説明

構造体変状検知システム

【課題】多くの振動データに基づいて正確に、且つ安価に構造体の損傷状態を判定することができる構造体変状検知システムを提供する。
【解決手段】この構造体変状検知システム100は、車軸40により支持された車輪42と車軸41に伝達された振動を緩衝するバネ(緩衝部材)とを少なくとも備えた路線バス(車両)2と、車軸40の振動を検知する車軸振動センサ5と、検査対象となる橋梁(構造体)43を路線バス2が通過する際に車軸振動センサ5により検知した振動データを記憶するメモリ(記憶手段)30と、振動データを解析することにより路線バス2の損傷状態を判定する損傷判定装置34と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体変状検知システムに関し、例えば、中小橋梁に係る損傷の有無を、移動する車両から得られた振動データに基づいて検知する構造体変状検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国内に現存する約67万カ所にも及ぶ橋梁の約70%が1960年〜70年代に建設されたものであり、これらは過去約40〜50年に渡り社会基盤としての重要な役割を担ってきている。一方で、建設された多くの橋梁は、今後、設計上の耐用年数を一斉に迎えようとしており、これを放置する場合には、橋梁上を通行する重量物としての車両や自然の風水力などによって損壊する危険がある。このような危険を回避する方策として耐用年数に達した橋梁を撤去したり使用禁止とする以外に、「更新(架け替え)」や「補修・補強による延命」があげられる。「更新(架け替え)」に関しては経済的・時間的制約から、全ての老朽化橋梁を一斉に掛け替えることは困難である。また、「補修・補強により橋梁の延命」を図る場合、Bridge Management System(BMS)を利用した維持管理の枠組みの中で、あらゆる合理性を鑑みてLife Cycle Cost(LCC)が最小となるよう予防保全的対処法を選択することが求められている。しかし、その対処法を決定するにあたって重要な「調査・点検」は、近年の材料劣化機構の解明、センシング、構造解析、情報処理、通信といった様々な技術の発達をもってしても、手間と費用がかかることに変わりがなく、また、膨大な量の情報を集積して診断した結果が客観的に十分に信頼のおける結論であるのか否かを判断するのが難しい場合もある。いずれにせよ、67万もの橋梁が設計時の耐用年数を迎える前に、その劣化の進行状況(潜伏期、進展期、加速期、劣化期)を特定し、対処を決定することが必要で、特に加速期から劣化期に入っているかどうか日常的に監視し、見逃すことなく優先的に対処することが最低限の安全性を確保するためには重要である。
従来技術として、非特許文献1には、中小鉄道を対象として、高頻度な計測が可能な軌道モニタリングシステムについて報告されている。この論文は、営業車両内に加速度計、GPSで構成される簡易な計測システムを設置し、走行中の車両振動から軌道の状態を常時監視するシステムを構築している。また非特許文献2は、多機能検査車走行による道路構造物の健全性評価の研究成果についての論文であり、橋梁上を通常走行しながら各種応答値を計測し、健全性を評価する検査車両の要求性能を明らかにすると共に、評価技術システムの可能性を提示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】石井博典、藤野陽三、水野裕介、貝戸清之:営業車両の走行時の車両振動を用いた軌道モニタリングシステム(TIMS)の開発、土木学会論文集 F Vol.64 No.1、44−61、2008.2.
【非特許文献2】杉浦邦征、大島義信、山口隆司、小林義和、岡野晴樹、陵城成樹:多機能検査車走行による道路構造物の健全性評価、道路施策の質の向上に資する技術研究開発成果報告レポート、No.17−8、新道路技術会議、2008.7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に報告されている従来技術は、車両の自由振動試験から得られた固有振動数、減衰定数を反映した車両力学モデルから求めた周波数伝達関数を用いて逆解析を行い、走行車両の上下方向加速度から軌道の高低狂いを逆算するものであり、計算が複雑で、且つ解析結果のリアルタイム性が低いといった問題がある。
また、非特許文献2に報告されている従来技術は、加振しながら走行する車両の応答値から、橋梁の振動成分を抽出するものであり、車両に多機能検査のための設備を備えなければならず、検査費用が嵩むといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、検査対象となる構造体を通過したときの車両の振動データと構造体の振動データとが相似であることを確認した後で、車両に取り付けた振動センサの振動データに基づいて構造体の損傷状態を判定することにより、多くの振動データに基づいて正確に、且つ安価に構造体の損傷状態を判定することができる構造体変状検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、車軸により支持された車輪、及び該車軸に伝達された振動を緩衝する緩衝部材を少なくとも備えた車両と、前記車軸の振動を検知する車軸振動センサと、検査対象となる構造体を前記車両が通過する際に前記車軸振動センサにより検知した振動データを記憶する記憶手段と、前記振動データを解析することにより前記構造体の損傷状態を判定する損傷判定装置と、を備え、前記損傷判定装置は、前記記憶手段に記憶された振動データと前記構造体が正常であるときの正常振動データとを比較するデータ比較手段と、該データ比較手段により比較されたデータに基づいて前記構造体に損傷が発生したか否かを判定する損傷判定手段と、を備え、前記損傷判定手段は、前記データ比較手段により比較されたデータの差異が所定値以上の場合に、前記構造体に損傷が発生したと判定することを特徴とする。
本発明に係る構造体変状検知システムは、車両と、この車両の車軸に取り付けた車軸振動センサと、車軸振動センサから得られた振動データを記憶する記憶手段と、を備えている。車両が検査対象の構造体を通過する際に発生した振動データを記憶手段に記憶する。記憶された振動データは、センタに設置された損傷判定装置に入力され、予め取得してある検査対象の構造体に係る正常時の正常振動データと比較する。データ比較手段は、正常振動データと振動データとの差異を比較して、その値が所定の値を超えた場合に、構造体に損傷が発生したと判断する。尚、所定の値は、シミュレーション等により予め算出しておくことができる。また、振動データは、多くのデータを取得するほどデータの正確性が増すので、車両として毎日同じルートを走行する路線バスを利用することが考えられる。これにより、多くの振動データに基づいて正確に、且つ安価な構成で構造体の損傷状態を判定することができる。
【0006】
請求項2は、前記車両が通過したときに前記構造体に発生する振動を検知する構造体振動センサと、前記車軸振動センサ及び前記構造体振動センサから検知された夫々の振動データを同期させて比較した結果が相似であるか否かを判定する相似判定手段と、を備え、前記相似判定手段により前記各振動データが相似であると判定された場合は、前記車軸振動センサから得られる振動データを前記構造体から発生する振動データと見做すことを特徴とする。
車両に備えた車軸振動センサの振動データに基づいて、通過した構造体の損傷状態を判定するためには、予め車軸振動データと構造体の振動データが相似(等価)であることを確認しておく必要がある。そこで本発明では、測定に先立って、検査対象の構造体の桁中央に構造体振動センサを取り付け、その状態で車軸振動センサを取り付けた車両を当該構造体に通過させ、そのときの車軸振動センサと構造体振動センサの振動データを取得する。そして、取得した夫々の振動データを同期させて比較した結果が相似であるか否かを判定して、相似であれば車軸振動センサの配置位置を固定すると共に、構造体に取り付けた構造体振動センサを撤去する。ここで、相似でない場合は、車軸振動センサの位置を変更して相似になるような場所を見つける。これにより、車両に取り付けた車軸振動センサから取得した振動データを解析するだけで、検査対象の構造体に係る損傷の有無を判定することができる。
【0007】
請求項3は、前記データ比較手段により比較されたデータの差異の所定値は、前記構造体に係る累積損傷確率が劣化期初期へ進展した際の振動データの値とすることを特徴とする。
累積損傷確率と経年変化の関係は、潜伏期、進展期、加速期、及び劣化期に分類することができる。特に、加速期後期から劣化期初期は構造的損傷に起因する安全性の低下が予想される。そこで本発明では、累積損傷確率が劣化期初期へ進展した際の損傷を仮想して、シミュレーションによりそのときの振動データの値を定める。そして定めた値を元に比較された振動データの差異の上限値を定めて、その値を超過したときは構造体に何らかの損傷が発生したものと見做す。これにより、構造体の損傷の有無を定量的に捉えて判定することができる。
【0008】
請求項4は、前記構造体に該構造体を特定する認識番号を示す認識信号を発信する発信器を備え、前記車両に前記発信器から発信された認識信号を受信する受信器を備え、前記車両は、前記認識信号を前記受信器により受信すると、前記認識番号と前記車軸振動センサにより検知した振動データとを対応付けて前記記憶手段に記憶することを特徴とする。
例えば、車両が通過するルートにある複数の構造体を検査対象とする場合、車両の運転手は、その構造体を通過するたびに記憶装置を動作させる必要がある。しかし、運転しながらそのような操作を行なうことは安全上好ましくはない。また、記憶手段に記憶された振動データがどの構造体であるかを判断できるように対応付ける必要がある。そこで本発明では、車両に受信器を備え、構造体には、その構造体を特定する認識番号を発信する発信器を備え、構造体を通過する際に、その構造体の認識番号と車軸振動センサからの振動データを対応付けて記憶する。これにより、振動データがどの構造体からのデータであるかを即座に認識することができると共に、記憶動作を自動的に行なうので、運転の安全性を高めることができる。
【0009】
請求項5は、前記車両に通信手段を備え、該車両が前記構造体を通過したときの前記車軸振動センサにより検知した振動データ及び該構造体の認識信号を前記通信手段により送信することを特徴とする。
例えば、車両が路線バスである場合、一日の運行が終了すると一旦バスセンタに戻ってくる。そして記憶手段に記憶した振動データをバスセンタに設置したセンタコンピュータのメモリに記憶する。しかし、この操作を毎日行なうとなると煩わしいものである。また、車両に記憶手段を備えなければならない。そこで本発明では、車両に通信手段(データを送信する送信機)を備え、車両が構造体を通過したときの車軸振動センサにより検知した振動データと構造体の認識信号を通信手段によりバスセンタに送信し、バスセンタでは受信したデータを記憶する。これにより、振動データをバスセンタのセンタコンピュータに記憶する操作を省略することができ、操作の忘れや操作ミスを防止することができる。
【0010】
請求項6は、前記車両に前記記憶手段を動作させる記憶開始ボタンを備えたことを特徴とする。
記憶手段を連続して動作させておけば、いつ記憶動作を開始するかを気にする必要はない。しかし、記憶手段の記憶容量が膨大に必要となり、且つ無駄なデータまで記憶しなければならず、その中から必要なデータだけを抽出しなければならない。そこで本発明では、車両に記憶手段を動作させる記憶開始ボタンを備える。これにより、安価な構成で必要なデータだけを記憶して、記憶手段の記憶容量を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記憶された振動データは、センタに設置された損傷判定装置に入力され、予め取得してある検査対象の構造体に係る正常時の正常振動データと比較される。データ比較手段は、正常振動データと振動データの差異を比較して、その値が所定の値を超えた場合に、構造体に損傷が発生したと判断するので、多くの振動データに基づいて正確に、且つ安価な構成で構造体の損傷状態を判定することができる。
また、測定に先立って、検査対象の構造体の桁中央に構造体振動センサを取り付け、取得した夫々の振動データを同期させて比較した結果が相似であるか否かを判定して、相似であれば車軸振動センサの配置位置を固定すると共に、構造体に取り付けた構造体振動センサを撤去するので、車両に取り付けた車軸振動センサから取得した振動データを解析するだけで、検査対象の構造体に係る損傷の有無を判定することができる。
また、累積損傷確率が劣化期初期へ進展した際の損傷を仮想して、シミュレーションによりそのときの振動データの値を定める。そして定めた値を元に比較された振動データの差異の上限値を定めて、その値を超過したときは構造体に何らかの損傷が発生したものと見做すので、構造体の損傷の有無を定量的に捉えて判定することができる。
また、車両に受信器を備え、構造体には認識信号を発信する発信器を備え、構造体を通過する際に、その構造体の認識信号と車軸振動センサからの振動データを対応付けて記憶するので、振動データがどの構造体からのデータであるかを即座に認識することができると共に、記憶動作を自動的に行なうので、運転の安全性を高めることができる。
また、車両に記憶手段を動作させる記憶開始ボタンを備えるので、安価な構成で必要なデータだけを記憶して、記憶手段の記憶容量を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】累積損傷確率と経年変化の関係を示す図である。
【図2】橋梁と車両相互作用系単純バネモデルを示す図である。
【図3】車両系への入力とバネ上、バネ下変形のバネモデルを示す図である。
【図4】バネ上−バネ下−橋梁のサブストラクチャー分離の概念図である。
【図5】センサ配置位置を示す図である。
【図6】(a)(b)は桁中央・路線バスのバネ上・バネ下加速度フーリエスペクトルを示す図である。
【図7】(a)は30km/h、(b)は、40km/hで走行した際の桁中央および路線バスの後輪バネ下応答加速度の時刻歴波形の一例を示す図である。
【図8】(a)は30km/h、(b)は40km/h走行時の桁中央付近通過3回の路線バス後輪のバネ下加速度応答時刻歴を重ねて示す図である。
【図9】(a)は30km/h、(b)は40km/h走行時のバネ下計測誤差確率分布を示す図である。
【図10】(a)は走行振動シミュレーションの概要を示す図であり、(b)は対象橋梁主桁断面とモデル図であり、(c)は解析データの諸元を表す図である。
【図11】(a)は路面凹凸パラメータを示す図、(b)は路面凹凸パワースペクトル密度関数を示す図である。
【図12】4自由度系バス解析モデルを表す図である。
【図13】(a)〜(f)は対象橋梁の固有値解析結果を表す図である。
【図14】(a)〜(d)は路線バスの固有値解析結果を表す図である。
【図15】主桁仮想損傷箇所を表す図である。
【図16】(a)はシミュレーションパターンを表す図、(b)は30km/h走行時の桁中央下フランジひずみの実測とシミュレーションの比較を示す図である。
【図17】(a)は30km/h、(b)は40km/h走行時のバネ下加速度応答の比較を示す図、(c)は損傷の有無の違いについて、最大加速度および最大差分加速度を示す図である。
【図18】(a)は、本発明の構造体変状検知システムを構成する損傷判定装置の構成を示すブロック図、(b)は、本発明の構造体変状検知システムを構成する路線バスが検査対象となる橋梁を通過する際に車軸振動センサにより振動データを収集している様子を模式的に示す図、(c)は、路線バスが複数の検査対象橋梁を通過する様子を模式的に示す図である。
【図19】本発明の相似性をチェックする動作を説明するフローチャートである。
【図20】本発明の一実施形態に係る構造体変状検知システムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
BMS(Bridge Management System)による定期点検やSHM(Structural Health Monitoring)常時監視システムの枠組みに対して、本発明では、図1の累積損傷確率と経年変化の関係を示す図から、領域1に示す加速期後期から劣化期初期へ進展する際の比較的変化の大きいサインを確実に抽出することに注力した構造体変状検知システムである。具体的には、大型重車両が橋梁を通行した際の車両の車軸(バネ下)振動情報から橋梁振動性状を抽出する手法である。また、老朽化した構造物において、加速期後期から劣化期初期へ進展した構造上の変状は、大型重車両通行時の橋梁振動に何かしらの変化をもたらすと予想される。本発明では、その橋梁の変状に関わる情報をバネ下の振動情報から抽出する方法とその実現性、および構造変状検知に関わる問題とその解決方法について、実橋梁と路線バスを使った実験および数値解析シミュレーションを用いて検討した。
【0014】
図2は橋梁と車両相互作用系単純バネモデルを示す図である。車両2が橋梁3を通過する場合、その力学モデルは式(1)で示す橋梁系運動方程式、式(2)で示す車両系運動方程式の動的相互作用問題として表すことができる。



橋梁3と車両2の相互作用について、橋梁3側へは車両2のバネ下反力RSを荷重ベクトルとして入力し、車両側へは橋梁のたわみ(δ(t)Εum)と路面の凹凸(λ(t))を強制変位ベクトル



として入力する。通過中の時刻t〜t+Δtでの橋梁−車両系を、単純にモデル化すると、図2に示すような3質点相互作用系バネマスモデルで表現できると考えられる。
この系における振動の発生源は、路面凹凸λ(t)と橋梁たわみδ(t)の入力により生じる車両側振動および、その反力による橋梁への加振である。ここで、ある期間中の計測における橋梁系と車両系を表す各種物理定数および路面の凹凸λが一定である場合を想定する。当然この相互作用系で何度計測を行っても毎回同じ結果が得られる。
【0015】
次に、車両系を表す各種物理定数および路面の凹凸λが一定で何らかの損傷により橋梁の剛性Kmが変状した場合を想定する。この時、計測における任意の時刻の車両系からの反力による橋梁のたわみδ(t)は変化する。そのδ(t)変化に伴って、車両系の各節点の応答



も変化する。さらに、その車両系の振動の変化により、車両系反力すなわち加振力RSが変化するため橋梁のたわみδ(t+Δt)が変化する。そういった連鎖によって、橋梁の剛性Kmの変化による影響が橋梁系、車両系双方の計測結果に現れる。
以上より、劣化等による橋梁の構造変状は車両系の節点応答



の変化として現れるため、橋梁の変状を車両側で検知することは原理的に可能であると考えられる。本発明のシステムにおいては、δ(t)が大きいほど検知が容易になるため、中小型車よりも大型車両が適しており、実測データ等を参考にすると大型車両の場合、MA>MB、Ks<Ktであることから図3に示すようにバネ上(節点A)よりバネ下(節点B)の方が橋梁の変化を検知しやすいと考えられるため、バネ下振動に着目することとした。また、より簡易なシステムを実現する必要があるため、絶対加速度計測とした。
【0016】
次に、路線バスのバネ下振動データを用いた橋梁の振動性状抽出について説明する。路線バスのバネ下振動から橋梁の振動を検知するにあたり、その相関関係を明らかにする必要がある。ここで、図4に示すようなバネ上−バネ下−橋梁によるサブストラクチャー分離を考える。まず路線バスのバネ上−バネ下系について、橋梁の変形δ(t)を含む強制変位が路線バスのバネ下へ入力された時、運動方程式は差分法近似が成り立つ微少時間内において、



式(3)に示すように、系において不変である時刻、剛性、減衰、質量といった物理量に依存する比例係数Pおよびテイラー展開等を用いて展開された時刻t以前の状態定数(既値)を使って近似することができる。すなわち、入力ベクトルに対し、系への応答は系に依存する各定数に依存して比例配分されることを表す。
【0017】
次に、バネ上から伝わる力に対するバネ下−橋梁系の振動を考える。バネ上からこの系への入力に対し、先ほどと同様に橋梁とバネ下の応答も系の各物理定数に依存して比例配分される。したがって、時々刻々においてAbを橋梁の応答ベクトル、ASを路線バスのバネ下応答ベクトルとすれば、



におけるマトリックスが存在すると予想される。すなわち、差分法近似が成り立つ微少時間内において、式(4)が成り立つ場合、橋梁の振動性状は路線バスのバネ下振動に比例し、橋梁側変状の影響によるAbの変化は、路線バスのバネ下振動変化ASに比例して現れることを表している。
本発明では、上記仮説に関して、実橋梁と路線バスを用いた検証実験を行った。実験対象は劣化の要因が相互に複雑に関係するRC構造物とし、一般的な路線バスの全長が約10m程度であることから支間20m程度の短スパン単純梁構造物とした。対象橋梁は、1径間約22m、4主桁のRC構造で5.15mおきに幅0.21mの横桁が5本存在する橋梁とした。この橋梁は供用後44年以上が経過しているが、構造性能に影響するような大きな損傷は生じていない健全橋梁である。実橋梁振動と路線バスのバネ下振動の相似性を確認するため、路線バス後輪が橋梁を通過した際の橋梁鉛直振動と路線バス後輪のバネ下鉛直振動の同時計測を実施した。
【0018】
図5は路線バスに取り付けた加速度センサ(振動センサ)の設置場所を示す図である。加速度センサ4は前輪と後輪のほぼ中間位置でバネ上に設置し、加速度センサ5は後輪の車軸のバネ下に設置する。また、路線バスの走行速度については、運転士にヒヤリングを行った結果、一般道を安全に走行する際の速度については、約30km/h〜40km/hであるということから、その速度でそれぞれ3回実験を行った。速度調整については、速度メーターを目視で確認した。計測を実施した時間帯における、橋梁界隈の天気は曇り、気温は22.2〜24.3℃、湿度79〜89%と安定しており、構造物の力学的特性に大きく影響しない環境であったと考えられる。また、センサを設置した路線バスの車軸の温度は、走行終了直後の計測では43℃であった。よって、走行中の車軸に設置した加速度センサに対する車軸温度の影響も無視できると考えられる。計測開始時刻を記録後、中断なく連続計測し、実験開始直後、橋梁に存在する段差通過時における振動データを用いて同期をとり、橋梁側と路線バス側のデータの同期をとった。
【0019】
図6は、桁中央とバネ上、バネ下加速度フーリエスペクトルを示す図である。各スペクトルは約4.5時間の連続計測データを16.384秒1000個に分割し、フーリエ変換後、平均化によりノイズ除去を行った。対象とした橋梁は、図6(a)に示すように約4.8Hzの卓越固有振動を有していることが分かった。また、使用した路線バスについては、図6(b)に示すようにバネ上1.8Hz(符号7)、後輪バネ下10.0Hz(符号6)付近の卓越固有振動数があることが分かった。一般に大型車両のバネ上卓越振動数が、12Hz〜15Hz、バネ下卓越振動数2.5Hz〜3.5Hzであるのに対し、今回使用したバスの卓越振動数は、バネ上、後輪バネ下とも比較的逓振動数で卓越した。
【0020】
図7(a)は30km/h、図7(b)は、40km/hで走行した際の桁中央および路線バスの後輪バネ下応答加速度の時刻歴波形の一例を示す図である。尚、すべての実験結果に対して、後輪バネ下振動AS、橋梁振動AbにおけるΣAb−P−1ASPが十分小さくなるように相似マトリックス式(5)を用いた。



図7(a)、(b)に路線バスの後輪が桁中央を通過した時刻として“桁中央通過時”として示した。ちょうどその時刻において、波形8と9がおおよそ相似的な振動が現れることが確認できた。その他各2回の計測においても概ね同様な結果を得ることができた。また、図7(a)、(b)で波形が異なっており、走行速度の違いが計測結果に影響していることが分かる。実際のモニタリングシステム運用では、走行速度への依存性を考慮した測定方法、および走行速度の違いに対応した計測結果を管理するデータ分類システムの構築が重要であるといえる。一方で走行速度が異なる場合においても、同じ比例マトリックスを用いて路線バス後輪のバネ下振動から橋梁の振動性状を抽出できることが確認できた。
次に、桁中央通過時間が約0.3秒と非常に短いため、20Hz以下の低振動数成分に対してフーリエスペクトルによる卓越振動数の確認は困難であることから、桁中央および路線バスの後輪バネ下振動に含まれる振動数成分の分布について連続ウェーブレットを使って確認を行った(図示を省略)。その結果、路線バスの後輪が桁中央を通過する時刻において、30km/h、40km/hの実験結果の両方で、桁中央、路線バス後輪バネ下振動のスカログラムは同様な形状を示した。
以上の実験結果から、加速度時刻歴波形においても、ウェーブレットによる卓越振動数の時間的分布に関しても、橋梁の鉛直振動加速度と通過する路線バス後輪のバネ下振動加速度との間に相似性を確認することができた。差分法近似がある程度担保できるような短い時間内においては、本発明で示した力学的仮定に基づき、橋梁の鉛直振動加速度と通過する路線バス後輪のバネ下振動加速度との間の相似的相関関係を用い、路線バスの後輪バネ下振動計測データから、橋梁の振動を推定し、構造モニタリングを行うことが十分可能であることを示すことができた。
【0021】
次に、モニタリングシステム運用に際し、計測時に生じるノイズを含む誤差について説明する。具体的には、走行速度30km/hおよび40km/hの実験で計測した3回の路線バスの後輪バネ下振動計測結果について平均を求め、その平均値と各計測結果の差分(誤差)の大きさとその性質について確認した。比較においては、桁中央付近通過時の計測結果を対象とした。図8(a)、図8(b)に30km/h、40km/h走行時の桁中央付近通過3回の路線バス後輪のバネ下加速度応答時刻歴を重ねて示した。毎回概ね同じような計測結果を示している。3回の加速度応答結果の平均値10と各計測データの差11について計算すると、30km/h走行時最大加速度0.54m/sec2に対しその差分最大加速度は0.2m/sec2(37%)、40km/h走行時最大加速度0.69m/sec2に対し差分最大加速度は0.19m/sec2(28%)であった。すなわち、実験の再現性はある程度あるものの、毎回の計測において、最大加速度に対し、局所的に30%〜40%程度の測定の誤差が生じることがわかった。
【0022】
次に、計測誤差の性質について分析する。図9(a)、図9(b)に30km/h、40km/h走行時の差分加速度について、そのばらつきを確率分布に示した。横軸は差分加速度の大きさ、縦軸にはその誤差発生確率を示す。計測時に生じる差分加速度すなわち誤差12は、平均値に対しておおよそ正規分布(符号13)を示している。したがって、複数回計測の平均化により、計測時の誤差については相殺されると考えられる。
図10(a)は走行振動シミュレーションの概要を示す図であり、図10(b)は対象橋梁主桁断面とモデル図であり、図10(c)は解析データの諸元を表す図である。橋梁の構造変状が路線バスのバネ下振動へ及ぼす影響を検討する場合、健全時と損傷後の振動を比較する必要がある。しかし、実橋梁による損傷後の計測は困難であることから、本発明ではサブストラクチャー法による走行振動シミュレーションを用いて検討を実施した。シミュレーションによる検討では、健全時の解析モデルおよび、劣化期初期程度の損傷を仮想した解析モデルを作成し、損傷有無の違いによる解析モデル上の路線バス後輪のバネ下応答加速度の変化について考察した。
【0023】
次に、シミュレーションによる検討方法について説明する。橋梁の構造減衰は、1次−1、1次−2固有モードにおける2%レーリー減衰とした。



桁上面には、式(6)に示すパワースペクトル密度関数で定義された路面凹凸をモンテカルロシミュレーションにより生成し再現させた。路面凹凸パラメータは図11(a)に示すアスファルト舗装の平均値を用いた。生成した路面凹凸のパワースペクトル密度関数を図11(b)に示す。
路線バスのモデルは、事前に得たバネ上卓越振動数(1.8Hz)、バネ下卓越振動数(10.0Hz付近)および、車検証に記載されたデータを基に、バネ上、バネ下卓越振動数が概ね合致する4自由度系バネマスモデルを作成した。なお、実験において、橋梁の鉛直振動と車軸中央のバネ下鉛直振動を比較したことから、本発明では簡易な2次元の車両モデルとした。路線バスの解析モデルを図12に示す。
【0024】
走行シミュレーション実施に先立って、対象構造物および路線バスのモデルについて固有値解析を実施した。事前の橋梁固有振動数測定結果(4.8Hz)や支承における実情を鑑み、可動支承部において橋軸方向に200kN/mmの水平支持バネを設置した橋梁モデルの1次−1モード(4.8Hz)から3次−2モード(31.8Hz)までの固有振動数とモード形状を図13に示す。橋梁の1次−1モードにおける鉛直方向の有効質量比は77%であった。また、始点側境界条件をFixにした場合の1次−1固有振動数は5.4Hz、完全Moveの場合は3.5Hzであったことからシミュレーションを行う際に、橋梁躯体のモデルを忠実に再現すると同時に、設計条件にかかわらず、支承条件を含む境界条件の設定についても実情を考慮してモデル化することが重要であるといえる。
【0025】
図14は、路線バスモデルの1次(1.8Hz)から4次(11.8Hz)までの固有振動数とモード形状を示す図である。路線バスのバネ上鉛直モードおよび、前後輪のバネ下モードは、概ね実験結果(バネ上1.8Hz、バネ下10Hz前後)と一致した。次に、既存の損傷事例を参考に、RC橋梁の加速期後期から劣化期初期の仮想損傷については、4主桁のうち路線バスが通過する片側車線の直下にある1本の主桁を対象に主桁下フランジ領域全体にわたり剥離等が生じた状態を想定した。仮想損傷箇所20について図15に示す。さらに固有値解析より得られた鉛直方向の有効質量比によると、1次−1振動モードの有効質量比が77%と支配的であったことから、その振動モード形状の腹に当たる桁中央付近において耐震設計等で用いられる塑性ヒンジ領域(1D=梁断面高さ)の概念を応用し、塑性ヒンジ領域の剛性を曲げひび割れ等による損傷として1/100低下させた。なお、仮想損傷における橋梁の1次−1モードの固有振動数は4.5Hzであった。走行速度については実験に合わせて、30km/hおよび40km/hとした。
以上の条件で、健全時と損傷後のモデルについて路線バスが橋梁通過した際の路線バス後輪のバネ下鉛直振動加速度を比較した。実施したシミュレーションパターンを図16(a)に示す。
【0026】
次に、シミュレーション結果と考察について説明する。まず、30km/hで路線バスが走行した時の桁中央のひずみについて、実測とシミュレーションの結果を比較し解析モデルの妥当性を確認した。なお、ひずみの実測についてはロングゲージ光ファイバーセンサを用いた。比較結果を図16(b)に示す。シミュレーション結果23の方が実測24より若干大きいひずみを示した。ただし、最大ひずみ発生のタイミングやひずみ増減の傾向から、損傷有無の比較を検討するにあたっては影響のない程度であると判断した。
図17(a)、図17(b)は、走行シミュレーションを用いた橋梁損傷有無の違いによる路線バス後輪のバネ下振動加速度時刻歴結果を示す図である。損傷の有無の違いについて、最大加速度および最大差分加速度を図17(c)に示す。走行速度30km/hにおいては、損傷の有無によって最大加速度は約14%程度、最大差分加速度は約13%の差を確認できた。40km/hでは最大加速度は約1%程度、最大差分加速度は約6%の差を確認できた。実測において、これらの差異を検知することができれば、橋梁の構造変状を抽出することが可能である。
また、今回の実験では、シミュレーション結果から得られた損傷の有無の違いによる路線バスのバネ下振動差分加速度の変化(6%〜13%)に対して、測定時の誤差(30%〜40%程度)の方が大きい点を考慮する必要がある。ただし、損傷による測定加速度の変化は単調変化という形で現れる一方で、実験結果の考察より、一定条件下での計測誤差は正規分布に従うため、複数以上の基礎的な検討を踏まえた結果、路線バスによる常時複数回のモニタリングを想定する場合、路線バス後輪バネ下の加速度測定結果から抽出した加速度応答の単調増加の傾向を把握ですれば、橋梁の損傷・劣化による変化を検知できる可能性は十分にあるといえる。
【0027】
以上の通り、本発明ではSHMに関する各種問題を解決する手段の一つとして、公共交通機関である路線バスを利用した新たなモニタリング手法の提案と技術的課題について検討した。仮説・実証実験・シミュレーションによる確認とその結果・考察から得た主たる結論を以下に示す。
1)橋梁とバネ下の同時加速度振動測定結果から、一定の条件下で相似マトリックスを用いれば、路線バスのバネ下振動からその直下で振動する橋梁の振動を相似の形で推定できる可能性を示すことができた。
2)走行シミュレーションを実施した結果、桁の損傷の有無により、路線バスのバネ下の振動成分において、ある一定の変化が見られることが確認できた。また、長期・複数計測を実施するなどにより、測定誤差除去処理が必要であることも確認した。
3)短スパン橋梁において本発明で想定されるような損傷が生じた場合、路線バスのバネ下振動からその変状を検知することは十分可能であり、「加速期後期から劣化期初期」へ進展する際の比較的変化の大きいサインを抽出するモニタリングシステムは実現できる。
【0028】
図18(a)は、本発明の構造体変状検知システムを構成する損傷判定装置の構成を示すブロック図である。図18(b)は、本発明の構造体変状検知システムを構成する路線バス(車両)が検査対象となる橋梁(構造体)を通過する際に車軸振動センサにより振動データを収集している様子を模式的に示す図である。また、図18(c)は、路線バスが複数の検査対象橋梁を通過する様子を模式的に示す図である。
この構造体変状検知システム100は、車軸40により支持された車輪42と車軸41に伝達された振動を緩衝するバネ(緩衝部材)とを少なくとも備えた路線バス(車両)2と、車軸40の振動を検知する車軸振動センサ5と、検査対象となる橋梁(構造体)43を路線バス2が通過する際に車軸振動センサ5により検知した振動データを記憶するメモリ(記憶手段)30と、振動データを解析することにより路線バス2の損傷状態を判定する損傷判定装置34と、を備えて構成されている。尚、損傷判定装置34は、メモリ30に記憶された振動データを記憶するセンサデータメモリ35と、橋梁43が正常であるときの正常振動データを記憶する正常データメモリ36と、センサデータメモリ35に記憶された振動データと正常データメモリ36に記憶された正常振動データとを比較するデータ比較手段37と、データ比較手段37により比較されたデータに基づいて橋梁43に損傷が発生したか否かを判定する損傷判定手段38と、を備え、損傷判定手段38は、データ比較手段37により比較されたデータの差異が所定値以上の場合に、橋梁43に損傷が発生したと判定する。
【0029】
本発明は、路線バス2と、この路線バス2の車軸40に取り付けた車軸振動センサ5と、車軸振動センサ5から得られた振動データを記憶するメモリ30と、を備えている。そして、路線バス2が検査対象の橋梁43を通過する際に発生した振動データをメモリ30に記憶する。記憶された振動データは、バスセンタ50に設置された損傷判定装置34に入力され、予め取得してある検査対象の橋梁43に係る正常時の正常振動データと比較する。データ比較手段37は、正常振動データと振動データの差異を計算して、その値が所定の値を超えた場合に、橋梁43に損傷が発生したと判断する。尚、所定の値は、シミュレーション等により予め算出しておくことができる。また、振動データは、多くのデータを取得するほどデータの正確性が増すので、車両として毎日同じルートを走行する路線バスを利用することが考えられる。これにより、多くの振動データに基づいて正確に、且つ安価な構成で橋梁43の損傷状態を判定することができる。
【0030】
また、図18(b)に示すように、路線バス2に橋梁43から発信された認識信号を受信する受信器41を備え、橋梁43を特定する認識番号を示す認識信号を発信する発信器39を備え、路線バス2は、認識信号を受信器41により受信すると、認識番号と車軸振動センサ5により検知した振動データとを対応付けてメモリ30に記憶する。例えば、図18(c)に示すように、路線バス2が通過するルートにある橋梁A、Cを検査対象とする場合、路線バス2の運転手は、その橋梁A、Cを通過するたびにメモリ30を動作させる必要がある。しかし、運転しながらそのような操作を行なうことは安全上好ましくはない。また、メモリ30に記憶された振動データがどの橋梁であるかを判断できるように対応付ける必要がある。そこで本実施形態では、路線バス2に受信器41を備え、橋梁A、Cには認識信号を発信する発信器39を備え、橋梁A、Cを通過する際に、その橋梁A、Cの認識信号と車軸振動センサ5からの振動データを対応付けて記憶する。これにより、振動データがどの橋梁からのデータであるかを即座に認識することができると共に、記憶動作を自動的に行なうので、運転の安全性を高めることができる。尚、図18(c)では、橋梁Bは検査対象でないので発信器39を備えておかない。
【0031】
図19は本発明の相似性をチェックする動作を説明するフローチャートである。まず路線バス2の車軸40に車軸振動センサ5と橋梁43の桁中央Pに橋梁振動センサ45を設置する(S10)。路線バス2を検査対象とする橋梁43に通過させる(S11)。このとき、異なる速度で通過した際のデータを取得するようにする。路線バス2が橋梁43を通過した際の車軸振動センサ5と橋梁振動センサ45のデータをメモリ30に記憶する(S12)。データの信頼性を高めるために、この動作を所定回数繰り返す(S13)。データ取得が終了すると、メモリ30に記憶されているデータをPC等のメモリに一旦記憶させ、車軸振動センサ5と橋梁振動センサ45のデータを同期させて比較する(S14)。そして、同期した振動データを表示装置に表示させて波形が相似であるか否かを目視により判断する(S15)。尚、相似であるか否かの判断は、目視のほかに各時間軸ごとに波形のレベルを比較する方法でも構わない。ステップS15で相似でなければ(S15でNO)、車軸振動センサ5の位置を変更して(S18)ステップS11から繰り返す。ステップS15で相似であれば(S15でYES)、車軸振動センサ5を現在の位置に固定する(S16)。そして、橋梁振動センサ45を橋梁43から撤去する(S17)。
【0032】
路線バス2に備えた車軸振動センサ5の振動データに基づいて、通過した橋梁43の損傷状態を判定するためには、予め車軸振動データと橋梁43の振動データが相似(等価)であることを確認しておく必要がある。そこで本実施形態では、測定に先立って、検査対象の橋梁43の桁中央に構造体振動センサ45を取り付け、その状態で車軸振動センサ5を取り付けた路線バス2を当該橋梁43に通過させ、そのときの車軸振動センサ5と構造体振動センサ45の振動データを取得する。そして、取得した夫々の振動データを同期させて比較した結果が相似であるか否かを判定して、相似であれば車軸振動センサ5の配置位置を固定すると共に、橋梁43に取り付けた構造体振動センサ45を撤去する。ここで、相似でない場合は、車軸振動センサ5の位置を変更して相似になるような場所を見つける。これにより、路線バス2に取り付けた車軸振動センサ5から取得した振動データを解析するだけで、検査対象の橋梁43に係る損傷の有無を判定することができる。
【0033】
図20は本発明の一実施形態に係る構造体変状検知システムの動作を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、路線バス側とバスセンタ側に分けて説明する。尚、路線バス2には、図18(a)で説明したように、メモリ30と車軸振動センサ5が備えられ、バスセンタ50には、損傷判定装置34が備えられている。バスセンタ側では、予め既存のシステムにより検査対象とする橋梁43に損傷がないことを確認して(S24)、橋梁43に路線バス2を通過させる(S25)。それにより橋梁43が振動してその振動を車軸振動センサ5が検知して振動データをメモリ30に記憶する。この振動データは正常振動データとして損傷判定装置34の正常データメモリ36に記憶しておく(S26)。
【0034】
一方、路線バス側では、路線バス2が検査対象である橋梁43を通過すると(S20)、橋梁43が振動してその振動を車軸振動センサ5が検知して振動データをメモリ30に記憶する(S21)。路線バス2はこの動作を運行が終了するまで繰り返す(S22)。一日の運行が終了すると(S22でYES)、路線バス2はメモリ30に記憶した振動データを解析するためにバスセンタ50に移動する(S23)。バスセンタ側では、路線バス2の車軸振動データをケーブル31を介してセンサデータメモリ35に記憶する(S27)。そして、センサデータメモリ35に記憶された車軸振動データと正常データメモリ36に記憶された正常振動データとをデータ比較手段37により比較する(S28)。データ比較手段37では、車軸振動データと正常振動データの差異を計算して損傷判定手段38に入力する。損傷判定手段38は、差異の値が所定の値以上であるか否かを判定する(S29)。差異の値が所定の値以上の場合は(S29でYES)、検査対象の橋梁43に損傷が発生した可能性があるので、その旨を表示して(S30)、実際に橋梁43を目視検査する(S31)。一方、ステップS29で差異の値が所定の値以上でない場合は(S29でNO)、橋梁43が正常である旨を表示する(S32)。
累積損傷確率と経年変化の関係は、図1に示すとおり、潜伏期、進展期、加速期、及び劣化期に分類することができる。特に、加速期後期から劣化期初期(領域1)は構造的損傷に起因する安全性の低下が予想される。そこで本実施形態では、累積損傷確率が劣化期初期へ進展した際の損傷を仮想して、シミュレーションによりそのときの振動データの値を定める。そして定めた値を元に比較された振動データの差異の上限値を定めて、その値を超過したときは橋梁43に何らかの損傷が発生したものと見做す。これにより、橋梁43の損傷の有無を定量的に捉えて判定することができる。
【0035】
また、路線バスの場合、一日の運行が終了すると一旦バスセンタ50に戻ってくる。そしてメモリ30に記憶した振動データをバスセンタ50に設置した損傷判定装置34のセンサデータメモリ35に記憶する。しかし、この操作を毎日行なうとなると煩わしいものである。また、路線バス2にメモリ30を備えなければならない。そこで本実施形態では、路線バス2に通信手段(データを送信する送信機)を備え、路線バスが橋梁43を通過したときの車軸振動センサ5により検知した振動データと橋梁43の認識信号を通信手段によりバスセンタ50アンテナ42を介して送信し、バスセンタ50では通信手段33で受信したデータをセンサデータメモリ35記憶する。これにより、振動データをバスセンタ50の損傷判定装置34に記憶する操作を省略することができ、操作の忘れや操作ミスを防止することができる。
また、メモリ30を連続して動作させておけば、いつ記憶動作を開始するかを気にする必要はない。しかし、メモリ30の記憶容量が膨大に必要となり、且つ無駄なデータまで記憶しなければならず、その中から必要なデータだけを抽出しなければならない。そこで本実施形態では、路線バス2にメモリ30を動作させる記憶開始ボタンを備える。これにより、安価な構成で必要なデータだけを記憶して、メモリ30の記憶容量を最小限にすることができる。
【符号の説明】
【0036】
2 路線バス、5 車軸振動センサ、30 メモリ、31 ケーブル、32 アンテナ、33 通信手段、34 損傷判定装置、35 センサデータメモリ、36 正常データメモリ、37 データ比較手段、38 損傷判定手段、39 発信器、40 車軸、41 受信機、42 車輪、43 橋梁、44 河川、45 構造体振動センサ、100 構造体変状検知システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸により支持された車輪、及び該車軸に伝達された振動を緩衝する緩衝部材を少なくとも備えた車両と、前記車軸の振動を検知する車軸振動センサと、検査対象となる構造体を前記車両が通過する際に前記車軸振動センサにより検知した振動データを記憶する記憶手段と、前記振動データを解析することにより前記構造体の損傷状態を判定する損傷判定装置と、を備え、
前記損傷判定装置は、前記記憶手段に記憶された振動データと前記構造体が正常であるときの正常振動データとを比較するデータ比較手段と、該データ比較手段により比較されたデータに基づいて前記構造体に損傷が発生したか否かを判定する損傷判定手段と、を備え、
前記損傷判定手段は、前記データ比較手段により比較されたデータの差異が所定値以上の場合に、前記構造体に損傷が発生したと判定することを特徴とする構造体変状検知システム。
【請求項2】
前記車両が通過したときに前記構造体に発生する振動を検知する構造体振動センサと、前記車軸振動センサ及び前記構造体振動センサから検知された夫々の振動データを同期させて比較した結果が相似であるか否かを判定する相似判定手段と、を備え、
前記相似判定手段により前記各振動データが相似であると判定された場合は、前記車軸振動センサから得られる振動データを前記構造体から発生する振動データと見做すことを特徴とする請求項1に記載の構造体変状検知システム。
【請求項3】
前記データ比較手段により比較されたデータの差異の所定値は、前記構造体に係る累積損傷確率が劣化期初期へ進展した際の振動データの値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体変状検知システム。
【請求項4】
前記構造体に該構造体を特定する認識番号を示す認識信号を発信する発信器を備え、前記車両に前記発信器から発信された認識信号を受信する受信器を備え、前記車両は、前記認識信号を前記受信器により受信すると、前記認識番号と前記車軸振動センサにより検知した振動データとを対応付けて前記記憶手段に記憶することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の構造体変状検知システム。
【請求項5】
前記車両に通信手段を備え、該車両が前記構造体を通過したときの前記車軸振動センサにより検知した振動データ及び該構造体の認識信号を前記通信手段により送信することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の構造体変状検知システム。
【請求項6】
前記車両に前記記憶手段を動作させる記憶開始ボタンを備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の構造体変状検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−236875(P2010−236875A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82056(P2009−82056)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】