説明

模擬車輪および車両試験装置

【課題】実車両が道路を走行しているときの状態を模擬することができる模擬車輪およびその模擬車輪を使うことでエンジンから車軸に伝えられる動力を、走行時の状況を再現しながら測定することができる車両試験装置を提供する。
【解決手段】模擬車輪10の軸受部110を車両の外側に位置するようにして車両のハブにその軸受110を取り付ける。その軸受部110と同芯に軸受部110との間にベアリングBAを介在させて軸受部110を取り巻き、さらにハブHUの周面を取り巻いてそのハブHUの周面を取り巻く部分にタイヤTの装着を受けるタイヤ装着部100を設けて、そのタイヤ装着部100にタイヤTを装着する。タイヤ装着部100の回転を停止させた状態で軸受部110を回転可能とし、ダイナモ13から車軸AXに負荷を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから車軸に伝わる動力を測定する車両試験装置に用いられる模擬車輪およびその車両試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行試験の中には、走行中にエンジンから車軸に伝えられる動力の伝達状態がどのようなものであるかを測定する試験がある。
【0003】
このような車両の走行試験を行なう際にはシャシーダイナモが良く用いられる。しかしこのシャシーダイナモを用いると車両を固定しなければならなくなるために、サスペンションやダンパ等が働かない状態での試験になる。これでは、実車両が走行している状態を模擬してサスペンションやダンパ等を働かせての試験を行なうことができない。
【0004】
そこで、実車両が走行しているときのサスペンションやダンパ等を働かせての試験を行なうために、上記シャシーダイナモの代わりに低慣性ダイナモ(以降ダイナモという)を使用して走行試験を行なうことが考えられる(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
従来においてはこのようなダイナモを使って走行試験を行なうときには、サスペンションやダンパを取り外し、さらにはブレーキ等を取り外して車軸に測定用の軸受を付けてエンジンから車軸に伝えられる動力の伝達状態を測定していたが、最近になってサスペンションやダンパやブレーキ等を取り外さずに軸受を使ってエンジンから車軸に伝えられる動力の状態を測定する構成にすることが試みられている。このような構成にすることができると、サスペンションやダンパ等を取り付けたままにし、さらに、それらを働かせた状態にしてエンジンから車軸にどのように動力が伝えられるかの試験を正しく行なうことが可能となる。
【0006】
図1は、そのような軸受21の構成の一例を示す図である。
【0007】
図1に示す様に、車軸が連結され測定場所の床に固定設置される固定型の軸受21にジョイント22の一端が連結され、さらにそのジョイント22の他端が不図示のダイナモに連結される構成になっている。この構成では、車両側のブレーキBR等をわざわざ取り外さずにそのまま試験を行なうことができる。
【0008】
しかし、この構成では、車軸の回転中心軸が、位置および傾きともに軸受21によって固定され、サスペンションやダンパ等の動作が制約され走行時の車軸の状態が再現されなくなってしまう。
【0009】
さらに図1の構成にすると、サスペンションやダンパと連携して動作するタイヤの影響を加味した状態で、車軸に伝えられる動力がどのようになるかを試験することができない。
【非特許文献1】インターネット<URL:http://www.onosokki.co.jp/HP-WK/whats_new/catalogs/products/fams8000_4.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、実車両が道路を走行しているときの車軸の状態を模擬することができる模擬車輪およびその模擬車輪を使うことでエンジンから車軸に伝えられる動力の状態がどのようなものになるかの試験をダイナモから負荷を加えながら実施することができる車両試験装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の模擬車輪は、車両の車輪のハブに、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられるハブ取付構造を備えるとともにジョイントが取り付けられるジョイント取付構造を外面側に備えた軸受部と、その軸受部と同芯に軸受部との間にベアリングを介在させてその軸受部を取り巻き、さらに上記ハブの周面を取り巻いてハブの周面を取り巻く部分にタイヤの装着を受けるタイヤ装着部とを有し、そのタイヤ装着部の回転を停止させた状態で該軸受部を回転可能としたことを特徴とする。
【0012】
上記本発明の模擬車輪によれば、通常のタイヤ付ホイールを装着するのと同じ様に、当該模擬車輪が備える上記軸受部を車両のハブに取り付けることができる。このため、サスペンションやダンパ、さらにブレーキ等を取り外す必要がない。
【0013】
また、上記軸受部と上記タイヤ装着部との間にベアリングを介在させ、その軸受部を取り巻いて設けられたタイヤ装着部に実車両と同じ種類のタイヤを、回転しない状態で装着することができる。そうすると、車両試験中においては、上記サスペンション、ダンパ等の機構に加えて、走行時にエンジンから車軸に伝えられる振動を吸収する機能を担うタイヤの状態を模擬しての試験を行なうことができる。
【0014】
さらには、上記軸受の外面側のジョイント取付構造にジョイント、例えば等速ジョイントを取り付けてダイナモに連結することで、走行時に車軸に加えられる負荷と同等の負荷をダイナモから車軸に加えることができる。
【0015】
ここで、上記軸受部と上記タイヤ装着部とを取外し自在なキーで連結してその軸受部とそのタイヤ装着部の相対回転を禁止するキー連結機構を有し、
その軸受部とそのタイヤ装着部とをキーで連結した状態でその車両の走行を可能とした態様であることが好ましい。
【0016】
車両を試験する試験場所と車両を保管する保管場所とは大抵離れた位置にあるので、その保管場所からその試験場所までキーを連結した状態にして試験車両を自走させ、試験車両を試験場所に移送した後でキーを外して試験を行なうことができ、試験が終わった後においては再度キーを連結した状態にして上記保管場所にその試験車両を自走させて戻すことができる。
【0017】
上記目的を達成する本発明の車両試験装置は、車両の車輪のハブに、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられるハブ取付構造を備えるとともにジョイントが取り付けられるジョイント取付構造を外面側に備えた軸受部と、その軸受部と同芯に該軸受部との間にベアリングを介在させてその軸受部を取り巻き、さらに上記ハブの周面を取り巻いて該ハブの周面を取り巻く部分にタイヤの装着を受けるタイヤ装着部とを有し、そのタイヤ装着部の回転を停止させた状態で該軸受部を回転可能とした模擬車輪と、
上記軸受部に一端側が取り付けられた等速ジョイントと、
上記等速ジョイントの他端側が取り付けられ、上記軸受部にその等速ジョイントを介してトルクを伝達するダイナモとを備えことを特徴とする。
【0018】
上記車両試験装置によれば、サスペンションやダンパ等に加えてタイヤを実車と同じ様に取り付けることで、実車の走行状態を模擬した試験を行なうことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、実車両が道路を走行しているときの車軸の状態を模擬することができる模擬車輪およびその模擬車輪を使うことでエンジンから車軸に伝えられる動力の状態がどのように変化するかを、ダイナモから負荷を加えながら実施することができる車両試験装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図2、図3は、本発明の模擬車輪10の一実施形態を示す図である。また図4は、図2、図3の模擬車輪10が採用された車両試験装置1の構成を示す図である。
【0022】
図2には、模擬車輪10に等速ジョイント12が連結された状態を斜め上方から見た図が示されており、図3には、模擬車輪10を斜め上方から見た図が示されている。また図4には、車両試験装置1の構成が模式的に示されている。
【0023】
図2から図4を参照して模擬車輪10の構成を説明する。
【0024】
図2、図3、図4に示す様に、模擬車輪10は、タイヤ装着部100と軸受部110とで構成される。
【0025】
図2、図3、図4の模擬車輪10の軸受部110には、車両の車輪のハブHU(図4参照)に、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられるハブ取付構造が備えられている。この例では、ハブ取付構造としてハブのハブボルトが挿通されるハブ穴Hが複数設けられた例が示されている。
【0026】
この軸受部110は、図2〜図4からも分かる様に、ハブHUに取り付けられたときに車両の外側に位置する様に外方へ突出して設けられている。このため、本実施形態の模擬車輪10は、車両からタイヤ付ホイールが外され剥き出しになっている車両のハブHU(図4参照)に簡単に取り付けることができる。
【0027】
また、そのハブHUの周面を取り巻いてそのハブHUの周面を取り巻く部分にタイヤTの装着を受けるタイヤ装着部100が設けられている。このため、実車のタイヤの位置と同じ位置にタイヤTを装着することで、エンジンからの動力を受けて車軸が回転しているときには、車両の状態を道路を走行しているときとほぼ同じ状態にすることができる。
【0028】
さらにこの模擬車輪10の軸受部110の外面側には、ジョイント取付構造112が備えられているので、作業者は上記ハブ取付構造(ハブ穴H)を使って車両のハブHUに模擬車輪10を取り付けた後は、上記ジョイント取付構造112に等速ジョイント12の一端を取り付けて他端をダイナモ13に連結するという作業を行なうだけで、図4に示す車両試験装置1を簡単に構成することができる。
【0029】
こうして図4に示す様に実車両のサスペンションSUSやダンパDA、ブレーキBR等の機構をそのままにして、模擬車輪10を車両に取り付けることができると、作業者の作業が簡単になるという効果が得られる。また、実車両のサスペンションSUSやダンパDA等に加えて、タイヤTを実車両と同じ様に構成することができるので、実車の走行時の状態を再現してダイナモ13から車軸AXに負荷トルクを加えて試験を行なうことができる。
【0030】
ここで、図2、図3、図4に示す模擬車輪10のタイヤ装着部100と軸受部110との係わりを詳しく説明する。
【0031】
模擬車輪10のタイヤ装着部100と軸受部110との間には図3に示す様にベアリングBAが介在しており、軸受部110が回転してもタイヤ装着部100は回転しない構造になっている。このため、車両を固定せずにタイヤを固定することができ、車両内のサスペンションSUS、ダンパDA等の機構を実車と同じ様に働く状態にして、ダイナモ13から車軸AXに負荷トルクを加えて試験を行なうことができる。
【0032】
また、本実施形態の模擬車輪10は、前述した様に、模擬車輪10が車両のハブHUにハブ取付構造を使って取り付けられたときに車両の外側に軸受部110が位置するように構成されている。このため、本実施形態の模擬車輪10を用いると、従来のようにサスペンションSUSやダンパDA、ブレーキ等の機構を取り外さずに、しかも実車両のトレッド(車幅)寸法を変更せずに模擬車輪10を車両に簡単に取り付けることができる。
【0033】
こうして模擬車輪10にタイヤ装着部100を設けて実車と同様にタイヤTを装着する構成にすると、図4に示すダイナモ13を等速ジョイント12を介して連結して試験をしている最中にエンジンからの振動を受けてサスペンションSUSが上下に可動しているときにおいては、その可動分のずれが走行時と同じ様にタイヤTの撓みにより吸収されるという効果が得られる。また、ハブHUに固定された軸受部110は測定場所の床面に対し、タイヤT、タイヤ装着部100およびベアリングBAを介して支持されており、回転中心軸の向きの変動の許容度が大きい。このため、例えば、ハブHUの回転軸方向が水平面に対し傾いている(キャンパー角)場合や車両の上下動に伴い傾きが変動する場合にも実車と同じ状態を再現できる。
【0034】
また本実施形態の模擬車輪10は、車両のハブHUに取り付ける構造になっているので、車両の車種ごとのサスペンションの形式の違いがあってもタイヤを取り付けることでサスペンションの形式の違いから生じるタイヤのキャンパー方向やキャスタ方向の可動分のずれがタイヤTの撓みによって吸収されるという効果も得られる。
【0035】
さらに図4の車両試験装置1の構成からも分かるように、設置時の軸受部110の軸芯とダイナモ13の軸芯のずれとが模擬車両10とダイナモ13とを連結する等速ジョイント12によって吸収される。この等速ジョイントによっては、さらに試験中においてエンジンの振動を受けて模擬車輪10の軸受部110が上下動しているときの軸受部110の軸芯とダイナモ13の軸芯とのずれが吸収される。
【0036】
以上説明した様に、軸受部110を車両外側に位置させることと、タイヤTを装着することができるようにすることとで、サスペンションSUSやダンパDA等の働きを実車両の走行時と同じ状態にして、ダイナモ13から負荷トルクを車軸AXに加えての実働負荷試験を実施することができる。
【0037】
最後に、本実施形態では、上記模擬車輪10が装着された試験車両の試験を行なう試験場所と、その試験車両の保管場所とが大抵離れたところに在るということを考慮して、試験車両を保管場所から試験場所にまで移送することができるようにしたのでその構成を説明する。
【0038】
図5は、タイヤ装着部100と軸受部110とを連結するキー連結機構を示す図であり、図6は試験時において模擬車輪を固定する固定具FIXを示す図である。
【0039】
図5には、図2の模擬車輪10の断面を模式的に示した図が示されており、ベアリングBAの外側のタイヤ装着部100と軸受部110とをキーKEYで連結するキー連結部3の構成が示されている。
【0040】
この例では、保管場所から試験場所に試験車両を移送するときには、ジョイント取付構造112とタイヤ装着部110とをキーKEYで連結してタイヤ装着部100がハブHUからの駆動力によって回転するようにし、試験場所に移送した後の試験中においてはそのキーKEYをジョイント取付構造112から外してタイヤ装着部110を回転させない構成にしている。
【0041】
この様に構成にすると、試験中においてはハブHUが回転してもタイヤTが回転しないので、図6に示す様にシャシーダイナモで使用されている固定具FIXを用いて車両をしっかりと固定して試験を行なうことができ、その試験においては実車に配備されているダンパやサスペンション、さらにはタイヤを走行時と同じ様に働かせての試験を行なうことができる。
【0042】
また、実車の保管場所と試験場所とが離れた位置にあっても、キー連結機構3にキーKEYを差し込むことで試験車両をダイナモのある試験場所に自走させることができ、さらに固定具FIXで固定された後にキーKEYを外してすぐに試験を実施することができる。
【0043】
以上、説明したように、実車両が道路を走行しているときの車軸の状態を模擬することができる模擬車輪およびその模擬車輪を使うことでエンジンから車軸に伝えられる動力の状態がどのようなものになるかの試験を、ダイナモから負荷を加えながら実施することができる車両試験装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来の軸受の構成を示す図である。
【図2】本発明の模擬車輪の一実施形態を示す図である。
【図3】本発明の模擬車輪の一実施形態を示す図である。
【図4】図2、図3の模擬車輪が採用された車両試験装置1の構成を示す図である。
【図5】模擬車輪10のキー連結機構3の構成を説明する図である。
【図6】従来からあるシャシーダイナモで使用されている固定具を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 車両試験装置
10 模擬車輪
100 タイヤ装着部
110 軸受部
111 車軸取付構造
112 ジョイント取付構造
12 等速ジョイント
13 ダイナモ
21 軸受
22 ジョイント
BR ブレーキ
HU ハブ
KEY キー
BA ベアリング
H ハブ穴
SUS サスペンション
T タイヤ
DA ダンパ
AXIS 車軸
FIX 固定具



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪のハブに、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられるハブ取付構造を備えるとともにジョイントが取り付けられるジョイント取付構造を外面側に備えた軸受部と、該軸受部と同芯に該軸受部との間にベアリングを介在させて該軸受部を取り巻き、さらに前記ハブの周面を取り巻いて該ハブの周面を取り巻く部分にタイヤの装着を受けるタイヤ装着部とを有し、該タイヤ装着部の回転を停止させた状態で該軸受部を回転可能としたことを特徴とする模擬車輪。
【請求項2】
前記軸受部と前記タイヤ装着部とを取外し自在なキーで連結して該軸受部と該タイヤ装着部の相対回転を禁止するキー連結機構を有し、
該軸受部と該タイヤ装着部とをキーで連結した状態で該車両の走行を可能としたことを特徴とする請求項1記載の模擬車輪。
【請求項3】
車両の車輪のハブに、タイヤ付ホイールに代えて取り付けられるハブ取付構造を備えるとともにジョイントが取り付けられるジョイント取付構造を外面側に備えた軸受部と、該軸受部と同芯に該軸受部との間にベアリングを介在させて該軸受部を取り巻き、さらに前記ハブの周面を取り巻いて該ハブの周面を取り巻く部分にタイヤの装着を受けるタイヤ装着部とを有し、該タイヤ装着部の回転を停止させた状態で該軸受部を回転可能とした模擬車輪と、
前記軸受部に一端側が取り付けられた等速ジョイントと、
前記等速ジョイントの他端側が取り付けられ、前記軸受部に該等速ジョイントを介してトルクを伝達するダイナモとを備えたことを特徴とする車両試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−121988(P2010−121988A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294144(P2008−294144)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)