模擬眼底
【課題】眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価し、眼底検査装置の調整および特性管理に有用な模擬眼底を提供する。
【解決手段】模擬眼底10は、基板12と、基板12上に設けられ微粒子17を保持する保持層14と、保持層14上に設けられ複数の微粒子17を有する微粒子層16と、微粒子層16を覆い微粒子層16の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層18と、オーバーコート層18上に設けられパターン形成層20の表面に毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層19とを備え、光応答性高分子を有する保持層14を採用し、微粒子層16を自己組織化によって形成することにより、人眼の視細胞に近似した微粒子層16を構成した。
【解決手段】模擬眼底10は、基板12と、基板12上に設けられ微粒子17を保持する保持層14と、保持層14上に設けられ複数の微粒子17を有する微粒子層16と、微粒子層16を覆い微粒子層16の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層18と、オーバーコート層18上に設けられパターン形成層20の表面に毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層19とを備え、光応答性高分子を有する保持層14を採用し、微粒子層16を自己組織化によって形成することにより、人眼の視細胞に近似した微粒子層16を構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底検査装置の調整および管理に有用な眼底の模型に関するものである。特に、補償光学機能と分光画像計測機能を有する高性能の眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価するのに適した眼底の模型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種疾患の診断および早期発見のため、眼底検査装置を用いて、眼底の光学特性を測定している。眼底検査装置の測定精度を維持するためには、既知の光学特性を有する眼底を用いて、この装置を調整する必要がある。入手困難性や劣化の観点から、生命体の眼底を眼底検査装置の調整に用いるのは現実的ではない。そこで、模擬眼底が眼底検査装置の調整に用いられている。
【0003】
模擬眼底を含む模型眼としては、人眼の屈折力に相当する屈折力を有するレンズ部材と、レンズ部材からの光を全反射するファイバーを有する擬似眼底部材と、擬似眼底部材の裏面側に配置された鏡面反射部を備えるものがある(特許文献1参照)。
【0004】
近年、光の波面歪みを実時間で検出し補正する補償光学機能と、面内に分布する物質の成分を画像解析で定量的に測定する分光画像計測機能とを有する高機能な眼底検査装置が開発されつつある。このような眼底検査装置は、例えば、面内2μm×2μm、深さ2μm程度の空間分解能を有し、視細胞の形態のみならず、微細血管内の血球動態、または網膜全体の酸素分圧分布や毛細血管壁の変性に伴う白濁や反射亢進などを反映する色調変化をも検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記模型眼では、眼底検査装置の高度な色調観察機能を定量的にチェックできない。本発明は、この問題点に鑑みて成されたものであり、眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価し、この装置の調整および特性管理に有用な模擬眼底を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、基板と、基板上に設けられ、複数の微粒子を有する微粒子層と、微粒子層上に設けられ、毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層と、を有する模擬眼底である。模擬眼底は、微粒子層を覆い微粒子層の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層をさらに有し、模擬血管パターン層はオーバーコート層上に設けられていても良い。
【0008】
また、模擬眼底は、基板上に設けられ、複数の微粒子の配列を制御すると共に、複数の微粒子を保持する保持層をさらに有していても良い。保持層は、光応答性高分子を有する層であっても良い。また、保持層は、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有していても良い。
【0009】
模擬眼底は、基板の微粒子層とは反対側の面に設けられ、基板への入射光を反射する反射層をさらに有していても良い。微粒子層は、自己組織化によって形成された層であっても良い。また、微粒子層は、1層に配列された複数の微粒子から構成されても良い。また、毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であっても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の模擬眼底によれば、眼底検査装置が持つ高分解能形態観察機能、および高度な色調観察機能を、同時かつ定量的にチェックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る模擬眼底の断面模式図である。
【図2】3種の粒径と色を持つ微粒子の自己組織化によって形成された本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図3】光応答性高分子を有する保持層に保持された本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図4】異なる秩序度で自己組織配列した本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図5】模擬血液色素1および脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図6】模擬血液色素2および脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図7】模擬血液色素3および酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図8】模擬血液色素4および酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図9】模擬血液色素5および酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図10】模擬血液色素6および脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図11】模擬血液が注入された本発明の実施の形態に係る模擬毛細血管の顕微鏡観察像である。
【図12】模擬血液が注入された本発明の実施の形態に係る他の模擬毛細血管の顕微鏡観察像である。
【図13】動脈血の流れる血管が選択された、眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンである。
【図14】静脈血の流れる血管が選択された、眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンである。
【図15】眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンで、図13に示すパターンと図14に示すパターンを重ね合わせたものである。
【図16】本発明の実施の形態に係る動脈模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像である。
【図17】本発明の実施の形態に係る静脈模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像である。
【図18】本発明の実施の形態に係る模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像であり、動脈模擬毛細血管パターンと静脈模擬毛細血管パターンを重ね合わせたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る模擬眼底10を示す。模擬眼底10は、基板12と、保持層14と、微粒子層16と、オーバーコート層18と、パターン形成層20と、表面保護層22を備える。なお、基板12の微粒子層16とは反対側の面に、基板12への入射光を反射する反射層(不図示)を設けても良い。反射層を設けることによって、眼底検査装置の照明光の強度または検出器の光感度が十分でない場合でも、この眼底検査装置による模擬眼底の観察が可能となることがある。
【0013】
基板12は、人眼の強膜に相当する。基板12は、例えば、縦25mm、横25mm、厚さ1mmのスライドガラスで構成することができる。基板12の材質としては、スライドガラス以外にも、PETフィルム、ポリカーボネート、アクリル樹脂をはじめとするプラスチック材料、さらには、ゼラチン、セルロース、ポリ乳酸など生物由来の材料も用いることができる。
【0014】
保持層14は、後述する微粒子層16を構成する複数の微粒子17を保持することによって、基板12上に微粒子層16を配置する。保持層14は、複数の微粒子17の配列を制御できるものが好ましい。なお、本願において「基板上」とは、接するか否かに関わらず基板の上方を示す。「微粒子層上」や「オーバーコート層上」等も同様である。複数の微粒子17を基板12に保持できれば、保持層14の材質および構造は問わない。保持層14は、複数の微粒子17を化学的・物理的に接着して保持するものでも良いし、複数の微粒子17をはめ込んで固定する凹凸面を有するものでも良い。
【0015】
微粒子17の接着方法は、表面化学反応伴う化学的固着、ファンデアワールス力や静電引力その他の物理的吸着、熱的な融着、またはその他の手段による方法が適用できる。微粒子17をはめ込んで固定する凹凸面の作製には、フォトリソグラフィー法、電子ビーム形成法、化学エッチング法、レーザーアブレーション法、熱エンボス法、光誘起表面レリーフ法(光応答性高分子上に光で凹凸を形成する技術)、または、その他の汎用方法が適用できる。
【0016】
なお、微粒子17が保持層14を伴わずに基板12上に構造化、固定化できる場合、保持層14は必須ではない。また、基板12上に保持層14を別途設けず、基板12の表面を凹凸に加工することによって、保持層14を形成しても良い。基板12または保持層14の表面に、トップダウン型微細加工技術を用いて作製する人工的な凹凸構造、または、ボトムアップ型微細加工技術を用いて作製する自然発生的構造を付与させると、微粒子層16における微粒子17の配列構造を制御するためのテンプレートとして好適な効果が期待できる。
【0017】
基板12の表面を加工する方法としては、フォトリソグラフィー法、電子ビーム形成法、光誘起表面レリーフ法(光応答性高分子上に光で凹凸を形成する技術)、化学エッチング法、レーザーアブレーション法、熱エンボス法、またはその他の汎用方法が適用できる。また、ボトムアップ型微細加工技術としては、例えば、微粒子の自己組織化や相分離のような材料とプロセスに由来する構造形成技術を用いることができる。
【0018】
また、補償光学系において、眼底に集光するセンシング光を等方的に散乱させ、光波波面補償に用いる参照用点光源を効果的に生じさせることを目的として、光散乱特性が付与された膜を保持層14として好適に用いることができる。このような光散乱特性が付与された保持層14としては、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有するものが挙げられる。
【0019】
本実施の形態では、保持層14は、光応答性高分子であるアゾベンゼンを有する層である。光応答性高分子を有する保持層14は、保持層14の少なくとも微粒子層16側の表面が、光応答性高分子から構成される。もちろん、保持層14全体が光応答性高分子から構成されても良い。光応答性高分子とは、特定波長の光(主に紫外〜赤外領域の光)が照射されることによって極性、親・疎水性、体積、機械的特性等の化学・物理的特性が変化する高分子をいう。光応答性高分子としては、アゾベンゼン以外にもフルギド類、ジアリールエテン類、スピロオキサジン類、スピロピラン類をはじめとするフォトクロミック化合物、または光架橋型、光重合型、光分解型のフォトポリマーなどが挙げられる。
【0020】
光応答性高分子は、複数の微粒子17の配列を制御できる。すなわち、光応答性高分子を用いることによって、基板12上に1層に配列された微粒子17から構成される微粒子層16を簡便に形成することができる。光応答性高分子を用いて微粒子17を1層に配列する方法は後述する。
【0021】
複数の微粒子17を有する微粒子層16は、保持層14を介して基板12上に設けられる。微粒子17は、人眼の視細胞に相当する。保持層14と微粒子層16で、または微粒子層16単独で、模擬視細胞層13を構成する。微粒子層16は、粒径1μmから5μmの複数の微粒子17から構成される。微粒子17は、例えば、プラスチック製、シリカ製、チタニア製、金属製である。微粒子17をポリスチレン製とした場合、単一の粒径の微粒子17から微粒子層16を構成しても良いし、異なる複数の粒径の微粒子17を組み合わせて微粒子層16を構成しても良い。
【0022】
異なる複数の粒径の粒子を組み合わせて微粒子層16を構成する場合、各粒径成分の混合比は任意である。人眼の視細胞構造の模擬という観点からは、粒径1μm、2μm、および3μmの3種の微粒子17を、重量比で1:2:3〜6:3:1の範囲で混合して得られる微粒子層16が特に好適である。また、透明である無着色粒子と着色粒子を混合して得られる微粒子層16は、粒径だけではなく、着色度によって微粒子の計測が可能となるため、眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価するために好適である。
【0023】
本実施の形態では、微粒子層16は自己組織化によって形成されている。ここで自己組織化とは、複数種の微粒子を含む分散液を基板上に展開した後、分散媒を徐々に蒸発させる過程において、微粒子間同士、あるいは、微粒子と基板間に発生する相互作用(引力または斥力)の結果として、複数種の微粒子が規則的、もしくは、ランダムな状態で基板上に配置されるプロセスをいう。自己組織化による微粒子層16の形成は、例えば、着色粒子と無着色粒子のポリスチレン微粒子の混合物の分散液を、基板12上または保持層14上に展開し、分散媒を蒸発させることにより行われる。なお、微粒子17は、ポリスチレン以外に、ポリイミド、ポリメチルメタクリレートなどの汎用高分子材料から構成されても良い。
【0024】
図2は、自己組織化によって形成された微粒子層16の表面の状態を示す。この微粒子層16は、粒径の異なる3種のポリスチレン微粒子の水分散液をガラス板に滴下して、水を蒸発させて得たものである。3種のポリスチレン微粒子の着色状態・粒径・混合比(重量比)は、それぞれ無着色粒子・3μm・40%、青色粒子・2μm・20%、赤色粒子・1μm・40%である。このように、自己組織化によって微粒子層16を形成することにより、視細胞を模した幾何構造および色の分布を有する層が簡易に得られる。
【0025】
オーバーコート層18は、微粒子層16の表面の凹凸を緩和し、すなわち表面の凹凸を平滑化し、パターン形成層20の形成を補助したり、光の散乱を低減させたりする。オーバーコート層18は、可視光に対して良好な透明性を有し、かつ、屈折率が微粒子17の屈折率と近いことが望ましい。オーバーコート層18の厚さは、1μm〜1mmの範囲で任意に設定可能である。
【0026】
オーバーコート層18は、保持層14や微粒子17を溶解しない溶媒に溶かされた材料、例えば、水または温水などに溶かされたポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、セルロースエステル、セルロースエーテルなど、メタノールなどに溶かされたポリビニルピロリドンなど、あるいは、シクロヘキサンに溶かされたポリジメチルシロキサンなどから構成される。なお、オーバーコート層18は、模擬眼底10の必須構成部材ではない。
【0027】
パターン形成層20は、オーバーコート層18上に設けられ、表面に毛細血管を模したパターン(不図示)が形成されている。この毛細血管を模したパターンとパターン形成層20とで、模擬血管パターン層19を構成する。本実施の形態では、オーバーコート層18上にパターン形成層20が直接設けられているが、オーバーコート層18とパターン形成層20との間にバッファー層(不図示)を設けても良い。
【0028】
バッファー層を設けることによって、微粒子層16とパターン形成層20との間隔を、人眼の視細胞と毛細血管との間隔に近似させることができる。また、例えば、オーバーコート層18を平坦化に適した材料で、バッファー層を安定性に優れた材料でそれぞれ構成すれば、機能面やコスト面で優れた模擬眼底が得られる。
【0029】
パターン形成層20は、オーバーコート層18上やバッファー層上に直接形成しても良い。また、予め薄膜にパターンを形成したものを模擬血管パターン層19とし、これをオーバーコート層18上やバッファー層上に付着しても良い。
【0030】
毛細血管を模したパターンは、例えば、マイクロスポッティング法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷、転写印刷法、フレキソ印刷法、または、その他の汎用印刷方法を用いて、模擬血液をオーバーコート層18やバッファー層に付着、凝固させることによって形成される。このとき、毛細血管の形状、模様、幅、周期等の幾何学パターンを模して形成するのが好ましい。このように、毛細血管を模したパターンの形成を高精度に行うことによって、分光画像計測技術が導入された高機能の眼底検査装置の調整や特性管理に有用な模擬眼底が得られる。
【0031】
人眼の毛細血管のパターンにより近似させるため、毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、この2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であることが好ましい。すなわち、例えば、脱酸素型ヘモグロビン水溶液の光の吸収スペクトルを模した模擬血液と、酸素型ヘモグロビン水溶液の光の吸収スペクトルを模した他の模擬血液を、オーバーコート層18やバッファー層のそれぞれ人眼の静脈と動脈に対応する位置に付着、凝固させることによって、人眼の毛細血管のパターンにより近似させることができる。なお、模擬血液が模している血液の光の吸収スペクトルの領域は、約480〜約1000nmである。これ以外の領域では、模擬血液と血液の光の吸収スペクトルが、必ずしも近似していなくても良い。
【0032】
模擬血液は、例えば、複数の色素化合物を含む混合液、すなわち模擬血液色素に、増粘剤、消泡剤、消光剤、結晶成長阻害剤などを添加して調製される。模擬血液に用いることができる色素としては、Zinc5,10,15,20−tetra(4−pyridyl)−21H,23H−porphine tetrakis(methachloride)、Quinoline Yellow,spirit soluble、Sirius Orange G、alpha−Naphtyl Red hydrochloride、Palatine Fast Yellow BLN、Pyrocatechol Violet、1−(3−Sulfopropyl)−2−{[3−(3−sulfopropyl−2(3H)−benzothiazolylidene)−methyl]nephtho[1,2−d]thiazolium hydroxide,inner salt,triethylammonium salt、Acridine Yellow G、Mordant Brown 33、Disperse Orange 3、2−(5−Bromo−2−pyridylazo)−5−(diethylamino)phenolが挙げられる。
【0033】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、4−[(1−Methyl−4(1H)−pyridinylidene)−2,5−cyclohexadien−1−one、Procion Red MX−5B、Astrazone Red 6B、2−[3−(3−Ethyl−2(3H)−benzothiazolylidene)−2−methyl−1−propenyl]−3−[3−(sulfooxy)butyl]benzothiazolium hydroxide,inner salt、Neutral Red、Acid Violet 17、Acid Blue 92、Acid Black 24、Resorufin、Nitrosulfonazo III、1−[[3−Ethyl−2(3H)−benzothiazolylidene]ethylidene]−2(1H)−naphthaleneone、Acid Blue 120、Chlorophenol Red,sodium saltも挙げられる。
【0034】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Litmus、o−Cresolphthalein comlexone、Sulforhodamine 101 hydrate、Sulfobromophthaleine sodium hydrate、Orcein、1−(3−Sulfopropyl)−2−(2−{[1−(3−sulfopropyl)naphto[1,2−d]thiazol−2(1H)−ylidene]−methyl}−1−butenyl)naphto[1,2−d]thiazolium hydroxide,inner salt,triethylammonium salt、2,7,12,17−tetra−tert−butyl−5,10,15,20−tetraaza−21H,23H−porphine、Brilliant Cresyl Blue ALD、Leucomalachite Green、Luxol Brilliant Green BL、Wool Fast Blue FGLLも挙げられる。
【0035】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Toluidine Blue O、Fast Green FCF、Erioglaucine、Brilliant Green、3,3’−Diethylthiatricarbocyanine iodide、Nickel(II)2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Copper(II)−3,10,17,24−tetra−tert−butyl−1,8,15,22−tertrakis(dimethylamino)−29H,31Hphthalocyanine、IR−768 perchlorate、IR−820、Tin(IV)−2,3−naphthalocyanine dichloride、Tin(II)−2,3−naphthalocyanineも挙げられる。
【0036】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、IR−27、Sirius Orange G、Acridine Yellow G、Aurintricarboxylic acid, trisodium salt、Plasmocorinth B、Quinaldine Red、Slforhodamine G、Congo Violet、Erythrosin B, spirit soluble、Bromopyrogallol Red、Pyronin B、Nile Red、New Fuchin、5−Acetamido−3−[4−3−[4−2,4−di−tert−pentylphenoxy]butylcarbamoyl]−4−hydroxy−1−naphthoxy]phenylazo]−4−hydroxy−2,7−naphthalenedisulfonic acid,disodium salt、Slforhodamine B、Amethyst Violet、Rose Bengal lactoneも挙げられる。
【0037】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Methylene Violet 3RAX、1,1’−Diethyl−2,4’−cyanine iodide、Sulforhodamine B,acid form、Methylene Violet(Bernthsen)、Slvent Blue 43、Diazine Black、Brilliant Blue R、Nitrazine Yellow、Pontamine Sky Blue 5B、Crystal Violet、Gentian Violet、Bromocresol Purple,sodium salt、Sulforhodamine 101 asid chloride、Bromophenol Blue,sodium salt、Nile Blue A perchlorate、Acid Blue 129、Oxonole Blue,dipotasium salt、Nile Blue A、Azure Aも挙げられる。
【0038】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Iron(III) phthalocyanine−4,4’,4’’,4’’’−tetrasulfonic acid,monosodium salt,compound with oxygen,hydrate、Acid Blue 80、Methyl Green,zinc chloride salt、New Methylne Blue N, zinc chloride double salt、1,4,8,11,15,18,22,25−Octabutoxy−29H,31H−phthalocyanine、3,3’−Diethylthiatricarbocyanine iodide、Nickel(II)2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Copper(II)−3,10,17,24−tetra−tert−butyl−1,8,15,22−tertrakis(dimethylamino)−29H,31Hphthalocyanineも挙げられる。
【0039】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Zinc2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammmonium perchlorateも挙げられる。
【0040】
また、模擬血液を構成する材料としては、以上に挙げたような可視光吸収性の有機色素以外にも、染料として知られている直接染料類、酸性染料類、塩基性染料類、媒染染料類、酸性媒染染料類、バット染料類、分散染料類、反応染料類、蛍光増白染料類、顔料として知られている鉱物顔料類、土顔料類、酸化物顔料類、水酸化物顔料類、硫化物顔料類、珪酸塩顔料類、燐酸塩顔料類、炭酸塩顔料類、金属微粒子顔料類、炭素顔料類、植物性顔料類、動物性顔料類、染付レーキ顔料類、溶性アゾ顔料類、不溶性アゾ顔料類、縮合アゾ顔料類、アゾ錯塩類、フタロシアニン顔料類、縮合多環顔料類、蛍光顔料類、紫外・可視光〜近赤外波長領域に吸収帯を有する人工的に合成された有機化合物、有機金属錯体、その他の色素、または天然系着色料として知られているカロチノイド系、キノン系、アントシアニン系、フラボノイド系、ポルフィリン系、ジケトン系、ベタシアニン系、アザフィロン系、カラメル、クチナシ色素、スピルリナ色素のような色素、着色材、発色材が利用可能である。
【0041】
表面保護層22は、模擬血管パターン層19を保護するために、模擬血管パターン層19上に形成されている。可視光に対して良好な透明性を有し、かつ、適度な表面硬度を持つものであれば、表面保護層22の材質は問わない。なお、表面保護層22は、模擬眼底10の必須構成部材ではない。
【0042】
次に、本実施の形態に係る模擬眼底10の製造方法について説明する。まず、基板12上に、アゾベンゼンなどの光応答性高分子を有する保持層14を形成する。保持層14は、例えば、有機溶媒に溶解した光応答性高分子溶液をスピンコーティングして形成される。
【0043】
次に、保持層14の表面に干渉光を照射して保持層14の表面に凹凸構造を形成する。例えば、3μm程度の間隔で凹凸を繰り返す表面構造を形成する場合、波長488nmの2つのレーザー光を9.3°の交差角で干渉させることによって得られる干渉縞を、保持層14の表面に照射すれば良い。この照射光の強度は、100〜1000mW/cm2程度が好ましい。
【0044】
次に、例えば、粒径約3μmのポリスチレン製の微粒子17の水分散液を、保持層14の表面の凹凸構造上に展開する。次に、水を蒸発させた後、強度100mW/cm2程度の均一光を照射すると、保持層14に接している微粒子17が、保持層14の表面にわずかに潜りこむ。こうして、複数の微粒子17は保持層14に強固に捕捉される。
【0045】
次に、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去する。保持層14に捕捉されなかった微粒子17の大半は、保持層14に捕捉された微粒子17上に重なって存在している。したがって、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去すれば、保持層14の表面には、1層に配列された複数の微粒子17が残る。微粒子17の除去は、例えば、超音波洗浄によって行われる。こうして、視細胞に近似した、1層に配列された複数の微粒子17から構成される微粒子層16が形成される。
【0046】
図3は、上記方法によって、光応答性高分子を有する保持層14に保持された微粒子層16の表面の状態を示す。微粒子17の保持に光応答性高分子を用いると、図3から分かるように、適度な秩序と乱れを持った状態で複数の微粒子17が配置され、より視細胞に近似した部材を有する模擬眼底が得られるので好ましい。
【0047】
なお、図3に示す微粒子層16には一部欠損が見られるが、さらに、微粒子17の分散液を保持層14に展開する工程と、分散媒を蒸発させる工程と、保持層14に均一光を照射して微粒子17を保持層14に捕捉する工程と、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去する工程とを適宜繰り返すことによって、この欠損を減少または消滅させることができる。
【0048】
図4は、異なる秩序度で自己組織配列した微粒子層16の表面の状態を示す。異なる高分子薄膜を保持層14として用いると、図4(a)〜図4(c)に示すように、六方最密充填構造(図4(a)参照)から、長距離秩序が失われる形でやや乱れた構造(図4(b)参照)、さらには、ランダム構造(図4(c)参照)まで、微粒子層16を制御することができる。このように、異なる高分子薄膜を保持層14として用いることにより、任意の秩序度を有する微粒子配列構造を微粒子層16として形成可能となる。
【0049】
次に、微粒子層16の上にオーバーコート層18を形成する。オーバーコート層18の材料としては、保持層14や微粒子17を溶解しない溶媒に溶かされた材料、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸などが使用できる。ただし、微粒子17の材料と屈折率がほぼ等しいオーバーコート層18の材料を用いると、オーバーコート層18の付与によって微粒子層16の視認性が悪くなるため、そのような組み合わせは避けることが望ましい。
【0050】
微粒子層16の上にオーバーコート層18を形成することによって、微粒子層16の表面の凹凸が緩和される。こうして微粒子層16の表面をオーバーコート層18で平坦化すると、模擬血液をオーバーコート層18上、バッファー層上、またはパターン形成層20上に所望のパターンで付着、凝固させたり、予め作製した模擬血管パターン層19またはパターン形成層20をオーバーコート層18上やバッファー層上に付着させたりすることが容易になる。
【0051】
次に、模擬血液をオーバーコート層18、バッファー層、またはパターン形成層20に描画する。つまり、模擬血液をオーバーコート層18、バッファー層、またはパターン形成層20に付着、凝固させる。こうして、毛細血管を模したパターンが形成された模擬血管パターン層19が作製される。模擬血管パターン層19のパターン描画には、マイクロスポッティング法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷、転写印刷法、フレキソ印刷法、または、その他の汎用印刷方法が適用できる。なお、模擬眼底10の各層の間には、各層をより密着させるための接着層、光散乱性を制御するための光学機能層、各層間の距離を調整する間隔調整層等の各種層を設けても良い。
【実施例】
【0052】
次に、各種模擬血液色素を作製したので、その作製方法と評価結果について説明する。
【0053】
(模擬血液色素1の作製)
Phloxine、Erythrosine、Ponceau SX、Martius Yellow、Acid Red52、Rose Bengal、Fast Green FCF(以上、東京化成社製)、Sulforhodamine101、IR−27(以上、Aldrich社製)を、それぞれ約43:7:7:4:3:3:2:28:2の重量比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素1を作製した。図5に、得られた模擬血液色素1の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0054】
(模擬血液色素2の作製)
Acid Red52、Cholorophenol Red Sodium Salt、Eosine、Erythrosine、Phloxine、Sunset Yellow(以上、東京化成社製)、Erioglaucine、Sulforhodamine B(以上、Aldrich社製)を、それぞれ約9:51:2:7:17:8:4:2の濃度比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素2を作製した。図6に、得られた模擬血液色素2の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0055】
図5に示すように、9種の色素を混合した模擬血液色素1は、脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を可視光領域(480〜680nm)の範囲において極めて良く再現しており、また、6種の色素を混合した模擬血液色素2も、可視光領域(480〜680nm)の範囲における脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を良く再現しているものと言える。なお、この溶液から作製した薄膜(固体)のスペクトルは溶液のスペクトルとほぼ同一であり、模擬血液色素1、および、2の描画パターンのスペクトルは脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルを再現できることを確認している。
【0056】
(模擬血液色素3の作製)
Sulforhodamine101(Aldrich社製)、Erythrosine、Martius Yellow(以上、東京化成社製)を、それぞれ約64:19:17の重量比で混合して、酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素3を作製した。図7に、得られた模擬血液色素3の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0057】
(模擬血液色素4の作製)
Acid Red52、Erythrosine、Acid Yellow 23(以上、東京化成社製)を、それぞれ約24:18:58の濃度比で混合して、酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素4を作製した。図8に、得られた模擬血液色素4の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0058】
図7、図8に示すように、模擬血液色素3は、酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を可視光領域(480〜680nm)の範囲において十分再現しており、また、模擬血液色素4も、可視光領域(480〜680nm)の範囲における酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を概ね再現しているものと言える。なお、この溶液から作製した薄膜(固体)のスペクトルは溶液のスペクトルとほぼ同一であり、模擬血液色素3、および、4の描画パターンのスペクトルは酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルを良く再現できることを確認している。
【0059】
図5〜図8に示すように、可視光領域(480〜680nm)では、脱酸素型ヘモグロビンと酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルに特徴的な相違が見られる。脱酸素型ヘモグロビンはシングルピークであるのに対して、酸素型ヘモグロビンはツインピークである。また、脱酸素型ヘモグロビンのスペクトルと酸素型ヘモグロビンのスペクトルが交差する波長は、500、529、545、570、584nmであるところ、模擬血液色素1のスペクトルと模擬血液色素3のスペクトルが交差する波長は、500、523、544、568、595nmであり、模擬血液色素2のスペクトルと模擬血液色素4のスペクトルが交差する波長は、504、523、547、566、583nmであった。これら模擬血液色素の特徴点は、それぞれ−6〜+11nm、−6〜+4nmの精度でよく再現されており、分光画像計測機器の性能試験に好適な模擬眼底血管パターンをこれらの模擬血液色素により作製できることが分かる。
【0060】
模擬血液色素1と模擬血液色素3を用いた模擬眼底による分光性能試験においては、480〜499、501〜522、530〜543、546〜565、571〜583、596〜680nmの6つの波長範囲で分光測定を行い、各波長範囲での吸光度の大小関係を解析することにより、動脈と静脈の血管パターンを区別することが可能となる。同様に、模擬血液色素2と模擬血液色素4を用いた模擬眼底による分光性能試験においては、480〜499、505〜522、530〜544、548〜565、571〜582,585〜680nmの6つの波長範囲で分光測定を行い、各波長範囲での吸光度の大小関係を解析することにより、動脈と静脈の血管パターンを区別することが可能となる。
【0061】
したがって、眼底検査装置によって分光画像データを取得することによって、組織の酸素飽和度の分析および動脈と静脈の区別を明瞭に行うことができる。このため、模擬血液色素1〜模擬血液色素4を用いた模擬眼底は、空間解像度を持ち、経時劣化がほとんどない標準的な模擬眼底として利用することができる。
【0062】
(模擬血液色素5の作製)
3,3’−Diethylthiatricarbocyanine Iodide、Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammonium perchlorate、1−(3−Sulfopropyl)−2−(2−{[1−(3−sulfopropyl)naphto[1,2−d]thiazo−2−(1H)−ylidene]metyl}−1−butenyl)naphto[1,2−d]thiazoliumhydroxide inner salt(以上、Aldrich社製)を、それぞれ44:20:36の重量比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域(680〜1000nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素5を作製した。図9に、得られた模擬血液色素5の吸収スペクトルを示す(図中実線)。模擬血液色素5は、酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を近赤外光領域(680〜1000nm)の範囲において比較的良く再現している。
【0063】
(模擬血液色素6の作製)
Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammonium perchlorate(Aldrich社製)の脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域における吸収スペクトルを模した模擬血液色素6を作製した。図10に、得られた模擬血液色素6の吸収スペクトルを示す(図中実線)。模擬血液色素6は、脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を近赤外光領域(680〜1000nm)の範囲において比較的良く再現している。
【0064】
図9、図10に示すように、近赤外光領域では、吸光係数が小さいものの、視細胞の感度がない波長であるため、被検査者にまぶしさを与えることなく眼底検査ができる。したがって、実際の眼底検査において、近赤外光領域での眼底撮影は有用であり、この領域で眼底を撮影する眼底検査装置に適した本実施例の模擬血液色素も有用である。
【0065】
さらに、図9、図10から分かるように、680〜1000nmの範囲で酸素型ヘモグロビンと脱酸素型ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転するのは、797nmの1度のみである(図中点線参照)。したがって、近赤外光領域では、異なる波長の分光画像データを取得するにあたって、可視光領域ほど波長分解能が必要ない。このため、可視光領域よりも広い波長幅を利用した分光画像データの取得と、そのデータに基づく動脈と静脈の判別が可能となる。
【0066】
特に、光源強度や光検出器感度が低いような条件での観察、または、光源強度や光検出器感度が低い眼底検査装置での観察においては、近赤外光領域の範囲で酸素型ヘモグロビンと脱酸素型ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転するのが1度のみであることは、極めて有用な特徴となる。したがって、近赤外光領域の模擬血液色素を用いたパターニングモデルを構築すれば、波長分解能が1〜200nm程度の眼底検査装置に利用できる標準的な模擬眼底が得られる。
【0067】
図11は、模擬毛細血管の断面を示す。この模擬毛細血管は、内径100μm、外径300μmのシリコンゴム製チューブに模擬血液色素を充填して作製した。シリコンゴム製チューブは柔軟であり、模擬血液色素の充填後、容易に曲げ加工などが行えるため、模擬毛細血管として有用である。
【0068】
図12は、他の模擬毛細血管の断面を示す。この模擬毛細血管は、内径100μm、外径200μmの石英製キャピラリーに模擬血液色素を充填して作製した。石英製チューブは、内径と外径の大きさを自在に加工できる点で、種々の太さの模擬毛細血管として有用である。
【0069】
図13〜図15は、模擬毛細血管描画の設計図に相当するパターンである。図13に示すパターンは、眼底の毛細血管のうち、動脈血の流れる血管を選択したものである。図14に示すパターンは、眼底の毛細血管のうち、静脈血の流れる血管を選択したものである。図15に示すパターンは、図13に示すパターンと図14に示すパターンを重ね合わせたものである。
【0070】
図16は、動脈模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前述の模擬血液色素4をインクとして、15μmの孔径を持つノズルから模擬血液色素溶液を吐出することによって、図13に示すパターンをインクジェット描画したものである。なお、描画したインクは模擬血液色素4に増粘剤(グリセリンなど)、消泡剤(日信化学工業社製サーフィノール465など)、消光剤(アミノアントラセンなど)、結晶成長阻害剤(ポリビニルアルコールなど)をインク重量に対する重量比としてそれぞれ30%、1%、0.1%、4%添加して、粘度やインク乾燥速度などを調整したものである。最小線幅約25μmであり、比較的きれいな描画が行われていることが分かる。
【0071】
図17は、静脈模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前述の模擬血液色素2をインクとして、15μmの孔径を持つノズルから模擬血液色素溶液を吐出することによって、図14に示すパターンをインクジェット描画したものである。なお、描画したインクは段落[0070]に記載の通り、模擬血液色素2に増粘剤、消泡剤、消光剤、結晶成長阻害剤などを添加して、粘度やインク乾燥速度などを調整したものである。最小線幅約25μmであり、比較的きれいな描画が行われていることが分かる。
【0072】
図18は、模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前記インクジェット法によって、動脈パターンと静脈パターンを重ね合わせて描画したものである。描画パターンは図15に示したものを用い、動脈パターン用インクと静脈パターン用インクは段落[0070]と[0071]に示したものをそれぞれ用いた。図18に示す模擬毛細血管パターンにより、可視光領域(480〜680nm)における模擬眼底が構築できることを確認した。本発明の模擬眼底により、分光画像計測技術が導入された高機能の眼底検査装置の調整や特性管理が簡便に実施できるようになるものと期待できる。
【符号の説明】
【0073】
10 模擬眼底
12 基板
13 模擬視細胞層
14 保持層
16 微粒子層
17 微粒子
18 オーバーコート層
19 模擬血管パターン層
20 パターン形成層
22 表面保護層
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底検査装置の調整および管理に有用な眼底の模型に関するものである。特に、補償光学機能と分光画像計測機能を有する高性能の眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価するのに適した眼底の模型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種疾患の診断および早期発見のため、眼底検査装置を用いて、眼底の光学特性を測定している。眼底検査装置の測定精度を維持するためには、既知の光学特性を有する眼底を用いて、この装置を調整する必要がある。入手困難性や劣化の観点から、生命体の眼底を眼底検査装置の調整に用いるのは現実的ではない。そこで、模擬眼底が眼底検査装置の調整に用いられている。
【0003】
模擬眼底を含む模型眼としては、人眼の屈折力に相当する屈折力を有するレンズ部材と、レンズ部材からの光を全反射するファイバーを有する擬似眼底部材と、擬似眼底部材の裏面側に配置された鏡面反射部を備えるものがある(特許文献1参照)。
【0004】
近年、光の波面歪みを実時間で検出し補正する補償光学機能と、面内に分布する物質の成分を画像解析で定量的に測定する分光画像計測機能とを有する高機能な眼底検査装置が開発されつつある。このような眼底検査装置は、例えば、面内2μm×2μm、深さ2μm程度の空間分解能を有し、視細胞の形態のみならず、微細血管内の血球動態、または網膜全体の酸素分圧分布や毛細血管壁の変性に伴う白濁や反射亢進などを反映する色調変化をも検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記模型眼では、眼底検査装置の高度な色調観察機能を定量的にチェックできない。本発明は、この問題点に鑑みて成されたものであり、眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価し、この装置の調整および特性管理に有用な模擬眼底を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、基板と、基板上に設けられ、複数の微粒子を有する微粒子層と、微粒子層上に設けられ、毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層と、を有する模擬眼底である。模擬眼底は、微粒子層を覆い微粒子層の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層をさらに有し、模擬血管パターン層はオーバーコート層上に設けられていても良い。
【0008】
また、模擬眼底は、基板上に設けられ、複数の微粒子の配列を制御すると共に、複数の微粒子を保持する保持層をさらに有していても良い。保持層は、光応答性高分子を有する層であっても良い。また、保持層は、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有していても良い。
【0009】
模擬眼底は、基板の微粒子層とは反対側の面に設けられ、基板への入射光を反射する反射層をさらに有していても良い。微粒子層は、自己組織化によって形成された層であっても良い。また、微粒子層は、1層に配列された複数の微粒子から構成されても良い。また、毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であっても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の模擬眼底によれば、眼底検査装置が持つ高分解能形態観察機能、および高度な色調観察機能を、同時かつ定量的にチェックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る模擬眼底の断面模式図である。
【図2】3種の粒径と色を持つ微粒子の自己組織化によって形成された本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図3】光応答性高分子を有する保持層に保持された本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図4】異なる秩序度で自己組織配列した本発明の実施の形態に係る微粒子層の顕微鏡観察像である。
【図5】模擬血液色素1および脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図6】模擬血液色素2および脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図7】模擬血液色素3および酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図8】模擬血液色素4および酸素型ヘモグロビンの可視光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図9】模擬血液色素5および酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図10】模擬血液色素6および脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域の吸収スペクトルチャートである。
【図11】模擬血液が注入された本発明の実施の形態に係る模擬毛細血管の顕微鏡観察像である。
【図12】模擬血液が注入された本発明の実施の形態に係る他の模擬毛細血管の顕微鏡観察像である。
【図13】動脈血の流れる血管が選択された、眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンである。
【図14】静脈血の流れる血管が選択された、眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンである。
【図15】眼底の模擬毛細血管描画の設計パターンで、図13に示すパターンと図14に示すパターンを重ね合わせたものである。
【図16】本発明の実施の形態に係る動脈模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像である。
【図17】本発明の実施の形態に係る静脈模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像である。
【図18】本発明の実施の形態に係る模擬毛細血管パターンの顕微鏡観察像であり、動脈模擬毛細血管パターンと静脈模擬毛細血管パターンを重ね合わせたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る模擬眼底10を示す。模擬眼底10は、基板12と、保持層14と、微粒子層16と、オーバーコート層18と、パターン形成層20と、表面保護層22を備える。なお、基板12の微粒子層16とは反対側の面に、基板12への入射光を反射する反射層(不図示)を設けても良い。反射層を設けることによって、眼底検査装置の照明光の強度または検出器の光感度が十分でない場合でも、この眼底検査装置による模擬眼底の観察が可能となることがある。
【0013】
基板12は、人眼の強膜に相当する。基板12は、例えば、縦25mm、横25mm、厚さ1mmのスライドガラスで構成することができる。基板12の材質としては、スライドガラス以外にも、PETフィルム、ポリカーボネート、アクリル樹脂をはじめとするプラスチック材料、さらには、ゼラチン、セルロース、ポリ乳酸など生物由来の材料も用いることができる。
【0014】
保持層14は、後述する微粒子層16を構成する複数の微粒子17を保持することによって、基板12上に微粒子層16を配置する。保持層14は、複数の微粒子17の配列を制御できるものが好ましい。なお、本願において「基板上」とは、接するか否かに関わらず基板の上方を示す。「微粒子層上」や「オーバーコート層上」等も同様である。複数の微粒子17を基板12に保持できれば、保持層14の材質および構造は問わない。保持層14は、複数の微粒子17を化学的・物理的に接着して保持するものでも良いし、複数の微粒子17をはめ込んで固定する凹凸面を有するものでも良い。
【0015】
微粒子17の接着方法は、表面化学反応伴う化学的固着、ファンデアワールス力や静電引力その他の物理的吸着、熱的な融着、またはその他の手段による方法が適用できる。微粒子17をはめ込んで固定する凹凸面の作製には、フォトリソグラフィー法、電子ビーム形成法、化学エッチング法、レーザーアブレーション法、熱エンボス法、光誘起表面レリーフ法(光応答性高分子上に光で凹凸を形成する技術)、または、その他の汎用方法が適用できる。
【0016】
なお、微粒子17が保持層14を伴わずに基板12上に構造化、固定化できる場合、保持層14は必須ではない。また、基板12上に保持層14を別途設けず、基板12の表面を凹凸に加工することによって、保持層14を形成しても良い。基板12または保持層14の表面に、トップダウン型微細加工技術を用いて作製する人工的な凹凸構造、または、ボトムアップ型微細加工技術を用いて作製する自然発生的構造を付与させると、微粒子層16における微粒子17の配列構造を制御するためのテンプレートとして好適な効果が期待できる。
【0017】
基板12の表面を加工する方法としては、フォトリソグラフィー法、電子ビーム形成法、光誘起表面レリーフ法(光応答性高分子上に光で凹凸を形成する技術)、化学エッチング法、レーザーアブレーション法、熱エンボス法、またはその他の汎用方法が適用できる。また、ボトムアップ型微細加工技術としては、例えば、微粒子の自己組織化や相分離のような材料とプロセスに由来する構造形成技術を用いることができる。
【0018】
また、補償光学系において、眼底に集光するセンシング光を等方的に散乱させ、光波波面補償に用いる参照用点光源を効果的に生じさせることを目的として、光散乱特性が付与された膜を保持層14として好適に用いることができる。このような光散乱特性が付与された保持層14としては、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有するものが挙げられる。
【0019】
本実施の形態では、保持層14は、光応答性高分子であるアゾベンゼンを有する層である。光応答性高分子を有する保持層14は、保持層14の少なくとも微粒子層16側の表面が、光応答性高分子から構成される。もちろん、保持層14全体が光応答性高分子から構成されても良い。光応答性高分子とは、特定波長の光(主に紫外〜赤外領域の光)が照射されることによって極性、親・疎水性、体積、機械的特性等の化学・物理的特性が変化する高分子をいう。光応答性高分子としては、アゾベンゼン以外にもフルギド類、ジアリールエテン類、スピロオキサジン類、スピロピラン類をはじめとするフォトクロミック化合物、または光架橋型、光重合型、光分解型のフォトポリマーなどが挙げられる。
【0020】
光応答性高分子は、複数の微粒子17の配列を制御できる。すなわち、光応答性高分子を用いることによって、基板12上に1層に配列された微粒子17から構成される微粒子層16を簡便に形成することができる。光応答性高分子を用いて微粒子17を1層に配列する方法は後述する。
【0021】
複数の微粒子17を有する微粒子層16は、保持層14を介して基板12上に設けられる。微粒子17は、人眼の視細胞に相当する。保持層14と微粒子層16で、または微粒子層16単独で、模擬視細胞層13を構成する。微粒子層16は、粒径1μmから5μmの複数の微粒子17から構成される。微粒子17は、例えば、プラスチック製、シリカ製、チタニア製、金属製である。微粒子17をポリスチレン製とした場合、単一の粒径の微粒子17から微粒子層16を構成しても良いし、異なる複数の粒径の微粒子17を組み合わせて微粒子層16を構成しても良い。
【0022】
異なる複数の粒径の粒子を組み合わせて微粒子層16を構成する場合、各粒径成分の混合比は任意である。人眼の視細胞構造の模擬という観点からは、粒径1μm、2μm、および3μmの3種の微粒子17を、重量比で1:2:3〜6:3:1の範囲で混合して得られる微粒子層16が特に好適である。また、透明である無着色粒子と着色粒子を混合して得られる微粒子層16は、粒径だけではなく、着色度によって微粒子の計測が可能となるため、眼底検査装置の物理的・光学的性能を定量的に評価するために好適である。
【0023】
本実施の形態では、微粒子層16は自己組織化によって形成されている。ここで自己組織化とは、複数種の微粒子を含む分散液を基板上に展開した後、分散媒を徐々に蒸発させる過程において、微粒子間同士、あるいは、微粒子と基板間に発生する相互作用(引力または斥力)の結果として、複数種の微粒子が規則的、もしくは、ランダムな状態で基板上に配置されるプロセスをいう。自己組織化による微粒子層16の形成は、例えば、着色粒子と無着色粒子のポリスチレン微粒子の混合物の分散液を、基板12上または保持層14上に展開し、分散媒を蒸発させることにより行われる。なお、微粒子17は、ポリスチレン以外に、ポリイミド、ポリメチルメタクリレートなどの汎用高分子材料から構成されても良い。
【0024】
図2は、自己組織化によって形成された微粒子層16の表面の状態を示す。この微粒子層16は、粒径の異なる3種のポリスチレン微粒子の水分散液をガラス板に滴下して、水を蒸発させて得たものである。3種のポリスチレン微粒子の着色状態・粒径・混合比(重量比)は、それぞれ無着色粒子・3μm・40%、青色粒子・2μm・20%、赤色粒子・1μm・40%である。このように、自己組織化によって微粒子層16を形成することにより、視細胞を模した幾何構造および色の分布を有する層が簡易に得られる。
【0025】
オーバーコート層18は、微粒子層16の表面の凹凸を緩和し、すなわち表面の凹凸を平滑化し、パターン形成層20の形成を補助したり、光の散乱を低減させたりする。オーバーコート層18は、可視光に対して良好な透明性を有し、かつ、屈折率が微粒子17の屈折率と近いことが望ましい。オーバーコート層18の厚さは、1μm〜1mmの範囲で任意に設定可能である。
【0026】
オーバーコート層18は、保持層14や微粒子17を溶解しない溶媒に溶かされた材料、例えば、水または温水などに溶かされたポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、セルロースエステル、セルロースエーテルなど、メタノールなどに溶かされたポリビニルピロリドンなど、あるいは、シクロヘキサンに溶かされたポリジメチルシロキサンなどから構成される。なお、オーバーコート層18は、模擬眼底10の必須構成部材ではない。
【0027】
パターン形成層20は、オーバーコート層18上に設けられ、表面に毛細血管を模したパターン(不図示)が形成されている。この毛細血管を模したパターンとパターン形成層20とで、模擬血管パターン層19を構成する。本実施の形態では、オーバーコート層18上にパターン形成層20が直接設けられているが、オーバーコート層18とパターン形成層20との間にバッファー層(不図示)を設けても良い。
【0028】
バッファー層を設けることによって、微粒子層16とパターン形成層20との間隔を、人眼の視細胞と毛細血管との間隔に近似させることができる。また、例えば、オーバーコート層18を平坦化に適した材料で、バッファー層を安定性に優れた材料でそれぞれ構成すれば、機能面やコスト面で優れた模擬眼底が得られる。
【0029】
パターン形成層20は、オーバーコート層18上やバッファー層上に直接形成しても良い。また、予め薄膜にパターンを形成したものを模擬血管パターン層19とし、これをオーバーコート層18上やバッファー層上に付着しても良い。
【0030】
毛細血管を模したパターンは、例えば、マイクロスポッティング法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷、転写印刷法、フレキソ印刷法、または、その他の汎用印刷方法を用いて、模擬血液をオーバーコート層18やバッファー層に付着、凝固させることによって形成される。このとき、毛細血管の形状、模様、幅、周期等の幾何学パターンを模して形成するのが好ましい。このように、毛細血管を模したパターンの形成を高精度に行うことによって、分光画像計測技術が導入された高機能の眼底検査装置の調整や特性管理に有用な模擬眼底が得られる。
【0031】
人眼の毛細血管のパターンにより近似させるため、毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、この2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であることが好ましい。すなわち、例えば、脱酸素型ヘモグロビン水溶液の光の吸収スペクトルを模した模擬血液と、酸素型ヘモグロビン水溶液の光の吸収スペクトルを模した他の模擬血液を、オーバーコート層18やバッファー層のそれぞれ人眼の静脈と動脈に対応する位置に付着、凝固させることによって、人眼の毛細血管のパターンにより近似させることができる。なお、模擬血液が模している血液の光の吸収スペクトルの領域は、約480〜約1000nmである。これ以外の領域では、模擬血液と血液の光の吸収スペクトルが、必ずしも近似していなくても良い。
【0032】
模擬血液は、例えば、複数の色素化合物を含む混合液、すなわち模擬血液色素に、増粘剤、消泡剤、消光剤、結晶成長阻害剤などを添加して調製される。模擬血液に用いることができる色素としては、Zinc5,10,15,20−tetra(4−pyridyl)−21H,23H−porphine tetrakis(methachloride)、Quinoline Yellow,spirit soluble、Sirius Orange G、alpha−Naphtyl Red hydrochloride、Palatine Fast Yellow BLN、Pyrocatechol Violet、1−(3−Sulfopropyl)−2−{[3−(3−sulfopropyl−2(3H)−benzothiazolylidene)−methyl]nephtho[1,2−d]thiazolium hydroxide,inner salt,triethylammonium salt、Acridine Yellow G、Mordant Brown 33、Disperse Orange 3、2−(5−Bromo−2−pyridylazo)−5−(diethylamino)phenolが挙げられる。
【0033】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、4−[(1−Methyl−4(1H)−pyridinylidene)−2,5−cyclohexadien−1−one、Procion Red MX−5B、Astrazone Red 6B、2−[3−(3−Ethyl−2(3H)−benzothiazolylidene)−2−methyl−1−propenyl]−3−[3−(sulfooxy)butyl]benzothiazolium hydroxide,inner salt、Neutral Red、Acid Violet 17、Acid Blue 92、Acid Black 24、Resorufin、Nitrosulfonazo III、1−[[3−Ethyl−2(3H)−benzothiazolylidene]ethylidene]−2(1H)−naphthaleneone、Acid Blue 120、Chlorophenol Red,sodium saltも挙げられる。
【0034】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Litmus、o−Cresolphthalein comlexone、Sulforhodamine 101 hydrate、Sulfobromophthaleine sodium hydrate、Orcein、1−(3−Sulfopropyl)−2−(2−{[1−(3−sulfopropyl)naphto[1,2−d]thiazol−2(1H)−ylidene]−methyl}−1−butenyl)naphto[1,2−d]thiazolium hydroxide,inner salt,triethylammonium salt、2,7,12,17−tetra−tert−butyl−5,10,15,20−tetraaza−21H,23H−porphine、Brilliant Cresyl Blue ALD、Leucomalachite Green、Luxol Brilliant Green BL、Wool Fast Blue FGLLも挙げられる。
【0035】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Toluidine Blue O、Fast Green FCF、Erioglaucine、Brilliant Green、3,3’−Diethylthiatricarbocyanine iodide、Nickel(II)2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Copper(II)−3,10,17,24−tetra−tert−butyl−1,8,15,22−tertrakis(dimethylamino)−29H,31Hphthalocyanine、IR−768 perchlorate、IR−820、Tin(IV)−2,3−naphthalocyanine dichloride、Tin(II)−2,3−naphthalocyanineも挙げられる。
【0036】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、IR−27、Sirius Orange G、Acridine Yellow G、Aurintricarboxylic acid, trisodium salt、Plasmocorinth B、Quinaldine Red、Slforhodamine G、Congo Violet、Erythrosin B, spirit soluble、Bromopyrogallol Red、Pyronin B、Nile Red、New Fuchin、5−Acetamido−3−[4−3−[4−2,4−di−tert−pentylphenoxy]butylcarbamoyl]−4−hydroxy−1−naphthoxy]phenylazo]−4−hydroxy−2,7−naphthalenedisulfonic acid,disodium salt、Slforhodamine B、Amethyst Violet、Rose Bengal lactoneも挙げられる。
【0037】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Methylene Violet 3RAX、1,1’−Diethyl−2,4’−cyanine iodide、Sulforhodamine B,acid form、Methylene Violet(Bernthsen)、Slvent Blue 43、Diazine Black、Brilliant Blue R、Nitrazine Yellow、Pontamine Sky Blue 5B、Crystal Violet、Gentian Violet、Bromocresol Purple,sodium salt、Sulforhodamine 101 asid chloride、Bromophenol Blue,sodium salt、Nile Blue A perchlorate、Acid Blue 129、Oxonole Blue,dipotasium salt、Nile Blue A、Azure Aも挙げられる。
【0038】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Iron(III) phthalocyanine−4,4’,4’’,4’’’−tetrasulfonic acid,monosodium salt,compound with oxygen,hydrate、Acid Blue 80、Methyl Green,zinc chloride salt、New Methylne Blue N, zinc chloride double salt、1,4,8,11,15,18,22,25−Octabutoxy−29H,31H−phthalocyanine、3,3’−Diethylthiatricarbocyanine iodide、Nickel(II)2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Copper(II)−3,10,17,24−tetra−tert−butyl−1,8,15,22−tertrakis(dimethylamino)−29H,31Hphthalocyanineも挙げられる。
【0039】
また、模擬血液に用いることができる色素としては、Zinc2,11,20,29−tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine、Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammmonium perchlorateも挙げられる。
【0040】
また、模擬血液を構成する材料としては、以上に挙げたような可視光吸収性の有機色素以外にも、染料として知られている直接染料類、酸性染料類、塩基性染料類、媒染染料類、酸性媒染染料類、バット染料類、分散染料類、反応染料類、蛍光増白染料類、顔料として知られている鉱物顔料類、土顔料類、酸化物顔料類、水酸化物顔料類、硫化物顔料類、珪酸塩顔料類、燐酸塩顔料類、炭酸塩顔料類、金属微粒子顔料類、炭素顔料類、植物性顔料類、動物性顔料類、染付レーキ顔料類、溶性アゾ顔料類、不溶性アゾ顔料類、縮合アゾ顔料類、アゾ錯塩類、フタロシアニン顔料類、縮合多環顔料類、蛍光顔料類、紫外・可視光〜近赤外波長領域に吸収帯を有する人工的に合成された有機化合物、有機金属錯体、その他の色素、または天然系着色料として知られているカロチノイド系、キノン系、アントシアニン系、フラボノイド系、ポルフィリン系、ジケトン系、ベタシアニン系、アザフィロン系、カラメル、クチナシ色素、スピルリナ色素のような色素、着色材、発色材が利用可能である。
【0041】
表面保護層22は、模擬血管パターン層19を保護するために、模擬血管パターン層19上に形成されている。可視光に対して良好な透明性を有し、かつ、適度な表面硬度を持つものであれば、表面保護層22の材質は問わない。なお、表面保護層22は、模擬眼底10の必須構成部材ではない。
【0042】
次に、本実施の形態に係る模擬眼底10の製造方法について説明する。まず、基板12上に、アゾベンゼンなどの光応答性高分子を有する保持層14を形成する。保持層14は、例えば、有機溶媒に溶解した光応答性高分子溶液をスピンコーティングして形成される。
【0043】
次に、保持層14の表面に干渉光を照射して保持層14の表面に凹凸構造を形成する。例えば、3μm程度の間隔で凹凸を繰り返す表面構造を形成する場合、波長488nmの2つのレーザー光を9.3°の交差角で干渉させることによって得られる干渉縞を、保持層14の表面に照射すれば良い。この照射光の強度は、100〜1000mW/cm2程度が好ましい。
【0044】
次に、例えば、粒径約3μmのポリスチレン製の微粒子17の水分散液を、保持層14の表面の凹凸構造上に展開する。次に、水を蒸発させた後、強度100mW/cm2程度の均一光を照射すると、保持層14に接している微粒子17が、保持層14の表面にわずかに潜りこむ。こうして、複数の微粒子17は保持層14に強固に捕捉される。
【0045】
次に、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去する。保持層14に捕捉されなかった微粒子17の大半は、保持層14に捕捉された微粒子17上に重なって存在している。したがって、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去すれば、保持層14の表面には、1層に配列された複数の微粒子17が残る。微粒子17の除去は、例えば、超音波洗浄によって行われる。こうして、視細胞に近似した、1層に配列された複数の微粒子17から構成される微粒子層16が形成される。
【0046】
図3は、上記方法によって、光応答性高分子を有する保持層14に保持された微粒子層16の表面の状態を示す。微粒子17の保持に光応答性高分子を用いると、図3から分かるように、適度な秩序と乱れを持った状態で複数の微粒子17が配置され、より視細胞に近似した部材を有する模擬眼底が得られるので好ましい。
【0047】
なお、図3に示す微粒子層16には一部欠損が見られるが、さらに、微粒子17の分散液を保持層14に展開する工程と、分散媒を蒸発させる工程と、保持層14に均一光を照射して微粒子17を保持層14に捕捉する工程と、保持層14に捕捉されなかった微粒子17を除去する工程とを適宜繰り返すことによって、この欠損を減少または消滅させることができる。
【0048】
図4は、異なる秩序度で自己組織配列した微粒子層16の表面の状態を示す。異なる高分子薄膜を保持層14として用いると、図4(a)〜図4(c)に示すように、六方最密充填構造(図4(a)参照)から、長距離秩序が失われる形でやや乱れた構造(図4(b)参照)、さらには、ランダム構造(図4(c)参照)まで、微粒子層16を制御することができる。このように、異なる高分子薄膜を保持層14として用いることにより、任意の秩序度を有する微粒子配列構造を微粒子層16として形成可能となる。
【0049】
次に、微粒子層16の上にオーバーコート層18を形成する。オーバーコート層18の材料としては、保持層14や微粒子17を溶解しない溶媒に溶かされた材料、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸などが使用できる。ただし、微粒子17の材料と屈折率がほぼ等しいオーバーコート層18の材料を用いると、オーバーコート層18の付与によって微粒子層16の視認性が悪くなるため、そのような組み合わせは避けることが望ましい。
【0050】
微粒子層16の上にオーバーコート層18を形成することによって、微粒子層16の表面の凹凸が緩和される。こうして微粒子層16の表面をオーバーコート層18で平坦化すると、模擬血液をオーバーコート層18上、バッファー層上、またはパターン形成層20上に所望のパターンで付着、凝固させたり、予め作製した模擬血管パターン層19またはパターン形成層20をオーバーコート層18上やバッファー層上に付着させたりすることが容易になる。
【0051】
次に、模擬血液をオーバーコート層18、バッファー層、またはパターン形成層20に描画する。つまり、模擬血液をオーバーコート層18、バッファー層、またはパターン形成層20に付着、凝固させる。こうして、毛細血管を模したパターンが形成された模擬血管パターン層19が作製される。模擬血管パターン層19のパターン描画には、マイクロスポッティング法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷、転写印刷法、フレキソ印刷法、または、その他の汎用印刷方法が適用できる。なお、模擬眼底10の各層の間には、各層をより密着させるための接着層、光散乱性を制御するための光学機能層、各層間の距離を調整する間隔調整層等の各種層を設けても良い。
【実施例】
【0052】
次に、各種模擬血液色素を作製したので、その作製方法と評価結果について説明する。
【0053】
(模擬血液色素1の作製)
Phloxine、Erythrosine、Ponceau SX、Martius Yellow、Acid Red52、Rose Bengal、Fast Green FCF(以上、東京化成社製)、Sulforhodamine101、IR−27(以上、Aldrich社製)を、それぞれ約43:7:7:4:3:3:2:28:2の重量比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素1を作製した。図5に、得られた模擬血液色素1の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0054】
(模擬血液色素2の作製)
Acid Red52、Cholorophenol Red Sodium Salt、Eosine、Erythrosine、Phloxine、Sunset Yellow(以上、東京化成社製)、Erioglaucine、Sulforhodamine B(以上、Aldrich社製)を、それぞれ約9:51:2:7:17:8:4:2の濃度比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素2を作製した。図6に、得られた模擬血液色素2の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0055】
図5に示すように、9種の色素を混合した模擬血液色素1は、脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を可視光領域(480〜680nm)の範囲において極めて良く再現しており、また、6種の色素を混合した模擬血液色素2も、可視光領域(480〜680nm)の範囲における脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を良く再現しているものと言える。なお、この溶液から作製した薄膜(固体)のスペクトルは溶液のスペクトルとほぼ同一であり、模擬血液色素1、および、2の描画パターンのスペクトルは脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルを再現できることを確認している。
【0056】
(模擬血液色素3の作製)
Sulforhodamine101(Aldrich社製)、Erythrosine、Martius Yellow(以上、東京化成社製)を、それぞれ約64:19:17の重量比で混合して、酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素3を作製した。図7に、得られた模擬血液色素3の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0057】
(模擬血液色素4の作製)
Acid Red52、Erythrosine、Acid Yellow 23(以上、東京化成社製)を、それぞれ約24:18:58の濃度比で混合して、酸素型ヘモグロビンの可視光領域(480〜680nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素4を作製した。図8に、得られた模擬血液色素4の吸収スペクトルを示す(図中実線)。
【0058】
図7、図8に示すように、模擬血液色素3は、酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を可視光領域(480〜680nm)の範囲において十分再現しており、また、模擬血液色素4も、可視光領域(480〜680nm)の範囲における酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を概ね再現しているものと言える。なお、この溶液から作製した薄膜(固体)のスペクトルは溶液のスペクトルとほぼ同一であり、模擬血液色素3、および、4の描画パターンのスペクトルは酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルを良く再現できることを確認している。
【0059】
図5〜図8に示すように、可視光領域(480〜680nm)では、脱酸素型ヘモグロビンと酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトルに特徴的な相違が見られる。脱酸素型ヘモグロビンはシングルピークであるのに対して、酸素型ヘモグロビンはツインピークである。また、脱酸素型ヘモグロビンのスペクトルと酸素型ヘモグロビンのスペクトルが交差する波長は、500、529、545、570、584nmであるところ、模擬血液色素1のスペクトルと模擬血液色素3のスペクトルが交差する波長は、500、523、544、568、595nmであり、模擬血液色素2のスペクトルと模擬血液色素4のスペクトルが交差する波長は、504、523、547、566、583nmであった。これら模擬血液色素の特徴点は、それぞれ−6〜+11nm、−6〜+4nmの精度でよく再現されており、分光画像計測機器の性能試験に好適な模擬眼底血管パターンをこれらの模擬血液色素により作製できることが分かる。
【0060】
模擬血液色素1と模擬血液色素3を用いた模擬眼底による分光性能試験においては、480〜499、501〜522、530〜543、546〜565、571〜583、596〜680nmの6つの波長範囲で分光測定を行い、各波長範囲での吸光度の大小関係を解析することにより、動脈と静脈の血管パターンを区別することが可能となる。同様に、模擬血液色素2と模擬血液色素4を用いた模擬眼底による分光性能試験においては、480〜499、505〜522、530〜544、548〜565、571〜582,585〜680nmの6つの波長範囲で分光測定を行い、各波長範囲での吸光度の大小関係を解析することにより、動脈と静脈の血管パターンを区別することが可能となる。
【0061】
したがって、眼底検査装置によって分光画像データを取得することによって、組織の酸素飽和度の分析および動脈と静脈の区別を明瞭に行うことができる。このため、模擬血液色素1〜模擬血液色素4を用いた模擬眼底は、空間解像度を持ち、経時劣化がほとんどない標準的な模擬眼底として利用することができる。
【0062】
(模擬血液色素5の作製)
3,3’−Diethylthiatricarbocyanine Iodide、Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammonium perchlorate、1−(3−Sulfopropyl)−2−(2−{[1−(3−sulfopropyl)naphto[1,2−d]thiazo−2−(1H)−ylidene]metyl}−1−butenyl)naphto[1,2−d]thiazoliumhydroxide inner salt(以上、Aldrich社製)を、それぞれ44:20:36の重量比で混合して、脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域(680〜1000nm)における吸収スペクトルを模した模擬血液色素5を作製した。図9に、得られた模擬血液色素5の吸収スペクトルを示す(図中実線)。模擬血液色素5は、酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を近赤外光領域(680〜1000nm)の範囲において比較的良く再現している。
【0063】
(模擬血液色素6の作製)
Dimethyl{4−[1,7,7−tris(4−dimethylaminophenyl)−2,4,6−heptatrienyldene]−2,5−cyclohexadien}ammonium perchlorate(Aldrich社製)の脱酸素型ヘモグロビンの近赤外光領域における吸収スペクトルを模した模擬血液色素6を作製した。図10に、得られた模擬血液色素6の吸収スペクトルを示す(図中実線)。模擬血液色素6は、脱酸素型ヘモグロビンの吸収スペクトル(図中点線)を近赤外光領域(680〜1000nm)の範囲において比較的良く再現している。
【0064】
図9、図10に示すように、近赤外光領域では、吸光係数が小さいものの、視細胞の感度がない波長であるため、被検査者にまぶしさを与えることなく眼底検査ができる。したがって、実際の眼底検査において、近赤外光領域での眼底撮影は有用であり、この領域で眼底を撮影する眼底検査装置に適した本実施例の模擬血液色素も有用である。
【0065】
さらに、図9、図10から分かるように、680〜1000nmの範囲で酸素型ヘモグロビンと脱酸素型ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転するのは、797nmの1度のみである(図中点線参照)。したがって、近赤外光領域では、異なる波長の分光画像データを取得するにあたって、可視光領域ほど波長分解能が必要ない。このため、可視光領域よりも広い波長幅を利用した分光画像データの取得と、そのデータに基づく動脈と静脈の判別が可能となる。
【0066】
特に、光源強度や光検出器感度が低いような条件での観察、または、光源強度や光検出器感度が低い眼底検査装置での観察においては、近赤外光領域の範囲で酸素型ヘモグロビンと脱酸素型ヘモグロビンの吸光度の大小関係が逆転するのが1度のみであることは、極めて有用な特徴となる。したがって、近赤外光領域の模擬血液色素を用いたパターニングモデルを構築すれば、波長分解能が1〜200nm程度の眼底検査装置に利用できる標準的な模擬眼底が得られる。
【0067】
図11は、模擬毛細血管の断面を示す。この模擬毛細血管は、内径100μm、外径300μmのシリコンゴム製チューブに模擬血液色素を充填して作製した。シリコンゴム製チューブは柔軟であり、模擬血液色素の充填後、容易に曲げ加工などが行えるため、模擬毛細血管として有用である。
【0068】
図12は、他の模擬毛細血管の断面を示す。この模擬毛細血管は、内径100μm、外径200μmの石英製キャピラリーに模擬血液色素を充填して作製した。石英製チューブは、内径と外径の大きさを自在に加工できる点で、種々の太さの模擬毛細血管として有用である。
【0069】
図13〜図15は、模擬毛細血管描画の設計図に相当するパターンである。図13に示すパターンは、眼底の毛細血管のうち、動脈血の流れる血管を選択したものである。図14に示すパターンは、眼底の毛細血管のうち、静脈血の流れる血管を選択したものである。図15に示すパターンは、図13に示すパターンと図14に示すパターンを重ね合わせたものである。
【0070】
図16は、動脈模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前述の模擬血液色素4をインクとして、15μmの孔径を持つノズルから模擬血液色素溶液を吐出することによって、図13に示すパターンをインクジェット描画したものである。なお、描画したインクは模擬血液色素4に増粘剤(グリセリンなど)、消泡剤(日信化学工業社製サーフィノール465など)、消光剤(アミノアントラセンなど)、結晶成長阻害剤(ポリビニルアルコールなど)をインク重量に対する重量比としてそれぞれ30%、1%、0.1%、4%添加して、粘度やインク乾燥速度などを調整したものである。最小線幅約25μmであり、比較的きれいな描画が行われていることが分かる。
【0071】
図17は、静脈模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前述の模擬血液色素2をインクとして、15μmの孔径を持つノズルから模擬血液色素溶液を吐出することによって、図14に示すパターンをインクジェット描画したものである。なお、描画したインクは段落[0070]に記載の通り、模擬血液色素2に増粘剤、消泡剤、消光剤、結晶成長阻害剤などを添加して、粘度やインク乾燥速度などを調整したものである。最小線幅約25μmであり、比較的きれいな描画が行われていることが分かる。
【0072】
図18は、模擬毛細血管パターンを示す。このパターンは、前記インクジェット法によって、動脈パターンと静脈パターンを重ね合わせて描画したものである。描画パターンは図15に示したものを用い、動脈パターン用インクと静脈パターン用インクは段落[0070]と[0071]に示したものをそれぞれ用いた。図18に示す模擬毛細血管パターンにより、可視光領域(480〜680nm)における模擬眼底が構築できることを確認した。本発明の模擬眼底により、分光画像計測技術が導入された高機能の眼底検査装置の調整や特性管理が簡便に実施できるようになるものと期待できる。
【符号の説明】
【0073】
10 模擬眼底
12 基板
13 模擬視細胞層
14 保持層
16 微粒子層
17 微粒子
18 オーバーコート層
19 模擬血管パターン層
20 パターン形成層
22 表面保護層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、複数の微粒子を有する微粒子層からなる模擬視細胞層と、
前記微粒子層上に設けられ、毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層と、
を備えた模擬眼底。
【請求項2】
前記微粒子層を覆い前記微粒子層の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層をさらに備え、
前記模擬血管パターン層は前記オーバーコート層上に設けられたことを特徴とする請求項1記載の模擬眼底。
【請求項3】
前記模擬視細胞層は、前記基板と前記微粒子層の間に設けられ、前記複数の微粒子の配列を制御すると共に、前記複数の微粒子を保持する保持層をさらに有することを特徴とする請求項1または2記載の模擬眼底。
【請求項4】
前記保持層は、光応答性高分子を有する層であることを特徴とする請求項3記載の模擬眼底。
【請求項5】
前記保持層は、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有することを特徴とする請求項3または4記載の模擬眼底。
【請求項6】
前記基板の前記微粒子層とは反対側の面に設けられ、前記基板への入射光を反射する反射層をさらに備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項7】
前記微粒子層は、自己組織化によって形成された層であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項8】
前記微粒子層は、1層に配列された前記複数の微粒子から構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項9】
前記毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、
前記2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、複数の微粒子を有する微粒子層からなる模擬視細胞層と、
前記微粒子層上に設けられ、毛細血管を模したパターンを有する模擬血管パターン層と、
を備えた模擬眼底。
【請求項2】
前記微粒子層を覆い前記微粒子層の表面の凹凸を緩和するオーバーコート層をさらに備え、
前記模擬血管パターン層は前記オーバーコート層上に設けられたことを特徴とする請求項1記載の模擬眼底。
【請求項3】
前記模擬視細胞層は、前記基板と前記微粒子層の間に設けられ、前記複数の微粒子の配列を制御すると共に、前記複数の微粒子を保持する保持層をさらに有することを特徴とする請求項1または2記載の模擬眼底。
【請求項4】
前記保持層は、光応答性高分子を有する層であることを特徴とする請求項3記載の模擬眼底。
【請求項5】
前記保持層は、10nm〜10μmの間隔で凹凸を繰り返す表面構造を有することを特徴とする請求項3または4記載の模擬眼底。
【請求項6】
前記基板の前記微粒子層とは反対側の面に設けられ、前記基板への入射光を反射する反射層をさらに備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項7】
前記微粒子層は、自己組織化によって形成された層であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項8】
前記微粒子層は、1層に配列された前記複数の微粒子から構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の模擬眼底。
【請求項9】
前記毛細血管を模したパターンは、2以上の模擬血液が凝固されたパターン部分を有し、
前記2以上の模擬血液は、酸素飽和状態が異なる2以上の血液の光の吸収スペクトルを模した液体であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の模擬眼底。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
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【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−53462(P2011−53462A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202635(P2009−202635)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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