説明

楽器演奏用アクチュエータ、演奏補助マウスピース、金管楽器、自動演奏装置および演奏補助装置

【課題】空気を吹き込むだけで発音可能であるとともに、大音量、音域の広い発音が可能な楽器演奏用アクチュエータ、演奏補助マウスピース、金管楽器、自動演奏楽器および演奏補助装置を提供すること。
【解決手段】本発明の楽器演奏用アクチュエータ10は、空気を吹き入れるだけで音を発生させることができ、押込部材16の押込量、空気の流入量によって、音程、音量の制御が可能である。そのため、金管楽器などリップリード系の楽器に用いられるマウスピース100に取り付けることで、演奏者は、空気を吹き入れるとともに押込部材16の押込量を制御するだけで、人間の唇を用いたときと同様な音で、当該マウスピース100が取り付けられた楽器を演奏することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器の吹奏を補助する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金管楽器のようなリップリード系の楽器は、木管楽器のシングルリード、ダブルリード楽器のように息を吹き込むことによってリードを振動させて発音する楽器とは異なり、演奏者の唇を振動させることで発音する。このため、演奏者は、極めて高度な訓練が必要であり、また肉体的にも負担が大きい。そこで、金管楽器でも木管楽器と同様に、空気を吹き込むだけで発音可能とするため、可撓性の部材で人工唇を形成して、空気を吹き込むことによって、人口唇を振動させて発音する技術(例えば、特許文献1)が開示されている。
【特許文献1】特開2004−177828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術は、人口唇の構造上の制限から振幅が少ないために、大音量の発音を行うことが難しく、また、低音を出そうとすると、空気が通るのみになってしまい、振動が励起されにくく、演奏できる音域が狭くなってしまう。
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、空気を吹き込むだけで発音可能であるとともに、大音量、音域の広い発音が可能な楽器演奏用アクチュエータ、演奏補助マウスピース、金管楽器、自動演奏装置および演奏補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、弾性材料で形成されるとともに、貫通孔が設けられた弾性膜と、前記弾性膜に対向配置されるとともに、前記弾性膜側に移動可能に形成される膜部材と、前記貫通孔の周囲を囲うようにして前記膜部材側に突出するように前記弾性膜に設けられる環状の突出部材と、前記膜部材が前記弾性膜側に移動して前記突出部材に接触しているときに、前記弾性膜、前記膜部材および前記突出部材とともに密閉空間を形成する壁構造体と、前記壁構造体に設けられ、前記密閉空間と外部とを連通させる空気流入口とを具備することを特徴とする楽器演奏用アクチュエータを提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記膜部材を前記弾性膜側に移動させる押込部材をさらに具備してもよい。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記押込部材は、当該押込部材の内部空間に空気を吹き入れる吹入口と、前記内部空間と前記空気流入口とを接続する空気導入路とを具備してもよい。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記突出部材は、少なくとも前記膜部材と接触する部分が弾性材料で構成されていてもよい。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記膜部材は、少なくとも前記突出部材と接触する部分が弾性材料で構成されていてもよい。
【0010】
また、本発明は、上記記載の楽器演奏用アクチュエータと、所定の内径であるリムを有する金管楽器用マウスピースとを具備し、前記弾性膜の貫通孔の径は、前記所定の内径より小さく、前記楽器演奏用アクチュエータは、前記リムが前記弾性膜の貫通孔を囲うようにして前記弾性膜と接触できるように設けられていることを特徴とする演奏補助マウスピースを提供する。
【0011】
また、本発明は、上記記載の演奏補助マウスピースが装着されていることを特徴とする金管楽器を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記記載の金管楽器と、音程と音量とを特定する情報を有する楽音データを取得し、前記楽音データの音程に基づいて圧力を決定し、当該圧力を示す圧力制御信号を出力するとともに、前記楽音データの音量に基づいて流量を決定し、当該流量を示す流量制御信号を出力する制御手段と、前記圧力制御信号が示す圧力で、前記膜部材を前記弾性膜側に移動させる移動手段と、前記流量制御信号が示す流量の空気を、前記空気流入口を介して前記密閉空間に送り込む空気送出手段と、を具備する自動演奏装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記記載の自動演奏装置と、前記金管楽器用マウスピースとは別に設けられた演奏者用マウスピースに設けられ、当該演奏者用マウスピースの吹き込み口に演奏者の呼気が吹入されることによって発生する音を検出する音検出手段と、前記音圧検出手段によって検出した音に基づいて、楽音データを生成する楽音データ生成手段とを具備し、前記制御手段が取得する楽音データは、前記楽音データ生成手段によって生成された楽音データであることを特徴とする演奏補助装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、空気を吹き込むだけで発音可能であるとともに、大音量、音域の広い発音が可能な楽器演奏用アクチュエータ、演奏補助マウスピース、金管楽器、自動演奏装置および演奏補助装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
<実施形態>
本実施形態に係る楽器演奏用アクチュエータ10は、金管楽器のマウスピース100に取り付け可能なアクチュエータである。マウスピース100に接続された楽器演奏用アクチュエータ10は、その断面構造が図1、図2に示すような構造となっている。図1は、楽器演奏用アクチュエータ10について、後述する空気流入口14aを含む面で切った場合の断面の構造を表した図であり、図2は、上記の空気流入口14aを含む面とは垂直な面できった場合の断面の構造を示した図である。楽器演奏用アクチュエータ10の立体構造は、概ね、図2に示すような断面構造を軸aで回転させたときの回転体であり、その断面の一部が図1に示すような構造となっている。以下、楽器演奏用アクチュエータ10の構造について、図1を用いて説明する。
【0017】
弾性膜11は、弾性材料(本実施形態においては厚さ0.1mmのポリエステルフィルム)で形成された円形の膜であって、その中心部に円形の貫通孔が設けられている。そして、弾性膜11の周囲は壁構造体14に支持されている。また、貫通孔の径は、マウスピース100のリムの内径より小さくなっている。
【0018】
突出部材12は、弾性材料(本実施形態においてはショアA硬度50のニトリルゴム)で形成された環状の部材であって、弾性膜11の貫通孔の周囲を囲うようにして、後述する膜部材13側に突出するようにして弾性膜11に設けられている。ここで、弾性膜11と突出部材12との間には空気が流れないように、接触し、例えば接着剤等で固定されている。
【0019】
膜部材13は、弾性材料(本実施形態においては厚さ0.1mmのポリエステルフィルム)で形成された円形の膜であって、弾性膜11に対向配置されている。そして、膜部材13の周囲は、壁構造体14に支持され、後述する開口部14bを塞いでいる。
【0020】
壁構造体14は、中空の円柱形の構造体であって、後述する取付部材18側の底面(図1、2の右側の面)は全体が開口し、取付部材18を接続できるようになっている。また、もう一方の底面(図1、2の左側の面)は、2箇所の開口部を有する。2箇所のうち、一方の開口部は、当該底面の中心部に設けられた開口部14bであって、後述する押込部材16の一部を挿入することができる。これにより、押込部材16が膜部材13を弾性膜11側に移動させることができる。もう一方の開口部は、押込部材16によって、膜部材13が弾性膜11側に移動させられて突出部材12と接触している図1の状態の場合に、弾性膜11、突出部材12、膜部材13、壁構造体14で形成される密閉空間15と、壁構造体14の外部とを連通させ、壁構造体14の外部から密閉空間15に空気を流入させる空気流入口14aである。本実施形態においては、壁構造体14は、アルミ材を用いているが、強度が確保でき、空気を透過させない部材であれば、プラスチック、その他の金属等、どのような部材であってもよい。
【0021】
押込部材16は、上述したように開口部14bへ挿入し、膜部材13を弾性膜11側へ移動させることができる。また、押込部材16は、内部に空間を有するとともに、2箇所の開口部を有し、当該2箇所の開口部によって、当該空間が外部と連通している。2箇所の開口部のうち、一方の開口部は演奏者が内部に空気を吹き入れる吹入口16aである。また、もう一方の開口部と壁構造体14に設けられた空気流入口14aとは、連通管17によって接続されている。連通管17は、押込部材16の移動に伴い、形状を変化させることができる可撓性部材で形成されている。これにより、吹入口16aから吹き入れられた空気は、連通管17を介して、空気流入口14aから密閉空間15へ流入する。
【0022】
取付部材18は、金管楽器のマウスピース100に楽器演奏用アクチュエータ10を取り付ける部材である。取付部材18は、中空の円柱形の構造体であって、壁構造体14側の底面(図1、2の左側の面)、およびもう一方の金管楽器側の底面(図1、2の右側の面)は開口している。金管楽器側の底面の開口の径は、壁構造体14側の底面の開口の径よりも小さく、また、マウスピース100のリムの外径よりも小さくなっている。そして、図1、2に示すように、取付部材18はマウスピース100を固定し、取付部材18と壁構造体14を接続することで、マウスピース100と楽器演奏用アクチュエータ10を取り付けることができる。そして、本実施形態においては、弾性膜11の貫通孔を囲うように、マウスピース100のリムと弾性膜11とが接触するようになっている。
【0023】
次に、マウスピース100が取り付けられた楽器演奏用アクチュエータ10の動作について、図3を用いて説明する。図3は、図1、図2における弾性膜11とマウスピース100との接触部、突出部材12と膜部材13との接触部について、拡大した図であって、吹入口16aから空気が吹き入れられたときの動作の説明図である。
【0024】
演奏者が吹入口16aから空気を吹き入れると、当該空気は、連通管17を介して、空気流入口14aから密閉空間15へ流入する。密閉空間15において空気の圧力が高まると、図3の2点鎖線で示すように弾性膜11と突出部材12とが動くことで、突出部材12と膜部材13が離れて、図3の矢印で示すように空気がマウスピース100側に流出する。空気が流出することにより、密閉空間15の圧力が低下すると再び、弾性膜11の張力により突出部材12と膜部材13が接触状態になる。
【0025】
演奏者が吹入口16aから空気を吹き入れている間は、上記のように突出部材12と膜部材13とが接触したり離れたりすることにより、振動する弾性膜11が音を発生する。この際、空気の吹き入れる量(以下、流入量という)を多くすると、突出部材12と膜部材13の隙間に流れる空気流量が大きくなり、突出部材12がよりマウスピース100側に押し上げられることにより、弾性膜11の振動の振幅が大きくなり、発生する音は大音量となる。逆に、流入量を少なくすれば、弾性膜11の振動の振幅が小さくなり、発生する音は小音量となる。このようにして、流入量を変化させることによって音量を変化させることができる。
【0026】
また、演奏者が押込部材16をマウスピース100側に押し込むと、膜部材13、突出部材12がマウスピース100側に押し込まれ、弾性膜11がマウスピース100のカップ内部に伸ばされながら押し込まれるため、弾性膜11の張力が大きくなる。これにより、振動する弾性膜11と突出部材12が持つ固有振動数が高くなり、発生する音は高音となる。一方、押込部材16を上記方向と逆方向(マウスピース100側と反対方向)に戻すことによって、弾性膜11の張力が小さくなり、弾性膜11と突出部材12が持つ固有振動数が小さくなり、発生する音は低音となる。このようにして、押込部材16の押込量を変化させることにより、音程を変化させることができる。なお、押込部材16を押し込む際には、弾性膜11、突出部材12および膜部材13を押し込むことになるので、これらの部材からの反力に逆らって押し込むことになる。そのため、押込部材16の押込量は、圧力をもって制御することもできる。
【0027】
上述したように、楽器演奏用アクチュエータ10は、空気を吹き入れるだけで音を発生させることができ、押込部材16の押込量、空気の流入量によって、音程、音量の制御が可能である。そのため、金管楽器などリップリード系の楽器に用いられるマウスピース100に取り付けることで、演奏者は、空気を吹き入れるとともに押込部材16の押込量を制御するだけで、人間の唇を用いたときと同様な音で、当該マウスピース100が取り付けられた楽器を演奏することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0029】
<変形例1>
実施形態においては、楽器演奏用アクチュエータ10をマウスピース100に取り付けたときには、押込部材16が膜部材13を押し込んでいなくても、弾性膜11とマウスピース100のリムとは接触していたが、押込部材16によって膜部材13が押し込まれていないときには、弾性膜11とマウスピース100のリムとは接触していなくてもよい。この場合は、図4(a)に示すように、壁構造体14が弾性膜11を支持する位置を膜部材13側に近づければよい。そして、楽器演奏用アクチュエータ10を発音させるときには、図4(b)に示すように、押込部材16を押し込んで、弾性膜11とマウスピース100のリムが接触するようにして、密閉空間15に空気を流入させればよい。すなわち、押込部材16を押し込むことで、弾性膜11がマウスピース100のリムと接触可能となっていれば、どのような配置としてもよい。
【0030】
このようにすれば、弾性膜11の張力を大きくすることができ、高音域の発音に適した楽器演奏用アクチュエータ10とすることもできる。また、弾性膜11、壁構造体14、取付部材18、マウスピース100で形成される補助空間19を大きくとることできる。このため、密閉空間15に空気が流入したときに、弾性膜11が補助空間19側に伸びて移動することで、密閉空間15が大きくなるようにすることもできる。このようにすると、補助空間19を形成する部分の弾性膜11の張力で密閉空間15の空気をマウスピース100側に送出することもでき、空気の流量が安定していなくても、音量の安定性を向上させることもできる。なお、図4(b)における押込部材16は、実施形態で説明した押込部材16と形状が異なっているが、押込部材16は膜部材13を押し込んで、膜部材13と突出部材12とを接触させることができれば、どのような構造であってもよい。
【0031】
<変形例2>
実施形態においては、突出部材12は、それぞれ弾性材料で構成されていたが、必ずしも弾性材料でなくてもよい。例えば、金属等の硬い物質を用いた場合には、実施形態と別の音質で発音させることができる。また、突出部材12全体が同一の物質でなくてもよく、例えば、膜部材13と接触する部分だけが弾性材料で構成され、その他の部分は金属であってもよい。すなわち、所望の音質に合わせて膜部材13と接触する部分の突出部材12の材料を決定し、弾性膜11と接触する部分の突出部材12の材料は、双方の接着の相性に合わせて決定すればよい。また、材料を変化(例えば、比重の違う材料に変化)させ、弾性膜11と突出部材12の固有振動数を制御するようにしてもよい。
【0032】
膜部材13についても、突出部材12と同様に、弾性材料でない物質を用いてもよいし、複数の材料によって構成されていてもよい。ただし、膜部材13については、突出部材12と異なり、弾性膜11側へ移動できるように構成されている必要がある。そのため、膜部材13の一部は、伸縮可能に形成されている必要がある。例えば、図5に示すように、膜部材13のうち、突出部材12と接触する部分およびその周辺部分である接触部分13aは金属で形成され、それ以外の伸縮部分13bが弾性材料で形成されていてもよい。ここで、図5においては、2点鎖線の図は膜部材13が押し込まれていない状態を示し、実線の図は膜部材13が押し込まれて突出部材12に接触している状態を示している。また、伸縮部分13bについては、弾性材料でなく、伸縮可能な蛇腹構造であってもよい。この場合には、押込部材16によって伸縮部分13bが伸ばされ、弾性膜11の張力によって突出部材12を介して接触部分13aが押し戻されることによって、伸縮部分13bが縮むことになる。
【0033】
また、図6に示すように、膜部材13の伸縮部分13bが複数の径の異なる円筒形部材によって構成され、これらがスライドすることによって伸縮可能な構成となっていてもよい。ここで、図6(a)は膜部材13が押し込まれていない状態を示し、図6(b)は膜部材13が押し込まれて突出部材12に接触している状態を示している。この場合も、押込部材16によって伸縮部分13bが伸ばされ、弾性膜11の張力によって突出部材12を介して接触部分13aが押し戻されることによって、伸縮部分13bが縮むことになる。なお、伸縮部分13bを自動的に伸縮させる機構である伸縮制御手段を設け、操作手段の操作によって伸縮制御手段を制御して、伸縮量を制御するようにすれば、押込部材16は用いなくてもよい。また、演奏者は、操作手段を操作することによっても、発音する音程を制御することもできる。このように、膜部材13については、弾性材料の膜でなくても様々な構成とすることができる。
【0034】
<変形例3>
実施形態における楽器演奏用アクチュエータ10を用いて、金管楽器を自動演奏する自動演奏装置を構成することもできる。以下、自動演奏装置の構成について、図7を用いて説明する。
【0035】
アクチュエータ用直動ユニット20は、制御部30から出力される圧力制御信号に基づいて決定した圧力で、図4(b)に示すような楽器演奏用アクチュエータ10の押込部材16を押し込む機能を有している。エアコンプレッサ21は、圧縮空気を生成し、内蔵タンクに一定圧力以上の空気をためておく。エアコンプレッサ21から放出される圧縮空気は、電磁弁22、レギュレータ23によって、その流量が制御され楽器演奏用アクチュエータ10の空気流入口14aを介して、密閉空間15に供給される。電磁弁22は、制御部30から出力されるオンオフ制御信号に基づいて、エアコンプレッサ21から放出された圧縮空気をレギュレータ23に供給したり、遮断したりする機能を有する。レギュレータ23は、制御部から出力された流量制御信号に基づいて、圧縮空気の流量を制御して、楽器演奏用アクチュエータ10に供給する。ピストン用直動ユニット40は、制御部30から出力されるピストン制御信号に基づいて、トランペット200の各ピストンの上下位置を制御する機能を有する。
【0036】
制御部30は、各音の発音消音のタイミング、音程、音量などを示すMIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式等の楽音データを取得し、オンオフ制御信号、流量制御信号、圧力制御信号、ピストン制御信号を生成する。オンオフ制御信号は、楽音データが示す各音について、発音すべきタイミングから消音すべきタイミングまでの期間(以下、オン期間といい、これ以外の期間をオフ期間という)は、電磁弁22が圧縮空気をレギュレータ23に供給するように生成される。流量制御信号は、楽音データが示す各音について、音量が大きくなるほどレギュレータ23が制御する流量が多くなるように生成される。圧力制御信号、ピストン制御信号は、楽音データが示す各音の音程に基づいて生成される。ここで、制御部30は、圧力(いわゆるアンブシュアに対応)を示すデータと動作させるピストン(いわゆるピストン運指に対応)を示すデータとを音程に対応させたテーブルを記憶し、当該テーブルに基づいて楽音データが示す音程に対応する圧力と動作させるピストンを認識して、認識した圧力に基づいて圧力制御信号を生成し、認識した動作させるピストンに基づいてピストン制御信号を生成する。
【0037】
このような構成にすることで、自動演奏装置は、制御部30が取得した楽音データに基づいて、トランペット200を自動演奏することができる。なお、ピストン用直動ユニット40を用いずに、演奏者がピストンを動かすことでピストン運指の練習をすることもできる。また、トランペット200の代わりに、トロンボーンなど別の金管楽器を用いることもできる。この場合には、ピストン用直動ユニット40を金管楽器の可動部に対応させて変更し、制御部30が記憶するテーブルについても変更すればよい。例えば、トロンボーンのように可動部がスライド式の楽器の場合には、ピストン用直動ユニット40の代わりに、トロンボーンのスライド管をスライドさせることができる直動ユニットを用いればよい。そして、制御部30が記憶するテーブルは動作させるピストンを示すデータの代わりに、スライド量を示すデータを音程に対応させればよい。このようにすれば、様々な金管楽器に対応した自動演奏装置とすることができる。
【0038】
<変形例4>
実施形態における楽器演奏用アクチュエータ10を用いて、演奏者が行う金管楽器の演奏を補助する機能を有する演奏補助装置を構成することもできる。以下、演奏補助装置の構成について、図8を用いて説明する。
【0039】
演奏補助装置は、自動演奏ユニット50を有し、自動演奏ユニット50は、変形例3の自動演奏装置の一部であり、図7の破線で示した部分の機能を有する。また、演奏補助装置は、マウスピース100には、演奏者用マウスピース400が、装着部材300によって装着されている。吹奏者は、実際のトランペット200に装着されたマウスピース100とは別途設けられた演奏者用マウスピース400に唇をつけ、呼気を吹入することによって吹奏を行う。
【0040】
演奏者用マウスピース400には、センサ410、バックプレッシャ用アクチュエータ420および図示しない排気機構が設けられている。センサ410は、演奏者の呼気を吹入することによって発生する音を検出する音検出手段であって、検出した音に基づいて生成した信号を後述するオペレーションアンプ501に出力する。排気機構は、吹入された演奏者の呼気を排出する機構であって、これにより、演奏者用マウスピース400内の圧力は一定以下の圧力に保たれる。
【0041】
バックプレッシャ用アクチュエータ420は、演奏者の唇にバックプレッシャを与えるアクチュエータである。バックプレッシャとは、管楽器内を発振(発音)部から音波が伝わり、管の先端で反射して戻ってきて元の発振部に与える影響(圧力的作用)のことをいう。この戻りの音波の振幅位相が発振部の振幅位相と同期するときには発振部の振動を安定、増幅させる。逆に反同期の場合には発振部の振動の安定性を乱し、また振幅を抑制する働きがある。バックプレッシャ用アクチュエータ420は、スピーカを備え、後述するパワーアンプ506から出力される信号に基づいて、スピーカの振動板が振動することによって演奏者用マウスピース400の吹き込み口にバックプレッシャを発生させる。
【0042】
センサ410から出力される信号は、信号処理部500のオペレーションアンプ501に出力される。オペレーションアンプ501は、センサ410から出力される信号を増幅する。雑音低減回路502は、オペレーションアンプ501から出力される信号の所定レベル以下の信号を0にすることによって雑音を低減し、変換回路503と遅延制御回路504に出力する。
【0043】
変換回路503は、雑音低減回路502から出力される信号に基づいて、その信号が示す音の音程(ピッチ)、音量を検出する。また、検出した音程、音量の変化に基づいて、音の区切りを認識する。例えば、音量が所定レベル以下になった期間が所定時間以上続いた場合、音程が所定量以上変化したときには音の区切りとして認識する。このようにして、変換回路503は、認識した音の区切りごとに決定した各音の発音消音タイミング、当該各音の音程、音量に基づいて、楽音データを生成する。この際楽音データが示す音量は、検出した音量より予め設定された所定量だけ大きい値として設定される。そして生成した楽音データを自動演奏ユニット50の制御部30に出力する。これにより、自動演奏ユニット50は、変形例3で説明したようにして楽器演奏用アクチュエータ10を発音させる。このとき、自動演奏ユニット50の制御部30において取得した楽音データが示す音程が、テーブルに基づいて圧力を示すデータに変換されるから、演奏者の吹奏によって発生した音の音程が本来出すべき音程から少しずれていたとしても、その音程が補正されて正しい音程で楽器演奏用アクチュエータ10を発音させることができる。
【0044】
スイッチ221、222、223は、トランペット200の第1ピストンバルブ211、第2ピストンバルブ212、第3ピストンバルブ213にそれぞれ設けられており、演奏者の第1ピストンバルブ211、第2ピストンバルブ212、第3ピストンバルブ213に対する操作を検出し、検出結果を示す信号を遅延制御回路504に出力する。遅延制御回路504は、スイッチ221、222、223から供給される信号に基づいて、雑音低減回路502から供給される信号を遅延させ、グラフィックエコライザ505に出力する。ここで、遅延制御回路504について説明する。遅延制御回路504には、トランペット200の管の長さに応じた遅延時間Δtが予め設定されているとともに、スイッチ221、222、223に対応する遅延時間Δt1、Δt2、Δt3がそれぞれ予め設定されている。そして、遅延制御回路504が雑音低減回路502から供給される信号を遅延させる量である遅延時間は、Δtに対して、各スイッチから供給される信号に応じてΔt1、Δt2、Δt3が加算された時間となる。例えば、演奏者によって第1ピストンバルブ211のみが押下されている場合には、遅延時間は、Δt+Δt1となり、また、第2ピストンバルブ212と第3ピストンバルブ213とが押下されている場合には、遅延時間は、Δt+Δt2+Δt3となる。
【0045】
グラフィックエコライザ505は、遅延制御回路504から供給される信号の特定の周波数成分のレベル調整を行い、パワーアンプ506に出力する。パワーアンプ506は、グラフィックエコライザ505からの信号を増幅させ、バックプレッシャ用アクチュエータ420に供給する。
【0046】
上述した構成による演奏補助装置の動作は以下のとおりである。まず、演奏者が演奏者用マウスピース400に唇をつけ、息を吹き込むと、演奏者用マウスピース400に取り付けられたセンサ410によって、発生した音が検出される。オペレーションアンプ501は、センサ410から出力される信号を増幅し、雑音低減回路502に出力する。雑音低減回路502は、オペレーションアンプ501から出力される信号から一定レベル以下の信号を0にすることで雑音を低減し、変換回路503と遅延制御回路504に出力する。変換回路503は、雑音低減回路502から出力される信号を解析して楽音データを生成し、自動演奏ユニット50の制御部30に出力する。自動演奏ユニット50は、楽音データに基づいて、楽器演奏用アクチュエータ10の弾性膜11を振動させて音を発生させる。
【0047】
これにより、トランペット200の管内には、演奏者の吹奏により演奏者用マウスピース400内に発生した音に応じた音波が発生する。発生した音波は、トランペット200の管内をとおってトランペット200の朝顔部から放出される。これにより、トランペット200からは、演奏者の吹奏動作に応じた音が放音される。このとき、雑音低減回路502で雑音成分の除去がされたり、また、自動演奏ユニット50において発生させる音が大きくなったり、さらには、演奏者の発生させた音の音程が補正されて自動演奏ユニット50において発音したりすることにより、演奏者の吹奏技術が未熟である場合であっても、良好な演奏音を奏でることができる。また、演奏者用マウスピース400の管内には、バックプレッシャ用アクチュエータ420から発された圧力が発生する。これにより、演奏者は、唇において、あたかも本物のトランペットを演奏しているかのようなバックプレッシャを感じることができる。
【0048】
なお、本変形例においては、変換回路503は楽音データを生成していたが、変換回路503は楽音データを生成せずに、変換回路503において検出した音量と音程を示すデータを自動演奏ユニット50の制御部30に出力し、制御部30は、当該データが示す音量に基づいて流量制御信号を生成し、音程に基づいて圧力制御信号を生成してもよい。そして、オンオフ制御信号については、当該音量が所定値以上の間だけオン期間となるように生成すればよい。また、レギュレータ23によって低流量まで制御できれば、電磁弁22を用いなくてもよく、この場合は、オンオフ制御信号が生成される必要は無い。
【0049】
<変形例5>
変形例3における自動演奏装置、変形例4における演奏補助装置において、楽器演奏用アクチュエータ10において発生する音に基づいて、圧力制御信号にフィードバックをかけるようにしてもよい。この場合は、例えば、楽器演奏用アクチュエータ10の内部、例えば密閉空間15や補助空間19に接する壁構造体14に発生している音を検出するマイクロフォンなどを設ける。そして、制御部30は、マイクロフォンによって検出した音の音程を認識し、認識した音程が本来発生すべき音程と一致するように、圧力制御信号を変化させてフィードバックする。例えば、認識した音程が本来発生すべき音程より低かった場合には圧力を大きくするように圧力制御信号を変化させる。ここで、本来発生すべき音程は、楽器演奏用アクチュエータ10において発生すべき音程を示し、制御部30が記憶するテーブルの圧力を示すデータと対応付けられている。すなわち、制御部30は、楽器演奏用アクチュエータ10において発生すべき音程を示すデータと圧力を示すデータと動作させるピストンを示すデータとを音程に対応させたテーブルを記憶している。そして、制御部30は、マイクロフォンが認識した音の音程と楽器演奏用アクチュエータ10において発生すべき音程とに基づいて、テーブルが示す圧力を変更して決定した圧力を示す圧力制御信号を生成する。このようにすると、演奏時の環境の変化などによって、押込部材16の押込量(圧力)と弾性膜11の振動によって発生する音の音程との関係が変化しても、フィードバックをかけることにより、変化による音程のずれを補正することができる。
【0050】
<変形例6>
実施形態においては、弾性膜11の貫通孔は円形であったが、必ずしも円形でなくてもよく、弾性膜11がマウスピース100のリムと接触する際に、貫通孔がリムの外側に出ないように形成されていればよい。そして、貫通孔の形状、大きさ、弾性膜11上の位置により、弾性膜11と突出部材12における固有振動数が変化するから、演奏の目的に応じた所望の固有振動数が得られるように貫通孔の形状、大きさ、弾性膜11上の位置を決定すればよい。
【0051】
<変形例7>
実施形態においては、楽器演奏用アクチュエータ10は、押込部材16を除けば概ね円柱形状であったが、四角柱形状、三角柱形状等、その他の形状であってもよい。この場合は、弾性膜11、膜部材13を円形の膜でなく、四角形、三角形等の膜とすればよい。このようにしても、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態に係る楽器演奏用アクチュエータの構成を示す断面図である。
【図2】実施形態に係る楽器演奏用アクチュエータの構成を示す断面図である。
【図3】実施形態に係る楽器演奏用アクチュエータの弾性膜の振動の様子を示す説明図である。
【図4】変形例1に係る楽器演奏用アクチュエータの構成を示す断面図である。
【図5】変形例2に係る楽器演奏用アクチュエータの膜部材の構成を示す説明図である。
【図6】変形例2に係る楽器演奏用アクチュエータの膜部材の構成を示す説明図である。
【図7】変形例3に係る自動演奏装置の構成を示す説明図である。
【図8】変形例4に係る演奏補助装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
10…楽器演奏用アクチュエータ、11…弾性膜、12…突出部材、13…膜部材、13a…接触部分、13b…伸縮部分、14…壁構造体、14a…空気流入口、14b…開口部、15…密閉空間、16…押込部材、16a…吹入口、17…連通管、18…取付部材、19…補助空間、20…アクチュエータ用直動ユニット、21…エアコンプレッサ、22…電磁弁、23…レギュレータ、30…制御部、40…ピストン用直動ユニット、50…自動演奏ユニット、100…マウスピース、200…トランペット、211…第1ピストンバルブ、212…第2ピストンバルブ、213…第3ピストンバルブ、221,222,223…スイッチ、300…装着部材、400…演奏者用マウスピース、410…センサ、420…バックプレッシャ用アクチュエータ、500…信号処理部、501…オペレーションアンプ、502…雑音低減回路、503…変換回路、504…遅延制御回路、505…グラフィックエコライザ、506…パワーアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料で形成されるとともに、貫通孔が設けられた弾性膜と、
前記弾性膜に対向配置されるとともに、前記弾性膜側に移動可能に形成される膜部材と、
前記貫通孔の周囲を囲うようにして前記膜部材側に突出するように前記弾性膜に設けられる環状の突出部材と、
前記膜部材が前記弾性膜側に移動して前記突出部材に接触しているときに、前記弾性膜、前記膜部材および前記突出部材とともに密閉空間を形成する壁構造体と、
前記壁構造体に設けられ、前記密閉空間と外部とを連通させる空気流入口と
を具備することを特徴とする楽器演奏用アクチュエータ。
【請求項2】
前記膜部材を前記弾性膜側に移動させる押込部材
をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の楽器演奏用アクチュエータ。
【請求項3】
前記押込部材は、
当該押込部材の内部空間に空気を吹き入れる吹入口と、
前記内部空間と前記空気流入口とを接続する空気導入路と
を具備することを特徴とする請求項2に記載の楽器演奏用アクチュエータ。
【請求項4】
前記突出部材は、少なくとも前記膜部材と接触する部分が弾性材料で構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の楽器演奏用アクチュエータ。
【請求項5】
前記膜部材は、少なくとも前記突出部材と接触する部分が弾性材料で構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の楽器演奏用アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の楽器演奏用アクチュエータと、
所定の内径であるリムを有する金管楽器用マウスピースと
を具備し、
前記弾性膜の貫通孔の径は、前記所定の内径より小さく、
前記楽器演奏用アクチュエータは、前記リムが前記弾性膜の貫通孔を囲うようにして前記弾性膜と接触できるように設けられている
ことを特徴とする演奏補助マウスピース。
【請求項7】
請求項6に記載の演奏補助マウスピースが装着されている
ことを特徴とする金管楽器。
【請求項8】
請求項7に記載の金管楽器と、
音程と音量とを特定する情報を有する楽音データを取得し、前記楽音データの音程に基づいて圧力を決定し、当該圧力を示す圧力制御信号を出力するとともに、前記楽音データの音量に基づいて流量を決定し、当該流量を示す流量制御信号を出力する制御手段と、
前記圧力制御信号が示す圧力で、前記膜部材を前記弾性膜側に移動させる移動手段と、
前記流量制御信号が示す流量の空気を、前記空気流入口を介して前記密閉空間に送り込む空気送出手段と、
を具備することを特徴とする自動演奏装置。
【請求項9】
請求項8に記載の自動演奏装置と、
前記金管楽器用マウスピースとは別に設けられた演奏者用マウスピースに設けられ、当該演奏者用マウスピースの吹き込み口に演奏者の呼気が吹入されることによって発生する音を検出する音検出手段と、
前記音圧検出手段によって検出した音に基づいて、楽音データを生成する楽音データ生成手段と
を具備し、
前記制御手段が取得する楽音データは、前記楽音データ生成手段によって生成された楽音データである
ことを特徴とする演奏補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−292930(P2008−292930A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140602(P2007−140602)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)