説明

標準尺収納器

【課題】 本発明は、標準尺を収納する標準尺収納器に関し、標準尺を支持する支持部に対して標準尺を高い精度で位置決めすることを目的とする。
【解決手段】 標準尺を収納する標準尺収納器において、前記標準尺を支持する支持部が所定間隔を置いて設けられた底板と、前記標準尺の長さ方向を前記底板の所定位置に位置決めする位置決め手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標準尺を収納する標準尺収納器に関する。
【背景技術】
【0002】
標準尺は、精密な目盛りが刻印されたガラス製のスケールであり、例えば、精密寸法測定機のステージ精度を校正するための長さ基準器として広く使用されている。
【0003】
そして、標準尺は、標準尺を保護するため、箱状の標準尺収納器に収容されて運搬、保管されている。
【0004】
また、標準尺を精密寸法測定機のステージ精度を校正するための長さ基準器として使用する場合には、標準尺収納器から取り出された標準尺が、ステージ上の所定の位置に移動され、例えば標準尺のベッセル点に対応する間隔を置いて形成される支持部に載置される。
【特許文献1】特開2001−108408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、例えば標準尺に設けられたベッセル点の位置を示すマークが支持部に重なるように、単に目視等により確認しながら標準尺を支持部上に載置しているため、支持部上に標準尺を高い精度で載置することが困難であるという問題があった。
【0006】
すなわち、本発明者のシミュレーション結果によれば、例えば1mの標準尺では、標準尺のベッセル点に対応する間隔を置いて形成される支持部に対して、標準尺のマークの位置が0.3mm程度ずれると、標準尺の長さが2nm程度変化することになる。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題を解決するためになされたもので、標準尺を支持する支持部に対して標準尺を高い精度で位置決めすることができる標準尺収納器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の標準尺収納器は、標準尺を収納する標準尺収納器において、前記標準尺を支持する支持部が所定間隔を置いて設けられた底板と、前記標準尺の長さ方向を前記底板の所定位置に位置決めする位置決め手段とを有することを特徴とする。
【0009】
第2の発明の標準尺収納器は、第1の発明の標準尺収納器において、前記位置決め手段は、前記底板の端部に固定された側板と、前記側板に配置され前記標準尺の長さ方向の端面に先端を当接される位置決め部材とを有することを特徴とする。
【0010】
第3の発明の標準尺収納器は、第1または第2の発明の標準尺収納器において、前記標準尺を前記底板側に固定する固定手段を有することを特徴とする。
【0011】
第4の発明の標準尺収納器は、第3の発明の標準尺収納器において、前記固定手段は、前記標準尺を覆って前記底板に着脱可能に配置される蓋板と、前記蓋板に配置され前記標準尺を前記底板側に押圧する固定部材とを有することを特徴とする。
【0012】
第5の発明の標準尺収納器は、第1ないし第4のいずれか1の発明の標準尺収納器において、前記所定間隔は、前記標準尺のベッセル点またはエアリー点の間隔と同一または略同一の間隔であることを特徴とする。
【0013】
第6の発明の標準尺収納器は、第1ないし第5のいずれか1の発明の標準尺収納器において、前記底板は、前記標準尺の線膨張係数と同一または略同一の線膨張係数を有する金属からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、標準尺を支持する支持部に対して標準尺を高い精度で位置決めすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1および図2は、本発明の標準尺収納器の一実施形態を示している。
【0017】
この標準尺収納器は、底板11、側板13A,13B,13C,13D、蓋板15を有している。底板11、側板13A,13B,13C,13Dおよび蓋板15により標準尺Sを収納する長尺状のケースが形成されている。
【0018】
標準尺Sは、図3に示すように、精密な目盛線Lが刻印されたガラス製のスケールであり、例えばベッセル点には、マークM1が刻設されている。ベッセル点とは、標準尺Sのように均等荷重の梁を2点で支持した時に、梁の中立軸上の両端間距離に与える撓みの影響が最小になるような支持位置をいう。
【0019】
底板11は、長尺状をしており、標準尺Sの線膨張係数と同一または略同一の線膨張係数を有するインバー等の金属により形成されている。底板11の長手方向には、所定間隔を置いて支持部17が形成されている。支持部17の頂点は、図4に示すように、標準尺Sのベッセル点に対応する間隔をおいて形成されている。支持部17は、断面半円状をしており、底板11の長手方向に直交する方向に延在して形成されている。支持部17の端面の中央には、ベッセル点に対応する位置であることを示すマークM2が刻設されている。支持部17は、底板11に一体形成または別体形成されている。別体形成する場合には、底板11と異なる材質の部材を使用しても良く、接着材等により底板11に強固に固定される。
【0020】
底板11の長手方向の1辺およびこの両側の辺の内側には、図5ないし図7に示すように、側板13A,13B,13Cが立設されている。側板13A,13B,13Cは、インバー等の金属により形成されており、底板11に溶接、接着、螺子等により固定されている。側板13Aには、底板11の長手方向に螺子穴13aが形成されている(図7に図示)。螺子穴13aには、位置決め部材19が螺合されている。位置決め部材19には、ボルト等が使用され標準尺Sの長さ方向の位置決めを行う。
【0021】
蓋板15の長手方向の1辺には、図1および図2に示すように、側板13Dが立設されている。側板13Dは、インバー等の金属により形成されており、蓋板15に溶接、接着、螺子等により固定されている。側板13Dは、底板11の側板13Dに対向する位置に位置される。側板13Dには、底板11の長手方向に螺子穴13bが形成されている(図1に図示)。螺子穴13bには、固定部材21が螺合されている。固定部材21には、樹脂製のボルト等が使用される。固定部材21により標準尺Sを長さ方向に押圧すると標準尺Sが側板13Aと側板13Dの間に固定される。この実施形態では、側板13B,13Cにも固定部材22が螺合されており、固定部材22により標準尺Sの幅方向の両側が固定される(図2に図示)。
【0022】
蓋板15は、インバー等の金属により形成されている。蓋板15は、側板13B,13Cに着脱自在に固定可能とされている。側板13B,13Cの上面には、図6に示すように、螺子穴13cが形成されている。一方、蓋板15には、図2に示すように、螺子穴13cに対応する位置に貫通穴13dが形成されており、蓋板15がボルト23により側板13B,13Cに着脱自在に固定される。蓋板15には、図1に示すように、上下方向に螺子穴13eが形成されている。螺子穴13eには、固定部材25が螺合されている。固定部材25には、樹脂製のボルト等が使用される。固定部材25により標準尺Sを底板11側に押圧すると標準尺Sが底板11に固定される。
【0023】
上述した標準尺収納器では、側板13Aに配置される位置決め部材19の先端に標準尺Sの端面S1(図1に示す)が当接した時に、標準尺Sのベッセル点が底板11の支持部17上に正確に位置するように位置決め部材19の位置調整が行われ、調整位置において位置決め部材19が固定される。
【0024】
位置決め部材19の位置調整は、例えば図6および図7に示すように、標準尺収納器から蓋板15および側板13Dを取り外した状態で、標準尺Sのベッセル点を示すマークM1と底板11の支持部17の中心を示すマークM2とを、例えば顕微鏡、エッジ検出器等により観察しながら、位置決め部材19を回動して移動することにより行われる。
【0025】
位置決め部材19の移動前には、標準尺Sのベッセル点を示すマークM1が底板11の支持部17の中心を示すマークM1より位置決め部材19側に位置され、この状態で標準尺Sの端面S1が位置決め部材19に当接している。この状態から位置決め部材19を回動して標準尺S側に移動すると標準尺Sが移動する。そして、標準尺Sのベッセル点を示すマークM1と底板11の支持部17の中心を示すマークM2とが重なる位置で位置決め部材19の移動が停止され、位置決め部材19が固定される。なお、マークM1,M2は、位置決め部材19側あるいは位置決め部材19から遠い側の一方のみが重なれば良い。位置決め部材19の側板13Aへの固定は、例えば螺子穴13aと位置決め部材19の外周に跨ってポンチを打ち込みこの部(矢符Pで示す)を潰すことにより行われる。
【0026】
上述した標準尺収納器に収納される標準尺Sは、例えば、精密寸法測定機のステージ精度を校正するための長さ基準器として使用される。そして、図6および図7に示すように、標準尺収納器から蓋板15および側板13Dを取り外した状態で、精密寸法測定機のステージ上の所定の位置に配置され長さ基準器として使用される。そして、この場合には、ステージ上に載置した後に、標準尺Sが位置決め部材19に向けて手等により押圧され、標準尺Sの端面S1が位置決め部材19に確実に当接される。
【0027】
上述した標準尺収納器では、標準尺収納器から蓋板15および側板13Dを取り外し、標準尺Sの端面S1を位置決め部材19に当接するようにしたので、標準尺Sを支持する支持部17に対して標準尺Sを高い精度で位置決めすることができる。すなわち、標準尺Sの端面S1を位置決め部材19に当接した状態では、標準尺Sのベッセル点が、底板11の支持部17上に常に高い精度で位置することになる。従って、支持部17上に載置される標準尺Sの撓みが殆ど一定に維持され変動することがなくなり、標準尺Sに形成される目盛線Lの間隔を常に一定の値に維持することができる。
【0028】
なお、目盛線Lの間隔は、予めレーザ干渉測長器等を用いて精密に測定されており、目盛線Lの間隔には、その値が使用される。この実施形態では、レーザ干渉測長器等による目盛線Lの間隔の測定時にも、標準尺収納器から蓋板15および側板13Dを取り外し、標準尺Sの端面S1を位置決め部材19に当接した状態で測定が行われる。従って、標準尺Sを長さ基準器として使用する時の目盛線Lの間隔は、レーザ干渉測長器等により測定された目盛線Lの間隔と殆ど同一になり測定精度を高めることができる。
【0029】
また、上述した標準尺収納器では、運搬時等に、固定部材21,22,25により標準尺Sを固定するようにしたので、収納ケース内において標準尺Sが移動することがなくなり、標準尺Sを確実に保護することができる。
(実施形態の補足事項)
以上、本発明を上述した実施形態によって説明してきたが、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下のような形態でも良い。
【0030】
(1)上述した実施形態では、底板11の支持部17を、底板11の長手方向に直交する方向に延在して形成した例について説明したが、例えば、図8に示すように、一方の支持部を幅方向に間隔を置いて形成される2箇所の突出部17a,17bにより形成し、他方の支持部17を幅方向の中間に位置する1箇所の突出部17cにより形成しても良い。
【0031】
(2)上述した実施形態では、底板11の支持部17を、標準尺Sのベッセル点に対応する位置に形成した例について説明したが、例えば、エアリー点に形成しても良い。エアリー点とは、標準尺Sを支持した時に標準尺Sの端面が垂直になるような点をいう。なお、必ずしも底板11の支持部17をベッセル点あるいはエアリー点に対応する位置に厳密に形成する必要はなく、位置決め部材19により標準尺Sが常に同一の位置で支持されれば良い。すなわち、長さ基準器等として使用する時に、常に標準尺Sの撓みが同一あるいは殆ど同一になるように支持できれば良い。
【0032】
(3)上述した実施形態では、蓋板15を側板13B,13Cにボルトにより着脱自在に連結した例について説明したが、例えば、蝶番等により連結しても良い。
【0033】
(4)上述した実施形態では、蓋板15および側板13A,13B,13C,13Dをインバー等の金属により形成した例について説明したが、例えば、軽量化を図るため樹脂、アルミニウム等により形成しても良い。この場合、側板13Aのみをインバー等の金属により形成し、位置決め部材19の精度維持を図るのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の標準尺収納器の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の上面図である。
【図3】標準尺を示す説明図である。
【図4】底板に形成される支持部を示す説明図である。
【図5】図1の標準尺収納器から蓋板等を取り外した状態を示す斜視図である。
【図6】図5の上面図である。
【図7】図5の側面図である。
【図8】底板に形成される支持部の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
11…底板、13A,13B,13C,13D…側板、15…蓋板、17…支持部、19…位置決め部材、21,22,25…固定部材、S…標準尺、S1…端面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準尺を収納する標準尺収納器において、
前記標準尺を支持する支持部が所定間隔を置いて設けられた底板と、
前記標準尺の長さ方向を前記底板の所定位置に位置決めする位置決め手段と、
を有することを特徴とする標準尺収納器。
【請求項2】
請求項1記載の標準尺収納器において、
前記位置決め手段は、
前記底板の端部に固定された側板と、
前記側板に配置され前記標準尺の長さ方向の端面に先端を当接される位置決め部材と、
を有することを特徴とする標準尺収納器。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の標準尺収納器において、
前記標準尺を前記底板側に固定する固定手段を有することを特徴とする標準尺収納器。
【請求項4】
請求項3記載の標準尺収納器において、
前記固定手段は、
前記標準尺を覆って前記底板に着脱可能に配置される蓋板と、
前記蓋板に配置され前記標準尺を前記底板側に押圧する固定部材と、
を有することを特徴とする標準尺収納器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の標準尺収納器において、
前記所定間隔は、前記標準尺のベッセル点またはエアリー点の間隔と同一または略同一の間隔であることを特徴とする標準尺収納器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の標準尺収納器において、
前記底板は、前記標準尺の線膨張係数と同一または略同一の線膨張係数を有する金属からなることを特徴とする標準尺収納器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−19770(P2010−19770A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182345(P2008−182345)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】