説明

標識試薬の感度調整方法

【課題】 サンドイッチイムノアッセイ法によりウイルス等の被検出物質を視覚的に検出する際に標識試薬の検出感度を広範囲において目的の感度に容易に調整する方法、およびその方法を用いた迅速診断用のキットを提供する。
【解決手段】 サンドイッチイムノアッセイ法による被検出物質の検出に用いる、コロイド粒子と被検出物質を補足する補足物質とを結合させた標識試薬中の、コロイド粒子単位表面積当たりの被検出物質を捕捉する捕捉物質の結合量を調整することにより標識試薬の検出感度を調整する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドイッチイムノアッセイ法によりウイルス等の被検出物質を視覚的に検出する際の標識試薬の感度を調整する方法、およびその方法を用いた迅速診断キットに関する。即ち、標識試薬に用いるコロイド粒子の単位表面積当たりに結合する捕捉物質として用いる抗体の量を調整することにより、視覚による標識試薬の検出感度を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法等において、試料中のウイルス等の被検出物質を視覚的に検出するため、コロイド粒子等の標識物質に、抗体等の被検出物質を捕捉する捕捉物質を結合させた、捕捉物質と標識物質の結合体(この結合体を標識試薬とも呼ぶ)が利用されている。免疫測定法等におけるコロイド粒子等の標識物質と、抗体等の前記捕捉物質との結合体の、被検出物質を検出する際の検出感度を決定する要因として、結合させる抗体の性質、コロイド粒子等の標識物質の大きさ、色およびコロイド粒子等の標識物質の材質等が知られている。
【0003】
しかし、これらの原理に基づいた測定方法が提案されているが(例えば特許文献1、2)、これらの方法においても、被検出物質を検出できる濃度などの範囲の調整が不十分であったり、当該範囲の調整に複雑な操作を必要としたりするため、より簡便な方法で十分に広い被検出物質の検出可能範囲を調整できる方法が求められていた。
【0004】
本発明者等は、これまで知られていなかった、標識試薬に用いるコロイド粒子上の単位表面積当りの補足物質の結合量と被検出物質の検出感度に相関があること、そして、このコロイド粒子上の単位表面積当りの補足物質の結合量をコロイド粒子径の変更により簡単に調整できることをはじめて見出し、標識試薬の検出感度を簡単に調整できる本発明を完成させた。
【特許文献1】特公平4−21818号公報
【特許文献2】特公平7−18876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サンドイッチイムノアッセイ法によりウイルス等の被検出物質を視覚的に検出する際に標識試薬の検出感度を広範囲において目的の感度に容易に調整する方法、およびその方法を用いた迅速診断用のキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を克服する手段を鋭意検討した結果、標識試薬に用いるコロイド粒子の単位表面積当たりの捕捉物質の結合量を調整することにより、被検出物質の検出感度を容易に調整できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は、サンドイッチイムノアッセイ法による被検出物質の検出に用いる、コロイド粒子と被検出物質を補足する補足物質とを結合させた標識試薬中の、コロイド粒子単位表面積当たりの被検出物質を捕捉する捕捉物質の結合量を調整することにより標識試薬の検出感度を調整する方法である。更に、前記コロイド粒子が、金コロイド粒子である、前記調整方法に関するものである。更に、本発明は、前記金コロイド粒子の粒子径を調整することにより、前記金コロイド粒子の単位表面積当たりの捕捉物質結合量を調整したコロイド粒子を用いることで、標識試薬の検出感度を調整する方法である。更に、前記捕捉物質が、抗体である、前記調整方法に関するものである。
【0008】
又一方で本発明は、前記方法により検出感度を調整した標識試薬を含む迅速診断キットである。更に、コロイド粒子が、粒子径40nm以上の金コロイド粒子である、前記迅速診断キットに関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、サンドイッチイムノアッセイ法によってウイルス等の被検出物質を視覚的に検出する際に、標識試薬に用いるコロイド粒子に結合している抗体量を調整することにより、標識試薬の検出感度を広範囲に容易に調整することができる迅速診断用のキットを提供することができる。そして、これにより被検出物質の検出感度を広範囲で容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の方法を説明する。
本発明は、サンドイッチイムノアッセイ法によりウイルス等の被検出物質を視覚的に検出する方法において、標識試薬に用いるコロイド粒子の単位表面積当たりの被検出物質を捕捉する捕捉物質の結合量を調整するものである。本発明において標識試薬に用いるコロイド粒子は、単位表面積当たりの前記捕捉物質との結合量を調整することが可能なものであればよく、一般的なコロイド粒子を用いることができるが、コロイドの安定性がよいといった点で金コロイド粒子を用いることが好ましい。
【0011】
本発明において用いる、サンドイッチイムノアッセイ法とは、支持体に固定された、被検出物質と特異的に結合する非標識捕捉物質により被検出物質を補足し、さらに当該被検出物質を被検出物質と特異的に結合するもう一つの標識捕捉物質により補足後、当該標識捕捉物質の標識を検出することにより被検出物質を特異的に検出する方法をいう。
【0012】
本発明において用いるコロイド粒子とは、液中に分散している状態の数nmから約1μmの粒子をいい、粒子の材質から、例えば、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、セレニウムコロイド粒子等の非金属コロイド粒子、着色樹脂物質、染料コロイド粒子及び着色リポソーム等の不溶性状粒子が挙げられる。本発明において用いるコロイド粒子は、市場より入手可能な市販品であってよい。
本発明において用いる金コロイド粒子とは、先に記載のコロイド粒子のうちで、粒子の材質が金であるコロイド粒子を指し、本発明において用いる金コロイド粒子は、市場より入手可能な市販品であってよい。
【0013】
本発明において用いる標識試薬とは、被検出物質を補足する物質(捕捉物質)と適当な標識物質を結合させた結合体(コンジュゲート)であり、標識物質には、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、セレニウムコロイド粒子等の非金属コロイド粒子、着色樹脂物質、染料コロイド粒子及び着色リポソーム等の不溶性状粒子やアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ等の発色反応を触媒する酵素、蛍光色素、放射性同位体等が挙げられ、本発明において用いる標識物質は、市場より入手可能な市販品であってよい。
【0014】
本発明において用いる標識試薬の調製方法は、使用する捕捉物質と使用する標識物質との組合せにより異なるが、例えば、捕捉物質として抗体を用い、標識物質として金コロイド粒子を用いた場合には、抗体の溶液と金コロイド粒子の溶液を混合するだけで標識試薬として用いることのできる、抗体の結合した金コロイド粒子を調製できる。そして、捕捉物質と標識物質とを結合する方法は、それぞれの捕捉物質または標識物質において様々な方法が知られており、いずれの方法を用いて調製してもよい。
【0015】
本発明において用いることのできる補足物質とは、被検出物質と特異的に結合する物質を意味する。そして、被検出物質とは、捕捉物質によって特異的に結合される検出の対象とされる物質を意味する。よって、本発明において、例えば被検出物質が、インフルエンザ抗原である場合には、その被検出物質と免疫学的な特異反応する抗体が捕捉物質となり、逆に該抗体を被検出物質として分析を行ないたい場合は、インフルエンザ抗原を捕捉物質として用いることが可能であるので、捕捉物質はまた被検出物質にもなり得る。なお、本発明で用いる、特異的に反応するや特異的に結合するとは、抗原抗体反応や受容体とそのリガンドとの反応などの特異的反応や特異的結合を意味する。
【0016】
従って、本発明でいう被検出物質又は該捕捉物質としては、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBc、HCV、HIV、EBV、NLVノーウォーク様ウイルス、ロタウイルス、パルボウイルス、等のウイルスもしくはそれらの構成部分又はそれらに対する抗体、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、炭疽菌、MRSA抗原等の細菌もしくはそれらの構成部分又はそれらに対する抗体、マイコプラズマ脂質、大腸菌、サルモネラ、ブドウ球菌、カンピロバクター、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオ菌、ベロトキシン、ヒトトランスフェリン、ヒトアルブミン、ヒト免疫グロブリン、マイクログロブリン、CRP、トロポニン、HCG、ラミジア・トラコマティス、ストレプトリジンO、β−グルカン、HBe、HBs、RFもしくはそれらの構成部分又はそれらに対する抗体、あるいは、ヒト繊毛製ゴナドトロピン等のペプチドホルモン又はそれらに対する抗体、ステロイドホルモン等のステロイド又はそれらに対する抗体、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類又はそれらに対する抗体、ビタミンB類等のビタミン類又はそれらに対する抗体、プロスタングランジン類又はそれらに対する抗体、テトラサイクリン等の抗生物質又はそれらに対する抗体、細菌等が産生する毒素又はそれらに対する抗体、各種腫瘍マーカー又はそれらに対する抗体、農薬又はそれらに対する抗体、または、病原微生物に由来する核酸配列に相補的なポリヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド等を挙げることができるが、これらに限定されない。抗インフルエンザウイルス抗体としては、抗A型インフルエンザウイルス抗体、抗B型インフルエンザウイルス抗体が挙げられる。これらの中で、抗インフルエンザウイルス抗体、特に抗A型インフルエンザウイルス抗体と金コロイド粒子とからなる標識試薬の調製において、本発明の調整方法が良好である。なお、本発明において用いることのできる、これらの捕捉物質は、市販品であっても、また公知の方法で自ら調製したものであっても構わない。
【0017】
本発明において用いる、標識物質であるコロイド粒子の単位表面積(cm)当りの被検出物質を補足する補足物質の結合量は、補足物質が一定の場合、当該コロイド粒子溶液の単位容積(mL)あたりのコロイド粒子表面積を調整することで調整できる。そして、コロイド粒子溶液の単位容積あたりのコロイド粒子表面積(cm)は、コロイド粒子溶液の単位容積中に含まれるコロイド粒子の数や大きさ(直径)を変えることで調整できる。具体的方法としては、例えば、金コロイド粒子を用いる場合には、金コロイド粒子の濃度(吸光度520nm)がコロイド粒子の大きさ(直径)によってその粒子数も決まるので、金コロイド粒子の直径を変えることで、一定濃度あたりの金コロイド粒子表面積を変えることができ、それによって金コロイド粒子の単位表面積当たりの捕捉物質との結合量を調整することが可能となる。
【0018】
一方で、コロイド粒子溶液の単位容積あたりのコロイド粒子表面積が一定の場合には、コロイド粒子と補足物質からなる標識試薬を作製する際の、結合に用いる該補足物質の量を変えることによっても、一定の範囲内で該補足物質の結合量を調整することが可能である。
【0019】
本発明において用いる、標識試薬の検出感度を調整するとは、標識試薬あるいは捕捉物質の結合した状態の標識物質を検出できる濃度の検出限界(最小検出限界と最大検出限界)を意図する範囲に設定できることを意味し、そしてかかる検出限界の設定が、本発明の標識試薬に用いるコロイド粒子の単位表面積当たりの捕捉物質の結合量を調整することにより成される。なお、設定される検出限界の範囲は、被検出物質の種類あるいは被検出物質の検出目的等によって変化する。
【0020】
なお本発明でいう粒子径とは、例えば一般的に行われている電子顕微鏡による測定法(イムノゴールド法−コロイド金による免疫組織化学−p30−47/ソフトサイエンス社/編集:横田貞記、藤森修を参照)で測定した粒子径であり、直径を意味する。又、本発明でいうコロイド粒子の表面積(cm)は、前記の粒子径より球体を仮定して算出した値(cm/粒子)であり、単位表面積(1cm)あたりに結合した捕捉物質量(μg/cm)は、前記のコロイド粒子の表面積(cm/粒子)、液中のコロイド粒子数(粒子/mL)および単位コロイド粒子量(1粒子)に結合した捕捉物質量(μg)から算出した値(μg/粒子)である。
【0021】
本発明において、良好な検出感度が得られるコロイド粒子の粒子径の範囲は、被検出物質や捕捉物質の種類によって適宜調整すべきであるが、例えば金コロイド粒子に捕捉物質として抗A型インフルエンザウイルスモノクロナール抗体を結合させて、同ウイルスを検出する場合には、金コロイド粒子の粒子径は、40nm以上、より好ましいのは40〜100nmである。40nm未満では、検体の抗原濃度によっては判定が困難となる恐れがあり、100nmを超えるコロイド粒子は、コロイドとしての安定性の面から一般的には用いられない。
【0022】
コロイド粒子表面の結合に用いる前記捕捉物質の濃度は、該捕捉物質の種類により適宜決定することができるが一般的には1〜200μg/mL、好ましくは50〜200μg/mLの範囲のものが用いられる。具体例として、公知の方法により作製した抗インフルエンザウイルス抗体の場合には、50〜200μg/mLであり、一般的には100μg/mL程度になるように調製する。一方で抗体の最終濃度が1〜10μg/mL、好ましくは1〜5μg/mLとなるような量の抗インフルエンザウイルス抗体を加えることが好ましい。又ここで用いられる抗体としては、抗体の生物種は問わず、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体など、どのような抗体であってもよく、市販品であっても公知の方法で自ら作製したものであってもよい。このとき使用する溶媒は特に限定されないが、例えばホウ酸ナトリウム溶液、トリス塩酸緩衝液でもよい。
【0023】
前記の金コロイド粒子溶液と補足物質(例えば、抗体)溶液を混合後、混合溶液を一定時間置いた後、ブロッキング剤として牛血清アルブミン(BSA)等を添加し、穏やかに攪拌した後、全量を遠心管に移し遠心する。遠心後、上清を吸引廃棄し、沈殿している抗体結合金コロイド粒子を得ることができる。この抗体結合金コロイド粒子に緩衝液を加え、浮遊させて、フロースルーアッセイ法等の免疫測定法に使用することができる。ここで、フロースルーアッセイ法とは、サンドイッチイムノアッセイ法を利用したアッセイ法で、被検出物質を含む溶液を、被検出物質と特異的に結合する捕捉物質や検出用物質が塗布されたメンブレンに対して垂直方向に通過させるものであり、被検出物質に特異的に結合する捕捉物質、被検出物質、被検出物質に特異的に結合する標識捕捉物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被検出物質の検出あるいは定量を行う方法である(Guide to Diagnostic Rapid Test Device Components", 2nd edition, published by Schleicher & Schuell company, January 2000, Edited by Lisa Vickers, p6-8、もしくは、特公平7−34016号を参照)。
【0024】
免疫測定法とは、免疫反応の特異性を利用して試料中の分析対象物を免疫学的手法により検出または定量する分析方法の総称である。そして本発明は、このような免疫測定法の中で、操作が簡便で一般的な検査の場に普及しているイムノクロマトグラフィー法のような簡易式の免疫測定法において非常に有用であり、例えばインフルエンザウイルス等の迅速診断キッドに用いることができる。
本発明により作製されたコロイド粒子と捕捉物質として用いられる抗体とからなる標識試薬を、上記免疫測定法において標識化抗体として使用すると、抗原検出感度を調整することが可能であり、目的の検出感度を得ることができる測定系の構築が可能となる。
【0025】
本発明の方法は、臨床検査試薬の用途に用いることができるが、特に簡便でかつ広範囲の被検出物質の濃度での検出ができる点で、迅速診断キットに好適に用いることができる。
本発明で用いる迅速診断とは、被検出物質の定性及び/又は定量を1日以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内にできることを意味し、迅速診断キットとは、当該迅速診断に用いる、本発明の標識試薬を含み、場合により抗体固相化支持体または希釈液を含むキットを意味する。
【実施例1】
【0026】
実施例をもちいて、本発明を具体的に説明する。
1.金コロイド粒子結合抗体の調製
四ホウ酸ナトリウム(ナカライテスク社製)を精製水で2mMに調製した溶液に、抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を透析した。透析した抗体液を4℃、10,000×g、10分間遠心分離を行なった。上清を0.22μmフィルター(ミリポア社製)で濾過したものを抗体溶液とした。
【0027】
2.金コロイド粒子への抗体の結合
次に下記の粒子径20、40または60nmの金コロイド粒子溶液(British Biocell Internationl社製)10mLを攪拌しながら、それに各粒子径に合わせて濃度を調整した抗体液を1mL加え(結合に用いた抗体量は表1に記載されている)、25℃、5分間静置した。その後10%に調製したBSA(Sigma社製)1mLを加え、25℃、30分間転倒混和した。25℃、5,000×g、30分間遠心分離を行ない、沈殿した抗体結合金コロイド粒子を2mM四ホウ酸ナトリウムで再懸濁し、それぞれの粒子径の抗体の結合した金コロイド粒子溶液を得た。
【0028】
(用いた金コロイド粒子溶液:いずれもBritish Biocell International社製)
(1)粒子径20nm:金コロイド粒子溶液、1.0吸光度520nm、7x1011粒子/mL
(2)粒子径40nm:金コロイド粒子溶液、1.0吸光度520nm、9x1010粒子/mL
(3)粒子径60nm:金コロイド粒子溶液、1.0吸光度520nm、2.6x1010粒子/mL
金コロイド粒子溶液の濃度(吸光度)は、分光光度計U−3000(HITACHI社製)を用いて、波長520nmの吸光度を測定することによって決定した。
【0029】
3.金コロイド粒子表面積あたりの抗体結合量の測定
単位容積あたりの金コロイド粒子数と抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体溶液の金コロイド溶液への添加前後での抗体濃度を測定することで算出した結合した抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体量とから金コロイド粒子の単位面積あたりの抗体結合量を算出した。その結果を表1に示した。金コロイド粒子径の増加に伴いその単位表面積あたりの抗体結合量も増加することが示され、単位表面積あたりに結合した抗体量は粒子径を調整することで変化することを確認した。
【0030】
【表1】

【0031】
4.抗体固相化支持体の作製
クエン酸(ナカライテスク社製)を精製水で10mM(pH4.5)に調製した。1.〜3.に記載した抗体とは異なる抗原結合部位を有する抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を10mMクエン酸緩衝液(pH4.5)で透析した。透析した抗体液を0.22μmフィルター(ミリポア社製)で濾過した。濾過した溶液を10mMクエン酸緩衝液(pH4.5)で1.48mg/mLとなるよう希釈したものを固相抗体液とした。
ニトロセルロースシート(ミリポア社製)を5mmx25mmに裁断し、その下端から10mmの位置に固相抗体溶液をバイオジエット(BioDot社製)を用いて線状に塗布して固相化した。45℃で60分間乾燥後、その上端から2mmの位置まで吸水性担体(WF1.5、ワットマン社製)を重ねた。
【0032】
5.A型インフルエンザウイルスの検出方法
A型インフルエンザウイルスを含むサンプルをトリス(Sigma社製)10mM(pH8.5)、BSA(Sigma社製)1%、Tween20(ナカライテスク社製)5%、塩化ナトリウム(ナカライテスク社製)150mMを含む緩衝液で表2に示したそれぞれの希釈倍率になるように希釈した。希釈したサンプル20μLと2.で得られた抗体結合金コロイド粒子を10mMトリス緩衝液(pH8.5)、1%BSA、150mM塩化ナトリウムで吸光度520nm=1.0になるよう希釈した溶液20μLを混合した液に、4.で作製した抗体固相化支持体の下端を浸漬して展開させ、10分後に目視判定をした。その結果を表2に示した。「+」は抗体固相ラインの赤いラインを確認できること、「±」は抗体固相ラインの赤い色が確認できるが非常に色が薄いこと、「−」は抗体固相ラインの赤いラインを確認できないことを示す。粒子径20nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル原液において判定可能であった、粒子径40nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル4倍希釈液まで判定可能であった、そして粒子径60nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル16倍希釈液まで判定可能であった。金コロイド粒子径の増加に伴い判定可能となるサンプルの希釈倍率の増加が確認された。
【0033】
【表2】

【0034】
6.抗体結合金コロイド粒子単位表面積あたりの抗体結合量と抗体結合金コロイド粒子の検出感度の相関
抗体結合金コロイド粒子単位表面積あたりの抗体結合量とA型インフルエンザウイルスの検出感度の相関を図1に示した。抗体結合金コロイド粒子単位表面積あたりの抗体結合量とA型インフルエンザウイルスの検出感度に相関が認めれるので、抗体結合量と抗体結合金コロイド粒子の検出感度にも相関が認められる。
【実施例2】
【0035】
金コロイド粒子として粒子径40nmのものを用い、金コロイド粒子への抗体結合時の添加抗体液の抗体濃度を調整することで結合にもちいた抗体量をそれぞれ15、20、30および80μgとした以外は、実施例1と同様にして、抗体結合金コロイド溶液の調製を行い、金コロイド単位表面積あたりに結合した抗体量を算出した(表3の(1)〜(4))。下記表3の(4)で、結合にもちいた抗体量が(3)に比べて多いが、1粒子に結合した抗体量が同じ(表3中ので示している)であるのは、この金コロイド粒子を用いた場合、抗体量を30μg以上としても、結合抗体量は増加しないことを示している。すなわち、本結果は粒子径40nmの金コロイド粒子の単位表面積あたりの最大結合量が0.633μg/cmであることを意味しており、一方、粒子径60nmの金コロイド粒子は、表1に示すように単位表面積あたり1.360μg/cmの抗体を結合しているので、金コロイド粒子はその粒子径によって単位表面積あたりの最大抗体結合量が異なることを示している。よって、金コロイド粒子径を調整することで単位表面積あたりの抗体結合量の調整が可能である。
【0036】
【表3】

【0037】
次にこれらの抗体結合金コロイド粒子を用いて、実施例1と同様に抗体固相化支持体を作製し、A型インフルエンザウイルスを含むサンプルの希釈倍数を変えて判定試験を行った。結果を表4に示した。「+」は抗体固相ラインの赤いラインを確認できること、「±」は抗体固相ラインの赤い色が確認できるが非常に色が薄いこと、「−」は抗体固相ラインの赤いラインを確認できないことを示す。単位表面積あたりの結合抗体量が0.332μg/cmである粒子径40nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル原液において判定可能であった、単位表面積あたりの結合抗体量が0.442μg/cmである粒子径40nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル2倍希釈液まで判定可能であった、そして単位表面積あたりの結合抗体量が0.663μg/cmである粒子径40nmの抗体結合金コロイド粒子はサンプル4倍希釈液まで判定可能であった。同じ粒子径であっても、単位表面積あたりの結合抗体量の増加に伴い判定可能となるサンプルの希釈倍率の増加が確認された。
【0038】
【表4】

【0039】
抗体結合金コロイド粒子単位表面積あたりの抗体結合量と抗体結合金コロイド粒子の検出感度の相関を図2に示した。抗体結合金コロイド粒子単位面積あたりの抗体結合量とA型インフルエンザウイルスの検出感度に相関が認められた。したがって、抗体結合量と抗体結合金コロイドの検出感度にも相関が確認された。
【0040】
標識物質として用いる金コロイド粒子単位表面積あたりの抗体結合量と抗体を結合させた金コロイド粒子の検出感度の相関を実施例1と実施例2で比較した。その結果を表5に示した。図1(実施例1)、図2(実施例2)の相関式により求めたA型インフルエンザウイルスの検出量はほぼ同等であった。単位面積あたりの抗体結合を調節することでA型インフルエンザウイルスの検出量の推定が可能であった。
【0041】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法により、ウイルス、細菌、ホルモン、生理活性アミン類、ビタミン類、プロスタングランジン類、抗生物質、毒素、各種腫瘍マーカー、農薬、核酸等の簡易な迅速診断キットの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の抗体結合金コロイド粒子単位表面積当たりの抗原吸着量の関係を示す図。
【図2】実施例2の抗体結合金コロイド粒子単位表面積当たりの抗原吸着量の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンドイッチイムノアッセイ法による被検出物質の検出に用いる、コロイド粒子と被検出物質を補足する補足物質とを結合させた標識試薬中の、コロイド粒子単位表面積当たりの被検出物質を捕捉する捕捉物質の結合量を調整することにより標識試薬の検出感度を調整する方法。
【請求項2】
コロイド粒子が金コロイド粒子である請求項1に記載の標識試薬の検出感度を調整する方法。
【請求項3】
金コロイド粒子の粒子径を調整することにより、金コロイド粒子の単位表面積当たりの捕捉物質の結合量を調整したコロイド粒子を用いる請求項2に記載の標識試薬の検出感度を調整する方法。
【請求項4】
捕捉物質が抗体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の標識試薬の検出感度を調整する方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により、検出感度を調整した標識試薬を含む迅速診断キット。
【請求項6】
コロイド粒子が、粒子径40nm以上の金コロイド粒子である、請求項5に記載の迅速診断キット。

【図1】
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【図2】
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