説明

構造の振動音響分析を行うシステムおよび方法

【課題】構造の振動音響分析を行うことによって特定の励振から生じる音場をシミュレートする方法およびシステムを開示する。
【解決手段】本発明の一の面では、構造の振動音響分析は2段階で行われる。第一に、定常動的応答を、調和励振(例えば、外部ノード荷重、圧力、強制運動など(例えば地面運動))を受ける構造の有限要素解析法モデルを用いて、取得する。ステディ・ステート応答は、周波数領域において有限要素解析法で取得された結果(例えば構造の所望の位置でのノード速度)である。第二に、音響分析は、境界条件として構造の所望の位置において取得されたノード速度を用いて、ヘルムホルツ方程式によって、行われる。音響分析は、いくつかのプロシージャ(例えば境界要素法、レイリー近似法など)で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、構造のコンピュータ支援工学解析に関し、特に、調和励振(つまり荷重)を受ける構造の振動音響分析を行うシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有限要素法(FEM)(有限要素解析法(FEA)ともいう)は、積分方程式だけでなく偏微分方程式(PDE)の近似解をも見つけるための数値的手法である。ソリューション(求解)アプローチは、微分方程式の完全な排除(定常問題)、あるいはオイラーの方法やRunge−Kuttaなどの標準手法を用いて数値的に積分される常微分方程式の近似システムへのPDEの表現に基づいている。
【0003】
車両の空力性能および構造的一体性の両方を最適化するために、FEAは、自動車メーカーの間でますます一般的になってきている。同様に、飛行機の性能を予測するために、第1プロトタイプを作るかなり前に、航空機メーカーはFEAを用いている。半導体電子デバイスを、この状況に含まれる電気力学、拡散および熱力学の有限要素解析法を用いて、合理的に設計できる。FEAは、汚染物質の海流および拡散の特徴を調べるためにも利用される。FEAは、オーブン、ミキサー、電灯設備および多くのプラスチック製品などの家庭用製品の製造および性能の解析にも、ますます適用されている。実際、FEAは、思いつくだけでも、プラスチック用金型設計、原子炉のモデル化、スポット溶接プロセスの解析、マイクロ波アンテナ設計、車の衝突シミュレート、および義肢の設計等のバイオ医学用途を含む、多数の様々な分野において用いられている。要するに、FEAは、軽工業・重工業のほとんどすべての段階において、設計を迅速化し、生産性と効率を最大限にし、製品性能を最適化するために、利用される。このことは、第1プロトタイプが開発されるかなり前に、よく行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
興味深いFEAのタスクのうちの1つは、外部励振を受ける構造の音響応答(例えばノイズ)をシミュレートすることである。構造的音響応答問題を解く共通のアプローチには、振動解析および音響解析において方程式を解くことが含まれる。多数のFEAエレメントを用いるシステムでは、典型的な計算方法においてこれらの方程式を解くことは、計算が膨大になり、大規模なリソースを必要とする。
【0005】
過去数十年間、境界要素法(boundary element method (BEM))が、工学問題を解く汎用性のある強力なツールとして登場していた。BEMは、境界積分方程式を用いることによって構築された、境界値あるいは初期値問題を解く数値的方法である。BEMは、無限数での放射条件(radiation condition at infinity)が自動的に満たされるので、無限領域問題を解くことに関して有用である。BEMは、問題の次元を1つずつ低減する。例えば、領域の境界のみをメッシュ化する必要がある。このように、BEMは、多くの場合、より広く用いられているFEAの代替として用いられている。特に、BEMは、ヘルムホルツ(Helmholtz)方程式によって決定される音響問題を解くことに関して有力な候補となっていた。
【0006】
振動音響分析を行う従来技術アプローチの多くは、特定の目的のためのものであり、例えば異なるコンピューターソフトウェアを統合的に結び付けるものであった。これらのアプローチは、人間の関与を必要とするだけでなく、エラーが起こりがちである。したがって、FEAおよびBEMの両方を用いて、構造の振動音響分析を効果的かつ効率的に行う統合的な方法およびシステムが望まれよう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
構造の振動音響分析(vibro−acoustic analysis)を行うことによって特定の励振から生じる音場をシミュレートする方法およびシステムを開示する。本発明の一の面では、構造の振動音響分析は2段階で行われる。第一に、定常動的応答(steady state dynamic responses、(SSD応答))を、調和励振(harmonic excitations)(例えば、外部ノード荷重、圧力、強制運動など(例えば地面運動(ground motions)))を受ける構造の有限要素解析法モデルを用いて、取得する。ステディ・ステート応答は、周波数領域において有限要素解析法で取得された結果(例えば構造の所望の位置でのノード速度)である。第二に、音響分析は、境界条件として構造の所望の位置において取得されたノード速度を用いて、ヘルムホルツ(Helmholtz)方程式によって、行われる。音響分析は、いくつかのプロシージャ(例えば境界要素法、レイリー(Rayleigh)近似法など)で行うことができる。
【0008】
他の面では、構造のモード解析が、まず、構造の固有振動周波数および対応する振動モードを得るよう、行われる。その後、調和励振が、モード重合せ法を用いて適用され、これにより、構造、例えば自動車のウィンドシールドおよびインテリアパネル、のある所望の位置におけるSSD応答(例えばノード速度あるいは圧力)を取得し、励振の結果としてのノイズレベルを決定する。外部励振は、一般に、周期的荷重(例えば正弦波励振(sinusoidal excitations))の振幅および位相角によって、ある範囲の周波数に対するスペクトルの形式で表される。構造の特性は周波数応答関数(FRF)によって表される。構造的応答(測定あるいは演算される)は、単位調和入力励振(unit harmonic input excitation)から得られる。
【0009】
あるいは、有限要素過渡解析(finite element transient analysis)を行うことができる。その後、時間領域解(ノード速度)がフーリエ変換によって周波数領域に変換される。
【0010】
ある場合には、例えば構造の予め応力が印加された条件の場合あるいは構造に非線形性がある場合には、不連続モード解析(intermittent modal analysis)が行われる。その後、構造の不連続固有周波数および対応する振動モードが、SSD応答を取得するよう採用される。
【0011】
さらに他の面では、SSD応答およびFRFは、数値的シミュレーションを現実世界の結果とより整合させることができるよう、種々の方法で減衰を適用する種々の方法により調整される。
【0012】
SSD応答が取得されると(例えば構造の所望の位置におけるノード速度)、結果として生じる音響を、他のコンピュータ支援解析法(例えば境界要素法(boundary element method (BEM))あるいは他の同等な方法(例えばレイリー法))を用いて計算できる。BEMにおいては、音響領域における任意の点での圧力が、対象とされる面(例えば車のウィンドシールド)での圧力および速度の積分方程式から取得される。レイリー法は、振動面の各エレメントが無限大の剛性のバフル上に装着されており互いに独立して振動するという仮定に基づいている。全圧力場は、各エレメントによって生成される圧力を合計することから決定される。ここに説明する方法およびシステムの例示的な一の用途は、自動車のNVH(ノイズ(騒音)・バイブレーション(振動)・ハーシュネス(乗り心地)(noise, vibration and harshness))解析と呼ばれるものである。ある所望の位置における音場応答を計算するステップは、1セットの異なる周波数で補間することなく行われる。
【0013】
さらに他の面では、音響応答は、領域分割と呼ばれる並列計算法(parallel computing technique)を用いて取得される。また、行列(マトリックス)の低次近似が、解を早く得るために実行されている。種々のプレコンディショナ(pre−conditioners)によるGMRES(Generalized Minimal RESidual method)反復的求解器(iterative solver)が、収束を早めるために採用される。
【0014】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付した図面を参照し、以下の本発明の実施の形態の詳細な説明を考察することによって明らかとなろう。
【0015】
本発明のこれらおよび他の特徴、面および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付した図面を考慮してより理解されよう。図面は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一の実施形態を実行可能な例示的なコンピュータを示すブロック図である。
【図2】本発明の一の実施形態にかかる、励振を受ける構造に関する振動音響の問題を解くためのプロセスを示すブロック図である。
【図3A】構造に関する例示的な音響領域を示す図である。
【図3B】構造に関する例示的な音響領域を示す図である。
【図4A】本発明の一の実施形態にかかる例示的な半空間音響放射問題(half space acoustic radiation problem)の定義を示す図である。
【図4B】本発明の他の実施形態にかかる、振動面が鏡映面にある特別なケースを示す図である。
【図5】本発明の一の実施形態にかかる、有限要素および境界要素(あるいはレイリー)解析の組み合わせ法を用いて、構造に関する振動音響シミュレーションを行う例示的なプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照する。図面を通じて同じ符号が同じパーツを表している。本発明は、ハードウェア、ソフトウェアあるいはその組み合わせを用いて実現可能であり、コンピュータシステムあるいは他の処理システムにおいて実現可能である。実際、一の態様において、本発明は、ここに説明した機能を実行可能な1つ以上のコンピュータシステムに対してなされたものである。コンピュータシステム100の一例を、図1Aに示す。コンピュータシステム100は、プロセッサ104など1つ以上のプロセッサを有する。プロセッサ104は、コンピュータシステム内部通信バス102に接続されている。種々のソフトウェアの実施形態を、この例示的なコンピュータシステムの点から説明する。この説明を読むと、いかにして、他のコンピュータシステムおよび/またはコンピューターアーキテクチャーを用いて、本発明を実行するかが、関連する技術分野に習熟している者には明らかになるであろう。
【0018】
コンピュータシステム100は、また、メインメモリ108好ましくはランダムアクセスメモリ(RAM))を有しており、そして二次メモリ110を有することもできる。二次メモリ110は、例えば、1つ以上のハードディスクドライブ112、および/またはフレキシブルディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブなどを表わす1つ以上のリムーバブルストレージドライブ114を有することができる。リムーバブルストレージドライブ114は、よく知られている方法で、リムーバブルストレージユニット118を読み取りおよび/またはリムーバブルストレージユニット118に書き込む。リムーバブルストレージユニット118は、リムーバブルストレージドライブ114によって読み取り・書き込みされるフラッシュメモリ、フレキシブルディスク、磁気テープ、光ディスクなどを表わす。以下にわかるように、リムーバブルストレージユニット118は、コンピューターソフトウェアおよび/またはデータを内部に記憶しているコンピュータで使用可能な記憶媒体を有している。
【0019】
代替的な実施形態において、二次メモリ110は、コンピュータプログラムあるいは他の命令をコンピュータシステム100にロードすることを可能にする他の同様な手段を有することもできる。そのような手段は、例えば、リムーバブルストレージユニット122とインタフェース120とを有することができる。そのようなものの例には、プログラムカートリッジおよびカートリッジのインタフェース(ビデオゲーム機に見られるようなものなど)と、リムーバブルメモリチップ(消去可能なプログラマブルROM(EPROM)、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュメモリ、あるいはPROMなど)および関連するソケットと、ソフトウェアおよびデータをリムーバブルストレージユニット122からコンピュータシステム100に転送することを可能にする他のリムーバブルストレージユニット122およびインタフェース120と、が含まれうる。一般に、コンピュータシステム100は、プロセススケジューリング、メモリ管理、ネットワーキングおよびI/Oサービスなどのタスクを行なうオペレーティングシステム(OS)ソフトウェアによって、制御され連係される。
【0020】
通信用インタフェース124も、また、バス102に接続することができる。通信用インタフェース124は、ソフトウェアおよびデータをコンピュータシステム100と外部装置との間で転送することを可能にする。通信用インタフェース124の例には、モデム、ネットワークインターフェイス(イーサネット(登録商標)・カードなど)、コミュニケーションポート、PCMCIAスロットおよびカードなど、が含まれうる。
【0021】
コンピュータ100は、専用のセットの規則(つまりプロトコル)に基づいて、データネットワーク上の他の演算装置と通信し、データを送受信する。一般的なプロトコルのうちの1つは、インターネットにおいて一般に用いられているTCP/IP(伝送コントロール・プロトコル/インターネット・プロトコル)である。一般に、通信インタフェース124は、データファイルをデータネットワーク上で伝達される小さいパケットへのアセンブリングを管理し、あるいは受信したパケット元のデータファイルへと再アセンブルする。さらに、通信インタフェース124は、正しい宛先に届くようそれぞれのパケットのアドレス部分に対処し、あるいはコンピュータ100が宛先となっているパケットを他に向かわせることなく受信する。
【0022】
この書類において、「コンピュータが記録可能な記憶媒体」、「コンピュータが記録可能な媒体」および「コンピュータ可読媒体」という語は、リムーバブルストレージドライブ114および/またはハードディスクドライブ112に組み込まれたハードディスクなどの媒体を概ね意味して用いられている。これらのコンピュータプログラム製品は、コンピュータシステム100にソフトウェアを提供する手段である。本発明は、このようなコンピュータプログラム製品に対してなされたものである。
【0023】
コンピュータシステム100は、また、コンピュータシステム100をアクセスモニタ、キーボード、マウス、プリンタ、スキャナ、プロッタなどに提供するI/Oインタフェース130を有することができる。
【0024】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御ロジックともいう)は、メインメモリ108および/または二次メモリ110にアプリケーションモジュール106として記憶される。コンピュータプログラムを、通信用インタフェース124を介して受け取ることもできる。このようなコンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、コンピュータシステム100がここに説明した本発明の特徴を実行することが可能になる。詳細には、コンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、プロセッサ104が本発明の特徴を実行することが可能になる。したがって、このようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステム100のコントローラを表わしている。
【0025】
ソフトウェアを用いて発明が実行される実施形態において、ソフトウェアをコンピュータプログラム製品に記憶でき、リムーバブルストレージドライブ114、ハードドライブ112あるいは通信用インタフェース124を用いてコンピュータシステム100へとロードすることができる。アプリケーションモジュール106は、プロセッサ104によって実行された時、アプリケーションモジュール106によって、プロセッサ104がここに説明した本発明の機能を実行する。
【0026】
所望のタスクを達成するために、I/Oインタフェース130を介したユーザ入力によってあるいはよることなしに、1つ以上のプロセッサ104によって実行することができる1つ以上のアプリケーションモジュール106を、メインメモリ108に、ロードすることもできる。動作においては、少なくとも1つのプロセッサ104がアプリケーションモジュール106のうちの1つが実行されると、結果(例えば車両におけるノイズレベルの点からの音響圧)が演算されて二次メモリ110(つまりハードディスクドライブ112)に記憶される。例えば、SSDおよび音響分析の結果をメモリに保存することができ、リストやグラフとしてI/Oインタフェース130を介してユーザに報告できる。
【0027】
次に図2を参照して、本発明の一の実施形態にかかる、構造の振動音響分析を行う各種機能の関係を表すブロック図200を示す。ブロック図200において、構造202(例えば車)が、コンピュータ支援解析ソフトウェア(例えば有限要素法(FEM)、境界要素法など(BEM))を用いてシミュレートされる。構造202は、概して、複数のノードおよび複数のエレメントを有するFEMモデルによって表される。構造の剛性および質量は、剛性および質量行列の形式のFEAモデルから計算することができる。質量を、質量行列において対角項のみとなる集中質量法(lumped mass scheme)によって表わすことができる。質量および剛性行列を定義した後、モード解析204を行うことができる。固有振動周波数および各振動モードが取得される。数学的に、このプロシージャは固有解と呼ばれる。各固有振動モードは他の固有振動モードと直交する。
【0028】
構造の定常動的応答208は励振入力206により計算される。励振入力206は、環境(例えば車を取り囲む気流、地面と接するタイヤなど)から生じる振動あるいは力など高調波外部荷重(harmonic external loads)の態様である。定常動的応答を計算するプロシージャは、モード重合せと呼ばれる。一般に、定常動的応答は、種々のモード寄与の重合せである。実際には、荷重(loading)(つまり励振(excitation))にもよるが、ほとんどの寄与は最低周波数モード(lowest frequency modes)からである。
【0029】
SSDを取得するよう、モード重合せ法が用いられる。減衰効果を含む運動の方程式は以下の通りである。
【0030】
【数1】

ここで、

は質量、減衰および剛性行列である。
p(t)は外力である。モード重合せ方法を用いると、変位応答(displacement response)は数式2によって表現することができる。
【0031】
【数2】

ここで、

はn番目の振動モードの形状であり、

はn番目のモードの座標である。
数式2を数式1に代入すると、決定式は数式3として書き直せる。
【0032】
【数3】

数式3に予め

乗じておくと次の通りとなる。
【0033】
【数4】

固有モード(natural modes)の直交性は、以下の正方行列が対角的であることを意味する。
【0034】
【数5】

ここで、対角項は以下のように表現される。
【0035】
【数6】


が正の定符号であるので、

の対角要素は正である。それらは以下の関係にある。
【0036】
【数7】

【0037】
正方行列

は同様に以下のように得られる。
【0038】
【数8】

ここで、Cは、系(システム(system))における減衰の分布に応じて、対角的にでき、あるいは対角的でなくてもよい。

が対角的である場合(対角項が

である場合)、数式4は、モード座標

におけるN個の結合していない微分方程式(N uncoupled differential equations)を表現しており、系は古典的減衰を有すると言われ、系は減衰しない系と同じ固有モードを持つ。古典的減衰のみがこのアプローチにおいて考慮される。右手系ベクトル(right hand side vector)(一般化された力(generalized force))

は以下の通りである。
【0039】
【数9】

【0040】
古典的減衰のN−DOF系に関しては、モード座標におけるN個の微分方程式のそれぞれは以下の通りである。
【0041】
【数10】

あるいは
【0042】
【数11】

ここでモード減衰係数

は数式12によって定義される。
【0043】
【数12】

【0044】
数式11の両辺にフーリエ変換を適用すると、以下の通りのものが得られる。
【0045】
【数13】

周波数領域における構造的変位応答は、以下の通り表すことができる。
【0046】
【数14】

周波数領域における構造的速度応答は、以下の通り表すことができる。
【0047】
【数15】

数式14および数式15によって示すように、系の減衰には重要な効果SSDが含まれる。減衰は、一定のモード減衰比、モード依存の減衰比、あるいはレイリー減衰、つまり質量および剛性行列に比例する減衰行列など、いくつかの方法で規定することができる。減衰は、振幅だけでなく周波数応答の位相角にも影響を与える。
【0048】
励振あるいは荷重がノードの力あるいは圧力の形式で与えられる場合、上述のプロシージャを直接適用できる。荷重が強制運動として与えられる場合、大質量法(large mass method)を荷重をノードの力に変換するために用いることができる。大質量法を用いるために、非常に大きな質量

を、強制運動が規定されているノードに取り付ける。取り付ける質量は、通常、元の全体構造の質量より数桁大きい。その後、非常に大きなノードの力

が、励振の自由度でノードに印加され、所望の加速が与えられる。
【0049】
【数16】

【0050】
一の実施形態では、速度応答210がある所望のノードで取得された後、対象となる点における音響圧力を、例えば図3Aに示す構造306の外部あるいは図3Bに示す構造306の内部の音響放射を、境界要素法212あるいは他の同等な方法(例えばレイリー法)214を用いて、計算することができる。音響の領域における任意の点での音響圧力p302が計算される。Syとして表示された音響領域境界304を、構造306の境界上に示す。周波数領域において、大量の音響源がない理想流体における音波伝播は、ヘルムホルツ方程式によって以下の通り与えられる。
【0051】
【数17】

ここで、

は波数を示し、

は音響領域における音速を示し、

は角周波数を示し、

は場の任意の点における圧力である。
【0052】
数式17は、グリーンの定理を用いることによって積分方程式の形式に変換することができる。この場合、音響領域(例えば空気)における任意の点での圧力p302を、以下の数式から与えられる、面上での圧力および速度の両方の積分方程式として表現することができる。
【0053】
【数18】

ここで

はグリーン関数であり、

は音響圧力に関して対象となる点の位置を定義するベクトルであり、



上の点を定義するベクトルであり、ny

の法線(normal)であり、

は特異積分グリーン関数( singular integral involving Green’s function)の処理に起因するジャンプ項(jump term)である。圧力の法線導関数は法線速度と

による関係がある。ここで、

は音響流体の密度であり、

は単位虚数である。
【0054】
面上の圧力および速度が分かれば、場の任意の点の圧力を計算できる。これは、積分方程式理論の主なアイディアを構成している。実際の場合、問題は、異なる境界条件によるノイマン(Neumann)、DirichletあるいはRobin問題である。ノイマン問題においては、速度は境界上で規定され、一方、Dirichletのケースにおいては、圧力が境界に課される。最後に、Robin問題では、速度と圧力との組合せである音響インピーダンスが境界上で与えられる。したがって、変数の半分のみが面領域上で知られる。ここで説明した振動音響問題では、ノイマン問題が適用可能である。境界速度は、与えられた調和励振に対する構造のSSD(ステディ・ステート・ダイナミクス)から取得される。
【0055】
一の実施形態では、面上の他の音響の変数を推定するために、BEM(境界要素法)を積分方程式を離散化する(ディスクリタイズ(discretize))よう用いることができる。いくつかのBEMを用いることができる。最も単純なものは選点法(collocation method)と呼ばれる。この方法においては、積分方程式は境界の各ノードに対して記述される。生成された基本ベクトル(elementary vectors)を集めることにより、解が音響変数の他方の半分を推定することを可能にする線形系が得られる。この方法は単純な積分を用いるが、非対称で複雑な完全に占有された(fully populated)系を含んでいる。
【0056】
変分BEM(variational BEM)における他の実施形態では、数式に試験関数を乗じて、面にわたって積分される。FEMに関しては、変分BEMが対称な線形系を提供する。しかしながら、それでもまだ複雑で完全に占有されている。選点法と比較したときの他の特徴は、変分アプローチが二重積分(double integrals)を含んでいるということである。BEMにおいては、線形系がグリーン関数を介して周波数に依存していることを強調しておく。数式系(equation system)全体を、各周波数に対して組み立てて解かなければならない。generalized minimal residual(GMRES)法に基づいた反復的求解器は、直接的求解器(direct solver)より効率的である。
【0057】
他の実施形態では、音響圧力をレイリー法と呼ばれる方法を用いて計算することができる。レイリー法は、振動面の各エレメントが無限大の剛性のバフル上に装着されており振動面を構成する他のエレメントから独立して振動するという仮定に基づいている。したがって、全圧力場は、各エレメントによって生成される圧力を合計するによって取得される。対応するグリーン関数は、鏡像の方法を用いて構築される。
【0058】
次に図4A〜図4Bを参照して、レイリー法を用いて計算される音響放射圧の定義を示す。鏡映面SR406に関する点P404の鏡像をP’408として示す。また、r’4
10はP’408と

の任意の点との間の距離である。r420は、P404
と、SあるいはSR上にあるQ422と、の間の距離である。S402は、図4Aにおいては構造412の境界としての音響境界であり、図4Bにおいては構造412の投影面(projected surface)としての音響境界である。点Q422における法線ベクトルをn424として示す。無限領域のグリーン関数は、鏡像解を基本解

に追加することによって得られる。したがって、半空間グリーン関数は次のように記述できる。
【0059】
【数19】

振動面が鏡映面SR406上のどこかにあるとき、この場合

あり、したがって、グリーンの関数およびその導関数は以下のようになる。
【0060】
【数20】

この新しいグリーンの関数を数式18に考慮することによって、レイリー積分を以下のように記述できる。
【0061】
【数21】

ここで、

は自由音場(free field)におけるグリーン関数である。
【0062】
SSD(ステディ・ステート・ダイナミクス)によって面上の法線速度が数式15において取得されているので、点P404における圧力は単純に合計することによって計算される。このように、BEMと異なり、レイリー法は、線形系の数式を解く必要がない。
【0063】
高周波については、面における圧力を、面上の速度を単に用いることによって積分方程式を解くことなく近似することができる。こうした周波数においては、放射インピーダンスが、媒体のものとほぼ等しい。この場合、面においては

である。この関係を数式18に代入することによって、次の数式が得られる。
【0064】
【数22】

法線速度

が分かれば、この積分(つまり数式22)を、線形系を解くことなく、数値的に評価することができる。
【0065】
音響パネル寄与を解析するために、境界は、いくつかのパネルに分割される。分割されるパネルのそれぞれは、構造(例えば車両内のノイズレベル予測するための車のフロントウィンドシールドやサイドウィンドー)の寄与する部分を表している。数式18における面積分は、それぞれのパネルで計算され、そして以下の式で合計される。
【0066】
【数23】

ここで、

はj番目のパネルの面積を表す。j番目のパネルに対するパネル寄与率

は、合計圧力ベクトル

のj番目のパネルによって寄与される圧力ベクトルの比であり、以下のように表される。
【0067】
【数24】

ここで、

は2つのベクトルの内積を表す。したがって、

は、合計圧力ベクトルの長さ
に対する投影寄与圧力ベクトルの長さ(合計圧力ベクトルの方向)の比である。
【0068】
一の面では、ステディ・ステート・ダイナミクスにおいて得られた速度は、ある範囲の周波数内にある。対象となる点における音響圧力を計算するためには、対象となるすべての周波数(例えば1ヘルツ(Hz)毎に1〜1000Hz間で)を考慮する必要がある。
【0069】
次に図5を参照して、本発明の一の実施形態にかかる、有限要素および境界要素(あるいはレイリー)解析の組み合わせ法を用いて、構造に関する振動音響シミュレーションを行う例示的なプロセスを示すフローチャートを示す。プロセス500は、好ましくはソフトウェアで実行される。
【0070】
プロセス500は、ステップ502で対象となる構造のFEAモデルを定義することによってスタートする。次に、ステップ503において、対応するBEMメッシュをFEMモデルに基づいて生成する。BEMメッシュは、FEMモデルの一部あるいは面全体として定義される。その後、ステップ504において、モード解析がFEAモデルを用いて行われる。構造の固有振動周波数および対応する振動モードの形状が取得される。ステップ506において、モード重合せプロシージャを用いて、定常動的応答を調和励振に対して取得することができる。振動音響分析では、ある所望のノードにおける速度スペクトルが計算される。その結果、ノードの速度の振幅および位相角が対象となる各周波数で取得される。
【0071】
所望のノード速度が取得された後、ステップ507において、対応するBEMメッシュのBEMノードに割当/送達(マップ/パス(mapped/passed))される。音響応答が、ステップ508において対象となる任意の点でBEMあるいはレイリー法に基づいて計算される。例えば、車のウィンドシールド、サイドウィンドーがパネルとして扱われる。車両の内部のノイズのレベルが、その後、例えば数式18あるいは数式21を用いて計算される。そして、プロセス500は、終了する。
【0072】
本発明を具体的な実施形態を参照しながら説明したが、これらの実施形態は単なる例示であって、本発明を限定するものではない。開示した例示的な実施形態に対する種々の変更あるいは変形を、当業者は思いつくであろう。例えば、例示の簡単化のために、図3A〜図3Bおよび図4A〜図4Bを二次元で示したが、本発明は、一般的に、三次元において用いられる。つまり、発明の範囲は、ここで開示した具体的で例示的な実施形態に限定されず、当業者が容易に想到するあらゆる変更が、本願の精神および認識範囲そして添付の特許請求の範囲の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
100 コンピュータシステム
102 バス
104 プロセッサ
106 アプリケーションモジュール
108 メインメモリ
110 二次メモリ
112 ハードディスクドライブ
114 リムーバブルストレージドライブ
118 リムーバブルストレージユニット
120 インタフェース
122 リムーバブルストレージユニット
124 通信インタフェース
130 I/Oインタフェース
204 モード解析
202 構造
206 励振
208 ステディ・ステート・ダイナミクス
210 ノード速度
212 BEM音響
214 レイリー法
216 ノイズ(出力)
302 任意の点での圧力
304 面
306 構造
308 音響圧力に関して対象となる点
310 面の法線
312 面上の点
402 音響境界
404 点
406 鏡映面
408 点の鏡像
410 距離
412 構造
422 音響境界上の点
424 音響境界上の点における法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調和励振に対する応答における構造の振動音響シミュレーションを行うコンピュータシステムにおいて実行される方法であって、
前記コンピュータシステムにインストールされるアプリケーションモジュールによって、構造の有限要素解析法(FEA)モデルを該構造の質量、減衰および剛性特性を表すよう定義するステップと、
前記アプリケーションモジュールによって、FEAモデルの対象とする1セットのノードにおける速度スペクトルの形式の1セットの定常動的応答(SSD)を、ある一定の範囲の周波数における1セットの調和励振に対する応答においてモード重合せ法を用いて、取得するステップと、
前記アプリケーションモジュールによって、ある所望の位置における前記音場応答を、境界条件としての前記速度スペクトルからのノード速度によって音響数値的プロシージャを用いて、計算するステップであって、前記1セットのノードは音場応答に直接的に影響を与え、これにより、ユーザが前記構造の設計を改善することを支援するステップと、
を備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、1セットの定常動的応答を取得する前記ステップは、さらに、前記アプリケーションモジュールによって、前記質量および前記剛性を用いて、1セットの固有振動周波数および対応する振動モードを得るよう、前記構造のモード解析を実行するステップを有する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記構造が非線形挙動を示す場合、前記モード解析は不連続モード解析で置き換えられる方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記非線形挙動は、予め応力が印加された条件を有している方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記1セットの固有振動周波数は、定常動的応答に大きな影響を与える最低モードを含んでいる方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、前記モード重合せ法は、減衰からの効果を含む前記1セットの振動モデルのすべてからの寄与を合計することによって達成される方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、ノード速度のそれぞれは振幅と位相角とを備えている方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記音響数値的プロシージャはヘルムホルツ方程式と境界要素法(BEM)とに基づいている方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記音響数値的プロシージャはレイリー法に基づいている方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、ある所望の位置における音場応答を計算する前記ステップは、1セットの異なる周波数で補間することなく行われる方法。
【請求項11】
方法に基づいて、調和励振に対する応答における構造の振動音響シミュレーションを行うコンピュータシステムを制御する命令を有するコンピュータ可読媒体であって、該方法が、
前記コンピュータシステムにインストールされるアプリケーションモジュールによって、構造の有限要素解析法(FEA)モデルを該構造の質量、減衰および剛性特性を表すよう定義するステップと、
前記アプリケーションモジュールによって、FEAモデルの対象とする1セットのノードにおける速度スペクトルの形式の1セットの定常動的応答(SSD)を、モード重合せ法を1セットの調和励振に対する応答において用いて、取得するステップと、
前記アプリケーションモジュールによって、ある所望の位置における音場応答を、境界条件としての前記速度スペクトルからのノード速度によって音響数値的プロシージャを用いて、計算するステップであって、前記1セットのノードは音場応答に直接的に影響を与えて、これにより、ユーザが前記構造の設計を改善することを支援するステップと、
を備えているコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
調和励振に対する応答における構造の振動音響シミュレーションを行うコンピュータシステムであって、
少なくとも1つのアプリケーションモジュールに関するコンピュータ可読コードを記憶しているメインメモリと、
前記メインメモリに連結される少なくとも1つのプロセッサであって、該少なくとも1つのプロセッサがメインメモリ内のコンピュータ可読コードを実行して、前記少なくとも1つのアプリケーションモジュールに、方法に基づいてオペレーションを実行させる少なくとも1つのプロセッサと、を備えるシステムであって、該方法が、
構造の有限要素解析法(FEA)モデルを該構造の質量、減衰および剛性特性を表すよう定義するステップと、
FEAモデルの対象とする1セットのノードにおける速度スペクトルの形式の1セットの定常動的応答(SSD)を、モード重合せ法を1セットの調和励振に対する応答において用いて、取得するステップと、
ある所望の位置における音場応答を、境界条件としての前記速度スペクトルからのノード速度によって音響数値的プロシージャを用いて、計算するステップであって、前記1セットのノードは音場応答に直接的に影響を与えて、これにより、ユーザが前記構造の設計を改善することを支援するステップと、
を備えているコンピュータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−258196(P2011−258196A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−118989(P2011−118989)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(509059893)リバーモア ソフトウェア テクノロジー コーポレーション (29)
【Fターム(参考)】