説明

標的送達用リポソーム複合体の可逆的マスキング

本発明は、肺及び血管の多い他の組織における標的指向リポソーム複合体の非特異的取り込みを回避するための組成物及び方法である。リポソーム複合体を可逆的にマスキングすることにより、標的細胞又は標的組織への核酸分子の送達を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリポソーム複合体の標的送達に関する。特に、本発明は、リポソーム複合体の体循環、標的組織への核酸又は医薬品の効率的送達、及び非標的組織又は器官の回避を可能にするリポソーム複合体の可逆的マスキングに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療の第一の目的は、ある一連の細胞へ遺伝物質又は遺伝子を導入し、それらの細胞に新しいタンパク質生産能力を付与することである。目的の達成は、付加された遺伝子が治療タンパク質の産生にどの程度首尾よく機能するかによって評価される。良好な結果を得る遺伝子治療は多くの問題を解決しなければならないが、それらの問題のうちの一つが遺伝子を適正な送達先に送達することである。
【0003】
「ベクター」とは、細胞へ外来遺伝物質を送達するための手段として定義される。遺伝子治療ベクターは2つの広範なカテゴリー;すなわち、ウィルス系ベクターと非ウィルス系ベクターに分類される。
【0004】
ウィルス系ベクターは現在用いられている遺伝子送達における手段の約90%を占めている。ウィルス系ベクターでは、ウィルスの感染力を利用することを目的として遺伝子を改変ウィルスへと操作する。簡単に説明すれば、本質的なウィルス遺伝子を除去して自己複製不可能なウィルスを取得するか、或いは、ある場合では、治療で標的とされる細胞に対するウィルスの複製を制限する。そして、1種又は複数の治療遺伝子で除去されたウィルス遺伝子を置き換える。長期にわたるウィルス及び宿主の進展変化により、ウィルス系ベクターでは遺伝子パッケージング及び細胞侵入機構が大幅に改良されてきている。典型的には、これらの改変ウィルスは、細胞表面受容体をはじめとする高度な特定の手段により細胞に侵入させる。細胞では、改変ウィルスが細胞内分解されるのが回避され、ウィルスにより導入された治療遺伝子の発現を誘導することができる。使用されている主なウィルス系ベクターは、レトロウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス及びヘルペスウィルスである。
【0005】
ウィルス系ベクターが大いに使用されているにもかかわらず、ウィルス系ベクターの使用にあたってはそれに伴う欠点が多数ある。これらの欠点には、
1)発現ウィルスタンパク質に対する免疫反応が発生し、その後治療遺伝子産物を産生するのに必要な標的細胞を死滅させること;
2)一部のウィルス系ベクターで宿主染色体内へのランダムな組込みがあること;
3)全身送達されたウィルス系ベクターのクリアランス;
4)ウィルスにおいて天然の指向性を有する細胞以外の細胞への特異的送達を達成するためのウィルスエンベロープ又はキャプシド操作が困難であること;
5)複製能を有する感染性ウィルスを取得するための宿主染色体中におけるDNA配列でのウィルス系ベクターの組み換え可能性;
6)ある種のウィルス系ベクターを二回以上投与することが不可能なこと;
7)臨床試験で使用される大量の高力価ウィルス株の製造コストが高いこと;
8)ウィルス系ベクターにパッケージング可能な核酸の大きさが限定されること、
が挙げられる。
【0006】
ウィルス系ベクターの使用に伴うこれらの問題が認識されたことから、非ウィルス送達系の開発に多大な努力が費やされてきている。核酸を含有するリポソームが記載されている特許は多数ある。例えば、米国特許第6,316,024号;第6,284,267号;第6,271,206号;第6,217,901号;第6,159,745号;第6,096,716号;第6,056,973号;第5,958,791号;第5,891,468号;第5,858,784号;第5,820,873号;第5,776,487号;第5,756,353号;第5,718,915号;第5,662,930号;第5,614,214号;及び第5,552,157号には、核酸を送達するためのリポソームの使用が記載されている。
【0007】
負荷電リポソーム又はpH感受性リポソームを用いることができる。これらのリポソームは、DNAと複合するのではなくDNAを封入する。一部のDNAはこれらのリポソームの水溶性内部に封入されるが、使用されるDNA及び脂質がともに負に帯電しているので反発が生じる。
【0008】
使用されている大多数のリポソームはカチオン性リポソームである。一部のリポソームはアニオン性プラスミドDNAを被包し、標的細胞へ裸のDNAを運搬、送達することができる。正荷電リポソーム複合体は負荷電細胞表面に結合可能であり、細胞膜へ組み入れられて前記複合体のDNA内容物を細胞質内へ遊離するか、或いはエンドソーム中に内部移行されて、リポソームが破壊され、その内容物がエンドソームと融合しているリゾソーム内へ放出される。従ってエンドサイトーシス経路を介した細胞侵入では、大部分のDNAは分解され、少量のDNAが細胞質へ放出される。
【0009】
リポソームは、一般的に生物学的に不活性であると考えられており、生物工学製品としてではなく医薬品として標準化され、調節することができる。遺伝子治療におけるリポソームを使用すると、以下の複数の長所、すなわち、
1)免疫原性がないこと;
2)改良製剤を使用する場合、補体によるクリアランスがないこと;
3)送達され得る核酸の大きさに制限がないこと(単一のヌクレオチドから大きな哺乳動物の人工染色体まで);
4)悪影響を及ぼすことなくin vivoにおける繰返し投与の実施が可能なこと;
5)臨床試験用の多量の核酸リポソーム複合体の作製が比較的容易であり、かつ低コストであること;
6)特定の細胞型、器官又は組織における送達と遺伝子発現のための標的指向複合体を作製が比較的容易であること;
7)治療遺伝子の送達に使用されるプラスミド中にウィルスの配列の存在がわずかであるか、又は存在せず、従って、感染性ウィルスの潜在的発生に伴う腫瘍形成又は重複感染の理論的リスクが回避されることにより、患者の安全性が高まること、
が得られる。
【0010】
非ウィルス送達系における従来の欠点は、送達と標的組織でリポソーム複合体により産生される遺伝子発現のレベルが低いことであった。直面している1つの大きな問題は、身体の残りの部分へ送達される前のカチオン性リポソーム複合体の初回通過排除である。任意の経路(動脈内投与を除く)により体循環へ投与されたリポソーム複合体は、他の部位へ当該複合体が送達される前に肺で初回通過クリアランスを受ける。従って、肺は、多くの薬剤、特にカチオン性化合物に対する一時的なクリアランス部位として機能している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、肺による初回通過クリアランスを回避するカチオン性リポソーム複合体の全身投与方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、細胞又は組織へ核酸分子及び薬剤を送達するためのマスキングされた標的指向リポソーム複合体、並びにマスキングされた標的指向リポソーム複合体を製造する方法に関する。
【0013】
本発明の一態様は、カチオン性脂質層に被包され保護されている薬剤と、当該脂質層の外面に可逆的に結合しているマスキング剤とを含み、当該マスキング剤が肺組織によるリポソーム複合体の初回通過クリアランスを阻害する、前記薬物送達用のリポソーム複合体である。
【0014】
本発明の別の態様は、内部脂質二重層及び外部脂質二重層を有するカチオン性リポソームと;内部脂質二重層と外部脂質二重層の間に封入されている薬剤と;カチオン性リポソームの外部脂質二重層の外面に結合している標的指向リガンドと;外部二分子層の外面に可逆的に結合しているマスキング剤を含む標的指向リポソーム複合体である。
【0015】
さらに本発明の別の態様は、DOTAP及びコレステロールの押出し混合物を含むカチオン性二層重積リポソーム(a cationic bilamellar invaginated liposome)と;リポソームの内部脂質二重層と外部脂質二重層の間に封入されているプラスミドと;カチオン性リポソームの外面に結合されている標的指向リガンドと;リポソームの外面に可逆的に結合されているマスキング剤とを含み、ある濃度のマスキング剤がカチオン性リポソームのゼータ電位を10ミリボルト未満に低下させている、標的指向リポソーム複合体である。
【0016】
さらにまた本発明の別の態様は、特定のリポソーム複合体に可逆的相互作用性を有するマスキング剤を選択するステップと;リポソーム複合体をマスキング剤で滴定して所望のゼータ電位を達成するのに必要なマスキング剤の量を決定するステップと;リポソーム複合体を決定した量のマスキング剤と混合してマスキングされたリポソーム複合体を形成するステップと;マスキングされたリポソーム複合体を標的組織への送達について試験するステップと、を含む標的指向リポソーム複合体の送達を最適化する方法である。
【0017】
本発明のこれら及び他の目的、特徴並びに長所は、以下の記載と図面を参照することにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、カチオン性リポソーム複合体が身体全体にわたって循環すること、及び肺による初回通過クリアランスを阻害することを可能にし得る、カチオン性リポソーム複合体の正電荷を可逆的にマスキングする方法に関する。従って、本発明は、標的組織にこれらの核酸分子又は医薬品を送達する能力が改善された、可逆的にマスキングされたリポソーム複合体を提供する。
【0019】
ある用途においては、特定の標的組織、器官又は細胞へ核酸ベース治療剤及びプロドラッグ、又は毒性の強い医薬品を送達することが望まれ又は必要とされている。例えば、注入される大部分の物質を、単独で治療遺伝子産物を産生し、或いはプロドラッグ又は有毒化合物を代謝する役割を担う標的細胞に送達すれば、低用量のリポソーム複合体を静脈内投与することができる。
【0020】
低用量のリポソーム複合体の注入はコスト効率が良く、患者にとってもより安全であり、ある種の疾患の治療においてより効果的である。さらに、標的細胞、例えば腫瘍細胞を死滅させることを目的とする多くの自殺遺伝子手法などの方法では、正常細胞の死滅を回避するため、標的送達、又は自殺遺伝子を発現するための組織特異的な遺伝子プロモーターの使用が必要とされている。
【0021】
標的送達に関する標準手法は、細胞又は受容体特異的リガンドでリポソーム複合体の表面を被覆することであった。かかるリポソームは、多くの場合「標的指向リポソーム」と呼ばれ、通常、実質的な正電荷を保持しており、身体の残りの部分へ送達される前の肺での初回通過による高い消失率を克服することができていない。全身投与されたDNA:リポソーム複合体の種々の器官における取り込み及び発現によれば、肺が、他の組織に比べて少なくとも10倍を超える高い効率で、リポソーム複合体により送達されるDNAを発現することが明らかになっている(Templeton et al.、1997)。
【0022】
本発明は、標的指向リポソーム複合体をはじめとする、カチオン性リポソーム複合体の正電荷を可逆的にマスキングする方法を提供する。このマスキング方法により、特異的細胞表面受容体を介して結合し内部移行するための適当なリガンドと併用した場合、特定の組織又は細胞型へ標的指向リポソームを特異的に送達することが可能となる。このリポソーム複合体をマスキングする方法は、特定の標的指向リポソーム複合体に可逆的に結合可能なマスキング剤を選択するステップと、所望のゼータ電位を達成するためにリポソーム複合体をマスキング剤で滴定するステップと、マスキングされた粒子を、肺を通過して標的器官に結合する能力についてin vivoで試験するステップと、を含んでいる。
【0023】
リポソーム構造
リポソームは、その組成物及び製剤方法に基づいて異なる形態を有している。核酸の送達に多く使用されている製剤は、小さい単膜小胞(SUV)、多重膜小胞(MLV)又は二層重積構造(BIV)である。
【0024】
SUVはその表面上で核酸を縮合し、「スパゲッティ&ミートボール状」構造を形成する(Sternberg,1996)。SUVを使用して作製したDNA:リポソーム複合体は、多数の細胞型をin vitroにおいて効率よく感染させるが、全身送達時に遺伝子発現がわずかであるか、又は全く生じない(Felgner et al.、1987;Felgner et al.、1994)。
【0025】
MLVを使用して作製された複合体は、凍結電子顕微鏡法により断面を見た場合、「スイスロール」のように見える(Gustafsson et al.、1995)。これらの複合体は全身投与には大きすぎることが多く、MLVでは細胞表面での「分解」が不可能であることから、細胞へ核酸を送達することについては非効率的である。また、MLVのDNA:リポソーム複合体の表面上へリガンドを付加した場合、非効率的な細胞送達の問題をさらに悪化させる。従って、MLVは、核酸の標的送達に関するモデル系の開発において特に有用ではない。
【0026】
好ましいリポソーム複合体は、BIV、又は押出しDOTAP:Cholリポソームで作製される。図1で明らかなように、BIVを使用して作製されたリポソーム複合体は、2つの二層重積構造の間に核酸が効果的に封入されている(Templeton et al.、1997)。BIVはDOTAPとコレステロールを使用して形成されており、新しい製剤方法はTempleton et al.、1997に記載されている。なお、この文献は引用により本明細書に援用する。この製剤方法は、短い低周波超音波処理と、その後の孔径を小さくしたフィルターを通す手動によるリポソームの押出しを含むという理由で、異なっている。0.1mmフィルター及び0.2mmフィルターは、他のプロトコールで使用されているポリカーボネート製ではなく酸化アルミニウム製である。酸化アルミニウム膜は、表面積当たりより多くの細孔を含有している。細孔は均一な間隔と大きさで配置され、かつその細孔はまっすぐなチャンネルを有している。手動の押出し工程の間に、リポソームを4種類のそれぞれ異なる大きさのフィルターに一回だけ通過させる。
【0027】
BIVは任意の大きさの非常に大量の核酸を縮合するので、ポリマーをはじめとする追加のDNA縮合剤を使用する必要はない。例えば、BIV内へのカプセル化前にプラスミドDNAをポリマー上に縮合した場合、リポソーム複合体内へのDNAの組込みも、その後のin vitro又はin vivoにおけるトランスフェクション後の遺伝子発現も上昇しなかった。このような二層重積構造単独による核酸のカプセル化は自発的かつ瞬時に生じ、十分なカプセル化を得るにはわずか1ステップの簡単な混合しか必要としない。また、押出しDOTAP:Chol−核酸複合体は、肝臓のクップェル細胞による速やかなクリアランスを回避するのに十分に大きいが、それでも窮屈なバリアーを通って滲出し、標的器官中で効率的に拡散する。
【0028】
BIVは、プロドラッグ、毒性薬品、ウィルス及び核酸を含む、多くの種類の薬剤を封入するのに有効である。これらの好ましいリポソームは種々の化合物を効果的に送達するのに使用することができるが、本明細書では、本発明の送達系を例示するのにDNA又は核酸の送達を用いる。
【0029】
標的指向リポソーム
非ウィルス送達担体は標的特異性を有しておらず、従って、標的を変更する必要はない。リポソームのターゲッティングは、特異的リガンドがリポソーム複合体の外面へ結合することによって達成される。リガンドは、その結合性と、特異的細胞表面受容体を介する内部移行能により選択される。標的細胞へのリポソーム複合体の特異的な結合及び送達は、標的細胞の外面上に位置する表面タンパク質、受容体又は他の一部の特異的因子への、リポソーム複合体の外面に結合させたリガンドの特異的結合と関係している。リガンドをリポソーム複合体の表面に効率よく結合するには、リガンドの添加前に送達する核酸又は他の薬剤を送達担体内に封入するのが好ましい。従って、封入された核酸又は薬剤は、リポソーム複合体の表面上にあるリガンドの結合を妨げることはない。
【0030】
SUVリポソーム:DNA複合体は標的指向が困難である。一般に、リガンドはDNAと混合する前にSUVに添加されるので、恐らくリポソームによるDNAの縮合を妨げる。何人かの研究者は、リポソーム単独と比べると、SUVリポソーム−リガンド複合体が核酸を効率的に縮合しないことを報告している。さらに、核酸がリポソーム複合体の表面上に露出しておりリポソーム内に保護されていない。
【0031】
これに対し、リガンドは、BIVなどの核酸を封入するリポソームで形成されているリポソーム複合体の表面上に容易に結合し得る。モノクローナル抗体、Fabフラグメント、タンパク質、部分的タンパク質、ペプチド、ペプチド擬似体、小分子及び医薬品が、リポソーム内に薬剤をカプセル化した後、BIV複合体の表面上に被覆されている(Templeton et al.、1997;Templeton and Lasic,1999)。
【0032】
押出しBIV複合体の表面にリガンドを付加しても、リポソーム複合体の平均粒径に有意な増大はない。さらに、標的器官中での管外溢出及び浸透、並びにトランスフェクション後に生じる遺伝子発現は、リガンドの付加により低下しない。これらの改良製剤は正荷電であり、in vitro及びin vivoにおいて核酸を細胞に効率的に送達する。
【0033】
リガンドの結合
ヒトの遺伝子治療において最も有用なリガンドは、小さく、リポソームに効率よく結合し、標的受容体に対する高親和性を有し、かつ受容体を介して標的指向複合体が取り込まれるものである。非ウィルス系は免疫反応を起こすことなく繰り返し投与することができるが、表面上に過剰に多くのリガンド又は過剰に大きなリガンドを含有するリポソーム複合体を連続投与した場合には免疫反応が生じ得る。これらの免疫反応は、標的指向リポソーム複合体の有効性及び安全性を低下させる。
【0034】
一般に、研究者はポリエチレングリコール(PEG)に所望のリガンドを結合させ、そのPEGリガンドをリポソーム構造中への組込みに、又はリガンドのリポソーム複合体の表面への結合に使用する。
【0035】
PEGの使用に代わる方法には、イオン相互作用によるリガンドの結合、又は「リンカー脂質」への共有結合によるリガンドの結合が挙げられる。負荷電リガンドは、BIVなどのカチオン性リポソーム複合体の表面上に簡単に結合され得る。変性リガンドが適当な細胞表面受容体に効率的に結合する能力を阻害することなく負電荷の量を高めるために、追加の成分をリガンドに付加することができる。
【0036】
例えば、肝臓肝細胞上のアシアロ糖タンパク質受容体へDNA:リポソーム複合体を標的送達するのにスクシニル化アシアロフェツインが使用されている。コハク酸アミドはアシアロフェツインの負電荷を増加させるので、アシアロフェツイン単独よりもリポソーム複合体の表面へのアシアロフェツインの結合をより効率的にする。リポソーム複合体の表面上に結合させるリガンドの最適量はリガンドに依存する。最終的には、in vivoでのトランスフェクション実験を実施して、標的細胞への最高レベルの送達を提供するのに必要なリガンドの最適量と、免疫反応の発生がわずかであるか、又は全く発生しないこれらの細胞の遺伝子発現の最高レベルとを確認しなければならない。
【0037】
または、反応基を含有するリガンド又は変性リガンドを共有結合によりリンカー脂質に結合させることができる。これらのリガンド脂質複合体は、受容体に結合するためのリガンドの最適活性について確認しなければならない。さらに、共有結合は、連続投与後の動物又はヒトにおいて免疫原ではあってはならない。リガンド脂質複合体は、核酸又は薬剤がリポソーム内に封入されている、リポソーム複合体の外側の膜に自然に挿入され得る。また、その複合体の表面への挿入に使用されるリガンド脂質の量はリガンドに依存する。さらに、in vivoでのトランスフェクション実験を実施して、標的細胞への効率的送達を提供するのに必要なリガンド−脂質の最適量と、免疫反応の発生がわずかであるか、又は全く発生しないこれらの細胞の遺伝子発現の最高レベルとを確認しなければならない。
【0038】
リポソームの非特異的送達
細胞表面は負荷電であり、特定の細胞型ではそれらの負電荷の密度が異なる。これらの電荷密度の差は、カチオン性リポソーム複合体を結合する細胞の能力に影響を及ぼし、主として肺におけるこれらのリポソーム複合体の初回通過クリアランス及び濃度に関与すると考えられる。さらに、血漿タンパク質によるリポソームのオプソニン化が血液でのリポソームの非特異的クリアランスを高めていることが報告されている。例えば、カチオン性DNA:SUVリポソーム複合体は、循環内において短い半減期(一般に約5〜10分)を有している。これらの正電荷を保護し、かつ循環におけるこれらのリポソーム複合体の半減期を延長するために、かかるリポソーム製剤に分子量の大きいポリエチレングリコール(PEG)及びポリエチレングリコール誘導体が添加されている。一般には、PEGを共有結合でリポソーム複合体に結合してリポソーム複合体の安定性を高める(Papahadjopoulos et al.、1991;Senior et al.、1991;Gabizon et al.、1994)。しかし、他方では、静電相互作用により非ウィルス遺伝子ベクターと相互作用する大きいアニオン性PEG誘導体が調製されている(Finsinger et al.、2000)。
【0039】
報告され、かつ臨床的に使用されているPEG化SUVは、脂質又はリポソームの外面上にDNAを有する。ほとんどの場合、標的指向リガンドは脂質ではなくDNAに結合し、負荷電の大きなPEG分子は標的指向リガンドが標的細胞へ結合することを立体的に妨げていると考えられる。従って、内部にDNAを含むいくつかのPEG化SUVは、in vitro又はin vivoにおける使用の前に精製する必要がある。SUVのPEG化はこれらのリポソーム複合体の半減期を延長するが、それはまだ未解決である他の問題を引き起こす。
【0040】
その問題の1つは、カチオン性複合体による細胞への結合と細胞の効率的なトランスフェクションに、ある程度、十分な電荷相互作用が寄与することである。例えば、最近の公報においては、ある種のウィルスが、細胞表面受容体へ結合する役割を果たすウィルス表面上のウィルスタンパク質の重要なサブユニットの周囲で局部的な正電荷を有していることが報告されている。さらに、この局部的な正電荷は、受容体を介した細胞へのウィルス侵入に必要である。従って、標的指向リポソーム複合体の表面上に十分な正電荷を維持することが細胞へ最適な送達をするのに不可欠である。
【0041】
SUVをPEG化するとSUV複合体上の正電荷は有意に保護され、その結果、肺及び心臓によるSUVの非特異的取り込みだけでなく、標的細胞又は標的組織によるSUVの特異的取り込みも低下する。PEG誘導体のリポソーム複合体への共有結合は、血流中であっても可逆的でなく、立体障害及びカチオン性リポソームと負荷電細胞膜の間のイオン相互作用の障害が原因でカチオン性リポソームの細胞への送達が妨げられる。
【0042】
さらに、結果的に、循環におけるDNA:リポソーム複合体の半減期が非常に長くなる(すなわち、数日)ことにより、患者においても問題が生じる。SUVのPEG化は、皮膚、手及び足に大量の注入リポソーム複合体の非特異的蓄積を引き起こし、患者が粘膜炎及び手足症候群(Gordon et al.、1995;Uziely et al.、1995)に罹患し、かつ患者に極度の不快感をもたらす。
【0043】
一般に、PEG化はカチオン性複合体上の正電荷を遮蔽するため、標的細胞表面と接触する際に「脱遮蔽」することができない。従って、PEG化複合体は、標的細胞への結合にあたって、又はそれらの細胞の最適なトランスフェクションにあたって不可欠な電荷相互作用を利用することができない。さらに、PEG化複合体は融合性でなく、エンドサイトーシスの経路を介して細胞に侵入しなければならず、標的細胞に到達するわずかのPEG化複合体中の大部分のDNAは分解されることになる。
【0044】
SUVとは対照的に、BIV核酸複合体(リガンドを含むもの又はリガンドを含まないもの)は循環において5時間の半減期を有しており、皮膚、手又は足に蓄積されない。循環における半減期の延長は、主として、製剤、調製方法、最適のコロイド懸濁液の注入、及び混合複合体に使用される核酸:脂質の最適の比、血清安定性、及び大きさ(200〜450nm)によって生じる(Templeton et al.、1997)。従って、これら二層重積リポソームは、核酸のカプセル化を必要とする標的指向非ウィルス送達系において好ましい実施形態である。BIVリポソームは2つの脂質二重層を有しており、図1で示すとおり、2つの脂質二重層間にDNA又は他の薬剤を封入し、保護する。標的指向リガンドは外部の脂質二重層の外層に結合されており、従って、DNA:リポソーム複合体の外面上に正電荷を保持する。
【0045】
本発明において、マスキング剤は、外部の脂質二重層の外面上の正電荷と可逆的方法で相互作用する。マスキング剤は、標的指向リガンドと異なり、可逆的にリポソーム複合体と結合する。従って、マスキング剤は、リガンドに比べて、外部脂質二重層からの解離速度が速い。
【0046】
リポソーム表面電荷の可逆的マスキング
本発明では、本明細書に「マスキング」として記載されている方法は、初回通過肺クリアランスを阻害し、標的細胞へリポソーム複合体を非常に効率的よく結合させるための、ある種の化合物とリポソーム複合体における表面層との相互作用を説明するのに用いられる。効果的なマスキングを行うための重要な点は、可逆的にリポソーム複合体に結合されるマスキング剤を提供することであり、その結果、初回通過クリアランスが一度回避されたならば、リポソーム複合体が依然として標的細胞へ結合する能力を持ち、非常に効率的に標的細胞の細胞膜を通過してそれらのリポソーム複合体の治療内容物を送達することができる。
【0047】
適当なマスキング剤を選択する。マスキング剤の大きさは、標的指向リガンドの大きさにやや比例して変化し、一般には標的指向リガンドより小さい。リガンドが抗体分子などのように大きい場合(約10,000ダルトン以上)、適当なマスキング剤は約5,000ダルトン以上である。リガンドが小型ペプチドのように中程度の大きさの場合(約15,000ダルトン以下)、適当なマスキング剤は、通常、約2,000ダルトン以下である。リガンドが小さい分子又は医薬品である場合(約5,000ダルトン以下)、適当なマスキング剤は、通常、約500ダルトン以下である。表面に結合されている小さな標的指向リガンドを含むリポソーム複合体をマスキングするのに大きいマスキング剤を使用すると、マスキング剤がリポソーム表面から容易に解離することを防げることがある。マスキング剤の効果はリポソーム表面とのその相互作用の可逆性に依存するので、好適なマスキング剤の選択は重要である。
【0048】
マスキング剤は、通常、カチオン性リポソーム複合体の表面に可逆的に結合している中性脂質又は他の中性アニオン性化合物である。目下利用可能である先に記載したPEG化リポソーム複合体とは対照的に、本マスキング剤は、比較的弱い結合、例えば、水素結合又は比較的弱いイオン結合などによりリポソーム複合体と相互作用する。マスキング剤は、リポソーム複合体表面からの解離速度が標的指向リガンドの解離速度よりも速くなければならない。さらに、マスキング剤は、細胞表面と相互作用するように選択するものではなく、むしろ、非特異的結合に起因する肺及び他の組織によるリポソーム複合体の初回通過クリアランスを阻害するためにリポソーム複合体上の外部正電荷を一時的にマスキングするように選択する。マスキング剤は、肺及び非標的組織の回避後に解離させなければならず、それにより標的細胞に複合体を効果的に送達することができる。
【0049】
マスキングされたリポソームが肺及び他の非標的組織を回避し、標的組織に送達され、そこでの遺伝子発現を確認するには、マスキング剤について高価で時間がかかるin vivo実験を行わなければならないので、マスキング剤としての選択化合物の可能性を評価するために、予めin vitro実験を実施する。かかる事前のin vitro実験の例は実施例2で述べる。
【0050】
選択したマスキング剤でリポソーム複合体を滴定する。
有望なマスキング剤を選択したならば、リポソーム複合体をそのマスキング剤により滴定して、マスキングしたリポソーム複合体の標的組織への最適送達を得る最適濃度を決定する。
【0051】
実験的証拠により、マスキングされたリポソーム複合体のゼータ電位がリポソーム複合体に対するマスキング剤の適当な濃度となることが示された。ゼータ電位は、微粒子(すなわち、リポソーム複合体)の表面上の荷電基の存在又は不在を示す重要かつ有用な指標である。ゼータ電位はミリボルト(mV)で表され、懸濁液の全体的な電荷の量であり懸濁液の安定性の指標である。この場合において、荷電粒子が互いに反発し、自然に凝集する傾向を解消するので、ゼータ電位が大きいほど懸濁液は安定すると考えられる。懸濁液中のリポソーム複合体については、凝集が送達にあたっての欠点になる。従って、ゼータ電位の測定は、マスキングの前後にリポソーム複合体の特性を明らかにするために本発明で使用するツールである。
【0052】
本発明のマスキングされた標的指向リポソームを製造する方法では、リポソーム複合体と相互作用させるためのマスキング剤の濃度は、まず、望ましいゼータ電位に基づいて選択する。本発明の記載においては、「望ましいゼータ電位」とは、4〜16mVの範囲にあるものであり、通常10mV未満のものである。好ましい実施形態では、本発明のマスキングされたリポソーム複合体は、10mV未満のゼータ電位を有する。
【0053】
例えば、対照のカチオン性リポソームは60〜70mVのゼータ電位を有している。本発明のBIV−DNA複合体は、マスキング剤の付加なく作製された場合、45.5mVのゼータ電位を有する。BIV−DNAリポソーム複合体にマスキング剤を付加すると、リポソーム複合体の表面上にある正電荷のマスキングを示すBIVリポソーム複合体のゼータ電位が低下した。様々な濃度のマスキング剤をリポソーム複合体に付加し、ゼータ電位を測定した。一部の標的指向リガンドが、リポソーム複合体に負電荷を付与し、リポソーム複合体の肺における非特異的な初回通過クリアランスを回避させるのに必要なマスキング剤の量を低下させていることに注意されたい。
【0054】
次いで、望ましい範囲のゼータ電位を有するマスキングされた複合体について、それらの400nmの吸光度を測定してそれらが沈殿していないことを確認する。また、平均粒径も動的光散乱技術によって測定し、リポソーム複合体に大きさの変化がなく、平均粒径にしてなお200〜500nmであることを確認する。
【0055】
図2はin vivoにおける腫瘍細胞を標的とするための本発明のマスキングされた標的指向リポソームの使用に関する図面であり、マスキングをしなかった標的指向リポソーム複合体の使用による結果と比較している。図2の左側に示すマスキングをしなかった標的指向リポソーム複合体は、三角形の尖った部分が付いている球体として表されている(球体はリポソーム複合体を表し、三角形の尖った部分はリポソーム複合体の表面層に結合しているリガンドを表す)。マスキングをしなかった標的指向リポソーム複合体が肺を通過する場合、大部分のリポソーム複合体は肺により取り込まれ、稀に肺を通過したリポソーム複合体だけが遠位の腫瘍細胞により取り込まれる。マスキングされた標的指向リポソーム複合体は図2の右側に示す。マスキングされた標的指向リポソーム複合体は、リポソーム複合体よりわずかに大きい球体として表され、尖った部分がない。この滑らかな球体は、リポソーム複合体を被包しているマスキング剤の外層を表す。マスキングしなかったリポソーム複合体とは対照的に、マスキングされた標的指向リポソーム複合体は取り込まれることなく、又はわずかに取り込まれるだけで肺を通過する。図2に示すとおり、マスキングされたリポソーム複合体が一度肺を通過すると、マスキング剤は標的指向リポソーム複合体から解離し始め、それにより複合体は腫瘍細胞に結合し、取り込まれ得る。
【0056】
マスキングをしなかった標的指向リポソーム複合体を使用すると、肺の循環によるクリアランスのために腫瘍細胞に送達される核酸分子の濃度が低くなる。一方、マスキングされた標的指向リポソーム複合体は高レベルの肺クリアランスを有意に低下させ、はるかに高い濃度で標的細胞に送達される。本発明のマスキングした標的指向リポソームの利点は、肺における初回通過クリアランスを低減させるとともに、特定の標的組織又は細胞へのその送達を促進し、その後の標的組織又は細胞での遺伝子発現のレベルを高めることであることは明白である。
【0057】
標的細胞の遺伝子発現
最終的に、in vivoにおけるトランスフェクション実験を行い、リポソーム複合体が肺を通過し、標的細胞に取り込まれ発現され得るマスキング剤の最適量を確認する。これらの実験には、マスキングされた標的指向リポソーム複合体の全身投与、組織の採取、及び採取した組織における遺伝子発現の測定が含まれている。標的組織で最も高い遺伝子発現があるマスキングされた標的指向リポソーム複合体を臨床的な使用に選択する。
【実施例1】
【0058】
DNA:リポソーム複合体の調製
リポソームの調製
BIVリポソーム(特にDOTAP:Cholリポソーム)を下記の実験プロトコルで使用した。DOTAP:Cholリポソームは以下のようにして調製した。カチオン性脂質(例えばDOTAP)を等モル濃度の中性脂質コレステロール(Chol)と混合した。最近では、臨床用等級のリポソーム複合体を製造するのに合成コレステロールが用いられている。DOTAPと合成コレステロールの最適比は、50:50というより、むしろ50:45である。混合した粉末状の脂質をHPLC等級のクロロホルム中に溶解した。この透明な溶液を30分間30℃にて回転して薄膜を作った後、15分間真空下でその膜を乾燥した。5%デキストロースの水溶液でその膜を水和し、20mMのDOTAP及び20mMのChol(又は合成コレステロールについては18mM)の最終濃度とした20mM DOTAP:Cholと称する。水和脂質膜を50℃にて45分間、次いで35℃にて10分間水浴中で回転した。この混合物を一晩室温にて栓付きフラスコ中で静置し、次いで、50℃にて5分間低周波で超音波処理し、試験管に移し、50℃にて10分間加熱した。この混合物をシリンジを使用して、径が順に小さくなるWhatman(Kent,England)フィルター(1.0、0.45、0.2及び0.1ミクロン)を通して押出した。用いた0.2ミクロン及び0.1ミクロンのフィルターはWhatman ANOTOPであった。調製したリポソームは4℃にてアルゴンガス下に保存した。
【0059】
DNA調製
これらの実験で使用したCATプラスミドはp4119であった(Liu et al.、1995)。図3〜5では、プラスミドDNAをQiagen Endotoxin−Free Kit(Qiagen,Inc.、Valencia、CA;Sigma Chemical Co.,Inc.、St.Louis、MO)を使用して調製した。図6については、DNAはManiatisのアルカリ溶解方法の変法を用いて調製した(Smabrook,J.et al.1989)。その変更には、RNase A消化直後の2時間のプロテイナーゼK消化ステップを含む。収率は、細菌培養物1リットル当たり15〜25mgの範囲のプラスミドDNAであった。
【0060】
プラスミドDNAのエンドトキシンの濃度は発色性カブトガニ血球抽出成分アッセイ(Kinetic−QCL;BioVVhittaker,Walkersville,MD.)を使用して検出した場合にDNA1マイクログラム当たり8エンドトキシン単位であった。DNAについてゲノムDNAの不在、小型DNA断片、又はRNAを検出し、プラスミドDNA調製物のOD260/280比は2.0であった。
【0061】
DNA:リポソーム複合体の調製。
リポソーム複合体は、任意に計画されたin vitro又はin vivoにおける使用の前日に調製した。DNAは5%デキストロース水溶液にて希釈した。等量のDNA溶液とリポソーム溶液を混合した。稀釈と混合は、室温にてすべての試薬を含む1.5ml試験管中で実施した。DNA溶液はリポソーム溶液の表面で速やかに添加された。DNA:リポソーム混合物は、2回上下してすばやく混合し、次いで4℃にて一晩保存した。
【実施例2】
【0062】
有望なマスキング剤の同定
マスキング剤はリポソーム脂質二重層に対する親和性を有する中性の脂溶性化合物であるか、又はマスキング剤はカチオン性リポソームとイオン結合を形成する弱アニオン性化合物である。有望なマスキング剤が選択されたならば、高価で時間のかかるin vivoでの実験を行い、マスキングされたリポソームが肺及び他の非標的組織を回避し、標的組織へ送達され、標的組織中で発現することを確認しなければならない。一般には、選択したマスキング剤の濃度を変えてリポソーム複合体を滴定して、動物モデルでマスキングされたリポソーム複合体が標的組織への最適送達を提供するマスキング剤の最適濃度を決定する。通常、かかるin vivo実験の時間及び費用は、さらなる研究に値する有望なマスキング剤を選択するために行われるin vitroでの予備試験で決定される。
【0063】
かかる予備in vitro試験では、リポソーム複合体と濃度を変えた選択化合物とを混合し、その後、細胞とそのマスキングされたリポソーム複合体とをインキュベートすることが含まれる。通常、有望なマスキング剤は、18mM未満の、好ましくは10mM未満の濃度で細胞のトランスフェクションを阻害するものが選択される。一般には、有望なマスキング剤は、リポソーム複合体の正電荷を中和するのに十分なほどにリポソーム複合体表面と相互作用し、それによってin vitroでの細胞培養によるリポソーム複合体の取り込みを低下させる。しかしまた、マスキング剤とリポソーム複合体との相互作用は、リポソーム複合体がin vivoにおいて全身投与された場合に可逆的でもなければならない。
【0064】
分子量510.6を有する低分子量中性脂質のn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドについて、カチオン性DNA:リポソーム複合体のMCF−7乳癌細胞への非特異的結合をマスキングする能力を試験した。CAT DNA:リポソーム複合体は4mMから18mMの範囲の濃度のn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドとインキュベートし、その後、マスキングしたリポソーム複合体をMCF−7細胞と混合した。
【0065】
MCF−7細胞は、70%の集密度まで6ウェル組織培養クラスタ中で培養した。1ウェル当たりCATプラスミドDNA5μgを用いて、実施例1で記載されたようにして調製したCAT DNA:リポソーム複合体でそれらの細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションは3時間無血清培地で実施した。6つの個別のin vitroでのトランスフェクションは、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドの各濃度について行った。酵素結合抗体免疫結合アッセイ(ELISA)は、Roch(Indianapolis、IN)CAT ELISAキットを用いて行った。MCF−7細胞の対照の3つのウェルをリポソーム単独とインキュベートし、抗CAT抗体との交差反応性の任意のバックグラウンド輝度を決定した。対照の細胞で検出された任意のCAT免疫反応性に対してすべてのCATタンパク質定量を補正した。タンパク質定量は、Micro BCAキット(Pierce、Rockford、IL)を用いて行った。
【0066】
図3に、各種濃度のn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドとインキュベートしたMCF−7細胞に対するCAT産生濃度(ng CAT/mgタンパク質)を示す。マスキングしなかったCAT DNA:リポソーム複合体でトランスフェクトした細胞はタンパク質1mg当たり約180ngのCATを産生したが、少なくとも8mMのn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドでマスキングしたCAT DNA:リポソーム複合体でトランスフェクトした細胞は、ごくわずかのCAT産生濃度であった。従って、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシドは、低分子量の中性脂質マスキング剤の有望な候補であると考えられる。
【実施例3】
【0067】
DNA:リポソーム複合体へのリガンドの添加
in vivoにおいて試験される有望なマスキング剤が特定され、準備されたならば、目的の特定の細胞型又は組織に特異的に結合するリガンドをDNA:リポソーム複合体に付加する必要がある。本実施例では、肝臓肝細胞上のアシアロ糖タンパク質受容体(Kaneo et al.1991)にDNA:リポソーム複合体を送達するためにスクシニル化アシアロフェツインを使用した。コハク酸アミドはアシアロフェツインの負電荷を増加させるため、アシアロフェツイン単独よりもリポソーム複合体の表面へ効率的に結合した。スクシニル化アシアロフェツインは静電的相互作用によりリポソーム複合体表面に結合されている。
【0068】
混合後、0.45μmのポリスルホンフィルター(Whatman)を通してDNAリポソーム複合体を濾過した。濾過したこれらのDNA:リポソーム複合体にPipetmanピペットチップを使用してスクシニル化アシアロフェツイン(0.2mg/ml)を添加した。ピペットチップ中でこの混合物をゆっくり上下に2回混合した。DNA:リポソーム複合体を室温又は25℃にて一晩保存した。DNA:リポソーム−アシアロフェツイン複合体の沈澱は生じなかった。
【実施例4】
【0069】
リポソーム複合体のマスキング
本実施例で使用されているマスキング剤はPEGポリマーであった。分子量5000のPEGポリマーに5個のペンダントカルボキシル基が添加されたペンダント改変PEG NHSエステルを選択した。ペンダントカルボキシル基はPEG鎖の骨格に沿って配置されていた。
【0070】
種々の濃度(0.0004mMから16mMまで)の分子量5000のPEGポリマーをリポソーム複合体にゆるやかに添加した。その直後、Delsa 440 SXゼータ電位アナライザー(Beckman Coulter、Miami、FL)を使用して、マスキングしたリポソームのゼータ電位を測定した。約4mMと16mMの濃度のマスキング剤を添加すると、ゼータ電位が10mV未満であるリポソーム複合体が得られた。4mMのマスキング剤を添加した場合、ゼータ電位は9.8mVであった。8mMのマスキング剤を添加した場合、ゼータ電位は6.5mVであったが、16mMのマスキング剤を添加した場合、測定されたゼータ電位は4.8mVという低値であった。マスキング剤は、動物への注射の直前に、緩やかな混合により複合体に添加されている。
【実施例5】
【0071】
in vivoにおける送達と遺伝子発現
初回通過クリアランス作用を回避する能力を証明することにより本発明のマスキングしたリポソームの特異的ターゲティングを説明するために実験を行った。図5に示すターゲティング実験のために、Balb/cマウス(各マウスは6週齢であり、約20グラムの重量であった)に、DOTAP:Chol:DNA複合体(4mMのDOTAP:Chol及び100μgのDNA)200μlを、それらの尾部静脈に注射した。非標的指向複合体を評価する実験については(図3及び図4を参照)、リポソーム複合体(4mMのDOTAP:Cholと、Qiagenエンドトキシンフリーキットを使用して調製したエンドトキシンフリーDNA40μg)80μlをマウスに注入した。挿入されたDNAは、首尾よく細胞へトランスフェクトされた場合に標的細胞中でCATの発現をもたらすCATリポータープラスミドであった。リポソーム複合体上で使用されたマスキング剤は、5個のペンダントカルボキシル基を有する5000MWのPEGポリマーであった。マスキング剤濃度を滴定し、図4及び図5に示した0.0004mMと16mMの間の濃度(すなわち0.0004mM、0.004mM、0.04mM、0.4mM、4mM、8mM、10mM、12mM、14mM及び16mM)における使用のための最適濃度を検出した。
【0072】
注射後24時間にマウスを殺処分し、心臓及び肺を回収し、液体窒素で速やかに凍結した。組織抽出物を調製し、Boehringer Mannheim(Indianapolis、IN)のCAT Elisaキットを使用して酵素結合抗体免疫結合アッセイ(ELISA)を行い、CAT免疫反応性を検出した。すべてのクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(「CAT」)のタンパク質定量は、対照の組織(すなわちリポソームのみ)で検出された任意のCAT免疫反応性に対して補正した。タンパク質濃度はMicro BCAキット(Pierce、Rockford、IL)を使用して検出し、CAT産生は組織抽出物の全タンパク質分の関数として報告した(ngCAT/mgタンパク質)。
【0073】
マスキングしたDNA:リポソーム複合体で送達されたCAT遺伝子の発現は、肺及び心臓で検出した。肺組織及び心臓組織でのCAT発現を、それぞれ図4及び図5に示す。1番目の棒は、標的指向リガンド又はマスキング剤を含まないDNA:リポソーム複合体を注入した場合を表し、一方、他の棒は、濃度を次第に増加したマスキング剤(すなわち、実施例4に記載されている、0.0004mM、0.004mM、0.04mM、0.4mM、4mM、8mM、10mM、12mM、14mM及び16mMPEGポリマー)で被覆したDNA:リポソーム複合体を注入した場合を表す。図4及び図5で記載されている誤差棒(エラーバー)は、5匹のマウスの実験結果における標準偏差を表す。
【0074】
図4は肺におけるCAT発現を示す。リポソーム単独の注入では、マスキングしなかったDNA:リポソーム複合体を注入した場合の肺における40ng超のCAT/mgタンパク質に比べ、肺において0.05ngCAT/mgタンパク質の値が得られた。CAT発現の標準偏差は低用量のマスキング剤では大きいが、一般にマスキング剤の濃度が増加するにつれてCAT発現の標準偏差は減少する。16mMのPEGポリマーでマスキングしたリポソーム複合体を注射すると、肺におけるCAT発現は有意に低くなり、1ngCAT/mgタンパク質であった。
【0075】
図5は心臓におけるCAT発現を示す。リポソーム単独の注射では、マスキングしなかったDNA:リポソーム複合体を注射した場合の心臓における約2ngのCAT/mgタンパク質に比べ、心臓において0.05ngCAT/mgタンパク質の値が得られた。心臓におけるCAT発現は2ngCAT/mgタンパク質を超えないが、CAT:リポソーム複合体を5000PEGポリマーでマスキングした場合、CAT発現はさらに低下した。16mMのPEGポリマーでリポソーム複合体をマスキングすると、基本的に心臓におけるCAT発現は低減する。
【0076】
肝臓におけるCAT発現を比較するために、DNA:リポソーム複合体(マスキングされておらず、かつ標的化されていないもの)、ターゲッティングDNA:リポソーム複合体(この場合、標的指向リガンドとしてスクシニル化アシアロフェツインを使用した)、及びマスキングしたターゲッティングDNA:リポソーム複合体(この場合、マスキング剤として分子量5000のPEGポリマーを使用した)を注射してさらなる実験を行った。図6にその実験の結果を示す。注入したリポソーム複合体により、肝臓において非常に低濃度のCAT発現が生じた(すなわち、40±1.14 S.E.pg CAT/mgタンパク質)。リポソーム複合体がそれらの表面層上に標的指向リガンド、スクシニル化アシアロフェツインを有していた場合、肝臓におけるCAT発現は6倍超を示した(すなわち、275±14.1 S.E.pg CAT/mgタンパク質)。スクシニル化アシアロフェツインはリポソーム複合体に負電荷を付与するため、リポソーム複合体をマスキングするために必要な5000ダルトンのPEGポリマーの濃度が低減した。10mMの分子量5000のPEGポリマーで可逆的に標的指向リポソーム複合体をマスキングした場合、肝臓でのCAT発現がさらに上昇する(すなわち、3025±14.4 S.E.pg CAT/mgタンパク質)、すなわちCAT発現の増加が標的指向リポソーム複合体に対して10倍以上となることが確認された。図6中の各棒は、5匹のマウスから得られた平均値と標準誤差値を表す。
【0077】
本発明は、in vitro及びin vivoにおける、細胞及び組織への核酸分子又は薬剤の特異的かつ効率的な送達を提供する、マスキングした標的指向リポソーム複合体である。一実施形態では、マスキングした標的指向リポソーム複合体は、5個のペンダントカルボキシル基のPEG5000ダルトン化合物でマスキングされているDOTAP:Chol:DNA複合体である。
【0078】
本発明は、他のマスキング剤及びリポソームをも意図するものであり、それらは、標的細胞又は組織へのリポソーム複合体の効率的かつ特異的な送達を得るためのマスキング剤の効力に基づいて当業者により選択される。使用されるマスキング剤の量及び種類を滴定するための実験、並びに標的指向リガンドの効力を試験するための実験は上述のとおり行われる。かかる実験は、当業者の能力の範囲内に十分にある。
【0079】
また、本発明は、ヒトをはじめとする動物の細胞又は組織を標的にするカチオン性脂質核酸リポソーム複合体を製造するために、カチオン性脂質を選択した核酸、ウィルス、プロドラッグ又は他の薬剤と混合することと、適当なマスキング剤の使用直前にリポソーム複合体の表面電荷をマスキングすることとを含む、マスキングした標的指向リポソームを製造する方法である。使用されるカチオン性脂質及びアニオン性マスキング剤は、所望のゼータ電位及びヒトをはじめとする動物の細胞又は組織中で産生される転写された核酸の翻訳のレベルの測定に基づいて選択される。本発明の方法では、マスキング剤がリポソーム複合体の使用直前に添加され、マスキング剤が確実に、緩やかに結合されて標的組織又は細胞にリポソーム複合体が非常に効率よく結合し送達されることを防げないようにしていることを、理解することが重要である。これは、PEG分子が初回通過クリアランスの回避を可能とするが、標的組織の結合及び取り込みは効率化できないという今日のステルス技術を上回る本発明の長所の1つを表すものである。従って、本発明は、特定のリポソーム複合体に可逆的に結合しているマスキング剤を選択することと、所望のゼータ電位を達成するためにリポソーム複合体をマスキング剤で滴定することと、その心臓及び肺を通過し、標的器官又は細胞に結合し、標的細胞の細胞膜を介して内部移行する能力についてマスキングされた粒子をin vivoにおいて試験することとを含む、カチオン性リポソーム複合体の正電荷を可逆的にマスキングする方法を提供する。
【0080】
本発明とその長所を詳細に記載したが、添付されている特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、種々の変更、置き換え及び改変が本明細書においてなされ得ることを理解されたい。本明細書に記載されている実施例は単に具体例であり、これらに限定されるものではない。本明細書に記載されている本発明の多様な変更及び修正は可能であり、それらは本発明の範囲内である。
【0081】
(参考文献)
本明細書中に記載されているすべての特許及び刊行物は、本発明が属する分野の当業者の技術レベルを示している。本出願に引用されているすべての特許及び刊行物は、引用に援用された場合に各特許及び刊行物が詳しく記載されているのと同じ程度に、また各特許及び刊行物が詳しくは記載されていない材料及び方法を開示している程度に、引用により本明細書に援用するものとする。
【0082】
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【0083】
本発明及びその長所をより完全に理解するために、以下に添付の図面に関して言及する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のDNA:リポソーム複合体の図である。
【図2】マスキングされた標的指向リポソーム複合体及びマスキングされていない標的指向リポソーム複合体を使用して、遠位の腫瘍細胞(肺で確認されているものではない)への核酸分子の送達を示した図である。
【図3】量を漸次増やしたマスキング剤(mM)の存在下、MCF−7乳癌細胞におけるクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)の発現を示した図である。
【図4】量を漸次増やしたリポソーム複合体表面に結合しているマスキング剤(mM)による、マウス肺組織におけるクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)の発現を示した図である。
【図5】量を漸次増やしたリポソーム複合体表面に結合しているマスキング剤(mM)による、マウス心臓組織におけるクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(CAT)の発現を示す図である。
【図6】リポソーム複合体表面上のマスキング剤の存在下又は不在下、標的組織(すなわち肝臓)におけるCATの発現を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性脂質層に被包され保護されている薬剤と、
前記脂質層の外面に可逆的に結合しているマスキング剤と
を含む薬物送達用のリポソーム複合体であって、
前記マスキング剤が肺組織による前記リポソーム複合体の初回通過クリアランスを阻害するリポソーム複合体。
【請求項2】
前記脂質層の前記外面に結合している標的指向リガンドをさらに含む、請求項1に記載のリポソーム複合体。
【請求項3】
前記マスキング剤の前記脂質層の前記外面との解離定数が、前記標的指向リガンドの前記脂質層の前記外面との解離定数より大きい、請求項2に記載のリポソーム複合体。
【請求項4】
前記マスキング剤が前記標的指向リガンドの分子量より小さい分子量を有する、請求項1に記載のリポソーム複合体。
【請求項5】
前記薬剤がポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のリポソーム複合体。
【請求項6】
前記薬剤がプラスミドである、請求項5に記載のリポソーム複合体。
【請求項7】
前記薬剤がペプチドを含む、請求項1に記載のリポソーム複合体。
【請求項8】
内部脂質二重層及び外部脂質二重層を有するカチオン性リポソームと、
内部脂質二重層と外部脂質二重層の間に封入されている薬剤と、
カチオン性リポソームの外部脂質二重層の外面に結合している標的指向リガンドと、
前記外部二分子層の外面に可逆的に結合しているマスキング剤と
を含む標的指向リポソーム複合体。
【請求項9】
前記カチオン性リポソームが1対の内部脂質二重層及び1対の外部脂質二重層を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項10】
前記カチオン性リポソームが、DOTAPとコレステロールの押出し混合物を含む、二層重積リポソームである、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項11】
前記標的指向リガンドが前記マスキング剤の分子量以上の分子量を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項12】
前記マスキング剤が、前記標的指向リガンドが10,000ダルトン以上の分子量を有する場合、約5,000ダルトン以上の分子量を有する、請求項11に記載のリポソーム複合体。
【請求項13】
前記マスキング剤が、前記標的指向リガンドが約2,000ダルトンから約15,000ダルトンの範囲の分子量を有する場合、約2,000ダルトン以下の分子量を有する、請求項11に記載のリポソーム複合体。
【請求項14】
前記マスキング剤が、前記標的指向リガンドが約500ダルトンから約5,000ダルトンの範囲の分子量を有する場合、約500ダルトン以下の分子量を有する、請求項11に記載のリポソーム複合体。
【請求項15】
前記マスキング剤が脂質である、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項16】
前記マスキング剤がアニオン性化合物である、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項17】
前記マスキング剤が中性脂溶性化合物である、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項18】
前記マスキング剤が、前記標的指向リガンドの前記外部脂質二重層の外面からの解離速度より高い、外部脂質二重層の前記外面からの解離速度を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項19】
前記マスキング剤の濃度が約3mMから約10mMの範囲である、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項20】
前記マスキング剤がn−ドデシル−β−D−マルトピラノシドである、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項21】
前記マスキング剤が約5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコール誘導体である、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項22】
16ミリボルト未満のゼータ電位を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項23】
約3ミリボルトから約10ミリボルトの範囲のゼータ電位を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項24】
約200ナノメーターから約500ナノメーターの間の平均粒径を有する、請求項8に記載のリポソーム複合体。
【請求項25】
約5,000ダルトン以下の分子量を有する、カチオン性リポソーム複合体の外面と可逆的に相互作用するためのアニオン性マスキング剤であって、肺組織による前記リポソーム複合体の初回通過クリアランスを阻害するマスキング剤。
【請求項26】
DOTAP及びコレステロールの押出し混合物を含むカチオン性の二層重積リポソームと、
前記リポソームの内部脂質二重層と外部脂質二重層の間に封入されているプラスミドと、
前記カチオン性リポソームの外面に結合されている標的指向リガンドと、
前記リポソームの前記外面に可逆的に結合されているマスキング剤と
を含む標的指向リポソーム複合体であって、
前記マスキング剤が前記カチオン性リポソームのゼータ電位を10ミリボルト未満に低下させる濃度を有する複合体。
【請求項27】
特定のリポソーム複合体について可逆的相互作用性のマスキング剤を選択するステップと、
リポソーム複合体を前記マスキング剤で滴定して、所望のゼータ電位を達成するのに必要なマスキング剤の量を決定するステップと、
リポソーム複合体を、決定した量の前記マスキング剤と混合して、マスキングされたリポソーム複合体を形成するステップと、
標的組織への送達について前記マスキングされたリポソーム複合体を試験するステップと
を含む標的指向リポソーム複合体の送達を最適化する方法。
【請求項28】
前記マスキング剤が中性脂溶性分子である、請求項27に記載の標的指向リポソーム複合体の送達を最適化する方法。
【請求項29】
前記マスキング剤がアニオン性分子である、請求項27に記載の標的指向リポソーム複合体の送達を最適化する方法。
【請求項30】
リポソーム複合体の外部脂質層と相互作用する複数の化合物を選択するステップと、
18mM以下の複数の濃度の選択された各化合物と、標識を含有するリポソーム複合体とを混合して、マスキングされた標識リポソーム製剤を形成するステップと、
所定数の哺乳動物細胞系由来の細胞をマスキングされた各標識リポソーム製剤とインキュベートするステップと、
前記哺乳動物細胞系への標識の取込量が減少した前記マスキングされた標識リポソーム製剤を決定するステップと、
前記哺乳動物細胞系への標識の取込量が減少した前記マスキングされた標識リポソーム製剤を動物に全身投与し、in vivoでの標識の組織取込量の評価を行うステップと、
前記マスキングされた標識リポソーム製剤の全身投与に基づき使用される化合物を選択して、前記組織により取り込まれる、前記マスキングされた標識リポソーム製剤を調製するステップと
を含む潜在的リポソームマスキング剤を選択するためのアッセイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−513191(P2006−513191A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563178(P2004−563178)
【出願日】平成15年3月21日(2003.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2003/008929
【国際公開番号】WO2004/058192
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(591023860)ベイラー カレッジ オブ メディシン (3)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
【Fターム(参考)】