説明

標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラム

【課題】測定された核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、初期鋳型量を正確に決定することができる、標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、核酸増幅反応における熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行い、フィッティングされた理論式から、初期鋳型量を算出する場合において、理論式は、指数パラメータである環境係数、初期鋳型量のパラメータ、および、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(以後、「PCR」と記す。)と呼ばれる核酸増幅反応が報告されている。PCRは、核酸分子中の特定核酸領域を容器内で約100万倍にも増幅するものである。PCRを利用することにより、標的核酸の特定核酸領域を、増幅された状態で検出することが可能となり、感度的には1分子の核酸から病原体を検出することも可能となっている。
【0003】
この増幅された特定核酸領域の一般的な検出方法としては、PCR終了後の反応溶液をアガロース電気泳動により分離した後に染色し、バンドの移動度(分子量)で判別する方法や、この反応溶液をドットハイブリダイゼーション法により検出する方法が行われている。
【0004】
ここで、従来のPCRを利用した核酸検出方法においては、一旦、PCR終了後の反応溶液を反応容器から取り出して処理するものであるため、増幅された特定核酸領域が環境中に飛散する場合がある。飛散した特定核酸領域が実験室内の他の検体に混入すると、この核酸が次のPCRの鋳型核酸となってしまい、他の検体の検査において偽陽性の要因となるおそれがある。
【0005】
そのため、近年、試料中の核酸増幅量に相当する蛍光強度を、熱サイクル毎に測定するリアルタイムPCRという方法が提案されているが、依然として、試料中の標的核酸の初期鋳型量を分析することが難しいという欠点がある。すなわち、増幅量が少ない場合は蛍光強度が微弱なため測定ができず、そのため増幅反応混合物中の初期鋳型量に相当するサイクル数0における蛍光強度を正確に算出することは困難である。
【0006】
そこで、初期鋳型量の測定方法として、特許文献1が開示されている。この測定方法では、まず、一つの被検試料は、未知濃度の特異的核酸配列を有し、他の被検試料は、同じ特異的核酸配列を異なる既知濃度で含む複数の被検試料を準備する。そして、既知濃度および未知濃度の被検試料を、複数のサイクルについて並行して熱サイクルに供する。つづいて、被検試料から輻射される蛍光を測定し、実時間で各反応混合物がある強度(例えば、検出レベル以上の所定の強度)をもって蛍光を発するための必要なサイクル数(以後、「C値」と記す。)を決定する。そして、既知濃度の被検試料における、特異的核酸配列の濃度対C値を示す検量線を作成し、未知核酸濃度の被検試料のC値を作成した検量線にあてはめ、未知濃度の被検試料中の特異的核酸配列の初期鋳型量を決定する。
【0007】
また、Applied Biosystems社製のReal−Time PCR System(製品名)の製品説明資料には、基準とした試料のC値の差から相対値を求める相対定量法である比較C法が示されている(非特許文献1参照)。この方法では、基準とした試料のC値の差から相対値を求め、PCR増幅効率を100%と仮定して、初期鋳型量を決定する。
【0008】
また、特許文献2には、以下の初期鋳型量の測定方法が開示されている。この測定方法では、まず、被検試料を、複数のサイクルについて熱サイクルに供する。この時、被検試料から核酸が増幅された量に相当する蛍光が輻射されるので、この輻射された蛍光を測定する。そして、測定した値を、dsDNAのモル濃度に変換し、dsDNAのモル濃度対サイクル数の測定曲線を得る。そして、出発プライマーモル濃度をパラメータの一つとする理論曲線にこの測定曲線をあてはめ、サイクル数0におけるdsDNAのモル濃度つまり被検試料中の初期鋳型量を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−163397号公報
【特許文献2】特開平8−66199号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“今だからこそリアルタイムPCR〜検量線を引かなくても定量できる?”、[online]、2009年、Applied Biosystems Japan、[平成21年2月24日検索]、インターネット<URL:http://www.appliedbiosystems.co.jp/website/jp/biobeat/contents.jsp?COLUMNPGCD=78973&COLUMNCD=76448&TYPE=C&BIOCATEGORYCD=7>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の測定方法においては、検量線を必要とする場合には、多数の既知濃度の被検試料を準備しなければならず未知濃度の被検試料の処理数が少なくなり、一方、検量線を必要としない場合には、実際のPCR増幅効率が必ずしも正確に反映されず、得られた初期鋳型量の正確性が低いという問題点を有していた。
【0012】
例えば、特許文献1に記載の測定方法では、毎回PCR増幅効率が反映された検量線を作成するため、得られる初期鋳型量の正確性が高いものの、毎回の実験毎に検量線を作成する必要があり、既知濃度の被検試料を多量に用意しなければならないという問題がある。また、複数の既知濃度の被検試料のPCRを行う必要があるため、未知濃度の被検試料の処理数が減ってしまうという問題がある。
【0013】
また、従来の比較C法による測定方法(非特許文献1参照)では、検量線作成用の複数の既知濃度の被検試料を必要とせず、多量の未知濃度の被検試料を処理できるものの、PCR増幅効率を100%と仮定しているため、実際のPCR増幅効率(多くの場合、100%とならない。)が結果に反映されず、得られた初期鋳型量の正確性が低くなってしまうという問題がある。
【0014】
また、特許文献2に記載の方法では、検量線を必要とせず、同時に実際のPCR増幅効率を結果に反映するので、得られる初期鋳型量の正確性が高く、多量の未知濃度の被検試料を処理できるとも考えられる。しかしながら、蛍光測定値をdsDNAのモル濃度に変換するには、事前に用意された蛍光測定値とdsDNAモル濃度との関係を用いるため、この時の蛍光測定条件と、PCRにより測定曲線を得る時の測定条件が異なると、理論式のパラメータである出発プライマー濃度と被検試料における増幅核酸のモル濃度との関係が不正確となってしまい、理論式が成立しなくなるという問題がある。また、特許文献2に記載の理論式では、実際のPCR増幅効率を正確に反映できるものではないため、測定曲線を理論式にあてはめた結果得られた初期鋳型量の正確性が低くなるという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みて創案されたものであり、測定された核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができる、標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するため、本発明の標的核酸測定方法は、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめることにより、被検試料中の初期鋳型量を算出する標的核酸測定方法であって、前記理論式は、指数パラメータである環境係数、前記初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含むこと、を特徴とする。
【0017】
また、本発明の標的核酸測定方法は、上記記載の標的核酸測定方法において、前記理論式における前記内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより、前記内部標準補正を行う項、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度のバックグラウンド値を前記内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値を、前記内部標準補正を行う項から減ずることにより、前記ベースライン補正を行う項、を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の標的核酸測定方法は、上記記載の標的核酸測定方法において、前記理論式における、前記標的核酸増幅時の飽和量、前記反応促進係数、および、前記反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータ、および、前記環境係数により、前記核酸増幅反応の増幅効率を定義すること、を特徴とする。
【0019】
また、本発明の標的核酸測定方法は、上記記載の標的核酸測定方法において、前記理論式は、前記内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される前記標的核酸の増幅量を、前記初期鋳型量に対する、前記熱サイクル数ごとの前記増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量を減じた数で表すこと、を特徴とする。
【0020】
また、本発明の標的核酸測定方法は、上記記載の標的核酸測定方法において、前記理論式は、以下に示す式であること、を特徴とする。
【数1】

(ここで、Nは、前記初期鋳型量、jは、前記熱サイクル数、Nは、前記熱サイクル数jにおける前記標的核酸の増幅量、Nmaxは、前記標的核酸増幅時の飽和量、ρは、前記反応促進係数、μは、前記反応阻害係数、Kは、前記環境係数である。また、Sは、前記標的核酸の単位あたりの前記検出強度、I1nは、前記熱サイクル数nにおける前記標的核酸の増幅量の検出強度、I0nは、前記熱サイクル数nにおける前記内部標準の検出強度である。)
【0021】
また、本発明の標的核酸測定方法は、上記記載の標的核酸測定方法において、最小二乗法を用いて前記理論式にあてはめること、を特徴とする。
【0022】
また、本発明は、標的核酸測定装置に関するものであり、本発明の標的核酸測定装置は、記憶部と制御部を少なくとも備え、前記記憶部は、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、を備え、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティング手段と、前記理論式フィッティング手段によりフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、標的核酸測定システムに関するものであり、本発明の標的核酸測定システムは、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、標的核酸の増幅量の検出強度を前記熱サイクル数ごとに測定する測定部を備えた測定装置と、記憶部と制御部を少なくとも備えた情報処理装置と、を備えた標的核酸測定システムであって、前記記憶部は、前記測定部により測定された、前記熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとの前記標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、を備え、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティング手段と、前記理論式フィッティング手段によりフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、標的核酸測定プログラムに関するものであり、本発明の標的核酸測定プログラムは、記憶部と制御部を少なくとも備えた情報処理装置に実行させるための標的核酸測定プログラムであって、前記記憶部は、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、を備えており、前記制御部において、前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティングステップと、前記理論式フィッティングステップにおいてフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出ステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明の標的核酸測定方法によれば、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめることにより、被検試料中の初期鋳型量を算出する方法において、理論式は、指数パラメータである環境係数、初期鋳型量のパラメータ、および、標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む。これにより、測定された核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明の標的核酸測定装置によれば、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶し、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶し、記憶した熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行い、フィッティングされた理論式から、初期鋳型量を算出する。これにより、測定された核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明の標的核酸測定システムによれば、測定装置は、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、標的核酸の増幅量の検出強度を熱サイクル数ごとに測定し、情報処理装置は、測定された、熱サイクル数、および、熱サイクル数ごとの標的核酸の増幅量の検出強度を記憶し、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶し、記憶した熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行い、フィッティングされた理論式から、初期鋳型量を算出する。これにより、測定した核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明の標的核酸測定プログラムによれば、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶し、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する情報処理装置において、記憶された熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行い、フィッティングされた理論式から、初期鋳型量を算出する方法を実行させる。これにより、測定した核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができるプログラムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の概要を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明が適用される標的核酸測定装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は、本実施の形態における標的核酸測定装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、ABI7900(商品名)の測定装置によって得られた、標的サンプル(標的核酸)の増幅量の検出強度および静的内部標準の検出強度(輝度)の生データ(未加工の測定データ)を示す図である。
【図5】図5は、図4に示した生データから算出した、標的サンプルと内部標準の輝度比データ(I1n/I0n)を示す図である。
【図6】図6は、図5に示した輝度比からベースライン1.675を差し引いたデータ(I1n/I0n−1.675)を示す図である。
【図7】図7は、被検試料中のFAMとROXそれぞれの測定結果を示す図である。
【図8】図8は、フィッティング結果をプロットした図である。
【図9】図9は、フィッティングにより得られた各パラメータの値を示す図である。
【図10】図10は、調製した標的核酸のコピー数と、本実施例2により算出された標的核酸のコピー数を対比した図である。
【図11】図11は、FAM分子のモル濃度と蛍光強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明にかかる標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0031】
[本発明の概要]
以下、本発明の概要について図1を参照して説明し、その後、本発明の構成および処理等について詳細に説明する。ここで、図1は、本発明の概要を示すフローチャートである。
【0032】
図1に示すように、まず、本発明は、核酸増幅反応における熱サイクル数(n)を設定する(ステップSA−1)。すなわち、核酸増幅反応を繰り返し行うための熱サイクルの回数(n)が設定される。
【0033】
そして、本発明は、被検試料に対し核酸増幅反応を行い、標的核酸を増幅させる(ステップSA−2)。ここで、被検試料は、内部標準を含んでもよい。「内部標準」とは、被検試料中に一定量加えられた、核酸増幅反応に影響を受けない静的な標準のことであり、例えば、被検試料中に一定量加えられる蛍光色素等である。なお、内部標準として蛍光色素を用いる場合、標的核酸の増幅量の検出強度を測定するための蛍光とは波長の異なる蛍光色素を用いる。この内部標準を使用する理由は、同一被検試料における熱サイクル間の検出強度(検出輝度等)の補正や、複数の被検試料間(ウェル間)の検出強度(検出輝度等)の補正のためである。すなわち、同一被検試料における測定の際には、理想的には、複数の熱サイクル間で、励起・検出特性の変動や蛍光色素等の失活等がないことが求められるが、実際には、標的核酸の増加には関係しない検出強度の変動が生じるため、被検試料中に内部標準を一定量加えることにより、熱サイクル数ごとに測定した内部標準の検出強度を1とする内部標準補正を行う。また、複数の被検試料における測定の際には、理想的には、ウェル間で分注量のばらつきや測定装置の励起・検出特性にばらつきがないことが求められるが、実際には、分注量のムラや励起や検出のムラが発生するため、各ウェルに内部標準として同濃度で加えることにより、各ウェルで計測した内部標準の検出強度(検出輝度等)を1とする内部標準補正を各ウェルで行う。
【0034】
そして、本発明は、熱サイクル数と対応付けて、標的核酸の増幅量の検出強度を測定する(ステップSA−3)。ここで、「増幅量」とは、熱サイクル数1から当該サイクル数までに増幅された標的核酸の総量を意味する。また、「増幅量の検出強度」とは、任意の指標によって得られる標的核酸の増幅量に基づいた検出強度であり、例えば、2本鎖DNAの存在時に信号を発するインターカーレーターからの信号の検出強度や、増幅反応時の伸張反応により信号を発生させるレポーター分子からの信号の検出強度等である。なお、本発明では、測定された増幅量の検出強度を、そのまま理論式にあてはまるため、「測定された増幅量の検出強度」は、厳密な意味で標的核酸の増幅量に相当する量に完全一致するわけではなく、核酸増幅反応に関連しない検出強度の変動やバックグラウンド等を含む未加工の測定データ、すなわち生データ(raw data)である。このステップSA−3において、増幅量の検出強度の測定と同時に、内部標準の検出強度(例えば、内部標準として添加した蛍光色素の輝度値)を測定してもよい。
【0035】
そして、本発明は、当該熱サイクル数が熱サイクル数(n)に到達したか否かを判断し(ステップSA−4)、熱サイクル数(n)に到達していない場合(ステップSA−4、No)、ステップSA−2に戻る。一方、熱サイクル数(n)に到達した場合(ステップSA−4、Yes)、以上の処理を終了する。
【0036】
そして、本発明は、熱サイクルごとに測定された増幅量の検出強度を理論式にあてはめる(ステップSA−5)。ここで、本発明の理論式は、指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、測定した増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含んで構成される。すなわち、本発明は、このステップSA−5において、熱サイクルごとに測定された増幅量の検出強度に理論式が適合(フィッティング)するように理論式のパラメータを決定する。
【0037】
ここで、理論式において、内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより、内部標準補正を行う項、および、増幅量の検出強度のバックグラウンド値を内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値(以下、「ベースライン」と呼ぶ。)を、内部標準補正を行う項から減ずることにより、ベースライン補正を行う項を含んでもよい。ここで、「バックグラウンド値」とは、標的核酸の量には関係しないバックグラウンドの値のことであり、一例として、核酸増幅反応において増幅曲線が立ち上がる前の検出強度(輝度値等)や熱サイクル数0における検出強度等である。なお、バックグランド値は、一定値に限られず、複数の熱サイクルにわたって変動する値であってもよい。
【0038】
また、理論式において、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータおよび環境係数により、核酸増幅反応の増幅効率を定義してもよい。また、理論式は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項により導出される標的核酸の増幅量を、初期鋳型量に対する、熱サイクル数ごとの増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量を減じた数で表した式でもよい。また、本発明は、最小二乗法を用いて理論式にあてはめてもよい。
【0039】
そして、本発明は、増幅量の検出強度があてはめられた理論式から、初期鋳型量を算出する(ステップSA−6)。例えば、本発明は、フィッティングによりパラメータが決定された理論式に基づいて、初期鋳型量の算出を行う。
【0040】
以上が本発明の概要である。このように、本発明は、測定された増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際の増幅効率を正確に反映させることができる理論式を用いて、初期鋳型量を正確に決定することができる。
【0041】
[標的核酸測定装置の構成]
次に、本発明にかかる標的核酸測定装置の構成について図2を参照して説明する。図2は、本発明が適用される標的核酸測定装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0042】
図2において標的核酸測定装置100は、概略的に、制御部102と通信制御インターフェース部104と入出力制御インターフェース部108と記憶部106を備えて構成される。ここで、制御部102は、標的核酸測定装置100の全体を統括的に制御するCPU等である。また、入出力制御インターフェース部108は、入力部112や出力部114や測定部116に接続されるインターフェースである。また、記憶部106は、各種のデータベースやテーブルなどを格納する装置である。これら標的核酸測定装置100の各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0043】
記憶部106に格納される各種のデータベースやファイル(測定データファイル106a、理論式ファイル106b等)は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部106は、各種処理に用いる各種のプログラムやテーブルやファイルやデータベース等を格納する。
【0044】
これら記憶部106の各構成要素のうち、測定データファイル106aは、核酸増幅反応(例えば、PCR等)における熱サイクル数に対応付けて、熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を生データ(未加工の測定データ)のまま記憶する増幅量検出強度記憶手段である。ここで、この測定データファイル106aは、増幅量の検出強度と同時に測定された熱サイクル数ごとの内部標準の検出強度を記憶してもよい。
【0045】
また、理論式ファイル106bは、理論式を記憶する理論式記憶手段である。ここで、理論式ファイル106bに記憶される理論式は、指数パラメータである環境係数K、初期鋳型量のパラメータN0、および、増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量Nmax、反応促進係数ρ、および、反応阻害係数μのうち少なくとも一つのパラメータを含んで構成される。
【0046】
ここで、この理論式ファイル106bに記憶される理論式中の内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより、内部標準補正を行う項、および、増幅量の検出強度のバックグラウンド値を内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値(ベースライン)を、内部標準補正を行う項から減ずることにより、ベースライン補正を行う項を含んでもよい。また、理論式ファイル106bに記憶される理論式は、標的核酸増幅時の飽和量Nmax、反応促進係数ρ、および、反応阻害係数μのうち少なくとも一つのパラメータ、および、環境係数により、核酸増幅反応の増幅効率を定義してもよい。
【0047】
更に、この理論式は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される標的核酸の増幅量を、初期鋳型量Nに対する、熱サイクル数ごとの増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量Nを減じた数で表した式でもよい。より具体的には、この標的核酸の増幅量は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項による補正後の増幅量の検出強度を、標的核酸の単位あたりの検出強度S(以下、「単位あたりの検出強度S」と呼ぶ。)で除することにより導出される。すなわち、単位あたりの検出強度Sは、補正(内部標準補正およびベースライン補正)を行った後の検出強度を、標的核酸の単位に変換するための係数である。換言すると、補正後の増幅量の検出強度に1/Sを乗ずることにより、増幅量の検出強度の単位で表された数量から、標的核酸の単位で表された数量に変換することができる。例えば、このSは、標的核酸(鋳型量)を表す単位(コピー数や質量、物質量、濃度等)における1単位数量あたりの検出強度(例えば、蛍光強度や輝度や信号測定値等)である。
【0048】
一例として、理論式ファイル106bに記憶される理論式は、以下に示す式である。
【数2】

(ここで、Nは、初期鋳型量、jは、熱サイクル数、Nは、熱サイクル数jにおける標的核酸の増幅量、Nmaxは、標的核酸増幅時の飽和量、ρは、反応促進係数、μは、反応阻害係数、Kは、環境係数である。また、Sは、単位あたりの検出強度、I1nは、熱サイクル数nにおける増幅量の検出強度、I0nは、熱サイクル数nにおける内部標準の検出強度である。なお、この理論式の右辺は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される標的核酸の増幅量を示している。)
【0049】
なお、理論式ファイル106bは、理論式のパラメータの値を記憶してもよく、例えば、単位あたりの検出強度S、反応促進係数ρ、反応阻害係数μ、環境係数K、および、標的核酸増幅時の飽和量Nmaxの少なくとも1つを固定値として記憶してもよい。
【0050】
また、図2において、入出力制御インターフェース部108は、入力部112や出力部114や測定部116の制御を行う。ここで、出力部114としては、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカを用いることができる(なお、以下においては出力部114をモニタとして記載する場合がある)。また、入力部112としては、キーボードや、マウス、マイク等を用いることができる。
【0051】
また、測定部116は、核酸増幅反応における熱サイクル数に対応付けて、増幅量の検出強度や内部標準の検出強度を熱サイクル数ごとに測定する測定手段である。一例として、測定部116は、リアルタイムPCR装置等における測定手段として構成される。なお、測定部116により測定された熱サイクルごとの増幅量の検出強度や内部標準の検出強度は、制御部102の制御により、生データ(未加工の測定データ)のまま測定データファイル106aに格納される。
【0052】
また、図2において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、理論式フィッティング部102a、初期鋳型量算出部102bを備えて構成されている。
【0053】
このうち、理論式フィッティング部102aは、測定データファイル106aに記憶された熱サイクル数ごとの増幅量の検出強度や内部標準の検出強度を、理論式ファイル106bに記憶された理論式にあてはめて、当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティング手段である。すなわち、理論式フィッティング部102aは、熱サイクルごとに測定された増幅量の検出強度や内部標準の検出強度に、理論式が最も適合(フィッティング)するように理論式のパラメータを決定する。
【0054】
ここで、理論式フィッティング部102aは、最小二乗法を用いて理論式へのあてはめを行ってもよい。また、理論式フィッティング部102aは、理論式ファイル106bに記憶された、単位あたりの検出強度S、反応促進係数ρ、反応阻害係数μ、環境係数K、標的核酸増幅時の飽和量Nmax等のパラメータの値を読み出し、このうち少なくとも一つのパラメータを固定値として理論式のフィッティングを行ってもよい。また、理論式フィッティング部102aは、理論式の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される標的核酸の増幅量(例えば、上述した理論式の数式の右辺により算出される値)の最大値を、標的核酸増幅時の飽和量Nmaxとして理論式のフィッティングを行ってもよい。また、理論式フィッティング部102aは、以下の式で表される増加率Δが、0以上1以下である領域において測定された増幅量の検出強度のみを理論式にあてはめることにより、反応促進係数ρや反応阻害係数μ等のパラメータを固定化してもよい。すなわち、理論式フィッティング部102aは、増加率Δが、0以上1以下である熱サイクル数の範囲において測定された増幅量の検出強度のみを理論式にあてはめてフィッティングを行い、求めた反応促進係数ρや反応阻害係数μ等のパラメータの値を固定値として理論式ファイル106bに格納してもよい。
【数3】

(ここで、Δは、増加率であり、Nは、熱サイクル数nにおける標的核酸の増幅量である。)
【0055】
また、初期鋳型量算出部102bは、理論式フィッティング部102aによりフィッティングされた理論式から、初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出手段である。例えば、初期鋳型量算出部102bは、理論式フィッティング部102aによるフィッティング結果である理論式のパラメータの値に基づいて、初期鋳型量Nを算出して出力部114に出力する。なお、初期鋳型量の単位は、上述した単位あたりの検出強度Sに依存し、一例として、コピー数(copy)や、質量(pg、ng)、物質量(mol)、濃度(mol/ml)等である。
【0056】
以上が、本標的核酸測定装置100の構成の一例である。ここで、標的核酸測定装置100は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワーク300に通信可能に接続されてもよい。この場合、通信制御インターフェース部104は、通信回線等に接続されるルータ等の通信装置(図示せず)に接続されるインターフェースであり、標的核酸測定装置100とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信制御を行う。すなわち、通信制御インターフェース部104は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。図2において、ネットワーク300は、標的核酸測定装置100と外部システム200とを相互に接続する機能を有し、例えば、インターネット等である。
【0057】
また、標的核酸測定装置100は、測定データやパラメータ等に関する外部データベースや、標的核酸測定装置として機能させるための外部プログラム等を提供する外部システム200に、ネットワーク300を介して通信可能に接続されてもよい。
【0058】
図2において、外部システム200は、ネットワーク300を介して、標的核酸測定装置100と相互に接続され、利用者に対して測定データや理論式やパラメータの値等に関する外部データベースや、情報処理装置を標的核酸測定装置として機能させるための標的核酸測定プログラム等の外部プログラム等を提供する機能を有する。ここで、外部システム200は、WEBサーバやASPサーバ等として構成してもよい。また、外部システム200のハードウェア構成は、一般に市販されるワークステーション、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置により構成してもよい。また、外部システム200の各機能は、外部システム200のハードウェア構成中のCPU、ディスク装置、メモリ装置、入力装置、出力装置、通信制御装置等およびそれらを制御するプログラム等により実現される。
【0059】
[標的核酸測定装置100の処理]
次に、このように構成された本実施の形態における本標的核酸測定装置100の処理の一例について、以下に図3を参照して詳細に説明する。ここで、図3は、本実施の形態における標的核酸測定装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【0060】
図3に示すように、リアルタイムPCR装置等の測定部116が、核酸増幅反応における熱サイクル数に対応付けて、増幅量の検出強度(例えば、インターカーレーターやレポーター分子等からの信号の測定値等の検出強度)や内部標準の検出強度(例えば、蛍光色素の輝度値)を熱サイクル数ごとに測定すると、標的核酸測定装置100の制御部102は、熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度や内部標準の検出強度に関する未加工の測定データ(生データ)を、測定部116を介して取得し、測定データファイル106aに格納する(ステップSB−1)。
【0061】
そして、理論式フィッティング部102aは、測定データファイル106aに記憶された熱サイクル数ごとの増幅量の検出強度や内部標準の検出強度を、理論式ファイル106bに記憶された理論式にあてはめて、理論式のフィッティングを行う(ステップSB−2)。すなわち、理論式フィッティング部102aは、熱サイクル数ごとの増幅量の検出強度に理論式が最も適合(フィッティング)するように、最小二乗法等を用いて理論式のパラメータの値を調整して決定する。ここで、理論式フィッティング部102aにより用いられる理論式において、内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより内部標準補正を行う項や、増幅量の検出強度のバックグラウンド値を内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値(ベースライン)を、内部標準補正を行う項から減ずることによりベースライン補正を行う項を含んでもよい。また、この理論式は、環境係数Kの他、反応促進係数ρや、反応阻害係数μ、標的核酸増幅時の飽和量Nmax等のパラメータにより、核酸増幅反応の増幅効率が定義されていてもよい。一例として、理論式は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される標的核酸の増幅量を、初期鋳型量Nに対する、熱サイクル数ごとの増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量Nを減じた数で表した式であり、好適には、理論式は以下の式で表される。
【数4】

(ここで、Nは、初期鋳型量、jは、熱サイクル数、Nは、熱サイクル数jにおける標的核酸の増幅量、Nmaxは、標的核酸増幅時の飽和量、ρは、反応促進係数、μは、反応阻害係数、Kは、環境係数である。また、Sは、単位あたりの検出強度、I1nは、熱サイクル数nにおける増幅量の検出強度、I0nは、熱サイクル数nにおける内部標準の検出強度である。)
【0062】
そして、理論式フィッティング部102aは、フィッティング結果である理論式の各パラメータの値を理論式ファイル106bに格納する(ステップSB−3)。例えば、理論式フィッティング部102aは、最小二乗法等を用いて理論式が増幅量の検出強度に最も適合(フィッティング)するように最適化したパラメータの値を、フィッティング結果として理論式ファイル106bに格納する。
【0063】
そして、初期鋳型量算出部102bは、理論式ファイル106bに記憶された理論式のパラメータの値に基づいて、初期鋳型量Nを算出し、入出力制御インターフェース部108を介して出力部114に出力する(ステップSB−4)。
【0064】
以上が標的核酸測定装置100の処理の一例である。以上、本実施の形態によれば、核酸増幅反応における熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行い、フィッティングされた理論式から、初期鋳型量Nを算出する場合において、理論式は、指数パラメータである環境係数K、初期鋳型量N、および、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量Nmax、反応促進係数ρ、および、反応阻害係数μのうち少なくとも一つのパラメータを含むので、測定された増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際の増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、初期鋳型量を正確に決定することができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、理論式における内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、熱サイクル数ごとに測定された増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより、内部標準補正を行う項、および、増幅量の検出強度のバックグラウンド値を内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値(ベースライン)を、内部標準補正を行う項から減ずることにより、ベースライン補正を行う項を含むので、理論式中で内部標準補正やベースライン補正を行うことができる理論式を用いて、測定された増幅量の検出強度を加工することなく生データのまま当てはめることができ、初期鋳型量をより正確に決定することができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、理論式において、標的核酸増幅時の飽和量Nmax、反応促進係数ρ、および、反応阻害係数μのうち少なくとも一つのパラメータ、および、環境係数Kにより、核酸増幅反応の増幅効率を定義するので、実際の増幅効率を更に正確に反映することができる理論式を用いて、初期鋳型量をより正確に決定することができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、理論式は、内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される標的核酸の増幅量を、初期鋳型量Nに対する、熱サイクル数ごとの増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量Nを減じた数で表すので、測定された増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際の増幅効率をより正確に反映することができる理論式を用いて、初期鋳型量をより正確に決定することができる。
【0068】
また、本実施の形態によれば、理論式は、以下に示す式であるので、実際の増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、初期鋳型量をより正確に決定することができる。
【数5】

(ここで、Nは、初期鋳型量、jは、熱サイクル数、Nは、熱サイクル数jにおける標的核酸の増幅量、Nmaxは、標的核酸増幅時の飽和量、ρは、反応促進係数、μは、反応阻害係数、Kは、環境係数である。また、Sは、単位あたりの検出強度、I1nは、熱サイクル数nにおける増幅量の検出強度、I0nは、熱サイクル数nにおける内部標準の検出強度である。)
【0069】
また、本実施の形態によれば、最小二乗法を用いて理論式にあてはめるので、より正確にフィッティングを行うことができ、初期鋳型量をより正確に決定することができる。
【実施例1】
【0070】
つづいて、本実施の形態にかかる実施例1について、以下に図4〜図6を参照して説明する。
【0071】
[理論式]
まず、本実施例1で用いる理論式について、以下に説明する。
【0072】
本実施例1にかかるリアルタイムPCRシステムにおいて、熱サイクル数nで、2種のフィルターを使用して得られる、静的内部標準の画像の全強度I0nと、サンプル(標的核酸)の画像の全強度I1nは、次式で与えられる。
【数6】

【0073】
ここで、上記(1)式および(2)式で用いられるパラメータについて更に詳しく説明する。フィルターにより完全に波長分離がされている場合、2種のフィルターを使用した発光レファレンスの容器画像の2個の初期の全強度Iは次式で与えられる。
R0=m (1´)
R1=m (2´)
(ここで、mおよびmは、それぞれ静的内部標準(核酸増幅反応に影響されない蛍光色素)およびサンプルの分子数、SおよびSは、それぞれ静的内部標準およびサンプルの検出感度(蛍光1分子あたりの検出強度)である。
【0074】
(1´)式および(2´)式により、それぞれ次式が得られる。
【数7】

【0075】
(1´´)式または(2´´)式で求められる検出感度SおよびSは、輝度から蛍光分子数量を推定する際の係数となる重要な量である。この検出感度を維持する画素濃度範囲すなわちダイナミックレンジを予め検証しておく必要がある。このためには、分子数mを(例えば、希釈系列を調製して)変化させ、これに対応して得られる強度からS(m)を算出し、m−Sカーブを作成しておくことが有効である。また、センサーの画素感度分布を把握しておくことが重要であり、この感度が一様でない場合は全画像に感度補正を施す必要がある。ここでは、すべての画素濃度がダイナミックレンジ内にあり、画素感度が一様であるものとする。
【0076】
つづいて、PCRに必要な溶液は、適切な緩衝液や、2種の相補的オリゴヌクレオチドプライマー、過剰量の4種のヌクレオチドトリホスファート、DNAポリメラーゼ、未知量のターゲット核酸分子等により構成される。このような構成において、PCR反応におけるPCR産物の量Nは、次式で表される。
【数8】

(ここで、ρは増幅係数であり理想的には1であるが、実際には、システムの条件(実験条件)により0〜1の値となる(ρ=0の場合は、増幅なし)。μは、阻害係数であり理想的には0であるが、ピロリン酸などによる増幅阻害物質の影響により0〜∞の値となる(μ=∞の場合は、増幅なし)。また、p(Nzn−1,Azn−1,T,L,L)は、ポリメラーゼの作用特性関数であり、その値は、PCRの熱サイクル回数n−1における、ポリメラーゼの数Nzn−1、ポリメラーゼの比活性Azn−1、伸長時間T(秒)、鋳型の塩基長L、プライマーの塩基長Lに依存する。)
【0077】
ポリメラーゼが完全に機能するときには、p(Nzn−1,Azn−1,T,L,L)=1であるので、(4)式は、次式となる。
【数9】

【0078】
しかし、実際の条件下では、ポリメラーゼは完全には機能していないと考えられる。また、ポリメラーゼの作用特性関数p(Nzn−1,Azn−1,T,L,L)の具体的な数式は明らかでないため、本実施例1では、これに替えて変数Kを導入して、式(5)を次式のように変更する。
【数10】

【0079】
ここで、(4)式、(5)式および(6)式におけるNmaxは、DNAの飽和量(PCRの熱サイクルを繰り返した場合のDNAの飽和量)であり、次式で与えられる。
max=Np0+N (7)
(ここで、Np0は初期のプライマーの数、Nは、鋳型DNAの数である。)
【0080】
そして、(6)式により、PCRの熱サイクル回数nにおけるDNAの数は、次式で表される。
【数11】

【0081】
さらに、PCRの熱サイクル回数nにおけるDNAの増加率(増幅効率)Δは、(6)式により、次式で表される。
【数12】

【0082】
そして、(9)式から明らかなように、増加率Δおよび増幅係数ρは、理論上、以下の関係式となる。
【数13】

【0083】
ここで、(1)式および(2)式を変形すると、それぞれ以下の式(11)および式(12)が得られる。
【数14】

【0084】
ここで、静的内部標準は、PCRで増幅しないので、以下の関係式が成り立つ。
0n=N00 (13)
【0085】
また、(3)式および(11)式により、次式が得られる。
【数15】

【0086】
また、(11)式および(13)式により、次式が得られる。
【数16】

【0087】
また、(14)式および(15)式により、次式が得られる。
【数17】

【0088】
また、(3)式および(12)式により、次式が得られる。
【数18】

【0089】
(16)式を(17)式に代入して整理することにより、次式が得られる。
【数19】

【0090】
また、(8)式を(18)式に代入することにより、次式が得られる。
【数20】

(ここで、(19)式の右辺は、定数および測定により与えられるので既知量であり、物理的には静的内部補正を施したデータからベースライン(I10/I00)を差し引いたものである。)
【0091】
本実施例1では、以上の理論式(19)に基づいて、最小二乗フィッティングを行う。具体的には、Iが高精度に検出できる複数のnに対応する複数の式を用いて最小二乗フィッティングすることにより、理論式(19)の左辺の係数ρ、μ、K、NmaxおよびNを定める。そして、このようにして求めたNの値を、初期鋳型DNAの推定数量(初期鋳型量)とする。
【0092】
ここで、以上のように構成された本実施例1の理論式と、従来の理論式の差異について説明する。
【0093】
例えば、特許文献2において開示されている式には、前述のプライマーとポリメラーゼの量が導入されている。ここで、特許文献2の式において、濃度をDNA数とし、さらに阻害係数を用いて書き換えると、次式が得られる。
【数21】

(ここで、Nn−1およびNは、それぞれ、PCRの熱サイクル回数n−1およびnにおけるDNAの数である。また、eはDNAの残存確率、ρは増幅係数、μは阻害係数、Nは鋳型DNAの数、Np0は初期のプライマーの数である。また、Nzn−1およびAzn−1は、それぞれ、PCRの熱サイクル回数n−1におけるポリメラーゼの数および比活性であり、Tは伸長時間(秒)、Lは鋳型の塩基長、Lはプライマーの塩基長である。また、DNAの飽和量Nmaxは次式で与えられる。)
max=Np0+N (21)
【0094】
ここで、ポリメラーゼが十分に機能し、さらに、e=1である場合は、(21)式により、次式が得られる。
【数22】

【0095】
したがって、(22)式は、次式と表すことができる。
【数23】

【0096】
次に、特許文献2では、Nがポリメラーゼの機能不全に支配される場合の(20)式は次式で表わされるとしている。
【数24】

【0097】
このように、特許文献2から導かれる(24)式の第2項では、Nn−1が含まれておらず理解できない。また、初期のポリメラーゼの数Nz0および比活性Az0についての説明がなく実施できない。さらに、(20)式は、第2項のいずれか最小の値を採用するものであり、現実にどちらの式でもフィッティングできることになり、どちらを採用すべきかが分からず、フィッティングに利用できない。本来、フィッティングを行うにあたって、これらの2つの式は1つにまとめられるべきであり、1つにまとめられた場合に現実に近いシステム構造ができるものと考えられる。
【0098】
この特許文献2に記載の式に比較して、本実施例1で用いられる理論式(19)は、PCRの熱サイクル全てにわたって統一した式で表現され、補正用の項を含むため生データのままフィッティングに利用可能となるものである。
【0099】
また、PCRの熱サイクルに従って変動するポリメラーゼの作用特性関数に替えて、一つの指数パラメータ(環境係数K)を導入することにより、様々なパラメータ(例えば、ポリメラーゼの数、ポリメラーゼの比活性、伸長時間、鋳型の塩基長、プライマーの塩基長等)を省略することができ、理論式のフィッティングを容易にすることができる。
【0100】
なお、上記の説明においては、ポリメラーゼの作用特性関数に代替するものとして、指数パラメータ(環境係数K)を導入するよう説明を行ったが、この指数パラメータ(環境係数K)が代替するパラメータは、ポリメラーゼに関するパラメータのみに限られない。
【0101】
すなわち、実際のPCRによる核酸増幅反応とその測定において、測定される増幅量の検出強度に基づく実際の増幅効率は、ポリメラーゼの作用特性のみならず、様々な既知の因子や未知の因子からの影響を受ける。本実施例1において、理論式における増幅効率に、指数パラメータ(環境係数K)を導入することにより、それらの多様な因子によるパラメータを一つのパラメータで代替することができ、かつ、実際の増幅効率によく一致させることができることが分かった。
【0102】
なお、一例として、環境係数Kに影響を与える既知の因子としては、以下のものがある。すなわち、測定装置関係の因子としては、サーマルサイクラーによる、設定温度との誤差や、昇温速度、降温速度等の他、測光部による、感度(CCDと光源)や画像濃度変換処理等の因子がある。また、アプリケーション関係の因子としては、酵素(ポリメラーゼ等)の耐熱性や、プライマー配列による増幅効率の違い、酵素(ポリメラーゼ等)の種類による増幅効率の違い等の因子がある。このように、理論式の増幅効率に導入される指数パラメータの環境係数Kは、これらの既知因子によるパラメータや、現在知られていない未知因子によるパラメータに代替することができるものである。
【0103】
[内部標準補正およびベースライン補正]
次に、本実施例1の理論式(19)の右辺における、内部標準補正用およびベースライン補正用の項について、具体的な実験データを示しながら図4〜図6を用いて説明する。すなわち、Applied Biosystems社製ABI7900(商品名)の測定装置による新解析フローに従って、理論式(19)式を説明する。ここで、図4は、ABI7900(商品名)の測定装置によって得られた、標的サンプル(標的核酸)の増幅量の検出強度および静的内部標準の検出強度(輝度)の生データ(未加工の測定データ)を示す図である。
【0104】
理論式(19)において、S=1、I00=2784、I10=4663とすると、この理論式の右辺は、(I1n/I0n−1.675)に比例定数2784を乗じた形となる。なお、この1.675はベースラインと呼ばれる。ここで、図5は、図4に示した生データから算出した、標的サンプルと内部標準の輝度比データ(I1n/I0n)を示す図である。
【0105】
図4に示すように、標的サンプルと内部標準の輝度比を求めることにより、内部標準補正を行うことができる。ここで、図6は、図5に示した輝度比からベースライン1.675を差し引いたデータ(I1n/I0n−1.675)を示す図である。
【0106】
図6に示すように、ベースライン1.675を差し引くことにより更にベースライン補正を行うことができる。すなわち、理論式(19)の右辺に未加工の測定データを代入することにより、この右辺全体は、内部標準補正およびベースライン補正を行った後の測定データを表すことになる。そして、本実施例1では、この理論式(19)の左辺の関数でフィッティングすることにより、ρ、μ、K、NmaxおよびNのパラメータの値を定めることができる。
【実施例2】
【0107】
つづいて、本実施の形態にかかる実施例2について、以下に図7〜図11を参照して説明する。
【0108】
まず、本実施例2における測定条件を以下に示す。本実施例2において、PCR反応液は、以下のように調製した。
<反応液組成(f.c.)>
・2×Universal Master Mix(商品名)(Applied Biosystems社製):1×希釈濃度
・primer (ヒトB2M):各0.3μM
・TaqMan probe(商品名):0.2μM
・プラスミドDNA(pCR2.1−TOPOベクター(商品名)にB2M遺伝子をクローニングしたプラスミド)試料:20000コピー
・Total:30μl
【0109】
また、本実施例2におけるPCR条件は、リアルタイムPCR装置として、ABI Prism 7900HT(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、60℃/1分→95℃/10分→(95℃/15秒→60℃/1分)×40サイクルのPCRサイクル条件で行った。ここで、各熱サイクルにおける60℃の時にはFAM(DNAコピー数検出用蛍光色素)とROX(静的内部標準)の蛍光強度を測定した。ここで、図7は、上記測定条件にて測定した、被検試料中のFAMとROXそれぞれの測定結果を示す図である。
【0110】
図7において、FAMのプロットは、TaqMan probe(商品名)におけるレポーター分子の蛍光強度であり、被検試料中における標的核酸の増幅量の検出強度を示すデータである。また、図7におけるROXのプロットは、被検試料中における静的内部標準の蛍光強度である。
【0111】
図7に示すFAMとROXの生データより、I10=4663、I00=2784と確定することができるので、このI10およびI00の値とともに、図7の測定結果(すなわち、I1nおよびI0n)を以下の理論式にあてはめた。
【数25】

(ここで、Nは、標的核酸の初期コピー数、Nmaxは、標的核酸増幅時の飽和コピー数、ρは、反応促進係数、μは、反応阻害係数、Kは、環境係数、Nは、熱サイクル数nにおける標的核酸のコピー数、I1nは、熱サイクル数nにおけるFAMの蛍光強度、I0nは、熱サイクル数nにおけるROXの蛍光強度である。また、Sは、FAMの検出感度(蛍光1分子当たりの検出強度)であり、本実施例2では、4.7×10−9とした。)
【0112】
ここで、図8は、フィッティング結果を示す図であり、図9は、フィッティングにより得られた各パラメータの値を示す図である。図8に示すように、理論式曲線は、補正後の測定データ(右辺)に最も適合するように左辺の各パラメータの値が決定され、この理論式のフィッティングにより図9に示す各パラメータの値を決定することができた。ここで、図10は、調製した標的核酸のコピー数と、本実施例2により算出された標的核酸のコピー数を対比した図である。
【0113】
図10に示すように、調製した標的核酸のコピー数20000に対して、本実施例2により算出された標的核酸のコピー数は20139であった。これにより、理論式に未加工の測定結果(生データ)をあてはめて、標的核酸の初期コピー数を精度良く算出することが確認された。
【0114】
[Sの算出方法]
なお、この実施例2では、Sの値を4.7×10−9としたが、このSの算出方法について、以下に説明する。
【0115】
まず、被検試料のPCR反応液と同様のバッファー組成となるように、DNAコピー数検出用の蛍光色素であるFAMの希釈系列を作成し、被検試料のPCR時と同条件にてFAMの蛍光強度を測定した。ここで、図11は、FAM分子のモル濃度と蛍光強度との関係を示す図である。
【0116】
FAM希釈系列の測定の結果、図11に示すように、FAM分子のモル濃度(y)と蛍光強度(x)の関係式として、「y=1.1763×10−11×x」が得られた。
【0117】
この関係式より、モル濃度が1mol/lの時の蛍光強度は、8.501×1010となる。この時の溶液量は30μlであるので、FAM分子数は、(6.02×1023)×(30×10−6)=1.81×1019となる。従って、FAMの検出感度(蛍光1分子当たりの検出強度)Sは、8.501×1010/(1.81×1019)=4.7×10−9と計算された。
【0118】
以上で、本実施例2の説明を終える。なお、上記実施例2においては、増幅量の検出強度(蛍光強度)と鋳型量との関係が線形で表されることを前提としてSの関係式を導出したが、これに限られず、よりよい近似が得られる場合には非線形の関係式を導いてもよい。また、上記実施例2においては、蛍光分子1分子にDNA1コピーが対応することを前提としてSを求め、初期DNAのコピー数を算出したが、本実施の形態はこれに限られず、インターカーレーターやレポーター分子等の指標物質と核酸鋳型量との関係や、求めたい初期鋳型量の単位に応じて、コピー数や質量、物質量等の単位で調製した希釈系列を調製して関係式を作成し、求めたい初期鋳型量の単位あたりの検出強度Sを決定して理論式に用いてもよい。
【0119】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0120】
例えば、上記実施の形態においては、Sを導入した理論式を用いてフィッティングを行い初期鋳型量(絶対定量値)を算出したが、本発明はこれに限られず、Sを理論式に導入することなく、初期鋳型量に相当する量(検出強度の単位で表した初期鋳型量)を算出してもよく、また、複数の被検試料間の初期鋳型量に相当する量の関係(比率、割合、大小関係など)を算出してもよいものである。
【0121】
また、標的核酸測定装置100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、標的核酸測定装置100とは別筐体で構成されるクライアント端末からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却するように構成してもよい。
【0122】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0123】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0124】
また、標的核酸測定装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0125】
例えば、上述の実施形態においては、測定部116は、標的核酸測定装置100が備える一手段として構成したが、本発明はこれに限られず、核酸増幅反応における熱サイクル数、および、標的核酸の増幅量の検出強度を熱サイクル数ごとに測定する測定部を備えたリアルタイムPCR装置等の測定装置として構成してもよい。すなわち、上記測定部を備えた測定装置と、記憶部と制御部を少なくとも備えた情報処理装置と、を備えた標的核酸測定システムとして、本発明を構成してもよいものである。そして、本標的核酸測定システムにおいて、測定装置の測定部は、上記実施の形態における測定部116の機能を有し、情報処理装置の記憶部と制御部は、上記実施の形態における標的核酸測定装置100の記憶部106と制御部102の機能を有し、同様の効果を奏するよう構成される。
【0126】
また、標的核酸測定装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラム(例えば、標的核酸測定プログラム)にて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて標的核酸測定装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどの記憶部106などは、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0127】
また、このコンピュータプログラムは、標的核酸測定装置100に対して任意のネットワーク300を介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0128】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD等の任意の「可搬用の物理媒体」、あるいは、LAN、WAN、インターネットに代表されるネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信回線や搬送波のように、短期にプログラムを保持する「通信媒体」を含むものとする。
【0129】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0130】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(測定データファイル106a、理論式ファイル106b、関係式ファイル106c等)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラムやテーブルやデータベースやウェブページ用ファイル等を格納する。
【0131】
また、標的核酸測定装置100は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置を接続し、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0132】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる標的核酸測定方法、標的核酸測定装置、標的核酸測定システム、および、標的核酸測定プログラム並びに記録媒体によれば、測定された核酸の増幅量の検出強度を生データのまま当てはめることができ、実際のPCR増幅効率を正確に反映することができる理論式を用いて、増幅反応混合物中のサイクル数0における初期鋳型量を正確に決定することができ、医療や製薬や創薬や生物学研究や臨床検査などの様々な分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0134】
100 標的核酸測定装置
102 制御部
102a 理論式フィッティング部
102b 初期鋳型量算出部
104 通信制御インターフェース部
106 記憶部
106a 測定データファイル
106b 理論式ファイル
108 入出力制御インターフェース部
112 入力部
114 出力部
116 測定部
200 外部システム
300 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を、理論式にあてはめることにより、被検試料中の初期鋳型量を算出する標的核酸測定方法であって、
前記理論式は、
指数パラメータである環境係数、前記初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含むこと、
を特徴とする標的核酸測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の標的核酸測定方法において、
前記理論式における前記内部標準補正用およびベースライン補正用の項は、
前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、それぞれ当該熱サイクル数ごとに測定された内部標準の検出強度で除することにより、前記内部標準補正を行う項、および、
前記標的核酸の増幅量の検出強度のバックグラウンド値を前記内部標準の検出強度のバックグラウンド値で除した値を、前記内部標準補正を行う項から減ずることにより、前記ベースライン補正を行う項、
を含むことを特徴とする標的核酸測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の標的核酸測定方法において、
前記理論式における、前記標的核酸増幅時の飽和量、前記反応促進係数、および、前記反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータ、および、前記環境係数により、前記核酸増幅反応の増幅効率を定義すること、
を特徴とする標的核酸測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の標的核酸測定方法において、
前記理論式は、前記内部標準補正用およびベースライン補正用の項を用いて導出される前記標的核酸の増幅量を、前記初期鋳型量に対する、前記熱サイクル数ごとの前記増幅効率に1を加えた数の総乗から、当該初期鋳型量を減じた数で表すこと、
を特徴とする標的核酸測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の標的核酸測定方法において、
前記理論式は、以下に示す式であること、
を特徴とする標的核酸測定方法。
【数1】

(ここで、Nは、前記初期鋳型量、jは、前記熱サイクル数、Nは、前記熱サイクル数jにおける前記標的核酸の増幅量、Nmaxは、前記標的核酸増幅時の飽和量、ρは、前記反応促進係数、μは、前記反応阻害係数、Kは、前記環境係数である。また、Sは、前記標的核酸の単位あたりの前記検出強度、I1nは、前記熱サイクル数nにおける前記標的核酸の増幅量の検出強度、I0nは、前記熱サイクル数nにおける前記内部標準の検出強度である。)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の標的核酸測定方法において、
最小二乗法を用いて前記理論式にあてはめること、
を特徴とする標的核酸測定方法。
【請求項7】
記憶部と制御部を少なくとも備えた標的核酸測定装置であって、
前記記憶部は、
核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、
指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、
を備え、
前記制御部は、
前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティング手段と、
前記理論式フィッティング手段によりフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出手段と、
を備えたことを特徴とする標的核酸測定装置。
【請求項8】
核酸増幅反応における熱サイクル数、および、標的核酸の増幅量の検出強度を前記熱サイクル数ごとに測定する測定部を備えた測定装置と、記憶部と制御部を少なくとも備えた情報処理装置と、を備えた標的核酸測定システムであって、
前記記憶部は、
前記測定部により測定された、前記熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとの前記標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、
指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、
を備え、
前記制御部は、
前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティング手段と、
前記理論式フィッティング手段によりフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出手段と、
を備えたことを特徴とする標的核酸測定システム。
【請求項9】
記憶部と制御部を少なくとも備えた情報処理装置に実行させるための標的核酸測定プログラムであって、
前記記憶部は、
核酸増幅反応における熱サイクル数、および、前記熱サイクル数ごとに測定された標的核酸の増幅量の検出強度を記憶する増幅量検出強度記憶手段と、
指数パラメータである環境係数、被検試料中の初期鋳型量のパラメータ、および、前記標的核酸の増幅量の検出強度の内部標準補正用およびベースライン補正用の項を含み、かつ、標的核酸増幅時の飽和量、反応促進係数、および、反応阻害係数のうち少なくとも一つのパラメータを含む理論式を記憶する理論式記憶手段と、
を備えており、
前記制御部において、
前記記憶部に記憶された前記熱サイクル数ごとに測定された前記標的核酸の増幅量の検出強度を、前記理論式にあてはめて当該理論式のフィッティングを行う理論式フィッティングステップと、
前記理論式フィッティングステップにおいてフィッティングされた前記理論式から、前記初期鋳型量を算出する初期鋳型量算出ステップと、
を実行させるための標的核酸測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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