説明

模擬ステアリング装置

【課題】装置を大型化することなく、ステアリングホイールに比較的大きな回転範囲を設定することができる模擬ステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリングシャフト37によりステアリングホイールに直結される回転部材101と、回転部材101に隣接し、ステアリングホイールと逆側において車体に固定される固定部材102と、回転部材101の固定部材102側の面に形成され、ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす上側溝106と、固定部材102の回転部材101側の面に形成され、ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす下側溝107と、上側溝106と下側溝107との間に摺動自在に設けられたボール108とを有する模擬ステアリング装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライビングシミュレータ、ゲーム機及びステアリングバイワイヤ等に用いて好適な模擬ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
模擬ステアリング装置はドライビングシミュレータ等において車両のステアリング操作を実物感覚で行うことを可能とする。このような模擬ステアリング装置では、実車の操作感覚を実現すべく、ステアリングホイールの回転範囲(所謂、ロックtoロック)が設定されている。
【0003】
これに関連する技術として、従来、ステアリングホイールと同期して回転する円盤上にピンや切欠きを設け、これらの回転軌跡上に設けたストッパーによって、ステアリングホイールの回転範囲を設定する模擬ステアリング装置等が知られている。
【0004】
また、これに類似するものとして特許文献1には、ステアリングホイールに直結したステアリングシャフトに矩形のストッパー片を固着し、同ストッパー片の下方位置にストッパーを設け、ステアリングホイールの回転範囲を設定する模擬ステアリング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3271324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記で挙げた従来の模擬ステアリング装置において、実際の車両のように一回転以上の比較的大きな回転範囲を設定しようとする場合、歯車等による減速が必要となり、装置が大型化し、レイアウト上の制約が大きくなってしまう。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、装置を大型化することなく、ステアリングホイールに比較的大きな回転範囲を設定することができる模擬ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載の発明は、ステアリングシャフト(例えば実施形態におけるステアリングシャフト37)によってステアリングホイール(例えば実施形態におけるステアリングホイール)に直結される回転部材(例えば実施形態における回転部材101)と、前記回転部材に隣接し、前記ステアリングホイールと逆側において車体(例えば実施形態におけるインストルメントパネル32)に固定される固定部材(例えば実施形態における固定部材102)と、前記回転部材の前記固定部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第1の溝(例えば実施形態における上側溝106)と、前記固定部材の前記回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第2の溝(例えば実施形態における下側溝107)と、前記第1の溝と前記第2の溝との間に摺動自在に設けられた第1のボール(例えば実施形態におけるボール108)とを有することを特徴とする。
【0009】
なお、本発明において上記「車体」は、当該模擬ステアリング装置を設置する際の基礎部分を意味し、ドライビングシミュレータやゲーム機等における擬似的な車体部分(インストルメントパネル等)を含む概念である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記回転部材に、前記ステアリングホイールに直結される第1回転部材(例えば実施形態における第1回転部材201)と、前記第1回転部材と隣接し、前記ステアリングホイールとは逆側に設けられる第2回転部材(例えば実施形態における第2回転部材202)とが含まれ、前記第1回転部材の前記第2回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第3の溝(例えば実施形態における第3の溝210)と、前記第2回転部材の前記第1回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第4の溝(例えば実施形態における第4の溝211)と、前記第3の溝と前記第4の溝との間に摺動自在に設けられた第2のボール(例えば実施形態における第2のボール213)とを有し、前記第1の溝が、前記第2回転部材の前記固定部材側の面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、ステアリングシャフトの同軸上に配置された回転部材と固定部材のそれぞれの溝の端部間にボールが挟まれることで、回転部材に直結されるステアリングホイールの回転を制限できる。また、円弧状の回転部材側の溝と固定部材側の溝の中心角を足し合わせた角度を、概ねステアリングホイールの回転範囲とすることができる。このため、部材の同軸配置により装置をステアリングシャフト径方向に大型化することなく、ステアリングホイールの回転範囲を比較的広くすることができるので、ステアリングホイールの回転範囲を広くした場合でも装置のレイアウト上の制約を少なくすることができる。
また、回転部材及び固定部材の溝の中心角(周長)を調整することでステアリングホイールの回転範囲を調整できるため、回転範囲の設定変更自由度が高い。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、ステアリングシャフト同軸上に回転部材を積層することで、ステアリングシャフト径方向への大型化を抑えつつ、ステアリングホイールの回転範囲を簡単に広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る模擬ステアリング装置を搭載したドライビングシミュレータの概略構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る模擬ステアリング装置の要部斜視図である。
【図3】第1の実施形態の模擬ステアリング装置の回転部材と固定部材とを分離させた図である。
【図4】第1の実施形態の模擬ステアリング装置の要部の縦断面図である。
【図5】第1の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図である。
【図6】第1の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図であり、左転舵状態を説明する図である。
【図7】第1の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図であり、右転舵状態を説明する図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る模擬ステアリング装置の要部斜視図である。
【図9】第2の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図である。
【図10】第2の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図であり、左転舵状態時の固定部材と第2回転部材の状態を説明する図である。
【図11】第2の実施形態の模擬ステアリング装置の作動説明図であり、左転舵状態時の第1回転部材と第2回転部材の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照し説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
(ドライビングシミュレータ)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る模擬ステアリング装置100を搭載したドライビングシミュレータ10の概略構成図である。ドライビングシミュレータ10は、被験者又は操縦者としての運転者が乗り込むコックピット12が内部に設けられたキャビン14と、該キャビン14の底部を構成する揺動台16を6本のアクチュエータ20(図1では3本のみ図示)を介して支持する基台18と、制御装置80と、外部表示モニタ92とを有している。
【0016】
アクチュエータ20の一端側は、ユニバーサルジョイント24を介して基台18に連結され、アクチュエータ20の他端側は、ユニバーサルジョイント22を介して揺動台16に連結されている。6本のアクチュエータ20は個別に伸縮動作を制御される。これにより、揺動台16を含むキャビン14が揺動される。
【0017】
キャビン14内には、映像(画像)を投影する映像投影装置26と、映像投影装置26から投影された映像が映し出されるスクリーン28が所定位置に取り付けられている。スクリーン28の近傍には、映像表示を行う液晶モニタからなるルームミラー30が設けられている。
【0018】
スクリーン28の下方には、インストルメントパネル32が配置されている。一方で、キャビン14内には、スクリーン28及びインストルメントパネル32に対向して、運転者が着座するシート34が配置されている。また、キャビン14内には、ステアリングホイール36、アクセルペダル38、ブレーキペダル40、クラッチペダル42、マニュアルトランスミッション用シフトレバー44、サイドブレーキ46、両サイドミラー48が、実際の車両に対応する所定位置にそれぞれ取り付けられている。
【0019】
インストルメントパネル32には、オートマチックトランスミッション用シフトレバー50が設けられ、また、シート34に着座する運転者に向けて音響を発生するスピーカ52が設けられている。また、両サイドミラー48は、所定の映像表示を行う液晶モニタからなる。
【0020】
キャビン14内の下方には、ステアリングホイール36の入力検出装置54、アクセルペダル38の入力検出装置56、ブレーキペダル40の入力検出装置58、クラッチペダル42の入力検出装置60、マニュアルトランスミッション用シフトレバー44の入力検出装置62及びオートマチックトランスミッション用シフトレバー50の入力検出装置64が所定位置にそれぞれ取り付けられている。
【0021】
ステアリングホイール36は、ステアリングシャフト37の一端側に固定され、インストルメントパネル32外側に配置されている。ステアリングシャフト37は、インストルメントパネル32内に挿入され、インストルメントパネル32に対して回転可能に支持されている。ステアリングホイール36の回転操作は、ステアリングシャフト37に伝達される。上記入力検出装置54は、ステアリングシャフト37の回転量からステアリングホイール36の回転操作量を検出する。
【0022】
ステアリングホイール36、ステアリングシャフト37は、図中符号100で示す本実施形態に係る模擬ステアリング装置の構成部材である。模擬ステアリング装置100は、ステアリングホイール36及びステアリングシャフト37の他、ステアリングホイール36の回転を制限する回転範囲制限装置100Aを有する。この回転範囲制限装置100Aは、一端側にステアリングホイール36を固定されたステアリングシャフト37の他端側に配置されている。この回転範囲制限装置100Aは、ステアリングシャフト37の回転を規制することでステアリングホイール36の回転を制限する。
【0023】
シート34の座面部72及び背もたれ部68には、着座した運転者に振動を与える振動板70がそれぞれ埋め込まれている。これらの振動板70は、シート34に着座した運転者に振動を直接付与する。クラッチペダル42は、運転者によるスイッチ操作等に基づくモータ66の駆動に起因して折り畳み可能とされ、オートマチックトランスミッションを想定した模擬運転時には折り畳まれ、一方で、マニュアルトランスミッションを想定した模擬運転時には操作可能な位置に出現する。
【0024】
制御装置80は、メイン映像発生装置82、ルームサイド映像発生装置84、音響発生装置86、駆動系サーボアンプ装置90、及び、これらを制御するメインコンピュータ88を有し、メインコンピュータ88には外部表示モニタ92が接続されている。
【0025】
メインコンピュータ88は、運転者に対して車両運転時の擬似体験を行わせる際に、該運転者によるステアリングホイール36、アクセルペダル38、ブレーキペダル40等の各操作子の操作によって、入力検出装置54、56、58等から各操作子の操作入力が入力された場合に、記録してある制御プログラムに従って、前記運転者による該各操作子の操作に応じた模擬的(擬似的)な車速(模擬車速)を算出する。
【0026】
メイン映像発生装置82は、メインコンピュータ88において実行される制御プログラムに従って、車両運転時における運転者の視界に対応する映像信号を生成して映像投影装置26に出力し、映像投影装置26から映像信号に応じた映像(画像)をスクリーン28に投影させることで、該映像をスクリーン28に表示させる。
【0027】
ルームサイド映像発生装置84は、メインコンピュータ88において実行される制御プログラムに従って、車両運転時のルームミラー30及び両サイドミラー48の像に対応する映像信号を生成し、ルームミラー30及び両サイドミラー48の液晶モニタに前記映像信号に応じた映像をそれぞれ表示させる。
【0028】
音響発生装置86は、メインコンピュータ88において実行される制御プログラムに従って、車両運転時に運転者が受ける音響に対応する音響信号を生成し、この音響信号でスピーカ52を駆動して音響を大気中に発生させる。また、音響発生装置86は、ローパスフィルタ94を介して振動板70に音響信号を供給して、該音響信号の低周波成分で振動板70を駆動させる。駆動系サーボアンプ装置90は、メインコンピュータ88において実行される制御プログラムに従って、各アクチュエータ20の伸縮を制御する。
【0029】
(模擬ステアリング装置の回転範囲制限装置)
次に、図2は本実施形態に係る模擬ステアリング装置100の要部斜視図であり、上述した回転範囲制限装置100Aが示されている。以下、回転範囲制限装置100Aについて詳述する。なお、以下では、ステアリングホイール36は紙面上方に配置されていると仮定し説明を行う(図中符号36)。
【0030】
回転範囲制限装置100Aは、ステアリングシャフト37によってステアリングホイール36に直結された回転部材101と、回転部材101に隣接しステアリングホイール36側と逆側においてインストルメントパネル32に固定される固定部材102とを有している。
【0031】
回転部材101及び固定部材102は共に軸方向に見た場合には同一の円盤状に形成され(後述、固定部材102のフランジ105を除く)、ステアリングホイール36側から回転部材101、固定部材102の順で積層されて配置されている。回転部材101は、その中心領域に挿通孔103を有し、固定部材102は、その中心領域に挿通孔104を有する。各挿通孔103、104には、ステアリングシャフト37が挿通されている。
【0032】
回転部材101は、ステアリングシャフト37に対して相対回転不能に固定されている。固定部材102は、インストルメントパネル32内に形成された所定の設置面に、自身に一体形成されたフランジ105を介して固定されている。固定部材102の挿通孔104の外径はステアリングシャフト37の外径よりも大きく、固定部材102は、回転部材101側から延出するステアリングシャフト37を挿通孔104に回転可能に挿通させている。ここで、ステアリングシャフト37は、回転範囲制限装置100Aの設置箇所以外の箇所を図示しないベアリングによって回転可能に支持されている。詳しくは、ステアリングシャフト37は、このベアリングによって、インストルメントパネル32に対して回転可能に支持されるとともに、軸方向への移動を規制されている。また、回転部材101の軸方向への移動を規制する規制部材をインストルメントパネル32内に設けてもよい。
【0033】
図3にも示すように、回転部材101の固定部材102側の面には、ステアリングホイール36の回転軸、すなわち、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす上側溝106が形成されている。固定部材102の回転部材101側の面には、ステアリングホイール36の回転軸、すなわち、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす下側溝107が形成されている。
【0034】
上側溝106及び下側溝107は同様の形状に形成され、上側溝106及び下側溝107のステアリングシャフト37周方向についての、それぞれ始端から終端までの中心角は同一であり、具体的にこの実施形態では、上側溝106及び下側溝107の角度範囲は約300度に設定されている。上側溝106及び下側溝107は、積層された場合に同一の円の円周上に位置するが、加工のバラツキを考慮して、上記固定部材102の挿通孔104とステアリングシャフト37との間には、ある程度のクリアランスが設定されている。
【0035】
図4に示すように、上側溝106及び下側溝107は共に、断面視でU字状に形成されており、それぞれ同様の形状に形成されている。上側溝106と下側溝107との間には、金属材料からなる球体であるボール108が設けられ、ボール108は、上側溝106と下側溝107との間に摺動自在に保持されている。
【0036】
各溝106,107の端部について、図3において、ステアリングシャフト37の軸周りで反時計周り方向に位置する端部を始端(106A,107A)とし、時計周り方向に位置する端部を終端(106B,107B)と称する。上側溝106の始端106A、終端106B、及び、下側溝107の始端107A、終端107Bは共に、弧状に形成され、曲率はボール108の曲率に対してやや大きい。また、上側溝106及び下側溝107は、ボール108を収容可能な幅及び深さに形成され、図4に示すように、ボール108は、上側溝106下側溝107とで形成された空間に隙間をもって収容されている。
【0037】
ボール108は、回転部材101の回転に伴い、下側溝107を摺動する、もしくは、上側溝106に対して相対移動するように上側溝106を摺動する。ボール108が摺動し、上側溝106又は下側溝107の双方の端部に至ると、回転部材101の回転が規制される。つまり、ボール108は、ストッパーとしての上側溝106の端部(始端106A、終端106B)又は下側溝107の端部(始端107A、終端107B)に係合する係合部としての機能を有する。
【0038】
上側溝106と下側溝107との間にボール108が収容された状態では、図4に示すように回転部材101と固定部材102とが当接する。上側溝106と下側溝107の当接面には、摩耗を考慮し、耐摩耗性に優れた表面処理等を施すことが好ましい。なお、この実施形態では、上側溝106及び下側溝107をU字状としたが、ボール108を収容可能な幅及び深さ有するものであれば、例えばV字状等であってもよい。
【0039】
(回転範囲制限装置の作動説明)
次に、図5〜図7はそれぞれ、ステアリングホイール36側から軸L1方向に回転部材101及び固定部材102それぞれの溝106、107を模式的に見た図を示している。以下、同図を参照し、回転範囲制限装置100Aの作動の様子を説明する。
【0040】
図5は、ステアリングホイール36の中立位置を示しており、この状態では、上側溝106と下側溝107とが、双方の端部を一致させた状態(始端と始端を合わせ、終端と終端とを合わせ状態で)で重なり合っており、ボール108が、上側溝106と下側溝107の中間に位置している。図中ラインAは、ステアリングホイール36の中立位置を示すものとする。なお、この図では、上側溝106が下側溝107の上に重なった状態を示している。
【0041】
この状態から、ステアリングホイール36が左(紙面の反時計周り方向)に転舵されると、回転部材101が固定部材102に対して左に回転し、上側溝106が左回転する。この回転が進むと、上側溝106の終端106B(紙面、時計回り方向側の端部)にボール108が接し、ボール108が上側溝106の回転に伴い完全に移動する状態となる。
【0042】
そして、さらに回転部材101の左回転が進むと、図6に示すように、ボール108が下側溝107の始端107A(紙面、時計周り方向側の端部)に接し、ボール108が上側溝106の終端106Bと下側溝107の始端107Aに挟まれた状態となる。この状態で、回転部材101の左回転は制限されるので、ステアリングホイール36の左転舵が制限される。なお、この図において、下側溝107については二点鎖線で示している。
【0043】
ここで、図6において、ラインAの移動状態を示したラインA’を参照すると、当初中立位置から左に300度弱回転している。より詳しくは、この例では、上側溝106又は下側溝107の円弧の中心角である約300度から、ボール108が上側溝106又は下側溝107において占有する角度範囲を引いた値が、図5に示した状態からステアリングホイール36の左回転における回転範囲となる。
【0044】
一方で、図7は、図5に示した状態から、ステアリングホイール36を右(紙面の時計周り方向)に転舵した状態を示している。この状態では、ボール108が上側溝106の始端106Aと下側溝107の終端107Bに挟まれた状態となるので、回転部材101の右回転が制限され、ステアリングホイール36の右転舵が制限された状態になっている。
【0045】
そして、図7において、ラインAの移動状態を示したラインA’’を参照すると、当初中立位置から右に300度弱回転している。この右方向における回転範囲も、上記左回転における回転範囲と同様の範囲である。
すなわち、この実施形態の模擬ステアリング装置100では、回転範囲制限装置100Aによって左転舵限界位置と右転舵限界位置との間で600度弱の回動範囲が設定されている。なお、上述した作動説明においては、便宜のためボール108が上側溝106と下側溝107の中間に位置するものとしたが、ボール108の位置は任意の位置で構わない。
【0046】
以上に記載したように本実施形態に係る模擬ステアリング装置100では、回転範囲制限装置100Aにおいて、ステアリングシャフト37の同軸上に配置された回転部材101と固定部材102のそれぞれの溝の端部間にボール108が挟まれることで、回転部材101に直結されるステアリングホイール36の回転を制限できる。
【0047】
また、回転範囲制限装置100Aでは、円弧状の回転部材101側の上側溝106と固定部材102側の下側溝107の中心角(本実施形態では、中心角をそれぞれ約300度とした)を足し合わせた角度を、概ねステアリングホイール36の回転範囲(本実施形態では、約600度)とすることができる。
【0048】
このため、この模擬ステアリング装置100では、部材の同軸配置により装置をステアリングシャフト37径方向に大型化することなく、ステアリングホイール36の回転範囲を比較的広くすることができ、ステアリングホイール36の回転範囲を広くした場合でも装置のレイアウト上の制約を少なくすることができる。
【0049】
また、この実施形態では、回転部材101及び固定部材102の溝106,107の中心角を約300度としたが、このような回転部材101及び固定部材102の溝の中心角(周長)を調整することでステアリングホイール36の回転範囲を調整できるため、本実施形態に係る模擬ステアリング100の構成では、回転範囲の設定変更自由度が高い。
【0050】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る模擬ステアリング装置200について説明する。なお、本実施形態の模擬ステアリング装置200も、第1実施形態で説明したドライビングシミュレータ10に搭載される。第1の実施形態と同一の部位については、同一符号を付して、説明は省略する。
【0051】
図8は、本実施形態に係る模擬ステアリング装置200の要部斜視図であり、当該模擬ステアリング装置200が有する回転範囲制限装置200Aが示されている。回転範囲制限装置200Aは、第1の実施形態の回転範囲制限装置100Aと同様の機能を有する。以下では、ステアリングホイール36は紙面上方に配置されていると仮定し説明を行う(図中符号36)。
【0052】
本実施形態において、回転範囲制限装置200Aは、ステアリングシャフト37によってステアリングホイール36に直結された第1回転部材201と、第1回転部材201と隣接しステアリングホイール36側とは逆側に設けられた第2回転部材202と、第2回転部材202に隣接しステアリングホイール36側と逆側においてインストルメントパネル32に固定される固定部材203とを有する。
【0053】
第1回転部材201、第2回転部材202、及び固定部材203は共に、軸方向に見た場合には同一の円盤状に形成され(後述、固定部材203のフランジ207を除く)、インストルメントパネル32内において、ステアリングホイール36側から第1回転部材201、第2回転部材202、固定部材203の順で積層されて配置されている。第1回転部材201はその中心領域に挿通孔204を有し、第2回転部材202はその中心領域に挿通孔205を有する。固定部材102はその中心領域に挿通孔206を有する。各挿通孔204、205、206には、ステアリングシャフト37が挿通されている。
【0054】
第1回転部材201は、ステアリングシャフト37に対して相対回転不能に固定されている。第2回転部材202は、ステアリングシャフト37に対して相対回転可能に支持されている。固定部材203は、インストルメントパネル32内に形成された所定の設置面に、自身に一体形成されたフランジ207を介して固定されている。
【0055】
固定部材203の挿通孔206の外径はステアリングシャフト37の外径よりも大きく、固定部材203は、回転部材側から延出するステアリングシャフト37を挿通孔206に回転可能に挿通させている。ここで、ステアリングシャフト37は、回転範囲制限装置200Aの設置箇所以外の箇所を図示しないベアリングによって回転可能に支持されている。詳しくは、ステアリングシャフト37は、このベアリングによって、インストルメントパネル32に対して回転可能に支持されるとともに、軸方向への移動を規制されている。また、第1回転部材201及び第2回転部材202の軸方向への移動を規制する規制部材をインストルメントパネル32内に設けてもよい。
【0056】
第2回転部材202の固定部材102側の面に、ステアリングホイール36の回転軸、すなわち、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす第1の溝208が形成されている。固定部材203の第2回転部材202側の面に、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす第2の溝209が形成されている。
【0057】
第1回転部材201の第2回転部材202側の面に、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす第3の溝210が形成され、第2回転部材202の第1回転部材201側の面に、ステアリングシャフト37の軸線L1を中心とした円弧状をなす第4の溝211が形成されている。
【0058】
各溝208〜211は同様の形状に形成され、各溝208〜211のステアリングシャフト37周方向についての、それぞれ始端から終端までの中心角は同一である。具体的にこの実施形態では、各溝208〜211の角度範囲は約230度に設定されている。また、各溝208〜211の形状は、中心角を除き、第1の実施形態と同様の形状に形成されている。ここで、各溝208〜211の端部については、図10において、ステアリングシャフト37の軸周りで反時計周り方向に位置する端部を始端(208A,209A,210A,211A)とし、時計周り方向に位置する端部を終端(208B,209B,210B,211B)とする。
【0059】
そして、第1の溝208と第2の溝209との間に、金属材料からなる球体である第1のボール212が設けられ、第1のボール212は、第1の溝208と第2の溝209との間に摺動自在に保持されている。また、第3の溝210と第4の溝211との間には、金属材料からなる球体である第2のボール213が設けられ、第2のボール213は、第3の溝210と第4の溝211との間に摺動自在に保持されている。
【0060】
以下では、本実施形態に係る回転範囲制限装置200Aの作動の様子を説明する。
図9、図10、図11は、ステアリングホイール36側から軸L1方向に、第1回転部材201、第2回転部材202、及び固定部材203それぞれの溝208〜211を模式的に見た図を示している。
【0061】
図9は、ステアリングホイール36の中立位置を示しており、この状態では、各溝208〜211が、双方の端部を一致させた状態で重なり合っており、第1のボール212が、第1の溝208と第2の溝209の中間に位置し、第2のボール213が、第3の溝210と第4の溝211の中間に位置している。図中ラインBは、ステアリングホイール36の中立位置を示すものとする。
【0062】
この状態から、ステアリングホイール36が左(紙面の反時計周り方向)に転舵されると、第1回転部材201の第3の溝210の終端210Bが第2のボール213に接し、第2のボール213が第3の溝210の回転に伴い完全に移動する状態となる。また、第2回転部材202の第1の溝208の終端208Bが第1のボール212に接し、第1のボール212が第1の溝208の回転に伴い完全に移動する状態となる。
【0063】
そして、最終的に、第1の溝208と第2の溝209との間において、図10に示すように、第1のボール212が第2の溝209の始端209Aに接し、第1のボール212が第1の溝208の終端208Bと第2の溝209の始端209Aに挟まれた状態となる。また、第3の溝210と第4の溝211との間においては、図11に示すように、第2のボール213が第4の溝211の始端211Aに接し、第2のボール213が第3の溝210の終端210Bと第4の溝211の始端211Aに挟まれた状態となる。
【0064】
そして、この状態では、第1回転部材201及び第2回転部材202の左回転は制限されるので、ステアリングホイール36の左転舵が制限される。なお、図10においては、第2の溝209を二点鎖線で示し、図11では第4の溝211を二点鎖線で示している。
【0065】
そして、この状態では、図10に示したラインB’を参照されるように、第2回転部材202が固定部材203に対して当初中立位置(ラインB)から左に所定角度回転する。また、図11に示したラインB’’に参照されるように、第1回転部材201が第2回転部材202に対して、上記ラインB’の位置から左に所定角度回転する。そして、当初の中立位置であるラインBからラインB’’の回転角度は約450度であり、これがステアリングホイール36の左転舵の限界位置になっている。
【0066】
詳しくは、各溝208〜211の円弧の中心角である約230度の2倍の値から、第1のボール212が第1の溝208又は第2の溝209において占有する角度範囲と、第2のボール213が第3の溝210又は第4の溝211において占有する角度範囲とを引いた値が、図9に示した状態からのステアリングホイール36の左回転における回転範囲(限界位置)となる。
【0067】
一方で、図9に示した状態からステアリングホイール36が右に転舵された場合には、当初中立位置(ラインB)から右に約450度回転した位置が、ステアリングホイール36の右回転における回転範囲となる。
すなわち、この実施形態の模擬ステアリング装置200では、左転舵限界位置と右転舵限界位置との間で、約900度の回動範囲が設定され、実車に則した、二回転半の所謂ロックtoロックが実現されている。
【0068】
以上に記載した第2の実施形態に係る模擬ステアリング装置200では、回転範囲制限装置200Aにおいて、ステアリングシャフト37同軸上に第1回転部材201、第2回転部材202を積層することで、ステアリングシャフト37径方向への大型化を抑えつつ、ステアリングホイール36の回転範囲を簡単に広くすることができる。
【0069】
なお、本実施形態における構成はこの発明の一例であり、部品構成や構造、形状、大きさ、数及び配置等を含め、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
例えば、本実施形態では、回転部材と固定部材あるいは、回転部材と回転部材との間に設けたボールを金属材料からなるものとしたが、比較的弾性があり、耐摩耗性及び剛性が高いものであれば、樹脂材料等からなるものであってもよい。
また、本実施形態の模擬ステアリング装置では、回転範囲制限装置(100A又は200A)をステアリングシャフトの下端側に配置するようにしたが、ステアリングシャフトの中央領域に配置する態様でもよいし、ステアリングホイールに近接して設けるようにしても構わない。
また、第2の実施形態では、固定部材に対して相対回転する回転部材を二つ積層した態様を説明したが、同様の回転部材を3段以上積層して、回転範囲を拡大させてもよい。
【符号の説明】
【0070】
32 インストルメントパネル(車体)
36 ステアリングホイール
37 ステアリングシャフト
100,200 模擬ステアリング装置
101 回転部材
102,203 固定部材
106 上側溝(第1の溝)
107 下側溝(第2の溝)
108 ボール(第1のボール)
201 第1回転部材(回転部材)
202 第2回転部材(回転部材)
208 第1の溝
209 第2の溝
210 第3の溝
211 第4の溝
212 第1のボール
213 第2のボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトによってステアリングホイールに直結される回転部材と、
前記回転部材に隣接し、前記ステアリングホイールと逆側において車体に固定される固定部材と、
前記回転部材の前記固定部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第1の溝と、
前記固定部材の前記回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第2の溝と、
前記第1の溝と前記第2の溝との間に摺動自在に設けられた第1のボールとを有することを特徴とする模擬ステアリング装置。
【請求項2】
前記回転部材に、前記ステアリングホイールに直結される第1回転部材と、前記第1回転部材と隣接し、前記ステアリングホイールとは逆側に設けられる第2回転部材とが含まれ、
前記第1回転部材の前記第2回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第3の溝と、
前記第2回転部材の前記第1回転部材側の面に形成され、前記ステアリングホイールの回転軸を中心とした円弧状をなす第4の溝と、
前記第3の溝と前記第4の溝との間に摺動自在に設けられた第2のボールとを有し、
前記第1の溝が、前記第2回転部材の前記固定部材側の面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の模擬ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−14079(P2012−14079A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152378(P2010−152378)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)