説明

構造物の耐震補強方法及び構造物の耐震補強構造

【課題】 橋台や擁壁等のように、少なくとも背面側からの土圧荷重を支持する構造物に耐震補強を施すことができる構造物の耐震補強方法を提供する。
【解決手段】 構造物1の前面側から、管状補強部材10により、構造物1を水平方向に貫通して先端が背面側の地盤7に到達する孔8を削孔し、管状補強部材10の内側に、先端に袋体13を取り付けた芯材12を挿入して、芯材12の先端を孔8の先端に到達させ、管状補強部材10を孔8から引き抜いて、管状補強部材10の先端を構造物1の背面側の地盤7の所定の位置に配置させ、袋体13にグラウト17を加圧注入して、袋体13を膨張変形させて孔8の内面に密着させるとともに、管状補強部材10の内側部分及び孔8内にグラウト17を無加圧注入し、芯材12の頭部を構造物1の前面2側に定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の耐震補強方法及び構造物の耐震補強構造に関し、特に、橋台、擁壁等のように、少なくとも背面側から土圧荷重を受ける構造物に耐震補強を施すのに有効な構造物の耐震補強方法及び構造物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道、道路等の橋桁の鉛直荷重及び背面土圧荷重を支持する橋台は、それらの荷重を基礎及び杭を介して地盤側に伝達させているが、近年、耐震基準が見直しされたことにより、耐震基準を満たすように耐震補強して耐力を高め、地震による被害を防止する必要が生じている。
【0003】
橋台の耐震補強方法として、例えば、
(1)図14に示すように、橋台25の基礎部分26間にストラッド27を突っ張った状態に設けて、橋台25が水平方向に滑動するのを防止する方法、
(2)図15に示すように、橋台25の前面側からグラウンドアンカー28を斜め下方に打設して、橋台25が滑動や転倒するのを防止する方法、
(3)図16に示すように、橋台25の前面側からネイリング部材29を水平方向に打設して、橋台25が滑動や転倒するのを防止する方法、
(4)図17に示すように、橋台25の背面側の裏栗部分30に薬液を注入して固化させ、裏栗部分30が沈下するのを防止する方法、
(5)特許文献1に記載されているように、橋台の背面側の受台に近接する部分及び受台から離れた部分に栗石等の裏込材を敷き固め、その上部にモルタル、砂等のレベル調整用裏込材を施して路盤工を構成し、この路盤工の上部に、下面に凹陥面が設けられた踏掛板を配置して、踏掛板の両端部を橋台の背面側の受台と受台から離れた部分の裏込材の上部との間で支持し、踏掛板を両端支持梁として機能させることにより、地震等によって裏込材に揺すり込み沈下が生じた場合であっても、踏掛板が埋没するのを防止し、路面に段差が生じるのを防止するように構成した方法
等が提案されている。
【0004】
図14に示す方法は、橋台25を支持する基礎部分26間をストラッド27によって突っ張っているので、橋台25が水平方向に滑動するのを防止するには有効である。
図15に示す方法は、橋台25をグラウンドアンカー28によって地盤31に支持しているので、橋台25が滑動や転倒するのを防止するには有効である。
図16に示す方法は、橋台25をネイリング部材29によって地盤31に支持しているので、橋台25が滑動や転倒をするのを防止するのには有効である。
図17に示す方法は、橋台25の背面側の裏栗部分30に薬液を注入して固化しているので、裏栗部分30の揺すり込み沈下を防止するのには有効である。
特許文献1に記載の方法は、橋台の背面側の裏込材に揺すり込み沈下が生じても、その上部の両端支持梁の踏掛板によって路面を支持することができるので、路面に段差が生じるのを防止するのには有効である。
【0005】
しかし、図14に示す方法では、橋台25の転倒を防止することができない。また、図15に示す方法では、グラウンドアンカー28を定着させる堅硬な地盤31が深い場合には、グラウンドアンカー28が非常に長くなるため、不経済となる。また、図14、図15、及び図16に示す方法は、裏栗部分30の揺すり込み沈下を防止することができないため、地震によって橋台25の背面側の地盤31に段差が生じるのを避けることができず、橋桁を安定した状態で支持し続けることが困難になる。また、図17に示す方法では、裏栗部分30の栗石間に薬液が完全に充填されているか否かを確認することが難しく、また、注入した薬液が周囲の地盤31に流出し、周辺環境に影響を与えるおそれがある。さらに、特許文献1に記載の方法は、裏込材の沈下対策としては有効であるが、橋台の滑動、転倒を防止する効果はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭64−407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、橋台等のように、少なくとも背面側からの土圧荷重を支持する構造物の地震時における滑動、転倒に対する耐力を向上させながら、構造物の背面側の地盤(例えば、裏栗部分)の揺すり込み沈下を確実に防止することができる構造物の耐震補強方法及び構造物の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、前面側が開放されるとともに、少なくとも背面からの土圧荷重を支持する構造物の耐震補強方法であって、前記構造物の前面側から、管状補強部材により、前記構造物を水平方向に貫通して先端が背面側の地盤に到達する孔を、前記構造物の幅方向に間隔をおいて複数箇所に削孔し、削孔した各孔内において、前記管状補強部材の内側に、袋体を取り付けた芯材を挿入し、前記管状補強部材を前記孔から引き抜いて、前記管状補強部材の先端を前記構造物の背面側の地盤の所定の位置に配置させ、前記袋体に固化材を加圧注入して、前記袋体を膨張変形させて前記孔の内面に密着させ、前記管状補強部材の内側部分及び前記孔内に固化材を無加圧注入するとともに、前記芯材の頭部を前記構造物の前面側に定着させることを特徴とする。
【0009】
本発明の構造物の耐震補強方法によれば、構造物と構造物の背面側の地盤の所定の位置との間に、固化材を注入することによって曲げ剛性及びせん断剛性を高めた管状補強部材を水平に配置し、この管状補強部材によって構造物の背面側の地盤の沈下を防止することができる。従って、構造物の背面側の地盤に地震による揺すり込み沈下が生じるのを防止でき、その部分に段差が生じるのを防止できる。
また、管状補強部材の内側に芯材を挿入し、この芯材の先端に取り付けた袋体の内部に固化材を加圧注入して膨張変形させ、袋体をボーリング孔の内面に密着させることにより、芯材を構造物の背面側の地盤に定着させているので、地震による構造物の転倒及び滑動を防止することができる。
さらに、削孔で使用した管状補強部材の一部を地盤の沈下を防止する部材として利用するとともに、管状補強部材の不用部分を引き抜くことで、その部分を再利用することができるので、経済性を高めることができる。
【0010】
また、本発明において、前記構造物の背面側には、栗石を敷き詰めた裏栗部分が設けられ、前記管状補強部材は、前記構造物及び前記裏栗部分を貫通して、先端が前記裏栗部分よりも背面側の前記地盤内に配置されていることとしてもよい。
このように構成すれば、構造物の背面側の裏栗部分の地震による揺すり込み沈下を防止できるので、裏栗部分の上部の地盤に段差が生じるのを防止できる。
【0011】
また、本発明において、前記孔は、前記構造物の高さ方向に間隔をおいて複数箇所に削孔されていることとしてもよい。
このように構成すれば、構造物の幅方向だけでなく、高さ方向に削孔した各孔内にも管状補強部材及び芯材を配置することができるので、構造物の背面側に裏栗部分が設けられている場合には、管状補強部材及び芯材を複数段に配置することで、管状補強部材1本当たりが支持する地盤の厚さを小さくすることができるので、裏栗部分の沈下量を小さくすることができる。
【0012】
さらに、本発明において、前記芯材は、鉄筋又は鋼管であることとしてもよい。
このように構成すれば、芯材として入手が容易な材料(鉄筋又は鋼管)を使用することができるので、材料の調達が容易であり、経済的な施工が可能である。
【0013】
さらに、本発明は、前面側が開放されるとともに、少なくとも背面からの土圧荷重を支持する構造物の耐震補強構造であって、前記構造物の幅方向に間隔をおいて複数箇所に、前記構造物を前面側から水平方向に貫通して先端が背面側の地盤に到達するように形成された各孔内に、前記構造物と前記構造物の背面側の地盤の所定の位置との間に亘って設けられる管状補強部材と、前記各管状補強部材の内側に挿入されるとともに、前記各管状補強部材の内側部分及び前記各孔内に無加圧注入された固化材によって前記各孔内に定着される芯材と、該各芯材の一部に取り付けられるとともに、内部に加圧注入された固化材によって膨張変形して前記各孔の内面に密着される袋体と、前記各芯材の頭部を前記構造物の前面側に定着させる定着部材とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように、前面側が開放され、少なくとも背面からの土圧荷重を支持する構造物に対して本発明の構造物の耐震補強方法により耐震補強を施工すれば、地震時における構造物の転倒、滑動に対する耐力を向上させながら、構造物の背面側の地盤(例えば、裏栗部分)の揺すり込み沈下を確実に防止することができる。
従って、例えば、道路、鉄道等の橋桁を支持する橋台に適用した場合には、地震によって構造物が被害を受けた場合であっても、段差等の生じない一つの連続した面を確保することができるので、大地震直後にも道路や鉄道等を緊急車両等の通行に支障をきたさないような状態に維持し続けることができる橋台を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による構造物の耐震補強方法の一実施の形態を示した断面図であって、二重管削孔装置により孔を削孔し、鋼管の先端を裏栗部分の背面側の地盤に到達させた状態を示した断面図である。
【図2】鋼管の内側にネイリング部材を挿入した状態を示した断面図である。
【図3】鋼管を引き抜く途中の過程を示した断面図である。
【図4】鋼管の先端を裏栗部分と地盤との境界に位置させ、ネイリング部材の袋体にグラウトを加圧注入して、袋体を膨張変形させた状態を示した断面図である。
【図5】鋼管の内側及び削孔した孔内にグラウトを無加圧注入した状態を示した断面図である。
【図6】ネイリング部材の芯材の頭部を橋台の前面側に定着させた状態を示した断面図である。
【図7】構造物の全体に複数の孔を削孔し、各孔内にネイリング部材及び鋼管を設けた状態を示した断面図である。
【図8】図6のA部の拡大図である。
【図9】図7のB−B線断面図である。
【図10】図6のC部の拡大図である。
【図11】図6の芯材の定着部の拡大図である。
【図12】芯材の定着部の変形例を示した拡大図である。
【図13】本発明による構造物の耐震補強方法の他の実施の形態を示した断面図であって、図6のC部に対応する部分の拡大図である。
【図14】従来の耐震補強方法の一例を示した断面図である。
【図15】従来の耐震補強方法の他の例を示した断面図である。
【図16】従来の耐震補強方法の他の例を示した断面図である。
【図17】従来の耐震補強方法の他の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図7には、本発明による構造物の耐震補強方法の一実施の形態が示されている。
本実施の形態では、道路や鉄道等の橋桁22等の鉛直荷重、背面側からの土圧荷重を支持し、それらの荷重を基礎4及び杭5を介して地盤7側に伝達させる構造物である橋台1に耐震補強を施す際に、本発明の構造物の耐震補強方法を適用している。
【0017】
なお、以下の説明においては、地盤7のうち、地山を基礎地盤7aとし、埋め戻した部分を盛土体7bとしている。
また、本実施の形態においては、本発明による構造物の耐震補強方法を橋台1に適用している。但し、図示はしないが、背面側からの土圧荷重を支持する擁壁を構造物とし、この擁壁に本発明による構造物の耐震補強方法を適用してもよい。
【0018】
本実施の形態の構造物の耐震補強方法は、図1〜図7に示すように、管状補強部材10及びネイリング部材11を用い、管状補強部材10により橋台1の背面3側の栗石を敷き詰めた裏栗部分6の揺すり込み沈下を防止し、ネイリング部材11によって橋台1の滑動及び転倒を防止するように構成したものである。
【0019】
具体的には、二重管削孔装置を用い、図1に示すように、二重管削孔装置から管状補強部材としての鋼管10を繰り出し、必要に応じて複数本の鋼管10を連結しながら、鋼管10の先端の削孔ビット(図示せず)により、橋台1の前面2側から、橋台1及び橋台1の背面3側の盛土体7bの裏栗部分6を水平方向に貫通し、先端が裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aの所定の位置に到達する孔8を削孔する。
【0020】
次に、図2に示すように、ボーリング孔8内において、鋼管10の内側から削孔ビットを引き抜く。そして、鉄筋からなる芯材12の一部に袋体13を取り付け、袋体13に注入ホース15を接続して構成したネイリング部材11(図10参照)を鋼管10の内側に挿入し、ネイリング部材11の芯材12の先端をボーリング孔8の先端に到達させることにより、袋体13をボーリング孔8内の所定の位置に位置決めする。
この場合、ネイリング部材11の芯材12の先端を、ボーリング孔8の先端との間に所定の間隙が形成される位置に位置決めし、袋体13の先端とボーリング孔8の先端との間に所定の間隙が形成されるように構成してもよい。
【0021】
ここで、袋体13は、耐圧性及び伸縮性を有する材料からなる袋状をなすものであって、麻袋等のように、内部に注入したグラウト17を表面側にある程度滲出させることができる機能を有するものが好ましい。このような機能を有する袋体13を用いることにより、袋体13と基礎地盤7aとの定着を図ることができる。
なお、浸透性の高い基礎地盤7aの場合には、非透水性を有する袋体13を用い、グラウト17が袋体13の表面側に滲出するのを阻止することにより、袋体と基礎地盤7aとの定着を図ればよい。
【0022】
また、図10に示すように、袋体13の口部14は、ゴム、合成樹脂等からなる栓部材16によってシールされ、この栓部材16を貫通して注入ホース15の先端が袋体13の内部に挿入され、注入ホース15の後端はボーリング孔8外に引き出されている。
【0023】
なお、袋体13は、裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに挿入された芯材12の部分に、所定の間隔ごとに複数箇所に取り付けてもよいし、その芯材13の部分の全体に行き渡る長さのものを取り付けてもよい。要は、基礎地盤7aの地質、地層構造等に応じて、使用する袋体13の数量、取付位置等を設定すればよい。
なお、本実施の形態においては、裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aの全体に行き渡る長さの袋体13を取り付けている。
【0024】
次に、図3及び図4に示すように、ボーリング孔8内から鋼管10を橋台1の前面2側に引き抜くことにより、鋼管10の先端を橋台1の背面3側の裏栗部分6と裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aとの境界部分に位置させ、橋台1の前面2から突出している鋼管10の部分を分離し、鋼管10を橋台1及び裏栗部分6の全体に行き渡るように配置する。
【0025】
次に、図4に示すように、ボーリング孔8において、ネイリング部材11の袋体13の内部に注入ホース15を介して固化材であるグラウト17を加圧注入し、袋体13を膨張変形させることにより、袋体13をボーリング孔8の内面側(基礎地盤7a側)に密着させ、ネイリング部材11の引き抜き抵抗力を高める。
なお、注入ホース15は、グラウト17の注入後に、ボーリング孔8内に残置させてもよいし、ボーリング孔8から引き抜いてもよい。
【0026】
次に、図5に示すように、ボーリング孔8において、鋼管10の内側に固化材であるグラウト17を無加圧注入し、そのグラウト17の一部をネイリング部材11とボーリング孔8との間の隙間内にも回り込ませ、鋼管10の曲げ剛性及びせん断剛性を高めるとともに、ネイリング部材11を鋼管10及び裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに全面接着させる。
【0027】
次に、袋体13の内部、鋼管10の内側、及びボーリング孔8内に注入したグラウト17が固化した後に、図6及び図11に示すように、橋台1の前面2側に金属、コンクリート等からなるプレート18を配置し、プレート18を貫通させたネイリング部材11の芯材12の頭部にナット19を螺合させて締め付けることにより、芯材12の頭部を橋台1の前面2側に定着させる。または、図12に示すように、橋台1の前面2側に、金属、コンクリート等からなる基台20を配置し、この基台20の上部に金属、コンクリート等からなるプレート18を架け渡し、このプレート18を貫通させた芯材12の頭部にナット19を螺合させて締め付けることにより、芯材12の頭部を橋台1の前面2側に定着させる。
【0028】
この場合、必要に応じて、橋台1の前面2側にコンクリート(図示せず)を所定の厚さで打設し、このコンクリートの内部に芯材12の頭部、プレート18、基台20、及びナット19を埋設させるように構成してもよい。
【0029】
そして、上記と同様の工程により、図7に示すように、ボーリング孔8を橋台1の高さ方向(鉛直方向)に所定の間隔ごとに複数箇所に削孔し、各ボーリング孔8内にネイリング部材11及び鋼管10を設置するとともに、上記と同様の工程により、図示はしないが、ボーリング孔8を橋台1の幅方向(水平方向)に所定の間隔ごとに複数箇所に削孔し、各ボーリング孔8内にネイリング部材11及び鋼管10を設置し、橋台1に耐震補強を施す。
【0030】
上記のように構成した本実施の形態の構造物の耐震補強方法にあっては、橋台1及び裏栗部分6の全体に行き渡るように鋼管10を水平に配置し、このような鋼管10を橋台1の高さ方向(鉛直方向)及び幅方向(水平方向)に所定の間隔ごとに複数箇所に配置し、さらに、各鋼管10の内側にグラウト17を注入して、各鋼管10の曲げ剛性及びせん断剛性を高めたので、これらの複数の鋼管10によって裏栗部分6の揺すり込み沈下を防止できるとともに、複数の鋼管10の断面積の分だけ橋台1の背面側の裏栗部分6を締め固めることができる。
【0031】
従って、大規模な地震によって橋台1が被害を受けた場合であっても、裏栗部分6の上方の盛土体7bの部分、或いは、橋台1と盛土体7bとの境界部分に段差が生じるのを防止できるので、その部分に一つの連続した面を確保することができ、道路や鉄道等を緊急車両等の通行に支障をきたさないような状態に維持し続けることができる。
【0032】
また、鋼管10の基端部は橋台1に定着され、先端部は基礎地盤7aに定着されたネイリング部材11により支持されるので、鋼管10は、その両端が支持されることにより片持ち状態にはならない。
従って、大規模な地震により橋台1に変位等が生じるような場合であっても、裏栗部分6の上部の盛土体7bの部分、或いは、橋台1と盛土体7bとの境界部分の連続性を保つことができるので、道路や鉄道等を緊急車両等の通行に支障をきたさないような状態に維持し続けることができる。
【0033】
さらに、各鋼管10の内側にネイリング部材11を挿入し、ネイリング部材11の鉄筋からなる芯材12を、芯材12に取り付けた袋体13にグラウト17を加圧注入して膨張変形させることにより、裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに定着させるとともに、鋼管10の内側及びボーリング孔8内に注入したグラウト17によってネイリング部材11を鋼管10及び裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに全面接着させているので、ネイリング部材11の引き抜き抵抗力を高めることができる。従って、地震によって橋台1が転倒したり、滑動するのを効果的に防止しながら、裏栗部分6の上部の盛土体7bの部分、或いは、橋台1と盛土体7bとの境界部分に段差が生じるのを防止でき、盛土体7bの連続性を保ち続けることができる。
【0034】
図13には、本発明による構造物の耐震補強方法の他の実施の形態が示されている。
本実施の形態の構造物の耐震補強方法は、芯材12に鋼管を用い、この鋼管からなる芯材12の一部に袋体13を取り付け、この鋼管からなる芯材12の内側の部分を注入孔として利用して、袋体13の内部にグラウト17を加圧注入するとともに、鋼管からなる芯材12の内部にもグラウト17を注入するように構成したものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
なお、芯材12の袋体13の内部に位置する部分に、必要に応じて、芯材12の内外面間を貫通する複数の孔12aを設け、この孔12aと芯材12の先端の開口とを利用して、袋体13の内部にグラウト17を充填するように構成してもよい。
【0035】
この場合、袋体13は、その口部14を、シール部材21を介して鋼管からなる芯材12に気密に接合され、袋体13の内部にグラウト17を加圧注入する際に漏れが生じるのを防止し、袋体13を所定の大きさに膨張変形可能に構成している。
【0036】
そして、本実施の形態においても、前記実施の形態に示すものと同様の作用効果を奏する他、鋼管によって芯材12を構成しており、注入ホースが不要になるので、全体の構成を簡素化することができる。
【0037】
なお、前記各実施の形態においては、ボーリング孔8内の鋼管10の内側にネイリング部材11を挿入し、ネイリング部材11の先端を、袋体13を介して裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに定着させたが、ネイリング部材11の代わりにグラウンドアンカー(図示せず)を用い、グラウンドアンカーを鋼管10の内側に打設し、グランドアンカーの先端を裏栗部分6の背面側の基礎地盤7aに定着させ、グラウントアンカーに緊張力を付与した状態で、グラウンドアンカーの頭部を橋台1の前面2側に定着させるように構成してもよい。
【0038】
また、前各実施の形態においては、本発明を、構造物である橋台1の背面側に栗石を敷き詰めた裏栗部分6を有する場合に適用したが、橋台1の背面側に栗石以外のものを敷き詰めた場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 橋台
2 前面
3 背面
4 基礎
5 杭
6 裏栗部分
7 地盤
7a 基礎地盤
7b 盛土体
8 孔(ボーリング孔)
10 管状補強部材(鋼管)
11 ネイリング部材
12 芯材
12a 孔
13 袋体
14 口部
15 注入ホース
16 栓部材
17 グラウト
18 プレート
19 ナット
20 基台
21 シール部材
22 橋桁
25 橋台
26 基礎部分
27 ストラッド
28 グラウンドアンカー
29 ネイリング部材
30 裏栗部分
31 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面側が開放されるとともに、少なくとも背面からの土圧荷重を支持する構造物の耐震補強方法であって、
前記構造物の前面側から、管状補強部材により、前記構造物を水平方向に貫通して先端が背面側の地盤に到達する孔を、前記構造物の幅方向に間隔をおいて複数箇所に削孔し、削孔した各孔内において、前記管状補強部材の内側に、袋体を取り付けた芯材を挿入し、前記管状補強部材を前記孔から引き抜いて、前記管状補強部材の先端を前記構造物の背面側の地盤の所定の位置に配置させ、前記袋体に固化材を加圧注入して、前記袋体を膨張変形させて前記孔の内面に密着させ、前記管状補強部材の内側部分及び前記孔内に固化材を無加圧注入するとともに、前記芯材の頭部を前記構造物の前面側に定着させることを特徴とする構造物の耐震補強方法。
【請求項2】
前記構造物の背面側には、栗石を敷き詰めた裏栗部分が設けられ、前記管状補強部材は、前記構造物及び前記裏栗部分を貫通して、先端が前記裏栗部分よりも背面側の前記地盤内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物の耐震補強方法。
【請求項3】
前記孔は、前記構造物の高さ方向に間隔をおいて複数箇所に削孔されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の耐震補強方法。
【請求項4】
前記芯材は、鉄筋又は鋼管であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の構造物の耐震補強方法。
【請求項5】
前面側が開放されるとともに、少なくとも背面からの土圧荷重を支持する構造物の耐震補強構造であって、
前記構造物の幅方向に間隔をおいて複数箇所に、前記構造物を前面側から水平方向に貫通して先端が背面側の地盤に到達するように形成された各孔内に、前記構造物と前記構造物の背面側の地盤の所定の位置との間に亘って設けられる管状補強部材と、
前記各管状補強部材の内側に挿入されるとともに、前記各管状補強部材の内側部分及び前記各孔内に無加圧注入された固化材によって前記各孔内に定着される芯材と、
該各芯材の一部に取り付けられるとともに、内部に加圧注入された固化材によって膨張変形して前記各孔の内面に密着される袋体と、
前記各芯材の頭部を前記構造物の前面側に定着させる定着部材とを備えていることを特徴とする構造物の耐震補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−168975(P2011−168975A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31545(P2010−31545)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】