説明

模型船用試験水槽設備

【課題】試験水槽の両側に沿う主レール上の主台車に、主レールと直角をなす副レールを備え、同副レール上の副台車に設けた水平な回転盤の下方で、上記水槽内に浮かべられた模型船を、初期には上記回転盤に拘束して、各台車および回転盤により加速してから同模型船を解放し、上記の各台車および回転盤による模型船自動追尾制御状態への移行を行う際に、上記の各台車および回転盤の円滑な制御を可能にする。
【解決手段】模型船用試験水槽設備において、主台車1の走行方向と直交する方向に同主台車1上で走行する副台車2に設けられた回転盤3に、水槽H内に浮かべられた模型船を拘束する位置が、主台車1,副台車2および回転盤3の制御変数に応じ予め求められた同模型船の曳航による加速終了後の回転盤3に対する相対位置に設定されるように、模型船拘束位置調整手段が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船の性能を調査・研究・試験するための試験水槽において、無線操縦等によって自由航走する模型船を水槽の任意の位置に移動可能な台車が自動的に追尾することにより、模型船の位置と方位などを計測しようとする設備に関するものである。そして、本発明は、特に台車による自動追尾の開始までの模型船の加速と台車による自動追尾終了後の模型船の減速とについての機能を、模型船と台車とのなめらかな運動の連続性を伴って実現できるようにした、模型船用試験水槽設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試験水槽において模型船の自由航走実験を実施する場合の基本的な計測項目として、模型船の位置および方位の計測が挙げられる。この模型船の位置および方位の計測については、屋外の水槽ではGPS(Global Positioning System)が考えられるほか、屋内・屋外のいずれにも適用できる手法として水中超音波や、電波、静止写真の解析、動画の画像処理などの手法が考えられ、これらのうちのいくつかは実際に適用された実績がある。
【0003】
一方、屋内の水槽には台車を装備している場合が多く、これを利用したものとして、台車の自動追尾機能を用いる手段がある。この手法は、台車が自由航走する模型船を何らかの装置で自動的に追尾することによって、台車の位置および方位と台車と模型船との相対位置および相対方位とから、模型船の位置および方位を算出しようとするものである。
台車が自由航走する模型船を自動的に追尾する手段としては、コネクティングロッドや非接触の画像処理等によって台車と模型船との相対位置・方位の変化を時々刻々検出し、これを0にするようなフィードバック制御を台車に与える手方が採用されている。この場合、従来のシステムでは、自動追尾システムの開始時に、台車と模型船とは相対的な位置および方位がほぼゼロの状態で停止かそれに近い状態にある必要がある。このような状態でないと、自動追尾開始時に台車の急激な運動を伴うだけでなく、時には台車と模型船との相対位置が離れすぎて自動追尾の可能な範囲を逸脱してしまう事態までも引き起こすからである。このことは従来の台車の自動追尾に用いられる制御には一般に[数1]式が用いられてきたことを考えれば明らかである。
【数1】

ここで、V:速度指令値
e:位置偏差または方位偏差(以下では、方位偏差も含めて「位置偏差」と 記す。)
:比例定数
:微分定数
:積分定数
P2:2乗項定数

すなわち、[数1]式より、位置偏差eおよびde/dtが0か0に近い値でない場合に制御を始めると、急激な速度指令値が発生するからである。さらに、自動追尾を終了した場合を考えると、自動追尾システムの終了とともに模型船の運動と台車の運動とはまったく切り離されてしまい、台車は終了指令とともに停止することになるが、模型船は別の手段で減速等の操作が必要となる。
【0004】
ところで、台車を装備した屋内の水槽では、一般にその水面範囲が限られている。限られた水槽内で模型船を自由航走させて実験を行う場合、計測開始時の所定の船速に達するまでの航走距離をできるだけ短くし、また計測終了時に所定の船速から模型船が停止するまでの航走距離をできるだけ短くできれば、その分だけ長い距離あるいは速い船速での計測が可能になる。模型船の加速または減速の手段としては模型船自体のプロペラの制御による手段が考えられるが、プロペラの性能は模型によって固有のものであるし、これに動力を与えるモーター等の容量も模型船の排水量によって制限されるため、おのずから加減速の限界が決まることになる。
したがって、この制約を超えて模型船を加減速させるためには台車を通じて模型船に外力を加える、すなわち模型船を加減速時に台車に拘束する必要がある。台車の質量は模型船に比べて十分に大きいため、この場合現実的には模型船の加減速に必要な力は十分にあると考えてよい。この加減速装置については、加減速の間だけ模型船に外力を加えてこれを拘束し、計測時には模型船に外力を加えない構造とする必要がある。
加減速部分だけに限れば、この条件を満足する装置としてワイヤーによるクランプ装置がある。これは模型船の複数点(例えば4点)と台車とを軽量のワイヤーで結び、これを台車側の装置で引き込むことによって模型船を拘束しようとするものである。すなわち、台車の自動追尾機能が働いている計測中は、上記ワイヤーを緩めて台車自動追尾で検出される一定の相対位置・方位の差の範囲内で模型船が自由に航走できるようにすればよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような従来のワイヤー式クランプ装置を、そのまま台車の自動追尾システムを利用した自由航走模型実験に適用することはできない。これには自動追尾システムの基本的な原理が関係する。自動追尾システムでは、前述のように模型船と台車との相対的な位置偏差を検出して、この差を0とするようなフィードバック制御が行われる。模型船をクランプした状態では一般に模型船と台車との位置偏差が0となる。模型船をクランプした状態で加速して所定の船速になった時点でクランプを緩めることにより、台車の模型船に対する自動追尾状態に切り替えると、その瞬間は位置偏差が0であるから台車は直ちに停止しようとすることになる。そのような制御が働くと、今度は逆に台車と模型船との位置偏差が増大するため、次の瞬間には台車は急激な加速を伴って模型船に追いつこうとすることになる。また、自動追尾で台車の走行中に自動追尾状態を終了すれば、台車はその時点で制御をやめて停止するため、緩んでいるワイヤーの範囲だけ模型船は航走して、その範囲を超えようとする時点で模型船はワイヤーによって急激に停止させられることになる。あるいは、自動追尾中に模型船をクランプすると、その時点で位置偏差が0となるため台車は急激な停止動作に入る。いずれにせよ、従来のワイヤー式クランプ装置をそのまま自動追尾システムを利用した自由航走模型実験に適用すると、模型船および台車の急激な運動を伴い、危険な事態を招くことになる。
本発明は、ワイヤー式クランプ装置を用いながらも、上述のような急激な台車と模型船の運動を誘起しないようにした台車自動追尾システムを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するため、本発明の模型船用試験水槽設備は、水槽の両側に沿い平行に敷設された一対の主レールにより案内されて走行しうる主台車と、同主台車上で上記主レールと直角をなす方向に敷設された副レールにより案内されて走行しうる副台車とを備えるとともに、上記副台車上に設けられた水平な回転盤と、同回転盤の下方で上記水槽の水面に浮かべられる模型船を同模型船の自走開始の直前に上記回転盤へ係脱可能に拘束しうる模型船用拘束手段とを備え、上記模型船を上記回転盤に拘束して上記の主台車,副台車および回転盤により曳航し加速を行う曳航状態から同模型船を拘束しないで上記の主台車,副台車および回転盤により行われる模型船自動追尾制御状態への移行時に上記の主台車,副台車および回転盤の円滑な制御をもたらすべく、上記拘束手段による上記模型船の上記回転盤への拘束位置を、上記模型船自動追尾制御状態における上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数に応じて予め求められた同模型船の曳航による加速終了後の上記回転盤に対する相対位置に設定するための模型船拘束位置調整手段が設けられたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の模型船用試験水槽設備は、上記模型船自動追尾制御状態での上記模型船の予測される平均速度成分を上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数の一部として予め与えるための制御変数付与手段と、同制御変数付与手段により付与された制御変数に応じて計算される上記模型船の拘束位置に上記模型船拘束位置調整手段により同模型船を拘束してから同模型船を加速するための上記の主台車,副台車および回転盤による模型船加速手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の模型船用試験水槽設備は、上記模型船を上記模型船用拘束手段により拘束して行われる同模型船の加速状態から同模型船を拘束しないで行われる上記模型船自動追尾制御状態への移行時に、同模型船の上記回転盤に対する位置および方位の偏差をゼロとして上記の主台車,副台車および回転盤を制御できる加減速機能が付与されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上述の本発明の模型船用試験水槽設備によれば、模型船を前記回転盤に拘束して、同回転盤と前記の主台車および副台車とにより行われる模型船の曳航加速状態から、同模型船を解放して、上記の主台車,副台車および回転盤により行われる模型船自動追尾制御状態へ移行させる際に、初期の上記拘束手段による模型船の上記回転盤への拘束位置が、模型船拘束位置調整手段により、上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数に応じて予め求められた同模型船の曳航による加速の終了後の上記回転盤に対する相対位置に設定されるので、上記模型船の解放後における同模型船の自動追尾のための上記の主台車,副台車および回転盤の円滑な制御が期待されるようになる。
【0010】
また、本発明の模型船用試験水槽設備では、上記模型船を自動追尾する制御状態での同模型船の予測される平均速度成分が、上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数の一部として予め与えられるように、制御変数付与手段が設けられ、同手段により付与される制御変数に対応した模型船拘束位置に上記模型船を拘束してから、同模型船を加速するための上記の主台車,副台車および回転盤による模型船加速手段が設けられることにより、模型船の速度変動分のみが制御の対象となって、同模型船の自動追尾制御が円滑にかつ効率よく行われるようになる。
【0011】
さらに、本発明の模型船用試験水槽設備では、上記模型船を上記模型船用拘束手段により拘束して行われる同模型船の加速状態から同模型船を拘束しないで行われる上記模型船自動追尾制御状態への移行時に、同模型船の上記回転盤に対する位置および方位の偏差をゼロとして上記の主台車,副台車および回転盤を制御できる加減速機能が付与されることにより、上記模型船の自動追尾制御が円滑にかつ効率よく行われるようになる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の一実施例としての模型船用試験水槽設備について説明する。図1は、本設備における水槽と台車との概要を示す平面図である。
まず、基本事項として台車の座標軸系と速度指令の変換について説明すると、台車は水平面内の運動を行うから、自由度は、前後・左右の直線運動と回転運動の3自由度となる。すなわち、台車Aは主台車1と主台車1上の副台車2、副台車2上の回転盤3から構成される。
【0013】
図2(a)に示すように、主台車1の移動方向をX、副台車2の移動方向をY、回転盤3の回転方向をΨで表す。回転盤3上には自動追尾用のカメラが設置されており、同カメラに写った画像を元に自動追尾が行われる。そして、図2(b)に示すように、画像上の座標系はOc−Xc,Yc,Ψで表される。Ψ=0の時は、XとXcの方向、YとYcの方向は、それぞれ一致する。Xcの方向は、模型船4の船首方向と一致させる。
【0014】
自動追尾は台車回転盤3上のカメラによる画像が基準となる。すなわち、Xc,Yc,Ψの3方向の位置偏差を画像処理で検出して、これに基づきこれらの方向の速度指令を計算し、これを台車AのX,Y方向に変換した上で同台車が運転されることになる。このとき、速度指令は[数2]式の関係を用いてX,Y方向に変換される。
【数2】

【0015】
次に、加速および減速の手段について説明すると、模型船4の航行状態は、前後方向の速度成分uと左右方向の速度成分v、回頭角速度rの(u,v,r)で表される。加速終了後の(u,v,r)と初期位置X,Yおよび初期方位Ψが与えられれば、Xc,Yc,Ψ方向速度(Xc,Yc,Ψ方向成分はそれぞれVXc=u,VYc=v,VΨ=r)とX,Y,Ψ方向速度([数2]式による)が求められるから、この(u,v,r)の定常状態を基本として別途定められた手順(「加速または減速期間中の運動指令作成方法」,特許第3748707号公報参照)により台車を加速する。このときの加速時間は別途定められた値に従う。加速が終了した段階でクランプを解除して、自動追尾制御状態に入る。
【0016】
自動追尾を終了して減速状態に入る際には、減速開始の信号が入力された時点でのX,Y,Ψ方向の台車Aの速度が定常であるとみなして、別途定められた手順(加速または減速期間中の運動指令作成方法」;上記特許公報参照)により、台車Aを減速する。このときの減速時間は別途定められた値に従う。なお、減速開始時に台車Aへの模型船4のクランプが開始される。
【0017】
減速の際は上記の手順をとることにより自動追尾状態から減速状態への滑らかな移行となるが、加速の際は以下に述べる手段によって加速から自動追尾状態への滑らかな移行を実現する。
まず、加速状態から自動追尾状態への滑らかな移行を実現するための制御系とその手段の基本的考え方について説明する。自動追尾のための基本的アルゴリズムは図3に示すとおり、画像処理系からの信号にフィルター処理を施し、フィードバック系によって速度信号を算出して台車座標系に返還した上で台車Aを運転する。フィードバック系では速度指令信号は[数3]式で計算される。
【数3】

[数3]式は本来Xc,Yc,Ψの3方向についてそれぞれ記載すべきであるが、いずれも同じ形式となるので、これ以降も含めて代表して一つだけ記載することとする。
【0018】
入力としての制御変数は、[数1]式で説明したK,K,K,KP2のほかにVがあることに注意する。加速終了後に滑らかに自動追尾状態に移行するためには、加速終了時の台車Aの速度指令値(Vとする)が[数3]式右辺で計算される値と等しければよい。このとき、模型船加速後の模型船速度状態(u,v,r)からVのXc,Yc,Ψ方向成分は、それぞれVXc=u,VYc=v,VΨ=rとなる。
【0019】
加速終了時は模型船4はクランプで台車Aに対して固定されているからde/dt=0であること、自動追尾開始時は積分時間が0であるから積分項は0であることに注意すると、自動追尾開始時の位置偏差をeとおいて[数4]式を得る。
【数4】

【0020】
これをeについて解くと[数5]式が得られる。
【数5】

[数5]式からV等の制御変数の値に応じて加速終了時に位置偏差がeとなるようにすればよいことがわかる。
すなわち、模型船クランプ状態でXc,Yc,Ψ座標系においてそれぞれの方向に位置偏差がe(3成分有り)となるように模型船4をクランプして、同模型船4を加速すればよいことになる。
【0021】
次に、制御変数の決め方とその効果について説明する。制御変数はXc,Yc,Ψ方向にそれぞれについてK,K,K,KP2,Vの5つである。ここでVなる定常項を導入したことに本制御系の特徴がある。これにより、加速終了後の位置偏差を0とすること(V=Vの場合)を含めて、滑らかな自動追尾状態への移行が可能となる。
【0022】
特に、自動追尾中の平均的な模型船4の速度が予測できる場合は、その値をVに与えることによって自動追尾制御を効率的に行うことが可能となる。なぜならば、Vが自動追尾中の平均的な速度を持てば変動分のみを制御の対象とすることになり、位置偏差は自動追尾中に平均的に0となる。そのため、模型船4の画像内での変位の許容範囲が相対的に大きくなり、したがって制御係数K,K,K,KP2の取り得る値も幅が広がるからであり、特に小さな値とすることができることになる。
【0023】
以上を勘案してVと制御係数K,K,K,KP2を決定すれば、効果的な自動追尾型を実現できるようになる可能性が高まる。
ただし、このときV=Vとなっていない場合は、初期の位置偏差をクランプ状態で実現することが必要となる。実際にこれを実現する手段について、以下に説明する。
【0024】
まず、図4を参照して、システムの構成と概要について説明する。
本システムは、大きく分けて、台車・クランプ等制御装置(制御用計算機)と画像処理・表示装置とから構成され、制御変数設定モードと模型船初期位置偏差設定モードとを有するほか、自動制御モードおよび待機モードを有する。画像処理・表示装置にはCCDカメラ6が接続されている。制御用の計算機10には画像処理・表示装置11と台車A、ワイヤー式クランプ装置5、開始・終了ボタン8、ブザー9が接続されている。ワイヤー式クランプ装置5にはワイヤー長調整つまみ12とクランプ開閉ボタン7とが接続されている。
【0025】
これらの装置のそれぞれの役割は次のとおりである。
(a)CCDカメラ6は、台車回転盤上に設置され、視野内の模型船の追尾用マーカー(後述)の画像を画像処理・表示装置に送る。
(b)画像処理装置はCCDカメラで捉えられた模型船上の追尾用マーカーの画像座標系(画像の中心を原点とする0c−XcYc)での座標を算出し、制御用計算機に送信する。また、制御用計算機から受け取った模型船初期位置偏差に対応する追尾用マーカーの初期位置(後述)を表示する。
(c)ワイヤー式クランプ装置5は、模型船初期位置偏差設定モードでは、ワイヤー長調整つまみに応じてクランプ時のワイヤー長を調整する。また、自動制御モードでは、制御用計算機10からの信号によってクランプ装置5を開閉する。待機モードでは、必要に応じてクランプ開閉ボタン7の信号によってクランプを開閉する。別途クランプ開閉に要する時間(クランプ速度)が設定できることとする。
(d)ブザー9は、制御用計算機10の信号にしたがってブザー音を発生する。
(e)台車Aは制御中においては制御用計算機10から送られる速度信号に応じて運転される。また、台車Aの時々刻々の速度は制御用計算機10に送られる。
(f)制御用計算機10は制御変数設定モードでは制御変数を設定する。模型船初期位置偏差設定モードでは制御変数に応じて画像座標系における初期位置偏差を算出し、画像処理・表示装置11に送信する。自動制御モードでは、開始ボタン8によってクランプ・加速制御を開始すると共に定速を認識して自動追尾制御に移行する。また、終了ボタン8によってクランプ・減速制御を開始して台車Aと模型船4を停止する。
【0026】
次に、図4を参照して実験手順と作業の流れについて説明する。
(1)模型船4,ワイヤー式クランプ装置5およびCCDカメラ6等の準備
(2)制御変数等を入力する。
(3)手動のクランプ開閉ボタン7によりクランプ閉。
(4)台車Aの初期位置・方位を決めて、その位置に台車Aを移動する。
(5)模型船追尾用マーカーを画像上の初期位置偏差に合わせるように、模型船4のクランプ位置をワイヤー長調整つまみ12によって調整する。
(6)クランプ開。
(7)0点の計測。
(8)クランプ閉。
(9)模型船4のプロペラに所定の回転数を与える。
(10)「クランプ閉(確認)・加速開始」ボタン(開始ボタン)8を押す。加速制御開始。
(11)加速終了目標値に達したら、ブザー9を鳴らしながらクランプ開の動作を始め、同時に自動追尾制御が開始される。
(12)クランプ開の完了に伴い、ブザー終了。
(13)計測開始。
(14)模型船4の操舵等の開始。
(15)計測終了。
(16)「クランプ閉・減速開始」ボタン(終了ボタン)8を押す。
(17)直ちにブザー9を鳴らしながらクランプ閉の動作を始め、同時に減速制御を開始する。
(18)システム全体が停止する。
【0027】
実験のための準備については、次の手順で行われる。
(1)模型船の準備(図5参照)
模型船4の船首部左右舷および船尾部左右舷の計4点にワイヤー用フック13,13を取り付ける。
模型船4の船体中心線上において、追尾用マーカー(船首側Mf,船尾側Ma)を2点に置く。2点の中心位置Tは所定の位置と一致するようにする。追尾用マーカー(Mf,Ma)がXc軸(図1参照)上でその中心位置Tが座標原点0cにある状態を基準状態とする。(図7参照)
(2)ワイヤー式クランプ装置(図6参照)の準備
ワイヤー式クランプ装置5を台車回転盤3に設置する。ワイヤー式クランプ装置5は回転盤3に固定され、回転盤3とともに回転するものとする。また、ワイヤー式クランプ装置5におけるワイヤー5aの長さをワイヤー長調整つまみ12によって調整することにより、模型船4のクランプされた位置偏差を調整できるものとする。
模型船4の船首部左右舷および船尾部左右舷の計4点にワイヤー式クランプ装置5のワイヤー5aを連結する。
(3)自動追尾用カメラの準備(図5参照)
台車回転盤3の中心位置に自動追尾用ビデオカメラ6を設置する。カメラ画像の上方向は回転盤の基準方向に一致させる。
(4)信号線等の配線
信号線が配線される。
【0028】
制御変数等の入力について説明すると、入力項目としては、次のようなものがある。
(a)自動追尾制御変数:V,K,K,K,KP2,フィルター型, フィルター次数, 遮断周波数, リップル(Xc,Yc,Ψ方向それぞれについて)
(b)加速後の船速:V(Xc,Yc,Ψ3成分)
(c)加速時間:ta
(d)減速時間:td
【0029】
ここで、注意すべきことは、次の通りである。
(1)初期位置および加速方位Ψは別途設定するものとする。
(2)クランプ閉に要する時間は減速時間tdよりも短く設定することとする。
【0030】
模型船の初期位置偏差の調整については、図7を参照して、次のとおり行われる。
(1)自動追尾制御変数と加速後速度V(Xc,Yc,Ψ3成分)の値とから初期位置偏差e([数5]式におけるXc,Yc,Ψ3成分)を計算する。
(2)模型船が座標原点からe(XcYcΨ3成分)だけずれた場合の追尾用マーカー2点(Mf1,Ma1)およびその中心位置T1を追尾カメラ画像中に表示する。
(3)クランプワイヤの前後・左右の長さをワイヤー長調整つまみ12によって調整して実際のマーカー位置(Mf,Ma)と中心位置Tとが画像上のMf1.Ma1,T1にそれぞれ一致するようにする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例としての模型船用試験水槽設備の概略構成を示す平面図である。
【図2】水槽固定座標系と画像座標系との関係を示す説明図である。
【図3】自動追尾システム制御アルゴリズムを示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例におけるシステム構成を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例における模型船およびビデオカメラの設置概念を示すもので、(a)図は台車における追尾用ビデオカメラの設置状態を示す説明図,(b)図は模型船における追尾用マーカーおよびワイヤー用フックの装備状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例における模型船についてのワイヤ取付け構成を示すもので、(a)図はその平面図,(b)図はその側面図である。
【図7】本発明の実施例における画像座標系と追尾用マーカー初期位置とを示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 主台車
2 副台車
3 回転盤
4 模型船
5 クランプ装置
5a ワイヤー
6 カメラ
7 クランプ開閉ボタン
8 開始ボタン
9 ブザー
10 制御用計算機
11 画像処理・表示装置
12 調整つまみ
13 フック
A 台車
H 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽の両側に沿い平行に敷設された一対の主レールにより案内されて走行しうる主台車と、同主台車上で上記主レールと直角をなす方向に敷設された副レールにより案内されて走行しうる副台車とを備えるとともに、上記副台車上に設けられた水平な回転盤と、同回転盤の下方で上記水槽の水面に浮かべられる模型船を同模型船の自走開始の直前に上記回転盤へ係脱可能に拘束しうる模型船用拘束手段とを備え、上記模型船を上記回転盤に拘束して上記の主台車,副台車および回転盤により曳航し加速を行う曳航状態から同模型船を拘束しないで上記の主台車,副台車および回転盤により行われる模型船自動追尾制御状態への移行時に上記の主台車,副台車および回転盤の円滑な制御をもたらすべく、上記拘束手段による上記模型船の上記回転盤への拘束位置を、上記模型船自動追尾制御状態における上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数に応じて予め求められた同模型船の曳航による加速終了後の上記回転盤に対する相対位置に設定するための模型船拘束位置調整手段が設けられたことを特徴とする、模型船用試験水槽設備。
【請求項2】
上記模型船自動追尾制御状態での上記模型船の予測される平均速度成分を上記の主台車,副台車および回転盤の制御変数の一部として予め与えるための制御変数付与手段と、同制御変数付与手段により付与された制御変数に応じて計算される上記模型船の拘束位置に上記模型船拘束位置調整手段により同模型船を拘束してから同模型船を加速するための上記の主台車,副台車および回転盤による模型船加速手段とを備えたことを特徴とする、請求項1に記載の模型船用試験水槽設備。
【請求項3】
上記模型船を上記模型船用拘束手段により拘束して行われる同模型船の加速状態から同模型船を拘束しないで行われる上記模型船自動追尾制御状態への移行時に、同模型船の上記回転盤に対する位置および方位の偏差をゼロとして上記の主台車,副台車および回転盤を制御できる加減速機能が付与されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の模型船用試験水槽設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−121855(P2009−121855A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293721(P2007−293721)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】