検査装置、検査方法および検査プログラム
【課題】より簡便に被覆線材の被覆検査を実行可能とする。
【解決手段】誘電体で被覆された電線Cにおける誘電体の傷やピンホールの有無を検査する検査装置100において、空胴共振器11でTM01モードのマイクロ波定在波を励起し、TM01モードの回転磁界中心に電線Cを通過させることにより電線Cにマイクロ波周波数の交流電流Iを流す。そして空胴共振器11の内部から外部へと連続している電線Cから放射されるマイクロ波を受信し、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを電線Cの軸に対して等角度に隣接配置し、その差動信号に基づいて交流電流Iの位相速度を得る。この位相速度が、一定でない部位を検出すると、その部位について被覆に異常があると判断する。
【解決手段】誘電体で被覆された電線Cにおける誘電体の傷やピンホールの有無を検査する検査装置100において、空胴共振器11でTM01モードのマイクロ波定在波を励起し、TM01モードの回転磁界中心に電線Cを通過させることにより電線Cにマイクロ波周波数の交流電流Iを流す。そして空胴共振器11の内部から外部へと連続している電線Cから放射されるマイクロ波を受信し、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを電線Cの軸に対して等角度に隣接配置し、その差動信号に基づいて交流電流Iの位相速度を得る。この位相速度が、一定でない部位を検出すると、その部位について被覆に異常があると判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、検査方法および検査プログラムに関し、特に、導体線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置、検査方法および検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電線等のように導体表面を誘電体で被覆した被覆線材は、出荷前に、その被覆の傷、ピンホール、剥がれなどの有無が検査される。被覆が不十分だと耐圧に影響するからである。被覆検査の方法としては、レーザー光を被覆に照射してその反射光を利用する方法、高感度カメラで撮影した被覆の画像を画像処理することにより被覆の異常を検出する方法、被覆線材に高電圧を通電して絶縁破損やピンホールで空気がイオン化することにより発光する紫外線を検出する方法などが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のレーザー光を用いる被覆検査では、検査すべきポイントにレーザー光を照射し、その反射光の強弱に基づいて被覆の異常を検査される。このときレーザー光が正確に検査ポイントに照射されなければならないし、検査ポイントの反射光が正確に受光部に入射しなければならない。従って、ぶれたり振動したりしている被覆線材の検査には不向きであった。
また、レーザー光を用いる被覆検査では、照射面の検査しか出来ないので電線等の全表面を検査しようと思うと、レーザー光で導電線の表面を走査したり、レーザー光の光源や受光部を検査対象である導電線の軸を中心にして複数方向に用意したりしなければならない。従って、レーザー光で被覆検査を行う場合は、検査装置がどうしても大掛かりになってしまうし高価になってしまう。
【0004】
高感度カメラを用いて被覆検査を行う場合も、やはり検査装置が大掛かりになってしまうし装置が高価になってしまう。高感度カメラがそもそも高価であるし、高速で移動する被覆線材の全周を網羅するように画像を取得するためには複数台の高感度カメラを用意するか、高感度カメラを被覆線材の周方向に移動させつつ撮影するような装置が必要になるからである。また、撮影された画像から被覆の異常を検出するために、高速な画像処理を実行できる処理装置も必要になる。特に後述のように高速に移動する電線の被覆検査を行おうとすると、高感度であることに加えて高速撮影可能な高速度カメラが必要になるし、高速で順次撮影された画像を高速で画像処理する装置も必要になる。
【0005】
オゾン濃度を検出する方法では、電線に高電圧を印加する必要があるので危険であるし、オゾンに照射した紫外線の吸光度を検出するための装置等も必要になる。そのため検査装置が大掛かりになってしまうし、装置も高価になってしまう。
【0006】
ところで、電線Cは、出荷前に工場でその被覆検査を行う必要がある。数十〜数百メートルにも及ぶ電線の検査を正確におこないつつ実用的な時間で検査を完了するためには、その製造ラインの途中で検査するのが好ましい。検査工程を別途設ける必要が無いので、生産効率が向上するからである。しかしながら、製造ラインにおける電線は長さ方向に数百m/minで高速移動しており、上述の技術では、このような要望に応えることは出来なかった。
【0007】
また、被覆検査においては、被覆の傷・ピンホール・剥がれ等の欠損の有無を検査するだけでなく、被覆の均一性や複数種類の被覆を重ねてある場合の被覆同士の密着度合等のような被覆の性能検査を行えると好ましい。しかしながら、被覆の均一性や密着度合などは表面からは測定できないので、上述のレーザー光や高感度カメラやオゾン濃度を利用する方法は利用できない。むろん、例えばCT(Computed Tomography)などのように大掛かりな装置を用いれば検査することも可能ではあるが、より簡便な検査方法の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、より簡便に導電線を被覆する誘電体の状態を検査することができる検査装置、検査方法および検査プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の検査装置は、導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置であって、空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振部と、上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信部と、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断部とを具備する構成としてある。
【0010】
上記構成において、導電線は誘電体によって被覆されており、導電線は基本的にむら無く均質であって位相の廻りは一定しているものとする。また被覆も基本的に、均質な状態になるように予め作成されているが、作成状況次第では均質な状態から一定量の誤差を勘案した状態から外れた不均質な状態となることがある。言い換えると、導電線に対して垂直な断面における被覆は、均質な状態であれば導電線のどこで切断してもほぼ同様の断面を示すが、不均質な状態であれば他の断面と異なる様相を呈する。
【0011】
上記検査装置は、このような断面の状態を、被覆の外部から非破壊で検査することができる。すなわち、上記励振部は、空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す。この交流電流によって導電線から上記誘電体を通過して放射される電磁波を上記受信部で受信する。上記受信部は、上記所定周波数の電磁波を選択的に受信することが出来るようになっている。
【0012】
所定周波数としては、マイクロ波周波数帯のようにその周波数を有する交流電流が表皮電流化する周波数帯が特に好適である。被覆の状態が交流電流に大きく影響した方がよく、被覆の状態が交流電流に与える影響が大きいほど、上記交流電流によって前記導電線から放射される電磁波も被覆の状態による影響が強く表れるからである。つまり、該電磁波において、被覆の状態に対応する情報のS/N比が向上するからであるとも言える。
【0013】
被覆の状態を示す情報としては、上記電磁波の振幅強度と位相速度を利用可能であり、上記判断部はこれらのいずれかを利用して上記被覆の状態を判断する。振幅強度を利用すれば、例えば、被覆の欠損した部位から放射される電磁波と欠損のない部位から放射される電磁波とではその振幅強度が異なるので、所定の閾値を設定することによりその差異を検出できる。また、例えば、被覆に気泡等の異物が入った部位を通過して放射される電磁波であっても同様のことが言える。
【0014】
また、位相速度は、その伝送媒体が均質であれば一定、すなわち位相の廻りが一定になるが、伝送媒質の品質が悪くて非均質であれば一定しない、すなわち位相の廻りも不定に成ることが知られている。ここで言う伝送媒質は、実際に電流が流れる導体部分のみならずその周囲を覆う被覆の影響をも含む。すなわち、上記被覆が均質であれば位相速度は一定であるが、被覆が均質でなければ位相速度が不定になる。従って、位相速度を利用すれば、被覆が欠損したり被覆に異物が混入したりするとその部位から放射される電磁波の位相の廻りに変化が生じるので、被覆の異常を検出することができる。
【0015】
また、上記導電線が上記導電線の長さ方向に移動している場合には、上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の位相速度の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断するように構成してもよい。受信部の受信した電磁波の振幅強度は、検査対象である導電線が移動しているとブレや振動によって空間変動要因が入り、正確な計測が出来ないからである。この点、位相は空間変動要因に影響されないので、位相速度は正確に計測することが可能である。よって、移動している導電線の被覆状態を正確に検出できるようになる。
【0016】
また、上記受信部は、所定方向に上記導電線を走査しつつ上記電磁波を受信してもよい。むろん、基準となる状態の被覆を通して放射される電磁波強度が既知であれば、特定のポイントで受信した電磁波強度に基づいて被覆の正常/異常を判断できる。しかし、例えば検査対象が複数種類ある場合は、検査ポイントの周辺との相対的な受信強度で判断したり、各検査ポイントで受信された受信強度の平均値に対する受信強度で判断したりする必要がある。このとき、上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断することができる。
【0017】
このように位相速度を利用する場合には、上記受信部は、上記導電線から放射される上記所定周波数の電磁波の位相速度を検出し、上記判断部は、上記電磁波の位相の廻りが所定量を超えた部位について上記被覆に異常ありと判断するように構成できる。すなわち、予め一定以上の品質が保たれていることを前提とし、該品質であれば位相の廻りがこれ以上になることが無いという所定量(閾値)を、予め実験的に決定しておく。そして、上記判断部は、位相速度から位相の周りを検出し、位相の廻りが上記所定量を超えるか否かで上記被覆の状態を判断することができる。
【0018】
ところで、上記空胴共振器によって上記導電線に効率よく交流電流を流すための本発明の選択的な一側面として、上記導電線は、上記TM01モードの回転磁界の略中心に沿って配置されてもよい。TM01モードでは、回転磁界の中心が最も電界が強く、また回転磁界の中心における電界ベクトルは一方向に定まる。すなわち上記回転磁界の中心に沿って上記導電線を配置すれば、導電線内を通過する電界ベクトルの総和が最大化されるので、空胴共振器の定在波から導電線に流れる交流電流への変換効率が最大化される。
【0019】
また交流電流に対する被覆の状態の影響を高めるための本発明の選択的な一側面として、上記励振部は、上記空胴共振器にマイクロ波周波数帯の定在波を励起することにより、上記導電線にマイクロ波周波数の交流電流を流すようにしてもよい。マイクロ波周波数の交流電流は、導電線において表皮電流になる。交流電流が表皮電流化すると、電流の大部分が被覆近傍を流れるので、被覆と交流電流の相互作用が最大化される。すなわち、被覆の状態の影響が、交流電流により顕著化する。
【0020】
また、導電線に空間振動が発生する場合に好適な本発明の選択的な一側面として、上記受信部は、上記導電線の軸に対して等角であって上記導電線の長さ方向にオフセット配置された少なくとも2つの電界センサーを備えており、これら電界センサー間の差動信号に基づいて上記位相速度を検出するように構成することができる。位相速度を検出する方法としては、導電線を長さ方向に走査して、導電線の各部位における電磁波強度を測定して、導電線の所定長さあたりの位相変動を検出する方法があるが、この方法では上記空間振動によって電磁波強度が変動してしまう。そこで、オフセット配置した2本以上の電界センサーにて受信した電磁波強度の差動によって、上記位相速度を検出する。位相速度であれば、振幅強度に依存しないし、隣接する電界センサー間の差動信号であれば、簡単なゲイン調整を行うことで導電線の空間振動による影響を排除した位相速度を得ることができる。なお、上記電界センサーは、空中線アンテナなどの電磁波の電界強度に応じて発生する電流や電圧を計測するものであってもよいし、光電界センサーのように電磁波の電界強度に応じて発生する屈折率変動を計測するものであってもよく、電界強度に対応して発生した物理量の変動を計測するデバイスであればいかなるものを利用しても構わない。
【0021】
なお、電界センサーのオフセット間隔は、空間振動する上記導電線との相対距離が、差動信号を得るための組となる電界センサーで等しく変化するようにする必要がある。すなわち、組となる電界センサー間のオフセット間隔は、電界センサー同士の干渉を避けうる最短距離であることが望ましい。ここで言う干渉とは、物理的干渉や電磁気的干渉である。電界センサーが近接するほど、隣接する電界センサーの差動信号に生じる空間変動要因は小さくなるので、検査結果の信頼性が向上する。
【0022】
また、上記電界センサーは、上記誘電体が基準状態のときに形成される上記定在波の腹に近接配置されることが好ましい。上記定在波の腹では電界強度が最も強いため、電界強度の変動についても最も感度よく検出できるからである。なお、ここで言う基準状態とは、上記均質な状態を意味する。
【0023】
なお、上記受信部は、上記導電線について、上記励振部の空胴共振器内を通過する部位とは異なる部位から上記電磁波を受信している。ただし、空胴共振器と受信部との間で、電界が発生すると導電線から発生する電界分布が乱れてしまう。そこで、本発明の選択的な一側面として、上記励振部と上記受信部を別個に構成し、上記励振部と上記受信部の間に導電体で作成された遮蔽板を配置することが好ましい。遮蔽板を配置することにより、励振部と受信部との間が電磁的に隔絶されるので、受信部が電磁波を受信する部位における導電線の電界は、励振部からの遠隔作用を受けずに済むので、導電線から放射される電磁波における被覆の状態に関する情報のS/N比が向上する。
【0024】
なお、以上説明した検査装置は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は上記検査装置を備える検査システム、上述した装置の構成に対応した工程を有する検査方法、上述した装置の構成に対応した機能をコンピューターに実現させる検査プログラム、該検査プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。これら検査システム、検査方法、検査プログラム、該検査プログラムを記録した媒体、の発明も、上述した作用、効果を奏する。むろん、請求項2〜10に記載した構成も、上記システムや上記方法や上記プログラムや上記記録媒体に適用可能である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、より簡便に導電線の被覆検査を実行可能な検査装置を提供することができる。
また請求項2にかかる発明によれば、移動している導電線の被覆状態を正確に検出できるようになる。
また請求項3にかかる発明によれば、複数種類の検査対象がある場合でも被覆状態を検査することができる。
また請求項4にかかる発明によれば、空胴共振器から導電線に受信される電磁波の受信効率を向上できる。
また請求項5にかかる発明によれば、導電線に流れる交流電流に対する被覆の影響を高めることができる。
また請求項6,7にかかる発明によれば、空間振動の発生する導電線であっても、空間振動に影響されること無く被覆の状態を検査可能になる。
また請求項8にかかる発明によれば、電界強度の変動の検出感度を向上できる。
また請求項9にかかる発明によれば、被覆の異常検出を簡単に出来るようになる。
また請求項10にかかる発明によれば、励振部と受信部とを電磁的に隔絶して、被覆異常の検出精度を向上できる。
また請求項11にかかる発明によれば、上述した検査装置に対応する検査方法を提供可能になる。
また請求項12にかかる発明によれば、上述した検査装置を制御する検査プログラムを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる構成を示すブロック図である。
【図2】電線Cの表皮電流を説明する図である。
【図3】TM01モードの電磁界分布の説明図である。
【図4】空胴共振器の構造を示す斜視図である。
【図5】TM01モードを励起するための一構成例である。
【図6】位相の廻りについて説明するグラフである。
【図7】単一断面の均等性を用いる方法を説明する図であり、
【図8】軸方向の均等性を用いる方法を説明する図である。
【図9】受信部と解析処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図10】アンテナ配置の変形例を説明する斜視図である。
【図11】電界分布とアンテナの位置関係を概念的に示した図である。
【図12】受信部と解析処理部を配置する基板構成の一例を示す図である。
【図13】電線Cに沿って形成される電界の瞬時値分布を示した図である。
【図14】検出感度をテストする試験的な構成である。
【図15】図14の構成で行ったテスト結果である。
【図16】被覆検査処理のフローチャートである。
【図17】変形例1の検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18】変形例1の検波器が備える一軸の機械的旋回機構の側面図である。
【図19】変形例1の回転駆動部が備える逆送回転機構を側面から見た一部断面図である。
【図20】止血用バルーンの融着部位の要部断面図である。
【図21】ステンレス鋼のワイヤの電界分布の瞬時値である。
【図22】検査処理のフローチャートである。
【図23】変形例2にかかる受信部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)本発明の構成:
(2)被覆検査処理:
(3)変形例1:
(4)変形例2:
(5)変形例3:
(6)まとめ:
【0028】
(1)本発明の構成:
<概略構成>
図1は本発明の一実施形態にかかる構成を示すブロック図である。同図に示すように、検査装置100は、誘電体で被覆された電線に所定周波数の交流電流を流す励振部10と、上記所定周波数の交流電流が流されている電線から放射される所定周波数の電磁波を受信するための受信部20と、電線を長さ方向に搬送するための搬送機構30と、受信部20で受信した電磁波を解析して電線の被覆の状態を検査する解析処理部40を備えている。以下、各部10〜40の構成について、より詳細に説明して行く。
【0029】
<マイクロ波で表皮電流を発生>
励振部10は、電線Cに所定周波数の交流電流Iを発生させる。本実施形態においては交流電流Iの周波数はマイクロ波周波数帯としてある。ただし、交流電流Iが表皮電流化する周波数であれば他の周波数帯を採用しても本実施形態と同様の効果を得られる。また、表皮電流化しない周波数帯の電磁波であっても誘電体の状態が交流電流Iに影響する度合が減るものの影響がなくなるわけではないので、表皮電流化しない周波数帯の電磁波を利用しても構わない。交流電流Iが表皮電流化すると、図2に示すように、導体表面からδの深さまでに電流が集中する。
【0030】
図2は、電線Cに流れる表皮電流を説明する図である。同図に示すように、表皮電流は、誘電体からの距離がδの範囲内に集中しているため、交流電流Iは被覆の厚み、傷、量、種類、均質性などの物理・化学的状態による影響を受けやすい。従って、交流電流Iの振幅強度や位相速度にはこれらの物理・化学的状態が反映されることになる。また、電線Cに交流電流Iが流れるため、電線Cから交流電流Iの周波数に応じた電磁波が放射される。この電磁波も交流電流Iと同じく誘電体の影響を受けているため、電線Cから放射される電磁波を解析すれば被覆の状態を把握することができる。以下、この電磁波の発生方法と受信方法、並びに解析方法について説明する。
【0031】
<空胴共振器によって非接触で電流発生>
励振部10で電線Cに交流電流Iを流す際は、非接触で行うことが望ましい。接触により被覆が傷つくのを防止するためであり、また後述のように長さ方向に対して垂直に振動している電線Cに確実に電流を流すためである。本実施形態の励振部10は、非接触で交流電流Iを電線Cに流すために空胴共振器11を備えている。
【0032】
空胴共振器11は、内部に特定のマイクロ波周波数帯の定在波を励起することができる。空胴共振器11に電線Cの一部を通過させておくと、電線Cはこの定在波を受信する。このとき、電線Cを通過する電界ベクトルの総和が、電線Cの長さ方向の成分を有していれば、電磁誘導によって電線Cにはマイクロ波周波数の交流電流が流れる。すなわち、空胴共振器11に励起した定在波が、電線Cを流れる交流電流Iに変換される。なお、本実施形態においては、定在波を効率よく交流電流Iに変換するために、空胴共振器11に励起する定在波のモードをTM01モードとしてある。
【0033】
<TMモード>
図3は、TM01モードの定在波を発生させた空胴共振器11における電磁界分布を示す図である。同図において電界ベクトルは実線で示してあり、磁界ベクトルは点線で示してある。
図3に示すように、TM01モードの定在波が励起された空胴共振器11には、円筒の軸を中心とする回転磁界が発生しており、同時に回転磁界の軸方向のベクトルを持った電界が発生している。TM01モードの定在波では、回転磁界の中心に近付くほど、電界強度が強まる。そこで本実施形態においては、図3のTM01モードの回転磁界の中心である円筒の軸に沿って電線Cを配置してある。よって、元来、放射損が少なくエネルギー効率が高い空胴共振器11を利用しつつ、マイクロ波から交流電流Iへの変換効率をさらに向上してある。
【0034】
<空胴共振器の構成>
ここで、空胴共振器11のより具体的な構造について図4を参照して説明する。なお、図4には円筒型の空胴共振器を例にとって示してあるが、むろん方形の空胴共振器や球形の空胴共振器も利用できることはいうまでもない。
図4に示すように空胴共振器11は、金属製の円筒状側壁11aと、その軸線方向両端を塞ぐ端部側壁11b,11cとを備えている。端部側壁11b、11cは、円筒の軸線が通過する部位を含んだ略中央部にそれぞれ開口11b1,11c1が形成されている。端部側壁11b,11cはこれら開口11b1,11c1を除いて円筒状側壁11aの両端を電磁的に密閉している。なお、端部側壁11b、11cの間隔Lは、空胴共振器11内に発生させたいマイクロ波の定在波の波長λに対し、L=(λ/2)×n(nは自然数)を満たすように決定される。
【0035】
<励振法>
図4のように構成された空胴共振器11には、所定の伝送線路からマイクロ波が導入される。所定の伝送線路としては、同軸線路、ストリップ線路、導波管、誘電体導波路などを利用することができる。また、所定の伝送線路を空胴共振器11に結合するには、ループ結合、プローブ結合、ホール結合、スリット結合などを利用できる。本実施形態においては、例えば図4のようにループアンテナを配置してあり、回転磁界を励振することにより空胴共振器11内にTM01モードを励起している。
その他、例えば、図5のように方形導波管と円筒共振空洞を接合し、方形導波管に励起したTE01モードを円筒共振空洞に導入しても、円筒共振空洞にTM01モードの定在波が励起することができる。
【0036】
<電線から放射されるマイクロ波>
電線Cは、搬送機構30によってその長さ方向に搬送されており、空胴共振器11の開口11b1から導入されて、開口11c1から引き出される。この搬送経路は、上述したように空胴共振器11の内部でTM01モードの回転磁界の中心を通っているので、電線Cにはその搬送方向へ進行する交流電流が電磁誘導によって誘起されている。すなわち、電線Cに発生する交流電流Iは電線Cの長さ方向に進行するので、交流電流Iは空胴共振器11の外部にある電線Cにも流れており、空胴共振器11の外部にある電線Cからもマイクロ波が放射される。
【0037】
電線Cから放射されるマイクロ波は、上述したように電線Cの被覆状態の影響をうけており、そのマイクロ波の位相速度や振幅強度は放射位置における被覆状態に応じたものとなる。例えば、電線Cから放射されるマイクロ波は、被覆を通過する際に吸収されるので、被覆が欠損している部位では被覆が欠損していない部位に比べて放射強度が強くなる。また、例えば、電線Cが均質であれば伝送するマイクロ波の位相の廻り方は一定であるが、電線Cの被覆が欠損している部位では伝送媒質が均質でなくなり、被覆が欠損していない部位とはマイクロ波の位相の廻り方が異なる。すなわち、電線Cの各部位から放射されるマイクロ波を受信して、その位相速度や振幅強度を解析出来れば被覆状態を定量化した情報を得ることができる。特に、交流電流Iは表皮電流化しているので、表皮電流化していない電流と比べると、近接する被覆の状態の影響を強くうけることになる。すなわち、電線Cから放射されるマイクロ波には、そのマイクロ波を放射した部位における被覆状態が色濃く反映されている。
【0038】
<電線の搬送>
ところで、電線Cを長さ方向に高速で搬送すると、電線Cには振動やブレが発生する。振動が発生すると、電線Cと受信部20のアンテナとの距離も変動するのでマイクロ波の正確な強度を受信できなくなる。むろんアンテナを電線Cに接触させれば空間変動に起因する受信強度の変動は発生しないが、振動やブレを抑制するほどアンテナを電線Cに接触させると電線Cの被覆を傷つける可能性もあるし、検査の都度電線と検査装置を固定する手間が増えるので検査工程の簡略化のためにもマイクロ波の受信は非接触で行うことが望ましい。
【0039】
また、当然ながら空胴共振器11内部に通過させている電線Cも振動するので、電線Cは回転磁界の中心と軸との一致度合が変動することによって交流電流Iの強度も空間振動の影響で上下動する。このような交流電流Iの変動による影響を排除するために、例えば交流電流Iの強度に同期して受信部20のゲインを調整したりすることも考えられるが、装置規模の増大に繋がってしまう。また防振のために、例えば電線Cの搬送経路にガイドローラのような芯ブレ防止部材を配置して電線Cの振動を緩和することが考えられる。むろん、ガイドローラで電線Cの空間振動を極力抑えることは本実施形態においても効果的であるが、このような機械的な防振対策だけで完全に振動を抑えるのは難しい。
【0040】
そこで本実施形態では、受信部20にて受信して解析処理部40で利用する情報を、マイクロ波の振幅情報ではなくマイクロ波の位相情報とすることにより、上記空間振動の影響を棄却することにする。位相情報は受信強度に影響されないので、空胴共振器11から電線Cに受信される交流電流Iの変動や、受信部20の受信強度に対する空間振動の影響を後述のように効果的に排除することできるからである。なお、本実施形態において利用する位相情報とは、位相の廻り、すなわち位相速度の変動である。
【0041】
<位相の廻り>
図6は、位相の廻りについて説明するグラフである。同図に示すように、電線C上を進行する交流電流Iの位相速度vは伝送媒質が均質であれば一定であり、電線C上のA点とB点の間での位相の廻りΔvも一定となる。ここで言う伝送媒質は、実際に電流が流れる導体部分のみならずその周囲を覆う被覆の影響をも含むものである。特に本実施形態では交流電流Iが表皮電流なので被覆の状態も導体を流れる電流に大きく影響し、そういった意味で伝送媒質には被覆をも含むことになる。従って、例えば、A点とB点の間に傷やピンホールなどの異常があって伝送媒質が均質と見做せない場合は、交流電流Iの位相速度vがその部位で変化するので、この間の位相の廻りΔvは他の部位に比べて大きくなったり小さくなったりと一定でなくなる。このような位相の廻りΔvを検出するためには、図7に示す手法と、図8に示す手法の2通りが考えられる。
【0042】
<空間振動による信号変動を相殺する>
図7は、単一断面の均等性を用いる方法を説明する図であり、図8は軸方向の均等性を用いる方法を説明する図である。
図7においては、電線Cの垂直断面において電線Cの周囲に一定角度置きに複数のアンテナを配置してある。このように1垂直断面に等角配置した複数アンテナで放射電磁波の強度を受信することにより、該垂直断面において電線Cから放射される電磁波の強度を経時的に取得する。この電磁波の強度の経時変化を解析すると、電線Cを流れる交流電流Iの位相の変化が追跡できる。しかしながら、この方法では電線Cの空間振動による影響を吸収することは難しく、正確な位相の変化を把握することが難しい。
【0043】
一方、図8においては、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを隣接配置し、その差動信号に基づいて位相速度を得ている。2本のアンテナの隣接間距離が十分に短ければ、電線Cに対する各アンテナの距離は連動して変化する。従って、2本のアンテナで受信したマイクロ波強度の差動信号においては、電線Cの振動による受信強度への影響は相殺されることになる。すなわち、電線Cの空間振動に影響されずに位相の回りΔvを測定するためには、図8の方式が好ましいことが分かる。そこで、本実施形態においては後者の方法により位相に関する情報を得ることにする。以下、後者の方法を「隣接間差動」と呼ぶことにする。
【0044】
<アンテナは2本を軸方向にオフセット配置>
図9は、隣接間差動において利用する本実施形態の受信部20と解析処理部40のハードウェア構成を示すブロック図である。同図に示すように、受信部20は2本のアンテナ21a,21bと、BPF(Band Pass Filter)22a,22bと、LNA(Low Noise Amplifier)23a,23bと、BPF(Band Pass Filter)24a,24bと、検波器25a,25bを備えている。アンテナ21aとアンテナ21bは、電線Cの軸に対して等角配置されるとともに電線Cの軸方向に所定間隔オフセットして配置されている。
【0045】
アンテナ21aで受信されたマイクロ波はBPF22aに入力されて、BPF22aとLNA23aとBPF24aで所望のマイクロ波周波数以外の不要な周波数成分やノイズ成分を除去しつつ所定の増幅度で増幅したマイクロ波MW1にされる。マイクロ波MW1は検波器25aでその強度を検出される。
同様にアンテナ21bで受信されたマイクロ波もBPF22bに入力されて、BPF22bとLBA23bとBPF24bで所望のマイクロ波周波数以外の不要な周波数成分やノイズ成分を除去しつつ所定の増幅度で増幅したマイクロ波MW2にされる。マイクロ波NW2は検波器25bでその強度を検出される。
検出されたマイクロ波MW1,MW2は解析処理部40に入力される。
【0046】
なお本実施形態では、アンテナ2本で隣接間差動を行っているが、アンテナ3本以上を軸方向に所定間隔ずつオフセット配置して各アンテナ間の差動信号を処理したりするなどの変形例は、当然に本発明の範疇に含まれる。このようにアンテナ本数を軸方向に増加すれば、軸方向の観測領域が広がるので、電線Cの搬送速度を速めることが可能になる。
また、図10のように、所定距離オフセットした隣接する垂直断面のそれぞれに、同数であって複数のアンテナを等角配置し、軸方向に隣接する各組のアンテナのそれぞれで隣接間差動による位相速度を検出する変形例も、当然に本発明の範疇に含まれる。同図のようにアンテナを配置すると、アンテナが軸対称に配置されるので後に示す電界分布も軸対称になり、計測精度が向上する。また位相速度の変動を各組のアンテナ毎に計測し、これらを平均することにより位相速度の計測制度も向上する。
【0047】
<アンテナを定在波の腹に配置する>
図11は交流電流Iによって放射される電磁波の電界分布とアンテナ21a,21bの位置関係を概念的に示した図である。同図の上には、電線Cの被覆状態が正常なときに交流電流Iによって発生する電界強度分布の定在波が示してあり、同図の下には、電線Cの被覆状態に異常があるときに交流電流Iによって発生する電界強度分布の定在波が示してある。図11の上図に示すように、アンテナ21a,21bを被覆が正常なときの定在波の腹に相当する位置に配置すると、電界強度の変動を最も感度よく検出できる。定在波の腹の部分では電界強度が最も強いため、S/N比が向上するからである。また、腹の部分では差動信号が最小であるため、差動信号が所定量以上に上昇したか否かで容易に被覆の異常を検出できるからである。
【0048】
なお、隣接間差動の場合はアンテナが2つあるので、いずれか一方のアンテナを定在波のピークに合わせるように配置することが考えられる。いずれのアンテナを腹にあわせるかの選択は、位相の廻りが変動したときに、より差動信号が大きく現れるように選択するとよい。図11に示した例では、傷が有ると位相の廻りが速くなっているため、左のアンテナを腹の中心に略一致させるとよい。位相が廻ったときに差動信号が顕著に変化するので検出感度が向上するからである。むろん、図7のようにアンテナを配置した場合も、アンテナが定在波の腹に一致するように配置すると、検出感度が向上する。
【0049】
<解析処理部>
図11において、解析処理部40は、アンプ42a,42bと、差動アンプ43と、差動アンプ44と、可変ゲインアンプ45と、コンパレーター46とを備えている。マイクロ波MW1とマイクロ波MW2はアンプ42aとアンプ42bでそれぞれ増幅される。増幅されたマイクロ波MW1は差動アンプ43の非反転入力端子に入力される。また、増幅されたマイクロ波MW2は差動アンプ43の反転入力端子に入力される。その結果、差動アンプ43はマイクロ波MW1とマイクロ波MW2の差動信号Def1を出力する。
【0050】
また差動アンプ44は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の双方を差動アンプ44の反転入力端子に入力されており、所定の比較用電圧(固定値)を非反転入力端子に入力されている。その結果、差動アンプ44は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値と所定の比較用電圧の差動信号Def2を出力する。差動信号Def2は、可変ゲインアンプ45にゲインコントロール信号として入力される。すなわち可変ゲインアンプ45は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2を一定値に規格化した場合に得られるであろう信号レベルに、差動信号Def1のゲインを調整する。
【0051】
可変ゲインアンプ45でゲイン調整された差動信号Def1はコンパレーター46の反転増幅端子に入力され、コンパレーター46の非反転入力端子に入力された所定の電圧(閾値)と比較される。この所定の閾値は、被覆に異常があるか否かを判定するための基準電圧であり、予め実験的に算出されて設定されたものである。その結果、コンパレーター46は差動信号Defが所定の閾値よりも大きい場合には所定電圧を出力し、所定の閾値よりも小さい場合には所定電圧を出力しない。従って、作業者は、コンパレーター46の出力電圧の有無により、電線Cの被覆異常を把握することができる。
【0052】
なお、上述した実施形態において解析処理部40をアナログ回路で構成してあるが、受信部20の出力するマイクロ波MW1,MW2を所定のプログラム実行環境に入力し、デジタル信号に変換して上述のアナログ回路と同様の解析処理をプログラム的に実行してもよい。プログラム実行環境としては、少なくとも、差動信号Def1を入力されてこれをA/D変換するA/D変換部と、解析処理プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)と、ROMから適宜解析処理プログラムを読み出して実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUのワークエリアとして利用されるRAM(Random Access Memory)とを備えていればよい。
【0053】
<隣接間差動の効果>
以上のように隣接アンテナ間の差動信号に基づいて電線Cの所定長あたりの位相の進み具合を検出することにより、電線Cの振幅に起因する信号強度の変動を相殺しつつ位相速度を検出することができるようになる。
<位相位置のズレを微小化>
なお、各アンテナのオフセット間隔は、アンテナ間の物理的干渉を避けうる最短距離とすることが望ましい。アンテナ間のオフセット間隔を短距離にすれば、例え電線Cが振動したとしてもアンテナと電線Cの間隔が同じように変化するので、各アンテナで受信するマイクロ波強度に対する空間振動の影響も同じように変化する。従って、差動信号Def1は、空間振動によって発生した受信強度の変動を正確に相殺できることになる。より具体的には、例えば、マイクロ波であればその波長の1/10以下が望ましく、波長が51.7mmの5.8GHzのマイクロ波を利用する場合は、アンテナ間距離を5.17mm以下とするとよい。
【0054】
<利用する周波数帯>
また、本実施形態の空胴共振器11に励起するマイクロ波は、特にISMバンド (Industry-Science-Medical Band)のマイクロ波を利用することが好ましい。ISMバンドでの利用は、既存の通信に与える影響が小さく、電磁妨害(Electro Magnetic Interference)等に対して規制が比較的緩やかだからである。より具体的には、マイクロ波帯の中でITU(International Telecommunication Union)にて定められている、2.4GHz帯(2400-2500 MHz)、5.8GHz帯(5725-5875 MHz)、 10.8GHz帯、24GHz帯(24-24.25 GHz) を利用することが好ましい。
【0055】
<アンテナと解析部を実装した基板>
以上の受信部20と解析処理部40は、図12に示すように一つの基板上に配置すると取り扱いやすくなる。同図に示すように、基板Pには表から裏へ貫通する孔が形成されており、この孔に電線Cを通す。穴の周囲には、電線Cの通過するポイントを中心として、等角にアンテナが配置される。
また、孔の周囲の所定範囲を高周波エリアとし、高周波エリアの外側をデータ処理エリアとしてある。両エリアの境界は、電線Cから放射される電磁波強度が所定強度まで減衰する距離よりも外側に設けてある。ここで言う所定強度は、データ処理エリアに配置される各素子が誤作動を起さず、データ処理エリアの信号伝送ラインで伝送される信号強度よりも十分に低い値となるように定めることができる。このようにして決定した高周波エリアには、受信部20の各素子21〜44を配置し、データ処理エリアには解析処理部40の各素子46〜49や、データ処理を行うCPU、RAM、ROM等のように高周波信号により誤作動する可能性の高い素子を配置する。
以上のように基板Pに受信部20や解析処理部40を配置すると、アンテナの等角配置が非常に容易であるし、データ処理部とアンテナと検波器とを一体的に扱えるようになるので組立てなどの作業性が向上する。
【0056】
<遮蔽板>
さらに、励振部10と受信部20の間に遮蔽板を配置すると遮蔽板は空胴共振器の開口部からの漏洩波の影響が軽減するので好適である。図13は、電線Cに沿って形成される電界の瞬時値分布を示した図である。同図において、上に示した図は遮蔽板を配置しない場合の電界分布を示した図であり、下に示した図はアルミ製の遮蔽板を励振部10と受信部20の間に配置した場合の電界分布を示した図である。
【0057】
図13の測定に使用した電線Cは、φ=1mmの銅線に厚み0.1mmでPTFEを被覆したものであり、遮蔽板は電線Cを通過させるためのφ=10mmの開口が形成されている。遮蔽板の有り無しで電界分布を比較すると、遮蔽板無しであれば電界の軸対称性が成立していないが、遮蔽板を配置した場合は遮蔽板にて空胴共振器から遮蔽された部位は電界が軸対称になっていることが分かる。
【0058】
<実施例:感度>
以上説明した構成の検出感度をテストするために、図14に示す試験的な構成で被覆状態の検出感度試験を行ったところ、図15に示す結果を得た。なお、図14に示す試験構成では、電線Cはφ=1mmの銅線に0.1mmのPTFEを被覆したものであり、被覆に0.5mmの被膜欠落部を形成してある。また、電線Cの軸方向に2.5mm離した2本のアンテナを、電線Cから5mmの位置に配置してある。空胴共振器11には、5.8GHzのTM01モードのマイクロ波を発振してある。
【0059】
図15は、図14に示す試験的な構成において、傷のない部位と傷のある部位とにアンテナを合わせて各々検出周波数を0GHzから8GHzまで掃引しつつ、各アンテナで受信した電界強度をプロットしてある。同図から、5.8GHz付近における各アンテナの受信強度の差分は、傷なしに比べて傷ありの方が0.3〜0.6dBも大きいことが読取れる。また、電線Cから5mm離れた位置で計測した電界は、−47dBであることも読取れる。よって、電線Cから放射される電界強度に基づいて被覆の欠落を実用的なレベルで検出できることがわかる。
【0060】
(2)被覆検査処理:
ここで、上述した解析処理部40で行っている回路処理をプログラム実行環境で実現した場合の被覆検査処理について説明する。なお、以下の説明においては、例えばCPU,RAM,ROMを備えたプログラム実行環境のことを制御部50と記載することにする。検査装置100は、被覆検査処理の結果を表示するためのディスプレイや、作業者が検査装置100に検査の開始を指示したり、被覆検査処理の結果を表示させたり、結果の表示方法を設定したりするための操作入力部を備えている。なお、ディスプレイや操作入力部は、上述のように解析処理部40を回路で構成した場合にも備えている。
【0061】
図16は、被覆検査処理のフローチャートである。この処理を実行する前の準備として、検査装置を実行する作業者は、電線Cの一端を持って電線Cが空胴共振器11の円筒の軸を通過して開口11b1から開口11c1へと抜けるようにセットし、例えば搬送機構30にその一端をセットする。利用者が検査装置100を操作して検査処理を開始させると、まず空胴共振器11にTM01モードのマイクロ波定在波が励起され、次いで搬送機構が巻取機構などで電線Cを巻き取るなどして、電線Cの搬送を開始する。すると、解析処理部40は、受信部20から差動信号Def1の取得する処理を開始する。ここまでの検査前の準備については、上述のように解析処理部40を回路で実現した場合も同様である。
【0062】
処理が開始されると、ステップS100(以下、「ステップ」の記載を省略する。)において、制御部50は、A/D変換部からマイクロ波MW1とマイクロ波MW2のデジタル信号を取得する。なお、S100におけるデータ取得は、所定時間置きに自動的に実行されている。ここでいう所定時間は、電線Cの搬送速度や電線Cに形成されることが想定される異常部位(例えば傷)のサイズとの関係で決定されるものであり、この所定時間内に電線Cが搬送される距離が、電線Cに形成されることが想定される異常部位(例えば傷)のサイズ以下となるように決定される。所定時間を適切に設定することにより、検査装置100は、電線Cを漏れ無く検査できるだけの時間分解能を有することになる。
【0063】
なお、データ取得と以下のS105〜S120の処理は並列して実行されてもよいし、S100のデータ取得が電線Cの全長で完了してから取得した各データに対してS105〜S120の処理を順に実行してもよい。また、S105〜S120の処理が、所定時間内に完了するのであれば、S100〜S120の処理を所定時間置きに繰り返し実行するようにしてもよい。
【0064】
S105において、制御部50は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の差分ΔMWを算出する。この差分ΔMWは、上述した回路における差動信号Def1に相当する。なお、S105において制御部50は、差動信号Def1の信号強度を所定割合増幅したり、ノイズ除去処理を行っても構わない。
【0065】
S110において、制御部50は、差分ΔMWのゲイン調整をする。例えば、制御部50は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を指標値Iとして取得し、この指標値Iと所定の基準値Sとの比率S/Iを算出する。そして、比率S/Iを差分ΔMWに乗じる。すると、差分ΔMWは、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を基準値Sに規格化したときに、規格化されたマイクロ波MW1とマイクロ波MW2から得られるであろう差分の値にゲイン調整される。むろん、このときの指標値Iとしては、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を所定割合増減させたものであってもよいし、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2のいずれかであってもよい。
【0066】
S115において、制御部50は、差分ΔMWと所定の閾値の大小関係を判断する。この閾値は、被覆に異常があるか否かを判定するための基準値であり、実験的に予め決定されている。制御部50は、比較の結果、差分ΔMWが所定の閾値よりも大きい場合には被覆に異常が有ると判断して差分ΔMWが取得されたタイミングを示す情報と共にその旨をRAMに記憶し、差分ΔMWが所定の閾値よりも小さい場合には異常無しと判断して差分ΔMWが取得されたタイミングを示す情報と共にその旨をRAMに記憶する。むろん異常有無のいずれか一方は、RAMに何も記憶しないことにより、その旨を示してもよい。
【0067】
S120において、制御部50は、電線Cの全長に亘って検査が完了したか否かを判断する。完了していない場合は、S100に戻って次の差分ΔMWについてS105〜S115の処理を行って異常の有無を判定する。一方、電線Cの全長について検査が完了している場合は、S125に進む。
S125において、制御部50は、異常部位の有無や、異常部位の箇所をディスプレイに表示する。異常部位の箇所は、電線Cの搬送速度と異常部位の検出されたタイミングとに基づいて、算出可能である。むろん、リアルタイムで検査結果を表示するのであれば、異常検出された時点で電線Cの搬送を停止し、作業者が異常判定された箇所をチェックできるようにしてもよい。
【0068】
(3)変形例1:
上述した実施形態では、検査対象として軸方向に高速移動する電線Cを例にとって説明したので、隣接間差動で検出した位相速度の変化に基づいて被覆の異常を検出した。しかしながら、本発明を空間振動が発生しない静的な検査対象に適用する場合は、上述の隣接間差動は当然に利用できるが、振幅情報を利用する方法も利用できるし、垂直断面内にアンテナを等角配置して位相を検出する方法も利用可能である。
そこで、振幅情報を利用して被覆の異常を検出する例として、以下に止血用バルーンの融着検査について説明を行う。
【0069】
図17は、止血用バルーンの融着を検査する検査装置200の構成を示すブロック図である。同図において、検査装置200は、励振部210と、受信部220と、回転駆動部230と、解析処理部240とを備えている。励振部210は、上述した実施形態と同様であり、受信部220は1本のアンテナと受信部20の備えていたBPFやLNAを備えている。
なお、止血用バルーンはその一端をガイドチューブの外周に融着されており、止血用バルーンそのものは励振部210の外部に配置されている。ガイドチューブには、例えばステンレス鋼のワイヤWがチューブの中心に挿通されており、このワイヤWの一部が励振部220の内部に配置されている。このワイヤWは上述した電線Cと同様に励振部210によって交流電流Iが流される。
【0070】
受信部220は、図18のように一軸の機械的旋回機構を備えており、止血用バルーンのバルーン部のサイズに対応するために径方向への退避が可能になっている。なお本変形例の受信部220のアンテナ数を1本にしてあるのは、止血用バルーンに空間振動が無く、1本のアンテナでマイクロ波の放射強度を正確に検出できるからである。むろん、複数アンテナを用いてもよい。例えば、止血用バルーンの芯線の垂直断面内に複数のアンテナを等角配置すれば、後述の検査処理においてガイドチューブを回転させずに融着部位の全周検査を完了できる。
【0071】
回転駆動部230は、例えば図19に示すような、ラック&ピニオンを用いた逆送回転機構で構成できる。図19において挾持部231は導体線を挾持可能であり、ピニオンを回転させると、ラックAとラックBが平行な位置関係を保ちつつ図19において左右逆方向に移送されて、挾持部231に挾持された導体線はピニオンの回転方向と同方向に回転される。
また、回転駆動部230は、ワイヤWの両端を支持するなどしてワイヤWの空間座標が安定的するように保持しており、さらに案内輪などの芯ブレ防止機構でワイヤWおよび止血用バルーンの空間座標を固定している。その結果、受信部220のアンテナと止血用バルーンの融着部位との距離は、一定であり上述の実施形態のように振動することはない。
【0072】
ここで、図20を参照して止血用バルーンとガイドチューブの融着部位に生じうる異常について具体的に説明する。図20は、止血用バルーンとガイドチューブが融着された部位の断面を拡大して示した要部断面図である。同図に示すように、中心にあるワイヤWをガイドチューブが被覆しており、このガイドチューブの外周に止血用バルーンの一端が融着されている。この融着部位において、ガイドチューブと止血用バルーンの間に気泡などの異物が入った状態で融着される可能性があり、これが止血用バルーンの融着不良である。
【0073】
融着不良の有無は、ワイヤWから放射される一定強度のマイクロ波の強度によって判断することができる。融着不良が有る部位においては空気層が介在するので、誘電率の異なる物質が接した境界が増えて放射強度の減衰度合が高まるからである。例えば、融着が完全であれば、境界はガイドチューブと止血用バルーンの間に形成されるだけであるが、気泡が入った状態の部位では、ガイドチューブと気相の間の境界と、気相と止血用バルーンの間の境界の2つが形成される。従って、融着が均等な部位であれば芯線から一定の距離の電界強度は均一でほぼ真円状の分布となるが、気泡が入った部位ではその真円性が崩れることになる。なお、上述した電線Cに交流電流Iを流したときと同じく、励振部210によってワイヤWに電流を流した場合も図21に示すような電界分布の瞬時値が得られる。
【0074】
なお本変形例においては、励振部210にはワイヤWのみを挿入すれば十分であるが、ガイドチューブも励振部210に挿入しても構わない。また、挿入されたワイヤWと励振部210との間には、接触防止のガードスリーブが必要である。また、止血用バルーンは医療機器であるので、検査装置200を載置する台には防菌フードをつける必要がある。
【0075】
以上の構成により、制御部250は図22に示す検査処理を実行する。図22は、検査処理のフローチャートである。なお本変形例の検査装置200の備える制御部250も実施形態の制御部50と同様にCPU,RAM,ROMを備えたプログラム実行環境である。検査処理を行うにあたり、作業者は、中心にワイヤW芯線を通した止血用バルーンを検査装置200にセットする。このとき、止血用バルーンとガイドチューブとの融着部位にアンテナが近接するように位置を調整する。次に、作業者は、回転駆動部230の挾持部231にガイドチューブを挾持させ、受信部220を検出位置に配置する。このとき、さらにアンテナと融着部位との位置を調整する。
【0076】
図22に示すように、S200において、制御部250は、回転駆動部230のピニオンを所定量回転させてガイドチューブを所定角度だけ回転させる。つまり、S200においては、アンテナに対面する融着部位を変更する。
【0077】
S205において、制御部250は、受信部220から電界強度を取得し、S200で設定した角度と対応付けて電界強度をRAMに保存する。
S210において、制御部250は、S200において回転した総回転量が360°に達したか否かを判断する。360°回転し終わっていればS215に進み、総回転量が360°に満たない場合はS200に戻ってS200以降の処理を行う。
【0078】
S215において、制御部250は、検査結果をディスプレイに表示する。例えば、軸方向の計測位置毎に、計測角度に対する電界強度分布をプロットしたグラフを表示したり、隣接する計測角度における電界強度との差分が所定値以上となった部位について異常と判定して、その部位を通知する。むろん、医療現場では止血用バルーンの良否判定できれば使用可否の目安になるので、異常の有無のみを通知するだけでも構わない。
【0079】
なお、本変形例1ではワイヤWを被覆するバルーンチューブとガイドチューブの検査を例にとって説明したが、本変形例1は細径ピアノ線のダイアモンド被覆の検査にも利用可能である。ここで言う細径ピアノ線は、ピアノ線の表面にダイアモンド粉末を焼結したものであり、半導体用のシリコン切断(ダイカット)に用いられる。このピアノ線に対するダイアモンドの焼付け状況は、シリコンの加工性能に影響する。例えば、ダイアモンド被覆に欠損のあるピアノ線に通常の送りをかけて使うとピアノ線がシリコンに直接接触して切れてしまう事故が発生する。そこで、細径ピアノ線に本変形例1の検査を適用することにより、ダイアモンド被覆の厚みを検査できる。
【0080】
また、上述した変形例1では、受信部のアンテナを移動させたり、複数アンテナを電線の周方向や軸方向に配置したりして、所定方向に沿って電界強度を計測した変動データとして取得しているが、このような変動データが必須というわけではない。例えば、正常な被覆状態で計測されるべき電界強度が予め分かっていれば、その電界強度を基準として所定の範囲の電界強度であれば被覆が正常であると判断し、電界強度が所定の範囲外であれば被覆が異常であると判断することができる。
【0081】
(4)変形例2:
<電力・周波数の制御>
以上説明した実施形態や変形例に加えて、励振部10や励振部210で発振するマイクロ波の電力・周波数が安定するように制御すれば、電線CやワイヤWから放射される電磁波の強度が安定する。実施形態においては差動信号を利用しているので、この制御は無くても十分な精度が得られるが、変形例の止血用バルーンの被覆検査のように振幅情報を1アンテナで取得している場合は、この制御を行うことにより、精度が大きく向上する。
【0082】
(5)変形例3:
上述した実施形態では受信部のアンテナとして空中線を例にとって説明したが、空間に放射される電磁波の電界強度を測定する手段はこれに限るものではない。
図23に電磁波を測定する受信部の他の一例を示した。同図には、電界が加わると物質の屈折率が変化する電気光学結晶(EO結晶)を利用した電界センサーを示してある。電気光学効果(EO効果)にはポッケルス効果やカー効果があるが、EO結晶を利用した電界センサーにはポッケルス効果を有するEO結晶を利用することが多い。屈折率の変化量が電界強度に一次比例するので較正しやすいからである。
【0083】
<受信部の構成>
図23において、受信部320は、電界センサー321と偏光処理部322を備える。電界センサー321は先端から順に、誘電体で形成された反射膜321a、EO結晶321b、コリメーターレンズ321c、フェルール321d、光ファイバー321eを備えている。光ファイバー321fの後端は光ファイバコネクタに接続されており、この光ファイバコネクタを介して偏光処理部322に接続されている。なおEO結晶は、例えば1mm角のものが使用可能であるので、電界センサー321は従来のダイポールアンテナを用いた電界センサー(長さが数cm〜十数cm)よりも小さくすることができる。
【0084】
<電界センサー内での光の移動>
受信部320において、光ファイバー321eの先端はEO結晶321bに対して垂直に接続されている。また、EO結晶321bは、光ファイバー321eから光が入射される側の平面である入光面と、反射膜321aが形成された側の平面である反射面とが互いに平行に形成されている。反射膜321aは、EO結晶321bの内部側から反射面へ到達した光を反射する。従って、光ファイバー321eから入射された入射光は入射面に垂直に入射してそのまま垂直に反射面へ到達し、反射面で垂直に反射されて光ファイバー321eへ再び入射される。
【0085】
光ファイバー321eに入射された反射光は、EO結晶に電磁波が照射されていない場合は入射光と同じ偏光状態を保っている。EO結晶321bの屈折率が変化していないからである。一方、EO結晶に電磁波が照射されると屈折率が変化するため、光ファイバー321eに入射された反射光は入射光とは異なる偏光状態に変化している。偏光処理部322は、偏光状態の変化を検光子322a等で光の強度変化に変換し、この光の強度変換を電気信号に変換することにより電磁波の電界強度に応じた信号を出力する。このようにして得られた電界強度に応じた信号を、上述した実施形態や変形例の解析処理部で解析すれば、被覆状態を検査することができる。
【0086】
なお、光ファイバーを伝送する際にも光に位相変化が生じるが、光ファイバーを上る入射光と光ファイバーを下る反射光との双方に同じ位相変化が生じるので、上りと下りとで位相変化を打ち消しあい、光ファイバーでの位相変化をゼロにすることができる。
また、本実施形態の電界センサー321は、計測しようとしている本来の電磁波の状態を正確に捉えることができる。EO結晶321bやコリメータレンズ321cやフェルール321bは金属を含まないし、反射膜321aは誘電体で形成されており、光ファイバー321eで偏光処理部322まで信号を伝送できるため、電界センサー321が測定対象から放射された電磁波を擾乱せず、測定対象の近傍に配置しても電気的な結合を生じないからである。
【0087】
(6)まとめ:
以上説明した実施形態によれば、誘電体で被覆された電線Cにおける誘電体の傷やピンホールの有無を検査する検査装置100において、空胴共振器11でTM01モードのマイクロ波定在波を励起し、TM01モードの回転磁界中心に電線Cを通過させることにより電線Cにマイクロ波周波数の交流電流Iを流す。そして空胴共振器11の内部から外部へと連続している電線Cから放射されるマイクロ波を受信し、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを電線Cの軸に対して等角度に隣接配置し、その差動信号に基づいて交流電流Iの位相速度を得る。この位相速度が、一定でない部位を検出し、その部位について被覆に異常があると判断する。以上の手法で電線Cの検査を検査することにより、従来に比べて簡便かつ高速に被覆線材の被覆検査を実行可能となった。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0089】
10…励振部、11…空胴共振器、11a…円筒状側壁、11b…端部側壁、11c…端部側壁、11b1…開口、11c1…開口、20…受信部、21a…アンテナ、21b…アンテナ、22a…BPF、22b…BPF、23a…LNA、23b…LNA、24a…BPF、24b…BPF、25a…検波器、25b…検波器、30…搬送機構、40…解析処理部、43…差動アンプ、44…差動アンプ、45…可変ゲインアンプ、46…コンパレーター、42a…アンプ、42b…アンプ、100…検査装置、200…検査装置、210…励振部、220…受信部、230…回転駆動部、231…挾持部、240…解析処理部、320…受信部、321…電界センサー、321a…反射膜、321b…EO結晶、321c…コリメーターレンズ、321d…フェルール、321e…光ファイバー、322…偏光処理部、322a…検光子、C…電線、I…交流電流、P…基板、W…ワイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置、検査方法および検査プログラムに関し、特に、導体線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置、検査方法および検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電線等のように導体表面を誘電体で被覆した被覆線材は、出荷前に、その被覆の傷、ピンホール、剥がれなどの有無が検査される。被覆が不十分だと耐圧に影響するからである。被覆検査の方法としては、レーザー光を被覆に照射してその反射光を利用する方法、高感度カメラで撮影した被覆の画像を画像処理することにより被覆の異常を検出する方法、被覆線材に高電圧を通電して絶縁破損やピンホールで空気がイオン化することにより発光する紫外線を検出する方法などが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のレーザー光を用いる被覆検査では、検査すべきポイントにレーザー光を照射し、その反射光の強弱に基づいて被覆の異常を検査される。このときレーザー光が正確に検査ポイントに照射されなければならないし、検査ポイントの反射光が正確に受光部に入射しなければならない。従って、ぶれたり振動したりしている被覆線材の検査には不向きであった。
また、レーザー光を用いる被覆検査では、照射面の検査しか出来ないので電線等の全表面を検査しようと思うと、レーザー光で導電線の表面を走査したり、レーザー光の光源や受光部を検査対象である導電線の軸を中心にして複数方向に用意したりしなければならない。従って、レーザー光で被覆検査を行う場合は、検査装置がどうしても大掛かりになってしまうし高価になってしまう。
【0004】
高感度カメラを用いて被覆検査を行う場合も、やはり検査装置が大掛かりになってしまうし装置が高価になってしまう。高感度カメラがそもそも高価であるし、高速で移動する被覆線材の全周を網羅するように画像を取得するためには複数台の高感度カメラを用意するか、高感度カメラを被覆線材の周方向に移動させつつ撮影するような装置が必要になるからである。また、撮影された画像から被覆の異常を検出するために、高速な画像処理を実行できる処理装置も必要になる。特に後述のように高速に移動する電線の被覆検査を行おうとすると、高感度であることに加えて高速撮影可能な高速度カメラが必要になるし、高速で順次撮影された画像を高速で画像処理する装置も必要になる。
【0005】
オゾン濃度を検出する方法では、電線に高電圧を印加する必要があるので危険であるし、オゾンに照射した紫外線の吸光度を検出するための装置等も必要になる。そのため検査装置が大掛かりになってしまうし、装置も高価になってしまう。
【0006】
ところで、電線Cは、出荷前に工場でその被覆検査を行う必要がある。数十〜数百メートルにも及ぶ電線の検査を正確におこないつつ実用的な時間で検査を完了するためには、その製造ラインの途中で検査するのが好ましい。検査工程を別途設ける必要が無いので、生産効率が向上するからである。しかしながら、製造ラインにおける電線は長さ方向に数百m/minで高速移動しており、上述の技術では、このような要望に応えることは出来なかった。
【0007】
また、被覆検査においては、被覆の傷・ピンホール・剥がれ等の欠損の有無を検査するだけでなく、被覆の均一性や複数種類の被覆を重ねてある場合の被覆同士の密着度合等のような被覆の性能検査を行えると好ましい。しかしながら、被覆の均一性や密着度合などは表面からは測定できないので、上述のレーザー光や高感度カメラやオゾン濃度を利用する方法は利用できない。むろん、例えばCT(Computed Tomography)などのように大掛かりな装置を用いれば検査することも可能ではあるが、より簡便な検査方法の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、より簡便に導電線を被覆する誘電体の状態を検査することができる検査装置、検査方法および検査プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の検査装置は、導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置であって、空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振部と、上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信部と、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断部とを具備する構成としてある。
【0010】
上記構成において、導電線は誘電体によって被覆されており、導電線は基本的にむら無く均質であって位相の廻りは一定しているものとする。また被覆も基本的に、均質な状態になるように予め作成されているが、作成状況次第では均質な状態から一定量の誤差を勘案した状態から外れた不均質な状態となることがある。言い換えると、導電線に対して垂直な断面における被覆は、均質な状態であれば導電線のどこで切断してもほぼ同様の断面を示すが、不均質な状態であれば他の断面と異なる様相を呈する。
【0011】
上記検査装置は、このような断面の状態を、被覆の外部から非破壊で検査することができる。すなわち、上記励振部は、空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す。この交流電流によって導電線から上記誘電体を通過して放射される電磁波を上記受信部で受信する。上記受信部は、上記所定周波数の電磁波を選択的に受信することが出来るようになっている。
【0012】
所定周波数としては、マイクロ波周波数帯のようにその周波数を有する交流電流が表皮電流化する周波数帯が特に好適である。被覆の状態が交流電流に大きく影響した方がよく、被覆の状態が交流電流に与える影響が大きいほど、上記交流電流によって前記導電線から放射される電磁波も被覆の状態による影響が強く表れるからである。つまり、該電磁波において、被覆の状態に対応する情報のS/N比が向上するからであるとも言える。
【0013】
被覆の状態を示す情報としては、上記電磁波の振幅強度と位相速度を利用可能であり、上記判断部はこれらのいずれかを利用して上記被覆の状態を判断する。振幅強度を利用すれば、例えば、被覆の欠損した部位から放射される電磁波と欠損のない部位から放射される電磁波とではその振幅強度が異なるので、所定の閾値を設定することによりその差異を検出できる。また、例えば、被覆に気泡等の異物が入った部位を通過して放射される電磁波であっても同様のことが言える。
【0014】
また、位相速度は、その伝送媒体が均質であれば一定、すなわち位相の廻りが一定になるが、伝送媒質の品質が悪くて非均質であれば一定しない、すなわち位相の廻りも不定に成ることが知られている。ここで言う伝送媒質は、実際に電流が流れる導体部分のみならずその周囲を覆う被覆の影響をも含む。すなわち、上記被覆が均質であれば位相速度は一定であるが、被覆が均質でなければ位相速度が不定になる。従って、位相速度を利用すれば、被覆が欠損したり被覆に異物が混入したりするとその部位から放射される電磁波の位相の廻りに変化が生じるので、被覆の異常を検出することができる。
【0015】
また、上記導電線が上記導電線の長さ方向に移動している場合には、上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の位相速度の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断するように構成してもよい。受信部の受信した電磁波の振幅強度は、検査対象である導電線が移動しているとブレや振動によって空間変動要因が入り、正確な計測が出来ないからである。この点、位相は空間変動要因に影響されないので、位相速度は正確に計測することが可能である。よって、移動している導電線の被覆状態を正確に検出できるようになる。
【0016】
また、上記受信部は、所定方向に上記導電線を走査しつつ上記電磁波を受信してもよい。むろん、基準となる状態の被覆を通して放射される電磁波強度が既知であれば、特定のポイントで受信した電磁波強度に基づいて被覆の正常/異常を判断できる。しかし、例えば検査対象が複数種類ある場合は、検査ポイントの周辺との相対的な受信強度で判断したり、各検査ポイントで受信された受信強度の平均値に対する受信強度で判断したりする必要がある。このとき、上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断することができる。
【0017】
このように位相速度を利用する場合には、上記受信部は、上記導電線から放射される上記所定周波数の電磁波の位相速度を検出し、上記判断部は、上記電磁波の位相の廻りが所定量を超えた部位について上記被覆に異常ありと判断するように構成できる。すなわち、予め一定以上の品質が保たれていることを前提とし、該品質であれば位相の廻りがこれ以上になることが無いという所定量(閾値)を、予め実験的に決定しておく。そして、上記判断部は、位相速度から位相の周りを検出し、位相の廻りが上記所定量を超えるか否かで上記被覆の状態を判断することができる。
【0018】
ところで、上記空胴共振器によって上記導電線に効率よく交流電流を流すための本発明の選択的な一側面として、上記導電線は、上記TM01モードの回転磁界の略中心に沿って配置されてもよい。TM01モードでは、回転磁界の中心が最も電界が強く、また回転磁界の中心における電界ベクトルは一方向に定まる。すなわち上記回転磁界の中心に沿って上記導電線を配置すれば、導電線内を通過する電界ベクトルの総和が最大化されるので、空胴共振器の定在波から導電線に流れる交流電流への変換効率が最大化される。
【0019】
また交流電流に対する被覆の状態の影響を高めるための本発明の選択的な一側面として、上記励振部は、上記空胴共振器にマイクロ波周波数帯の定在波を励起することにより、上記導電線にマイクロ波周波数の交流電流を流すようにしてもよい。マイクロ波周波数の交流電流は、導電線において表皮電流になる。交流電流が表皮電流化すると、電流の大部分が被覆近傍を流れるので、被覆と交流電流の相互作用が最大化される。すなわち、被覆の状態の影響が、交流電流により顕著化する。
【0020】
また、導電線に空間振動が発生する場合に好適な本発明の選択的な一側面として、上記受信部は、上記導電線の軸に対して等角であって上記導電線の長さ方向にオフセット配置された少なくとも2つの電界センサーを備えており、これら電界センサー間の差動信号に基づいて上記位相速度を検出するように構成することができる。位相速度を検出する方法としては、導電線を長さ方向に走査して、導電線の各部位における電磁波強度を測定して、導電線の所定長さあたりの位相変動を検出する方法があるが、この方法では上記空間振動によって電磁波強度が変動してしまう。そこで、オフセット配置した2本以上の電界センサーにて受信した電磁波強度の差動によって、上記位相速度を検出する。位相速度であれば、振幅強度に依存しないし、隣接する電界センサー間の差動信号であれば、簡単なゲイン調整を行うことで導電線の空間振動による影響を排除した位相速度を得ることができる。なお、上記電界センサーは、空中線アンテナなどの電磁波の電界強度に応じて発生する電流や電圧を計測するものであってもよいし、光電界センサーのように電磁波の電界強度に応じて発生する屈折率変動を計測するものであってもよく、電界強度に対応して発生した物理量の変動を計測するデバイスであればいかなるものを利用しても構わない。
【0021】
なお、電界センサーのオフセット間隔は、空間振動する上記導電線との相対距離が、差動信号を得るための組となる電界センサーで等しく変化するようにする必要がある。すなわち、組となる電界センサー間のオフセット間隔は、電界センサー同士の干渉を避けうる最短距離であることが望ましい。ここで言う干渉とは、物理的干渉や電磁気的干渉である。電界センサーが近接するほど、隣接する電界センサーの差動信号に生じる空間変動要因は小さくなるので、検査結果の信頼性が向上する。
【0022】
また、上記電界センサーは、上記誘電体が基準状態のときに形成される上記定在波の腹に近接配置されることが好ましい。上記定在波の腹では電界強度が最も強いため、電界強度の変動についても最も感度よく検出できるからである。なお、ここで言う基準状態とは、上記均質な状態を意味する。
【0023】
なお、上記受信部は、上記導電線について、上記励振部の空胴共振器内を通過する部位とは異なる部位から上記電磁波を受信している。ただし、空胴共振器と受信部との間で、電界が発生すると導電線から発生する電界分布が乱れてしまう。そこで、本発明の選択的な一側面として、上記励振部と上記受信部を別個に構成し、上記励振部と上記受信部の間に導電体で作成された遮蔽板を配置することが好ましい。遮蔽板を配置することにより、励振部と受信部との間が電磁的に隔絶されるので、受信部が電磁波を受信する部位における導電線の電界は、励振部からの遠隔作用を受けずに済むので、導電線から放射される電磁波における被覆の状態に関する情報のS/N比が向上する。
【0024】
なお、以上説明した検査装置は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は上記検査装置を備える検査システム、上述した装置の構成に対応した工程を有する検査方法、上述した装置の構成に対応した機能をコンピューターに実現させる検査プログラム、該検査プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。これら検査システム、検査方法、検査プログラム、該検査プログラムを記録した媒体、の発明も、上述した作用、効果を奏する。むろん、請求項2〜10に記載した構成も、上記システムや上記方法や上記プログラムや上記記録媒体に適用可能である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、より簡便に導電線の被覆検査を実行可能な検査装置を提供することができる。
また請求項2にかかる発明によれば、移動している導電線の被覆状態を正確に検出できるようになる。
また請求項3にかかる発明によれば、複数種類の検査対象がある場合でも被覆状態を検査することができる。
また請求項4にかかる発明によれば、空胴共振器から導電線に受信される電磁波の受信効率を向上できる。
また請求項5にかかる発明によれば、導電線に流れる交流電流に対する被覆の影響を高めることができる。
また請求項6,7にかかる発明によれば、空間振動の発生する導電線であっても、空間振動に影響されること無く被覆の状態を検査可能になる。
また請求項8にかかる発明によれば、電界強度の変動の検出感度を向上できる。
また請求項9にかかる発明によれば、被覆の異常検出を簡単に出来るようになる。
また請求項10にかかる発明によれば、励振部と受信部とを電磁的に隔絶して、被覆異常の検出精度を向上できる。
また請求項11にかかる発明によれば、上述した検査装置に対応する検査方法を提供可能になる。
また請求項12にかかる発明によれば、上述した検査装置を制御する検査プログラムを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる構成を示すブロック図である。
【図2】電線Cの表皮電流を説明する図である。
【図3】TM01モードの電磁界分布の説明図である。
【図4】空胴共振器の構造を示す斜視図である。
【図5】TM01モードを励起するための一構成例である。
【図6】位相の廻りについて説明するグラフである。
【図7】単一断面の均等性を用いる方法を説明する図であり、
【図8】軸方向の均等性を用いる方法を説明する図である。
【図9】受信部と解析処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図10】アンテナ配置の変形例を説明する斜視図である。
【図11】電界分布とアンテナの位置関係を概念的に示した図である。
【図12】受信部と解析処理部を配置する基板構成の一例を示す図である。
【図13】電線Cに沿って形成される電界の瞬時値分布を示した図である。
【図14】検出感度をテストする試験的な構成である。
【図15】図14の構成で行ったテスト結果である。
【図16】被覆検査処理のフローチャートである。
【図17】変形例1の検査装置の構成を示すブロック図である。
【図18】変形例1の検波器が備える一軸の機械的旋回機構の側面図である。
【図19】変形例1の回転駆動部が備える逆送回転機構を側面から見た一部断面図である。
【図20】止血用バルーンの融着部位の要部断面図である。
【図21】ステンレス鋼のワイヤの電界分布の瞬時値である。
【図22】検査処理のフローチャートである。
【図23】変形例2にかかる受信部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)本発明の構成:
(2)被覆検査処理:
(3)変形例1:
(4)変形例2:
(5)変形例3:
(6)まとめ:
【0028】
(1)本発明の構成:
<概略構成>
図1は本発明の一実施形態にかかる構成を示すブロック図である。同図に示すように、検査装置100は、誘電体で被覆された電線に所定周波数の交流電流を流す励振部10と、上記所定周波数の交流電流が流されている電線から放射される所定周波数の電磁波を受信するための受信部20と、電線を長さ方向に搬送するための搬送機構30と、受信部20で受信した電磁波を解析して電線の被覆の状態を検査する解析処理部40を備えている。以下、各部10〜40の構成について、より詳細に説明して行く。
【0029】
<マイクロ波で表皮電流を発生>
励振部10は、電線Cに所定周波数の交流電流Iを発生させる。本実施形態においては交流電流Iの周波数はマイクロ波周波数帯としてある。ただし、交流電流Iが表皮電流化する周波数であれば他の周波数帯を採用しても本実施形態と同様の効果を得られる。また、表皮電流化しない周波数帯の電磁波であっても誘電体の状態が交流電流Iに影響する度合が減るものの影響がなくなるわけではないので、表皮電流化しない周波数帯の電磁波を利用しても構わない。交流電流Iが表皮電流化すると、図2に示すように、導体表面からδの深さまでに電流が集中する。
【0030】
図2は、電線Cに流れる表皮電流を説明する図である。同図に示すように、表皮電流は、誘電体からの距離がδの範囲内に集中しているため、交流電流Iは被覆の厚み、傷、量、種類、均質性などの物理・化学的状態による影響を受けやすい。従って、交流電流Iの振幅強度や位相速度にはこれらの物理・化学的状態が反映されることになる。また、電線Cに交流電流Iが流れるため、電線Cから交流電流Iの周波数に応じた電磁波が放射される。この電磁波も交流電流Iと同じく誘電体の影響を受けているため、電線Cから放射される電磁波を解析すれば被覆の状態を把握することができる。以下、この電磁波の発生方法と受信方法、並びに解析方法について説明する。
【0031】
<空胴共振器によって非接触で電流発生>
励振部10で電線Cに交流電流Iを流す際は、非接触で行うことが望ましい。接触により被覆が傷つくのを防止するためであり、また後述のように長さ方向に対して垂直に振動している電線Cに確実に電流を流すためである。本実施形態の励振部10は、非接触で交流電流Iを電線Cに流すために空胴共振器11を備えている。
【0032】
空胴共振器11は、内部に特定のマイクロ波周波数帯の定在波を励起することができる。空胴共振器11に電線Cの一部を通過させておくと、電線Cはこの定在波を受信する。このとき、電線Cを通過する電界ベクトルの総和が、電線Cの長さ方向の成分を有していれば、電磁誘導によって電線Cにはマイクロ波周波数の交流電流が流れる。すなわち、空胴共振器11に励起した定在波が、電線Cを流れる交流電流Iに変換される。なお、本実施形態においては、定在波を効率よく交流電流Iに変換するために、空胴共振器11に励起する定在波のモードをTM01モードとしてある。
【0033】
<TMモード>
図3は、TM01モードの定在波を発生させた空胴共振器11における電磁界分布を示す図である。同図において電界ベクトルは実線で示してあり、磁界ベクトルは点線で示してある。
図3に示すように、TM01モードの定在波が励起された空胴共振器11には、円筒の軸を中心とする回転磁界が発生しており、同時に回転磁界の軸方向のベクトルを持った電界が発生している。TM01モードの定在波では、回転磁界の中心に近付くほど、電界強度が強まる。そこで本実施形態においては、図3のTM01モードの回転磁界の中心である円筒の軸に沿って電線Cを配置してある。よって、元来、放射損が少なくエネルギー効率が高い空胴共振器11を利用しつつ、マイクロ波から交流電流Iへの変換効率をさらに向上してある。
【0034】
<空胴共振器の構成>
ここで、空胴共振器11のより具体的な構造について図4を参照して説明する。なお、図4には円筒型の空胴共振器を例にとって示してあるが、むろん方形の空胴共振器や球形の空胴共振器も利用できることはいうまでもない。
図4に示すように空胴共振器11は、金属製の円筒状側壁11aと、その軸線方向両端を塞ぐ端部側壁11b,11cとを備えている。端部側壁11b、11cは、円筒の軸線が通過する部位を含んだ略中央部にそれぞれ開口11b1,11c1が形成されている。端部側壁11b,11cはこれら開口11b1,11c1を除いて円筒状側壁11aの両端を電磁的に密閉している。なお、端部側壁11b、11cの間隔Lは、空胴共振器11内に発生させたいマイクロ波の定在波の波長λに対し、L=(λ/2)×n(nは自然数)を満たすように決定される。
【0035】
<励振法>
図4のように構成された空胴共振器11には、所定の伝送線路からマイクロ波が導入される。所定の伝送線路としては、同軸線路、ストリップ線路、導波管、誘電体導波路などを利用することができる。また、所定の伝送線路を空胴共振器11に結合するには、ループ結合、プローブ結合、ホール結合、スリット結合などを利用できる。本実施形態においては、例えば図4のようにループアンテナを配置してあり、回転磁界を励振することにより空胴共振器11内にTM01モードを励起している。
その他、例えば、図5のように方形導波管と円筒共振空洞を接合し、方形導波管に励起したTE01モードを円筒共振空洞に導入しても、円筒共振空洞にTM01モードの定在波が励起することができる。
【0036】
<電線から放射されるマイクロ波>
電線Cは、搬送機構30によってその長さ方向に搬送されており、空胴共振器11の開口11b1から導入されて、開口11c1から引き出される。この搬送経路は、上述したように空胴共振器11の内部でTM01モードの回転磁界の中心を通っているので、電線Cにはその搬送方向へ進行する交流電流が電磁誘導によって誘起されている。すなわち、電線Cに発生する交流電流Iは電線Cの長さ方向に進行するので、交流電流Iは空胴共振器11の外部にある電線Cにも流れており、空胴共振器11の外部にある電線Cからもマイクロ波が放射される。
【0037】
電線Cから放射されるマイクロ波は、上述したように電線Cの被覆状態の影響をうけており、そのマイクロ波の位相速度や振幅強度は放射位置における被覆状態に応じたものとなる。例えば、電線Cから放射されるマイクロ波は、被覆を通過する際に吸収されるので、被覆が欠損している部位では被覆が欠損していない部位に比べて放射強度が強くなる。また、例えば、電線Cが均質であれば伝送するマイクロ波の位相の廻り方は一定であるが、電線Cの被覆が欠損している部位では伝送媒質が均質でなくなり、被覆が欠損していない部位とはマイクロ波の位相の廻り方が異なる。すなわち、電線Cの各部位から放射されるマイクロ波を受信して、その位相速度や振幅強度を解析出来れば被覆状態を定量化した情報を得ることができる。特に、交流電流Iは表皮電流化しているので、表皮電流化していない電流と比べると、近接する被覆の状態の影響を強くうけることになる。すなわち、電線Cから放射されるマイクロ波には、そのマイクロ波を放射した部位における被覆状態が色濃く反映されている。
【0038】
<電線の搬送>
ところで、電線Cを長さ方向に高速で搬送すると、電線Cには振動やブレが発生する。振動が発生すると、電線Cと受信部20のアンテナとの距離も変動するのでマイクロ波の正確な強度を受信できなくなる。むろんアンテナを電線Cに接触させれば空間変動に起因する受信強度の変動は発生しないが、振動やブレを抑制するほどアンテナを電線Cに接触させると電線Cの被覆を傷つける可能性もあるし、検査の都度電線と検査装置を固定する手間が増えるので検査工程の簡略化のためにもマイクロ波の受信は非接触で行うことが望ましい。
【0039】
また、当然ながら空胴共振器11内部に通過させている電線Cも振動するので、電線Cは回転磁界の中心と軸との一致度合が変動することによって交流電流Iの強度も空間振動の影響で上下動する。このような交流電流Iの変動による影響を排除するために、例えば交流電流Iの強度に同期して受信部20のゲインを調整したりすることも考えられるが、装置規模の増大に繋がってしまう。また防振のために、例えば電線Cの搬送経路にガイドローラのような芯ブレ防止部材を配置して電線Cの振動を緩和することが考えられる。むろん、ガイドローラで電線Cの空間振動を極力抑えることは本実施形態においても効果的であるが、このような機械的な防振対策だけで完全に振動を抑えるのは難しい。
【0040】
そこで本実施形態では、受信部20にて受信して解析処理部40で利用する情報を、マイクロ波の振幅情報ではなくマイクロ波の位相情報とすることにより、上記空間振動の影響を棄却することにする。位相情報は受信強度に影響されないので、空胴共振器11から電線Cに受信される交流電流Iの変動や、受信部20の受信強度に対する空間振動の影響を後述のように効果的に排除することできるからである。なお、本実施形態において利用する位相情報とは、位相の廻り、すなわち位相速度の変動である。
【0041】
<位相の廻り>
図6は、位相の廻りについて説明するグラフである。同図に示すように、電線C上を進行する交流電流Iの位相速度vは伝送媒質が均質であれば一定であり、電線C上のA点とB点の間での位相の廻りΔvも一定となる。ここで言う伝送媒質は、実際に電流が流れる導体部分のみならずその周囲を覆う被覆の影響をも含むものである。特に本実施形態では交流電流Iが表皮電流なので被覆の状態も導体を流れる電流に大きく影響し、そういった意味で伝送媒質には被覆をも含むことになる。従って、例えば、A点とB点の間に傷やピンホールなどの異常があって伝送媒質が均質と見做せない場合は、交流電流Iの位相速度vがその部位で変化するので、この間の位相の廻りΔvは他の部位に比べて大きくなったり小さくなったりと一定でなくなる。このような位相の廻りΔvを検出するためには、図7に示す手法と、図8に示す手法の2通りが考えられる。
【0042】
<空間振動による信号変動を相殺する>
図7は、単一断面の均等性を用いる方法を説明する図であり、図8は軸方向の均等性を用いる方法を説明する図である。
図7においては、電線Cの垂直断面において電線Cの周囲に一定角度置きに複数のアンテナを配置してある。このように1垂直断面に等角配置した複数アンテナで放射電磁波の強度を受信することにより、該垂直断面において電線Cから放射される電磁波の強度を経時的に取得する。この電磁波の強度の経時変化を解析すると、電線Cを流れる交流電流Iの位相の変化が追跡できる。しかしながら、この方法では電線Cの空間振動による影響を吸収することは難しく、正確な位相の変化を把握することが難しい。
【0043】
一方、図8においては、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを隣接配置し、その差動信号に基づいて位相速度を得ている。2本のアンテナの隣接間距離が十分に短ければ、電線Cに対する各アンテナの距離は連動して変化する。従って、2本のアンテナで受信したマイクロ波強度の差動信号においては、電線Cの振動による受信強度への影響は相殺されることになる。すなわち、電線Cの空間振動に影響されずに位相の回りΔvを測定するためには、図8の方式が好ましいことが分かる。そこで、本実施形態においては後者の方法により位相に関する情報を得ることにする。以下、後者の方法を「隣接間差動」と呼ぶことにする。
【0044】
<アンテナは2本を軸方向にオフセット配置>
図9は、隣接間差動において利用する本実施形態の受信部20と解析処理部40のハードウェア構成を示すブロック図である。同図に示すように、受信部20は2本のアンテナ21a,21bと、BPF(Band Pass Filter)22a,22bと、LNA(Low Noise Amplifier)23a,23bと、BPF(Band Pass Filter)24a,24bと、検波器25a,25bを備えている。アンテナ21aとアンテナ21bは、電線Cの軸に対して等角配置されるとともに電線Cの軸方向に所定間隔オフセットして配置されている。
【0045】
アンテナ21aで受信されたマイクロ波はBPF22aに入力されて、BPF22aとLNA23aとBPF24aで所望のマイクロ波周波数以外の不要な周波数成分やノイズ成分を除去しつつ所定の増幅度で増幅したマイクロ波MW1にされる。マイクロ波MW1は検波器25aでその強度を検出される。
同様にアンテナ21bで受信されたマイクロ波もBPF22bに入力されて、BPF22bとLBA23bとBPF24bで所望のマイクロ波周波数以外の不要な周波数成分やノイズ成分を除去しつつ所定の増幅度で増幅したマイクロ波MW2にされる。マイクロ波NW2は検波器25bでその強度を検出される。
検出されたマイクロ波MW1,MW2は解析処理部40に入力される。
【0046】
なお本実施形態では、アンテナ2本で隣接間差動を行っているが、アンテナ3本以上を軸方向に所定間隔ずつオフセット配置して各アンテナ間の差動信号を処理したりするなどの変形例は、当然に本発明の範疇に含まれる。このようにアンテナ本数を軸方向に増加すれば、軸方向の観測領域が広がるので、電線Cの搬送速度を速めることが可能になる。
また、図10のように、所定距離オフセットした隣接する垂直断面のそれぞれに、同数であって複数のアンテナを等角配置し、軸方向に隣接する各組のアンテナのそれぞれで隣接間差動による位相速度を検出する変形例も、当然に本発明の範疇に含まれる。同図のようにアンテナを配置すると、アンテナが軸対称に配置されるので後に示す電界分布も軸対称になり、計測精度が向上する。また位相速度の変動を各組のアンテナ毎に計測し、これらを平均することにより位相速度の計測制度も向上する。
【0047】
<アンテナを定在波の腹に配置する>
図11は交流電流Iによって放射される電磁波の電界分布とアンテナ21a,21bの位置関係を概念的に示した図である。同図の上には、電線Cの被覆状態が正常なときに交流電流Iによって発生する電界強度分布の定在波が示してあり、同図の下には、電線Cの被覆状態に異常があるときに交流電流Iによって発生する電界強度分布の定在波が示してある。図11の上図に示すように、アンテナ21a,21bを被覆が正常なときの定在波の腹に相当する位置に配置すると、電界強度の変動を最も感度よく検出できる。定在波の腹の部分では電界強度が最も強いため、S/N比が向上するからである。また、腹の部分では差動信号が最小であるため、差動信号が所定量以上に上昇したか否かで容易に被覆の異常を検出できるからである。
【0048】
なお、隣接間差動の場合はアンテナが2つあるので、いずれか一方のアンテナを定在波のピークに合わせるように配置することが考えられる。いずれのアンテナを腹にあわせるかの選択は、位相の廻りが変動したときに、より差動信号が大きく現れるように選択するとよい。図11に示した例では、傷が有ると位相の廻りが速くなっているため、左のアンテナを腹の中心に略一致させるとよい。位相が廻ったときに差動信号が顕著に変化するので検出感度が向上するからである。むろん、図7のようにアンテナを配置した場合も、アンテナが定在波の腹に一致するように配置すると、検出感度が向上する。
【0049】
<解析処理部>
図11において、解析処理部40は、アンプ42a,42bと、差動アンプ43と、差動アンプ44と、可変ゲインアンプ45と、コンパレーター46とを備えている。マイクロ波MW1とマイクロ波MW2はアンプ42aとアンプ42bでそれぞれ増幅される。増幅されたマイクロ波MW1は差動アンプ43の非反転入力端子に入力される。また、増幅されたマイクロ波MW2は差動アンプ43の反転入力端子に入力される。その結果、差動アンプ43はマイクロ波MW1とマイクロ波MW2の差動信号Def1を出力する。
【0050】
また差動アンプ44は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の双方を差動アンプ44の反転入力端子に入力されており、所定の比較用電圧(固定値)を非反転入力端子に入力されている。その結果、差動アンプ44は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値と所定の比較用電圧の差動信号Def2を出力する。差動信号Def2は、可変ゲインアンプ45にゲインコントロール信号として入力される。すなわち可変ゲインアンプ45は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2を一定値に規格化した場合に得られるであろう信号レベルに、差動信号Def1のゲインを調整する。
【0051】
可変ゲインアンプ45でゲイン調整された差動信号Def1はコンパレーター46の反転増幅端子に入力され、コンパレーター46の非反転入力端子に入力された所定の電圧(閾値)と比較される。この所定の閾値は、被覆に異常があるか否かを判定するための基準電圧であり、予め実験的に算出されて設定されたものである。その結果、コンパレーター46は差動信号Defが所定の閾値よりも大きい場合には所定電圧を出力し、所定の閾値よりも小さい場合には所定電圧を出力しない。従って、作業者は、コンパレーター46の出力電圧の有無により、電線Cの被覆異常を把握することができる。
【0052】
なお、上述した実施形態において解析処理部40をアナログ回路で構成してあるが、受信部20の出力するマイクロ波MW1,MW2を所定のプログラム実行環境に入力し、デジタル信号に変換して上述のアナログ回路と同様の解析処理をプログラム的に実行してもよい。プログラム実行環境としては、少なくとも、差動信号Def1を入力されてこれをA/D変換するA/D変換部と、解析処理プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)と、ROMから適宜解析処理プログラムを読み出して実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUのワークエリアとして利用されるRAM(Random Access Memory)とを備えていればよい。
【0053】
<隣接間差動の効果>
以上のように隣接アンテナ間の差動信号に基づいて電線Cの所定長あたりの位相の進み具合を検出することにより、電線Cの振幅に起因する信号強度の変動を相殺しつつ位相速度を検出することができるようになる。
<位相位置のズレを微小化>
なお、各アンテナのオフセット間隔は、アンテナ間の物理的干渉を避けうる最短距離とすることが望ましい。アンテナ間のオフセット間隔を短距離にすれば、例え電線Cが振動したとしてもアンテナと電線Cの間隔が同じように変化するので、各アンテナで受信するマイクロ波強度に対する空間振動の影響も同じように変化する。従って、差動信号Def1は、空間振動によって発生した受信強度の変動を正確に相殺できることになる。より具体的には、例えば、マイクロ波であればその波長の1/10以下が望ましく、波長が51.7mmの5.8GHzのマイクロ波を利用する場合は、アンテナ間距離を5.17mm以下とするとよい。
【0054】
<利用する周波数帯>
また、本実施形態の空胴共振器11に励起するマイクロ波は、特にISMバンド (Industry-Science-Medical Band)のマイクロ波を利用することが好ましい。ISMバンドでの利用は、既存の通信に与える影響が小さく、電磁妨害(Electro Magnetic Interference)等に対して規制が比較的緩やかだからである。より具体的には、マイクロ波帯の中でITU(International Telecommunication Union)にて定められている、2.4GHz帯(2400-2500 MHz)、5.8GHz帯(5725-5875 MHz)、 10.8GHz帯、24GHz帯(24-24.25 GHz) を利用することが好ましい。
【0055】
<アンテナと解析部を実装した基板>
以上の受信部20と解析処理部40は、図12に示すように一つの基板上に配置すると取り扱いやすくなる。同図に示すように、基板Pには表から裏へ貫通する孔が形成されており、この孔に電線Cを通す。穴の周囲には、電線Cの通過するポイントを中心として、等角にアンテナが配置される。
また、孔の周囲の所定範囲を高周波エリアとし、高周波エリアの外側をデータ処理エリアとしてある。両エリアの境界は、電線Cから放射される電磁波強度が所定強度まで減衰する距離よりも外側に設けてある。ここで言う所定強度は、データ処理エリアに配置される各素子が誤作動を起さず、データ処理エリアの信号伝送ラインで伝送される信号強度よりも十分に低い値となるように定めることができる。このようにして決定した高周波エリアには、受信部20の各素子21〜44を配置し、データ処理エリアには解析処理部40の各素子46〜49や、データ処理を行うCPU、RAM、ROM等のように高周波信号により誤作動する可能性の高い素子を配置する。
以上のように基板Pに受信部20や解析処理部40を配置すると、アンテナの等角配置が非常に容易であるし、データ処理部とアンテナと検波器とを一体的に扱えるようになるので組立てなどの作業性が向上する。
【0056】
<遮蔽板>
さらに、励振部10と受信部20の間に遮蔽板を配置すると遮蔽板は空胴共振器の開口部からの漏洩波の影響が軽減するので好適である。図13は、電線Cに沿って形成される電界の瞬時値分布を示した図である。同図において、上に示した図は遮蔽板を配置しない場合の電界分布を示した図であり、下に示した図はアルミ製の遮蔽板を励振部10と受信部20の間に配置した場合の電界分布を示した図である。
【0057】
図13の測定に使用した電線Cは、φ=1mmの銅線に厚み0.1mmでPTFEを被覆したものであり、遮蔽板は電線Cを通過させるためのφ=10mmの開口が形成されている。遮蔽板の有り無しで電界分布を比較すると、遮蔽板無しであれば電界の軸対称性が成立していないが、遮蔽板を配置した場合は遮蔽板にて空胴共振器から遮蔽された部位は電界が軸対称になっていることが分かる。
【0058】
<実施例:感度>
以上説明した構成の検出感度をテストするために、図14に示す試験的な構成で被覆状態の検出感度試験を行ったところ、図15に示す結果を得た。なお、図14に示す試験構成では、電線Cはφ=1mmの銅線に0.1mmのPTFEを被覆したものであり、被覆に0.5mmの被膜欠落部を形成してある。また、電線Cの軸方向に2.5mm離した2本のアンテナを、電線Cから5mmの位置に配置してある。空胴共振器11には、5.8GHzのTM01モードのマイクロ波を発振してある。
【0059】
図15は、図14に示す試験的な構成において、傷のない部位と傷のある部位とにアンテナを合わせて各々検出周波数を0GHzから8GHzまで掃引しつつ、各アンテナで受信した電界強度をプロットしてある。同図から、5.8GHz付近における各アンテナの受信強度の差分は、傷なしに比べて傷ありの方が0.3〜0.6dBも大きいことが読取れる。また、電線Cから5mm離れた位置で計測した電界は、−47dBであることも読取れる。よって、電線Cから放射される電界強度に基づいて被覆の欠落を実用的なレベルで検出できることがわかる。
【0060】
(2)被覆検査処理:
ここで、上述した解析処理部40で行っている回路処理をプログラム実行環境で実現した場合の被覆検査処理について説明する。なお、以下の説明においては、例えばCPU,RAM,ROMを備えたプログラム実行環境のことを制御部50と記載することにする。検査装置100は、被覆検査処理の結果を表示するためのディスプレイや、作業者が検査装置100に検査の開始を指示したり、被覆検査処理の結果を表示させたり、結果の表示方法を設定したりするための操作入力部を備えている。なお、ディスプレイや操作入力部は、上述のように解析処理部40を回路で構成した場合にも備えている。
【0061】
図16は、被覆検査処理のフローチャートである。この処理を実行する前の準備として、検査装置を実行する作業者は、電線Cの一端を持って電線Cが空胴共振器11の円筒の軸を通過して開口11b1から開口11c1へと抜けるようにセットし、例えば搬送機構30にその一端をセットする。利用者が検査装置100を操作して検査処理を開始させると、まず空胴共振器11にTM01モードのマイクロ波定在波が励起され、次いで搬送機構が巻取機構などで電線Cを巻き取るなどして、電線Cの搬送を開始する。すると、解析処理部40は、受信部20から差動信号Def1の取得する処理を開始する。ここまでの検査前の準備については、上述のように解析処理部40を回路で実現した場合も同様である。
【0062】
処理が開始されると、ステップS100(以下、「ステップ」の記載を省略する。)において、制御部50は、A/D変換部からマイクロ波MW1とマイクロ波MW2のデジタル信号を取得する。なお、S100におけるデータ取得は、所定時間置きに自動的に実行されている。ここでいう所定時間は、電線Cの搬送速度や電線Cに形成されることが想定される異常部位(例えば傷)のサイズとの関係で決定されるものであり、この所定時間内に電線Cが搬送される距離が、電線Cに形成されることが想定される異常部位(例えば傷)のサイズ以下となるように決定される。所定時間を適切に設定することにより、検査装置100は、電線Cを漏れ無く検査できるだけの時間分解能を有することになる。
【0063】
なお、データ取得と以下のS105〜S120の処理は並列して実行されてもよいし、S100のデータ取得が電線Cの全長で完了してから取得した各データに対してS105〜S120の処理を順に実行してもよい。また、S105〜S120の処理が、所定時間内に完了するのであれば、S100〜S120の処理を所定時間置きに繰り返し実行するようにしてもよい。
【0064】
S105において、制御部50は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の差分ΔMWを算出する。この差分ΔMWは、上述した回路における差動信号Def1に相当する。なお、S105において制御部50は、差動信号Def1の信号強度を所定割合増幅したり、ノイズ除去処理を行っても構わない。
【0065】
S110において、制御部50は、差分ΔMWのゲイン調整をする。例えば、制御部50は、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を指標値Iとして取得し、この指標値Iと所定の基準値Sとの比率S/Iを算出する。そして、比率S/Iを差分ΔMWに乗じる。すると、差分ΔMWは、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を基準値Sに規格化したときに、規格化されたマイクロ波MW1とマイクロ波MW2から得られるであろう差分の値にゲイン調整される。むろん、このときの指標値Iとしては、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2の平均値を所定割合増減させたものであってもよいし、マイクロ波MW1とマイクロ波MW2のいずれかであってもよい。
【0066】
S115において、制御部50は、差分ΔMWと所定の閾値の大小関係を判断する。この閾値は、被覆に異常があるか否かを判定するための基準値であり、実験的に予め決定されている。制御部50は、比較の結果、差分ΔMWが所定の閾値よりも大きい場合には被覆に異常が有ると判断して差分ΔMWが取得されたタイミングを示す情報と共にその旨をRAMに記憶し、差分ΔMWが所定の閾値よりも小さい場合には異常無しと判断して差分ΔMWが取得されたタイミングを示す情報と共にその旨をRAMに記憶する。むろん異常有無のいずれか一方は、RAMに何も記憶しないことにより、その旨を示してもよい。
【0067】
S120において、制御部50は、電線Cの全長に亘って検査が完了したか否かを判断する。完了していない場合は、S100に戻って次の差分ΔMWについてS105〜S115の処理を行って異常の有無を判定する。一方、電線Cの全長について検査が完了している場合は、S125に進む。
S125において、制御部50は、異常部位の有無や、異常部位の箇所をディスプレイに表示する。異常部位の箇所は、電線Cの搬送速度と異常部位の検出されたタイミングとに基づいて、算出可能である。むろん、リアルタイムで検査結果を表示するのであれば、異常検出された時点で電線Cの搬送を停止し、作業者が異常判定された箇所をチェックできるようにしてもよい。
【0068】
(3)変形例1:
上述した実施形態では、検査対象として軸方向に高速移動する電線Cを例にとって説明したので、隣接間差動で検出した位相速度の変化に基づいて被覆の異常を検出した。しかしながら、本発明を空間振動が発生しない静的な検査対象に適用する場合は、上述の隣接間差動は当然に利用できるが、振幅情報を利用する方法も利用できるし、垂直断面内にアンテナを等角配置して位相を検出する方法も利用可能である。
そこで、振幅情報を利用して被覆の異常を検出する例として、以下に止血用バルーンの融着検査について説明を行う。
【0069】
図17は、止血用バルーンの融着を検査する検査装置200の構成を示すブロック図である。同図において、検査装置200は、励振部210と、受信部220と、回転駆動部230と、解析処理部240とを備えている。励振部210は、上述した実施形態と同様であり、受信部220は1本のアンテナと受信部20の備えていたBPFやLNAを備えている。
なお、止血用バルーンはその一端をガイドチューブの外周に融着されており、止血用バルーンそのものは励振部210の外部に配置されている。ガイドチューブには、例えばステンレス鋼のワイヤWがチューブの中心に挿通されており、このワイヤWの一部が励振部220の内部に配置されている。このワイヤWは上述した電線Cと同様に励振部210によって交流電流Iが流される。
【0070】
受信部220は、図18のように一軸の機械的旋回機構を備えており、止血用バルーンのバルーン部のサイズに対応するために径方向への退避が可能になっている。なお本変形例の受信部220のアンテナ数を1本にしてあるのは、止血用バルーンに空間振動が無く、1本のアンテナでマイクロ波の放射強度を正確に検出できるからである。むろん、複数アンテナを用いてもよい。例えば、止血用バルーンの芯線の垂直断面内に複数のアンテナを等角配置すれば、後述の検査処理においてガイドチューブを回転させずに融着部位の全周検査を完了できる。
【0071】
回転駆動部230は、例えば図19に示すような、ラック&ピニオンを用いた逆送回転機構で構成できる。図19において挾持部231は導体線を挾持可能であり、ピニオンを回転させると、ラックAとラックBが平行な位置関係を保ちつつ図19において左右逆方向に移送されて、挾持部231に挾持された導体線はピニオンの回転方向と同方向に回転される。
また、回転駆動部230は、ワイヤWの両端を支持するなどしてワイヤWの空間座標が安定的するように保持しており、さらに案内輪などの芯ブレ防止機構でワイヤWおよび止血用バルーンの空間座標を固定している。その結果、受信部220のアンテナと止血用バルーンの融着部位との距離は、一定であり上述の実施形態のように振動することはない。
【0072】
ここで、図20を参照して止血用バルーンとガイドチューブの融着部位に生じうる異常について具体的に説明する。図20は、止血用バルーンとガイドチューブが融着された部位の断面を拡大して示した要部断面図である。同図に示すように、中心にあるワイヤWをガイドチューブが被覆しており、このガイドチューブの外周に止血用バルーンの一端が融着されている。この融着部位において、ガイドチューブと止血用バルーンの間に気泡などの異物が入った状態で融着される可能性があり、これが止血用バルーンの融着不良である。
【0073】
融着不良の有無は、ワイヤWから放射される一定強度のマイクロ波の強度によって判断することができる。融着不良が有る部位においては空気層が介在するので、誘電率の異なる物質が接した境界が増えて放射強度の減衰度合が高まるからである。例えば、融着が完全であれば、境界はガイドチューブと止血用バルーンの間に形成されるだけであるが、気泡が入った状態の部位では、ガイドチューブと気相の間の境界と、気相と止血用バルーンの間の境界の2つが形成される。従って、融着が均等な部位であれば芯線から一定の距離の電界強度は均一でほぼ真円状の分布となるが、気泡が入った部位ではその真円性が崩れることになる。なお、上述した電線Cに交流電流Iを流したときと同じく、励振部210によってワイヤWに電流を流した場合も図21に示すような電界分布の瞬時値が得られる。
【0074】
なお本変形例においては、励振部210にはワイヤWのみを挿入すれば十分であるが、ガイドチューブも励振部210に挿入しても構わない。また、挿入されたワイヤWと励振部210との間には、接触防止のガードスリーブが必要である。また、止血用バルーンは医療機器であるので、検査装置200を載置する台には防菌フードをつける必要がある。
【0075】
以上の構成により、制御部250は図22に示す検査処理を実行する。図22は、検査処理のフローチャートである。なお本変形例の検査装置200の備える制御部250も実施形態の制御部50と同様にCPU,RAM,ROMを備えたプログラム実行環境である。検査処理を行うにあたり、作業者は、中心にワイヤW芯線を通した止血用バルーンを検査装置200にセットする。このとき、止血用バルーンとガイドチューブとの融着部位にアンテナが近接するように位置を調整する。次に、作業者は、回転駆動部230の挾持部231にガイドチューブを挾持させ、受信部220を検出位置に配置する。このとき、さらにアンテナと融着部位との位置を調整する。
【0076】
図22に示すように、S200において、制御部250は、回転駆動部230のピニオンを所定量回転させてガイドチューブを所定角度だけ回転させる。つまり、S200においては、アンテナに対面する融着部位を変更する。
【0077】
S205において、制御部250は、受信部220から電界強度を取得し、S200で設定した角度と対応付けて電界強度をRAMに保存する。
S210において、制御部250は、S200において回転した総回転量が360°に達したか否かを判断する。360°回転し終わっていればS215に進み、総回転量が360°に満たない場合はS200に戻ってS200以降の処理を行う。
【0078】
S215において、制御部250は、検査結果をディスプレイに表示する。例えば、軸方向の計測位置毎に、計測角度に対する電界強度分布をプロットしたグラフを表示したり、隣接する計測角度における電界強度との差分が所定値以上となった部位について異常と判定して、その部位を通知する。むろん、医療現場では止血用バルーンの良否判定できれば使用可否の目安になるので、異常の有無のみを通知するだけでも構わない。
【0079】
なお、本変形例1ではワイヤWを被覆するバルーンチューブとガイドチューブの検査を例にとって説明したが、本変形例1は細径ピアノ線のダイアモンド被覆の検査にも利用可能である。ここで言う細径ピアノ線は、ピアノ線の表面にダイアモンド粉末を焼結したものであり、半導体用のシリコン切断(ダイカット)に用いられる。このピアノ線に対するダイアモンドの焼付け状況は、シリコンの加工性能に影響する。例えば、ダイアモンド被覆に欠損のあるピアノ線に通常の送りをかけて使うとピアノ線がシリコンに直接接触して切れてしまう事故が発生する。そこで、細径ピアノ線に本変形例1の検査を適用することにより、ダイアモンド被覆の厚みを検査できる。
【0080】
また、上述した変形例1では、受信部のアンテナを移動させたり、複数アンテナを電線の周方向や軸方向に配置したりして、所定方向に沿って電界強度を計測した変動データとして取得しているが、このような変動データが必須というわけではない。例えば、正常な被覆状態で計測されるべき電界強度が予め分かっていれば、その電界強度を基準として所定の範囲の電界強度であれば被覆が正常であると判断し、電界強度が所定の範囲外であれば被覆が異常であると判断することができる。
【0081】
(4)変形例2:
<電力・周波数の制御>
以上説明した実施形態や変形例に加えて、励振部10や励振部210で発振するマイクロ波の電力・周波数が安定するように制御すれば、電線CやワイヤWから放射される電磁波の強度が安定する。実施形態においては差動信号を利用しているので、この制御は無くても十分な精度が得られるが、変形例の止血用バルーンの被覆検査のように振幅情報を1アンテナで取得している場合は、この制御を行うことにより、精度が大きく向上する。
【0082】
(5)変形例3:
上述した実施形態では受信部のアンテナとして空中線を例にとって説明したが、空間に放射される電磁波の電界強度を測定する手段はこれに限るものではない。
図23に電磁波を測定する受信部の他の一例を示した。同図には、電界が加わると物質の屈折率が変化する電気光学結晶(EO結晶)を利用した電界センサーを示してある。電気光学効果(EO効果)にはポッケルス効果やカー効果があるが、EO結晶を利用した電界センサーにはポッケルス効果を有するEO結晶を利用することが多い。屈折率の変化量が電界強度に一次比例するので較正しやすいからである。
【0083】
<受信部の構成>
図23において、受信部320は、電界センサー321と偏光処理部322を備える。電界センサー321は先端から順に、誘電体で形成された反射膜321a、EO結晶321b、コリメーターレンズ321c、フェルール321d、光ファイバー321eを備えている。光ファイバー321fの後端は光ファイバコネクタに接続されており、この光ファイバコネクタを介して偏光処理部322に接続されている。なおEO結晶は、例えば1mm角のものが使用可能であるので、電界センサー321は従来のダイポールアンテナを用いた電界センサー(長さが数cm〜十数cm)よりも小さくすることができる。
【0084】
<電界センサー内での光の移動>
受信部320において、光ファイバー321eの先端はEO結晶321bに対して垂直に接続されている。また、EO結晶321bは、光ファイバー321eから光が入射される側の平面である入光面と、反射膜321aが形成された側の平面である反射面とが互いに平行に形成されている。反射膜321aは、EO結晶321bの内部側から反射面へ到達した光を反射する。従って、光ファイバー321eから入射された入射光は入射面に垂直に入射してそのまま垂直に反射面へ到達し、反射面で垂直に反射されて光ファイバー321eへ再び入射される。
【0085】
光ファイバー321eに入射された反射光は、EO結晶に電磁波が照射されていない場合は入射光と同じ偏光状態を保っている。EO結晶321bの屈折率が変化していないからである。一方、EO結晶に電磁波が照射されると屈折率が変化するため、光ファイバー321eに入射された反射光は入射光とは異なる偏光状態に変化している。偏光処理部322は、偏光状態の変化を検光子322a等で光の強度変化に変換し、この光の強度変換を電気信号に変換することにより電磁波の電界強度に応じた信号を出力する。このようにして得られた電界強度に応じた信号を、上述した実施形態や変形例の解析処理部で解析すれば、被覆状態を検査することができる。
【0086】
なお、光ファイバーを伝送する際にも光に位相変化が生じるが、光ファイバーを上る入射光と光ファイバーを下る反射光との双方に同じ位相変化が生じるので、上りと下りとで位相変化を打ち消しあい、光ファイバーでの位相変化をゼロにすることができる。
また、本実施形態の電界センサー321は、計測しようとしている本来の電磁波の状態を正確に捉えることができる。EO結晶321bやコリメータレンズ321cやフェルール321bは金属を含まないし、反射膜321aは誘電体で形成されており、光ファイバー321eで偏光処理部322まで信号を伝送できるため、電界センサー321が測定対象から放射された電磁波を擾乱せず、測定対象の近傍に配置しても電気的な結合を生じないからである。
【0087】
(6)まとめ:
以上説明した実施形態によれば、誘電体で被覆された電線Cにおける誘電体の傷やピンホールの有無を検査する検査装置100において、空胴共振器11でTM01モードのマイクロ波定在波を励起し、TM01モードの回転磁界中心に電線Cを通過させることにより電線Cにマイクロ波周波数の交流電流Iを流す。そして空胴共振器11の内部から外部へと連続している電線Cから放射されるマイクロ波を受信し、電線Cの長さ方向にオフセットした2本のアンテナを電線Cの軸に対して等角度に隣接配置し、その差動信号に基づいて交流電流Iの位相速度を得る。この位相速度が、一定でない部位を検出し、その部位について被覆に異常があると判断する。以上の手法で電線Cの検査を検査することにより、従来に比べて簡便かつ高速に被覆線材の被覆検査を実行可能となった。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。
【符号の説明】
【0089】
10…励振部、11…空胴共振器、11a…円筒状側壁、11b…端部側壁、11c…端部側壁、11b1…開口、11c1…開口、20…受信部、21a…アンテナ、21b…アンテナ、22a…BPF、22b…BPF、23a…LNA、23b…LNA、24a…BPF、24b…BPF、25a…検波器、25b…検波器、30…搬送機構、40…解析処理部、43…差動アンプ、44…差動アンプ、45…可変ゲインアンプ、46…コンパレーター、42a…アンプ、42b…アンプ、100…検査装置、200…検査装置、210…励振部、220…受信部、230…回転駆動部、231…挾持部、240…解析処理部、320…受信部、321…電界センサー、321a…反射膜、321b…EO結晶、321c…コリメーターレンズ、321d…フェルール、321e…光ファイバー、322…偏光処理部、322a…検光子、C…電線、I…交流電流、P…基板、W…ワイヤ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置であって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振部と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信部と、
上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断部とを具備することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記導電線は、上記導電線の長さ方向に移動しており、
上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の位相速度の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断する請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
上記受信部は、上記導電線を所定方向に走査しつつ上記電磁波を受信し、
上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断する請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
上記導電線は、上記TM01モードの回転磁界の略中心に沿って配置される請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
上記励振部は、上記空胴共振器にマイクロ波周波数の定在波を励起することにより、上記導電線にマイクロ波周波数の交流電流を流す請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
上記受信部は、上記導電線の軸に対して等角であって上記導電線の長さ方向にオフセット配置された少なくとも2つの電界センサーを備えており、これら電界センサー間の差動信号に基づいて上記位相速度を検出する請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
上記電界センサーの間隔は、電界センサー同士の干渉を避けうる最短距離である請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
上記導電線に流れる上記交流電流は定在波になっており、
上記電界センサーの少なくとも1つは、上記誘電体が基準状態のときに形成される上記定在波の腹に近接配置される請求項6または請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
上記判断部は、上記受信部が検出した差動信号もしくは振幅強度の変動が所定値を超えた部位について、上記被覆に異常があると判断する請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項10】
上記励振部と上記受信部を別個に構成し、上記励振部と上記受信部の間に導電体で作成された遮蔽板を配置する請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査方法であって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振工程と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信工程と、
上記受信工程において受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断工程とを具備することを特徴とする検査方法。
【請求項12】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する機能をコンピューターに実現させるための検査プログラムであって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振機能と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信機能と、
上記受信機能が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断機能とをコンピューターに実現させるための検査プログラム。
【請求項1】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査装置であって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振部と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信部と、
上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断部とを具備することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
上記導電線は、上記導電線の長さ方向に移動しており、
上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の位相速度の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断する請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
上記受信部は、上記導電線を所定方向に走査しつつ上記電磁波を受信し、
上記判断部は、上記受信部が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方の変動に基づいて上記誘電体の状態を判断する請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
上記導電線は、上記TM01モードの回転磁界の略中心に沿って配置される請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
上記励振部は、上記空胴共振器にマイクロ波周波数の定在波を励起することにより、上記導電線にマイクロ波周波数の交流電流を流す請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
上記受信部は、上記導電線の軸に対して等角であって上記導電線の長さ方向にオフセット配置された少なくとも2つの電界センサーを備えており、これら電界センサー間の差動信号に基づいて上記位相速度を検出する請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
上記電界センサーの間隔は、電界センサー同士の干渉を避けうる最短距離である請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
上記導電線に流れる上記交流電流は定在波になっており、
上記電界センサーの少なくとも1つは、上記誘電体が基準状態のときに形成される上記定在波の腹に近接配置される請求項6または請求項7に記載の検査装置。
【請求項9】
上記判断部は、上記受信部が検出した差動信号もしくは振幅強度の変動が所定値を超えた部位について、上記被覆に異常があると判断する請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項10】
上記励振部と上記受信部を別個に構成し、上記励振部と上記受信部の間に導電体で作成された遮蔽板を配置する請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する検査方法であって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振工程と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信工程と、
上記受信工程において受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断工程とを具備することを特徴とする検査方法。
【請求項12】
導電線を被覆する誘電体の状態を検査する機能をコンピューターに実現させるための検査プログラムであって、
空胴共振器に所定周波数の電磁波の定在波をTM01モードで励起し、該空胴共振器を貫通する上記導電線に電磁誘導によって上記所定周波数の交流電流を流す励振機能と、
上記導電線から上記誘電体を通過して放射される上記所定周波数の電磁波を受信する受信機能と、
上記受信機能が受信した電磁波の振幅強度と位相速度の少なくとも一方に基づいて上記誘電体の状態を判断する判断機能とをコンピューターに実現させるための検査プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2010−276586(P2010−276586A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132451(P2009−132451)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【特許番号】特許第4416831号(P4416831)
【特許公報発行日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(591113437)オーム電機株式会社 (23)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【特許番号】特許第4416831号(P4416831)
【特許公報発行日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(591113437)オーム電機株式会社 (23)
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