説明

極細化可能な制電性複合繊維

【課題】容易に細繊度繊維に分割でき、しかも制電性・制電耐久性・染色品位に優れた複合繊維、およびそれからなる極細繊維を提供する。
【解決手段】ポリアミド系重合体とポリエステル系重合体の2成分からなる剥離分割型複合繊維であって、少なくとも一方の成分に、両末端にカルボキシル基を有するポリアミドと高分子量ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドが、重合体全重量に対して5〜30重量%含まれている剥離分割型複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルポリマーとポリアミドポリマーからなる、制電性を有する極細化可能な剥離分割型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、衣料用途において品位に優れた緻密できめ細かなタッチやドレープ性に優れた布帛が上市され、そのような布帛を得るために極細繊維が多用されている。工業用途においてもワイピングやフィルター類、クリーンルーム、医療向けなどの用途において、表面積の大きさをより効果的に利用する為、極細繊維形状として加工されることが多くなってきている。極細繊維を得るための手段としては、最初から細繊度の繊維を製造する方法および、2成分以上の異なる重合体からなる剥離分割型複合繊維として得られた繊維を分割、抽出などの工程を経て細化するなどの方法が取られているが、工程の合理化や工程調子などの面から、主として極細繊維発生可能な繊維を布帛化した後に、繊維を分割して極細化する方法が用いられている。
【0003】
剥離分割型複合繊維の内、ポリアミドとポリエステルの2成分からなる複合繊維に関しては、特公昭53−47414号公報などに開示されている方法で得ることが可能である。しかしながら、ポリアミドとポリエステルをそれぞれ単独で製糸したものに比べて、工程中で静電気が発生しやすく、塵埃の付着など取り扱い性が困難となることが問題となっている。
【0004】
これらを解決する方法として、これまで種々の手段が提案されており、例えば、糸表面に後加工で帯電防止剤を塗布する方法、糸表面に親水性物質をグラフト重合する方法、あるいは繊維成分に制電性物質を練り込む方法などが挙げられる。しかしながら、これらの方法はいずれもその耐久性・耐熱製糸安定性や織編物工程において品位欠点を引き起す問題があり、工業化に問題があった。
【0005】
例えば、糸表面に帯電防止剤を塗布する方法は、染色工程や洗濯によって帯電防止剤が消失しやすく、また布帛工程の最後に塗布する場合にも、同様に耐久性不足や風合いが硬くなる、あるいは他の後加工、具体的には撥水加工などとの併用ができないなど、種々の問題がある。また、糸表面に親水性物質をグラフト重合させる方法は洗濯による帯電防止剤の消失はかなり改善されるが、耐久性や風合いに問題があった。一方で、制電性物質を練り込む方法は、耐久性は向上するが、テキスタイル工程および着用時の白化現象が問題となる他、ポリエステルとポリアミドからなる剥離分割型繊維で極細繊維を発生させる為の安価で安定な方法として一般的に用いられる、アルカリ溶液中での分割処理によって、制電剤が脱落し、極細化した後の制電性能が全く発現されないという致命的な欠陥を有している。例えば、制電剤として性能面で優れ、最もよく用いられている、ポリアルキレングリコールとアルキルベンゼンスルホン酸ソーダやアルキルスルホン酸ソーダの混合体(特公昭47−11280号公報、特開昭53−149246号公報)などの剤は容易に高圧染色処理やアルカリ処理により抜け出てしまい、目的とする性能が得られないという問題を有している。
【0006】
染色処理やアルカリ処理により制電剤が抜け出る問題を解決する為、高分子量で耐熱性のあるポリマー型制電成分が提案されている。例えばポリマー型制電成分としてブロックポリエーテルエステルアミド組成物とスルホン酸金属塩化合物を含有するポリエステル制電性繊維の技術が提案されている(特開昭63−282311号公報、特許第2906989号公報)。
【0007】
確かにこの方法によりある程度染色処理やアルカリ処理で制電剤が抜け出る問題は向上しているものの十分ではなく、良好な制電性を確保するためには添加量を増加させるを得ず、そのため白化が助長されるという問題は依然として解決されていなかった。
【0008】
【特許文献1】特公昭53−47414号公報
【特許文献2】特公昭47−11280号公報
【特許文献3】特開昭53−149246号公報
【特許文献4】特開昭63−282311号公報
【特許文献5】特許第2906989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明は上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、容易に細繊度繊維に分割でき、しかも制電性・制電耐久性・染色品位に優れた複合繊維、およびそれからなる極細繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、細繊度繊維に分割することができる、2成分からなる複合繊維を溶融紡糸により得るに際し、以下の要件で上記課題を達成することができるものである。すなわち、ポリアミド系重合体とポリエステル系重合体の2成分からなる剥離分割型複合繊維であって、少なくとも一方の成分に、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.0(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)であるポリエーテルエステルアミドが、重合体全重量に対して5〜30重量%含まれている剥離分割型複合繊維が提供される。さらに、剥離分割型複合繊維の分割前繊度が0.15〜10dtexであり、極細化した際の各成分の繊度が0.01〜0.35dtexである請求項1記載の剥離分割型複合繊維が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の通り、特定のポリエーテルエステルアミドを使用することで分割極細化後に優れた風合い、品位を有し、且つ耐久制電性、工程通過性の優れる制電性剥離分割型複合繊維を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明で用いられる剥離分割型複合繊維は、繊維形成性ポリエステル系重合体と繊維形成性ポリアミド系重合体とから構成され、機械的処理などで各成分間の剥離分割能を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0013】
好ましく用いられるポリアミド系重合体としては、例えばナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−12等があげられる。
一方、ポリエステル系重合体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレングテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンフタレート及びこれらを主成分とする共重合ポリエステル等があげられる。
【0014】
これらのポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェキシエタンジカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0015】
また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリオトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。
ポリエステル系重合体とポリアミド系重合体の組み合わせとしては、ナイロン−6/ポリエチレンテレフタレートの組合せが生産安定性、コスト等の面から好ましい。
【0016】
剥離分割型複合繊維の複合形態としては、ポリエステル系重合体とポリアミド系重合体の接合界面の少なくとも一部分が繊維断面円周に到達しており、かつ機械的処理等により各成分に剥離分割できる形態となっていることが必要である。また、お互いに一方成分が他方成分によって所定数に分割されている形態であることが、剥離分割性の点で望ましい。なかでも、1成分が他成分間に放射状に配置されている断面形状が好ましい。(図1参照)
【0017】
このような複合形態は、例えば特開昭54−38914号公報記載の複合紡糸口金を用いて、ポリエステル系重合体とポリアミド系重合体とを複合紡糸することによって得られる。これら繊維の分割後の繊度は細いほど好ましいが、0.01〜0.35dtexの範囲の分割繊維が取り扱い性や耐久性の点で好ましく用いられる。0.35dtexを超える繊度の繊維の場合、単独で得られる繊維と工程面、コスト面で不利となる。
【0018】
さらに、本発明においては、少なくとも一方の成分に、両末端にカルボキシル基を有するポリアミドと高分子量ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドが、各重合体に対して5〜30重量%含まれていることが必要である。好ましくはポリエステル成分に含まれることが相溶性の点から好ましい。
【0019】
本発明のポリエーテルエステルアミドに使用するポリアミド成分としては、両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a1)が好ましく用いられるが、例えば(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体もしくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体が挙げられる。(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸,11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカンジ酸,イソフタル酸等が挙げられ、またジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0020】
上記アミド形成性モノマーとして例示したものは2種以上を併用してもよい。これらのうち好ましいものは、カプロラクタム,12−アミノドデカン酸およびアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンであり、特に好ましいものは、カプロラクタムである。
【0021】
両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a1)の製法としては、炭素数4〜20のジカルボン酸成分を分子量調整剤として使用し、これの存在下に上記アミド形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。
【0022】
炭素数4〜20のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸、ウンデカジ酸,ドデカンジ酸等の脂肪酸ジカルボン酸; テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;3−スルホイソフタル酸ナトリウム,3−スルホイソフタル酸カリウム等の3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩である。
【0023】
両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a1)の数平均分子量は、通常500〜5000、好ましくは500〜3000である。数平均分子量が500未満ではポリエーテルエステルアミド自体の耐熱性が低下し、5000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。
【0024】
本発明のポリエーテルエステルアミドに使用するビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)のビスフェノール類としては、ビスフェノールA(4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン)、 ビスフェノールS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン)および4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2ブタン等が挙げられ、これらのうちビスフェノールAが好ましい。(a2)はこれらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法により付加させることにより得られる。また、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド,1,2−ブチレンオキシド,1,4−ブチレンオキシド等)を併用することもできるが、他のアルキレンオキシドの量はエチレンオキシドの量に基づいて通常10重量%以下である。
【0025】
上記ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)の数平均分子量は、通常1600〜3000であり、特にエチレンオキシド付加モル数が32〜60のものを使用することが好ましい。数平均分子量が1600未満では、帯電防止性が不十分となり、3000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。
【0026】
ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)は、前記(a1)と(a2)の合計重量に基づいて20〜80重量%の範囲で用いられる。(a2)の量が20重量%未満ではポリエーテルエステルアミドの帯電防止性が劣り、80重量%を超えるとポリエーテルエステルアミドの耐熱性が低下するために好ましくない。
【0027】
上記のポリエーテルエステルアミドの組成は、ポリエステルとの相溶性に極めて重要な要件である。ポリエステルの相溶性パラメーター値に対して、±0.5の範囲内の相溶性パラメーターを有するポリエーテルエステルアミドとすることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合は、相溶性パラメーターが20.9(J/cm3)^1/2であることから、20.4〜21.4の範囲の組成物であることが好ましい。この範囲を超えると、ポリエステルとポリエーテルエステルアミドの界面接着性が不十分なため、後加工工程および着用時の摩擦によって界面剥離による白化現象が起こる。好ましくは、ベースポリエステルに対して、±0.3以内がよい。
【0028】
相溶性パラメーター値がこの範囲にあるとき制電剤であるポリエーテルエステルアミドはポリエステルポリマー内で安定化され繊維表面、貼り合わせ界面に存在量が少なく制電耐久性、白化が防止できるものと考えられる。
【0029】
ポリエーテルエステルアミドの製法としては、下記製法1または製法2が例示されるが、特に限定されるものではない。
製法1:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸を反応させて(a1)を形成せしめ、これに(a2)を加えて、高温、減圧下で重合反応を行う方法。
製法2:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸と(a2)を同時に反応槽に仕込み、水の存在下または非存在下に、高温で加圧反応させることによって中間体として(a1)を生成させ、その後減圧下で(a1)と(a2)との重合反応を行う方法。
【0030】
また、上記の重合反応には、公知のエステル化触媒が通常使用される。該触媒としては、例えば三酸化アンチモンなどのアンチモン系触媒、モノブチルスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブチルチタネートなどのチタン系触媒、テトラブチルジルコネートなどのジルコニウム系触媒,酢酸亜鉛などの酢酸金属塩系触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、(a1)と(a2)の合計重量に対して通常0.1〜5重量%である。
【0031】
ポリエーテルエステルアミドの相対粘度は、1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)、好ましくは、2.0〜3.0である。1.5未満では、制電剤の分散粒径が小さくなり制電性が不足する。また、3.5を超える範囲では、製糸の断糸の原因となる。
【0032】
ポリエーテルエステルアミドの他に制電性を有する有機電解質を所定量含有していても良い。有機電解質としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸およびドデシルスルホン酸などのスルホン酸と、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属から形成されるスルホン酸のアルカリ金属塩、ジステアリルリン酸ソーダなどのリン酸のアルカリ金属塩などが挙げられ、なかでもアルキルスルホン酸ソーダなどのスルホン酸の金属塩が良好である。含有量は、0.05〜0.8wt%が好ましく、0.05以下では、制電性が不十分であり、0.8以上では、均一に分散せず、会合状態を形成して分散性不良やそれに伴う白化現象を引き起こし好ましくない。
【0033】
該ポリエーテルエステルアミドのポリエステル系重合体およびポリアミド系重合体への添加量は、それぞれの重合体に対して5〜30重量%を含むことが必要である。好ましくは、6〜10重量%の範囲である。5重量%未満では、制電性が不足し、30wt%を超える場合は、剥離分割型繊維の断面形状の形成性制御が困難となる他、製糸工程調子の悪化や強度低下、また熱セット性の低下が起こり好ましくない。
【0034】
該ポリエーテルエステルアミドのポリエステル系重合体およびポリアミド系重合体への添加は、各重合体の重合工程で添加する方法、複合繊維を溶融紡糸する際に各重合体とポリエーテルエステルアミドとの混合物を混合した後に溶融混練する方法、各重合体と、リエーテルエステルアミド混合物を別々に溶融し溶融紡糸する直前に混合する方法等任意の方法を採用する事が出来る。他の方法としては、ポリエーテルエステルアミドの溶融混合物を計量し、各重合体を溶融するエクストルーダー中または出口に供給し、スタティックミキサーで混合する方法を挙げる事ができる。
【0035】
なお、上記剥離分割型複合繊維の一方成分の全体に対する複合割合は、該複合繊維の製糸性及び後述する長繊維不織布とした後の分割極細繊維化の面から30〜70重量%の範囲、特に40〜60重量%の範囲が適当である。この範囲を外れる場合には、両重合体の粘度バランスの調整が困難となり、紡糸時のセクション不良が発生しやすくなり、また、分割極細繊維化の際の分割効率が低下しやすくなる。かかる剥離分割型複合繊維全体の断面形状は、丸断面形状、多葉断面形状、多角形形状等任意であり、また中空部を有する形態であってもよいが、中空部を有するものでは2成分の界面長さを減少させることができ、剥離分割性が向上するので好ましい。
【0036】
剥離分割処理後の単糸繊度は、既述の通り0.01〜0.35dtexの範囲が適当であり、0.01dtex未満のものは製造が困難であり、一方、0.35dtexを越えると、得られる布帛の風合も低下する傾向にある。
【0037】
さらに本発明の目的を損なわない範囲内であれば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、マイカ、金属微細粉、有機顔料、無機顔料等をポリアミド系重合体およびポリエステル系重合体のどちらへ添加してもよく、これらの添加剤には熱可塑性重合体への着色効果と共に該重合体の溶融粘度を高く又は低くする効果もあり、繊維横断面形状を調節するのに有効である。
【0038】
本発明の複合繊維は一旦巻き取ってから延伸、あるいは紡糸のあとそのまま巻き取らずに延伸することにより得ることができる。また、得られた複合繊維は織編物の布帛形状とした後に、好ましくは軽くアルカリ処理の後に機械的な分割方法、すなわち機械応力を作用させたり、高圧柱状液体流を作用させることにより容易に極細化することができる。極細化された布帛はソフトでしなやかで静電気による不快感がなく紳士婦人用衣料等に有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中における部及び%は、特に断らない限り重量基準であり、また各測定値は、それぞれ以下の方法にしたがって求めたものであり、特に断らない限り、測定値は5点を測定した平均値である。
【0040】
(1)摩擦帯電圧測定、半減期
本発明のポリエステル繊維をJIS L 1094 摩擦帯電圧測定法に準じて測定し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定した。また、この帯電圧が半分に減少するまでの時間を半減期(s)として測定した。測定は、温度20±1℃、相対湿度40±2%の状態の試験室中で実施した。タテ糸方向ヨコ糸方法各n=5にて測定し、摩擦布にはJIS L 0803に規定の綿添付白布を用いた。
【0041】
(2)白化テスト
owf4%の分散染料による120℃の高圧染色工程施した筒編あみ試験布を準備し、130±5℃にあらかじめ加熱した電気アイロンを用いて6回程試験布上をスライドさせた。温度は電気アイロン底面中央部の表面温度であり、必要に応じて他の温度を用いてもよい。さらに高温のアルカリ水溶液に用いて15%減量を行った。これら二つの外部による負荷を与えた試験布(L1)と、外部から負荷を与えていない試験布(L0) のL値(白化度)の測色n=2を行い、次の式で求めた色差値を白化性とする。白化性=L1−L0
【0042】
(3)分割率
剥離分割型複合繊維の分割率は、分割後の断面を電子顕微鏡で200倍にて撮影し、100本の繊維の断面を測定し、全体の面積と未分割(完全に分割していない、例えば、2個や3個程度に分割したものも含む)のフィラメントの断面積の差を全体の面積で除して求めた。該分割率が大きいほどよく分割していることを示す。
【0043】
(4)極細繊維の繊度
未分割の複合繊維の繊度を該複合繊維の繊維軸に垂直方向の断面内で、互いに独立した形で存在する繊維形成性重合体の個数(分割数)で除して求めた。
【0044】
(5)紡糸性
複合紡糸中に、紡糸口金より吐出されているポリマーの吐出状態を観察し、次の基準で吐出状態を格付けした。
レベル1:吐出糸条がほぼ一定の流下線を描いて、安定に走行している。
レベル2:吐出糸条に小さな屈曲、屈曲の繰り返し、旋回等が見られ、単糸切れが見られる。
レベル3:吐出直下で断糸する。
【0045】
(6)風合い
5名の評価者による柔かさや触感の官能評価を5段階で行い、その平均値で評価した。数字が大きいほど良好であることを示す。
【0046】
[実施例1]
表1に記載の組成のポリエーテルエステルアミド(イオン性物質として、アルキルスルホン酸Naを0.8%含む)を80℃にて乾燥し、160℃で乾燥したポリエチレンテレフタレートチップ(IV=0.64)に対して6wt%となる様にチップブレンドして溶融温度285℃にてエクスとルーダーで溶融した。別途120℃で乾燥したナイロン−6(98%濃硫酸中の極限粘度1.2)を別のエクストルーダーに供給し、245℃で溶融した。引き続き、ポリエチレンテレフタレート混合体融液とナイロン−6融液をギアポンプにてそれぞれ計量し重量比で50/50となるように280℃に保温されたスピンブロックへ導入後、両重合体溶融流を合流させ複合し、紡糸口金から1.8g/分/孔の量で吐出し、冷却風にて冷却後、ゴデッドローラーの速度を2470m/分として紡糸し、そのまま110℃に加熱した4450m/分の第2のゴデッドローラー間で直接延伸して延伸糸を得た。得られた複合繊維は、16分割の多層貼合せ型断面をもつ剥離分割型複合繊維からなり、その繊維を用いて20Gの筒編み機にて丸編みを作成し、80℃にて精錬を行い水洗乾燥後、90℃、3.5wt%のアルカリ溶液中に減量率10%となる様に浸漬して人手によるもみ処理を行って極細化した。この極細化サンプルを用いて、摩擦耐電圧を測定した。延伸糸の物性と合わせて表1に示す。
【0047】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
ポリエーテルエステルアミドの添加量、および添加する繊維形成性重合体を種々変更し、実施例1と同様に延伸糸、および筒編を得た。得られたものの物性を表1に示す。
【0048】
[比較例5〜8]
本発明の範囲外の制電剤を用い、実施例1と同様な方法で行った。
【0049】
[結果]
表1に示す通り、本発明の範囲内のものは、制電性、白化性、紡糸性、分割性のすべてにおいて優れた性能を示し、風合い面でも良好なものを得ることができている。本発明のポリエーテルエステルアミドの添加のない比較例1、添加量が3%の比較例2では制電性能が不良であり、逆に量の多い比較例3では粘度バランスが崩れ、断面形成性が不良となり極細繊維を得難く、さらに量を増やした比較例4では紡糸不可となった。一方でポリエーテルエステルアミドを構成するポリアミド分子量の高いものを用いた比較例5では染色後の白化が著しく、比較例6〜8はアルカリ減量時の制電剤の抜けが激しく、制電性能が著しく低下する結果となった。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の通り、特定のポリエーテルエステルアミドを使用することで優れた風合い、品位を有し、且つ耐久制電性、工程通過性の優れる制電性剥離分割型複合繊維を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の剥離分離型複合繊維の断面拡大図の一例を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 第一成分(ポリアミド重合体)
2 第二成分(ポリエステル重合体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系重合体とポリエステル系重合体の2成分からなる剥離分割型複合繊維であって、少なくとも一方の成分に、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.0(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)であるポリエーテルエステルアミドが、重合体全重量に対して5〜30重量%含まれていることを特徴とする剥離分割型複合繊維。
【請求項2】
剥離分割型複合繊維の繊度が0.15〜10dtexであり、分割極細化後の各成分の繊度が0.01〜0.35dtexである請求項1記載の剥離分割型複合繊維。
【請求項3】
ポリエーテルエステルアミドがポリエステル系重合体に含まれている請求項1〜2いずれか1項記載の剥離分割型複合繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108447(P2009−108447A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283126(P2007−283126)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】