説明

検量線作成方法及び微生物数測定方法並びにプログラム

【課題】検量線を作成するために必要な検体数を減少させ、検量線の作成を簡易化することが目的とされる。
【解決手段】工程11では、培地と微生物との複数の組み合わせについて、検量線101,102,・・・,10m,・・・が作成される。工程12では、工程11で作成された複数の検量線101,102,・・・,10m,・・・に基づいて、その全てを満足すると近似される初期値Mの近似値及び検出時間tの近似値を、近似初期値M0及び近似検出時間t0として求める。工程21では、所定の微生物の微生物数の初期値M1からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可側定量が閾値に達するまでの時間を、検出時間t1として測定する。工程22では、工程12で得られた近似初期値M0及び近似検出時間t0と、工程21で得られた微生物数の初期値M1及び検出時間t1とに基づいて、所定の培地における所定の微生物についての検量線1を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の個体数を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の個体数(以下「微生物数」という)を検出するために、従来から種々の測定技術が提案されている。例えば、標準寒天培地を用いる方法がある。具体的には、寒天培地中で微生物を培養することで、微生物によって生成されたコロニーの数を測定する。このとき、一つの微生物からは一つのコロニーが生成されるとみなし、コロニーの総数を培養前の微生物数(以下「初期値」という)とする。
【0003】
その他に、例えば検量線に基づいて微生物数を求める方法がある。具体的に例えば、微生物の増殖開始後、その増殖に基づいて変動する可側定量が閾値に至るまでの検出時間を測定することで、微生物数の初期値の対数と検出時間との関係を示す検量線に基づいて、微生物数の初期値を求める。この方法を用いて微生物数を求める場合には、予め検量線を作成しておく必要がある。検量線を作成する方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、標準寒天培地を用いて微生物数を求める技術では、コロニーの観察等の煩雑な作業を行う必要がある。
【0006】
また、検量線に基づいて微生物数を求める技術において予め検量線を作成する際には、少なくとも2検体について、検出時間と微生物数の初期値とを求める必要があった。この場合にも、微生物数の初期値を検出する際には、上記標準寒天培地を用いた測定技術が採用されるため、煩雑な作業が必要とされる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、検量線を作成するために必要な検体数を減少させ、検量線の作成を簡易化することが目的とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の請求項1にかかる検量線作成方法は、(a)第1培地中で培養される第1微生物について、その個体数である第1微生物数の初期値(M1)からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達する迄の時間である第1検出時間(t1)を測定する工程と、(b)近似初期値(M0)及び近似検出時間(t0)と、前記工程(a)で得られた前記第1微生物数の前記初期値及び前記第1検出時間とに基づいて、前記第1培地における前記第1微生物についての第1検量線(1,11)を求める工程とを備え、前記第1微生物数の前記初期値は既知であって、前記近似初期値及び前記近似検出時間は、第2培地中で培養される第2微生物の個体数である第2微生物数の初期値(M)と、前記第2微生物数の前記初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第2検出時間(t)との関係を示す第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)の複数を満足すると近似される、前記第2微生物数の前記初期値の近似値及び前記第2検出時間の近似値である。
【0009】
この発明の請求項2にかかる検量線作成方法は、請求項1記載の検量線作成方法であって、(c)前記第1微生物数の前記初期値(M1)を求める工程を前記工程(a)の前に実行する。
【0010】
この発明の請求項3にかかる検量線作成方法は、請求項1または請求項2記載の検量線作成方法であって、(d)前記第2培地と前記第2微生物との複数の組み合わせの各々について前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と、(e)複数の前記第2検量線に基づいて、その全てを満足すると近似される前記近似初期値(M0)と前記近似検出時間(t0)とを求める工程とを前記工程(a)の前に実行する。
【0011】
この発明の請求項4にかかる検量線作成方法は、請求項3記載の検量線作成方法であって、前記工程(d)では、(d−1)前記第2微生物数の前記初期値(M)の一つである第1値(M2)について前記第2検出時間(t2)を測定する工程と、(d−2)前記第2微生物数の前記初期値の一つであって前記第1値とは異なる第2値(M3)について前記第2検出時間(t3)を測定する工程と、(d−3)前記第1値と、前記第2値と、前記工程(d−1)及び前記工程(d−2)の各々で測定された前記第2検出時間(t2,t3)とに基づいて、一の前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程とを実行する。
【0012】
この発明の請求項5にかかる検量線作成方法は、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の検量線作成方法であって、前記可測定量は、前記第1培地あるいは前記第2培地中を、それらに含まれる酸素量に応じて流れる電流である。
【0013】
この発明の請求項6にかかる検量線作成方法は、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の検量線作成方法であって、前記第1検量線(1)は、前記第1微生物数の初期値(M)の対数と、当該初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達するまでの時間である検出時間(t)との関係を線形で近似したものであり、前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)は、前記第2微生物数の前記初期値(M)の対数と、前記第2検出時間との関係を線形で近似したものであって、前記近似初期値(M0)の対数は8〜10.5(log(CFU/g))であり、前記近似検出時間(t0)は−30(分)である。
【0014】
この発明の請求項7にかかる検量線作成方法は、請求項6記載の検量線作成方法であって、前記近似初期値(M0)の対数は9〜9.5(log(CFU/g))である。
【0015】
この発明の請求項8にかかる微生物数測定方法は、(x)前記第1培地中で培養される前記第1微生物について、その増殖開始後、増殖に基づいて変動する前記可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第3検出時間(t)を測定する工程と、(y)請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の検量線作成方法で得られた前記第1検量線(1)と、前記第3検出時間とに基づいて、前記第1微生物数の初期値(M)を求める工程とを備え、前記工程(x)での前記第1微生物の増殖は、前記工程(y)で求められる前記第1微生物数の前記初期値から開始する。
【0016】
この発明の請求項9にかかるプログラムは、(a)第1培地中で培養される第1微生物について、その個体数である第1微生物数の初期値(M1)からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達する迄の時間である第1検出時間(t1)を測定する工程と、(b)近似初期値(M0)及び近似検出時間(t0)と、前記工程(a)で得られた前記第1微生物数の前記初期値及び前記第1検出時間とに基づいて、前記第1培地における前記第1微生物についての第1検量線(1,11)を求める工程とをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記第1微生物数の前記初期値は既知であり、前記近似初期値及び前記近似検出時間は、第2培地中で培養される第2微生物の個体数である第2微生物数の初期値(M)と、前記第2微生物数の前記初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第2検出時間(t)との関係を示す第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)の複数を満足すると近似される、前記第2微生物数の前記初期値の近似値及び前記第2検出時間の近似値である。
【0017】
この発明の請求項10にかかるプログラムは、請求項9記載のプログラムであって、(c)前記第1微生物数の前記初期値(M1)を求める工程を前記工程(a)の前に前記コンピュータに実行させる。
【0018】
この発明の請求項11にかかるプログラムは、請求項9または請求項10記載のプログラムであって、(d)前記第2培地と前記第2微生物との複数の組み合わせの各々について前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と、(e)複数の前記第2検量線に基づいて、その全てを満足すると近似される前記近似初期値(M0)と前記近似検出時間(t0)とを求める工程とを前記工程(a)の前に前記コンピュータに実行させる。
【0019】
この発明の請求項12にかかるプログラムは、請求項11記載のプログラムであって、前記工程(d)では、(d−1)前記第2微生物数の前記初期値(M)の一つである第1値(M2)について前記第2検出時間(t2)を測定する工程と、(d−2)前記第2微生物数の前記初期値の一つであって前記第1値とは異なる第2値(M3)について前記第2検出時間(t3)を測定する工程と、(d−3)前記第1値と、前記第2値と、前記工程(d−1)及び前記工程(d−2)の各々で測定された前記第2検出時間(t2,t3)とに基づいて、一の前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程とを前記コンピュータに実行させる。
【0020】
この発明の請求項13にかかるプログラムは、請求項9乃至請求項12のいずれか一つに記載のプログラムであって、前記可測定量は、前記第1培地あるいは前記第2培地中を、それらに含まれる酸素量に応じて流れる電流である。
【0021】
この発明の請求項14にかかるプログラムは、請求項9乃至請求項13のいずれか一つに記載のプログラムであって、前記第1検量線(1)は、前記第1微生物数の初期値(M)の対数と、当該初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達するまでの時間である検出時間(t)との関係を線形で近似したものであり、前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)は、前記第2微生物数の前記初期値(M)の対数と、前記第2検出時間との関係を線形で近似したものであって、前記近似初期値(M0)の対数は8〜10.5(log(CFU/g))であり、前記近似検出時間(t0)は−30(分)である。
【0022】
この発明の請求項15にかかるプログラムは、請求項14記載のプログラムであって、前記近似初期値(M0)の対数は9〜9.5(log(CFU/g))である。
【0023】
この発明の請求項16にかかるプログラムは、(x)前記第1培地中で培養される前記第1微生物について、その増殖開始後、増殖に基づいて変動する前記可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第3検出時間(t)を測定する工程と、(y)請求項9乃至請求項15のいずれか一つに記載のプログラムが実行する工程を前記コンピュータに実行させることで得られた第1検量線(1)と、前記第3検出時間とに基づいて、前記第1微生物数の初期値(M)を求める工程とを前記コンピュータにさらに実行させるためのプログラムであって、前記工程(x)での前記第1微生物の増殖は、前記工程(y)で求められる前記第1微生物数の前記初期値から開始する。
【発明の効果】
【0024】
この発明の請求項1にかかる検量線作成方法もしくは請求項9にかかるプログラムによれば、第1培地と第1微生物との組み合わせの一つについて、工程(a)において第1検出時間を測定するだけで、関数で近似される第1検量線が作成できる。しかも、第1検出時間の測定回数が減少されて、第1検量線の作成が簡単化される。
【0025】
この発明の請求項2にかかる検量線作成方法もしくは請求項10にかかるプログラムによれば、第1微生物数の初期値が求められるので、請求項1にかかる検量線作成方法もしくは請求項9にかかるプログラムに適用できる。
【0026】
この発明の請求項3にかかる検量線作成方法もしくは請求項11にかかるプログラムによれば、第1検量線の作成に必要な近似初期値及び近似検出時間が求められる。
【0027】
この発明の請求項4にかかる検量線作成方法もしくは請求項12にかかるプログラムによれば、第2培地と第2微生物との組み合わせの各々について、少なくとも1次関数としての第2検量線が作成できる。特に第2検量線が1次関数である場合には、工程(e)の近似初期値及び近似検出時間を簡易に求めることができる。
【0028】
この発明の請求項5にかかる検量線作成方法もしくは請求項13にかかるプログラムによれば、培地中に含まれる酸素量は微生物の代謝に伴って変動するので、請求項1乃至請求項4のいずれか一つにかかる検量線作成方法あるいは請求項9乃至請求項12のいずれか一つにかかるプログラムに適用できる。
【0029】
この発明の請求項6または請求項7にかかる検量線作成方法もしくは請求項14または請求項15にかかるプログラムによれば、かかる近似初期値及び近似検出時間において第2検量線の複数を満足すると近似できる。
【0030】
この発明の請求項8にかかる微生物数測定方法もしくは請求項16にかかるプログラムによれば、請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の検量線作成方法もしくは請求項9乃至請求項15のいずれか一つに記載のプログラムが実行する工程をコンピュータに実行させることで得られた第1検量線を用いることで、寒天培地等を用いたコロニーの観察等の煩雑な作業を行うことなく、微生物数の初期値を検出時間から容易に見積もることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明にかかる検量線作成方法をフローチャートで示す。フローチャートは、工程11,12及び工程21,22で構成される。
【0032】
工程11では、培地と微生物との複数の組み合わせについて、検量線が作成される。具体的には、工程(x1,y1,z1)、工程(x2,y2,z2)、・・・、工程(xm,ym,zm)、・・・の各々が独立に、例えば並行して実行される。工程(x1,y1,z1)、工程(x2,y2,z2)、・・・、工程(xm,ym,zm)、・・・の各々では、培地と微生物との組み合わせの一について検量線が作成される。但し、工程(xi,yi,zi)と工程(xj,yj,zj)(i,j=1〜m,i≠j)との間では培地や微生物が異なる。
【0033】
本発明において培地には、食物などの天然物質で構成された天然培地や、既知の化合物で合成された合成培地が採用される。天然培地は、例えば食物から抽出された栄養素を含む液であり、合成培地は例えば生理食塩水である。
【0034】
図2は、工程(x1,y1,z1)によって作成される検量線101を概念的に示す。以下では、図2を用いて工程(x1,y1,z1)について説明する。
【0035】
工程x1では、培地中で培養される微生物について、微生物数の初期値M2から増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達するまでの時間を、検出時間t2として測定する。このとき、微生物数の初期値M2は既知であり、例えば本工程x1を実行する前に予め求めておく。
【0036】
可側定量には、培地中に含まれる酸素量に応じて培地中を流れる電流が採用でき、以下において同様である。このような電流の測定は、例えば特許文献1により公知である。
【0037】
工程y1では、工程x1での測定対象と同じ培地及び同じ微生物について、微生物数の初期値M2とは異なる初期値M3からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達するまでの時間を、検出時間t3として測定する。このとき、微生物数の初期値M3は既知であり、例えば工程y1を実行する前に予め求めておく。また、本工程で採用される可側定量及び閾値は、工程x1で採用される可側定量及び閾値と同じである。
【0038】
工程z1では、初期値M2,M3の各々の対数と、工程x1,y1の各々で測定された検出時間t2,t3とに基づいて、検量線101を作成する。具体的には例えば、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を1次関数で近似し、座標(log(M2),t2)と座標(log(M3),t3)とを通る1次関数を検量線101とする(図2)。
【0039】
工程(x2,y2,z2)、・・・、工程(xm,ym,zm)、・・・の各々についても、工程(x1,y1,z1)と同様にして、1次関数に近似された検量線102,・・・,10m,・・・を作成する。図3ではこれらの検量線102,・・・,10m,・・・が検量線101と共に示されている。
【0040】
工程(x1,y1,z1)、工程(x2,y2,z2)、・・・、工程(xm,ym,zm)、・・・は、必ずしも全てが並行して実行される必要はなく、例えばある一部の工程の各々がまず並行して実行され、その後、残りの工程の各々が並行して実行されてもよい。
【0041】
また、工程x1と工程y1とを並行して実行してもよい。工程x2,y2、・・・、工程xm,ym、・・・についても同様である。
【0042】
工程12では、工程11で作成された複数の検量線101,102,・・・,10m,・・・に基づいて、その全てを満足すると近似される初期値Mの近似値及び検出時間tの近似値を、近似初期値M0及び近似検出時間t0として求める。以下では、近似初期値M0の対数及び近似検出時間t0を収束点(log(M0),t0)という。
【0043】
具体的には例えば、座標(log(M),t)から検量線101,102,・・・,10m,・・・の各々までの距離の和が最小になるような座標(log(M),t)を、収束点(log(M0),t0)として求める。この場合、図3で示される複数の検量線101,102,・・・,10m,・・・からは、近似初期値M0の対数log(M0)=8.75、近似検出時間t0=−30(分)として具体的に求まる。
【0044】
次のようにして収束点(log(M0),t0)を求めても良い。ここで、近似検出時間t0には−30が採用される。まず、log(M)が2である検量線101上の一点と収束点(log(M0),t0)とに基づいて検量線を作成する。そして、当該検量線と検量線101とを比較し、検出時間が200,300,400,500,600(分)の5点の各々でlog(M)の差の絶対値を求め、この差が1以内であるものが5点のうち3点以上ある場合を、収束点(log(M0),t0)が検量線101に対して合格であるとし、その他を不合格と判定する。
【0045】
そして、検量線101に対して行ったと同様にして、収束点(log(M0),t0)が工程11で得られた検量線102,・・・,10m,・・・について合格か否かをそれぞれ判定する。
【0046】
さらに、log(M)が3及び5である検量線101,102,・・・,10m,・・・上の各々の一点と収束点(log(M0),t0)とに基づいて作成される検量線のそれぞれについて、上述と同様の判定を行う。
【0047】
その結果、合格か否かの判定数に対する合格率は、近似初期値M0の対数log(M0)が8〜10.5の範囲で80%以上となり、9〜9.5の範囲で88%以上となる。
【0048】
従って、近似検出時間が−30(分)であって近似初期値M0の対数log(M0)が8〜10.5である収束点(log(M0),t0)において、検量線101,102,・・・,10m,・・・の複数を満足すると近似できる。そして、近似初期値M0の対数log(M0)が9〜9.5である場合が、より多くの検量線を満足する点で特に望ましい。
【0049】
図4は、収束点(log(M0),t0)を用いて作成された検量線1を概念的に示す。収束点(log(M0),t0)を得た後は、以下で説明する工程21,22を実行することで、所定の培地中で培養される所定の微生物について新たに検量線1を作成することができる。
【0050】
工程21では、1検体について検出時間tを測定する。ここで検体とは、検出時間tの測定対象であり、培地と微生物との組み合わせ及び微生物数の初期値で特徴付けられる。以下において同様である。
【0051】
具体的には、所定の微生物の微生物数の初期値M1からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可側定量が閾値に達するまでの時間を、検出時間t1として測定する。このとき、微生物数の初期値M1は、既知であってもよし、本工程21を実行する前に予め求めておいてもよい。また、本工程で採用される可側定量及び閾値は、工程x1,y1などで採用される可側定量及び閾値と同じである。
【0052】
工程22では、工程12で得られた近似初期値M0及び近似検出時間t0と、工程21で得られた微生物数の初期値M1及び検出時間t1とに基づいて、所定の培地における所定の微生物についての検量線1を求める。具体的には、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を1次関数で近似し、座標(log(M0),t0)と座標(log(M1),t1)とを通る1次関数を検量線1として見積もる。
【0053】
所定の培地と所定の微生物について、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を上記したように1次関数で近似して表す場合、1検体について検出時間t1を測定するだけで検量線1が作成できる。よって、検出時間t1の測定回数が減少されて、所定の培地と所定の微生物についての検量線1の作成が簡単化される。
【0054】
さらに言うと、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係をn次関数で近似して表す場合、n検体について検出時間tを測定するだけで検量線1が作成できる。具体的に以下では、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を2次関数で近似した場合について説明する。
【0055】
図5は、2次関数で近似された検量線の作成方法をフローチャートで示す。フローチャートは、工程11,12及び工程21,211,22で構成される。
【0056】
工程11では、培地と微生物との複数の組み合わせについて、検量線が作成される。具体的には、工程(x1,y1,w1,z1)、工程(x2,y2,w2,z2)、・・・、工程(xm,ym,wm,zm)、・・・の各々が独立に、例えば並行して実行される。工程(x1,y1,w1,z1)、工程(x2,y2,w2,z2)、・・・、工程(xm,ym,wm,zm)、・・・の各々では、培地と微生物との組み合わせの一について検量線が作成される。但し、工程(xi,yi,wi,zi)と工程(xj,yj,wj,zj)(i,j=1〜m,i≠j)との間では培地や微生物が異なる。
【0057】
工程x1,y1では、図1で示される工程x1,y1と同様にして、培地と微生物との組み合わせの一において、微生物数の初期値M2,M3についての検出時間t2,t3を測定する。
【0058】
工程w1では、さらにもう1検体について検出時間t31を測定する。本工程で用いられる検体は、工程x1,y1での測定対象と同じ培地及び同じ微生物であって、微生物数の初期値M2,M3とは異なる初期値M31を有する。
【0059】
工程z1では、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を2次関数で近似し、工程x1,y1,w1で測定された3検体についての座標(log(M),t)を通る2次関数を検量線として求める。例えば、上記測定された3検体についての座標(log(M),t)から最小二乗法で2次関数を求めてもよい。
【0060】
工程(x2,y2,w2,z2)、・・・、工程(xm,ym,wm,zm)、・・・の各々についても、工程(x1,y1,w1,z1)と同様にして、2次関数に近似された検量線を作成する。
【0061】
工程12では、工程11で作成された複数の検量線に基づいて、その全てを満足すると近似される初期値Mの近似値及び検出時間の近似値を、近似初期値M0及び近似検出時間t0として求める。具体的には例えば、図1で示される工程12で説明したと同様にして求めることができる。
【0062】
図6は、収束点(log(M0),t0)を用いて作成された検量線11を概念的に示す。収束点(log(M0),t0)を得た後は、以下で説明する工程21,211,22を実行することで、所定の培地中で培養される所定の微生物について新たに検量線1を作成することができる。
【0063】
工程21では、図1で示される工程21と同様にして、所定の培地及び所定の微生物において、微生物数の初期値M1についての検出時間t1を測定する。
【0064】
工程211では、さらに微生物数の初期値Mが初期値M11である1検体について検出時間t11を測定する。本工程で用いられる検体は、工程21での測定対象と同じ培地及び同じ微生物である。また、検出時間t11の測定は、検出時間t1の測定と同様にして行う。
【0065】
工程22では、工程12で得られた近似初期値M0及び近似検出時間t0と、工程21で得られた微生物数の初期値M1,M11及び検出時間t1,t11とに基づいて、所定の培地における所定の微生物について検量線11を求める。具体的には、微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係を2次関数で近似し、座標(log(M0),t0)、座標(log(M1),t1)及び座標(log(M11),t11)を通る2次関数を検量線11として見積もる。例えば、座標(log(M0),t0)、座標(log(M1),t1)及び座標(log(M11),t11)から最小二乗法で2次関数を求めてもよい。
【0066】
上述した各々の工程を、図1で示されるフローチャートに従ってコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよい。
【0067】
上述した内容において、一旦収束点(log(M0),t0)が求められれば、その後培地と微生物との複数の組み合わせについて検量線1,11を求める際には、組み合わせの各々について改めて収束点(log(M0),t0)を求めることなく、一旦求められた収束点(log(M0),t0)を用いてもよい。
【0068】
また、上述した工程21及び工程211での検出時間t1,t11の測定において、所定の微生物について初期値M1,M11が既知であるものを用いることで、微生物の初期値M1,M11を予め求めることが必要とされない。よって、検出時間t1,t11を測定するだけで、関数で近似される検量線1,11が作成できる。
【0069】
本発明によって作成された所定の培地及び所定の微生物についての検量線1,11を用いることで、以下のようにして微生物数の初期値を容易に得ることができる。すなわち、所定の培地中で培養される所定の微生物の増殖開始後、その増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達するまでの時間を検出時間tとして測定する。そして、検量線1,11を用いて、測定された検出時間tに対応する微生物数の初期値Mを求める。求められた初期値Mは、所定の微生物の増殖開始時すなわち検出時間tの測定開始時の微生物数である。
【0070】
本発明では、特に微生物数の初期値Mの対数と検出時間tとの関係として検量線を求めたが、微生物数Mの初期値と検出時間tとの関係として検量線を求める場合にも上述した方法が適用できる。
【0071】
また、工程11で検量線101,102,・・・,10m,・・・を求める際に用いられる近似された関数と、工程22で検量線1,11を作成する際に用いられる近似された関数とは異なっていても良い。例えば、工程11では、微生物数の初期値Mと検出時間との関係を1次関数で近似して検量線101,102,・・・,10m,・・・を求め、工程22では、当該関係を2次関数で近似して検量線1,11を求める。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかる検量線作成方法を示すフローチャート図である。
【図2】工程(x1,y1,z1)によって作成される検量線101を概念的に示す図である。
【図3】工程11で作成される複数の検量線を概念的に示す図である。
【図4】収束点(log(M0),t0)を用いて作成された検量線1を概念的に示す図である。
【図5】2次関数で近似された検量線の作成方法を示すフローチャート図である。
【図6】収束点(log(M0),t0)を用いて作成された検量線11を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1,11 検量線(第1検量線)
101,102,・・・,10m,・・・ 検量線(第2検量線)
M,M1,M2,M3 (微生物数の)初期値
t,t1,t2,t3 検出時間
M0 近似初期値
t0 近似検出時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1培地中で培養される第1微生物について、その個体数である第1微生物数の初期値(M1)からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達する迄の時間である第1検出時間(t1)を測定する工程と、
(b)近似初期値(M0)及び近似検出時間(t0)と、前記工程(a)で得られた前記第1微生物数の前記初期値及び前記第1検出時間とに基づいて、前記第1培地における前記第1微生物についての第1検量線(1,11)を求める工程と
を備え、
前記第1微生物数の前記初期値は既知であって、
前記近似初期値及び前記近似検出時間は、第2培地中で培養される第2微生物の個体数である第2微生物数の初期値(M)と、前記第2微生物数の前記初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第2検出時間(t)との関係を示す第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)の複数を満足すると近似される、前記第2微生物数の前記初期値の近似値及び前記第2検出時間の近似値である、検量線作成方法。
【請求項2】
(c)前記第1微生物数の前記初期値(M1)を求める工程
を前記工程(a)の前に実行する、請求項1記載の検量線作成方法。
【請求項3】
(d)前記第2培地と前記第2微生物との複数の組み合わせの各々について前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と、
(e)複数の前記第2検量線に基づいて、その全てを満足すると近似される前記近似初期値(M0)と前記近似検出時間(t0)とを求める工程と
を前記工程(a)の前に実行する、請求項1または請求項2記載の検量線作成方法。
【請求項4】
前記工程(d)では、
(d−1)前記第2微生物数の前記初期値(M)の一つである第1値(M2)について前記第2検出時間(t2)を測定する工程と、
(d−2)前記第2微生物数の前記初期値の一つであって前記第1値とは異なる第2値(M3)について前記第2検出時間(t3)を測定する工程と、
(d−3)前記第1値と、前記第2値と、前記工程(d−1)及び前記工程(d−2)の各々で測定された前記第2検出時間(t2,t3)とに基づいて、一の前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と
を実行する、請求項3記載の検量線作成方法。
【請求項5】
前記可測定量は、前記第1培地あるいは前記第2培地中を、それらに含まれる酸素量に応じて流れる電流である、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の検量線作成方法。
【請求項6】
前記第1検量線(1)は、前記第1微生物数の初期値(M)の対数と、当該初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達するまでの時間である検出時間(t)との関係を線形で近似したものであり、
前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)は、前記第2微生物数の前記初期値(M)の対数と、前記第2検出時間との関係を線形で近似したものであって、
前記近似初期値(M0)の対数は8〜10.5(log(CFU/g))であり、
前記近似検出時間(t0)は−30(分)である、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の検量線作成方法。
【請求項7】
前記近似初期値(M0)の対数は9〜9.5(log(CFU/g))である、請求項6記載の検量線作成方法。
【請求項8】
(x)前記第1培地中で培養される前記第1微生物について、その増殖開始後、増殖に基づいて変動する前記可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第3検出時間(t)を測定する工程と、
(y)請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の検量線作成方法で得られた前記第1検量線(1)と、前記第3検出時間とに基づいて、前記第1微生物数の初期値(M)を求める工程と
を備え、
前記工程(x)での前記第1微生物の増殖は、前記工程(y)で求められる前記第1微生物数の前記初期値から開始する、微生物数測定方法。
【請求項9】
(a)第1培地中で培養される第1微生物について、その個体数である第1微生物数の初期値(M1)からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が閾値に達する迄の時間である第1検出時間(t1)を測定する工程と、
(b)近似初期値(M0)及び近似検出時間(t0)と、前記工程(a)で得られた前記第1微生物数の前記初期値及び前記第1検出時間とに基づいて、前記第1培地における前記第1微生物についての第1検量線(1,11)を求める工程と
をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記第1微生物数の前記初期値は既知であり、
前記近似初期値及び前記近似検出時間は、第2培地中で培養される第2微生物の個体数である第2微生物数の初期値(M)と、前記第2微生物数の前記初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第2検出時間(t)との関係を示す第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)の複数を満足すると近似される、前記第2微生物数の前記初期値の近似値及び前記第2検出時間の近似値である、プログラム。
【請求項10】
(c)前記第1微生物数の前記初期値(M1)を求める工程
を前記工程(a)の前に前記コンピュータに実行させる、請求項9記載のプログラム。
【請求項11】
(d)前記第2培地と前記第2微生物との複数の組み合わせの各々について前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と、
(e)複数の前記第2検量線に基づいて、その全てを満足すると近似される前記近似初期値(M0)と前記近似検出時間(t0)とを求める工程と
を前記工程(a)の前に前記コンピュータに実行させる、請求項9または請求項10記載のプログラム。
【請求項12】
前記工程(d)では、
(d−1)前記第2微生物数の前記初期値(M)の一つである第1値(M2)について前記第2検出時間(t2)を測定する工程と、
(d−2)前記第2微生物数の前記初期値の一つであって前記第1値とは異なる第2値(M3)について前記第2検出時間(t3)を測定する工程と、
(d−3)前記第1値と、前記第2値と、前記工程(d−1)及び前記工程(d−2)の各々で測定された前記第2検出時間(t2,t3)とに基づいて、一の前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)を求める工程と
を前記コンピュータに実行させる、請求項11記載のプログラム。
【請求項13】
前記可測定量は、前記第1培地あるいは前記第2培地中を、それらに含まれる酸素量に応じて流れる電流である、請求項9乃至請求項12のいずれか一つに記載のプログラム。
【請求項14】
前記第1検量線(1)は、前記第1微生物数の初期値(M)の対数と、当該初期値からの増殖開始後、増殖に基づいて変動する可測定量が前記閾値に達するまでの時間である検出時間(t)との関係を線形で近似したものであり、
前記第2検量線(101,102,・・・,10m,・・・)は、前記第2微生物数の前記初期値(M)の対数と、前記第2検出時間との関係を線形で近似したものであって、
前記近似初期値(M0)の対数は8〜10.5(log(CFU/g))であり、
前記近似検出時間(t0)は−30(分)である、請求項9乃至請求項13のいずれか一つに記載のプログラム。
【請求項15】
前記近似初期値(M0)の対数は9〜9.5(log(CFU/g))である、請求項14記載のプログラム。
【請求項16】
(x)前記第1培地中で培養される前記第1微生物について、その増殖開始後、増殖に基づいて変動する前記可測定量が前記閾値に達する迄の時間である第3検出時間(t)を測定する工程と、
(y)請求項9乃至請求項15のいずれか一つに記載のプログラムが実行する工程を前記コンピュータに実行させることで得られた第1検量線(1)と、前記第3検出時間とに基づいて、前記第1微生物数の初期値(M)を求める工程と
を前記コンピュータにさらに実行させるためのプログラムであって、
前記工程(x)での前記第1微生物の増殖は、前記工程(y)で求められる前記第1微生物数の前記初期値から開始する、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−121912(P2006−121912A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310794(P2004−310794)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】