構造部材の補強構造、及び構造部材の補強方法
【課題】構造部材の接合部の曲げ耐力を向上する。
【解決手段】構造部材20の外面に接するようにしてこの外面を取り囲んでいる補強部材12A〜12Dに、緊張力が付与された緊張部材14A、14Bが螺旋状に設けられている。緊張部材14A、14Bに付与された緊張力は、伝達部16A、16Bにより支持部106へ伝達され、支持部106に補強部材12A、12Bが固定される。よって、支持接合部38に発生する圧縮応力により、構造部材20の支持接合部38の曲げ耐力を向上することができる。
【解決手段】構造部材20の外面に接するようにしてこの外面を取り囲んでいる補強部材12A〜12Dに、緊張力が付与された緊張部材14A、14Bが螺旋状に設けられている。緊張部材14A、14Bに付与された緊張力は、伝達部16A、16Bにより支持部106へ伝達され、支持部106に補強部材12A、12Bが固定される。よって、支持接合部38に発生する圧縮応力により、構造部材20の支持接合部38の曲げ耐力を向上することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造、及び構造部材の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震性の向上等を目的として、柱や梁などの構造部材を補強するさまざまな技術が提案されている。例えば、図15の正面図、及び図16の平面図に示すように、特許文献1の既設柱の補強構造では、基礎部504上に設置された既設柱500の各周面506に、コンクリートブロック502が接着されている。コンクリートブロック502は、コンクリートブロック502が既設柱500に接着された状態で、正方形断面を有する既設柱500の軸心を中心とした略円形断面を構成するように円弧状に形成されている。そして、コンクリートブロック502の外周に形成された螺旋溝508に鋼線510をスパイラル状に巻き付けて、既設柱500とコンクリートブロック502とを一体化することにより、地震荷重に対する既設柱500のせん断耐力を増大させている。
【0003】
しかし、特許文献1の既設柱の補強構造は、既設柱500とコンクリートブロック502とを一体化し構造断面を大きくすることによって既設柱500を補強するものなので、基礎部504と既設柱500との接合部の曲げ耐力を向上させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−328567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は係る事実を考慮し、構造部材の接合部の曲げ耐力を向上することができる構造部材の補強構造、及び構造部材の補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造において、前記構造部材の外面を取り囲んで接する補強部材と、前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、前記緊張部材に付与された緊張力を前記支持部へ伝達し前記支持部に前記補強部材を固定する伝達部と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の発明では、補強部材、緊張部材及び伝達部を有する構造部材の補強構造によって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する。補強部材は、構造部材の外面に接するようにして構造部材の外面を取り囲んでいる。緊張部材は、緊張力が付与された状態で補強部材に螺旋状に設けられている。そして、緊張部材に付与された緊張力が、伝達部により支持部へ伝達されて、支持部に補強部材が固定される。
【0008】
よって、緊張部材に付与された緊張力が支持部へ伝達されることにより、支持部と構造部材との接合部(以下、「支持接合部」とする)に圧縮応力が発生する。
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が構造部材に圧着されるので、緊張部材に付与された緊張力を、補強部材及び構造部材を介して支持部へ効果的に伝達することができる。
【0009】
これらにより、支持接合部に発生する圧縮応力により、外力として支持接合部に作用する曲げモーメントに起因して生じる曲げ引張応力を低減することができる。すなわち、支持接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【0010】
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が構造部材に圧着され、構造部材と補強部材とが一体化されるので、構造部材のせん断耐力を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている。
【0012】
請求項2に記載の発明では、補強部材の外面に、緊張部材が配置される溝が形成されているので、補強部材の外面の適正な位置に緊張部材を配置することができる。また、補強部材の外面に配置した緊張部材がずれるのを防ぐことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記構造部材の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記構造部材の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている。
【0014】
請求項3に記載の発明では、構造部材の材軸に対して右巻きの緊張部材と、構造部材の材軸に対して左巻きの緊張部材とが、構造部材の材軸に対してそれぞれ逆方向に構造部材を捻ろうとするので、右巻き及び左巻きの緊張部材の一方に緊張力を付与した際に生じる構造部材の捩れを低減又は無くすことができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記構造部材は、柱又は梁である。
【0016】
請求項4に記載の発明では、柱又は梁とした構造部材に対して、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、前記構造部材の外面に接するようにして前記構造部材の外面を補強部材により取り囲む補強部材配置工程と、前記補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける緊張部材配置工程と、前記緊張部材に緊張力を付与し該緊張力を前記支持部へ伝達することによって前記支持部に前記補強部材を固定する補強部材固定工程と、を有する。
【0018】
請求項5に記載の発明では、補強部材配置工程、緊張部材配置工程及び補強部材固定工程を有する構造部材の補強方法によって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する。
【0019】
補強部材配置工程では、構造部材の外面に補強部材が接するようにして、この補強部材により構造部材の外面を取り囲む。緊張部材配置工程では、補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける。補強部材固定工程では、緊張部材に緊張力を付与しこの緊張力を支持部へ伝達する。これによって、支持部に補強部材を固定する。
【0020】
よって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成としたので、構造部材の接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る補強部材に形成された溝を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る構造部材の補強構造を示す正面図である。
【図8】図7のB−B断面図である。
【図9】図8のC−C断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す正面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す正面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図15】従来の既設柱の補強構造を示す説明図である。
【図16】従来の既設柱の補強構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態では、鉄筋コンクリートによって形成された既設の構造部材を補強する例を示すが、本発明の実施形態は、コンクリート製、鋼製、木製等のさまざまな構造部材の補強に適用することができる。
【0024】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0025】
図1の斜視図、図1のA−A断面図である図2、及び図3(c)の正面図に示すように、第1の実施形態の構造部材の補強構造10は、補強部材としてのパネル体12A〜12D、緊張部材としてのPC鋼より線14A、14B、及び伝達部としての定着部16A、16Bを有し、床スラブ18の支持部106に支持された既設の構造部材としての円柱状の柱20を補強する。柱20は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0026】
パネル体12A〜12Dは、図2に示すように、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0027】
パネル体12A〜12Dは、柱20の外面に内壁面が接触するようにして柱20の周囲に配置されている。すなわち、パネル体12A〜12Dは、柱20の外面に接するようにして柱20の外面を取り囲んでいる。なお、図2に示すように、パネル体12A〜12Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、パネル体12A、12Cの側端面22A、22Cと、パネル体12B、12Dの側端面22B、22Dとの間には隙間が形成されている。
【0028】
図1に示すように、パネル体12A〜12Dの外面には、パネル体12A〜12Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で螺旋状の溝24A、24Bを形成する溝26がそれぞれ形成されている。
【0029】
溝24Aには、PC鋼より線14Aが配置され、溝24Bには、PC鋼より線14Bが配置されている。このようにして、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態でパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0030】
PC鋼より線14Aは、柱20の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、柱20の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0031】
図4(a)の斜視図に示すように、溝24Aの深さは、溝24Bの深さとPC鋼より線14Aの直径とを足し合わせた長さよりも深くなっている。すなわち、図2に示すように、平面視にてPC鋼より線14Aの外側にPC鋼より線14Bが配置されているので、図4(b)の斜視図、及び図4(c)の断面図に示すように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所において、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとの干渉を防ぐことができる。説明の都合上、図4(a)、(b)では、パネル体12A〜12Dの側端面22A〜22Dが省略されている。
【0032】
なお、溝24Bの深さは、図4(c)に示すように、パネル体12A〜12Dの外面からPC鋼より線14Bが突出しないようにしてもよいし、パネル体12A〜12Dの外面からPC鋼より線14Bが突出するようにしてもよい。
【0033】
図3(c)に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が床スラブ18の下部に設けられた定着部16A、16Bで床スラブ18に定着され、上端部がパネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bでパネル体12C、12Dに定着されている。
【0034】
これにより、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力が、定着部16A、16Bにより床スラブ18の支持部106へ伝達されて、床スラブ18の支持部106にパネル体12A、12Bが固定され、パネル体12A、12Bにパネル体12C、12Dが固定される。
【0035】
次に、補強構造10を用いた構造部材の補強方法について、図3(a)〜(c)を用いて説明する。
【0036】
構造部材の補強方法では、補強部材配置工程、緊張部材配置工程、緊張工程及び補強部材固定工程を有する構造部材の補強方法によって、床スラブ18の支持部106に支持された既設の柱20を補強する。
【0037】
まず、図3(a)の正面図に示すように、柱20の外面にパネル体12A〜12Dの内壁面が接するようにして、パネル体12A〜12Dにより柱20の外面を取り囲む(補強部材配置工程)。この状態で、パネル体12A、12Bは、床スラブ18の上面に載置され、パネル体12C、12Dは、パネル体12A、12Bの上面に載置されている。
【0038】
次に、図3(b)の正面図に示すように、パネル体12A〜12Dに形成された溝24AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。
【0039】
次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Aの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Aに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Aの下端部を定着部16Aにおいて床スラブ18に定着し、PC鋼より線14Aの上端部を定着部28Aにおいてパネル体12Cに定着する(緊張工程)。
【0040】
定着部16AにおけるPC鋼より線14Aの下端部の床スラブ18への定着は、PC鋼より線14Aの下端部に設けられた雄ネジに、床スラブ18の下面に形成された切り欠き30内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
【0041】
定着部28AにおけるPC鋼より線14Aの上端部のパネル体12Cへの定着は、図5の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの上端部に設けられた雄ネジに、パネル体12Cの上面に形成された切り欠き36内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
【0042】
次に、図3(c)に示すように、パネル体12A〜12Dに形成された溝24BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。
【0043】
次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Bに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Bの下端部を定着部16Bにおいて床スラブ18に定着し、PC鋼より線14Bの上端部を定着部28Bにおいてパネル体12Dに定着する(緊張工程)。
【0044】
定着部28B、16BにおけるPC鋼より線14Bの上下端部の定着方法は、定着部28A、16AにおけるPC鋼より線14Aの上下端部の定着方法と同様にして行なう。
【0045】
そして、PC鋼より線14A、14Bに対して行った緊張工程により、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与しこの緊張力を床スラブ18の支持部106へ伝達する。これによって、床スラブ18の支持部106にパネル体12A、12Bを固定し、パネル体12A、12Bにパネル体12C、12Dを固定する(補強部材固定工程)。
【0046】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
第1の実施形態の構造部材の補強構造10、及び構造部材の補強方法では、図6の断面図に示すように、PC鋼より線14A、14B(不図示)に付与された緊張力が床スラブ18の支持部106へ伝達されることにより、床スラブ18と柱20との接合部(以下、「支持接合部38」とする)に圧縮応力が発生する。
【0048】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着されるので(矢印40)、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力を、パネル体12A〜12D及び柱20を介して床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0049】
これらにより、支持接合部38に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部38に作用する曲げモーメントMに起因して生じる曲げ引張応力Pを低減することができる。すなわち、支持接合部38の曲げ耐力を向上することができる。
【0050】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着され、柱20とパネル体12A〜12Dとが一体化されるので、柱20のせん断耐力を向上させることができる。
【0051】
また、図1に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、パネル体12A〜12Dの外面に形成された溝24A、24B(溝26)に設けられているので、パネル体12A〜12Dの外面の適正な位置にPC鋼より線14A、14Bを配置することができる。また、パネル体12A〜12Dの外面に設けたPC鋼より線14A、14Bがずれるのを防ぐことができる。
【0052】
また、柱20の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられたPC鋼より線14Aと、柱20の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられたPC鋼より線14Bとが、柱20の材軸に対してそれぞれ逆方向に柱20を捻ろうとするので、PC鋼より線14A、14Bの一方に緊張力を付与した際に生じる柱20の捩れを低減又は無くすことができる。
【0053】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着されるので、接着剤等を用いずに柱20の外面にパネル体12A〜12Dを固定することができる。この場合、柱20の外面とパネル体12A〜12Dの内壁面との間に、グラウト等の充填材を充填したり、又は弾性体を挟み込んだりすれば、柱20の外面に対するパネル体12A〜12Dの内壁面の密着度を高めることができる。
【0054】
また、柱20はコンクリートによって形成されているので、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、柱20の材軸方向にプレストレスが導入される。これにより、柱20の材軸方向に作用する引張応力が低減される。よって、柱20の材軸方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、柱20のひび割れ抵抗及び引張耐力を向上させることができる。
【0055】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、柱20の周方向にプレストレスが導入される。これにより、柱20が周方向に拘束されコンファインド効果が発揮される。よって、柱20の周方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、柱20の圧縮耐力を向上させることができる。
【0056】
そして、柱20に導入される材軸方向のプレストレスによって、柱20に作用する曲げモーメントに起因して柱20に生じる曲げ引張応力が低減され、柱20に導入される周方向のプレストレスによって、柱20に作用する曲げモーメントに起因して柱20に生じる曲げ圧縮応力が低減されるので、柱20の曲げ耐力を向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0058】
なお、第1の実施形態では、補強部材を、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼ近いパネル体12A〜12Dとした例を示したが、補強部材は、柱20の外面を取り囲んで接することができる部材であればよい。また、3つ以上のパネル体によって柱20の外面を取り囲むようにしてもよいし、柱20の周方向にパネル体を点在させてもよい。
【0059】
多くの数のパネル体によって柱20の外面を取り囲むようにすれば、パネル体の大きさや重量を小さくすることができる。よって、パネル体の運搬作業や設置作業の煩雑さを軽減することができる。また、構造断面の大きさが異なるさまざまな柱20の外面を取り囲むことが可能となるので、パネル体の標準化を図ることができる。
【0060】
また、第1の実施形態では、補強部材としてのパネル体12A〜12Dを鉄筋コンクリートによって形成した例を示したが、補強部材は、柱20と一体となることにより柱20のせん断耐力を向上させることができる材料によって形成されていればよく、例えば、高強度コンクリート、繊維補強コンクリート、鋼材、樹脂によって形成してもよい。
【0061】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bを、パネル体12A〜12Dの外面(外側)に設けた例を示したが、パネル体12A〜12Dの内部にPC鋼より線14A、14Bを設けてもよい。
【0062】
また、第1の実施形態では、2つのPC鋼より線14A、14Bをパネル体12A〜12Dの外面に設けた例を示したが、3つ以上のPC鋼より線をパネル体12A〜12Dに設けてもよい。
【0063】
また、第1の実施形態では、緊張部材をPC鋼より線14A、14Bとした例を示したが、緊張部材は、緊張力を確実に付与できる線状の部材であればよい。PC鋼より線、PC鋼線等のPC鋼材によって構成するのが好ましい。
【0064】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの下端部をアンカープレート32及びナット34によって床スラブ18に定着しておき、PC鋼より線14A、14Bの上端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよいし、PC鋼より線14A、14Bの上端部をアンカープレート32及びナット34によってパネル体12C、12Dに定着しておき、PC鋼より線14A、14Bの下端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよい。
【0065】
また、図3(c)に示すように、床スラブ18内に配置されるPC鋼より線14A、14Bは、床スラブ18と柱20との接合面(以下、「接合面68」とする)に対して斜めに配置されてもよいし、接合面68に対して垂直に配置されてもよいし、接合面68に対する垂線を旋回軸として螺旋状に配置されてもよい。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0067】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0068】
図7の正面図に示すように、第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、パネル体12C、12Dの上面に伝達部材としてのブロック体42A〜42Dが載置されている。ブロック体42A〜42Dは、図7のB−B断面図である図8に示すように、円筒状の部材を平面視にて四等分した円弧形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0069】
ブロック体42A〜42Dは、柱20の外面に内壁面が接触するようにして柱20の周囲に配置されている。すなわち、ブロック体42A〜42Dは、柱20の外面に接するようにして柱20の外面を取り囲んでいる。なお、図8に示すように、ブロック体42A〜42Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、ブロック体42Aの側端面44Aとブロック体42Bの側端面44B、ブロック体42Bの側端面44Bとブロック体42Cの側端面44C、ブロック体42Cの側端面44Cとブロック体42Dの側端面44D、及びブロック体42Dの側端面44Dとブロック体42Aの側端面44Aとの間には隙間が形成されている。
【0070】
ブロック体42A、42Cには、アンカープレート46を介したナット48により、改修のために柱20に形成された略水平の貫通孔50を貫通する鋼棒52の両端が固定されている。
【0071】
ブロック体42B、42Dには、アンカープレート46を介したナット48により、改修のために柱20に形成された略水平の貫通孔54を貫通する鋼棒56の両端が固定されている。
【0072】
鋼棒52と鋼棒56とは、円形の横断面を有し、平面視にて略直交している。また、図8のC−C断面図である図9に示すように、鋼棒56は、鋼棒52の下方に配置されている。
【0073】
図7に示すように、ブロック体42A〜42Dの外面には、溝62がそれぞれ形成されている。そして、ブロック体42A〜42Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、これらの溝62が、パネル体12A〜12Dの溝24A、24Bと連続する螺旋状の溝60A、60Bを形成している。
【0074】
溝60A、60Bは、溝24A、24Bと同様に、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。
【0075】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が床スラブ18の下部に設けられた定着部16A、16Bにおいて床スラブ18に定着され、上端部がブロック体42C、42Aの上部に設けられた定着部64B、64Aにおいてブロック体42C、42Aに定着されている。定着部64A、64Bの定着機構は、パネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bの定着機構と同様である。
【0076】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0077】
第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、第1の実施形態の構造部材の補強構造10とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、パネル体12C、12Dの上面にブロック体42A〜42Dを設置することによって、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を、ブロック体42A〜42D及び鋼棒52、56を介して床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0079】
すなわち、第1の実施形態の構造部材の補強構造10では、柱20の外面とパネル体12A〜12Dの内壁面との間の摩擦力により、パネル体12A〜12Dから柱20へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達しているのに対して、第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、この伝達機構に加えて、鋼棒52、56から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を柱20に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0080】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0081】
なお、第2の実施形態では、柱20に貫通させた2つの鋼棒52、56により、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を柱20に加える例を示したが、力の伝達効率をさらに上げたい場合には、鋼棒52、56の本数を増やしたり、角柱状にしたりすればよい。鋼棒52、56の本数を増やす場合には、断面欠損による柱20の強度低下を十分に考慮する必要がある。
【0082】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0083】
なお、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造部材を床スラブ18に設けられた柱20とした例を示したが、梁に設けられた柱や、柱に設けられた梁を補強対象の構造部材とした場合においても、第1及び第2の実施形態の構造部材の補強構造10、66を適用することができる。
【0084】
また、第1及び第2の実施形態の構造部材の補強構造10、66を応用して、例えば、図10、11に示すように、支持構造体を介して両側に設けられた既設の構造部材を同時に補強することができる。
【0085】
図10の正面図に示すように、構造部材の補強構造70では、下柱72上に梁76が支持され、梁76上に上柱74が支持されている。下柱72、梁76及び上柱74は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0086】
そして、下柱72及び上柱74の外面に接するようにして、下柱72及び上柱74の外面をパネル体12A〜12Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bがパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0087】
PC鋼より線14A、14Bは、梁76の内部を水平面に対して斜めに貫通する貫通孔78A、78Bに挿入されている。
【0088】
ここで、PC鋼より線14A、14Bが挿入された貫通孔78A、78Bにグラウトを充填して硬化させ、PC鋼より線14A、14Bを梁76に完全に定着させた場合には、この定着部分が伝達部となる。
【0089】
また、PC鋼より線14A、14BをアンボンドのPC鋼より線にして、PC鋼より線14A、14Bを梁76に定着しないようにした場合には、梁76がパネル体12A、12Bによって上下から挟まれ、梁76にパネル体12A、12Bが圧着されて固定される。よって、上柱74に対しては、梁76の下方に位置するパネル体12A、12Bと梁76との接合部80が伝達部となり、下柱72に対しては、梁76の上方に位置するパネル体12A、12Bと梁76との接合部82が伝達部となる。
【0090】
図11の正面図に示すように、構造部材の補強構造84では、梁86、88が柱90に支持されて左右に張り出している。梁86、88、及び柱90は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0091】
そして、梁86、88の外面に接するようにして、梁86、88の外面をパネル体12A〜12Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bがパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0092】
PC鋼より線14A、14Bは、柱90の内部を鉛直面に対して斜めに貫通する貫通孔92A、92Bに挿入されている。
【0093】
ここで、PC鋼より線14A、14Bが挿入された貫通孔92A、92Bにグラウトを充填して硬化させ、PC鋼より線14A、14Bを柱90に完全に定着させた場合には、この定着部分が伝達部となる。
【0094】
また、PC鋼より線14A、14BをアンボンドのPC鋼より線にして、PC鋼より線14A、14Bを柱90に定着しないようにした場合には、柱90がパネル体12A、12Bによって左右から挟まれ、柱90にパネル体12A、12Bが圧着されて固定される。よって、梁86に対しては、柱90の右側に位置するパネル体12A、12Bと柱90との接合部94が伝達部となり、梁88に対しては、柱90の左側に位置するパネル体12A、12Bと柱90との接合部96が伝達部となる。
【0095】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、パネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bでパネル体12C、12Dに定着し、第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、ブロック体42A、42Cの上部に設けられた定着部64A、64Bでブロック体42A、42Cに定着した例を示したが、PC鋼より線をパネル体12C、12Dの上部や、ブロック体42A〜42Dの上部に巻きつけるようにしてもよい。
【0096】
例えば、図12の斜視図に示すように、PC鋼より線14A、14Bを1つのPC鋼より線98とし、パネル体12C、12Dの上部に形成された円環状の溝100にPC鋼より線98を巻きつけて、パネル体12C、12DにPC鋼より線98を定着するようにしてもよい。図12は、パネル体12C、12Dに対する定着方法を示したものであるが、ブロック体42A〜42Dに対しても同様の定着方法を用いればよい。
【0097】
また、第1及び第2の実施形態では、旋回方向が逆向きのPC鋼より線14A、14Bを、パネル体12A〜12Dに設けた例を示したが、図13の平断面図に示すように、パネル体12A〜12Dを二層にして、内側に配置されたパネル体12A〜12D(以下、「パネル体102A〜102D」とする)の外面に形成された溝24AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設け、外側に配置されたパネル体12A〜12D(以下、「パネル体104A〜104D」とする)の外面に形成された溝24BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設けてもよい。
【0098】
図14(a)の斜視図には、柱20の外面に接するようにして、下柱20の外面をパネル体102A〜102Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Aがパネル体102A〜102Dに螺旋状に設けられている状態が示されている。
【0099】
また、図14(b)の斜視図には、パネル体102A〜102Dの外面に接するようにして、パネル体102A〜102Dの外面をパネル体104A〜104Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Bがパネル体104A〜104Dに螺旋状に設けられている状態が示されている。
【0100】
また、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造部材を円柱状の柱20とした例を示したが、補強対象となる構造部材の構造断面は、どのような形状でもよい。例えば、補強対象となる構造部材の構造断面が、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、多角形であってもよい。また、補強対象となる構造部材が錐体状であってもよい。
【0101】
また、第1及び第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの端部に設けられた雄ネジに、アンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって、PC鋼より線14A、14Bの端部を定着する例を示したが、くさびを用いた定着方法等の他の方法によってPC鋼より線14A、14Bの端部を定着してもよい。
【0102】
また、第1及び第2の実施形態の説明で用いられている用語の「螺旋」は、円柱面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間曲線を意味するが、角柱面上、円錐面上及び角錐面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間折れ線も螺旋に含まれる。また、PC鋼より線14A、14Bの螺旋形状の捻りは平面視にて360度未満であってもよい。
【0103】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
10、66、70、84 構造部材の補強構造
12A〜12D、102A〜102D、104A〜104D パネル体(補強部材)
14A、14B、98 PC鋼より線(緊張部材)
16A、16B 定着部(伝達部)
20 柱(構造部材)
24A、24B 溝
72 下柱(構造部材)
74 上柱(構造部材)
80、82、94、96 接合部(伝達部)
86、88 梁(構造部材)
90 柱(支持部)
106 支持部
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造、及び構造部材の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震性の向上等を目的として、柱や梁などの構造部材を補強するさまざまな技術が提案されている。例えば、図15の正面図、及び図16の平面図に示すように、特許文献1の既設柱の補強構造では、基礎部504上に設置された既設柱500の各周面506に、コンクリートブロック502が接着されている。コンクリートブロック502は、コンクリートブロック502が既設柱500に接着された状態で、正方形断面を有する既設柱500の軸心を中心とした略円形断面を構成するように円弧状に形成されている。そして、コンクリートブロック502の外周に形成された螺旋溝508に鋼線510をスパイラル状に巻き付けて、既設柱500とコンクリートブロック502とを一体化することにより、地震荷重に対する既設柱500のせん断耐力を増大させている。
【0003】
しかし、特許文献1の既設柱の補強構造は、既設柱500とコンクリートブロック502とを一体化し構造断面を大きくすることによって既設柱500を補強するものなので、基礎部504と既設柱500との接合部の曲げ耐力を向上させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−328567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は係る事実を考慮し、構造部材の接合部の曲げ耐力を向上することができる構造部材の補強構造、及び構造部材の補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造において、前記構造部材の外面を取り囲んで接する補強部材と、前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、前記緊張部材に付与された緊張力を前記支持部へ伝達し前記支持部に前記補強部材を固定する伝達部と、を有する。
【0007】
請求項1に記載の発明では、補強部材、緊張部材及び伝達部を有する構造部材の補強構造によって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する。補強部材は、構造部材の外面に接するようにして構造部材の外面を取り囲んでいる。緊張部材は、緊張力が付与された状態で補強部材に螺旋状に設けられている。そして、緊張部材に付与された緊張力が、伝達部により支持部へ伝達されて、支持部に補強部材が固定される。
【0008】
よって、緊張部材に付与された緊張力が支持部へ伝達されることにより、支持部と構造部材との接合部(以下、「支持接合部」とする)に圧縮応力が発生する。
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が構造部材に圧着されるので、緊張部材に付与された緊張力を、補強部材及び構造部材を介して支持部へ効果的に伝達することができる。
【0009】
これらにより、支持接合部に発生する圧縮応力により、外力として支持接合部に作用する曲げモーメントに起因して生じる曲げ引張応力を低減することができる。すなわち、支持接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【0010】
また、緊張力が付与された緊張部材により補強部材が構造部材に圧着され、構造部材と補強部材とが一体化されるので、構造部材のせん断耐力を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている。
【0012】
請求項2に記載の発明では、補強部材の外面に、緊張部材が配置される溝が形成されているので、補強部材の外面の適正な位置に緊張部材を配置することができる。また、補強部材の外面に配置した緊張部材がずれるのを防ぐことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記構造部材の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記構造部材の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている。
【0014】
請求項3に記載の発明では、構造部材の材軸に対して右巻きの緊張部材と、構造部材の材軸に対して左巻きの緊張部材とが、構造部材の材軸に対してそれぞれ逆方向に構造部材を捻ろうとするので、右巻き及び左巻きの緊張部材の一方に緊張力を付与した際に生じる構造部材の捩れを低減又は無くすことができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記構造部材は、柱又は梁である。
【0016】
請求項4に記載の発明では、柱又は梁とした構造部材に対して、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、前記構造部材の外面に接するようにして前記構造部材の外面を補強部材により取り囲む補強部材配置工程と、前記補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける緊張部材配置工程と、前記緊張部材に緊張力を付与し該緊張力を前記支持部へ伝達することによって前記支持部に前記補強部材を固定する補強部材固定工程と、を有する。
【0018】
請求項5に記載の発明では、補強部材配置工程、緊張部材配置工程及び補強部材固定工程を有する構造部材の補強方法によって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する。
【0019】
補強部材配置工程では、構造部材の外面に補強部材が接するようにして、この補強部材により構造部材の外面を取り囲む。緊張部材配置工程では、補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける。補強部材固定工程では、緊張部材に緊張力を付与しこの緊張力を支持部へ伝達する。これによって、支持部に補強部材を固定する。
【0020】
よって、支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成としたので、構造部材の接合部の曲げ耐力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る補強部材に形成された溝を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る緊張部材の定着方法を示す拡大図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る構造部材の補強構造を示す正面図である。
【図8】図7のB−B断面図である。
【図9】図8のC−C断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す正面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す正面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の第1の実施形態に係る構造部材の補強構造の変形例を示す斜視図である。
【図15】従来の既設柱の補強構造を示す説明図である。
【図16】従来の既設柱の補強構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態では、鉄筋コンクリートによって形成された既設の構造部材を補強する例を示すが、本発明の実施形態は、コンクリート製、鋼製、木製等のさまざまな構造部材の補強に適用することができる。
【0024】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0025】
図1の斜視図、図1のA−A断面図である図2、及び図3(c)の正面図に示すように、第1の実施形態の構造部材の補強構造10は、補強部材としてのパネル体12A〜12D、緊張部材としてのPC鋼より線14A、14B、及び伝達部としての定着部16A、16Bを有し、床スラブ18の支持部106に支持された既設の構造部材としての円柱状の柱20を補強する。柱20は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0026】
パネル体12A〜12Dは、図2に示すように、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0027】
パネル体12A〜12Dは、柱20の外面に内壁面が接触するようにして柱20の周囲に配置されている。すなわち、パネル体12A〜12Dは、柱20の外面に接するようにして柱20の外面を取り囲んでいる。なお、図2に示すように、パネル体12A〜12Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、パネル体12A、12Cの側端面22A、22Cと、パネル体12B、12Dの側端面22B、22Dとの間には隙間が形成されている。
【0028】
図1に示すように、パネル体12A〜12Dの外面には、パネル体12A〜12Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で螺旋状の溝24A、24Bを形成する溝26がそれぞれ形成されている。
【0029】
溝24Aには、PC鋼より線14Aが配置され、溝24Bには、PC鋼より線14Bが配置されている。このようにして、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態でパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0030】
PC鋼より線14Aは、柱20の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられ、PC鋼より線14Bは、柱20の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられている。
【0031】
図4(a)の斜視図に示すように、溝24Aの深さは、溝24Bの深さとPC鋼より線14Aの直径とを足し合わせた長さよりも深くなっている。すなわち、図2に示すように、平面視にてPC鋼より線14Aの外側にPC鋼より線14Bが配置されているので、図4(b)の斜視図、及び図4(c)の断面図に示すように、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所において、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとの干渉を防ぐことができる。説明の都合上、図4(a)、(b)では、パネル体12A〜12Dの側端面22A〜22Dが省略されている。
【0032】
なお、溝24Bの深さは、図4(c)に示すように、パネル体12A〜12Dの外面からPC鋼より線14Bが突出しないようにしてもよいし、パネル体12A〜12Dの外面からPC鋼より線14Bが突出するようにしてもよい。
【0033】
図3(c)に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が床スラブ18の下部に設けられた定着部16A、16Bで床スラブ18に定着され、上端部がパネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bでパネル体12C、12Dに定着されている。
【0034】
これにより、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力が、定着部16A、16Bにより床スラブ18の支持部106へ伝達されて、床スラブ18の支持部106にパネル体12A、12Bが固定され、パネル体12A、12Bにパネル体12C、12Dが固定される。
【0035】
次に、補強構造10を用いた構造部材の補強方法について、図3(a)〜(c)を用いて説明する。
【0036】
構造部材の補強方法では、補強部材配置工程、緊張部材配置工程、緊張工程及び補強部材固定工程を有する構造部材の補強方法によって、床スラブ18の支持部106に支持された既設の柱20を補強する。
【0037】
まず、図3(a)の正面図に示すように、柱20の外面にパネル体12A〜12Dの内壁面が接するようにして、パネル体12A〜12Dにより柱20の外面を取り囲む(補強部材配置工程)。この状態で、パネル体12A、12Bは、床スラブ18の上面に載置され、パネル体12C、12Dは、パネル体12A、12Bの上面に載置されている。
【0038】
次に、図3(b)の正面図に示すように、パネル体12A〜12Dに形成された溝24AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。
【0039】
次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Aの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Aに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Aの下端部を定着部16Aにおいて床スラブ18に定着し、PC鋼より線14Aの上端部を定着部28Aにおいてパネル体12Cに定着する(緊張工程)。
【0040】
定着部16AにおけるPC鋼より線14Aの下端部の床スラブ18への定着は、PC鋼より線14Aの下端部に設けられた雄ネジに、床スラブ18の下面に形成された切り欠き30内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
【0041】
定着部28AにおけるPC鋼より線14Aの上端部のパネル体12Cへの定着は、図5の拡大図に示すように、PC鋼より線14Aの上端部に設けられた雄ネジに、パネル体12Cの上面に形成された切り欠き36内に配置されたアンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって行う。
【0042】
次に、図3(c)に示すように、パネル体12A〜12Dに形成された溝24BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設ける(緊張部材配置工程)。
【0043】
次に、油圧ジャッキ等の緊張装置によってPC鋼より線14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14Bに緊張力を付与した状態で、PC鋼より線14Bの下端部を定着部16Bにおいて床スラブ18に定着し、PC鋼より線14Bの上端部を定着部28Bにおいてパネル体12Dに定着する(緊張工程)。
【0044】
定着部28B、16BにおけるPC鋼より線14Bの上下端部の定着方法は、定着部28A、16AにおけるPC鋼より線14Aの上下端部の定着方法と同様にして行なう。
【0045】
そして、PC鋼より線14A、14Bに対して行った緊張工程により、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与しこの緊張力を床スラブ18の支持部106へ伝達する。これによって、床スラブ18の支持部106にパネル体12A、12Bを固定し、パネル体12A、12Bにパネル体12C、12Dを固定する(補強部材固定工程)。
【0046】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
第1の実施形態の構造部材の補強構造10、及び構造部材の補強方法では、図6の断面図に示すように、PC鋼より線14A、14B(不図示)に付与された緊張力が床スラブ18の支持部106へ伝達されることにより、床スラブ18と柱20との接合部(以下、「支持接合部38」とする)に圧縮応力が発生する。
【0048】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着されるので(矢印40)、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力を、パネル体12A〜12D及び柱20を介して床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0049】
これらにより、支持接合部38に発生する圧縮応力によって、外力として支持接合部38に作用する曲げモーメントMに起因して生じる曲げ引張応力Pを低減することができる。すなわち、支持接合部38の曲げ耐力を向上することができる。
【0050】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着され、柱20とパネル体12A〜12Dとが一体化されるので、柱20のせん断耐力を向上させることができる。
【0051】
また、図1に示すように、PC鋼より線14A、14Bは、パネル体12A〜12Dの外面に形成された溝24A、24B(溝26)に設けられているので、パネル体12A〜12Dの外面の適正な位置にPC鋼より線14A、14Bを配置することができる。また、パネル体12A〜12Dの外面に設けたPC鋼より線14A、14Bがずれるのを防ぐことができる。
【0052】
また、柱20の材軸に対して上方へ向かって右巻き(時計回り)に設けられたPC鋼より線14Aと、柱20の材軸に対して上方へ向かって左巻き(反時計回り)に設けられたPC鋼より線14Bとが、柱20の材軸に対してそれぞれ逆方向に柱20を捻ろうとするので、PC鋼より線14A、14Bの一方に緊張力を付与した際に生じる柱20の捩れを低減又は無くすことができる。
【0053】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bによりパネル体12A〜12Dが柱20に圧着されるので、接着剤等を用いずに柱20の外面にパネル体12A〜12Dを固定することができる。この場合、柱20の外面とパネル体12A〜12Dの内壁面との間に、グラウト等の充填材を充填したり、又は弾性体を挟み込んだりすれば、柱20の外面に対するパネル体12A〜12Dの内壁面の密着度を高めることができる。
【0054】
また、柱20はコンクリートによって形成されているので、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、柱20の材軸方向にプレストレスが導入される。これにより、柱20の材軸方向に作用する引張応力が低減される。よって、柱20の材軸方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、柱20のひび割れ抵抗及び引張耐力を向上させることができる。
【0055】
また、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bにより、柱20の周方向にプレストレスが導入される。これにより、柱20が周方向に拘束されコンファインド効果が発揮される。よって、柱20の周方向にプレストレスを導入していない構成に比べて、柱20の圧縮耐力を向上させることができる。
【0056】
そして、柱20に導入される材軸方向のプレストレスによって、柱20に作用する曲げモーメントに起因して柱20に生じる曲げ引張応力が低減され、柱20に導入される周方向のプレストレスによって、柱20に作用する曲げモーメントに起因して柱20に生じる曲げ圧縮応力が低減されるので、柱20の曲げ耐力を向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0058】
なお、第1の実施形態では、補強部材を、円筒状の部材を平面視にて左右に二等分した形状にほぼ近いパネル体12A〜12Dとした例を示したが、補強部材は、柱20の外面を取り囲んで接することができる部材であればよい。また、3つ以上のパネル体によって柱20の外面を取り囲むようにしてもよいし、柱20の周方向にパネル体を点在させてもよい。
【0059】
多くの数のパネル体によって柱20の外面を取り囲むようにすれば、パネル体の大きさや重量を小さくすることができる。よって、パネル体の運搬作業や設置作業の煩雑さを軽減することができる。また、構造断面の大きさが異なるさまざまな柱20の外面を取り囲むことが可能となるので、パネル体の標準化を図ることができる。
【0060】
また、第1の実施形態では、補強部材としてのパネル体12A〜12Dを鉄筋コンクリートによって形成した例を示したが、補強部材は、柱20と一体となることにより柱20のせん断耐力を向上させることができる材料によって形成されていればよく、例えば、高強度コンクリート、繊維補強コンクリート、鋼材、樹脂によって形成してもよい。
【0061】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bを、パネル体12A〜12Dの外面(外側)に設けた例を示したが、パネル体12A〜12Dの内部にPC鋼より線14A、14Bを設けてもよい。
【0062】
また、第1の実施形態では、2つのPC鋼より線14A、14Bをパネル体12A〜12Dの外面に設けた例を示したが、3つ以上のPC鋼より線をパネル体12A〜12Dに設けてもよい。
【0063】
また、第1の実施形態では、緊張部材をPC鋼より線14A、14Bとした例を示したが、緊張部材は、緊張力を確実に付与できる線状の部材であればよい。PC鋼より線、PC鋼線等のPC鋼材によって構成するのが好ましい。
【0064】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上下端部を同時に引っ張り、PC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させた例を示したが、PC鋼より線14A、14Bの下端部をアンカープレート32及びナット34によって床スラブ18に定着しておき、PC鋼より線14A、14Bの上端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよいし、PC鋼より線14A、14Bの上端部をアンカープレート32及びナット34によってパネル体12C、12Dに定着しておき、PC鋼より線14A、14Bの下端部を引っ張ってPC鋼より線14A、14Bに緊張力を付与させてもよい。
【0065】
また、図3(c)に示すように、床スラブ18内に配置されるPC鋼より線14A、14Bは、床スラブ18と柱20との接合面(以下、「接合面68」とする)に対して斜めに配置されてもよいし、接合面68に対して垂直に配置されてもよいし、接合面68に対する垂線を旋回軸として螺旋状に配置されてもよい。
【0066】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0067】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0068】
図7の正面図に示すように、第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、パネル体12C、12Dの上面に伝達部材としてのブロック体42A〜42Dが載置されている。ブロック体42A〜42Dは、図7のB−B断面図である図8に示すように、円筒状の部材を平面視にて四等分した円弧形状にほぼなっており、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0069】
ブロック体42A〜42Dは、柱20の外面に内壁面が接触するようにして柱20の周囲に配置されている。すなわち、ブロック体42A〜42Dは、柱20の外面に接するようにして柱20の外面を取り囲んでいる。なお、図8に示すように、ブロック体42A〜42Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、ブロック体42Aの側端面44Aとブロック体42Bの側端面44B、ブロック体42Bの側端面44Bとブロック体42Cの側端面44C、ブロック体42Cの側端面44Cとブロック体42Dの側端面44D、及びブロック体42Dの側端面44Dとブロック体42Aの側端面44Aとの間には隙間が形成されている。
【0070】
ブロック体42A、42Cには、アンカープレート46を介したナット48により、改修のために柱20に形成された略水平の貫通孔50を貫通する鋼棒52の両端が固定されている。
【0071】
ブロック体42B、42Dには、アンカープレート46を介したナット48により、改修のために柱20に形成された略水平の貫通孔54を貫通する鋼棒56の両端が固定されている。
【0072】
鋼棒52と鋼棒56とは、円形の横断面を有し、平面視にて略直交している。また、図8のC−C断面図である図9に示すように、鋼棒56は、鋼棒52の下方に配置されている。
【0073】
図7に示すように、ブロック体42A〜42Dの外面には、溝62がそれぞれ形成されている。そして、ブロック体42A〜42Dが柱20の外面を取り囲んだ状態で、これらの溝62が、パネル体12A〜12Dの溝24A、24Bと連続する螺旋状の溝60A、60Bを形成している。
【0074】
溝60A、60Bは、溝24A、24Bと同様に、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとが交差する所で、PC鋼より線14AとPC鋼より線14Bとの干渉を防ぐことができる深さに形成されている。
【0075】
PC鋼より線14A、14Bは、緊張力が付与された状態で、下端部が床スラブ18の下部に設けられた定着部16A、16Bにおいて床スラブ18に定着され、上端部がブロック体42C、42Aの上部に設けられた定着部64B、64Aにおいてブロック体42C、42Aに定着されている。定着部64A、64Bの定着機構は、パネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bの定着機構と同様である。
【0076】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0077】
第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、第1の実施形態の構造部材の補強構造10とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、パネル体12C、12Dの上面にブロック体42A〜42Dを設置することによって、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を、ブロック体42A〜42D及び鋼棒52、56を介して床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0079】
すなわち、第1の実施形態の構造部材の補強構造10では、柱20の外面とパネル体12A〜12Dの内壁面との間の摩擦力により、パネル体12A〜12Dから柱20へPC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を伝達しているのに対して、第2の実施形態の構造部材の補強構造66では、この伝達機構に加えて、鋼棒52、56から直接、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を柱20に加えているので、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を床スラブ18の支持部106へ効果的に伝達することができる。
【0080】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0081】
なお、第2の実施形態では、柱20に貫通させた2つの鋼棒52、56により、PC鋼より線14A、14Bに付与された緊張力の鉛直成分を柱20に加える例を示したが、力の伝達効率をさらに上げたい場合には、鋼棒52、56の本数を増やしたり、角柱状にしたりすればよい。鋼棒52、56の本数を増やす場合には、断面欠損による柱20の強度低下を十分に考慮する必要がある。
【0082】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0083】
なお、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造部材を床スラブ18に設けられた柱20とした例を示したが、梁に設けられた柱や、柱に設けられた梁を補強対象の構造部材とした場合においても、第1及び第2の実施形態の構造部材の補強構造10、66を適用することができる。
【0084】
また、第1及び第2の実施形態の構造部材の補強構造10、66を応用して、例えば、図10、11に示すように、支持構造体を介して両側に設けられた既設の構造部材を同時に補強することができる。
【0085】
図10の正面図に示すように、構造部材の補強構造70では、下柱72上に梁76が支持され、梁76上に上柱74が支持されている。下柱72、梁76及び上柱74は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0086】
そして、下柱72及び上柱74の外面に接するようにして、下柱72及び上柱74の外面をパネル体12A〜12Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bがパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0087】
PC鋼より線14A、14Bは、梁76の内部を水平面に対して斜めに貫通する貫通孔78A、78Bに挿入されている。
【0088】
ここで、PC鋼より線14A、14Bが挿入された貫通孔78A、78Bにグラウトを充填して硬化させ、PC鋼より線14A、14Bを梁76に完全に定着させた場合には、この定着部分が伝達部となる。
【0089】
また、PC鋼より線14A、14BをアンボンドのPC鋼より線にして、PC鋼より線14A、14Bを梁76に定着しないようにした場合には、梁76がパネル体12A、12Bによって上下から挟まれ、梁76にパネル体12A、12Bが圧着されて固定される。よって、上柱74に対しては、梁76の下方に位置するパネル体12A、12Bと梁76との接合部80が伝達部となり、下柱72に対しては、梁76の上方に位置するパネル体12A、12Bと梁76との接合部82が伝達部となる。
【0090】
図11の正面図に示すように、構造部材の補強構造84では、梁86、88が柱90に支持されて左右に張り出している。梁86、88、及び柱90は、鉄筋コンクリートによって形成されている。
【0091】
そして、梁86、88の外面に接するようにして、梁86、88の外面をパネル体12A〜12Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14A、14Bがパネル体12A〜12Dに螺旋状に設けられている。
【0092】
PC鋼より線14A、14Bは、柱90の内部を鉛直面に対して斜めに貫通する貫通孔92A、92Bに挿入されている。
【0093】
ここで、PC鋼より線14A、14Bが挿入された貫通孔92A、92Bにグラウトを充填して硬化させ、PC鋼より線14A、14Bを柱90に完全に定着させた場合には、この定着部分が伝達部となる。
【0094】
また、PC鋼より線14A、14BをアンボンドのPC鋼より線にして、PC鋼より線14A、14Bを柱90に定着しないようにした場合には、柱90がパネル体12A、12Bによって左右から挟まれ、柱90にパネル体12A、12Bが圧着されて固定される。よって、梁86に対しては、柱90の右側に位置するパネル体12A、12Bと柱90との接合部94が伝達部となり、梁88に対しては、柱90の左側に位置するパネル体12A、12Bと柱90との接合部96が伝達部となる。
【0095】
また、第1の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、パネル体12C、12Dの上部に設けられた定着部28A、28Bでパネル体12C、12Dに定着し、第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの上端部を、ブロック体42A、42Cの上部に設けられた定着部64A、64Bでブロック体42A、42Cに定着した例を示したが、PC鋼より線をパネル体12C、12Dの上部や、ブロック体42A〜42Dの上部に巻きつけるようにしてもよい。
【0096】
例えば、図12の斜視図に示すように、PC鋼より線14A、14Bを1つのPC鋼より線98とし、パネル体12C、12Dの上部に形成された円環状の溝100にPC鋼より線98を巻きつけて、パネル体12C、12DにPC鋼より線98を定着するようにしてもよい。図12は、パネル体12C、12Dに対する定着方法を示したものであるが、ブロック体42A〜42Dに対しても同様の定着方法を用いればよい。
【0097】
また、第1及び第2の実施形態では、旋回方向が逆向きのPC鋼より線14A、14Bを、パネル体12A〜12Dに設けた例を示したが、図13の平断面図に示すように、パネル体12A〜12Dを二層にして、内側に配置されたパネル体12A〜12D(以下、「パネル体102A〜102D」とする)の外面に形成された溝24AにPC鋼より線14Aを螺旋状に設け、外側に配置されたパネル体12A〜12D(以下、「パネル体104A〜104D」とする)の外面に形成された溝24BにPC鋼より線14Bを螺旋状に設けてもよい。
【0098】
図14(a)の斜視図には、柱20の外面に接するようにして、下柱20の外面をパネル体102A〜102Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Aがパネル体102A〜102Dに螺旋状に設けられている状態が示されている。
【0099】
また、図14(b)の斜視図には、パネル体102A〜102Dの外面に接するようにして、パネル体102A〜102Dの外面をパネル体104A〜104Dで取り囲み、緊張力が付与されたPC鋼より線14Bがパネル体104A〜104Dに螺旋状に設けられている状態が示されている。
【0100】
また、第1及び第2の実施形態では、補強対象となる構造部材を円柱状の柱20とした例を示したが、補強対象となる構造部材の構造断面は、どのような形状でもよい。例えば、補強対象となる構造部材の構造断面が、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、多角形であってもよい。また、補強対象となる構造部材が錐体状であってもよい。
【0101】
また、第1及び第2の実施形態では、PC鋼より線14A、14Bの端部に設けられた雄ネジに、アンカープレート32を介してナット34を捩じ込み、締め付けることによって、PC鋼より線14A、14Bの端部を定着する例を示したが、くさびを用いた定着方法等の他の方法によってPC鋼より線14A、14Bの端部を定着してもよい。
【0102】
また、第1及び第2の実施形態の説明で用いられている用語の「螺旋」は、円柱面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間曲線を意味するが、角柱面上、円錐面上及び角錐面上を回転しながら軸方向に一定の速度で進んでいく時にできる渦巻状の空間折れ線も螺旋に含まれる。また、PC鋼より線14A、14Bの螺旋形状の捻りは平面視にて360度未満であってもよい。
【0103】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
10、66、70、84 構造部材の補強構造
12A〜12D、102A〜102D、104A〜104D パネル体(補強部材)
14A、14B、98 PC鋼より線(緊張部材)
16A、16B 定着部(伝達部)
20 柱(構造部材)
24A、24B 溝
72 下柱(構造部材)
74 上柱(構造部材)
80、82、94、96 接合部(伝達部)
86、88 梁(構造部材)
90 柱(支持部)
106 支持部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造において、
前記構造部材の外面を取り囲んで接する補強部材と、
前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、
前記緊張部材に付与された緊張力を前記支持部へ伝達し前記支持部に前記補強部材を固定する伝達部と、
を有する構造部材の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている請求項1に記載の構造部材の補強構造。
【請求項3】
前記構造部材の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記構造部材の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている請求項1又は2に記載の構造部材の補強構造。
【請求項4】
前記構造部材は、柱又は梁である請求項1〜3の何れか1項に記載の構造部材の補強構造。
【請求項5】
支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、
前記構造部材の外面に接するようにして前記構造部材の外面を補強部材により取り囲む補強部材配置工程と、
前記補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける緊張部材配置工程と、
前記緊張部材に緊張力を付与し該緊張力を前記支持部へ伝達することによって前記支持部に前記補強部材を固定する補強部材固定工程と、
を有する構造部材の補強方法。
【請求項1】
支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強構造において、
前記構造部材の外面を取り囲んで接する補強部材と、
前記補強部材に螺旋状に設けられ緊張力が付与された緊張部材と、
前記緊張部材に付与された緊張力を前記支持部へ伝達し前記支持部に前記補強部材を固定する伝達部と、
を有する構造部材の補強構造。
【請求項2】
前記補強部材の外面に、前記緊張部材が配置される溝が形成されている請求項1に記載の構造部材の補強構造。
【請求項3】
前記構造部材の材軸に対して右巻きの前記緊張部材と、前記構造部材の材軸に対して左巻きの前記緊張部材とが設けられている請求項1又は2に記載の構造部材の補強構造。
【請求項4】
前記構造部材は、柱又は梁である請求項1〜3の何れか1項に記載の構造部材の補強構造。
【請求項5】
支持部に支持された既設の構造部材を補強する構造部材の補強方法において、
前記構造部材の外面に接するようにして前記構造部材の外面を補強部材により取り囲む補強部材配置工程と、
前記補強部材に緊張部材を螺旋状に設ける緊張部材配置工程と、
前記緊張部材に緊張力を付与し該緊張力を前記支持部へ伝達することによって前記支持部に前記補強部材を固定する補強部材固定工程と、
を有する構造部材の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−226071(P2011−226071A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94026(P2010−94026)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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