説明

模様付成形品の製法およびそれによって得られる模様付成形品

【課題】少ない着色剤の使用によって、所望の色調を実現でき、しかも色模様を構成する部分が剥がれたりすることがなく、低コストで、長期に渡ってその模様が美麗に保たれる模様付成形品の製法と、それによって得られる模様付成形品の提供をする。
【解決手段】ベース体3に、着色アンダーコート層4、蒸着層5、トップコート層6をこの順で形成し、レーザ照射によって上記ベース体3に形成された複数の層のうち、着色アンダーコート層4以外の層を部分的に除去して、その除去跡から、着色アンダーコート層4を部分的に露出させることにより色模様Pを現出させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に色模様が付与された模様付成形品の製法およびそれによって得られる模様付成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このような要求に応える技術として、例えば、コンパクト容器の蓋部に、接着剤を用いることなく装飾フィルムを一体化する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、最近は、より複雑な模様を付与するために、上記装飾フィルムの一部をレーザ照射によって除去し、その除去部から容器の地の部分を露出させて文字や図柄模様を形成することも行なわれ、さらには、より印象の強い模様を付与する方法として、成形体の表面に着色層を形成し、その上にさらに被覆層を形成した後、レーザ照射により上記被覆層に透孔部を形成してその部分から着色層を露呈させる方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−292827号公報
【特許文献2】特開2002−127691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように、装飾フィルムを用いたものは、経時的に装飾フィルム部が変質したり磨耗・損傷したりして、見栄えが悪くなるという問題がある。また、上記容器の地の部分を露出させて色模様を付与する方法では、文字や図柄模様の部分の色が、容器の地の色に限られるため、全体として、その印象が弱くなるという問題がある。そして、これを改良するために、容器の地の部分、すなわち、成形品自身の全体に着色を施すと、色調がくすみがちになり、また、容器である形成品の肉厚差によって色の濃淡が生じるため、色むらができやすく、均一の色調にすることが容易でないとともに、成形品自身の全体に着色を施すことにより、大量に着色剤が必要となるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、少ない着色剤の使用によって、所望の色調を実現でき、しかも色模様を構成する部分が剥がれたりすることがなく、低コストで、長期に渡ってその模様が美麗に保たれる模様付成形品の製法と、それによって得られる模様付成形品の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、成形品を準備する工程と、上記成形品の成形面に、着色剤含有のアンダーコート組成物を用いて着色アンダーコート層を形成し、上記着色アンダーコート層の上に蒸着層を形成し、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、上記成形品の成形面に形成された複数の層のうち、着色アンダーコート層以外の層をレーザ照射によって部分的に除去し、その除去跡から、着色アンダーコート層を露出させる工程とを備えた模様付成形品の製法を第1の要旨とする。
【0008】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記アンダーコート組成物の着色剤として、光輝性微粒子を用いる模様付成形品の製法を第2の要旨とし、上記着色剤含有のアンダーコート組成物が、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、着色剤を0.01〜50重量部含有する組成物である模様付成形品の製法を第3の要旨とし、上記着色アンダーコート層として、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層を用いるようにした模様付形成品の製法を第4の要旨とし、上記レーザ照射を、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いて行うようにした模様付成形品の製法を第5の要旨とする。
【0009】
さらに、本発明は、上記第1の要旨である製法によって得られる模様付成形品であって、成形品の成形面に、着色アンダーコート層と蒸着層とがこの順に形成され、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が形成されており、上記着色アンダーコート層以外の層が、レーザ照射により部分的に除去され、部分的なその除去跡から、着色アンダーコート層が露出して、色模様が形成されている模様付成形品を第6の要旨とする。
【0010】
そして、本発明はそのなかでも特に、上記着色アンダーコート層が、光輝性微粒子によって着色されている模様付成形品を第7の要旨とし、上記着色アンダーコート層が、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、着色剤を0.01〜50重量部含有する組成物によって形成されている模様付成形品を第8の要旨とし、上記着色アンダーコート層が、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層である模様付き成形品を第9の要旨とし、上記レーザ照射の除去跡が、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いて形成されている模様付成形品を第10の要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来、単に、成形品(樹脂)からの揮散物の発生を防止するとともに、成形品と蒸着層の密着性を確保するために用いられていたアンダーコート層を、所望の色調に着色し、着色アンダーコート層としておき、その着色アンダーコート層より上の層をレーザ照射によって部分的に除去することにより、その除去跡から着色アンダーコート層を露出させて、色模様を現出させるようにしたものである。この製法によれば、従来のように、塗装や転写等によって、成形品の上に、まず着色層を形成し、さらにその上に、塗装や蒸着、転写等によって被覆層を形成した後、被覆層を部分的に除去して下側の着色層を露出させて色模様を形成する、という2段階の工程が不要で、効率がよいという利点を有する。そして、アンダーコート層自身が着色されているため、その上の蒸着層との密着性に優れており、蒸着層が経時的に剥離したり、ひび割れたりせず、長期に渡って良好な状態で保たれ、美麗な外観が維持されるという利点を有する。しかも、ベースとなる成形品自身に着色するのと比較して、均一の色調に調整するのが容易となり、所望の色調を得やすくなる。また、成形品自身の全体に着色するのに比べて、少ない着色剤の使用ですみ、低コスト化を図ることができるという利点も有する。そして、上記着色アンダーコート層の耐久性が高いことから、繊細なデザインの色模様を作ることができるという利点も有し、さらに、露出させるべき着色層を余分に形成する必要がないため、色模様部分の厚みをごく薄くすることができ、全体の軽量化を図ることができる。
【0012】
そして、本発明のなかでも、特に、上記アンダーコート組成物の着色剤が、光輝性微粒子を用いて形成されるものである場合には、着色アンダーコート層に、高反射性があり深みのある光輝感を与えることができ、デザインとの組合せによりより高級感を演出することができる。さらに、含有させる光輝性微粒子の種類によって、着色アンダーコート層の寿命延長,クラック防止,耐薬品性向上をも可能とすることができる。
【0013】
また、本発明のなかでも、特に、上記着色剤含有のアンダーコート組成物が、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、着色剤を0.01〜50重量部含有する組成物を用いて形成されたものを用いるようにすると、アンダーコート剤の本来の効果である、成形品の揮散物の発生を防止する効果や、成形品と蒸着層との密着性を高める効果を損なうことなく、所望の色調に着色することができるので、好適である。
【0014】
そして、本発明のなかでも、特に、上記着色アンダーコート層として、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層を用いるようにすると、アンダーコート層を設けるという一工程だけで、変化に富んだデザインを表現できるようになり、コストダウンを実現することができるので、好適である。
【0015】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記レーザ照射を、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いて行うようにすると、成形品表面に形成された着色アンダーコート層より上の層の部分的な除去を、効率よく、しかも美麗に仕上げることができるので、好適である。
【0016】
そして、本発明の製法によって得られる模様付成形品は、全体の軽量化を図ることができ、所望の色模様を安価に容易に実現できるとともに、長期に渡って、その表面に付与された模様が良好な状態を維持するものであり、付加価値の高い商品となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の斜視図である。
【図2】上記実施例における縦断面図である。
【図3】(a),(b)は、いずれも上記実施例の製法の説明図である。
【図4】本発明の他の実施例の斜視図である。
【図5】(a),(b),(c)は、いずれも上記他の実施例の製法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明を実施するための形態であるコンパクト容器である。この図において、1は本体部、2は蓋体であり、この蓋体2の表面の地の部分は金属光沢色になっている。そして、この面に、小さな黒い丸が並ぶ色模様Pが形成されている。なお、上記蓋体2の後端部には、下向きにヒンジ部が突設されており(図示を省略している)、このヒンジ部が本体部1の後端部と係合することにより、蓋体2が上方に開くようになっている。
【0020】
より詳しく説明すると、上記蓋体2は、図2にその断面図を示すように、無色透明のポリエチレンテレフタレート(以下「PET」とする)系樹脂からなる成形品であるベース体3に、黒色に着色したアクリル系樹脂からなる着色アンダーコート層4、アルミニウムに由来する金属光沢を有する蒸着層5、無色透明のアクリル系樹脂からなるトップコート層6がこの順で積層した構成になっている。そして、上記着色アンダーコート層4より上の層(蒸着層5およびトップコート層6)が、YAGレーザ照射によって部分的に除去され、その除去跡から着色アンダーコート層4が露出し、黒色透明色を呈する色模様Pが形成されている。なお、図2において、上記各層の断面は模式的であり、実際の厚みとは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0021】
上記色模様Pを備えた蓋体2は、例えば次のようにして得ることができる。すなわち、まず、着色剤を含有させたアンダーコート組成物を準備する。ちなみに、この例では、アクリル樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、11.2重量部(黒色染料:5重量部,赤色染料:5重量部,橙色染料:1.2重量部)含有させてなる着色剤含有のアンダーコート組成物が用いられている。
【0022】
一方、樹脂成形品からなるベース体3を、射出成形機等を用いて成形する。そして、上記ベース体3の上面に、準備した着色剤含有のアンダーコート組成物を塗布し、乾燥させることで、上記ベース体3の上面全体に、着色アンダーコート層4(厚さ10μm)を形成する。さらにその上に、アルミニウム蒸着によって蒸着層5(厚さ0.04μm)を形成し、ついで、トップコート剤を塗布・乾燥して、トップコート層6(厚さ15μm)を形成する(図3a参照)。なお、最表層のトップコート層6は無色透明であり、その下の、蒸着層5のアルミニウムの金属光沢色がそのまま透けて、蓋体2の上面全体の色として見えている。
【0023】
つぎに、蓋体2の上面のうち、予め設定された部分領域(色模様P形成予定部)に、YAGレーザ照射を行い、照射部分の蒸着層5とトップコート層6とを除去して、その除去跡から着色アンダーコート層4を、部分的に露出させる(図3b参照)。この、露出した着色アンダーコート層4の部分20は、黒味がかった透明色を呈し、地色である金属光沢色との対比によって、色模様Pが現出する。このようにして、色模様Pが形成された蓋体2を得ることができる。
【0024】
この方法によれば、従来のように、まず成形品の表面に塗装や転写等によって着色層を形成し、さらにその上に、塗装や蒸着、転写等によって被覆層を形成した後、被覆層を部分的に除去して下側の着色層を部分的に露出させて色模様を形成する、という2段階の工程が不要で、非常に効率がよく色模様Pを得ることができるという利点を有する。そして、下側に着色層を余分に形成する必要がないため、色模様部分の厚みをごく薄くすることができ、全体の軽量化を図ることができる。また、アンダーコート層4自身が着色されているため、その上の蒸着層5との密着性に優れており、蒸着層5が経時的に剥離したりひび割れたりせず、長期に渡って良好な状態で保たれ、美麗な外観が維持されるという利点を有する。そして、このように、アンダーコート層4のみに着色しているため、ベース体3全体に着色するのと比較すると、色むらなく、均一に着色することができるとともに、着色剤を必要以上に使用せずにすむという利点も有する。しかも、上記蒸着層5の耐久性が高いことから、所望の色調を有する繊細なデザインの色模様を作ることができるという利点をも有する。
【0025】
上記の例において、樹脂成形品であるベース体3は、PETからなるが、これに限られず、その他の合成樹脂等を用いることができる。なかでも、合成樹脂として、PET,メタクリル樹脂(PMMA),アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS),アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS),ポリプロピレン(PP)を用いると、成形性,耐久性,軽量性の点で好ましい。
【0026】
また、上記着色アンダーコート層4は、黒色染料を含有させたアクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなる。そして、その厚みは、通常、20μm以下であることが好適である。すなわち、厚すぎると、ベース体3と蒸着層5との接着性が逆に悪くなるおそれがあり、また、着色アンダーコート層4の重量が意味なく増加することになり、その結果、コンパクト容器全体の軽量化を阻害するおそれがあるからである。
【0027】
蒸着層5は、アルミニウム蒸着による金属薄膜からなる。この例では、蒸着層5の厚みは、0.04μmである。ここで、蒸着とは、通常、真空中(一般的には10-2Pa以下)で蒸着材料を加熱蒸発させ、この蒸発粒子を成形品に析出させる薄膜形成法をいう。
【0028】
トップコート層6は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されている。また、その厚みは、10〜20μmにすることが好適である。すなわち、10μm未満であると、その下の蒸着層5等を保護するのに充分な効果を発揮できないおそれがあり、20μmを超えると、保護の効果は充分であるものの、コンパクト容器全体の重量が増加して、軽量性を失うおそれがあるからである。
【0029】
なお、ベース体3の色は、上記の例のように無色透明である必要はなく、着色透明や着色不透明のものであっても差し支えない。例えば、白色不透明のものに、上記の例のように、黒味がかった透明の着色アンダーコート層4を組み合わせることにより、着色アンダーコート層4の露出部分の色調を不透明なグレーに見せることができ、無色透明な成形品と組み合わせて着色アンダーコート層4の色をそのまま見せるよりも、色調に広がりがでて、興趣に富むものが得られる場合がある。
【0030】
また、上記の例では、アンダーコート用樹脂組成物として、アクリル樹脂を主成分とするものを用いているが、これに代えて、蒸着を行う際に、樹脂成形品と蒸着層との密着性を高めるために用いられる、シリコン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。
【0031】
さらに、上記の例では、着色剤として黒色染料を用いているが、着色剤の種類は、アンダーコート用樹脂組成物に対する分散性、溶解性、配向性等を考慮して、染料、顔料等、各種のものを適宜選択することができる。そして、色も、黒に限らずどのような色でもよい。また、「色」に限らず、「見え方」において色味が異なる光輝性微粒子も好適に用いることができる。
【0032】
上記光輝性微粒子としては、パール顔料粒子,酸化チタン,タルク,マイカ(雲母),酸化亜鉛等の各種粒子を用いることができる。そして、その平均粒径は0.1〜30μmのものを用いるのが好適である。粒径が小さすぎると混練しにくくなる傾向がみられ、逆に大きすぎると着色アンダーコート層4の本来の効果を充分に発揮できにくい傾向がみられるからである。なかでも、パール顔料粒子を用いると、落ち着いた輝きによって品のある高級感を演出することができるようになり、ガラスフレーク(登録商標)を用いると、高級感のある色模様を形成することができるだけでなく、ガラスフレークの層形成によるバリア効果により、着色アンダーコート層4の寿命延長・クラック防止・耐薬品性向上を実現することができるようになる。また、シラリック(登録商標)を用いると、グリッター感およびスパークル感のある色調を実現でき、高彩度・高透明性の色模様を付与することができるようになる。なお、上記平均粒径は、例えば、レーザー回析散乱粒度分布測定器を用いて測定することができる。また、その粒径は、母集団から任意に抽出される試料を用いて、上記測定器を利用して算出される値である。
【0033】
そして、着色剤の含有割合は、上記の例に限られないが、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、0.01〜50重量部に設定することが好適である。すなわち、着色剤の色調、成分等によっては、着色剤が0.01重量部より少ないと、得られる着色アンダーコート層4の色調が弱く、着色アンダーコート層4を部分的に露出させても、鮮明な色模様Pが得られにくいおそれがあり、逆に、着色剤が50重量部より多いと、その下の成形品(上記の例では、ベース体3)やその上の蒸着層5に対する密着性が低下するおそれがあるからである。
【0034】
また、上記の例では、蒸着層5として、厚さ0.04μmのアルミニウムの金属蒸着を用いているが、これに代えて、スズ,ステンレス等の、模様付成形品に用いることができる蒸着を用いることができ、その厚さも、着色アンダーコート層4に密着することができる範囲で自由に設定することができるが、0.001〜0.05μmの範囲で設定すると好適である。すなわち、薄すぎると、金属光沢色が充分に現われず、所望の色調を得られにくいおそれがあり、逆に、厚すぎると、着色アンダーコート層4との密着性が低下し、あるいは、不必要に重量を増加させてしまうおそれがあるからである。また、蒸着層5の上に、ホログラム形成層や、パール調付与層等をさらに形成させてもよく、この場合、より複雑な金属光沢色調を得ることでき、デザインの幅が広がるようになる。
【0035】
さらに、上記の例では、蒸着層5の上に、無色透明のアクリル系のトップコート用塗料からなるトップコート層6が形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層6を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すこともできる。この場合、上記色模様Pとの組合せによって、よりデザインの幅が広がるようになる。また、トップコート層6は、蒸着層の酸化防止,腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、模様付成形品の耐久性向上等を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、UVカット剤等を上記各種トップコート用塗料に添加してもよい。
【0036】
また、上記の例では、レーザ照射は、YAGレーザを用いて行なっているが、これに代えて、二酸化炭素レーザ、ルビーレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザ等、各種のレーザ装置を用いて行うことができる。なかでも、制御性,仕上がり性において、YAGレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザのいずれかを用いることが好適である。
【0037】
そして、他の例として、図4に示すコンパクト容器をあげることができる。この図において、11は本体部、12は蓋体であり、これらの基本的な構造は、上述の例と同様であり、同一部分に同一番号を付してその説明を省略する(図1,図2を参照)。ただし、上述の例が、黒色からなる単色の色模様Pを有しているのに対し、この例では、蓋体12の表面に白〜淡灰色〜濃灰色〜黒のグラデーションの複数色で形成された色模様Qが形成されている。
【0038】
上記色模様Qを形成する方法を、以下、詳しく説明する。まず、異なる着色を施したアンダーコート用組成物を複数用意し(図4の例では、白,淡灰色,濃灰色,黒の4色)、図5(a)に示すように、蓋体12となるベース体3の上面全面に、互いに塗布する領域をずらしてそれぞれスプレー塗布し、複数の色彩が帯状に並んで形成された着色アンダーコート層4を形成する。つぎに、図5(b)に示すように、この着色アンダーコート層4の上に重ねてアルミニウム蒸着、トップコート用アクリル系塗料の塗布をこの順に行い、蒸着層5、トップコート層6(図示せず)を形成する。ついで、図5(c)に示すように、これらの層4、5,6が形成されたベース体3の上面のうち、予め設定された部分領域(色模様Q形成予定部)に、YAGレーザ照射を行い、照射部分の蒸着層5とトップコート層6とを除去して、その除去跡(この例では3つの丸い穴)から、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層4を、部分的に露出させる。すなわち、3つの丸い穴形状の除去跡から露出する各色は、向かって右から順に白〜淡灰、淡灰〜濃灰、濃灰〜黒と、それぞれ異なる色彩を呈しており、地色である金属光沢色との対比によって、白〜黒の複数の色彩からなる複雑な色模様Qとなる。このようにして、複数の色彩が形成された色模様Qを有する蓋体12を得ることができる。
【0039】
この構成によると、着色アンダーコート層を形成するという一工程のみで、複雑なデザインを表現できるため、工程の短縮ができコストダウンを図ることができる。また、アンダーコート層だけで複数の色を表現しているため、この他に着色層を設ける必要がなくなり、興趣に富むデザインと軽量化の双方を同時に実現できるようになる。
【0040】
なお、図4の例では、複数の色彩として、白,淡灰色,濃灰色,黒の4色を用いているが、赤、青、黄等、色彩の異なる他の色を用いることも当然できる。そして、複数の色彩とは、その色彩の数が2以上であればよく、色の濃淡の違いで表されるものであってもよい。また、着色領域が互いに独立している必要はなく、色の濃淡によるグラデーションが形成されていてもよい。そして、その複数の色彩が形成された着色アンダーコート層は、スプレー塗布だけでなく、はけ塗り,ロールブラシ塗り,エアレススプレー塗布,ディップコート,フローコート,カーテンフローコート,ロールコートなどによっても形成することができる。
【0041】
なお、図1および図4の例は、いずれも本発明をコンパクト容器に適用したものであるが、色模様Pや色模様Qを施す対象は容器に限らず、各種の樹脂成形品、あるいは樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品等に適応可能である。例えば、携帯電話、文房具、家電製品、各種ケース等に広く応用することができる。
【符号の説明】
【0042】
3 ベース体
4 着色アンダーコート層
5 蒸着層
6 トップコート層
P 色模様



【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品を準備する工程と、上記成形品の成形面に、着色剤含有のアンダーコート組成物を用いて着色アンダーコート層を形成し、上記着色アンダーコート層の上に蒸着層を形成し、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層を形成する工程と、上記成形品の成形面に形成された複数の層のうち、着色アンダーコート層以外の層をレーザ照射によって部分的に除去し、その除去跡から、着色アンダーコート層を露出させる工程とを備えたことを特徴とする模様付成形品の製法。
【請求項2】
上記アンダーコート組成物の着色剤として、光輝性微粒子を用いるようにした請求項1記載の模様付成形品の製法。
【請求項3】
上記着色剤含有のアンダーコート組成物が、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、着色剤を0.01〜50重量部含有する組成物である請求項1または2記載の模様付成形品の製法。
【請求項4】
上記着色アンダーコート層として、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層を用いるようにした請求項1〜3のいずれか一項に記載の模様付成形品の製法。
【請求項5】
上記レーザ照射を、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いて行うようにした請求項1〜4のいずれか一項に記載の模様付成形品の製法。
【請求項6】
請求項1記載の製法によって得られる模様付成形品であって、成形品の成形面に、着色アンダーコート層と蒸着層とがこの順に形成され、さらにその上に、直接もしくは他の層を介してトップコート層が形成されており、上記着色アンダーコート層以外の層が、レーザ照射により部分的に除去され、部分的なその除去跡から、着色アンダーコート層が露出して、色模様が形成されていることを特徴とする模様付成形品。
【請求項7】
上記着色アンダーコート層が、光輝性微粒子によって着色されている請求項6記載の模様付成形品。
【請求項8】
上記着色アンダーコート層が、アンダーコート用樹脂組成物100重量部に対し、着色剤を0.01〜50重量部含有する組成物によって形成されている請求項6または7記載の模様付成形品。
【請求項9】
上記着色アンダーコート層が、複数の色彩が形成された着色アンダーコート層である請求項6〜8のいずれか一項に記載の模様付成形品。
【請求項10】
上記レーザ照射の除去跡が、YAGレーザ、YVO4レーザもしくは半導体レーザのいずれかを用いて形成されている請求項6〜9のいずれか一項に記載の模様付成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−234798(P2010−234798A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288406(P2009−288406)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)