と、前記第2の発生周波数と、を、調整する調整工程、
前記印加部が、前記第1の信号発生工程にて発生された信号と、前記第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、前記電子機器に印加する印加工程
を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項7】
請求項6に記載の検査方法であって、
前記所定の信号周波数帯は、数百メガヘルツから数ギガヘルツの周波数帯であり、
前記第1の検査周波数から前記第2の検査周波数までの間は、数メガヘルツから数百メガヘルツまでの周波数帯に含まれる
ことを特徴とする検査方法。
【請求項8】
請求項7に記載の検査方法であって、
前記印加工程では、前記第1の信号発生工程にて発生された信号と、前記第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、重畳して、前記所定の信号周波数帯用の1つのアンテナにより放射することにより、前記電子機器に印加する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項9】
請求項7に記載の検査方法であって、
前記印加工程では、前記第1の信号発生工程にて発生された信号を第1のアンテナにより前記電子機器に印加し、前記第2の信号発生工程にて発生された信号を第2のアンテナにより前記電子機器に印加する
を有することを特徴とする検査方法。
【請求項10】
請求項7に記載の検査方法であって、
前記印加工程では、前記第1の信号発生工程にて発生された信号と、前記第2の信号発生工程にて発生された信号と、を、重畳して、通信用線もしくは電力供給線を介して、前記電子機器に印加する
ことを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−96571(P2010−96571A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266208(P2008−266208)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】